(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】全方向移動車の走行制御システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/223 20240101AFI20240312BHJP
G05D 1/243 20240101ALI20240312BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240312BHJP
【FI】
G05D1/223
G05D1/243
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2021015736
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓輔
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-71768(JP,A)
【文献】特開2014-6835(JP,A)
【文献】特開2018-142246(JP,A)
【文献】特表2017-520843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
G05D 1/223
G05D 1/243
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪を駆動する駆動部を具備した全方向移動車の走行制御システムにおいて、
作業者の手動操作により前記全方向移動車の走行を指示する操作部と、
前記操作部により前記全方向移動車の並進走行が指示されると、前記全方向移動車の周囲に存在する作業者に関する検知対象を検知する検知部と、
前記検知部により検知された前記検知対象と前記全方向移動車の中心部とを結んだ仮想直線を求め、前記仮想直線に基づいて前記操作部の操作方向に応じた前記全方向移動車の移動方向を設定する移動方向設定部と、
前記移動方向設定部により設定された前記移動方向に前記全方向移動車を並進走行させるように前記駆動部を制御する走行制御部とを備える全方向移動車の走行制御システム。
【請求項2】
前記検知部は、前記操作部により前記全方向移動車の並進走行が指示された後、前記操作部による前記全方向移動車の並進走行の指示が行われない状態が規定時間経過するまでは、前記操作部による次の前記全方向移動車の並進走行の指示を受け付けない請求項1記載の全方向移動車の走行制御システム。
【請求項3】
前記検知部は、前記作業者が着用する特徴物を前記検知対象として検知する請求項1または2記載の全方向移動車の走行制御システム。
【請求項4】
前記移動方向設定部は、前記操作部により前記全方向移動車の前進が指示されたときは、前記仮想直線に沿って前記検知対象から離れる方向を前記移動方向として設定し、前記操作部により前記全方向移動車の後進が指示されたときは、前記仮想直線に沿って前記検知対象に近づく方向を前記移動方向として設定し、前記操作部により前記全方向移動車の左進が指示されたときは、前記仮想直線と垂直に交わる直線における前記検知対象から前記全方向移動車側に見て左方向を前記移動方向として設定し、前記操作部により前記全方向移動車の右進が指示されたときは、前記仮想直線と垂直に交わる直線における前記検知対象から前記全方向移動車側に見て右方向を前記移動方向として設定する請求項1~3の何れか一項記載の全方向移動車の走行制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全方向移動車の走行制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
全方向移動車の走行制御システムとしては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載の全方向移動車の走行制御システムは、全方向移動車の4つの車輪をそれぞれ駆動する4つの駆動モータと、全方向移動車の3自由度方向の目標速度を設定入力するための入力器と、入力器で設定入力された3自由度方向の目標速度に基づいて各車輪の目標回転速度をそれぞれ求め、この目標回転速度に応じて各駆動モータをそれぞれ制御する駆動制御コントローラとを備えている。