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特許7452530近赤外線吸収性組成物、近赤外線吸収性膜及び固体撮像素子用イメージセンサー
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  • 特許-近赤外線吸収性組成物、近赤外線吸収性膜及び固体撮像素子用イメージセンサー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】近赤外線吸収性組成物、近赤外線吸収性膜及び固体撮像素子用イメージセンサー
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240312BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240312BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G02B5/22
C09K3/00 105
H01L27/146 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021508936
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009643
(87)【国際公開番号】W WO2020195701
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019057694
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板本 なつみ
(72)【発明者】
【氏名】水谷 洋介
(72)【発明者】
【氏名】大福 幸司
(72)【発明者】
【氏名】林 健司
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/051512(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088561(WO,A1)
【文献】特許第5554048(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/054394(WO,A1)
【文献】国際公開第1999/010354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
C09K 3/00
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線吸収剤と溶媒を含有する近赤外線吸収性組成物であって、
前記近赤外線吸収剤が、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有することを特徴とする近赤外線吸収性組成物。
(A)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅イオンとからなる成分
(B)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる成分
(ただし、前記構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物とは、2種のリン酸モノエステル化合物及び2種のリン酸ジエステル化合物、又は、1種のリン酸モノエステル化合物、1種のリン酸ジエステル化合物及び1種のスルホン酸エステル化合物をいう。)
【化1】
〔式中、R1は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数1~20のフッ素化アルキル基を表す。〕
【請求項2】
近赤外線吸収剤と溶媒を含有する近赤外線吸収性組成物であって、
前記近赤外線吸収剤が、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有し、
前記成分(A)及び成分(B)における構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Aと、下記一般式(II)で表される構造を有し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が4~10の範囲内にあるリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Bであることを特徴とする近赤外線吸収性組成物。
(A)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅イオンとからなる成分
(B)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる成分
【化2】
〔式中、R 1 は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数1~20のフッ素化アルキル基を表す。〕
【化3】
〔上記一般式(II)において、Rは炭素数が1~20のアルキル基又は炭素数が6~20のアリール基を表し、Rはさらに置換基を有してもよい。Zは、下記式(Z-1)~(Z-3)から選択される構造単位を表す。
【化4】
上記式(Z-1)~(Z-3)に記載の*は結合部位を表し、上記一般式(II)におけるOと結合する。
21~R24はそれぞれ水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。
ただし、一般式(II)で表される構造を有する化合物は、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造とのどちらか少なくとも一方、又は下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造のそれぞれ少なくとも一つを同時に有する。
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
条件(ii):R21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である。
一般式(II)において、lは上記条件(i)を満たす部分構造の数を表し、mは上記条件(ii)を満たす部分構造の数を表し、化合物Aにおけるlとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)は1以上、4未満であり、化合物Bにおけるlとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)は4~10の範囲内である。〕
【請求項3】
前記ホスホン酸化合物の含有量が、前記リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対して、モル基準で2.5倍以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の近赤外線吸収性組成物。
【請求項4】
前記リン酸エステル化合物及びスルホン酸エステル化合物の総質量に対する前記化合物Aの比率が50質量%以上であることを特徴とする請求項2に記載の近赤外線吸収性組成物。
【請求項5】
前記成分(A)及び成分(B)における構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有するリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも2種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線吸収性組成物。
【化5】
〔上記一般式(II)において、Rは炭素数が1~20のアルキル基又は炭素数が6~20のアリール基を表し、Rはさらに置換基を有してもよい。Zは、下記式(Z-1)~(Z-3)から選択される構造単位を表す。
【化6】
上記式(Z-1)~(Z-3)に記載の*は結合部位を表し、上記一般式(II)におけるOと結合する。
21~R24はそれぞれ水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。
ただし、一般式(II)で表される構造を有する化合物は、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造とのどちらか少なくとも一方、又は下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造のそれぞれ少なくとも一つを同時に有する。
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
条件(ii):R21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である。
一般式(II)において、lは上記条件(i)を満たす部分構造の数を表し、mは上記条件(ii)を満たす部分構造の数を表し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満である。〕
【請求項6】
前記一般式(II)で表される構造を有する少なくとも2種の化合物のうちの少なくとも一方におけるl及びmが、それぞれ1以上であることを特徴とする請求項2又は請求項5に記載の近赤外線吸収性組成物。
【請求項7】
質量吸光度が、0.30L/(g・cm)以上であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【請求項8】
前記近赤外線吸収剤の平均粒径が、100nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【請求項9】
650~1000nmの波長範囲内に吸収極大波長を有する近赤外線吸収調整剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物を用いたことを特徴とする近赤外線吸収性膜。
【請求項11】
