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  • 特許-湿式不織布シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】湿式不織布シート
(51)【国際特許分類】
   D21H 15/02 20060101AFI20240312BHJP
   D21H 13/24 20060101ALI20240312BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
D21H15/02
D21H13/24
B01D39/16 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022504253
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2022002066
(87)【国際公開番号】W WO2022158544
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2021008595
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲はま▼田 紘佑
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 則雄
(72)【発明者】
【氏名】増田 正人
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203216(JP,A)
【文献】特開2016-182817(JP,A)
【文献】特開2019-181463(JP,A)
【文献】特開2016-114745(JP,A)
【文献】国際公開第00/046866(WO,A1)
【文献】国際公開第96/025771(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0076797(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0038304(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38;D21C1/00-11/14;D21D1/00-99/00;D21F1/00-13/12;D21G1/00-9/00;D21H11/00-27/42;D21J1/00-7/00
B01D39/00-41/04
D01F1/00-6/96;9/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径の異なる少なくとも3種類の熱可塑性繊維を含んで構成される湿式不織布シートであって、繊維径が最大である繊維の繊維径Rと、繊維径が最小である繊維の繊維径rとの繊維径比(R/r)が30≦R/r≦150であり、前記繊維径rが0.10~1.0μmであり、かつ平均ポアサイズが0.10~15μmであり、ポアサイズ分布を0.1μmの区間で区切った際の最大頻度が70%以上である湿式不織布シート。
【請求項2】
空隙率が70%以上である請求項1に記載の湿式不織布シート。
【請求項3】
目付が10~500g/mである請求項1又は2に記載の湿式不織布シート。
【請求項4】
前記繊維径が最小である繊維において、前記繊維径rに対する繊維長Lの比(L/r)が3000~6000である請求項1~のいずれか1項に記載の湿式不織布シート。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の湿式不織布シートを少なくとも一部に含む繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維径の異なる少なくとも3種類の熱可塑性繊維から構成された湿式不織布シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の生活様式の多様化に伴い、生活における快適空間の創造への要求は年々高まりつつあり、温度、光、空気、音といった生活環境のより精密な制御が求められてきている。これらの制御に使われる材料には様々な形態のものが存在するが、多様化した製品形態に対応できる繊維製品は主流素材のひとつであるといっても過言ではなく、中でも省スペースでありながらも特性を発揮しやすい極細繊維を適用した不織布シートは、高機能性を発現できる素材として、住環境から産業資材にいたるまでの幅広い分野での活用が検討されている。
【0003】
極細繊維、特に繊維径が1000nm以下の極限的な細さを有したナノファイバーは、細くて長いといった繊維素材ならではの形態的特徴を活かし、非常に緻密な構造の不織布シートに加工することができる。このような緻密構造は、例えば、シート内部に流れる流体を細分化することで高い濾過性能を示す、あるいは、内包する機能剤などを長期間保持しやすいなどの機能性を発揮しやすいものである。加えて、シートを構成する極細繊維一本一本は、一般の汎用繊維やマイクロファイバーでは得ることのできない特異的な特性、いわゆるナノサイズ効果や、その重量当たりの表面積である比表面積の増大効果による優れた吸着性能等といった特性を如何なく発揮することが可能である。したがって、極細繊維を加工して得られる不織布シートは、高機能不織布シートとして期待されている。
【0004】
一方で、一般的に繊維径が細くなるに伴い、繊維の剛性が極端に低下することになる。そのため、極細繊維単体、特にナノファイバー単体から得られるシート物では成形加工や実用に耐える剛性を持つことができず、この点が用途展開にあたり制約となる場合があった。この課題を解決するため、シートに剛性を付与することを目的に、短カットした繊維径の大きい繊維と極細繊維とを混合抄紙した湿式不織布シートの活用が提案されている。
【0005】
このような湿式不織布シートでは、繊維径の大きい繊維が実質的にシートの骨格として力学特性を担い、シートの取扱い性や成形加工性を確保しつつ、極細繊維が繊維径の大きい他の繊維を足場として、いわゆる橋架け状に存在し、微細空間を形成する役割を担う。このことから、かかる湿式不織布シートは、極細繊維由来の特徴と力学特性を両立したシートとして、高性能な濾材や吸音波長を制御できる吸音素材、電池セパレーターなどへの用途展開が期待される。
【0006】
このような極細繊維により形成される微細空間は、その緻密性や均質性が高いほど、より特徴的な効果を際立たせることとなる。そのため、シートを構成する各繊維、特に極細繊維が3次元的に優れた分散状態で存在していることが、さらなる性能を訴求する新素材として必要不可欠となる。
【0007】
湿式抄紙における3次元的な均質分散の達成には、各繊維が均質に分散した繊維分散液を用いることが最も重要な要素となる。しかしながら、一般的に極細繊維の水分散性を確保することは難しいとされている。すなわち、繊維径の縮小化による比表面積の増大に起因して、分子間力由来の凝集力が圧倒的に高まることで、極細繊維同士が絡み合って繊維凝集体を形成するため、極細繊維が均一に分散した繊維分散液を得ることが難しくなるのである。なかでもナノファイバーの場合には、アスペクト比が他の繊維に比べて圧倒的に高いことが凝集を助長することになるため、極細繊維を均質に分散した状態で配置した湿式不織布シートの達成を困難にしているのである。
【0008】
また、従来のマイクロファイバーでは分散剤を繊維表面に付与して分散性を高めることがなされているが、分散剤の少量添加では十分な分散性向上効果は得られにくい。一方、多量添加することで分散性の向上は可能であるが、湿式抄紙加工工程において泡立ち等の取扱い性の低下を引き起こす場合があった。
【0009】
このような課題に対する取り組みとして、特許文献1では、少なくとも一部を繊維径1μm以下にフィブリル化させた液晶性高分子繊維を用いた湿式不織布が提案されている。
