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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ホスホロアミダイト活性化剤
(51)【国際特許分類】
   C07H 1/02 20060101AFI20240312BHJP
   C07H 23/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C07H1/02
C07H23/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021552393
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2020038612
(87)【国際公開番号】W WO2021075423
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2019190698
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】菊池 正峰
(72)【発明者】
【氏名】佐野 君彦
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-530092(JP,A)
【文献】特表2007-531794(JP,A)
【文献】J. Am. Chem. Soc.,1991年,113(10),3972-3980,doi:10.1021/ja00010a045
【文献】Org. Proc. Res. Dev. ,,2000年,4(3),175-181,doi:10.1021/op990086k
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、
(ii)5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール、並びに
(iii)アセトニトリル
を含むホスホロアミダイト活性化剤。
【請求項2】
前記(i)がN-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジンである、請求項1記載のホスホロアミダイト活性化剤。
【請求項3】
前記(i)がN-メチルピペリジン又はN-メチルピロリジンである、請求項1記載のホスホロアミダイト活性化剤。
【請求項4】
前記(ii)のモル濃度が0.25 mol/L以上である、請求項1記載のホスホロアミダイト活性化剤。
【請求項5】
前記(i)のピペリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して17.0%以上であり、前記(i)のピロリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して20.0%以上であり、前記(i)のN-アルキルピペリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して13.7%以上であり、かつ前記(i)のN-アルキルピロリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して16.0%以上である、請求項1記載のホスホロアミダイト活性化剤。
【請求項6】
前記(i)のピペリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して17.0%以上であり、前記(i)のピロリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して24.0%以上であり、かつ前記(i)のN-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して19.3%以上である、請求項1記載のホスホロアミダイト活性化剤。
【請求項7】
ホスホロアミダイトを、請求項1記載のホスホロアミダイト活性化剤と反応させる工程
を含む、ホスホロアミダイトの活性化方法。
【請求項8】
前記ホスホロアミダイトが下記一般式(I)で示される化合物である、請求項7記載の活性化方法:
[一般式(I)中、Rは、下記官能基群(I-1)から選ばれる基を表し:
(官能基群(I-1)中、n及びnはそれぞれ独立して、1~6の整数を表す。)、
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、RとRとが結合して5~7員環の複素環構造を形成していてもよく、Aは、ヌクレオシドを表す。]。
【請求項9】
(1)請求項1記載のホスホロアミダイト活性化剤の存在下で、ホスホロアミダイトとヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドを反応させて、亜リン酸エステルを生成する工程、及び
(2)前記亜リン酸エステルを酸化又は硫化させて、リン酸エステル又はチオリン酸エステルを生成する工程
を含む、リン酸エステル又はチオリン酸エステルの合成方法。
【請求項10】
前記ホスホロアミダイトが下記一般式(I)で示される化合物であり、前記リン酸エステルが下記一般式(II-1)で示される化合物であり、かつ前記チオリン酸エステルが下記一般式(II-2)で示される化合物である、請求項9記載の合成方法:
[一般式(I)、(II-1)及び(II-2)中、Rは、下記官能基群(I-1)から選ばれる基を表し:
(官能基群(I-1)中、n及びnはそれぞれ独立して、1~6の整数を表す。)、
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、RとRとが結合して5~7員環の複素環構造を形成していてもよく、Aは、ヌクレオシドを表し、Aは、ヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドを表す。]。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホロアミダイト活性化剤、並びに該活性化剤を用いたホスホロアミダイトの活性化方法及びリン酸エステル又はチオリン酸エステルの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)の総称である核酸は、構成単位であるヌクレオチドがリン酸エステル結合(ホスホジエステル結合)によって鎖状に連なった構造を持つ生体高分子の1種である。核酸の化学合成(人工合成)は生化学における重要技術であり、高収率・高純度な核酸合成方法の開発が求められている。
【0003】
核酸合成は、通常(A)ヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドの脱保護、(B)カップリング反応、(C)未反応物のキャッピング、(D)カップリング生成物の酸化又は硫化反応、といった一連の反応サイクルを繰り返すことにより核酸鎖を伸長させて行う。近年では、迅速かつ簡便で自動化も可能な「固相合成法」が採用されることが多い。また(B)カップリング反応においてホスホロアミダイトを使用する「ホスホロアミダイト法」での核酸合成が主流となっている。ホスホロアミダイト法における反応サイクルの具体例を以下に示す。
【0004】
(上記反応サイクル中、Acは、アセチル基を表し、Baseは、アデニン、グアニン、シトシン、チミン及びウラシルから選ばれる核酸塩基を表し、DMTrは、4,4'-ジメトキシトリチル基を表し、iPrは、イソプロピル基を表し、Aは、tert-ブチルジメチルシリル基、ヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを表し、Mは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0005】
ホスホロアミダイト法において(B)カップリング反応を行う際にはホスホロアミダイトの活性化剤が必要不可欠である。現在までに、1H-テトラゾールを始めとして、5-メチルチオ-1H-テトラゾール(MTT)、5-エチルチオ-1H-テトラゾール(ETT)、5-ニトロフェニル-1H-テトラゾール(NPT)、4,5-ジシアノイミダゾール(DCI)等、様々なホスホロアミダイト活性化剤が開発されており、特に近年では、種々のホスホロアミダイト活性化剤の中でも5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール(BTT;5-ベンジルメルカプト-1H-テトラゾール(BMT)とも呼ばれる)が有用であるとして注目されている。
【0006】
