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特許7452651複合膜構造体を用いたガス吸着フィルタおよびガス除去装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】複合膜構造体を用いたガス吸着フィルタおよびガス除去装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20240312BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20240312BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20240312BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B01J20/22 A
B01J20/26 A
B01J20/34 F
B01J20/34 H
B01D53/04 230
B01D53/04 110
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022531738
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2021022101
(87)【国際公開番号】W WO2021261271
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2020108055
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】大江 秀明
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-519896(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0034637(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第103285827(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104056598(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109970355(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106378100(CN,A)
【文献】特開2018-187574(JP,A)
【文献】特開2014-156434(JP,A)
【文献】特開2020-006328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/02-53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に形成された金属酸化物層および該金属酸化物層に形成された金属有機構造体薄膜を含む複合膜構造体を有する、ガス吸着フィルタであって、
前記金属酸化物層は、その少なくとも表層部に、該金属酸化物層を構成する金属酸化物が前記金属有機構造体薄膜を構成する金属有機構造体により変質されている変質層を有しており、
前記金属有機構造体薄膜は、有機分子と前記金属酸化物由来の金属原子を含む金属原子との配位結合に基づく多孔質膜であり、
前記有機分子は、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾールおよびプリンからなる群から選択されるアゾール系有機分子を含み、該アゾール系有機分子は、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基およびシアノ基からなる群から選択される1種以上の置換基を有していてもよいし、または有していなくてもよく、
前記金属有機構造体薄膜にアミン化合物が担持され、
前記ガスが二酸化炭素ガスである、ガス吸着フィルタ。
【請求項2】
支持体上に形成された金属酸化物層および該金属酸化物層に形成された金属有機構造体薄膜を含む複合膜構造体を有する、ガス吸着フィルタであって、
前記金属酸化物層を構成する金属酸化物と前記金属有機構造体薄膜を構成する金属有機構造体との界面で、金属原子が、前記金属酸化物および前記金属有機構造体に共有されており、
前記金属有機構造体薄膜は、有機分子と前記金属酸化物由来の金属原子を含む金属原子との配位結合に基づく多孔質膜であり、
前記有機分子は、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾールおよびプリンからなる群から選択されるアゾール系有機分子を含み、該アゾール系有機分子は、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基およびシアノ基からなる群から選択される1種以上の置換基を有していてもよいし、または有していなくてもよく、
前記金属有機構造体薄膜は10nm以上100nm以下の厚みを有し、
前記金属有機構造体薄膜にアミン化合物が担持され、
前記ガスが二酸化炭素ガスである、ガス吸着フィルタ。
【請求項3】
支持体上に形成された金属酸化物層および該金属酸化物層に形成された金属有機構造体薄膜を含む複合膜構造体を有する、ガス吸着フィルタであって、
前記金属酸化物層は、その少なくとも表層部に、該金属酸化物層を構成する金属酸化物が前記金属有機構造体薄膜を構成する金属有機構造体により変質されている変質層を有しており、
前記金属有機構造体薄膜は、有機分子と前記金属酸化物由来の金属原子を含む金属原子との配位結合に基づく多孔質膜であり、
