(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ポリアミドフィルムミルロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/14 20060101AFI20240312BHJP
C08J 7/043 20200101ALI20240312BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240312BHJP
B65H 75/00 20060101ALI20240312BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B29C55/14
C08J7/043 A
B32B27/34
B65H75/00 Z
C08J5/18 CFG
(21)【出願番号】P 2020193653
(22)【出願日】2020-11-20
(62)【分割の表示】P 2019570587の分割
【原出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018190039
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018190040
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018196702
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018196703
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】濱 貢介
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-090527(JP,A)
【文献】特開平08-174663(JP,A)
【文献】特開2006-088690(JP,A)
【文献】特開2004-137394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールの製造方法であって、
少なくとも未延伸のポリアミドフィルムを縦方向に(ガラス転移温度+20)℃~(低温結晶化温度+20)℃で2段以上であり
各延伸倍率を乗じた合計の延伸倍率が1.005~1.15倍の予備縦延伸をし、次いで縦方向に2段階以上に分けて予備縦延伸倍率も含めた各延伸倍率を乗じた合計の縦延伸倍率が3倍以上になるように主縦延伸し、
次いで横延伸し、熱固定処理し、熱緩和処理した後、クリップ把持部をトリミングして巻き取る工程を含み、
フィルムミルロールの幅方向に対して右端及び左端から300mm内側の位置のフィルムのインパクト強度が0.8J/15μm以上であり、吸湿歪みが1.3%以下であり、熱収縮歪みが2.0%以下であり、160℃で10分間加熱後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.6~3.0%であることを特徴とするポリアミドフィルムミルロールの製造方法。
【請求項2】
2軸配向ポリアミドフィルムが、ポリアミド6を90質量%以上含むポリアミド樹脂からなる2軸配向ポリアミドフィルムであることを特徴とする請求項1に記載のポリアミドフィルムミルロール
の製造方法。
【請求項3】
2軸配向ポリアミドフィルムの少なくとも片面に固形分として塗布量が0.01~3g/m
2のポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、及び/又はポリアクリル樹脂のいずれかの樹脂からなる易接着層を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミドフィルムミルロール
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の包装に用いる耐衝撃性、耐ピンホール性に優れた2軸配向アミドフィルムに関するものである。特に、ミルロールの幅方向で端に近いフィルムを食品包装用にの袋に加工した場合に、吸湿によって起こるS字カール現象が少ない2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、2軸配向ポリアミドフィルムは、機械的特性、熱的特性、ガスバリアー性に優れていることから、各種の食品等の包装用材料に広く用いられている。しかし、従来の2軸配向ポリアミドフィルムには、高湿度環境下で吸湿により伸びが発生するため、袋に加工した場合に吸湿によって袋がS字状にカールして、袋を箱詰めしにくくなったり、袋に内容物を充填する装置の搬送部で不具合が発生する問題があった。
こうした問題は、ミルロールの端に近いスリットロールのフィルムから袋を作製する場合に発生しやすい。ここでミルロールとは、フィルム製造工程で両端耳部をトリミングした後に巻き取った製膜装置の全幅のフィルムロールを指し、スリットロールとは、印刷加工やラミネート加工など行うためにミルロールをスリットし幅を狭くしたフィルムロールのことである。
【0003】
食品包装用途に用いられる上記ポリアミドフィルムは、通常その表面に印刷を施してから、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂フィルムをラミネートし、ポリアミドフィルムを外側にして流れ方向に平行に2つに折りたたみ、3辺を熱融着して切り出すことにより、1辺が開封状態の3方シール袋とする。そして、この袋に内容物を充填して密封し、市場に供される。
【0004】
こうした食品包装用途に用いられるポリアミドフィルムは、主に2軸延伸法によって製造される。しかし、2軸延伸法によって製造された2軸配向ポリアミドフィルムは、フィルム幅方向に物性のバラツキが生じ易い。この幅方向の物性のバラツキは、ボーイング現象が一つの原因と考えられている。ボーイング現象とは、熱固定処理工程で高温になり縦方向の収縮応力が生じる時に、フィルムの両端部はクリップに把持されて拘束されているのに対し、フィルムの中央部は拘束力が弱く収縮するため、配向の主軸が幅方向で弓状に傾く現象と考えられている。
【0005】
ボーイング現象により、熱収縮率、吸湿による寸法変化率、屈折率等の物性値の主軸(最も大きい値を示す角度)がフィルムの幅方向で異なってくる。それによって斜め方向の熱収縮率や吸湿による寸法変化率の物性値差が大きくなる。
即ち、従来法によって得られる食品包装用の2軸配向ポリアミドフィルムで袋を作製すると、ボーイング現象によって、2つ折りにした袋の表裏で配向の主軸方向が異なるため、寸法変化も表裏で差が生じて、袋の隅で反り返りが起こってしまう。すなわち、袋の2辺がS字状にカールする現象(以下単にS字カールともいう)が発生し、袋を箱詰めする時に箱に入れにくくなったり、袋に内容物を充填する装置の搬送部で不具合が発生する場合があった。
【0006】
ボーイング現象に対する対策としては、横延伸した後に冷却してから熱固定することで得られる特定の沸騰水収縮歪みと分子配向角度差の関係を満足するポリアミドフィルムによって吸湿によるズレを低減する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、ミルロールの端に近いフィルムのスリットロールから作製した袋では、吸湿によるS字カールが発生する場合があった。
【0007】
また、縦方向に2段に分けて延伸することを特徴としたα型結晶の配向主軸の方向がフィルムの縦方向もしくは横方向に対して14度以下の2軸配向ポリアミド系樹脂フィルムによって沸騰水処理後のS字カールを低減させる方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかし、この方法でも、ミルロールの端に近いフィルムのスリットロールから作製した袋では吸湿によるS字カールが発生する場合があった。 特許文献2の対策は、袋を沸騰水で処理した後に発生するS字カール現象に対する対策であり、吸湿によるS字カール現象に対する対策ではないためと考えられる。
【0008】
吸湿によるS字カール現象の問題に対して、包装袋の表裏の2軸延伸ポリアミドフィルム層の主配向軸方向が成す鋭角が30°以下の包装袋が提案されている(特許文献3参照)。しかし、この方法では、ミルロールの中央付近からスリットしたロールのフィルムで作製した袋は、表裏のポリアミドフィルム層の主配向軸方向が成す角が小さいので吸湿によるS字カールが少ないが、ミルロールの端に近い袋は表裏のポリアミドフィルムの主配向軸方向が成す角が大きいので、吸湿によるS字カールの発生は低減できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第2623939号公報
【文献】特許第3726304号公報
【文献】特開2012-254804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を背景になされたもので、ミルロールの端に近いフィルム製品を使用して作製した包装袋であっても、吸湿によるS字カールの少ない2軸配向ポリアミドフィルム及びフィルムミルロールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の構成よりなる。
[1] ポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールの製造方法であって、
少なくとも未延伸のポリアミドフィルムを縦方向に(ガラス転移温度+20)℃~(低温結晶化温度+20)℃で2段以上であり各延伸倍率を乗じた合計の延伸倍率が1.005~1.15倍の予備縦延伸をし、次いで縦方向に2段階以上に分けて予備縦延伸倍率も含めた各延伸倍率を乗じた合計の縦延伸倍率が3倍以上になるように主縦延伸し、
次いで横延伸し、熱固定処理し、熱緩和処理した後、クリップ把持部をトリミングして巻き取る工程を含み、
フィルムミルロールの幅方向に対して右端及び左端から300mm内側の位置のフィルムのインパクト強度が0.8J/15μm以上であり、吸湿歪みが1.3%以下であり、熱収縮歪みが2.0%以下であり、160℃で10分間加熱後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.6~3.0%であることを特徴とするポリアミドフィルムミルロールの製造方法。
[2] 2軸配向ポリアミドフィルムが、ポリアミド6を90質量%以上含むポリアミド樹脂からなる2軸配向ポリアミドフィルムであることを特徴とする[1]に記載のポリアミドフィルムミルロールの製造方法。
[3] 2軸配向ポリアミドフィルムの少なくとも片面に固形分として塗布量が0.01~3g/m2のポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、及び/又はポリアクリル樹脂のいずれかの樹脂からなる易接着層を有することを特徴とする[1]又は[2]に記載のポリアミドフィルムミルロールの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリアミドフィルムミルロールは、ミルロールの端部に近い部分のフィルムであるにもかかわらず、高湿度下での伸びの異方性が少なく、吸湿前後で寸法の歪みが少ないので、加工した袋のS字カールを低減することができる。そのため、内容物を袋に充填する時に袋の搬送などで不具合が起きにくく作業性が良好である。 更に高温での収縮の歪みも小さいので、袋をヒートシールにした後の収縮変形も小さい。そのため、各種の包装用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】S字カール評価に供するスリットロールの概略図
【符号の説明】
【0014】
1:2軸配向ポリアミドフィルムのミルロール(4000mm幅)
2:左端のスリットロール(940mm幅)
3:左端のスリットロールのフィルムにシーラントをラミネートしたラミネートロール
4:左端の3方シール袋
5:3方シール袋のヒートシール部
6:反りを測定するための重り
