(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】塩分付着計
(51)【国際特許分類】
G01N 1/02 20060101AFI20240312BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01N1/02 F
G01N27/04 A
(21)【出願番号】P 2020114985
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】矢嶌 健史
【審査官】野口 聖彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-008894(JP,A)
【文献】特開2018-142470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濡れると水分中の電解質の濃度に応じて抵抗値が変化する漏液検知帯と、
前記漏液検知帯に電圧をかける電源と、
前記漏液検知帯にかかる電圧の変化を時系列で記録するロガーと、
前記ロガーに記録された電圧を送信する通信部と
、
風向計とを備え
、
前記ロガーは、前記電圧の変化とともに、前記風向計から取得される風向を記録することを特徴とする塩分付着計。
【請求項2】
前記電源は、太陽電池であることを特徴とする請求項
1に記載の塩分付着計。
【請求項3】
前記通信部は、無線通信を行うことを特徴とする請求項1
または2に記載の塩分付着計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設置位置での付着塩分量を測定する塩分付着計に関する。
【背景技術】
【0002】
工場空調設備や送配電設備などの各種設備は、例えば臨海部に設置される場合がある。臨海部では、台風襲来時などに大気中に飛散している塩分濃度が増加する。このため、臨海部の各種設備では、例えば変圧器や開閉器などの電気機器に気中塩分が付着して錆が発生するなどの塩害が生じ易い。
【0003】
そのため、臨海部の各種設備では、機器を塩害仕様としたり、機器のメンテナンスを頻繁に行ったりすることが求められ、コストの上昇を招いていた。そこで機器の塩害を予測することが必要となるものの、実際の塩害の程度は、地形(建物や森林の有無など)に大きく依存するため、塩害を予測することは困難である。
【0004】
特許文献1では、塩害の予測を行うためには、大気中に飛散している塩分の量を測定する必要があり、そのためには、大気中に飛散している塩分を捕獲する必要があるとして、飛散塩分捕獲装置を開示している。
【0005】
この飛散塩分捕獲装置は、円筒状の塩分捕獲体と、百葉箱と、回転支持部および尾翼とを備える。塩分捕獲体は、大気中に飛散している塩分を捕獲可能であるガーゼを筒状に保持している。百葉箱は、塩分捕獲体を収容する箱であって、塩分捕獲体に導風するルーバーが設けられている。回転支持部は、百葉箱を鉛直軸周りに回転可能に支持する。尾翼は、百葉箱のルーバーの反対側に設けられていて、ルーバーを風上に向ける。さらに飛散塩分捕獲装置では、塩分捕獲体を、鉛直軸周りに回転しないように構成している。
【0006】
特許文献1では、風を受けた尾翼の動きによりルーバーが常に風上を向くのに対して、百葉箱内の塩分捕獲体は、百葉箱の回転中心において停止したままであるため、塩分が飛来方向に応じてガーゼの異なる箇所に付着する。このため、特許文献1では、ガーゼの塩分の付着量を測定する範囲を周方向に分割することで、飛来方向毎に塩分の付着量を測定することができる、としている。
【0007】
さらに特許文献1では、塩分捕獲体を百葉箱内に設置したことにより、塩分捕獲体に、設置場所の屋根の有無にかかわらず雨の影響を受けることがないように、風速に応じた量の塩分を付着させることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、機器に錆が発生するなどの塩害の予測は、単に、飛散塩分量だけでなく、雨により付着物(塩分)が洗い流される雨洗効果を考慮した付着塩分量を測定する必要がある。なお飛散塩分量とは、大気中の単位体積あたりに含まれる塩分(気中塩分密度)に風速を乗じたものである。
【0010】
