(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】光変調器および光変調方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20240312BHJP
H04B 10/516 20130101ALI20240312BHJP
H03K 5/133 20140101ALN20240312BHJP
【FI】
G02F1/01 C
H04B10/516
H03K5/133
(21)【出願番号】P 2020122618
(22)【出願日】2020-07-17
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】蘇武 洋平
(72)【発明者】
【氏名】田中 信介
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/043079(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0212076(US,A1)
【文献】特開2018-186429(JP,A)
【文献】特開2018-112654(JP,A)
【文献】特表2010-507131(JP,A)
【文献】特表2018-523857(JP,A)
【文献】特表2013-502613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に伝送される3以上の電気信号に応じて光信号を生成する光変調器であって、
マッハツェンダ干渉計と、
前記マッハツェンダ干渉計の光パスに沿って直列に設けられ、対応する電気信号に応じて前記光パスを伝搬する光の位相をシフトさせる3以上のセグメントと、を備え、
前記3以上のセグメントのうちの少なくとも1つのセグメントの長さは、他のセグメントの長さと異なり、
各セグメントの入力端から対応する次のセグメントの入力端までの光パス長が互いに同じであ
り、
各セグメントの入力端は、各セグメントの端部のうちで、前記マッハツェンダ干渉計の光パスを介して伝搬する光が近づいてくる側の端部である
ことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
前記3以上の電気信号のタイミングを調整する遅延調整回路をさらに備え、
前記3以上のセグメントは、第1のセグメント、前記第1のセグメントの出力側に設けられる第2のセグメント、および前記第2のセグメントの出力側に設けられる第3のセグメントを含み、
前記遅延調整回路は、
前記第1のセグメントに与えられる第1の電気信号に対して、前記第2のセグメントに与えられる第2の電気信号を、光が前記マッハツェンダ干渉計の光パスを介して前記第1のセグメントの入力端から前記第2のセグメントの入力端まで伝搬する時間を表す第1の遅延時間だけ遅延させ、
前記第1の電気信号に対して、前記第3のセグメントに与えられる第3の電気信号を、光が前記マッハツェンダ干渉計の光パスを介して前記第1のセグメントの入力端から前記第3のセグメントの入力端まで伝搬する時間を表す第2の遅延時間だけ遅延させる
ことを特徴とする請求項1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記第2の遅延時間は、前記第1の遅延時間の2倍である
ことを特徴とする請求項2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記遅延調整回路は、同じ回路構成の複数の遅延素子を使用して、前記第2の電気信号を前記第1の電気信号に対して前記第1の遅延時間だけ遅延させ、前記第3の電気信号を前記第1の電気信号に対して前記第2の遅延時間だけ遅延させる
ことを特徴とする請求項2に記載の光変調器。
【請求項5】
前記遅延調整回路は、
第1のクロック信号を前記第1の遅延時間だけ遅延させて第2のクロック信号を生成し、前記第1のクロック信号を前記第2の遅延時間だけ遅延させて第3のクロック信号を生成する遅延回路と、
前記第1の電気信号を保持し、前記第1のクロック信号に従って前記第1の電気信号を出力する第1のフリップフロップ回路と、
前記第2の電気信号を保持し、前記第2のクロック信号に従って前記第2の電気信号を出力する第2のフリップフロップ回路と、
前記第3の電気信号を保持し、前記第3のクロック信号に従って前記第3の電気信号を出力する第3のフリップフロップ回路と、を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の光変調器。
【請求項6】
前記遅延回路は、直列に接続された、同じ回路構成の複数の遅延素子を含み、
前記第2のクロック信号は、前記複数の遅延素子の中の第1の遅延素子から出力され、
前記第3のクロック信号は、前記第1の遅延素子よりも出力側に設けられる、前記複数の遅延素子の中の第2の遅延素子から出力される
ことを特徴とする請求項5に記載の光変調器。
【請求項7】
前記第1の電気信号、前記第2の電気信号、および前記第3の電気信号は、それぞれ、前記第1のセグメント、前記第2のセグメント、および前記第3のセグメントの入力端に与えられる
ことを特徴とする請求項2~6のいずれか1つに記載の光変調器。
【請求項8】
並列に伝送される3以上の電気信号に応じて光信号を生成する光変調方法であって、
前記光信号を生成する光変調器は、マッハツェンダ干渉計と、前記マッハツェンダ干渉計の光パスに沿って直列に設けられ、対応する電気信号に応じて前記光パスを伝搬する光の位相をシフトさせる3以上のセグメントと、を備え、
前記3以上のセグメントのうちの少なくとも1つのセグメントの長さは、他のセグメントの長さと異なり、
各セグメントの入力端から対応する次のセグメントの入力端までの光パス長が互いに同じであり、
各セグメントの入力端は、各セグメントの端部のうちで、前記マッハツェンダ干渉計の光パスを介して伝搬する光が近づいてくる側の端部であり、
前記光信号を受信する装置から前記光信号の品質を表す品質情報を受信し、
前記品質情報に基づいて、前記3以上のセグメントに前記3以上の電気信号が与えられるタイミングを調整する
ことを特徴とする光変調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器および光変調方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
