(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】地絡事故解析方法、測定ケーブル及び地絡事故解析システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/52 20200101AFI20240312BHJP
G01R 31/08 20200101ALI20240312BHJP
【FI】
G01R31/52
G01R31/08
(21)【出願番号】P 2020133804
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】佐野 隆英
(72)【発明者】
【氏名】中川 康之
(72)【発明者】
【氏名】西川 孝一
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 二郎
(72)【発明者】
【氏名】保坂 和哉
(72)【発明者】
【氏名】福田 翔大
(72)【発明者】
【氏名】藤森 勇弐
(72)【発明者】
【氏名】白尾 啓美
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聖晴
(72)【発明者】
【氏名】高井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】西野 充
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-082326(JP,A)
【文献】実開平03-097351(JP,U)
【文献】特開2007-330026(JP,A)
【文献】特開2008-170381(JP,A)
【文献】特開2001-133497(JP,A)
【文献】特開昭52-000110(JP,A)
【文献】特開2011-169732(JP,A)
【文献】特開昭58-107033(JP,A)
【文献】特開2007-074774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/52
G01R 31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電線を介して伝送される配電系統の制御信号を前記配電線から取得するためのバンドパスフィルタを備える高圧結合器であって前記配電線に設置されている前記高圧結合器から前記バンドパスフィルタの出力信号を取得する信号取得ステップと、
前記高圧結合器から取得した前記バンドパスフィルタの出力信号を、前記配電系統における地絡事故発生時に前記配電線に流れる信号を測定するための測定入力信号として測定器へ供給する信号供給ステップと、
を含む地絡事故解析方法。
【請求項2】
前記高圧結合器から取得した前記バンドパスフィルタの出力信号に対して周波数成分を分析するステップと、
前記周波数成分の分析結果に基づいて、前記配電系統における地絡事故が発生した部材を判定するステップと、
をさらに含む請求項1に記載の地絡事故解析方法。
【請求項3】
同一の前記配電線に設置されている複数の前記高圧結合器から取得した各前記バンドパスフィルタの出力信号に対して周波数成分を分析するステップと、
前記各バンドパスフィルタの出力信号の周波数成分の分析結果を比較し、当該比較の結果に基づいて、前記配電系統における地絡事故が発生した位置を判定するステップと、
をさらに含む請求項1又は2に記載の地絡事故解析方法。
【請求項4】
配電系統における地絡事故発生時に配電線に流れる信号を測定するための測定入力信号を測定器へ供給するための測定ケーブルであり、
前記配電線を介して伝送される前記配電系統の制御信号を前記配電線から取得するためのバンドパスフィルタを備える高圧結合器であって前記配電線に設置されている前記高圧結合器の前記バンドパスフィルタの出力信号の出力部に接続する高圧結合器接続部と、
前記高圧結合器の出力の終端抵抗と、
前記測定入力信号を前記測定器へ供給するための前記測定器の入力部に接続する測定器接続部と、
を備える測定ケーブル。
【請求項5】
前記高圧結合器によるバンドパスフィルタの通過帯域を所定の周波数帯に上げるためのコンデンサをさらに備える、
請求項4に記載の測定ケーブル。
【請求項6】
配電線を介して伝送される配電系統の制御信号を前記配電線から取得するためのバンドパスフィルタを備える高圧結合器であって前記配電線に設置されている前記高圧結合器に接続される請求項4又は5に記載の測定ケーブルと、
前記測定ケーブルにより供給される前記バンドパスフィルタの出力信号を測定入力信号として前記配電系統における地絡事故発生時に前記配電線に流れる信号を測定する測定器と、
前記測定器が測定した結果の測定信号を地絡事故解析装置へ通信回線を介して送信する送信機と、
前記測定器が測定した結果の測定信号に対して周波数成分分析を行い、当該周波数成分分析の分析結果に基づいて地絡事故を解析するための地絡事故解析処理を実行する地絡事故解析装置と、