【0010】
特許文献2では、分割型複合繊維を用い、湿式抄紙後に分割させることで繊維径が3.0μm以下の繊維を含む湿式不織布が提案されている。
【0011】
特許文献3では、凝集を起こしにくい繊維長とした極細繊維を含む2種類以上の繊維から構成され、捕集効率に優れたフィルターに適した湿式不織布が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】日本国特開2002-266281号公報
【文献】日本国特開2019-203216号公報
【文献】国際公開第2008/130019号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1では、液晶性高分子繊維を分散液中で1μm以下のフィブリル化繊維を発生させて湿式不織布とすることで、極細繊維単体を水分散させることなく、フィブリル化繊維同士または他繊維との絡み合いにより緻密な構造を有する湿式不織布とすることを技術的なポイントとしている。
【0014】
このような手法はパルプ繊維などでも実施されている技術であるが、繊維をフィブリル化するには、繊維分散液に高圧で高せん断な処理を繰り返し実施する必要があることから、結果としてフィブリル化繊維同士の絡み合いを不要に助長することとなり、微細空間の緻密性やその均質性を制御できない場合がある。
【0015】
特許文献2では、特殊な分割型複合繊維を用いて湿式不織布とし、熱処理や物理衝撃を加える工程を経て、複合繊維の分割により極細繊維を発生させ、緻密構造を形成する湿式不織布に関する技術が開示されている。
【0016】
この場合、確かに、繊維分散液の状態では複合繊維として存在することになるため、水媒体中での極細繊維同士の凝集を回避することができる。しかしながら、湿式不織布中に存在する繊維は、複雑に絡み合った状態で存在していることから、分割型複合繊維を均等に全て分割させることは難しく、結果としてシート内微細空間の均質性を制御できない場合がある。
【0017】
特許文献3では、そもそも極細繊維の水分散中での凝集を起こしにくい繊維形態として、繊維径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D)を小さくした極細繊維を適用して湿式不織布とすることを技術的なコンセプトとしている。このため、極細繊維同士の不要な絡み合いによる凝集を抑制し、湿式不織布表面に現れる孔を均一化することを狙いとしている。
【0018】
しかしながら、このような極細繊維の形態に制約を設けたりする手法では、極細繊維の均質な分散を達成する根本的な解決にはならない場合があり、極細繊維が3次元的に均質に分散配置されることで達成される均質な微細空間を安定的に形成できない場合がある。
【0019】
上記に鑑み、本発明は、極細繊維がシートの表面およびその断面方向においても均質に分散した状態で配置されていることで、3次元的に均質な微細空間を形成する湿式不織布シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、以下の1~6を包含するものである。
1.繊維径の異なる少なくとも3種類の熱可塑性繊維を含んで構成される湿式不織布シートであって、繊維径が最大である繊維の繊維径Rと、繊維径が最小である繊維の繊維径rとの繊維径比(R/r)が30≦R/r≦150であり、かつ平均ポアサイズが0.10~15μmであり、ポアサイズ分布の最大頻度が70%以上である湿式不織布シート。
2.前記繊維径rが0.10~1.0μmである前記1に記載の湿式不織布シート。
3.空隙率が70%以上である前記1または2に記載の湿式不織布シート。
4.目付が10~500g/mである前記1~3のいずれか1に記載の湿式不織布シート。
5.前記繊維径が最小である繊維において、前記繊維径rに対する繊維長Lの比(L/r)が3000~6000である前記1~4のいずれか1に記載の湿式不織布シート。
6.前記1~5のいずれか1に記載の湿式不織布シートを少なくとも一部に含む繊維製品。
【発明の効果】
【0021】
本発明の湿式不織布シートは、極細繊維がシートの表面およびその断面方向においても均質に分散した状態で配置されているため、3次元的に均質な微細空間の形成を可能とするものである。
本発明の湿式不織布シートによれば、微細空間が3次元的に均質に形成されることによる高機能化に加えて、極細繊維の比表面積に由来した吸着性能等を如何なく発揮することができる。かかる湿式不織布シートは、高性能な濾材や次世代吸音素材、電池セパレーターなどへの展開が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートを構成する繊維の繊維径分布の一例の概要図である。
図2図2は、湿式不織布シートにおけるポアサイズ分布の一例を示す図であって、(a)は微細空間が均質に存在するシートのポアサイズ分布の一例を示す図であり、(b)は微細空間が不均質に形成されたときのポアサイズ分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について望ましい実施形態と共に記述する。
本発明の実施形態に係る湿式不織布シートは、繊維径の異なる少なくとも3種類の熱可塑性繊維を含んで構成される湿式不織布シートであって、繊維径が最大である繊維の繊維径Rと、繊維径が最小である繊維の繊維径rとの繊維径比(R/r)が30≦R/r≦150であり、かつ平均ポアサイズが0.10~15μm、ポアサイズ分布の最大頻度が70%以上であることを要件としている。
【0024】
本発明でいう「繊維径の異なる少なくとも3種類以上の熱可塑性繊維」とは、湿式不織布シートの表面で観察される繊維について、横軸を繊維径、縦軸を本数としたグラフに表した際、3個以上の繊維径分布を有する状態のことである。ここで、各分布の範囲(分布幅)に入る繊維径を有した繊維の群を1種類とし、この繊維径分布が3個以上存在することが、本発明でいう繊維径の異なる3種類以上の繊維が混在しているということを意味している。ここでいう繊維径の分布幅とは、各繊維径分布の中で最も存在数が多いピーク値の±30%の範囲を意味する。しかしながら、ピーク値が明確に異なっているにもかかわらず、分布幅が重複する場合には、ピーク値の±10%の範囲を分布幅として繊維群を区別しても良い。本発明の目的とする均質な微細空間の形成をより効果的にするためには、図1に例示するように、繊維径分布は不連続であり、独立した分布をなすことが好適な繊維径分布として挙げられる。図1は、繊維径分布が3個存在する場合を例示する図である。図1において、繊維径分布1は、繊維径が最大の繊維(繊維径Rの繊維)の繊維径分布を示し、繊維径分布2は、繊維径が中間の繊維の繊維径分布を示し、繊維径分布3は、繊維径が最小の繊維(繊維径rの繊維)の繊維径分布を示す。
【0025】
繊維径は以下のようにして求めるものである。すなわち、湿式不織布シートの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で150~3000本の繊維が観察できる倍率として画像を撮影する。撮影された画像から無作為に抽出した150本の繊維の繊維径を測定する。各画像から無作為に抽出した150本の繊維について、2次元的に撮影された画像から繊維軸に対して垂直方向の繊維幅を繊維径として測定する。繊維径の値に関しては、μm単位で小数点第2位まで測定する。以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果から、上述の繊維径分布の個数を特定する。そして、各繊維径分布の分布幅に入る繊維について、繊維径の単純な数平均値の小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで求めた値を、各繊維径分布における繊維の繊維径とする。
【0026】