光変調器は、長距離/大容量の光伝送を実現するためのキーデバイスの1つである。光変調器は、例えば、デジタル信号処理器(DSP:Digital Signal Processor)により生成される送信データに対応する電気信号で連続光を変調することで変調光信号を生成する。光変調器を備える光送信機の例を
図1に示す。
【0003】
図1(a)に示す構成では、DSPにより生成される送信データ(デジタル信号)は、デジタル/アナログ変換器(DAC)によりアナログ信号に変換される。そして、DACの出力信号がアナログドライバ(線形ドライバ)で増幅され、光変調器に与えられる。光変調器は、マッハツェンダ干渉計を構成する光導波路を備え、光導波路の近傍に電極が形成されている。マッハツェンダ干渉計には、連続光が入力される。そして、ドライバの出力信号が電極に与えられると、その信号に応じて導波路を伝搬する光の位相が変化し、送信データを表す変調光信号が出力される。なお、以下の記載では、送信データを表す電気信号が与えられる電極(即ち、位相シフタとして使用される電極)を「セグメント」と呼ぶことがある。
【0004】
この構成において、各シンボルが2ビットのデータを伝送する光信号を生成する場合、DSPは、2ビットパラレルデータを出力する。そうすると、DACから4レベルのアナログ信号が出力されるので、4PAM(Pulse Amplitude Modulation)光信号が生成される。ただし、この構成で十分な光振幅を得るためには、ボーレートが高くなるにつれて大きな振幅のアナログ信号が必要になるので、ドライバの消費電力が大きくなる。
【0005】
この問題は、例えば、
図1(b)に示す構成により解決または緩和される。
図1(b)に示す構成では、光変調器は、シンボルを構成する複数のビットそれぞれに対して電極を備える。即ち、各シンボルが2ビットのデータを伝送する場合には、光変調器は、下位ビットのための電極(LSBセグメント)および上位ビットのための電極(MSBセグメント)を備える。ここで、同じ電圧振幅の信号が各セグメントに入力され、MSBセグメントの長さはLSBセグメントの2倍とする。そして、各セグメントにそれぞれ対応する送信ビットが与えられ、4PAM光信号が生成される。この構成によれば、
図1(a)に示す構成と比較して、光変調器に与える電気信号の振幅を大きくする必要がなく、データ遷移時のみに電流が流れるインバータドライバを使えるので、消費電力が削減される。なお、
図1(b)に示す変調方式は、デジタル信号がマッハツェンダ干渉計に与えられ、光領域でアナログ信号が生成されるので、「光DAC」と呼ばれることがある。
【0006】
長さの異なる複数のセグメント(又は、電極)を備える光変調器は、例えば、特許文献1~2に記載されている。また、特許文献3には、光変調回路が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-219500号公報
【文献】米国公開2017/0052394
【文献】特開2014-006389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、多値光信号を生成するために複数のセグメントを備える構成においては、光変調器または光送信機の消費電力が削減される。ただし、この構成では、特に多値化が進むにつれて(多値数が大きくなるにつれて)、各セグメントに与えられる電気信号のタイミングを調整する回路の制御が複雑になる。
【0009】
本発明の1つの側面に係わる目的は、位相シフタとして使用される複数のセグメントを備える光変調器において、各セグメントに与えられる電気信号のタイミングを調整する回路の制御の複雑さを緩和することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様に係わる光変調器は、並列に伝送される3以上の電気信号に応じて光信号を生成する。この光変調器は、マッハツェンダ干渉計と、前記マッハツェンダ干渉計の光パスに沿って直列に設けられ、対応する電気信号に応じて前記光パスを伝搬する光の位相をシフトさせる3以上のセグメントと、を備える。前記3以上のセグメントのうちの少なくとも1つのセグメントの長さは、他のセグメントの長さと異なる。各セグメントの入力端から対応する次のセグメントの入力端までの光パス長が互いに同じである。
【発明の効果】
【0011】
上述の態様によれば、位相シフタとして使用される複数のセグメントを備える光変調器において、各セグメントに与えられる電気信号のタイミングを調整する回路の制御の複雑さが緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】光変調器を備える光送信機の例を示す図である。
【
図2】光変調器の構成および動作の一例を示す図である。
【
図3】ビット多重を実現するためのセグメントの構成の例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係わる光変調器の一例を示す図である。
【
図5】データ信号を直接遅延させる遅延調整回路を備える光変調器の一例を示す図である。
【
図6】クロック信号を用いてデータ信号を遅延させる遅延調整回路を備える光変調器の一例を示す図である。
【
図8】セグメントの構成のバリエーションを示す図である。
【
図9】セグメント長による重み付けおよびセグメント数による重み付けを組み合わせた光変調器の一例を示す図である。
【
図10】セグメント長と光応答の関係を表す図である。
【
図11】光変調器の導波路および電極の構成例を示す図である。
【
図12】光変調器の遅延調整回路の構成例を示す図である。
【
図13】光変調器の遅延調整回路の他の構成例を示す図である。
【
図14】光変調器の遅延調整回路のさらに他の構成例を示す図である。
【
図16】本発明の実施形態に係わる光変調器が使用される光通信システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2は、光変調器の構成および動作の一例を示す。なお、光変調器は、光DAC方式で光信号を生成する。すなわち、デジタル信号が光変調器に与えられ、光領域でアナログ信号が生成される。また、
図2に示す光変調器は、シンボル毎に4ビットのデータを伝送する光信号を生成する。例えば、16PAM光信号が生成される。
