(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ポリエステル組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 63/672 20060101AFI20240312BHJP
C08G 63/688 20060101ALI20240312BHJP
C08G 63/83 20060101ALI20240312BHJP
C08G 63/85 20060101ALI20240312BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08G63/672
C08G63/688
C08G63/83
C08G63/85
C08L67/02
(21)【出願番号】P 2020536696
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2020016048
(87)【国際公開番号】W WO2020213519
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019080057
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡 一平
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽一郎
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-253100(JP,A)
【文献】特開2007-177346(JP,A)
【文献】特表2016-520727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/672
C08G 63/688
C08G 63/83
C08G 63/85
C08L 67/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸およびジカルボン酸のエステル形成性誘導体のうちの少なくとも一方とアルキレングリコールとの重縮合反応により得られるポリエステル組成物であって、
金属スルホネート基含有イソフタル酸成分が全酸成分に対して10.0~15.0モル%、テレフタル酸成分が全酸成分に対して5.0~20.0モル%、およびイソフタル酸成分が全酸成分に対して65.0~70.0モル%の範囲で共重合され、
数平均分子量1000~20000のポリエチレングリコールを組成物全体に対して10.0~12.5重量%の範囲で含有し、チタン金属原子を0.01~0.65重量%、かつリチウム金属原子を0.02~0.10重量%含み、カルボキシル末端基量が10.0~45.0eq/tonの範囲であり、
重量平均分子量が45000~80000の範囲であり、230~300℃の
全ての範囲で溶融成形が可能であり、かつ50℃で1週間静置したのちに30℃のイオン交換水中に1時間浸漬することで容積が
500~3000
%増加するポリエステル組成物。
【請求項2】
50℃で1週間静置したのちに示差走査熱量測定することで求められるガラス転移点が0~30℃、かつ結晶融解熱量が0~12J/gの範囲にある請求項1に記載のポリエステル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル組成物に関し、更に詳しくは、溶融紡糸に用いられるポリエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のポリマーを組み合わせることで多機能化が可能な複合繊維は、衣料用途のみならずおむつ用途やフェイスマスク用途等幅広く利用されており、産業上の価値は極めて高い。これら用途に求められる要求特性は高度化しており、その特性の1つとして優れた吸水能力が挙げられる。複合繊維の吸水能力は、当該複合繊維を構成するポリマーの吸水能力に大きく依存するため、優れた吸水能力を有するポリマーが求められている。
【0003】
優れた吸水能力を有するポリマーとしてはポリアクリル酸ナトリウムがよく知られているが、繊維として用いるには溶液紡糸や後架橋処理が必要であるため成形コストが非常に高く、繊維製品としての展開が難しいという問題がある。また、溶融紡糸が不可能であることから、ナイロンやポリエステル樹脂等との複合繊維を得ることもできない(特許文献1)。そこで、溶融紡糸が可能な吸水性ポリマーとして、多量のポリアルキレングリコール化合物を添加した共重合ポリブチレンテレフタレート組成物が提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開平4-80234号公報
【文献】日本国特開2003-253100号公報
【文献】日本国特開2004-137418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2、3に記載の共重合ポリブチレンテレフタレート組成物は、溶融成形性は十分であり、他のポリマーとの溶融複合成形も可能であるものの、おむつやフェイスマスクなどの用途に用いるには吸水能力が不十分であるという問題が判明した。すなわち、これら共重合ポリブチレンテレフタレート組成物の、30℃の水中における1時間の吸水量はポリマー1gあたり0.4g未満であったからである。
【0006】
そこで、本発明の目的は、一般的な熱可塑性ポリマー、例えば、ポリエチレンテレフタレートやナイロン6との溶融複合成形ができ、かつ、十分な吸水能力、具体的には30℃の水中における1時間の吸水量がポリマー1gあたり0.4g以上を示すポリエステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の(1)~(7)のいずれかにより解決される。
