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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】赤外線吸収ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20240312BHJP
   C03C 4/08 20060101ALI20240312BHJP
   C03C 3/247 20060101ALI20240312BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20240312BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C03C23/00 A
C03C4/08
C03C3/247
C03C19/00 Z
G02B5/22
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020548202
(86)(22)【出願日】2019-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2019033273
(87)【国際公開番号】W WO2020059431
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2018175864
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】坂出 喜之
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190282(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084380(WO,A1)
【文献】特開2004-083290(JP,A)
【文献】特開2016-059973(JP,A)
【文献】国際公開第2019/058858(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 23/00
B08B 3/12
C03C 3/247
C03C 4/08
C03C 19/00
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成としてカチオン%表示で、P 5+ :5~50%、Al 3+ :2~30%、R (但し、Rは、Li、Na、及びKから選ばれる少なくとも一種):10~50%、R’ 2+ (但し、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、及びZnから選ばれる少なくとも一種):20~50%、及びCu 2+ :0.5~15%を含有し、かつアニオン%表示で、F :5~80%、及びO 2- :20~95%を含有するガラスを準備する準備工程と、
水を用いて前記ガラスを処理する第1処理工程と、
前記第1処理工程後、前記ガラスの表面に付着している水を前記水と相溶する有機溶剤を用いて希釈又は除去する処理を行う第2処理工程と、を備えることを特徴とする赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記第2処理工程は、前記有機溶剤を含有する処理液に前記ガラスを浸漬する処理液浸漬段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記第2処理工程の前記処理液浸漬段階において、前記処理液中の前記ガラスに超音波を照射することを特徴とする請求項2に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記第2処理工程は、前記有機溶剤を含有する処理液を、ノズルを用いて、板状の前記ガラスの両主面に向けて噴霧する噴霧段階を含み、
前記処理液中の前記有機溶剤の含有量は、90質量%以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記第1処理工程は、前記ガラスを研磨する研磨段階を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記第1処理工程は、樹脂発泡体を用いて前記ガラスを擦って洗浄する擦り洗浄段階を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記第1処理工程は、水を含有する水系洗浄液に前記ガラスを浸漬して洗浄する浸漬洗浄段階を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記第1処理工程の前記浸漬洗浄段階で用いる前記水系洗浄液は、界面活性剤を含有し、