本発明の実施形態に係る湿式不織布シートにおいては、繊維径が最大の繊維(繊維径Rの繊維)がシートの骨格として力学特性を担い、シートの取扱い性や成形加工性を確保する役割を担う。一方で、繊維径が最小の繊維(繊維径rの繊維)、すなわち剛性が極端に低い極細繊維などの繊維は、他繊維を足場として橋架け状に配されることとなり、微細空間を形成するとともに、比表面積に由来した吸着性能等の機能性を発揮する役割を担うのである。ここでいう他繊維とは、本発明を構成する少なくとも3種の繊維のうち繊維径が最大及び最小の繊維以外の、繊維径が中間に位置する繊維のことを指す。他繊維は、繊維径rの繊維をシートから脱落させないように足場としての役割を担うものであり、繊維径rの繊維が安定してシート内部に存在することを可能とするのである。以上の観点から、本発明における湿式不織布シートは、少なくとも3種類の繊維径が異なる繊維から構成されることが必要不可欠なのである。
【0027】
本発明の実施形態に係る湿式不織布シートを構成する繊維は、幅広い用途へ適用可能という観点から考えると、力学特性や寸法安定性に優れる熱可塑性ポリマーを用いた繊維(熱可塑性繊維)である必要がある。具体的には、熱可塑性ポリマーとして、その用途に応じて種々ポリマーを選択すればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイドなどの溶融成形可能なポリマーおよびそれらの共重合体の中から選択できる。例えば、適用する環境との相性、また、最終的に必要となる力学特性や耐熱性、耐薬品性等を考慮して選択すればよい。これらのポリマーは、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
なかでも、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートを達成するための繊維径rの繊維(以下、単に「極細繊維」とも記す)は、シート内部に3次元的に均質な存在を可能とするのに肝要な水媒体中での分散性の確保という点を考えると、上記ポリマーの中でも、特にポリエステル繊維であることが好適である。以下に理由を詳述する。
【0029】
水媒体中での極細繊維の均質分散を阻害する要因は、極細繊維同士の間で働く引力によるものであり、従来技術においては、極細繊維の形態に制約を設けたりする手法が採用されているものであった。しかしながら、このような手法では極細繊維の均質分散を達成する根本的な解決にはならない場合がある。これに対し、極細繊維がある程度以上のカルボキシル基を有することにより、水媒体中でマイナスの電荷を帯び、電気的な反発力が働くため、媒体中の極細繊維の分散性および分散安定性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0030】
上記観点から鑑みると、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートに用いる極細繊維は、カルボキシル末端基量が40eq/ton以上であることが好ましい。これにより、従来技術では大きな制約のあったアスペクト比等の仕様に関係なく、極めて高い分散性を確保することが容易になる。すなわち、水媒体中において、カルボキシル基由来の電気的反発力が無数に存在する極細繊維間に働き、互いに反発し合うことで、極細繊維同士が凝集することなく水系媒体中に浮遊し続けることを可能とし、長時間の分散安定性を確保できるのである。
【0031】
更に、極細繊維は、分散性確保の観点では、弾性率の大きい、つまり剛性に優れるポリマーから構成されることが好適であり、この観点からもポリエステルとすることが好ましい。
【0032】
極細繊維をポリエステル繊維とすることにより、外力による変形が加えられた際の塑性変形を抑制することができる。これにより、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートの製造工程および高次加工工程において、繊維同士の不要な絡み合いを抑制する効果が得られ、繊維の分散性を維持しつつシート加工することが可能となり、3次元的に均質に極細繊維が配されたシートを得ることができる。
【0033】
ここで言うポリエステルとは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステルまたはその共重合体から構成されるものであり、本発明の実施において好ましいポリマーの例としてあげることができる。
【0034】
以上の観点から鑑みると、抄紙原液中における極細繊維の分散性を不要に損なわないためにも、繊維径Rの繊維および繊維径が中間の繊維もポリエステル繊維であることが好ましい。
【0035】
また、本発明においては、繊維径Rならびに繊維径rの繊維が担う役割を効果的に発揮するため、繊維径が最大である繊維の繊維径Rと繊維径が最小である繊維の繊維径rとの繊維径比(R/r)が30≦R/r≦150の範囲にあることを要件としている。
【0036】
ここでいう繊維径比R/rが極端に小さすぎると、繊維径に応じた各繊維の働きが不十分なものとなる場合がある。例えば、繊維径Rが小さいとシートの剛性が不十分となりやすく、シートの取扱い性や成形加工性の低下を引き起こす場合があったり、繊維径rが大きいと極細繊維に由来した特異性能を発揮できない場合がある。このことから、繊維径比R/rの下限を30としている。一方、繊維径比R/rが極端に大きすぎると、繊維径に応じた各繊維の働きとしては満足するものであるが、湿式抄紙工程での濾水の際に、濾水面に対する繊維の集積に速度差が生じてしまい、結果として不均質なシート構造となってしまう場合がある。そのため、繊維径比R/rの上限を150としている。以上の観点から、本発明においては該繊維径比R/rは上述した範囲内にあることが必要であるが、本発明の目的効果をより満足に達成するという点を踏まえて考えると、該繊維径比R/rは30≦R/r≦100であることがより好ましい。係る範囲内であれば、極細繊維により形成される微細空間の3次元的な均質性に対してより有効に作用するものとなる。
【0037】
本発明は、極細繊維が生み出す比表面積、ならびにシート内微細空間を活用した濾過や吸着などを訴求する高機能素材を目的にした湿式不織布シートであり、本発明の実施形態において、平均ポアサイズが0.10~15μmであり、ポアサイズ分布の最大頻度が70%以上であることが重要である。
【0038】
ここでいうポアサイズとはバブルポイント法によって算出した値を指す。バブルポイント法としては、例えば、多孔質材料自動細孔測定システムPerm-Porometer(PMI社製)による測定を用いることができる。このPerm-Porometerによる測定では、湿式不織布シートを表面張力値が既知の液体で浸漬させ、該シートの上側から気体の圧力を増加させながら供給し、この圧力と湿式不織布シート表面の液体表面張力の関係からポアサイズを測定する。
【0039】
具体的には、多孔質材料自動細孔測定システム Perm-Porometer(PMI社製)を用いて次の条件でポアサイズを算出できる。測定サンプル径を25mmとし、表面張力既知の測定液としてGalwick(表面張力:16mN/m)を使用した細孔径分布測定により、自動計算して得られた平均流量径を平均ポアサイズとし、小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで求めた値を用いる。また、ポアサイズ頻度は自動計算により得られた値を百分率で換算して%表示とし、小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで求めた値を用いる。
【0040】
図2の(a)には、均質な微細空間を形成する湿式不織布シートのポアサイズ分布(縦軸:頻度、横軸:ポアサイズ)の一例を、図2の(b)には不均質な微細空間を形成した際のポアサイズ分布の一例を示す。このように、シート内に形成される微細空間が均質であれば、ポアサイズ分布はシャープなものとなり、特定のポアサイズにおける頻度が著しく大きくなる(図2の(a))。一方、微細空間が不均質であれば、ポアサイズ分布はブロードとなる(図2の(b))。これらのことから、微細空間の均質性を評価することができる。