(1)ジカルボン酸およびジカルボン酸のエステル形成性誘導体のうちの少なくとも一方とアルキレングリコールとの重縮合反応により得られるポリエステル組成物であって、230~300℃の範囲で溶融成形が可能であり、かつ50℃で1週間静置したのちに30℃のイオン交換水中に1時間浸漬することで容積が50~3000%に増加するポリエステル組成物。
(2)50℃で1週間静置したのちに示差走査熱量測定することで求められるガラス転移点が0~30℃、かつ結晶融解熱量が0~12J/gの範囲にある前記(1)に記載のポリエステル組成物。
(3)金属スルホネート基含有イソフタル酸成分が全酸成分に対して4.0~15.0モル%共重合され、かつ数平均分子量1000~20000のポリエチレングリコールを組成物全体に対して0~12.5重量%の範囲で含有する前記(1)または(2)に記載のポリエステル組成物。
(4)テレフタル酸成分が全酸成分に対して5.0~30.0モル%、並びに、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸およびセバシン酸からなる群から選択される少なくとも一種のジカルボン酸成分の合計が全酸成分に対して60.0~85.0モル%共重合された前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のポリエステル組成物。
(5)重量平均分子量が35000~80000の範囲である前記(1)~(4)のいずれか一つに記載のポリエステル組成物。
(6)チタン金属原子を0.01~0.65重量%、かつリチウム金属原子を0.02~0.10重量%の範囲で含有する前記(3)~(5)のいずれか一つに記載のポリエステル組成物。
(7)カルボキシル末端基量が10.0~45.0eq/tonの範囲である前記(3)~(6)のいずれか一つに記載のポリエステル組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温での安定した溶融成形性と高い容積増加率を両立させることができるので、ポリエチレンテレフタレートやナイロン6と複合紡糸が可能であり、かつ室温下で極めて優れた吸水能力を示すポリエステル組成物が得られる。このような組成物は、おむつやフェイスマスクなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成物は、ジカルボン酸およびジカルボン酸のエステル形成性誘導体のうちの少なくとも一方(以下、「ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体」ともいう。)とアルキレングリコールとの重縮合反応により得られるポリエステル組成物であって、230~300℃の範囲で溶融成形が可能であり、かつ50℃で1週間静置したのちに30℃のイオン交換水中に1時間浸漬することで容積が50~3000%に増加する組成物である。
【0010】
本発明のポリエステル組成物に用いることのできるジカルボン酸としては、テレフタル酸やイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸化合物、アジピン酸やセバシン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸化合物、シクロヘキサンジカルボン酸に代表される脂環式ジカルボン酸化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、重縮合反応性に優れる点から、芳香族ジカルボン酸化合物を用いることが好ましく、テレフタル酸やイソフタル酸を用いることがより好ましい。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、上記ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステル、それらの酸塩化物や酸臭化物などの酸ハロゲン化物、さらには酸無水物などが挙げられる。例えば、重縮合反応性に優れる点から、ジカルボン酸のアルキルエステルが好ましく、ジカルボン酸のメチルエステルが特に好ましい。ジカルボン酸成分としては、これらのうち1種類の化合物種を使用してもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0011】
本発明のポリエステル組成物において、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体と重縮合反応させるアルキレングリコールの種類は特に限定されないが、重縮合反応性に優れる点から、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、エチレングリコールのいずれか、またはそれらの組み合わせから選択されることが好ましい。
【0012】
ポリエチレンテレフタレートの好適な成形温度が280~300℃、ポリブチレンテレフタレートまたはナイロン6の好適な成形温度が230~280℃であることから、これらのポリマーとの溶融複合成形を想定した本発明のポリエステル組成物は、溶融成形可能温度が230~300℃の範囲であることが必須である。ここで、溶融成形可能温度が230~300℃の範囲であるか否かの判断は、実施例の欄に後述した溶融成形性評価法による。複合成形時にポリブチレンテレフタレートやナイロン6等の熱分解を抑制できるという観点から、本発明のポリエステル組成物の溶融成形温度は285℃以下が好ましい。複合成形時にポリエチレンテレフタレートを十分に溶融させる点から、本発明のポリエステル組成物の溶融成形温度は260℃以上が好ましい。
【0013】
