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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】Fe基ナノ結晶合金磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240312BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H01F41/02 A
H01F1/153 141
H01F1/153 133
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020145253
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040501
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】及川 美智子
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇
(72)【発明者】
【氏名】白勢 茂樹
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/46140(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/65500(WO,A1)
【文献】特開平7-278764(JP,A)
【文献】国際公開第2020/66989(WO,A1)
【文献】特開2009-263775(JP,A)
【文献】国際公開第2018/62310(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/65249(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
C21D 6/00- 6/04
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe基合金のリボンが巻回された磁心を準備する磁心準備工程と前記磁心の熱処理工程とを含み、前記熱処理工程が、
前記Fe基合金の結晶化開始温度未満の一定温度を保持しながら、前記磁心に対し、前記磁心の高さ方向の磁場を印加する磁場印加工程と、
前記Fe基合金の結晶化開始温度以上の温度でナノ結晶化を行うナノ結晶化工程と、
をこの順に含み、
前記磁場印加工程における磁場印加終了時の結晶化度が、8%以上40%以下である、Fe基ナノ結晶合金磁心の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程が、前記磁場印加工程の前に、前記磁場印加工程における熱処理温度未満の一定温度を保持する保温工程をさらに含み、
前記保温工程における前記一定温度が、前記Fe基合金の結晶化開始温度より65℃低い温度以上、前記Fe基合金の結晶化開始温度より45℃低い温度以下である、請求項1に記載のFe基ナノ結晶合金磁心の製造方法。
【請求項3】
前記磁心準備工程で準備する前記磁心は、前記Fe基合金のリボンの表面に厚さ4nm以上の酸化被膜を有する、請求項1又は2に記載のFe基ナノ結晶合金磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Fe基ナノ結晶合金磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Fe基ナノ結晶合金は、高い透磁率を実現できる優れた軟磁気特性を備えているため、コモンモードチョーク、高周波トランス等のコアに使用されている。
Fe基ナノ結晶合金の代表的な組成として、Feを主成分とするFe-Si-B-Cu-Nb系のアモルファスナノ結晶の磁性材料が知られている(特許文献1)。このような磁性材を用いたコイルやコアは、一般的に、ナノ結晶化可能なFe基非晶質合金のリボンを巻回して円柱状の磁心を形成し、熱処理することにより得られる。
透磁率をより高める方法としては、熱処理中に磁心に磁場を印加して結晶磁気異方性を調整する技術も知られている(特許文献2)。また、さらに高い透磁率を達成すべく、磁心に磁場印加を行う最適なタイミングについて検討が行われている(特許文献3~9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭64-79342号公報
【文献】特開平2-77105号公報
【文献】特開2019-201215号公報
【文献】再表2015-190528号公報
【文献】特開2016-197720号公報
【文献】特開2017-183334号公報
【文献】再表2015-46140号公報
