(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20240312BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240312BHJP
G01M 13/04 20190101ALI20240312BHJP
【FI】
G01B11/00 H
F16C19/06
G01M13/04
(21)【出願番号】P 2020191774
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 圭祐
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-156201(JP,A)
【文献】特開2012-098177(JP,A)
【文献】特開2010-286069(JP,A)
【文献】特公平06-029713(JP,B2)
【文献】特開2011-085510(JP,A)
【文献】特許第5948872(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
F16C 19/00-19/56
33/30-33/66
G01M 13/00-13/045
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受が撮影された動画データから複数のフレームを抽出する抽出手段と、
前記複数のフレームそれぞれに対し、前記転がり軸受を構成する保持器の輪郭を特定する特定手段と、
前記特定手段にて特定した輪郭に基づいて、前記複数のフレームそれぞれにおける前記保持器の重心を算出する算出手段と、
前記複数のフレームそれぞれに対して前記算出手段にて算出された前記保持器の重心を用いて、時系列に沿った前記保持器の挙動を示す出力データを生成する生成手段と
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記生成手段は更に、前記複数のフレームそれぞれに対して前記特定手段にて特定された前記保持器の輪郭を用いて、時系列に沿った前記保持器の形状の変化を示す出力データを生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記生成手段は、前記出力データにおいて、前記保持器が変形していない状態の輪郭を更に示すことを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記特定手段は、
前記転がり軸受の仕様に基づいて、フレームにおける前記転がり軸受のサイズと、前記転がり軸受の実寸法との対応関係を導出し、
前記フレームから1または複数の輪郭を抽出し、
前記対応関係に基づいて、前記1または複数の輪郭の中から前記保持器の輪郭を特定する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記特定手段は、前記保持器の外縁部または内縁部の少なくとも一方を輪郭として特定することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記特定手段は、フレームに含まれる前記保持器の領域の少なくとも一部に基づいて、前記保持器の輪郭を特定することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記算出手段は、前記保持器の案内形式に応じて、重心を算出する際に用いられる輪郭として前記保持器の外縁部または内縁部のいずれかを用いることを特徴とする請求項5または6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
転がり軸受が撮影された動画データから複数のフレームを抽出する抽出工程と、
前記複数のフレームそれぞれに対し、前記転がり軸受を構成する保持器の輪郭を特定する特定工程と、
前記特定工程にて特定した輪郭に基づいて、前記複数のフレームそれぞれにおける前記保持器の重心を算出する算出工程と、
前記複数のフレームそれぞれに対して前記算出工程にて算出された前記保持器の重心を用いて、時系列に沿った前記保持器の挙動を示す出力データを生成する生成工程と
を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
コンピュータに、
転がり軸受が撮影された動画データから複数のフレームを抽出する抽出工程と、
前記複数のフレームそれぞれに対し、前記転がり軸受を構成する保持器の輪郭を特定する特定工程と、
前記特定工程にて特定した輪郭に基づいて、前記複数のフレームそれぞれにおける前記保持器の重心を算出する算出工程と、