本発明のポリエステル組成物が、特に複合形成した際に優れた吸水能力を有するためには、50℃で1週間静置(前処理)したのちに30℃のイオン交換水中に1時間浸漬することで容積が50%以上3000%以下の範囲で増加することが必須である。ここで、容積増加の度合いは容積増加率で示すことができ、容積増加率が50%とは、例えば、100m3の容積が150m3に増加することを意味する。容積増加率が50%以上であることで、ポリマー1gあたり0.4g以上の吸水量を達成できる。さらに優れた吸水能力が発現する点から、容積増加率は100%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、500%以上であることがさらに好ましく、1000%以上であることが最も好ましい。一方で、容積増加率が3000%よりも高くなると、水中でポリマー分子鎖間の距離が増加して分子間力が低下し、ポリマーが崩壊および溶解してしまうため、本発明のポリエステル組成物の容積増加率は3000%以下であることが必須である。
【0014】
本発明のポリエステル組成物は、吸水能力に優れたものとする観点から、50℃で1週間静置したのちに示差走査熱量測定することで求められるガラス転移点が30℃以下、かつ結晶融解熱量が12J/g以下であることが好ましい。ガラス転移点が一般的な室温近傍であることで、分子運動性が高くなり水中での容積増加が促進される。また、水中に浸漬した際に容積増加が生じるのはポリマーの非晶部であるため、結晶部が少ないほど本発明の効果が得られやすい。また、結晶融解熱量は9J/g以下であることがより好ましく、6J/g以下であることがさらに好ましく、3J/g以下であること特に好ましく、0J/gであることが最も好ましい。ちなみに、結晶融解熱量が取りうる下限値は0J/gである。
【0015】
一方、結晶融解熱量が12J/g以下、かつ、ガラス転移点が低すぎると、保管時にペレットの変形、融着が生じやすくなり、ペレットの保管性が悪化する点から、結晶融解熱量を12J/g以下としつつペレットの保管性を向上させるためには、ガラス転移点は0℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。
【0016】
上記の物性をコントロールするため、本発明のポリエステル組成物は重縮合反応させるに際して、以下の共重合がされていてもよい。
【0017】
本発明のポリエステル組成物は、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールを重縮合反応させるに際して、金属スルホネート基含有イソフタル酸およびそのエステル形成性誘導体のうちの少なくとも一方が共重合されていてもよい。
【0018】
金属スルホネート基含有イソフタル酸成分が共重合されることでポリマーの親水性が向上し、吸水能力に優れたポリエステル組成物を得ることができる。金属スルホネート基含有イソフタル酸成分の共重合量は、吸水能力を向上させる観点から、全酸成分に対して4.0モル%以上であることが好ましく、7.0モル%以上であることがより好ましい。一方、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分が過剰となるとポリマーの溶融成形性が悪化するため、共重合量は15.0モル%以下であることが好ましく、10.0モル%以下であることがより好ましい。
【0019】
金属スルホネート基含有イソフタル酸としては、4-スルホイソフタル酸ナトリウム塩、4-スルホイソフタル酸カリウム塩、5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩、5-スルホイソフタル酸カリウム塩、5-スルホイソフタル酸バリウム塩などが挙げられる。中でも、重縮合性に優れる点から5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩、5-スルホイソフタル酸カリウム塩が好ましく、5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩が特に好ましい。なお、これら金属スルホネート基を含有するイソフタル酸は、1種類の化学構造のものを用いてもよく、2種類以上を組み合わせたものを用いてもよい。
【0020】
金属スルホネート基含有イソフタル酸のエステル形成性誘導体としては、それらのメチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステル、それらの酸塩化物や酸臭化物などの酸ハロゲン化物、さらにはイソフタル酸無水物などが挙げられる。例えば、重縮合反応性に優れる点から、金属スルホネート基含有イソフタル酸のアルキルエステルが好ましく、金属スルホネート基含有イソフタル酸のメチルエステルが特に好ましい。
【0021】
また、本発明のポリエステル組成物は、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールを重縮合反応させるに際して、ポリエチレングリコールが添加されていてもよい。ポリエチレングリコールを含有したポリエステルは分子運動性および親水性に優れ、吸水能力が向上する。含有されたポリエチレングリコールはポリエステル中に共重合されていてもよく、未反応の状態でポリエステル組成物中に存在してもよい。
【0022】
本発明のポリエステル組成物中に含有させるポリエチレングリコールは、効率的に分子運動性および親水性を向上させる観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される数平均分子量が20000以下であることが好ましく、8300以下であることがより好ましい。また、ポリエチレングリコールの数平均分子量は1000以上であることが好ましい。具体的に、数平均分子量1000~20000のポリエチレングリコールを用いることが好ましく、数平均分子量は1000~8300であることがより好ましい。
【0023】
本発明においてポリエチレングリコールを含有させる場合は、ペレットの保管性悪化を防ぐため、12.5重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、5.0重量%~10.0重量%であることがより好ましい。当然、ポリエチレングリコールを含有していなくてもよい。ここで記載している含有量はNMR測定によって求めることができる。
【0024】
