(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
G02B27/01
(21)【出願番号】P 2020129114
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元一郎
【審査官】中村 百合子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-120029(JP,A)
【文献】特開2018-045053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0156755(US,A1)
【文献】特開2008-120163(JP,A)
【文献】特開2013-151208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01ー30/60
B60K 35/00ー37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示光(L)を出射する表示部(1)と、
前記表示部(1)から出射された前記表示光(L)を反射する反射鏡(2)と、
前記表示部(1)及び前記反射鏡(2)を収容するとともに、前記反射鏡(2)からの光を射出させる射出口(41)が形成されたハウジング(40)と、
前記射出口(41)を覆う、湾曲形状を有する透光性カバー(50)と、
を備え、
前記透光性カバー(50)は前記ハウジング(40)に対して接着層(42)を介して固定され、
前記接着層(42)に対向する前記ハウジング(40)の接着面(43)に凹部(44)が形成され
、
前記凹部(44)は、前記接着層(42)と接触する接触面(45)を有し、
前記ハウジング(40)を前記透光性カバー(50)の側から前記透光性カバー(50)の表面と直交する方向で視たときに、前記接触面(45)が前記ハウジング(50)の一部に隠れる位置に形成されている、ヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
表示光(L)を出射する表示部(1)と、
前記表示部(1)から出射された前記表示光(L)を反射する反射鏡(2)と、
前記表示部(1)及び前記反射鏡(2)を収容するとともに、前記反射鏡(2)からの光を射出させる射出口(41)が形成されたハウジング(40)と、
前記射出口(41)を覆う、湾曲形状を有する透光性カバー(50)と、
を備え、
前記透光性カバー(50)は前記ハウジング(40)に対して接着層(42)を介して固定され、
前記接着層(42)に対向する前記ハウジング(40)の接着面(43)に凹部(44)が形成され、
前記凹部(44)は、前記透光性カバー(50)の湾曲方向に対して周期的に形成され、
前記凹部(44)のピッチ(P)もしくは前記凹部(44)の深さ(D)は、対応する部位における前記透光性カバー(50)の表面の曲率に応じて変化する、ヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記凹部(44)は、前記透光性カバー(50)の湾曲方向と直交する方向に延びる溝形状とされている、請求項
2に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記ハウジング(40)の前記接着面(43)にしぼ加工が施されている、請求項1~
3のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のウインドシールドに液晶表示器からの表示光を投影してウインドシールドの前方に虚像を表示するヘッドアップディスプレイが知られている。ヘッドアップディスプレイは、表示光を射出する射出口を有するハウジングを備え、この射出口は、防塵などを目的として透光性カバーによって覆われている(特許文献1~2参照)。
【0003】
透光性カバーは、透光性カバーで反射された外光が運転者などの視界に入らないよう、湾曲した形状とされている。透光性カバーは、例えば、平面状に形成された透光性部材(透光性カバーを構成する部材)の外縁部分を、射出口の全周を囲むように配置された両面テープを介してハウジングに接着することで、湾曲した状態で固定される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-106691号公報
【文献】特開2018-120029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しなしながら、両面テープにより透光性部材(透光性カバーを構成する部材)を接着する場合、良好な組み付け性を得ることが難しいという問題がある。また、両面テープに替えて液状の接着剤を使用する場合には、充分な接着強度が確保できないおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、液状の接着剤を用いて透光性カバーを強固に固定できるヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの側面では、