前記複数のフレームそれぞれに対して前記算出工程にて算出された前記保持器の重心を用いて、時系列に沿った前記保持器の挙動を示す出力データを生成する生成工程と
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、画像処理装置、画像処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受が駆動している際の各構成部品の挙動を観察する場合、カメラにて撮影した動画が用いられている。例えば、特許文献1では、マークを施した保持器を備える転がり軸受(玉軸受)に対して、リング照明にて光を照射し、複数回撮影している。そして、その画像から玉の挙動を測定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
産業界から保持器に発生する力を見積もるために、回転中の軸受の保持器の挙動を測定したいという要求がある。保持器の挙動を測定することができれば、適切なモデルを構築することができ、シミュレーションなどにも活かすことができる。しかしながら、回転しているものの挙動を測定するのは簡単ではなく、これまで様々な工夫が生まれている。上述した特許文献1では、保持器と転動体の相対位置から転動体の挙動を測定しているが、保持器の挙動を測定することができない。
【0005】
上記課題を鑑み、本願発明は、転がり軸受の構成部品である保持器の挙動または状態を観察する際の利便性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち、画像処理装置であって、
転がり軸受が撮影された動画データから複数のフレームを抽出する抽出手段と、
前記複数のフレームそれぞれに対し、前記転がり軸受を構成する保持器の輪郭を特定する特定手段と、
前記特定手段にて特定した輪郭に基づいて、前記複数のフレームそれぞれにおける前記保持器の重心を算出する算出手段と、
前記複数のフレームそれぞれに対して前記算出手段にて算出された前記保持器の重心を用いて、時系列に沿った前記保持器の挙動を示す出力データを生成する生成手段と
を有する。
【0007】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、画像処理方法であって、
転がり軸受が撮影された動画データから複数のフレームを抽出する抽出工程と、
前記複数のフレームそれぞれに対し、前記転がり軸受を構成する保持器の輪郭を特定する特定工程と、
前記特定工程にて特定した輪郭に基づいて、前記複数のフレームそれぞれにおける前記保持器の重心を算出する算出工程と、
前記複数のフレームそれぞれに対して前記算出工程にて算出された前記保持器の重心を用いて、時系列に沿った前記保持器の挙動を示す出力データを生成する生成工程と
を有する。
【0008】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、プログラムであって、
コンピュータに、
転がり軸受が撮影された動画データから複数のフレームを抽出する抽出工程と、
前記複数のフレームそれぞれに対し、前記転がり軸受を構成する保持器の輪郭を特定する特定工程と、
前記特定工程にて特定した輪郭に基づいて、前記複数のフレームそれぞれにおける前記保持器の重心を算出する算出工程と、
前記複数のフレームそれぞれに対して前記算出工程にて算出された前記保持器の重心を用いて、時系列に沿った前記保持器の挙動を示す出力データを生成する生成工程と
を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本願発明により、転がり軸受の構成部品である保持器の挙動または状態を観察する際の利便性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本願発明の一実施形態に係る装置構成の例を示す概略図。
【
図2】本願発明の一実施形態に係る転がり軸受の撮影時の配置を説明するための図。
【
図3】本願発明の一実施形態に画像処理の流れを説明するための図。
【
図4】本願発明の一実施形態に係る画像処理のフローチャート。
【
図5】本願発明の一実施形態に係る出力の例を説明するための図。
【
図6】本願発明の一実施形態に係る画像処理の別の例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0012】
<第1の実施形態>
以下、本願発明の第1の実施形態について説明を行う。
【0013】
[装置構成]
図1は、本実施形態に係るシステムの全体構成の一例を示す概略構成図である。
