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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 28/00 20060101AFI20240312BHJP
   F16H 1/46 20060101ALI20240312BHJP
   F16D 13/46 20060101ALI20240312BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
F16D28/00 Z
F16H1/46
F16D13/46 Z
H02K7/116
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020125633
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2021021486
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019138331
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 巧美
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-125145(JP,A)
【文献】特開2010-19271(JP,A)
【文献】特開2003-74645(JP,A)
【文献】特開昭55-100445(JP,A)
【文献】特開2014-228061(JP,A)
【文献】特開2014-231277(JP,A)
【文献】国際公開第2015/68822(WO,A1)
【文献】特開2011-117514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14,
25/00-39/00,
48/00-48/12
F16H 1/28- 1/48,
48/00-48/42
H02K 7/00- 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(12)と、
前記ハウジングに固定されたステータ(21)、および、前記ステータに対し相対回転可能に設けられたロータ(23)を有し、電力の供給により前記ロータからトルクを出力可能な原動機(20)と、
前記原動機のトルクを減速して出力可能な減速機(30)と、
前記減速機から出力されたトルクが入力されると前記ハウジングに対し相対回転する回転部(40)、および、前記回転部が前記ハウジングに対し相対回転すると前記ハウジングに対し軸方向に相対移動する並進部(50)を有する回転並進部(2)と、
前記ハウジングに対し相対回転可能に設けられた第1伝達部(61)と第2伝達部(62)との間に設けられ、係合している係合状態のとき、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を許容し、係合していない非係合状態のとき、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断するクラッチ(70)と、
前記並進部から軸方向の力を受け、前記ハウジングに対する前記並進部の軸方向の相対位置に応じて前記クラッチの状態を係合状態または非係合状態に変更可能な状態変更部(80、90)と、を備え、
前記減速機は、前記ロータと一体に回転可能に設けられたサンギア(31)、および、前記サンギアに噛み合いつつ自転しながら前記サンギアの周方向に公転可能なプラネタリギア(32)を有し、
前記サンギアのギア幅は、前記サンギアと前記プラネタリギアとの軸方向における重複の長さが前記プラネタリギアのギア幅より小さくなるよう設定されており、
前記サンギアに対する前記プラネタリギアの傾き角が0の場合の前記サンギアと前記プラネタリギアとの噛み合いピッチ円(Cp1)上での円周方向のバックラッシをC、前記サンギアに対する前記プラネタリギアの傾き角をα、前記プラネタリギアのギア幅をL1、前記サンギアと前記プラネタリギアとの軸方向における重複の長さをL2とすると、
前記サンギアおよび前記プラネタリギアは、C-L2・tanα≧0、L1>L2となるよう形成されているクラッチ装置。
【請求項2】
前記サンギアと前記プラネタリギアとの軸方向における重複の長さは、前記プラネタリギアのギア幅の20~50%の長さに設定されている請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記サンギアは、比重が前記ロータの比重より小さな材料により前記ロータとは別体に形成されている請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
ハウジング(12)と、
前記ハウジングに固定されたステータ(21)、および、前記ステータに対し相対回転可能に設けられたロータ(23)を有し、電力の供給により前記ロータからトルクを出力可能な原動機(20)と、
前記原動機のトルクを減速して出力可能な減速機(30)と、
前記減速機から出力されたトルクが入力されると前記ハウジングに対し相対回転する回転部(40)、および、前記回転部が前記ハウジングに対し相対回転すると前記ハウジングに対し軸方向に相対移動する並進部(50)を有する回転並進部(2)と、
前記ハウジングに対し相対回転可能に設けられた第1伝達部(61)と第2伝達部(62)との間に設けられ、係合している係合状態のとき、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を許容し、係合していない非係合状態のとき、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断するクラッチ(70)と、
前記並進部から軸方向の力を受け、前記ハウジングに対する前記並進部の軸方向の相対位置に応じて前記クラッチの状態を係合状態または非係合状態に変更可能な状態変更部(80、90)と、を備え、
前記減速機は、前記ロータと一体に回転可能に設けられたサンギア(31)、および、前記サンギアに噛み合いつつ自転しながら前記サンギアの周方向に公転可能なプラネタリギア(32)を有し、
前記サンギアのギア幅は、前記サンギアと前記プラネタリギアとの軸方向における重複の長さが前記プラネタリギアのギア幅より小さくなるよう設定されており、
前記サンギアは、比重が前記ロータの比重より小さな材料により前記ロータとは別体に形成されているクラッチ装置。
【請求項5】
前記原動機は、前記ロータに設けられた永久磁石(230)を有する請求項1~4のいずれか一項に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記減速機は、
前記プラネタリギアを回転可能に支持し、前記サンギアに対し相対回転可能な環状のキャリア(33)、
前記プラネタリギアに噛み合い可能な第1リングギア(34)、および、
前記プラネタリギアに噛み合い可能、かつ、前記第1リングギアとは歯部の歯数が異なるよう形成され、前記回転並進部にトルクを出力する第2リングギア(35)を有する請求項1~5のいずれか一項に記載のクラッチ装置。
【請求項7】
前記第1リングギアは、前記ハウジングに固定され、
前記第2リングギアは、前記回転部と一体に回転可能に設けられている請求項6に記載のクラッチ装置。
【請求項8】
前記回転部は、前記第2リングギアと一体に形成されている請求項6または7に記載のクラッチ装置。
【請求項9】
前記回転部は、一方の面に形成された複数の駆動カム溝(400)を有する駆動カム(40)であり、
前記並進部は、一方の面に形成された複数の従動カム溝(500)を有する従動カム(50)であり、
前記回転並進部は、前記駆動カム、前記従動カム、および、前記駆動カム溝と前記従動カム溝との間で転動可能に設けられた転動体(3)を有する転動体カム(2)である請求項1~8のいずれか一項に記載のクラッチ装置。
【請求項10】
前記回転部は、内縁部(41)と外縁部(44)とが軸方向において異なる位置となるよう形成されている請求項1~9のいずれか一項に記載のクラッチ装置。
【請求項11】
ハウジング(12)と、
前記ハウジングに固定されたステータ(21)、および、前記ステータに対し相対回転可能に設けられたロータ(23)を有し、電力の供給により前記ロータからトルクを出力可能な原動機(20)と、
前記原動機のトルクを減速して出力可能な減速機(30)と、
前記減速機から出力されたトルクが入力されると前記ハウジングに対し相対回転する回転部(40)、および、前記回転部が前記ハウジングに対し相対回転すると前記ハウジングに対し軸方向に相対移動する並進部(50)を有する回転並進部(2)と、
前記ハウジングに対し相対回転可能に設けられた第1伝達部(61)と第2伝達部(62)との間に設けられ、係合している係合状態のとき、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を許容し、係合していない非係合状態のとき、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断するクラッチ(70)と、
前記並進部から軸方向の力を受け、前記ハウジングに対する前記並進部の軸方向の相対位置に応じて前記クラッチの状態を係合状態または非係合状態に変更可能な状態変更部(80、90)と、を備え、
前記減速機は、前記ロータと一体に回転可能に設けられたサンギア(31)、および、前記サンギアに噛み合いつつ自転しながら前記サンギアの周方向に公転可能なプラネタリギア(32)を有し、
前記サンギアのギア幅は、前記サンギアと前記プラネタリギアとの軸方向における重複の長さが前記プラネタリギアのギア幅より小さくなるよう設定されており、
前記回転部は、内縁部(41)と外縁部(44)とが軸方向において異なる位置となるよう形成されているクラッチ装置。
【請求項12】
前記原動機および前記減速機は、前記回転部に対し前記クラッチとは反対側において前記ハウジングの内側に形成された収容空間(120)に設けられ、
前記クラッチは、前記回転部に対し前記収容空間とは反対側の空間であるクラッチ空間(620)に設けられ、
前記回転部に接触するよう設けられ、前記収容空間と前記クラッチ空間との間を気密または液密に保持可能な環状のシール部材(401、402、404、405)をさらに備える請求項1~11のいずれか一項に記載のクラッチ装置。
【請求項13】
ハウジング(12)と、
前記ハウジングに固定されたステータ(21)、および、前記ステータに対し相対回転可能に設けられたロータ(23)を有し、電力の供給により前記ロータからトルクを出力可能な原動機(20)と、
前記原動機のトルクを減速して出力可能な減速機(30)と、
前記減速機から出力されたトルクが入力されると前記ハウジングに対し相対回転する回転部(40)、および、前記回転部が前記ハウジングに対し相対回転すると前記ハウジングに対し軸方向に相対移動する並進部(50)を有する回転並進部(2)と、
前記ハウジングに対し相対回転可能に設けられた第1伝達部(61)と第2伝達部(62)との間に設けられ、係合している係合状態のとき、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を許容し、係合していない非係合状態のとき、前記第1伝達部と前記第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断するクラッチ(70)と、
前記並進部から軸方向の力を受け、前記ハウジングに対する前記並進部の軸方向の相対位置に応じて前記クラッチの状態を係合状態または非係合状態に変更可能な状態変更部(80、90)と、を備え、
前記減速機は、前記ロータと一体に回転可能に設けられたサンギア(31)、および、前記サンギアに噛み合いつつ自転しながら前記サンギアの周方向に公転可能なプラネタリギア(32)を有し、
前記サンギアのギア幅は、前記サンギアと前記プラネタリギアとの軸方向における重複の長さが前記プラネタリギアのギア幅より小さくなるよう設定されており、
前記原動機および前記減速機は、前記回転部に対し前記クラッチとは反対側において前記ハウジングの内側に形成された収容空間(120)に設けられ、
前記クラッチは、前記回転部に対し前記収容空間とは反対側の空間であるクラッチ空間(620)に設けられ、
前記回転部に接触するよう設けられ、前記収容空間と前記クラッチ空間との間を気密または液密に保持可能な環状のシール部材(401、402、404、405)をさらに備えるクラッチ装置。
【請求項14】
前記シール部材は、Oリング、リップシール、または、オイルシールのいずれかである請求項12または13に記載のクラッチ装置。
【請求項15】