【0041】
上記のことから、本発明の実施形態における平均ポアサイズとは、湿式不織布シートに形成されている貫通孔の平均サイズのことであり、シート内微細空間の緻密性の指標となる。また、ポアサイズ分布の最大頻度はシート内微細空間の均質性の指標となる。すなわち、平均ポアサイズが比較的小さく、ポアサイズ分布の最大頻度が比較的大きいほど、緻密化した微細空間が均質に存在しているシートであることを意味し、平均ポアサイズおよびポアサイズ分布の最大頻度が上述の範囲内であれば、湿式不織布シート内を通過する流体の流れを乱すことなく、シート全体に均一に流体が流れ込むこととなる。これにより、効果的に濾過性能や吸音性能等の優れた性能を発揮することが期待できる湿式不織布シートとなるのである。
【0042】
本発明の実施形態に係る湿式不織布シートにおいては、平均ポアサイズを0.10~15μmとすることで、流体の流れを阻害することなく、使用目的に応じた性能を発揮することができる範囲としている。ここでいう流体の流れを阻害するとは、平均ポアサイズの微小化に伴い圧力損失が極端に高まることに起因するものである。したがって、安定的な流体流れを確保するという観点から、平均ポアサイズの下限を0.10μmとしている。一方で、微細空間による特異的な性能が効果的に働くという観点から鑑みると、平均ポアサイズの上限は15μmである。
【0043】
さらに、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートにおいて、ポアサイズ分布の最大頻度が前述した範囲内にあることが極めて重要である。このようなシート構造は、シートの平面方向だけでなく、その厚み方向においても極細繊維が均等に存在して複雑な空間を形成することにより達成されるものである。このように微細空間が均質に存在することで、流体がシート全体に均一に流入することとなり、濾過性能や吸音性能、吸着性能等を如何なく発揮できることとなる。そのため、ポアサイズ分布の最大頻度は70%以上であり、80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0044】
以上の要件を満たす、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートは、機能性を担う極細繊維が良好な分散状態で存在することで緻密かつ均質な微細空間を形成するシートとなり、その特徴的なシート構造により生み出される濾過性能や吸音性能といった機能性に加え、極細繊維自体のナノサイズ効果に由来した吸着性能等を如何なく発揮できる。これにより、高性能な濾材や次世代吸音素材、電池セパレーターなどへの展開が期待されるものとなる。
【0045】
次いで、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートにおいて、繊維径が最小の繊維の繊維径rが0.10~1.0μmであることが好ましい。
【0046】
本発明は、極細繊維の存在による緻密な微細空間に加えて、比表面積を活用した濾過や吸着などを訴求する高機能素材の達成を目的にした湿式不織布シートである。その役割を担うためには繊維径rが0.10~1.0μmであることが好ましいのである。係る範囲においては、シート内微細空間の緻密化を促進するとともに、極細繊維が生み出す比表面積効果を優位に発揮することができ、優れた性能の発揮が期待できる。
【0047】
なかでも比表面積の増大という観点で考えると、繊維径は細いほど、特性としては際立つものとなる。一方で、不織布加工時の取扱い性や成形加工性を考えると、本発明の実施形態において、実質的な繊維径rの下限は0.10μmである。また、本発明において、一般的な繊維との比表面積の効果が優位に働く範囲として、繊維径rの上限を1.0μmということにしている。
【0048】
上述した観点から鑑みると、繊維径が最大の繊維の繊維径Rは3.0~50μmであることがシートの強度を確保できるという点で好ましく、シートの取扱い性や成形加工性を良好に示す範囲として、5.0~30μmであることがより好ましい。
【0049】
また、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートにおいて、繊維径が中間の繊維の繊維径は1.0μm~20μmであることが好ましい。係る範囲内であれば、極細繊維の足場として有効に作用しやすく、3次元的に均質な微細空間の形成を可能にするのである。
【0050】
本発明の実施形態に係る湿式不織布シートは、微細空間の効果を効率的に発揮できるという点から、空隙率が70%以上であることが好ましい。
【0051】
ここでいう空隙率は以下のようにして求めるものである。すなわち、湿式不織布シートの目付および厚さから、下記式より算出した値の小数点第1位を四捨五入して整数値とした値を空隙率とする。なお、繊維密度は構成される繊維の密度を適用すればよく、ポリエチレンテレフタレート(PET)の場合は1.38g/cmとして算出した。
空隙率(%)=100-(目付)/(厚さ×繊維密度)×100
この際、250mm×250mm角に切り出した繊維シートの重量を秤量し、単位面積(1m)当たりの重量に換算した値の小数点第1位を四捨五入して整数値としたものを湿式不織布シートの目付とする。
また、湿式不織布シートの厚みはダイヤルシックネスゲージ(TECLOCK社 SM-114 測定子形状10mmφ、目量0.01mm、測定力2.5N以下)を用いてmm単位で測定する。測定は1サンプルにつき任意の5ヶ所で行い、その平均の小数点3桁目を四捨五入して小数点2桁目まで求めた値を湿式不織布シートの厚みとする。
【0052】
本発明の目的である、均質な微細空間の形成によるシート内に流れ込む流体の細分化という観点から鑑みると、シート内部の空隙率が大きいほどシート内部から受ける抵抗が過剰に大きくなることを抑制することになる。このため、結果として微細空間内に効率的に流体が流れ込むこととなり、濾過性能などの効果を発揮しやすくなる。したがって、空隙率が70%以上であることが好ましい形態として挙げられる。また、このことから、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートの空隙率は80%以上であることがより好ましい範囲として挙げられる。
【0053】
このようなシート内部の空隙率は、シートを構成する各繊維が分散した状態で存在していることを前提条件として、シート厚みと目付を適度に調整することで達成できる。この際、シートの目付を極端に小さくしてしまうと、目的とするサイズの微細空間の形成が困難になることに加えて、シートの強度が低すぎることにより実用として不適当なシートになる場合がある。一方でシートの目付を大きくすると、より多くの繊維が集積することで3次元的な微細空間により形成される貫通孔を緻密化できるという点においては好ましいが、極端に大きくしてしまうと、シートの剛性が過剰に高まることとなり、シートの取扱い性や成形加工性の低下を引き起こす場合がある。
【0054】
以上の観点から鑑みると、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートは、目付が10~500g/mであることが、本発明の目的効果を損なうことなく、安定的に各繊維が均質に存在したシートとなるため好ましい。
【0055】
本発明の実施形態に係る湿式不織布シートにおいて、繊維径が最小である繊維の繊維径rに対する繊維長Lの比(L/r)が3000~6000であることが好ましい。
【0056】