【文献】再表2015-22904号公報
【文献】特開平10-195528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、広い周波数範囲でノイズを抑制するコモンモードチョークが開発されており、このようなコモンモードチョークに対応できるコア、すなわち、低周波領域から高周波領域にわたって高い透磁率を示すコアが求められている。
【0005】
本発明は、上記問題を鑑みたものであり、低周波領域及び高周波領域のいずれにおいても高透磁率を示すFe基ナノ結晶合金磁心を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、Fe基合金リボンが巻回された磁心に熱処理を行う際に、Fe基合金の結晶化度が特定の範囲内にあるタイミングで磁場印加を行うことにより、低周波領域及び高周波領域のいずれにおいても高透磁率を示すFe基ナノ結晶合金磁心が得られることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0007】
[1]
Fe基合金のリボンが巻回された磁心を準備する磁心準備工程と前記磁心の熱処理工程とを含み、前記熱処理工程が、
前記Fe基合金の結晶化開始温度未満の一定温度を保持しながら、前記磁心に対し、前記磁心の高さ方向の磁場を印加する磁場印加工程と、
前記Fe基合金の結晶化開始温度以上の温度でナノ結晶化を行うナノ結晶化工程と、
をこの順に含み、
前記磁場印加工程における磁場印加終了時の結晶化度が、8%以上40%以下である、Fe基ナノ結晶合金磁心の製造方法。
[2]
前記熱処理工程が、前記磁場印加工程の前に、前記磁場印加工程における熱処理温度未満の一定温度を保持する保温工程をさらに含み、
前記保温工程における前記一定温度が、前記Fe基合金の結晶化開始温度より65℃低い温度以上、前記Fe基合金の結晶化開始温度より45℃低い温度以下である、[1]に記載のFe基ナノ結晶合金磁心の製造方法。
[3]
前記磁心準備工程で準備する前記磁心は、前記Fe基合金のリボンの表面に厚さ4nm以上の酸化被膜を有する、[1]又は[2]に記載のFe基ナノ結晶合金磁心の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低周波領域及び高周波領域のいずれにおいても高い透磁率を示すFe基ナノ結晶合金磁心を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実験例1-1~実験例1-5の熱処理工程における温度プロファイルを示すグラフである。
図2】実験例1-1~実験例1-75における、磁場印加終了時の結晶化度と、Fe基ナノ結晶合金磁心の周波数10kHzにおける透磁率との関係を示すグラフである。
図3】実験例1-1~実験例1-75における、磁場印加終了時の結晶化度と、Fe基ナノ結晶合金磁心の周波数100kHzにおける透磁率との関係を示すグラフである。
図4】実験例2-1~実験例2-5の熱処理工程における温度プロファイルを示すグラフである。
図5】実験例2-21~実験例2-25の熱処理工程における温度プロファイルを示すグラフである。
図6】実験例3-1~実験例3-3の熱処理工程における温度プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0011】
本発明の一実施形態に係るFe基ナノ結晶合金磁心の製造方法は、Fe基合金のリボンが巻回された磁心を準備する磁心準備工程と前記磁心の熱処理工程とを含む。前記熱処理工程は、前記Fe基合金の結晶化開始温度未満の一定温度を保持しながら、前記磁心に対し、前記磁心の高さ方向の磁場を印加する磁場印加工程と、前記Fe基合金の結晶化開始温度以上の温度でナノ結晶化を行うナノ結晶化工程とをこの順に含み、前記磁場印加工程における磁場印加終了時の結晶化度が、8%以上40%以下である。
【0012】
本実施形態に係る製造方法により得られるFe基ナノ結晶合金磁心は、低周波領域及び高周波領域のいずれにおいても高い透磁率を示す。なお、本明細書では、「透磁率」の評価の指標として「比透磁率」を用いることがある。
本明細書において、低周波領域の透磁率は、周波数10kHzにおける透磁率に基づい
て評価することができる。また、高周波領域の透磁率は、100kHz以上の周波数における透磁率に基づいて評価することができ、好ましい一例では1MHzにおける周波数に基づいて評価することができる。
【0013】
Fe基ナノ結晶合金磁心の比透磁率は、Fe基ナノ結晶合金磁心に巻線を施したコイルのインダクタンスを測定し、下記式(1)に基づいて算出することができる。
μr=μ/μ0 (1)
μr:比透磁率
μ0:真空の透磁率=4π×10-7[H/m]