請求項10に記載の近赤外線吸収性膜を具備することを特徴とする固体撮像素子用イメージセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収性組成物と、これを用いた近赤外線吸収性膜及び固体撮像素子用イメージセンサーに関し、より詳しくは、分散性、可視部の透過性及び近赤外光の光吸収性に優れた近赤外線吸収性組成物と、膜厚を低減することができる近赤外線吸収性膜と、当該近赤外線吸収性膜を具備する固体撮像素子用イメージセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話などには、カラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサーが用いられているが、これら固体撮像素子は、その受光部において近赤外線波長領域の光に感度を有するシリコンフォトダイオードを使用しているため、視感度補正を行うことが必要であり、近赤外線カットフィルター(以下、「IRカットフィルター」ともいう。)を用いることが多い。
【0003】
このような近赤外線カットフィルターを形成するための材料として、リン酸エステル、ホスホン酸、及び銅イオンから構成される様々な近赤外線吸収性組成物やそれを用いた赤外線カットフィルターが開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ホスホン酸モノエステル化合物、ホスフィン酸化合物、リン酸ジエステル化合物及びリン酸モノエステル化合物から選ばれる少なくとも1種と、ホスホン酸化合物と、金属イオンからなる光学材料が開示され、分光特性の発現性、樹脂との相溶性を改良した光学材料が得られるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、銅イオン、ホスホン酸と、リン酸ジエステル及びリン酸モノエステルの少なくとも一方から構成され、ホスホン酸の含有量として、リン酸エステル化合物の含有量に対してモル基準で2.5倍未満と規定した赤外線吸収層用組成物が開示されている。当該文献によれば、カットフィルターとしての望ましい赤外領域及び可視部領域での光学特性が得られるとされている。
【0006】
また、特許文献3には、ホスホン酸化合物、リン酸エステル化合物、及び銅塩から構成される近赤外線吸収剤が開示されており、近赤外線を好適に吸収することができ、かつ透明性に優れる近赤外線カットフィルターが得られるとされている。
【0007】
また、特許文献4には、ホスホン酸化合物、モノポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル化合物類、及び銅イオンとからなる近赤外線吸収剤が開示されており、光学材料として優れた透明性と耐熱性が得ることができるとされている。
【0008】
近赤外線カットフィルターとしては、可視光透過率を高めること、取り扱い性(かさばらない)の向上という観点から、薄膜化されたカラーフィルターであることが有用である。近赤外線吸収性は、主に、銅錯体によりその効果が発現されるものであり、上記のような薄膜化した際、十分な近赤外線吸収性をカラーフィルターに付与させるためには、銅錯体の近赤外領域での吸収特性を高める必要がある。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1~4で開示されている方法では、ホスホン酸化合物と、ほぼ1種のリン酸エステル化合物、及び銅イオンを主成分として構成されている近赤外線吸収性組成物であるが、近赤外領域での吸収特性が不十分であり、十分な吸収特性を発現させるためには近赤外吸収性材料を多量に添加する必要が生じ、その結果、形成する近赤外線吸収性膜の膜厚がかなり厚くなるため、可視光透過性及び薄膜化の要望に対しては大きな障害となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4500417号公報
【文献】国際公開第2017/051512号
【文献】特許第5611631号公報
【文献】特許第5554048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、分散安定性、可視光の透過性及び近赤外光の吸収性に優れた近赤外線吸収性組成物と、膜厚を低減することができる近赤外線吸収性膜と、当該近赤外線吸収性膜を具備する固体撮像素子用イメージセンサーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく上記問題の原因等について検討した結果、近赤外線吸収剤と溶媒を含有し、前記近赤外線吸収剤が、ホスホン酸化合物とともに、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物を含有し、少なくとも一方の化合物を低分子量の化合物とすることにより、分散性の向上と近赤外光の吸収性を高めることができ、可視光の透過性及び近赤外光の光吸収性に優れた近赤外線吸収性組成物と、膜厚を低減することができる近赤外線吸収性膜と、当該近赤外線吸収性膜を具備する固体撮像素子用イメージセンサーを実現することができることを見いだし、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0014】
1.近赤外線吸収剤と溶媒を含有する近赤外線吸収性組成物であって、
前記近赤外線吸収剤が、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有することを特徴とする近赤外線吸収性組成物。
【0015】
(A)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅イオンとからなる成分
(B)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる成分
(ただし、前記構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物とは、2種のリン酸モノエステル化合物及び2種のリン酸ジエステル化合物、又は、1種のリン酸モノエステル化合物、1種のリン酸ジエステル化合物及び1種のスルホン酸エステル化合物をいう。)
【化1】
〔式中、R1は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数1~20のフッ素化アルキル基を表す。〕
【0016】
2.近赤外線吸収剤と溶媒を含有する近赤外線吸収性組成物であって、
前記近赤外線吸収剤が、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有し、
前記成分(A)及び成分(B)における構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Aと、下記一般式(II)で表される構造を有し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が4~10の範囲内にあるリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Bであることを特徴とする近赤外線吸収性組成物。
(A)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅イオンとからなる成分
(B)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる成分
【化2】
〔式中、R 1 は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数1~20のフッ素化アルキル基を表す。〕
【化3】
〔上記一般式(II)において、Rは炭素数が1~20のアルキル基又は炭素数が6~20のアリール基を表し、Rはさらに置換基を有してもよい。Zは、下記式(Z-1)~(Z-3)から選択される構造単位を表す。
【化4】
上記式(Z-1)~(Z-3)に記載の*は結合部位を表し、上記一般式(II)におけるOと結合する。
21~R24はそれぞれ水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。
ただし、一般式(II)で表される構造を有する化合物は、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造とのどちらか少なくとも一方、又は下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造のそれぞれ少なくとも一つを同時に有する。
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
条件(ii):R21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である。
【0017】
一般式(II)において、lは上記条件(i)を満たす部分構造の数を表し、mは上記条件(ii)を満たす部分構造の数を表し、化合物Aにおけるlとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)は1以上、4未満であり、化合物Bにおけるlとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)は4~10の範囲内である。〕
【0018】
3.前記ホスホン酸化合物の含有量が、前記リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対して、モル基準で2.5倍以上であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0019】
4.前記リン酸エステル化合物及びスルホン酸エステル化合物の総質量に対する前記化合物Aの比率が50質量%以上であることを特徴とする第2項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0020】
5.前記成分(A)及び成分(B)における構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有するリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも2種の化合物であることを特徴とする第1項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【化5】
〔上記一般式(II)において、Rは炭素数が1~20のアルキル基又は炭素数が6~20のアリール基を表し、Rはさらに置換基を有してもよい。Zは、下記式(Z-1)~(Z-3)から選択される構造単位を表す。
【化6】
上記式(Z-1)~(Z-3)に記載の*は結合部位を表し、上記一般式(II)におけるOと結合する。
21~R24はそれぞれ水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。