前記有機分子は、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾールおよびプリンからなる群から選択されるアゾール系有機分子を含み、該アゾール系有機分子は、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基およびシアノ基からなる群から選択される1種以上の置換基を有していてもよいし、または有していなくてもよく、
前記金属有機構造体薄膜は10nm以上100nm以下の厚みを有し、
前記金属有機構造体薄膜にアミン化合物が担持され、
前記ガスが二酸化炭素ガスである、ガス吸着フィルタ。
【請求項4】
前記変質層において、前記金属有機構造体薄膜は前記金属酸化物の表面に形成されている、請求項1または3に記載のガス吸着フィルタ。
【請求項5】
前記変質層において、前記金属有機構造体は、前記金属酸化物を構成する金属原子を利用して構成されている、請求項1、3または4に記載のガス吸着フィルタ。
【請求項6】
前記金属酸化物層は多孔質層である、請求項1~のいずれかに記載のガス吸着フィルタ。
【請求項7】
前記金属酸化物層は多孔質めっき層である、請求項1~のいずれかに記載のガス吸着フィルタ。
【請求項8】
前記金属酸化物層は、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化インジウム、および酸化アルミニウムからなる群から選択される1種以上の金属酸化物を含む層である、請求項1~のいずれかに記載のガス吸着フィルタ。
【請求項9】
前記金属酸化物層は1μm以上10μm以下の厚みを有する、請求項1~のいずれかに記載のガス吸着フィルタ。
【請求項10】
前記有機分子は、下記一般式(1)で表されるイミダゾール系分子を含む、請求項1~9のいずれかに記載のガス吸着フィルタ。
【化1】
[式(1)中、R 1 ~R 3 は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基またはシアノ基である。]
【請求項11】
前記有機分子は、イミダゾール、メチルイミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾールおよびプリンからなる群から選択されるアゾール系有機分子を含む、請求項1~9のいずれかに記載のガス吸着フィルタ。
【請求項12】
前記アミン化合物は重量平均分子量1000以上のアミノ基含有ポリマーである、請求項1~11のいずれかに記載のガス吸着フィルタ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のガス吸着フィルタを含み、
前記ガスが二酸化炭素ガスであり、
以下のステップを経て、室内の前記二酸化炭素ガスを室外に放出する、ガス除去装置:
(i)室内の空気を前記ガス吸着フィルタに吹き付け、二酸化炭素ガスを吸着させるステップ;
(ii)前記ガス吸着フィルタに加温した空気を吹き付けること、または前記ガス吸着フィルタを加熱することにより、吸着した二酸化炭素ガスを放出するステップ;および
(iii)放出された二酸化炭素ガスを室外に排出するステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合膜構造体ならびに該複合膜構造体を用いたセンサ(特にガスまたは匂い用センサ)、ガス吸着フィルタおよびガス除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、二酸化炭素等のガスを吸着材により回収する試みがなされている。吸着材としては、金属有機構造体(MOF)およびアミン化合物等が知られている(特許文献1~3)。
【0003】
例えば、特許文献1においては、支持体上に、化学気相法を用いてMOF薄膜を成膜する方法が提案されている。
【0004】
また例えば、特許文献2においては、親水性繊維と多孔質粉末とが親水性バインダーにより複合された多孔質粒子に、アミン化合物を担持させた二酸化炭素吸収剤が提案されている。多孔質粉末としてはMOFが使用される。
【0005】
一方、特許文献3においては、アルミナやシリカ粉末を成型した多孔ハニカム基材に、アミン化合物を付けた二酸化炭素吸着基材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-519896
【文献】特開2018-187574
【文献】特表2015-508018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明の発明者等は、従来の技術では、以下の新たな問題が生じることを見出した。
(1)特許文献1の技術においては、MOFの支持体に対する密着性が悪く、MOF薄膜が振動や物理的な負荷に弱いという問題点があった。
(2)特許文献2の技術においては、MOFを親水性バインダーによりハニカムなどの支持体に担持しようとしても、密着性が十分ではなかった。このため、アミン化合物を担持させる時、二酸化炭素吸収剤を空調機へ取り付ける時、および空調機を使用する時等において、振動などによりMOFが脱落し、二酸化炭素の吸収性能が低かった。
(3)特許文献3の技術においては、支持体として多孔ハニカム基材を用いても、表面積が十分ではないため、二酸化炭素吸着能が小さかった。
【0008】
本発明は、金属有機構造体(MOF)が十分な密着性により支持体に担持されている複合膜構造体を提供することを目的とする。
【0009】
本発明はまた、金属有機構造体(MOF)が十分な密着性により支持体に担持され、信頼性に十分に優れているセンサ(特にガスまたは匂い用センサ)を提供することを目的とする。
【0010】
本発明はまた、金属有機構造体(MOF)が十分な密着性により支持体に担持され、ガス(例えば二酸化炭素ガス)の吸着性に十分に優れているガス吸着フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