図1には、測定対象である転がり軸受101、撮影装置106、照明装置107、および画像処理装置200が示されている。なお、本実施形態において、観察対象とする転がり軸受101として、玉軸受を例に挙げて説明するが、これに限定するものではない。撮影装置106にて撮影した際に観察対象となる構成部品が画像内にて現れていれば、自動調心ころ軸受、円すいころ軸受、円筒ころ軸受など他の構成の転がり軸受を観察対象としてよい。また、
図1では、説明を簡略化するために1の転がり軸受101を観察対象として説明するが、撮影装置106の撮影範囲(画角)に複数の転がり軸受101が含まれるように撮影が行われてもよい。
【0014】
転がり軸受101は、回転軸に外嵌される回転輪である内輪104、ハウジングに内嵌される固定輪である外輪102、内輪104及び外輪102との間に配置された複数の転動体103である複数の玉(ころ)、および転動体103を転動自在に保持する保持器105を備える。本実施形態において、保持器105は、
図1に示すように円環部を備え、外部から視認できる状態である。ここでは、転がり軸受101において外輪102を固定した構成を例に挙げて説明するが、内輪104を固定した構成であってもよい。また、保持器105の案内形式についても特に限定するものではなく、外輪案内、内輪案内、または転動体案内のいずれであってもよい。また、転がり軸受101において、所定の潤滑方式により、内輪104と転動体103の間、および、外輪102と転動体103の間の摩擦が軽減される。潤滑方式は特に限定するものではないが、例えば、グリース潤滑や油潤滑などが用いられてよく、また潤滑剤の種類についても特に限定するものではない。
【0015】
撮影装置106は、転がり軸受101を撮影するためのカメラを含んで構成される。撮影装置106は、転がり軸受101の回転動作に対応した高速動画が撮影可能である。照明装置107は、撮影装置106にて転がり軸受101を撮影する際に、転がり軸受101に光を照射する。ここでは、照明装置107として、リング照明を例に挙げて説明する。
【0016】
画像処理装置200は、例えば、不図示の制御装置、記憶装置、および出力装置を含んで構成される情報処理装置にて実現されてよい。制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Single Processor)、または専用回路などから構成されてよい。記憶装置は、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の揮発性および不揮発性の記憶媒体により構成され、制御装置からの指示により各種情報の入出力が可能である。出力装置は、スピーカやライト、或いは液晶ディスプレイ等の表示デバイス等から構成され、制御装置からの指示により、ユーザへの出力を行う。出力装置による出力方法は特に限定するものではないが、本実施形態では、生成された動画データや画像データの再生などが行われる。また、出力装置は、通信機能を備えたネットワークインターフェースであってもよく、ネットワーク(不図示)を介した外部装置(不図示)へのデータ送信により出力動作を行ってもよい。
【0017】
画像処理装置200は、撮影制御部201、照明制御部202、画像処理部203、動画生成部204、情報記憶部205、および、出力処理部206を含んで構成される。各部位は、上述した制御装置が対応するプログラムを記憶装置から読み出して実行することで実現してもよい。更には、制御装置が出力装置を制御することで各種出力動作が行われてもよい。
【0018】
撮影制御部201は、撮影装置106を制御し、転がり軸受101の動画を撮影させる。撮影制御部201は、撮影時の各種パラメータをユーザの指示に基づいて、または、自動的に設定するような構成であってもよい。また、撮影制御部201は、撮影装置106にて撮影された動画を取得する。照明制御部202は、撮影装置106による撮影を行う際に、照明装置107による照明動作を制御する。画像処理部203は、撮影装置106にて撮影された動画に対する画像処理を行う。動画生成部204は、画像処理部203にて処理された画像を用いて動画を生成する。情報記憶部205は、撮影装置106にて撮影された動画や、動画生成部204にて生成された動画など、各種情報を記憶する。出力処理部206は、動画や画像の出力処理を行う。
【0019】
なお、
図1に示す構成では、画像処理装置200と、撮影装置106および照明装置107とが接続された構成としたが、これに限定するものではない。例えば、撮影装置106が任意のタイミングで撮影した転がり軸受101の動画を、ネットワーク(不図示)等を介して、画像処理装置200が取得するような構成であってもよい。この場合、撮影制御部201や照明制御部202は省略されてよいが、画像処理装置200は、撮影時の情報を併せて取得する。
【0020】
[撮影]