ただし、一般式(II)で表される構造を有する化合物は、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造とのどちらか少なくとも一方、又は下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造のそれぞれ少なくとも一つを同時に有する。
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
条件(ii):R21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である。
【0021】
一般式(II)において、lは上記条件(i)を満たす部分構造の数を表し、mは上記条件(ii)を満たす部分構造の数を表し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満である。〕
【0022】
6.前記一般式(II)で表される構造を有する少なくとも2種の化合物のうちの少なくとも一方におけるl及びmが、それぞれ1以上であることを特徴とする第2項又は第5項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0023】
7.質量吸光度が、0.30L/(g・cm)以上であることを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0024】
8.前記近赤外線吸収剤の平均粒径が、100nm以下であることを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0025】
9.650~1000nmの波長範囲内に吸収極大波長を有する近赤外線吸収調整剤を含有することを特徴とする第1項から第8項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0026】
10.第1項から第9項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物を用いたことを特徴とする近赤外線吸収性膜。
【0027】
11.第10項に記載の近赤外線吸収性膜を具備することを特徴とする固体撮像素子用イメージセンサー。
【発明の効果】
【0028】
本発明の上記手段により、分散安定性、可視光の透過性及び近赤外光の吸収性に優れた近赤外線吸収性組成物と、膜厚を低減することができる近赤外線吸収性膜と、当該近赤外外線吸収性膜を具備する固体撮像素子用イメージセンサーを提供することができる。
【0029】
本発明の効果の発現機構・作用機構については明確になっていないが、以下のように推察している。
【0030】
本発明の近赤外線吸収性組成物は、ホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と、銅イオンから構成される。より好ましくは、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物として、前記一般式(II)で表される構造を有し、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満の相対的に低分子量のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Aと、前記一般式(II)で表される構造を有し、l及びmの総数(l+m)が4~10の従来型のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Bを併用すること、又は、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物として、前記一般式(II)で表される構造を有し、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満の相対的に低分子量のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも2種の化合物を用いること、さらにホスホン酸の含有量が前記リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対してモル基準で2.5倍以上とすることにより、分散安定性、可視光の透過性及び近赤外光の吸収性に優れ、薄膜化を達成することができる近赤外線吸収性組成物を実現した。
【0031】
本発明では、構成成分のうち最も分子量が大きく膜厚の寄与が大きいリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物を低分子量化し、複数種組み合わせること、あるいは従来のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と併用すること、あるいはホスホン酸に対してリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量を減少させることにより、薄膜化と高い可視透過率を達成することができた。
【0032】
すなわち、本発明では、ホスホン酸及び銅からなる組成物を分散させる材料として、分子量が小さいリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物を複数種組み合わせることにより、リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が比較的低含有量においても分散性を向上させ、薄膜でも所望の近赤外吸収特性及び可視光透過性を得ることができた。
【0033】
リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の分子量が大きい、又はホスホン酸の含有量がリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対してモル基準で2.5倍未満であれば、比較的容易にホスホン酸及び銅からなる組成物を分散させることができるが、本発明では、銅錯体の構成成分が増加することで異性体が増えてエントロピーが増加したため、分散性を向上させることができたと推測する。また、リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物を低分子化する、又はホスホン酸の含有量がリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対してモル基準で2.5倍以上とすることで、吸収特性を高めることができた。これは、リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の低分子化や相対的な含有量減少により、銅に対するホスホン酸量を高め、吸収特性を上げることができたものと推測している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の近赤外線吸収性膜を有する固体撮像素子を具備したカメラモジュールの構成の一例を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の近赤外線吸収性組成物では、近赤外線吸収剤と溶媒を含有する近赤外線吸収性組成物であって、前記近赤外線吸収剤が、(A)成分として前記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅イオンとからなる成分、及び(B)成分として、前記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有することを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0036】
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、本発明の目的とする効果をより発現できる観点から、更に好ましい実施形態の一つとしては、成分(A)及び成分(B)における構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が、前記一般式(II)で表される構造を有し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Aと、前記一般式(II)で表される構造を有し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が4~10の範囲内にあるリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Bとする構成により、本発明の上記目的効果をより発現させることができる。
【0037】
また、特に好ましい実施形態としては、成分(A)及び成分(B)における構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が、前記一般式(II)で表される構造を有するリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも2種の化合物により構成することが、十分な薄膜化を達成することができ、かつ可視光領域での光透過性を損なうことなく、より優れた近赤外吸収性を向上させることができる。
【0038】
また、ホスホン酸の含有量がリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対してモル基準で2.5倍以上とすることにより、本願発明の効果をより発現させることができる点で好ましい。
【0039】
また、リン酸エステル化合物及びスルホン酸エステル化合物として化合物Aと化合物Bを併用する系では、低分子量の化合物Aの構成比率を50質量%以上とすることにより、本願発明の効果をより発現させることができる点で好ましい。
【0040】
また、質量吸光度が0.30L/(g・cm)以上であることが、低い含有量で優れた吸収特性を得ることができ、薄膜化を促進させることができる点で好ましい。
【0041】
また、分散性を向上させ、近赤外線吸収剤の平均粒径を100nm以下とすることにより、光散乱を抑制し、高い透明性を得ることができる点で好ましい。
【0042】
また、650~1000nmの波長範囲内に吸収極大波長を有する近赤外線吸収調整剤を含有することが、より優れた近赤外吸収能を得ることができる点で好ましい。
【0043】
また、本発明の近赤外線吸収性組成物により、分散安定性、可視光の透過性及び近赤外光の吸収性に優れ、膜厚を低減することができる近赤外線吸収性膜と、それを具備した固体素子用イメージセンサーを実現することができた。