全方向移動車の3自由度方向の目標速度とは、全方向移動車の横方向目標速度、前後方向目標速度及び回転方向目標角速度のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、全方向移動車を走行させる場合は、全方向移動車の近傍において作業者が入力器を入力操作して、全方向移動車の走行指示を行う。この場合、作業者が全方向移動車の背面側(後側)の位置において入力器により全方向移動車を並進走行させる指示操作を行うときは、全方向移動車を進ませたい方向に直感的に走行指示を出すことができる。しかし、作業者が全方向移動車の背面側以外の位置において入力器により全方向移動車を並進走行させる指示操作を行うときは、作業者が全方向移動車の正面を意識して入力器の操作方向を考えないと、全方向移動車を進ませたい方向に走行指示を出すことができない。つまり、作業者は、直感的に全方向移動車の並進走行の指示操作を行うことができない。
【0005】
本発明の目的は、全方向移動車の向きにかかわらず、作業者が直感的に全方向移動車の並進走行の指示操作を行うことができる全方向移動車の走行制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、複数の車輪を駆動する駆動部を具備した全方向移動車の走行制御システムにおいて、作業者の手動操作により全方向移動車の走行を指示する操作部と、操作部により全方向移動車の並進走行が指示されると、全方向移動車の周囲に存在する作業者に関する検知対象を検知する検知部と、検知部により検知された検知対象と全方向移動車の中心部とを結んだ仮想直線を求め、仮想直線に基づいて操作部の操作方向に応じた全方向移動車の移動方向を設定する移動方向設定部と、移動方向設定部により設定された移動方向に全方向移動車を並進走行させるように駆動部を制御する走行制御部とを備える。
【0007】
このような走行制御システムにおいては、操作部により全方向移動車の並進走行が指示されると、全方向移動車の周囲に存在する作業者に関する検知対象が検知される。そして、検知対象と全方向移動車の中心部とを結んだ仮想直線が求められ、その仮想直線に基づいて操作部の操作方向に応じた全方向移動車の移動方向が設定され、その移動方向に全方向移動車を並進走行させるように駆動部が制御される。このため、操作部を持った作業者が全方向移動車の背面側(後側)にいなくても、作業者が直感的に全方向移動車を進ませたい方向に全方向移動車が並進走行するようになる。従って、作業者は、全方向移動車の背面側にいないときでも、操作部により全方向移動車の並進走行の指示操作を行う際に、全方向移動車の正面を意識しなくて済む。これにより、全方向移動車の向きにかかわらず、作業者が直感的に全方向移動車の並進走行の指示操作を行うことができる。
【0008】
検知部は、操作部により全方向移動車の並進走行が指示された後、操作部による全方向移動車の並進走行の指示が行われない状態が規定時間経過するまでは、操作部による次の全方向移動車の並進走行の指示を受け付けなくてもよい。このような構成では、作業者が操作部により並進走行を指示した直後に、作業者が移動しながら操作部により次の並進走行を指示しても、その指示は受け付けられず、先に操作部により全方向移動車の並進走行が指示された際に設定された移動方向への全方向移動車の並進走行が継続される。従って、全方向移動車の並進走行動作がスムーズに行われる。
【0009】
検知部は、作業者が着用する特徴物を検知対象として検知してもよい。このような構成では、検知対象が検知されやすくなるため、検知対象と全方向移動車の中心部とを結んだ仮想直線が正確に求められる。従って、作業者が直感的に全方向移動車を進ませたい方向に全方向移動車が精度良く並進走行するようになる。
【0010】
移動方向設定部は、操作部により全方向移動車の前進が指示されたときは、仮想直線に沿って検知対象から離れる方向を移動方向として設定し、操作部により全方向移動車の後進が指示されたときは、仮想直線に沿って検知対象に近づく方向を移動方向として設定し、操作部により全方向移動車の左進が指示されたときは、仮想直線と垂直に交わる直線における検知対象から全方向移動車側に見て左方向を移動方向として設定し、操作部により全方向移動車の右進が指示されたときは、仮想直線と垂直に交わる直線における検知対象から全方向移動車側に見て右方向を移動方向として設定してもよい。このような構成では、作業者は、全方向移動車の正面を意識せずに、直感的に全方向移動車の前後左右の並進走行の指示操作を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、全方向移動車の向きにかかわらず、作業者が直感的に全方向移動車の並進走行の指示操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る全方向移動車の走行制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】全方向移動台車を操作器と共に示す概略斜視図である。