ホスホロアミダイト法による核酸合成では、一般的にアセトニトリルが溶媒として用いられている。一方、上述したBTTはアセトニトリルへの溶解性が悪く、高濃度のBTT-アセトニトリル溶液では低温下でBTTの結晶が析出してしまい、核酸合成機の配管を目詰まりさせる恐れがある。それ故、アセトニトリル中のBTTが比較的高濃度であればホスホロアミダイトをより迅速かつ効率的に活性化可能にもかかわらず、BTT-アセトニトリル溶液として保存・使用可能な濃度は0.25 mol/Lに制限されている。
【0007】
そこで、BTTのアセトニトリルへの溶解性を向上させるため、特許文献1では、共溶媒としてN-アルキルイミダゾールを添加したホスホロアミダイト活性化剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2008-530092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のホスホロアミダイト活性化剤は、N-アルキルイミダゾールを添加することによりBTTのアセトニトリルへの溶解性は向上するものの、無添加のBTT-アセトニトリル溶液からなるホスホロアミダイト活性化剤を用いた場合よりも目的物の収率・純度が低下するという問題があった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、上述の如き問題を解決する優れたホスホロアミダイト活性化剤、並びに該活性化剤を用いたホスホロアミダイトの活性化方法及びリン酸エステル又はチオリン酸エステルの合成方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物をBTT-アセトニトリル溶液に添加することで、BTTのアセトニトリルへの溶解性を向上させ、かつ目的物の収率・純度を低下させない優れたホスホロアミダイト活性化剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明[i]~[xi]を内包する。
[i](i)ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、(ii)5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール、並びに(iii)アセトニトリルを含むホスホロアミダイト活性化剤(以下、本発明のホスホロアミダイト活性化剤と略記する場合がある。)。
[ii]前記(i)がN-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジンである、前記発明[i]記載のホスホロアミダイト活性化剤。
[iii]前記(i)がN-メチルピペリジン又はN-メチルピロリジンである、前記発明[i]又は[ii]記載のホスホロアミダイト活性化剤。
[iv]前記(ii)のモル濃度が0.25 mol/L以上である、前記発明[i]~[iii]のいずれか1つに記載のホスホロアミダイト活性化剤。
[v]前記(i)のピペリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して17.0%以上であり、前記(i)のピロリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して20.0%以上であり、前記(i)のN-アルキルピペリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して13.7%以上であり、かつ前記(i)のN-アルキルピロリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して16.0%以上である、前記発明[i]~[iv]のいずれか1つに記載のホスホロアミダイト活性化剤。
[vi]前記(i)のピペリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して17.0%以上であり、前記(i)のピロリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して24.0%以上であり、かつ前記(i)のN-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジンのモル濃度が前記(ii)のモル濃度に対して19.3%以上である、前記発明[i]~[v]のいずれか1つに記載のホスホロアミダイト活性化剤。
[vii]ホスホロアミダイトを、前記発明[i]~[vi]のいずれか1つに記載のホスホロアミダイト活性化剤と反応させる工程を含む、ホスホロアミダイトの活性化方法(以下、本発明の活性化方法と略記する場合がある。)。
[viii]前記ホスホロアミダイトが下記一般式(I)で示される化合物である、前記発明[vii]記載の活性化方法:
[一般式(I)中、Rは、下記官能基群(I-1)から選ばれる基を表し:
(官能基群(I-1)中、n及びnはそれぞれ独立して、1~6の整数を表す。)、
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、RとRとが結合して5~7員環の複素環構造を形成していてもよく、Aは、ヌクレオシドを表す。]。
[ix](1)前記発明[i]~[vi]のいずれか1つに記載のホスホロアミダイト活性化剤の存在下で、ホスホロアミダイトとヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドを反応させて、亜リン酸エステルを生成する工程、及び(2)前記亜リン酸エステルを酸化又は硫化させて、リン酸エステル又はチオリン酸エステルを生成する工程を含む、リン酸エステル又はチオリン酸エステルの合成方法(以下、本発明の合成方法と略記する場合がある。)。
[x]前記ホスホロアミダイトが下記一般式(I)で示される化合物であり、前記リン酸エステルが下記一般式(II-1)で示される化合物であり、かつ前記チオリン酸エステルが下記一般式(II-2)で示される化合物である、前記発明[ix]記載の合成方法:
[一般式(I)、(II-1)及び(II-2)中、Rは、下記官能基群(I-1)から選ばれる基を表し:
(官能基群(I-1)中、n及びnはそれぞれ独立して、1~6の整数を表す。)、
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、RとRとが結合して5~7員環の複素環構造を形成していてもよく、Aは、ヌクレオシドを表し、Aは、ヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドを表す。]。
【発明の効果】
【0012】
本発明のホスホロアミダイト活性化剤を用いることにより、効率的にホスホロアミダイトを活性化し、高い収率・純度で目的物を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明のホスホロアミダイト活性化剤]
本発明のホスホロアミダイト活性化剤は、(i)ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、(ii)5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール、並びに(iii)アセトニトリルを含むものである。
【0014】
(i)のN-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンにおけるアルキル基としては、例えば炭素数1~6のアルキル基が挙げられ、中でも炭素数1~3のものが好ましい。また、該アルキル基は、直鎖状、分枝状及び環状のうちいずれであってもよく、直鎖状又は分枝状が好ましい。具体的には例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0015】
(i)のN-アルキルピペリジンとしては、具体的には例えば、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジン、N-n-プロピルピペリジン、N-イソプロピルピペリジン、N-n-ブチルピペリジン、N-イソブチルピペリジン、N-n-ペンチルピペリジン、N-イソペンチルピペリジン、N-n-ヘキシルピペリジン、N-イソヘキシルピペリジン等が挙げられ、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジン、N-n-プロピルピペリジン、N-イソプロピルピペリジンが好ましく、N-メチルピペリジンが特に好ましい。
【0016】
(i)のN-アルキルピロリジンとしては、具体的には例えば、N-メチルピロリジン、N-エチルピロリジン、N-n-プロピルピロリジン、N-イソプロピルピロリジン、N-n-ブチルピロリジン、N-イソブチルピロリジン、N-n-ペンチルピロリジン、N-イソペンチルピロリジン、N-n-ヘキシルピロリジン、N-イソヘキシルピロリジン等が挙げられ、N-メチルピロリジン、N-エチルピロリジン、N-n-プロピルピロリジン、N-イソプロピルピロリジンが好ましく、N-メチルピロリジンが特に好ましい。