【0044】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0045】
《近赤外線吸収性組成物の構成》
本発明の近赤外線吸収性組成物は、近赤外線吸収剤と溶媒を含有する構成である。
【0046】
[近赤外吸収剤]
本発明に係る近赤外線吸収剤は、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有することを特徴とする。
【0047】
(A)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅イオンとからなる成分
(B)成分:下記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる成分。
【0048】
更には、第一の実施形態としては、前記成分(A)及び成分(B)における構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が、前記一般式(II)で表される構造を有し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Aと、前記一般式(II)で表される構造を有し、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が4~10の範囲内にあるリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物Bで構成されていることが好ましい。
【0049】
また、第二の実施形態としては、前記成分(A)及び成分(B)における構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が、前記一般式(II)で表される構造を有し、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも2種の化合物であることが好ましい。
【0050】
また、ホスホン酸の含有量が、リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対して、モル基準で2.5倍以上であることが好ましく、2.5~3.5倍の範囲内であることが特に好ましい。
【0051】
ホスホン酸の含有量が、リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対してモル基準で2.5倍未満になると、吸収特性への有効性が低いリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物が過剰となり、近赤外光吸収膜の薄膜化が難しい傾向がある。
【0052】
ホスホン酸の含有量がリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対してモル基準で2.5倍以上であると、吸収特性に有効なホスホン酸の割合が高くなり、吸収特性を高めることができる。
【0053】
また、ホスホン酸の含有量がリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の含有量の合計量に対してモル基準で3.5倍を超えると、分散性に寄与するリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の割合が不十分となり、近赤外光吸収膜が白濁してしまう傾向にあり、避けることが好ましい。
【0054】
〔一般式(II)で表される構造を有する化合物〕
はじめに、本発明に係る下記一般式(II)で表される構造を有する化合物について説明する。
【0055】
【化6】
上記一般式(II)において、Rは炭素数が1~20のアルキル基又は炭素数が6~20アリール基を表し、Rはさらに置換基を有してもよい。
【0056】
Zとしては、下記式(Z-1)、(Z-2)、及び(Z-3)から選択される構造単位を表す。
【0057】
【化7】
上記式(Z-1)~(Z-3)に記載されている*は結合部位を表し、上記一般式(II)におけるOと結合して、リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物を形成する。
【0058】
上記式(Z-1)、(Z-2)及び(Z-3)から選択される構造単位においては、銅錯体の分散性の観点から、好ましくは、ヒドロキシ基を一つ有する式(Z-1)又は(Z-3)で表される構造単位である。
【0059】
上記一般式(II)において、Zが(Z-1)の場合はジエステルとなり、Zが(Z-2)又は(Z-3)の場合はモノエステルとなる。銅錯体の分散性の観点から、ジエステルとモノエステルは混合物であることが好ましく、モノエステルとジエステルのうち、ジエステルのモル比率が20~95%の範囲内であることが好ましく、40~80%の範囲内であることが特に好ましい。
【0060】
一般式(II)において、lは、後述する条件(i)を満たす部分構造の数を表し、mは、後述する条件(ii)を満たす部分構造の数を表し、本発明に係る化合物Aにおいては、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物である。また、化合物Bにおいては、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が4~10の範囲内にあるリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物である。
【0061】
上記一般式(II)において、Rで表される炭素数が1~20のアルキル基としては、直鎖でも分岐を有してもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、2-ブチルオクチル基、2-ヘキシルオクチル基、n-デシル基、2-ヘキシルデシル基、n-ドデシル基、n-ステアリル基等が挙げられる。それぞれのアルキル基はさらに置換基を有してもよい。銅錯体の吸収特性の観点から、好ましくは、炭素数が1~10のアルキル基である。
【0062】
また、Rで表される炭素数が6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等が挙げられ、好ましくは、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、フルオレノニル基である。それぞれのアリール基はさらに置換基を有してもよい。
【0063】
Rが有してもよい置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、イソプロピル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子等)、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基等)、トリアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基等)、トリアリールシリル基(例えば、トリフェニルシリル基等)、トリヘテロアリールシリル基(例えば、トリピリジルシリル基等)、ベンジル基、アリール基(例えば、フェニル基等)、ヘテロアリール基(例えば、ピリジル基、カルバゾリル基等)が挙げられ、縮合環としては、9,9′-ジメチルフルオレン、カルバゾール、ジベンゾフラン等が挙げられるが、特に制限はない。
【0064】
前記一般式(II)において、R21~R24はそれぞれ水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基が挙げられるが、銅錯体の分散性の観点から、特にメチル基が好ましい。
【0065】
本発明に係る一般式(II)で表される構造を有する化合物においては、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造とを、それぞれ少なくとも1つその分子構造内に同時に有することが好ましい形態である。
【0066】
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
【0067】
条件(ii):R21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である。
【0068】
条件(ii)を満たす部分構造は、R21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基であり、更に2つが当該アルキル基である場合、3つが当該アルキル基、4つすべてが当該アルキル基である構造を包含する。銅錯体の分散性の観点から、好ましくは、いずれか1つのみが、炭素数が1~4のアルキル基であることが好ましい。
【0069】
条件(i)を満たす部分構造は、R21~R24が全て水素原子であるエチレンオキシド構造であり、金属との錯体形成能が高く、分散性を高めることに寄与する。一方、条件(ii)はアルキル置換されたエチレンオキシド構造であり、成分数が多く、エントロピー効果により、水分混入時の分散安定性を高めることに寄与する。
【0070】
一般式(II)において、lは、上記条件(i)で規定するR21~R24が全て水素原子である部分構造の数を表し、mは、上記条件(ii)で規定するR21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である部分構造の数を表し、前述のとおり、本発明に係る化合物Aにおいては、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が1以上、4未満である。また、化合物Bにおいては、lとmがそれぞれ0以上の数で、l及びmの総数(l+m)が4~10の範囲内である。化合物Aにおいては、l及びmが、それぞれ1以上であることがより好ましい。
【0071】
l及びmは、それぞれエチレンオキシド構造とアルキル置換されたエチレンオキシド構造の平均付加モル数をそれぞれ表している。
【0072】
また、上記一般式(II)で表される構造を有する化合物においては、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造の、どちらか少なくとも一方又は、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造のそれぞれ少なくとも1つを同時に有することが好ましい。
【0073】
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
