(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】弁装置
(51)【国際特許分類】
F16K 11/076 20060101AFI20240312BHJP
F02M 26/70 20160101ALI20240312BHJP
F16K 3/22 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
F16K11/076 Z
F02M26/70 311
F16K3/22 A
(21)【出願番号】P 2020123022
(22)【出願日】2020-07-17
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立石 将吾
(72)【発明者】
【氏名】守谷 勇一朗
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-091321(JP,A)
【文献】実開昭60-012765(JP,U)
【文献】特開2002-257245(JP,A)
【文献】特開2020-115033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 47/08 - 47/10
F02M 26/00 - 26/74
F16K 3/22
F16K 5/04
F16K 11/072- 11/076
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁装置であって、
弁体(200)と、
流体を受け入れる開口(110)を有し前記弁体を収容するハウジング(100)と、
前記弁体と一体に回転可能に支持されるシャフト(300)と、
前記開口に配置されたシール部材(400)と、を備え、
前記弁体は、前記シャフトが回転されることにより、前記開口を開ける開方向(OD)および前記シール部材に押圧されて前記開口を閉じる閉方向(CD)に変位可能に構成され、
前記シール部材は、
中心軸(CA)が前記開口の中心を通る筒状の胴部(405)と、
前記胴部のうち前記中心軸の軸方向の一端側に位置する一端側胴部(405a)に接続され、前記中心軸から離れる方向に突き出る環状のフランジ部(401)と、を有し、
前記胴部は、樹脂材料を含み前記フランジ部に接続された躯体部(402)と、前記躯体部よりも弾性係数の低い材料を含むとともに前記躯体部を覆う表層部(403)と、を有し、
前記躯体部には、前記躯体部を前記躯体部の内周面から外周面に貫通する貫通孔(404)が設けられており、
前記貫通孔には、前記表層部の材料と同じ材料が充填され、前記躯体部の内周面を覆う前記表層部と前記躯体部の外周面を覆う前記表層部とは前記貫通孔において繋がっており、
前記貫通孔は、前記一端側胴部から前記フランジ部の底面(401a)まで及んで設けられ、前記軸方向における前記底面から前記貫通孔の孔底面までの孔高さは、前記躯体部の外周面側よりも前記躯体部の内周面側の方が小さくなっている弁装置。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記孔底面のうち前記内周面側に位置する端部が前記軸方向に直交する方向において前記フランジ部と重なり合い、前記孔底面のうち前記外周面側に位置する端部が前記軸方向に直交する方向において前記フランジ部と重なり合わない、請求項1に記載の弁装置。
【請求項3】
前記孔底面には、前記孔底面の位置を段階的に変化させるための少なくとも1つの段差面(404a)が含まれている、請求項1または2に記載の弁装置。
【請求項4】
前記孔底面には、前記段差面よりも前記内周面側に位置する内側底面(404b)、前記段差面よりも前記外周面側に位置する外側底面(404c)が含まれており、
前記内側底面は、前記外側底面よりも前記中心軸の径方向の長さが大きくなっている、請求項3に記載の弁装置。
【請求項5】
前記躯体部には、前記貫通孔が複数形成されており、
複数の前記貫通孔の少なくとも1つは、前記軸方向における前記段差面の長さが前記内側底面における前記径方向の長さよりも大きくなっている、請求項4に記載の弁装置。
【請求項6】