特許文献1の飛散塩分捕獲装置は、大気中に飛散している塩分をガーゼに付着させて、飛散塩分量を測定しているに過ぎず、しかもガーゼを含む塩分捕獲体が百葉箱内に設置されているため、ガーゼに付着した塩分が洗い流されることもない。したがって特許文献1の飛散塩分捕獲装置では、設置位置(雨ざらしの屋外)での付着塩分量を測定することができず、錆などの塩害の程度を把握することはできない。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、設置位置での付着塩分量を測定することができる塩分付着計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる塩分付着計の代表的な構成は、濡れると水分中の電解質の濃度に応じて抵抗値が変化する漏液検知帯と、漏液検知帯に電圧をかける電源と、漏液検知帯にかかる電圧の変化を時系列で記録するロガーと、ロガーに記録された電圧を送信する通信部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
上記構成の漏液検知帯では、大気中に飛散している塩分や、雨水に含まれる塩分が付着すると抵抗値が下がるが、さらに塩分が少ない雨水で濡れると雨洗効果によって付着した塩分が洗い流されて抵抗値が戻る(上がる)。また漏液検知帯は、雨水で濡れると、水分中の電解質(塩分)の濃度に応じて抵抗値が変化する。このため、漏液検知帯の抵抗値は、塩分付着計の設置位置での、飛散塩分量と雨洗効果を考慮した付着塩分量に応じて変化する。なお飛散塩分量とは、大気中の単位体積あたりに含まれる塩分(気中塩分密度)に風速を乗じたものである。
【0014】
そして上記構成では、漏液検知帯に電圧をかけて、漏液検知帯にかかる電圧の変化をロガーによって時系列で記録し、さらにロガーに記録された時系列での電圧の変化を通信部によって送信している。このため、漏液検知帯にかかる電圧の変化と付着塩分量との相関関係を予め記録しておけば、機器(例えば変圧器や開閉器などの電気機器)の近くに塩分付着計を設置することで、ロガーに記録された漏液検知帯にかかる電圧の時系列の変化によって、その設置位置での付着塩分量を知ることができる。
【0015】
したがって塩分付着計では、機器が錆びるという結果と、付着塩分量という原因とを対比して知ることができる。なお、これらの対比に関するデータを蓄積することで、将来的には付着塩分量を知るだけで錆びの程度を知ることができるようになるので、機器の交換やメンテナンス時期の最適化を図ることができる。
【0016】
上記の塩分付着計は、風向計をさらに備え、ロガーは、電圧の変化とともに、風向計から取得される風向を記録するとよい。
【0017】
これにより、塩分付着計の設置位置の風向を知ることができるため、漏液検知帯にかかる電圧の変化を理解するための裏付けを得ることができる。一例として、塩分付着計の設置位置が臨海部である場合、海側からの風雨を受けると、水分中の塩分濃度が高いため漏液検知帯の抵抗値が小さくなり、ロガーで記録される電圧も小さくなる。一方、山側からの風雨を受けると付着した塩分が洗い流され、さらに水分中の塩分濃度が低いため抵抗値が回復して大きくなり、ロガーで記録される電圧も大きくなる。このように、設置位置での自然環境を、電圧の変化と風向とを関連付けて把握することができる。
【0018】
上記の電源は、太陽電池であるとよい。これにより、塩分付着計は、外部の電源に接続せずに設置でき、単独で機能することができる。
【0019】
上記の通信部は、無線通信を行うとよい。これにより、塩分付着計を高所に設置しても、ロガーに記録されたデータの収集を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、設置位置での付着塩分量を測定することができる塩分付着計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態における塩分付着計を説明する図である。
【
図2】
図1の塩分付着計の機能を示すブロック図である。
【
図3】
図1の塩分付着計を用いた各試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態における塩分付着計100を説明する図である。