7:S字カールの度合いを示す反りの高さ
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[2軸配向ポリアミドフィルムの原料組成]
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムは、ポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。60質量%より少ないと機械的強度や熱寸法安定性などが悪化するので好ましくない。
【0016】
本発明におけるポリアミド6は、通常、ε-カプロラクタムの開環重合によって製造される。開環重合で得られたポリアミド6は、通常、熱水でε-カプロラクタムモノマーを除去した後、乾燥してから押出し機で溶融押出しされる。
本発明で使用されるポリアミド6は、宇部興産(株)、BASF社などで市販されているものを用いてもよい。特にフィルム用で市販されている下記の相対粘度を持ち、残存ラクタムモノマー含量が1質量%以下であり、末端封鎖又は末端修飾した溶融時にラクタムモノマーが生成しにくいポリアミド6が好ましい。
【0017】
本発明におけるポリアミド6の相対粘度は、1.8~4.5であることが好ましく、より好ましくは、2.6~3.6である。相対粘度が1.8より小さい場合は、フィルムの耐衝撃強度が不足する。4.5より大きい場合は、押出機の負荷が大きくなり延伸前のシートを得るのが困難になる。
【0018】
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムは、主成分であるポリアミド6以外に延伸性、耐ピンホール性、易カット性などを改良する目的で、他の熱可塑性樹脂を含んでも良い。また、少量の耐ブロッキング剤、潤滑剤、帯電防止剤、熱安定剤、耐光剤などの添加剤を含んでも良い。
【0019】
本発明で使用されるポリアミド6以外の他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニル系樹脂、ウレタン系樹脂などの単独重合体あるいは共重合体が挙げられる。
延伸性向上のために、ナイロンMXD6、ナイロン6Iなどを含んでも良い。
耐ピンホール性向上のため、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリオレフィンエラストマーなどを含んでも良い。
【0020】
本発明で使用される耐ブロッキング剤としては、シリカ、カオリン、ゼオライト等の無機微粒子、アクリル、ポリスチレン等の架橋高分子微粒子が挙げられる。なお、透明性、滑り性の面から、シリカ微粒子が好適に用いることができる。
本発明で使用される潤滑剤としては、表面エネルギーを下げる効果のあるエチレンビスステアリン酸アミド(EBS)等の有機潤滑剤が挙げられる。接着性や濡れ性に問題が生じない範囲で含んでも良い。
耐ブロッキング剤と潤滑剤とを併用すると、フィルムに優れた滑り性と透明性を同時に付与できるので好ましい。
【0021】
[2軸配向ポリアミドフィルムの易接着層]
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムには、固形分として塗布量が0.01~3g/m2のポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、及び/又はポリアクリル樹脂のいずれかの樹脂からなる易接着層を設けることが好ましい。
前記易接着層は、フィルム製造工程でフィルムをミルロールとして巻き取る前に塗布液を塗布・乾燥して設けられる。
塗布液の塗布は、未延伸フィルム、1軸延伸フィルム、及び/又は2軸延伸フィルムに行うことができる。フィルムを逐次2軸延伸法で製造する場合は、通常、1軸延伸フィルムに塗布液を塗布し乾燥する。フィルムを同時2軸延伸で製造する場合は、通常、未軸延伸フィルムに塗布液を塗布し乾燥する。
【0022】
本発明おける易接着層を設けるための塗布液としては、フィルム製造工程でフィルムをミルロールとして巻き取る前に塗布液を塗布・乾燥して設けられるので、製造における安全性と衛生性を確保するために樹脂の水系分散体又は水溶液を用いることが好ましい。
【0023】
[易接着層に用いるポリエステル樹脂]
前記易接着層としてポリエステル樹脂を設ける場合、ポリエステル樹脂としては共重合ポリエステル系樹脂を選ぶことができる。共重合ポリエステル系樹脂とはジカルボン酸成分とジオール成分およびその他のエステル形成成分の重縮合物である。共重合ポリエステル系樹脂に構成成分として含有されるジカルボン酸成分としては、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸などの不飽和ジカルボン酸などを挙げることができる。
【0024】
上記ジカルボン酸成分の他に、水分散性を付与するため、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレン-2,6-ジカルボン酸、5(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸の塩類を用いることができる。なかでも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を1~10モル%の範囲で使用するのが好ましい。
【0025】
共重合ポリエステル系樹脂に含有されるジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ポリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタールなどの脂環族ジオール、4,4’-ビス(ヒドロキシエチル)ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、さらにビス(ポリオキシエチレングリコール)ビスフェノールエーテルなどを挙げることができる。
【0026】
[易接着層に用いるポリウレタン樹脂]
本発明における易接着層としてポリウレタン樹脂を設ける場合、ポリウレタン樹脂としては、例えば、活性水素を2個以上有するポリオール類と有機ポリイソシアネートとを反応させて得られるものが挙げられる。
ポリオール類としては、たとえば、飽和ポリエステルポリオール類;ポリエーテルポリオール類(たとえばポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど);アミノアルコール類(たとえばエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなど);不飽和ポリエステルポリオール類(たとえば不飽和多価カルボン酸単独あるいはこれと飽和多価カルボン酸との混合物と、飽和多価アルコール類と不飽和多価アルコール類との混合物とを重縮合させて得られるもの)、ポリブタジエンポリオール類(たとえば1,2-ポリブタジエンポリオール、1,4-ポリブタジエンポリオールなど)、アクリルポリオール類(各種アクリル系モノマーとヒドロキシル基を有するアクリル酸系モノマーとを共重合させて得られるヒドロキシル基を側鎖に有するアクリルポリオール類)などの不飽和二重結合を有するポリオール類を挙げることができる。
有機ポリイソシアネートとしては、たとえば、芳香族ポリイソシアネート類(たとえばジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートなど)、脂肪族ポリイソシアネート類(たとえばへキサメチレンジイソシアネートなど)、脂環族ポリイソシアネート類(たとえばイソホロンジイソシアネートなど)、芳香族・脂肪族ポリイソシアネート類(たとえばキリレンジイソシアネート)、さらにこれらのイソシアネート類と低分子量ポリオールとを予め反応させて得られるポリイソシアネート類を挙げることができる。
【0027】
このポリウレタン樹脂の製造は公知の方法により行うことができる。製造の際には生成プレポリマー中に未反応のイソシアネート基が2個以上存在するようにする必要がある。このイソシアネート基はブロック化することが好ましく、特に水系塗液を調製するときはこのブロック化は必須である。このブロック化はイソシアネートのブロック化として良く知られているものであり、加熱によって遊離イソシアネート基を再生できるものである。ブロック化剤としては、たとえば、重亜硫酸塩類、アルコール類、オキシム類、活性メチレン化合物、イミダゾール類、ラクタム、イミン化合物、アミド化合物、イミド化合物などを挙げることができる。
【0028】
これらブロック化剤とポリウレタンプレポリマー中のイソシアネート基との反応は、常温~100℃の温度で行うことができ、必要に応じてウレタン化触媒を用いることができる。ここでポリウレタンプレポリマーに安定な水分散性、水溶性を付与するために分子内に親水性基を導入するとよい。該親水性基としては、─SO3 M(ここで、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属である)、-OH、-COOR(ここでRはアンモニア、第三級アミンの残基である)などが例示される。これらのうち特にアンモニアまたは第三級アミンで中和されたカルボキシル基が好ましい。アンモニアまたは第三級アミンで中和されたカルボキシル基をポリウレタンプレポリマー中に導入するには、たとえば、ポリウレタンプレポリマー合成時の反応原料の一つとしてカルボキシル基含有ポリヒドロキシ化合物を用いる方法、未反応イソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーのイソシアネート基に水酸基含有カルボン酸やアミノ基含有カルボン酸を反応させ、ついで反応生成物を高速攪拌中下でアンモニア水または第三級アミン水溶液中に添加し中和する方法などの方法がある。
【0029】
[易接着層に用いるポリアクリル樹脂]
本発明における易接着層としてポリアクリル樹脂を設ける場合、ポリアクリル樹脂としては、アクリル酸またはメタクリル酸、またはその塩類やエステル類を重合して得られるアクリル重合体が挙げられる。
アクリル酸エステル系およびメタクリル酸エステル系単量体としては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジルなどを挙げることができる。アクリル酸およびメタクリル酸の塩類としては、たとえば、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム、アクリル酸アンモニウム、メタクリル酸アンモニウムなどが挙げられる。
これらの必須成分の他に、アクリルアミド、メタクリルアミド、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノメチル、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミドなどのアクリル酸系単量体を添加してもよい。
【0030】
ポリアクリル樹脂には、この他に塩化ビニル、酢酸ビニル、スチレン、ビニルエーテル、ブタジエン、イソプレン、ビニルスルホン酸ソーダなどの単量体を共重合成分として用いることもできる。なお、アクリル重合体には、アクリル酸塩成分、メタクリル酸塩成分、アクリル酸成分、アクリルアミド成分、アクリル酸2-ヒドロキシエチル成分、N-メチロールアクリルアミド成分などの親水性成分が共重合成分として含まれることが塗膜の機能性を高めるために好ましい。また分子側鎖に官能基を有する共重合体であってもよい。また、このアクリル系重合体は、メタクリル酸メチルやメタクリル酸エチルのような硬質成分を主成分として用い、共重合成分として、アクリル酸エステルのような軟質成分を共重合して得ることもできる。
【0031】
[易接着層に用いるアクリルグラフト共重合ポリエステル水系分散体]
本発明における易接着層に用いる樹脂としては、特にアクリルグラフト共重合ポリエステル水系分散体が好ましい。グラフト化ポリエステルの粒子と、水、水系溶媒または有機溶媒とを含み、半透明から乳白色の外観を呈する。このグラフト化ポリエステルは、ポリエステルからなる主鎖と、親水性基を有するラジカル重合性単量体を含むラジカル重合性単量体の重合体により形成されるグラフト部分(側鎖)とを有する。