図2は、本実施形態に係る撮影装置106により転がり軸受101を撮影する際の配置の例を説明するための図である。ここでは、撮影装置106の光軸OAと、転がり軸受101の回転軸RAとが一致している例を示す。また、回転軸RAと平行する方向をZ軸方向とする。また、3次元空間において、X軸、Y軸、Z軸は互いに直交している。また、リング照明である照明装置107は、その中心が光軸OA上に位置し、撮影装置106の画角A内に含まれない。なお、リング照明は、撮影装置106の画角Aに含まれないように配置可能であり、また、転がり軸受101の全体を均一な照度となるように光を照射できるという利点がある。撮影装置106の画角Aには、少なくとも外輪102の外輪内径部102aが全て含まれる。外輪102の外輪外径部102bが画角Aに全て含まれることがより好ましい。なお、リング照明は一例であり、他の構成の照明装置107(例えば、1の光源からなるスポット照明)が用いられてもよい。
【0021】
なお、動画データは、光軸OAと回転軸RAとが平行になっていない状態や、光軸OAと回転軸RAとが一致していない状態にて、撮影される場合がある。このような場合には、撮影時の転がり軸受101の位置と撮影装置106の位置関係に応じて、動画データを構成するフレームそれぞれを補正するような処理を行ってもよい。例えば、フレームに含まれる転がり軸受101の形状の補正(台形補正等)を行うような構成であってもよい。
【0022】
また、撮影装置106において撮影される動画を構成する複数のフレーム(静止画)の撮影速度(fps:frame per second)と、観察対象である転がり軸受101の回転速度とは、以下の関係を満たすことが好ましい。
PS≧n …(1)
PS:撮影速度[fps]
n:回転速度[min-1]
【0023】
[処理フロー]
図4は、本実施形態に係る画像処理のフローチャートである。本処理は、画像処理装置200により実行され、例えば、画像処理装置200が備える制御装置(不図示)が
図1に示した各部位を実現するためのプログラムを記憶装置から読み出して実行することにより実現される。ここでは、説明を簡単化するために、処理主体を画像処理装置200としてまとめて記載する。
【0024】
また、
図3は、本実施形態に係る画像処理による画像の変遷を説明するための図であり、
図4の処理と併せて説明する。なお、
図3に示す画像は一例であり、これに限定するものではない。
【0025】
S401にて、画像処理装置200は、観察対象である転がり軸受101の動画データを撮影装置106から取得する。このとき、画像処理装置200は、転がり軸受101の仕様や撮影時の稼働条件や撮影設定なども併せて取得する。なお、転がり軸受101の仕様情報などは、ユーザが設定画面(不図示)等を介して入力するような構成であってもよい。
【0026】
S402にて、画像処理装置200は、S401にて取得した動画データから連続する複数のフレーム(静止画)を抽出する。フレームを抽出するためのフレームレートは、ユーザにより任意の値が設定されていてもよいし、画像処理装置200側で自動的に設定してもよい。このとき、S401にて取得した動画データが撮影された際の撮影速度を上限として設定されることとなる。
【0027】
S403にて、画像処理装置200は、S402にて抽出した複数のフレームの中から、最初のフレームに着目する。
図3(a)は、1のフレーム301の例を示し、フレーム301には転がり軸受101が撮影されている。
【0028】
S404にて、画像処理装置200は、S403にて着目したフレーム(以下、着目フレームと称する)にて含まれる転がり軸受101の領域を特定し、外輪内径部102aを特定する。ここでの特定方法は特に限定するものでは無いが、例えば、S401にて取得した転がり軸受101の仕様等に基づいて規定される外輪102の形状と、画像内の形状とのパターンマッチングにより、外輪内径部102aを特定してもよい。なお、本実施形態では、上述したように外輪102を固定した転がり軸受101を例に挙げて説明するが、内輪104を固定した転がり軸受101を対象とする場合などには、内輪外径部104aを特定するような構成であってもよい。
【0029】
S405にて、画像処理装置200は、S404にて特定した外輪内径部102aの直径を特定し、着目フレームにおいてこの直径に相当するピクセル数を導出する。
図3(a)において両向き矢印310はS404にて特定した外輪内径部102aの直径を示す。
【0030】
S406にて、画像処理装置200は、S401にて取得した転がり軸受101の仕様(実寸法)と、S405にて特定したピクセル数とに基づいて、着目フレームにおける1ピクセル当たりの実際のサイズを特定する。つまり、1ピクセルと、転がり軸受101の実際のサイズとの対応関係を導出する。具体的には、転がり軸受101の実寸法としての1mmが何ピクセルにて示されているかを特定する。