を備える地絡事故解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地絡事故解析方法、測定ケーブル及び地絡事故解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
配電系統における地絡事故解析技術が例えば特許文献1,2,3に記載されている。特許文献1には、配電線の各地点に対応して設けられ対応地点の配電線の事故時の電圧情報を得る複数の子局、これら子局から配電線の各地点の電圧情報を収集する親局、および親局が収集した配電線の各地点の電圧情報のうち事故点にむかって減少する関係にある複数の電圧から事故点を標定する事故点標定部を備えた事故点標定システムが記載されている。特許文献2には、配電線における地絡事故発生時の電気量データを分析する際に、ウェーブレット(wavelet)解析を行うことが記載されている。特許文献3には、配電線の地絡事故点を算出する際に、所定幅の周波数帯ごとの含有量の大きさの順に定めた周波数帯ランキングの所定順位までの最大周波数帯と、最小周波数帯の間の周波数帯をバンド幅とするバンドパスフィルタを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-170381号公報
【文献】特開2009-017637号公報
【文献】特開2011-169732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来の地絡事故解析技術では、地絡事故発生時に配電線に流れる信号を配電線から取得する専用センサを解析区間毎に設ける必要があるので、コスト面で負担が大きかった。
【0005】
従来、配電線に設置されている複数の自動開閉器を遠方から制御するために、自動開閉器毎に高圧結合器が配電線に設置されている。高圧結合器は、配電線を介して伝送される自動開閉器の制御信号を当該配電線から取得し、取得した制御信号を当該自動開閉器へ供給する。一方、近年、光通信設備の導入によって光通信により制御信号を自動開閉器へ供給することが検討されており、今後は高圧結合器が不要になることが予想される。高圧結合器は、現状、将来的な使用用途が無いが、耐久性に優れ、不具合の発生が少ない信頼性の高い装置であるので、配電線に多数設けられている高圧結合器をそのまま遊休設備として放置することは惜しまれる。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、配電線を介して伝送される自動開閉器の制御信号を当該配電線から取得するために当該配電線に設けられている高圧結合器を活用することにより、地絡事故解析システムにかかるコストを削減し、また現状、将来的な使用用途が無いまま配電線に多数設けられて遊休設備になる高圧結合器を有効利用して配電系統の省資源を図ることができる、地絡事故解析方法、測定ケーブル及び地絡事故解析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、配電線を介して伝送される配電系統の制御信号を前記配電線から取得するためのバンドパスフィルタを備える高圧結合器であって前記配電線に設置されている前記高圧結合器から前記バンドパスフィルタの出力信号を取得する信号取得ステップと、前記高圧結合器から取得した前記バンドパスフィルタの出力信号を、前記配電系統における地絡事故発生時に前記配電線に流れる信号を測定するための測定入力信号として測定器へ供給する信号供給ステップと、を含む地絡事故解析方法である。
【0008】
(2)本発明の一態様は、前記高圧結合器から取得した前記バンドパスフィルタの出力信号に対して周波数成分を分析するステップと、前記周波数成分の分析結果に基づいて、前記配電系統における地絡事故が発生した部材を判定するステップと、をさらに含む上記(1)の地絡事故解析方法である。
【0009】
(3)本発明の一態様は、同一の前記配電線に設置されている複数の前記高圧結合器から取得した各前記バンドパスフィルタの出力信号に対して周波数成分を分析するステップと、前記各バンドパスフィルタの出力信号の周波数成分の分析結果を比較し、当該比較の結果に基づいて、前記配電系統における地絡事故が発生した位置を判定するステップと、をさらに含む上記(1)又は(2)の地絡事故解析方法である。
【0010】
(4)本発明の一態様は、配電系統における地絡事故発生時に配電線に流れる信号を測定するための測定入力信号を測定器へ供給するための測定ケーブルであり、前記配電線を介して伝送される前記配電系統の制御信号を前記配電線から取得するためのバンドパスフィルタを備える高圧結合器であって前記配電線に設置されている前記高圧結合器の前記バンドパスフィルタの出力信号の出力部に接続する高圧結合器接続部と、前記高圧結合器の出力の終端抵抗と、前記測定入力信号を前記測定器へ供給するための前記測定器の入力部に接続する測定器接続部と、を備える測定ケーブルである。