μ:透磁率[H/m]=Ll/A/N
L:インダクタンス[H]
l:磁路長[m]
A:コア有効断面積[m
N:巻き数
【0014】
1.磁心準備工程
本工程で準備する磁心は、Fe基合金リボンが巻回されたものである。Fe基合金リボンを構成するFe基合金は、熱処理によりナノ結晶化可能なFe基合金であれば特に制限されず、例えばファインメット(登録商標)等のFe-Si-B-Cu-Nb系合金が挙げられる。Fe-Si-B-Cu-Nb系合金の具体的な組成としては、下記一般式(I)で表される組成が好ましく例示される。この組成は、Cr、Mn等の不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0015】
Fe100-a-b-c-dSiCuNb (I)
一般式(I)中a~dは、それぞれ、原子%で、8.3≦a≦8.8、1.3≦b≦1.6、1.1≦c≦1.3及び5.3≦d≦5.7を表し、かつ、15≦a+b+c+d≦20を満たす。
【0016】
Fe基合金リボンの厚さ及び幅は、巻回して実用的形状の磁心を形成できる限り特に制限されない。具体的には、リボンの厚さは、通常12μm以上16μm以下であり、リボンの幅は、通常5mm以上25mm以下である。
【0017】
本工程における磁心の準備方法は、特に限定されず、例えば市販の磁心を本工程で準備する磁心として採用してもよく、市販のFe基合金リボンを巻回することで準備してもよく、Fe基合金の溶湯を超急冷法により急冷凝固してFe基合金リボンを作製し、当該リボンを巻回することで準備してもよい。
【0018】
上記超急冷法においては、急冷時の溶湯の温度は、合金の融点よりも50℃~300℃高い程度の温度とすることが望ましい。超急冷法としては、特に限定されず、単ロール法、双ロール法、回転液中防止法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法等の公知の方法を採用することができる。
超急冷法によるFe基合金リボンの作製は、大気等の酸化性雰囲気下で行ってもよく、アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、真空条件下で行ってもよい。
なお、得られるFe基合金リボンは、非晶質相からなり、結晶相を含まないことが好ましいが、一部に結晶相を含んでいてもよい。
【0019】
本工程で準備する磁心を構成するFe基合金リボンは、表面に厚さ4nm以上の酸化被膜を有することが好ましい。以下、かかる酸化被膜を表面に有するFe基合金リボンが巻回された磁心を「酸化被膜付き磁心」、かかる酸化被膜を表面に有しないFe基合金リボ
ンが巻回された磁心を「未酸化の磁心」と称することがある。酸化被膜付き磁心の熱処理により、高周波領域でより高い透磁率を示すFe基ナノ結晶合金磁心を得ることができる。
なお、本明細書において、特段明記しない限り、磁心準備工程で準備される磁心には、未酸化の磁心及び酸化被膜付き磁心の双方を含むものとする。
【0020】
ここで、Fe基合金リボンには、意図的に酸化被膜を形成した場合でなくとも、自然酸化により自然酸化被膜が形成されている場合がある。自然酸化被膜の厚さは、本実施形態における酸化被膜よりも薄く、一般的には4nm未満である。本明細書では、表面に自然酸化被膜のような厚さ4nm未満の酸化被膜が形成されたFe基合金リボンが巻回された磁心は、未酸化の磁心として扱う。
【0021】
酸化被膜付き磁心は、例えば未酸化の磁心を、酸化性雰囲気中で加熱することにより準備することができる。
【0022】
酸化性雰囲気としては、酸素ガス、大気等の酸素含有雰囲気を採用することができ、好ましくは大気である。
加熱温度は、酸化性雰囲気の種類、加熱時間等にもよるが、通常300℃以上、好ましくは400℃以上であり、また、通常Fe基合金の結晶化開始温度未満の温度であって、450℃以下、好ましくは420℃以下である。
また、加熱時間は、酸化性雰囲気の種類、加熱温度等にもよるが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上であり、また、通常30時間以下、好ましくは25時間以下、より好ましくは20時間以下である。
【0023】
酸化被膜の厚さは、通常4nm超、好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上であり、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは20nm以下である。なお、本明細書中において、酸化被膜の厚さは、X線光電子分光法(XPS)によるFe基合金リボンの酸素濃度のプロファイルにおいて、Fe基合金リボンの表面の酸素原子濃度が10%以上の部分の厚さをいう。
【0024】
