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特許7452421光学フィルム、偏光板保護フィルム、光学フィルムのロール体、および光学フィルムの製造方法
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  • 特許-光学フィルム、偏光板保護フィルム、光学フィルムのロール体、および光学フィルムの製造方法 図1
  • 特許-光学フィルム、偏光板保護フィルム、光学フィルムのロール体、および光学フィルムの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】光学フィルム、偏光板保護フィルム、光学フィルムのロール体、および光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240312BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240312BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20240312BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CEY
C08L33/04
C08L51/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020533555
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029732
(87)【国際公開番号】W WO2020027082
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018144438
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 亮
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-16845(JP,A)
【文献】特開2016-42159(JP,A)
【文献】国際公開第2009/150926(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111519(WO,A1)
【文献】特開2013-28676(JP,A)
【文献】国際公開第2014/188993(WO,A1)
【文献】特開2016-71142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08J 5/18
C08L33/04
C08L51/04
C08F265/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含む光学フィルムであって、
前記光学フィルムの断面において、
前記ゴム粒子の平均アスペクト比は、1.2~3.0であり、
3個以上の前記ゴム粒子の長径同士が、隣り合う前記ゴム粒子の長径同士のなす角度のうち小さいほうの角度θが30°以下をなして連なっており、かつ連なっている前記ゴム粒子の粒子間距離が100nm以下であり、
前記連なっているゴム粒子の数の、前記光学フィルムに含まれる前記ゴム粒子の総数に対する比率が15%以上である、
光学フィルム。
【請求項2】
前記ゴム粒子の長径方向は、前記光学フィルムの厚み方向に対して90±15°の範囲内である、
請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記光学フィルムは、面内遅相軸を有し、
前記ゴム粒子の長径方向は、前記面内遅相軸に対して0±15°の範囲内である、
請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記ゴム粒子は、架橋重合体を含むコア部と、前記コア部を覆い、前記架橋重合体とは異なる重合体を含むシェル部とを有するコアシェル型の粒子であり、
前記(メタ)アクリル系樹脂と前記重合体の溶解性パラメータ(SP値)の差ΔSPが0.8以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記ゴム粒子の平均長径は、200~500nmである、
請求項1~4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、シクロ環を有する(メタ)アクリル酸エステル類、マレイミド類からなる群より選ばれる共重合モノマーに由来する構造単位、および分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の少なくとも一方を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項7】
ガラス転移温度が80℃以上の有機微粒子をさらに含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の光学フィルムを含む、
偏光板保護フィルム。
【請求項9】
ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含み、その幅方向に対して垂直な方向に巻き取られた光学フィルムのロール体であって、
前記光学フィルムの断面において、
前記ゴム粒子の平均アスペクト比は、1.2~3.0であり、
3個以上の前記ゴム粒子の長径同士が、隣り合う前記ゴム粒子の長径同士のなす角度のうち小さいほうの角度θが30°以下をなして連なっており、かつ前記ゴム粒子同士の粒子間距離が100nm以下であり、
前記連なっているゴム粒子の数の、前記光学フィルムに含まれる前記ゴム粒子の総数に対する比率が15%以上である、
光学フィルムのロール体。
【請求項10】
前記ゴム粒子の長径方向は、前記光学フィルムの厚み方向に対して90±15°の範囲内である、
請求項9に記載の光学フィルムのロール体。
【請求項11】
前記ゴム粒子の長径方向は、前記光学フィルムの幅方向に対して0±15°の範囲内である、
請求項9または10に記載の光学フィルムのロール体。
【請求項12】
前記光学フィルムの幅は、2.3m以上であり、
前記光学フィルムの長さは、5000m以上である、
請求項9~11のいずれか一項に記載の光学フィルムのロール体。
【請求項13】
請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、
ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子と、溶媒とを含み、かつ固形分濃度が15質量%以下のドープを得る工程と、
得られた前記ドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して膜状物を得る工程と、
前記膜状物を、20%以上延伸する工程と
を含む、
光学フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ゴム粒子は、架橋重合体を含むコア部と、前記コア部を覆い、前記架橋重合体とは異なる重合体を含むシェル部とを有するコアシェル型の粒子であり、
前記ドープは、前記(メタ)アクリル系樹脂と、前記ゴム粒子と溶媒を含むゴム粒子分散液と、溶媒とを混合して得られ、
前記ゴム粒子分散液に含まれる溶媒は、前記重合体の貧溶媒を含む、
請求項13に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記ゴム粒子は、架橋重合体を含むコア部と、前記コア部を覆い、前記架橋重合体とは異なる重合体を含むシェル部とを有するコアシェル型の粒子であり、
前記(メタ)アクリル系樹脂と前記重合体の溶解性パラメータ(SP値)の差ΔSPが0.8以上である、
請求項13または14に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、偏光板保護フィルム、光学フィルムのロール体、および光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置には、偏光板が用いられている。偏光板は、偏光子と、偏光板保護フィルムとを有する。
【0003】
偏光板保護フィルムとして、従来は、セルロースアシレートを主成分とするフィルムが用いられている。しかしながら、セルロースアシレートを主成分とするフィルムは、耐湿性が低いことから、偏光板にした際に、高温高湿下における偏光子の水分による劣化を十分には抑制できないことがあった。そこで、セルロースアシレートを主成分とするフィルムに代えて、耐湿性に優れる熱可塑性樹脂を主成分とするフィルムを用いることが検討されている。
【0004】
特許文献1では、マレイミド系共重合体樹脂と、それと相溶する高分子鎖を有するゴム状重合体とを含むマレイミド系共重合体樹脂フィルムが開示されている。ゴム状重合体のアスペクト比は2以下であることが示されている。そして、マレイミド系共重合体樹脂単独のフィルムは脆いが、ゴム状重合体を含むことで脆さを改善でき、かつゴム状重合体が樹脂と相溶する高分子鎖を有することで、延伸時に樹脂とゴム状重合体の界面にボイドが形成されることによるフィルムの透明性の低下を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-124435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、偏光板保護フィルムなどの光学フィルムは、通常、長尺状に製膜された後、ロール状に巻き取られて、ロール体として保管・運搬される。長尺状のフィルムの巻き取りは、通常、張力をかけながら行われる。そのため、巻き取られる光学フィルムには、巻き取り張力により、長手方向には伸長する力が掛かりやすく、幅方向には収縮する力が掛かりやすい。それにより、巻き取り直後のロール体の光学フィルムには、長手方向には収縮しようとする力(応力)が生じやすく、幅方向には伸びようとする力(応力)が生じやすい。そして、長手方向に収縮しようとする力(応力)により、巻き締まることによる巻き芯による転写が生じやすく;幅方向に伸びようとする力(応力)により、チェーン状故障を生じることがあった。
【0007】
巻き芯の転写とは、面状欠陥であり、フィルムの長手方向の巻内部(巻き取り初期の巻き芯に近い部分)に形成されやすい。チェーン状故障とは、鎖状欠陥であり、フィルムの幅方向の全体に形成されやすい。
【0008】
これらの巻き芯の転写やチェーン状故障を少なくするためには、巻き取り直後の光学フィルムに残留する応力を、ゴム粒子によって効果的に緩和できることが望まれる。ゴム粒子によって応力を効果的に緩和するためには、ゴム粒子の粒子径は大きいことが望まれる。しかしながら、ゴム粒子の粒子径を大きくしすぎると、フィルムのヘイズが増大し、透明性が損なわれやすい。したがって、光学フィルムのヘイズを増大させることなく、すなわち、ゴム粒子の粒子径を大幅に大きくしなくても、巻き芯の転写やチェーン状故障などの巻き状故障を抑制できることが望まれている。
【0009】
特に、表示装置の大型化や薄型化に伴い、偏光板保護フィルムなどの光学フィルムの広幅化や薄型化が求められている。このような広幅化かつ薄型化された光学フィルムにおいて、巻き状故障が特に生じやすかった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、(メタ)アクリル系樹脂を主成分とするフィルムであって、透明性を損なうことなく、脆性が良好に改善され、かつ巻き状故障を抑制できる光学フィルム、偏光板保護フィルム、光学フィルムのロール体および光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0012】