【0017】
(i)は、ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンのうち、いずれか1つのみを単独で含んでいても2つ以上を組み合わせて含んでいてもよい。
(i)としては、ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれるいずれか1つの化合物が好ましく;ピペリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれるいずれか1つの化合物がより好ましく;N-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジンがさらに好ましく;N-メチルピペリジン又はN-メチルピロリジンがさらに好ましい。
【0018】
(ii)のモル濃度の下限値としては、本発明のホスホロアミダイト活性化剤の全容量に対して通常0.20 mol/L以上であり、0.25 mol/L以上が好ましく、0.30 mol/L以上がより好ましい。(ii)のモル濃度の上限値としては、本発明のホスホロアミダイト活性化剤の全容量に対して通常1.00 mol/L以下であり、0.50 mol/L以下が好ましく、0.40 mol/L以下がより好ましい。
【0019】
(i)のピペリジンのモル濃度の下限値としては、(ii)のモル濃度に対して17.0%以上が好ましく;上限値としては、(ii)のモル濃度に対して通常150%以下であり、100%以下が好ましく、50.0%以下がより好ましい。
(i)のピロリジンのモル濃度の下限値としては、(ii)のモル濃度に対して20.0%以上が好ましく、24.0%以上がより好ましく;上限値としては、(ii)のモル濃度に対して通常150%以下であり、100%以下が好ましく、50.0%以下がより好ましい。
(i)のN-アルキルピペリジンのモル濃度の下限値としては、(ii)のモル濃度に対して13.7%以上が好ましく、19.3%以上がより好ましく;上限値としては、(ii)のモル濃度に対して通常150%以下であり、100%以下が好ましく、50.0%以下がより好ましい。
(i)のN-アルキルピロリジンのモル濃度の下限値としては、(ii)のモル濃度に対して16.0%以上が好ましく、19.3%以上がより好ましく;上限値としては、(ii)のモル濃度に対して通常150%以下であり、100%以下が好ましく、50.0%以下がより好ましい。
【0020】
本発明のホスホロアミダイト活性化剤としては、(i)ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、(ii)5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール、並びに(iii)アセトニトリル以外の成分を含んでいても良いが、当該(i)、(ii)及び(iii)のみからなるものが好ましく;中でも、(i)ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれるいずれか1つの化合物、(ii)0.25 mol/L以上の5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール、並びに(iii)アセトニトリルのみからなるものがより好ましく;(i)ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれるいずれか1つの化合物、(ii)0.25 mol/L以上の5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール、並びに(iii)アセトニトリルのみからなり、(i)のピペリジンのモル濃度が(ii)のモル濃度に対して17.0%以上であり、(i)のピロリジンのモル濃度が(ii)のモル濃度に対して20.0%以上であり、(i)のN-アルキルピペリジンのモル濃度が(ii)のモル濃度に対して13.7%以上であり、かつ(i)のN-アルキルピロリジンのモル濃度が(ii)のモル濃度に対して16.0%以上であるものがさらに好ましい。中でも、(i)ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジンからなる群から選ばれるいずれか1つの化合物、(ii)0.30 mol/L以上の5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール、並びに(iii)アセトニトリルのみからなり、(i)のピペリジンのモル濃度が(ii)のモル濃度に対して17.0%以上であり、(i)のピロリジンのモル濃度が(ii)のモル濃度に対して24.0%以上であり、かつ(i)のN-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジンのモル濃度が(ii)のモル濃度に対して19.3%以上であるものがさらにより好ましく;(i)N-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジン、(ii)0.30 mol/L以上の5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール、並びに(iii)アセトニトリルのみからなり、(i)のN-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジンのモル濃度が(ii)のモル濃度に対して19.3%以上であるものが特に好ましい。
【0021】
本発明のホスホロアミダイト活性化剤における(i)ピペリジン、ピロリジン、N-アルキルピペリジン及びN-アルキルピロリジン、(ii)5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール、並びに(iii)アセトニトリルはいずれも、市販のもの又は自体公知の方法によって適宜合成したものを用いればよい。
【0022】
本発明のホスホロアミダイト活性化剤は、自体公知の方法に準じて(i)、(ii)及び(iii)を混合して調製すればよい。具体的には例えば、所望のモル濃度となるよう(i)及び(ii)の使用量を適宜設定し、まず(i)と(iii)を混合し、次いで(ii)を混合することにより調製し得る。
【0023】
本発明のホスホロアミダイト活性化剤の調製は、(i)、(ii)及び(iii)に影響を与えることなく混合可能な調製条件(温度、圧力、雰囲気等)であれば特に制限はなく、例えば15~40℃、常圧(一気圧)、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン等)雰囲気下で調製すればよい。
【0024】
[本発明の活性化方法]
本発明の活性化方法は、ホスホロアミダイトを本発明のホスホロアミダイト活性化剤と反応させる工程を含む。
【0025】
本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイトとは、亜リン酸ジエステルのモノアミド誘導体であり、本発明では特に、当該亜リン酸ジエステルの一方のエステル部分にヌクレオシドが結合しているヌクレオシドホスホロアミダイトのことを示すものとする。本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイトは、通常この分野で用いられるものであれば特に限定されず、市販のもの又は自体公知の方法によって適宜合成したものを用いればよい。
【0026】
本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイト中のヌクレオシドは、核酸塩基及び糖からなる化合物であり、5'位のヒドロキシ基(5'-OH基)が保護基で保護されているものが好ましい。当該核酸塩基としては、具体的には例えば、アデニン、グアニン、シトシン、チミン及びウラシル、並びにこれらの一部が置換・修飾された誘導体等が挙げられる。当該糖としては、具体的には例えば、リボース及びデオキシリボース、並びにこれらの一部が修飾された誘導体等が挙げられる。当該保護基としては、アセチル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、4,4'-ジメトキシトリチル基(4,4'-ジメトキシトリフェニルメチル基)、4-モノメトキシトリチル基(4-メトキシトリフェニルメチル基)が挙げられ、4,4'-ジメトキシトリチル基が好ましい。
