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特許7452340下水処理プラントの異常予測方法及び装置
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  • 特許-下水処理プラントの異常予測方法及び装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】下水処理プラントの異常予測方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240312BHJP
   C02F 3/12 20230101ALI20240312BHJP
【FI】
G05B23/02 302S
C02F3/12 P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020152227
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046278
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】冨田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】江川 拓也
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-117886(JP,A)
【文献】特開平04-326993(JP,A)
【文献】特開2020-140573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
C02F 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水処理プラントの正常時の各状態のプロセスデータと前記各状態に対応する活性汚泥画像の特徴との相関を学習して相関データベース化し、
この学習済み相関データベースを使って実際のプロセスデータと活性汚泥画像との相関を検証し、
正常時の相関と食い違う場合に活性汚泥の異常と判定して下水処理プラントの異常の予兆とすることを特徴とする下水処理プラントの異常予測方法。
【請求項2】
前記活性汚泥画像の特徴を、該活性汚泥画像にて捉えられた微生物の優占種により認識することを特徴とする請求項1に記載の下水処理プラントの異常予測方法。
【請求項3】
前記活性汚泥画像の特徴を、該活性汚泥画像そのものからオートエンコーダを用いたディープラーニングにより抽出することを特徴とする請求項1に記載の下水処理プラントの異常予測方法。
【請求項4】
活性汚泥画像の特徴を抽出する手段と、
下水処理プラントの正常時の各状態のプロセスデータと前記各状態に対応する活性汚泥画像の特徴との相関を学習する手段と、
学習した結果を保存した相関データベースと、
この学習済み相関データベースを使って実際のプロセスデータと活性汚泥画像との相関を検証する手段と、
正常時の相関と食い違う場合に活性汚泥の異常と判定して下水処理プラントの異常の予兆とする手段と、
を備えたことを特徴とする下水処理プラントの異常予測装置。
【請求項5】
前記活性汚泥画像の特徴を抽出する手段が、
前記活性汚泥画像の特徴を、該活性汚泥画像にて捉えられた微生物の優占種により認識することを特徴とする請求項4に記載の下水処理プラントの異常予測装置。
【請求項6】
前記活性汚泥画像の特徴を抽出する手段が、
前記活性汚泥画像の特徴を、該活性汚泥画像そのものからオートエンコーダを用いたディープラーニングにより抽出することを特徴とする請求項4に記載の下水処理プラントの異常予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理プラントの異常予測方法及び装置に係り、特に、下水処理プラントの異常を有効に予測することが可能な、下水処理プラントの異常予測方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物の生物化学反応を利用した活性汚泥法による下水処理が一般的に行われている。これは、曝気によって下水中の溶存酸素濃度を高めることにより、汚泥中の微生物を活性化させ、摂取した溶存酸素を使用して下水中の物質を炭酸ガスと水に酸化分解しながら増殖を繰り返す微生物の活動により、下水を浄化する方法である。
【0003】
このような活性汚泥法による下水処理プラントの基本的な下水処理フローを図1に示す。この下水処理プラントは、下水ラインから流入する下水からトイレットペーパーなどの固形性汚濁物や砂等を除去するための最初沈殿池10と、微生物群の働きにより有機物や窒素(アンモニア)、リン酸を除去するための生物反応槽20と、活性汚泥と処理水を自然沈降により固液分離するための最終沈殿池30とを主に備えている。
【0004】
下水処理プラントの主要な処理対象物と項目は、有機物は、生物学的酸素要求量BOD、化学的酸素要求量COD、浮遊状固形物SSであり、窒素関係は、全窒素(有機体窒素+無機窒素)T-N、アンモニア性窒素NH4-N、硝酸性窒素NO3-N、亜硝酸性窒素NO2-Nであり、リンは、全リン(有機体リン+無機リン)T-P、リン酸性リンPO4-Pである。
【0005】
このような下水処理プラントを安定的に操業するためには、異常発生の予兆をいち早く捉える必要がある。
【0006】
そこで、予兆を捉えるために、活性汚泥の顕微鏡画像をオペレータが丹念に観察することが試みられているが、自動化はされていない。
【0007】