酸化被膜の厚さは、X線光電子分光法(XPS)分析により求めることができる。より詳細には、XPS分析装置を用い、酸化被膜付き磁心から巻き出したリボンの表面を一定時間スパッタリングによりエッチングし、エッチングした表面の元素分析を行う。一定時間としては、特に限定されず、例えば30秒、60秒又は90秒であってよい。また、XPS分析条件としては、例えば下記条件を採用することができる。この操作を繰り返すことで得られる酸素濃度プロファイルにおいて、リボン表面の酸素原子濃度が10%以上の部分の厚さを酸化被膜の厚さとする。
【0025】
(XPS)
装置:アルバック・ファイ株式会社製、PHI 5600CIM
X線源:単色化AlKα線
分析面積:400μm
(スパッタ条件)
イオン種:アルゴン(Ar
加速電圧:3kV
掃引領域:4mm×4mm
レート:1.9nm/min(SiO換算)
【0026】
酸化被膜付き磁心に対して熱処理を行うことでFe基ナノ結晶合金磁心の透磁率をより高めることができる理由としては、本発明者らは、以下のように推測している。
すなわち、Fe基合金リボンに絶縁性の酸化被膜を形成することにより、巻回したFe基合金リボン間の電気的絶縁性が高くなり、Fe基合金リボン間に渦電流が流れることが抑制される。その結果、渦電流損失を低下し、高周波領域の透磁率を高めることができると考えられる。
【0027】
2.熱処理工程
熱処理工程は、Fe基合金の結晶化開始温度未満の一定温度を保持しながら、前記磁心に対し、前記磁心の高さ方向の磁場を印加する磁場印加工程と、Fe基合金の結晶化開始温度以上の温度でナノ結晶化を行うナノ結晶化工程とをこの順に含む。
なお、熱処理工程において、磁場印加工程以外の工程では、意図的に磁場を印加することなく行われるものとする。
【0028】
2-1.磁場印加工程
磁場印加工程は、Fe基合金の結晶化開始温度未満の一定温度を保持しながら、前記磁心に対し、前記磁心の高さ方向(すなわち、Fe基合金リボンの幅方向)の磁場を印加する工程である。磁場印加工程においては、磁場印加を、結晶化度が8%以上40%以下の段階で終了する。
【0029】
磁場印加工程は、磁場印加終了時の結晶化度が特定範囲内となるよう、Fe基合金の結晶化開始温度未満の一定温度を保持しながら行われる。結晶化度は、熱処理温度及び熱処理時間により変動するものであるため、磁場印加を行う際の熱処理温度及び熱処理時間は、磁場印加終了時の所望の結晶化度に応じて選択すればよい。例えば後述する実施例で示すように、磁場印加終了時の結晶化度を20%に設定する場合、磁心に478℃の熱を約150分間加える(実験例1-16~実験例1-20)、磁心に489℃の熱を約60分間加える(実験例1-31~実験例1-35)等のように熱処理温度及び熱処理時間の組み合わせを選択すればよい。
【0030】
以下、磁場印加工程、並びに後述するナノ結晶化工程及び保温工程の説明において言及する温度は、特段明記しない限り、磁心の熱処理に用いる熱処理炉の設定温度である。なお、磁心に加わる温度は、熱処理炉の設定温度よりも8℃~10℃程度高く、磁心に熱電対を取り付けて測定することができる。
【0031】
磁場印加終了時の結晶化度は、通常8%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上、さらに好ましくは15%であり、また、通常40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは28%以下、さらに好ましくは25%以下である。
磁場印加終了時の結晶化度が上記範囲内である状態で、磁場印加を行うことにより、高透磁率を示すFe基ナノ結晶合金磁心を得ることができる。
【0032】
また、磁場印加開始時の結晶化度は、磁場印加終了時の結晶化度より低ければ特に制限されず、例えば1%以上、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上であってよく、また、25%以下、20%以下又は15%以下であってよい。ただし、後述する保温工程を行う場合は、Fe基ナノ結晶合金磁心の透磁率のばらつき抑制の観点から、磁場印加開始時の結晶化度の下限は、10%以上、15%以上又は20%以上であることが好ましい。
【0033】
本工程において磁心に印加する磁場の強度は、磁心を磁気的に飽和させるのに十分なほどに高ければ特に制限されず、通常50mT以上、より好ましくは80mT以上、好ましくは100mT以上であり、また、通常150mT以下である。
【0034】
磁場印加工程は、大気等の酸化性雰囲気下で行ってもよく、アルゴン、ヘリウム、窒素
