(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5835 20060101AFI20240312BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240312BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C04B35/5835
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2022129692
(22)【出願日】2022-08-16
(62)【分割の表示】P 2019519462の分割
【原出願日】2018-02-15
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2017104697
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/068222(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194416(WO,A1)
【文献】特開2013-039668(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171155(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194398(WO,A1)
【文献】特開平02-302371(JP,A)
【文献】特開平02-282444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5835
B23B 27/14
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1相と第2相とを含む焼結体であって、
前記第1相は、立方晶窒化ホウ素粒子からなり、
前記第1相は、前記焼結体中に50体積%以上76体積%未満含まれ、
前記第2相は、Al
2O
3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ZrO
2である第1材料からなり、
前記第2相は、前記第1相の表面の少なくとも一部と接触し、かつ前記第1相と前記第2相との接触比率は、80%以上であり、
互いに隣接し、かつ直接接触する2個以上の前記立方晶窒化ホウ素粒子を接触体と定義し、前記接触体の全周の長さをDiとし、前記立方晶窒化ホウ素粒子が直接接触している接触箇所の数をn、並びにその長さをd
kとして、前記接触箇所の合計長さをΣd
k(但し、k=1~n)とすると、以下の関係式(I)、(II’’)を満たす、焼結体。
【数1】
【請求項2】
前記焼結体は、さらに第3相を含み、
前記第3相は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、AlおよびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物からなる、請求項1に記載の焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体に関する。本出願は、2017年5月26日に出願した日本特許出願である特願2017-104697号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載されたすべての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2016/171155号(特許文献1)は、立方晶窒化ホウ素(以下、「cBN」とも記す)と、Al2O3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ジルコニア(以下、「ATZ」とも記す)とを含む焼結体を開示している。この焼結体は、切削工具に適用された場合、高速切削における耐欠損性において優れた特性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る焼結体は、第1相と第2相とを含む焼結体であって、上記第1相は、立方晶窒化ホウ素粒子からなり、上記第2相は、Al2O3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ZrO2である第1材料からなり、上記第2相は、上記第1相の表面の少なくとも一部と接触し、上記焼結体は、互いに隣接し、かつ直接接触する2個以上の上記立方晶窒化ホウ素粒子を接触体と定義し、上記接触体の全周の長さをDiとし、上記立方晶窒化ホウ素粒子が直接接触している接触箇所の数をn、並びにその長さをdkとして、上記接触箇所の合計長さをΣdk(但し、k=1~n)とすると、以下の関係式(I)、(II)を満たす。
【0005】
【0006】
本開示の一態様に係る焼結体の製造方法は、立方晶窒化ホウ素粒子からなる第1相と、第1材料からなる第2相とを含む焼結体の製造方法であって、上記第1材料で上記立方晶窒化ホウ素粒子を被覆することにより焼結前駆体を得る第1工程と、上記焼結前駆体を1GPaより高く20GPa以下の圧力で焼結することにより焼結体を得る第2工程とを含み、上記第1材料は、Al2O3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ZrO2である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
しかしながら切削工具に係る技術分野では、遠心鋳造鋳鉄などの難削材に対し、切削速度などにおいてより過酷な条件で切削することが求められる場合がある。その場合、特許文献1に開示の焼結体は、その強度および寿命の観点から改善の余地があった。
【0008】
本開示は、上記実情に鑑みてなされ、強度および寿命が改善されることにより、より過酷な条件での切削を可能とした焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
上記によれば、強度および寿命が改善されることにより、より過酷な条件での切削を可能とした焼結体およびその製造方法を提供することができる。
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
本発明者らは、より過酷な条件で切削することが可能な焼結体を検討する中で、ATZで被覆されたcBN粒子を焼結することにより製造される焼結体は、焼結体中でcBN粒子同士が直接接触することが抑制されるため、強度および寿命において性能向上することを知見した。これにより、本開示に係る焼結体およびその製造方法に到達した。
【0010】
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係る焼結体は、第1相と第2相とを含む焼結体であって、上記第1相は、立方晶窒化ホウ素粒子からなり、上記第2相は、Al2O3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ZrO2である第1材料からなり、上記第2相は、上記第1相の表面の少なくとも一部と接触し、上記焼結体は、互いに隣接し、かつ直接接触する2個以上の上記立方晶窒化ホウ素粒子を接触体と定義し、上記接触体の全周の長さをDiとし、上記立方晶窒化ホウ素粒子が直接接触している接触箇所の数をn、並びにその長さをdkとして、上記接触箇所の合計長さをΣdk(但し、k=1~n)とすると、以下の関係式(I)、(II)を満たす。このような構成により、焼結体は、強度および寿命を向上させることができる。
【0011】
【0012】
[2]上記第1相は、上記焼結体中に30体積%以上50体積%未満含まれ、以下の関係式(II’)を満たすことが好ましい。
【0013】
【0014】
これにより、切削工具として用いた場合、難削材の切削においてその仕上げ工程に好適に用いることができる。
【0015】
[3]上記第1相は、上記焼結体中に50体積%以上76体積%未満含まれ、以下の関係式(II’’)を満たすことが好ましい。
【0016】
【0017】
これにより、切削工具として用いた場合、難削材の切削においてその粗仕上げ工程に好適に用いることができる。
【0018】
[4]上記第1相は、上記焼結体中に76体積%以上100体積%未満含まれることが好ましい。これにより、切削工具として用いた場合、特に硬い難削材の切削に対して好適に用いることができる。
【0019】
[5]上記焼結体は、さらに第3相を含み、上記第3相は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、AlおよびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物からなることが好ましい。これにより、より靱性にも優れた焼結体を提供することができる。
【0020】