一方、特許文献1には、活性汚泥画像を自動的に観察する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-76289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は活性汚泥の画像処理装置であり、汚泥の流出量や沈降性能を高精度に求めることは可能であっても、下水処理プラントの異常を予測することはできなかった。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、活性汚泥の画像を使った、下水処理プラントの有効な異常予測技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、下水処理プラントの正常時の各状態のプロセスデータと前記各状態に対応する活性汚泥画像の特徴との相関を学習して相関データベース化し、この学習済み相関データベースを使って実際のプロセスデータと活性汚泥画像との相関を検証し、正常時の相関と食い違う場合に活性汚泥の異常と判定して下水処理プラントの異常の予兆とすることを特徴とする下水処理プラントの異常予測方法により、前記課題を解決するものである。
【0012】
ここで、前記活性汚泥画像の特徴を、該活性汚泥画像にて捉えられた微生物の優占種により認識することができる。
【0013】
又、前記活性汚泥画像の特徴を、該活性汚泥画像そのものからオートエンコーダを用いたディープラーニングにより抽出することができる。
【0014】
本発明は、又、活性汚泥画像の特徴を抽出する手段と、下水処理プラントの正常時の各状態のプロセスデータと前記各状態に対応する活性汚泥画像の特徴との相関を学習する手段と、学習した結果を保存した相関データベースと、この学習済み相関データベースを使って実際のプロセスデータと活性汚泥画像との相関を検証する手段と、正常時の相関と食い違う場合に活性汚泥の異常と判定して下水処理プラントの異常の予兆とする手段と、を備えたことを特徴とする下水処理プラントの異常予測装置により、同様に前記課題を解決するものである。
【0015】
ここで、前記活性汚泥画像の特徴を抽出する手段は、前記活性汚泥画像の特徴を、該活性汚泥画像にて捉えられた微生物の優占種により認識することができる。
【0016】
又、前記活性汚泥画像の特徴を抽出する手段は、前記活性汚泥画像の特徴を、該活性汚泥画像そのものからオートエンコーダを用いたディープラーニングにより抽出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、操業中の実際の活性汚泥画像の特徴と、プラント正常時の活性汚泥画像の特徴とを常に比較して、食い違いの発生を監視しているので、プラントの異常をいち早く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】下水処理プラントの基本的な下水処理フローを示す図
図2】本発明に係る下水処理プラントの実施形態を示す図
図3】前記実施形態の処理手順を示す流れ図
図4】前記実施形態の(A)正常時の学習及び(B)異常予兆検出の様子を示す図
図5】前記実施形態で活性汚泥画像から得られる特徴量の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0021】
本発明の実施形態の構成を図2に示す。
【0022】
本実施形態は、従来と同様の、下水ライン8から下水が流入する最初沈殿池10と、該最初沈殿池10と流入ライン12を介して接続された生物反応槽20と、最終沈殿池30とを主に備えている。
【0023】
なお、最初沈殿池10の入側に、大きな重い夾雑物を除去して、ポンプ等を保護するための沈砂池(図示省略)が設けられる。
【0024】
前記生物反応槽20は、細胞内のリンを放出し、PHAを細胞内に合成するための嫌気槽22と、硝酸内の酸素を用いて有機物を酸化分解し、硝酸を窒素ガスに還元するための無酸素槽24と、溶存酸素を用いて有機物を酸化分解し、アンモニアを硝酸化、PHAを分解して、リン酸を細胞内に過剰蓄積させることによってリンを除去するための好気槽26とを備えている。
【0025】
前記最終沈殿池30の出側には、処理水を消毒して河川等に放流するための処理水ライン32と、汚泥の一部を生物反応槽20の入側に返送するための汚泥返送ライン34と、余剰汚泥を脱水して排出するための余剰汚泥ライン36とが設けられている。
【0026】
前記汚泥返送ライン34には、返送ポンプ38及び流量計39が設けられており、最終沈殿池30に蓄積した汚泥の一部が生物反応槽20の入側に戻される。この返送ポンプ38による返送汚泥量の調整により、MLSS(汚泥濃度)の維持や調整が図られる。
【0027】
前記余剰汚泥ライン36には、余剰汚泥ポンプ40及び流量計41が設けられており、余剰汚泥は脱水されて排出される。この余剰汚泥ポンプ40による余剰汚泥量の調整により、系内の汚泥量の調整、汚泥の新陳代謝を整えて、汚泥滞留時間を制御する。
【0028】
前記好気槽26には、空気ブロワ42と空気量計43が設けられ、空気を吹き込むようにされている。この空気ブロワ42の空気量は、DO(溶存酸素濃度)の維持及び制御に用いられる。
【0029】
前記生物反応槽20の好気槽26の出側には、硝化液を無酸素槽24に循環させるための硝化液循環ライン44が設けられており、この硝化液循環ライン44には、硝化液循環ポンプ46が設けられている。この硝化液循環ポンプ46による硝化液循環量は、無酸素槽24への硝酸性窒素の供給量を調整して、窒素を除去するために用いられる。
【0030】