前記孔底面には、前記孔底面の位置を連続的に変化させる傾斜面(404d)が含まれている、請求項1または2に記載の弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転軸に支持された弁体と、弁体を収容し開口を有するハウジングと、開口に設けられたシール部材と、を有する弁装置が開示されている。この弁装置のシール部材は、環状のフランジ部、筒状の胴部、ゴム製のリップを備えている。弁体は、回転してシール部材を押圧することでハウジングの開口を密封する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のシール部材は、リップが胴部の先端に溶着する等して形成されており、シール部材の強度を確保することが困難である。
【0005】
これに対し、本発明者らは、胴部を構成する樹脂製の躯体部に表裏を貫通する貫通孔を形成し、躯体部よりも弾性係数の低い材料を含む表層部を貫通孔および躯体部の外側を覆うように躯体部に一体成形することで、シール部材の強度の向上を検討している。
【0006】
しかし、本発明者らが鋭意検討したところ、表層部および躯体部を一体成形する際に、表層部の構成材料が、躯体部の内周面側に比べて躯体部の外周面側で不足し易いことが判った。このような表層部の構成材料の偏りは、シール部材の強度の低下を招く要因となってしまう。
【0007】
本開示は、シール部材の強度を確保可能な弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
弁装置であって、
弁体(200)と、
流体を受け入れる開口(110)を有し弁体を収容するハウジング(100)と、
弁体と一体に回転可能に支持されるシャフト(300)と、
開口に配置されたシール部材(400)と、を備え、
弁体は、シャフトが回転されることにより、開口を開ける開方向(OD)およびシール部材に押圧されて開口を閉じる閉方向(CD)に変位可能に構成され、
シール部材は、
中心軸(CA)が開口の中心を通る筒状の胴部(405)と、
胴部のうち中心軸の軸方向の一端側に位置する一端側胴部(405a)に接続され、中心軸から離れる方向に突き出る環状のフランジ部(401)と、を有し、
胴部は、樹脂材料を含みフランジ部に接続された躯体部(402)と、躯体部よりも弾性係数の低い材料を含むとともに躯体部を覆う表層部(403)と、を有し、
躯体部には、躯体部を躯体部の内周面から外周面に貫通する貫通孔(404)が設けられており、
貫通孔には、表層部の材料と同じ材料が充填され、躯体部の内周面を覆う表層部と躯体部の外周面を覆う表層部とは貫通孔において繋がっており、
貫通孔は、一端側胴部からフランジ部の底面(401a)まで及んで設けられ、軸方向における底面から貫通孔の孔底面までの孔高さは、躯体部の外周面側よりも躯体部の内周面側の方が小さくなっている。
【0009】
このように、表層部の内周面側と外周面側とが貫通孔において繋がっていれば、表層部と躯体部との接続強度が高まるので、シール部材の強度を高めることができる。
【0010】
また、貫通孔は、躯体部からフランジ部の底面にまで及ぶので、躯体部と表層部とをフランジ部の底面において密着させることができる。これによると、表層部と躯体部との接続強度が一層高まるので、シール部材の強度を高めることができる。
【0011】
加えて、貫通孔の孔高さが、躯体部の外周面側に比べて躯体部の内周面側の方が小さくなっている。これによると、貫通孔の孔高さが躯体部の両面で同等になっているものに比べて、表層部を構成する材料の躯体部の内周面側への充填が制限され、躯体部の外周面側への充填が促進される。つまり、表層部の構成材料の躯体部の内周面側への偏りが抑制されるので、シール部材の強度を確保することができる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る弁装置の概略構成図である。
【
図2】弁装置の開弁状態における
図1のII-II断面図である。
【
図3】弁装置の閉弁状態における
図1のII-II断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る弁装置の弁体およびシール部材を示す模式的な斜視図である。
【
図5】第1実施形態に係る弁装置におけるフランジ部が接続された躯体部の模式的な斜視図である。
【
図7】第1実施形態に係る弁装置におけるフランジ部の模式的な底面図である。
【
図9】第1実施形態に係る弁装置のシール部材の貫通孔付近を示す模式的な斜視図である。
【
図10】第1実施形態に係る弁装置のシール部材の貫通孔付近を示す模式的な断面図である。