[6]本開示の一態様に係る焼結体の製造方法は、立方晶窒化ホウ素粒子からなる第1相と、第1材料からなる第2相とを含む焼結体の製造方法であって、上記第1材料で上記立方晶窒化ホウ素粒子を被覆することにより焼結前駆体を得る第1工程と、上記焼結前駆体を1GPaより高く20GPa以下の圧力で焼結することにより焼結体を得る第2工程とを含み、上記第1材料は、Al2O3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ZrO2である。このような構成により、強度および寿命が向上する焼結体を製造することができる。
【0021】
[7]上記第1工程は、上記立方晶窒化ホウ素粒子と結合材とを含む粒状の混合体を得る第1プレ工程を含み、上記第1工程において、上記立方晶窒化ホウ素粒子に代えて上記第1プレ工程により得た上記混合体を上記第1材料で被覆することにより上記焼結前駆体を得、上記焼結体は、上記結合材からなる第3相をさらに含み、上記結合材は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、AlおよびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物からなることが好ましい。これにより強度および寿命とともに、靱性についても性能がより向上する焼結体を製造することができる。
【0022】
[8]上記第2工程は、上記焼結前駆体と上記結合材とを混合することにより混合前駆体を得る第2プレ工程を含み、上記第2工程において、上記焼結前駆体に代えて上記第2プレ工程により得た上記混合前駆体を1GPaより高く20GPa以下の圧力で焼結することにより上記焼結体を得ることが好ましい。これにより、靱性についてその性能がさらに向上する焼結体を製造することができる。
【0023】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態(以下「本実施形態」とも記す)についてさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0024】
ここで、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。さらに、本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば「TiC」と記載されている場合、TiCを構成する原子数の比はTi:C=1:1に限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。このことは、「TiC」以外の化合物の記載についても同様である。
【0025】
[焼結体]
本実施形態に係る焼結体は、第1相と第2相とを含む。上記第1相は、立方晶窒化ホウ素粒子からなり、上記第2相は、Al2O3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ZrO2である第1材料からなる。
【0026】
≪第1相≫
第1相は、立方晶窒化ホウ素粒子からなる。立方晶窒化ホウ素粒子は、その平均粒径が0.1~5μmであることが好ましい。立方晶窒化ホウ素粒子の平均粒径が0.1μm未満の場合、他の粉末と混合する際に凝集しやすいため焼結不良となる傾向があり、立方晶窒化ホウ素粒子の平均粒径が5μmを超えると、焼結時に粒成長によって強度が低下する傾向がある。
【0027】
立方晶窒化ホウ素粒子の粒径は、応力集中がなく高強度になるという観点から均一であることが好ましい。さらに立方晶窒化ホウ素粒子の粒径は、正規分布を示すことが好ましい。立方晶窒化ホウ素粒子は、二峰性の粒径分布を示すことも好ましい。
【0028】
このような立方晶窒化ホウ素粒子は、焼結体中に30体積%以上100体積%未満の割合で含有されることが好ましい。その割合が30体積%未満では、硬度が低下し耐摩耗性が低下する場合がある。その割合が100体積%になると第1材料を含まないため、第1材料に基づく特性が得られなくなる。
【0029】
ここで第1相(立方晶窒化ホウ素粒子)は、焼結体中に30体積%以上50体積%未満含まれることが好ましい。さらに後述する関係式(II)の範囲に含まれる以下の関係式(II’)をも満たすことが好ましい。
[(Dii-Di)/Dii]×100≦3 ・・・(II’)
この場合、切削工具として用いると難削材の切削においてその仕上げ工程に好適となる。
【0030】
さらに第1相は、焼結体中に50体積%以上76体積%未満含まれることが好ましい。特に後述する関係式(II)の範囲に含まれる以下の関係式(I’’)をも満たすことが好ましい。
[(Dii-Di)/Dii]×100≦20 ・・・(II’’)
この場合、切削工具として用いると難削材の切削においてその粗仕上げ工程に好適となる。
【0031】
第1相は、焼結体中に76体積%以上100体積%未満含まれることが好ましい。この場合、切削工具として用いると特に硬い難削材の切削に対して好適となる。
【0032】
立方晶窒化ホウ素粒子の平均粒径、含有量(体積%)は、次のようにして確認することができる。すなわち、アルゴンのイオンビームを用いて焼結体をCP(Cross Section Polisher)加工することにより、平滑な断面を得る。この断面に対し、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission-type Scanning Electron Microscope(FE-SEM)、商品名:「JSM-7800F」、日本電子株式会社製)を用いて10000倍の高倍率で観察することにより、視野中の立方晶窒化ホウ素粒子を特定する。さらに、視野中の立方晶窒化ホウ素粒子すべてについて、画像解析ソフト(商品名:「WinRooF ver.6.5.3」、三谷商事株式会社製)を用いた2値化処理によりこれらの円相当径と面積とを算出し、この円相当径の平均値を平均粒径とし、面積の平均値を含有量とする。ここで本明細書において、CP加工により得た断面から求められる面積は、その奥行き方向にその面積が連続するものとみなすことにより、上記面積を、体積%を単位とする含有量として表すものとする。
【0033】
≪第2相≫
第2相は、Al2O3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ZrO2である第1材料からなる。
【0034】
<第1材料>
第1材料は、上述のとおりAl2O3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ZrO2である。部分安定化ZrO2とは、従来公知の意味を有するものであり、典型的には、ジルコニア以外の酸化物を固溶させて構造中の酸素空孔を減少させることにより、その結晶構造である立方晶および正方晶が室温でも安定または準安定となるZrO2をいう。上記酸化物として、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウムなどの希土類酸化物を挙げることができる。部分安定化ZrO2は、上記酸化物を1種または2種以上含むことができる。ジルコニア以外の酸化物の固溶量は、ZrO2に対して1~4mol%程度であることが好ましい。
【0035】
第1材料(第2相)は、Al2O3が部分安定化ZrO2に対して90体積%以下含まれることが好ましい。より好ましくは、Al2O3は部分安定化ZrO2に対して50体積%以下含まれることである。第1材料がこのような構成を有することにより、高硬度、高強度、および高靭性の特性を備えて難削材の高速切削が可能となる。Al2O3が部分安定化ZrO2に対して90体積%を超える場合、靱性が低下する傾向がある。Al2O3の部分安定化ZrO2に対する体積比率の下限は、5体積%とすればよい。Al2O3が部分安定化ZrO2に対して5体積%未満となる場合、上記のような特性が得られなくなる傾向がある。
【0036】
Al2O3は、部分安定化ZrO2の結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散して存在する。「分散して存在する」とは、微粒のAl2O3が結晶粒界および結晶粒内のどこかに存在することを意味する。すなわち、Al2O3の存在位置は、部分安定化ZrO2の特定箇所に限定されないことを意味する。
【0037】
Al2O3は1μm以下の粒子(結晶粒)であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以下の粒子であり、さらに好ましくは0.1μm以下の粒子である。粒径が小さくなればなる程、靭性を向上させる傾向にあるため、粒径の下限は特に限定されないが、微粉になり過ぎると物質そのものの靱性が低下する傾向があるため、0.005μm以上とすることが好ましい。Al2O3は、第1材料中に分散して存在することにより、靭性が飛躍的に向上したものとなるが、これはAl2O3による組織強靭化に起因するものと考えられる。
【0038】
