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特許7452503光触媒塗装膜の製造方法及び光触媒塗装膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】光触媒塗装膜の製造方法及び光触媒塗装膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20240312BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240312BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20240312BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20240312BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C23C26/00 C
B05D7/24 303E
B05D3/10 K
B05D3/02 Z
B05D3/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021138881
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032630
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 周
(72)【発明者】
【氏名】加納 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭果
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 裕治
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-233376(JP,A)
【文献】特開2006-086037(JP,A)
【文献】国際公開第2006/054954(WO,A1)
【文献】特開2006-263504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
B05D 3/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化剤である金属アルコキシドを含み、光触媒酸化物粒子を分散させた光触媒塗布材を基材の表面に塗布する第1の工程と、
前記光触媒塗布材に対して40℃以上100℃未満の温度範囲の水蒸気を噴射することによる前記金属アルコキシドへの加水分解によって前記光触媒塗布材を硬化させた光触媒層を形成する第2の工程と、
を備えることを特徴とする光触媒塗装膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光触媒塗装膜の製造方法であって、
前記光触媒塗布材は、前記光触媒酸化物粒子として窒素ドープ酸化チタン又は銅、鉄又は銀を担持した窒素ドープ酸化チタンを含むことを特徴とする光触媒塗装膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光触媒塗装膜の製造方法であって、
前記第2の工程は、加熱手段を用いて前記水蒸気の温度を40℃以上100℃未満の温度範囲に制御し、及び、加圧ポンプ及び流量制御手段を用いて前記水蒸気の供給量を制御することを特徴とする光触媒塗装膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光触媒塗装膜の製造方法であって、
前記光触媒層に加えて、保護層を形成する工程を備えることを特徴とする光触媒塗装膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の光触媒塗装膜の製造方法であって、
前記光触媒層に加えて、前記基材と前記光触媒層との密着性を高めるための密着層を形成する工程を備えることを特徴とする光触媒塗装膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒塗装膜の製造方法及び光触媒塗装膜に関する。
【背景技術】
【0002】
表面形状が良好な塗装層を効率的に形成する塗工方法及び塗装方法が開示されている。例えば、塗布された膜に対して過熱蒸気を噴霧ノズルにより直接噴霧して膜を乾燥・固化させる技術が開示されている(特許文献1)。具体的には、塗工液付き基材に対して130℃以上で且つ500℃以下の過熱蒸気をノズルから噴霧し、その噴霧量又は蒸気温度を段階的に増減させる技術が開示されている。
【0003】
また、塗膜表面を乾燥させる方法であって、第一の工程で熱風により塗膜を固化し、第二の工程で過熱蒸気により塗膜を固化させ、第三の工程で乾燥により塗膜を固化させる技術が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-97323号公報
【文献】特開2017-176937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来技術は、乾燥炉内において一般的な塗装膜の表面と内部の均質性を向上させることを目的としており、飽和水蒸気温度以上の高温に加熱した過熱蒸気を用いている。しかしながら、130℃以上で且つ500℃以下の過熱蒸気を用いるため、耐熱温度が130℃未満の低い樹脂材を基材にした場合に基材が劣化してしまうおそれがあった。
【0006】