さらに、本発明のポリエステル組成物は、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールを重縮合反応させるに際して、テレフタル酸およびテレフタル酸のエステル形成性誘導体のうちの少なくとも一方が共重合されていてもよい。テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸のメチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステルが挙げられる。例えば、重縮合反応性に優れる点からテレフタル酸のメチルエステルを用いることが好ましい。
【0025】
テレフタル酸成分が共重合されることでポリマーの溶融成形性が向上する。溶融成形性に優れる点から、共重合量は全酸成分に対して5.0モル%以上であることが好ましく、10.0モル%以上であることがより好ましい。一方、テレフタル酸成分が過剰となると分子鎖同士に強固な分子間力が生じて水中での容積増加が抑制され吸水能力が低下する点から、共重合量は30.0モル%以下であることが好ましく、20.0モル%以下であることがより好ましい。
【0026】
さらに、本発明のポリエステル組成物は、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールを重縮合反応させるに際して、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸およびこれらのエステル形成性誘導体からなる群から選択される少なくとも一種が共重合されていてもよい。エステル形成性誘導体としては、これらのメチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステルが挙げられ、例えば、重縮合反応性に優れる点からこれらのメチルエステルを用いることが好ましい。これらのジカルボン酸成分は、1種類の化合物種を使用してもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0027】
イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸およびセバシン酸からなる群から選択される少なくとも一種のジカルボン酸成分が一定の範囲で共重合されると、分子鎖同士の分子間力および結晶性が大きく低下し、水中での容積増加が促進され吸水能力が向上する。吸水能力を向上させる点から、これらのジカルボン酸成分の合計は全酸成分に対して60.0~85.0モル%であることが好ましく、65.0~85.0モル%であることがより好ましく、溶融成形性に優れる点から65.0~80.0モル%であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のポリエステル組成物の物性をコントロールするため、例えばポリエチレングリコール、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、アジピン酸成分およびセバシン酸成分からなる群から選択される成分のいずれか3種以上の組み合わせを上記記載の範囲で用いることが好ましい。これら3種以上を組み合わせることによって相乗効果が得られ、本発明のポリエステル組成物の吸水量をより向上させることができる。組み合わせとしては、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分とテレフタル酸成分、イソフタル酸成分が好ましく例示され、加えてポリエチレングリコールを含んでいることがさらに好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル組成物は、ポリマー全体の重量平均分子量が35000~80000の範囲であることが好ましい。ガラス転移点が30℃以下、かつ結晶融解熱量が12J/g以下であるポリエステル組成物において、重量平均分子量が35000未満では保管時にペレットの変形、融着が生じてしまい取扱いにくくなる。保管時のペレットの変形、融着をより抑制する点から重量平均分子量は45000~80000の範囲であることがより好ましい。一方、重量平均分子量が80000より大きくなると、重合後のポリマー回収、ペレット加工が困難になるほか、260℃近傍での溶融成形性に劣ったものとなる。
【0030】
本発明のポリエステル組成物は、任意の方法によって合成できる。例えば、以下に示す一般的なポリエチレンテレフタレートの合成方法と同様の工程を用いることができる。
ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応、または、テレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応によって、テレフタル酸のグリコールエステルまたはその低重合体を生成させる第一段階の反応、そして第一段階の反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱し、所望の重合度となるまで重縮合反応を行う第二段階の反応によって合成できる。
【0031】
複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、あるいは複数のアルキレングリコールを原料としてポリエステル組成物を合成する場合、各原料の添加時期はいずれか1種のジカルボン酸成分とアルキレングリコールを用いてエステル化反応またはエステル交換反応を開始させるのと同時、あるいはエステル化反応またはエステル交換反応が開始してから重縮合反応が開始されるまで、さらには重縮合反応が実質的に終了するまでの任意の段階でよい。
【0032】
本発明のポリエステル組成物を構成するジカルボン酸成分が、例えば金属スルホネート基含有イソフタル酸成分、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、アジピン酸成分およびセバシン酸成分のいずれか3種以上の組み合わせである場合、組成物中にチタン金属原子とリチウム金属原子を同時に含んでいることが好ましい。