前記第1処理工程の前記浸漬洗浄段階では、前記水系洗浄液中の前記ガラスに超音波を照射しないことを特徴とする請求項7に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記界面活性剤を含有する前記水系洗浄液のpHは、9以上、13以下の範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記第2処理工程で用いる前記有機溶剤は、前記水よりも揮発性が高いことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記第1処理工程の後に前記第2処理工程を行う処理操作を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の赤外線吸収ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、ガラス組成としてカチオン%表示で5%以上のP5+と、0.5%以上のCu2+とを含有する赤外線吸収ガラスが知られている。このような赤外線吸収ガラスは、例えば、CCD(電荷結合素子)やCMOS(相補性金属酸化膜半導体)等の固体撮像素子の視感度を補正するフィルタ用途に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-199430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような赤外線吸収ガラスは、ガラス組成としてカチオン%表示で5%以上のP5+と、0.5%以上のCu2+とを含有するガラスを準備し、このガラスに研磨、洗浄等の処理を施すことで得られる。
【0005】
ここで、上記のようなP5+を主成分とするガラス組成のガラスは、SiOを主成分とするガラス等に比べて耐水性が極めて低いため、研磨や洗浄等の処理で付着した水により濡れた状態でガラスを放置すると、ガラスが脆化する等、十分なガラスの品位を維持できなくなるおそれがあった。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、品位の低下を抑えることのできる赤外線吸収ガラスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する赤外線吸収ガラスの製造方法は、ガラス組成としてカチオン%表示で5%以上のP5+と、0.5%以上のCu2+とを含有するガラスを準備する準備工程と、水を用いて前記ガラスを処理する第1処理工程と、前記第1処理工程後、前記ガラスの表面に付着している水を前記水と相溶する有機溶剤を用いて希釈又は除去する処理を行う第2処理工程と、を備える。
【0008】
この方法によれば、第1処理工程の後にガラスの表面に付着している水を、第2処理工程において有機溶剤を用いて希釈又は除去することにより、ガラスの表面と水との接触を要因としたガラスの脆化を抑えることができる。
【0009】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記第2処理工程は、前記有機溶剤を含有する処理液に前記ガラスを浸漬する処理液浸漬段階を含むことが好ましい。
この方法によれば、ガラスの表面に付着している水を速やかに希釈又は除去することができる。
【0010】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記第2処理工程の前記処理液浸漬段階において、前記処理液中の前記ガラスに超音波を照射することが好ましい。
この方法によれば、処理液浸漬段階を利用してガラスの清浄性をより高めることができる。
【0011】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記第2処理工程は、前記有機溶剤を含有する処理液を前記ガラスに噴霧する噴霧段階を含むことが好ましい。
この方法によれば、例えば、有機溶剤の使用量を抑えることが可能となる。
【0012】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記第1処理工程は、前記ガラスを研磨する研磨段階を含むことが好ましい。
この方法によれば、表面の平滑性を高めた赤外線吸収ガラスを得ることができる。
【0013】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記第1処理工程は、樹脂発泡体を用いて前記ガラスを擦って洗浄する擦り洗浄段階を含むことが好ましい。
この方法によれば、ガラスの表面に付着した異物を容易に除去することができるため、ガラスの清浄性を容易に高めることができる。