【0032】
アクリルグラフト共重合ポリエステル水系分散体中のグラフト化ポリエステル粒子のレーザー光散乱法により測定される平均粒子径は、500nm以下、好ましくは10nm~500nm、さらに好ましくは10nm~300nmである。平均粒子径が500nmを超えると、塗布後の塗膜強度が低下する。
【0033】
アクリルグラフト共重合ポリエステル水系分散体中のアクリルグラフト共重合ポリエステル粒子の含有量は、通常、1質量%~50質量%、好ましくは3質量%~30質量%である。
本発明に用いられ得るアクリルグラフト共重合ポリエステル水系分散体中の粒子は、水性分散媒体中においてポリエステル主鎖をコアとするコア-シェル構造をとり得る。
【0034】
ここでいうコア-シェル構造とは、当該技術分野で公知のように、分散媒体に不溶で凝集状態にある重合体からなるコア部が、分散媒体に可溶で溶解状態にある重合体からなるシェル部で包み込まれた二層構造をいう。この構造は、分散媒体への溶解性が異なる重合体がお互いに化学結合して生成した複合重合体の分散体に特徴的に現われる構造であり、単に分散媒体への溶解性が異なる重合体を混合するだけでは発現し得ない構造であることが知られている。さらに、単なる分散媒体への溶解性が異なる重合体の混合物は、500nm以下の粒子径を有する分散体として存在できない。
【0035】
本発明に用いられるアクリルグラフト共重合ポリエステル水系分散体中の粒子が上記のようなコア-シェル構造を有することにより、従来の分散体に良く用いられる乳化剤や有機共溶媒を用いなくても重合体粒子の分散媒体への分散状態が安定化される。このことはシェル部の樹脂が十分な水和層を形成し、分散重合体粒子を保護するためである。
【0036】
上記アクリルグラフト共重合ポリエステル水系分散体から得られる塗布膜は、ポリアミドフィルムとの接着性が非常に優れている。さらに、耐ブロッキング性が非常に優れているため、ガラス転移点の比較的低いフィルム基材においても問題なく使用し得る。また積層体とする場合、印刷インキやシーラント層を積層するときに使用する接着剤との接着性も非常に良好である。得られる積層フィルム(ラミネートフィルムともいう)は、レトルト処理や沸水処理における耐久性が著しく向上され得る。さらに共重合ポリエステル水系分散体中のグラフト化ポリエステルのガラス転移温度が、30℃以下、好ましくは10℃以下であるような柔軟なグラフト化ポリエステルを使用すると、さらに積層体の耐久性が向上する。
【0037】
[アクリルグラフト共重合ポリエステルのポリエステル主鎖]
本発明においてグラフト化ポリエステルの主鎖として用い得るポリエステルは、好適には少なくともジカルボン酸成分とジオール成分とから合成される飽和または不飽和ポリエステルであり、得られるポリエステルは、1種の重合体または2種以上の重合体の混合物であり得る。そして、本来それ自身では水に分散または溶解しないポリエステルが好ましい。本発明に用い得るポリエステルの重量平均分子量は、5000~l00000、好ましくは5000~50000である。重量平均分子量が5000未満であると乾燥塗膜の後加工性等の塗膜物性が低下する。さらに重量平均分子量が5000未満であると、主鎖となるポリエステル自身が水溶化し易いため、形成されるグラフト化ポリエステルが後述するコア-シェル構造を形成し得ない。ポリエステルの重量平均分子量が100000を超えると水分散化が困難となる。水分散化の観点からは100000以下が好ましい。 ガラス転移点は、30℃以下、好ましくは10℃以下である。
【0038】
上記ジカルボン酸成分としては、少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸、少なくとも1種の脂肪族および/または脂環族ジカルボン酸、および少なくとも1種のラジカル重合性不飽和二重結合を有するジカルボン酸を含む、ジカルボン酸混合物であることが好ましい。このジカルボン酸混合物中に含まれる、芳香族ジカルボン酸は、30~99.5モル%、好ましくは40~99.5モル%、脂肪族および/または脂環族ジカルボン酸は、0~70モル%、好ましくは0~60モル%、ラジカル重合性不飽和二重結合を有するジカルボン酸は、0.5~10モル%、好ましくは2~7モル%、より好ましくは3~6モル%である。ラジカル重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸の含有量が0.5モル%未満の場合、ポリエステルに対するラジカル重合性単量体の効果的なグラフト化が行なわれにくく、水系媒体中での分散粒子径が大きくなる傾向があり、分散安定性が低下する傾向がある。
【0039】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等が用いられ得る。さらに、必要に応じて5-スルホイソフタル酸ナトリウムも用い得る。
脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、これらの酸無水物等を用い得る。
脂環族ジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロへキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、これらの酸無水物等を用い得る。
【0040】
ラジカル重合性不飽和二重結合を含有するジカルボン酸としては、α,β-不飽和ジカルボン酸類としてフマール酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、不飽和二重結合を含有する脂環族ジカルボン酸として2,5-ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸等を用い得る。これらの内で、フマール酸、マレイン酸および2,5-ノルボルネンジカルボン酸(エンド-ビシクロ-(2,2,1)-5-へプテン-2,3-ジカルボン酸)が好ましい。
【0041】
上記ジオール成分は、炭素数2~10の脂肪族グリコール、炭素数6~12の脂環族グリコール、およびエーテル結合含有グリコールのうちの少なくとも1種よりなる。
炭素数2~10の脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-へキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール等を用い得る。
炭素数6~12の脂環族グリコールとしては、1,4-シクロヘキサンジメタノール等を用い得る。
エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、さらにビスフェノール類の2つのフェノール性水酸基にエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドをそれぞれ1~数モル付加して得られるグ
リコール類、たとえば2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用い得る。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールも必要に応じて用い得る。
【0042】
上記ジカルボン酸成分およびジオール成分の他に、3官能性以上のポリカルボン酸および/またはポリオールを共重合し得る。
3官能以上のポリカルボン酸としては、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、(無水)ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングルコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等を用い得る。
3官能性以上のポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等を用い得る。
【0043】
3官能性以上のポリカルボン酸および/またはポリオールは、上記ジカルボン酸成分を含む全ポリカルボン酸成分あるいは上記ジオール成分を含む全ポリオール成分に対し0~5モル%、好ましくは、0~3モル%の範囲で使用し得る。
【0044】
(アクリルグラフト共重合ポリエステルのグラフト部分)
本発明に用い得るグラフト化ポリエステルのグラフト部分は、親水性基を有するか、または後で親水性基に変化させることができる基を有するラジカル重合性単量体を少なくとも1種含む単量体混合物由来の重合体であり得る。
【0045】
グラフト部分を構成する重合体の重量平均分子量は500~50000、好ましくは4000~50000である。重量平均分子量が500未満の場合には、グラフト化率が低下するのでポリエステルヘの親水性の付与が十分に行なわれなくなり、かつ一般にグラフト部分の重量平均分子量を500未満にコントロールすることは困難である。グラフト部分は分散粒子の水和層を形成する。粒子に十分な厚みの水和層をもたせ、安定な分散体を得るためにはラジカル重合性単量体由来のグラフト部分の、重量平均分子は500以上であることが望ましい。ラジカル重合性単量体のグラフト部分の重量平均分子量の上限は溶液重合における重合性の点で上記のように50000が好ましい。この範囲内での分子量のコントロールは、重合開始剤量、モノマー滴下時間、重合時間、反応溶媒、およびモノマー組成を適切に選択し、必要に応じて連鎖移動剤や重合禁止剤を適宜組み合わせることにより行ない得る。 ガラス転移点は、30℃以下、好ましくは10℃以下である。
【0046】
ラジカル重合性単量体が有する親水性基としては、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アミド基、第4級アンモニウム塩、リン酸基等を用い得る。親水性基に変化させ得る基としては、酸無水物、グリシジル、クロル等を用い得る。グラフト化によりポリエステルに導入される親水性基によってグラフト化ポリエステルの水への分散性をコントロールし得る。上記親水性基の中で、カルボキシル基は、そのグラフト化ポリエステルへの導入量を当該技術分野で公知の酸価を用いて正確に決定し得るため、グラフト化ポリエステルの水への分散性をコントロールする上で好ましい。
【0047】
カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等があり、さらに水/アミンに接して容易にカルボン酸を発生するマレイン酸無水物、イタコン酸無水物、メタクリル酸無水物等が用いられ得る。好ましいカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体はアクリル酸無水物、メタクリル酸無水物およびマレイン酸無水物である。
【0048】
上記親水性基含有ラジカル重合性単量体の他に、少なくとも1種の親水性基を含有しないラジカル重合性単量体を共重合することが好ましい。親水性基含有単量体のみの場合、ポリエステル主鎖に対するグラフト化が円滑に起こらず、良好な共重合ポリエステル水系分散体を得ることが難しい。少なくとも1種の親水性基を含有しないラジカル重合性単量体を共重合することによってはじめて効率の高いグラフト化が行なわれ得る。
【0049】
親水性基を含有しないラジカル重合性単量体としては、エチレン性不飽和結合を有しかつ上記のような親水性基を含有しない単量体の1種またはそれ以上の組み合わせが使用さ
れる。このような単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキプロピル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシルプロピル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリル酸またはメタクリル酸誘導体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニルデン、臭化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;スチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタリン類等の芳香族ビニル化合物;を挙げることができる。これらのモノマーは単独もしくは2つ以上組み合わせて用いられ得る。
