(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】自動試料注入装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20240312BHJP
G01N 30/24 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01N35/10 F
G01N30/24 A
(21)【出願番号】P 2022527488
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2020046721
(87)【国際公開番号】W WO2021240853
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020090659
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003993
【氏名又は名称】弁理士法人野口新生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】福島 大貴
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-056725(JP,A)
【文献】特開2008-020242(JP,A)
【文献】特開2000-097947(JP,A)
【文献】特開2018-109520(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099660(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/18,30/24,30/86,
G01N 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析装置に対して試料の注入動作を行なうように構成された自動試料注入装置であって、
前記自動試料注入装置は、
試料及び溶媒の吸入及び分注を行なうサンプリング機構と、
演算制御装置と、
制御部と、
を備え、
前記演算制御装置は、ユーザによって入力される情報に基づいて、溶媒を用いた所定動作のメソッドを設定し、前記メソッドの設定の際に、複数の要求項目をユーザに提示し、選択された要求項目に応じた推奨メソッドを決定するように構成され、
前記制御部は、前記サンプリング機構を制御し、前記演算制御装置により設定されたメソッドで前記所定動作を実行するように構成されている、自動試料注入装置。
【請求項2】
前記演算制御装置は、前記メソッドの設定の際に、決定した前記推奨メソッドをユーザに対して提示するように構成されている、請求項1に記載の自動試料注入装置。
【請求項3】
分析装置に対して試料の注入動作を行なうように構成された自動試料注入装置であって、
前記自動試料注入装置は、
試料及び溶媒の吸入及び分注を行なうサンプリング機構と、
バイアルにそれぞれ収容された複数の溶媒が配置される溶媒配置部と、
演算制御装置と、
制御部と、
を備え、
前記演算制御装置は、
ユーザによって入力される情報に基づいて、溶媒を用いた所定動作のメソッドを設定するように構成されたメソッド設定部と、
前記メソッド設定部により設定されたメソッドに基づいて、前記溶媒配置部に配置される溶媒の種類を自動的に設定するように構成されている溶媒配置設定部と、
を備えている、自動試料注入装置。
【請求項4】
前記所定動作は前記注入動作の前後における前記サンプリング機構の洗浄動作である、請求項1から3のいずれか一項に記載の自動試料注入装置。
【請求項5】
前記分析装置はガスクロマトグラフである、請求項1から4のいずれか一項に記載の自動試料注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフなどの分析装置に試料を注入するための自動試料注入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフィー分析などの分析を実行するための分析システムでは、分析装置への試料の注入動作を自動的に実行する自動試料注入装置が用いられる。このような自動試料注入装置では、ガスクロマトグラフへの試料注入を実行する前に、液の吸入及び分注を行なうシリンジなどのサンプリング機構の所定の溶媒を用いた洗浄と、注入サンプルを用いた共洗いを実行するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの自動試料注入装置では、洗浄動作等のメソッドが予め決まっており、ユーザはせいぜい溶媒の種類ごとの洗浄動作の回数を増減させることくらいしかできなかった。