【
図3】
図1に示されたコントローラにより実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【
図4】
図3に示された手順S105の詳細を示すフローチャートである。
【
図5】比較例として、作業者が操作器を操作して全方向移動台車を並進走行させる様子を示す図である。
【
図6】他の比較例として、作業者が操作器を操作して全方向移動台車を並進走行させる様子を示す図である。
【
図7】更に他の比較例として、作業者が操作器を操作して全方向移動台車を並進走行させる様子を示す図である。
【
図8】
図3に示された処理手順によって、作業者が操作器を操作して全方向移動台車を並進走行させる様子を示す図である。
【
図9】
図3に示された処理手順によって、作業者が操作器を操作して全方向移動台車を並進走行させる様子を示す図である。
【
図10】
図3に示されたコントローラにより実行される処理手順の変形例を示すフローチャートである。
【
図11】
図1に示された走行制御システムの変形例を示すブロック図である。
【
図12】作業者が着用する特徴物を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図中、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る全方向移動車の走行制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図1において、本実施形態の走行制御システム1は、
図2に示されるような全方向移動台車2に適用される。全方向移動台車2は、前後方向(y方向)、左右方向(x方向)及び旋回方向(γ方向)の3自由度方向に移動可能な台車(全方向移動車)である。全方向移動台車2の前後方向及び左右方向の移動は、並進と称される。
【0015】
全方向移動台車2は、台車本体3と、この台車本体3の前後左右に配置された複数(ここでは4つ)の全方向移動用の車輪4とを具備している。車輪4は、例えば45度オムニホイールまたはメカナムホイールである。各車輪4は、図示しない走行モータ(後述)により独立して駆動される。各車輪4をそれぞれ独立して駆動することで、台車本体3の向きを変えることなく、全方向(3自由度方向)に移動可能である。
【0016】
本実施形態の走行制御システム1は、全方向移動台車2を自律走行させるシステムである。走行制御システム1は、操作器5と、送受信部6と、レーザセンサ7と、駆動部8と、コントローラ10とを備えている。送受信部6、レーザセンサ7、駆動部8及びコントローラ10は、全方向移動台車2に搭載されている。
【0017】
操作器5は、作業者S(
図8及び
図9等参照)の手動操作により全方向移動台車2の走行を指示する無線式の操作部である。操作器5は、全方向移動台車2を前進(前移動)させるための前進スイッチ21と、全方向移動台車2を後進(後移動)させるための後進スイッチ22と、全方向移動台車2を左進(左移動)させるための左進スイッチ23と、全方向移動台車2を右進(右移動)させるための右進スイッチ24とを有している(
図8及び
図9等参照)。前進スイッチ21、後進スイッチ22、左進スイッチ23及び右進スイッチ24は、例えばボタン式のスイッチであり、操作器5の操作方向を設定する。
【0018】
送受信部6は、操作器5との間で無線による送受信を行う。操作器5の操作信号(指示信号)は、送受信部6により受信されてコントローラ10に送られる。
【0019】
レーザセンサ7は、全方向移動台車2の周囲に向けてレーザを照射し、レーザの反射光を受光することにより、全方向移動台車2の周囲に存在する物体を検出する。レーザセンサ7としては、例えば2Dまたは3Dのレーザレンジファインダが使用される。
【0020】
駆動部8は、4つの車輪4をそれぞれ独立に回転駆動させる4つの走行モータ(図示せず)を有している。
【0021】