【0050】
親水性基含有単量体と親水性基を含有しない単量体の使用比率は、グラフト化ポリエステルに導入する親水性基の量を考慮して決定されるが、通常、質量比(親水性基含有単量体:親水性基を含有しない単量体)として、95:5~5:95、好ましくは90:10~10:90、さらに好ましくは80:20~40:60の範囲である。
【0051】
親水性基含有単量体として、カルボキシル基含有単量体を用いる場合、グラフト化ポリエステルの総酸価は、600~4000eq./106 g、好ましくは700~3000eq./106 g、最も好ましくは800~2500eq./106 gである。酸価が600eq./106 g以下の場合、グラフト化ポリエステルを水に分散したときに粒子径の小さい共重合ポリエステル水系分散体が得にくく、さらに共重合ポリエステル水系分散体の分散安定性が低下する。酸価が4000eq./106 g以上の場合、共重合ポリエステル水系分散体から形成される易接着層の耐水性が低くなる。
【0052】
アクリルグラフト共重合ポリエステルにおけるポリエステル主鎖とグラフト部分との質量比(ポリエステル:ラジカル重合性単量体)は、40:60~95:5、好ましくは55:45~93:7、さらに好ましくは60:40~90:10の範囲である。
【0053】
ポリエステル主鎖の質量比率が40質量%以下である場合、すでに説明した母体ポリエステルの優れた性能すなわち高い加工性、優れた耐水性、各種基材への優れた密着性を十分に発揮することができず、逆にアクリル樹脂の望ましくない性能、すなわち低い加工性、光沢、耐水性等を付加してしまう。ポリエステルの質量比率が95質量%以上である場合、グラフト化ポリエステルに親水性を付与するグラフト部分の親水性基量が不足して、良好な水性分散体を得ることができない。
【0054】
[アクリルグラフト共重合ポリエステルのグラフト化反応の溶媒]
グラフト化反応の溶媒は、沸点が50~250℃の水性有機溶媒から構成されることが好ましい。ここで水性有機溶媒とは20℃における水に対する溶解性が少なくとも10g/L以上、好ましくは20g/L以上である有機溶媒をいう。沸点が250℃を超える水性有機溶媒は、蒸発速度が遅いため、塗膜形成後の塗膜の高温焼付によっても十分に取リ除き得ないので不適当である。また沸点が50℃以下の水性有機溶媒では、それを溶媒としてグラフト化反応を実施する場合、50℃以下の温度でラジカルに分解する開始剤を用いねばならないので取扱上の危険が増大し、好ましくない。
【0055】
ポリエステルをよく溶解し、かつ親水性基、特にカルボキシル基含有重合性単量体を含む重合性単量体およびその重合体を比較的良く溶解する水性有機溶媒(第一群)としては、エステル類、たとえば酢酸エチル;ケトン類、たとえばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロへキサノン;環状エーテル類、たとえばテトラヒドロフラン、ジオキサン、および1,3-ジオキソラン;グリコールエーテル類、たとえばエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、およびエチレングリコールブチルエーテル;カルビトール類、たとえばメチルカルビトール、エチルカルビトール、およびブチルカルビトール;グリコール類またはグリコールエーテルの低級エステル類、たとえばエチレングリコールジアセテートおよびエチレングリコールエチルエーテルアセテート;ケトンアルコール類、たとえばダイアセトンアルコール;N-置換アミド類、たとえばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、およびN-メチルピロリドン;等を挙げることができる。
【0056】
これに対し、ポリエステルをほとんど溶解しないが、親水性基、特にカルボキシル基含有重合性単量体を含む重合性単量体およびその重合体を比較的よく溶解する水性有機溶媒(第二群)として、水、低級アルコール類、低級グリコール類、低級カルボン酸類、低級アミン類等を挙げることが出来る。好ましいのは炭素数1~4のアルコール類およびグリコール類である。
【0057】
グラフト化反応を単一溶媒中で行なう場合は、第一群の水性有機溶媒の一種を用い得る。混合溶媒中で行なう場合は、第一群の水性有機溶媒の複数種または第一群の水性有機溶媒の少なくとも一種と第二群の水性有機溶媒の少なくとも一種とを用い得る。
【0058】
第一群の水性有機溶媒からの単一溶媒中および第一群および第二群の水性有機溶媒のそれぞれ一種からなる混合溶媒中のいずれにおいても、グラフト化反応を行ない得る。しかし、グラフト化反応の進行挙動、グラフト化反応生成物およびそれから導かれる水系分散体の外観、性状等の点から、第一群および第二群の水性有機溶媒のぞれぞれ一種からなる混合溶媒を使用することが好ましい。この理由は、ポリエステルのグラフト化反応においてポリエステル分子間の架橋により系のゲル化が起こりやすいが、以下のように混合溶媒を用いることによりゲル化が防止され得るからである。
【0059】
第一群の溶媒中では、ポリエステル分子鎖は広がりの大きい鎖ののびた状態にあり、他方、第一群/第二群の混合溶媒中では、ポリエステル分子鎖は広がりの小さい糸まり状に絡まった状態にあることが、これら溶液中のポリエステルの粘度測定により確認された。ポリエステル分子鎖が延びた状態では、ポリエステル主鎖中の反応点がすべてグラフト化反応に寄与し得るので、ポリエステルのグラフト化率は高くなるが、同時に分子間の架橋が起こる率も高くなる。他方、ポリエステル分子鎖が糸まり状になっている場合は、糸まり内部の反応点はグラフト化反応に寄与し得ず、同時に分子間の架橋が起こる率も低くなる。よって、溶媒の種類を選択することによってポリエステル分子の状態を調節することができ、それによりグラフト化率およびグラフト化反応による分子間架橋を調節し得る。
【0060】
高いグラフト化率とゲル化抑制の両立は、混合溶媒系において達成し得る。第一群/第二群の混合溶媒の最適の混合比率は、使用するポリエステルの溶解性等によって変わり得るが、通常、第一群/第二群の混合溶媒の質量比率は、95:5~10:90、好ましくは90:10~20:80、さらに好ましくは85:15~30:70の範囲である。
【0061】
[アクリルグラフト共重合ポリエステルのラジカル重合開始剤およびその他添加剤]
本発明で用い得るラジカル重合開始剤として、当業者には公知の有機過酸化物類や有機アゾ化合物類を用い得る。
有機過酸化物として、ベンゾイルパ-オキサイド、t-ブチルパ-オキシピバレート、有機アゾ化合物として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等を挙げることができる。
グラフト化反応を行なうためのラジカル重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性単量体に対して、少なくとも0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上である。
重合開始剤の他に、グラフト部分の鎖長を調節するための連鎖移動剤、たとえばオクチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール等を必要に応じて用い得る。この場合、ラジカル重合性単量体に対して0~5質量%の範囲で添加されるのが望ましい。
【0062】
[アクリルグラフト共重合ポリエステルのグラフト化反応]
グラフト部分の形成は、上記ポリエステル中のラジカル重合性不飽和二重結合と上記ラジカル重合性単量体とが重合することおよび/またはラジカル重合性不飽和二重結合と上記ラジカル重合性単量体の重合体の活性末端とが反応することにより進行する。グラフト化反応終了後の反応生成物は、目的とするグラフト化ポリエステルの他にグラフト部分を有さないポリエステルおよびポリエステルとグラフトしなかったラジカル重合性単量体の重合体を含有する。反応生成物中のグラフト化ポリエステルの生成比率が低く、グラフト部分を有さないポリエステル及びグラフトしなかったラジカル重合性単量体の重合体の比率が高い場合は、安定性の良好な分散体が得られない。
【0063】
通常、グラフト化反応は、加温下で上記ポリエステルを含む溶液に対し、上記ラジカル重合性単量体とラジカル開始剤とを一時に添加して行ない得るか、あるいは別々に一定時間を要して滴下した後、さらに一定時間攪拌下に加温を継続して反応を進行させることによって行い得る。あるいは、必要に応じて、ラジカル重合性単量体の一部を先に添加し、次いで残りのラジカル重合性単量体、重合開始剤を別々に一定時間を要して滴下した後、さらに一定時間攪拌下に加温を継続してグラフト化反応を行い得る。
【0064】
ポリエステルと溶媒との質量比率は、ポリエステルとラジカル重合性単量体との反応性およびポリエステルの溶剤溶解性を考慮して、重合工程中均一に反応が進行する質量比率が選択される。通常、70:30~10:90、好ましくは50:50~15:85の範囲である。
【0065】
[アクリルグラフト共重合ポリエステルの水分散化]
本発明に用いられ得るグラフト化ポリエステルは、固体状態で水系媒体に投入するか、または親水性溶媒に溶解後、水系媒体に投入することによって、水分散化され得る。特に、親水性の基を有するラジカル重合性単量体として、スルホン酸基およびカルボキシル基のような酸性基を有する単量体を用いた場合、グラフト化ポリエステルを塩基性化合物で中和することによって、グラフト化ポリエステルを容易に平均粒子径500nm以下の微粒子として水に分散して、共重合ポリエステル水系分散体を調製し得る。
【0066】
塩基性化合物としては塗膜形成時、あるいは以下に述べる硬化剤を配合した場合は焼付硬化時に揮散する化合物が望ましい。そのような塩基性化合物としては、アンモニア、有機アミン類等が好ましい。有機アミン類としては、トリエチルアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を挙げることができる。
塩基性化合物の使用量は、グラフト部分中に含まれるカルボキシル基を、少なくとも部分中和あるいは完全中和して、水系分散体のpH値を5.0~9.0の範囲にする量が好ましい。
【0067】
塩基性化合物で中和された共重合ポリエステル水系分散体を調製する方法としては、グラフト化反応終了後、反応液から溶媒を、減圧下でエクストルダー等により除去してメルト状または固体状(ペレット、粉末等)にし、次いでこれを塩基性化合物水溶液に投じて加熱下攪拌することまたはグラフト化反応を終了した時点で直ちに塩基性化合物水溶液を反応液に投入し、さらに加熱攪拌を継続すること(ワン・ポット法)により水系分散体を調製し得る。利便性の点からワン・ポット法が好ましい。この場合、グラフト化反応に用いた溶媒の沸点が100℃以下ならば蒸留によって一部または全部を容易に取り除き得る。
【0068】
[易接着層を形成する塗布液に添加する架橋剤]
上記塗布液は、そのままで易接着層を形成する塗布剤として使用し得るが、さらに架橋剤(硬化用樹脂)を配合して硬化を行なうことにより、易接着層に高度の耐水性を付与することができる。
架橋剤としては、アルキル化フェノール類、クレゾール類等とホルムアルデヒドとの縮合物のフェノールホルムアルデヒド樹脂;尿素、メラミン、ベンゾグアナミン等とホルムアルデヒドとの付加物、この付加物と炭素原子数が1~6のアルコールからなるアルキルエーテル化合物等のアミノ樹脂;多官能性エポキシ化合物;多官能性イソシアネート化合物;ブロックイソシアネート化合物;多官能性アジリジン化合物;オキサゾリン化合物等を用い得る。
【0069】