Al2O3の粒径、含有量(体積%)は、上述した立方晶窒化ホウ素粒子のそれらを特定する方法と同じ方法により求めることができる。すなわち、アルゴンのイオンビームを用いて焼結体をCP加工することにより得た平滑な断面に対し、上述したFE-SEMを用いて10000倍の倍率で観察し、かつ上述の画像解析ソフトを用いた2値化処理によりAl2O3の円相当径を算出し、それを平均粒径とすることができる。さらに、画像解析ソフトの2値化処理により算出したAl2O3の面積を、その含有量(体積%)とすることができる。
【0039】
第1材料についても上記断面に対し、FE-SEMを用いて10000倍の高倍率で観察し、上記画像解析ソフトを用いた2値化処理により第1材料の円相当径と面積とを算出し、この円相当径を平均粒径とし、面積を含有量(体積%)とすることができる。
【0040】
第1材料は、焼結体中に10~80体積%の割合で含有されることが好ましい。その割合が10体積%未満では、耐摩耗性および耐欠損性が低下する場合がある。その割合が80体積%を超えると、硬度が低下し耐摩耗性が低下する場合がある。第1材料のより好ましい割合は、20~60体積%である。
【0041】
上述のとおり、第1材料は、Al2O3が結晶粒界および結晶粒内の両方またはいずれか一方に分散した部分安定化ZrO2であり、焼結体中で第2相を形成するものである。しかしながら、後述するように通常ATZは、結合材としても作用するため、第1材料も結合材として作用する場合がある。この場合であっても第1材料は、作用の如何にかかわらず焼結体中で10~80体積%の割合で含有されることが好ましい。
【0042】
<第1材料の製造方法>
第1材料は、たとえば以下のような中和共沈法またはゾルゲル法によって得ることができる。
【0043】
(中和共沈法)
中和共沈法とは、以下の工程Aおよび工程Bを含む方法である。このような方法は、たとえば2013年に発表された論文(J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy,Vol.60,No.10,P428-435)に記載されている。
【0044】
(工程A)
ジルコニウム塩とイットリウム塩とアルミニウム塩を用い、ジルコニア(ZrO2)およびイットリア(Y2O3)としてのモル比率を95:5~99.5:0.5で、しかもイットリアを添加したジルコニアおよびアルミナ(Al2O3)としてのモル比率を10:90~95:5となるように混合し、混合溶液を調製する。上記において、ジルコニア(ZrO2)に固溶される酸化物としてイットリア(Y2O3)を例示しているが、酸化物はこれのみに限られるものではない。
【0045】
(工程B)
上記工程Aで得られた混合溶液にアルカリを添加することにより中和を行ない、ジルコニウムとイットリウムとアルミニウムとを共沈させて沈殿物としての第1材料を得る。当該沈殿物を乾燥させた後、650~750℃で7~12時間熱処理し、さらに850~950℃で0.5~3時間仮焼し、かつボールミルなどによって粉砕する。これにより、Y2O3安定化ZrO2-Al2O3固溶体粉末からなる第1材料の粉末を製造することができる。
【0046】
ここで、上記工程Aのジルコニウム塩としては、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)、オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO3)2)などを挙げることができる。イットリウム塩としては、塩化イットリウム(YCl3)、硝酸イットリウム(Y(NO3)3)などを挙げることができる。アルミニウム塩としては、塩化アルミニウム(AlCl3)などを挙げることができる。混合溶液とする溶媒としては、硝酸、塩酸などを挙げることができる。
【0047】
(ゾルゲル法)
ゾルゲル法とは、以下の工程Xを含む方法である。このような方法は、たとえば2011年に発表された論文(J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy,Vol.58,No.12,P727-732)に記載されている。
【0048】
(工程X)
ゾルゲル法を用いてZrO2に対して0.3~3.5mol%のY2O3を添加したZrO270~80mol%に対し、20~30mol%のAl2O3を添加してなる固溶体粉体としての第1材料を調製する。次いで、この固溶体粉体を結晶化温度以上で仮焼し、かつボールミルなどによって粉砕することにより、結晶質のZrO2固溶体粉末からなる第1材料の粉末を調製することができる。
【0049】
(その他の方法)
第1材料は、上記の2方法以外の方法によっても得ることができる。すなわち、部分安定化ZrO2とAl2O3とをビーズミルまたはボールミルのような粉砕機を用いてエタノールなどの溶媒中で混合することによりスラリーを得る。次いで、このスラリーを用いて造粒することにより造粒物としての第1材料を得ることができる。造粒手段は特に限定されず、溶融造粒、噴霧造粒などを挙げることができる。
【0050】
この造粒物に対し、次のような方法で強度を向上させる。さらにボールミルなどによって粉砕することにより、第1材料の粉末を調製することができる。
(1)熱処理炉(たとえば1000℃、真空中、3時間)で焼結する。
(2)造粒物の前駆段階の上記スラリーにバインダー(たとえば一般的バインダーであるPVB(ポリビニルブチラール))を10質量%添加する。
【0051】
≪第1相と第2相との関係≫
第2相は、第1相の表面の少なくとも一部と接触する。これにより、立方晶窒化ホウ素粒子同士が直接接触することを抑制することができる傾向にあり、もって焼結体の強度および寿命を向上させることができる。その理由は、次のとおりであると考えられる。すなわちcBNは、元来焼結性が低いためcBN同士が接触しているとcBN粒子間、cBN粒子の3重点に隙間が生じやすい。一方、ATZ、Al2O3などは焼結性が良く、焼結体組織に隙間が残存しにくい。このため、第2相を第1相の表面の少なくとも一部と接触させ、焼結体組織に隙間が残存しないようにすることにより、焼結体の緻密性が向上し、これにより焼結体の強度および寿命を向上させることができると考えられる。第2相は、本開示の効果を奏する限り、第1相の表面の一部と接触してもよく、全部と接触してもよい。さらに、本開示の効果を奏する限り、その接触比率は限定されるべきではない。
【0052】
本実施形態に係る焼結体は、互いに隣接し、かつ直接接触する2個以上の上記立方晶窒化ホウ素粒子を接触体と定義し、上記接触体の全周の長さをDiとし、上記立方晶窒化ホウ素粒子が直接接触している接触箇所の数をn、並びにその長さをdkとして、上記接触箇所の合計長さをΣdk(但し、k=1~n)とすると、以下の関係式(I)、(II)を満たす。
【0053】
【0054】
ここでΣdk(但し、k=1~n)は、d1+d2+d3+・・・+dnを意味する。nは自然数である。
【0055】
立方晶窒化ホウ素粒子同士が直接接触することが抑制される場合に、上記(I)、(II)式は満たされる。このため、上記(I)、(II)式を満たす焼結体は、強度および寿命が向上する。以下の説明において上記(II)式の[(Dii-Di)/Dii]×100を「cBN接触比率(%)」とも記す。
【0056】
ここで、立方晶窒化ホウ素粒子が焼結体中に30体積%以上50体積%未満含まれる場合、cBN接触比率(%)は、3以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、最も好ましくは、0.5以下である。立方晶窒化ホウ素粒子が焼結体中に50体積%以上76体積%未満含まれる場合、cBN接触比率(%)は、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、最も好ましくは、10以下である。立方晶窒化ホウ素粒子が焼結体中に76体積%以上100体積%未満含まれる場合、cBN接触比率(%)は、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、最も好ましくは、30以下である。cBN接触比率(%)の下限値は、理想値として0である。cBN接触比率(%)が50を超えると、焼結体における強度の向上効果が不十分となる傾向がある。
【0057】
cBN接触比率(%)の算出方法は以下のとおりである。すなわち、まず上述した焼結体のCP加工した断面において上記FE-SEMを用いて10000倍の倍率で観察した観察像に対し、上記画像解析ソフトを用いた2値化処理によりcBN粒子を特定する。次に、特定したcBN粒子に関し、互いに隣接し、かつ直接接触する2個以上のcBN粒子を接触体と定義し、この接触体の外郭線を描出する。その後、この外郭線を辿ることにより、接触体の全周の長さをDiとして求める。さらに、接触体のcBN粒子が相互に直接接触している接触箇所を手入力により線として描出するととともに、その接触箇所の数をn、並びにその長さをdkとして、上記接触箇所の合計長さをΣdk(但し、k=1~n)として求める。この合計長さΣdk(但し、k=1~n)を2倍にした値を求めた上で、その値を上記Diに加算することによりDiiを求める(Dii=Di+(2×Σdk(但し、k=1~n))。