【0033】
チタン金属原子とリチウム金属原子を同時かつ一定の範囲で含有していると、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応が速やかに進行し、溶融成形性に優れた分子量のポリエステル組成物となる。ペレット色調と溶融成形性に優れる点から、合成されたポリエステル組成物を基準として、チタン金属原子の含有量は0.01~0.65重量%であることが好ましく、0.05~0.65重量%であることがより好ましい。同時に含有するリチウム金属原子の含有量は0.02~0.10重量%であることが好ましく、0.05~0.10重量%であることがより好ましい。
【0034】
チタン金属原子は、重縮合性とペレット色調を向上させる点から、二酸化チタン、チタン錯体、テトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートテトラマーなどのチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアセチルアセトナート等の化合物が用いられていることが好ましく、ポリエステル組成物中で異物となりにくい点で、二酸化チタンまたはテトラ-n-ブチルチタネートが用いられることがより好ましい。
【0035】
リチウム金属原子は、重縮合性を向上させる点から、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、リチウムアセチルアセトネート、酢酸リチウム等の化合物が用いられていることが好ましく、ポリエステル組成物中で異物となりにくい点で、酢酸リチウムが用いられることがより好ましい。
【0036】
本発明のポリエステル組成物のジカルボン酸成分が、例えば金属スルホネート基含有イソフタル酸成分、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、アジピン酸成分、セバシン酸成分のうちのいずれか3種以上の組み合わせで構成されている場合、ポリマー中のカルボキシル末端基量は10.0~45.0eq/tonの範囲であることが好ましい。このようなポリエステル組成物は、重縮合反応時に平衡反応である分解反応も進行しやすく、カルボキシル末端基量を10.0eq/ton未満とすることが難しい。また、カルボキシル末端基量が45.0eq/tonより大きくなると、重合反応時に重合装置内が強い酸性環境となりチタン金属触媒が失活、延いては重合反応の大幅な遅延が生じるほか、290℃近傍での溶融成形性に劣ったものとなる。より溶融成形性に優れる点から、カルボキシル末端基量は10.0~35.0eq/tonの範囲であることが好ましい。
【0037】
本発明のポリエステル組成物を使用するに際し、使用目的に応じてポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチルなどの熱可塑性樹脂、および/または酸化防止剤や着色用の顔料等の樹脂添加剤が混練されていてもよい。
【0038】
本発明のポリエステル組成物は複合繊維の構成成分として好ましく用いることができる。ここで述べる複合繊維とは1本の繊維の中に2種以上のポリマーが分離して存在しているものを示している。複合繊維の断面形態としては、例えば、芯成分が円形の一般的な芯鞘複合糸、芯成分が星形の芯鞘複合糸、芯成分の一部が繊維外層に露出したC型複合糸、海成分の中に島成分が複数存在する海島複合糸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これらは例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
A.ポリエステル組成物の溶融成形性評価
ポリエステル組成物の溶融成形性評価にはキャピログラフを用いた。230、240、250、260、270、280、290および300℃の各測定温度に対し、以下の条件でポリエステル組成物を繊維状に成形した際の特性をS、A、Bの3段階で評価した。
装置:株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ1B
キャピラリー内径:1.0mm
キャピラリー長:40.0mm
ポリマー滞留時間:5分
ポリマー押出時間:5分
剪断速度:12.2sec-1
巻取速度:50m/分
【0041】
<評価基準>
評価S・・・全ての測定温度範囲で、成型物が糸切れすることなく採取可能。
評価A・・・全ての測定温度範囲で、成型物の糸切れが3回以下。
評価B・・・いずれかの温度で、成型物が押出成形不可または糸切れが4回以上。
評価S又はAを溶融成形可能温度が230~300℃の範囲と判断し、評価Bを溶融成形可能温度が230~300℃の範囲ではないと判断した。
【0042】
B.ポリエステル組成物の水中における容積増加率
ポリエステル組成物の水中における容積増加率は乾式自動密度計およびピクノメーターを用いて測定した。前処理として、直径3.0±1.5mm、高さ4.0±1.0mmの円柱状ポリエステル組成物ペレットを50℃、窒素下で1週間静置して結晶状態を安定化させた(前処理)。前処理を行ったポリエステル組成物を0.8g量り取り、乾式密度計を用いて以下の条件で水へ浸漬前のポリエステル組成物の容積:A[m3]を求めた。
装置:マイクロメリティックス社製乾式自動密度計アキュピック1340T-10CC
充填ガス:He
測定温度:25℃
【0043】
続いて、前処理したポリエステル組成物2.0gを30℃のイオン交換水200mL中に浸漬し1時間静置した。静置1時間後速やかにポリエステル組成物を取り出し、表面に付着した水を全て拭き取り、ピクノメーターを用いて以下の条件で浸漬後のポリエステル組成物の容積:B[m3]を求めた。
装置:株式会社三商製ハーバード型ピクノメーター
恒温槽:ヤマト科学株式会社製恒温槽BK33