フェノールホルムアルデヒド樹脂としては、たとえば、アルキル化(メチル、エチル、プロピル、イソプロピルまたはブチル)フェノール、p-tert-アミルフェノール、4、4’-sec-ブチリデンフェノール、p-tert-ブチルフェノール、o-、m-、p-クレゾール、p-シクロヘキシルフェノール、4,4’-イソプロピリデンフェノール、p-ノニルフェノール、p-オクチルフェノール、3-ペンタデシルフェノール、フェノール、フェニルo-クレゾール、p-フェニルフェノール、キシレノール等のフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物を挙げることができる。
【0070】
アミノ樹脂としては、たとえば、メトキシ化メチロール尿素、メトキシ化メチロールN,N-エチレン尿素、メトキシ化メチロールジシアンジアミド、メトキシ化メチロールメラミン、メトキシ化メチロールベンゾグアナミン、ブトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミン等が挙げられるが、好ましくはメトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールメラミン、およびメチロール化ベンゾグアナミン等を挙げることができる。
【0071】
多官能性エポキシ化合物としては、たとえば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、オルソフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p-オキシ安息香酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-へキサンジオールジグリシジルエーテルおよびポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、トリメリット酸トリグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、1,4-ジグリシジルオキシベンゼン、ジグリシジルプロピレン尿素、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、グリセロールアルキレンオキサイド付加物のトリグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0072】
多官能性イソシアネート化合物としては、低分子または高分子の芳香族、脂肪族のジイソシアネート、3価以上のポリイソシアネートを用い得る。ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネー卜、およびこれらのイソシアネー卜化合物の3量体がある。さらに、これらのイソシアネート化合物の過剰量と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の低分子活性水素化合物、またはポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類等の高分子活性水素化合物とを反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物を挙げることができる。
【0073】
ブロック化イソシアネートは上記イソシアネート化合物とブロック化剤とを従来公知の適宜の方法より付加反応させて調製し得る。イソシアネートブロック化剤としては、たとえば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノール等のフェノール類;チオフェノール、メチルチオフェノール等のチオフェノール類;アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレンクロルヒドリン、1,3-ジクロロ-2-プロパノール等のハロゲン置換アルコール類;t-ブタノール、t-ペンタノール等の第3級アルコール類;ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、ν-ブチロラクタム、β-プロピルラクタム等のラクタム類;芳香族アミン類;イミド類;アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステル等の活性メチレン化合物;メルカプタン類;イミン類;尿素類;ジアリール化合物類;重亜硫酸ソーダ等を挙げることができる。
これらの架橋剤は、それぞれ単独または2種以上混合して用い得る。架橋剤の配合量としては、グラフト化ポリエステルに対して、5質量%~40質量%が好ましい。
【0074】
架橋剤の配合方法としては、(1)架橋剤が水溶性である場合、直接水系分散体中に溶解または分散させる方法、または(2)架橋剤が油溶性である場合、グラフト化反応終了後、水分散化の前または後に架橋剤を加えてコア部にポリエステルと共存させる方法を用い得る。これらの方法は、架橋剤の種類、性状により適宜選択し得る。さらに架橋剤には、硬化剤あるいは促進剤を併用し得る。
【0075】
本発明に用いる易接着層には、さらに本発明の効果を損なわない範囲で、帯電防止性、滑り性を付与するために、帯電防止剤、無機滑剤、有機滑剤等の添加剤を含有させることができる。 帯電防止剤、無機滑剤、有機滑剤等をフィルム表面に塗布する場合、これらの添加剤の脱離を防止するため易接着層に含有させることが好ましい。
【0076】
易接着層を形成するために、共重合ポリエステル水系分散体を含む塗布剤をポリアミドフィルム基材に塗布する方法としては、グラビア方式、リバース方式、ダイ方式、バー方式、ディップ方式等公知の塗布方式を用い得る。
【0077】
塗布剤の塗布量は、2軸方向後のポリエステルフィルムに対して固形分として0.01~3g/m2 である。好ましくは、0.04~0.5g/m2 になるように塗布する。塗布量が0.01g/m2 以下になると、易接着層と他層との十分な接着強度が得られない。3g/m2 以上になるとブロッキングが発生し、実用上問題がある。
【0078】
易接着層は、二軸延伸ポリアミドフィルム基材に塗布剤を塗布するか、未延伸あるいは一軸延伸後のポリアミドフィルム基材に塗布剤を塗布した後、乾燥し、必要に応じて、さらに一軸延伸あるいは二軸延伸後熱固定を行って調製し得る。塗布剤塗布後の乾燥温度としては、150℃以上、好ましくは200℃以上で乾燥および熱固定を行うことにより塗膜が強固になり、易接着層とポリアミドフィルム基材との接着性が向上する。
【0079】
塗布後に延伸を行う場合、塗布後の乾燥は、塗布フィルムの延伸性を損なわないために塗布フィルムの水分率を0.1~2%の範囲に制御する必要がある。延伸後は200℃以上で乾燥および熱固定することによリ、塗膜が強固になリ易接着層とポリアミドフィルム基材との接着性が飛躍的に向上する。
【0080】
[2軸延伸ポリアミドフィルムの物性]
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムは、分子配向角が20°以上であり、かつ吸湿歪みが1.3%以下である。吸湿歪みは、1.1%以下がより好ましい。吸湿歪みが1.3%より大きいと、作製した袋の吸湿によるS字カールが大きくなり問題が発生する。
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの幅方向に対して端に近いフィルムであるため、分子配向角が20°以上である。分子配向角は分子鎖配向軸方向の角度を王子計測機器株式会社製の分子配向角測定装置MOA-6004で測定する。分子配向角は、フィルムの長手方向の角度を0度とし、上記分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を求めた値である。この値が大きいほどボーイング現象が大きいことを示し、ミルロールの中央から端部に近くなると値は大きくなる。したがって、本発明においては、分子配向角が大きくても吸湿歪みが小さいフィルムを得ることが重要である。
【0081】
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムのインパクト強度は、0.8J/15μm以上である。好ましくは1.0J/15μm以上である。インパクト強度が0.8J/15μmより小さいと包装用に使用した時に包装袋が運送時の衝撃で破れてしまう場合がある。インパクト強度は、大きい方が包装袋が破れにくいので好ましい。しかし、他の特性も満足し、かつ2.0J/15μmより大きくすることは製造上難しい。
【0082】
また、本発明における2軸配向ポリアミドフィルムの160℃で10分間加熱後の熱収縮率は、MD方向(縦方向)及びTD方向(幅方向)ともに0.6~3.0%の範囲である。好ましくは、0.6~2.5%である。熱収縮率が3.0%より大きい場合、印刷加工時やラミネート加工時、製袋加工時にフィルムが収縮し見栄えが悪くなり好ましくない。熱収縮率が0.6より小さい場合、吸湿歪みが大きくなる場合がある。
【0083】
また、本発明における2軸配向ポリアミドフィルムは、配向角が20°以上であり、かつ熱収縮歪みが2.0%以下が好ましい。より好ましくは1.8%以下である。熱収縮歪みが2.0%より大きいと、袋をヒートシールした時にヒートシール部に収縮変形が発生し、見栄えが悪くなる場合がある。また、十分なS字カール抑制効果が得られない場合がある。
【0084】
[2軸配向ポリアミドフィルムの製造方法]
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムは、例えば、未延伸のポリアミドフィルムをまず縦方向に低倍率で予備縦延伸し、次いで縦方向に2段階以上に分けて合計の縦延伸倍率が3倍以上になるように主縦延伸し、次いで横延伸と熱固定処理、熱緩和処理した後、クリップ把持部をトリミングしてミルロールとして巻き取った後、加工するための幅にスリットされることで得られる。
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムミルロールの幅は、特に限定されないが、通常、3000~8000mmである。ポリアミドフィルムミルロールの巻長は、特に限定されないが、通常、5000~70000mである。
加工するためにスリットされたロールの幅は、400~3000mmであり、巻長さは3000~10000mである。
近年、アルミ真空蒸着機などのフィルム大型化に伴い、スリットロールも大型になっている。したがって、前記より幅と巻長さの大きいスリットロールであっても構わない。
【0085】
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの端部に近いフィルムであるため、配向角が20°以上である。
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの端部に近いほど配向角が大きく、吸湿歪みと熱収縮歪みも大きい傾向がある。
スリットしたフィルムロールの右端又は左端のフィルムの配向角が20°以上であり、かつ吸湿歪みが1.3%以下である2軸配向ポリアミドを含むフィルムロールであれば、加工して得られる袋の吸湿によるS字カールの量を問題が発生しない量に抑えることができる。
【0086】
更に詳しく本発明の2軸配向ポリアミドフィルムミルロールを得るための好ましい方法について説明する。
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムミルロールは、例えば、未延伸ポリアミドフィルムを縦方向に低倍率で予備縦延伸した後、縦方向に2段以上で高倍率で主縦延伸し、続いて横延伸し、更に熱固定処理と熱弛緩処理を行うことによって製膜した2軸配向ポリアミドフィルムを巻いてミルロールを得ることが好ましい。
上記の予備縦延伸は、1段であっても2段以上であっても良い。だだし、予備縦延伸の各延伸倍率を乗じた合計の延伸倍率は、1.005~1.15倍が好ましい。