しかし、ユーザによっては、洗浄動作によるコンタミネーションの抑制効果を高めたい、溶媒の消費量を節約したいといった要求がある。そのような要求を満たすためには、洗浄動作等のメソッド自体を任意に設定できることが望ましいが、これまでの自動試料注入装置では装置内に配置される溶媒の種類や数は固定のものになっていた。装置内に配置される溶媒の種類や数が固定のものになっていると、洗浄動作等のメソッドがユーザの要求に応じて変更された場合、溶媒の無駄が発生したり、変更後のメソッドを実行できなかったりといった問題が生じる。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、洗浄動作等のメソッドを任意に設定可能にすることを目的とするものである。
【0006】
なお、特許文献1では、分析システムにおいて、簡素化されたインターフェース上で分析結果等に関するパラメータを設定できるようにし、設定されたパラメータに応じて各機器を制御することが提案されている。提案の機能を用いれば、ユーザが要求する効果を達成するためのメソッドの設定は可能であるが、それだけでは設定したメソッドに適した溶媒の配置を実現することができない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動試料注入装置は、溶媒の吸入及び分注を行なうサンプリング機構により、分析装置に対して試料の注入動作を行なうように構成されたものであって、バイアルにそれぞれ収容された複数の溶媒が配置される溶媒配置場所と、ユーザによって入力される情報に基づいて、溶媒を用いた所定動作のメソッドを設定するように構成されたメソッド設定部と、前記溶媒配置場所に配置される溶媒の数及びそれらの種類を設定するための溶媒配置設定部と、前記サンプリング機構を制御し、前記メソッド設定部により設定されたメソッドで前記所定動作を実行するように構成された制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る自動試料注入装置によれば、ユーザによって入力される情報に基づいて、溶媒を用いた所定動作のメソッドを設定するように構成されたメソッド設定部、及び、前記溶媒配置場所に配置される溶媒の数及びそれらの種類を設定するための溶媒配置設定部を備えているので、洗浄動作等の所定動作のメソッドを任意に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】自動試料注入装置の一実施例を示す概略構成図である。
【
図2】同実施例におけるメソッド編集時の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図3】同実施例におけるメソッド編集時にディスプレイ上に表示される要求項目の一例を示す図である。
【
図4】選択される要求項目に応じた推奨メソッドの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る自動試料注入装置の一実施例について説明する。
【0011】
図1に示されているように、自動試料注入装置は、サンプリング機構2、ターレット4、制御部6及び演算制御装置8を備えている。
【0012】
サンプリング機構2は、シリンジ10と、シリンジ10を駆動するための駆動部12と、を備えている。サンプリング機構2は、シリンジ10によってターレット4上に配置されたバイアルから試料及び溶媒の吸入及び分注を行なうためのものである。
【0013】
ターレット4は円盤状のテーブルである。ターレット4上には、溶媒を収容する複数のバイアルを配置するための溶媒配置部14を含む、複数のバイアル配置場所が同一円周上に設けられている。なお、ターレット4上には、溶媒配置部14のほか、試料を収容するバイアルを配置するための試料配置場所が設けられていてもよい。また、試料配置場所はターレット4上とは別の場所に設けられていてもよい。
【0014】
制御部6は、CPU(中央演算装置)等を備えた電子回路によって実現される機能である。制御部6は、サンプリング機構2及びターレット4を制御して、ターレット4に配置された各試料の分析を実行するように構成されている。制御部6と通信可能に設けられた演算制御装置8には、試料注入の前後のサンプリング機構2の洗浄動作など、ターレット4上に配置される溶媒を使用する所定動作のメソッドを設定する機能が設けられている。制御部6は、演算制御装置8において設定されたメソッドにしたがって洗浄動作等が実行されるように、サンプリング機構2及びターレット4を制御する。