コントローラ10は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。コントローラ10は、操作器5の操作信号及びレーザセンサ7の検出データを入力し、全方向移動台車2の走行制御に関する所定の処理を実行し、駆動部8を制御する。
【0022】
コントローラ10は、物体検知部11と、移動方向設定部12と、走行制御部13とを有している。
【0023】
物体検知部11は、操作器5の前進スイッチ21、後進スイッチ22、左進スイッチ23及び右進スイッチ24の何れかにより全方向移動台車2の並進走行が指示されると、レーザセンサ7の検出データに基づいて、全方向移動台車2に最も近くに存在する作業者S(
図8及び
図9等参照)を検知対象として検知する。全方向移動台車2を走行させようとする作業者は、全方向移動台車2の近傍に立って、操作器5を手に持っている。このため、物体検知部11は、全方向移動台車2に最も近くに立っている人を、全方向移動台車2を走行させようとする作業者Sである検知対象として検知する。
【0024】
全方向移動台車2に最も近い作業者S自身は、全方向移動台車2の周囲に存在する作業者Sに関する検知対象である。このため、物体検知部11は、レーザセンサ7と協働して、操作器5により全方向移動台車2の並進走行が指示されると、全方向移動台車2の周囲に存在する作業者Sに関する検知対象を検知する検知部を構成する。
【0025】
また、物体検知部11は、操作器5により全方向移動台車2の並進走行が指示された後、操作器5による全方向移動台車2の並進走行の指示が行われない状態が規定時間経過するまでは、操作器5による次の全方向移動台車2の並進走行の指示を受け付けない。
【0026】
移動方向設定部12は、物体検知部11により検知された検知対象である全方向移動台車2に最も近い作業者Sと全方向移動台車2の中心部とを結んだ仮想直線P(
図9参照)を求め、その仮想直線Pに基づいて操作器5の操作方向に応じた全方向移動台車2の移動方向を設定する。
【0027】
走行制御部13は、移動方向設定部12により設定された移動方向に全方向移動台車2を並進走行させるように駆動部8を制御する。
【0028】
図3は、コントローラ10により実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。
図3において、コントローラ10は、まず送受信部6を介して取得された操作器5の操作信号に基づいて、操作器5の前進スイッチ21、後進スイッチ22、左進スイッチ23及び右進スイッチ24の何れかにより全方向移動台車2の並進走行が指示されたかどうかを判断する(手順S101)。
【0029】
コントローラ10は、全方向移動台車2の並進走行が指示されたと判断したときは、レーザセンサ7の検出データを取得する(手順S102)。そして、コントローラ10は、レーザセンサ7の検出データに基づいて、全方向移動台車2に最も近い作業者Sを検知する(手順S103)。
【0030】
続いて、コントローラ10は、全方向移動台車2に最も近い作業者Sの中心部と全方向移動台車2の中心部とを結んだ仮想直線P(
図9参照)を算出する(手順S104)。作業者Sの中心部及び全方向移動台車2の中心部は、何れも平面方向の中心部である。そして、コントローラ10は、仮想直線Pに基づいて操作器5の操作方向に応じた全方向移動台車2の移動方向を設定する(手順S105)。
【0031】
図4は、手順S105の詳細を示すフローチャートである。
図4において、コントローラ10は、まず前進スイッチ21により全方向移動台車2の前進が指示されたかどうかを判断する(手順S111)。コントローラ10は、全方向移動台車2の前進が指示されたと判断したときは、仮想直線Pに沿って全方向移動台車2に最も近い作業者Sから離れる方向を全方向移動台車2の移動方向として設定する(手順S112)。
【0032】
コントローラ10は、全方向移動台車2の前進が指示されていないと判断したときは、後進スイッチ22により全方向移動台車2の後進が指示されたかどうかを判断する(手順S113)。コントローラ10は、全方向移動台車2の後進が指示されたと判断したときは、仮想直線Pに沿って全方向移動台車2に最も近い作業者Sに近づく方向を全方向移動台車2の移動方向として設定する(手順S114)。
【0033】
コントローラ10は、全方向移動台車2の後進が指示されていないと判断したときは、左進スイッチ23により全方向移動台車2の左進が指示されたかどうかを判断する(手順S115)。コントローラ10は、全方向移動台車2の左進が指示されたと判断したときは、仮想直線Pと垂直に交わる直線における全方向移動台車2に最も近い作業者Sから全方向移動台車2側に見て左方向を全方向移動台車2の移動方向として設定する(手順S116)。