支持体上に形成された金属酸化物層および該金属酸化物層に形成された金属有機構造体薄膜を含む複合膜構造体であって、
前記金属酸化物層を構成する金属酸化物と前記金属有機構造体薄膜を構成する金属有機構造体との界面で、金属原子が、前記金属酸化物および前記金属有機構造体に共有されている、複合膜構造体に関する。
【0012】
本発明はまた、
支持体上に形成された金属酸化物層および該金属酸化物層に形成された金属有機構造体薄膜を含む複合膜構造体であって、
前記金属酸化物層は、その少なくとも表層部に、該金属酸化物層を構成する金属酸化物が前記金属有機構造体薄膜を構成する金属有機構造体により変質されている変質層を有している、複合膜構造体に関する。
【0013】
本発明はまた、上記の複合膜構造体を有する、センサ(特にガスまたは匂い用センサ)に関する。
【0014】
本発明はまた、上記の複合膜構造体を有する、ガス吸着フィルタに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合膜構造体は、金属有機構造体(MOF)が十分な密着性により支持体に担持されている。よって、本発明の複合膜構造体を有するセンサおよびガス吸着フィルタはそれぞれ、信頼性およびガス(例えば二酸化炭素ガス)吸着性に十分に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体の一例の模式断面図である。
図1B】本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体の別の一例の模式断面図である。
図2A】本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体における金属有機構造体の結晶構造を模式的に示す金属有機構造体の模式図である。
図2B】本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体において、有機分子として2-メチルイミダゾールを用いた金属有機構造体の結晶構造を模式的に示す金属有機構造体の模式図である。
図2C】本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体において、有機分子としてシアン系有機分子を用いた金属有機構造体の結晶構造を模式的に示す金属有機構造体の模式図である。
図3A】本発明の第2実施態様に係るガスセンサの一例の模式的平面図である。
図3B】本発明の第2実施態様に係るガスセンサの一例の模式的断面図である。
図3C】本発明の第2実施態様に係るガスセンサを製造する方法を示す模式的工程図である。
図4A】本発明の第2実施態様に係るマルチガスセンサの一例の模式的平面図である。
図4B】本発明の第2実施態様に係るマルチガスセンサの一例の模式的断面図である。
図5】本発明の第3実施態様に係るガス吸着フィルタの一例の模式図である。
図6】本発明の第4実施態様に係るガス除去装置の一例の模式図である。
図7】実施例で製造された複合膜構造体のガス吸着性を示すグラフである。
図8】実施例で製造された複合膜構造体のX線回折(XRD)スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施態様]
本発明の第1実施態様は複合膜構造体を提供する。本発明の複合膜構造体は、支持体、金属酸化物層および金属有機構造体薄膜を含む。本発明において、金属酸化物層は密着層または接着層として機能し、当該金属酸化物層を介して金属有機構造体薄膜は支持体上に形成または担持されるため、金属有機構造体薄膜の支持体に対する密着性が十分に向上する。
【0018】
本発明の複合膜構造体10は、例えば、図1Aおよび図1Bに示すように、支持体1、当該支持体1上に形成された金属酸化物層2および該金属酸化物層2に形成された金属有機構造体薄膜3を含む。「金属酸化物層2に形成された金属有機構造体薄膜3」は「金属酸化物層2が有する金属有機構造体薄膜3」という意味である。「金属酸化物層2に形成された金属有機構造体薄膜3」は、後で詳述するように、以下の金属有機構造体薄膜3を包含する:
・金属酸化物層2が多孔質層である場合(図1A)において、当該多孔質金属酸化物層2を構成する当該層内部の金属酸化物20の表面に形成された金属有機構造体薄膜3;および
・金属酸化物層2が非多孔状層である場合(図1B)において、当該非多孔状金属酸化物層2の表面(特に外部表面2a)に形成された金属有機構造体薄膜3。
図1Aは、本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体の一例の模式断面図である。図1Bは、本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体の別の一例の模式断面図である。本明細書中、図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観および寸法比などは実物と異なり得る。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”、“左右方向”および“表裏方向”はそれぞれ、特記しない限り、図中における上下方向、左右方向および表裏方向に対応した方向に相当する。同じ符号または記号は、特記しない限り、形状が異なること以外、同じ部材または同じ意味内容を示すものとする。
【0019】
(金属酸化物層)