【0014】
光変調器は、
図2(a)に示すように、マッハツェンダ干渉計を備える。マッハツェンダ干渉計は、入力光導波路、第1アーム光導波路、第2アーム光導波路、出力光導波路を備える。第1アーム光導波路および第2アーム光導波路の入力端は、入力光導波路に結合されている。よって、光変調器への入力光は、第1アーム光導波路および第2アーム光導波路を介して伝搬する。第1アーム光導波路および第2アーム光導波路の出力端は、出力光導波路に結合されている。したがって、第1アーム光導波路の出力光および第2アーム光導波路の出力光は、合波されて出力される。なお、以下の記載では、第1アーム光導波路および第2アーム光導波路を「アーム導波路」と呼ぶことがある。
【0015】
アーム導波路に対して、電極S1~S4が設けられる。そして、各電極S1~S4にそれぞれ送信データを表す電気信号が与えられる。この例では、各シンボルが4ビットのデータを伝送する。よって、以下の記載では、
図2(b)に示すように、1つのシンボルに対して与えられるデータまたは電気信号を「b0~b3」で表す。なお、b0が最下位ビット(LSB)であり、b3が最上位ビット(MSB)である。また、送信データb0~b3は、DSPにより生成される。
【0016】
信号b0~b3は、デジタルドライバを介して対応する電極S1~S4に与えられる。このとき、信号b0~b3の値に応じてアーム導波路の屈折率が変化する。アーム導波路の屈折率が変化すると、そのアーム導波路を通過する光の位相が変化する。すなわち、電極S1~S4は、位相シフタとして作用する。なお、各信号b0~b3は、差動信号として、第1アーム導波路および第2アーム導波路に印加される。
【0017】
ここで、この例では、電極S2の長さは電極S1の2倍であり、電極S3の長さは電極S2の2倍であり、電極S4の長さは電極S3の2倍である。よって、電極S2に与えられる信号b1による位相シフトは、電極S1に与えられる信号b0による位相シフトの約2倍である。同様に、電極S3に与えられる信号b2による位相シフトは、電極S2に与えられる信号b1による位相シフトの約2倍である。電極S4に与えられる信号b3による位相シフトは、電極S3に与えられる信号b2による位相シフトの約2倍である。
【0018】
また、この例では、マッハツェンダ干渉計の出力光の強度は、アーム導波路における位相シフトに比例するものとする。そうすると、マッハツェンダ干渉計の出力光の強度は、信号b0~b3により制御されることになる。
【0019】
信号b0により制御される出力光の強度の振幅が「1」であるものとする。この場合、信号b1、信号b2、信号b3により制御される出力光の強度の振幅は、それぞれ「2」「4」「8」である。そうすると、例えば、ビットb0~b3が「1010」であればマッハツェンダ干渉計の出力光の強度は「5(=1+0+4+0)」であり、ビットb0~b3が「1101」であればマッハツェンダ干渉計の出力光の強度は「11(=1+2+0+8)」である。すなわち、ビットb0~b3に応じて16PAMが実現される。
【0020】
なお、以下の記載では、送信データを表す電気信号が与えられる電極(即ち、位相シフタとして使用される電極)を「セグメント」と呼ぶことがある。すなわち、
図2に示す光変調器は、セグメントS1~S4を備える。
【0021】
このように、光変調器は、信号b0~b3に基づいて入力光の位相を制御することで、送信データを表す光信号を生成する。但し、各セグメントに与えられる信号b0~b3のタイミングが適切に調整されていないと、(出力)光信号の品質が低下する。例えば、各セグメントに与えられる信号b0~b3のタイミングが適切に調整されていないと、(出力)光信号の波形が崩れる。よって、光変調器は、各セグメントに与えられる信号b0~b3のタイミングを適切に調整するために、
図2(b)に示すように、遅延素子τ1~τ3を備える。遅延素子τ1~τ3は、それぞれ信号b1~b3を遅延させる。
【0022】
光信号の品質を高くするためには、信号b0~b3のタイミングは、以下の条件を満足するように調整されることが好ましい。
(1)信号b0がセグメントS1に到着するタイミングと信号b1がセグメントS2に到着するタイミングとの差分は、「光がセグメントS1の入力端からセグメントS2の入力端まで伝搬する時間(以下、「伝搬時間S1_S2」)」である。
(2)信号b0がセグメントS1に到着するタイミングと信号b2がセグメントS3に到着するタイミングとの差分は、「光がセグメントS1の入力端からセグメントS3の入力端まで伝搬する時間(以下、「伝搬時間S1_S3」)」である。
(3)信号b0がセグメントS1に到着するタイミングと信号b3がセグメントS4に到着するタイミングとの差分は、「光がセグメントS1の入力端からセグメントS4の入力端まで伝搬する時間(以下、「伝搬時間S1_S4」)」である。
【0023】
例えば、
図2(c)に示すように、セグメントS1、S2、S3、S4の長さがそれぞれ「L(100μm)」「2L(200μm)」「4L(400μm)」「8L(800μm)」であるものとする。セグメント間のギャップが「Lg(50μm)」であり、光導波路の群屈折率Ngを4.3とする。cは、真空中での光の速度を表す。この場合、各伝搬時間は、以下のように計算される。
伝搬時間S1_S2=(L+Lg)×Ng/c~2.15p秒
伝搬時間S1_S3=(3L+2Lg)×Ng/c~5.73p秒
伝搬時間S1_S4=(7L+3Lg)×Ng/c~12.2p秒
【0024】
そして、遅延素子τ1、τ2、τ3の遅延時間がそれぞれ伝搬時間S1_S2、伝搬時間S1_S3、伝搬時間S1_S4に設定されると、上述の条件(1)~(3)が満たされ、光信号の品質が改善する。しかし、この場合、遅延素子τ1、τ2、τ3の回路構成が互いに異なるので、遅延素子ごとに異なる制御が必要となる。例えば、遅延素子の遅延時間が温度に依存する場合は、温度変化に対して、遅延素子ごとに異なる制御が必要となる。そこで、本発明の実施形態に係わる光変調器は、この問題を解決または緩和する構成を備える。
【0025】
光DAC方式によるビット多重は、様々な構成により実現され得る。