【0074】
条件(ii):R21~R24のいずれか1つが、炭素数が1~4のアルキル基であり、残りの3つが水素原子である。
【0075】
例えば、条件(ii)で表すアルキル基がメチル基である場合には、同一構造内に、エチレンオキシド構造とプロピレンオキシド構造を有する化合物である。
【0076】
なお、本発明において、「エチレンオキシド構造」とは、ポリエチレンオキシドの繰返し単位構造、すなわち、三員環の環状エーテルであるエチレンオキシドが開環した構造をいう。また、「プロピレンオキシド構造」とは、ポリプロピレンオキシドの繰返し単位構造、すなわち、三員環の環状エーテルであるプロピレンオキシドが開環した構造をいう。
【0077】
次いで、一般式(II)で表される構造を有する化合物の具体例について説明する。
【0078】
はじめに、代表的な例示化合物の構造の一例について、説明する。
【0079】
〈例示化合物11〉
例示化合物11は、下記の表Iに示すように、
R:エチル基、
条件(i):R21~R24=H
条件(ii):R21=H、R22=H、R23=メチル基、R24=H
Z:Z-1、Z-2
l:1.5
m:1.5
の構造を有しているが、ZがZ-2である例示化合物(11-1)と、ZがZ-1である例示化合物(11-2)の構造で表される。
【0080】
【化8】
例示化合物11の場合は、モノエステル比率が50%であり、上記例示化合物(11-1)と例示化合物(11-2)が、それぞれ同モル量ずつ含まれている。
【0081】
例示化合物3においては、エチレンオキシド構造と、アルキル置換されたエチレンオキシド構造の順番は合成方法により、任意に変更可能であり、下記例示化合物(11-3)、(11-4)も例示化合物11に含まれる。
【0082】
【化9】
本発明においては、エチレンオキシド構造と、アルキル置換されたエチレンオキシド構造の順番は、特に限定されず、それぞれの構造がランダムに配列した化合物も本発明で規定する化合物に含まれる。
【0083】
次いで、一般式(II)で表される構造を有する化合物A及び化合物Bの具体例を、下記表I~表IVに列挙するが、本発明はこれら例示化合物に限定されない。下記表において、l+m欄に記載の数値が4未満の化合物が化合物Aであり、4~10の範囲にある化合物が化合物Bである。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
本発明に係る一般式(II)で表される構造を有する化合物は、例えば、特開2005-255608号公報、特開2015-000396号公報、特開2015-000970号公報、特開2015-178072号公報、特開2015-178073号公報、特許第4422866号公報等に記載されている公知の方法を参考にして合成することができる。
【0089】
(例示化合物の合成)
次いで、本発明に係る一般式(II)で表される構造を有する化合物A及び化合物Bの合成の代表例を挙げるが、本発明はこれらの合成方法に限定されない。
【0090】
〈例示化合物56の合成(化合物B)〉
n-オクタノール130g(1.0モル)をオートクレーブに入れ、水酸化カリウムを触媒とし、圧力147kPa、温度130℃の条件で、プロピレンオキシド116g(2.0モル)を付加させた後、エチレンオキサイド88g(2.0モル)を付加させた。
【0091】
次に、n-オクタノールが残っていないことを確認したのち、上記付加物を反応器にとり、トルエン溶液で、無水リン酸47g(0.33モル)を80℃で5時間反応させたのち、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去することにより、下記に示す例示化合物56(R=オクチル基、条件(i):R21=H、R22=H、R23=H、R24=H、条件(ii):R21=H、R22=H、R23=メチル基、R24=H、l:2.0、m:2.0、Z:リン酸モノエステル(Z-2)/リン酸ジエステル(Z-1))を得た。
【0092】
【化10】
【0093】
〈例示化合物57の合成(化合物A)〉
n-オクタノール130g(1.0モル)をオートクレーブに入れ、水酸化カリウムを触媒とし、圧力147kPa、温度130℃の条件で、プロピレンオキシド116g(2.0モル)を付加させた後、エチレンオキサイド44g(1.0モル)を付加させた。
【0094】
次に、n-オクタノールが残っていないことを確認したのち、上記付加物を反応器にとり、トルエン溶液で、無水リン酸47g(0.33モル)を80℃で5時間反応させたのち、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去することにより、下記に示す例示化合物57(R=2-エチルヘキシル基、条件(i):R21=H、R22=H、R23=H、R24=H、条件(ii):R21=H、R22=H、R23=メチル基、R24=H、l:1.0、m:2.0、Z:リン酸モノエステル(Z-2)/リン酸ジエステル(Z-1))を得た。
【0095】
【化11】
【0096】
〈例示化合物63の合成(化合物B)〉
2-エチルヘキサノール130g(1.0モル)をオートクレーブに入れ、水酸化カリウムを触媒とし、圧力147kPa、温度130℃の条件で、プロピレンオキシド145g(2.5モル)を付加させた後、エチレンオキサイド110g(2.5モル)を付加させた。
【0097】
次に、2-エチルヘキサノールが残っていないことを確認したのち、上記付加物を反応器にとり、トルエン溶液で、無水リン酸47g(0.33モル)を80℃で5時間反応させたのち、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去することにより、下記に示す例示化合物63(R=2-エチルヘキシル基、条件(i):R21=H、R22=H、R23=H、R24=H、条件(ii):R21=H、R22=H、R23=メチル基、R24=H、l:2.5、m:2.5、Z:リン酸モノエステル(Z-2)/リン酸ジエステル(Z-1))を得た。
【0098】
【化12】
【0099】
〈例示化合物64の合成(化合物A)〉
2-エチルヘキサノール130g(1.0モル)をオートクレーブに入れ、水酸化カリウムを触媒とし、圧力147kPa、温度130℃の条件で、プロピレンオキシド87g(1.5モル)を付加させた後、エチレンオキサイド66g(1.5モル)を付加させた。
【0100】
次に、2-エチルヘキサノールが残っていないことを確認したのち、上記付加物を反応器にとり、トルエン溶液で、無水リン酸47g(0.33モル)を80℃で5時間反応させたのち、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去することにより、下記に示す例示化合物64(R=2-エチルヘキシル基、条件(i):R21=H、R22=H、R23=H、R24=H、条件(ii):R21=H、R22=H、R23=メチル基、R24=H、l:1.5、m:1.5、Z:リン酸モノエステル(Z-2)/リン酸ジエステル(Z-1))を得た。
【0101】
【化13】
【0102】
〔ホスホン酸化合物〕
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、下記一般式(I)で表される構造を有するホスホン酸化合物を含むことを特徴とする。
【化14】
【0103】
上記一般式(I)において、R1は、炭素数が1~30の分岐状、直鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はアリル基を表し、少なくとも一つの水素原子が、ハロゲン原子、オキシアルキル基、ポリオキシアルキル基、オキシアリール基、ポリオキシアリール基、アシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又は、芳香環を有する基で置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0104】
一般式(I)で表される構造を有するホスホン酸化合物の例としては、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、2-エチルヘキシルホスホン酸、2-クロロエチルホスホン酸、3-ブロモプロピルホスホン酸、3-メトキシブチルホスホン酸、1,1-ジメチルプロピルホスホン酸、1,1-ジメチルエチルホスホン酸、1-メチルプロピルホスホン酸、ベンゼンホスホン酸、4-メトキシフェニルホスホン酸等が挙げられ、その一例を、下記化合物(H-1)~(H-8)として示す。
【0105】
【化15】
【0106】
本発明においては、ホスホン酸銅錯体を構成するホスホン酸が、下記ホスホン酸群から選ばれる少なくとも1種のアルキルホスホン酸であることが好ましい。
【0107】
1:メチルホスホン酸
2:エチルホスホン酸
3:プロピルホスホン酸
4:ブチルホスホン酸
5:ペンチルホスホン酸
6:ヘキシルホスホン酸
7:オクチルホスホン酸
8:2-エチルヘキシルホスホン酸
9:2-クロロエチルホスホン酸
10:3-ブロモプロピルホスホン酸
11:3-メトキシブチルホスホン酸
12:1,1-ジメチルプロピルホスホン酸
13:1,1-ジメチルエチルホスホン酸
14:1-メチルプロピルホスホン酸
【0108】
〔銅成分〕
本発明に係る近赤外線吸収剤においては、前述のとおり、前記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と、銅イオンからなる(A)成分、又は前記一般式(I)で表されるホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と、銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有していることを特徴とする。
【0109】
上記(A)成分における銅イオン、あるいは(B)成分である銅化合物との反応により得られる銅錯体における銅塩としては、2価の銅イオンを供給することが可能な銅塩が用いられる。例えば、無水酢酸銅、無水ギ酸銅、無水ステアリン酸銅、無水安息香酸銅、無水アセト酢酸銅、無水エチルアセト酢酸銅、無水メタクリル酸銅、無水ピロリン酸銅、無水ナフテン酸銅、無水クエン酸銅等の有機酸の銅塩、該有機酸の銅塩の水和物若しくは水化物;酸化銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、リン酸銅、塩基性硫酸銅、塩基性炭酸銅等の無機酸の銅塩、該無機酸の銅塩の水和物若しくは水化物;水酸化銅が挙げられる。
