IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-光学部材及びその製造方法 図1
  • 特許-光学部材及びその製造方法 図2
  • 特許-光学部材及びその製造方法 図3
  • 特許-光学部材及びその製造方法 図4
  • 特許-光学部材及びその製造方法 図5
  • 特許-光学部材及びその製造方法 図6
  • 特許-光学部材及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】光学部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20240312BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20240312BHJP
   C23C 14/10 20060101ALI20240312BHJP
   G02B 1/113 20150101ALI20240312BHJP
【FI】
G02B5/00 B
C23C14/08 A
C23C14/08 E
C23C14/08 Z
C23C14/10
G02B1/113
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020160350
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022053623
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 義正
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-542457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 - 14/58
G02B 1/10 - 1/18
G02B 5/00 - 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材本体と、
前記部材本体上に設けられている光学膜と、
を備え、
前記光学膜が、酸窒化物であるMからなる遮光膜と、前記遮光膜に積層されている反射防止膜とを有し、
前記反射防止膜よりも、前記遮光膜が前記部材本体側に位置し、
前記遮光膜において、y>zであり、
前記遮光膜におけるM のMが、Ti、Cr、Ta及びZrのうちいずれかの元素である、光学部材。
【請求項2】
部材本体と、
前記部材本体上に設けられている光学膜と、
を備え、
前記光学膜が、酸窒化物であるM からなる遮光膜と、前記遮光膜に積層されている反射防止膜とを有し、
前記反射防止膜よりも、前記遮光膜が前記部材本体側に位置し、
前記遮光膜において、y>zであり、
前記反射防止膜が第1の反射防止膜であり、
前記遮光膜と前記部材本体との間に位置している第2の反射防止膜をさらに備える、光学部材。
【請求項3】
前記遮光膜におけるMのxを1としたとき、yが0.5以上、1.5以下であり、zが0.05以上、0.3以下である、請求項1または2に記載の光学部材。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の光学部材を製造する方法であって、
前記部材本体上に、直接的または間接的に酸化物膜を積層する工程と、
前記酸化物膜を窒化することにより、酸窒化物であるMからなる前記遮光膜を形成する工程と、
前記遮光膜上に前記反射防止膜を積層する工程と、
を備える、光学部材の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物膜が、酸化チタン、酸化クロム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムのうちいずれかの酸化物からなる、請求項に記載の光学部材の製造方法。
【請求項6】
前記反射防止膜が第1の反射防止膜であり、
前記部材本体上に第2の反射防止膜を積層する工程をさらに備え、
前記酸化物膜を積層する工程において、前記第2の反射防止膜上に前記酸化物膜を積層する、請求項またはに記載の光学部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光デバイスには、プリズムや光学フィルタ等の様々な光学部材が用いられている。光デバイス内においては、筐体内の意図しない光の反射に起因する迷光が生じることがある。迷光が光学部材に入射することを防止するため、光学部材に遮光膜が設けられる場合がある。
【0003】