前記状態変更部は、前記並進部の軸方向に弾性変形可能な弾性変形部(81、91)を有している請求項1~14のいずれか一項に記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クラッチの状態を係合状態または非係合状態に変更することにより、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達を許容または遮断するクラッチ装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたクラッチ装置では、原動機のトルクを減速する減速機は、サンギア、プラネタリギア、および、2つのリングギアを有している。2つのリングギアは、それぞれ、サンギアに噛み合いつつ自転しながら公転するプラネタリギアに噛み合い可能な内歯を有している。2つのリングギアの一方は、減速機を収容するハウジングに固定されている。2つのリングギアの他方は、ボールカムを構成する駆動カムと一体回転可能に設けられている。
【0004】
ここで、2つのリングギアの内歯の歯数は異なるよう設定されている。これにより、原動機のトルクによりサンギアが回転すると、駆動カムがハウジングに対し相対回転し、従動カムがハウジングに対し軸方向に相対移動する。その結果、クラッチの状態が係合状態または非係合状態に変更され、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達が許容または遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-90533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のクラッチ装置では、2つのリングギアを軸方向に直列に並べる必要があるため、プラネタリギアの軸方向のギアの長さであるギア幅が必然的に大きくなる。また、特許文献1のクラッチ装置では、複数のプラネタリギア間の相対位置を保持するキャリアが軸方向に移動するのを規制するため、サンギアをキャリアの端面よりも突き出し、止め輪を設けている。そのため、サンギアのギア幅も、上記突き出しに伴い大きくなる。
【0007】
上記構成の減速機において、サンギアに対しプラネタリギアが傾くと、傾く前にサンギアとプラネタリギアとの間に形成されていたクリアランスが、サンギアとプラネタリギアとの噛み合い幅と傾き角に比例した量だけ減少する。このクリアランスが0になると、サンギアとプラネタリギアとの間に所謂両歯噛み合い現象が発生し、減速機が正常に作動しなくなるおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、減速機の作動を良好に保つことの可能なクラッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るクラッチ装置は、ハウジング(12)と原動機(20)と減速機(30)と回転並進部(2)とクラッチ(70)と状態変更部(80、90)とを備える。原動機は、ハウジングに固定されたステータ(21)、および、ステータに対し相対回転可能に設けられたロータ(23)を有し、電力の供給によりロータからトルクを出力可能である。
【0010】
減速機は、原動機のトルクを減速して出力可能である。回転並進部は、減速機から出力されたトルクが入力されるとハウジングに対し相対回転する回転部(40)、および、回転部がハウジングに対し相対回転するとハウジングに対し軸方向に相対移動する並進部(50)を有する。
【0011】
クラッチは、ハウジングに対し相対回転可能に設けられた第1伝達部(61)と第2伝達部(62)との間に設けられ、係合している係合状態のとき、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達を許容し、係合していない非係合状態のとき、第1伝達部と第2伝達部との間のトルクの伝達を遮断する。状態変更部は、並進部から軸方向の力を受け、ハウジングに対する並進部の軸方向の相対位置に応じてクラッチの状態を係合状態または非係合状態に変更可能である。
【0012】
減速機は、ロータと一体に回転可能に設けられたサンギア(31)、および、サンギアに噛み合いつつ自転しながらサンギアの周方向に公転可能なプラネタリギア(32)を有する。
【0013】
サンギアのギア幅は、サンギアとプラネタリギアとの軸方向における重複の長さがプラネタリギアのギア幅より小さくなるよう設定されている。そのため、サンギアに対しプラネタリギアが傾いたとしても、サンギアとプラネタリギアとの噛み合いピッチ円上での円周方向の隙間を確保でき、サンギアとプラネタリギアとの間における両歯噛み合い現象の発生を抑制できる。したがって、減速機の作動を良好に保つことができる。
また、本発明の第1の態様では、サンギアに対するプラネタリギアの傾き角が0の場合のサンギアとプラネタリギアとの噛み合いピッチ円(Cp1)上での円周方向のバックラッシをC、サンギアに対するプラネタリギアの傾き角をα、プラネタリギアのギア幅をL1、サンギアとプラネタリギアとの軸方向における重複の長さをL2とすると、サンギアおよびプラネタリギアは、C-L2・tanα≧0、L1>L2となるよう形成されている。
また、本発明の第2の態様では、サンギアは、比重がロータの比重より小さな材料によりロータとは別体に形成されている。
また、本発明の第3の態様では、回転部は、内縁部(41)と外縁部(44)とが軸方向において異なる位置となるよう形成されている。
また、本発明の第4の態様では、原動機および減速機は、回転部に対しクラッチとは反対側においてハウジングの内側に形成された収容空間(120)に設けられている。クラッチは、回転部に対し収容空間とは反対側の空間であるクラッチ空間(620)に設けられている。回転部に接触するよう設けられ、収容空間とクラッチ空間との間を気密または液密に保持可能な環状のシール部材(401、402、404、405)をさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態によるクラッチ装置を示す断面図。
図2】第1実施形態によるクラッチ装置の一部を示す断面図。
図3】2kh型の不思議遊星歯車減速機の模式図、および、入出力パターンと慣性モーメントおよび減速比との関係を示す表。
図4】3k型の不思議遊星歯車減速機の模式図、および、入出力パターンと慣性モーメントおよび減速比との関係を示す表。
図5】並進部のストロークとクラッチに作用する荷重との関係を示す図。
図6】第1実施形態によるクラッチ装置のサンギアおよびその近傍を示す断面図。
図7】第1実施形態によるクラッチ装置のプラネタリギアを軸方向から見た図。
図8図7のVIII-VIII線断面図。
図9】第1実施形態によるクラッチ装置のキャリアおよびプラネタリギアを示す斜視図。
図10図7のX-X線断面図。
図11】サンギアとプラネタリギアとの噛み合い長さと、サンギアの歯部とプラネタリギアの歯部との残隙間との関係を示す図。
図12】第2実施形態によるクラッチ装置を示す断面図。
図13】第3実施形態によるクラッチ装置のサンギアおよびその近傍を示す断面図。
図14】第4実施形態によるクラッチ装置の一部を示す断面図。
図15】第5実施形態によるクラッチ装置の一部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、複数の実施形態によるクラッチ装置を図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0016】
(第1実施形態)
第1実施形態によるクラッチ装置を図1、2に示す。クラッチ装置1は、例えば車両の内燃機関と変速機との間に設けられ、内燃機関と変速機との間のトルクの伝達を許容または遮断するのに用いられる。
【0017】
クラッチ装置1は、ハウジング12と、「原動機」としてのモータ20と、減速機30と、「回転並進部」または「転動体カム」としてのボールカム2と、クラッチ70と、状態変更部80と、を備えている。
【0018】
また、クラッチ装置1は、「制御部」としての電子制御ユニット(以下、「ECU」という)10と、「第1伝達部」としての入力軸61と、「第2伝達部」としての出力軸62と、固定部130と、を備えている。
【0019】
ECU10は、演算手段としてのCPU、記憶手段としてのROM、RAM等、入出力手段としてのI/O等を有する小型のコンピュータである。ECU10は、車両の各部に設けられた各種センサからの信号等の情報に基づき、ROM等に格納されたプログラムに従い演算を実行し、車両の各種装置および機器の作動を制御する。このように、ECU10は、非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行する。このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。
【0020】
ECU10は、各種センサからの信号等の情報に基づき、内燃機関等の作動を制御可能である。また、ECU10は、後述するモータ20の作動を制御可能である。
【0021】
入力軸61は、例えば、図示しない内燃機関の駆動軸に接続され、駆動軸とともに回転可能である。つまり、入力軸61には、駆動軸からトルクが入力される。
【0022】
内燃機関を搭載する車両には、固定フランジ11が設けられる(図2参照)。固定フランジ11は、筒状に形成され、例えば車両のエンジンルームに固定される。固定フランジ11の内周壁と入力軸61の外周壁との間には、ボールベアリング141が設けられる。これにより、入力軸61は、ボールベアリング141を介して固定フランジ11により軸受けされる。
【0023】
ハウジング12は、固定フランジ11の端部の内周壁と入力軸61の外周壁との間に設けられる。ハウジング12は、ハウジング内筒部121、ハウジング板部122、ハウジング外筒部123、ハウジングフランジ部124、ハウジング段差面125、ハウジング側スプライン溝部127等を有している。
【0024】
ハウジング内筒部121は、略円筒状に形成されている。ハウジング板部122は、ハウジング内筒部121の端部から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。ハウジング外筒部123は、ハウジング板部122の外縁部からハウジング内筒部121と同じ側へ延びるよう略円筒状に形成されている。ハウジングフランジ部124は、ハウジング外筒部123のハウジング板部122とは反対側の端部から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。ここで、ハウジング内筒部121とハウジング板部122とハウジング外筒部123とハウジングフランジ部124とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0025】
ハウジング段差面125は、ハウジング内筒部121の径方向外側においてハウジング板部122とは反対側を向くよう円環の平面状に形成されている。ハウジング側スプライン溝部127は、ハウジング段差面125に対しハウジング板部122とは反対側において軸方向に延びるようハウジング内筒部121の外周壁に形成されている。ハウジング側スプライン溝部127は、ハウジング内筒部121の周方向に複数形成されている。
【0026】
ハウジング12は、外壁の一部が固定フランジ11の壁面の一部に当接するよう固定フランジ11に固定される(図2参照)。ハウジング12は、図示しないボルト等により固定フランジ11に固定される。ここで、ハウジング12は、固定フランジ11および入力軸61に対し同軸に設けられる。また、ハウジング内筒部121の内周壁と入力軸61の外周壁との間には、略円筒状の空間が形成される。
【0027】
ハウジング12は、収容空間120を有している。収容空間120は、ハウジング内筒部121とハウジング板部122とハウジング外筒部123との間に形成されている。
【0028】
固定部130は、固定筒部131、固定環状部132、固定フランジ部133を有している。固定筒部131は、略円筒状に形成されている。固定環状部132は、固定筒部131の内周壁から径方向内側へ延びるよう略円環状に形成されている。固定フランジ部133は、固定筒部131の端部から径方向外側へ延びるよう略円環状に形成されている。ここで、固定筒部131と固定環状部132と固定フランジ部133とは、例えば金属により一体に形成されている。固定部130は、固定フランジ部133がボルト13によりハウジングフランジ部124に固定されるようにしてハウジング12に固定されている。
【0029】
モータ20は、収容空間120に収容されている。モータ20は、ステータ21、コイル22、ロータ23等を有している。ステータ21は、例えば積層鋼板により略円環状に形成され、ハウジング外筒部123の内側に固定される。コイル22は、ボビン221、巻線222を有している。ボビン221は、例えば樹脂により筒状に形成され、ステータ21の複数の突極のそれぞれに嵌め込まれている。巻線222は、ボビン221に巻き回されている。
【0030】