【0110】
(銅錯体)
本発明に係る構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物と銅化合物との反応により得られる銅錯体の合成方法については、例えば、特許第4422866号公報、特許第5953322号公報に記載されている方法を適用することができる。
【0111】
本発明に係る構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物、具体的には一般式(II)で表される構造を有する化合物は、Zで表されるリン酸基、又はスルホン酸基を介して、配位結合及び/又はイオン結合により銅イオンに結合し、この銅イオンは、一般式(II)で表される構造を有する化合物に囲まれた状態で近赤外光吸収性膜中に溶解又は分散され、銅イオンのd軌道間の電子遷移によって近赤外光が選択吸収される。また、Zがその代表例であるリン酸基の場合、近赤外光吸収性膜中におけるリン原子の含有量が銅イオン1モルに対して1.50以下が好ましく、さらには、0.3~1.3、すなわち、銅イオンに対するリン原子の含有比(以下、「P/Cu」という)がモル比で0.3~1.3であると、近赤外線吸収性膜の耐湿性、及び近赤外線吸収性膜の耐湿性、及び近赤外光吸収層における銅イオンの分散性の観点から非常に好適であることが確認された。
【0112】
P/Cuがモル比で0.3以上であれば、一般式(II)で表される構造を有する化合物に対して配位する銅イオンが十分な量となり、銅イオンが近赤外光吸収性膜中に均一に分散することができる傾向にある。一方、P/Cuがモル比で1.3以下であれば、近赤外線吸収性膜の厚さを薄くして銅イオンの含有量を高めたときに、失透の発生を抑制することができる傾向にあり、高温多湿の環境で特にこの効果が顕著となる。さらに、P/Cuがモル比で0.8~1.3モルであるとより好ましい。このモル比が0.8以上であると、樹脂中への銅イオンの分散性を確実に且つ十分に高めることができる。
【0113】
また、近赤外線吸収性膜における銅イオンの含有割合が上記下限値以上とすることにより、近赤外線吸収性膜の厚さが1mm程度より薄くしたときに、十分な近赤外光吸収性を得ることができる。一方、銅イオンの含有割合が上記上限値以下であれば、銅イオンを近赤外光吸収膜中に分散させることが容易となる。
【0114】
(酢酸について)
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、近赤外線吸収剤が含有する(A)成分を構成する銅イオン、又は(B)成分を構成する銅錯体における銅化合物を構成する銅に対し、100モル%以下の酢酸を含有することが好ましい。
【0115】
例えば、一般式(II)で表される構造を有する化合物と酢酸銅を用いて、銅錯体化合物を調製する際に、酢酸が生じるが、この酢酸量を上記で規定する範囲内とすることにより、耐久性(熱湿度耐性)及び近赤外領域で所望の分光スペクトルが得られる点で好ましい。
【0116】
〔溶媒〕
次いで、本発明の近赤外吸収性組成物の調製において適用が可能な溶媒について説明する。
【0117】
本発明の近赤外吸収性組成物の調製に用いることができる溶媒は、特に限定されるものではないが、炭化水素系溶剤を挙げることができ、より好ましくは脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0118】
脂肪族炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン等の非環状脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、n-プロパノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、イソプロピルビフェニル等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、塩化メチレン、1,1,2-トリクロロエタン、クロロホルム等)を挙げることができる。更に、アニソール、2-エチルヘキサン、sec-ブチルエーテル、2-ペンタノール、2-メチルテトラヒドロフラン、2-プロピレングリコールモノメチルエーテル、2,3-ジメチル-1,4-ジオキサン、sec-ブチルベンゼン、2-メチルシクロヘキシルベンゼン等を挙げることができる。中でもトルエン及びテトラヒドロフランが沸点や溶解性の点から好ましい。
【0119】
また、近赤外線吸収性組成物に対する固形分の比率は、5~30質量%の範囲内であることが、適切な固形物(例えば、銅錯体粒子)の濃度となり、保存期間中での粒子凝集性が抑制され、より優れた経時安定性(銅錯体粒子の分散安定性と近赤外線吸収能)を得ることができる点で好ましく、更には、10~20質量%の範囲内であることが好ましい。
【0120】
(近赤外線吸収調整剤)
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、吸収波形調整用の添加剤として、650~800nmの波長域に吸収極大波長を有する近赤外線吸収調整剤を少なくとも1種添加することが、分光特性の観点から好ましい。本発明に適用する近赤外線吸収調整剤としては、650~800nmの波長域に吸収極大波長を有する近赤外線吸収色素を適用することが好ましい。
【0121】
本発明に好適な近赤外線吸収色素としては、例えば、シアニン色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素、アゾ色素、アントラキノン色素、ナフトキノン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、クアテリレン色素、ジチオール金属錯体系色素等を挙げることができる。その中でも、近赤外線を十分に吸収し、可視光透過率が高く、かつ耐熱性が高いため、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、クアテリレン色素が特に好ましい。
【0122】
フタロシアニン化合物の具体例としては、例えば、特開2000-26748号公報、特開2000-63691号公報、特開2001-106689号公報、特開2004-149752号公報、特開2004-18561号公報、特開2005-220060号公報、特開2007-169343号公報、特開2016-204536号公報、特開2016-218167号公報等に記載されている化合物が挙げられ、これらの公報に記載の方法に従って合成することができる。
【0123】
クアテリレン系色素の具体例としては、例えば、特開2008-009206号公報、特開2011-225608号公報に記載の化合物が挙げられ、これらの公報に記載の方法に従って合成することができる。
【0124】
上記近赤外吸収色素は市販品としても入手可能であり、例えば、FDR002、FDR003、FDR004、FDR005、FDN001(以上、山田化学工業社製)、Excolor TX-EX720、Excolor TX-EX708K(以上、日本触媒社製)、Lumogen IR765、Lumogen IR788(以上、BASF社製)、ABS694、IRA735、IRA742、IRA751、IRA764、IRA788、IRA800(以上、Exciton社製)、epolight5548、epolight5768(以上、aako社製)、VIS680E、VIS695A、NIR700B、NIR735B、NIR757A、NIR762A、NIR775B、NIR778A、NIR783C、NIR783I、NIR790B、NIR795A(以上、QCR solutions社製)、DLS740A、DLS740B、DLS740C、DLS744A、DLS745B、DLS771A、DLS774A、DLS774B、DLS775A、DLS775B、DLS780A、DLS780C、DLS782F(以上、Crystalin社製)、B4360、B4361、D4773、D5013(以上、東京化成工業社製)等の商品名を挙げることができる。
【0125】
近赤外線吸収色素の添加量は、近赤外線吸収性組成物を構成する近赤外線吸収剤100質量%に対して、0.01~0.1質量%の範囲内で添加することが好ましい。
【0126】
近赤外線吸収色素の添加量が、近赤外線吸収剤100質量%に対して、0.01質量%以上であれば、近赤外線吸収を十分に高めることができ、0.1質量%以下であれば、得られる近赤外線吸収組成物の可視光透過率を損なうことがない。
【0127】
(紫外線吸収剤)
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、近赤外線吸収剤と溶媒の他に、紫外線吸収剤をさらに含有していることが、分光特性及び耐光性の観点から好ましい。
【0128】
紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0129】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、5-クロロ-2-(3,5-ジ-sec-ブチル-2-ヒドロキシルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(2-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖及び側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール等を挙げることができる。また、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は市販品としも入手することができ、例えば、TINUVIN109、TINUVIN171、TINUVIN234、TINUVIN326、TINUVIN327、TINUVIN328、TINUVIN928等のTINUVINシリーズがあり、これらはいずれもBASF社製の市販品である。
【0130】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、ビス(2-メトキシ-4-ヒドロキシ-5-ベンゾイルフェニルメタン)等が挙げられる。
【0131】
サリチル酸エステル系紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリシレート、p-tert-ブチルサリシレート等が挙げられる。