金属酸化物層2は、その少なくとも表層部に、変質層30を有している。変質層30とは、金属酸化物層2を構成する金属酸化物20が金属有機構造体薄膜3を構成する金属有機構造体により変質されている層のことである。変質層30の配置および形態は、金属酸化物層2の形態により異なる。例えば、金属酸化物層2が後述するような多孔質層である場合、図1Aに示すように、変質層30は、金属酸化物層2の内部における少なくとも表層部に配置され、金属有機構造体薄膜3が当該多孔質金属酸化物層2を構成する金属酸化物20の表面に形成されている形態を有する。この場合、変質層30は、金属酸化物層2の少なくとも表層部に配置される限り、金属酸化物層2の全体にわたって配置されていてもよい。また例えば、金属酸化物層2が後述するような非多孔状層である場合、図1Bに示すように、変質層30は、金属酸化物層2の表面(特に外部表面2a)に配置され、金属有機構造体薄膜3が当該非多孔状金属酸化物層2の表面に形成されている形態を有する。なお、非多孔状層とは、表面が非多孔状(例えば平滑)である層という意味である。
【0020】
変質層30において、金属有機構造体薄膜3の金属有機構造体は、金属酸化物層2の金属酸化物20を構成する金属原子を利用して構成されている。このことが、「変質層」と称される理由である。すなわち、「変質層」の変質とは、金属酸化物層2(特に当該層を構成する金属酸化物20)の化学的変質のことであり、金属酸化物層2を構成する金属酸化物20の金属原子を利用して、金属有機構造体薄膜3の金属有機構造体が形成された層である。詳しくは、金属酸化物層2を構成する金属酸化物20と金属有機構造体薄膜3を構成する金属有機構造体との界面(または間)で、金属酸化物および金属有機構造体に共有されている金属原子が存在している。例えば、当該界面において、金属酸化物および金属有機構造体のいずれをも構成する金属原子が存在している。また例えば、当該変質層においては、金属有機構造体は、金属酸化物を構成する金属原子を含みながら構成されている。それらの結果として、金属酸化物と金属有機構造体との間(例えば界面)で金属原子は金属酸化物および金属有機構造体の両方に共有されている。本発明においては、このように、金属有機構造体は、金属酸化物の表面において、金属酸化物の金属原子を共有しながら形成されているため、金属有機構造体薄膜の密着性が十分に向上する。
【0021】
金属酸化物層2を構成する材料は、金属有機構造体を構成し得る金属原子を供給可能な金属酸化物であれば特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化インジウム、および酸化アルミニウムからなる群から選択される1種以上の金属酸化物が挙げられる。金属酸化物層2は、多孔質構造を得る観点から、酸化亜鉛から構成されていることが好ましい。
【0022】
金属酸化物層2は、多孔質層であってもよいし、または外部表面2a(図1B参照)が平滑な非多孔状層であってもよい。金属酸化物層2は、当該金属酸化物層の表面積の増大に基づくより多くの金属有機構造体の担持および金属酸化物層の支持体へのより高い密着性の観点から、多孔質層であることが好ましい。金属酸化物層2について、多孔質層とは、当該金属酸化物層を構成する金属酸化物粒子(例えばめっき法により形成される場合における析出粒子)間に間隙を有する層、あるいは表面に凹凸を有する膜または層という意味である。
【0023】
金属酸化物層2の厚みTは特に限定されず、例えば、0.1μm以上100μm以下であり、当該金属酸化物層の表面積の増大に基づくより多くの金属有機構造体の担持および金属酸化物層の支持体へのより高い密着性の観点から、好ましくは1μm以上10μm以下である。
【0024】
金属酸化物層2の厚みTはSEM写真における任意の50箇所における厚みの平均値を用いている。
【0025】
金属酸化物層2は、例えば、めっき法、CVD法、蒸着法、スパッタリング法などの方法により形成することができる。金属酸化物層2の表面積を大きくする観点から、めっき法を用いることが好ましい。めっき法で金属酸化物層を形成する方法としては、電解めっき法および無電解めっき法を用いることができる。電解めっき法の場合は、支持体として導電性の材料、例えば金属メッシュフィルタ、活性炭練りこみフィルタなどを用いることができる。また導電性が低い支持体であっても、無電解めっき法で銅、ニッケル、亜鉛など(導電性の膜を支持体表面に形成した上で電解めっき法により金属酸化物層を形成することもできる。金属酸化物層2は、多孔質層である場合、当該金属酸化物層の表面積の増大に基づくより多くの金属有機構造体の担持および金属酸化物層の支持体へのより高い密着性の観点から、めっき法、特に電解めっき法により形成されることが好ましい。
【0026】
(金属有機構造体薄膜)
金属有機構造体薄膜3は金属有機構造体(すなわち、MOF:Metal-Organic Framework)から構成され、通常は金属有機構造体のみから構成されている。金属有機構造体薄膜3が金属有機構造体のみから構成されるとは、金属有機構造体以外の物質を意図的に含ませないという意味であり、例えば、金属有機構造体を構成する金属原子および有機分子等の意図しない物質および不純物質が含まれてもよい。
【0027】
金属有機構造体薄膜3を構成する金属有機構造体は、有機分子と金属酸化物層2の金属酸化物由来の金属原子を含む金属原子との配位結合に基づく金属有機構造体であり、金属有機構造体薄膜3を多孔質膜として構成する。金属有機構造体は、例えば図2Aに示すように、有機分子OMが配位子として金属原子(特に金属原子イオン)MAを架橋して形成された結晶性錯体であって、有機分子と金属原子(特に金属原子イオン)との配位結合に基づく多孔体のことである。金属有機構造体は、当該金属有機構造体を構成する全ての金属原子が、金属酸化物層2を構成する金属酸化物に共有されていなければならないというわけではなく、少なくとも金属酸化物と隣接する金属有機構造体(または少なくとも金属酸化物近傍の金属有機構造体)の金属原子が、当該金属酸化物に共有されていればよい。金属酸化物と隣接する金属有機構造体の金属原子が、当該金属酸化物に共有されている様子は、透過型電子顕微鏡(TEM)の高倍率観察(例えば100万倍以上)により確認することが可能である。図2Aは、本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体における金属有機構造体の結晶構造を模式的に示す金属有機構造体の模式図である。