予備縦延伸の後に行う主縦延伸は、縦方向に2段階以上に分けて延伸することが好ましい。第1段目の主縦延伸の倍率は、1.1~2.9倍が好ましい。第2段目以降の主縦延伸の倍率は、予備縦延伸倍率も含めた各延伸倍率を乗じた合計の縦延伸倍率が2.8~5.0倍になるように設定することが好ましい。3.0~3.5倍がより好ましい。
【0087】
本発明の2軸配向アミドフィルムミルロールを得る方法の一例について説明する。
まず、上記のポリアミド6を主成分とする原料を乾燥したのち、押出機により溶融押出し、Tダイより回転ドラム上にキャストして急冷固化し未延伸のポリアミドフィルムを得る。
この未延伸フィルムを〔ガラス転移温度(以下Tgと略す)+20〕℃以上、〔低温結晶化温度(以下Tcと略す)+20〕℃以下の温度で、1.005~1.15倍の予備縦延伸を行なう。
ここでTg及びTcは、実施例で記載の方法で測定して得られる値である。
予備縦延伸を(Tg+20)℃未満の温度で行なうと、ネッキングを生じ厚み斑が増大しやすくなる。一方、(Tc+20)℃を越える温度で延伸を行なうと、熱結晶化が進行し、横延伸で破断しやすくなり好ましくない。より好ましい延伸温度は、(Tg+30)℃~(Tc+10)℃である。この予備縦延伸での延伸倍率が低すぎると吸湿歪みの改善効果が得られにくい。逆に高すぎると配向結晶化が進行しすぎて、後述する主縦延伸での延伸応力が高くなりすぎ主縦延伸あるいは横延伸する時に破断し易くなる。この観点から、予備延伸の延伸倍率は1.005~1.15倍が好ましい。より好ましい延伸倍率は、1.01~1.1倍である。予備縦延伸は1段でも多段で行っても良いが、合計の予備縦延伸倍率を上記範囲にすることが好ましい。
縦予備延伸は、熱ロール延伸、赤外線輻射延伸など公知の縦延伸方法を用いることがで
きる。
【0088】
縦方向に予備延伸した後、引続いて縦方向の主延伸(主縦延伸と略す)を多段階に行なうことが好ましい。主縦延伸における延伸温度は(Tg+20)℃以上、(Tc+20)℃以下の温度で行うことが好ましい。主縦延伸の第1段目の縦延伸倍率は、1.1~2.9倍となるように行なうことが好ましい。この主縦延伸第1段目の延伸倍率が低すぎると延伸効果が得られない。逆に高すぎると配向結晶化が進行しすぎて、主縦延伸の第2段目の延伸での延伸応力が高くなりすぎて縦延伸あるいは横延伸での破断が発生し易くなる。 主縦延伸第1段目での延伸温度は、(Tg+20)℃~(Tc+20)℃が好ましい。 該延伸温度が(Tg+20)℃未満では延伸応力が高くなり横延伸で破断しやすくなり、(Tc+20)℃を越えると厚み斑が大きくなる。より好ましくは、(Tg+30)℃~(Tc+10)℃である。 主縦延伸第1段目の延伸倍率は上記と同様の理由から1.1~2.9倍が好ましい。より好ましい延伸倍率は、1.5~2.5倍である。主縦延伸第1段目は、熱ロール延伸、赤外線輻射延伸など公知の縦延伸方法を用いることができる。
【0089】
主縦延伸第1段目後、引続いて主縦延伸第2段目を行なう。主縦延伸第2段目は、熱ロール延伸法が好ましい。主縦延伸第2段目では、表面粗さRaが0.2μm以下のセラミックロールを用いることが好ましい。Raが0.2μmより大きいロールを用いると、ロール上をフィルムが滑った状態で延伸が行われるため、フィルム表面に擦傷が生じ好ましくない。またロール上での延伸開始点が幅方向で不均一になったり、延伸開始点が変動するので、厚み斑が生じ好ましくない。すなわち、主縦延伸第2段目では、主縦延伸第1段目を行なったフィルムの幅方向の厚みプロファイルにかかわらず、ロール上で幅方向に直線的に密着させられた状態で延伸され、幅方向に均一な加熱延伸になることが好ましい。ここでRaとは、中心線平均粗さのことで平均的な凹凸の高さ(単位=μm)であり、JIS B 0601で規定される値である。
主縦延伸第2段目の延伸倍率は、各予備縦延伸倍率と主縦延伸倍率を乗じた合計の縦延伸倍率が2.8倍以上となるように行なう。2.8倍未満であると2軸配向フィルムの幅方向の物性のバラツキは小さくなるものの、縦方向の強度が小さくなる。合計の縦延伸倍率が大きくなりすぎると、2軸配向フィルムの幅方向の物性のバラツキを低減させる効果が発現しない場合もでてくる。これを考慮すると、好ましい合計の縦延伸倍率は、3.0~3.8倍であり、より好ましくは、3.0~3.5倍である。第2段目縦延伸での延伸温度も、(Tg+20)℃~(Tc+20)℃である。該延伸温度が(Tg+20)℃未満では延伸応力が高くなり横延伸で破断しやすくなり、(Tc+20)℃を越えると厚み斑が大きくなる。より好ましくは、(Tg+30)℃~(Tc+10)℃である。
【0090】
このようにして得られた縦方向1軸配向フィルムに前記の塗布液を塗布することができる。塗工には、ロールコーティング法(グラビア法、リバース法など)、ナイフコーティング法、ロッドコーティング法、ノズルコーティング法、エアーナイフコーティング法など既知の方法を採用できる。
塗布した後、塗布液は熱風などで乾燥した後、次にテンターを用いて横方向に延伸される。塗布液の乾燥は、テンターで行ってもよい。
横延伸温度は低すぎると、横延伸性が悪化(破断発生)する場合がある。一方、高すぎると厚み斑が大きくなる傾向がある。このような点から、横延伸温度は100~200℃が好ましく、120~160℃がより好ましい。また、横方向の強度を確保する点から、延伸倍率は3.0~5.0倍が好ましく、3.5~4.5倍がさらに好ましい。このようにして延伸された2軸配向ポリアミドフィルムは、熱固定処理と熱弛緩処理し、クリップ把持部を切り取ったあとミルロールとして巻取る。
【0091】
上記したように、本発明の2軸配向ポリアミドフィルムミルロールは、好ましくは、例えば、縦延伸を予備縦延伸と主縦延伸に分けて行い、かつ主縦延伸を2段以上に分け、主縦延伸第2段目の延伸ロールとして表面粗さRaが0.2μm以下のセラミックロールを用いて行い、続いて塗布液を塗布し乾燥した後、横方向に延伸し、熱固定処理と熱弛緩処理し、クリップ把持部を切り取ってミルロールとして巻取ることによって得られる。
【0092】
本発明における2軸配向ポリアミドフィルムは、寸法安定性を一層向上させるために、さらなる熱固定処理、熱弛緩処理、調湿処理などを施すこともできる。また、接着性や濡れ性を一層向上させるために、コロナ処理、コーティング処理、火炎処理などを施すこともできる。
上記の熱固定処理、熱弛緩処理、調湿処理、コロナ処理、コーティング処理、火炎処理などは、2軸配向ポリアミドフィルムの製造工程中で処理することもできる。また、ミルロール又はスリットされたロールを巻き出して処理することもできる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、使用原料、フィルムの物性、特性の評価方法は、以下の通りである。特に記載しない場合は、測定は23℃、相対湿度65%の環境の測定室で行った。
【0094】
<2軸配向ポリアミドフィルムの原料>
[ポリアミド6]
相対粘度RV=2.9、融点(Tm):220℃のポリアミド6を用いた。
[ポリアミドMXD6]
相対粘度RV=2.2、融点(Tm):238℃のポリアミドMXD6を用いた。
[シリカ微粒子とエチレンビスステアリン酸アミドのマスターバッチ]
上記ポリアミド6を93.5質量%、多孔質シリカ微粒子(重量平均粒子径=4μm、細孔容積=1.6ml/g)を5質量%、及びエチレンビスステアリン酸アミド(共栄社化学社製 ライトアマイドWE-183)を1.5質量%配合し、2軸押し出し機で溶融混練押出しし、ペレット状にカットし、マスターバッチを得た。
【0095】
<易接着層形成に用いた塗布液>
易接着層形成のために下記の2種類の水系分散体の塗布液を用いた。
[塗布液(A):アクリルグラフト共重合ポリエステルの水系分散体]
攪拌機、温度計および部分還流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブにジメチルテレフタレート466質量部、ジメチルイソフタレート466質量部、ネオペンチルグリコール401質量部、エチレングリコール443質量部、およびテトラ-n-ブチルチタネート0.52質量部を仕込み、160~220℃で4時間かけてエステル交換反応を行った。次いでフマール酸23質量部を加えて200℃から220℃まで1時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧したのち0.2mmHgの減圧下で1時間30分攪拌しながら反応させてポリエステルを得た。得られたポリエステルは淡黄色透明で、ガラス転移温度60℃、重量平均分子量は12000であった。NMR測定等により得られた組成は次の通りであった。
・ジカルボン酸成分
テレフタル酸 48モル%
イソフタル酸 48モル%
フマール酸 4モル%
・ジオール成分
ネオペンチルグリコール 50モル%
エチレングリコール 50モル%
【0096】
攪拌器、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に、上記ポリエステル樹脂75質量部とメチルエチルケトン56質量部とイソプロピルアルコール19質量部とを入れ65℃で加熱、攪拌し樹脂を溶解した。樹脂が完溶した後、メタクリル酸17.5質量部とアクリル酸エチル7.5質量部の混合物と、アゾビスジメチルバレロニトリル1.2質量部とを25質量部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.2ml/分でポリエステル溶液中に滴下し、滴下終了後さらに2時間攪拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリング(5g)を行った後、水300質量部とトリエチルアミン25質量部を反応溶液に加え、1時間攪拌してグラフト化ポリエステルの分散体を調整した。その後、得られた分散体の温度を100℃に上げ、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により溜去して共重合ポリエステル水系分散体を得た。
【0097】
得られた分散体は、白色で平均粒子径300nm、25℃におけるB型粘度は50センチポワズであった。この分散体5gに重水1.25gを添加して固形分濃度を20質量%とした後、DSSを加えて、125MHz13C-NMRを測定した。ポリエステル主鎖のカルボニル炭素のシグナル(160-175ppm)の半値幅は∞(シグナルが検出されない)であり、グラフト部分のメタクリル酸のカルボニル炭素のシグナル(181-186ppm)の半値幅は110Hzであった。グラフト化反応終了時点でサンプリングした溶液を100℃で8時間真空下で乾燥を行い、その固形分について酸価の測定、ポリエステルのグラフト効率の測定(NMRの測定)、および加水分解によるグラフト部分の分子量の測定を行った。固形分の酸価は2300eq./106 gであった。1H-NMRの測定では、フマール酸由来のシグナル(δ=6.8-6.9ppm、doublet)が全く検出されなかったことから、ポリエステルのグラフト効率は100%であることを確認した。グラフト部分の分子量は、重量平均分子量10000であった。
しかる後、上記の如く得られた水系分散体を、固形分濃度5質量%になるように水で希釈して塗布液(A)を得た。
【0098】
[塗布液(B):ポリウレタン樹脂の水系分散体]
(A)ポリウレタンおよび水系分散液の調製;ジカルボン酸成分としてアジピン酸を;そしてグリコール成分として1、4-ブタンジオール60モル%(グリコール成分の)、およびビスフェノールAのプロピレンオキサイド(1モル)付加物40モル%を用いて、Tgが-5℃のポリエステル(ポリエステルポリオール)を得た。このポリエステルにトルエンジイソシアネートを作用させてウレタンポリマーを得た。これをプレポリマーとし、1、6-ヘキサンジオールを作用させて鎖延長すると共にアミノカルボン酸塩を末端に反応させ、水不溶性でかつ水分散性のポリウレタンを得た。これを撹拌しながら熱水中に分散させ、25%水系分散液を得た。
上記ポリウレタンの水系分散液を固形分が5質量%になるように、イオン交換水およびイソプロピルアルコールの等量混合液中に加え希釈して塗布液(B)を得た。