【0014】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記第1処理工程は、水を含有する水系洗浄液に前記ガラスを浸漬して洗浄する浸漬洗浄段階を含むことが好ましい。
この方法によれば、水系洗浄液を用いてガラスの清浄性を容易に高めることができる。
【0015】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記第1処理工程の前記浸漬洗浄段階で用いる前記水系洗浄液は、界面活性剤を含有することが好ましい。
この方法によれば、界面活性剤の洗浄作用を利用してガラスの表面の清浄性をさらに容易に高めることができる。
【0016】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記界面活性剤を含有する前記水系洗浄液のpHは、9以上、13以下の範囲内であることが好ましい。
この方法によれば、例えば、ガラスの脆化を抑え、かつガラスの洗浄性を高めることが可能となる。
【0017】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記第2処理工程で用いる前記有機溶剤は、前記水よりも揮発性が高いことが好ましい。
この方法によれば、例えば、ガラスを速やかに乾燥することが可能となる。
【0018】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記第1処理工程の後に前記第2処理工程を行う処理操作を複数回繰り返してもよい。
この方法によれば、例えば、より高度なガラスの処理に対応することができる。
【0019】
上記赤外線吸収ガラスの製造方法において、前記準備工程で準備するガラスは、ガラス組成としてカチオン%表示で、P5+:5~50%、Al3+:2~30%、R(但し、Rは、Li、Na、及びKから選ばれる少なくとも一種):10~50%、R’2+(但し、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、及びZnから選ばれる少なくとも一種):20~50%、及びCu2+:0.5~15%を含有し、かつアニオン%表示で、F:5~80%、及びO2-:20~95%を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、赤外線吸収ガラスの品位の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態における赤外線吸収ガラスの製造方法を示すフロー図である。
図2】赤外線吸収ガラスの製造方法の第1処理工程を示すフロー図である。
図3】赤外線吸収ガラスの製造方法の第2処理工程を示すフロー図である。
図4】変更例における赤外線吸収ガラスの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、赤外線吸収ガラスの製造方法の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、赤外線吸収ガラスの製造方法は、ガラス組成としてカチオン%表示で5%以上のP5+と、0.5%以上のCu2+とを含有するガラスを準備する準備工程(ステップS1)と、水を用いてガラスを処理する第1処理工程(ステップS2)とを備えている。赤外線吸収ガラスの製造方法は、ステップS2の第1処理工程後、ガラスの表面に付着している水をその水と相溶する有機溶剤を用いて希釈又は除去する処理を行う第2処理工程(ステップS3)をさらに備えている。
【0023】
まず、ステップS1の準備工程について説明する。
ステップS1の準備工程で準備するガラスの中でも、ガラス組成としてカチオン%表示で、P5+:5~50%、Al3+:2~30%、R(但し、Rは、Li、Na、及びKから選ばれる少なくとも一種):10~50%、R’2+(但し、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、及びZnから選ばれる少なくとも一種):10~50%、及びCu2+:0.5~15%を含有し、かつアニオン%表示で、F:5~80%、及びO2-:20~95%を含有するガラスが好ましい。
【0024】
より好ましいガラスの具体例としては、ガラス組成としてカチオン%表示で、P5+:40~50%、Al3+:7~12%、K:15~25%、Mg2+:3~12%、Ca2+:3~6%、Ba2+:7~12%、Cu2+:1~15%を含有し、かつアニオン%表示で、F:5~80%、及びO2-:20~95%を含有するガラス(リン酸塩ガラス)が挙げられる。
【0025】