【0058】
以上から、cBN接触比率(%)は[(Dii-Di)/Dii]×100の式に、DiおよびDiiとして求めた値をそれぞれ代入することによって算出することができる。cBN接触比率(%)は、上記観察像に現れたすべてのcBN粒子のうち、接触体の状態のものすべてに対してDiおよびDiiを求め、これを上記式に代入することにより得られる値の平均値とすることができる。
【0059】
<第1相と第2相との接触比率>
上述のとおり、第2相は、第1相の表面の少なくとも一部と接触する。この第1相と第2相との接触比率(%)は、以下の方法により算出することができる。すなわち、上述した焼結体のCP加工した断面における上記FE-SEMを用いて10000倍の倍率で観察した観察像に対し、上記画像解析ソフトを用いた2値化処理によりcBN粒子(第1相)およびこれを被覆する第1材料(第2相)を特定する(上記画像解析ソフトの輪郭線モードを使用)。特定したcBN粒子に関し、まず単体(他のcBN粒子と接触しない状態)で存在する場合にはその周を描出し、2個以上が相互に接触することにより集合体(cBN粒子以外の成分を含まないものとする)を形成している場合には、この集合体の外郭線を描出する。次いで、この外郭線および上記単体の周の長さの合計をcBN粒子の合計長さLBとして求める。さらに、上記外郭線および上記単体の周のうち、第1材料(第2相)が上記単体および上記集合体にそれぞれ直接接触し、この接触している部分の長さの合計を第1材料(第2相)の合計長さLAとして求める。
【0060】
以上から、第1相と第2相との接触比率(%)は、(LA/LB)×100の式に、LAおよびLBとして求めた値をそれぞれ代入することによって算出することができる。第1相と第2相との接触比率(%)は、上記観察像に現れたすべてのcBN粒子、およびこれを被覆する第1材料のすべてを対象としてLAおよびLBを求め、これを上記式に代入することにより得ることができる。このとき第1相と第2相との接触比率(%)は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが最も好ましい。第1相と第2相との接触比率(%)の上限は、100%である。ここで焼結体に含まれる第1材料は、結合材として作用している場合であっても、第1相と接触している接触部分を第1材料の合計長さLAに含むものとする。
【0061】
≪第3相≫
焼結体は、さらに第3相を含むことが好ましい。この第3相は、具体的には周期表の4族元素、5族元素、6族元素、AlおよびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物からなることが好ましい。このような第3相は、結合材として作用する。これにより、靱性にもより優れた焼結体を提供することができる。
【0062】
結合材は、たとえばAl2O3、MgO、SeO、Y2O3、HfO、TiC、TiN、TiB2、TiCrN、ZrC、ZrN、ZrB2、AlCrN、AlN、AlON、AlB2、SiC、Si3N4、HfC、HfN、VC、VN、NbC、TaC、CrC、CrN、Cr2N、MoC、WCなどの化合物からなり、この化合物を1種単独あるいは2種以上組合わせて構成することができる。
【0063】
結合材は、0.05~5μmの平均粒径を有することが好ましい。結合材の平均粒径が0.05μm未満の場合、他の粉末と混合する際、凝集しやすいため焼結不良となる傾向があり、結合材の平均粒径が5μmを超えると、焼結時粒成長により強度が低下する傾向がある。
【0064】
さらに結合材は、第3相として焼結体中に5~50体積%の割合で含有されることが好ましい。その割合が5体積%未満では、焼結体の強度が十分に向上しない場合がある。その割合が50体積%を超えると、cBN粒子の割合が低下するため焼結体の硬度が低下する場合がある。結合材(第3相)のより好ましい割合は、10~30体積%である。結合材の平均粒径についても、cBN粒子と同じ方法により求めることができる。
【0065】
本実施形態に係る焼結体は、その強度が1.5GPa以上であることが好ましい。この強度は、曲げ強度σを意味する。曲げ強度σは、スパン長さ8mm、クロスヘッドの送り0.5mm/minの条件の下、三点曲げ強度測定機(商品名:「AG-Xplus」、株式会社島津製作所製)により測定された三点曲げ強度の値で示される。焼結体の強度は、1.55GPa以上であることがより好ましい。焼結体の強度の上限は、特に限定すべきではないが、焼結体の原料に基づけば2.5GPa以下であることが妥当である。
【0066】
焼結体を構成する第1相(cBN)、第2相(第1材料)、第3相(結合材)などの各成分組成およびその含有割合は、上記断面に対してFE-SEMを用いて10000倍の高倍率で観察した観察像を対象とし、FE-SEMに付帯するエネルギー分散型X線検出器(EDX)の一種であるシリコンドリフト検出器(SDD、商品名:「Apollo XF」、EDAX Inc製)を用いて分析することにより求めることもできる。
【0067】
[焼結体の製造方法]
本実施形態に係る焼結体の製造方法は、立方晶窒化ホウ素粒子からなる第1相と、第1材料からなる第2相とを含む焼結体の製造方法である。焼結体の製造方法は、第1材料で立方晶窒化ホウ素粒子を被覆することにより焼結前駆体を得る第1工程と、焼結前駆体を1GPaより高く20GPa以下の圧力で焼結することにより焼結体を得る第2工程とを含む。
【0068】
≪第1工程≫
第1工程は、第1材料で立方晶窒化ホウ素粒子を被覆することにより焼結前駆体を得る工程である。第1材料および立方晶窒化ホウ素粒子については上述したとおりであるので、説明を省略する。
【0069】
<第1工程の具体的方法>
本実施形態では第1工程において、上述のように第1材料で立方晶窒化ホウ素粒子(cBN粒子)を被覆することにより焼結前駆体を得ることができる。焼結前駆体は、たとえばゾルゲル法を用いた以下の方法によって得ることができる。
【0070】
すなわち、まずZr-i-(OC3H7)4、Al(OC3H7)3、Y(OC3H7)3、および焼結体中の含有量が30体積%以上100体積%未満となるように調整した所定量のcBN粒子をキシレン中で2時間混合処理した後、NH4OHを添加することにより第1混合液を得る。次いで、第1混合液を70~80℃で24時間還流することによって第1加水分解生成物を得る。この第1加水分解生成物を遠心分離した後、熱水で洗浄し、続いて真空中120℃で乾燥することにより焼結前駆体を得る。本ゾルゲル法により、ZrO2に対して0.3~3.5mol%のY2O3を含むZrO270~80mol%に、20~30mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体(ATZ)としての第1材料でcBN粒子を被覆した焼結前駆体を調製することができる。
【0071】
<第1プレ工程>
さらに第1工程は、立方晶窒化ホウ素粒子と結合材とを含む粒状の混合体を得る第1プレ工程を含むことが好ましい。この場合、上記第1工程において、立方晶窒化ホウ素粒子に代えて第1プレ工程により得た混合体を第1材料で被覆することにより焼結前駆体を得ることとなる。上記結合材については上述したとおりであるので、説明を省略する。
【0072】
第1プレ工程では、具体的には、まず上述した中和共沈法などの公知の方法を用いることにより、第1材料の粉末を調製する。この第1材料の粉末は、結合材としても機能する。次に、第1材料の粉末と、立方晶窒化ホウ素粒子とを所定の容器に添加し、混合することにより粒状の混合体を得る。この粒状の混合体(所定量)、Zr-i-(OC3H7)4、Al(OC3H7)3およびY(OC3H7)3をキシレン中で2時間混合処理した後、NH4OHを添加することにより第2混合液を得る。次いで、第2混合液を70~80℃で24時間還流することによって第2加水分解生成物を得る。この第2加水分解生成物を遠心分離した後、熱水で洗浄し、続いて真空中120℃で乾燥することにより焼結前駆体を得る。本ゾルゲル法により、ZrO2に対して0.3~3.5mol%のY2O3を含むZrO270~80mol%に、20~30mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体(ATZ)としての第1材料でcBN粒子を被覆した焼結前駆体を調製することができる。
【0073】
その後、上記焼結前駆体に対しては、後述する第2工程を行なう前に所定の形状に成型するとともに乾燥させ、かつ700~900℃で仮焼することが好ましい。
【0074】
≪第2工程≫
第2工程は、焼結前駆体を1GPaより高く20GPa以下の圧力で焼結することにより焼結体を得る工程である。第2工程では、上記焼結前駆体を5GPa以上20GPa以下の圧力で焼結することがより好ましい。これにより、その強度および寿命が極めて向上する焼結体を製造することができる。
【0075】