【0034】
コントローラ10は、全方向移動台車2の左進が指示されていないと判断したときは、右進スイッチ24により全方向移動台車2の右進が指示されたかどうかを判断する(手順S117)。コントローラ10は、全方向移動台車2の右進が指示されたと判断したときは、仮想直線Pと垂直に交わる直線における全方向移動台車2に最も近い作業者Sから全方向移動台車2側に見て右方向を全方向移動台車2の移動方向として設定する(手順S118)。
【0035】
コントローラ10は、全方向移動台車2の右進が指示されていないと判断したときは、手順S112,S114,S116,S118を実行しない。
【0036】
図3に戻り、コントローラ10は、手順S105を実行した後、全方向移動台車2を移動方向に並進走行させるように駆動部8を制御する(手順S106)。
【0037】
続いて、コントローラ10は、手順S101で全方向移動台車2の並進走行が指示された後、操作器5による全方向移動台車2の並進走行の指示が行われない状態が規定時間だけ経過したかどうかを判断する(手順S107)。コントローラ10は、操作器5による全方向移動台車2の並進走行の指示が行われない状態が規定時間だけ経過したと判断したときは、操作器5の操作方向をリセットし(手順S108)、上記の手順S101を再度実行する。
【0038】
コントローラ10は、操作器5による全方向移動台車2の並進走行の指示が行われない状態が規定時間だけ経過していないと判断したときは、上記の手順S108を実行しない。このため、全方向移動台車2の並進走行が指示された後、全方向移動台車2の並進走行の指示が行われない状態が規定時間経過するまでは、次の全方向移動台車2の並進走行の指示が受け付けられないこととなる。従って、操作器5の操作方向に応じた全方向移動台車2の並進走行が継続して行われる。
【0039】
ここで、物体検知部11は、手順S101~S103,S107,S108を実行する。移動方向設定部12は、手順S104,S105を実行する。走行制御部13は、手順S106を実行する。
【0040】
ところで、従来一般では、操作器5の前進スイッチ21が押されると、全方向移動台車2が正面方向に並進し、操作器5の後進スイッチ22が押されると、全方向移動台車2が背面方向に並進し、操作器5の左進スイッチ23が押されると、全方向移動台車2が正面に対して左側に並進し、操作器5の右進スイッチ24が押されると、全方向移動台車2が正面に対して右側に並進する。
【0041】
このような状況において、例えば
図5に示されるように、操作器5を持った作業者Sが全方向移動台車2の背面側(後側)の位置に立っている場合は、作業者Sが操作器5を操作して全方向移動台車2の並進方向の指示を出す際に、作業者Sに対する全方向移動台車2の相対位置に従って操作器5を直感的に操作することができる。具体的には、作業者Sから見て全方向移動台車2を前に進ませたいために、作業者Sは操作器5の前進スイッチ21を押すことで、作業者Sが思った通りに全方向移動台車2が前に進むようになる。なお、図中の矢印Fは、全方向移動台車2の正面を示している。
【0042】
しかし、
図6及び
図7に示されるように、操作器5を持った作業者Sが全方向移動台車2の背面側以外の位置に立っている状態で、作業者Sが操作器5を操作して全方向移動台車2の並進方向の指示を出す場合は、以下の不具合が生じる。
【0043】
即ち、
図6に示されるように、作業者Sに対する全方向移動台車2の相対位置から直感的に考えて、作業者Sから見て全方向移動台車2を前に進ませたいために、
図5と同様に作業者Sが操作器5の前進スイッチ21を押すと、全方向移動台車2は作業者Sが進ませたい方向とは間違った方向に進んでしまう。
【0044】
その問題を防ぐためには、
図7に示されるように、作業者Sは、操作器5を操作する際に、全方向移動台車2の向きを確認し、全方向移動台車2を進ませたい方向を脳内で変換してから、操作器5の操作を行う必要がある。具体的には、作業者Sが全方向移動台車2を進ませたい方向は全方向移動台車2の正面に対して左向きであるため、作業者Sが操作器5の左進スイッチ23を押すことで、作業者Sが思った通りに全方向移動台車2が進むようになる。
【0045】