ロータ23は、ロータ筒部231、ロータ板部232、ロータ筒部233を有している。モータ20は、「永久磁石」としてのマグネット230を有している。ロータ筒部231は、略円筒状に形成されている。ロータ板部232は、ロータ筒部231の端部から径方向内側へ延びるよう環状の板状に形成されている。ロータ筒部233は、ロータ板部232の内縁部からロータ筒部231とは反対側へ延びるよう略円筒状に形成されている。ここで、ロータ筒部231とロータ板部232とロータ筒部233とは、例えば鉄系の金属により一体に形成されている。より詳細には、ロータ23は、例えば磁気特性が比較的高い純鉄により形成されている。
【0031】
マグネット230は、ロータ筒部231の外周壁に設けられている。マグネット230は、磁極が交互になるようロータ筒部231の周方向に等間隔で複数設けられている。
【0032】
クラッチ装置1は、軸受部151を備えている。軸受部151は、ハウジング内筒部121のハウジング段差面125に対しハウジング板部122側の外周壁に設けられている。軸受部151は、内周壁がハウジング内筒部121の外周壁に嵌合している。ロータ23は、ロータ筒部231の内周壁が軸受部151の外周壁に嵌合するよう設けられている。これにより、ロータ23は、軸受部151を介してハウジング内筒部121により回転可能に支持されている。このように、軸受部151は、収容空間120に設けられ、ロータ23を回転可能に支持する。
【0033】
ここで、ロータ23は、ステータ21の径方向内側において、ステータ21に対し相対回転可能に設けられている。モータ20は、インナロータタイプのブラシレス直流モータである。
【0034】
ECU10は、コイル22の巻線222に供給する電力を制御することにより、モータ20の作動を制御可能である。コイル22に電力が供給されると、ステータ21に回転磁界が生じ、ロータ23が回転する。これにより、ロータ23からトルクが出力される。このように、モータ20は、ステータ21、および、ステータ21に対し相対回転可能に設けられたロータ23を有し、電力の供給によりロータ23からトルクを出力可能である。
【0035】
本実施形態では、クラッチ装置1は、基板101、プレート102、センサマグネット103、回転角センサ104を備えている。基板101、プレート102、センサマグネット103、回転角センサ104は、収容空間120に設けられている。基板101は、ハウジング内筒部121の外周壁のハウジング板部122近傍に設けられている。プレート102は、例えば略円筒状に形成され、一端の内周壁がロータ筒部231のロータ板部232とは反対側の端部の外周壁に嵌合し、ロータ23と一体に回転可能なよう設けられている。センサマグネット103は、略円環状に形成され、内周壁がプレート102の他端の外周壁に嵌合し、プレート102およびロータ23と一体に回転可能なよう設けられている。センサマグネット103は、磁束を発生させる。
【0036】
回転角センサ104は、センサマグネット103のロータ23とは反対側の面に対向するよう基板101に実装されている。回転角センサ104は、センサマグネット103から発生する磁束を検出し、検出した磁束に応じた信号をECU10に出力する。これにより、ECU10は、回転角センサ104からの信号に基づき、ロータ23の回転角および回転数等を検出することができる。また、ECU10は、ロータ23の回転角および回転数等に基づき、ハウジング12および後述する従動カム50に対する駆動カム40の相対回転角度、ハウジング12および駆動カム40に対する従動カム50および状態変更部80の軸方向の相対位置等を算出することができる。
【0037】
減速機30は、収容空間120に収容されている。減速機30は、サンギア31、プラネタリギア32、キャリア33、第1リングギア34、第2リングギア35等を有している。
【0038】
サンギア31は、ロータ23と同軸かつ一体回転可能に設けられている。。つまり、ロータ23とサンギア31とは、別体に形成され、一体に回転可能なよう同軸に配置されている。より詳細には、サンギア31は、例えば金属により略円筒状に形成され、一方の端部の外周壁がロータ筒部233の内周壁に嵌合するようロータ23に固定されている。本実施形態では、サンギア31は、例えば圧入によりロータ23に接合されている。
【0039】
サンギア31は、「歯部」および「外歯」としてのサンギア歯部311を有している。サンギア歯部311は、サンギア31の他方の端部の外周壁に形成されている。サンギア31には、モータ20のトルクが入力される。ここで、サンギア31は、減速機30の「入力部」に対応する。本実施形態では、サンギア31は、例えば鉄鋼材により形成されている。
【0040】
プラネタリギア32は、サンギア31の周方向に沿って複数設けられ、サンギア31に噛み合いつつ自転しながらサンギア31の周方向に公転可能である。より詳細には、プラネタリギア32は、例えば金属により略円筒状に形成され、サンギア31の径方向外側においてサンギア31の周方向に等間隔で4つ設けられている。プラネタリギア32は、「歯部」および「外歯」としてのプラネタリギア歯部321を有している。プラネタリギア歯部321は、サンギア歯部311に噛み合い可能なようプラネタリギア32の外周壁に形成されている。
【0041】
キャリア33は、プラネタリギア32を回転可能に支持し、サンギア31に対し相対回転可能である。より詳細には、キャリア33は、例えば金属により略円環状に形成され、サンギア31に対し径方向外側に設けられている。キャリア33は、ロータ23およびサンギア31に対し相対回転可能である。
【0042】
キャリア33には、ピン331、ニードルベアリング332、キャリアワッシャ333が設けられている。ピン331は、例えば金属により略円柱状に形成され、プラネタリギア32の内側を通るようキャリア33に設けられている。ニードルベアリング332は、ピン331の外周壁とプラネタリギア32の内周壁との間に設けられている。これにより、プラネタリギア32は、ニードルベアリング332を介してピン331により回転可能に支持されている。キャリアワッシャ333は、例えば金属により環状の板状に形成され、ピン331の径方向外側において、プラネタリギア32の端部とキャリア33との間に設けられている。これにより、プラネタリギア32は、キャリア33に対し円滑に相対回転可能である。
【0043】
第1リングギア34は、プラネタリギア32に噛み合い可能な歯部である第1リングギア歯部341を有し、ハウジング12に固定されている。より詳細には、第1リングギア34は、例えば金属により略円環状に形成されている。第1リングギア34は、固定部130の固定環状部132の内縁部と一体に形成されている。すなわち、第1リングギア34は、固定部130を介してハウジング12に固定されている。ここで、第1リングギア34は、ハウジング12、ロータ23、サンギア31に対し同軸に設けられている。「歯部」および「内歯」としての第1リングギア歯部341は、プラネタリギア32のプラネタリギア歯部321の軸方向の一方の端部側に噛み合い可能なよう第1リングギア34の内縁部に形成されている。
【0044】
第2リングギア35は、プラネタリギア32に噛み合い可能な歯部であり第1リングギア歯部341とは歯数の異なる第2リングギア歯部351を有し、後述する駆動カム40と一体回転可能に設けられている。より詳細には、第2リングギア35は、例えば金属により略円環状に形成されている。ここで、第2リングギア35は、ハウジング12、ロータ23、サンギア31に対し同軸に設けられている。「歯部」および「内歯」としての第2リングギア歯部351は、プラネタリギア32のプラネタリギア歯部321の軸方向の他方の端部側に噛み合い可能なよう第2リングギア35の内縁部に形成されている。本実施形態では、第2リングギア歯部351の歯数は、第1リングギア歯部341の歯数よりも多い。より詳細には、第2リングギア歯部351の歯数は、第1リングギア歯部341の歯数よりも、プラネタリギア32の個数である4に整数を乗じた数分だけ多い。
【0045】
また、プラネタリギア32は、同一部位において2つの異なる諸元をもつ第1リングギア34および第2リングギア35と干渉なく正常に噛み合う必要があるため、第1リングギア34および第2リングギア35の一方もしくは両方を転位させて各歯車対の中心距離を一定にする設計としている。
【0046】
上記構成により、モータ20のロータ23が回転すると、サンギア31が回転し、プラネタリギア32のプラネタリギア歯部321がサンギア歯部311と第1リングギア歯部341および第2リングギア歯部351とに噛み合いつつ自転しながらサンギア31の周方向に公転する。ここで、第2リングギア歯部351の歯数が第1リングギア歯部341の歯数より多いため、第2リングギア35は、第1リングギア34に対し相対回転する。そのため、第1リングギア34と第2リングギア35との間で第1リングギア歯部341と第2リングギア歯部351との歯数差に応じた微小差回転が第2リングギア35の回転として出力される。これにより、モータ20からのトルクは、減速機30により減速されて、第2リングギア35から出力される。このように、減速機30は、モータ20のトルクを減速して出力可能である。本実施形態では、減速機30は、3k型の不思議遊星歯車減速機を構成している。
【0047】
第2リングギア35は、後述する駆動カム40と一体に形成されている。第2リングギア35は、モータ20からのトルクを減速して駆動カム40に出力する。ここで、第2リングギア35は、減速機30の「出力部」に対応する。
【0048】
ボールカム2は、「回転部」としての駆動カム40、「並進部」としての従動カム50、「転動体」としてのボール3を有している。
【0049】
駆動カム40は、駆動カム本体41、駆動カム内筒部42、駆動カム板部43、駆動カム外筒部44、駆動カム溝400等を有している。駆動カム本体41は、略円環の板状に形成されている。駆動カム内筒部42は、駆動カム本体41の外縁部から軸方向に延びるよう略円筒状に形成されている。駆動カム板部43は、駆動カム内筒部42の駆動カム本体41とは反対側の端部から径方向外側へ延びるよう略円環の板状に形成されている。駆動カム外筒部44は、駆動カム板部43の外縁部から駆動カム内筒部42と同じ側へ延びるよう略円筒状に形成されている。ここで、駆動カム本体41と駆動カム内筒部42と駆動カム板部43と駆動カム外筒部44とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0050】
駆動カム溝400は、駆動カム本体41の駆動カム内筒部42側の面から凹みつつ周方向に延びるよう形成されている。駆動カム溝400は、駆動カム本体41の周方向に等間隔で5つ形成されている。駆動カム溝400は、駆動カム本体41の周方向における一端から他端に向かうに従い深さが浅くなるよう駆動カム本体41の駆動カム内筒部42側の面に対し溝底が傾斜して形成されている。
【0051】
駆動カム40は、駆動カム本体41がハウジング内筒部121の外周壁とサンギア31の内周壁との間に位置し、駆動カム板部43がキャリア33に対しロータ23とは反対側に位置し、駆動カム外筒部44が固定環状部132に対しステータ21とは反対側かつ固定筒部131の内側に位置するよう、固定部130の内側に設けられている。駆動カム40は、ハウジング12および固定部130に対し相対回転可能である。
【0052】
第2リングギア35は、駆動カム外筒部44の内縁部と一体に形成されている。すなわち、第2リングギア35は、「回転部」としての駆動カム40と一体回転可能に設けられている。そのため、モータ20からのトルクが、減速機30により減速されて、第2リングギア35から出力されると、駆動カム40は、ハウジング12および固定部130に対し相対回転する。すなわち、駆動カム40は、減速機30から出力されたトルクが入力されるとハウジング12に対し相対回転する。
【0053】
従動カム50は、従動カム本体51、従動カム筒部52、従動カム段差面53、カム側スプライン溝部54、従動カム溝500等を有している。従動カム本体51は、略円環の板状に形成されている。従動カム筒部52は、従動カム本体51の外縁部から軸方向に延びるよう略円筒状に形成されている。ここで、従動カム本体51と従動カム筒部52とは、例えば金属により一体に形成されている。
【0054】
従動カム段差面53は、従動カム筒部52の径方向外側において従動カム本体51とは反対側を向くよう円環の平面状に形成されている。カム側スプライン溝部54は、従動カム本体51の内周壁において軸方向に延びるよう形成されている。カム側スプライン溝部54は、従動カム本体51の周方向に複数形成されている。
【0055】
従動カム50は、従動カム本体51が駆動カム本体41に対しハウジング段差面125とは反対側かつ駆動カム内筒部42の内側に位置し、カム側スプライン溝部54がハウジング側スプライン溝部127とスプライン結合するよう設けられている。これにより、従動カム50は、ハウジング12に対し、相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。