本発明の光学フィルムは、ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含み、前記光学フィルムの断面において、前記ゴム粒子の平均アスペクト比は、1.2~3.0であり、3個以上の前記ゴム粒子の長径同士がその長径方向に連なっており、かつ連なっている前記ゴム粒子の粒子間距離が100nm以下であり、前記連なっているゴム粒子の数の、前記光学フィルムに含まれる前記ゴム粒子の総数に対する比率が15%以上である。
【0013】
本発明の偏光板保護フィルムは、本発明の光学フィルムを含む。
【0014】
本発明の光学フィルムのロール体は、ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含み、その幅方向に対して垂直な方向に巻き取られた光学フィルムのロール体であって、前記光学フィルムの断面において、前記ゴム粒子の平均アスペクト比は、1.2~3.0であり、3個以上の前記ゴム粒子の長径同士がその長径方向に連なっており、かつ前記ゴム粒子同士の粒子間距離が100nm以下であり、前記連なっているゴム粒子の数の、前記光学フィルムに含まれる前記ゴム粒子の総数に対する比率が15%以上である。
【0015】
本発明の光学フィルムの製造方法は、ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子と、溶媒とを含み、かつ固形分濃度が15質量%以下のドープを得る工程と、得られた前記ドープを支持体上に流延した後、乾燥および剥離して膜状物を得る工程と、前記膜状物を、20%以上延伸する工程とを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透明性を損なうことなく、脆性が良好に改善され、かつ巻き状故障を抑制できる光学フィルム、光学フィルムのロール体および光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、光学フィルムの断面における、ゴム粒子の分散状態を説明する断面模式図である。
図2図2Aは、図1の点線2Aで囲まれた領域の拡大図であり、図2Bは、図1の点線2Bで囲まれた領域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含み、かつ当該ゴム粒子が、特定の分散構造で分散した光学フィルムは、透明性を損なうことなく、脆性が良好に改善され、かつ巻き状故障を抑制できることを見出した。
【0019】
特定の分散構造とは、具体的には、光学フィルムの断面において、以下の1)と2)を満たすような分散構造をいう。
1)ゴム粒子の平均アスペクト比が、1.2~3.0であること
2)3個以上のゴム粒子の長径同士がその長径方向に連なっており、かつ連なっているゴム粒子の粒子間距離が100nm以下であり、かつ
当該連なっているゴム粒子の数の、光学フィルムに含まれるゴム粒子の総数に対する比率(以下、「近接比率」ともいう)が15%以上であること
【0020】
すなわち、ゴム粒子の平均アスペクト比が一定以上であると(上記1)の要件)、延伸によって引き伸ばされたゴム粒子は不安定であるため、安定な元の形状(真球状)に戻ろうとする復元力を生じやすい。それにより、巻き取り直後の光学フィルムに残留する応力を、扁平形状のゴム粒子が当該復元力によって吸収し、緩和することができる。
なお、ゴム粒子の復元力による巻き状故障の抑制効果は、フィルムの伸縮方向と、それを抑制するためのゴムの伸縮方向(復元力の方向)とが必ずしも一致していなくても得られる。これは、フィルムに何らかの力が働いたときにゴム粒子がその力を吸収して復元力に変換(例えば厚み方向の復元)することで効果を発揮するためであると考えられる。
【0021】
また、3個以上のゴム粒子がその長径方向に近接して連なった構造が適度に含まれることで(上記2)の要件)、巻き取り直後の光学フィルムに残留する応力を良好に分散させながら緩和することができる。特に、長尺かつ広幅のフィルムでは、光学フィルムに残留する応力(伸縮力)が増加傾向にあり、ゴム粒子が単一で均一分散している場合は、局所的には光学フィルムに残留する応力(伸縮力)を吸収しきれないことがあるが;複数のゴム粒子が近接している場合は、長手方向、幅手方向によらず、相対的に大粒径のゴム粒子と同様に光学フィルムに残留する応力(伸縮力)を吸収できる。
これらの作用により、ゴム粒子の平均長径を大きくしなくても、巻き取り直後の光学フィルムに残留する応力(伸縮力)を、ゴム粒子によって効果的に緩和できると考えられる。
【0022】
また、3個以上のゴム粒子がその長径方向に近接して連なった構造が適度に含まれることで(上記2)の要件)、粒子径の大きな単一粒子よりも、高度に応力を分散させることができるため、光学フィルムの脆性も高度に改善しうる。
【0023】
上記1)の要件は、例えば溶液流延方式による製膜時のドープの固形分濃度や、延伸条件(特に延伸倍率)によって調整することができる。ゴム粒子の平均アスペクト比を高めるためには、例えばドープの固形分濃度は低くすることが好ましく、延伸倍率は高くすることが好ましい。
【0024】
上記2)の要件は、例えば(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)や、(メタ)アクリル系樹脂とゴム粒子の親和性(ΔSPなど)、製膜時のドープの固形分濃度、ゴム粒子分散液の分散溶媒の組成、延伸倍率などによって調整することができる。ゴム粒子の近接比率を高めるためには、例えば(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は110℃以上と高くすることが好ましく、(メタ)アクリル系樹脂とゴム粒子の親和性(ΔSPなど)は適度に低くすることが好ましく、ドープの固形分濃度は低くすることが好ましく、ゴム粒子分散液の分散溶媒に貧溶媒を添加することが好ましく、延伸倍率は高くすることが好ましい。
【0025】
1.光学フィルム
本発明の光学フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含む。
【0026】
1-1.(メタ)アクリル系樹脂
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110℃以上であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)が110℃以上であると、同じ延伸温度では、ガラス転移温度(Tg)が低い(メタ)アクリル系樹脂よりも動きにくいため、ゴム粒子も動きにくくしうる。それにより、ゴム粒子が過度に拡散しすぎないため、適度に近接させることができる。(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、上記観点から、120~160℃であることが好ましく、125~150℃であることがより好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012に準拠して測定することができる。
【0028】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、モノマーの種類および組成によって調整することができる。(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めるためには、例えば後述する嵩高い構造を有する共重合モノマーの含有比率を多くすることが好ましい。
【0029】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、(メタ)アクリル酸エステルとそれと共重合可能な共重合モノマーとの共重合体であってもよい。なお、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸メチルであることが好ましい。
【0030】
すなわち、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含み、メタクリル酸メチル以外の共重合モノマー(以下、単に「共重合モノマー」という)に由来する構造単位をさらに含むことが好ましい。
【0031】
共重合モノマーの例には、
アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラクトンなどのアルキル基の炭素数が1~20のアクリル酸エステルまたはアルキル基の炭素数が2~20のメタクリル酸エステル類;
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル類;
ビニルシクロヘキサンなどの脂環式ビニル類;
(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリロニトリル-スチレン共重合体などの不飽和ニトリル類;
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステルなどの不飽和カルボン酸類;
酢酸ビニル、エチレンやプロピレンなどのオレフィン類;
塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;
(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、プロピル(メタ)アクリルアミド、ブチル(メタ)アクリルアミド、tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、フェニル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;
(メタ)アクリル酸グリシジルなどの不飽和グリシジル類;
N-フェニルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミドなどのマレイミド類が含まれる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
中でも、光学フィルムのガラス転移温度(Tg)を高めつつ、ゴム粒子との親和性を適度に低くする観点などから、嵩高い構造を有する共重合モノマーが好ましい。
【0033】
嵩高い構造を有する共重合モノマーの例には、
(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどのシクロ環を有する(メタ)アクリル酸エステル;ビニルシクロヘキサンなどのシクロ環を有するビニル類;およびN-フェニルマレイミドなどのマレイミド類からなる群より選ばれる共重合モノマー;
(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどの共重合モノマーが含まれる。
中でも、嵩高い構造を有する共重合モノマーは、シクロ環を有する(メタ)アクリル酸エステル類、マレイミド類からなる群より選ばれる共重合モノマー、分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、およびそれらの組み合わせであることが好ましく、シクロ環を有する(メタ)アクリル酸エステル類、マレイミド類からなる群より選ばれる共重合モノマーであることがより好ましい。
【0034】
共重合モノマーに由来する構造単位の含有量(好ましくは嵩高い構造を有する共重合モノマーに由来する構造単位の含有量)は、(メタ)アクリル系樹脂を構成する構造単位の合計100質量%に対して0~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のモノマーの種類や組成は、H-NMRにより特定することができる。