より好ましいガラスの他の具体例としては、ガラス組成としてカチオン%表示で、P5+:20~35%、Al3+:10~20%、Li:20~30%、Na:0~10%、Mg2+:1~8%、Ca2+:3~13%、Sr2+:2~12%、Ba2+:2~8%、Zn2+:0~5%、及びCu2+:0.5~5%を含有し、かつアニオン%表示で、F:30~65%、及びO2-:35~75%を含有するガラス(フツリン酸ガラス)が挙げられる。
【0026】
より好ましいガラスの他の具体例としては、ガラス組成としてカチオン%表示で、P5+:35~45%、Al3+:8~12%、Li:20~30%、Mg2+:1~5%、Ca2+:3~6%、Ba2+:4~8%、及びCu2+:1~6%を含有し、かつアニオン%表示で、F:10~20%、及びO2-:75~95%を含有するガラス(フツリン酸ガラス)が挙げられる。
【0027】
より好ましい他のガラスの具体例としては、ガラス組成としてカチオン%表示で、P5+:30~45%、Al3+:15~25%、Li:1~5%、Na:7~13%、K:0.1~5%、Mg2+:1~8%、Ca2+:3~13%、Ba2+:6~12%、Zn2+:0~7%、及びCu2+:1~5%を含有し、かつアニオン%表示で、F:30~45%、及びO2-:50~70%を含有するガラス(フツリン酸ガラス)が挙げられる。
【0028】
ガラスは、板状であることが好ましい。板状のガラスの厚さは、0.4mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以下であり、さらに好ましくは0.02mm以上、0.2mm以下の範囲内である。
【0029】
ガラスは、ガラス原料の溶解、清澄、撹拌等の工程によって得られた溶融ガラスを周知の方法で成形することで得られる。ガラスは、溶融ガラスから成形したガラスインゴットを切断する方法や、オーバーフローダウンドロー法、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法等の成形法を用いて得ることができる。
【0030】
次に、ステップS2の第1処理工程について説明する。
図2に示すように、本実施形態におけるステップS2の第1処理工程は、ガラスを研磨する研磨段階(ステップS2A)を含む。ステップS2Aの研磨段階では、例えば、水系の研磨液と研磨パッドとを用いる周知の研磨方法により行うことができる。ステップS2Aの研磨段階における研磨は、研磨テープを走行または往復動させる研磨方法により行ってもよい。ステップS2Aの研磨段階における研磨は、化学研磨、機械研磨、及び化学機械研磨のいずれであってもよい。また、ステップS2Aの研磨段階における研磨は、粗研磨(ラップ研磨)であってもよいし、精密研磨(仕上研磨、鏡面研磨)であってもよい。また、ステップS2Aの研磨段階は、板状のガラスの表面を研磨する表面研磨でもよいし、板状のガラスの端面を研磨する端面研磨であってもよい。
【0031】
本実施形態におけるステップS2の第1処理工程は、水を含有する水系洗浄液にガラスを浸漬して洗浄する浸漬洗浄段階(ステップS2B)をさらに含む。水系洗浄液は、水のみから構成してもよいし、界面活性剤を含有させてもよい。水系洗浄液に含有させる界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤があげられる。界面活性剤を含有する水系洗浄液のpHは、9以上、13以下の範囲内であることが好ましい。水系洗浄液のpHは、20℃で測定される値である。水系洗浄液のpHは、必要に応じてpH調整剤(無機又は有機アルカリ、無機又は有機酸等)や緩衝剤を用いて調整することができる。水系洗浄液中の界面活性剤の含有量は、1質量%以上、5質量%以下の範囲内であることが好ましい。この場合、界面活性剤の洗浄作用を高め、かつガラスの表面に残留する界面活性剤を削減することができる。ステップS2Bの浸漬洗浄段階において、ガラスは、例えば単数又は複数枚が治具に縦姿勢で支持された状態で、水系洗浄液で満たされた洗浄槽内に浸漬される。なお、ガラスは、横姿勢で支持された状態で、洗浄槽内に浸漬されてもよい。ステップS2Bの浸漬洗浄段階で用いる水系洗浄液の温度は、例えば1~90℃であり、好ましくは5~50℃、より好ましくは10~40℃である。また、ステップS2Bの浸漬洗浄段階における浸漬時間は、例えば1~10分であり、好ましくは1~5分、より好ましくは1~3分である。
【0032】
ここで、水系洗浄液に浸漬されているガラスは、水を要因とした脆化が進行し易い状態であり、この状態のガラスに超音波を照射すると、ガラスにエロージョン(壊食)が発生し易くなる。このようなエロージョンの発生を抑えるという観点から、ステップS2Bの浸漬洗浄段階における洗浄は、ガラスに超音波を照射しない洗浄であることが好ましい。
【0033】