【0056】
従動カム溝500は、従動カム本体51の従動カム筒部52とは反対側の面から凹みつつ周方向に延びるよう形成されている。従動カム溝500は、従動カム本体51の周方向に等間隔で5つ形成されている。従動カム溝500は、従動カム本体51の周方向における一端から他端に向かうに従い深さが浅くなるよう従動カム本体51の従動カム筒部52とは反対側の面に対し溝底が傾斜して形成されている。
【0057】
なお、駆動カム溝400と従動カム溝500とは、それぞれ、駆動カム本体41の従動カム本体51側の面側、または、従動カム本体51の駆動カム本体41側の面側から見たとき、同一の形状となるよう形成されている。
【0058】
ボール3は、例えば金属により球状に形成されている。ボール3は、5つの駆動カム溝400と5つの従動カム溝500との間のそれぞれにおいて転動可能に設けられている。すなわち、ボール3は、合計5つ設けられている。
【0059】
本実施形態では、クラッチ装置1は、保持器4を備えている。保持器4は、例えば金属により略円環の板状に形成され、駆動カム本体41と従動カム本体51との間に設けられている。保持器4は、ボール3の外径よりやや大きな内径の穴部を有している。当該穴部は、保持器4の周方向に等間隔で5つ形成されている。ボール3は、5つの穴部のそれぞれに設けられている。そのため、ボール3は、保持器4により保持され、駆動カム溝400および従動カム溝500における位置が安定する。
【0060】
このように、駆動カム40と従動カム50とボール3とは、「転動体カム」としてのボールカム2を構成している。駆動カム40がハウジング12および従動カム50に対し相対回転すると、ボール3は、駆動カム溝400および従動カム溝500においてそれぞれの溝底に沿って転動する。
【0061】
図1に示すように、ボール3は、第1リングギア34および第2リングギア35の径方向内側に設けられている。より詳細には、ボール3は、第1リングギア34および第2リングギア35の軸方向の範囲内に設けられている。
【0062】
上述のように、駆動カム溝400は、一端から他端にかけて溝底が傾斜するよう形成されている。また、従動カム溝500は、一端から他端にかけて溝底が傾斜するよう形成されている。そのため、減速機30から出力されるトルクにより駆動カム40がハウジング12および従動カム50に対し相対回転すると、ボール3が駆動カム溝400および従動カム溝500において転動し、従動カム50は、駆動カム40およびハウジング12に対し軸方向に相対移動、すなわち、ストロークする。
【0063】
このように、従動カム50は、駆動カム40がハウジング12に対し相対回転すると駆動カム40およびハウジング12に対し軸方向に相対移動する。ここで、従動カム50は、カム側スプライン溝部54がハウジング側スプライン溝部127とスプライン結合しているため、ハウジング12に対し相対回転しない。また、駆動カム40は、ハウジング12に対し相対回転するものの、軸方向には相対移動しない。
【0064】
本実施形態では、クラッチ装置1は、リターンスプリング55、リターンスプリングワッシャ56、Cリング57を備えている。リターンスプリング55は、例えばウェーブスプリングであり、ハウジング内筒部121のハウジング板部122とは反対側の端部の外周壁と従動カム筒部52の内周壁との間に設けられている。リターンスプリング55は、一端が従動カム本体51の従動カム筒部52側の面の内縁部に当接している。
【0065】
リターンスプリングワッシャ56は、例えば金属により略円環状に形成され、ハウジング内筒部121の径方向外側においてリターンスプリング55の他端に当接している。Cリング57は、リターンスプリングワッシャ56のリターンスプリング55とは反対側の面を係止するようハウジング内筒部121の外周壁に固定されている。
【0066】
リターンスプリング55は、軸方向に伸びる力を有している。そのため、従動カム50は、駆動カム40との間にボール3を挟んだ状態で、リターンスプリング55により駆動カム本体41側へ付勢されている。
【0067】
出力軸62は、軸部621、板部622、筒部623、摩擦板624を有している(図2参照)。軸部621は、略円筒状に形成されている。板部622は、軸部621の一端から径方向外側へ環状の板状に延びるよう軸部621と一体に形成されている。筒部623は、板部622の外縁部から軸部621とは反対側へ略円筒状に延びるよう板部622と一体に形成されている。摩擦板624は、略円環の板状に形成され、板部622の筒部623側の端面に設けられている。ここで、摩擦板624は、板部622に対し相対回転不能である。筒部623の内側には、クラッチ空間620が形成されている。
【0068】
入力軸61の端部は、ハウジング内筒部121の内側を通り、従動カム50に対し駆動カム40とは反対側に位置している。出力軸62は、ハウジング12に対し固定フランジ11とは反対側、すなわち、従動カム50に対し駆動カム40とは反対側において、入力軸61と同軸に設けられる。軸部621の内周壁と入力軸61の端部の外周壁との間には、ボールベアリング142が設けられる。これにより、出力軸62は、ボールベアリング142を介して入力軸61により軸受けされる。入力軸61および出力軸62は、ハウジング12に対し相対回転可能である。
【0069】
クラッチ70は、クラッチ空間620において入力軸61と出力軸62との間に設けられている。クラッチ70は、内側摩擦板71、外側摩擦板72、係止部701を有している。内側摩擦板71は、略円環の板状に形成され、入力軸61と出力軸62の筒部623との間において、軸方向に並ぶよう複数設けられている。内側摩擦板71は、内縁部が入力軸61の外周壁とスプライン結合するよう設けられている。そのため、内側摩擦板71は、入力軸61に対し相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。
【0070】
外側摩擦板72は、略円環の板状に形成され、入力軸61と出力軸62の筒部623との間において、軸方向に並ぶよう複数設けられている。ここで、内側摩擦板71と外側摩擦板72とは、入力軸61の軸方向において交互に配置されている。外側摩擦板72は、外縁部が出力軸62の筒部623の内周壁とスプライン結合するよう設けられている。そのため、外側摩擦板72は、出力軸62に対し相対回転不能、かつ、軸方向に相対移動可能である。複数の外側摩擦板72のうち最も摩擦板624側に位置する外側摩擦板72は、摩擦板624に接触可能である。
【0071】
係止部701は、略円環状に形成され、外縁部が出力軸62の筒部623の内周壁に嵌合するよう設けられる。係止部701は、複数の外側摩擦板72のうち最も従動カム50側に位置する外側摩擦板72の外縁部を係止可能である。そのため、複数の外側摩擦板72、複数の内側摩擦板71は、筒部623の内側からの脱落が抑制される。なお、係止部701と摩擦板624との距離は、複数の外側摩擦板72および複数の内側摩擦板71の板厚の合計よりも大きい。
【0072】
複数の内側摩擦板71および複数の外側摩擦板72が互いに接触、つまり係合した状態である係合状態では、内側摩擦板71と外側摩擦板72との間に摩擦力が生じ、当該摩擦力の大きさに応じて内側摩擦板71と外側摩擦板72との相対回転が規制される。一方、複数の内側摩擦板71および複数の外側摩擦板72が互いに離間、つまり係合していない状態である非係合状態では、内側摩擦板71と外側摩擦板72との間に摩擦力は生じず、内側摩擦板71と外側摩擦板72との相対回転は規制されない。
【0073】
クラッチ70が係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、クラッチ70を経由して出力軸62に伝達される。一方、クラッチ70が非係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、出力軸62に伝達されない。
【0074】
このように、クラッチ70は、入力軸61と出力軸62との間でトルクを伝達する。クラッチ70は、係合している係合状態のとき、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達を許容し、係合していない非係合状態のとき、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達を遮断する。
【0075】
本実施形態では、クラッチ装置1は、通常、非係合状態となる、所謂常開式(ノーマリーオープンタイプ)のクラッチ装置である。
【0076】
状態変更部80は、「弾性変形部」としての皿ばね81、Cリング82、スラストベアリング83を有している。状態変更部80は、2つの皿ばね81を有している。2つの皿ばね81は、従動カム筒部52の径方向外側において、軸方向に重なった状態で従動カム段差面53に対し従動カム本体51とは反対側に設けられている。
【0077】
スラストベアリング83は、従動カム筒部52と皿ばね81との間に設けられている。スラストベアリング83は、ローラ831、内輪部84、外輪部85を有している。内輪部84は、内輪板部841、内輪筒部842を有している。内輪板部841は、略円環の板状に形成されている。内輪筒部842は、内輪板部841の内縁部から軸方向の一方に延びるよう略円筒状に形成されている。内輪板部841と内輪筒部842とは、例えば金属により一体に形成されている。内輪部84は、内輪板部841が従動カム段差面53に当接し、内輪筒部842の内周壁が従動カム筒部52の外周壁に当接可能に設けられている。
【0078】
外輪部85は、外輪板部851、外輪筒部852、外輪筒部853を有している。外輪板部851は、略円環の板状に形成されている。外輪筒部852は、外輪板部851の内縁部から軸方向の一方に延びるよう略円筒状に形成されている。外輪筒部853は、外輪板部851の外縁部から軸方向の他方に延びるよう略円筒状に形成されている。外輪板部851と外輪筒部852と外輪筒部853とは、例えば金属により一体に形成されている。外輪部85は、内輪部84に対し従動カム段差面53とは反対側において、従動カム筒部52の径方向外側に設けられている。ここで、2つの皿ばね81は、外輪筒部852の径方向外側に位置している。外輪筒部852の内周壁は、従動カム筒部52の外周壁と摺動可能である。
【0079】
ローラ831は、内輪部84と外輪部85との間に設けられている。ローラ831は、内輪板部841と外輪板部851との間で転動可能である。これにより、内輪部84と外輪部85とは、相対回転可能である。
【0080】
2つの皿ばね81のうち一方の皿ばね81は、軸方向の一端すなわち内縁部が外輪板部851に当接可能に設けられている。Cリング82は、2つの皿ばね81のうち他方の皿ばね81の軸方向の一端および外輪筒部852の端部を係止可能なよう従動カム筒部52の外周壁に固定されている。そのため、2つの皿ばね81およびスラストベアリング83は、Cリング82により従動カム筒部52からの脱落が抑制されている。皿ばね81は、軸方向に弾性変形可能である。
【0081】
ボール3が駆動カム溝400および従動カム溝500の一端に位置するとき、駆動カム40と従動カム50との距離は、比較的小さく、2つの皿ばね81のうち他方の皿ばね81の軸方向の他端すなわち外縁部とクラッチ70との間には、隙間Sp1が形成されている(図1参照)。そのため、クラッチ70は非係合状態であり、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達は遮断されている。
【0082】
ここで、ECU10の制御によりモータ20のコイル22に電力が供給されると、モータ20が回転し、減速機30からトルクが出力され、駆動カム40がハウジング12に対し相対回転する。これにより、ボール3が駆動カム溝400および従動カム溝500の一端から他端側へ転動する。そのため、従動カム50は、リターンスプリング55を圧縮しながらハウジング12に対し軸方向に相対移動、すなわち、クラッチ70側へ移動する。これにより、皿ばね81は、クラッチ70側へ移動する。
【0083】
従動カム50の軸方向の移動により皿ばね81がクラッチ70側へ移動すると、隙間Sp1が小さくなり、2つの皿ばね81のうち他方の皿ばね81の軸方向の他端は、クラッチ70の外側摩擦板72に接触する。皿ばね81がクラッチ70に接触した後さらに従動カム50が軸方向に移動すると、皿ばね81は、軸方向に弾性変形しつつ、外側摩擦板72を摩擦板624側へ押す。これにより、複数の内側摩擦板71および複数の外側摩擦板72が互いに係合し、クラッチ70が係合状態となる。そのため、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達が許容される。
【0084】