【0035】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば20万~200万であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量Mwが上記範囲であると、フィルムに十分な機械的強度(靱性)を付与しつつ、製膜性も損なわれにくい。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量Mwは、上記観点から、30万~200万であることがより好ましく、50万~200万であることがさらに好ましい。重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定することができる。
【0036】
1-2.ゴム粒子
ゴム粒子は、光学フィルムに柔軟性や靱性を付与しつつ、光学フィルムの表面に凹凸を形成して滑り性を付与する機能を有しうる。
【0037】
1-2-1.ゴム粒子の形状について
光学フィルムの断面を観察したときのゴム粒子の平均アスペクト比は、1.2~3.0であることが好ましい。ゴム粒子の平均アスペクト比が1.2以上であると、ゴム粒子の延伸張力に対する応力(縮もうとする力)が巻き取り直後の光学フィルムに加わりやすため、光学フィルムに残留する応力を緩和しやすく、巻き状故障を抑制することができる。ゴム粒子の平均アスペクト比が3.0以下であると、近接するゴム粒子同士の接点が少なくなりすぎないため、光学フィルムに残留する応力を分散させる効果が損なわれにくく、巻き状故障を抑制することができる。ゴム粒子の平均アスペクト比は、1.5~2.8であることがより好ましく、2.0~2.5であることがさらに好ましい。
【0038】
アスペクト比とは、ゴム粒子の長径の短径に対する比(長径/短径)を意味する。また、平均アスペクト比とは、複数のゴム粒子のアスペクト比の平均値を意味する。
【0039】
ゴム粒子の長径は、後述するTEM画像において、ゴム粒子が外接する長方形の長手方向の長さ(長辺の長さ)として測定することができる。ゴム粒子の短径は、後述するTEM画像において、ゴム粒子が外接する長方形の短手方向の長さ(短辺の長さ)として測定することができる。
【0040】
ゴム粒子の平均長径は、200~500nmであることが好ましい。ゴム粒子の平均長径が200nm以上であると、ゴム粒子の延伸張力に対する応力(縮もうとする力)が巻き取り直後の光学フィルムに加わりやすため、巻き状故障を十分に抑制しやすい。ゴム粒子の平均長径が500nm以下であると、近接するゴム粒子同士の接点が少なくなりすぎないため、応力を分散させる効果が損なわれにくく、巻き状故障を十分に抑制しやすい。ゴム粒子の平均長径は、220~400nmであることがより好ましく、250~350nmであることがさらに好ましい。ゴム粒子の平均長径は、ゴム粒子の長径の平均値である。
【0041】
ゴム粒子の平均アスペクト比と平均長径は、以下の方法で算出することができる。
1)光学フィルムの断面(光学フィルムの厚み方向に沿った断面のうち、面内遅相軸と平行な断面)をTEM観察する。観察領域は、光学フィルムの厚みに相当する領域としてもよいし、5μm×5μmの領域としてもよい。光学フィルムの厚みに相当する領域を観察領域とする場合、測定箇所は1箇所としうる。5μm×5μmの領域を観察領域とする場合、測定箇所は4箇所としうる。
2)得られたTEM画像における各ゴム粒子の長径、短径を測定し、アスペクト比をそれぞれ算出する。複数のゴム粒子から得られたアスペクト比の平均値を「平均アスペクト比」とし、複数のゴム粒子から得られた長径の平均値を「平均長径」とする。
【0042】
ゴム粒子の平均アスペクト比や平均長径は、光学フィルムの製膜条件や延伸条件によって調整することができる。ゴム粒子の平均アスペクト比や平均長径を大きくするためには、例えば光学フィルムの製膜時のドープ濃度を低くしたり、延伸倍率を高くしたりすることが好ましい。
【0043】
ゴム粒子の平均アスペクト比が、延伸によって調整されたものであるかどうかは、連なっているゴム粒子の数の比率が15%以上であること(上記2)の要件)によって確認することができる。つまり、延伸前から扁平なゴム粒子を用いた場合は、製膜過程で、ゴム粒子同士が近接しにくいだけでなく、近接したとしても、ゴム粒子の短径方向に連なるものも一定量以上含まれると考えられるからである。
【0044】
1-2-2.ゴム粒子の分散構造について
光学フィルムは、3個以上のゴム粒子の長径同士がその長径方向に近接して連なった分散構造を含む。具体的には、光学フィルムの断面において、3個以上のゴム粒子が、その長径方向に連なっており、かつ連なっているゴム粒子の粒子間距離が100nm以下である、分散構造が観察される。
【0045】
図1は、光学フィルムの断面における、ゴム粒子の分散状態を説明する断面模式図である。図2Aは、図1の点線2Aで囲まれた領域の拡大図であり、図2Bは、図1の点線2Bで囲まれた領域の拡大図である。図1において、X方向は、例えば光学フィルムの面内遅相軸方向であり、Y方向は、光学フィルムの厚み方向である。また、図2Aにおいて、LAは、ゴム粒子の長径を含む仮想線を示す。
【0046】
図1に示されるように、光学フィルム100の断面において、複数のゴム粒子120は、(メタ)アクリル系樹脂を主成分とするマトリクス110中に、特定の分散構造をなして分散している。
【0047】
図2Aは、4個のゴム粒子が、その長径方向に所定の間隔で連なった状態を示している。図2Bは、3個のゴム粒子が、その長径方向に一部が互いに重なりながら連なった状態を示している。図2AおよびBは、いずれも上記特定の分散構造の例である。
【0048】
「ゴム粒子の長径同士が、その長径方向に連なっている」とは、具体的には、隣り合うゴム粒子の長径同士のなす角度(図2Aでは、長径を含む仮想線LA同士のなす角度)のうち小さいほうの角度θが、30°以下(好ましくは10°以下)をなして連なっていることをいう。なお、隣り合うゴム粒子の長径同士のなす角度が0°である例には、隣り合うゴム粒子の長径同士が一直線上に並ぶ態様だけでなく、図2Bに示されるように、長径同士が一部互いに重なりながら連なった態様も含まれる。
【0049】
「粒子間距離が100nm以下である」とは、隣り合うゴム粒子同士の最小間隔が100nm以下であることをいう(図2Aおよび図2Bのdを参照)。隣り合うゴム粒子同士の最小間隔は、TEM画像を画像解析することによって特定することができる。
【0050】
そして、連なっているゴム粒子の数(特定の分散構造を構成するゴム粒子の数)の、光学フィルムに含まれるゴム粒子の総数に対する比率(近接比率)は、15%以上であることが好ましい。近接比率が15%以上であると、近接した複数のゴム粒子の割合が多いため、応力を分散させやすい。一方、近接比率が70%以下であると、光学フィルムのヘイズが増大しにくい。近接比率は、20~60%であることがより好ましく、25~50%であることがさらに好ましく、30~50%であることが特に好ましい。
【0051】
例えば、ゴム粒子の総数10個のうち、ゴム粒子が4個連なっている構造(例えば図2Aなどを参照)と、3個連なっている構造(例えば図2Bなどを参照)があり、残りの3個のゴム粒子は連なっていない場合、近接比率は、(4+3)/10×100(%)=70%となる。
【0052】
ゴム粒子の長径方向は、光学フィルムの厚み方向に対して略垂直であることが好ましい。略垂直とは、90±15°の範囲をいう。また、巻き取り後の光学フィルムの巻き状故障をより抑制しやすくする観点では、ゴム粒子の長径方向は、光学フィルムの面内遅相軸に対して略平行であることが好ましい。略平行とは、0±15°の範囲をいう。
【0053】
1-2-3.ゴム粒子の組成・構成について
ゴム粒子は、ゴム状重合体(架橋重合体)を含むグラフト共重合体、すなわち、ゴム状重合体(架橋重合体)からなるコア部と、それを覆うシェル部とを有するコアシェル型のゴム粒子であることが好ましい。
【0054】
ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、-10℃以下であることが好ましい。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)が-10℃以下であると、フィルムに十分な靱性を付与しやすい。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、-15℃以下であることがより好ましく、-20℃以下であることがさらに好ましい。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、前述と同様の方法で測定される。
【0055】
ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、例えば構成するモノマー組成などによって調整することができる。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)を低くするためには、後述するように、例えばゴム状重合体を構成するモノマー混合物における、アルキル基の炭素数が4以上のアクリル酸エステル/メタクリル酸メチルの質量比を多くする(例えば3以上、好ましくは4以上10以下とする)ことが好ましい。
【0056】
ゴム状重合体は、例えばガラス転移温度が上記範囲内となるものであればよく、特に限定されないが、その例には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、およびオルガノシロキサン系架橋重合体が含まれる。中でも、(メタ)アクリル系樹脂との屈折率差が小さく、光学フィルムの透明性が損なわれにくい観点では、(メタ)アクリル系架橋重合体が好ましく、アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)がより好ましい。
【0057】
すなわち、ゴム粒子は、アクリル系ゴム状重合体(a)を含むアクリル系グラフト共重合体、すなわち、アクリル系ゴム状重合体(a)を含むコア部と、それを覆うシェル部とを有するコアシェル型の粒子であることが好ましい。当該コアシェル型の粒子は、アクリル系ゴム状重合体(a)の存在下で、メタクリル酸エステルを主成分とするモノマー混合物(b)を少なくとも1段以上重合して得られる多段重合体(または多層構造重合体)である。重合は、乳化重合法で行うことができる。
【0058】
(コア部:アクリル系ゴム状重合体(a)について)
アクリル系ゴム状重合体(a)は、アクリル酸エステルを主成分とする架橋重合体である。アクリル系ゴム状重合体(a)は、アクリル酸エステルを50~100質量%と、それと共重合可能な他のモノマー50~0質量%とを含むモノマー混合物(a’)、および、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性モノマー0.05~10質量部(モノマー混合物(a’)100質量部に対して)を重合させて得られる架橋重合体である。当該架橋重合体は、これらのモノマーを全部混合して重合させて得てもよいし、モノマー組成を変化させて2回以上で重合させて得てもよい。
【0059】
アクリル系ゴム状重合体(a)を構成するアクリル酸エステルは、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルなどのアルキル基の炭素数1~12のアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。アクリル酸エステルは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。ゴム粒子のガラス転移温度を-10℃以下にする観点では、アクリル酸エステルは、少なくとも、炭素数4~10のアクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。