図3(a)に示す構成では、セグメントの長さを変えることでビット多重が実現される。すなわち、下位のビットのセグメントは短く形成され、上位のビットのセグメントは長く形成される。この例では、ビットb0がLSBであり、ビットb2がMSBである。この場合、セグメントS2の長さはセグメントS1の2倍であり、セグメントS3の長さはセグメントS2の2倍である。
【0026】
図3(b)に示す構成では、セグメントの数を変えることでビット多重が実現される。すなわち、下位のビットに対して設けられるセグメントの数は少なく、上位のビットに対して設けられるセグメントの数は多い。この例では、ビットb0に対して1個のセグメント(S1)が設けられ、ビットb1に対して2個のセグメント(S2a、S2b)が設けられ、ビットb2に対して4個のセグメント(S3a~S3d)が設けられている。ただし、各セグメントの長さは互いに同じである。なお、
図3(a)および
図3(b)に示す構成は、組み合わせることが可能である。
【0027】
図3(c)に示す構成では、セグメントに印加する電気信号の電圧を変えることでビット多重が実現される。すなわち、下位のビットに対応するセグメントに印加される信号の電圧は低く、上位のビットに対応するセグメントに印加される信号の電圧は高い。この例では、セグメンS1の印加電圧は1Vであり、セグメンS2の印加電圧は2Vであり、セグメンS3の印加電圧は4Vである。なお、
図3(a)~
図3(c)に示す構成は、任意に組み合わせることが可能である。
【0028】
<実施形体>
図4は、本発明の実施形態に係わる光変調器の一例を示す。本発明の実施形態に係わる光変調器1は、
図2(a)を参照して説明したように、マッハツェンダ干渉計を備える。マッハツェンダ干渉計は、入力光導波路、第1アーム光導波路、第2アーム光導波路、出力光導波路を備える。そして、各アーム導波路に対して、セグメントS1~S4が設けられている。各セグメントS1~S4は、電気信号が印加される電極に相当する。
【0029】
DSP10は、送信データを生成する。この実施例では、各シンボルが4ビットのデータを伝送する。よって、DSP10は、シンボル毎に送信データb0~b3を生成する。そして、送信データb0~b3は、それぞれデジタルドライバを介して対応するセグメントS1~S4に与えられる。ただし、送信データb1~b3は、それぞれ、遅延素子τ1~τ3により遅延される。遅延素子τ1~τ3の構成および遅延時間については、後で説明する。
【0030】
各デジタルドライバの出力信号は、対応するセグメントS1~S4に与えられる。ここで、各信号は、それぞれ対応するセグメント(即ち、電極)の入力端に印加される。具体的には、ビットb0を表す信号b0は、セグメントS1の(光入力信号の)入力端に印加される。同様に、信号b1は、セグメントS2の入力端に印加され、信号b2は、セグメントS3の入力端に印加され、信号b3は、セグメントS4の入力端に印加される。なお、「入力端」は、入力端の近傍を含むものとする。
【0031】
セグメントS1~S4の長さは、互いに異なる。具体的には、セグメントS2の長さL2は、セグメントS1の長さL1の2倍である。セグメントS3の長さL3は、セグメントS2の長さL2の2倍である。セグメントS4の長さL4は、セグメントS3の長さL2の2倍である。セグメント間のギャップは、下記の(1)式を満足するように決定される。
L1×Ns+Lg1×Np=L2×Ns+Lg2×Np=L3×Ns+Lg3×Np
・・・(1)
【0032】
ここで、Lg1は、セグメントS1、S2間のギャップを表し、Lg2は、セグメントS2、S3間のギャップを表し、Lg3は、セグメントS3、S4間のギャップを表す。また、Npは、電極が設けられていない領域における光導波路の群屈折率を表す。Nsは、電極が設けられている領域(即ち、セグメント領域)における光導波路の群屈折率を表す。ここで、アーム導波路の断面形状は、特に限定されるものではないが、例えば、矩形である。ただし、電極が設けられている領域(即ち、セグメント領域)においては、アーム導波路はリブ導波路である。この場合、セグメント領域における光導波路の屈折率Nsは、電極が設けられていない領域における光導波路の屈折率Npと異なることがある。
【0033】
なお、群屈折率Npと群屈折率Nsとが互いに同じであるときは、(1)式は、下記(2)式のように簡略化される。
L1+Lg1=L2+Lg2=L3+Lg3・・・(2)
【0034】
また、(1)式は、光変調器が4個のセグメントを備えるケースを表しているが、一般化すると(3)式で表される。
Li×Ns+Lgi×Np=所定の定数・・・(3)
【0035】
(3)式において、「Li×Ns」は、セグメント領域Siを通過する光に対する光パス長を表す。iは、各セグメントを識別する変数であり、
図4に示す構成では1、2、または3である。「Lgi×Np」は、セグメントSiとセグメントSi+1との間のギャップ区間の光パス長を表す。すなわち、「Li×Ns+Lgi×Np」は、セグメントSiの入力端からセグメントSi+1の入力端までの光パス長を表す。したがって、(3)式は、各セグメントの入力端から対応する次のセグメントの入力端までの光パス長が互いに同じであることを表している。
【0036】
以下の記載では、あるセグメントの入力端から次のセグメントの入力端までの光パス長を「基準光パス長」と呼ぶことがある。本発明の実施形態では、各セグメントの基準光パス長は一定である。また、あるセグメントの入力端から次のセグメントの入力端までの間の光の伝搬遅延は、基準光パス長を光速で割算することで得られる。以下の記載では、この割算の結果(すなわち、伝搬遅延)を「基準遅延τ0」と呼ぶことがある。
【0037】
他方、光変調器1が生成する光信号の品質を高くするためには、上述したように、信号b0~b3のタイミングが以下の条件を満足するように調整されることが好ましい。
(1)信号b0がセグメントS1に到着するタイミングと信号b1がセグメントS2に到着するタイミングとの差分は、「光がセグメントS1の入力端からセグメントS2の入力端まで伝搬する時間(以下、「伝搬時間S1_S2」)」である。
(2)信号b0がセグメントS1に到着するタイミングと信号b2がセグメントS3に到着するタイミングとの差分は、「光がセグメントS1の入力端からセグメントS3の入力端まで伝搬する時間(以下、「伝搬時間S1_S3」)」である。