【0011】
(5)本発明の一態様は、前記高圧結合器によるバンドパスフィルタの通過帯域を所定の周波数帯に上げるためのコンデンサをさらに備える、上記(4)の測定ケーブルである。
【0012】
(6)本発明の一態様は、配電線を介して伝送される配電系統の制御信号を前記配電線から取得するためのバンドパスフィルタを備える高圧結合器であって前記配電線に設置されている前記高圧結合器に接続される上記(4)又は(5)の測定ケーブルと、前記測定ケーブルにより供給される前記バンドパスフィルタの出力信号を測定入力信号として前記配電系統における地絡事故発生時に前記配電線に流れる信号を測定する測定器と、前記測定器が測定した結果の測定信号を地絡事故解析装置へ通信回線を介して送信する送信機と、前記測定器が測定した結果の測定信号に対して周波数成分分析を行い、当該周波数成分分析の分析結果に基づいて地絡事故を解析するための地絡事故解析処理を実行する地絡事故解析装置と、を備える地絡事故解析システムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、配電線を介して伝送される自動開閉器の制御信号を当該配電線から取得するために当該配電線に設けられている高圧結合器を活用することができる。これにより、地絡事故解析システムにかかるコストを削減することができる。また現状、将来的な使用用途が無いまま配電線に多数設けられて遊休設備になる高圧結合器を有効利用して配電系統の省資源を図ることができるという格別の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る配電系統の構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る高圧結合器の電気的構成を示す電気回路図である。
【
図3】一実施形態に係る測定ケーブルの電気的構成の一例を示す電気回路図である。
【
図4】
図3に示す測定ケーブルによる測定系の等価回路を示す電気回路図である。
【
図5】
図3に示す測定ケーブルによる測定系の効果を示すための図である。
【
図6】
図3に示す測定ケーブルによる測定系の効果を示すための図である。
【
図7】一実施形態に係る測定ケーブルの電気的構成の一例を示す電気回路図である。
【
図8】
図7に示す測定ケーブルによる測定系の等価回路を示す電気回路図である。
【
図9】一実施形態に係る地絡事故発生位置判定方法を説明するための説明図である。
【
図10】一実施形態に係る地絡事故解析方法の手順の例を示すフローチャートである。
【
図11】一実施形態に係る巡視方法を説明するための説明図である。
【
図12】一実施形態に係る地絡事故解析システムの一例を示すブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、一実施形態に係る配電系統の構成を示すブロック図である。
図1において、配電系統1は、発電所(図示せず)から送電線3により送電される配電用変電所2から、各配電線4により配電を行う。配電線4には、複数の自動開閉器5が設けられている。また、配電線4には、各自動開閉器5に対応して高圧結合器10が設けられている。高圧結合器10は、配電線4を介して伝送される自動開閉器5の制御信号を当該配電線4から取得する機能を有する。
【0016】
配電線4aには、複数の自動開閉器5a-1,5a-2,5a-3,5a-4が設けられている。また、配電線4aには、自動開閉器5a-1に対応する高圧結合器10a-1と、自動開閉器5a-2に対応する高圧結合器10a-2と、自動開閉器5a-3に対応する高圧結合器10a-3と、自動開閉器5a-4に対応する高圧結合器10a-4とが設けられている。
【0017】
配電線4bには、複数の自動開閉器5b-1,5b-2,5b-3が設けられている。また、配電線4bには、自動開閉器5b-1に対応する高圧結合器10b-1と、自動開閉器5b-2に対応する高圧結合器10b-2と、自動開閉器5b-3に対応する高圧結合器10b-3とが設けられている。
【0018】
配電線4cには、複数の自動開閉器5c-1,5c-2,5c-3,5c-4が設けられている。また、配電線4cには、自動開閉器5c-1に対応する高圧結合器10c-1と、自動開閉器5c-2に対応する高圧結合器10c-2と、自動開閉器5c-3に対応する高圧結合器10c-3と、自動開閉器5c-4に対応する高圧結合器10c-4とが設けられている。
【0019】
以下の説明において、配電線4a、配電線4b、配電線4cを総称する場合には、配電線4と記載する。また、自動開閉器5a-1,5a-2,・・・、自動開閉器5b-1,5b-2,・・・、自動開閉器5c-1,5c-2,・・・を総称する場合には、自動開閉器5と記載する。また、高圧結合器10a-1,10a-2,・・・、高圧結合器10b-1,10b-2,・・・、高圧結合器10c-1,10c-2,・・・を総称する場合には、高圧結合器10と記載する。