【0060】
アクリル酸エステルの含有量は、モノマー混合物(a’)100質量%に対して50~100質量%であることが好ましく、60~99質量%であることがより好ましく、70~99質量%であることがさらに好ましい。アクリル酸エステルの含有量が50重量%以上であると、フィルムに十分な靱性を付与しやすい。
【0061】
また、アクリル系ゴム状重合体(a)のガラス転移温度を-10℃以下にしやすくする観点では、アルキル基の炭素数が4以上のアクリル酸アルキルエステル/モノマー混合物(a’)の質量比は3以上とすることが好ましく、4以上10以下であることがより好ましい。
【0062】
共重合可能なモノマーの例には、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル;スチレン、メチルスチレンなどのスチレン類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類なども含まれる。
【0063】
多官能性モノマーの例には、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチルロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトロメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0064】
多官能性モノマーの含有量は、モノマー混合物(a’)の合計100質量%に対して0.05~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。多官能性モノマーの含有量が0.05質量%以上であると、得られるアクリル系ゴム状重合体(a)の架橋度を高めやすいため、得られるフィルムの硬度、剛性が損なわれすぎず、10質量%以下であると、フィルムの靱性が損なわれにくい。
【0065】
(シェル部:モノマー混合物(b)について)
モノマー混合物(b)は、アクリル系ゴム状重合体(a)に対するグラフト成分であり、シェル部を構成する。モノマー混合物(b)は、メタアクリル酸エステルを主成分として含むことが好ましい。
【0066】
モノマー混合物(b)を構成するメタクリル酸エステルは、メタクリル酸メチルなどのアルキル基の炭素数1~12のメタクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。メタクリル酸エステルは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0067】
メタクリル酸エステルの含有量は、モノマー混合物(b)100質量%に対して50質量%以上であることが好ましい。メタクリル酸エステルの含有量が50質量%以上であると、得られるフィルムの硬度、剛性を低下させにくくしうる。(メタ)アクリル系樹脂とゴム粒子の親和性を低くする(ΔSPを大きくする)観点では、メタクリル酸エステルの含有量は、モノマー混合物(b)100質量%に対して70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0068】
モノマー混合物(b)は、必要に応じて他のモノマーをさらに含んでもよい。他のモノマーの例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルなどのアクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルなどの脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリル系モノマー類(環構造含有(メタ)アクリル系モノマー)が含まれる。
【0069】
(コアシェル型のゴム粒子:アクリル系グラフト共重合体について)
コアシェル型のゴム粒子の例には、(メタ)アクリル系ゴム状重合体(a)としてのアクリル系ゴム状重合体5~90質量部(好ましくは5~75質量部)の存在下で、メタクリル酸エステルを主成分とするモノマー混合物(b)95~25質量部を少なくとも1段階で重合させた重合体が含まれる。
【0070】
アクリル系グラフト共重合体は、必要に応じて、アクリル系ゴム状重合体(a)の内側に硬質重合体をさらに含んでもよい。そのようなアクリル系グラフト共重合体は、以下の(I)~(III)の重合工程を経て得ることができる。
(I)メタクリル酸エステル40~100質量%と、これと共重合可能な他のモノマー60~0質量%からなるモノマー混合物(c1)、および多官能性モノマー0.01~10質量部(モノマー混合物(c1)の合計100質量部に対して)を重合して硬質重合体を得る工程
(II)アクリル酸エステル60~100質量%と、これと共重合可能な他のモノマー0~40質量%からなるモノマー混合物(a1)、および多官能性モノマー0.1~5質量部(モノマー混合物(a1)の合計100質量部に対して)を重合して軟質重合体を得る工程
(III)メタクリル酸エステル60~100質量%と、これと共重合可能な他のモノマー40~0質量%からなるモノマー混合物(b1)、および多官能性モノマー0~10質量部(モノマー混合物(b1)の合計100質量部に対して)を重合して硬質重合体を得る工程
【0071】
(I)~(III)の各重合工程の間に、他の重合工程がさらに含まれてもよい。
【0072】
アクリル系グラフト共重合体は、さらに(IV)の重合工程を経て得られてもよい。
(IV)メタクリル酸エステル40~100質量%、アクリル酸エステル0~60質量%、および共重合可能な他のモノマー0~5質量%からなるモノマー混合物(b2)、ならびに多官能性モノマー0~10質量部(モノマー混合物(b2)100質量部に対して)を重合して硬質重合体を得る。
【0073】
各工程で用いられるメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、共重合可能な他のモノマー、および多官能性モノマーは、前述と同様のものを用いることができる。
【0074】
軟質層は、光学フィルムに衝撃吸収性を付与しうる。軟質層の例には、アクリル酸エステルを主成分とするアクリル系ゴム状重合体(a)からなる層が含まれる。硬質層は、光学フィルムの靱性を損ないにくくし、かつゴム粒子の製造時に、粒子の粗大化や塊状化を抑制しうる。硬質層の例には、メタクリル酸エステルを主成分とする重合体からなる層が含まれる。
【0075】
アクリル系グラフト共重合体のグラフト率(アクリル系ゴム状重合体(a)に対するグラフト成分(シェル部)の質量比)は、10~250%であることが好ましく、40~230%であることがより好ましく、60~220%であることがさらに好ましい。グラフト率が10%以上であると、シェル部の割合が少なくなりすぎないため、フィルムの硬度や剛性が損なわれにくい。アクリル系グラフト共重合体のグラフト率が250%以下であると、アクリル系ゴム状重合体(a)の割合が少なくなりすぎないため、フィルムの靱性や脆性改善効果が損なわれにくい。
【0076】
アクリル系グラフト共重合体のグラフト率は、以下の方法で測定される。
1)アクリル系グラフト共重合体2gを、メチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpm、温度12℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する(遠心分離作業を合計3回セット)。
2)得られた不溶分の重量を下記式に当てはめて、グラフト率を算出する。
グラフト率(%)=[{(メチルエチルケトン不溶分の重量)-(アクリル系ゴム状重合体(a)の重量)}/(アクリル系ゴム状重合体(a)の重量)]×100
【0077】
光学フィルムにおいて、ゴム粒子を適度に近接させるためには、ゴム粒子の種類(具体的にはシェル部のモノマー組成)と、(メタ)アクリル系樹脂の種類との組み合わせを調整することが好ましい。
【0078】
ゴム粒子を構成するシェル部の溶解度パラメータ(Solubility Parameter;SP値)をSP2、(メタ)アクリル系樹脂のSP値をSP1としたとき、ΔSP=|SP1-SP2|は、0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。ΔSPの上限値は、例えば5でありうる。
【0079】
SP値は、市販のシミュレーションソフト「Material Studios Forcite」(ダッソー・システムズ社製)において、それぞれの化合物の構造を入力することによって算出される値を採用する。
【0080】
ΔSPは、ゴム粒子のシェル部の組成と、(メタ)アクリル系樹脂の組成との組み合わせによって調整することができる。ΔSPを一定以上とするためには、例えばシェル部を構成するモノマー混合物(b)中のメタクリル酸メチル(MMA)の含有量を多くし、かつ(メタ)アクリル系樹脂を構成するモノマー組成を、嵩高い構造を有する共重合モノマーの含有量を多くすることが好ましい。
【0081】
ゴム粒子の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂に対して5~20質量%であることが好ましい。ゴム粒子の含有量が5質量%以上であると、(メタ)アクリル系樹脂フィルムに十分な柔軟性や靱性を付与しやすいだけでなく、表面に凹凸を形成して滑り性も付与しうる。ゴム粒子の含有量が20質量%以下であると、ヘイズが上昇しすぎない。ゴム粒子の含有量は、上記観点から、(メタ)アクリル系樹脂に対して5~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。
【0082】
1-3.有機微粒子
本発明の光学フィルムは、光学フィルムの滑り性をさらに高めつつ、フィルムの表層部にゴム粒子をより偏在させやすくする観点などから、有機微粒子をさらに含むことが好ましい。
【0083】
有機微粒子は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の粒子であることが好ましい。有機微粒子のガラス転移温度が80℃以上であると、光学フィルムの表面に適度な硬度の凹凸を形成しやすいため、滑り性を高めやすい。有機微粒子のガラス転移温度は、100℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度は、前述と同様の方法で測定される。
【0084】
有機微粒子のガラス転移温度(Tg)は、有機微粒子を構成するモノマー組成によって調整されうる。有機微粒子のガラス転移温度(Tg)を高くするためには、例えば後述する多官能モノマーに由来する構造単位の含有量を多くすることが好ましい。
【0085】
有機微粒子を構成する樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が上記範囲となるようなものであればよく、その例には、(メタ)アクリル酸エステル類、イタコン酸ジエステル類、マレイン酸ジエステル類、ビニルエステル類、オレフィン類、スチレン類、(メタ)アクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルケトン類、不飽和ニトリル類、不飽和カルボン酸類、および多官能モノマー類からなる群より選ばれる1以上に由来する構造単位を含む重合体や、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリフェニレンスルフィドなどが含まれる。
【0086】