【0028】
詳しくは、例えば、有機分子として後述の2-メチルイミダゾールを含み、かつ金属原子として亜鉛原子を含む金属有機構造体は、図2Bに示すような結晶構造を有し得る。このとき、図2Bにおいて示される18個の亜鉛原子MAのうち、いずれか1個以上の亜鉛原子が金属酸化物に共有されていてもよい。図2Bは、本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体において、有機分子として2-メチルイミダゾールを用いた金属有機構造体の結晶構造を模式的に示す金属有機構造体の模式図である。この構造はあくまで模式図であり結晶構造は正確には、例えば、以下の文献に記載されたものである。
ANH PHAN et al., “Synthesis, Structure, and Carbon Dioxide Capture Properties of Zeolitic Imidazolate Frameworks”(ACCOUNTS OF CHEMICAL RESEARCH 58 67 January 2010 Vol. 43, No. 1)
【0029】
また例えば、有機分子として後述のシアン系化合物を含み、かつ金属原子MおよびM’を含む金属有機構造体は、図2Cに示すような結晶構造を有し得る。このとき、図2Cにおいて示される、中心の金属原子M’を除く26個の金属原子MおよびM’のうち、いずれか1個以上の金属原子が金属酸化物に共有されていてもよい。図2Cにおいて、MおよびM’は同じ金属原子(例えば亜鉛原子)であってもよく、Cは炭素原子であり、Nは窒素原子である。図2Cは、本発明の第1実施態様に係る複合膜構造体において、有機分子としてシアン系有機分子を用いた金属有機構造体の結晶構造を模式的に示す金属有機構造体の模式図である。
【0030】
有機分子は、金属有機構造体の分野で金属有機構造体を構成し得る有機分子として知られているあらゆる有機分子であってもよい。有機分子は、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点から、好ましくは、アゾール系有機分子、シアン系有機分子およびカルボン酸系有機分子からなる群から選択される1種以上の有機分子を含む。同様の観点および本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;除去性;および使用環境中に存在する水分に対する構造安定性;のさらなる向上の観点から、有機分子は、より好ましくは、アゾール系有機分子およびシアン系有機分子からなる群から選択される1種以上の有機分子を含み、さらに好ましくはアゾール系有機分子からなる群から選択される1種以上の有機分子を含む。アゾール系有機分子(特にイミダゾール系有機分子)は、図2Bに示すように、窒素原子を介して、当該有機分子と金属原子とが結合しているため、ガス(特に二酸化炭素ガス)の吸着速度がより速い。
【0031】
金属有機構造体を構成するアゾール系有機分子は、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾールおよびプリンからなる群から選択される有機分子を含む。本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましくはイミダゾール、ベンズイミダゾール、およびプリンであり、より好ましくはイミダゾール、およびベンズイミダゾールであり、さらに好ましくはイミダゾールである。
【0032】
アゾール系有機分子は置換基を有していてもよいし、または有していなくてもよい。
アゾール系有機分子が有していてもよい置換基は、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基およびシアノ基等の疎水性基;ならびにアミノ基およびカルボキシル基等の親水性基からなる群から選択される1種以上の置換基である。
アルキル基は、例えば、炭素原子数1以上5以下(特に1以上3以下)のアルキル基である。アルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
ハロゲン原子として、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0033】
金属有機構造体を構成するアゾール系有機分子は、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点、ならびに本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましくは、置換基を有さないアゾール系有機分子、および置換基を有したとしても疎水性基(特にアルキル基またはニトロ基)のみを有するアゾール系有機分子からなる群から選択され、より好ましくは、疎水性基(特にアルキル基)のみを有するアゾール系有機分子からなる群から選択される。
【0034】
金属有機構造体を構成するアゾール系有機分子として、例えば、下記一般式(1)で表されるイミダゾール系分子、下記一般式(2)で表されるベンズイミダゾール系分子、下記一般式(3)および(4)で表されるトリアゾール系分子、ならびに一般式(5)で表されるプリン系分子が挙げられる。
【0035】
【化1】
【0036】