【0015】
演算制御装置8は、汎用のパーソナルコンピュータ又は専用のコンピュータによって実現することができるものである。演算制御装置8には、種々の情報表示を行なうためのディスプレイ22、及び、キーボードなどの入力装置24が電気的に接続されている。演算制御装置8には、メソッド設定部16、推奨メソッド提示部18及び溶媒配置設定部20が設けられている。メソッド設定部16、推奨メソッド提示部18及び溶媒配置設定部20は、演算制御装置8内のCPUが所定のプログラムを実行することによって得られる機能である。
【0016】
メソッド設定部16は、入力装置24を介してユーザによって入力される情報に基づいて、洗浄動作等のメソッドを設定するように構成されている。具体的には、ユーザがメソッドの編集を指示する入力をしたときに、メソッド設定部16がメソッド編集画面をディスプレイ22に表示し、ユーザがそのメソッド編集画面上で必要な情報を入力すると、メソッド設定部16が入力された情報に基づいてメソッドを設定する。
【0017】
ここで、サンプリング機構2の洗浄動作とは、シリンジ10によってターレット4上のバイアル14から溶媒を吸入してドレイン(図示は省略)へ排出する動作である。洗浄動作のメソッドは、試料注入前の洗浄動作と試料注入後の洗浄動作のそれぞれにおいて使用される溶媒の種類、シリンジ10による吸入・排出の回数によって規定される。
【0018】
推奨メソッド提示部18は、洗浄動作等のメソッドの設定の際にユーザを補助するための機能である。推奨メソッド提示部18は、メソッドの設定の際に、ユーザに対して複数の要求項目を提示し、それらの要求項目のうちからユーザによって選択された要求項目に応じた推奨メソッドをユーザに提示するように構成されている。
【0019】
要求項目とは、達成すべき効果を項目化したものである。
図3は、洗浄動作のメソッドの設定に際して表示される要求項目リストの一例を示したものである。ユーザは、表示された要求項目リストの中から所望の要求項目を任意に選択することができる。
図3では、2つの要求項目が選択されているが、1つの要求項目のみを選択することもできるし、3以上の要求項目を選択することもできる。
【0020】
推奨メソッドとは、各要求項目の効果が達成されるように予め構築されたメソッドである。
図1では図示されていないが、演算制御装置8には、要求項目のそれぞれに対応する推奨メソッドに関する情報を記憶している記憶領域が設けられており、ユーザが所望の要求項目を選択すると、推奨メソッド提示部18が選択された要求項目に適合する推奨メソッドを読み出し、ディスプレイ22に表示することによってユーザに提示する。ユーザは、表示された推奨メソッドを参考にメソッドに関するパラメータを編集することができ、表示された推奨メソッドのパラメータをそのまま適用することもできる。
【0021】
図4は、選択された要求項目に対応して予め用意された推奨メソッドの一例を示したものである。
図4の例において、例えば、ユーザが要求項目「キャリーオーバの低減」のみを選択した場合、洗浄動作においてA~Dの4種類の溶媒を使用し、かつ、試料注入前の洗浄動作ではC、Dの溶媒を使用し、試料注入後の洗浄動作ではA、Bの溶媒を使用するように構築された推奨メソッドが提示される。この推奨メソッドでは、試料注入前の洗浄において試料注入後の洗浄で使用される溶媒とは別のバイアルに収容されている溶媒が使用されるため、シリンジ10内の洗浄効果が高く、試料のキャリーオーバが少ないという効果が得られる。また、ユーザが要求項目「溶媒節約」のみを選択した場合、試料注入前の洗浄動作と試料注入後の洗浄動作で共通のバイアルに収容された溶媒を使用するように構築された推奨メソッドが提示される。このほか、
図4に示されているように、複数の要求項目が同時に選択された場合(例えば、「キャリーオーバの低減」+「溶媒節約」)に対応する推奨メソッドも予め用意されている。
【0022】
図1に戻ってこの実施例の説明を続ける。
演算制御装置8の溶媒配置設定部20は、ターレット4上における溶媒の配置の内訳を設定するための機能である。ターレット4上に配置する溶媒の内訳、すなわち、配置される溶媒の数とそれらの種類は、ユーザが任意に設定することができる。ターレット4上の溶媒配置部14に4本のバイアルを配置できるようになっている場合、溶媒配置部14に4種類の溶媒を配置ように設定することもできるし、同じ種類の溶媒を複数配置するように設定することもできる。例えば、A、Bの2種類の溶媒を使用する洗浄動作のメソッドを設定した場合、ユーザは、溶媒Aを収容したバイアルと溶媒Bを収容したバイアルをそれぞれ2本ずつ配置するように設定することができる。1種類の溶媒のみを使用する洗浄動作のメソッドを設定した場合には、ユーザは、同じ溶媒を収容したバイアルを複数本配置するように設定することもできる。なお、溶媒配置部14のすべてにバイアルを配置する必要はなく、分析回数が少ない場合などは、溶媒配置部14の一部にバイアルを配置しないように設定することもできる。