この場合の具体的な焼結条件は以下のとおりである。すなわち、1000~1700℃の温度および5~20GPaの圧力で5~60分間保持することにより上記焼結前駆体を焼結する。焼結方法は特に限定されないが、ホットプレス、超高圧プレスなどを用いることができる。
【0076】
特に圧力が5~20GPaとなる超高圧下で行なう場合、ガス雰囲気を真空とすることがより好ましい。このとき、昇温速度は50~150℃/minとする。
【0077】
第2工程におけるより好ましい焼結条件は、真空中で昇温速度を50~150℃/分とし、圧力を5~20GPa以下とし、焼結温度を1000~1700℃とし、保持時間を5~60分とする条件である。
【0078】
<第2プレ工程>
第2工程は、焼結前駆体と結合材とを混合することにより混合前駆体を得る第2プレ工程を含むことが好ましい。この場合、第2工程において、焼結前駆体に代えて上記第2プレ工程により得た混合前駆体を1GPaより高く20GPa以下の圧力で焼結することにより焼結体を得ることとなる。混合前駆体の焼結条件は、上述した焼結前駆体と同じであってよい。
【0079】
ここで本実施形態に係る焼結体の製造方法は、第2プレ工程を含む場合にも、第2工程において上記混合前駆体を5GPa以上20GPa以下の圧力で焼結することにより焼結体を得ることがより好ましい。これにより、その強度および寿命が極めて向上する焼結体を製造することができる。
【0080】
このときの混合前駆体の焼結条件は、上述した焼結前駆体と同じであってよい。すなわち、1000~1700℃の温度および5~20GPaの超高圧下で5~60分間保持することにより焼結する。焼結方法は特に限定されず、ホットプレス、超高圧プレスなどを用いることができる。
【0081】
特に圧力が5~20GPaの超高圧下で行なう場合、ガス雰囲気を真空とすることがより好ましい。このとき、昇温速度は50~150℃/minとする。
【0082】
混合前駆体の好ましい焼結条件は、真空中で昇温速度を50~150℃/分とし、圧力を5~20GPa以下とし、焼結温度を1000~1700℃とし、保持時間を5~60分とする条件である。
【0083】
第2プレ工程において用いる結合材は、第1プレ工程に用いる結合材として説明したものと同じである。
【0084】
以上により、本実施形態に係る焼結体の製造方法は、強度および寿命が向上する焼結体を製造することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
≪焼結体の製造≫
<試料11>
(第1工程)
原料として、cBN粒子と第1材料の粉末とを準備する。まずcBN粒子を、焼結体中に占める含有量が40体積%となる量準備する。特にcBN粒子を、超音波分散装置を用いて30分間、分散することにより均一な状態として準備する。なぜなら、このcBN粒子は、3μmの平均粒径を有するものが全体の70質量%を占め、0.5μmの平均粒径を有するものが全体の30質量%を占める。このため、上記cBN粒子は二峰性の粒径分布を有するからである。第1材料の粉末は、上述した中和共沈法を用いて製造されたATZ粉末(第一稀元素化学工業株式会社製)である。この第1材料の粉末を、焼結体中に占める含有量が35体積%となる量準備する。上記第1材料の粉末に対しては予め350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼し、粉砕した上で上述の量を準備する。上記第1材料の粉末は、結合材として作用する。
【0087】
次に、このcBN粒子および第1材料の粉末を混合することにより粒状の混合体を得る(第1プレ工程)。この粒状の混合体(焼結体中に占める含有量は75体積%)、Zr-i-(OC3H7)4、Al(OC3H7)3およびY(OC3H7)3をキシレン中で2時間混合処理した後、NH4OHを添加することにより混合液を得る。次いで、窒素ガスフロー100mL/分、水温70℃の条件で24時間還流することによって、加水分解生成物を得る。この加水分解生成物を遠心分離した後、熱水で洗浄し、真空中120℃で乾燥することにより焼結前駆体を得る。これにより、ZrO2に対して1.5mol%のY2O3を含むZrO275mol%に、25mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体としての第1材料で、第1材料の粉末およびcBN粒子を被覆した焼結前駆体を調製する。
【0088】
ZrO2に対して1.5mol%のY2O3を含むZrO275mol%に、25mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体としての第1材料は、焼結体中において第2相(第1材料)となり、その含有量は焼結体中で25体積%を占める。その後、この焼結前駆体を70℃で乾燥し、続いて350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼する。
【0089】
(第2工程)
さらに、上記焼結前駆体に対して後述する切削工具の形状となるように70MPaの圧力で圧粉体成型し、次いで1000MPaの圧力で冷間等方圧法(CIP)成型をする。その後、上述した超高圧プレス法を用いて超高圧下において焼結する。具体的には、真空下、昇温速度150℃/分、圧力7GPa、焼結温度1500℃および保持時間60分とする条件で焼結することにより試料11の焼結体を得る。
【0090】
<試料12>
(第1工程)
原料として試料11と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で40体積%となる量準備し、それ以外は試料11と同じとして焼結前駆体を調製する。上記第1材料の粉末は、結合材として作用する。
【0091】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料11と同じ焼結条件で焼結することにより試料12の焼結体を得る。試料12において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は20体積%である。
【0092】
<試料13>
(第1工程)
原料として試料11と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で45体積%となる量準備し、それ以外は試料11と同じとして焼結前駆体を調製する。上記第1材料の粉末は、結合材として作用する。
【0093】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料11と同じ焼結条件で焼結することにより試料13の焼結体を得る。試料13において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は15体積%である。
【0094】
<試料14>
(第1工程)
原料として試料11と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で25体積%となる量準備し、さらにAl2O3粉末(商品名:「TM-DAR」、大明化学工業株式会社製)を、その含有量が焼結体中で20体積%となる量準備し、それ以外は試料11と同じとして焼結前駆体を調製する。上記第1材料の粉末およびAl2O3粉末が、結合材として作用する。
【0095】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料11と同じ焼結条件で焼結することにより試料14の焼結体を得る。試料14において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は15体積%である。
【0096】
<試料15>
(第1工程)
原料として試料11と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で25体積%となる量準備し、さらにTiN粉末(商品名:「TiN-01」、日本新金属株式会社製)を、その含有量が焼結体中で20体積%となる量準備し、それ以外は試料11と同じとして焼結前駆体を調製する。上記第1材料の粉末およびTiN粉末が、結合材として作用する。
【0097】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料11と同じ焼結条件で焼結することにより試料15の焼結体を得る。試料15において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は15体積%である。
【0098】
<試料16>
(第1工程)
原料として試料11と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で25体積%となる量準備し、さらにTiC粉末(商品名:「TiC-01」、日本新金属株式会社製)を、その含有量が焼結体中で20体積%となる量準備し、それ以外は試料11と同じとして焼結前駆体を調製する。上記第1材料の粉末およびTiC粉末が、結合材として作用する。