【0099】
<測定方法、評価方法>
2軸配向ポリアミドフィルム及びフィルムロールの測定及び評価は、以下の方法で行った。測定及び評価の結果は、表1~表6に製膜条件とともに示した。
【0100】
[相対粘度]
0.25gの上記原料ポリアミドを25mlのメスフラスコ中で1.0g/dlの濃度になるように96%硫酸で溶解したポリアミド溶液を20℃にて相対粘度を測定した。
【0101】
[Tg、Tc及びTm]
JIS K7121に準じて、島津製作所社製、DSC-60型示差走査熱量測定器を用いて、未延伸ポリアミドフィルム10mgを入れたパーンを窒素雰囲気中で昇温速度10℃/分で30℃から280℃まで昇温する過程で融点として融解ピーク温度Tmを測定し、280℃に到達してから試料の入ったパーンを液体窒素に浸けて急冷した後、そのパーンを昇温速度20℃/分で-10℃から280℃まで昇温して、昇温過程で補外したガラス転移開始温度Tgと冷結晶化ピーク温度Tcを測定した。
【0102】
[易接着層の塗布量]
2軸配向ポリアミドフィルムを10cm×10cmの面積に切り出し、フィルムの易接着層面をメチルエチルケトン/トルエン=1/1の混合有機溶剤を染み込ませた布で拭き取り、拭き取り前後の重量を精密天秤(島津製作所社製AUW120D)を用いて測定した。測定した重量差から平方メートル当たりに換算し、塗布量(g/m2 )を算出した。
【0103】
[分子配向角]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側を正方形の中心として一辺100mmの正方形状にフィルム試料を採取し、分子配向角(分子配向軸方向の角度)を王子計測機器株式会社製の分子配向角測定装置(MOA-6004)で測定した。分子配向角は、フィルムの長手方向の角度を0度とし、上記分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を求め、大きい方の値を分子配向角として表1に示した。実施例および比較例においては、全てミルロールの端に近い左端の値が大きかった。
【0104】
[フィルム厚み]及び[インパクト強度]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から15mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側の位置を中心として測定試料を切り出し、テスター産業製厚み測定器で厚みを測定した後、東洋精機社製フィルムインパクトテスターを使用し、直径1/2インチの半球状衝撃頭を用いてフィルムのインパクト強度を測定した。得られた値は下記式により、15μm換算のインパクト強度とした。表1には分子配向角が大きかった左端側の値を示した。
インパクト強度(J/15μm)=観察されたインパクト強度(J)×15μm/厚み(μm)
ミルロールの評価においては、ミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置を中心としてフィルム試料を採取し、同様にして厚みとインパクト強度を測定した。表2に評価結果を示した。
【0105】
[吸湿歪み]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側を正方形の中心として一辺210mmの正方形状に測定試料を採取し、その試料の中央を中心とする直径200mmの円を描き、MD方向を0°として、45°方向及び135°方向に円の中心を通る直線を引く。次いで、その試料を30℃×80%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後、各方向の直径を測定して高湿時の長さとする。その後20℃×40%RHの部屋で2時間以上放置した後、各直径方向に引かれた直線の長さを再度測定して低湿時の長さとし、下記式によって吸湿伸び率を算出した。しかる後に、45°方向および135°方向の吸湿伸び率の差の絶対値(%)を吸湿歪みとして算出し、絶対値の大きい方の値を吸湿歪みとして表1に示した。実施例および比較例においては、分子配向角と同様、左端の値が大きかった。
吸湿伸び率=[(高湿時の長さ-低湿時の長さ)/低湿時の長さ]×100(%)
ミルロールの評価においては、ミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置を中心としてフィルム試料を採取し、同様にして吸湿歪みを測定した。表2に評価結果を示した。
【0106】
[熱収縮率]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側を中心として測定試料を切り出し、試験温度160℃、加熱時間10分間とした以外は、JIS C2318に記載の寸法変化試験法に準じて下記式によって熱収縮率を測定した。表1には分子配向角が大きかった左端側の値を示した。
熱収縮率=[(処理前の長さ-処理後の長さ)/処理前の長さ]×100(%)
ミルロールの評価においては、ミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置を中心としてフィルム試料を採取し、同様にして熱収縮率を測定した。表2に評価結果を示した。
【0107】
[熱収縮歪み]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側を正方形の中心として一辺210mmの正方形状に測定試料を採取し、各フィルムを23℃、65%RHの雰囲気で2時間以上放置した。そして、その試料の中央を中心とする直径200mmの円を描き、MD方向(縦方向)を0°として、45°方向及び135°方向に円の中心を通る直線を引き、各方向の直径を測定して処理前の長さとする。次いで、その試料を試験温度160℃で10分間加熱処理した後、取り出して23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置し各直径方向に引かれた直線の長さを再度測定して処理後の長さとし、下記式によって熱収縮率を算出した。しかる後に、45°方向および135°方向の熱収縮率の差の絶対値(%)を熱収縮歪みとして算出し、絶対値の大きい方の値を熱収縮歪みとして表1に示した。実施例および比較例においては、分子配向角と同様、左端の値が大きかった。
熱収縮率=[(処理前の長さ-処理後の長さ)/処理前の長さ]×100(%)
ミルロールの評価においては、ミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置を中心としてフィルム試料を採取し、同様にして熱収縮歪みを測定した。表2に評価結果を示した。
【0108】
[S字カール]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールのポリアミドフィルムのコロナ処理した面にポリエステル系接着剤〔東洋モートン(株)社製のTM-569(製品名)およびCAT-10L(製品名)を重量比で7.2/1に混合したもの(固形分濃度23%)〕を乾燥後の樹脂固形分が3.2g/m2 となるように塗布した後、線状低密度ポリエチレンフィルム(L-LDPEフィルム:東洋紡(株)社製、リックス(登録商標)L4102)40μmをドライラミネートし、40℃の環境下で2日間エージングを行い、積層フィルムを得た。
上記の如く積層フィルムロールとして巻き取られた積層フィルムを、西部機械社製の3方シール製袋機を用いて巻き長さ方向に平行に中央で2つ折りにしてから切断しポリアミドフィルムが外側になるように重ね合わせ、縦方向に両端を10mm幅、中央部を20mm幅、155℃で熱シールし、それに垂直方向に20mm幅、170mm間隔、180℃で断続的に熱シールした。これを巻き長さ方向に、中央シール部の中央と袋の幅が220mmになるように両縁部を裁断した後、これと垂直方向のシール部中央で切断し、3方シール袋(シール幅:10mm)を作製した。それら作製された3方シール袋の左端側の袋を10サンプル準備した。そして、10枚の3方シール袋を30℃、60%RHで24時間処理した後、20℃、20%RHの雰囲気で24時間保持し、4方の角の開口部2ヶ所とシール部の1ヶ所の3点を押さえ残る1ヶ所の角の反り返り(S字カール)の度合いを以下のようにして評価した。
10点:40mm未満
5点:40~50mm未満
1点:50mm以上
10点評価した点数の平均が、7点以上を◎、3~7点を○、3点未満を×とした。
3点未満の×の評価の袋については、袋の箱詰めや充填機の搬送ミスの問題が発生するので問題である。3点以上であれば、問題は許容できる範囲である。
【0109】
[耐水ラミネート強度(水付着条件下でのラミネート強度)]
S字カールを評価のために作製した積層フィルムを幅15mm×長さ200mmの短冊状に切断し、積層フィルムの一端を二軸延伸ポリアミドフィルムと線状低密度ポリエチレンフィルムとの界面で剥離し、((株)島津製作所製、オートグラフ)を用い、温度23℃、相対湿度50%、引張り速度200mm/分、剥離角度90°の条件下で、上記短冊状積層フィルムの剥離界面に水をスポイトで垂らしながらラミネート強度を3回測定し、その平均値で評価した。
【0110】
[実施例1]
ポリアミド6を85質量%、ポリアミドMXD6を3質量%、シリカ微粒子とエチレンビスステアリン酸アミドのマスターバッチを12質量%、含むように原料を配合した。配合した原料の水分率を0.1質量%に調整した後、押出機によりTダイより260℃の温度で溶融フィルムとして押出しし、30℃に冷却させた金属ロール上に、直流高電圧の印荷により静電気的に密着させて冷却固化し、厚さ200μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムのTgは41℃、Tcは69℃であった。
【0111】
この未延伸フィルムをロール延伸機を用い、延伸温度80℃で1.03倍に第一段目の予備縦延伸し、次いで延伸温度80℃で1.03倍に第二段目の予備縦延伸し、次いで85℃で2.1倍に第一段目の主縦延伸し、更に延伸温度70℃で1.5倍に第二段目の主縦延伸を行い、この縦延伸フィルムを連続的にテンターに導き、130℃で4.0倍に横延伸した後、210℃で熱固定処理し、さらに210℃で横方向に5.0%の緩和処理を行った。引続き100℃で冷却し、フィルムの片面をコロナ処理した後、両端のテンタークリップ把持部を幅150mmトリミングし、厚さ15μm、幅6000mmの2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0112】
[実施例2]
表1及び表2に示したように予備縦延伸の温度及び倍率と主縦延伸の倍率を変えた以外は実施例と同様に2軸配向ポリアミドフィルムを得た。
【0113】
[実施例3]
表1及び表2に示したように予備縦延伸を1段にして表1の倍率に設定し、主縦延伸の2段目の倍率、未延伸フィルムの厚さを180μmに変えた以外は実施例2と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0114】
[実施例4]
ミルロール幅が4000mmの製膜装置に変えた以外は実施例3と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0115】
[比較例1]~[比較例6]
表1及び2に示したように予備縦延伸を行わず、主縦延伸を表1及び2に示した温度及び倍率で2段延伸を行った以外は、実施例と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0116】
[比較例7]
表1及び2に示したように予備縦延伸を行わず、主縦延伸を表1及び2に示した温度及び倍率で1段延伸を行った以外は、実施例と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0117】
【0118】
【0119】
表1で示したとおり、実施例1~4の本願発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの端のスリットロールであるにかかわらず、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であった。