【
図11】弁装置におけるシール部材の製造方法を説明するための説明図である。
【
図15】成形工程における表層部の構成材料の流動状態を説明するための説明図である。
【
図16】第2実施形態に係る弁装置のシール部材の模式的な断面図である。
【
図17】第2実施形態に係る弁装置のシール部材の貫通孔付近を示す模式的な斜視図である。
【
図18】第2実施形態に係る弁装置のシール部材の貫通孔付近を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0015】
(第1実施形態)
本実施形態について、
図1~
図15を参照して説明する。本実施形態では、本開示の弁装置10を、燃料の燃焼によって駆動力を発生するエンジンシステムに適用した例について説明する。なお、各図面に示すX軸、Y軸、Z軸は、互いに直交する空間軸である。
【0016】
図2、
図3に示すように、弁装置10は、大気から空気を吸入する上流側吸気管20と、燃焼室に吸入空気を導くための下流側吸気管30と、燃焼室から廃棄された排気を下流側吸気管30に戻すためのEGR管40と、が接続されている箇所に設けられている。
【0017】
弁装置10は、いわゆるロータリバルブである。弁装置10は、ハウジング100と、弁体200、シャフト300、およびシール部材400を備える。
【0018】
ハウジング100は、流体を受け入れる開口110を有し、弁体200を収容する。開口110は、EGR管40から流される排気をハウジング100の内側に取り込むための開口である。
【0019】
弁体200は、ハウジング100の内側に回転可能に収容される。弁体200は、シャフト300の中心軸の方向(本例ではY方向)に直交するXZ平面に沿った断面が扇形状となる弁体である。弁体200には、扇形状の要となる位置にシャフト300が接続されている。
【0020】
図4に示すように、弁体200は、閉弁状態において開口110を覆う楕円形状の楕円周面202を有する。弁体200は、第1押圧曲面210、第2押圧曲面220、第1押圧面230、第2押圧面240を有する。第1押圧曲面210は、後述の外向きリップ部415と対応する略円弧形状を有し、閉弁状態において外向きリップ部415に押圧される。第2押圧曲面220は、後述の内向きリップ部425と対応する略円弧形状を有し、閉弁状態において内向きリップ部425に押圧される。第1押圧面230は、後述の第1受圧面430と対応する形状を有し、閉弁状態において第1受圧面430と対向する。第2押圧面240は、後述の第2受圧面440と対応する形状を有し、閉弁状態において第2受圧面440と対向する。
【0021】
シャフト300は、弁体200と一体化された回転軸である。シャフト300の中心軸は、Y軸に平行となる姿勢で配置されている。シャフト300は、弁体200と一体に構成されるとともに、ハウジング100に対して回転可能に支持されている。シャフト300は、図示しないアクチュエータに接続され、アクチュエータからの出力によって回転される。
【0022】
弁体200は、シャフト300が回転されると、開口110を開ける開方向ODおよびシール部材400に押圧されて開口110を閉じる閉方向CDに変位可能に構成されている。
図2および
図3における時計回りの方向が開方向ODであり、反時計回りの方向が閉方向CDである。
【0023】
シール部材400は、開口110に配置される部材である。
図5に示すように、シール部材400は、環状のフランジ部401と、筒状の胴部405と、外向きリップ部415と、内向きリップ部425とを有する。
【0024】
フランジ部401は、シール部材400のうちハウジング100の開口110に固定される部位である。シール部材400は、フランジ部401が開口110に圧入されることでハウジング100に対して固定される。フランジ部401は、胴部405のうち中心軸CAの軸方向の一端側に位置する一端側胴部405aに接続されている。フランジ部401は、胴部405の中心軸CAから離れる方向に突き出ている。フランジ部401は、開口110の開口方向であるZ方向に直交する底面401aを有する。フランジ部401の底面401aは、Z方向に直交するXY平面と平行な面である。この底面401aは、フランジ部401において胴部405の中心軸CAの軸方向の一端面である。フランジ部401は、樹脂材料を含んで構成されている。なお、フランジ部401は、金属材料により構成されていてもよい。