等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、真空条件下で行ってもよいが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0035】
なお、本明細書において、結晶化度は、X線回折装置(XRD;例えばブルカー・エイエックスエス株式会社製,D8 DISCOVER)を用いた分析により求めることができる。具体的には、磁場印加終了後に降温(冷却)した磁心についてXRD分析を行い、得られるXRDパターンにおける結晶成分のピーク面積及び非晶質成分のピーク面積から、以下の式(2)に基づいて結晶化度を算出することができる。また、磁場印加開始時等その他のタイミングにおける結晶化度も、同様の手法により求めることができる。
【0036】
【数1】
【0037】
2-2.ナノ結晶化工程
ナノ結晶化工程は、磁場印加工程の後、Fe基合金の結晶化開始温度以上の温度に昇温してナノ結晶化を行う工程である。本工程において、ナノ結晶化は、結晶化度が50%以上60%以下の範囲内となるよう行われる。本工程により、結晶相(bcc相)からなる結晶粒と非晶質相とを含むFe基ナノ結晶合金が形成される。
なお、本明細書において、結晶化開始温度は、示差走査熱量計(DSC)の測定条件を昇温速度10℃/分で行ったときの、ナノ結晶化の開始による発熱反応が検出される温度として定義される。
【0038】
ナノ結晶化工程における熱処理温度の下限は、結晶化開始温度以上であれば特に制限されず、好ましくは結晶化開始温度より14℃高い温度以上である。また、ナノ結晶化工程における熱処理温度の上限は、通常結晶化開始温度より59℃高い温度以下、好ましくは結晶化開始温度より44℃高い温度以下である。より具体的には、Fe基合金の結晶化開始温度が515℃程度である場合、ナノ結晶化工程における熱処理温度は、通常515℃以上、好ましくは530℃以上であり、通常575℃以下、好ましくは560℃以下である。
【0039】
当該温度での保持時間は、本工程の熱処理温度、磁心のサイズ等にもよるが、合金全体を均一に加熱する観点及び生産性の観点から、通常30分以上、好ましくは50分以上であり、また、通常10時間以下、好ましくは2時間以下である。
【0040】
ナノ結晶化工程は、大気等の酸化性雰囲気下で行ってもよく、アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、真空条件下で行ってもよいが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0041】
2-3.保温工程
本実施形態における熱処理工程は、前記磁場印加工程の前に、前記磁場印加工程における熱処理温度未満の一定温度を保持する保温工程をさらに含んでいてもよい。当該一定温度は、Fe基合金の結晶化開始温度より65℃低い温度以上、Fe基合金の結晶化開始温度より45℃低い温度以下である。
【0042】
保温工程の後に行われる磁場印加工程では、結晶相の析出時の自己発熱により、熱処理炉の設定温度よりも熱処理炉内の実際の温度の方が高くなるオーバーシュートが発生する結果、得られるFe基ナノ結晶合金磁心の透磁率にばらつきが生じる虞がある。しかるに
、保温工程を行うことにより、オーバーシュートが抑制され、熱処理炉内の温度も均一化される。そして、その結果、Fe基ナノ結晶合金磁心の透磁率のばらつきを抑制することができる。なお、オーバーシュートが抑制されるとは、保温工程を行った場合に、磁場印加工程の際の熱処理炉の設定温度と熱処理炉内の実際の温度との差が、保温工程を行わなかった場合よりも小さくなることを指す。
【0043】
保温工程を行うことで磁場印加工程におけるオーバーシュートが抑制され、ひいてはFe基ナノ結晶合金磁心の透磁率のばらつきが抑制される理由としては、本発明者らは、以下のように推測している。
本実施形態に係る製造方法は、Fe基合金リボンが巻回された磁心に熱処理を行う際に、Fe基合金の結晶化度が特定の範囲内にあるタイミングで磁場印加を行うことにより、高透磁率を示すFe基ナノ結晶合金磁心を得るものである。本製造方法では、磁場印加工程においてオーバーシュートが生じると、熱処理炉の設定温度以上の温度が磁心に加わり、結晶相の析出が過剰に進行する。そうすると、磁場印加を行う際の結晶化度を特定の範囲内に調整することが困難となり、Fe基ナノ結晶合金磁心の透磁率にばらつきが生じる虞がある。ここで、磁場印加工程の前に保温工程を行うと、Fe基合金リボンが巻回された磁心に加わる熱エネルギー量が抑制されるため、結晶相の析出速度が緩やかになり、結晶相の析出に伴う自己発熱が抑制される結果、オーバーシュートが抑制されると推測される。そして、オーバーシュートが抑制されることで、熱処理を行う際のFe基合金の結晶化度を特定の範囲内とすることができるため、Fe基ナノ結晶合金磁心の透磁率のばらつきが抑制されると考えられる。