【0099】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料11と同じ焼結条件で焼結することにより試料16の焼結体を得る。試料16において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は15体積%である。
【0100】
<試料17>
(第1工程)
原料として試料11と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で25体積%となる量準備し、さらにAlON粉末を、以下の方法により製造することにより、その含有量が焼結体中で20体積%となる量準備し、それ以外は試料11と同じとして焼結前駆体を調製する。AlON粉末の製造においては、まずAl2O3粉末(商品名:「TM-DAR」、大明化学工業株式会社製)およびhAlN(株式会社トクヤマ製、Eグレード)を、3:2の体積比率でボールミルを用いて混合することにより混合体を得る。次いで、この混合体に対し窒素雰囲気下、30kPa、400℃の条件で1時間保持し、さらに温度を1850℃として3時間保持することにより熱処理を行なう。このときの昇温速度をいずれも10℃/minとする。上記熱処理後、混合体を粉砕するとともに150μの篩を通過させることにより、AlON粉末を得る。上記第1材料の粉末およびAlON粉末が、結合材として作用する。
【0101】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料11と同じ焼結条件で焼結することにより試料17の焼結体を得る。試料17において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は15体積%である。
【0102】
<試料18>
原料として、試料11で用いたのと同じcBN粒子を、焼結体中に占める含有量が40体積%となる量準備する。さらに、試料11で用いたのと同じ第1材料の粉末を、焼結体中に占める含有量が60体積%となる量準備する。
【0103】
このcBN粒子および第1材料の粉末を混合した後、この混合体を70℃で乾燥し、続いて350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼する。さらに後述する切削工具の形状となるように70MPaの圧力で圧粉体成型し、次いで1000MPaの圧力で冷間等方圧法(CIP)成型をする。その後、試料11の第2工程と同じ焼結条件で焼結することにより試料18の焼結体を得る。したがって試料18の焼結体は、第1材料でcBN粒子を被覆する工程を経ておらず、もって[(Dii-Di)/Dii]×100≦3を満たすことが困難となる。
【0104】
≪試料11~試料18の評価≫
<各成分の含有量>
試料11~試料18の焼結体に対し、上述したようにCP加工を施し、その断面を上記FE-SEMで観察することにより、焼結体中のcBN(第1相)、第1材料(第2相)および結合材(第3相)の領域をそれぞれ特定するとともに、上記画像解析ソフトを用いた2値化処理によりcBN(第1相)、第1材料(第2相)および結合材(第3相)の含有量をそれぞれ算出する。その結果、試料11~試料18の焼結体におけるcBN(第1相)、第1材料(第2相)および結合材(第3相)の含有量は、表1に示すとおりであって原料と一致することを確認することができる。表1において「第1材料(第2相)の含有量」は、「被覆ATZ量」として示されている。なお、第1材料(第2相)および結合材(第3相)がいずれもATZの場合、表中の「被覆ATZ量」および「結合材量」におけるATZの数値は、それぞれの含有量が原料と一致するものと推定して表した推定値である。
【0105】
<cBN接触比率>
試料11~試料18の焼結体に対し、上述した方法を用いてcBN接触比率を算出する。すなわち、試料11~試料18の焼結体について、上述のCP加工した断面に対して上記電子顕微鏡を用いて観察した顕微鏡像から、上記画像解析ソフトを用いた2値化処理によりcBN粒子をそれぞれ特定し、その距離DiおよびDiiを求める。このDiおよびDiiの値を[(Dii-Di)/Dii]×100の式に代入することによりcBN接触比率を算出する。その結果についても表1に示す。
【0106】
<第1相と第2相との接触比率>
試料11~試料18の焼結体に対し、上述した方法を用いて第1相と第2相との接触比率を算出する。すなわち、試料11~試料18の焼結体について、上述のCP加工した断面に対して上記電子顕微鏡を用いて観察した顕微鏡像から、上記画像解析ソフトを用いた2値化処理によりcBN粒子および第1材料をそれぞれ特定し、その合計長さLAおよびLBを求める。このLAおよびLBの値を(LA/LB)×100の式に代入することにより第1相と第2相との接触比率(%)を算出する。その結果についても表1に示す。
【0107】
<強度(曲げ強度σ)>
試料11~試料18の焼結体に対し、上述した方法を用いて強度を測定する。すなわち、試料11~試料18の焼結体に対し、スパン長さ8mm、クロスヘッドの送り0.5mm/minの条件の下、三点曲げ強度測定機(商品名:「AG-Xplus」、株式会社島津製作所製)により三点曲げ強度の値(単位はGPa)を求める。その結果についても表1に示す。
【0108】
<切削試験>
さらに試料11~試料18の焼結体を仕上げ加工することにより、CNGA120408、ネガランド角度15°、ネガランド幅0.12mmの形状の切削工具を作製し、以下の切削条件で高速切削の切削試験を行なう。
【0109】
(切削条件)
切削速度:1000m/min
送り:0.28mm
切込み:0.4mm
湿式/乾式:湿式(クーラント:エマルジョン)
装置:LB4000(オークマ株式会社製、EWN68-150CKB6のホルダを使用)
被削材:遠心鋳造鋳鉄(緻密パーライトの組織を有し、ネズミ鋳鉄の化学組成を有する)
被削材の形状:円筒状(外径φ85mm)。
【0110】
(試験の内容)
試料11~試料18の切削工具に対し、200μm以上の大きさの欠損が発生するまでに切削できる切削距離(km)を測定する。この切削距離が長い程、切削工具は長寿命であると評価することができる。その結果を表1に示す。
【0111】
【0112】
(考察)
表1に示すように、本開示の焼結体の製造方法により製造される試料11~試料17を用いた切削工具は、第2相が第1相の表面の少なくとも一部と接触し、[(Dii-Di)/Dii]×100≦50かつ[(Dii-Di)/Dii]×100≦3の関係式を満たす。これにより試料18の焼結体を用いた切削工具に比して強度および寿命が向上することが理解される。
【0113】
[実施例2]
≪焼結体の製造≫
<試料21>
(第1工程)
原料として、実施例1の試料11と同じcBN粒子を焼結体中に占める含有量が65体積%となる量準備する。さらに、実施例1の試料11と同じ第1材料の粉末も焼結体中に占める含有量が20体積%となる量準備する。上記第1材料の粉末に対しては予め350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼し、粉砕した上で上述の量を準備する。上記第1材料の粉末は、結合材として作用する。
【0114】
このcBN粒子および第1材料の粉末を混合することにより粒状の混合体を得る(第1プレ工程)。この粒状の混合体(焼結体中に占める含有量は85体積%)、Zr-i-(OC3H7)4、Al(OC3H7)3およびY(OC3H7)3をキシレン中で2時間混合処理した後、NH4OHを添加することにより混合液を得る。次いで、窒素ガスフロー100mL/分、水温70℃の条件で24時間還流することによって、加水分解生成物を得る。この加水分解生成物を遠心分離した後、熱水で洗浄し、真空中120℃で乾燥することにより焼結前駆体を得る。これにより、ZrO2に対して1.5mol%のY2O3を含むZrO275mol%に、25mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体としての第1材料で、第1材料の粉末およびcBN粒子を被覆した焼結前駆体を調製する。
【0115】
ZrO2に対して1.5mol%のY2O3を含むZrO275mol%に、25mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体としての第1材料は、焼結体中において第2相(第1材料)となり、その含有量は焼結体中で15体積%を占める。その後、この焼結前駆体を70℃で乾燥し、続いて350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼する。
【0116】
(第2工程)
さらに、上記焼結前駆体に対して後述する切削工具の形状となるように70MPaの圧力で圧粉体成型し、次いで1000MPaの圧力で冷間等方圧法(CIP)成型をする。その後、上述した超高圧プレス法を用いて超高圧下において焼結する。具体的には、真空下、昇温速度150℃/分、圧力7GPa、焼結温度1500℃および保持時間60分とする条件で焼結することにより試料21の焼結体を得る。
【0117】
<試料22>
(第1工程)