【0031】
S407にて、画像処理装置200は、S401にて取得した転がり軸受101の仕様(実寸法)と、S406にて特定した1ピクセル当たりのサイズとに基づいて、保持器105の外縁部105aの実寸法に対するピクセル数を導出する。つまり、外縁部105aの実寸法に対応するフレーム上での領域の面積がピクセル数にて導出される。
【0032】
S408にて、画像処理装置200は、着目フレームに対してマスク処理を行う。ここでのマスク処理の対象となる領域や処理方法は特に限定するものでは無いが、例えば、観察対象以外の部分を不要部分として黒や白などの色により塗りつぶすような構成であってよい。
図3(b)は、マスク処理を行ったフレーム302の例を示し、ここでは、外輪内径部102aよりも外側の領域と、内輪外径部104aよりも内側の領域を黒にて塗りつぶした状態を示している。
【0033】
S409にて、画像処理装置200は、S408にてマスク処理を行った着目フレームに対してフィルタ処理を行う。ここでのフィルタ処理の内容は特に限定するものでは無いが、例えば、グレースケール処理、二値化処理、ノイズ除去処理などが挙げられる。ノイズ除去処理では、ガウシアンフィルタを用いた平滑化処理や、モルフォロジー処理などが行われてよい。なお、フィルタ処理は、S401にて取得した動画データの画質や処理負荷などに応じて省略したり、追加されたりするような構成であってよい。
図3(c)は、S409の処理結果として得られるフレーム303の例を示す。ここでは、保持器105の領域が白にて示され、それ以外が黒にて示された画像を示している。
【0034】
S410にて、画像処理装置200は、S409にてフィルタ処理を行った着目フレームに対して輪郭抽出処理を行う。例えば、
図3(d)のフレーム304においては、保持器105の外縁部105aに相当する輪郭と、保持器105の内縁部105bに相当する輪郭とが抽出される。ここでの導出方法は、特に限定するものでは無いが、例えば、エッジ抽出により行われてよい。
【0035】
S411にて、画像処理装置200は、S410にて抽出した輪郭の領域におけるピクセル数を導出する。
図3(d)に示すように2つの輪郭が抽出された場合には、2つの輪郭それぞれに対応するピクセル数が導出される。
【0036】
S412にて、画像処理装置200は、S410にて抽出した輪郭の中から、S411にて導出されたピクセル数に基づき、S407にて導出したピクセル数に最も近い輪郭を特定する。転がり軸受101の駆動に伴い、保持器105の形状が変形し得るため、ここで抽出される輪郭の形状は転がり軸受101の仕様に基づく形状とは必ずしも一致しない。そこで、最もピクセル数が近い輪郭が観察対象である保持器105の輪郭の形状であるものとして扱う。なお、ここでのピクセル数の比較において、閾値を設定しておき、ピクセル数が最も近い輪郭であっても、その差分が閾値を超える場合には該当する輪郭が無いものとして扱ってもよい。この場合には、例えば、S415の処理へ進むような構成であってもよい。
【0037】
S413にて、画像処理装置200は、S412にて特定した輪郭に対する重心の位置(座標)を算出する。ここでの重心の算出方法は特に限定するものでは無いが、例えば、着目フレームを二値画像とし、公知の方法である画像のモーメントにより重心を算出してよい。より具体的には、重心は、特定した輪郭の領域を二値化画像とし、その二値化された画像の0次および1次の画像モーメントを算出して、それら画像モーメントを用いて決定することができる。すなわち、二値化画像上において、重心(Gx,Gy)は、以下の式(1)(2)により算出することができる。
【0038】
【0039】
【数2】
ここで、Ixyは特定した輪郭の二値化画像(m×nのサイズ)の画素値であり、特定した輪郭の領域内が1であり、それ以外は0である。
【0040】
図3(e)は、保持器105の外縁部105aが特定された上で、重心306を算出したフレーム305の例を示す。なお、重心306は、フレーム305中において、白点にて示されているが、これに限定するものではない。
【0041】
S414にて、画像処理装置200は、S412にて特定した輪郭と、S413にて算出した重心とを着目フレームに対応付けて、情報記憶部205に保存する。
【0042】
S415にて、画像処理装置200は、S402にて抽出された複数のフレームのうち、未処理のフレームがあるか否かを判定する。未処理のフレームがある場合は(S415にてYES)、S403へ戻り、画像処理装置200は処理を繰り返す。一方、すべてのフレームに対して処理が完了した場合は(S415にてNO)、画像処理装置200の処理はS416へ進む。