本実施形態におけるステップS2の第1処理工程は、樹脂発泡体を用いてガラスを擦って洗浄する擦り洗浄段階(ステップS2C)をさらに含む。ステップS2Cの擦り洗浄段階で用いる樹脂発泡体の樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0034】
ステップS2Cの擦り洗浄段階は、上記樹脂からなる回転パッドや、回転ローラをガラスの主面に押し当てることにより実施されてもよいし、作業者による手作業で実施されてもよい。
【0035】
次に、ステップS3の第2処理工程について説明する。
ステップS3の第2処理工程で用いる上記有機溶剤としては、例えば、アルコール、ケトン、エーテル等が挙げられる。有機溶剤の中でも、水よりも揮発性が高い有機溶剤であることが好ましく、より好ましくは炭素数1~3の一価アルコールであり、さらに好ましくはイソプロピルアルコールである。
【0036】
図3に示すように、本実施形態におけるステップS3の第2処理工程は、有機溶剤を含有する処理液にガラスを浸漬する処理液浸漬段階(ステップS3A)を含む。ステップS3Aの処理液浸漬段階で用いる処理液は、有機溶剤を主成分とし、有機溶剤と相溶する水等をさらに含有していてもよい。ステップS3Aの処理液浸漬段階で用いる処理液中の有機溶剤の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。この処理液中の有機溶剤の含有量を高めることで、ガラスの脆化をより抑えることができる。ステップS3Aの処理液浸漬段階で用いる処理液の温度は、例えば1~90℃であり、好ましくは5~50℃、より好ましくは10~40℃である。また、ステップS3Aの処理液浸漬段階における浸漬時間は、例えば1~10分であり、好ましくは1~5分、より好ましくは1~3分である。
【0037】
ステップS3Aの処理液浸漬段階において、ガラスは、例えば単数又は複数枚が治具に縦姿勢で支持された状態で、処理液で満たされた処理槽内に浸漬される。なお、ガラスは、横姿勢で支持された状態で、処理槽内に浸漬されてもよい。
【0038】
ステップS3Aの処理液浸漬段階では、処理液中のガラスに超音波を照射することが好ましい。このステップS3Aの処理液浸漬段階では、周知の超音波洗浄装置を用いることができる。
【0039】
本実施形態におけるステップS3の第2処理工程は、有機溶剤を含有する処理液をガラスに噴霧する噴霧段階(ステップS3B)をさらに含む。ステップS3Bの噴霧段階で用いる処理液は、有機溶剤を主成分とし、有機溶剤と相溶する水等をさらに含有していてもよい。
【0040】
ステップS3Bの噴霧段階で用いる処理液中の有機溶剤の含有量は、ステップS3Aの処理液浸漬段階で用いる処理液中の有機溶剤の含有量よりも高いことが好ましい。ステップS3Bの噴霧段階で用いる処理液中の有機溶剤の含有量は、90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上である。この処理液中の有機溶剤の含有量を高めることで、ガラスの脆化をより抑えることができる。また、有機溶剤として、水よりも揮発性の高い有機溶剤を用いた場合、ガラスを速やかに乾燥することもできる。すなわち、ステップS3の第2処理工程における最終段階(検査に供する赤外線吸収ガラスを得る段階)では、ガラスの脆化をより抑え、かつガラスの表面を速やかに乾燥するという観点から、水よりも揮発性の高い有機溶剤を90質量%以上含有する処理液を用いることが好ましい。
【0041】
上述したステップS3Bの噴霧段階では、一流体噴霧ノズルや二流体噴霧ノズルを用いることができる。ステップS3Bの噴霧段階において、ガラスは、例えば単数又は複数枚が治具に縦姿勢で支持された状態で、ガラスの両主面に処理液が噴霧される。なお、ガラスは、横姿勢で支持された状態で、ガラスの両主面に処理液が噴霧されてもよい。ステップS3Bの噴霧段階における噴霧雰囲気の温度は、例えば1~90℃であり、好ましくは5~50℃、より好ましくは10~40℃である。また、ステップS3Bの噴霧段階における噴霧時間は、例えば1~10分であり、好ましくは1~5分、より好ましくは1~3分である。
【0042】
なお、赤外線吸収ガラスの製造方法において、上述した第1処理工程の後に第2処理工程を行う処理操作を複数回繰り返してもよい。すなわち、赤外線吸収ガラスの製造方法において、第1処理工程と第2処理工程とを1回の処理操作として、この処理操作を2回以上行うこともできる。
【0043】
赤外線吸収ガラスの製造方法によって得られた赤外線吸収ガラスは、表面における異常(傷等)の有無についての検査が行われた後、梱包された状態で出荷される。
赤外線吸収ガラスの製造方法によって得られたガラスは、例えば、CCD(電荷結合素子)やCMOS(相補性金属酸化膜半導体)等の固体撮像素子の視感度を補正するフィルタ用途に好適に用いることができる。