前記流入ライン12には水量センサ14が設けられ、前記嫌気槽22にはORP(酸化還元電位)センサ52が設けられ、前記無酸素槽24には、例えばpHセンサ及びORPセンサからなるセンサ54が設けられ、前記好気槽26には、例えばO2センサ、MLSS(汚泥濃度)センサ、pHセンサからなるセンサ56が設けられ、処理水ライン32には水質センサ58が設けられている。
【0031】
前記各センサ14、52、54、56、58の出力は、コンピュータ60に入力され、コンピュータ60による演算処理結果に基づいて、各ポンプやブロワなどのアクチュエータが制御される。本実施形態では、前記コンピュータ60に相関データベース62が接続されている。
【0032】
ここで、pHは、環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22と無酸素槽24では例えばpH7~8、好気槽26では例えばpH6~7に保たれる。
【0033】
又、前記ORP(酸化還元電位)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22では例えば-300~-400mV未満に維持され、無酸素槽24では例えば0~-200mV未満に維持される。
【0034】
又、前記DO(溶存酸素濃度)に関しても、やはり環境条件の管理に用いられ、嫌気槽22や無酸素槽24では例えば0.2mg/L未満、好気槽26では例えば1.0~2.0mg/Lに保たれる。
【0035】
又、前記MLSS(汚泥濃度)は、活性汚泥中の微生物量の管理に用いられ、遠心分離汚泥の乾燥重量で全体的に例えば2,000~3,000mg/Lに保たれる。
【0036】
汚泥性状としては、例えば前記MLSS、1Lメスシリンダで30分沈殿させた場合の汚泥界面の目盛である活性汚泥沈殿率SV30、30分沈降後の汚泥1gが占める容積である汚泥沈降目標SVI(=SV30×10,000/MLSS)が分析される。
【0037】
本実施形態の処理手順を図3に示す。また、正常時の学習、及び異常予兆検出の様子を図4(A)、及び(B)に示す。
【0038】
まずステップ100で、正常時の状態Aのプロセスデータ(例えば温度、DO(溶存酸素濃度)、pH、水質・・・)を得る。
【0039】
次いでステップ110で、前記正常時の状態Aに対応する活性汚泥画像の特徴Aを抽出する。
【0040】
前記活性汚泥画像の特徴(パラメータ)には、図5に例示する如く、活性汚泥中の微生物(群)が形成するフロックの大きさ、フロックの色、フロックの数、フロックの形状、糸状菌の数、糸状菌の長さ、水の色、フロック近傍の水の色、原生生物の種類、原生生物の数などがある。
【0041】
次いでステップ120に進み、学習が終了したか判定する。判定結果が否で、学習が終了していないと判定された場合にはステップ100に戻り、次の正常時の状態Bのプロセスデータを得る。
【0042】
次いで再びステップ110に進み、前記正常時の状態Bに対応する活性汚泥画像の特徴Bを抽出する。
【0043】
前記のような活性汚泥画像の特徴に基づいて、活性汚泥画像で捉えられた視野内の微生物の優占種を認識したり、あるいは、活性汚泥画像そのものから変分自己符号化器VAE(Variational Auto-Encoder)等の手法により特徴を抽出することができる。
【0044】
ステップ120の判定結果が正となり、学習が終了したと判定された場合は、ステップ130に進み、前記プロセスデータA、B・・・と活性汚泥画像の特徴A、B・・・の相関を学習して相関データベース62に入れる。
【0045】
次いでステップ140に進み、実際のプロセスデータと活性汚泥画像の特徴の相関を比較し、ステップ150で、相関データベース62に記憶されたデータと一致するか判定する。判定結果が正である場合にはステップ160に進み、正常であると判定する。
【0046】
一方、ステップ150の判定結果が否である場合には、ステップ170に進み、異常の予兆と判定する。
【0047】
異常の予兆が判定されたときには、ステップ180に進み、制御を修正等して適切な対応をとることができる。
【0048】
なお、前記実施形態においては、本発明が、嫌気-無酸素-好気法により有機物、窒素、リンを除去するための、生物反応槽20が嫌気槽22、無酸素槽24及び好気槽26を備えた下水処理プラントに適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、例えば無酸素-好気法(循環式硝化脱窒素法)により有機物と窒素を除去するための、生物反応槽が嫌気槽を含まない下水処理プラントや、嫌気-好気法により有機物とリンを除去するための、生物反応槽が無酸素槽を含まず、嫌気槽と好気槽を備えた下水処理プラントや、標準活性汚泥法により有機物を除去するための、生物反応槽が好気槽のみからなる下水処理プラントにも適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0049】
8…下水ライン
10…最初沈殿池
12…流入ライン
14…水量センサ
20…生物反応槽
22…嫌気槽
24…無酸素槽
26…好気槽
30…最終沈殿池
32…処理水ライン
34…汚泥返送ライン
36…余剰汚泥ライン
38…返送ポンプ
39、41…流量計
40…余剰汚泥ポンプ
42…空気ブロワ
43…空気量計
44…硝化液循環ライン
46…硝化液循環ポンプ
52…ORPセンサ
54…pHセンサ+ORPセンサ
56…O2センサ+MLSSセンサ+pHセンサ
58…水質センサ
60…コンピュータ
62…相関データベース
図1
図2
図3
図4
図5