(3)信号b0がセグメントS1に到着するタイミングと信号b3がセグメントS4に到着するタイミングとの差分は、「光がセグメントS1の入力端からセグメントS4の入力端まで伝搬する時間(以下、「伝搬時間S1_S4」)」である。
【0038】
ここで、
図4に示す構成においては、伝搬時間S1_S2(光がセグメントS1の入力端からセグメントS2の入力端まで伝搬する時間)は「τ0」である。また、(1)式または(3)式を満足するようにセグメントS1~S4が形成されているので、伝搬時間S1_S3(光がセグメントS1の入力端からセグメントS3の入力端まで伝搬する時間)は「2×τ0」である。さらに、伝搬時間S1_S4(光がセグメントS1の入力端からセグメントS4の入力端まで伝搬する時間)は「3×τ0」である。
【0039】
したがって、
図4に示す光変調器1においては、遅延素子τ1の遅延時間が「τ0」に設定され、遅延素子τ2の遅延時間が「2×τ0」に設定され、遅延素子τ3の遅延時間が「3×τ0」に設定される。なお、この実施例では、遅延素子τ1~τ3が存在しないときに、DSP10とマッハツェンダ干渉計との間の信号b0~b3の伝搬時間が互いに同じであるものとする。すなわち、DSP10とマッハツェンダ干渉計との間の信号b0~b3のスキューはゼロであるものとする。
【0040】
このように、光変調器1においては、遅延素子τ1、τ2、τ3の遅延時間は、いずれも基準遅延τ0の整数倍である。よって、遅延素子τ1~τ3は、それぞれ、1または複数の遅延素子τ0で実現できる。なお「遅延素子τ0」は、遅延時間がτ0である遅延素子を表す。
【0041】
具体的には、
図5に示すように、信号b1を遅延させる遅延素子τ1は、1個の遅延素子τ0で実現される。また、信号b2を遅延させる遅延素子τ2は、2個の遅延素子τ0を直列に接続することで実現される。更に、信号b3を遅延させる遅延素子τ3は、3個の遅延素子τ0を直列に接続することで実現される。このように、すべての遅延素子が同じ構成なので、複数種類の遅延素子を備える
図2に示す構成と比較して、遅延時間の制御が簡単になる。例えば、遅延素子の遅延時間が温度に依存するものとする。この場合、
図4~
図5に示す構成においては、温度変化に対して、同じ制御方法ですべての遅延素子の遅延時間を適切に調整できる。
【0042】
なお、
図5に示す実施例では、各信号b1~b3が遅延素子により直接的に遅延させられるが、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。例えば、
図6に示す実施例では、信号b0~b3は、それぞれ対応するフリップフロップ回路FF0~FF3を介してマッハツェンダ干渉計に導かれる。ここで、各フリップフロップ回路FF0~FF3は、入力信号をいったん保持し、クロック信号に同期してその信号を出力する。したがって、フリップフロップ回路FF0~FF3に与えられるクロック信号のタイミングを制御すれば、信号b0~b3のタイミングが調整される。
【0043】
具体的には、クロック信号は、フリップフロップ回路FF0に与えられ、1個の遅延素子τ0を介してフリップフロップ回路FF1に与えられ、2個の遅延素子τ0を介してフリップフロップ回路FF2に与えられ、3個の遅延素子τ0を介してフリップフロップ回路FF3に与えられる。したがって、信号b1、信号b2、信号b3は、それぞれ、信号b0に対して「τ0」「2×τ0」「3×τ0」だけ遅延する。すなわち、マッハツェンダ干渉計に到着する信号b0~b3のタイミングは、
図5に示す構成および
図6に示す構成において実質的に互いに同じである。なお、この実施例においても、遅延素子τ1~τ3およびフリップフロップ回路FF0~FF3が存在しないときに、DSP10とマッハツェンダ干渉計との間の信号b0~b3の伝搬時間が互いに同じであるものとする。すなわち、DSP10とマッハツェンダ干渉計との間の信号b0~b3のスキューはゼロであるものとする。
【0044】
図7は、遅延素子の実施例を示す。遅延素子τ0は、特に限定されるものではないが、例えば、インバータ回路により実現される。
図7(a)に示す実施例では、遅延素子τ0は、直列に接続される2個のインバータ回路により実現される。各インバータ回路は、例えば、直流電源とグランドとの間に設けられる1組のトランジスタにより構成される。この場合、インバータ回路は、1個のnMOSトランジスタおよびpMOSトランジスタにより構成される。そして、
図5に示す構成では、各信号b0~b3が
図7(a)に示す回路に入力される。
図6に示す構成では、クロック信号が
図7(a)に示す回路に入力される。
【0045】
なお、必要な遅延時間を実現するために、
図7(a)に示す回路を複数直列に設けてもよい。例えば、遅延素子τ0として必要な遅延時間が10p秒であり、
図7に示す回路の遅延時間が5p秒であるものとする。この場合、
図7に示す回路を直列に2つ接続することにより遅延素子τ0が実現される。
【0046】
遅延素子τ0は、
図7(a)に示す回路に限定されない。例えば、
図7(b)に示すように、インバータ回路間の信号線を、可変容量コンデンサを介してグランドに接続してもよい。この場合、前段のインバータ回路の出力信号の立ち上りエッジまたは立ち下がりエッジが緩やかになる。そして、後段のインバータ回路において、その立ち上りエッジまたは立ち下がりエッジが再生される。このとき、コンデンサの容量に対応する遅延が生成される。
【0047】
このように、本発明の実施形態に係わる光変調器においては、光変調器の駆動信号として使用される電気信号b0~b3のタイミングを調整する複数の遅延素子が、同じ構成の回路で実現される。よって、例えば、周囲の温度が変化したときに、複数の遅延素子の遅延時間を一括して調整できる。例えば、
図7(a)に示す構成では、直流電源の電圧を調整することで、すべての遅延素子τ0の遅延時間を等しく調整できる。また、
図7(b)に示す構成では、各コンデンサの容量を制御することで、すべての遅延素子τ0の遅延時間を等しく調整できる。可変容量コンデンサの容量は、電流または電圧を制御することで調整される。
【0048】
図8は、セグメントの構成のバリエーションを示す。
図8(a)は、セグメント長で重みを付ける構造(
図3(a))であり、
図8(b)は、セグメント長およびセグメント数で重みを付ける構成(
図3(a)および
図3(b)の組合せ)である。尚、
図8(a)に示す構成では、送信データの各ビットに対してそれぞれ1つのセグメントが設けられる。例えば、