表示光を出射する表示部(1)と、
前記表示部(1)から出射された前記表示光(L)を反射する反射鏡(2)と、
前記表示部(1)及び前記反射鏡(2)を収容するとともに、前記反射鏡(2)からの光を射出させる射出口(41)が形成されたハウジング(40)と、
前記射出口(41)を覆う、湾曲形状を有する透光性カバー(50)と、
を備え、
前記透光性カバー(50)は前記ハウジング(40)に対して接着層(42)を介して固定され、
前記接着層(42)に対向する前記ハウジング(40)の接着面(43)に凹部(44)が形成され、
前記凹部(44)は、前記接着層(42)と接触する接触面(45)を有し、
前記ハウジング(40)を前記透光性カバー(50)の側から前記透光性カバー(50)の表面と直交する方向で視たときに、前記接触面(45)が前記ハウジング(50)の一部に隠れる位置に形成されているヘッドアップディスプレイが提供される。
他の1つの側面では、
表示光(L)を出射する表示部(1)と、
前記表示部(1)から出射された前記表示光(L)を反射する反射鏡(2)と、
前記表示部(1)及び前記反射鏡(2)を収容するとともに、前記反射鏡(2)からの光を射出させる射出口(41)が形成されたハウジング(40)と、
前記射出口(41)を覆う、湾曲形状を有する透光性カバー(50)と、
を備え、
前記透光性カバー(50)は前記ハウジング(40)に対して接着層(42)を介して固定され、
前記接着層(42)に対向する前記ハウジング(40)の接着面(43)に凹部(44)が形成され、
前記凹部(44)は、前記透光性カバー(50)の湾曲方向に対して周期的に形成され、
前記凹部(44)のピッチ(P)もしくは前記凹部(44)の深さ(D)は、対応する部位における前記透光性カバー(50)の表面の曲率に応じて変化する、ヘッドアップディスプレイが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、液状の接着剤を用いて透光性カバーを強固に固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施例によるヘッドアップディスプレイの構成を概略的に示す図である。
【
図2】本実施例によるヘッドアップディスプレイの構成を示す斜視図である。
【
図4】車両の前後方向に延びる垂直断面における接着層部分の断面図である。
【
図5】
図4の一部拡大図(
図4のVで示す領域の一部を示す図)である。
【
図6】
図5におけるアッパーケースのみを示す断面図である。
【
図7】接着層部分におけるアッパーケースを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施例によるヘッドアップディスプレイの構成を概略的に示す図、
図2は本実施例によるヘッドアップディスプレイの構成を示す斜視図、
図3は接着層の部位を示す斜視図である。
【0012】
図1~
図3において、矢印Uwは車両の上方を示し、矢印Fwは車両の前方を示し、矢印Lwは車両の左方を示す。
【0013】
図1に示すように、ヘッドアップディスプレイHは、表示光Lを射出する表示部1と、表示部1から射出された表示光Lを反射する反射鏡2と、表示部1及び反射鏡2を収容するハウジング40と、を備える。
【0014】
表示部1として、液晶表示器、その他の任意の表示装置が用いられる。反射鏡2として、例えば、凹面鏡が用いられる。反射鏡2は、ウィンドシールドWSにおける表示光Lが当たる領域の上下位置が調整可能となるように、ハウジング40に対して回転可能に支持されてもよい。
【0015】
ハウジング40は、ハウジング40の下部を構成するロアケース4Aと、ロアケース4Aと結合され、ハウジング40の上部を構成するアッパーケース4Bとからなる。ロアケース4Aは、ハウジング40の放熱性等を考慮して、例えば、金属により形成される。また、アッパーケース4Bは、例えば、樹脂又は金属等により形成される。
【0016】
アッパーケース4Bには、反射鏡2で反射された表示光Lを射出させるための射出口41が形成されている。射出口41は、防塵等を目的として、湾曲形状を有する透光性カバー50によって覆われている。
【0017】
ヘッドアップディスプレイHは車両に搭載され、表示光Lは射出口41から射出され、透光性カバー50を透過することにより車両のウィンドシールドWSに投射される。ウィンドシールドWSに投射された表示光Lは、ウィンドシールドWSで反射されて運転者Eに到達する。運転者Eは、表示光Lによる虚像Vを、ウィンドシールドWSの前方(車両の前方側)に位置する表示部1の表示画像として認識する。これにより、運転者Eは、前方風景と重畳させて表示画像を視認でき、視線移動の少ない状態で車両情報等を把握でき、利便性及び安全性が向上する。