【0025】
シール部材400の胴部405は、開口110の内側において、開口110と所定の間隙をあけて配置されている。胴部405の中心軸CAは、開口110の中心を通る。本実施形態の胴部405は、中心軸CAが開口110の開口方向であるZ方向に平行に延びている。
【0026】
図6に示すように、胴部405は、樹脂材料を含みフランジ部401に接続された筒状の躯体部402、および躯体部402よりも弾性係数の低い材料を含むとともに躯体部402を覆う表層部403を有する。
【0027】
躯体部402およびフランジ部401は、成形型の内側に樹脂材料を射出する射出成形によって一体に成形されている。すなわち、躯体部402およびフランジ部401は、同じ材料によって一体に成形された一体成形物として構成されている。躯体部402およびフランジ部401は、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスチレン樹脂、ピーク樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂のうち、少なくとも一つの樹脂材料を含んでいる。なお、躯体部402およびフランジ部401は、別材料で構成されていたり、別体で構成されていたりしてもよい。
【0028】
表層部403は、樹脂材料よりも弾性係数の低い材料を含んでいる。表層部403は、ゴム材料が含まれている。表層部403は、例えば、フッ素ゴム、三元系フッ素ゴム、パーフロロポリエーテルゴム、エチレンフロピレンゴム、水素添加ニトリルゴム、ニトリルゴムのうち少なくとも1つのゴム材料を含んでいる。以下では、表層部403を構成する材料を「表層部材料」とも呼ぶ。
【0029】
本実施形態の胴部405は、第1部分410と第2部分420とを備える。第1部分410は、胴部405のうち、中心軸CAに対して開方向OD側に位置する部分である。第2部分420は、胴部405のうち、第1部分410よりも閉方向CD側に位置する部分である。
【0030】
第1部分410および第2部分420は、胴部405の中心軸CAの軸方向から見て、それぞれ略円弧形状になっている。第1部分410および第2部分420は、中心軸CAを含むYZ平面からX方向に離れるほど、中心軸CAの軸方向に突き出ている。
【0031】
第1部分410と第2部分420との間には、第1受圧面430と、第2受圧面440とが設けられている。第1受圧面430は、第1部分410の周方向の一端と第2部分420の周方向の一端との間に位置する。第2受圧面440は、第1部分410の周方向の他端と第2部分420の周方向の他端との間に位置する。第1受圧面430および第2受圧面440は、中心軸CAを含むYZ平面に平行な面である。第1受圧面430および第2受圧面440は、胴部405において第1部分410と第2部分420とが切り替わる面でもある。
【0032】
第1部分410は、第1基部411と、第1リップ支持部412とを有する。第1基部411は、第1部分410のうちフランジ部401に接続された部位である。第1リップ支持部412は、第1基部411に対してフランジ部401から離れた部位である。
図6に示すように、第1リップ支持部412の厚みは、第1基部411の厚みよりも小さい。第1リップ支持部412には、外向きリップ部415が接続されている。
【0033】
外向きリップ部415は、第1部分410に接続されている。外向きリップ部415は、中心軸CAから離れる方向に突出する。また、内向きリップ部425は、第2部分420に接続されている。内向きリップ部425は、中心軸CAに向けて突出し、外向きリップ部415よりもシャフト300に近い位置に配置される。
【0034】
外向きリップ部415および内向きリップ部425は、表層部403と同じ材料により構成されている。外向きリップ部415および内向きリップ部425は、表層部403と同じ材料によって一体に成形された一体成形物として構成されている。
【0035】
ここで、
図6に示すように、胴部405の躯体部402には、躯体部402の内周面から外周面に貫通する貫通孔404が設けられている。本実施形態の躯体部402には、貫通孔404が複数形成されている。
【0036】
貫通孔404には、表層部材料が充填されている。躯体部402の内周面を覆う表層部403と躯体部402の外周面を覆う表層部403とは、貫通孔404において繋がっている。