図4~
図6に示す光変調器は、
図8(a)に示す構成の一例である。
【0049】
図8(a)に示す構成においては、セグメントの長さを変えることでビット多重が実現される。すなわち、下位ビットに対して短いセグメントが設けられ、上位ビットに対して長いセグメントが設けられる。具体的には、i番目のビットに対応するセグメントの長さは、i-1番目のビットに対応するセグメントの長さの2倍である。換言すると、ビット0(即ち、LSB)に対応するセグメントの長さが「L」である場合、ビットi(i=1~n―1)対応するセグメントの長さは「2
i×L」である。したがって、例えば、ビットb1に対応するセグメントの長さはビットb0に対応するセグメントの長さの2倍であり、ビットb2に対応するセグメントの長さはビットb1に対応するセグメントの長さの2倍である。また、各セグメントの間のギャップは、(1)式または(3)式で表したように、各セグメントの入力端から次のセグメントの入力端までの光パス長が一定になるように決定される。よって、短いセグメントの出力側のギャップは大きくなり、長いセグメントの出力側のギャップは小さくなる。
【0050】
図8(b)に示す構成においては、セグメントの個数を変えることでビット多重が実現される。ただし、
図8(b)に示す例では、ビット0~m-1に対してセグメントの長さを変える方式が適用され、ビットm~n-1に対してセグメントの個数を変える方式が適用されている。即ち、ビット0~m-1に対しては、長さが異なるセグメントS1~Smが設けられる。一方、ビットm~n-1に対しては、それぞれ複数のセグメントが設けられる。具体的には、ビットj(j=m~n―1)に対応する位相シフタは、2
j-m+1個のセグメントから構成される。例えば、ビットmに対応する位相シフタは2個のセグメントから構成され、ビットn-1に対応する位相シフタは2
n-m個のセグメントから構成される。
【0051】
図8(b)に示す構成において、ビットm以降は、各セグメントの長さは互いに同じである。
図8に示す実施例では、ビットm~n-1に対して設けられる各位相シフタを構成する各セグメントの長さは、セグメントSmと同じである。
【0052】
また、各セグメントの間のギャップは、
図8(b)に示す構成においても、(1)式または(3)式を満足するように決定される。ここで、ビットm以降の構成は、各セグメントの長さは互いに同じである。よって、各ギャップの大きさも同じである。具体的には、
図8に示すビットm以降の構成の各ギャップの大きさは、セグメントSmとその次のセグメントとの間のギャップと同じである。
【0053】
さらに、この構成において、1つのビットに対して複数のセグメントが設けられる場合、それら複数のセグメントに同じ信号が与えられる。ただし、複数のセグメントに与えられる複数の信号は、光の伝搬時間を考慮してタイミングが調整される。
【0054】
なお、この構成と比較して、
図8(a)に示す構成においては、セグメント数が少なくなるので、回路素子(フリップフロップ回路FF、遅延素子τ0、デジタルドライバ)の個数が少なくなる。ただし、
図8(a)に示す構成においては、各シンボルが伝送するデータのビットの数が多くなると、MSBに対応するセグメント長が長くなる。そして、セグメント長が長くなると、駆動信号の作用がセグメント全体に均等に作用しなくなるおそれがある。したがって、各シンボルが伝送するデータのビットの数が多いケースでは、MSBまたはMSBに近いビットに対応する位相シフタを複数のセグメントで構成することが好ましいことがある。
【0055】
図9は、セグメント長による重み付けおよびセグメント数による重み付けを組み合わせた光変調器の一例を示す。
図9に示す光変調器は、
図6に示す光変調器と同等の光信号を生成することができる。ただし、
図6に示すセグメントS4は、
図9においては、2つのセグメントS4aおよびセグメントS4bに置き換えられている。すなわち、ビットb3に対して2個のセグメントS4a、S4bが設けられる。各セグメントS4a、S4bの長さは、セグメントS3と同じである。すなわち、セグメントS4aの長さおよびセグメントS4bの長さの和は、セグメントS3の2倍である。また、セグメントS4a、S4b間のギャップの大きさは、セグメントS3とセグメントS4aとの間のギャップと同じである。また、ビットb3を表す信号は、フリップフロップ回路FF3、FF4を介してそれぞれセグメントS4a、S4bに与えられる。
【0056】
ここで、光がアーム導波路を介してセグメントS4aの入力端からセグメントS4bの入力端まで伝搬する時間は、光がアーム導波路を介してセグメントS3の入力端からセグメントS4aの入力端まで伝搬する時間と同じである。すなわち、フリップフロップ回路FF3を介してセグメントS4aに与えられる信号b3のタイミングとフリップフロップ回路FF4を介してセグメントS4bに与えられる信号b3のタイミングとの差分は、フリップフロップ回路FF2を介してセグメントS3に与えられる信号b2のタイミングとフリップフロップ回路FF3を介してセグメントS4aに与えられる信号b3のタイミングとの差分と同じであることが要求される。したがって、フリップフロップ回路FF3に与えられるクロック信号のタイミングとフリップフロップ回路FF4に与えられるクロック信号のタイミングとの差分はτ0である。
【0057】
なお、上述の実施例では、光の伝搬方向において、LSBに対応するセグメントからMSBに対応するセグメントが順番に並べられるが、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。すなわち、各ビットに対応するセグメントは、任意の順番で並べることが可能である。例えば、光の伝搬方向において、MSBに対応するセグメントからLSBに対応するセグメントが順番に並べられるようにしてもよい。
【0058】
DSP10により生成される信号は、対応するセグメントに与えられる。ただし、集中定数型の光変調器においては、光信号の品質は、セグメント上で電気信号が与えられる位置に依存する場合がある。具体的には、セグメントの入力端に電気信号が与えられたときに、光信号の品質が高くなる。なお、「入力端」は、入力端の近傍を含むものとする。
【0059】
図10は、セグメント長と光応答の関係を表す。横軸は、セグメントに与えられる電気信号の周波数を表す。