また、一般的な光触媒層の固化工程では、塗布された塗料をベーキング炉で加熱して硬化させる処理が行われる。しかしながら、基材や塗料の耐熱性を考慮して加熱温度を低下させることが望まれている。さらに、ベーキング炉などの付帯設備を必要とせず、家やビル等の現場で光触媒層を硬化させることができる技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、基材の表面に金属アルコキシドを含む光触媒塗布材を塗布する第1の工程と、前記光触媒塗布材に対して水蒸気を噴射することによる前記金属アルコキシドへの加水分解によって前記光触媒塗布材を硬化させた光触媒層を形成する第2の工程と、を備えることを特徴とする光触媒塗装膜の製造方法である。
【0008】
ここで、前記第2の工程は、前記水蒸気を40℃以上120℃以下の温度範囲で噴射することが好適である。
【0009】
また、前記第2の工程は、前記水蒸気の温度及び供給量を制御することが好適である。
【0010】
また、前記光触媒層に加えて、保護層を形成する工程を備えることが好適である。また、前記光触媒層に加えて、前記基材と前記光触媒層との密着性を高めるための密着層を形成する工程を備えることが好適である。
【0011】
本発明の別の態様は、金属アルコキシドを含む光触媒塗布材を塗布し、前記光触媒塗布材に対して水蒸気を噴射することによって形成された光触媒層を含むことを特徴とする光触媒塗装膜である。
【0012】
ここで、膜硬さは、鉛筆硬度試験においてHB以上であることが好適である。
【0013】
また、前記光触媒層は、400nm以上の可視光に応答することが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光触媒層に水蒸気を当てることにより、短時間で光触媒層の硬化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態における光触媒塗装膜の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における光触媒塗装膜の製造方法を説明する図である。
図3】実施例1及び比較例1~3における鉛筆硬度試験及び耐摩耗試験の結果を示す図である。
図4】実施例1及び比較例1~3における耐摩耗試験の結果を示す図である。
図5】実施例2及び比較例4における鉛筆硬度試験及び耐摩耗試験の結果を示す図である。
図6】実施例2及び比較例4における耐摩耗試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[基本構成]
本発明の実施の形態における光触媒塗装膜100は、図1の断面模式図に示すように、基材10及び光触媒層12を含んで構成される。図1において基材10及び光触媒層12の各部の寸法は実際の寸法とは異なる場合がある。なお、基材10と光触媒層12との間に保護層や密着層を設けてもよい。
【0017】
基材10は、表面に光触媒層12が形成される部材である。基材10は、特に限定されるものではないが、金属、ガラス、セラミックス、樹脂等とすることができる。基材10は、例えば、アルミニウム(Al)、ガラス、アクリロニトリル・エチレン・スチレン共重合体(AES)、ポリプロピレン(PP)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等とすることができる。
【0018】
光触媒層12は、酸化チタンを含む酸化チタン系光触媒体を含む膜である。光触媒層12は、窒素ドープ酸化チタン又は銅、鉄又は銀を担持した窒素ドープ酸化チタンとすることができる。光触媒層12は、可視光領域の光に対して応答性を有することが好適である。特に、光触媒層12は、少なくとも400nm以上の可視光領域の光に対して応答性を有することが好適である。
【0019】
光触媒層12は、基材10又は基材10の表面に形成された下地膜に対して、可視光に応答する光触媒微粒子を分散させた光触媒コーティング液(光触媒塗布材)をディッピング又はスプレー塗布し、その後、高温蒸気を噴射して高温蒸気処理することによって形成される。
【0020】
光触媒コーティング液は、アルコキシド反応の加水分解と脱水反応によって、水蒸気からOH基を得て、温度上昇に伴って水(HO)の蒸発により光触媒層12を硬化させる物質を含むことが好適である。光触媒コーティング液は、金属アルコキシドを含むことが好適であり、例えばシリコンアルコキシド又はチタンアルコキシドを含むことが好適である。
【0021】
可視光に応答する光触媒微粒子は、特に限定されるものではなく、光照射によって所望の反応を促進させる光触媒の微粒子とすることができる。光触媒微粒子は、例えば、酸化チタン(TiO)系光触媒粒子、酸化スズ(SnO)系光触媒粒子、酸化亜鉛(ZnO)系光触媒粒子、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)系光触媒粒子、酸化タンタル(Ta)系光触媒粒子等とすることができる。特に、光触媒微粒子は、窒素ドープされた酸化チタン又は銅、鉄又は銀を担持した窒素ドープ酸化チタンとすることが好適である。
【0022】
基材10の表面に光触媒コーティング液を塗布した後、図2に示すように、高温蒸気34を噴射して硬化処理が行われる。ノズル20に対してタンク22から加圧ポンプ24によって加圧された水を供給する。水の供給量は、供給管26に設けられた流量調整手段28によって調整される。また、供給管26に設けられた加熱手段30を用いて水を加熱することによって高温蒸気34として基材10の表面に塗布された光触媒コーティング膜へ噴射される。高温蒸気34の吐出圧力、供給量及び温度は、制御装置32によってそれぞれ加圧ポンプ24、流量調整手段28及び加熱手段30を制御することによって調整することができる。これによってアルコキシド反応の加水分解と脱水反応が生じ、光触媒コーティング膜は、高温蒸気34からOH基を得て、温度上昇に伴って水(HO)の蒸発により光触媒層12として硬化される。
【0023】
ここで、高温蒸気34は、湿度が90%以上100%以下となるように噴射することが好適である。高温蒸気34の温度は、40℃以上120℃以下とすることが好適である。また、高温蒸気34の吐出圧力は0.1MPa以上1MPa以下とすることが好適である。高温蒸気34による処理時間は、光触媒層12の硬化が十分に進行する程度であればよいが、例えば5秒以上5分以下とすることが好適である。