【0037】
貫通孔404は、躯体部402からフランジ部401の底面401aに及んでいる。すなわち、貫通孔404は、
図7に示すように、躯体部402の内周面からフランジ部401の底面401aまでの範囲に開口している。
【0038】
貫通孔404の孔幅Wは、躯体部402の内周面側と外周面側とで異なっている。すなわち、貫通孔404は、
図8に示すように、躯体部402の外周面における孔幅W1は、躯体部402の内周面における孔幅W2よりも大きい。
【0039】
貫通孔404は、胴部405の中心軸CAの軸方向におけるフランジ部401の底面401aから貫通孔404の孔底面までの孔高さHが、躯体部402の外周面側よりも躯体部402の内周面側の方が小さくなっている。すなわち、貫通孔404は、
図9および
図10に示すように、躯体部402の外周面における孔高さH1が、躯体部402の内周面における孔高さH2よりも大きい(H1>H2)。これらにより、貫通孔404は、躯体部402の外周面側の開口面積が充分に確保されるとともに、躯体部402の内周面側の開口面積が充分に小さくなっている。なお、躯体部402の外周面における孔高さH1は、躯体部402の貫通孔404が設けられている箇所における、フランジ部401の底面401aが位置するXY平面から、躯体部402の外周面までの距離でもある。また、躯体部402の内周面における孔高さH2は、躯体部402の貫通孔404が設けられている箇所における、フランジ部401の底面401aが位置するXY平面から、躯体部402の内周面までの距離でもある。
【0040】
貫通孔404は、
図9に示すように、孔底面の位置を段階的に変化させるための段差面404aを有する。また、貫通孔404は、段差面404aよりも躯体部402の内周面側に位置する内側底面404bおよび段差面404aよりも躯体部402の外周面側に位置する外側底面404cを有する。段差面404aは、胴部405の中心軸CAの軸方向に略平行となるように延びている。内側底面404bおよび外側底面404cは、XY平面に略平行となるように延びている。
【0041】
図10に示すように、貫通孔404は、内側底面404bのうち内周面側に位置する端部が胴部405の中心軸CAの軸方向に直交する方向においてフランジ部401と重なり合っている。貫通孔404は、外側底面404cのうち外周面側に位置する端部が胴部405の中心軸CAの軸方向に直交する方向においてフランジ部401と重なり合わない。貫通孔404は、躯体部402の外周面側における孔高さH1がフランジ部401のZ方向の厚みTよりも大きく(H1>T)、且つ、躯体部402の内周面側における孔高さH2がフランジ部401のZ方向の厚みTよりも小さくなっている(H2<T)。
【0042】
内側底面404bは、外側底面404cよりも胴部405の中心軸CAの径方向の長さが大きくなっている。すなわち、内側底面404bの径方向の長さL2は、外側底面404cの径方向の長さL1よりも大きくなっている(L2>L1)。内側底面404bは、径方向の長さL2が、胴部405の径方向の厚みの半分よりも大きくなっている。
【0043】
また、複数の貫通孔404の一部は、胴部405の中心軸CAの軸方向における段差面404aの長さL3が内側底面404bの径方向の長さL2よりも大きくなっている(L3>L2)。なお、複数の貫通孔404それぞれのZ方向における段差面404aの長さL3が内側底面404bの径方向の長さL2よりも大きくなっていてもよい。
【0044】
次に、
図11~
図15を参照して、弁装置10のシール部材400の製造方法について説明する。
図11に示すように、シール部材400の製造方法は、ステップS10の用意工程、ステップS20の配置工程、ステップS30の成形工程、ステップS40の取出工程を含んでいる。
【0045】
ステップS10の用意工程では、フランジ部401が接続された躯体部402と、シール部材400の成形型と、を用意する。フランジ部401および躯体部402は、
図12に示す2つの上下の成形型710、711を用いて一体成形する。本実施形態の躯体部402は、貫通孔404がフランジ部401の底面401aに及ぶため、貫通孔404を形成するためのスライド型が不要である。すなわち、複雑な成形型を用いることなく、フランジ部401と躯体部402とを一体成形することができる。
【0046】