【0018】
なお、虚像Vとして表示される表示画像の内容は、任意であり、例えばナビゲーション情報や各種の車両情報等を表す画像であってよい。
【0019】
透光性カバー50は、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などの透光性樹脂により構成された平板状のフィルムである。
図2~
図4に示すように、透光性カバー50は、アッパーケース4Bに組付けられた状態で、車両の前後方向に延びる垂直断面において表面形状が最大の曲率を示す形状で湾曲しており、車両の左右方向に延びる垂直断面において表面形状の曲率はゼロを示す。すなわち、透光性カバー50は、車両の前後方向のみについて湾曲する形状を有する。
【0020】
透光性カバー50の表面は、例えば、車両の前後方向に延びる垂直断面において楕円の一部の形状であって、車両の前後方向における透光性カバー50の中央付近で最大の曲率を示すような形状とすることができる。しかし、その形状は限定されない。透光性カバー50の表面で反射された外光が運転者等の視界に入ることを防止ないし抑制できるような形状であれば、任意の形状を採用できる。
【0021】
図3に示すように、透光性カバー50の外周端の近傍と、アッパーケース4Bにおける射出口41の周囲の近傍との間には、液状の接着剤を硬化させて形成された接着層42が設けられている。透光性カバー50の外周端の近傍の全体が接着層42を介してアッパーケース4Bに固定されることにより、射出口41が透光性カバー50によって覆われる。
【0022】
透光性カバー50は、平面状の透光性部材を、接着層42を介してアッパーケース4Bに接着させることにより、所定の形状に湾曲される。すなわち、透光性カバー50の湾曲形状は、アッパーケース4Bにおける射出口41の周囲の形状によって規定される。
【0023】
図4は、車両の前後方向に延びる垂直断面における接着層部分の断面図、
図5は
図4の一部拡大図(
図4のVで示す領域の一部を示す図)、
図5Aは、接触面の位置を示す断面図、
図6は、
図5におけるアッパーケース4Bのみを示す断面図、
図7は、接着層部分におけるアッパーケース4Bを示す平面図である。
【0024】
図4~
図7に示すように、透光性カバー50はアッパーケース4Bに対して接着層42を介して固定され、接着層42に対向するアッパーケース4Bの接着面43(
図3、
図6)に凹部44が形成されている。凹部44は車両の左右方向、すなわち、透光性カバー50の湾曲方向と直交する方向に延びる溝形状とされている。本実施例では、接着面43の全体において、複数の凹部44が車両の前後方向、すなわち、透光性カバー50の湾曲方向に並ぶように周期的に配列されている。
【0025】
凹部44は、断面形状が三角形状とされ、その三角形状の一辺に対応する面であって接着層42と接触する接触面45(
図5~
図6)を有する。本実施例では、溝形状の凹部44を透光性カバー50の湾曲方向に並べて配列させることにより、凹部44のピッチを小さくでき、したがって、接触面45の数を大きくすることができる。
【0026】
図5Aに示すように、アッパーケース4Bを透光性カバー50の側から透光性カバー50の表面と直交する方向に視たときに、接触面45がアッパーケース4Bの一部に隠れる位置に形成されている。
図5Aにおける矢印47は、アッパーケース4Bを透光性カバー50の側から透光性カバー50の表面と直交する方向に視たときの視線の方向を示している。
図5Aに示すように、接触面45は、矢印47の方向に対して内側(
図5Aにおいて右側)に入り込むような向きに形成されている。このような接触面45の向きにより、後述するように、接触面45と接着層42との間の機械的なアンカー効果を生じさせることができる。
【0027】
なお、アッパーケース4Bの接着面43は、金型を用いて作成することができる。この場合、金型に対して、
図6に示す矢印48の方向にアッパーケース4Bを抜くことができる。
【0028】
透光性カバー50をアッパーケース4Bに装着する工程では、最初に、アッパーケース4Bの接着面43又は透光性カバー50の外周端の近傍に液状の接着材を塗布する。次に、透光性カバー50となる平面形状の透光性部材をアッパーケース4Bに対して押し当てて固定する。このとき、透光性カバー50は、アッパーケース4Bにおける射出口41の周囲の形状に即して弾性変形し、所定の形状(最終的な透光性カバー50の形状)となる。この状態で、接着剤を硬化させることで、透光性カバー50がアッパーケース4Bに接着される。
【0029】
したがって、装着後の透光性カバー50には、平面形状に復元しようとする反力(応力)が発生し、透光性カバー50の各部には、透光性カバー50の表面と直交する方向であって、アッパーケース4Bから離れようとする方向(