また、本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイト中のヌクレオシドが、2'位にヒドロキシ基(2'-OH基)を有する場合、2'-OH基も5'-OH基と同様に保護基で保護されているものが好ましい。当該保護基としては、アセチル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシロキシメチル基、4,4'-ジメトキシトリチル基、4-モノメトキシトリチル基が挙げられ、tert-ブチルジメチルシリル基が好ましい。
尚、本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイト中のヌクレオシドは、副反応を生じさせない為に、5'-OH基又は2'-OH基以外の官能基も必要に応じて保護されているものが好ましい。具体的には例えば、本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイト中のヌクレオシドが核酸塩基としてアデニン、グアニン又はシトシンを有する場合、当該核酸塩基中のアミノ基がアセチル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、4-(tert-ブチル)ベンゾイル基、フェノキシアセチル基等のアシル基で保護されているものが好ましい。
【0027】
本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイトは、具体的には例えば、下記一般式(I)で示される化合物が挙げられる。
[一般式(I)中、Rは、下記官能基群(I-1)から選ばれる基を表し:
(官能基群(I-1)中、n及びnはそれぞれ独立して、1~6の整数を表す。)、
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、RとRとが結合して5~7員環の複素環構造を形成していてもよく、Aは、ヌクレオシドを表す。]
【0028】
一般式(I)の官能基群(I-1)におけるn及びnとしては、それぞれ2~5の整数が好ましく、2がより好ましい。
【0029】
一般式(I)の官能基群(I-1)としては、シアノエチル基が特に好ましい。
【0030】
一般式(I)のR及びRにおける炭素数1~6のアルキル基としては、炭素数2~3のものが好ましい。また、該アルキル基は、直鎖状、分枝状及び環状のうちいずれであってもよく、分枝状が好ましい。具体的には例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が好ましく、イソプロピル基が特に好ましい。
【0031】
一般式(I)のRとRとが結合して5~7員環の複素環構造を形成している場合、当該5~7員環の複素環構造は、R及びRと結合している一般式(I)中の窒素原子の他に、さらに1個以上のヘテロ原子を有していてもよい。当該5~7員環の複素環構造としては、具体的には例えば、ピロリジン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、オキサゾリジン、モルホリン、チアゾリジン、チオモルホリン等が挙げられ、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリンが好ましい。
【0032】
一般式(I)のR及びRとしては、炭素数2~3のアルキル基が好ましく、イソプロピル基が特に好ましい。また、一般式(I)のRとRが同一であるのが好ましい。
【0033】
一般式(I)のAにおけるヌクレオシドは、上述した本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイト中のヌクレオシドと同じものを示す。
【0034】
本発明のホスホロアミダイト活性化剤の使用量としては、本発明のホスホロアミダイト活性化剤中の(ii)5-ベンジルチオ-1H-テトラゾールの含有量がホスホロアミダイト1 molに対して通常1~20当量となる量である。
【0035】
本発明の活性化方法は、ホスホロアミダイトと本発明のホスホロアミダイト活性化剤が滞りなく反応可能な反応条件(温度、圧力、雰囲気等)であれば特に制限はなく、例えば10~40℃、常圧、不活性ガス雰囲気下で行えばよい。本発明の活性化方法における反応時間は、その反応条件により変化し得る為一概に言えるものではないが、通常1分~3時間である。
【0036】
[本発明の合成方法]
本発明の合成方法は、(1)本発明のホスホロアミダイト活性化剤の存在下で、ホスホロアミダイトとヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドを反応させて、亜リン酸エステルを生成する工程、及び(2)前記亜リン酸エステルを酸化又は硫化させて、リン酸エステル又はチオリン酸エステルを生成する工程を含むものである。
【0037】
本発明の合成方法における工程(1)中のホスホロアミダイトは、本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイトと同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。
【0038】
本発明の合成方法における工程(1)中のヌクレオシドは、通常この分野で用いられる天然又は人工のヌクレオシドであれば特に限定されず、市販のもの又は自体公知の方法によって適宜合成したものを用いればよい。
【0039】
本発明の合成方法における工程(1)中のヌクレオシドは、核酸塩基及び糖からなる化合物であり、3'位のヒドロキシ基(3'-OH基)が保護基で保護されているものが好ましい。当該核酸塩基としては、具体的には例えば、アデニン、グアニン、シトシン、チミン及びウラシル、並びにこれらの一部が置換・修飾された誘導体等が挙げられる。当該糖としては、具体的には例えば、リボース及びデオキシリボース、並びにこれらの一部が修飾された誘導体等が挙げられる。当該保護基としては、アセチル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、4,4'-ジメトキシトリチル基、4-モノメトキシトリチル基が挙げられ、tert-ブチルジメチルシリル基が好ましい。
また、本発明の合成方法における工程(1)中のヌクレオシドが2'-OH基を有する場合、2'-OH基も3'-OH基と同様に保護基で保護されているものが好ましい。当該保護基としては、アセチル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシロキシメチル基、4,4'-ジメトキシトリチル基、4-モノメトキシトリチル基が挙げられ、tert-ブチルジメチルシリル基が好ましい。
本発明の合成方法における工程(1)中のヌクレオシドは、副反応を生じさせない為に、3'-OH基又は2'-OH基以外の官能基も必要に応じて保護されているものが好ましい。具体的には例えば、本発明の合成方法における工程(1)中のヌクレオシドが核酸塩基としてアデニン、グアニン又はシトシンを有する場合、当該核酸塩基中のアミノ基がアセチル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、4-(tert-ブチル)ベンゾイル基、フェノキシアセチル基等のアシル基で保護されているものが好ましい。
【0040】
本発明の合成方法における工程(1)中のオリゴヌクレオチドは、通常この分野で用いられるオリゴヌクレオチドであれば特に限定されず、市販のもの又は自体公知の方法によって適宜合成したものを用いればよい。尚、当該オリゴヌクレオチドには、ホスホロチオエート型オリゴヌクレオチドも含むものとする。また、本発明の合成方法により得られる「リン酸エステル又はチオリン酸エステル」の5'末端を脱保護したものを、当該オリゴヌクレオチドとして用いてもよい。
【0041】
本発明の合成方法における工程(1)中のオリゴヌクレオチドは、ヌクレオシドが3'位及び5'位においてホスホジエステル結合又はホスホロチオエート結合を介して1~50個程度結合したものであり、3'末端のヒドロキシ基が保護基で保護されているものが好ましい。当該ヌクレオシドとしては、3'-OH基が保護されていないこと以外は、上述した本発明の合成方法における工程(1)中のヌクレオシドと同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。当該オリゴヌクレオチド中の複数個のヌクレオシドはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。当該オリゴヌクレオチドの3'末端の保護基としては、上述した本発明の合成方法における工程(1)中のヌクレオシドの3'-OH基の保護基と同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。
【0042】