上記重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル類、オレフィン類、スチレン類、(メタ)アクリルアミド類、不飽和ニトリル類、不飽和カルボン酸類および多官能モノマー類は、上記(メタ)アクリル系樹脂や上記アクリル系ゴム状重合体(a)を構成するモノマーとして挙げたものと同様のものを用いることができる。イタコン酸ジエステル類の例には、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジプロピルが含まれる。マレイン酸ジエステル類の例には、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピルが含まれる。ビニルエステル類の例には、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルフェニルアセテート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニルが含まれる。アリル化合物の例には、酢酸アリル、カプロン酸アリル、ラウリン酸アリル、安息香酸アリルなどが含まれる。ビニルエーテル類の例には、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテルなどが含まれる。ビニルケトン類の例には、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトンなどが含まれる。
【0087】
中でも、(メタ)アクリル系樹脂との親和性が高く、応力に対する柔軟性があり、かつガラス転移温度を上記範囲に調整しやすい観点などから、(メタ)アクリル酸エステル類、ビニルエステル類、スチレン類、オレフィン類からなる群より選ばれる1以上に由来する構造単位と、多官能モノマー類に由来する構造単位とを含む共重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル類に由来する構造単位と、多官能モノマー類に由来する構造単位とを含む共重合体がより好ましく、(メタ)アクリル酸エステル類に由来する構造単位と、スチレン類に由来する構造単位と、多官能モノマー類に由来する構造単位とを含む共重合体がさらに好ましい。
【0088】
有機微粒子が、多官能モノマーに由来する構造単位を含む場合、有機微粒子における多官能モノマーに由来する構造単位の含有量は、通常、ゴム粒子における多官能モノマーに由来する構造単位の含有量よりも多い。例えば、多官能モノマーに由来する構造単位の含有量は、上記共重合体を構成する多官能モノマー以外のモノマーに由来する構造単位の合計100質量%に対して、例えば50~500質量%でありうる。
【0089】
このような重合体からなる粒子(重合体粒子)は、任意の方法、例えば乳化重合、懸濁重合、分散重合、シード重合などの方法により製造されうる。中でも、粒子径が揃った重合体粒子が得られやすい観点などから、水性媒体下でのシード重合や乳化重合が好ましい。
【0090】
重合体粒子の製造方法としては、例えば、
・単量体混合物を水性媒体に分散させた後、重合させる1段重合法、
・単量体を水性媒体中で重合させることで種粒子を得た後、単量体混合物を種粒子に吸収させた後、重合させる2段重合法、
・2段重合法の種粒子を製造する工程を繰り返す多段重合法などが挙げられる。これらの重合法は、重合体粒子の所望する平均粒子径に応じて適宜選択できる。なお、種粒子を製造するための単量体は、特に限定されず、重合体粒子用の単量体をいずれも使用できる。
【0091】
有機微粒子は、コアシェル型の粒子であってもよい。そのような有機微粒子は、例えば(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体あるいは共重合体を含む低Tgのコア部と、高Tgのシェル部とを有する粒子などでありうる。
【0092】
有機微粒子と(メタ)アクリル系樹脂との屈折率差の絶対値Δnは、得られるフィルムのヘイズ上昇を高度に抑制する観点では、0.1以下であることが好ましく、0.085以下であることがより好ましく、0.065以下であることがさらに好ましい。
【0093】
有機微粒子の平均粒子径は、0.04~2μmであることが好ましく、0.08~1μmであることがより好ましい。有機微粒子の平均粒子径が0.04μm以上であると、得られるフィルムに十分な滑り性を付与しやすい。有機微粒子の平均粒子径が2μm以下であると、ヘイズの上昇を抑制しやすい。
【0094】
有機微粒子の平均粒子径は、以下の点以外は、ゴム粒子の平均粒子径と同様の方法で測定することができる。すなわち、有機微粒子の平均粒子径は、フィルム断面のTEM観察によって得られる有機微粒子100個の円相当径の平均値として特定される。円相当径は、撮影によって得られた粒子の投影面積を、同じ面積を持つ円の直径に換算することによって求めることができる。なお、分散液での有機微粒子の平均粒子径は、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)で測定することができる。
【0095】
有機微粒子の平均粒子径は、凝集性の粒子であれば、凝集体の平均大きさ(平均二次粒径)を意味し、非凝集性の粒子であれば、一粒子のサイズを測定した平均値を意味する。
【0096】
有機微粒子の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂に対して0.03~1.5質量%であることが好ましい。有機微粒子の含有量が0.03質量%以上であると、光学フィルムに十分な滑り性を付与しうる。有機微粒子の含有量が1.5質量%以下であると、ヘイズの上昇を抑制しやすい。微粒子の含有量は、0.05~1.0質量%であることがより好ましく、0.08~0.7質量%であることがさらに好ましい。
【0097】
1-4.その他の成分
本発明の光学フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分の例には、残留溶媒や紫外線吸収剤、酸化防止剤などが含まれる。
【0098】
例えば、本発明の光学フィルムは、後述するように溶液流延方式により製造されることから、溶液流延方式で用いられるドープの溶媒に由来する残留溶媒を含んでいてもよい。
【0099】
残留溶媒量は、光学フィルムに対して700ppm以下であることが好ましく、30~700ppmであることがより好ましい。残留溶媒の含有量は、後述する光学フィルムの製造工程における、支持体上に流延させたドープの乾燥条件によって調整されうる。
【0100】
光学フィルムにおける残留溶媒の含有量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより測定することができる。ヘッドスペースガスクロマトグラフィー法では、試料を容器に封入し、加熱し、容器中に揮発成分が充満した状態で速やかに容器中のガスをガスクロマトグラフに注入し、質量分析を行って化合物の同定を行いながら揮発成分を定量するものである。ヘッドスペース法では、ガスクロマトグラフにより、揮発成分の全ピークを観測することを可能にするとともに、電磁気的相互作用を利用した分析法を用いることによって、高精度で揮発性物質やモノマー等を定量をも併せて行うことができる。
【0101】
1-5.物性
(ヘイズ)
本発明の光学フィルムは、透明性が高いことが好ましい。光学フィルムのヘイズは、4.0%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。ヘイズは、試料40mm×80nmを25℃、60%RHでヘイズメーター(HGM-2DP、スガ試験機)でJISK-6714に従って測定することができる。
【0102】
(位相差RoおよびRt)
本発明の光学フィルムは、例えばIPS用の位相差フィルムとして用いる観点では、測定波長550nm、23℃55%RHの環境下で測定される面内方向の位相差Roは、0~10nmであることが好ましく、0~5nmであることがより好ましい。本発明の光学フィルムの厚み方向の位相差Rtは、-20~20nmであることが好ましく、-10~10nmであることがより好ましい。
【0103】
RoおよびRtは、それぞれ下記式で定義される。
式(1a):Ro=(nx-ny)×d
式(1b):Rt=((nx+ny)/2-nz)×d(式中、
nxは、フィルムの面内遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率を表し、
nyは、フィルムの面内遅相軸に直交する方向の屈折率を表し、
nzは、フィルムの厚み方向の屈折率を表し、
dは、フィルムの厚み(nm)を表す。)
【0104】
本発明の光学フィルムの面内遅相軸とは、フィルム面において屈折率が最大となる軸をいう。光学フィルムの面内遅相軸は、自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)により確認することができる。面内遅相軸は、通常、延伸倍率が最大となる方向と一致する。
【0105】
RoおよびRtは、以下の方法で測定することができる。
1)本発明の光学フィルムを23℃55%RHの環境下で24時間調湿する。このフィルムの平均屈折率をアッベ屈折計で測定し、厚みdを市販のマイクロメーターを用いて測定する。
2)調湿後のフィルムの、測定波長550nmにおけるリターデーションRoおよびRtを、それぞれ自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)を用いて、23℃55%RHの環境下で測定する。
【0106】
本発明の光学フィルムの位相差RoおよびRtは、例えば(メタ)アクリル系樹脂の種類によって調整することができる。光学フィルムの位相差RoおよびRtを低くするためには、負の複屈折を持つ構造単位と正の複屈折を持つ構造単位で位相差を相殺できるような含有比率であることが好ましい。
【0107】
(厚み)
本発明の光学フィルムの厚みは、例えば5~100μm、好ましくは5~40μmとしうる。
【0108】
2.光学フィルムの製造方法
本発明の光学フィルムは、溶液流延方式(キャスト法)で製造される。すなわち、本発明の光学フィルムは、1)少なくとも前述の(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子と、溶媒とを含むドープを得る工程と、2)得られたドープを支持体上に流延し、乾燥および剥離して、膜状物を得る工程と、3)得られた膜状物を延伸する工程と、4)延伸された膜状物をロール状に巻き取る工程とを経て製造されうる。
【0109】
1)の工程について
前述の(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子と、必要に応じて有機微粒子とを溶媒に溶解または分散させて、ドープを調製する。
【0110】
ドープの調製に用いられるゴム粒子の粒子形状は、特に限定されないが、延伸によって良好な応力緩和作用を発現させやすくする観点では、真球状に近いもの、具体的には、平均アスペクト比が1±0.1であることが好ましい。
【0111】
ドープに用いられる溶媒は、少なくとも(メタ)アクリル系樹脂を溶解させうる有機溶媒(良溶媒)を含む。良溶媒の例には、メチレンクロライドなどの塩素系有機溶媒や;酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフランなどの非塩素系有機溶媒が含まれる。中でも、メチレンクロライドが好ましい。
【0112】
ドープに用いられる溶媒は、貧溶媒をさらに含んでいてもよい。貧溶媒の例には、炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールが含まれる。ドープ中のアルコールの比率が高くなると、膜状物がゲル化しやすく、金属支持体からの剥離が容易になりやすい。炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールを挙げることができる。これらのうちドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいことなどからエタノールが好ましい。