ステップS20の配置工程では、成形型601、602、603、604を組み合わせて、躯体部402の周囲にシール部材400の外形状に沿った空間を構成し、その内部にフランジ部401が接続された躯体部402を配置する。
【0047】
図13に示すように、ステップS20の配置工程では、フランジ部401の底面401aのうち、貫通孔404よりも外側部分を成形型604に接触させ、フランジ部401のうち底面401aの反対面を成形型601、602に接触させる。
【0048】
続く、ステップS30の成形工程では、
図14、
図15に示すように、成形型601、602、603、604の内側と、フランジ部401に接続された躯体部402との間隙に表層部材料を注入する。この成形工程では、フランジ部401が躯体部402よりも上方に位置するようにフランジ部401が接続された躯体部402を成形型601、602、603、604の内側に配置した状態で、表層部材料をフランジ部401の上方から注入する。
【0049】
図13、
図14、
図15には、ランナー701とゲート702とが示されている。ランナー701は、表層部材料の流路である。ゲート702は、ランナー701から表層部材料を射出させる射出口である。ゲート702から射出された表層部材料が、躯体部402と成形型601、602、603、604との間隙に注入されることにより、表層部403と外向きリップ部415と内向きリップ部425とが一体成形される。また、躯体部402の内周面を覆う表層部403と躯体部402の外周面を覆う表層部403とが、貫通孔404を介して繋がる。
【0050】
図15に示すように、本実施形態では、ゲート702は、フランジ部401の底面401aのうち貫通孔404が開口する位置に配置される。具体的には、ランナー701およびゲート702は、フランジ部401の貫通孔404が開口する位置に、所定の間隔で複数配置される。これにより、表層部材料は、フランジ部401の上方から注入されると、
図15に矢印で示すように、貫通孔404において躯体部402の内周面側と外周面側とに分流する。そして、表層部材料は、躯体部402の内周面側および外周面側の双方から外向きリップ部415が形成される間隙と内向きリップ部425が形成される間隙に流れ込む。この形態によれば、表層部材料が貫通孔404の上から射出されるので、表層部材料を、躯体部402の内周面と成形型の間隙と、躯体部402の外周面と成形型の間隙と、により早期に分流させることができる。これにより、表層部材料の注入時に、躯体部402の内周面にかかる圧力と外周面にかかる圧力との差が小さくなるので、躯体部402に過度な圧力が作用し難くなる。
【0051】
続く、ステップS40の取出工程では、成形型601、602、603、604からシール部材400を取り出す。本実施形態では、ステップS30において、
図13および
図14に示す成形型603、604を互いに離れるように上下に移動させる。そうすると、シール部材400は、フランジ部401の底面401aの反対面が、成形型601、602により支持された状態になる。その後、成形型601、602を中心軸CAから離れる方向にそれぞれ移動させることで、成形型601、602、603、604からシール部材400を自動で取り出すことが可能となる。
【0052】
このように、弁装置10の製造方法は、シール部材400の外形状に沿った空間を構成する成形型の内側に、フランジ部401に接続された躯体部402を配置する配置工程を備える。また、弁装置10の製造方法は、配置工程で成形型の内側に配置された躯体部402と成形型との間隙に躯体部402よりも弾性係数の低い材料を含む材料を注入して表層部403を成形する成形工程を備える。この成形工程では、貫通孔404の上から表層部403の構成材料を射出して、成形型と躯体部402との間隙に表層部403の構成材料を充填する。これら工程を経て製造されたシール部材400は、ハウジング100の内部に弁体200を収容した後、ハウジング100の開口110に配置される。これにより、弁装置10が製造される。
【0053】
以上説明した弁装置10は、シール部材400の胴部405が、フランジ部401に接続された躯体部402と、躯体部402よりも弾性係数の低い材料を含むとともに躯体部402を覆う表層部403と、を有する。躯体部402には、表層部403の材料と同じ材料が充填された貫通孔404が設けられている。この貫通孔404は、胴部405の一端側胴部405aからフランジ部401の底面401aまで及んで設けられ、フランジ部401の底面401aから貫通孔404の孔底面までの孔高さが躯体部402の外周面側よりも内周面側の方が小さくなっている。