【0132】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、2′-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3-(3′,4′-メチレンジオキシフェニル)-アクリレート等が挙げられる。
【0133】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2′-ヒドロキシ-4′-ヘキシルオキシフェニル)-4,6-ジフェニルトリアジン等が挙げられる。トリアジン系紫外線吸収剤の市販品としては、例えば、TINUVIN477(BASF社製)が挙げられる。
【0134】
紫外線吸収剤の添加量は、近赤外線吸収性組成物を構成する近赤外線吸収剤100質量%に対して、0.1~5.0質量%の範囲内で添加することが好ましい。
【0135】
紫外線吸収剤の添加量が、近赤外線吸収剤100質量%に対して、0.1質量%以上であれば、耐光性を十分に高めることができ、5.0質量%以下であれば、得られる近赤外線吸収組成物の可視光透過率を損なうことがない。
【0136】
〔質量吸光度〕
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、質量吸光度が、0.30L/(g・cm)以上であることが好ましい。
【0137】
本発明でいう質量吸光度は、下記の方法に従って求めることができる。
【0138】
近赤外吸収剤の固形分濃度が0.5質量%となるように、トルエンで希釈した測定用サンプルを用意する。この測定用サンプルの吸光度を、分光光度計U-3010(株式会社日立製作所製)と1cm石英セルを用いて常温で測定する。700~900nmの範囲内に現れるピークトップの強度を測定し、質量吸光度を次式により求めることができる。
【0139】
質量吸光度(L/g・cm)=希釈液の吸光度/固形分濃度(g/L)
なお、トルエンの比重は0.867g/mLとして算出した。
【0140】
〔近赤外吸収剤の平均粒径〕
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、含有する近赤外吸収剤の平均粒径が100nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、1~80nmの範囲内であり、特に好ましくは5~60nmの範囲内である。
【0141】
本発明において、近赤外吸収剤の平均粒径は、例えば、下記の方法に従って測定して求めることができる、
近赤外線吸収性組成物について、粒子である近赤外吸収剤の粒子濃度(固形分濃度)が1.0質量%となるように、トルエンで希釈した測定用サンプルを調製する。
【0142】
次いで、測定用サンプルを、測定装置として大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径測定システム ELSZ-1000ZSを用い動的光散乱法により、平均粒径を測定する。
【0143】
《近赤外線吸収性膜》
本発明においては、本発明の近赤外線吸収性組成物を用いて、近赤外線吸収性膜を形成することを一つの特徴とする。
【0144】
(マトリックス樹脂)
本発明の近赤外線吸収性膜は、本発明に係る近赤外線吸収性組成物に、マトリクス樹脂を添加し、マトリクス樹脂に、例えば、金属錯体の微粒子、更に必要に応じてホスホン酸金属錯体、例えば、ホスホン酸銅錯体が分散していることによって形成されている。また、吸収波形調整用の添加剤として、650~800nmの波長域に吸収極大波長を有する前記近赤外線色素を少なくとも1種、添加することができる。
【0145】
上記構成よりなる近赤外線吸収性膜形成用塗布液をスピンコーティング又はディスペンサによる湿式塗布方式により基板上に塗布して、近赤外線吸収性膜を形成する。その後、この塗膜に対して所定の加熱処理を行って塗膜を硬化させて、近赤外線吸収性膜を形成する。
【0146】
近赤外線吸収性膜の形成に用いるマトリクス樹脂は、可視光線及び近赤外線に対し透明であり、かつ、金属錯体やホスホン酸銅錯体の微粒子を分散可能な樹脂である。金属錯体やホスホン酸銅錯体は、比較的極性が低い物質であり、疎水性材料に良好に分散する。このため、近赤外線吸収性膜形成用のマトリクス樹脂としては、アクリル基、エポキシ基、又はフェニル基を有する樹脂を用いることができる。その中でも、特に、近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として、フェニル基を有する樹脂を用いることが好ましい。この場合、近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂が高い耐熱性を有する。また、ポリシロキサンシリコーン樹脂は、熱分解しにくく、可視光線及び近赤外線に対して高い透明性を有し、耐熱性も高いので、固体撮像素子用イメージセンサー用の材料として有利な特性を有する。このため、近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として、ポリシロキサンを用いることも好ましい。近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として使用可能なポリシロキサンとしては市販品として入手が可能であり、例えば、信越化学工業社製のシリコーン樹脂であるKR-255、KR-300、KR-2621-1、KR-211、KR-311、KR-216、KR-212、及びKR-251等を挙げることができる。
【0147】
また、シリコーン樹脂としては、例えば、SS-6203、SS-6309、VS-9301、VS-9506を挙げることができ、これらはいずれもサンユレック社製のシリコーン樹脂である。
【0148】
本発明の近赤外線吸収性膜の形成に用いるマトリクス樹脂としては、低ガス透過性の観点から、エポキシ基を有するマトリックス樹脂を含有することも好ましい態様である。
【0149】
この場合、近赤外線吸収性膜を構成するエポキシ基を有するマトリクス樹脂は、高い耐湿性を発揮するため、固体撮像素子用イメージセンサー用の材料として好適な特性を有する。
【0150】
近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として使用可能なエポキシ基を有する樹脂の具体例としては、KJC-X5(信越化学工業社製)、NLD-L-672(サンユレック社製)、LE-1421(サンユレック社製)、EpiFineシリーズ(KISCO社製)を挙げることができる。
【0151】
また、近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として、上記に挙げたポリシロキサンとエポキシ基の両方を有する樹脂を用いることも好ましい。
【0152】
この場合、これらのポリシロキサンとエポキシ基の両方を有するマトリクス樹脂は、高い耐熱性、耐湿性を発揮するため、固体撮像素子用イメージセンサー用の材料として好適な特性を有する。
【0153】
近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として使用可能なポリシロキサンとエポキシ基の両方を有する樹脂の具体例としては、EpiFineシリーズ(KISCO社製)、ILLUMIKAシリーズ(カネカ社製)を挙げることができる。
【0154】
本発明の近赤外線吸収性膜の膜厚は、特に制限はないが、200μmの範囲内であることが好ましい。
【0155】
(その他の添加剤)
本発明の近赤外線吸収性膜には、本発明の目的効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を適用することができ、例えば、増感剤、架橋剤、硬化促進剤、フィラー、熱硬化促進剤、熱重合禁止剤、可塑剤などが挙げられ、更に基材表面への密着促進剤及びその他の助剤類(例えば、導電性粒子、充填剤、消泡剤、難燃剤、レベリング剤、剥離促進剤、酸化防止剤、香料、表面張力調整剤、連鎖移動剤など)を併用してもよい。
【0156】
これらの成分を適宜含有させることにより、目的とする近赤外線吸収膜の安定性、膜物性などの性質を調整することができる。
【0157】
これらの成分は、例えば、特開2012-003225号公報の段落番号0183~、特開2008-250074号公報の段落番号0101~0102、特開2008-250074号公報の段落番号0103~0104、特開2008-250074号公報の段落番号0107~0109等に記載されている内容を参考にすることができる。
【0158】
本発明の近赤外線吸収性組成物は、液状の湿式塗布液とすることができるため、例えば、スピン塗布することにより膜を形成するという簡単な工程によって、近赤外線吸収性膜、例えば、近赤外線カットフィルターを容易に製造できる。
【0159】
《固体撮像素子用イメージセンサーへの適用》
本発明の近赤外線吸収性膜は、例えば、CCD用、CMOS用又は他の受光素子用の視感度補正部材、測光用部材、熱線吸収用部材、複合光学フィルター、レンズ部材(眼鏡、サングラス、ゴーグル、光学系、光導波系)、ファイバ部材(光ファイバ)、ノイズカット用部材、プラズマディスプレイ前面板等のディスプレイカバー又はディスプレイフィルター、プロジェクタ前面板、光源熱線カット部材、色調補正部材、照明輝度調節部材、光学素子(光増幅素子、波長変換素子等)、ファラデー素子、アイソレータ等の光通信機能デバイス、光ディスク用素子等を構成するものとして好適である。
【0160】
本発明の近赤外線吸収性組成物を有する近赤外線吸収膜の用途は、特に、固体撮像素子基板の受光側における近赤外線カットフィルター用(例えば、ウエハーレベルレンズに対する近赤外線カットフィルター用など)、固体撮像素子基板の裏面側(受光側とは反対側)における近赤外線カットフィルター用などとして、固体撮像素子用イメージセンサーに適用することが特徴である。
【0161】
本発明の近赤外線吸収性膜を固体撮像素子用イメージセンサーに適用することにより、可視部透過率の回線、近赤外部吸収効率及び耐熱湿性等を向上させることできる。
【0162】
本発明の近赤外線吸収性膜(近赤外線カットフィルター)は、具体的には、固体撮像素子用イメージセンサー上に具備させる。
【0163】
図1は、本発明の近赤外線吸収性膜である赤外線カットフィルターを具備した固体撮像素子を備えたカメラモジュールの構成を示す概略断面図である。
【0164】
図1に示すカメラモジュール1は、実装基板である回路基板12に接続部材であるハンダボール11を介して接続されている。
【0165】