【0113】
ドープの固形分濃度は、特に制限されないが、乾燥による圧縮効果により、得られる光学フィルムにおいて、ゴム粒子を適度に近接させやすくする観点から、低いほうが好ましい。具体的には、ドープの固形分濃度は、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。一方、所定の厚みの膜状物を得やすくする観点では、ドープの固形分濃度の下限値は、例えば9質量%としうる。
【0114】
ドープの調製は、前述の溶媒に、(メタ)アクリル系樹脂、ゴム粒子、および必要に応じて有機微粒子を直接添加し、混合して調製してもよいし;前述の溶媒に(メタ)アクリル系樹脂を溶解させた樹脂溶液、前述の溶媒にゴム粒子を分散させたゴム粒子分散液、および必要に応じて前述の溶媒に有機微粒子を分散させた微粒子分散液をそれぞれ予め調製しておき、それらを混合して調製してもよい。
【0115】
ゴム粒子分散液に含まれる溶媒は、得られる光学フィルムにおいて、ゴム粒子を適度に近接させやすくする観点では、ゴム粒子との親和性が低い溶媒を含むことが好ましい。そのような溶媒の例には、前述の貧溶媒、例えば、炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールが含まれる。当該貧溶媒の含有量は、ゴム粒子分散液に含まれる溶媒全体に対して2~16質量%であることが好ましく、4~16質量%であることがより好ましい。
【0116】
有機微粒子の添加方法は、特に制限されず、有機微粒子を個別に溶媒に添加してもよいし、有機微粒子の集合体として溶媒に添加してもよい。有機微粒子の集合体は、相互の連結(融着)が抑制された複数の有機微粒子の集合体からなる。そのため、取り扱い性に優れ、(メタ)アクリル系樹脂や溶媒に、有機微粒子の集合体を分散させれば、容易に有機微粒子に別れるため、有機微粒子の分散性を良好としうる。有機微粒子の集合体は、例えば、有機微粒子と、無機粉末とを含むスラリーを噴霧乾燥させることによって得ることができる。
【0117】
2)の工程について
得られたドープを、支持体上に流延する。ドープの流延は、流延ダイから吐出させて行うことができる。
【0118】
次いで、支持体上に流延されたドープ中の溶媒を蒸発させ、乾燥させる。乾燥されたドープを支持体から剥離して、膜状物を得る。
【0119】
支持体から剥離する際のドープの残留溶媒量(剥離時の膜状物の残留溶媒量)は、得られる(メタ)アクリル系樹脂フィルムの位相差を低減しやすくする点では、10~150質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。剥離時の残留溶媒量が10質量%以上であると、乾燥または延伸時に、(メタ)アクリル系樹脂が流動しやすく、無配向にしやすいため、得られる(メタ)アクリル系樹脂フィルムの位相差を低減しやすい。剥離時の残留溶媒量が150質量%以下であると、ドープを剥離する際に要する力が過剰に大きくなりにくいので、ドープの破断を抑制しやすい。
【0120】
剥離時のドープの残留溶媒量は、下記式で定義される。以下においても同様である。
ドープの残留溶媒量(質量%)=(ドープの加熱処理前質量-ドープの加熱処理後質量)/ドープの加熱処理後質量×100
なお、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、140℃30分の加熱処理をいう。
【0121】
剥離時の残留溶媒量は、支持体上でのドープの乾燥温度や乾燥時間、支持体の温度などによって調整することができる。
【0122】
3)の工程について
剥離して得られた膜状物を、乾燥させながら延伸する。
【0123】
延伸は、求められる光学特性に応じて行えばよく、少なくとも一方の方向(例えば、膜状物の幅方向(TD方向))に延伸することが好ましく、互いに直交する二方向に延伸(例えば、膜状物の幅方向(TD方向)と、それと直交する搬送方向(MD方向)の二軸延伸)してもよい。
【0124】
延伸倍率は、ゴム粒子の平均アスペクト比が上記範囲内となるように設定されればよく、例えば20~200%であることが好ましく、30~100%であることがより好ましく、50~70%であることがさらに好ましい。延伸倍率(%)は、(延伸前後のフィルムの延伸方向の長さの変化量)/(延伸前のフィルムの延伸方向の長さ)×100(%)として定義される。なお、二軸延伸を行う場合は、TD方向とMD方向のそれぞれについて、上記延伸倍率とすることが好ましい。
【0125】
なお、光学フィルムの面内遅相軸方向(面内において屈折率が最大となる方向)は、通常、延伸倍率が最大となる方向である。
【0126】
延伸温度(乾燥温度)は、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg-65)℃~(Tg+60)℃であることが好ましく、(Tg-50)℃~(Tg+50)℃であることがより好ましく、(Tg-30)℃~(Tg+50)℃であることがさらに好ましい。延伸温度が(Tg-30)℃以上であると、膜状物を延伸に適した柔らかさにしやすいだけでなく、延伸時に膜状物に加わる張力が大きくなりすぎないので、得られる(メタ)アクリル系樹脂フィルムに過剰な残留応力が残りにくくしうる。延伸温度がTg以下であると、膜状物中の溶媒の気化による気泡の発生などを抑制しやすい。延伸温度は、具体的には、60~220℃としうる。
【0127】
延伸温度は、(a)テンター延伸機などのように非接触加熱型で乾燥させる場合は、延伸機内温度または熱風温度などの雰囲気温度、(b)熱ローラーなどの接触加熱型で乾燥させる場合は、接触加熱部の温度、あるいは(c)膜状物(被乾燥面)の表面温度のいずれかの温度として測定することができる。中でも、(a)テンター延伸機などのように非接触加熱型で乾燥させる場合は、延伸機内温度または熱風温度などの雰囲気温度が好ましい。
【0128】
延伸開始時の膜状物中の残留溶媒量は、例えば5~30質量%であることが好ましい。延伸開始時の残留溶媒量は、前述と同様の方法で測定することができる。
【0129】
膜状物のTD方向(幅方向)の延伸は、例えば膜状物の両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げる方法(テンター法)で行うことができる。膜状物のMD方向の延伸は、例えば複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用する方法(ロール法)で行うことができる。
【0130】
4)の工程について
延伸後に得られた膜状物を、必要に応じてさらに乾燥させながらロール状に巻き取り、光学フィルムのロール体を得る。
【0131】
乾燥温度は、上記3)の工程の延伸温度と同様の範囲に調整されうる。乾燥温度は、上記3)の工程と同様の方法で測定される。(b)熱ローラーなどの接触加熱型で乾燥させる場合は、接触加熱部の温度として測定されることが好ましい。
【0132】
巻き取りは、通常、膜状物のMD方向に張力(巻き取り張力)を掛けながら行う。
【0133】
巻き取り後に得られるロール体において、ゴム粒子の長径方向は、光学フィルムの厚み方向に対して略垂直であることが好ましい。また、巻き取り後の光学フィルムの巻き状故障をより抑制しやすくする観点では、ゴム粒子の長径方向は、光学フィルムの延伸方向(好ましくは幅方向)に対して略平行であることが好ましい。
【0134】
得られるロール体における、光学フィルムの長さ(MD方向の長さ)は、2000~8000mであることが好ましく、5000~7000mであることがより好ましい。光学フィルムの幅(TD方向の長さ)は、1.3~3.0mであることが好ましく、2.3~2.5mであることがより好ましい。
【0135】
前述の通り、巻き取り張力により、巻き取り直後のロール体の光学フィルムには、長手方向に収縮しようとする力(応力)が働き、幅方向に伸びようとする力(応力)が働きやすい。これに対し、本発明の光学フィルムは、平均アスペクト比が一定以上のゴム粒子が適度に近接した構造を有する。それにより、ゴム粒子の粒子径を大きくしなくても、巻き取り後のロール体の光学フィルムは、上記応力を効果的に緩和することができる。それにより、長手方向に収縮しようとする力による巻き芯の転写や、幅方向に伸びようとする力によるチェーン状故障を抑制することができる。したがって、光学フィルムのヘイズを増大させることなく、巻き形状を改善することができる。
【0136】
特に、光学フィルムが長尺であり(MD方向の長さが長く)、かつ広幅(TD方向の長さが長い)であるものほど、巻き状故障が生じやすい。本発明は、そのような光学フィルムのロール体においても、巻き状故障を良好に抑制することができる。
【0137】
得られる光学フィルムは、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの各種表示装置における偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして好ましく用いられる。
【0138】
3.偏光板
本発明の偏光板は、偏光子と、その少なくとも一方の面に配置された本発明の光学フィルムとを有する。
【0139】
3-1.偏光子
偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、ポリビニルアルコール系偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
【0140】
ポリビニルアルコール系偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後、ヨウ素または二色性染料で染色したフィルム(好ましくはさらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよいし;ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素または二色性染料で染色した後、一軸延伸したフィルム(好ましくは、さらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよい。偏光子の吸収軸は、通常、最大延伸方向と平行である。
【0141】
例えば、特開2003-248123号公報、特開2003-342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1~4モル%、重合度2000~4000、けん化度99.0~99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールが用いられる。
【0142】
偏光子の厚みは、5~30μmであることが好ましく、偏光板を薄型化するため等から、5~20μmであることがより好ましい。
【0143】
3-2.他の光学フィルム
本発明の光学フィルムが、偏光子の一方の面のみに配置される場合、他方の面には、他の光学フィルムが配置されうる。なお、光学フィルムおよび他の光学フィルムは、偏光子上に、接着剤層を介して配置されうる。
【0144】