【0054】
このように、表層部403の内周面側と外周面側とが貫通孔404において繋がっていれば、表層部403と躯体部402との接続強度が高まるので、シール部材400の強度を高めることができる。
【0055】
また、貫通孔404は、躯体部402からフランジ部401の底面401aにまで及ぶので、躯体部402と表層部403とをフランジ部401の底面401aにおいて密着させることができる。これによると、表層部403と躯体部402との接続強度が一層高まるので、シール部材400の強度を高めることができる。
【0056】
ここで、本発明者らの検討によると、表層部403および躯体部402を一体成形する際に、表層部403の構成材料が、躯体部402の内周面側に比べて躯体部402の外周面側で不足し易いことが判った。原因としては、躯体部402の内周面側よりも外周面側の方が表層部403の構成材料を充填する空間が大きいことや、表層部403の構成材料を充填する際、フランジ部401が表層部403の構成材料の流動を阻害する抵抗となってしまうこと等が考えられる。
【0057】
このことを加味して、本実施形態のシール部材400は、貫通孔404の孔高さが、躯体部402の外周面側に比べて躯体部402の内周面側の方が小さくなっている。これによると、貫通孔404の孔高さが躯体部402の両面で同等になっているものに比べて、表層部403を構成する材料の躯体部402の内周面側への充填が制限され、躯体部402の外周面側への充填が促進される。つまり、表層部403の構成材料の躯体部402の内周面側への偏りが抑制されるので、シール部材400の強度を確保することができる。また、表層部403の構成材料の偏りが抑制されることで、表層部403の構成材料の充填時に躯体部402に過度な圧力が作用することを緩和することができる。
【0058】
貫通孔404は、孔底面のうち躯体部402の内周面側に位置する端部がZ方向に直交する方向においてフランジ部401と重なり合い、孔底面のうち躯体部402の外周面側に位置する端部がZ方向に直交する方向においてフランジ部401と重なり合わない。これによれば、表層部403を構成する材料の躯体部402の内周面側への充填を制限することができる。また、貫通孔404の孔底面のうち外周面側の端部がフランジ部401と重なり合っていないので、表層部403を構成する材料の躯体部402の外周面側への充填を促進させることができる。
【0059】
具体的には、貫通孔404の孔底面には、孔底面の位置を段階的に変化させるための段差面404aが含まれている。これによると、例えば、表層部403の構成材料を孔底面に向けて充填する際、孔底面の段差面404aが表層部403の構成材料を内周面側から外周面側に向けて案内するガイド面として機能する。このため、表層部403の構成材料の躯体部402の内周面側への偏りを抑制することができる。
【0060】
加えて、貫通孔404の孔底面には、段差面404aよりも躯体部402の内周面側に位置する内側底面404b、段差面404aよりも躯体部402の外周面側に位置する外側底面404cが含まれている。そして、内側底面404bは、外側底面404cよりも胴部405の中心軸CAの径方向の長さが大きくなっている。これによれば、貫通孔404における表層部403の構成材料を充填する空間が躯体部402の内周面側で小さくなる。このため、表層部403の構成材料の躯体部402の内周面側への充填を充分に制限することができる。
【0061】
さらに、躯体部402には、貫通孔404が複数形成されている。そして、複数の貫通孔404の少なくとも1つは、胴部405の中心軸CAの軸方向における段差面404aの長さが内側底面404bにおける中心軸CAの径方向の長さよりも大きくなっている。
【0062】
これによれば、貫通孔404における表層部403の構成材料を充填する空間が躯体部402の外周面側で大きくなる。このため、表層部403の構成材料の躯体部402の外周面側への充填を充分に促進させることができる。
【0063】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、
図16~