詳細には、カメラモジュール1は、シリコーン基板の第1の主面に撮像素子部13を備えた固体撮像素子基板10と、固体撮像素子基板10の第1の主面側(受光側)に設けられた平坦化層8と、平坦化層8の上に設けられた近赤外線カットフィルター(近赤外線吸収性膜)9と、近赤外線カットフィルター9の上方に配置されるガラス基板3(光透過性基板)と、ガラス基板3の上方に配置され内部空間に撮像レンズ4を有するレンズホルダー5と、固体撮像素子基板10及びガラス基板3の周囲を囲うように配置された遮光兼電磁シールド6と、を備えて構成されている。各部材は、接着剤2、7により接着されている。
【0166】
本発明は、固体撮像素子基板と、上記固体撮像素子基板の受光側に配置された赤外線カットフィルターとを有するカメラモジュールの製造方法であって、固体撮像素子基板の受光側において、上記本発明の近赤外線吸収性組成物をスピン塗布することにより近赤外線吸収性膜を形成することができる。
【0167】
よって、カメラモジュール1においては、例えば、平坦化層8の上に、本発明の近赤外線吸収性組成物をスピン塗布することにより近赤外線吸収性膜を形成して、赤外線カットフィルター9を形成する。
【0168】
カメラモジュール1では、外部からの入射光Lが、撮像レンズ4、ガラス基板3、赤外線カットフィルター9、平坦化層8を順次透過した後、固体撮像素子基板10の撮像素子部に到達するようになっている。
【0169】
また、カメラモジュール1は、固体撮像素子基板10の第2の主面側で、ハンダボール11(接続材料)を介して回路基板12に接続されている。
【実施例
【0170】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。
【0171】
実施例1
《近赤外線吸収性組成物の調製》
(近赤外線吸収性組成物1の調製)
酢酸銅(II)一水和物(関東化学社製、以下、単に「酢酸銅」ともいう。)の1.463gとテトラヒドロフラン(THF)60gとを混合して1時間撹拌し酢酸銅溶液を調製した。
【0172】
次に、得られた酢酸銅溶液に、一般式(II)で表される構造を有する2種のリン酸エステル化合物の一方として、化合物Aである例示化合物78を0.477gと、他方の化合物Bとして例示化合物80を0.607gとをTHFを5g加えた溶液を添加し、30分間撹拌して、A液を調製した。
【0173】
次いで、一般式(I)で表される構造を有する化合物であるエチルホスホン酸(東京化成工業株式会社製)の0.613gにTHF5gを加えて30分撹拌し、B液を調製した。
【0174】
次いで、A液を撹拌しながらA液にB液を添加した後、室温で16時間撹拌し、C液を調製した。
【0175】
このC液とトルエン25gをフラスコに入れて、オイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)にて50~100℃で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1000)によって、30分間の脱溶媒処理を行った。
【0176】
その後、フラスコ中でC液の固形分濃度が10質量%になるように溶媒量を調整し、これを近赤外線吸収性組成物1とした。
【0177】
近赤外線吸収性組成物1における、リン酸エステル化合物の総量に対するホスホン酸のモル比率は、2.81である。
【0178】
(近赤外線吸収性組成物2~36の調製)
上記近赤外線吸収性組成物1の調製において、一般式(I)で表されるホスホン酸化合物の種類(アルキル基の種類変化)と添加量(mol数)、一般式(II)で表されるリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物(表V及び表VIに記載の化合物1及び化合物2)の種類と添加量比率と総添加量(mol数)、リン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物の添加量に対するホスホン酸化合物の比率(mol比率)を、表V及び表VIに記載した構成に変更した以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物2~36を調製した。
【0179】
以上により調製した近赤外線吸収性組成物1~36の構成を、下記表V及び表VIに示す。
【0180】
【表5】
【0181】
【表6】
【0182】
《近赤外線吸収性組成物の評価》
上記作製した各近赤外線吸収性組成物について、下記の評価を行った。
【0183】
〔透過率(可視部)の評価〕
上記調製した近赤外線吸収性組成物1~36について、1100nm波長の透過率が5%となるようにトルエンで希釈し、評価用のサンプルAを調製した。
【0184】
次いで、各評価サンプルAについて、測定装置として日本分光社製の分光光度計V-570を用い、300~1200nmの波長域範囲における分光透過率を測定した。次いで、可視部領域として500nmにおける透過率を求め、下記の基準に従って、透過率(可視部)の評価を行った。
【0185】
◎:500nmにおける透過率が、95%以上である
○:500nmにおける透過率が、90%以上、95%未満である
△:500nmにおける透過率が、80%以上、90%未満である
×:500nmにおける透過率が、80%未満である
【0186】
〔質量吸光度の評価〕
下記の方法に従って、質量吸光度を測定した。
【0187】
近赤外吸収剤の固形分濃度が0.5質量%となるように、トルエンで希釈した測定用サンプルを用意する。この測定用サンプルの吸光度を、分光光度計U-3010(株式会社日立製作所製)と1cm石英セルを用いて常温で測定した。700~900nmの範囲に現れるピークトップの強度を測定し、下式に従って質量吸光度を求めた。
【0188】
質量吸光度(L/g・cm)=希釈液の吸光度/固形分濃度(g/L)
なお、トルエンの比重は、0.867g/mLとして算出した。
【0189】
得られた質量吸光度より、下記のランク付けを行った。
【0190】
◎:質量吸光度が、0.30L/g・cm以上である
〇:質量吸光度が、0.25L/g・cm以上、0.30L/g・cm未満である
△:質量吸光度が、0.20L/g・cm以上、0.25L/g・cm未満である
×:質量吸光度が、0.20L/g・cm未満である
【0191】
〔平均粒径の評価〕
上記調製した各近赤外線吸収性組成物について、下記の方法に従って、近赤外線吸収剤の平均粒径を測定した。
【0192】
上記各近赤外線吸収性組成物について、粒子である近赤外吸収剤の粒子濃度(固形分濃度)が1.0質量%となるように、トルエンで希釈して、測定用サンプルを調製した。
【0193】
次いで、測定用サンプルについて、測定装置として大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径測定システム ELSZ-1000ZSを用いた動的光散乱法により、平均粒径を測定し、下記の基準に従って、平均粒径の評価を行った。
【0194】
得られた平均粒径データについて、下記の基準に従いランク付けを行った。
【0195】
◎:平均粒径が、60nm未満である
〇:平均粒径が、60nm以上、100nm未満である
△:平均粒径が、100nm以上、200nm未満である
×:平均粒径が、200nm以上である
【0196】
〔膜厚の評価〕
上記調製した本発明の近赤外線吸収性組成物1~36について、バインダー樹脂としてポリシロキサン構造を有するマトリックス樹脂を用い、それぞれの固形分比率が5:5となるように、各近赤外線吸収性膜形成用塗布液を調製した。
【0197】
次いで、各近赤外線吸収性膜形成用塗布液を、ガラス基板上に、880nm波長の透過率が1%となる厚さ条件で塗布し、硬化させた。次いで、ホットプレート上で、80℃で1時間、150℃で2時間の加温処理により乾燥させ、各近赤外線吸収性膜を形成した。
【0198】
次いで、下記組み合わせによる膜厚計を使用し、各近赤外線吸収性膜の膜厚を測定した。
【0199】
(端子、スタンド、読み取り機)
端子:DIGIMICRO MH-15M(NIKON社製)
スタンド:DIGIMICRO STAND MS-5C(NIKON社製)
読み取り機:DIGITAL READ OUT TC-101A(NIKON社製)
【0200】
上記方法に従って近赤外線吸収性膜1~36の膜厚を測定した結果、近赤外線吸収性膜1~34はすべて200μm以下であった。また、近赤外線吸収性膜35は230μm、近赤外線吸収性膜36は240μmであった。
【0201】
以上により得られた膜厚を除く評価結果を、表VIIに示す。
【0202】
【表7】
【0203】
表VIIに記載の結果より明らかなように、本発明で規定するホスホン酸化合物と、構造の異なる2種以上のリン酸エステル化合物又はスルホン酸エステル化合物として、分子量の異なる化合物A及び化合物Bと、銅イオンとからなる成分より構成されている本発明の近赤外線吸収性組成物は、比較例に対し、可視光領域での透過率が高く、質量吸光度が高く、近赤外線吸収剤の平均粒径が小さくすることができる。さらには、一般式(II)におけるl及びmの総数(l+m)が4未満である化合物Aを2種用いた構成(近赤外線吸収性組成物12~34)は、上記効果がより一層発現し、好ましい実施形態であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明の近赤外線吸収性膜は、例えば、CCD用、CMOS用又は他の受光素子用の視感度補正部材、測光用部材、熱線吸収用部材、複合光学フィルター、レンズ部材(眼鏡、サングラス、ゴーグル、光学系、光導波系)、ファイバ部材(光ファイバ)、ノイズカット用部材、プラズマディスプレイ前面板等のディスプレイカバー又はディスプレイフィルター、プロジェクタ前面板、光源熱線カット部材、色調補正部材、照明輝度調節部材、光学素子(光増幅素子、波長変換素子等)、ファラデー素子、アイソレータ等の光通信機能デバイス、光ディスク用素子等を構成するものとして好適である。また、近赤外線吸収膜の用途は、特に、固体撮像素子基板の受光側における近赤外線カットフィルター用(例えば、ウエハーレベルレンズに対する近赤外線カットフィルター用など)、固体撮像素子基板の裏面側(受光側とは反対側)における近赤外線カットフィルター用などとして、固体撮像素子用イメージセンサーに適用することが好適である。
【符号の説明】
【0205】
1 カメラモジュール
2、7 接着剤
3 ガラス基板
4 撮像レンズ
5 レンズホルダー
6 遮光兼電磁シールド
8 平坦化層
9 近赤外線吸収性膜(近赤外線カットフィルター)
10 固体撮像素子基板
11 ハンダボール
12 回路基板
13 撮像素子部
図1