【0023】
また、溶媒配置設定部20は、メソッド設定部16により設定されたメソッドに適したターレット4上の溶媒の配置を自動的に設定するようになっていてもよい。その場合、演算制御装置8には、設定され得るメソッドのそれぞれに対応するターレット4上の溶媒の配置に関する情報を記憶している記憶領域が設けられ、メソッド設定部16によってメソッドが設定されたときに、設定されたメソッドに対応するようにターレット4上の溶媒の配置が設定され、溶媒配置部14に配置すべき溶媒の数及びそれらの種類に関する情報がディスプレイ22上に表示される。このような溶媒配置の自動設定機能を使用すれば、ユーザは、ディスプレイ22に表示された情報に従って、ターレット4上の溶媒配置部14に溶媒を配置するだけでよく、ユーザ自身がメソッドに適した溶媒の配置を考えて設定する必要がない。
【0024】
この実施例の自動試料注入装置におけるメソッド設定時の動作の一例を
図2のフローチャートを用いて説明する。
【0025】
ユーザがメソッドの編集を要求する指示を演算制御装置8に入力すると、メソッド設定部16がメソッド編集画面を表示し、さらに、推奨メソッド提示部18が複数の要求項目を表示する(ステップ101)。ユーザが所望の要求項目を選択すると(ステップ102)、推奨メソッド提示部18は選択された要求項目に対応した推奨メソッドをディスプレイ22に表示することによりユーザへ提示する(ステップ103)。ユーザは、提示された推奨メソッドを参考にメソッドに関する情報を編集して決定し、又は、提示された推奨メソッドの情報をそのまま適用すると、その情報に基づいてメソッド設定部16がメソッドを設定する(ステップ104)。その後、設定したメソッドに応じてユーザがターレット4上の溶媒の配置を設定し、又は、設定されたメソッドに基づいてメソッド設定部16が自動的にターレット4上の溶媒の配置を設定する(ステップ105)。
【0026】
なお、以上において説明した実施例は、本発明に係る自動試料注入装置の実施形態の一例を示したに過ぎない。本発明に係る自動試料注入装置の実施形態は以下のとおりである。
【0027】
本発明に係る自動試料注入装置の一実施形態は、溶媒の吸入及び分注を行なうサンプリング機構により、分析装置に対して試料の注入動作を行なうように構成された自動試料注入装置であって、バイアルにそれぞれ収容された複数の溶媒が配置される溶媒配置部と、ユーザによって入力される情報に基づいて、溶媒を用いた所定動作のメソッドを設定するように構成されたメソッド設定部と、前記溶媒配置部に配置される溶媒の数及びそれらの種類を設定するための溶媒配置設定部と、前記サンプリング機構を制御し、前記メソッド設定部により設定されたメソッドで前記所定動作を実行するように構成された制御部と、を備えている。
【0028】
上記実施形態の第1態様では、前記メソッドの設定の際に、複数の要求項目をユーザに提示し、選択された要求項目に応じた推奨メソッドをユーザに対して提示するように構成された推奨メソッド提示部を備えている。このような態様により、ユーザはメーカーがもつメソッドに関するノウハウを参考にすることができ、ユーザの所望する効果を得るためのメソッドの構築が容易になる。
【0029】
上記実施形態の第2態様では、前記溶媒配置設定部は、前記メソッド設定部により設定されたメソッドに基づいて、前記溶媒配置部に配置される溶媒の数及びそれらの種類を自動的に設定するように構成されている。このような態様により、設定されたメソッドに適した溶媒の配置の設定が簡略化される。この第2態様は上記第1態様と組み合わせることができる。
【0030】
上記実施形態において、前記所定動作は前記注入動作の前後における前記サンプリング機構の洗浄動作であってよい。
【0031】
また、上記実施形態において、前記分析装置はガスクロマトグラフであってよい。
【符号の説明】
【0032】
2 サンプリング機構
4 ターレット
6 制御部
8 演算制御装置
10 シリンジ
12 駆動部
14 溶媒配置部
16 メソッド設定部
18 推奨メソッド提示部
20 溶媒配置設定部
22 ディスプレイ
24 入力装置