本発明の合成方法における工程(1)中のヌクレオシド及びオリゴヌクレオチドは、固相合成用担体上に結合したものであってもよい。当該固相合成用担体としては、通常この分野で用いられるものであれば特に制限されず、具体的には例えば、多孔質ガラス、多孔質合成ポリマー(例えば、ポリスチレン、ポリアクリルアミド等)、シリカ粒子の表面を当該樹脂でコーティングしたもの等が挙げられる。
【0043】
本発明の合成方法における工程(1)中のホスホロアミダイトの使用量としては、ヌクレオシド又はオリゴヌクレオチド1 molに対して通常1~5当量である。
【0044】
本発明の合成方法における工程(1)中の本発明のホスホロアミダイト活性化剤の使用量としては、(ii)5-ベンジルチオ-1H-テトラゾールの含有量がホスホロアミダイト1 molに対して通常1~20当量となる量である。
【0045】
本発明の合成方法における工程(1)は、亜リン酸エステルの生成反応が滞りなく進行可能な反応条件(温度、圧力、雰囲気等)であれば特に制限はなく、例えば10~40℃、常圧、不活性ガス雰囲気下で行えばよい。本発明の合成方法における工程(1)の反応時間は、その反応条件により変化し得る為一概に言えるものではないが、通常1分~3時間である。
【0046】
本発明の合成方法における工程(2)は、工程(1)の生成物である亜リン酸エステルを酸化剤により酸化させてリン酸エステルを生成する、或いは硫化剤により硫化させてチオリン酸エステルを生成する工程である。
【0047】
当該酸化剤としては、通常この分野で用いられるものであれば特に制限はなく、含水ヨウ素が好ましい。具体的な形態としては水を溶媒の1つとして含むヨウ素溶液の形態が挙げられ、当該溶媒としては、具体的には例えば、ピリジン-テトラヒドロフラン-水の混合溶媒、ピリジン-水の混合溶媒等が挙げられる。当該ヨウ素溶液中に含まれるヨウ素の濃度は、当該溶液の全容量に対して通常0.02~0.10 mol/Lである。
当該硫化剤としては、通常この分野で用いられるものであれば特に制限はなく、具体的には例えば、フェニルアセチルジスルフィド(PADS)、3H-1,2-ベンゾジチオール-3-オン-1,1-ジオキシド(Beaucage試薬)、5-フェニル-3H-1,2,4-ジチアゾール-3-オン(POS)、[(N,N-ジメチルアミノメチリデン)アミノ]-3H-1,2,4-ジチアゾリン-3-チオン(DDTT)等が挙げられる。また、これらは溶液の形態で用いてもよく、具体的には例えば、濃度0.02~0.10 mol/LのPOS含有アセトニトリル溶液等が挙げられる。
当該酸化剤又は硫化剤の使用量としては、亜リン酸エステル1 molに対して通常1~5当量である。
【0048】
本発明の合成方法における工程(1)中のホスホロアミダイトが上述した一般式(I)で示される化合物である場合、工程(1)の生成物である亜リン酸エステルとしては、具体的には例えば、一般式(II-0)で示される化合物が挙げられる。また、工程(2)の生成物であるリン酸エステルとしては、具体的には例えば、下記一般式(II-1)で示される化合物が挙げられ、工程(2)の生成物であるチオリン酸エステルとしては、具体的には例えば、下記一般式(II-2)で示される化合物が挙げられる。
[一般式(II-0)~(II-2)中、Rは、下記官能基群(I-1)から選ばれる基を表し:
(官能基群(I-1)中、n及びnはそれぞれ独立して、1~6の整数を表す。)、
は、ヌクレオシドを表し、Aは、ヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドを表す。]。
【0049】
一般式(II-0)~(II-2)の官能基群(I-1)としては、一般式(I)の官能基群(I-1)と同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。
【0050】
一般式(II-0)~(II-2)のAにおけるヌクレオシドは、本発明の活性化方法におけるホスホロアミダイト中のヌクレオシドと同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。
【0051】
一般式(II-0)~(II-2)のAにおけるヌクレオシドは、上述した本発明の合成方法における工程(1)中のヌクレオシドと同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。
【0052】
一般式(II-0)~(II-2)のAにおけるオリゴヌクレオチドは、上述した本発明の合成方法における工程(1)中のオリゴヌクレオチドと同じものが挙げられ、好ましいものも同じである。
【0053】
本発明の合成方法における工程(2)は、亜リン酸エステルの酸化反応又は硫化反応が滞りなく進行可能な反応条件(温度、圧力、雰囲気等)であれば特に制限はなく、例えば10~40℃、常圧、不活性ガス雰囲気下で行えばよい。本発明の合成方法における工程(2)の反応時間は、その反応条件により変化し得る為一概に言えるものではないが、通常1分~3時間である。
【0054】
前述の通り、核酸合成では通常、(A)ヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドの脱保護、(B)カップリング反応、(C)未反応物のキャッピング、(D)カップリング生成物の酸化又は硫化反応、という4つの工程(反応サイクル)を繰り返し行うことにより核酸鎖を伸長させる。本発明の合成方法における工程(1)は上記核酸合成における工程(B)に該当し、本発明の合成方法における工程(2)は上記核酸合成における工程(D)に該当する。従って、本発明の合成方法を含む反応サイクルを繰り返し行うことにより、核酸鎖を伸長させ、所望の核酸を得ることが可能である。
【0055】
上記核酸合成における工程(A)は、ヌクレオシド又はオリゴヌクレオチドの5'位における保護基を、デブロッキング剤を用いて脱保護する工程である。当該デブロッキング剤としては、通常この分野で用いられるものであれば特に制限はなく、市販のもの又は自体公知の方法によって適宜合成したものを用いればよい。具体的には例えば、ジクロロ酢酸-トルエン溶液、トリクロロ酢酸-ジクロロメタン溶液等が挙げられる。
【0056】
上記核酸合成における工程(C)は、上記核酸合成における工程(B)における未反応物を、キャッピング剤を用いてキャッピングする工程である。当該キャッピング剤としては、通常この分野で用いられるものであれば特に制限はなく、市販のもの又は自体公知の方法によって適宜合成したものを用いればよい。具体的には例えば、無水酢酸とN-メチルイミダゾールとの組み合わせが挙げられる。これらは通常、溶液の形態で用いられ、具体的には例えば、アセトニトリル溶液、ピリジン-アセトニトリル溶液、2,6-ルチジン-アセトニトリル溶液、テトラヒドロフラン溶液、ピリジン-テトラヒドロフラン溶液、2,6-ルチジン-テトラヒドロフラン溶液等の形態が挙げられる。
【0057】
また、固相合成法の場合、上記核酸合成における工程(A)~(D)を繰り返して核酸鎖を伸長させた後、固相合成用担体からの目的核酸の切り出し及び脱保護を行う。この工程では通常、アンモニア水やメチルアミン溶液が用いられる。当該アンモニア水としては、通常この分野で用いられるものであれば特に制限はなく、市販のもの又は自体公知の方法によって適宜合成したものを用いればよい。具体的には例えば、濃度25~28質量%のアンモニア水溶液が挙げられ、メチルアミン水溶液-エタノール水溶液との混合溶液の形態で用いても良い。
【0058】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例
【0059】
実施例1 ホスホロアミダイト活性化剤1の調製方法
アセトニトリル29.85 mLにピペリジン0.15 mL(1.52 mmol)を加えて溶解させ、0.5 vol%(体積パーセント濃度:volume/volume%)ピペリジン添加アセトニトリル溶液を調製した。次いで、5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール(BTT)(富士フイルム和光純薬(株)製)1.73 g(9.00 mmol)を0.5 vol%ピペリジン添加アセトニトリル溶液で30 mLにメスアップし、0.5 vol%のピペリジンを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤1を調製した。
【0060】
実施例2-4 ホスホロアミダイト活性化剤2-4の調製方法
0.5 vol%ピペリジン添加アセトニトリル溶液の代わりに表1記載の各種添加剤を0.5 vol%添加したアセトニトリル溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ホスホロアミダイト活性化剤2-4を調製した。
【0061】
比較例1 ホスホロアミダイト活性化剤101の調製方法