【0020】
図2は、本実施形態に係る高圧結合器の電気的構成を示す電気回路図である。
図2において、高圧結合器10は、1次リード20によって配電線4に接続される。1次側(配電線側)は900オーム(Ω)系である。また、高圧結合器10は、2次側搬送ケーブル30によって自動開閉器5に接続される。2次側(自動開閉器側)は75Ω系である。
【0021】
高圧結合器10は、
図2に示されるようにコンデンサC1,C2及びコイルL1,L2から構成される回路によって、5kHzから10kHzまでの周波数帯を抽出するバンドパスフィルタが構成されている。このバンドパスフィルタは、配電線4を介して伝送される自動開閉器5の制御信号を当該配電線4から取得するためのものである。つまり、配電線4を介して伝送される自動開閉器5の制御信号の周波数帯は5kHzから10kHzまでの周波数帯である。
【0022】
高圧結合器10のバンドパスフィルタは、1次リード20によって配電線4から流入する信号から、5kHzから10kHzまでの周波数帯の信号を抽出する。高圧結合器10は、バンドパスフィルタの出力信号の出力部10outを備える。高圧結合器10のバンドパスフィルタの出力信号は出力部10outから出力される。
【0023】
高圧結合器10の出力部10outから出力される信号は、高圧結合器10のバンドパスフィルタの出力信号、つまり1次リード20によって配電線4から流入する信号からバンドパスフィルタにより抽出された5kHzから10kHzまでの周波数帯の信号である。
【0024】
高圧結合器10と自動開閉器5とを接続する2次側搬送ケーブル30は、高圧結合器10の出力部10outに接続する高圧結合器接続部30inを備える。2次側搬送ケーブル30の高圧結合器接続部30inと高圧結合器10の出力部10outとは、相互に接続する電気コネクタから構成されており、電気的に接続する。
【0025】
高圧結合器10の出力部10outから出力された信号は、2次側搬送ケーブル30を介して自動開閉器5に供給される。この高圧結合器10により、配電線4を介して伝送される自動開閉器5の制御信号(5kHzから10kHzまでの周波数帯の信号)は、高圧結合器10のバンドパスフィルタにより抽出されて2次側搬送ケーブル30を介して自動開閉器5へ供給される。これにより、自動開閉器5の遠隔制御が実現されている。
【0026】
本実施形態では、その高圧結合器10を、地絡事故発生時に配電線4に流れる信号を当該配電線4から取得するために活用することを図る。以下、そのための構成を説明する。
【0027】
[測定ケーブル]
(測定ケーブルの例1)
測定ケーブルの例1について説明する。
図3は、本実施形態に係る測定ケーブルの電気的構成の一例を示す電気回路図である。
図3に示される測定ケーブル50Aは、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号を測定するための測定入力信号を測定器60へ供給するための測定ケーブルである。測定ケーブル50Aは、高圧結合器接続部50inと、終端抵抗Rと、測定器接続部50outとを備える。
【0028】
高圧結合器接続部50inは、2次側搬送ケーブル30の高圧結合器接続部30inと同様に、高圧結合器10の出力部10outに接続するためのものである。測定ケーブル50Aの高圧結合器接続部50inと高圧結合器10の出力部10outとは、相互に接続する電気コネクタから構成されており、電気的に接続する。
【0029】
終端抵抗Rは、高圧結合器10の出力の終端抵抗であって抵抗値が75Ωである。
【0030】
測定器接続部50outは、測定器60の入力部60inに接続するためのものである。測定ケーブル50Aの測定器接続部50outと測定器60の入力部60inとは、相互に接続する電気コネクタから構成されており、電気的に接続する。
【0031】
配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号が1次リード20によって高圧結合器10に流入すると、当該流入信号から高圧結合器10のバンドパスフィルタにより抽出された5kHzから10kHzまでの周波数帯の信号(バンドパスフィルタの出力信号)が出力部10outから出力される。出力部10outから出力されたバンドパスフィルタの出力信号は、測定ケーブル50Aにより測定器60へ供給される。これにより、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号のうち5kHzから10kHzまでの周波数帯の信号(高圧結合器10のバンドパスフィルタの出力信号)が、測定入力信号として、測定ケーブル50Aにより測定器60へ供給される。測定器60は、測定ケーブル50Aにより供給された測定入力信号により、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号を測定する。