このとき、2つの皿ばね81は、スラストベアリング83の外輪部85とともに従動カム筒部52に対し相対回転する。また、このとき、ローラ831は、皿ばね81からスラスト方向の荷重を受けつつ、内輪板部841と外輪板部851との間で転動する。このように、スラストベアリング83は、皿ばね81からスラスト方向の荷重を受けつつ、皿ばね81を軸受けする。
【0085】
ECU10は、クラッチ伝達トルクがクラッチ要求トルク容量に達すると、モータ20の回転を停止させる。これにより、クラッチ70は、クラッチ伝達トルクがクラッチ要求トルク容量に維持された係合保持状態となる。このように、状態変更部80の皿ばね81は、従動カム50から軸方向の力を受け、ハウジング12および駆動カム40に対する従動カム50の軸方向の相対位置に応じてクラッチ70の状態を係合状態または非係合状態に変更可能である。
【0086】
出力軸62は、軸部621の板部622とは反対側の端部が、図示しない変速機の入力軸に接続され、当該入力軸とともに回転可能である。つまり、変速機の入力軸には、出力軸62から出力されたトルクが入力される。変速機に入力されたトルクは、変速機で変速され、駆動トルクとして車両の駆動輪に出力される。これにより、車両が走行する。
【0087】
次に、本実施形態の減速機30が採用する3k型の不思議遊星歯車減速機について説明する。
【0088】
本実施形態のような電動のクラッチ装置では、クラッチとアクチュエータとの初期隙間(隙間Sp1に相当)を詰める初期応答に要する時間を短くすることが求められる。初期応答を速くするには、回転運動方程式から、入力軸周りの慣性モーメントを小さくすればよいことがわかる。入力軸が中実円筒部材の場合の慣性モーメントは、長さと密度一定で比較したとき、外径の4乗に比例して大きくなる。本実施形態のクラッチ装置1では、ここでいう「入力軸」に対応するサンギア31は中空円筒部材であるが、この傾向は変わらない。
【0089】
図3の上段に、2kh型の不思議遊星歯車減速機の模式図を示す。また、図4の上段に、3k型の不思議遊星歯車減速機の模式図を示す。ここで、サンギアをA、プラネタリギアをB、第1リングギアをC、第2リングギアをD、キャリアをSとする。2kh型と3k型とを比較すると、3k型は、2kh型にサンギアAを加えた構成である。
【0090】
2kh型の場合、入力軸周りの慣性モーメントが最も小さくなるのは、構成要素の中で最も径方向内側に位置するキャリアSを入力要素とする場合である(図3の下段の表参照)。
【0091】
一方、3kh型の場合、入力軸周りの慣性モーメントが最も小さくなるのは、構成要素の中で最も径方向内側に位置するサンギアAを入力要素とする場合である(図4の下段の表参照)。
【0092】
慣性モーメントの大きさは、2kh型においてキャリアSを入力要素とした場合の方が、3k型においてサンギアAを入力要素とした場合よりも大きい。したがって、初期応答の速さが要求される電動のクラッチ装置において、その減速機に不思議遊星歯車減速機を採用する場合、3k型で、かつ、サンギアAを入力要素とすることが望ましい。
【0093】
また、電動のクラッチ装置では必要荷重が数千~10数千Nと非常に大きく、高応答と高荷重を両立させるためには、減速機の減速比を大きくとる必要がある。2kh型と3k型において、同一歯車諸元でそれぞれの最大減速比を比較すると、3k型の最大減速比が2kh型の最大減速比に対し約2倍となり、大きい。また、3k型において大減速比が取り出せるのは、慣性モーメントが最も小さくなる、サンギアAを入力要素としたときである(図4の下段の表参照)。したがって、高応答と高荷重を両立させる上で最適な構成は、3k型で、かつ、サンギアAを入力要素とする構成であるといえる。
【0094】
本実施形態では、減速機30は、サンギア31(A)を入力要素、第2リングギア35(D)を出力要素、第1リングギア34(C)を固定要素とする3k型の不思議遊星歯車減速機である。そのため、サンギア31周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、減速機30の減速比を大きくすることができる。したがって、クラッチ装置1において高応答と高荷重を両立させることができる。
【0095】
次に、状態変更部80が弾性変形部としての皿ばね81を有することによる効果について説明する。
【0096】
図5に示すように、従動カム50の軸方向の移動、すなわち、ストロークとクラッチ70に作用する荷重との関係について、軸方向に弾性変形し難い剛体でクラッチ70を押す構成(図5の一点鎖線参照)と、本実施形態のように軸方向に弾性変形可能な皿ばね81でクラッチ70を押す構成(図5の実線参照)とを比較すると、ストロークのばらつきが同じとき、皿ばね81でクラッチ70を押す構成の方が、剛体でクラッチ70を押す構成よりも、クラッチ70に作用する荷重のばらつきが小さいことがわかる。これは、剛体でクラッチ70を押す構成と比較し、皿ばね81を介することにより、合成ばね定数を低減できるため、アクチュエータ起因の従動カム50のストロークのばらつきに対する荷重のばらつきを低減することができるからである。本実施形態では、状態変更部80が弾性変形部としての皿ばね81を有するため、従動カム50のストロークのばらつきに対する荷重のばらつきを低減でき、クラッチ70に狙い荷重を容易に作用させることができる。
【0097】
以下、本実施形態の各部の構成について、より詳細に説明する。
【0098】
<1>図6に示すように、本実施形態では、サンギア31のサンギア歯部311の軸方向の長さであるギア幅L3は、サンギア歯部311とプラネタリギア歯部321との軸方向における重複すなわち噛み合いの長さである、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2がプラネタリギア32のプラネタリギア歯部321の軸方向の長さであるギア幅L1より小さくなるよう設定されている。つまり、サンギア31は、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2がプラネタリギア32のギア幅L1より小さくなるよう形成され、設けられている。
【0099】
本実施形態では、サンギア31のギア幅L3は、プラネタリギア32のギア幅L1より小さい。そのため、サンギア31の軸方向においてサンギア31とプラネタリギア32とがどのような位置にあっても、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2は、プラネタリギア32のギア幅L1より小さくなる。
【0100】
<2>本実施形態では、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2は、プラネタリギア32のギア幅L1の約50%の長さに設定されている。ここで、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2は、プラネタリギア32のギア幅L1の20~50%の長さに設定されていることが望ましい。
【0101】
以下、さらに詳細な構成および作用等について説明する。
【0102】
図7に示すように、第2リングギア35に負荷トルクMDが作用している状態で、サンギア31にトルクMAを加えると、第2リングギア35の負荷トルクMDによってプラネタリギア32に作用する力FD、MAによってプラネタリギア32に作用する力FA、第1リングギア34の負荷トルクMCによってプラネタリギア32に作用する力FCの3力によって、プラネタリギア32の軸AxP周りに生じるモーメントが0となり、つり合いが保たれる。
【0103】
図7、8に示すように、プラネタリギア歯部321に対し作用する力FCと力FDとは、ねじれの関係である。そのため、プラネタリギア歯部321と第1リングギア歯部341および第2リングギア歯部351との間の隙間の範囲で、プラネタリギア32を軸AxPが傾くような方向である方向R0に回転させようとするモーメントが発生する。これにより、プラネタリギア32は、軸AxPが傾くようにキャリア33に対し回転し得る。
【0104】
キャリア33は、例えば他部材であるロータ23との軸方向の隙間であるアキシャル隙間SpAおよび径方向の隙間であるラジアル隙間SpRにより(図6参照)、方向R1、方向R2、方向R3、方向R4等に回転し得る(図9参照)。この回転がプラネタリギア32の方向R0の回転に加算され、プラネタリギア32は、キャリア33以外の他部材に対し大きく回転し傾き得る(図9における破線参照)。
【0105】
ここで、サンギア31に対しプラネタリギア32が傾くと、傾く前にサンギア31のサンギア歯部311とプラネタリギア32のプラネタリギア歯部321との間に形成されていたクリアランスが、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い幅と傾き角に比例した量だけ減少する。このクリアランスが0になると、サンギア31とプラネタリギア32との間に所謂両歯噛み合い現象が発生するおそれがある。
【0106】
<3>図10に示すように、本実施形態では、サンギア31に対するプラネタリギア32の傾き角が0の場合のサンギア31とプラネタリギア32との噛み合いピッチ円Cp1上での円周方向のバックラッシをC、サンギア31に対するプラネタリギア32の傾き角をα、プラネタリギア32のギア幅をL1、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さをL2とすると、サンギア31およびプラネタリギア32は、C-L2・tanα≧0、L1>L2となるよう形成されている。つまり、本実施形態では、C、α、L1、L2は、C-L2・tanα≧0、L1>L2となるよう設定されている。
【0107】
図11に示すように、サンギア31に対するプラネタリギア32の傾き角がαのときのサンギア歯部311とプラネタリギア歯部321との残隙間であるC-L2・tanαは、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2が大きくなるに従って、小さくなる。残隙間であるC-L2・tanαが0になると、サンギア歯部311とプラネタリギア歯部321とが干渉する。つまり、干渉の発生条件は、C-L2・tanα<0である。
【0108】
図10に、比較形態のサンギア歯部312を二点鎖線で示す。サンギア歯部312は、ギア幅、および、プラネタリギア32との噛み合い長さがL1、すなわち、プラネタリギア32のギア幅L1と同じである。比較形態の場合、サンギア31に対するプラネタリギア32の傾き角αが比較的小さくても、プラネタリギア歯部321の軸AxP方向の両端が、隣り合うサンギア歯部312に接触し、両歯噛み合い現象が発生する(図10参照)。
【0109】
一方、本実施形態のサンギア31およびプラネタリギア32は、上述のように、C-L2・tanα≧0、L1>L2となるよう形成されている。そのため、サンギア31に対するプラネタリギア32の傾き角αが上記比較形態の例と同程度の場合、プラネタリギア歯部321の軸AxP方向の両端が、隣り合うサンギア歯部311に接触することはなく、両歯噛み合い現象の発生を抑制できる。
【0110】
比較形態において、サンギア歯部312とプラネタリギア歯部321との干渉を抑制させるためには、(1)「αを小さくする」、(2)「サンギア歯部311およびプラネタリギア歯部321の歯厚を低減する」等の対策が考えられる。
【0111】
(1)「αを小さくする」ためには、キャリア33とロータ23とのアキシャル隙間SpA、ラジアル隙間SpRを低減することが考えられる。しかしながら、この場合、部材の加工精度を向上させる必要があり、コストアップにつながるおそれがある。
【0112】
また、(2)「サンギア歯部311およびプラネタリギア歯部321の歯厚を低減する」と、歯元の曲げ強さが低減したり、バックラッシが大きくなり歯打ち音が増大したりする等、性能的なデメリットが生じるおそれがある。
【0113】
一方、本実施形態では、サンギア31およびプラネタリギア32を、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2がプラネタリギア32のギア幅L1より小さくなるよう設定、すなわち、L1>L2となるよう形成することで、上記(1)、(2)の対策の上記問題点を招くことなく、サンギア歯部311とプラネタリギア歯部321との干渉を抑制できる。
【0114】
本実施形態では、L1>L2とすることで、サンギア歯部311とプラネタリギア歯部321との接触面積が減少し、面圧が上昇し得るが、3k型の不思議遊星歯車減速機を採用しており、サンギア31にかかるトルクは小さく、噛み合い長さL2を半減、すなわち、プラネタリギア32のギア幅L1の約50%の長さにしても強度的な問題は生じない。
【0115】
<5>モータ20は、ロータ23に設けられた「永久磁石」としてのマグネット230を有する(図6参照)。ここで、マグネット230は、ロータ23の外周壁に設けられている。つまり、モータ20は、表面磁石型(SPM)モータである。