式(1)中、R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子;アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基またはシアノ基等の疎水性基;またはアミノ基もしくはカルボキシル基等の親水性基であり、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点、ならびに本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましく水素原子または上記疎水性基であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基またはシアノ基である。同様の観点からより好ましい実施態様においては、R1は水素原子、アルキル基、またはニトロ基であり、R2およびR3は水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基である。
【0037】
一般式(1)で表されるイミダゾール系分子の具体例として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
イミダゾール、メチルイミダゾール、エチルイミダゾール、ニトロイミダゾール、アミノイミダゾール、クロロイミダゾール、ブロモイミダゾール。
【0038】
【化2】
【0039】
式(2)中、R11~R15は、それぞれ独立して、水素原子;アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基またはシアノ基の疎水性基;またはアミノ基もしくはカルボキシル基等の親水性基であり、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点、ならびに本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましく水素原子または上記疎水性基であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基である。同様の観点からより好ましい実施態様においては、R11、R14およびR15は水素原子であり、R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、またはニトロ基である。
【0040】
一般式(2)で表されるベンズイミダゾール系分子の具体例として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
ベンズイミダゾール、クロロベンズイミダゾール、ジクロロベンズイミダゾール、メチルベンズイミダゾール、ブロモベンズイミダゾール、ニトロベンズイミダゾール、アミノベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールカルボニトリル。
【0041】
【化3】
【0042】
式(3)中、R21~R22は、それぞれ独立して、水素原子;アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基またはシアノ基の疎水性基;またはアミノ基もしくはカルボキシル基等の親水性基であり、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点、ならびに本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましく水素原子または上記疎水性基であり、より好ましくは水素原子である。
【0043】
一般式(3)で表されるトリアゾール系分子の具体例として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
1,2,3-トリアゾール。
【0044】
【化4】
【0045】
式(4)中、R31~R32は、それぞれ独立して、水素原子;アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基またはシアノ基の疎水性基;またはアミノ基もしくはカルボキシル基等の親水性基であり、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点、ならびに本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましく水素原子または上記疎水性基であり、より好ましくは水素原子である。
【0046】
一般式(4)で表されるトリアゾール系分子の具体例として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
1,2,4-トリアゾール。
【0047】
【化5】
【0048】
式(5)中、R41~R43は、それぞれ独立して、水素原子;アルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、フェニル基、ピリジル基またはシアノ基の疎水性基;またはアミノ基もしくはカルボキシル基等の親水性基であり、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点、ならびに本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましく水素原子または上記疎水性基であり、より好ましくは水素原子である。
【0049】
一般式(5)で表されるプリン系分子の具体例として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
プリン。
【0050】
シアン系有機分子とし、例えば、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化カリウム、青酸などが用いられる。
カルボン酸系有機分子として、テレフタル酸、ベンゼントリカルボン酸、ベンゼンジカルボン酸などを用いることができる。
【0051】