他の光学フィルムの例には、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタックKC8UX、KC5UX、KC4UX、KC8UCR3、KC4SR、KC4BR、KC4CR、KC4DR、KC4FR、KC4KR、KC8UY、KC6UY、KC4UY、KC4UE、KC8UE、KC8UY-HA、KC2UA、KC4UA、KC6UA、KC8UA、KC2UAH、KC4UAH、KC6UAH、以上コニカミノルタ(株)製、フジタックT40UZ、フジタックT60UZ、フジタックT80UZ、フジタックTD80UL、フジタックTD60UL、フジタックTD40UL、フジタックR02、フジタックR06、以上富士フイルム(株)製)などが含まれる。
【0145】
他の光学フィルムの厚みは、偏光板のクラックを抑制する観点では厚いほうが好ましく、例えば5~100μm、好ましくは40~80μmとしうる。
【0146】
3-3.偏光板の製造方法
本発明の偏光板は、偏光子と本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルムを、接着剤を介して貼り合わせて得ることができる。接着剤は、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液(水糊)、または活性エネルギー線硬化性接着剤でありうる。活性エネルギー線硬化性接着剤は、光ラジカル重合を利用した光ラジカル重合型組成物、光カチオン重合を利用した光カチオン重合型組成物、またはそれらの併用物のいずれであってもよい。
【0147】
4.液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、液晶セルの一方の面に配置された第1偏光板と、液晶セルの他方の面に配置された第2偏光板とを含む。
【0148】
液晶セルの表示モードは、例えばSTN(Super-Twisted Nematic)、TN(Twisted Nematic)、OCB(Optically Compensated Bend)、HAN(Hybridaligned Nematic)、VA(Vertical Alignment、MVA(Multi-domain Vertical Alignment)、PVA(Patterned Vertical Alignment))、IPS(In-Plane-Switching)などでありうる。中でも、VA(MVA,PVA)モードおよびIPSモードが好ましい。
【0149】
第1および第2偏光板のうち一方または両方が、本発明の偏光板である。本発明の偏光板は、本発明の光学フィルムが液晶セル側となるように配置されることが好ましい。
【実施例
【0150】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0151】
1.光学フィルムの材料
(1)(メタ)アクリル系樹脂
(メタ)アクリル系樹脂A:メタクリル酸メチル(MMA)/N-フェニルマレイミド(PMI)共重合体(MMA/PMI=85/15(質量比)、ガラス転移温度(Tg):125℃、重量平均分子量Mw:150万)
(メタ)アクリル系樹脂B:メタクリル酸メチル(MMA)/メタクリル酸ジシクロペンタニル共重合体(MMA/メタクリル酸ジシクロペンタニル:70/30(質量比)、ガラス転移温度(Tg):115℃、重量平均分子量Mw:170万)
(メタ)アクリル系樹脂C:メタクリル酸メチル(MMA)/メタクリル酸アダマンチル(MADMA)/N-フェニルマレイミド(PMI)共重合体(MMA/MADMA/PMI:50/25/25(質量比)、ガラス転移温度(Tg):135℃、重量平均分子量Mw:190万)
(メタ)アクリル系樹脂D:メタクリル酸メチル(MMA)/アクリル酸n-ブチル共重合体(MMA/BA:90/10(質量比)、ガラス転移温度(Tg):109℃、重量平均分子量Mw:120万)
【0152】
(メタ)アクリル系樹脂A~Dのガラス転移温度(Tg)および重量平均分子量(Mw)は、以下の方法で測定した。
【0153】
(ガラス転移温度(Tg))
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012に準拠して測定した。
【0154】
(重量平均分子量(Mw))
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製 HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製 TSK-GEL G6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL 直列)を用いて測定した。試料20mg±0.5mgをテトラヒドロフラン10mlに溶解し、0.45mmのフィルターで濾過した。この溶液をカラム(温度40℃)に100ml注入し、検出器RI温度40℃で測定し、スチレン換算した値を用いた。
【0155】
(2)ゴム粒子
<ゴム粒子C1の調製>
(株)カネカ製アクリル系モディファイヤー カネエースM210(コア部:多層構造のアクリル系ゴム状重合体(Tg:約-10℃)、シェル部:メタアクリル酸メチルを主成分とするメタクリル酸エステル系重合体、のコアシェル型のゴム粒子、平均粒子径:220nm)
【0156】
<ゴム粒子C2の調製>
下記成分を、ガラス製反応器に仕込んだ。
イオン交換水:125質量部
ホウ酸:0.47質量部
炭酸ナトリウム:0.05質量部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸:0.0042質量部
【0157】
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、メタクリル酸メチル(MMA)97質量部、アクリル酸ブチル(BA)3質量部、メタクリル酸アリル(ALMA)0.17質量部、およびターシャリドデシルメルカプタン(tDM)0.065質量部からなるモノマー混合物(c1)の25質量%を重合機に一括で追加した。これに、5%ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ-ト0.00645質量部、エチレンジアミン四酢酸-2-ナトリウム0.0056質量部、硫酸第一鉄0.0014質量部を追加し、その15分後にt-ブチルハイドロパーオキサイド0.022質量部を追加し、さらに15分間重合を継続させた。その後、2%の水酸化ナトリウム水溶液を0.013質量部追加した。
次いで、上記モノマー混合物(c1)の残り75質量%を30分かけて連続的に添加した。添加終了30分後に、69%のt-ブチルハイドロパーオキサイド0.0069質量部を追加し、同温度で30分保持し、重合を完結させた。重合転化率は、98%であった。
【0158】
得られた重合体ラテックスを窒素気流中で80℃に保ち、水酸化ナトリウム0.0346質量部、過硫酸カリウム0.0519質量部を添加した。その後、モノマー混合物(a1)32.5質量部(BA:82質量%、MMA:18質量%)およびAIMA0.97質量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.3質量部からなる混合物を、74分にわたって連続添加した。その後、重合を完結させるために45分保持した。得られたゴム状重合体の平均粒子径は260nmであり、重合転化率は99%であった。
【0159】
得られたゴム状重合体を80℃に保ち、過硫酸カリウム0.0097質量部、水酸化ナトリウム0.05質量部添加した後、モノマー混合物(b1)50質量部(MMA:90質量%、BA:10質量%)を150分にわたって連続添加した。添加終了後、1時間保持した。
【0160】
得られたゴム状重合体を含むグラフト共重合体を、硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のゴム状重合体を含むグラフト共重合体(ゴム粒子C2)を得た。得られたゴム粒子C2のゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は-30℃であり、平均粒子径は380nmであり、グラフト率は、約149%であり、重合転化率は99%であった。
【0161】
得られたゴム粒子(シェル部)と(メタ)アクリル系樹脂のΔSPを、以下の方法で測定した。
【0162】
(ΔSP)
(メタ)アクリル系樹脂とゴム粒子C1またはC2のシェル部のΔSP値を算出した。具体的には、市販のシミュレーションソフト「Material Studios Forcite」(ダッソー・システムズ社製)において、(メタ)アクリル系樹脂およびシェル部を構成する樹脂の構造式をそれぞれ入力し、SP値を算出して、それらの差を算出することによって求めた。
【0163】
(3)有機微粒子
以下の方法で調製した有機微粒子P1を用いた。
【0164】
(種粒子の作製)
攪拌機、温度計を備えた重合器に、脱イオン水1000gを入れ、そこへメタクリル酸メチル50g、t-ドデシルメルカプタン6gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで加温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム1gを溶解した脱イオン水20gを添加した後、10時間重合させた。得られたエマルジョン中の種粒子の平均粒子径は、0.05μmであった。
【0165】
(有機微粒子の作製)
攪拌機、温度計を備えた重合器に、ゲル化抑制剤としてラウリル硫酸ナトリウム2.4gを溶解した脱イオン水800gを入れ、そこへモノマー混合物としてメタクリル酸メチル66g、スチレン20gおよびエチレングリコールジメタクリレート64gと、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1gとの混合液を入れた。次いで、混合液をT.Kホモミキサー(特殊機化工業社製)にて攪拌して、分散液を得た。
【0166】
得られた分散液に、上記種粒子を含むエマルジョン60gを加え、30℃で1時間攪拌して種粒子にモノマー混合物を吸収させた。次いで、吸収させたモノマー混合物を、窒素気流下で50℃、5時間加温して重合させた後、室温(約25℃)まで冷却して、重合体微粒子(有機微粒子1)のスラリーを得た。得られた有機微粒子P1の平均粒子径は、0.14μmであり、Tgは、280℃であった。
【0167】
(有機微粒子の集合体の作製)
このエマルジョンを噴霧乾燥機としての坂本技研社製のスプレードライヤー(型式:アトマイザーテイクアップ方式、型番:TRS-3WK)で次の条件下にて噴霧乾燥して、有機微粒子の集合体を得た。有機微粒子の集合体の平均粒子径は、30μmであった。
供給速度:25ml/min
アトマイザー回転数:11000rpm
風量:2m/min
噴霧乾燥機のスラリー入口温度:100℃
重合体粒子集合体出口温度:50℃
【0168】
有機微粒子の平均粒子径は、以下の方法で測定した。
【0169】
(平均粒子径)
得られた分散液中の有機微粒子の分散粒径を、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)で測定した。なお、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)用いて測定される有機微粒子の平均粒子径は、光学フィルムをTEM観察して測定される有機微粒子の平均粒子径とほぼ一致するものである。
【0170】
2.光学フィルムの作製および評価
[実施例1]
(ゴム粒子分散液の調製)
11.3質量部のゴム粒子C2と、200質量部のメチレンクロライドとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マイルダー分散機マイルダー分散機(大平洋機工株式会社製)を用いて1500rpm条件下で分散し、ゴム粒子分散液を得た。
【0171】
(ドープの調製)