0.5 vol%ピペリジン添加アセトニトリル溶液の代わりに添加剤を加えていないアセトニトリル溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ホスホロアミダイト活性化剤101を調製した。
【0062】
比較例2-12 ホスホロアミダイト活性化剤102-112の調製方法
0.5 vol%ピペリジン添加アセトニトリル溶液の代わりに表1記載の各種添加剤を0.5 vol%添加したアセトニトリル溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ホスホロアミダイト活性化剤102-112を調製した。
【0063】
実験例1 ホスホロアミダイト活性化剤の保存安定性評価1
実施例1-4で得られたホスホロアミダイト活性化剤1-4、及び比較例1-12で得られたホスホロアミダイト活性化剤101-112を、それぞれ0~2℃で1週間及び2週間静置した後の沈殿の有無(BTTの結晶の析出の有無)を確認した。
評価結果を表1に示す。また、BTTのモル濃度(mol/L)に対する添加剤のモル濃度(mol/L)の割合を「BTTに対する割合(%)」として、評価結果と併せて表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
尚、各ホスホロアミダイト活性化剤に使用した添加剤の構造は以下の通りである。
【0066】
実施例5 ホスホロアミダイト活性化剤5の調製方法
アセトニトリル29.70 mLにピペリジン0.30 mL(3.04 mmol)を加えて溶解させ、1.0 vol%ピペリジン添加アセトニトリル溶液を調製した。次いで、BTT 1.73 g(9.00 mmol)を1.0 vol%ピペリジン添加アセトニトリル溶液で30 mLにメスアップし、1.0 vol%のピペリジンを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤5を調製した。
【0067】
実施例6-7 ホスホロアミダイト活性化剤6-7の調製方法
1.0 vol%ピペリジン添加アセトニトリル溶液の代わりに表2記載の各種添加剤を1.0 vol%添加したアセトニトリル溶液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ホスホロアミダイト活性化剤6-7を調製した。
【0068】
比較例13-15 ホスホロアミダイト活性化剤113-115の調製方法
1.0 vol%ピペリジン添加アセトニトリル溶液の代わりに表2記載の各種添加剤を1.0 vol%添加したアセトニトリル溶液を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ホスホロアミダイト活性化剤113-115を調製した。
【0069】
実験例2 ホスホロアミダイト活性化剤の保存安定性評価2
実施例5-7で得られたホスホロアミダイト活性化剤5-7、及び比較例13-15で得られたホスホロアミダイト活性化剤113-115を、それぞれ0~2℃で1週間及び2週間静置した後の沈殿の有無(BTTの結晶の析出の有無)を確認した。
評価結果を表2に示す。また、BTTのモル濃度に対する添加剤のモル濃度の割合を「BTTに対する割合(%)」として、評価結果と併せて表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表1の結果から、種々の添加剤の中でもピペリジン、ピロリジン、N-メチルピペリジン及びN-メチルピロリジンのみが、沈殿を生じさせずに1週間保存可能であることが分かった。すなわち、ピペリジン、ピロリジン、N-メチルピペリジン及びN-メチルピロリジンが、アセトニトリルに対するBTTの溶解性を向上させ、BTTの結晶を析出させずにホスホロアミダイト活性化剤を保存するために有効であることが判明した。
さらに、表2の結果から、N-メチルピペリジン及びN-メチルピロリジンの添加量を0.5 vol%から1.0 vol%に増加させたところ、2週間後でも沈殿を生じさせずに保存可能であることが分かった。そこで、N-メチルピペリジン及びN-メチルピロリジンの添加量について詳細に検討した。
【0072】
実施例8-13 ホスホロアミダイト活性化剤8-13の調製
N-メチルピペリジンの添加量をそれぞれ0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 0.9, 1.0 vol%となるように用いたこと以外は、実施例3と同様にしてホスホロアミダイト活性化剤8-13を調製した。
【0073】
実施例14-19 ホスホロアミダイト活性化剤14-19の調製方法
N-メチルピロリジンの添加量をそれぞれ0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 0.9, 1.0 vol%となるように用いたこと以外は、実施例4と同様にしてホスホロアミダイト活性化剤14-19を調製した。
【0074】
比較例16-18 ホスホロアミダイト活性化剤116-118の調製方法
添加剤としてピペリジンの代わりにN-メチルイミダゾールを用い、その添加量をそれぞれ0.4, 0.45, 0.5 vol%となるように用いたこと以外は、実施例1と同様にしてホスホロアミダイト活性化剤116-118を調製した。
【0075】
実験例3 0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤における添加剤の添加量検討
実施例8-19で得られたホスホロアミダイト活性化剤8-19、及び比較例16-18で得られたホスホロアミダイト活性化剤116-118を、それぞれ0~2℃で2週間静置した後の沈殿の有無(BTTの結晶の析出の有無)を確認した。
評価結果を表3に示す。また、BTTのモル濃度に対する添加剤のモル濃度の割合を「BTTに対する割合(%)」として、評価結果と併せて表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例20 ホスホロアミダイト活性化剤20の調製方法
BTT 2.02 g(10.5 mmol)を0.5 vol%N-メチルピペリジン添加アセトニトリル溶液で30 mLにメスアップし、0.5 vol%のN-メチルピペリジンを含む0.35 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤20を調製した。
【0078】
実施例21-25 ホスホロアミダイト活性化剤21-25の調製方法
N-メチルピペリジンの添加量をそれぞれ0.6, 0.7, 0.8, 0.9, 1.0 vol%となるように用いたこと以外は、実施例20と同様にしてホスホロアミダイト活性化剤21-25を調製した。
【0079】
実施例26-31 ホスホロアミダイト活性化剤26-31の調製方法
添加剤としてN-メチルピペリジンの代わりにN-メチルピロリジンを用い、その添加量をそれぞれ0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 0.9, 1.0 vol%となるように用いたこと以外は、実施例20と同様にしてホスホロアミダイト活性化剤26-31を調製した。
【0080】
比較例19-24 ホスホロアミダイト活性化剤119-124の調製方法
添加剤としてN-メチルピペリジンの代わりにN-メチルイミダゾールを用い、その添加量をそれぞれ0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 0.9, 1.0 vol%となるように用いたこと以外は、実施例20と同様にしてホスホロアミダイト活性化剤119-124を調製した。
【0081】
実験例4 0.35 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤における添加剤の添加量検討
実施例20-31で得られたホスホロアミダイト活性化剤20-31、及び比較例19-24で得られたホスホロアミダイト活性化剤119-124を、それぞれ0~2℃で2週間静置した後の沈殿の有無(BTTの結晶の析出の有無)を確認した。
評価結果を表4に示す。また、BTTのモル濃度に対する添加剤のモル濃度の割合を「BTTに対する割合(%)」として、評価結果と併せて表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