ここで言う繊維長Lは、以下のようにして求めることができる。湿式不織布シートの表面について、マイクロスコープにて、全長を測定できる繊維径rの繊維が10~100本観察できる倍率として画像を撮影する。撮影された各画像から無作為に抽出した10本の、繊維径rの繊維の繊維長を測定する。ここで言う繊維長とは、2次元的に撮影された画像から繊維1本の繊維長手方向の長さとし、mm単位で小数点第2位まで測定し、小数点を四捨五入するものである。以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果の単純な数平均値を繊維長Lとする。
【0057】
本発明においては、該比(L/r)が3000~6000である場合、繊維同士の接触点が多くなることにより、繊維の脱落を抑制できることに加え、微細空間形成の肝となる橋架け構造の形成を促進することから、優れた補強効果を発揮するという点において好ましい。
【0058】
橋架け構造形成という観点では、繊維長が比較的大きいものほど、つまり該比が大きいほど形成しやすくなり、補強効果を高めることができる。ただし、かかる比を過剰に高めすぎた場合には、部分的に絡み合いによる凝集が起こることも想定され、成形加工工程を複雑にさせてしまう場合もある。このため、繊維同士の絡み合いもなく、その比表面積効果に加え、繊維長による補強効果を十分に発揮できる範囲として、上限を6000としている。
【0059】
また、本発明においては、該比(L/r)が比較的小さいものほど湿式抄紙工程におけるハンドリング性という観点では有利となる。一方で、かかる比が過剰に小さいと、シートとして発揮する特異的な効果は比較的小さくなる場合があり、また、成形工程中で繊維の脱落などにも問題なく工程を通過する範囲として、下限を3000としている。
【0060】
係る範囲の繊維長を有する極細繊維を使用することで、繊維同士が適度に絡まり合って補強効果を発揮し、シート強度を高めることができるため、成形加工等における工程通過性が格段に向上するという点において好ましいのである。具体的には、湿式不織布シートの比引張強さが5.0Nm/g以上であることが好ましい。なお、実用に適した成形加工性を有する湿式不織布シートという観点から鑑みると、比引張強さは15Nm/g以下であることが好ましい。
【0061】
ここでいう比引張強さとは以下のようにして求めるものである。
比引張強さ(Nm/g)=引張強さ(N/m)/目付(g/m
幅15mm×長さ50mmの試験片を5枚採取し、オリエンテック社製引張試験機 テンシロン UCT-100型を用い、JIS P8113:2006に準じて引張試験を実施し、湿式不織布シートの引張強さを測定する。この操作を5回繰り返し、得られた結果の単純平均値の小数点第3位を四捨五入した値を湿式不織布シートの引張強さとし、目付で除した値を比引張強さとする。
【0062】
本発明の実施形態に係る湿式不織布シートを構成する各繊維の繊維重量における混合率は、特に限定されるものではないが、安定的な微細空間の形成および湿式不織布シート強度を確保するという観点から、繊維径rの繊維は2.5~30重量%、かつ繊維径Rの繊維は15~85重量%であることが好ましい。係る範囲内で繊維を混合した湿式不織布シートは、良好な取扱い性ならびに成形加工性を示し、実用に適したシートとなりやすい。
【0063】
一方で、シート強度の向上や構成繊維の脱落抑制を目的として、必要に応じてバインダー繊維を混合してもよい。なかでも、熱接着性のバインダー繊維を混合することにより、シートを構成する繊維同士を物理的に接着することを可能とし、シート強度を向上させることができる。ただし、バインダー繊維を過剰に含んでしまうと、融着により微細空間が閉塞したり、著しく微細空間を小さくして流体流れを阻害する場合がある。加えて、必要以上にシートの剛性が高まることによる成形加工不良を引き起こす場合がある。このことから、バインダー繊維の混合比率は5~75重量%の範囲内であることが好ましい。なお、シート中の繊維同士での接着性を確保する観点から、バインダー繊維の配合率の実質的な下限は5重量%である。
【0064】
ここでいうバインダー繊維は特に限定されるものではないが、例えば、融点150℃以下のポリマーを鞘に配した芯鞘複合繊維であることが好ましい。湿式不織布シートを形成後、ヤンキードライヤーやエアースルードライヤー等の乾燥工程、またはカレンダー等の熱処理工程を経ることで、バインダー繊維表面の鞘成分が融着して他の繊維と接着し、繊維シートの剛性を高めることができる。そして、それとともに、残った芯成分の繊維はその繊維径に応じて繊維径Rの繊維としてのシート強度確保や、中間の繊維径の繊維としての足場としての役割を担うことができる。かかる点から、上述のような芯鞘複合繊維が好ましいのである。なお、バインダー繊維の芯成分の融点が鞘成分の融点よりも高温であり、その融点差が20℃以上であれば、バインダー繊維表面の鞘成分が十分に溶融しやすく、かつ芯成分の配向の低下幅が抑えられるため、十分な熱接着性と高い剛性を得ることができる観点から、より好ましい。
【0065】
以下に本発明の実施形態に係る湿式不織布シートの製造方法の一例を詳述する。
繊維径が最大の繊維、繊維径が中間の繊維、鞘成分が低融点ポリマーからなる熱融着性の芯鞘複合繊維(バインダー繊維)等の短繊維を水中に投入し、離解機で攪拌して均一になるように分散させた繊維分散液を調製する。この際、バインダーとして働く芯鞘複合繊維は、熱融着後には芯成分がシート内に残存することになるため、繊維径が最大の繊維または繊維径が中間の繊維のいずれかの役割を担う繊維として使用してもよい。この仕込み工程では、繊維仕込み量や水媒体量、攪拌時間等により分散性を調整することが可能であり、できるだけ短繊維が水媒体中で均一に分散している状態が好ましい。また、水への分散性を向上させるために分散剤を添加してもよいが、湿式不織布に後加工を施す場合に、その加工性に影響が出ないよう、その添加量は必要最小限にとどめることが好ましい。
【0066】
次いで、後述する工程に従い、極細繊維が水媒体中で均一に分散した極細繊維分散液を調製する。この極細繊維分散液と上記した繊維分散液とを混合して抄紙原液とし、これを湿式抄紙することで極細繊維が均等に配置された湿式不織布シートが得られる。
【0067】
ここで言う極細繊維は、水分散性の確保という観点からカルボキシル末端基量が40eq/ton以上のポリエステルで構成されていることが好ましく、溶剤に対する溶解速度が異なる2種類以上のポリマーからなる海島繊維を利用することで製造することができる。海島繊維とは、難溶解性ポリマーからなる島成分が、易溶解性ポリマーからなる海成分の中に点在する構造を有している繊維を言う。
【0068】
この海島繊維を製糸する方法としては、溶融紡糸による海島複合紡糸が生産性を高めるという観点から好適であり、繊維径および断面形状の制御に優れるという観点で、海島複合口金を用いる方法が好ましい。
【0069】
該溶融紡糸による手法を用いる理由は、生産性が高く連続して製造が可能であることにある。連続的に製造する際には、いわゆる海島複合断面が安定的に形成できることが好適であり、この断面の経時的な安定性という観点では、これを形成するポリマーの組み合わせを考慮することがポイントとなる。本発明においては、ポリマーAの溶融密度ηAとポリマーBの溶融粘度ηBとの溶融粘度比(ηB/ηA)が0.1~5.0の範囲になる組み合わせでポリマーを選択することが好ましい。
【0070】
ここで言う溶融粘度とは、チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、キャピラリーレオメーターによって測定できる溶融粘度を指し、紡糸温度での同剪断速度の際の溶融粘度を意味する。
【0071】