金属有機構造体を構成する金属原子は、金属酸化物層2の金属酸化物を構成し得る金属原子を含む金属原子であり、例えば、亜鉛原子、銅原子、ニッケル原子、鉄原子、インジウム原子、アルミニウム原子、コバルト原子、プラセオジム原子、カドミウム原子、水銀原子、マンガン原子からなる群から選択され、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点、ならびに本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましくは亜鉛原子、コバルト原子および鉄原子からなる群から選択され、より好ましくは亜鉛原子およびコバルト原子からなる群から選択され、さらに好ましくは亜鉛原子である。
【0052】
金属有機構造体における有機分子と金属原子との組み合わせは、特に限定されないが、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点、ならびに本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましくは以下の組み合わせである:
組み合わせ(C1)=一般式(1)で表されるイミダゾール系分子と、亜鉛原子および鉄原子からなる群から選択される1種以上の金属原子との組み合わせ;
組み合わせ(C2)=一般式(1)で表されるイミダゾール系分子と、亜鉛原子およびコバルト原子からなる群から選択される1種以上の金属原子との組み合わせ; 組み合わせ(C3)=一般式(2)で表されるベンズイミダゾール系分子と、亜鉛原子およびコバルト原子からなる群から選択される1種以上の金属原子との組み合わせ;
【0053】
金属有機構造体における有機分子と金属原子との比率は、特に限定されないが、通常は、当該金属有機構造体を構成する有機分子の種類および金属原子の種類により決定される。
例えば、イミダゾール系分子(Im)(例えば、一般式(1)で表されるイミダゾール系分子)と、亜鉛原子、コバルト原子、鉄原子からなる群から選択される1種以上の2価金属原子(M1)のみを含む金属有機構造体は、組成式:M1(Im)2により表され得る;
また例えば、ベンズイミダゾール系分子(bIm)(例えば、一般式(2)で表されるベンズイミダゾール系分子)と、亜鉛原子、コバルト原子、鉄原子からなる群から選択される1種以上の2価金属原子(M1)のみを含む金属有機構造体は、組成式:M1(bIm)2により表され得る;
また例えば、トリアゾール系分子(Tra)(例えば、一般式(3)および/または(4)で表されるトリアゾール系分子)と、亜鉛原子、コバルト原子、鉄原子からなる群から選択される1種以上の2価金属原子(M1)のみを含む金属有機構造体は、組成式:M1(Tra)2により表され得る;
また例えば、プリン系分子(Pur)(例えば、一般式(5)で表されるトリアゾール系分子)と、亜鉛原子、コバルト原子、鉄原子からなる群から選択される1種以上の2価金属原子(M1)のみを含む金属有機構造体は、組成式:M1(Pur)2により表され得る。
また例えば、イミダゾール系分子(Im)(例えば、一般式(1)で表されるイミダゾール系分子)およびベンズイミダゾール系分子(bIm)(例えば、一般式(2)で表されるベンズイミダゾール系分子)と、亜鉛原子、コバルト原子、鉄原子からなる群から選択される1種以上の2価金属原子(M1)のみを含む金属有機構造体は、組成式:M1(Im)x(bIm)y(式中、x+y=2である)により表され得る。
【0054】
金属有機構造体薄膜3の厚みt(図1Aおよび図1B参照)は特に限定されず、金属有機構造体の金属酸化物層を介した支持体へのより高い密着性の観点、ならびに本発明の複合膜構造体を用いたセンサ;ガス吸着フィルタ;およびガス除去装置それぞれのガス(特に二酸化炭素ガス)の検知性(および信頼性);吸着性;および除去性のさらなる向上の観点から、好ましくは1nm以上100nm以下であり、より好ましくは10nm以上100nm以下である。
【0055】
金属有機構造体薄膜3の厚みtはSEM写真における任意の50箇所における厚みの平均値を用いている。
【0056】
金属有機構造体薄膜3を構成する金属有機構造体は通常、1Å以上50Å以下の細孔径を有する。用途に応じた特性と支持体への密着性の観点で適切な細孔径を有する金属有機構造体を用いることができる。例えば本発明の複合膜構造体を用いたセンサの場合、対象ガス分子のサイズに近い細孔径を有する金属有機構造体が望ましい。二酸化炭素センサの場合二酸化炭素分子の分子径3.3Åに近い2以上5Å以下、さらに好ましくは2以上4Å以下の細孔径を有する金属有機構造体が望ましい。また、ポリアミン例えばポリエチレンイミンを担持させて二酸化炭素吸着フィルタとする場合、ポリアミンの単位構造から5Å以上20Å以下、さらに好ましくは10Å以上15Å以下の細孔径を有する金属有機構造体が好ましい。
【0057】
細孔径は、金属有機構造体を構成する有機分子および金属原子の種類に依存する。このため、有機分子および金属原子の種類を選択することにより、細孔径を調整することができる。
【0058】
本明細書中、細孔径は、「結晶中の各原子を、ファンデルワールス半径を持つ剛体球としたときに、内包できる最大の球の直径」と定義され、細孔内に分子を何ら含まない状態での細孔径である。従って、細孔径は結晶構造から計算することが可能である。このような細孔径は、以下の文献の表1にdp(Å)として記載されており、当該文献に記載の値を用いることができる:
ANH PHAN et al., “Synthesis, Structure, and Carbon Dioxide Capture Properties of Zeolitic Imidazolate Frameworks”(ACCOUNTS OF CHEMICAL RESEARCH 58 67 January 2010 Vol. 43, No. 1)
【0059】
金属有機構造体薄膜3を構成する金属有機構造体は、例えば、以下に示す金属有機構造体であってもよい:
ZIF-1(組成式:Zn(Im)2);
ZIF-4(組成式:Zn(Im)2);
ZIF-7(組成式:Zn(bIm)2);
ZIF-8(組成式:Zn(mIm)2);
ZIF-9(組成式:Co(bIm)2);