特許文献1には、遮光膜を有する光学フィルタ部材の一例が開示されている。この光学フィルタ部材においては、基体の上面における周囲領域に遮光膜が形成されている。遮光膜には、金属及び金属酸化物が用いられている。基体の上面及び遮光膜は、光学多層膜により覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-170182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたような光学フィルタ部材においては、遮光膜の遮光性が高いだけでなく、遮光膜の反射率も高いという問題がある。そのため、遮光膜が入射光を反射し、さらに光デバイスの筐体内において光が反射されることによって、迷光が生じるおそれがある。近年は光デバイスの小型化が進められており、光学部材同士が接近しているため、迷光の問題はより顕著になっている。
【0006】
他方、遮光性に優れる樹脂が遮光膜に用いられることもある。しかしながら、樹脂を塗布する場合には、スパッタリング法やフォトリソグラフィ法等を用いて金属膜や金属酸化物膜を形成する場合と比較して、位置の精度を十分に高めることは困難である。よって、生産性を十分に高めることは困難である。
【0007】
本発明の目的は、所望の領域において遮光性に優れ、かつ反射率が低く、さらに生産性が高い、光学部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光学部材は、部材本体と、部材本体上に設けられている光学膜と、
を備え、光学膜が、酸窒化物であるMからなる遮光膜と、遮光膜に積層されている反射防止膜とを有し、反射防止膜よりも、遮光膜が部材本体側に位置し、遮光膜において、y>zであることを特徴としている。
【0009】
遮光膜におけるMのMが、Ti、Cr、Ta、Zr、Si及びAlのうちいずれかの元素であることが好ましい。
【0010】
遮光膜におけるMのxを1としたとき、yが0.5以上、1.5以下であり、zが0.05以上、0.3以下であることが好ましい。
【0011】
反射防止膜が第1の反射防止膜であり、遮光膜と部材本体との間に位置している第2の反射防止膜をさらに備えることが好ましい。
【0012】
上記光学部材を製造する方法であって、部材本体上に、直接的または間接的に酸化物膜を積層する工程と、酸化物膜を窒化することにより、酸窒化物であるMからなる遮光膜を形成する工程と、遮光膜上に反射防止膜を積層する工程と、を備えることを特徴としている。
【0013】
酸化物膜が、酸化チタン、酸化クロム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムのうちいずれかの酸化物からなることが好ましい。
【0014】
反射防止膜が第1の反射防止膜であり、部材本体上に第2の反射防止膜を積層する工程をさらに備え、酸化物膜を積層する工程において、第2の反射防止膜上に酸化物膜を積層することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所望の領域において遮光性に優れ、かつ反射率が低く、さらに生産性が高い、光学部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係る光学部材の模式的断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る光学部材の、光学膜付近を示す模式的断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態における光学膜の透過率及び反射率と、波長との関係を示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態における光学膜のヒートサイクル試験の結果を示す図である。
図5】(a)~(d)は、本発明の第2の実施形態に係る光学部材の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図6】(a)~(c)は、本発明の第2の実施形態に係る光学部材の製造方法における、光学膜を形成する工程の一例を説明するための模式的断面図である。
図7】(a)は、本発明の第1の実施形態における遮光膜のXPSの分析結果においての、Ti元素のピーク付近を示す図であり、(b)は、O元素のピーク付近を示す図であり、(c)は、N元素のピーク付近を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0018】
(光学部材)
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光学部材の模式的断面図である。光学部材1はビームスプリッタである。なお、ビームスプリッタは一例であって、本発明の光学部材はビームスプリッタ以外の部材であってもよい。
【0019】