【0044】
保温工程における熱処理温度は、磁場印加工程における熱処理温度未満の一定温度であれば特に限定されず、通常結晶化開始温度より65℃低い温度以上、好ましくは結晶化開始温度より60℃低い温度以上であり、また、通常結晶化開始温度より45℃低い温度以下、好ましくは結晶化開始温度より40℃低い温度以下である。より具体的には、Fe基合金の結晶化開始温度が515℃程度である場合、保温工程における熱処理温度は、通常450℃以上、好ましくは455℃以上であり、また、通常470℃以下、好ましくは465℃以下である。
【0045】
また、当該温度の保持時間は、本工程の熱処理温度、磁心のサイズ等にもよるが、熱処理炉内の温度を均一化する観点から、通常30分以上、好ましくは60分以上、より好ましくは100分以上であり、また、通常5時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下である。
【0046】
保温工程は、磁場印加工程における熱処理温度未満の一定温度を保持しながら行われる。保温工程の際の結晶化度は、特に制限されないが、結晶化度が5%に到達する前に終了することが好ましい。
より詳細には、保温工程終了時の結晶化度は、好ましくは5%未満、より好ましくは3%以下であり、また、通常0%超である。保温工程開始時の結晶化度は特に制限されず、通常0%以上5%未満である。
【0047】
保温工程は、大気等の酸化性雰囲気下で行ってもよく、アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、真空条件下で行ってもよいが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0048】
3.Fe基ナノ結晶合金磁心の用途
本実施形態に係る製造方法により製造されるFe基ナノ結晶合金磁心は、リアクトル、コモンモードチョークコイル、トランス、通信用パルストランス、モータ又は発電機の磁心、ヨーク材、電流センサー、磁気センサー、アンテナ磁心、電磁波吸収シート等の各種
磁性部品に用いることができる。これらのうち、当該Fe基ナノ結晶合金磁心は、低周波領域から高周波領域にわたって高い透磁率が要求されるコモンモードチョークコイル、ノイズフィルター、特にACノイズフィルター等の用途に特に好適に用いられる。
【実施例
【0049】
以下に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0050】
<実験例1-1~実験例1-5>
(磁心準備工程)
Fe82.718Si8.6551.493Cu1.287Nb5.584で表される組成を有する、幅5mm及び厚さ14μmのFe基合金リボン(安泰科技社製,ナノクリスタル箔 RN5G-0050F)を巻回し、外径21mm、内径12mm及び高さ5mmの磁心を作製した。なお、Fe基合金リボンを構成するFe基合金の結晶化開始温度を示差走査熱量計(DSC)での測定により求めたところ、516℃であった。
【0051】
(熱処理工程)
上記磁心準備工程で作製した磁心を熱処理炉内に配置し、窒素ガス雰囲気中で熱処理を行った。具体的には、磁心の温度を120分かけて20℃から478℃まで昇温させた後、478℃で30分間保持しながら磁心の高さ方向に磁場強度100mTの磁場を印加した。次いで、磁心の温度を60分かけて550℃まで昇温させ、550℃で60分間保持した。その後、磁心の温度を150分かけて100℃まで降温し、Fe基ナノ結晶合金磁心を得た。実験例1-1~実験例1-5の熱処理工程における温度プロファイルを図1に示す。
【0052】
<実験例1-2~実験例1-75>
磁場印加工程における熱処理温度及び熱処理時間を表1-1~表1-3に示す通りに変更した以外は、実験例1-1と同様にしてFe基ナノ結晶合金磁心を得た。
【0053】
[結晶化度の測定]
磁心準備工程で準備した磁心を、120分かけて20℃から磁場印加工程における熱処理温度まで昇温し、磁場印加が行われた時間と同一時間、当該温度を保持した。その後、60分かけて20℃まで冷却した後の磁心をXRD分析装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製,D8 DISCOVER)を用いて分析した。XRDパターンにおける結晶成分のピーク面積及び非晶質成分のピーク面積から、上記式(2)に基づいて、磁場印加終了時の結晶化度を算出した。結果を表1-1~表1-3に示す。
【0054】
[比透磁率の評価]