図1(a)は、塩分付着計100の外観を示す図である。
図1(b)は、
図1(a)の塩分付着計100を異なる方向から見た図である。
図2は、
図1の塩分付着計100の機能を示すブロック図である。
【0024】
塩分付着計100は、各種機器(不図示)の近くに設置され、設置位置での付着塩分量を測定するものである。機器としては、例えば臨海部に設置された各種設備(工場空調設備や送配電設備など)に設けられた変圧器や開閉器などの電気機器が挙げられる。なお臨海部では、台風襲来時などに大気中に飛散している塩分濃度が増加するため、機器に気中塩分が付着して錆が発生するなどの塩害が生じ易い。
【0025】
また付着塩分量とは、機器に付着する塩分量であり、大気中の単位体積あたりに含まれる塩分(気中塩分密度)に風速を乗じた飛散塩分量と、雨により付着物(塩分)が洗い流される雨洗効果とを考慮したものである。このため、塩分付着計100を機器の近くに設置し、設置位置での付着塩分量を知ることは、機器に錆が発生するなどの塩害を予測する上で有用である。
【0026】
塩分付着計100は、
図1(a)に示すように帯状の長尺な漏液検知帯102を備える。漏液検知帯102は、雨水で濡れると、水分中の電解質(塩分)の濃度に応じて抵抗値が変化する性質を有する。また漏液検知帯102は、
図1(b)に示すようにウェザールーバー104の内部から外に引き出されている。なおウェザールーバー104の内部には、複数のルーバー106が設けられている。
【0027】
漏液検知帯102は、大気中に飛散している塩分や、雨水に含まれる塩分が付着すると抵抗値が下がるが、さらに塩分が少ない雨水で濡れると雨洗効果によって付着した塩分が洗い流されて抵抗値が戻る(上がる)。つまり、漏液検知帯102の抵抗値は、塩分付着計100の設置位置での、飛散塩分量と雨洗効果を考慮した付着塩分量に応じて変化する。
【0028】
また塩分付着計100は、太陽電池108と、風向計110、112とを備える。太陽電池108は、ウェザールーバー104の傾斜面114に設置されていて、漏液検知帯102に電圧をかける電源として機能する。またウェザールーバー104の側面116には、雨水が浸入しないように密閉された筐体118が設置されている。風向計110は、
図1(a)に示すように筐体118の上面120に設置され、水平方向の風向を計測する。風向計112は、筐体118の側面122に設置され、垂直方向の風向を計測する。
【0029】
塩分付着計100はさらに、筐体118の内部に配置された
図2に示す電圧計124と、記憶部としてのロガー126と、通信部128および制御部130とを備える。電圧計124は、漏液検知帯102にかかる電圧を計測する。
【0030】
制御部130は、電圧計124で計測された電圧値と、風向計110、112で計測された風向とを取得し、これらをロガー126に出力する。ロガー126は、制御部130により制御され、漏液検知帯102にかかる電圧の変化を時系列で記録し、さらに電圧の変化とともに風向を記録する。
【0031】
通信部128は、制御部130により制御され無線通信を行うものであり、ロガー126に記録された電圧と風向を送信する。このため、塩分付着計100では、高所に設置しても、通信部128が無線通信を行うため、ロガー126に記録されたデータの収集を簡単に行うことができる。
【0032】
また太陽電池108は、漏液検知帯102に電圧をかける電源として機能するだけでなく、ロガー126、通信部128および制御部130の電源としても機能する。このため、塩分付着計100では、太陽電池108を用いることにより、外部の電源に接続せずに設置でき、単独で機能することができる。
【0033】
図3は、
図1の塩分付着計100を用いた各試験の結果を示すグラフである。
図3(a)は、食塩水試験の結果を示すグラフであって、横軸を食塩水濃度(wt%)、縦軸を出力電圧値(mV)としている。
【0034】
この食塩水試験では、食塩水の入った容器内に漏液検知帯102を浸して濡らし、食塩水の塩分濃度毎に、漏液検知帯102にかかる電圧(出力電圧値)をロガー126で記録した。
【0035】