【0024】
[実施例及び比較例]
以下、光触媒塗装膜100の実施例及び比較例について説明する。
【0025】
(実施例1及び比較例1~3)
アルミ板を基材10として、シリコンアルコキシドを含むブタノール溶液のシリカ系アンダーコート液に基材10をディッピングすることにより保護層を成膜した。その後、保護層を室温で乾燥させた。さらに、保護層の上に、ブタノールを含むアルコール系溶媒に可視光に応答する光触媒微粒子とシリコンアルコキシド及びチタンアルコキシドを分散させた光触媒コーティング液をディッピングした。光触媒微粒子は銅を担持した窒素ドープ酸化チタンを用い、光触媒コーティング液の固形分濃度は5wt%とした。
(実施例1)光触媒コーティング液にディッピングした後、70℃の高温蒸気を吐出圧力0.32MPaで1min噴射して高温蒸気処理をして基材10の表面に光触媒層12を形成した。
(比較例1)光触媒コーティング液にディッピングした後、200℃の加熱炉で30min処理して基材10の表面に光触媒層を形成した。
(比較例2)光触媒コーティング液にディッピングした後、ドライヤーで120℃の熱風を1min当てて基材10の表面に光触媒層を形成した。
(比較例3)光触媒コーティング液にディッピングした後、室温で1時間放置して基材10の表面に光触媒層を形成した。
【0026】
(実施例2及び比較例4)
AES樹脂板を基材10として、基材10の表面にミッチャクロンマルチTXF(染めQテクノロジィ製)をノズル径0.1mmのスプレーガンを用いて0.2MPaの吐出圧力で噴霧し、100℃の加熱炉で30min処理して密着層を形成させた。その後、同じスプレーガンでシリコンアルコキシドを含むブタノール溶液のシリカ系アンダーコート液を基材10にスプレー噴霧することにより保護層を成膜した。その後、保護層を室温で乾燥させた。そして、保護層の上に、ブタノールを含むアルコール系溶媒に可視光に応答する光触媒微粒子とシリコンアルコキシド及びチタンアルコキシドを分散させた光触媒コーティング液をスプレー噴霧した。光触媒微粒子は銅を担持した窒素ドープ酸化チタンを用い、光触媒コーティング液の固形分濃度は5wt%とした。
(実施例2)光触媒コーティング液をスプレー噴霧した後、70℃の高温蒸気を吐出圧力0.32MPaで1min噴射して高温蒸気処理をして基材10の表面に光触媒層12を形成した。
(比較例4)光触媒コーティング液をスプレー噴霧した後、100℃の加熱炉で30min処理して基材10の表面に光触媒層を形成した。
【0027】
[評価方法]
以下、実施例1~2及び比較例1~4に対する評価方法について説明する。
【0028】
(硬さ試験)
光触媒層12の硬さは、鉛筆硬度試験[JIS K 5600-5-4:1999(塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第4節:引っかき硬度(鉛筆法))]に準じて評価した。鉛筆硬度試験では、柔らかい側から6B,5B,4B,3B,2B,B,HB,F,H,2H,3H,4H,5H,6H,7H,8H,9Hの硬い側まで順に光触媒層12の硬度を評価した。
【0029】
(耐摩耗試験)
光触媒層12の耐摩耗試験は、布(カナキン3号)を巻いた200gの金属製円柱を横向きに置き、塗装面に沿って5cmの距離を90回乾式摺動し、表面の摩耗状態を判断した。摩耗状態の程度は、表1の通りに、耐摩耗性が高いほどレベルが大きくなるように判定した。
【0030】
【表1】
【0031】
[評価結果]
図3は、実施例1及び比較例1~3について鉛筆硬度試験及び耐摩耗試験を行った結果を示す。図3には、実施例1及び比較例1~3について耐摩耗試験において90回の乾式摺動を行った後のサンプルの表面写真を併せて示した。
【0032】
鉛筆硬度試験では、実施例1は5H、比較例1は6H、比較例2及び比較例3は5Hであった。すなわち、実施例1及び比較例1~3において顕著な硬度の差はみられなかった。
【0033】
図4は、耐摩耗試験において耐摩耗耐性を評価した結果を示す。耐摩耗試験では、実施例1はレベル5、比較例1はレベル5、比較例2はレベル2、比較例3はレベル1を示した。
【0034】
図5は、実施例2及び比較例4について鉛筆硬度試験及び耐摩耗試験を行った結果を示す。図5には、実施例2及び比較例4について耐摩耗試験において90回の乾式摺動を行った後のサンプルの表面写真を併せて示した。
【0035】
鉛筆硬度試験では、実施例2はHB及び比較例4はFであった。すなわち、実施例2及び比較例4において顕著な硬度の差はみられなかった。
【0036】
図6は、耐摩耗試験において耐摩耗耐性を評価した結果を示す。耐摩耗試験では、実施例2はレベル4、比較例4はレベル4を示した。
【0037】
以上のように、実施例1及び2の光触媒層12では、高温蒸気処理を施すことによって短時間で光触媒層12を硬化させることができた。また、比較例1~4のように通常の乾式又はベーキング炉の加熱処理による硬化に対して、実施例1及び2では2/3以下の温度(100℃以下)の処理で光触媒層12を硬化させることができた。したがって、耐熱性が低い基材10の表面に光触媒層12を形成することができた。すなわち、基材10に対応した硬さを有し、平滑かつ密着性の高い光触媒層12を提供することができた。
【0038】
また、本実施の形態における高温蒸気処理は、ベーキング炉や加熱炉を必要としないため、家やビル等の現場で光触媒層12を硬化させることができる。
【符号の説明】
【0039】
10 基材、12 光触媒層、20 ノズル、22 タンク、24 加圧ポンプ、26 供給管、28 流量調整手段、30 加熱手段、32 制御装置、34 高温蒸気、100 光触媒塗装膜。
図1
図2
図3
図4
図5
図6