実験例で得たFe基ナノ結晶合金磁心を樹脂ケースに装填した後、当該樹脂ケースに線径0.5mmの銅線を10ターン巻くことでコイルを作製した。インピーダンス・アナライザ(Agilent Technologies社製,4294A)を用い、周波数10kHz及び100kHzにおいて、得られたコイルのインダクタンスを測定し、上記式(1)に基づいてFe基ナノ結晶合金磁心の比透磁率を求めた。なお、磁路長lは0.051m、有効断面積Aは1.85×10-5、及び巻き数Nは5である。結果を表1-1~表1-3、図2及び図3に示す。
【0055】
【表1-1】
【0056】
【表1-2】
【0057】
【表1-3】
【0058】
表1-1~表1-3及び図2より、磁場印加工程において、結晶化開始温度未満の一定温度を保持しながら、結晶化度が8%以上40%以下に到達するまでの間、磁場を印加することで、周波数10kHzにおいて高い比透磁率を示すFe基ナノ結晶合金磁心が得られることがわかった。また、表1-1~表1-3及び図3より、磁場印加工程において、磁場印加終了時の結晶化度が8%以上であれば、100kHzにおいて高い比透磁率を示すFe基ナノ結晶合金磁心が得られることがわかった。
以上より、磁場印加終了時の結晶化度が8%以上40%以下となるよう磁場印加を行うことで、低周波領域及び高周波領域のいずれにおいても高い透磁率を示すFe基ナノ結晶合金磁心が得られることが示された。
【0059】
<実験例2-1~実験例2-5>
実験例1-1で作製した磁心を熱処理炉内に配置し、窒素ガス雰囲気中で熱処理を行った。具体的には、温度を120分かけて20℃から460℃まで昇温させた後、460℃で150分間保持した。次いで、60分かけて485℃まで昇温し、485℃で180分間保持しながら磁心の高さ方向に磁場強度100mTの磁場を印加した。次いで、温度を60分かけて560℃まで昇温させ、560℃で90分間保持した。その後、温度を105分かけて20℃まで降温し、Fe基ナノ結晶合金磁心を得た。実験例2-1~実験例2-5の熱処理工程における温度プロファイルを図4に示す。
【0060】
<実験例2-5~実験例2-10>
485℃での保持を開始してから30分後に磁場印加を開始した以外は、実験例2-1と同様にしてFe基ナノ結晶合金磁心を得た。
【0061】
<実験例2-11~実験例2-15>
485℃での保持を開始してから60分後に磁場印加を開始した以外は、実験例2-1と同様にしてFe基ナノ結晶合金磁心を得た。
【0062】
<実験例2-16~実験例2-20>
485℃での保持を開始してから90分後に磁場印加を開始した以外は、実験例2-1と同様にしてFe基ナノ結晶合金磁心を得た。
【0063】
<実験例2-21~実験例2-25>
実験例1-1で作製した磁心を熱処理炉内に配置し、窒素ガス雰囲気中で熱処理を行った。具体的には、温度を120分かけて20℃から480℃まで昇温させた後、480℃で150分間保持しながら磁心の高さ方向に磁場強度100mTの磁場を印加した。次いで、温度を60分かけて550℃まで昇温させ、550℃で60分間保持した。その後、温度を150分かけて100℃まで降温し、Fe基ナノ結晶合金磁心を得た。実験例2-21~実験例2-25の熱処理工程における温度プロファイルを図5に示す。
【0064】
<実験例2-26~~実験例2-30>
480℃での保持を開始してから30分後に磁場印加を開始した以外は、実験例2-21と同様にしてFe基ナノ結晶合金磁心を得た。
【0065】
<実験例2-31~~実験例2-35>
480℃での保持を開始してから60分後に磁場印加を開始した以外は、実験例2-21と同様にしてFe基ナノ結晶合金磁心を得た。
【0066】
[結晶化度の測定]
実験例1-1~実験例1-75と同様の方法により、磁場印加開始時及び磁場印加終了時の結晶化度を算出した。結果を表2に示す。
【0067】
[比透磁率の評価]
実験例で得たFe基ナノ結晶合金磁心を樹脂ケースに装填した後、当該樹脂ケースに線径0.5mmの銅線を8ターン巻くことでコイルを作製した。インピーダンス・アナライザ(Agilent Technologies社製,4294A)を用い、周波数10kHz及び100kHzにおいて、得られたコイルのインダクタンスを測定し、上記式(
1)に基づいてFe基ナノ結晶合金磁心の比透磁率を求めた。なお、磁路長lは0.051m、有効断面積Aは1.85×10-5、及び巻き数Nは5である。結果を表2に示す。
【0068】
[オーバーシュートの評価]
磁場印加工程において、オーバーシュートが発生した際の熱処理炉内の最高到達温度から熱処理炉の設定温度を差し引いた温度(ΔT)を求めた。結果を表2に示す。
【0069】
【表2-1】
【0070】
【表2-2】
【0071】