【0116】
<11>本実施形態では、クラッチ装置1は、図示しないオイル供給部を備えている。オイル供給部は、一端がクラッチ空間620に露出するよう、出力軸62において通路状に形成されている。オイル供給部の他端は、図示しないオイル供給源に接続される。これにより、オイル供給部の一端からクラッチ空間620のクラッチ70にオイルが供給される。
【0117】
ECU10は、オイル供給部からクラッチ70に供給するオイルの量を制御する。クラッチ70に供給されたオイルは、クラッチ70を潤滑および冷却可能である。このように、本実施形態では、クラッチ70は、湿式クラッチであり、オイルにより冷却され得る。
【0118】
本実施形態では、「回転並進部」としてのボールカム2は、「回転部」としての駆動カム40とハウジング12との間に収容空間120を形成している。ここで、収容空間120は、駆動カム40に対しクラッチ70とは反対側においてハウジング12の内側に形成されている。モータ20および減速機30は、収容空間120に設けられている。
【0119】
クラッチ70は、駆動カム40に対し収容空間120とは反対側の空間であるクラッチ空間620に設けられている。
【0120】
本実施形態では、クラッチ装置1は、「シール部材」としての内側シール部材401、外側シール部材402を備えている。内側シール部材401、外側シール部材402は、例えばゴム等の弾性材料により環状に形成されている。
【0121】
<12>内側シール部材401、外側シール部材402は、所謂Oリングである。内側シール部材401の内径および外径は、外側シール部材402の内径および外径より小さい。
【0122】
内側シール部材401は、ハウジング側スプライン溝部127とハウジング段差面125との間のハウジング内筒部121の外周壁に形成された環状のシール溝部128に設けられている。外側シール部材402は、駆動カム外筒部44の外周壁に形成された環状のシール溝部441に設けられている。すなわち、外側シール部材402は、「回転部」としての駆動カム40の径方向外側において、駆動カム40に接触するよう設けられている。
【0123】
駆動カム本体41の内周壁は、内側シール部材401の外縁部と摺動可能である。すなわち、内側シール部材401は、「回転部」としての駆動カム40の径方向内側において、駆動カム40に接触するよう設けられている。内側シール部材401は、径方向に弾性変形しつつ、ハウジング内筒部121と駆動カム本体41の内周壁との間を気密または液密にシールしている。
【0124】
ここで、外側シール部材402は、内側シール部材401の軸方向から見たとき、内側シール部材401の径方向外側に位置するよう設けられている(図1、2参照)。
【0125】
固定筒部131の内周壁は、外側シール部材402の外縁部と摺動可能である。すなわち、外側シール部材402は、固定部130の固定筒部131に接触するよう設けられている。外側シール部材402は、径方向に弾性変形しつつ、駆動カム外筒部44と固定筒部131の内周壁との間を気密または液密にシールしている。
【0126】
上述のように設けられた内側シール部材401、および、外側シール部材402により、モータ20および減速機30を収容する収容空間120と、クラッチ70が設けられたクラッチ空間620との間を気密または液密に保持可能である。これにより、例えばクラッチ70において摩耗粉等の異物が発生したとしても、当該異物がクラッチ空間620から収容空間120へ侵入するのを抑制できる。そのため、異物によるモータ20または減速機30の作動不良を抑制できる。
【0127】
本実施形態では、内側シール部材401、外側シール部材402により、収容空間120とクラッチ空間620との間が気密または液密に保持されているため、クラッチ70に供給されたオイル中に摩耗粉等の異物が含まれていても、当該異物を含むオイルがクラッチ空間620から収容空間120へ流れ込むのを抑制できる。
【0128】
本実施形態では、ハウジング12は、外側シール部材402の径方向外側に対応する部位から内側シール部材401の径方向内側に対応する部位まで閉じた形状となるよう形成されている(図1、2参照)。
【0129】
本実施形態では、ハウジング12との間で収容空間120を形成する駆動カム40は、ハウジング12に対し相対回転するものの、ハウジング12に対し軸方向には相対移動しない。そのため、クラッチ装置1の作動時、収容空間120の容積の変化を抑制でき、収容空間120に負圧が発生するのを抑制できる。これにより、異物を含むオイル等がクラッチ空間620側から収容空間120へ吸い込まれるのを抑制できる。
【0130】
また、駆動カム40の内縁部に接触する内側シール部材401は、駆動カム40と周方向において摺動するものの、軸方向においては摺動しない。また、固定部130の固定筒部131の内周壁に接触する外側シール部材402は、固定部130と周方向において摺動するものの、軸方向においては摺動しない。
【0131】
<10>図1に示すように、駆動カム本体41は、駆動カム外筒部44のクラッチ70とは反対側の面よりもクラッチ70とは反対側に位置している。すなわち、「回転部」としての駆動カム40は、軸方向に屈曲することで、駆動カム40の内縁部である駆動カム本体41と、駆動カム40の外縁部である駆動カム外筒部44とが軸方向において異なる位置となるよう形成されている。
【0132】
従動カム本体51は、駆動カム本体41のクラッチ70側において駆動カム内筒部42の径方向内側に位置するよう設けられている。すなわち、駆動カム40と従動カム50とは、軸方向において、入れ子状に設けられている。
【0133】
より詳細には、従動カム本体51は、駆動カム外筒部44、第2リングギア35および駆動カム内筒部42の径方向内側に位置している。さらに、サンギア31のサンギア歯部311、キャリア33およびプラネタリギア32は、駆動カム本体41および従動カム本体51の径方向外側に位置している。これにより、減速機30およびボールカム2を含むクラッチ装置1の軸方向の体格を大幅に小さくできる。
【0134】
また、本実施形態では、図1に示すように、駆動カム本体41の軸方向において、駆動カム本体41とサンギア31とキャリア33とコイル22のボビン221および巻線222とは、一部が重複するよう配置されている。言い換えると、コイル22は、一部が、駆動カム本体41、サンギア31およびキャリア33の軸方向の一部の径方向外側に位置するよう設けられている。これにより、クラッチ装置1の軸方向の体格をさらに小さくできる。
【0135】
また、本実施形態では、クラッチ装置1は、スラストベアリング161、スラストベアリングワッシャ162を備えている。スラストベアリングワッシャ162は、例えば金属により略円環の板状に形成され、一方の面がハウジング段差面125に当接するよう設けられている。スラストベアリング161は、スラストベアリングワッシャ162の他方の面と駆動カム本体41の従動カム50とは反対側の面との間に設けられている。スラストベアリング161は、駆動カム40からスラスト方向の荷重を受けつつ駆動カム40を軸受けする。本実施形態では、クラッチ70側から従動カム50を経由して駆動カム40に作用するスラスト方向の荷重は、スラストベアリング161およびスラストベアリングワッシャ162を経由してハウジング段差面125に作用する。そのため、ハウジング段差面125により駆動カム40を安定して軸受けできる。
【0136】
以上説明したように、<1>本実施形態では、サンギア31のギア幅L3は、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2がプラネタリギア32のギア幅L1より小さくなるよう設定されている。そのため、サンギア31に対しプラネタリギア32が傾いたとしても、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合いピッチ円Cp1上での円周方向の隙間を確保でき、サンギア31とプラネタリギア32との間における両歯噛み合い現象の発生を抑制できる。したがって、減速機30の作動を良好に保つことができる。
【0137】
また、<2>本実施形態では、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2は、プラネタリギア32のギア幅L1の約50%の長さに設定されている。
【0138】
そのため、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2がプラネタリギア32のギア幅L1より小さくなるよう確実に設定できる。なお、本実施形態では、3k型の不思議遊星歯車減速機を採用しており、サンギア31にかかるトルクは小さく、噛み合い長さL2をプラネタリギア32のギア幅L1の約50%の長さにしても強度的な問題は生じない。
【0139】
また、<3>本実施形態では、サンギア31に対するプラネタリギア32の傾き角が0の場合のサンギア31とプラネタリギア32との噛み合いピッチ円Cp1上での円周方向のバックラッシをC、サンギア31に対するプラネタリギア32の傾き角をα、プラネタリギア32のギア幅をL1、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さをL2とすると、サンギア31およびプラネタリギア32は、C-L2・tanα≧0、L1>L2となるよう形成されている。
【0140】
そのため、サンギア31とプラネタリギア32との間における両歯噛み合い現象の発生を確実に抑制できる。
【0141】
また、<5>本実施形態では、モータ20は、ロータ23に設けられたマグネット230を有する。つまり、モータ20は、「永久磁石」としてのマグネット230を用いたブラシレス直流モータである。
【0142】
なお、本実施形態では、内側シール部材401および外側シール部材402は、収容空間120とクラッチ空間620との間を液密に保持可能である。これにより、クラッチ70を冷却するためクラッチ70に供給されたオイル中に鉄粉等の磁性粒子が含まれていても、当該磁性粒子を含むオイルがクラッチ空間620から収容空間120へ流れ込むのを抑制できる。そのため、磁性粒子がモータ20のマグネット230に吸着されるのを抑制し、モータ20の回転性能の低下、および、作動不良を抑制できる。
【0143】
また、<6>本実施形態では、減速機30は、キャリア33、第1リングギア34、第2リングギア35を有する。
【0144】
キャリア33は、プラネタリギア32を回転可能に支持し、サンギア31に対し相対回転可能である。第1リングギア34は、プラネタリギア32に噛み合い可能である。第2リングギア35は、プラネタリギア32に噛み合い可能、かつ、第1リングギア34とは歯部の歯数が異なるよう形成され、ボールカム2の駆動カム40にトルクを出力する。
【0145】
本実施形態では、減速機30は、数ある不思議遊星歯車減速機の構成および入出力パターンの中で最も高応答かつ高荷重の構成に対応している。そのため、減速機30の高応答と高荷重とを両立することができる。
【0146】
また、本実施形態では、上述のように、内側シール部材401および外側シール部材402は、収容空間120とクラッチ空間620との間を液密に保持可能である。これにより、多数の噛み合い部を有する「不思議遊星歯車減速機」としての減速機30に対する、微細鉄粉を含んだオイルの影響、例えば損傷、摩耗、原則効率低下等を抑制できる。
【0147】
また、<7>本実施形態では、第1リングギア34は、ハウジング12に固定されている。第2リングギア35は、駆動カム40と一体に回転可能に設けられている。
【0148】
本実施形態では、「不思議遊星歯車減速機」としての減速機30の高速回転部分の慣性モーメントが小さくなるよう、上記のように各部を連結することで、クラッチ装置1の応答性を向上できる。
【0149】
また、<8>本実施形態では、駆動カム40は、第2リングギア35と一体に形成されている。そのため、部材点数および組付け工数を低減でき、より一層低コスト化を図ることができる。
【0150】
また、<9>本実施形態では、「回転並進部」の「回転部」は、軸方向の一方の面に形成された複数の駆動カム溝400を有する駆動カム40である。「並進部」は、軸方向の一方の面に形成された複数の従動カム溝500を有する従動カム50である。「回転並進部」は、駆動カム40、従動カム50、および、駆動カム溝400と従動カム溝500との間で転動可能に設けられたボール3を有するボールカム2である。
【0151】
そのため、「回転並進部」が例えば「すべりねじ」により構成される場合と比べ、「回転並進部」の効率を向上できる。また、「回転並進部」が例えば「ボールねじ」により構成される場合と比べ、コストを低減できるとともに、「回転並進部」の軸方向の体格を小さくでき、クラッチ装置をより小型にできる。
【0152】