図18を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0064】
図16および
図17に示すように、貫通孔404の孔底面には、段差面404aの代わりに、孔底面の位置を連続的に変化させる傾斜面404dが形成されている。貫通孔404は、傾斜面404dが形成されていることで、胴部405の中心軸CAの軸方向におけるフランジ部401の底面401aから貫通孔404の孔底面までの孔高さHが、躯体部402の外周面側よりも躯体部402の内周面側の方が小さくなっている。すなわち、貫通孔404は、
図18に示すように、躯体部402の外周面における孔高さH1が、躯体部402の内周面における孔高さH2よりも大きい(H1>H2)。
【0065】
その他の構成は、第1実施形態と同様に構成されている。本実施形態の弁装置10は、第1実施形態と共通の構成および均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0066】
本実施形態では、貫通孔404の孔底面には、段差面404aの代わりに傾斜面404dが形成されている。これによると、例えば、表層部403の構成材料を孔底面に向けて充填する際、孔底面の傾斜面404dが表層部403の構成材料を内周面側から外周面側に向けて案内するガイド面として機能する。このため、表層部403の構成材料の躯体部402の内周面側への偏りを抑制することができる。
【0067】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0068】
上述の実施形態では、シール部材400として具体的なものを例示したが、シール部材400は、上述のものに限定されず、上述のものと異なっていてもよい。このことは、ハウジング100、弁体200、シャフト300においても同様である。
【0069】
上述の実施形態では、貫通孔404の孔底面のうち躯体部402の内周面側の端部がZ方向に直交する方向においてフランジ部401と重なり合っているものを例示したが、貫通孔404は、これに限定されない。貫通孔404は、例えば、孔底面のうち躯体部402の内周面側および外周面側の双方の端部がZ方向に直交する方向においてフランジ部401と重なり合わないようになっていてもよい。
【0070】
上述の実施形態では、貫通孔404の孔底面に段差面404aおよび傾斜面404dの一方が設けられているものを例示したが、貫通孔404は、これに限らず、孔底面に複数の段差面404aおよび傾斜面404dの双方が設けられていてもよい。
【0071】
上述の第1実施形態では、貫通孔404の孔底面に1つの段差面404aが設けられているものを例示したが、貫通孔404は、これに限らず、孔底面に複数の段差面404aが設けられていてもよい。
【0072】
上述の第1実施形態では、貫通孔404の内側底面404bが外側底面404cよりも胴部405の中心軸CAの径方向の長さが大きくなっているものを例示したが、貫通孔404は、これに限定されない。貫通孔404は、内側底面404bの径方向の長さが外側底面404cの径方向の長さ以下になっていてもよい。
【0073】
上述の第1実施形態では、躯体部402に形成された貫通孔404の少なくとも1つは、段差面404aの長さが内側底面404bの径方向の長さよりも大きくなっているものを例示したが、貫通孔404は、これに限定されない。貫通孔404は、段差面404aの長さが内側底面404bの径方向の長さ以下になっていてもよい。なお、貫通孔404は、躯体部402に対して複数形成されていなくてもよい。
【0074】
上述の実施形態では、本開示の弁装置10を燃料の燃焼によって駆動力を発生するエンジンシステムに適用した例について説明したが、弁装置10は、エンジンシステム以外の様々なシステムに適用することができる。
【0075】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0076】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0077】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【符号の説明】
【0078】
10 弁装置
100 ハウジング
200 弁体
300 シャフト
400 シール部材
401 フランジ部
402 躯体部
403 表層部
404 貫通孔
405 胴部