ここでいう海島繊維の易溶解性ポリマーとは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイドなどの溶融成形可能なポリマーおよびそれらの共重合体から選択される。特に、海成分の溶出工程を簡便化するという観点では、海成分は、水系溶剤あるいは熱水などに易溶出性を示す共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコールなどが好ましく、特に、ポリエチレングリコール、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独あるいは組み合わされて共重合したポリエステルやポリ乳酸を用いることが取扱性および低濃度の水系溶剤に簡単に溶解するという観点から好ましい。
【0072】
ここで言う易溶解性とは、溶解処理に用いる溶剤に対して難溶解性ポリマーを基準とした際に、溶解速度比(易溶解性ポリマー/難溶解性ポリマー)が100以上であることを意味する。高次加工における溶解処理の簡略化や時間短縮を考慮すると、この溶解速度比は大きいことが好適であり、溶解速度比が1000以上であることが好ましく、更に好ましくは10000以上とすることである。係る範囲においては、溶解処理を短時間で終了することができるため、難溶解成分を不要に劣化させることなく、本発明に適した極細繊維を得ることができる。
【0073】
また、水系溶剤に対する溶解性および溶解の際に発生する廃液処理の簡易化という観点では、ポリ乳酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が3mol%から20mol%が共重合されたポリエステル、および前述した5-ナトリウムスルホイソフタル酸に加えて重量平均分子量500から3000のポリエチレングリコールが5wt%から15wt%の範囲で共重合されたポリエステルが特に好ましい。
【0074】
以上の観点から、該海島繊維の好適なポリマーの組み合わせとしては、海成分を、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が3mol%から20mol%が共重合され、かつ重量平均分子量500から3000のポリエチレングリコールが5wt%から15wt%の範囲で共重合されたポリエステル、およびポリ乳酸からなる群から選択される1以上とし、島成分をポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびその共重合体からなる群から選択される1以上とすることが例として挙げられる。
【0075】
該海島繊維の紡糸温度は、前述した観点から決定した使用ポリマーのうち、主に高融点や高粘度のポリマーが流動性を示す温度とすることが好適である。この流動性を示す温度とは、ポリマー特性やその分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点が目安となり、融点+60℃以下で設定すればよい。この温度であれば、紡糸ヘッドあるいは紡糸パック内でポリマーが熱分解等することなく、分子量低下が抑制され、良好に海島繊維を製造することができる。
【0076】
溶融吐出された糸条は、冷却固化され、油剤等を付与することにより収束し、周速が規定されたローラーによって引き取られる。ここで、この引取速度は、例えば吐出量および目的とする繊維径から決定するものである。引取速度は、海島繊維を安定に製造するという観点から、100m/minから7000m/minが好ましい。この紡糸された海島繊維は、熱安定性や力学特性を向上させるという観点から、延伸を行うことが好ましく、紡糸したマルチフィラメントを一旦巻き取った後に延伸を施すことも良いし、巻き取ることなく紡糸に引き続いて延伸を行っても良い。
【0077】
該海島繊維を、数十本~数百万本単位に束ねたトウにして、ギロチンカッターやスライスマシンおよびクライオスタットなどの切断機等を使用して、所望の繊維長にカット加工を施すことが好ましい。この際の繊維長Lは、島成分径(繊維径rに相当)に対する比(L/r)が3000~6000の範囲内となるようにカットすることが好ましい。係る範囲においては、湿式不織布シートとした際に繊維同士の接触点が多くなり、橋架け構造の形成を促進することから、シートの補強効果を高めることができる。
【0078】
これは、該比(L/r)を過剰に高めすぎた場合には、水媒体中にて部分的な凝集が起こることも想定され、均質性を損なうシートとなってしまう場合があり、逆に該比を極端に小さくしてしまうと、湿式抄紙工程中での脱落を引き起こす場合があることから、上記範囲内とすることが好ましいのである。
【0079】
ここでいう島成分径は、実質的に極細繊維の繊維径と一致するものであり、次のように求めるものである。
海島複合繊維をエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋し、この横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で150本以上の島成分が観察できる倍率として画像を撮影する。1フィラメントで150本以上の島成分が配置されない場合は、数本フィラメントの繊維断面を撮影し、合計150本以上の島成分が観察されればよい。この際、金属染色を施せば、島成分のコントラストをはっきりさせることができる。繊維断面が撮影された各画像から無作為に抽出した150本の島成分の島成分径を測定する。ここで言う島成分径とは、2次元的に撮影された画像から繊維軸に対して垂直方向の断面を切断面とし、この切断面に外接する真円の径のことを意味する。以上のように得られた海島繊維について、海成分を溶解除去することで、極細繊維の均質分散液を製造することができる。
【0080】
すなわち、本発明に適した極細繊維分散液を得るためには、易溶解成分(海成分)を溶解可能な溶剤などに、上述したカット加工後の海島繊維を浸漬して、易溶解成分を除去すればよい。易溶解成分が、5-ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどが共重合された共重合ポリエチレンテレフタレートおよびポリ乳酸からなる群から選択される1以上の場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いることができる。この際、海島繊維とアルカリ水溶液の浴比(海島繊維重量(g)/アルカリ水溶液重量(g))は1/10000~1/5であることが好ましく、さらに好ましくは1/5000~1/10である。該範囲内とすることで、海成分の溶解時に不要に極細繊維同士が絡み合うことを抑制することができる。
【0081】
この際、アルカリ水溶液のアルカリ濃度は、0.1~5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5~3重量%である。係る範囲内とすることで、海成分の溶解は短時間で完了させることができ、島成分を不要に劣化させることなく、極細繊維が均質に分散した繊維分散液を得ることができる。また、アルカリ水溶液の温度は特に限定されるものではないが、例えば50℃以上とすることで、海成分の溶解の進行を早めることができるため好ましい。
【0082】
本発明においては、海島繊維から易溶解成分(海成分)を溶解したものをそのまま使用することも可能であるし、一旦極細繊維を濾過などすることで分離し、水洗後、凍結乾燥などした後、再度水系媒体中に分散させてシート化することも可能である。また、使用する高次加工やその際の取扱い性を考慮し、酸やアルカリを追加することで、媒体のPHを調整することや、水で希釈して使用することも可能である。なお、極細繊維の経時での凝集を抑制したり、媒体の粘度を増大させることによる安定的なシート形成を目的として、極細繊維分散液は必要に応じて分散剤を含んでいてもよい。分散剤の種類としては、天然ポリマー、合成ポリマー、有機化合物および無機化合物等が挙げられる。例えば、繊維同士の凝集を抑制する添加剤は、カチオン系化合物、ノニオン系化合物、アニオン系化合物などが挙げられ、なかでも分散性を向上させる目的とした場合には、水媒体中での電気的反発力の観点から、アニオン系化合物を用いることが好ましい。また、これら分散剤の添加量は、極細繊維に対して0.001~10等量であることが好ましく、係る範囲であれば湿式抄紙の加工性を損なうことなく、極細繊維の分散性を確保しやすい。