【0032】
図4には、本実施形態に係る測定ケーブル50Aによる測定系の等価回路が示される。この測定系の等価回路は、
図4に示されるようにコンデンサCa1,Ca2及びコイルLa1,La2,Lbにより表される。
図4に示される測定系の共振周波数は約10kHzである。この測定ケーブル50Aによる測定系では、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号のうち5kHzから10kHzまでの周波数帯の信号が測定入力信号として測定器60へ供給される。
【0033】
図5,
図6は、本実施形態に係る測定ケーブル50Aによる測定系の効果を示すための図である。
図5は、測定ケーブル50Aによる測定系との比較のための図であって、高圧結合器10のバンドパスフィルタなしの場合の波形解析結果を示す図である。一方、
図6は、測定ケーブル50Aによる測定系によるものであって、高圧結合器10のバンドパスフィルタありの場合の波形解析結果を示す図である。
【0034】
図5及び
図6ともに、測定入力信号に対してウェーブレット解析を行った結果の波形解析結果が示されている。
図5の測定入力信号と
図6の測定入力信号とを比較すると、
図5の測定入力信号は、高圧結合器10のバンドパスフィルタなしのために、波形歪みが顕著に認められる。そして、
図5の波形解析結果では、広帯域の周波数成分が取得される。この
図5の波形解析結果では、広帯域の周波数成分が取得されるために、地絡事故の解析が複雑になる。具体的には、配電系統1における地絡事故が発生した部材を
図5の波形解析結果から判定する場合、広帯域の周波数成分が含まれるために、各部材の特徴を捉えることが難しくなるためである。
【0035】
一方、
図6の測定入力信号は、高圧結合器10のバンドパスフィルタありのために、波形歪みが略認められない。そして、
図6の波形解析結果では、5kHzから10kHzまでの周波数帯の周波数成分が取得される。この
図6の波形解析結果では、周波数成分が5kHzから10kHzまでに制限されているために、地絡事故の解析が容易になる。具体的には、配電系統1における地絡事故が発生した部材を
図6の波形解析結果から判定する場合、高周波成分が除去されているので波形形状が明確になり、各部材の特徴を捉えやすくなるためである。
【0036】
(測定ケーブルの例2)
測定ケーブルの例2について説明する。
図7は、本実施形態に係る測定ケーブルの電気的構成の一例を示す電気回路図である。
図7に示される測定ケーブル50Bは、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号を測定するための測定入力信号を測定器60へ供給するための測定ケーブルである。測定ケーブル50Bは、高圧結合器接続部50inと、コンデンサCと、終端抵抗Rと、測定器接続部50outとを備える。
【0037】
高圧結合器接続部50inは、2次側搬送ケーブル30の高圧結合器接続部30inと同様に、高圧結合器10の出力部10outに接続するためのものである。測定ケーブル50Bの高圧結合器接続部50inと高圧結合器10の出力部10outとは、相互に接続する電気コネクタから構成されており、電気的に接続する。
【0038】
測定器接続部50outは、測定器60の入力部60inに接続するためのものである。測定ケーブル50Bの測定器接続部50outと測定器60の入力部60inとは、相互に接続する電気コネクタから構成されており、電気的に接続する。
【0039】
図7の測定ケーブル50Bでは、終端抵抗Rよりも高圧結合器10側にコンデンサCが直列に接続されている。コンデンサCは、高圧結合器10によるバンドパスフィルタの通過帯域を所定の周波数帯に上げるためのコンデンサであって、コンデンサ容量がXpFである。そして、測定ケーブル50Bでは、終端抵抗Rの抵抗値がYΩである。コンデンサCのコンデンサ容量XpFは、バンドパスフィルタの高圧結合器10によるバンドパスフィルタの通過帯域をどれくらい上げるのかによって決定される。終端抵抗Rの抵抗値YΩは、コンデンサCの追加に応じた値に決定される。コンデンサCのコンデンサ容量XpFや終端抵抗Rの抵抗値YΩは、例えば実験による実測値に基づいて決定されてもよい。
【0040】
図8には、本実施形態に係る測定ケーブル50Bによる測定系の等価回路が示される。この測定系の等価回路は、
図8に示されるようにコンデンサCa1,Ca2,C及びコイルLa1,La2,Lbにより表される。
図8に示される測定系の共振周波数は、上記
図4の測定系の共振周波数よりも高い周波数になる。この測定ケーブル50Bによる測定系では、測定ケーブル50Aによる測定系(共振周波数が約10kHzである)よりもバンドパスフィルタの通過帯域が上がっている。