ただし、横軸のうち「dry」は、漏液検知帯102が濡れていない場合を示している。また塩分濃度が「0wt%」とは、塩分を含まない水の入った容器内に漏液検知帯102を浸して濡らした場合を示していて、この場合には、漏液検知帯102の出力電圧値は、2450(mv)となっている。
【0036】
図3(a)のグラフによれば、食塩水の塩分濃度が高くなると、漏液検知帯102の抵抗値が小さくなるため、ロガー126で記録される電圧も小さくなっている。ここで食塩水試験での塩分濃度は、漏液検知帯102に付着した付着塩分量と相関がある。このため、
図3(a)のグラフは、漏液検知帯102にかかる電圧の変化と付着塩分量との相関関係を示している。
【0037】
そこで、
図3(a)のグラフに示す相関関係を予め記録しておけば、塩分付着計100を実際に機器の近くに設置したときに、ロガー126に記録された漏液検知帯102にかかる電圧の時系列の変化によって(
図3(b)参照)、その設置位置での付着塩分量を知ることができる。
【0038】
図3(b)は、実証試験の結果を示すグラフであって、横軸を設置位置での時刻、縦軸を出力電圧値(mV)としている。この実証試験では、塩分付着計100を機器の近くに設置し、漏液検知帯102にかかる電圧(出力電圧値)の時系列の変化をロガー126で記録した。なお
図3(b)のグラフでは、
図3(a)のグラフで塩分濃度が「0wt%」のとき、すなわち漏液検知帯102を水で濡らした場合の出力電圧値2450(mv)を基準電圧値としている。
【0039】
図3(b)のグラフによれば、時刻Taで出力電圧値が基準電圧値よりも小さくなり、その後、再び出力電圧値が回復している。つまり、漏液検知帯102は、時刻Taで大気中に飛散している塩分や、雨水に含まれる塩分が付着して抵抗値が下がり、その後、塩分が少ない雨水で濡れることにより雨洗効果によって付着した塩分が洗い流されて抵抗値が戻ったと考えられる。
【0040】
このように塩分付着計100は、漏液検知帯102にかかる電圧の変化と付着塩分量との相関関係を予め記録した上で、漏液検知帯102に電圧をかけて、漏液検知帯102にかかる電圧の変化をロガー126によって時系列で記録することにより、その設置位置での付着塩分量を知ることができる。
【0041】
したがって塩分付着計100では、機器が錆びるという結果と、付着塩分量という原因とを対比して知ることができる。さらに、これらの対比に関するデータを蓄積することで、将来的には付着塩分量を知るだけで機器の錆びの程度すなわち塩害の程度を知ることができるようになるので、機器の交換やメンテナンス時期の最適化を図ることができる。
【0042】
また、塩分付着計100は、風向計110、112から設置位置の風向を知ることができるため、漏液検知帯102にかかる電圧の変化を理解するための裏付けを得ることができる。一例として、塩分付着計100の設置位置が臨海部である場合、海側からの風雨を受けると、水分中の塩分濃度が高いため漏液検知帯102の抵抗値が小さくなり、ロガー126で記録される電圧も小さくなる。一方、山側からの風雨を受けると漏液検知帯102に付着した塩分が洗い流され、さらに水分中の塩分濃度が低いため、漏液検知帯102の抵抗値が回復して大きくなり、ロガー126で記録される電圧も大きくなる。
【0043】
仮に、
図3(b)のグラフの時刻Taにおいて、漏液検知帯102が、海側からの風雨を受けて、その後、山側からの風雨を受けたことがロガー126に記録されていた場合、時刻Taで出力電圧値が基準電圧値よりも小さくなり、その後、出力電圧値が回復したことの裏付けを得ることになる。このように、塩分付着計100では、設置位置での自然環境を、漏液検知帯102にかかる電圧の変化と風向とを関連付けて把握することもできる。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、設置位置での付着塩分量を測定する塩分付着計として利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
100…塩分付着計、102…漏液検知帯、104…ウェザールーバー、106…ルーバー、108…太陽電池、110、112…風向計、114…ウェザールーバーの傾斜面、116…ウェザールーバーの側面、118…筐体、120…筐体の上面、122…筐体の側面、124…電圧計、126…ロガー、128…通信部、130…制御部