次いで、下記組成のドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライド、およびエタノールを添加した。次いで、加圧溶解タンクに、(メタ)アクリル系樹脂Aを撹拌しながら投入した。次いで、上記調製したゴム粒子分散液を投入して、これを撹拌しながら、完全に溶解させた。得られた溶液の粘度は、16000mmPa・sであり、含水率は0.50%であった。これを、(株)ロキテクノ製のSHP150を使用して、濾過流量300L/m・h、濾圧1.0×10Paにて濾過し、ドープを得た。
(ドープの組成)
(メタ)アクリル樹脂A:100質量部
メチレンクロライド:220質量部
エタノール:35質量部
ゴム粒子分散液:200質量部
【0172】
(製膜)
無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度30℃、1900mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は28℃に制御した。ステンレスベルトの搬送速度は20m/minとした。
【0173】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したドープ中の残留溶剤量が30質量%になるまで溶媒を蒸発させた。次いで、剥離張力128N/mで、ステンレスベルト支持体から剥離し、膜状物を得た(剥離時の膜状物の残留溶媒量は30質量%)。剥離したフィルムを多数のローラーで搬送させながら、得られた膜状物を、テンターにて、(Tg+15)℃(本例では140℃)の条件で幅方向に30%延伸した。延伸開始時の膜状物の残留溶媒量は10質量%であった。その後、ロールで搬送しながらさらに乾燥させて、テンタークリップで挟んだ端部をレーザーカッターでスリットして巻き取り、幅方向の長さ2.3m、長さ7000m、膜厚40μmの光学フィルムを得た。
【0174】
[実施例2、3]
延伸倍率を表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。
【0175】
[実施例4、5]
(メタ)アクリル系樹脂の種類を表1に示されるように変更した以外は実施例2と同様にして、光学フィルムを得た。
【0176】
[実施例6]
ゴム粒子の種類を表1に示されるように変更した以外は実施例2と同様にして、光学フィルムを得た。
【0177】
[実施例7]
ドープの固形分濃度を表1に示されるように変更した以外は実施例2と同様にして、光学フィルムを得た。
【0178】
[実施例8、13]
ゴム粒子分散液の溶媒組成を表1に示されるように変更した以外は実施例2と同様にして、光学フィルムを得た。
【0179】
[実施例9]
ドープの固形分濃度を表1に示されるように変更した以外は実施例8と同様にして、光学フィルムを得た。
【0180】
[実施例10]
光学フィルムの長さを表1に示されるように変更した以外は実施例9と同様にして、光学フィルムを得た。
【0181】
[実施例11]
延伸方向を表1に示されるように変更した以外は実施例9と同様にして、光学フィルムを得た。
【0182】
[実施例12]
(ゴム粒子分散液の調製)
11.3質量部のゴム粒子C1と、180質量部のメチレンクロライドと、20質量部のエタノールとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マイルダー分散機マイルダー分散機(大平洋機工株式会社製)を用いて1500rpm条件下で分散し、ゴム粒子分散液を得た。
【0183】
(有機微粒子分散液の調製)
12質量部の有機微粒子P1と、388質量部のメチレンクロライドとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マイルダー分散機マイルダー分散機(大平洋機工株式会社製)を用いて1500rpm条件下で分散し、有機微粒子分散液を得た。
【0184】
(ドープの調製)
次いで、下記組成のドープを調製した。まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライド、およびエタノールを添加した。次いで、加圧溶解タンクに、(メタ)アクリル系樹脂1を撹拌しながら投入した。次いで、上記調製した微粒子分散液を投入して、これを60℃に加熱し、撹拌しながら、完全に溶解した。加熱温度は、室温から5℃/minで昇温し、30分間で溶解した後、3℃/minで降温した。得られた溶液を濾過した後、ドープを得た。
【0185】
(ドープの組成)
(メタ)アクリル系樹脂1:100質量部
メチレンクロライド:220質量部
エタノール:16質量部
ゴム粒子分散液:209質量部
有機微粒子分散液:18質量部
【0186】
(製膜)
得られたドープを用いた以外は実施例2と同様にして光学フィルムを得た。
【0187】
[比較例1]
(メタ)アクリル系樹脂の種類を表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。
【0188】
[比較例2、5]
延伸倍率を表1に示されるように変更した以外は比較例1と同様にして、光学フィルムを得た。
【0189】
[比較例3]
ドープの固形分濃度を表1に示されるように変更した以外は比較例1と同様にして、光学フィルムを得た。
【0190】
[比較例4]
(メタ)アクリル系樹脂の種類を表1に示されるように変更した以外は比較例2と同様にして、光学フィルムを得た。
【0191】
実施例1~13および比較例1~5の光学フィルムの断面におけるゴム粒子の平均アスペクト比、平均長径および近接比率を、以下の方法で測定した。
【0192】
(ゴム粒子の平均アスペクト比、平均長径)
ゴム粒子の平均アスペクト比および平均長径は、以下の手順で算出した。
1)光学フィルムの断面(光学フィルムの厚み方向に沿った断面のうち、幅方向に平行な断面)をTEM観察した。観察領域は、5μm×5μmとした。
2)得られたTEM画像における、各ゴム粒子の長径および短径をそれぞれ測定し、アスペクト比をそれぞれ算出した。
3)上記1)および2)の操作を、観察領域を変えて合計4箇所行った。そして、測定されたアスペクト比の平均値を「平均アスペクト比」とし、測定された長径の平均値を「平均長径」とした。
【0193】
(ゴム粒子の近接比率)
ゴム粒子の近接比率については、以下の手順で測定した。
1)上記TEM画像(観察領域:5μm×5μm)において、各ゴム粒子の長径を特定した。そして、隣り合うゴム粒子の長径同士のなす角度のうち小さいほうの角度が30°以下であり、かつその粒子間距離が100nm以下であるものを特定した。
2)上記特定したゴム粒子の数を、観察領域中のゴム粒子の総数に対する比率を算出した。
3)上記1)と2)の操作を、観察領域を変えて合計4箇所行い、算出された比率の平均値を「近接比率」(%)とした。
【0194】
さらに、実施例1~13および比較例1~5の光学フィルムの脆性(MIT屈曲性)および巻き形状(巻き締まり故障、チェーン状故障)を、それぞれ以下の方法で評価した。
【0195】
(脆性:MIT屈曲性)
得られた光学フィルムのMIT屈曲性を、耐折度試験機(テスター産業株式会社製、MIT、BE-201型、折り曲げ曲率半径0.38mm)を用いて測定した。
具体的には、試験片として、温度25℃、相対湿度65%RHの状態に1時間以上静置させた、幅15mm、長さ150mmの(メタ)アクリル系樹脂フィルムを使用し、荷重500gの条件で、JIS P8115:2001に準拠して測定し、破断するまでの回数により、以下の評価基準で評価した。
◎+:1000回以上
◎:500回以上1000回未満
○:300回以上500回未満
△:100以上300回未満
×:100回未満
破断するまでの回数が多いほど屈曲性に優れていることを表し、繰り返しの折り曲げ耐性に優れていることを表し、△以上であれば実用上望ましい特性を有する。
△以上であれば良好と判断した。
【0196】
(巻き形状(巻き締まり故障、チェーン状故障))
(1)巻き締まり(巻芯転写)
得られた光学フィルムのロール体を、40℃80%RHの雰囲気下で10日間保存した後、巻きほぐして、巻き芯からの転写が発生した光学フィルムの長さ(m)を測定した。なお、巻き芯からの転写は、巻き取り後の光学フィルムの変形(長手方向に縮もうとする応力)によって生じる面状欠陥であり、長手方向の巻内部に形成される。
◎:10m未満
〇:10m以上50m未満
△:50m以上100m未満
×:100m以上
△以上であれば良好と判断した。
【0197】
(2)チェーン状故障
得られた光学フィルムのロール体を巻きほぐして、チェーン状故障が発生した光学フィルムの長さ(m)を測定した。なお、チェーン状故障とは、巻き取り後の光学フィルムの変形(幅方向に伸びようとする応力)によって生じる鎖状欠陥であり、幅方向の全体に形成される。そして、以下に基づいて評価した。
◎:10m未満
〇:10m以上200m未満
△:200以上1000m未満
×:1000m以上
△以上であれば良好と判断した。
【0198】
実施例1~13および比較例1~5の光学フィルムの評価結果を、表1に示す。表1中、MCは、メチレンクロライド、EtOHはエタノールを示す。
【0199】
【表1】
【0200】
表1に示されるように、フィルム断面を観察したときに、ゴム粒子の平均アスペクト比が1.3~3.0であり、かつ近接比率が15%以上である実施例1~13の光学フィルムは、いずれも高いMIT屈曲性を有し、良好な靱性を有することがわかる。また、実施例1~13の光学フィルムのロール体では、巻き締まりやチェーン状故障などの巻き状故障も抑制されることがわかる。
【0201】
特に、延伸倍率を高くすることで、平均アスペクト比や近接比率がさらに高くなることがわかる(実施例1~3の対比)。
【0202】
また、(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)を高くすることで、近接比率がさらに高くなることがわかる(実施例1、4および5の対比)。
【0203】
また、(メタ)アクリル系樹脂とゴム粒子のΔSPを大きくすることで、近接比率をさらに高めうることがわかる(実施例2および4~6の対比)。
【0204】
また、ドープの固形分濃度を低くすることで、近接比率がさらに高くなることがわかる。これは、ドープ乾燥時の圧縮効果により、ゴム粒子同士が配向しやすいためであると考えられる(実施例2と7の対比、実施例8と9の対比)。
【0205】
また、ゴム粒子の分散溶媒に、貧溶媒(EtOH)を含有させることで、近接比率がさらに高くなることがわかる(実施例2、8および13の対比)。
【0206】
これに対して、ゴム粒子の平均アスペクト比が1.3未満である比較例2および4の光学フィルム、近接比率が15%未満である比較例1および3、平均アスペクト比が3.0を超える比較例5の光学フィルムは、いずれもMIT屈曲性が低く、巻き締まりやチェーン状故障などの巻き状故障が抑制できないことがわかる。
【0207】
なお、実施例1~13の光学フィルムのヘイズを、ヘイズメーター(HGM-2DP、スガ試験機)を用いて、25℃60%RHでJISK-6714に従って測定したところ、いずれも0.3%よりも小さく、良好であった。
【0208】
本出願は、2018年7月31日出願の特願2018-144438に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0209】
本発明によれば、透明性を損なうことなく、脆性が良好に改善され、かつ巻き状故障を抑制できる光学フィルム、光学フィルムのロール体、偏光板保護フィルム、および光学フィルムの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0210】
100 光学フィルム
110 マトリクス
120 ゴム粒子
LA 仮想線
d 粒子間距離
図1
図2