しかしながら、作業者Sが全方向移動台車2の向きをいちいち確認して、操作器5の操作方向を考えないと、作業者Sが思った方向に全方向移動台車2を進ませることができない。言い換えると、作業者Sは、直感的に全方向移動台車2の並進走行の指示操作を行うことができない。
【0046】
そのような課題に対し、本実施形態では、
図8(a),(b)に示されるように、作業者Sが全方向移動台車2の背面側以外の位置に立っている場合でも、作業者Sに対する全方向移動台車2の相対位置から直感的に考えて、作業者Sから見て全方向移動台車2を前に進ませたいために、作業者Sは操作器5の前進スイッチ21を押す。
【0047】
すると、
図8(c)に示されるように、レーザセンサ7によりレーザLの反射光を受光して得られた検出データに基づいて、全方向移動台車2に最も近い作業者Sが検知される。そして、
図9(a)に示されるように、全方向移動台車2に最も近い作業者Sの中心部と全方向移動台車2の中心部とを結んだ仮想直線Pが算出される。仮想直線Pは、全方向移動台車2の正面方向とは無関係である。
【0048】
そして、全方向移動台車2は、
図9(b)に示されるように、仮想直線Pに沿って最も近い作業者Sから離れる方向に並進走行する。従って、全方向移動台車2は、作業者Sが思った通りに進むようになる。
【0049】
以上のように本実施形態によれば、操作器5により全方向移動台車2の並進走行が指示されると、全方向移動台車2の周囲に存在する作業者Sが検知される。そして、作業者Sと全方向移動台車2の中心部とを結んだ仮想直線Pが求められ、その仮想直線Pに基づいて操作器5の操作方向に応じた全方向移動台車2の移動方向が設定され、その移動方向に全方向移動台車2を並進走行させるように駆動部8が制御される。このため、操作器5を持った作業者Sが全方向移動台車2の背面側(後側)にいなくても、作業者Sが直感的に全方向移動台車2を進ませたい方向に全方向移動台車2が並進走行するようになる。従って、作業者Sは、全方向移動台車2の背面側にいないときでも、操作器5により全方向移動台車2の並進走行の指示操作を行う際に、全方向移動台車2の正面を意識しなくて済む。これにより、全方向移動台車2の向きにかかわらず、作業者Sが直感的に全方向移動台車2の並進走行の指示操作を行うことができる。
【0050】
また、本実施形態では、コントローラ10の物体検知部11は、操作器5により全方向移動台車2の並進走行が指示された後、操作器5による全方向移動台車2の並進走行の指示が行われない状態が規定時間経過するまでは、操作器5による次の全方向移動台車2の並進走行の指示を受け付けない。このため、作業者Sが操作器5により並進走行を指示した直後に、作業者Sが移動しながら操作器5により次の並進走行を指示しても、その指示は受け付けられず、先に操作器5により全方向移動台車2の並進走行が指示された際に設定された移動方向への全方向移動台車2の並進走行が継続される。従って、全方向移動台車2の並進走行動作がスムーズに行われる。
【0051】
また、本実施形態では、作業者Sは、全方向移動台車2の正面を意識せずに、直感的に全方向移動台車2の前後左右の並進走行の指示操作を行うことができる。
【0052】
また、本実施形態では、人である作業者Sが検知対象であるため、既存の手法により作業者Sを容易に且つ安価に検知することができる。
【0053】
図10は、
図3に示された処理手順の変形例を示すフローチャートである。
図10において、コントローラ10は、まず
図3に示されるフローチャートと同様に、手順S101,S102を実行する。
【0054】
そして、コントローラ10は、レーザセンサ7の検出データに基づいて、全方向移動台車2の周囲に存在する作業者Sが手に持っている操作器5を検知する(手順S103A)。作業者Sが手に持っている操作器5は、全方向移動台車2の周囲に存在する作業者Sに関する検知対象である。
【0055】
続いて、コントローラ10は、作業者Sが手に持っている操作器5の中心部と全方向移動台車2の中心部とを結んだ仮想直線Pを算出する(手順S104A)。そして、コントローラ10は、仮想直線Pに基づいて操作器5の操作方向に応じた全方向移動台車2の移動方向を設定する(手順S105)。
【0056】
その後、コントローラ10は、
図3に示されるフローチャートと同様に、手順S106~S108を実行する。
【0057】
このような本変形例では、全方向移動台車2の周囲に存在する作業者Sが持っている操作器5が検知されるため、操作器5を持っていない作業者Sが誤検知されることが防止される。