また、<10>本実施形態では、「回転部」としての駆動カム40は、内縁部である駆動カム本体41と外縁部である駆動カム外筒部44とが軸方向において異なる位置となるよう形成されている。
【0153】
そのため、駆動カム40と、「並進部」としての従動カム50および減速機30とを、軸方向において入れ子状に配置でき、クラッチ装置1の軸方向の体格を小さくできる。
【0154】
また、<11>本実施形態では、モータ20および減速機30は、駆動カム40に対しクラッチ70とは反対側においてハウジング12の内側に形成された収容空間120に設けられている。クラッチ70は、駆動カム40に対し収容空間120とは反対側の空間であるクラッチ空間620に設けられている。
【0155】
「シール部材」としての内側シール部材401、外側シール部材402は、環状に形成され、「回転部」としての駆動カム40に接触するよう設けられ、収容空間120とクラッチ空間620との間を気密または液密に保持可能である。
【0156】
これにより、例えばクラッチ70において摩耗粉等の異物が発生したとしても、当該異物がクラッチ空間620から収容空間120へ侵入するのを抑制できる。そのため、異物によるモータ20または減速機30の作動不良を抑制できる。したがって、異物によるクラッチ装置1の作動不良を抑制できる。
【0157】
本実施形態では、「シール部材」としての内側シール部材401、外側シール部材402を「回転部」としての駆動カム40に接触するよう配置し、収容空間120とクラッチ空間620との間を気密または液密に保持している。そのため、モータ20および減速機30を収容する収容空間120に微細鉄粉等を含むオイル等が侵入するのを抑制でき、長期間にわたりクラッチ装置1の良好な性能を維持できる。
【0158】
また、本実施形態では、内側シール部材401および外側シール部材402は、減速機30で減速され大きな駆動トルクに増幅された後の部品である駆動カム40に接触するよう設けられている。そのため、「シール部材」によるシールに伴う損失トルクの全体に占める割合が小さくなり、効率上、有利である。なお、仮に「シール部材」を減速機30の入力側の部品であるロータ23に接触するよう設けた場合、小さな駆動トルクに対して、「シール部材」による損失トルクが奪われるため、効率が大幅に低下するおそれがる。
【0159】
また、本実施形態では、動力の流れ経路において、駆動カム40よりも上流側を収容空間120とし、内側シール部材401および外側シール部材402によりシールしている。また、内側シール部材401および外側シール部材402は、駆動カム40とともにハウジング12に対し相対回転するものの、ハウジング12に対し軸方向には相対移動しない。そのため、駆動カム40が回転しても、収容空間120の容積が変化することはない。これにより、「並進部」としての従動カム50の並進運動による空間容積の変化の影響を受けず、例えば米国特許出願公開2015/0144453号明細書に記載された蛇腹状のシール部材等の特別な容積変化吸収手段は不要である。
【0160】
また、<12>本実施形態では、「シール部材」としての内側シール部材401、外側シール部材402は、Oリングである。
【0161】
そのため、クラッチ装置1の構成を簡単かつ低コストにできる。
【0162】
また、<13>本実施形態では、状態変更部80は、「並進部」としての従動カム50の軸方向に弾性変形可能な「弾性変形部」としての皿ばね81を有している。
【0163】
モータ20の回転角度位置を制御することにより、皿ばね81の変位および荷重特性に基づいて、クラッチ70の推力制御を高精度に行うことができる。そのため、従動カム50のストロークのばらつきに対する、クラッチ70に作用する荷重のばらつきを低減することができる。これにより、高精度な荷重制御が可能となり、クラッチ装置1を高精度に制御することができる。
【0164】
(第2実施形態)
第2実施形態によるクラッチ装置を図12に示す。第2実施形態は、クラッチや状態変更部の構成等が第1実施形態と異なる。
【0165】
本実施形態では、固定フランジ11の内周壁と入力軸61の外周壁との間には、ボールベアリング141、143が設けられる。これにより、入力軸61は、ボールベアリング141、143を介して固定フランジ11により軸受けされる。
【0166】
ハウジング12は、外壁の一部が固定フランジ11の壁面に当接し、ハウジング内筒部121の内周壁が固定フランジ11の外周壁に当接するよう固定フランジ11に固定される。ハウジング12は、図示しないボルト等により固定フランジ11に固定される。ここで、ハウジング12は、固定フランジ11および入力軸61に対し同軸に設けられる。
【0167】
ハウジング12に対するモータ20、減速機30、ボールカム2等の配置は、第1実施形態と同様である。
【0168】
本実施形態では、出力軸62は、軸部621、板部622、筒部623、カバー625を有している。軸部621は、略円筒状に形成されている。板部622は、軸部621の一端から径方向外側へ環状の板状に延びるよう軸部621と一体に形成されている。筒部623は、板部622の外縁部から軸部621とは反対側へ略円筒状に延びるよう板部622と一体に形成されている。出力軸62は、ボールベアリング142を介して入力軸61により軸受けされる。筒部623の内側には、クラッチ空間620が形成されている。
【0169】
クラッチ70は、クラッチ空間620において入力軸61と出力軸62との間に設けられている。クラッチ70は、支持部73、摩擦板74、摩擦板75、プレッシャプレート76を有している。支持部73は、出力軸62の板部622に対し従動カム50側において、入力軸61の端部の外周壁から径方向外側へ延びるよう略円環の板状に形成されている。
【0170】
摩擦板74は、略円環の板状に形成され、支持部73の外縁部において出力軸62の板部622側に設けられている。摩擦板74は、支持部73に固定されている。摩擦板74は、支持部73の外縁部が板部622側に変形することにより、板部622に接触可能である。
【0171】
摩擦板75は、略円環の板状に形成され、支持部73の外縁部において出力軸62の板部622とは反対側に設けられている。摩擦板75は、支持部73に固定されている。
【0172】
プレッシャプレート76は、略円環の板状に形成され、摩擦板75に対し従動カム50側に設けられている。
【0173】
摩擦板74と板部622とが互いに接触、つまり係合した状態である係合状態では、摩擦板74と板部622との間に摩擦力が生じ、当該摩擦力の大きさに応じて摩擦板74と板部622との相対回転が規制される。一方、摩擦板74と板部622とが互いに離間、つまり係合していない状態である非係合状態では、摩擦板74と板部622との間に摩擦力は生じず、摩擦板74と板部622との相対回転は規制されない。
【0174】
クラッチ70が係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、クラッチ70を経由して出力軸62に伝達される。一方、クラッチ70が非係合状態のとき、入力軸61に入力されたトルクは、出力軸62に伝達されない。
【0175】
カバー625は、略円環状に形成され、プレッシャプレート76の摩擦板75とは反対側を覆うよう出力軸62の筒部623に設けられている。
【0176】
本実施形態では、クラッチ装置1は、第1実施形態で示した状態変更部80に代えて状態変更部90を備えている。状態変更部90は、「弾性変形部」としてのダイアフラムスプリング91、リターンスプリング92、レリーズベアリング93等を有している。
【0177】
ダイアフラムスプリング91は、略円環の皿ばね状に形成され、軸方向の一端すなわち外縁部がプレッシャプレート76に当接するようカバー625に設けられている。ここで、ダイアフラムスプリング91は、外縁部が内縁部に対しクラッチ70側に位置するよう形成され、内縁部と外縁部との間の部位がカバー625により支持されている。また、ダイアフラムスプリング91は、軸方向に弾性変形可能である。これにより、ダイアフラムスプリング91は、軸方向の一端すなわち外縁部によりプレッシャプレート76を摩擦板75側へ付勢している。これにより、プレッシャプレート76は、摩擦板75に押し付けられ、摩擦板74は、板部622に押し付けられている。すなわち、クラッチ70は、通常、係合状態となっている。
【0178】
本実施形態では、クラッチ装置1は、通常、係合状態となる、所謂常閉式(ノーマリークローズタイプ)のクラッチ装置である。
【0179】
リターンスプリング92は、例えばコイルスプリングであり、一端が従動カム段差面53に当接するよう従動カム段差面53に対し従動カム本体51とは反対側に設けられている。
【0180】
レリーズベアリング93は、リターンスプリング92の他端とダイアフラムスプリング91の内縁部との間に設けられている。リターンスプリング92は、レリーズベアリング93をダイアフラムスプリング91側へ付勢している。レリーズベアリング93は、ダイアフラムスプリング91からスラスト方向の荷重を受けつつダイアフラムスプリング91を軸受けする。なお、リターンスプリング92の付勢力は、ダイアフラムスプリング91の付勢力より小さい。
【0181】
図12に示すように、ボール3が駆動カム溝400および従動カム溝500の一端に位置するとき、駆動カム40と従動カム50との距離は、比較的小さく、レリーズベアリング93と従動カム50の従動カム段差面53との間には、隙間Sp2が形成されている。そのため、ダイアフラムスプリング91の付勢力により摩擦板74が板部622に押し付けられ、クラッチ70は係合状態であり、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達は許容されている。
【0182】
ここで、ECU10の制御によりモータ20のコイル22に電力が供給されると、モータ20が回転し、減速機30からトルクが出力され、駆動カム40がハウジング12に対し相対回転する。これにより、ボール3が駆動カム溝400および従動カム溝500の一端から他端側へ転動する。そのため、従動カム50は、ハウジング12および駆動カム40に対し軸方向に相対移動、すなわち、クラッチ70側へ移動する。これにより、レリーズベアリング93と従動カム50の従動カム段差面53との間の隙間Sp2が小さくなり、リターンスプリング92は、従動カム50とレリーズベアリング93との間で軸方向に圧縮される。
【0183】
従動カム50がクラッチ70側にさらに移動すると、リターンスプリング92が最大限圧縮され、レリーズベアリング93が従動カム50によりクラッチ70側へ押圧される。これにより、レリーズベアリング93は、ダイアフラムスプリング91の内縁部を押圧しつつ、ダイアフラムスプリング91からの反力に抗してクラッチ70側へ移動する。
【0184】
レリーズベアリング93がダイアフラムスプリング91の内縁部を押圧しつつクラッチ70側へ移動すると、ダイアフラムスプリング91は、内縁部がクラッチ70側へ移動するとともに、外縁部がクラッチ70とは反対側へ移動する。これにより、摩擦板74が板部622から離間し、クラッチ70の状態が係合状態から非係合状態に変更される。その結果、入力軸61と出力軸62との間のトルクの伝達が遮断される。
【0185】
ECU10は、クラッチ伝達トルクが0になると、モータ20の回転を停止させる。これにより、クラッチ70の状態が非係合状態に維持される。このように、状態変更部90のダイアフラムスプリング91は、従動カム50から軸方向の力を受け、駆動カム40に対する従動カム50の軸方向の相対位置に応じてクラッチ70の状態を係合状態または非係合状態に変更可能である。
【0186】
本実施形態においても、「シール部材」としての内側シール部材401、外側シール部材402は、収容空間120とクラッチ空間620との間を気密または液密に保持可能である。
【0187】
本実施形態では、クラッチ装置1は、第1実施形態で示したオイル供給部を備えていない。すなわち、本実施形態では、クラッチ70は、乾式クラッチである。
【0188】
このように、本発明は、乾式クラッチを備えた常閉式のクラッチ装置にも適用可能である。
【0189】
以上説明したように、<13>本実施形態では、状態変更部90は、「並進部」としての従動カム50の軸方向に弾性変形可能な「弾性変形部」としてのダイアフラムスプリング91を有している。
【0190】
モータ20の回転角度位置を制御することにより、ダイアフラムスプリング91の変位および荷重特性に基づいて、クラッチ70の推力制御を高精度に行うことができる。そのため、従動カム50のストロークのばらつきに対する、クラッチ70に作用する荷重のばらつきを低減することができる。これにより、第1実施形態と同様、高精度な荷重制御が可能となり、クラッチ装置1を高精度に制御することができる。
【0191】
(第3実施形態)
第3実施形態によるクラッチ装置の一部を図13に示す。第3実施形態は、サンギア31の構成等が第1実施形態と異なる。
【0192】