図1に示すように、光学部材1は、部材本体2と光学膜3とを備える。部材本体2は、第1のプリズム4Aと、第2のプリズム4Bと、透光部材4Cとを含む。第1のプリズム4A及び第2のプリズム4Bが、透光部材4Cに接合されている。部材本体2は略直方体状の形状を有する。部材本体2は、上面と、底面と、複数の側面とを有する。複数の側面は、上面及び側面に接続されている。複数の側面は、第1の側面2a、第2の側面2b、第3の側面2c及び第4の側面2dを含む。第1の側面2aと第3の側面2cとが対向し合っている。第2の側面2bと第4の側面2dとが対向し合っている。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る光学部材の、光学膜付近を示す模式的断面図である。部材本体2の第1の側面2a上には、上記光学膜3が設けられている。光学膜3は、遮光膜5と、第1の反射防止膜6とを有する。部材本体2上に第2の反射防止膜8が積層されており、部材本体2上に、第2の反射防止膜8を介して遮光膜5が積層されている。遮光膜5上に第1の反射防止膜6が積層されている。
【0021】
本実施形態では、遮光膜5は酸窒化チタンからなる。なお、遮光膜5の材料は上記に限定されず、酸窒化物であるMからなり、かつy>zであればよい。なお、遮光膜5の材料は金属酸窒化物からなることが好ましい。MにおけるMは、Ti、Cr、Ta、Zr、Si及びAlのうちいずれかの元素であることが好ましい。
【0022】
第1の反射防止膜6は、積層膜からなる。具体的には、第1の反射防止膜6では、高屈折率膜6a、低屈折率膜6b及び高屈折率膜6cがこの順序において積層されている。なお、第1の反射防止膜6における高屈折率膜の層数及び低屈折率膜の層数は、特に限定されない。
【0023】
本実施形態においては、第1の反射防止膜6における高屈折率膜6a及び高屈折率膜6cはTiOからなる。第1の反射防止膜6における低屈折率膜6bはSiOからなる。もっとも、高屈折率膜及び低屈折率膜の材料は上記に限定されない。低屈折率膜としては、例えば、MgF等を用いてもよい。高屈折率膜としては、例えば、Ta、ZrOまたはHfO等を用いてもよい。
【0024】
図1に戻り、第1のプリズム4A及び第2のプリズム4Bは三角柱状の形状を有する。他方、透光部材4Cは、四角柱状の形状を有する。第1のプリズム4A、第2のプリズム4B及び透光部材4Cは、それぞれ、上面と、底面と、複数の側面とを有する。第1のプリズム4A及び第2のプリズム4Bの上面及び底面は、略直角二等辺三角形状の形状を有する。透光部材4Cの上面及び底面は、略平行四辺形状の形状を有する。
【0025】
部材本体2の第1の側面2aは、第2のプリズム4Bの側面及び透光部材4Cの側面により構成されている。第2の側面2bは、第1のプリズム4Aの側面により構成されている。第3の側面2cは、第1のプリズム4Aの側面及び透光部材4Cの側面により構成されている。第4の側面2dは、第2のプリズム4Bの側面により構成されている。第1の側面2a、第2の側面2b、第3の側面2c及び第4の側面2dには、第2の反射防止膜8が設けられている。上記光学膜3は、部材本体2上に、第2の反射防止膜8を介して間接的に設けられている。もっとも、第2の反射防止膜8は必ずしも設けられていなくともよい。
【0026】
なお、第2の反射防止膜8は、積層膜からなる。具体的には、第2の反射防止膜8においては、高屈折率膜8a、低屈折率膜8b、高屈折率膜8c及び低屈折率膜8dがこの順序で積層されている。第2の反射防止膜8における高屈折率膜の層数及び低屈折率膜の層数は、特に限定されない。
【0027】
本実施形態においては、第2の反射防止膜8における高屈折率膜8a及び高屈折率膜8cはTiOからなる。第2の反射防止膜8における低屈折率膜8b及び低屈折率膜8dはSiOからなる。もっとも、高屈折率膜及び低屈折率膜の材料は上記に限定されない。低屈折率膜としては、例えば、MgF等を用いてもよい。高屈折率膜としては、例えば、Ta、ZrOまたはHfO等を用いてもよい。
【0028】
第1のプリズム4Aと透光部材4Cとの間には、第1の透過率調整膜9Aが設けられている。同様に、第2のプリズム4Bと透光部材4Cとの間には、第2の透過率調整膜9Bが設けられている。第1の透過率調整膜9A及び第2の透過率調整膜9Bは一部の光を透過させ、他の光を反射させる。本実施形態では、第1の透過率調整膜9A及び第2の透過率調整膜9Bは、光半透過膜であり透過率は50%である。もっとも、第1の透過率調整膜9A及び第2の透過率調整膜9Bの透過率は50%に限定されない。
【0029】
本実施形態の光学部材1はビームスプリッタである。光学部材1は、入射部1aと、第1の出射部1b、第2の出射部1c及び第3の出射部1dとを有する。入射部1aは、第1の側面2aに位置する。具体的には、入射部1aは、第1の側面2aにおける透光部材4Cの部分に位置する。第1の出射部1b及び第2の出射部1cは、第3の側面2cに位置する。具体的には、第1の出射部1bは、第3の側面2cにおける第1のプリズム4Aの部分に位置する。第2の出射部1cは、第3の側面2cにおける透光部材4Cの部分に位置する。第3の出射部1dは、第4の側面2dに位置する。