【0041】
配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号が1次リード20によって高圧結合器10に流入すると、当該流入信号から
図8に示される測定系のバンドパスフィルタにより抽出された周波数帯の信号が、測定ケーブル50Bにより測定器60へ供給される。これにより、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号のうち
図8に示される測定系のバンドパスフィルタにより抽出された周波数帯の信号が、測定入力信号として、測定ケーブル50Bにより測定器60へ供給される。測定器60は、測定ケーブル50Bにより供給された測定入力信号により、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号を測定する。
【0042】
測定ケーブル50Bにより測定器60へ供給される測定入力信号の周波数帯域は、測定ケーブル50Aにより測定器60へ供給される測定入力信号の周波数帯域である5kHzから10kHzまでの周波数帯よりも高い周波数帯域である。この測定ケーブル50Bによれば、測定ケーブル50Aに比して、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号のうち伝送距離に応じた減衰量がより大きい周波数成分を含む信号を測定入力信号として測定器60へ供給することができる。これにより、地絡事故の解析において、配電系統1における地絡事故が発生した位置を判定し易くなる。
【0043】
図9は、本実施形態に係る地絡事故発生位置判定方法を説明するための説明図である。
図9には、第1の高圧結合器10及び測定ケーブル50Bにより取得された測定入力信号に対してウェーブレット解析を行った結果の波形解析結果(第1の波形解析結果)と、第2の高圧結合器10及び測定ケーブル50Bにより取得された測定入力信号に対してウェーブレット解析を行った結果の波形解析結果(第2の波形解析結果)とが示されている。第1の高圧結合器10と第2の高圧結合器10とは同一の配電線4に設置されている。
【0044】
図9に示される第1の波形解析結果と第2の波形解析結果とを比較すると、高周波帯域成分の含有量は、第2の波形解析結果よりも第1の波形解析結果の方が多い。これは、第1の波形解析結果に使用された測定入力信号を取得した第1の高圧結合器10の方が、第2の波形解析結果に使用された測定入力信号を取得した第2の高圧結合器10よりも、地絡事故が発生した位置(地絡点)に近いので、第1の高圧結合器10により取得された測定入力信号の方が第2の高圧結合器10により取得された測定入力信号よりも、高周波帯域成分の減衰量が少ないからである。これにより、地絡点は、第1の高圧結合器10が設置されている区間に在ると判定することができる。このように、高周波帯域成分の含有量の多いか少ないかによって地絡点をより判定し易くするために、測定ケーブル50Bによって高圧結合器10によるバンドパスフィルタの通過帯域を上げている。
【0045】
以上が本実施形態に係る測定ケーブルの例の説明である。
【0046】
以下の説明において、測定ケーブル50A、測定ケーブル50Bを総称する場合には、測定ケーブル50と記載する。
【0047】
次に
図10を参照して本実施形態に係る地絡事故解析方法を説明する。
図10は、本実施形態に係る地絡事故解析方法の手順の例を示すフローチャートである。
【0048】
(ステップS1) 高圧結合器10から測定ケーブル50によってバンドパスフィルタの出力信号を取得する。
【0049】
(ステップS2) 高圧結合器10から取得したバンドパスフィルタの出力信号を、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号を測定するための測定入力信号として測定ケーブル50により測定器へ供給する。
【0050】
(ステップS3) 測定入力信号に対して周波数成分を分析する。本実施形態では、周波数成分分析の一例として、測定入力信号に対してウェーブレット解析を行う。
【0051】
(ステップS4) 測定入力信号に対する周波数成分の分析結果に基づいて、配電系統1における地絡事故が発生した部材を判定する。また、同一の配電線4に設置されている複数の高圧結合器10により取得された各測定入力信号に対する周波数成分の分析結果を比較し、当該比較の結果に基づいて、配電系統1における地絡事故が発生した位置を判定する。
【0052】