本実施形態では、サンギア31は、比重がロータ23の比重より小さな材料によりロータ23とは別体に形成されている。より具体的には、サンギア31は、例えば樹脂により形成されている。ここで、樹脂は、ロータ23を形成する純鉄より比重が小さい。
【0193】
以上説明したように、<4>本実施形態では、サンギア31は、比重がロータ23の比重より小さな材料によりロータ23とは別体に形成されている。
【0194】
そのため、「入力軸」としてのサンギア31周りの慣性モーメントをより小さくでき、さらなる高応答化を図ることができる。また、低コストかつ歯打ち音の低減を図ることができる。
【0195】
なお、本実施形態では、3k型の不思議遊星歯車減速機を採用しており、サンギア31にかかるトルクは小さく、サンギア31を比重の小さな材料により形成しても、強度的な問題は生じない。
【0196】
(第4実施形態)
第4実施形態によるクラッチ装置の一部を図14に示す。第4実施形態は、シール部材の構成等が第1実施形態と異なる。
【0197】
本実施形態では、「シール部材」は、内側シール部材401(図14では図示せず)、および、外側シール部材404を含む。外側シール部材404は、内側シール部材401と同様、例えばゴム等の弾性材料により環状に形成されている。より詳細には、外側シール部材404は、シール環状部940、第1外リップ部941、第2外リップ部942、第1内リップ部943、第2内リップ部944を有している。シール環状部940、第1外リップ部941、第2外リップ部942、第1内リップ部943、第2内リップ部944は、一体に形成されている。
【0198】
シール環状部940は、略円環状に形成されている。第1外リップ部941は、シール環状部940から径方向外側かつ軸方向の一方側へ傾斜して延びるようシール環状部940の周方向の全範囲において環状に形成されている。第2外リップ部942は、シール環状部940から径方向外側かつ軸方向の他方側へ傾斜して延びるようシール環状部940の周方向の全範囲において環状に形成されている。第1内リップ部943は、シール環状部940から径方向内側かつ軸方向の一方側へ傾斜して延びるようシール環状部940の周方向の全範囲において環状に形成されている。第2内リップ部944は、シール環状部940から径方向内側かつ軸方向の他方側へ傾斜して延びるようシール環状部940の周方向の全範囲において環状に形成されている。これにより、外側シール部材404は、軸を全て含む仮想平面による断面において、X字状となるよう形成されている(図14参照)。
【0199】
図14に示すように、外側シール部材404は、駆動カム外筒部44の外周壁に形成された環状のシール溝部441に設けられている。ここで、第1内リップ部943、第2内リップ部944は、先端部がシール溝部441に接触している。すなわち、外側シール部材404は、「回転部」としての駆動カム40の径方向外側において、駆動カム40に接触するよう設けられている。
【0200】
第1外リップ部941、第2外リップ部942は、先端部が固定部130の固定筒部131の内周壁に接触している。そのため、外側シール部材404と固定部130との接触面積は、第1実施形態における外側シール部材402と固定部130との接触面積と比べ、小さい。これにより、駆動カム40の回転時の外側シール部材404に作用する摺動抵抗を小さくできる。
【0201】
外側シール部材404の第1外リップ部941および第2外リップ部942は、径方向に弾性変形しつつ、駆動カム外筒部44と固定筒部131の内周壁との間を気密または液密にシールしている。外側シール部材404は、所謂リップシールである。
【0202】
本実施形態は、上述した点以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0203】
以上説明したように、<12>本実施形態では、「シール部材」としての外側シール部材404は、リップシールである。
【0204】
そのため、外側シール部材404と固定部130との接触面積を小さくできる。これにより、駆動カム40の回転時、外側シール部材404に作用する摺動抵抗を小さくできる。したがって、クラッチ装置1の作動時の効率の低下を抑制できる。
【0205】
(第5実施形態)
第5実施形態によるクラッチ装置の一部を図15に示す。第5実施形態は、シール部材の構成等が第1実施形態と異なる。
【0206】
本実施形態では、「シール部材」は、内側シール部材401(図15では図示せず)、および、外側シール部材405を含む。外側シール部材405は、シール本体95、金属環96を有している。シール本体95は、例えばゴム等の弾性材料により環状に形成されている。金属環96は、金属により環状に形成されている。
【0207】
より詳細には、シール本体95は、シール内筒部951、シール板部952、シール外筒部953、シールリップ部954を有している。シール内筒部951、シール板部952、シール外筒部953、シールリップ部954は、一体に形成されている。
【0208】
シール内筒部951は、略円筒状に形成されている。シール板部952は、シール内筒部951の一方の端部から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。シール外筒部953は、シール板部952の外縁部からシール内筒部951と同じ側へ延びるよう略円筒状に形成されている。ここで、シール外筒部953のシール板部952とは反対側の端部は、シール内筒部951のシール板部952とは反対側の端部よりシール板部952側に位置している。シールリップ部954は、シール外筒部953のシール板部952とは反対側の端部から径方向外側へ突出するよう環状に形成されている。ここで、シールリップ部954は、軸を全て含む仮想平面による断面において、外縁部である先端部の形状が略直角となるよう形成されている(図15参照)。
【0209】
金属環96は、金属筒部961、金属板部962を有している。金属筒部961、金属板部962は、一体に形成されている。
【0210】
金属筒部961は、略円筒状に形成されている。金属板部962は、金属筒部961の一方の端部から径方向外側へ延びるよう環状の板状に形成されている。これにより、金属環96は、軸を全て含む仮想平面による断面において、L字状となるよう形成されている(図15参照)。
【0211】
金属環96は、金属筒部961の内周壁がシール内筒部951の外周壁に接し、金属板部962の金属筒部961とは反対側の面がシール板部952のシール内筒部951側の面に接するようシール本体95と一体的に形成されている。ここで、「一体的に形成」とは、例えば複数の部材をインサート成型等により一体的に形成することを意味する(以下、同じ)。
【0212】
図15に示すように、外側シール部材405は、駆動カム板部43の外周壁に形成された環状のシール溝部431に設けられている。ここで、シール溝部431は、駆動カム板部43の駆動カム外筒部44とは反対側の端面から駆動カム外筒部44側へ延びるよう形成されている。
【0213】
外側シール部材405は、シール内筒部951の内周壁がシール溝部431に接触している。すなわち、外側シール部材405は、「回転部」としての駆動カム40の径方向外側において、駆動カム40に接触するよう設けられている。
【0214】
シールリップ部954は、外縁部である先端部が固定部130の固定筒部131の内周壁に接触している。そのため、外側シール部材405と固定部130との接触面積は、第1実施形態における外側シール部材402と固定部130との接触面積と比べ、大幅に小さい。これにより、駆動カム40の回転時の外側シール部材405に作用する摺動抵抗を大幅に小さくできる。
【0215】
外側シール部材405のシールリップ部954は、径方向に弾性変形しつつ、駆動カム板部43と固定筒部131の内周壁との間を気密または液密にシールしている。外側シール部材405は、所謂オイルシールである。
【0216】
なお、金属環96により、外側シール部材405の特にシール内筒部951およびシール板部952の形状が安定する。また、シールリップ部954がシール外筒部953のシール板部952とは反対側の端部に形成されているため、シール外筒部953の端部が径方向に弾性変形することにより、シールリップ部954の先端部を固定筒部131の内周壁に柔軟に追従させることができる。
【0217】
本実施形態は、上述した点以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0218】
以上説明したように、<12>本実施形態では、「シール部材」としての外側シール部材405は、オイルシールである。
【0219】
そのため、外側シール部材405と固定部130との接触面積を小さくできる。これにより、駆動カム40の回転時、外側シール部材405に作用する摺動抵抗を小さくできる。したがって、クラッチ装置1の作動時の効率の低下を抑制できる。
【0220】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2が、プラネタリギア32のギア幅L1の約50%の長さに設定される例を示した。これに対し、他の実施形態では、サンギア31とプラネタリギア32との噛み合い長さL2は、プラネタリギア32のギア幅L1より小さいのであれば、プラネタリギア32のギア幅L1に対しどのような長さに設定されていてもよい。
【0221】
また、上述の第3実施形態では、サンギア31を、比重がロータ23の比重より小さな材料である樹脂により形成する例を示した。これに対し、<4>他の実施形態では、サンギア31を、比重がロータ23の比重より小さな材料である、例えばアルミニウムにより形成してもよい。
【0222】
また、他の実施形態では、ロータ23とサンギア31とは、同一の材料により一体に形成されていてもよい。
【0223】
また、他の実施形態では、モータ20は、「永久磁石」としてのマグネット230を有していなくてもよい。
【0224】
また、他の実施形態では、「回転部」としての駆動カム40は、減速機30の第2リングギア35と別体に形成されていてもよい。
【0225】
また、他の実施形態では、「回転部」としての駆動カム40は、内縁部と外縁部とが軸方向において同じ位置となるよう形成されていてもよい。
【0226】
また、他の実施形態では、収容空間とクラッチ空間との間を気密または液密に保持するシール部材を備えていなくてもよい。
【0227】
また、上述の実施形態では、ステータ21の径方向内側にロータ23を設けるインナロータタイプのモータ20を示した。これに対し、他の実施形態では、モータ20は、ステータ21の径方向外側にロータ23を設けるアウタロータタイプのモータであってもよい。
【0228】
また、上述の実施形態では、回転並進部が、駆動カム、従動カムおよび転動体を有する転動体カムである例を示した。これに対し、他の実施形態では、回転並進部は、ハウジングに対し相対回転する回転部、および、回転部がハウジングに対し相対回転するとハウジングに対し軸方向に相対移動する並進部を有するのであれば、例えば、「すべりねじ」または「ボールねじ」等により構成されていてもよい。
【0229】
また、他の実施形態では、状態変更部の弾性変形部は、軸方向に弾性変形可能であれば、例えばコイルスプリングまたはゴム等であってもよい。また、他の実施形態では、状態変更部は、弾性変形部を有さず、剛体のみで構成されていてもよい。
【0230】
また、他の実施形態では、駆動カム溝400および従動カム溝500は、それぞれ、3つ以上であれば、5つに限らず、いくつ形成されていてもよい。また、ボール3も、駆動カム溝400および従動カム溝500の数に合わせ、いくつ設けられていてもよい。
【0231】
また、本発明は、内燃機関からの駆動トルクによって走行する車両に限らず、モータからの駆動トルクによって走行可能な電気自動車やハイブリッド車等に適用することもできる。
【0232】
また、他の実施形態では、第2伝達部からトルクを入力し、クラッチを経由して第1伝達部からトルクを出力することとしてもよい。また、例えば、第1伝達部または第2伝達部の一方を回転不能に固定した場合、クラッチを係合状態にすることにより、第1伝達部または第2伝達部の他方の回転を止めることができる。この場合、クラッチ装置をブレーキ装置として用いることができる。
【0233】
このように、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0234】
1 クラッチ装置、2 ボールカム(回転並進部)、12 ハウジング、20 モータ(原動機)、21 ステータ、23 ロータ、30 減速機、31 サンギア、32 プラネタリギア、40 駆動カム(回転部)、50 従動カム(並進部)、61 入力軸(第1伝達部)、62 出力軸(第2伝達部)、70 クラッチ、80、90 状態変更部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15