原料として試料21と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で10体積%となる量準備し、さらにAl2O3粉末(商品名:「TM-DAR」、大明化学工業株式会社製)を、その含有量が焼結体中で10体積%となる量準備し、それ以外は試料21と同じとして焼結前駆体を調製する。この第1材料の粉末およびAl2O3粉末が、結合材として作用する。
【0118】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料21と同じ焼結条件で焼結することにより試料22の焼結体を得る。試料22において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は15体積%である。
【0119】
<試料23>
(第1工程)
原料として試料21と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で10体積%となる量準備し、さらにTiN粉末(商品名:「TiN-01」、日本新金属株式会社製)を、その含有量が焼結体中で10体積%となる量準備し、それ以外は試料21と同じとして焼結前駆体を調製する。この第1材料の粉末およびTiN粉末が、結合材として作用する。
【0120】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料21と同じ焼結条件で焼結することにより試料23の焼結体を得る。試料23において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は15体積%である。
【0121】
<試料24>
(第1工程)
原料として試料21と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で10体積%となる量準備し、さらにTiC粉末(商品名:「TiC-01」、日本新金属株式会社製)を、その含有量が焼結体中で10体積%となる量準備し、それ以外は試料21と同じとして焼結前駆体を調製する。この第1材料の粉末およびTiC粉末が、結合材として作用する。
【0122】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料21と同じ焼結条件で焼結することにより試料24の焼結体を得る。試料24において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は15体積%である。
【0123】
<試料25>
(第1工程)
原料として試料21と同じ第1材料の粉末(ATZ粉末)を、その含有量が焼結体中で10体積%となる量準備し、さらに上記の試料17を作製するのに用いたのと同じAlON粉末を、その含有量が焼結体中で10体積%となる量準備し、それ以外は試料21と同じとして焼結前駆体を調製する。この第1材料の粉末およびAlON粉末が、結合材として作用する。
【0124】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料21と同じ焼結条件で焼結することにより試料25の焼結体を得る。試料25において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は15体積%である。
【0125】
<試料26>
(第1工程)
原料として試料21と同じcBN粒子を、焼結体中に占める含有量が75体積%となる量準備し、さらに試料21と同じ第1材料の粉末を、焼結体中に占める含有量が15体積%となる量準備し、それ以外は試料21と同じとして焼結前駆体を調製する。この第1材料の粉末は、結合材として作用する。
【0126】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料21と同じ焼結条件で焼結することにより試料26の焼結体を得る。試料26において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は10体積%である。
【0127】
<試料27>
原料として試料21で用いたのと同じcBN粒子を、焼結体中に占める含有量が75体積%となる量準備する。さらに、試料21で用いたのと同じ第1材料の粉末を、焼結体中に占める含有量が25体積%となる量準備する。
【0128】
このcBN粒子および第1材料の粉末を混合した後、この混合体を70℃で乾燥し、続いて350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼する。さらに後述する切削工具の形状となるように70MPaの圧力で圧粉体成型し、次いで1000MPaの圧力で冷間等方圧法(CIP)成型をする。その後、試料21の第2工程と同じ焼結条件で焼結することにより試料27の焼結体を得る。したがって試料27の焼結体は、第1材料でcBN粒子を被覆する工程を経ておらず、もって[(Dii-Di)/Dii]×100≦20を満たすことが困難となる。
【0129】
≪試料21~試料27の評価≫
<各成分の含有量>
試料21~試料27の焼結体に対し、実施例1と同じ方法により、これらの焼結体におけるcBN粒子(第1相)、第1材料(第2相)および結合材(第3相)の含有量をそれぞれ求める。その結果は表2に示すとおりであり、これらの含有量は原料と一致することを確認することができる。表2において「第1材料(第2相)の含有量」は、「被覆ATZ量」として示されている。なお、第1材料(第2相)および結合材(第3相)がいずれもATZの場合、表中の「被覆ATZ量」および「結合材量」におけるATZの数値は、それぞれの含有量が原料と一致するものと推定して表した推定値である。
【0130】
<cBN接触比率>
試料21~試料27の焼結体に対し、実施例1と同じ方法により、これらの焼結体におけるcBN接触比率を算出する。その結果についても表2に示す。
【0131】
<第1相と第2相との接触比率>
試料21~試料27の焼結体に対し、実施例1と同じ方法により、これらの焼結体における第1相と第2相との接触比率を算出する。その結果についても表2に示す。
【0132】
<強度(曲げ強度σ)>
試料21~試料27の焼結体に対し、実施例1と同じ方法により、これらの焼結体における三点曲げ強度の値(単位はGPa)を求める。その結果についても表2に示す。
【0133】
<切削試験>
試料21~試料27の焼結体を用いて、CNGA120408、ネガランド角度15°、ネガランド幅0.12mmの形状の切削工具を作製し、以下の切削条件で高速切削の切削試験を行なう。
【0134】
(切削条件)
切削速度:1000m/min
送り:0.3mm
切込み:0.8mm
湿式/乾式:湿式(クーラント:エマルジョン)
装置:LB4000(オークマ株式会社製、EWN68-150CKB6のホルダを使用)
被削材:遠心鋳造鋳鉄(緻密パーライトの組織を有し、ネズミ鋳鉄の化学組成を有する)
被削材の形状:円筒状(外径φ85mm)。
【0135】
(試験の内容)
試料21~試料27の切削工具に対し、200μm以上の大きさの欠損が発生するまでに切削できる切削距離(km)を測定する。この切削距離が長い程、切削工具は長寿命であると評価することができる。その結果を表2に示す。
【0136】
【0137】
(考察)
表2に示すように、本開示の焼結体の製造方法により製造される試料21~試料26の切削工具は、第2相が第1相の表面の少なくとも一部と接触し、[(Dii-Di)/Dii]×100≦50かつ[(Dii-Di)/Dii]×100≦20の関係式を満たす。これにより試料27の焼結体を用いた切削工具に比して強度および寿命が向上することが理解される。
【0138】
[実施例3]
≪焼結体の製造≫
<試料31>
(第1工程)
原料として、実施例1の試料11と同じcBN粒子を、焼結体中に占める含有量が85体積%となる量準備する。
【0139】
このcBN粒子、Zr-i-(OC3H7)4、Al(OC3H7)3およびY(OC3H7)3をキシレン中で2時間混合処理した後、NH4OHを添加することにより混合液を得る。次いで、窒素ガスフロー100mL/分、水温70℃の条件で24時間還流することによって、加水分解生成物を得る。この加水分解生成物を遠心分離した後、熱水で洗浄し、真空中120℃で乾燥することにより焼結前駆体を得る。これにより、ZrO2に対して1.5mol%のY2O3を含むZrO275mol%に、25mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体としての第1材料で、cBN粒子を被覆した焼結前駆体を調製する。
【0140】
ZrO2に対して1.5mol%のY2O3を含むZrO275mol%に、25mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体としての第1材料は、焼結体中において第2相(第1材料)となり、その含有量は焼結体中で15体積%を占める。その後、この焼結前駆体を70℃で乾燥し、続いて350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼する。