【0030】
なお、上記のように、光学膜3は部材本体2の第1の側面2aに設けられている。具体的には、光学膜3は、第1の側面2aにおける、第2のプリズム4Bの部分及び透光部材4Cの部分に連続して設けられている。光学膜3は、入射光Aを阻害しないように設けられている。
【0031】
入射部1aから入射した入射光Aの一部は第1の透過率調整膜9Aを透過し、第1の出射部1bから出射光C1として出射する。入射光Aの他の一部は第1の透過率調整膜9Aにより反射され、反射光Bとなる。反射光Bの一部は第2の透過率調整膜9Bにより反射され、第2の出射部1cから出射光C2として出射する。反射光Bの他の一部は第2の透過率調整膜9Bを透過し、第3の出射部1dから出射光C3として出射する。
【0032】
本実施形態の特徴は、光学膜3が遮光膜5と、第1の反射防止膜6とを有し、遮光膜5がMからなり、かつy>zであること、及び第1の反射防止膜6よりも、遮光膜5が部材本体2側に位置していることにある。光学膜3が遮光膜5を有するため、光学膜3が設けられている部分においては、遮光性に優れる。さらに、遮光膜5が酸窒化物からなるため、遮光膜5が金属酸化物等の酸化物または金属等からなる場合よりも、反射率を大幅に低くすることができる。加えて、第1の反射防止膜6よりも遮光膜5が部材本体2側に位置するため、光学膜3全体としての反射率をより一層低くすることができる。よって、迷光が生じることを抑制することができる。なお、遮光膜5が金属からなる場合、入射光が遮光膜5において反射する。また、遮光膜5が金属酸化物からなる場合、第1の反射防止膜6において反射率を低くする効果を得にくくなる。
【0033】
本実施形態においては、スパッタリング法または蒸着法等を用いて、光学膜3を形成することができる。そのため、樹脂からなる遮光膜を形成する場合よりも、形成する位置の精度を容易に高めることができる。よって、位置の精度に起因する不良率を容易に低くすることができる。従って、生産性を高めることができる。
【0034】
以下、本実施形態における光学膜3の光学特性の詳細を示す。具体的には、光学膜3の透過率及び反射率を示す。なお、反射率は、入射角が12°の場合及び入射角が30°の場合の例を示す。さらに、ヒートサイクル試験の結果も併せて示す。ヒートサイクル試験においては、-55°に冷却し、125°に加熱するという温度の昇降を1サイクルとして、500サイクル行った。この温度の昇降を行う前と、温度の昇降を500サイクル行った後とにおいて光学特性を測定し、比較した。
【0035】
図3は、第1の実施形態における光学膜の透過率及び反射率と、波長との関係を示す図である。図4は、第1の実施形態における光学膜のヒートサイクル試験の結果を示す図である。なお、図3及び図4においては、1500nm以上、1650nm以下程度の光に対して用いる光学膜3の例を示す。
【0036】
図3に示すように、光学膜3の透過率は、1500nm~1650nmにおいて1%未満であることがわかる。入射角が12°である場合及び入射角が30°である場合のいずれも、光学膜3の反射率は、1500nm~1650nmにおいて1%未満であることがわかる。このように、光学膜3は遮光性に優れ、かつ光学膜3の反射率が低いことがわかる。よって、第1の実施形態の光学部材1は、所望の領域、すなわち光学膜3を設けた領域において遮光性に優れ、かつ反射率が低い。
【0037】
図4に示すように、温度の昇降を繰り返す前後において、光学膜3の透過率及び反射率にはほぼ変化がないことがわかる。このように、本実施形態においては、光学膜3の信頼性をも高めることができる。
【0038】
第1の反射防止膜6の層数は、1層以上であることが好ましく、3層以上であることがより好ましい。この場合には、光学膜3の反射率を好適に低くすることができる。第1の反射防止膜6の層数は、9層以下であることが好ましく、5層以下であることがより好ましい。この場合には、第1の反射防止膜6の膜応力を好適に低くすることができ、第1の反射防止膜6が剥離し難い。
【0039】
第1の反射防止膜6の最も遮光膜5側の膜は、高屈折率膜であることが好ましい。この場合には、遮光膜5と第1の反射防止膜6との界面において、屈折率の差を小さくすることができる。それによって、光学膜3に入射した光が、第1の反射防止膜6及び遮光膜5の界面において反射し難い。また、第2の反射防止膜8の最も遮光膜5側の膜は、低屈折率膜であることが好ましい。この場合には、遮光膜5と第2の反射防止膜8との界面において、屈折率の差が大きくなり、遮光膜5及び第2の反射防止膜8の界面において光が反射しやすくなる。これにより、遮光膜5が設けられている部分において、部材本体2に光がより一層入射し難い。さらに、遮光膜5の透過率は低いため、遮光膜5及び第2の反射防止膜8の界面において反射した光は遮光膜5においてほぼ遮光される。