図5Aの矢印47の反対方向)の反力が生じる。しかし、本実施例では、アッパーケース4Bを透光性カバー50の側から透光性カバー50の表面と直交する方向に視たときに、接触面45がアッパーケース4Bの一部に隠れる位置に形成されている。このため、接触面45と接着層42との間の機械的なアンカー効果により、接着面43における接着強度が向上し、透光性カバー50の剥がれが効果的に防止される。すなわち、本実施例によれば、液状の接着剤を用いて透光性カバーを強固に固定できる。
【0030】
なお、接着層42となる接着剤として、透光性カバー50の材質(ガラス等)に対する接着強度が充分に得られるものを使用することで、透光性カバー50と接着層42との間での剥離を防止できる。
【0031】
このように、接触面45を設けることで、接着面43における実質的な接着強度を高めることができるが、接着強度を上げる効果は、接触面45の頻度の影響を受ける。このため、接着強度がより必要な部位では、凹部44のピッチP(
図5A)を小さくすることにより、接触面45の頻度を高め、より接着強度を向上させることができる。例えば、凹部44のピッチPを、対応する部位における透光性カバー50の表面の曲率に応じて変化させてもよい。具体的には、透光性カバー50の表面の曲率が大きい部位では、より反力が大きくなる。このため、透光性カバー50の表面の曲率が大きい部位では、凹部44のピッチPがより小さくなるように、透光性カバー50の各部における凹部44のピッチPを設定してもよい。
【0032】
同様に、凹部44の深さD(
図5A)によって、凹部44ごとの接触面45の面積が変化するため、接着面43における接着強度に影響を与える。したがって、凹部44の深さDを、対応する部位における透光性カバー50の表面の曲率に応じて変化させてもよい。具体的には、透光性カバー50の表面の曲率が大きい部位では、凹部44の深さDがより大きくなるように、透光性カバー50の各部における凹部44の深さDを設定してもよい。凹部44の深さDが大きくなると、接触面45の面積が拡大して接着面43における接着強度が向上する。
【0033】
また、アッパーケース4Bの接着面43における接着強度を向上させるために、接着面43にしぼ加工を追加して施してもよい。接着面43に凹部44を形成するとともに、しぼ加工を施すことにより、接着面43の面積を拡大することができるため、接着面43と接着層42との間の接着強度をさらに向上させることができる。
【0034】
以下、上述した実施例に関連して、以下の付記を開示する。
【0035】
[付記1]
表示光(L)を出射する表示部(1)と、
前記表示部(1)から出射された前記表示光(L)を反射する反射鏡(2)と、
前記表示部(1)及び前記反射鏡(2)を収容するとともに、前記反射鏡(2)からの光を射出させる射出口(41)が形成されたハウジング(40)と、
前記射出口(41)を覆う、湾曲形状を有する透光性カバー(50)と、
を備え、
前記透光性カバー(50)は前記ハウジング(40)に対して接着層(42)を介して固定され、
前記接着層(42)に対向する前記ハウジング(40)の接着面(43)に凹部(44)が形成されているヘッドアップディスプレイ。
【0036】
[付記2]
前記凹部(44)は、前記接着層(42)と接触する接触面(45)を有し、
前記ハウジング(40)を前記透光性カバー(50)の側から前記透光性カバー(50)の表面と直交する方向で視たときに、前記接触面(45)が前記ハウジング(50)の一部に隠れる位置に形成されている、付記1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【0037】
[付記3]
前記凹部(44)は、前記透光性カバー(50)の湾曲方向に対して周期的に形成されている、付記1又は2に記載のヘッドアップディスプレイ。
【0038】
[付記4]
前記凹部(44)は、前記透光性カバー(50)の湾曲方向と直交する方向に延びる溝形状とされている、付記3に記載のヘッドアップディスプレイ。
【0039】
[付記5]
前記凹部(44)のピッチ(P)は、対応する部位における前記透光性カバー(50)の表面の曲率に応じて変化する、付記3又は4に記載のヘッドアップディスプレイ。
【0040】
[付記6]
前記凹部(44)の深さ(D)は、対応する部位における前記透光性カバー(50)の表面の曲率に応じて変化する、付記3又は4に記載のヘッドアップディスプレイ。
【0041】
[付記7]
前記ハウジング(40)の前記接着面(43)にしぼ加工が施されている、付記1~6のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ。
【符号の説明】
【0042】
1 表示部
2 反射鏡
40 ハウジング
41 射出口
42 接着層
43 接着面
44 凹部
45 接触面
50 透光性カバー