【0141】
(第2工程)
さらに、上記焼結前駆体に対して後述する切削工具の形状となるように70MPaの圧力で圧粉体成型し、次いで1000MPaの圧力で冷間等方圧法(CIP)成型をする。その後、上述した超高圧プレス法を用いて超高圧下において焼結する。具体的には、真空下、昇温速度150℃/分、圧力7GPa、焼結温度1500℃および保持時間60分とする条件で焼結することにより試料31の焼結体を得る。
【0142】
<試料32>
(第1工程)
原料として、実施例1の試料11と同じcBN粒子を焼結体中に占める含有量が85体積%となる量準備する。さらに、実施例1の試料11と同じ第1材料の粉末を焼結体中に占める含有量が5体積%となる量準備する。上記第1材料の粉末に対しては予め350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼し、粉砕した上で上述の量を準備する。上記第1材料の粉末は、結合材として作用する。
【0143】
このcBN粒子および第1材料の粉末を混合することにより粒状の混合体を得る(第1プレ工程)。この粒状の混合体(焼結体中に占める含有量は90体積%)、Zr-i-(OC3H7)4、Al(OC3H7)3およびY(OC3H7)3をキシレン中で2時間混合処理した後、NH4OHを添加することにより混合液を得る。次いで、窒素ガスフロー100mL/分、水温70℃の条件で24時間還流することによって、加水分解生成物を得る。この加水分解生成物を遠心分離した後、熱水で洗浄し、真空中120℃で乾燥することにより焼結前駆体を得る。これにより、ZrO2に対して1.5mol%のY2O3を含むZrO275mol%に、25mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体としての第1材料で、第1材料の粉末およびcBN粒子を被覆した焼結前駆体を調製する。
【0144】
ZrO2に対して1.5mol%のY2O3を含むZrO275mol%に、25mol%のAl2O3が固溶してなる固溶体粉体としての第1材料は、焼結体中において第2相(第1材料)となり、その含有量は焼結体中で10体積%を占める。その後、この焼結前駆体を70℃で乾燥し、続いて350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼する。
【0145】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料31と同じ焼結条件で焼結することにより試料32の焼結体を得る。
【0146】
<試料33>
(第1工程)
原料として第1材料の粉末(ATZ粉末)に代え、Al2O3粉末(商品名:「TM-DAR」、大明化学工業株式会社製)を、その含有量が焼結体中で5体積%となる量準備し、それ以外は試料32と同じとして焼結前駆体を調製する。このAl2O3粉末は、結合材として作用する。
【0147】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料31と同じ焼結条件で焼結することにより試料33の焼結体を得る。試料33において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は10体積%である。
【0148】
<試料34>
(第1工程)
原料として第1材料の粉末(ATZ粉末)に代え、TiN粉末(商品名:「TiN-01」、日本新金属株式会社製)を、その含有量が焼結体中で5体積%となる量準備し、それ以外は試料32と同じとして焼結前駆体を調製する。このTiN粉末は、結合材として作用する。
【0149】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料31と同じ焼結条件で焼結することにより試料34の焼結体を得る。試料34において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は10体積%である。
【0150】
<試料35>
(第1工程)
原料として第1材料の粉末(ATZ粉末)に代え、TiC粉末(商品名:「TiC-01」、日本新金属株式会社製)を、その含有量が焼結体中で5体積%となる量準備し、それ以外は試料32と同じとして焼結前駆体を調製する。このTiC粉末は、結合材として作用する。
【0151】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料31と同じ焼結条件で焼結することにより試料35の焼結体を得る。試料35において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は10体積%である。
【0152】
<試料36>
(第1工程)
原料として第1材料の粉末(ATZ粉末)に代え、上記の試料17を作製するのに用いたのと同じAlON粉末を、その含有量が焼結体中で5体積%となる量準備し、それ以外は試料32と同じとして焼結前駆体を調製する。このAlON粉末は、結合材として作用する。
【0153】
(第2工程)
上記焼結前駆体を、試料31と同じ焼結条件で焼結することにより試料36の焼結体を得る。試料36において、焼結体中に占める第2相(第1材料)の含有量は10体積%である。
【0154】
<試料37>
原料として、試料32で用いたのと同じcBN粒子を、焼結体中に占める含有量が85体積%となる量準備する。さらに、試料32で用いたのと同じ第1材料の粉末を、焼結体中に占める含有量が15体積%となる量準備する。
【0155】
このcBN粒子および第1材料の粉末を混合した後、この混合体を70℃で乾燥し、続いて350℃、1時間の条件および850℃、1時間の条件でそれぞれ仮焼する。さらに後述する切削工具の形状となるように70MPaの圧力で圧粉体成型し、次いで1000MPaの圧力で冷間等方圧法(CIP)成型をする。その後、試料31の第2工程と同じ焼結条件で焼結することにより試料37の焼結体を得る。したがって試料37の焼結体は、第1材料でcBN粒子を被覆する工程を経ておらず、もって[(Dii-Di)/Dii]×100≦50を満たすことが困難となる。
【0156】
≪試料31~試料37の評価≫
<各成分の含有量>
試料31~試料37の焼結体に対し、実施例1と同じ方法により、これらの焼結体におけるcBN粒子(第1相)、第1材料(第2相)および結合材(第3相)の含有量をそれぞれ求める。その結果は表3に示すとおりであり、これらの含有量は原料と一致することを確認することができる。表3において「第1材料(第2相)の含有量」は、「被覆ATZ量」として示されている。なお、第1材料(第2相)および結合材(第3相)がいずれもATZの場合、表中の「被覆ATZ量」および「結合材量」におけるATZの数値は、それぞれの含有量が原料と一致するものと推定して表した推定値である。
【0157】
<cBN接触比率>
試料31~試料37の焼結体に対し、実施例1と同じ方法により、これらの焼結体におけるcBN接触比率を算出する。その結果についても表3に示す。
【0158】
<第1相と第2相との接触比率>
試料31~試料37の焼結体に対し、実施例1と同じ方法により、これらの焼結体における第1相と第2相との接触比率を算出する。その結果についても表3に示す。
【0159】
<強度(曲げ強度σ)>
試料31~試料37の焼結体に対し、実施例1と同じ方法により、これらの焼結体における三点曲げ強度の値(単位はGPa)を求める。その結果についても表3に示す。
【0160】
<切削試験>
さらに試料31~試料37の焼結体を用いて、CNGA120408、ネガランド角度15°、ネガランド幅0.12mmの形状の切削工具を作製し、以下の切削条件で高速切削の切削試験を行なう。
【0161】
(切削条件)
切削速度:500m/min
送り:0.3mm
切込み:0.15mm
湿式/乾式:湿式(クーラント:エマルジョン)
装置:LB4000(オークマ株式会社製、EWN68-150CKB6のホルダを使用)
被削材:ネズミ鋳鉄FC300
被削材の形状:円柱形状(外径φ90mm)。
【0162】
(試験の内容)
試料31~試料37の切削工具に対し、200μm以上の大きさの欠損が発生するまでに切削できる切削距離(km)を測定する。この切削距離が長い程、切削工具は長寿命であると評価することができる。その結果を表3に示す。
【0163】
【0164】
(考察)
表3に示すように、本開示の焼結体の製造方法により製造される試料31~試料36を用いた切削工具は、第2相が第1相の表面の少なくとも一部と接触し、かつ[(Dii-Di)/Dii]×100≦50の関係式を満たす。これにより試料37の焼結体を用いた切削工具に比して強度および寿命が向上することが理解される。
【0165】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0166】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。