【0040】
光デバイスの小型化を進めると、部材同士が近接するため、迷光の問題はより顕著となる。本実施形態の光学部材1においては、迷光が生じることを抑制できるため、小型の光デバイスに用いられる場合に特に好適である。
【0041】
本発明に係る光学部材は、ビームスプリッタに限定されず、例えば、プリズムまたはレンズ等であってもよい。光学部材における部材本体は、例えば、プリズム、レンズまたはガラス基板等であってもよい。
【0042】
(製造方法)
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態としての、光学部材の製造方法を説明する。なお、第2の実施形態は、上記光学部材1を製造する方法の一例である。
【0043】
図5(a)~図5(d)は、本発明の第2の実施形態に係る光学部材の製造方法を説明するための模式的断面図である。図6(a)~図6(c)は、本発明の第2の実施形態に係る光学部材の製造方法における、光学膜を形成する工程の一例を説明するための模式的断面図である。
【0044】
図5(a)~図5(c)に示すように、第1のプリズム用母材14A、第2のプリズム用母材14B及び透光部材用母材14Cを用意する。図5(a)に示すように、第1のプリズム用母材14Aは貼り合わせ面16aを有する。貼り合わせ面16aは、第1のプリズム用母材14Aにおける、透光部材用母材14Cと貼り合わせる面である。第1のプリズム用母材14Aの貼り合わせ面16aに、第1の透過率調整膜9Aを形成する。さらに、第1のプリズム用母材14Aにおける、貼り合わせ面16a以外の面に、第2の反射防止膜8を形成する。
【0045】
第1の透過率調整膜9Aは、例えば、スパッタリング法または真空蒸着法等を用いて、適宜の金属膜または誘電体膜を積層することにより形成することができる。第2の反射防止膜8は、例えば、スパッタリング法または真空蒸着法等を用いて、低屈折率膜及び高屈折率膜を交互に積層することにより形成することができる。なお、第1の透過率調整膜9A及び第2の反射防止膜8を形成する順序は特に限定されない。
【0046】
同様に、図5(b)に示すように、第2のプリズム用母材14Bは貼り合わせ面16bを有する。第2のプリズム用母材14Bの貼り合わせ面16bに、第2の透過率調整膜9Bを形成する。さらに、第2のプリズム用母材14Bにおける、貼り合わせ面16b以外の面に、第2の反射防止膜8を形成する。なお、本実施形態では、第2のプリズム用母材14B、第2の透過率調整膜9B及び第2の反射防止膜8は、図5(a)に示す第1のプリズム用母材14A、第1の透過率調整膜9A及び第2の反射防止膜8と同様に構成されている。この場合には、第1の透過率調整膜9A及び第2の反射防止膜8が形成された第1のプリズム用母材14Aを分割することにより、第2の透過率調整膜9B及び第2の反射防止膜8が形成された第2のプリズム用母材14Bを得てもよい。
【0047】
図5(c)に示すように、透光部材用母材14Cは貼り合わせ面16c及び貼り合わせ面16dを有する。貼り合わせ面16cは、透光部材用母材14Cにおける、第1のプリズム用母材14Aと貼り合わせる面である。貼り合わせ面16dは、透光部材用母材14Cにおける、第2のプリズム用母材14Bと貼り合わせる面である。透光部材用母材14Cにおける、貼り合わせ面16c及び貼り合わせ面16d以外の面に、第2の反射防止膜8を形成する。なお、上記第1の透過率調整膜9Aは、透光部材用母材14Cの貼り合わせ面16cに設けてもよい。上記第2の透過率調整膜9Bは、透光部材用母材14Cの貼り合わせ面16dに設けてもよい。
【0048】
次に、図5(d)に示すように、第1のプリズム用母材14Aの貼り合わせ面16aと透光部材用母材14Cの貼り合わせ面16cとを貼り合わせる。第2のプリズム用母材14Bの貼り合わせ面16bと透光部材用母材14Cの貼り合わせ面16dとを貼り合わせる。これにより、本体用母材12を得る。第1のプリズム用母材14A及び第2のプリズム用母材14Bと、透光部材用母材14Cとの接合には、適宜の接着剤等を用いてもよい。なお、第2の反射防止膜8は、第1のプリズム用母材14A及び第2のプリズム用母材14Bと、透光部材用母材14Cとを接合した後に形成してもよい。もっとも、第2の反射防止膜8は、必ずしも形成しなくともよい。
【0049】
本体用母材12は側面12aを有する。側面12aは、図1に示す部材本体2の第1の側面2aに相当する。図6(a)に示すように、側面12a上に、第2の反射防止膜8を形成する。第2の反射防止膜8は、例えば、スパッタリング法または真空蒸着法等を用いて、低屈折率膜及び高屈折率膜を交互に積層することにより形成することができる。