図10(a)は、セグメントの入力端に電気信号が与えられたときの光応答を表し、
図10(b)は、セグメントの出力端に電気信号が与えられたときの光応答を表す。なお、セグメントの入力端に電気信号が与えられると、セグメント内で光および電気信号が同じ方向に伝搬する。一方、セグメントの出力端に電気信号が与えられると、セグメント内で光および電気信号が互いに逆方向に伝搬する。
【0060】
図10に示すように、セグメント長が短い場合は、光応答は電気信号が印加される位置にさほど依存しない。ところが、セグメント長が長くなると、光応答は、電気信号が印加される位置に依存する。具体的には、セグメント長が0.5~1mmである場合、電気信号が入力端に印加されるケースと比較し、電気信号が出力端に印加されるケースの方が、光応答が悪くなる。したがって、光変調器の駆動信号として使用される電気信号は、各セグメントの入力端に与えられることが好ましい。
【0061】
図11は、光変調器の導波路および電極の構成例を示す。「S」は信号パッドを表し、「G」はグランドパッドを表す。斜線領域は、電極(すなわち、セグメント)を表す。
【0062】
セグメントS2の電極の長さは、セグメントS1の電極の長さの2倍である。セグメントS3の電極の長さは、セグメントS2の電極の長さの2倍である。セグメントS3、S4a、S4bの電極の長さは、互いに同じである。電極間のギャップは、(1)式または(3)式を満足するように決定される。すなわち、各電極の入力端から次の電極の入力端までの光パス長が一定になるようにギャップが設定される。
【0063】
信号パッドSは、対応する電極の入力端の近傍に配置される。各セグメントS1~S4bの信号パッドSは、等間隔で配置されることが好ましい。そして、信号パッドSは、導電率の高い材料により対応する電極に電気的に接続される。グランドパッドGも、導電率の高い材料により対応する電極に電気的に接続される。各パッドは、たとえば、フリップチップボンディングにより信号配線パターンまたはグランドパターンに電気的に接続される。
【0064】
図12は、光変調器の遅延調整回路の構成例を示す。
図12に示す構成においては、光変調器の駆動信号として使用される電気信号は、フリップフロップ回路Fを介して対応するセグメントに与えられる。そして、各電気信号のタイミングは、対応するフリップフロップ回路Fに入力されるクロック信号CLKを遅延させることにより調整される。なお、
図12(a)に示す光変調器は、4ビットの送信データb0~b3を伝送する光信号を生成する。信号b1はセグメントS2に与えられ、信号b2はセグメントS3に与えられ、信号b3はセグメントS4a、S4bに与えられる。
図12(b)に示す光変調器は、5ビットの送信データb0~b4を伝送する光信号を生成する。信号b1はセグメントS2に与えられ、信号b2はセグメントS3に与えられ、信号b3はセグメントS4a、S4bに与えられ、信号b4はセグメントS5a~S5dに与えられる。
【0065】
図9または
図11に示すケースと同様に、セグメントS2の長さはセグメントS1の2倍であり、セグメントS3の長さはセグメントS2の2倍である。各セグメントS4a、S4bの長さは、セグメントS3と同じである。更に、
図12(b)に示すケースでは、各セグメントS5a~S5dの長さは、セグメントS3と同じである。
【0066】
セグメント間のギャップは、(1)式または(3)式を満足するように、各セグメントの入力端から次のセグメントの入力端までの光パス長が一定になるように設定される。よって、各セグメントに与えられる信号に対する遅延時間は、基準遅延τ0の整数倍で表される。すなわち、各セグメントに与えられる信号に対する遅延時間は、それぞれ、1または複数の遅延素子τにより実現される。遅延素子τの遅延時間は、基準遅延τ0である。具体的には、セグメントS1に対応するフリップフロップ回路Fにクロック信号CLKが入力されるとき、セグメントS2に対応するフリップフロップ回路Fには1個の遅延素子τを介してクロック信号CLKが入力され、セグメントS3に対応するフリップフロップ回路Fには3個の遅延素子τを介してクロック信号CLKが入力され、セグメントS4aに対応するフリップフロップ回路Fには3個の遅延素子τを介してクロック信号CLKが入力され、セグメントS4bに対応するフリップフロップ回路Fには4個の遅延素子τを介してクロック信号CLKが入力される。さらに、
図12(b)に示すケースでは、セグメントS5aに対応するフリップフロップ回路Fには5個の遅延素子τを介してクロック信号CLKが入力され、セグメントS5bに対応するフリップフロップ回路Fには6個の遅延素子τを介してクロック信号CLKが入力され、セグメントS5cに対応するフリップフロップ回路Fには7個の遅延素子τを介してクロック信号CLKが入力され、セグメントS5dに対応するフリップフロップ回路Fには8個の遅延素子τを介してクロック信号CLKが入力される。
【0067】
図13は、光変調器の遅延調整回路の他の構成例を示す。なお、セグメントの構成は、
図12および
図13において同じである。
【0068】
図13に示すケースでは、クロック信号CLKは、直列に接続された複数の遅延素子τを通過する。そして、セグメントS1に対応するフリップフロップ回路Fにクロック信号CLKが遅延素子を通過することなく入力されるとき、1番目の遅延素子τの出力信号がセグメントS2に対応するフリップフロップ回路Fに入力され、2番目の遅延素子τの出力信号がセグメントS3に対応するフリップフロップ回路Fに入力される。同様に、i番目の遅延素子τの出力信号が、i+1番目のセグメントに対応するフリップフロップ回路に入力される。この構成によれば、
図12に示す構成と比較して、遅延素子τの数が少なくなる。
【0069】
なお、
図13に示すように、送信データを表す電気信号がデジタルドライバDRにより分岐されるときは、デジタルドライバDRにおいて発生する遅延時間を補償するためのバッファアンプBAが設けられる。この構成により、各電気信号のパス長が互いに等しくなる。また、デジタルドライバDRおよびバッファアンプBAは、セグメントに印加される各ビットの電圧が互いに等しくなるように設計されることが好ましい。
【0070】
図14は、光変調器の遅延調整回路のさらに他の構成例を示す。なお、セグメントの構成は、
図12(a)または