表3及び表4の結果から、0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤の場合、N-メチルピペリジンは0.7 vol%以上、N-メチルピロリジンは0.6 vol%以上添加することで、アセトニトリルに対するBTTの溶解性が向上し、BTTの結晶が析出しないことが判明した。また、0.35 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤の場合、N-メチルピペリジンは0.9 vol%以上、N-メチルピロリジンは0.8 vol%以上添加することで、アセトニトリルに対するBTTの溶解性が向上し、BTTの結晶が析出しないことが判明した。沈殿の有無をBTTに対する添加剤のモル濃度の割合で比較すると、0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤の場合では、N-メチルピペリジン及びN-メチルピロリジンは、特許文献1(特表2008-530092号公報)に開示されている添加剤であるN-メチルイミダゾールと同等量(19.3 %)添加することでBTTの結晶が析出しないことが判明した。また、0.35 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤の場合では、N-メチルイミダゾールよりも少量の添加であってもBTTの結晶が析出しないことが判明した。
【0084】
次に、本発明のホスホロアミダイト活性化剤の液相系合成における性能を評価すべく、0~2℃の低温下で2週間保存可能であるホスホロアミダイト活性化剤(0.6 vol%のピペリジン、0.6 vol%のピロリジン、0.8 vol%のN-メチルピペリジン、又は0.7 vol%のN-メチルピロリジンを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤)を用いて、液相系で核酸ダイマー合成を実施した。同時に、0.5 vol%のN-メチルイミダゾールを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤、及び添加剤なしの0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤を用いた核酸ダイマー合成も行い、その合成結果を比較した。
【0085】
合成例1 3',5’-O-ビス(tert-ブチルジメチルシリル)チミジンの合成方法
窒素雰囲気下でチミジン(富士フイルム和光純薬(株)製)25.0 g(103 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(富士フイルム和光純薬(株)製)75 mL及びテトラヒドロフラン(THF)(富士フイルム和光純薬(株)製)75 mLに溶解させ、5℃に冷却した。その後、得られた溶液にイミダゾール(富士フイルム和光純薬(株)製)21.1 g(310 mmol)とトリフルオロメタンスルホン酸tert-ブチルジメチルシリル(TBSOTf)(富士フイルム和光純薬(株)製)68.2 g(258 mmol)を加えて、室温で3時間撹拌した。反応後にTHFを減圧下除去した後、ジイソプロピルエーテル(富士フイルム和光純薬(株)製)100 mLと酢酸エチル(富士フイルム和光純薬(株)製)50 mL、イオン交換水100 mLと飽和食塩水100 mLを加えて分液し、水層をジイソプロピルエーテル100 mLと酢酸エチル50 mLの混合溶媒で抽出した。有機層を飽和食塩水200 mLで洗浄した後、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。硫酸ナトリウムをろ過後、有機層を減圧下除去し、薄黄色晶状の3',5’-O-ビス(tert-ブチルジメチルシリル)チミジンを定量的に得た。
【0086】
合成例2 3'-O-(tert-ブチルジメチルシリル)チミジンの合成方法
合成例1で得られた3',5’-O-ビス(tert-ブチルジメチルシリル)チミジン全量をTHF 194 mLとイオン交換水32 mLに溶解させ、5℃に冷却した。その後、得られた溶液にトリフルオロ酢酸(TFA)(富士フイルム和光純薬(株)製)32 mLを20分かけて滴下し、3~5℃で4時間撹拌した。1.0 mol/L水酸化ナトリウム水溶液450 mLでpHを調整し、酢酸エチル300 mLで2回抽出した。有機層を飽和食塩水300 mLで洗浄した後、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。硫酸ナトリウムをろ過後、有機層を減圧下除去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=100:0~97:3)にて精製し、得られた粗体を酢酸エチル35 mLとヘキサン105 mLで再結晶することで、白色粉末状の3'-O-(tert-ブチルジメチルシリル)チミジンを13.0 g(収率35%)得た。
【0087】
合成例1-2の反応スキームを以下に示す。
(上記反応スキーム中、TBSは、tert-ブチルジメチルシリル基を表す。)
尚、得られた3',5’-O-ビス(tert-ブチルジメチルシリル)チミジンの物性データはJ. Org. Chem. 2016, 81, 3848記載のデータと一致しており、3'-O-(tert-ブチルジメチルシリル)チミジンの物性データはSynlett 2018, 29, 2437記載のデータと一致していることを確認した。
【0088】
実施例32 ホスホロアミダイト活性化剤32を用いた核酸ダイマーの合成
ピペリジンの添加量を0.5 vol%の代わりに0.6 vol%となるように用いたこと以外は実施例1と同様にして、0.6 vol%のピペリジンを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤32を調製した。次いで、窒素雰囲気下で5'-O-(4,4'-ジメトキシトリチル)チミジン-3'-[(2-シアノエチル)-N,N-ジイソプロピル]ホスホロアミダイト(CARBOSYNTH社製)752 mg(1.01 mmol)と合成例2で得られた3'-O-(tert-ブチルジメチルシリル)チミジン300 mg(0.84 mmol)を仕込み、ホスホロアミダイト活性化剤32を6.73 mL加えて室温で15分間撹拌した。その後、1.0 mol/L ヨウ素含有ピリジン-水溶液(9:1)8.42 mL(8.42 mmol)を加えて室温で15分間撹拌した。酢酸エチル84 mLと5質量%チオ硫酸ナトリウム水溶液84 mLを加えて分液し、水層を酢酸エチル42 mLで抽出した。有機層を5質量%チオ硫酸ナトリウム水溶液84 mLで洗浄した後、硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。硫酸ナトリウムをろ過後、有機層を減圧下除去した。得られた粗生成物の1H NMRを測定後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:6,酢酸エチル:メタノール=98:2)にて精製し、薄黄色晶状の目的の核酸ダイマーを506 mg得た。粗生成物のNMR収率は64%、単離収率は59%であった。尚、NMR収率は内部標準物質としてジメチルスルホン(富士フイルム和光純薬(株)製)を使用し、化学シフト3.322 ppmの積分値を基準として目的の核酸ダイマーの5.093 ppmの積分値から算出した。
【0089】
実施例32の反応スキームを以下に示す。
(上記反応スキーム中、DMTrは、4,4'-ジメトキシトリチル基を表し、TBSは、tert-ブチルジメチルシリル基を表す。)
尚、得られた核酸ダイマーの物性データはJ. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 15930記載のデータと一致していることを確認した。
【0090】
実施例33 ホスホロアミダイト活性化剤33を用いた核酸ダイマーの合成
添加剤としてピペリジンの代わりにピロリジンを用いたこと以外は、実施例32と同様にして、0.6 vol%のピロリジンを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤33を調製し、それを用いて核酸ダイマーを合成した。
【0091】
実施例34 ホスホロアミダイト活性化剤11を用いた核酸ダイマーの合成
ホスホロアミダイト活性化剤32の代わりに、実施例11で得られたホスホロアミダイト活性化剤11を用いたこと以外は、実施例32と同様にして核酸ダイマーを合成した。
【0092】
実施例35 ホスホロアミダイト活性化剤16を用いた核酸ダイマーの合成
ホスホロアミダイト活性化剤32の代わりに、実施例16で得られたホスホロアミダイト活性化剤16を用いたこと以外は、実施例32と同様にして核酸ダイマーを合成した。
【0093】
比較例24 ホスホロアミダイト活性化剤101を用いた核酸ダイマーの合成
ホスホロアミダイト活性化剤32の代わりに、比較例1で得られたホスホロアミダイト活性化剤101を用いたこと以外は、実施例32と同様にして核酸ダイマーを合成した。
【0094】