【0050】
次に、第2の反射防止膜8上に、本発明における酸化物膜としての、金属酸化物膜15を形成する。本実施形態においては、金属酸化物膜15は酸化チタンからなる。もっとも、本発明における酸化物膜の材料は上記に限定されない。酸化物膜は、例えば、酸化クロム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムのうちいずれかの酸化物からなっていてもよい。金属酸化物膜15は、例えば、スパッタリング法または真空蒸着法等を用いて形成することができる。酸化物膜を酸化ケイ素等により形成する場合も同様である。
【0051】
次に、金属酸化物膜15を窒化する。これにより、図6(b)に示すように、遮光膜5を得る。本実施形態では、遮光膜5は酸窒化チタンからなる。もっとも、上記のように、遮光膜5は、酸窒化チタン以外の酸窒化物からなっていてもよい。次に、図6(c)に示すように、遮光膜5上に第1の反射防止膜6を積層する。第1の反射防止膜6は、例えば、スパッタリング法または真空蒸着法等を用いて、低屈折率膜及び高屈折率膜を交互に積層することにより形成することができる。次に、本体用母材12を切断することにより、複数の光学部材1を得る。
【0052】
ここで、本発明者は、金属等の酸化及び窒化を同時に行った場合には、遮光膜の光学特性が安定しないという問題を見出した。これは、遮光膜における窒素元素の割合のばらつきによって、光学特性が大きく変化することによる。さらに、本発明者は、金属等の酸化及び窒化を同時に行うと、酸窒化物としてのMにおいて、安定してy>zとすることができないことを見出した。これにより、遮光膜における光学特性のばらつきが大きくなりがちになる。そのため、遮光膜の反射率を十分に低くすることができないことがあり、結果として、迷光を抑制することが困難となる。さらに、光学膜全体として反射率を低くするためには、遮光膜の屈折率等の光学特性を測定し、その光学特性に合致した第1の反射防止膜を用意する必要がある。このように、生産性を高めることは困難となる。
【0053】
これに対して、本実施形態においては、金属酸化物膜15を形成した後に、金属酸化物膜15を窒化している。それによって、酸窒化物としてのMにおいて、安定してy>zとすることができる。この場合、酸窒化物における窒素元素の割合にばらつきが生じたとしても、光学特性の変化が小さくなる。よって、遮光膜5の反射率を安定して低くすることができる。さらに、遮光膜5の光学特性のばらつきが小さいため、遮光膜5の光学特性のばらつきに応じた第1の反射防止膜6の構成の変更を行う必要はない。よって、生産性を効果的に高めることができる。
【0054】
以下、第2の実施形態の方法により作製した、第1の実施形態の光学膜3における遮光膜5の、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)による分析の結果を示す。
【0055】
図7(a)は、第1の実施形態における遮光膜のXPSの分析結果においての、Ti元素のピーク付近を示す図であり、図7(b)は、O元素のピーク付近を示す図であり、図7(c)は、N元素のピーク付近を示す図である。図7(a)~図7(c)に示すように、チタン元素(Ti元素)のピーク及び酸素元素(O元素)のピークよりも、窒素元素(N元素)のピークが低いことがわかる。よって、Tiにおいて、y>zであることがわかる。
【0056】
遮光膜5におけるMのxを1としたとき、yは、0.5以上、1.5以下であることが好ましく、0.8以上、1.3以下であることがより好ましい。zは、0.05以上、0.3以下であることが好ましく、0.1以上、0.15以下であることがより好ましい。特に、zが上記範囲内である場合には、遮光膜5の組成において窒素元素の割合にばらつきが生じた場合においても、光学膜3における光学特性のばらつきをより一層小さくすることができ、光学膜3の反射率をより一層確実に低くすることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…光学部材
1a…入射部
1b~1d…第1~第3の出射部
2…部材本体
2a~2d…第1~第4の側面
3…光学膜
4A,4B…第1,第2のプリズム
4C…透光部材
5…遮光膜
6…第1の反射防止膜
6a…高屈折率膜
6b…低屈折率膜
6c…高屈折率膜
8…第2の反射防止膜
8a…高屈折率膜
8b…低屈折率膜
8c…高屈折率膜
8d…低屈折率膜
9A,9B…第1,第2の透過率調整膜
12…本体用母材
12a…側面
14A,14B…第1,第2のプリズム用母材
14C…透光部材用母材
15…金属酸化物膜
16a~16d…貼り合わせ面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7