図13(a)と同じである。
【0071】
図14に示す光変調器においては、光変調器の駆動信号として使用される電気信号b0~b3は、遅延素子により直接遅延される。即ち、
図14(a)に示すように、信号b1は1個の遅延素子τにより遅延され、信号b2は2個の遅延素子τにより遅延される。また、セグメントS4aに印加される信号b3は3個の遅延素子τにより遅延され、セグメントS4bに印加される信号b3は4個の遅延素子τにより遅延される。
【0072】
信号b3は、
図14(b)に示すように、3個の遅延素子τにより遅延された後に、デジタルドライバDRにより分岐されてもよい。この場合、デジタルドライバDRの出力信号の一方は、遅延素子を介することなくセグメントS4aに導かれ、デジタルドライバDRの出力信号の他方は、1個の遅延素子τを介してセグメントS4bに導かれる。この構成によれば、遅延素子の個数が削減される。なお、
図14(b)に示すように、デジタルドライバDRを使用して信号が分岐されるときは、デジタルドライバDRにおいて発生する遅延時間を補償するためのバッファアンプBAが設けられる。
【0073】
図15は、QAM変調器の一例を示す。この例では、光変調器2は、偏波多重光信号を生成する。すなわち、光変調器2は、X偏波変調器およびY偏変調器を備える。X偏波変調器およびY偏変調器は、それぞれ、IQ変調器である。すなわち、X偏波変調器は、XI変調器およびXQ変調器を備え、Y偏波変調器は、YI変調器およびYQ変調器を備える。そして、XI変調器、XQ変調器、YI変調器、YQ変調器は、それぞれ、
図9に示す構成により実現される。この実施例では、XI変調器、XQ変調器、YI変調器、YQ変調器は、それぞれ、シンボル毎に4ビットのデータを送信する。
【0074】
DSP10は、各XI変調器、XQ変調器、YI変調器、YQ変調器に対して送信データb0~b3を生成する。すなわち、XI変調器に対してデータXI_b0~XI_b3が生成され、XQ変調器に対してデータXQ_b0~XQ_b3が生成され、YI変調器に対してデータYI_b0~YI_b3が生成され、YQ変調器に対してデータYQ_b0~YQ_b3が生成される。DSP10により生成される送信データb0~b3は、遅延調整回路20を介して対応する変調器に与えられる。なお、
図15においては、XI変調器に与える信号を遅延させる遅延調整回路20(20XI)のみが描かれているが、実際には、XI変調器、XQ変調器、YI変調器、YQ変調器に対してそれぞれ遅延調整回路20が設けられる。
【0075】
XI変調器、XQ変調器、YI変調器、YQ変調器は、それぞれ、4ビットのデータを表す振幅変調光信号を生成する。例えば、16PAM光信号が生成される。そして、各偏波において、I成分およびQ成分は、例えば、π/2の位相差で合波される。この結果、各偏波において256QAM(Quadrature Amplitude Modulated)光信号が生成される。さらに、X偏波変調器の出力光信号およびY偏変調器の出力光信号が偏波ビームコンバイナPBCにより合波され、偏波多重光信号が生成される。
【0076】
なお、
図15に示す実施例では、フリップフロップ回路Fに入力されるクロック信号のタイミングが調整されるが、遅延調整回路20の構成はこれに限定されるものではない。例えば、遅延調整回路20において、駆動信号として使用されるデータ信号のタイミングが調整されてもよい。
【0077】
クロック信号を遅延させる構成(以下、クロック遅延方式)は、データ信号を遅延させる構成(以下、データ遅延方式)と比べると、精度の高いタイミング調整が容易である。ただし、クロック遅延方式においては、フリップフロップ回路のサンプリング間隔(例えば、クロック周期)よりも大きな遅延を生成できないことがある。よって、例えば、シンボル毎に伝送されるビット数が多く、セグメント数が多い場合には、データ遅延方式の方が有利なことがある。
【0078】
図16は、本発明の実施形態に係わる光変調器が使用される光通信システムの一例を示す。この実施例では、送信装置30は、
図15に示す光変調器2を備える。そして、送信装置30は、送信データを伝送する偏波多重光信号を生成する。偏波多重光信号は、光伝送路を介して受信装置40に伝送される。
【0079】
受信装置40は、受信光信号からデータを再生する。偏波ビームスプリッタPBSは、受信光信号を互いに直交する成分に分離する。90度ハイブリッド回路は、コヒーレント受信器であり、局発光源LDにより生成される局発光を利用して、I成分およびQ成分を互いに分離する。受光器PDは、受信光信号を電気信号に変換する。アナログデジタル変換器ADCは、受信光信号を表す電気信号をデジタル信号に変換する。DSP50は、受信光信号を表すデジタル信号に基づいて、各シンボルが配置された信号点を検出し、検出した信号点の位相および振幅からデータを再生する。
【0080】
DSP50は、受信光信号の品質を表すQ値を検出する。Q値は、特に限定されるものではないが、受信光信号の波形の歪であってもよいし、光S/N比であってもよいし、誤り率であってもよい。そして、DSP50は、検出したQ値を送信装置30に通知する。すなわち、受信光信号の品質を表すQ値が、受信装置40から送信装置30にフィードバックされる。なお、Q値は、定期的に送信装置30に通知される。
【0081】
送信装置30において、DSP10は、受信装置40から通知されるQ値に基づいて遅延調整回路20を制御する。具体的には、DSP10は、Q値が改善されるように遅延調整回路20を制御する。例えば、遅延調整回路20が
図7(a)に示す遅延素子回路を備えるときは、DSP10は、Q値に基づいて直流電源の電圧を調整してもよい。また、遅延調整回路20が
図7(b)に示す遅延素子回路を備えるときは、DSP10は、Q値に基づいて可変コンデンサの容量を調整してもよい。
【0082】
このフィードバック制御により、光変調器に与えられる複数の電気信号のタイミングが最適化され、光信号の品質が改善する。ここで、本発明の実施形態においては、遅延調整回路20に実装される複数の遅延素子が同じ回路構成である。したがって、光変調器を駆動する複数の電気信号のタイミングを調整する回路の制御の複雑さが緩和される。
【符号の説明】
【0083】
1 光変調器
10、50 デジタル信号処理器(DSP)
20 遅延調整回路
30 送信装置
40 受信装置