測定温度:25℃
浸漬液:イオン交換水20mL
【0044】
最後に、ポリエステル組成物の浸漬前後における容積増加率[%]を以下のとおり求めた。
容積増加率[%]={(B-A)/A}×100
ただし、水中でポリマーが崩壊して測定困難となった場合は計測不可とした。
【0045】
C.ポリエステル組成物のガラス転移点および結晶融解熱量測定
前処理として、直径3.0±1.5mm、高さ4.0±1.0mmの円柱状ポリエステル組成物ペレットを50℃、窒素下で1週間静置して結晶状態を安定化させ、ガラス転移点および結晶融解熱量について示唆走査熱量計を用いて測定した。
装置:TA Instruments社製 Q-2000
昇温速度:2℃/分
測定温度:-20℃から300℃まで
【0046】
D.ポリエステル組成物の組成分析
ポリエステル組成物の組成分析は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて実施した。
装置:日本電子株式会社製 AL-400
重溶媒:重水素化HFIP
積算回数:128回
サンプル濃度:測定サンプル50mg/重溶媒1mL
【0047】
E.ポリエチレングリコールの数平均分子量測定
ポリエチレングリコールの数平均分子量は、以下の条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。
装 置:ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)(Waters-2690)
検出器:示差屈折率検出器RI(Waters-2410,感度128x)
カラム:TSKgelG3000PWXL(1本)(東ソー株式会社製)
溶媒:0.1M塩化ナトリウム水溶液
流速:0.8mL/分
カラム温度:40℃
注入量:0.05mL
標準試料:ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド
【0048】
F.ポリエステル組成物の重量平均分子量測定
ポリエステル組成物の重量平均分子量は、以下の条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。
装置:ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)(Waters-e2695)
検出器:示差屈折率検出器RI(Waters-2414,感度128x)
カラム:昭和電工株式会社製 ShodexHFIP806M(2本連結)
溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール(0.01Nトリフルオロ酢酸ナトリウム添加)
流速:1.0mL/分
カラム温度:30℃
注入量:0.10mL
標準試料:標準ポリメタクリル酸メチル
【0049】
G.ポリエステル組成物中の金属含有量分析
ポリエステル組成物中の金属含有量は、ポリエステル組成物を260℃にてプレート状に溶融成形したのち、株式会社リガク製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定した。
【0050】
H.ポリエステル組成物中のカルボキシル末端基量測定
得られたポリエステル組成物のペレットをo-クレゾール溶媒に溶解し、25℃で0.02規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、自動滴定装置(平沼産業株式会社製)にて滴定して求めた。
【0051】
I.ポリエステル組成物の保管性評価
直径3.0±1.5mm、高さ4.0±1.0mmの円柱状ポリエステル組成物ペレット3kgの表面に、ステアリン酸マグネシウム750ppmを均一に添加した。ペレット3kgを縦400mm×幅400mm×高さ5mmのバットに投入し、50℃、窒素下で1週間静置した際のペレットの状態をS、A、Bの3段階で評価した。直径3.0±1.5mm、高さ4.0±1.0mmの円柱状からペレット形状が逸脱した場合に、ペレットの変形ありと判断した。
【0052】
<評価基準>
評価S:ペレットが変形せず、ペレット同士で融着しない。
評価A:ペレットは変形するが、ペレット同士で融着しない。
評価B:ペレットが変形し、ペレット同士での融着が生じる。
【0053】
J.ポリエステル組成物の複合紡糸性評価
ポリエステル組成物を以下の条件にて溶液粘度IV:0.64のポリエチレンテレフタレート(PET)、または比粘度ηr:2.6のナイロン6(N6)とともに複合紡糸し、紡糸性をA、Bの2段階で評価した。
複合紡糸形態:同心芯鞘複合糸
フィラメント数:24
芯成分:実施例または比較例のポリエステル組成物・・・50重量%
鞘成分:PETまたはN6・・・50重量%
紡糸温度:285℃(鞘:PET)、260℃(鞘:N6)
冷却風:風温20℃、風速20m/sec
巻取速度:1000m/sec
総繊度:270dtex
【0054】
<評価基準>
評価A:鞘成分がPET、N6に関わらず、巻取10分間で糸切れは生じない。
評価B:鞘成分がPETあるいはN6において、巻取10分間で糸切れが生じる。
【0055】
K.ポリエステル組成物の吸水量測定
前処理として、直径3.0±1.5mm、高さ4.0±1.0mmの円柱状ポリエステル組成物ペレットを50℃、窒素下で1週間静置して結晶状態を安定化させた。続いて、前処理したポリエステル組成物およそ2.0gを30℃のイオン交換水200mL中に浸漬し1時間静置した。静置1時間後速やかにポリエステル組成物を取り出し、表面に付着した水を全て拭き取り、重量:A[g]を測定した。さらに、重量測定後のペレットを105℃に設定した送風乾燥機中で6時間乾燥し、乾燥後重量:B[g]を測定し、以下のとおりポリエステル組成物1g当たりの吸水量[g/g]を算出した。
吸水量[g/g]=(A-B)/B
ただし、水中でポリマーが崩壊して回収困難となった場合は計測不可とした。
【0056】
[実施例1]