一方、比較例3及び比較例6以外の比較例で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角は20°より大きく、吸湿歪みが1.3%より大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生した。
比較例3で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角は20°より大きく、吸湿歪みは1.3%以下であったが、160℃で10分間加熱後の熱収縮率が大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生するとともにヒートシール部が収縮変形した。
比較例6で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、吸湿歪みは1.3%以下であり、S字カールも許容できる範囲であったが、インパクト強度が小さいため、耐衝撃性が求められるポリアミドフィルムとしての特性を満足していなかった。
【0120】
表2で示したとおり、実施例1~4のポリアミドフィルムミルロールでは、端のスリットロールであっても、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であった。
一方、比較例3及び比較例6以外の比較例で得られたポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みが、1.3%より大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生した。
比較例3で得られたポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みは1.3%以下であったが、160℃で10分間加熱後の熱収縮率が大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生するとともにヒートシール部が収縮変形した。
比較例6で得られたポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みは1.3%以下であり、S字カールも許容できる範囲であったが、インパクト強度が小さいため、耐衝撃性が求められるポリアミドフィルムとしての特性を満足していなかった。
【0121】
[実施例5]
実施例1と同様にして、未延伸フィルムを作製し、第一段目の予備縦延伸し、次いで第二段目の予備縦延伸し、第一段目の主縦延伸し、更に第二段目の主縦延伸を行った。
次いで、この縦延伸フィルムにアクリルグラフト共重合ポリエステルの水系分散体塗布液(A)をロールコーター方式で塗布し、70℃の熱風で乾燥した。
次いで、縦延伸フィルムを連続的にテンターに導き、130℃で4.0倍に横延伸した後、210℃で熱固定処理し、さらに210℃で横方向に5.0%の緩和処理を行った。引続き100℃で冷却し、フィルムの片面をコロナ処理した後、両端のテンタークリップ把持部を幅150mmトリミングし、厚さ15μm、幅6000mmの2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。得られた2軸配向ポリアミドフィルムのアクリルグラフト共重合ポリエステルの塗布量は、固形分として0.05g/m2 であった。
【0122】
[実施例6]
表3及び表4に示したように予備縦延伸の温度及び倍率と主縦延伸の倍率を変えた以外は実施例5と同様にポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0123】
[実施例7]
表3及び表4に示したように予備縦延伸を1段にして表3の倍率に設定し、主縦延伸の2段目の倍率、未延伸フィルムの厚さを180μmに変えた以外は実施例6と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0124】
[実施例8]
ミルロール幅が4000mmの製膜装置に変えた以外は実施例7と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0125】
[比較例8]~[比較例14]
表3及び表4に示したように予備縦延伸を行わず、主縦延伸を表3に示した温度及び倍率で2段延伸を行った以外は、実施例5と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0126】
[比較例15]
表3及び表4に示したように予備縦延伸を行わず、主縦延伸を表3及び表4に示した温度及び倍率で1段延伸を行った以外は、実施例と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0127】
【0128】
【0129】
表3で示したとおり、実施例5~8の本願発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの端のスリットロールであるにかかわらず、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であった。また、アクリルグラフト共重合ポリエステルからなる易接着層があるので、シーラントフィルムとポリアミドフィルムとの積層フィルムのラミネート強度も良好であった。
一方、比較例3-3及び比較例6以外の比較例で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角は20°より大きく、吸湿歪みが1.3%より大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生した。
比較例3で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角は20°より大きく、吸湿歪みは1.3%以下であったが、160℃で10分間加熱後の熱収縮率が大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生するとともにヒートシール部が収縮変形した。
比較例3-6で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、吸湿歪みは1.3%以下であり、S字カールも許容できる範囲であったが、インパクト強度が小さいため、耐衝撃性が求められるポリアミドフィルムとしての特性を満足していなかった。
【0130】
表4で示したとおり、実施例5~8の本願発明の2軸配向ポリアミドフィルムでは、端のスリットロールであっても、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であった。また、アクリルグラフト共重合ポリエステルからなる易接着層があるので、シーラントフィルムとポリアミドフィルムとの積層フィルムのラミネート強度も良好であった。
一方、比較例11及び比較例14以外の比較例で得られたポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みが、1.3%より大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生した。
比較例11で得られたポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みは1.3%以下であったが、160℃で10分間加熱後の熱収縮率が大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生するとともにヒートシール部が収縮変形した。
比較例14で得られたポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みは1.3%以下であり、S字カールも許容できる範囲であったが、インパクト強度が小さいため、耐衝撃性が求められるポリアミドフィルムとしての特性を満足していなかった。
【0131】
[実施例9]~[実施例12]
塗布液を(A)からポリウレタン樹脂の水系分散体(B)に変え、表5に示した製膜条件を採用した以外は、実施例5と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。得られた2軸配向ポリアミドフィルムへのポリウレタン樹脂の塗布量は固形分として0.05g/m2 であった。
【0132】
[比較例16]
塗布液を(A)からポリウレタン樹脂の水系分散体(B)に変えた以外は、比較例8と同様に予備縦延伸を行わず、主縦延伸を表5及び表6に示した温度及び倍率で2段延伸を行い2軸配向ポリアミドフィルムを得た。
[参考例1]
塗布液の塗布を行わなかった以外は、実施例5と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。
【0133】
【0134】
【0135】
表5で示したとおり、実施例9~12の本願発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの端のスリットロールであるにかかわらず、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であった。また、ポリウレタン樹脂からなる易接着層があるので、シーラントフィルムとポリアミドフィルムとの積層フィルムのラミネート強度も良好であった。
一方、比較例16で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角は20°より大きく、吸湿歪みが1.3%より大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生した。
また、参考例1で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角と吸湿歪みが本発明の範囲であるので、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であったが、易接着層が無いのでシーラントフィルムとポリアミドフィルムとの積層フィルムのラミネート強度が不十分であった。
【0136】
表6で示したとおり、実施例9~12の本願発明のポリアミドフィルムミルロールでは、端のスリットロールであっても、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であった。また、ポリウレタン樹脂からなる易接着層があるので、シーラントフィルムとポリアミドフィルムとの積層フィルムのラミネート強度も良好であった。
一方、比較例16で得られたポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みが、1.3%より大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生した。
また、参考例1で得られたポリアミドフィルムミルロールは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みは1.3%以下であり、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であったが、易接着層が無いのでシーラントフィルムとポリアミドフィルムとの積層フィルムのラミネート強度が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムミルロールは、ミルロールの端に近い製品であっても、機械的特性や熱的特性が良好であり、かつ製袋後の吸湿によるS字カールが少ないので、内容物を袋に充填する時に袋の搬送などで不具合が起きにくく作業性が良好である。更に高温での収縮の歪みも小さいので、袋をヒートシールにした後の収縮変形も小さい。また、易接着層を設けた場合は、ラミネート強度が強いので袋が破れにくい。そのため、各種の包装用途に好適に用いることができる。