【0044】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)赤外線吸収ガラスの製造方法は、ステップS1の準備工程と、ステップS2の第1処理工程と、ステップS3の第2処理工程とを備えている。
【0045】
この方法によれば、ステップS2の第1処理工程の後にガラスの表面に付着している水を、ステップS2の第2処理工程において有機溶剤を用いて希釈又は除去することにより、ガラスの表面と水との接触を要因としたガラスの脆化を抑えることができる。従って、赤外線吸収ガラスの品位の低下を抑えることができる。
【0046】
(2)赤外線吸収ガラスの製造方法において、ステップS3の第2処理工程は、ステップS3Aの処理液浸漬段階を含むことが好ましい。この場合、ガラスの表面に付着している水を速やかに希釈又は除去することができる。
【0047】
(3)ステップS3の第2処理工程がステップS3Aの処理液浸漬段階を含む場合、ステップS3Aの処理液浸漬段階では、処理液中のガラスに超音波を照射することが好ましい。この場合、ステップS3Aの処理液浸漬段階を利用してガラスの清浄性をより高めることができる。
【0048】
(4)赤外線吸収ガラスの製造方法において、ステップS3の第2処理工程は、ステップS3Bの噴霧段階を含むことが好ましい。この場合、例えば、有機溶剤の使用量を抑えることが可能となる。
【0049】
(5)赤外線吸収ガラスの製造方法において、ステップS2の第1処理工程は、ステップS2Aの研磨段階を含むことが好ましい。この場合、表面の平滑性を高めた赤外線吸収ガラスを得ることができる。
【0050】
(6)赤外線吸収ガラスの製造方法において、ステップS2の第1処理工程は、ステップS2Cの擦り洗浄段階を含むことが好ましい。この場合、ガラスの表面に付着した異物を容易に除去することができるため、ガラスの清浄性を容易に高めることができる。
【0051】
(7)赤外線吸収ガラスの製造方法において、ステップS2の第1処理工程は、ステップS2Bの浸漬洗浄段階を含むことが好ましい。この場合、水系洗浄液を用いてガラスの清浄性を容易に高めることができる。
【0052】
(8)ステップS2Bの浸漬洗浄段階で用いる水系洗浄液は、界面活性剤を含有することが好ましい。この場合、界面活性剤の洗浄作用を利用してガラスの表面の清浄性をさらに容易に高めることができる。
【0053】
(9)ステップS2Bの浸漬洗浄段階で界面活性剤を含有する水系洗浄液を用いる場合、水系洗浄液のpHは、9以上、13以下の範囲内であることが好ましい。この場合、例えば、ガラスの脆化を抑え、かつガラスの洗浄性を高めることが可能となる。
【0054】
(10)ステップS3の第2処理工程で用いる有機溶剤は、水よりも揮発性が高いことが好ましい。この場合、例えば、ガラスを速やかに乾燥することが可能となる。
なお、ステップS3Aの処理液浸漬段階で用いる有機溶剤と、ステップS3Bの噴霧段階で用いる有機溶剤とは、同じ種類であってもよいし、互いに異なる種類であってもよい。例えば、ステップS3Aの処理液浸漬段階では、水よりも揮発性の低い有機溶剤を用いるとともに、ステップS3Bの噴霧段階では、水よりも揮発性が高い有機溶剤を用いることもできる。
【0055】
(11)赤外線吸収ガラスの製造方法において、ステップS2の第1処理工程の後にステップS3の第2処理工程を行う処理操作を複数回繰り返してもよい。この場合、例えば、ステップS2Aの研磨段階を複数回行うことで、より高度なガラスの処理に対応することができる。また、第1の処理操作の終了後から、次に行う第2の処理操作の開始時までの時間を延長したとしても、ガラスの脆化が抑えられるため、工程間の待機時間を確保することができる等、赤外線吸収ガラスの製造工程の自由度を高めることができる。
【0056】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0057】
・赤外線吸収ガラスの製造方法において、ステップS2の第1処理工程を少なくとも一つの段階から構成することもできる。また、ステップS2の第1処理工程は、例えば、水を噴射するシャワーノズルを用いてガラスを洗浄するシャワー洗浄段階等を含む工程に変更することもできる。このようなステップS2の第1処理工程は、ステップS2Aの研磨段階、ステップS2Bの浸漬洗浄段階、ステップS2Cの擦り洗浄段階、及び上記シャワー洗浄段階の少なくとも一つの段階を含むことが好ましい。
【0058】