ジメチルテレフタル酸(DMT)1.5kg(全酸成分に対して20.0モル%)、ジメチル5-スルホイソフタル酸ナトリウム(SSIA)1.2kg(全酸成分に対して15.0モル%)、イソフタル酸ジメチル(DMI)4.8kg(全酸成分に対して65.0モル%)、1,4-ブタンジオール(BDO)6.2kg、テトラ-n-ブチルチタネートの20重量%BDO溶液(TBT)36.1g(得られる組成物に対してチタン金属量で0.01重量%)、酢酸リチウム2水和物(LAH)50.6g(得られる組成物に対してリチウム金属量で0.05重量%)を加え、180分かけて120℃から190℃まで昇温しつつメタノールを留出しエステル交換(EI)反応を行った。
EI反応終了後、数平均分子量1000のポリエチレングリコール(PEG)を1.0kg(得られる組成物に対して10.0重量%)、[ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート)](BASF製“Irganox(登録商標。以下同じ。)1010”)25.0g、TBT140.4g(得られる組成物に対してチタン金属量で0.04重量%)をさらに追加し、205℃で60分かけて0.1kPa以下まで減圧した。減圧後に40分かけて205℃から245℃まで昇温し、さらに80分後、反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、口金からストランド状に押出して水槽冷却し、ペレット状にカッティングを実施した。
得られたポリエステル組成物は、溶融成形性、容積増加率ともに本発明の請求の範囲を満たすものであった。各種ポリマー特性を表1に記す。
【0057】
[実施例2~5]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量を表1に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0058】
[実施例6、7]
実施例1で用いたDMT、SSIA、DMIの共重合量を表1に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0059】
[実施例8~10]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量、およびポリエチレングリコールの含有量を表1に記載の通り変更し、アルキレングリコール成分として1,3-プロパンジオールおよび/またはエチレングリコールを表1の通り併用したこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0060】
[実施例11]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量、およびポリエチレングリコールの含有量を表1に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0061】
[実施例12、13]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量、およびポリエチレングリコールの数平均分子量を表1に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0062】
【0063】
[実施例14、15]
実施例1で用いたDMT、SSIA、DMIの共重合量を表2に記載の通り変更し、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(CHDC)またはナフタレンジカルボン酸ジメチル(NDCM)を表2に記載の通り共重合させたこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0064】
[実施例16、17]
実施例1で用いたDMT、SSIA、DMIの共重合量を表2に記載の通り変更し、アジピン酸ジメチルまたはセバシン酸ジメチルを表2に記載の通り共重合させ、ポリエチレングリコールを加えなかったこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0065】
[実施例18~21]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量を表2に記載の通り変更し、重合温度と重合時間を調整して重量平均分子量を表2に記載の値としたこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0066】
[実施例22]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量を表2に記載の通り変更し、LAHとTBTの添加量を金属量換算で表2に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0067】
[実施例23]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量を表2に記載の通り変更し、LAHの添加量をリチウム金属量換算で表2に記載の通り変更し、二酸化チタンの13重量%BDOスラリーをチタン金属量換算で0.63重量%となるように加えたこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0068】
[実施例24~26]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量を表2に記載の通り変更し、重合温度と重合時間を調整してカルボキシル末端基量を表2に記載の値としたこと以外は実施例1と同様に実施し、溶融成形性、容積増加率に優れたポリエステル組成物を得た。
【0069】
【0070】
[比較例1、2]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量を表3に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