【0043】
S416にて、画像処理装置200は、情報記憶部205に保存した複数のフレームを用いて動画データを生成する。
図5は、ここで生成された動画データの出力例を示す図である。ここでは、画像501上において、重心の移動軌跡502が表示されている。つまり、フレームが動画として連続再生されることで、時間の変動に応じた(時系列に沿った)重心の移動軌跡502が示されることとなる。なお、ここでは、出力方法として動画を例に挙げたが、静止画としての出力データを生成するような構成であってもよい。この場合、静止画中に重心の移動軌跡を示してよい。また、
図5では、保持器105の重心に着目して説明したが、これ以外にも、保持器105の外縁部105aを示す輪郭の変化を表示するような構成であってもよい。このとき、変形していない場合の保持器105の形状(例えば、仕様にて示される形状に対応する真円)を併せて表示するような構成であってもよい。これにより、転がり軸受101の動作状態に応じた保持器105の変形具合を視認できるように構成することができる。そして、本処理フローを終了する。
【0044】
以上、本実施形態により、転がり軸受の構成部品である保持器の挙動または状態を観察する際の利便性を向上させることが可能となる。より具体的には、本実施形態により、保持器の重心位置の変動や、形状の変形などをユーザが視認しやすくなる。
【0045】
なお、
図4のS412、S413の処理において、保持器105の外縁部105aに基づいて重心を算出したが、これに限定するものではなく、内縁部に基づいて重心を算出してもよい。例えば、保持器105の案内形式(外輪案内や内輪案内など)に応じて、S412にて特定する対象として保持器105の外縁部または内縁部を切り替えてもよい。
【0046】
また、保持器105の外縁部と内縁部の両方を特定し、S416の処理では、その両方の輪郭に基づいて、保持器105の形状の変化を示すような出力を行ってもよい。
【0047】
また、上記の例では、保持器の円環部が、外部から視認できる構成を例に挙げて説明した。この構成に限られず、保持器の円環部が設けられていない場合でも本願発明は適用可能である。例えば、
図6(a)のフレーム601に示すように保持器105の円環部が設けられていない場合を想定する。この場合、転動体103の間に位置する保持器105の柱部105cを特定することで、上記と同様の処理を行うことができる。
図6(b)は、保持器105の柱部105cの位置に基づいて外縁部105aを特定した上で、重心603を算出したフレーム602の例を示す。
【0048】
なお、観察対象である転がり軸受101の形状等に応じて、上述した処理フロー中のマスク処理、フィルタ処理、および輪郭抽出処理の内容は異なっていてよい。または、実行する処理をユーザが任意に設定可能であってもよい。また、
図6では、保持器105の柱部105cを基準として画像処理を行ったが、保持器を構成する他の部位(領域)を基準として画像処理を行うような構成であってもよい。
【0049】
<その他の実施形態>
また、本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0050】
また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array))によって実現してもよい。
【0051】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0052】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 転がり軸受(例えば、101)が撮影された動画データから複数のフレームを抽出する抽出手段(例えば、203)と、
前記複数のフレームそれぞれに対し、前記転がり軸受を構成する保持器(例えば、105)の輪郭を特定する特定手段(例えば、203)と、
前記特定手段にて特定した輪郭に基づいて、前記複数のフレームそれぞれにおける前記保持器の重心を算出する算出手段(例えば、203)と、
前記複数のフレームそれぞれに対して前記算出手段にて算出された前記保持器の重心を用いて、時系列に沿った前記保持器の挙動を示す出力データを生成する生成手段(例えば、204)と
を有することを特徴とする画像処理装置(例えば、200)。
この構成によれば、転がり軸受の構成部品である保持器の挙動または状態を観察する際の利便性を向上させることが可能となる。例えば、時系列に沿った保持器の重心の移動軌跡を容易に把握できる。
【0053】
(2) 前記生成手段は更に、前記複数のフレームそれぞれに対して前記特定手段にて特定された前記保持器の輪郭を用いて、時系列に沿った前記保持器の形状の変化を示す出力データを生成することを特徴とする(1)に記載の画像処理装置。