【0083】
このようにして調製した極細繊維分散液を、上記で調製した繊維分散液と混合し、一定濃度に希釈して調整した後、傾斜ワイヤー、円網上等で脱水して、湿式不織布シートを形成する。抄紙に使用する装置としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜短網抄紙機あるいはこれらを組み合わせた抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、抄紙原液中での繊維の分散性に加え、抄紙速度や繊維量、水媒体量を調整して濾水時の繊維の集積をコントロールすることで、3次元的に均質なシートを作製することができる。ここで、シートの安定的な形成の観点から、構成繊維の繊維長は30.0mm以下であることが好ましい。係る範囲であれば、高機能シートとして実用的な均質性をもった湿式不織布シートが形成できる。繊維長が30.0mmを超えると、水媒体中での分散時に繊維同士が強固に絡み合い、繊維塊を形成してしまい、均質なシートにすることが困難となる傾向がある。
【0084】
湿式抄紙で形成したシートは、水分を除去するために乾燥工程に通す。乾燥方式としては、シートの乾燥とバインダー繊維の熱接着を同時に実施できる観点から、熱風通気(エアースルー)を利用する方法や熱回転ロール(熱カレンダーロール等)に接触させる方法が好ましい。
【0085】
湿式不織布の目付および厚みについては、湿式抄紙工程での抄紙原液の供給量および抄紙速度によって適宜変更することが可能である。本発明の実施形態に係る湿式不織布シートの厚みは特に限定されるものではないが、0.050~2.50mmであることが好ましい。特に、シートの成形加工性に優れたものとすることができるという点で、厚みは0.10mm以上とすることが好ましい。
【0086】
以上の要件を満たす湿式不織布シートは、極細繊維の比表面積に由来した吸着性能等を如何なく発揮できることに加えて、シートを構成する各繊維が均質に分散した状態で存在するため、微細空間が3次元的に均質に形成されることによる濾過性能等を高性能化できるものである。したがって、本発明の湿式不織布シートは、高機能濾材や次世代吸音素材、電池セパレーターなどへ展開可能な素材として期待できる。そして、該湿式不織布シートを少なくとも一部に含む繊維製品は、これらの用途等に好適に使用され得る。
【実施例
【0087】
以下実施例を挙げて、本発明の実施形態に係る湿式不織布シートについて具体的に説明する。
【0088】
A.ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ1Bによって、歪速度を段階的に変更して、溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には、1216s-1での溶融粘度を記載している。なお、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0089】
B.ポリマーの融点
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、約5mgを秤量し、TAインスツルメント社製示差走査熱量計(DSC)Q2000型を用いて、0℃から300℃まで昇温速度16℃/分で昇温後、300℃で5分間保持してDSC測定を行った。昇温過程中に観測された融解ピークより融点を算出した。測定は1試料につき3回行い、その平均値を融点とした。なお、融解ピークが複数観測された場合には、最も高温側の融解ピークトップを融点とした。
【0090】
C.繊維径
湿式不織布シートの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で150~3000本の繊維が観察できる倍率で画像を撮影し、撮影された画像から無作為に抽出した150本の繊維の繊維径を測定した。繊維径は、2次元的に撮影された画像から繊維軸に対して垂直方向の繊維幅を繊維径として測定した。繊維径の値に関しては、μm単位で小数点第2位まで測定した。以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果から、繊維径分布の個数を特定した。そして、各繊維径分布の分布幅に入る繊維について、繊維径の単純な数平均値の小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで求めた値を、各繊維径分布における繊維の繊維径とした。
【0091】
D.繊維長
湿式不織布シートの表面をマイクロスコープにて、全長を測定できる各繊維径の繊維が10~100本観察できる倍率で画像を撮影する。撮影された各画像から無作為に抽出した10本の、各繊維径の繊維の繊維長を測定した。ここで言う繊維長とは、2次元的に撮影された画像から繊維1本の繊維長手方向の長さとし、mm単位で小数点第3位まで測定し、小数点第2位を四捨五入するものである。以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果の単純な数平均値を繊維長とした。
【0092】
E.平均ポアサイズおよびポアサイズ分布の最大頻度
多孔質材料自動細孔測定システム Perm-Porometer(PMI社製)を用い、バブルポイント法(ASTMF-316-86に基づく)に従ってポアサイズを算出した。測定サンプル径を25mmとし、表面張力既知の測定液としてGalwick(表面張力:16mN/m)を使用した細孔径分布測定により、自動計算して得られた平均流量径を平均ポアサイズとし、小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで求めた値を用いた。また、ポアサイズ頻度は自動計算により得られた値を百分率で換算して%表示とし、小数点第2位を四捨五入して小数点第1位まで求めた値を用いた。
【0093】
F.目付
250mm×250mm角に切り出した繊維シートの重量を秤量し、単位面積(1m)当たりの重量に換算した値の小数点第1位を四捨五入して整数値としたものを湿式不織布シートの目付とした。
【0094】
G.厚み
ダイヤルシックネスゲージ(TECLOCK社 SM-114 測定子形状10mmφ、目量0.01mm、測定力2.5N以下)を用いてmm単位で測定し、湿式不織布シートの厚みを測定した。測定は1サンプルにつき無作為の5ヶ所で行い、その平均の小数点第3位を四捨五入して小数点第2位まで求めた値を湿式不織布シートの厚みとした。
【0095】
H.空隙率
湿式不織布シートの目付および厚さから、下記式より算出した値の小数点第1位を四捨五入して整数値とした値を空隙率とした。
空隙率(%)=100-(目付)/(厚さ×繊維密度)×100
なお、繊維密度は構成される繊維の密度を適用すればよく、PETの場合は1.38g/cmとして算出した。
【0096】
I.比引張強さ
比引張強さは以下のようにして求めたものである。
比引張強さ(Nm/g)=引張強さ(N/m)/目付(g/m
幅15mm×長さ50mmの試験片を5枚採取し、オリエンテック社製引張試験機 テンシロン UCT-100型を用い、JIS P8113:2006に準じて引張試験を実施し、湿式不織布シートの引張強さを測定した。この操作を5回繰り返し、得られた結果の単純平均値の小数点第3位を四捨五入した値を湿式不織布シートの引張強さとし、目付で除した値を比引張強さとした。
【0097】
[実施例1]