表2より、Fe基ナノ結晶合金磁心の比透磁率の標準偏差を比較すると、保温工程を行った実験例2-1~実験例2-20では、10kHzにおいて572~3840、100kHzにおいて531~1122であったのに対し、保温工程を行わなかった実験例2-21~実験例2-35では、10kHzにおいて2107~6146及び100kHzにおいて527~1655であった。すなわち、保温工程を行うことにより、Fe基ナノ結晶合金磁心の透磁率のばらつきを抑制できることが示された。
また、表2より、結晶化度が20%のときから30%に至るまでの間に磁場印加を行うと、Fe基ナノ結晶合金磁心の透磁率のばらつき抑制効果が特に高いことがわかった(実験例2-11~実験例2-15)。
【0072】
さらに、保温工程を行わなかった実験例2-21~実験例2-35ではΔTが68℃であったのに対し、保温工程を行った実験例2-1~実験例2-20ではΔTが4℃と小さい値を示した。
以上より、保温工程を行うことにより磁場印加工程におけるオーバーシュートが抑制され、その結果、Fe基ナノ結晶合金磁心の透磁率のばらつきを抑制できることがわかった。
【0073】
<実験例3-1~実験例3-3>
(磁心準備工程)
Fe82.718Si8.6551.493Cu1.287Nb5.584で表される組成を有する、幅13mm及び厚さ14μmのFe基合金リボン(安泰科技社製,ナノクリスタル箔 RN5G-0050F)を巻回し、外径25mm、内径15mm及び高さ
13mmの未酸化の磁心を作製した。この未酸化の磁心を、大気雰囲気中、400℃で15時間加熱することで、酸化被膜付き磁心を作製した。なお、Fe基合金リボンを構成するFe基合金の結晶化開始温度を示差走査熱量計(DSC)での測定により求めたところ、516℃であった。
【0074】
(熱処理工程)
上記磁心準備工程で作製した酸化被膜付き磁心を熱処理炉内に配置し、窒素ガス雰囲気中で熱処理を行った。具体的には、温度を120分かけて20℃から490℃まで昇温させた後、490℃で90分間保持しながら磁心の高さ方向に磁場強度100mTの磁場を印加した。次いで、温度を60分かけて550℃まで昇温させ、550℃で60分間保持した。その後、温度を150分かけて100℃まで降温し、Fe基ナノ結晶合金磁心を得た。実験例3-1~実験例3-3の熱処理工程における温度プロファイルを図6に示す。
【0075】
<実験例3-4~実験例3-6>
酸化被膜付き磁心に代え、実験例3-1の磁心準備工程で作製した未酸化の磁心を用いた以外は、実験例3-1と同様にして熱処理工程を行い、Fe基ナノ結晶合金磁心を得た。
【0076】
[酸化被膜の厚さの測定]
磁心準備工程で作製した酸化被膜付き磁心の酸化被膜の厚さ、及び未酸化の磁心の自然酸化被膜の厚さを、以下の手順で測定した。
X線光電子分光法(XPS)により、酸化被膜付き磁心から巻き出したリボンの表面をスパッタリングしながら酸素濃度を分析することにより、酸化被膜の厚さを測定した。測定条件は下記の通りである。測定された酸素濃度プロファイルにおいて、リボン表面の酸素原子濃度が10%以上の部分の厚さを酸化被膜の厚さとした。結果を表3に示す。
【0077】
(XPS)
装置:アルバック・ファイ株式会社製,PHI 5600CIM
X線源:単色化AlKα線
分析面積:400μm
(スパッタ条件)
イオン種:アルゴン(Ar
加速電圧:3kV
掃引領域:4mm×4mm
レート:1.9nm/min(SiO換算)
【0078】
[結晶化度の測定]
実験例1-1と同様にして、磁場印加終了時の結晶化度を算出した。結果を表3に示す。
【0079】
[比透磁率の評価]
実験例で得たFe基ナノ結晶合金磁心を樹脂ケースに装填した後、当該樹脂ケースに線径0.5mmの銅線を8ターン巻くことでコイルを作製した。インピーダンス・アナライザ(Agilent Technologies社製,4294A)を用い、周波数10kHz、100kHz及び1MHzにおいて、得られたコイルのインダクタンスを測定し、上記式(1)に基づいてFe基ナノ結晶合金磁心の比透磁率を求めた。なお、磁路長lは0.051m、有効断面積Aは1.85×10-5、及び巻き数Nは3である。結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3より、酸化被膜付き磁心の熱処理により得られたFe基ナノ結晶合金磁心(実験例3-1~実験例3-3)は、未酸化の磁心の熱処理により得られたFe基ナノ結晶合金磁心(実験例3-4~実験例3-6)に対し、100kHzにおける比透磁率が平均12%高く、1MHzにおける比透磁率が平均20%高かった。また、10kHzにおける比透磁率は、酸化被膜の有無によらず、同程度であった。
以上より、熱処理に供する磁心として酸化被膜付き磁心を用いることにより、高周波領域におけるFe基ナノ結晶合金磁心の透磁率が向上することが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6