比較例1で得られる組成物は、SSIA共重合量が過剰であることに起因して溶融成形性が悪く、ポリエチレンテレフタレートまたはナイロン6との複合紡糸時に糸切れが発生した。また、比較例2で得られる組成物は、SSIA共重合量の不足と高い結晶融解熱量が一因となって水中での容積増加率が低く、吸水能力が不十分であった。
【0071】
[比較例3、4]
実施例1で用いたDMT、SSIA、DMIの共重合量を表3に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
比較例3で得られる組成物は、DMT共重合量不足、DMI共重合量過剰であることに起因して溶融成形性が悪く、ポリエチレンテレフタレートとの複合紡糸時に糸切れが発生した。また、過剰なDMI共重合量と高い結晶融解熱量が一因となって水中での容積増加率が低く吸水能力が不十分であった。比較例4で得られる組成物は、過剰なDMT共重合量と高い結晶融解熱量が一因となって水中での容積増加率が低く、吸水能力が不十分であった。
【0072】
[比較例5、6]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量を表3に記載の通り変更し、LAHとTBTの添加量を金属量換算で表3に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
比較例5、6で得られる組成物は、添加した金属原子量が過剰であることに起因して異物生成による溶融成形性の悪化が生じ、ポリエチレンテレフタレートおよびナイロン6との複合紡糸時に糸切れが発生した。
【0073】
[比較例7]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量を表3に記載の通り変更し、LAHとTBTを添加せず、酢酸マンガン4.5g、三酸化二アンチモン2.7gを加えたこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
比較例7で得られる組成物は、重縮合反応が十分に進行しなかったことから保管性、溶融成形性が悪化し、ポリエチレンテレフタレートおよびナイロン6との複合紡糸時に糸切れが発生した。また、水中への浸漬時にペレットの崩壊が生じ、吸水量の測定は困難であった。
【0074】
[比較例8]
実施例1で用いたSSIA、DMIの共重合量を表3に記載の通り変更し、重合温度と重合時間を調整してカルボキシル末端基量を表3に記載の値としたこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
比較例8で得られる組成物は、カルボキシル末端基量が過剰であり溶融成形時に分解が急速に進行したため、ポリエチレンテレフタレートとの複合紡糸時に糸切れが発生した。
【0075】
[比較例9]
実施例1で用いたポリエチレングリコールの含有量を表3に記載の通り変更し、アルキレングリコール成分として1,3-プロパンジオールおよびエチレングリコールを表3の通り併用したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
比較例9で得られる組成物は、ガラス転移点が低く保管性に劣るものであった。また、ポリエチレングリコール含有量の多いことが一因となって過剰な容積増加率を示し、水中への浸漬時にペレットの崩壊が生じて吸水量の測定は困難であった。
【0076】
[比較例10]
実施例1で用いたDMT、SSIA、DMIの共重合量を表3に記載の通り変更し、アジピン酸ジメチルを表3に記載の通り共重合させ、ポリエチレングリコールとTBTを添加せず、三酸化二アンチモン2.7gを添加し、アルキレングリコール成分としてエチレングリコールを用いたうえで、EI反応を140~230℃、重合反応を290℃で実施したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
比較例10で得られる組成物は、ガラス転移点が高いことが一因となって水中での容積増加率が低く、吸水能力が不十分であった。
【0077】
[比較例11]
実施例1で用いたDMT、SSIAの共重合量を表3に記載の通り変更し、DMI、TBT、LAHを添加せず、ポリエチレングリコールの数平均分子量と含有量を表3に記載の通り変更し、酢酸マンガン4.5g、二酸化ゲルマニウムを9.0g加えたうえで、EI反応を140~230℃、重合反応を285℃で実施したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
比較例11で得られる組成物は、ガラス転移点は低いものの高い結晶融解熱量を示すためペレットの保管性は良好であった。一方、高い結晶融解熱量が一因となって水中での容積増加率が低く、吸水能力が不十分であった。
【0078】
[比較例12]
実施例1で用いたDMT、SSIAの共重合量を表3に記載の通り変更し、DMI、TBT、LAHを添加せず、ポリエチレングリコールの数平均分子量と含有量を表3に記載の通り変更し、表3に記載の通りアルキレングリコール成分としてエチレングリコールを併用し、酢酸マンガン4.5g、二酸化ゲルマニウムを9.0g加えたうえで、EI反応を140~230℃、重合反応を285℃で実施したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。
比較例11と同様、比較例12で得られる組成物は高い結晶融解熱量を示すためペレットの保管性は良好であった。一方、高い結晶融解熱量が一因となって水中での容積増加率が低く、吸水能力が不十分であった。
【0079】
【0080】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は2019年4月19日付で出願された日本特許出願(特願2019-080057)に基づいており、その全体が引用により援用される。