本実施形態によれば、配電線4を介して伝送される自動開閉器5の制御信号を当該配電線4から取得するために当該配電線4に設けられている高圧結合器10を、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号を当該配電線4から取得するために活用することができる。これにより、配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号を当該配電線4から取得するために専用センサを配電線4に設置しなくてもよいので、地絡事故解析システムにかかるコストを削減することができるという効果が得られる。また現状、将来的な使用用途が無いまま配電線4に多数設けられて遊休設備になる高圧結合器10を有効利用して配電系統1の省資源を図ることができるという格別の効果が得られる。
【0053】
また、本実施形態によれば、配電系統1における地絡事故が発生した部材や地絡事故が発生した位置を容易に判定することができる。これにより、
図11に例示されるように、配電系統1の全区間を巡視するのではなく、本実施形態により判定された地絡事故が発生した部材や地絡事故が発生した位置に基づいて巡視対象のポイントを絞って効率的な巡視を行うことができるという効果が得られる。
【0054】
次に
図12を参照して本実施形態に係る地絡事故解析システムの一例を説明する。
図12は、本実施形態に係る地絡事故解析システムの一例を示すブロック構成図である。
図12に示される地絡事故解析システムは、配電線4を介して伝送される自動開閉器5の制御信号を当該配電線4から取得するためのバンドパスフィルタを備える高圧結合器10であって当該配電線4に設置されている高圧結合器10に接続される測定ケーブル50と、当該測定ケーブル50により供給されるバンドパスフィルタの出力信号を測定入力信号として配電系統1における地絡事故発生時に配電線4に流れる信号を測定する測定器60と、測定器60が測定した結果の測定信号を地絡事故解析装置80へ通信回線NWを介して送信する送信機70と、測定器60が測定した結果の測定信号に対して周波数成分分析を行い、当該周波数成分分析の分析結果に基づいて地絡事故を解析するための地絡事故解析処理を実行する地絡事故解析装置80と、を備える。通信回線NWは、例えば光通信回線である。
【0055】
測定器60は、測定ケーブル50により供給されるバンドパスフィルタの出力信号を所定のサンプリング周波数によりデジタル化して測定信号を得る。地絡事故解析装置80は、測定器60が測定した結果の測定信号(デジタル信号)に対して周波数成分分析(例えばウェーブレット解析)を行う。地絡事故解析装置80は、その周波数成分分析の分析結果に基づいて、配電系統1における地絡事故が発生した部材を判定するための地絡事故解析処理を実行する。これにより、地絡事故解析装置80は、配電系統1における地絡事故が発生した部材の判定結果を出力する。
【0056】
また、地絡事故解析装置80は、同一の配電線4に設置されている複数の高圧結合器10により取得された各測定入力信号の測定信号(デジタル信号)に対する周波数成分の分析結果を比較し、当該比較の結果に基づいて配電系統1における地絡事故が発生した位置を判定するための地絡事故解析処理を実行する。これにより、地絡事故解析装置80は、配電系統1における地絡事故が発生した位置の判定結果を出力する。
【0057】
地絡事故解析装置80の各機能は、地絡事故解析装置80がCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)及びメモリ等のコンピュータハードウェアを備え、CPUがメモリに格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。なお、地絡事故解析装置80として、汎用のコンピュータ装置を使用して構成してもよく、又は、専用のハードウェア装置として構成してもよい。例えば、地絡事故解析装置80は、インターネット等の通信ネットワークに接続されるサーバコンピュータを使用して構成されてもよい。また、地絡事故解析装置80の各機能はクラウドコンピューティングにより実現されてもよい。また、地絡事故解析装置80として、例えばWWWシステム等を利用してウェブサイトを開設するように構成してもよい。
【0058】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0059】
なお、配電線4が3相の各線から構成される場合、地絡事故が発生した相の線を特定するためには、3相の各線に高圧結合器10が設けられ、各相の高圧結合器10から測定ケーブル50によりバンドパスフィルタの出力信号を取得して相毎に地絡事故解析処理を実行することが好ましい。
【0060】
また、上述した地絡事故解析装置の機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0061】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…配電系統、2…配電用変電所、3…送電線、4…配電線、5…自動開閉器、10…高圧結合器、50…測定ケーブル、60…測定器、R…終端抵抗、C…コンデンサ、70…送信部、80…地絡事故解析装置、NW…通信回線