【0058】
図11は、
図1に示された走行制御システム1の変形例を示すブロック図である。
図11において、本実施形態の走行制御システム1は、レーザセンサ7に代えて、カメラ17を備えている。カメラ17は、全方向移動台車2の周囲を撮像することにより、全方向移動台車2の周囲に存在する物体を検出する。
【0059】
コントローラ10の物体検知部11は、操作器5の前進スイッチ21、後進スイッチ22、左進スイッチ23及び右進スイッチ24の何れかにより全方向移動台車2の並進走行が指示されると、カメラ17の撮像画像に基づいて、全方向移動台車2に最も近い作業者Sまたは作業者Sが手に持っている操作器5を検知対象として検知する。物体検知部11は、カメラ17と協働して、操作器5により全方向移動台車2の並進走行が指示されると、全方向移動台車2の周囲に存在する作業者Sに関する検知対象を検知する検知部を構成する。
【0060】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、全方向移動台車2の周囲に存在する作業者Sに関する検知対象として、全方向移動台車2に最も近い作業者Sまたは作業者Sが手に持っている操作器5が検知されているが、検知対象としては、特にそれには限られず、作業者Sが着用する特徴物であってもよい。作業者Sが着用する特徴物は、全方向移動台車2の周囲に存在する作業者Sに関する検知対象である。
【0061】
全方向移動台車2の周囲に存在する物体を検出するセンサとして、レーザセンサ7を使用する場合には、作業者Sが着用する特徴物は、例えば
図12(a)に示されるように、作業者Sの膝に巻かれる反射材30である。反射材30は、レーザセンサ7から照射されたレーザが反射されやすいため、作業者Sの一部として特定されやすくなる。
【0062】
全方向移動台車2の周囲に存在する物体を検出するセンサとして、カメラ17を使用する場合には、作業者Sが着用する特徴物は、例えば
図12(b)に示されるように、輝度が高い色の作業服31である。輝度が高い色の作業服31は、カメラ17の撮像画像において鮮明に映るため、作業者Sの一部として特定されやすくなる。
【0063】
このように作業者Sが着用する特徴物を検知することにより、検知対象が検知されやすくなるため、検知対象と全方向移動台車2の中心部とを結んだ仮想直線Pが正確に求められる。従って、作業者Sが直感的に全方向移動台車2を進ませたい方向に全方向移動台車2が精度良く並進走行するようになる。
【0064】
また、上記実施形態では、コントローラ10の物体検知部11は、操作器5により全方向移動台車2の並進走行が指示された後、操作器5による全方向移動台車2の並進走行の指示が行われない状態が規定時間経過するまでは、操作器5による次の全方向移動台車2の並進走行の指示を受け付けないが、特にそのような形態には限られない。例えば、物体検知部11は、操作器5により全方向移動台車2の並進走行が指示された後、操作器5のリセットボタンが押されると、操作器5による次の全方向移動台車2の並進走行の指示を受け付けるようにしてもよい。リセットボタンは、操作器5の操作方向をリセット(解除)するスイッチである。また、操作器5による次の全方向移動台車2の並進走行の指示を受け付けないという制約は、特に無くてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、操作器5は、前後左右の並進を指示するための前進スイッチ21、後進スイッチ22、左進スイッチ23及び右進スイッチ24を有しているが、特にそのような形態には限られない。操作器5は、例えば360度全方向への並進を指示することが可能なスイッチを有していてもよい。
【0066】
また、上記実施形態の走行制御システム1は、3自由度方向に移動可能な全方向移動台車2の走行制御を行うシステムであるが、本発明は、3自由方向に移動可能な全方向移動ロボット等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…走行制御システム、2…全方向移動台車(全方向移動車)、4…車輪、5…操作器(操作部、検知対象)、7…レーザセンサ(検知部)、8…駆動部、11…物体検知部(検知部)、12…移動方向設定部、13…走行制御部、17…カメラ(検知部)、30…反射材(特徴物、検知対象)、31…作業服(特徴物、検知対象)、P…仮想直線、S…作業者(検知対象)。