・赤外線吸収ガラスの製造方法において、ステップS3の第2処理工程を少なくとも一つの段階から構成することもできる。また、ステップS3の第2処理工程は、例えば、有機溶剤を含有する処理液を噴射するシャワーノズルを用いて処理液をガラスに供給する処理液供給段階等を含む工程に変更することもできる。このようなステップS3の第2処理工程は、ステップS3Aの処理液浸漬段階、ステップS3Bの噴霧段階、及び上記処理液供給段階の少なくとも一つの段階を含むことが好ましい。
【0059】
・ステップS2の第1処理工程において、ステップS2Bの浸漬洗浄段階と、ステップS2Cの擦り洗浄段階との順序を入れ替えてもよい。
・ステップS2の第1処理工程又はステップS3の第2処理工程において、同じ段階を複数回繰り返してもよい。例えば、ステップS2Bの浸漬洗浄段階では、浸漬用の槽を複数準備し、その複数の槽にガラスを順次浸漬することで、ステップS2Bの浸漬洗浄段階を複数回繰り返すことができる。この場合、複数の槽中の水系洗浄液の組成は、同じ組成であってもよいし、互いに異なる組成であってもよい。例えば、ステップS3Aの処理液浸漬段階についても、浸漬用の槽を複数準備し、その複数の槽にガラスを順次浸漬することで、ステップS3Aの処理液浸漬段階を複数回繰り返すことができる。この場合についても、複数の槽中の処理液の組成は、同じ組成であってもよいし、互いに異なる組成であってもよい。
【0060】
・上述したステップS3の第2処理工程の後、図4に示すようにステップS4のエッチング工程の処理をさらに実施しても良い。ステップS4のエッチング工程は、例えば、ガラスをエッチング液に浸漬することで行われる。エッチング液としては、例えば、Na、Kなどのアルカリ成分や、トリエタノールアミン、ベンジルアルコール又はグリコールなどの界面活性剤、および水又はアルコールなどを含有する洗剤を使用できる。このエッチング液には、例えば、フッ酸、塩酸等を低濃度でさらに添加しても良い。本発明のステップS1~S3の処理を経たガラスはエロージョンや脆化が生じ難いため、ステップS4のエッチング工程で破損や穴欠陥が生じ難く、高い品位のガラスを得られる。
【0061】
・ステップS4のエッチング工程の処理後、ガラスに対してさらに水による洗浄を行うことが好ましい。また、洗浄の後、再度、ステップS3の第2処理工程の処理を実行しても良い。このような構成によれば、ステップS4のエッチング工程においてガラスに付着したエッチング液を好適に除去し、且つ、残留水分によるガラスの脆化を抑制できる。
【0062】
本開示には以下の構成が含まれる。
[付記1]
非限定的な例に従う赤外線吸収ガラスの製造方法は、
カチオン%表示で5%以上のP5+と0.5%以上のCu2+とを含有する例えばガラス板からなる基材を準備する工程と、
水を用いて前記基材を処理する工程と、
前記基材を処理する工程の後、前記基材の表面に付着している水を、水と相溶する有機溶剤を用いて希釈又は除去する工程と
を備える。
【0063】
[付記2]
非限定的な例において、前記基材の表面の水を希釈又は除去する工程は、前記有機溶剤を含有する処理液に前記基材を浸漬することを含む。
【0064】
[付記3]
非限定的な例において、前記処理液への前記基材の浸漬の際、前記処理液中の前記基材には超音波が照射される。
【0065】
[付記4]
非限定的な例において、前記基材の表面の水を希釈又は除去する工程は、前記有機溶剤を含有する処理液を前記基材に噴霧することを含む。
【0066】
[付記5]
非限定的な例において、前記基材を処理する工程は、前記基材を研磨することを含む。
[付記6]
非限定的な例において、前記基材を処理する工程は、樹脂発泡体を用いて前記基材を擦って洗浄することを含む。
【0067】
[付記7]
非限定的な例において、前記基材を処理する工程は、水系洗浄液に前記基材を浸漬して洗浄することを含む。
【0068】
[付記8]
非限定的な例において、前記水系洗浄液は界面活性剤を含有する。
[付記9]
非限定的な例において、前記水系洗浄液のpHは9~13である。
【0069】
[付記10]
非限定的な例において、前記有機溶剤は水と比べて高い揮発性を有する。
[付記11]
非限定的な例において、前記基材を処理する工程及びその後に前記基材の表面の水を希釈又は除去する工程は、複数回にわたって繰り返し行われる。
【0070】
[付記12]
非限定的な例において、前記基材は、カチオン%表示で5~50%のP5+と2~30%のAl3+と10~50%のR(但し、Rは、Li、Na、及びKから選ばれる少なくとも一種)と20~50%のR’2+(但し、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、及びZnから選ばれる少なくとも一種)と0.5~15%のCu2+とを含有し、かつアニオン%表示で5~80%のFと20~95%のO2-とを含有する。
図1
図2
図3
図4