島成分として、ポリエチレンテレフタレート(PET1、溶融粘度160Pa・s、カルボキシル末端基量40eq/ton)、海成分として、5-ナトリウムスルホイソフタル酸8.0mol%および分子量1000のポリエチレングリコール10wt%が共重合したポリエチレンテレフタレート(共重合PET、溶融粘度121Pa・s)(溶融粘度比:1.3、溶解速度比:30000以上)を使用し、島成分の形状が丸である海島複合口金(島数2000)を用いて、海成分/島成分の複合比率を50/50として溶融吐出した糸条を冷却固化した。その後、油剤を付与し、紡糸速度1000m/minで巻き取ることで未延伸糸を得た(総吐出量12g/min)。さらに、未延伸糸を85℃と130℃に加熱したローラー間で3.4倍延伸を行い(延伸速度800m/min)、海島繊維を得た。
【0098】
この海島繊維の力学特性は、強度2.4cN/dtex、伸度36%とカット加工を行うのに十分な力学特性を有しており、繊維長が0.6mmとなるようにカット加工を施した。この海島繊維を90℃に加熱した1重量%の水酸化ナトリウム水溶液(浴比1/100)にて処理することで極細繊維分散液を得た。
【0099】
次いで、シートの骨格ならびにバインダー繊維として、熱融着性の芯鞘複合繊維のカット繊維(芯成分の繊維径10μm、繊維長5.0mm)を混合率30重量%、極細繊維の足場となるPETのカット繊維(繊維径4μm、繊維長3.0mm)を混合率65重量%となるように調整し、離解機によって水と均一に混合分散することで繊維分散液を調製した。ここで、上記芯鞘複合繊維において、芯成分及び鞘成分の構成は以下の通りである。
芯成分:PET
鞘成分:テレフタル酸60mol%、イソフタル酸40mol%、エチレングリコール85mol%、ジエチレングリコール15mol%の割合で共重合した融点110℃のポリエステル(共重合ポリエステル)
【0100】
この繊維分散液に対して、上述した極細繊維分散液を極細繊維の混合率が5重量%となるようにして均質に混合することで、抄紙原液を調製した。この抄紙原液を熊谷理機工業株式会社製角型シートマシン(250mm角)を用いて抄紙し、ローラー温度を110℃に設定した回転型乾燥機にて乾燥・熱処理を施すことにより湿式不織布シートを得た。
【0101】
得られた湿式不織布シートは、極細繊維が繊維径の大きいその他繊維を足場として橋架け状に存在するシートであり、繊維径比R/rが50、目付が25g/m、厚みが0.09mm、空隙率が79.9%であった。バブルポイント法で算出した平均ポアサイズは4.9μm、ポアサイズ分布の最大頻度は91.6%であり、微細な緻密空間が非常に均質に形成されているシートであった。また、比引張強さは6.7Nm/gであり、極細繊維の絡み合いによる補強効果により、取扱い性や成形加工性として良好なものであった。
【0102】
[実施例2~5]
極細繊維の混合率を段階的に変更して湿式抄紙したこと以外は、実施例1に従い実施した。
実施例2~5においては、極細繊維の混合率を増大させた場合では、極細繊維により形成される微細空間は緻密化し、加えて絡み合い促進による補強効果の向上も相まって、比引張強さも向上するものであった。さらに、水媒体中での分散性を損なうことなく抄紙が可能であることに起因して、ポアサイズ分布の最大頻度が80%以上と非常に均質な微細空間を形成するシートであった。
【0103】
[実施例6]
シートの目付を150g/mとなるようにしたこと以外は、実施例3に従い実施した。
シートの目付を増大させても、3次元的に均質なシート構造が形成されており、平均ポアサイズが0.8μmと非常に緻密な微細空間を安定的に形成する湿式不織布シートであった。
【0104】
[実施例7]
繊維径が中間の繊維として、繊維径4μm、繊維長3.0mmのカット繊維を混合率62.5重量%、繊維径0.6μm、繊維長0.6mmのPETのカット繊維を混合率2.5重量%で混合し、繊維径の異なる4種類の繊維でシートを構成したこと以外は、実施例1に従い実施した。
繊維径の異なる4種類の繊維でシートを構成した場合でも、均質な微細空間を形成するシートであった。
【0105】
[実施例8~13]
実施例8においては、極細繊維の繊維径を0.3μmとしたこと以外は、実施例1に従い実施した。
実施例9においては、極細繊維の混合率を10重量%と変更したこと以外は、実施例8に従い実施した。
実施例10~13においては、シートの目付をそれぞれ12.5g/m、50g/m、100g/m、300g/mと変更したこと以外は、実施例9に従い実施した。
実施例1と比較して繊維径比R/rを減少した場合においても、極細繊維特有の微細空間の形成を達成するものであった。さらに、シート目付を段階的に変更しても、各繊維の分散性を大きく損なうことなく、安定的に均質な微細空間を形成するシートであった。
【0106】
[実施例14~16]
実施例14~16においては、繊維径Rの繊維の混合率をそれぞれ15重量%、45重量%、75重量%と変更したこと以外は、実施例8に従い実施した。
繊維径Rの繊維の混合率を増大した場合でも、シートの微細空間の均質性は良好なものであり、シートの骨格がより強固に形成されることで、比引張強さは大きく向上するものであった。
【0107】
[実施例17,18]
実施例17、18においては、繊維径Rを15μm、20μmと変更したこと以外は、実施例1に従い実施した。
繊維径Rを増大させた場合においても、湿式抄紙工程における繊維の均等な集積を阻害することがなく、均質な微細空間を有する湿式不織布シートであった。また、繊維径Rの繊維はシートの力学特性を担うことから、得られたシートの比引張強さは実施例1と対比して向上するものであった。
【0108】
[実施例19]
島成分として、ポリエチレンテレフタレート(PET2、溶融粘度160Pa・s、カルボキシル末端基量52eq/ton)を使用して極細繊維を製造したこと以外は、実施例1に従い実施した。
極細繊維のカルボキシル末端基量を増大させることで水媒体中での分散性がより高まることに起因して、非常に均質なシート構造を形成するものであった。
【0109】
[実施例20、21]
極細繊維の繊維径を0.3μm、繊維長を1.2mm、1.8mmとなるようにカットしたこと以外は、実施例1に従い実施した。
極細繊維の繊維径に対する繊維長の比(L/r)を4000、6000と、実施例1と対比して増大させた場合においても、水媒体中において繊維凝集体を形成しやすくなるものの、得られるシートは均質な微細空間を形成するものであった。さらに、極細繊維の絡み合いによる補強効果が発揮されることで、実施例1と比較して、比引張強さは向上するものであった。
【0110】
[比較例1]
島成分として実施例1とは異なるポリエチレンテレフタレート(PET3、溶融粘度120Pa・s、カルボキシル末端基量28eq/ton)を使用して得られた極細繊維を用いたこと以外は、実施例1に従い湿式不織布シートを作成した。
得られたシートは、カルボキシル基由来の電気的な反発力が十分でないために極細繊維の水分散性を大きく損なうものであることに起因して、ポアサイズ分布がブロードなシート構造として、ポアサイズ分布の最大頻度が小さく、不均質な微細空間を形成するシートであった。
【0111】
[比較例2、3]
比較例2においては、極細繊維の繊維径を0.6μmとしたこと以外は、実施例1に従い実施した。
比較例3においては、極細繊維の混合率を20重量%としたこと以外は比較例2に従い実施した。
得られたシートは、繊維径比R/rが小さすぎることに起因して、極細繊維特有の効果を発揮しにくいシートとなり、実施例1および5と比較すると比引張強さにも劣るものであることから、シート強度と微細空間の構築の両立が困難なシートであった。
【0112】
各例の結果を表に示す。なお、各表中、各繊維の混合率の単位「%」は「重量%」を意味する。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2021年1月22日出願の日本特許出願(特願2021-008595)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0118】
1:繊維径が最大の繊維(繊維径Rの繊維)の繊維径分布
2:繊維径が中間の繊維の繊維径分布
3:繊維径が最小の繊維(繊維径rの繊維)の繊維径分布
図1
図2