比較例25 ホスホロアミダイト活性化剤118を用いた核酸ダイマーの合成
ホスホロアミダイト活性化剤32の代わりに、比較例18で得られたホスホロアミダイト活性化剤118を用いたこと以外は、実施例32と同様にして核酸ダイマーを合成した。
【0095】
実施例32-35及び比較例24-25における、NMRから算出した収率、及びシリカゲルカラムクロマトグラフィー精製後の単離収率について、表3に示す。尚、実施例33-35及び比較例24-25において得られた生成物の物性データは実施例32と同じであった。
【0096】
【表5】
【0097】
表5の結果から、特許文献1に開示されているN-メチルイミダゾール含有ホスホロアミダイト活性化剤を用いた場合には、添加剤を含まないホスホロアミダイト活性化剤を用いた場合と比較して得られる核酸ダイマーの収率が低かった。一方、ピペリジン、ピロリジン、N-メチルピペリジン又はN-メチルピロリジン含有の本発明のホスホロアミダイト活性化剤を用いた場合には、添加剤を含まないホスホロアミダイト活性化剤を用いた場合と同等以上の収率で反応が進行し、収率を低下させないことが判明した。その中でも、特にN-メチルピペリジン又はN-メチルピロリジン含有の本発明のホスホロアミダイト活性化剤を用いた場合には、添加剤を含まないホスホロアミダイト活性化剤を用いた場合よりも高収率で反応が進行することが判明した。
従って、本発明のホスホロアミダイト活性化剤は、液相系合成において、特許文献1に開示されている添加剤(N-メチルイミダゾール)含有ホスホロアミダイト活性化剤と同等もしくはそれ以上の高い保存安定性を有し、且つ添加剤を含まないホスホロアミダイト活性化剤と同等もしくはそれ以上の高い反応収率を有するという優れた効果を奏することが分かった。
【0098】
次に、本発明のホスホロアミダイト活性化剤の固相系合成における性能を評価すべく、液相系合成で性能が良好であったホスホロアミダイト活性化剤(0.8 vol%のN-メチルピペリジン又は0.7 vol%のN-メチルピロリジンを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤)を用いて、固相系でDNAオリゴマー合成を実施した。同時に、0.5 vol%のN-メチルイミダゾールを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤を用いたDNAオリゴマー合成も行い、その合成結果を比較した。
【0099】
実施例36 ホスホロアミダイト活性化剤11を用いたDNAオリゴマーの合成
ユニバーサルサポート(固相合成用担体、商品名:Glen Unysupport CPG 1000、Glen Research社製)を1.0μmolに相当する量を反応カラムに充填し、5'-O-(4,4'-ジメトキシトリチル)チミジン-3'-[(2-シアノエチル)-N,N-ジイソプロピル]ホスホロアミダイト(CARBOSYNTH社製)の0.07Mアセトニトリル溶液、及び実施例11で得られたホスホロアミダイト活性化剤11を調製し、NTS M-2-MX DNA/RNA合成機(日本テクノサービス社製)を用いてdT 20mer(5'-TTTTTTTTTTTTTTTTTTTT-3')を合成した。尚、反応剤には、デブロッキング剤として3質量%ジクロロ酢酸-トルエン溶液(Sigma-Aldrich社製)を、キャッピング剤としてキャップA試薬(N-メチルイミダゾール-アセトニトリル溶液(2:8))(富士フイルム和光純薬(株)製)及びキャップB試薬(無水酢酸-2,6-ルチジン-アセトニトリル溶液(2:3:5))(富士フイルム和光純薬(株)製)を、酸化剤として0.05Mヨウ素溶液(ピリジン-水(9:1))(富士フイルム和光純薬(株)製)を使用した。合成後、得られたDNAオリゴヌクレオチドを28質量%アンモニア水に55℃で15時間浸漬し、固相合成用担体からのdT 20merの切り出しと脱保護を実施した。得られたdT 20merの試料溶液について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって純度を測定した(測定条件:カラム;Wakopak(登録商標) Ultra C18-5 4.6mm × 150mm、流速;1.0 mL/min、カラム温度;40℃、UV検出波長;260nm、溶離液A;0.1M 酢酸トリエチルアミン(TEAA)水溶液(pH7.0)、溶離液B;50%アセトニトリル 0.1M TEAA水溶液(pH7.0))。
【0100】
実施例37 ホスホロアミダイト活性化剤16を用いたDNAオリゴマーの合成
ホスホロアミダイト活性化剤11の代わりに、実施例16で得られたホスホロアミダイト活性化剤16を用いたこと以外は、実施例36と同様に、dT 20merを合成してその純度をHPLCにて測定した。
【0101】
比較例26 ホスホロアミダイト活性化剤118を用いたDNAオリゴマーの合成
ホスホロアミダイト活性化剤11の代わりに、比較例18で得られたホスホロアミダイト活性化剤118を用いたこと以外は、実施例36と同様に、dT 20merを合成してその純度をHPLCにて測定した。
【0102】
実施例36及び37並びに比較例26における、HPLCにて測定したdT 20merの純度について、表6に示す。
【0103】
【表6】
【0104】
次に、ホスホロアミダイト活性化剤(0.8 vol%のN-メチルピペリジン、又は0.7 vol%のN-メチルピロリジンを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤)を用いて、固相系でRNAオリゴマー合成を実施した。同時に、0.5 vol%のN-メチルイミダゾールを含む0.30 mol/L BTTのホスホロアミダイト活性化剤を用いたRNAオリゴマー合成も行い、その合成結果を比較した。
【0105】
実施例38 ホスホロアミダイト活性化剤11を用いたRNAオリゴマーの合成
ユニバーサルサポート(固相合成用担体、商品名:Glen Unysupport CPG 1000、Glen Research社製)を0.2μmolに相当する量を反応カラムに充填し、5'-O-(4,4'-ジメトキシトリチル)-2'-O-(tert-ブチルジメチルシリル)ウリジン-3'-[(2-シアノエチル)-N,N-ジイソプロピル]ホスホロアミダイト(Sigma-Aldrich社製)の0.07Mアセトニトリル溶液、及び実施例11で得られたホスホロアミダイト活性化剤11を調製し、NTS M-2-MX DNA/RNA合成機(日本テクノサービス社製)を用いてrU 20mer(5'-UUUUUUUUUUUUUUUUUUUU-3')を合成した。なお、反応剤は実施例36に記載の反応剤と同じものを用いた。合成後、得られたRNAオリゴヌクレオチドを28質量%アンモニア水-40質量%メチルアミン水溶液-70質量%エタノール水溶液(1:1:1)の混合溶媒に60℃で3時間浸漬し、固相合成用担体からのrU 20merの切り出しと脱保護を実施した。さらに、得られた溶液を濃縮し、そこにジメチルスルホキシド50μL及びトリエチルアミン三フッ化水素酸塩(TREAT-3HF)200μLを加えて60℃で3時間浸漬し、tert-ブチルジメチルシリル基の脱保護を実施した。得られたrU 20merの純度を、実施例36と同様の測定条件でHPLCにて測定した。
【0106】
実施例39 ホスホロアミダイト活性化剤16を用いたRNAオリゴマーの合成
ホスホロアミダイト活性化剤11の代わりに、実施例16で得られたホスホロアミダイト活性化剤16を用いたこと以外は、実施例38と同様に、rU 20merを合成してその純度をHPLCにて測定した。
【0107】
比較例27 ホスホロアミダイト活性化剤118を用いたRNAオリゴマーの合成
ホスホロアミダイト活性化剤11の代わりに、比較例18で得られたホスホロアミダイト活性化剤118を用いたこと以外は、実施例38と同様に、rU 20merを合成してその純度をHPLCにて測定した。
【0108】
実施例38及び39並びに比較例27における、HPLCにて測定したrU 20merの純度について、表7に示す。
【0109】
【表7】
【0110】
表6及び表7の結果から、N-メチルピペリジン又はN-メチルピロリジン含有の本発明のホスホロアミダイト活性化剤を固相系合成に用いた場合にも、特許文献1に開示されているN-メチルイミダゾール含有ホスホロアミダイト活性化剤を用いた場合と同等以上の純度でDNA・RNAオリゴマーが得られることが判明した。
従って、本発明のホスホロアミダイト活性化剤は、固相系合成において、特許文献1に開示されている添加剤(N-メチルイミダゾール)含有ホスホロアミダイト活性化剤と同等もしくはそれ以上の高い保存安定性を有し、且つ同等もしくはそれ以上の高い純度で目的物が得られるという優れた効果を奏することが分かった。