この構成によれば、転がり軸受の構成部品である保持器の挙動または状態を観察する際の利便性を向上させることが可能となる。例えば、時系列に沿った保持器の形状の変化を容易に把握できる。
【0054】
(3) 前記生成手段は、前記出力データにおいて、前記保持器が変形していない状態の輪郭を更に示すことを特徴とする(2)に記載の画像処理装置。
この構成によれば、保持器が変形した状態と変形していない状態とを併せて表示することで、ユーザは容易に保持器の変形の有無および変形具合を把握することが可能となる。
【0055】
(4) 前記特定手段は、
前記転がり軸受の仕様に基づいて、フレームにおける前記転がり軸受のサイズと、前記転がり軸受の実寸法との対応関係を導出し、
前記フレームから1または複数の輪郭を抽出し、
前記対応関係に基づいて、前記1または複数の輪郭の中から前記保持器の輪郭を特定する
ことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の画像処理装置。
この構成によれば、フレームから複数の輪郭が抽出された場合でも、保持器の実寸法とフレーム(画像)上でのサイズとの対応関係から、より適切な保持器の輪郭を特定することが可能となる。
【0056】
(5) 前記特定手段は、前記保持器の外縁部または内縁部の少なくとも一方を輪郭として特定することを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の画像処理装置。
この構成によれば、フレームから抽出された保持器の外縁部または内縁部を輪郭として特定して、形状の変化を表示する際に用いることが可能となる。
【0057】
(6) 前記特定手段は、フレームに含まれる前記保持器の領域の少なくとも一部に基づいて、前記保持器の輪郭を特定することを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の画像処理装置。
この構成によれば、フレームに保持器全体の形状が含まれていない場合であっても、その一部を用いて、保持器の輪郭を特定し、更には重心を算出することが可能となる。
【0058】
(7) 前記算出手段は、前記保持器の案内形式に応じて、重心を算出する際に用いられる輪郭として前記保持器の外縁部または内縁部のいずれかを用いることを特徴とする(5)または(6)に記載の画像処理装置。
この構成によれば、保持器の案内形式に応じて、重心を算出する際に用いる輪郭の種類を切り替えることが可能となる。
【0059】
(8) 転がり軸受(例えば、101)が撮影された動画データから複数のフレームを抽出する抽出工程(例えば、S402)と、
前記複数のフレームそれぞれに対し、前記転がり軸受を構成する保持器(例えば、105)の輪郭を特定する特定工程(例えば、S410)と、
前記特定工程にて特定した輪郭に基づいて、前記複数のフレームそれぞれにおける前記保持器の重心を算出する算出工程(例えば、S413)と、
前記複数のフレームそれぞれに対して前記算出工程にて算出された前記保持器の重心を用いて、時系列に沿った前記保持器の挙動を示す出力データを生成する生成工程(例えば、S416)と
を有することを特徴とする画像処理方法。
この構成によれば、転がり軸受の構成部品である保持器の挙動または状態を観察する際の利便性を向上させることが可能となる。例えば、時系列に沿った保持器の重心の移動軌跡を容易に把握できる。
【0060】
(9) コンピュータ(例えば、200)に、
転がり軸受が撮影された動画データから複数のフレームを抽出する抽出工程(例えば、S402)と、
前記複数のフレームそれぞれに対し、前記転がり軸受を構成する保持器(例えば、105)の輪郭を特定する特定工程(例えば、S410)と、
前記特定工程にて特定した輪郭に基づいて、前記複数のフレームそれぞれにおける前記保持器の重心を算出する算出工程(例えば、S413)と、
前記複数のフレームそれぞれに対して前記算出工程にて算出された前記保持器の重心を用いて、時系列に沿った前記保持器の挙動を示す出力データを生成する生成工程(例えば、S416)と
を実行させるためのプログラム。
この構成によれば、転がり軸受の構成部品である保持器の挙動または状態を観察する際の利便性を向上させることが可能となる。例えば、時系列に沿った保持器の重心の移動軌跡を容易に把握できる。
【符号の説明】
【0061】
101…転がり軸受
102…外輪
103…転動体
104…内輪
105…保持器
200…画像処理装置
201…撮影制御部
202…照明制御部
203…画像処理部
204…動画生成部
205…情報記憶部
206…出力処理部