ZIF-14(組成式:Zn(eIm)2);
ZIF-81(組成式:Zn(cbIm)(nIm));
ZIF-75(組成式:Co(mbIm)(nIm));
ZIF-77(組成式:Zn(nIm)2);
ZIF-81(組成式:Zn(brbIm)(nIm))。
ここで、組成式中の略号は以下の化合物を示す。
Im:イミダゾール、bIm:ベンズイミダゾール、mIm:メチルイミダゾール、eIm:エチルイミダゾール、nIm:ニトロイミダゾール、cbIm:クロロベンズイミダゾール、brbIm:ブロモベンズイミダゾール。
【0060】
金属有機構造体薄膜3の形成方法は特に限定されず、詳しくは金属有機構造体薄膜3は、以下の方法によって形成された(m1)または(m2)の薄膜であってもよい:
(m1)目的とする金属有機構造体を構成する有機分子を含む溶液に、前記金属酸化物層を浸漬することにより製造された薄膜;または
(m2)目的とする金属有機構造体を含む溶液に、前記金属酸化物層を浸漬し、乾燥した後、熱処理して前記金属酸化物と前記金属有機構造体との界面をミキシングさせることにより製造された薄膜。
【0061】
上記(m1)の形成方法において、溶液を構成する有機溶剤は、所定の有機分子を溶解し得る溶媒であれば特に限定されず、例えば、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール等の有機溶媒;および水等が挙げられる。薄膜の形成(例えば浸漬)は室温下で行ってもよいし、または加熱下で行ってもよい。金属有機構造体を厚くするために熱および圧を加えてもよい。熱および圧の付与方法としては、例えば、ステンレスジャケットの中で、金属酸化物層と有機分子溶液とを接触させつつ、加熱することにより、加圧する方法が挙げられる。溶液の有機分子濃度は、金属有機構造体を形成できる限り特に限定されず、例えば、10g/L以上であり、好ましくは20g/L以上100g/L以下、より好ましくは30g/L以上70g/L以下である。加熱温度は、金属有機構造体を形成できる限り特に限定されず、例えば、60℃以上200℃以下、特に130℃以上150℃以下であってもよい。加熱時間もまた、金属有機構造体を形成できる限り特に限定されず、例えば、1時間以上100時間以下、特に5時間以上24時間以下であってもよい。加圧力は、金属有機構造体を形成できる限り特に限定されず、例えば、密封されたステンレスジャケット中、上記した有機溶剤を上記した加熱温度で上記した加熱時間にて加熱したときに達成される圧力であり、例えば、1atm以上2atm以下、特に1.2atm以上1.5atm以下であってもよい。加熱方法は特に限定されず、電気的加熱であってもよいし、超音波またはマイクロ波による加熱を行ってもよい。
【0062】
上記(m2)の形成方法において、金属有機構造体は所定の金属有機構造体が使用され、例えば、金属有機構造体の市販品(例えば上記したもの)を使用することができる。また例えば、金属有機構造体の金属イオン成分と有機分子成分を含む溶液に金属酸化物層を浸漬することで、金属有機構造遺体を金属酸化物層に堆積させても良い。ここで例えばZIF-8(Zn(mIm)2)を金属有機構造体とする場合、金属イオン溶液として硝酸亜鉛、有機分子溶液として2-メチルイミダゾール溶液を用いることができる。溶液を構成する溶媒は、上記(m1)の形成方法における溶媒と同様の溶媒が使用可能である。ミキシングは、加熱することにより、金属有機構造体における金属原子を、金属酸化物由来の金属原子と置換させることであり、例えば、超音波またはマイクロ波による加熱により達成することができる。
【0063】
金属有機構造体薄膜を形成した後は、加熱することにより、残留溶媒および吸着ガスを除去することが好ましい。加熱は真空中(または減圧雰囲気下)で行うことが好ましい。
【0064】
(支持体)
支持体1は特に限定されず、金属酸化物層を形成可能なあらゆる物質から構成されていてもよい。支持体は通常、無機材料および有機・高分子材料からなる群から選択される1種以上の材料により構成されている。
【0065】
無機材料としては、特に限定されず、シリコン、ガラス、セラミクス等が挙げられる。
【0066】
有機・高分子材料としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリビニルアセタール;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素原子含有ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;ABS樹脂;ポリフェニレンエーテル(PPE);ポリイミド;ポリアミド、ポリアミドイミド等のアミド基含有ポリマー;ポリアクリル酸、ポリメチルアクリレート、ポリメタクリル酸、メチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー;ポリカーボネート;ポリアリレート;ポリフェニレンスルフィド;カーボン、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料;セルロースナノファイバー等が挙げられる。
【0067】
支持体1は、金属材料または半導体材料から構成されていてもよい。
支持体1はまた、紙、不織布、多孔セラミクス、樹脂フィルム等から構成されていてもよい。
支持体1はさらに、水晶振動子または圧電セラミクスを用いた振動子であってもよいし、または電極であってもよい。
【0068】
支持体1の形状は特に限定されず、例えば、繊維状、布状、板状、フィルム状、多孔形状(特にハニカム構造形状)であってもよい。
【0069】
支持体1として、紙や不織布、多孔セラミクス、樹脂フィルム、カーボンナノチューブ、グラフェン、セルロースナノファイバーなども用いることができる。
【0070】
支持体1が繊維状を有する場合、(1)当該繊維状支持体への金属酸化物層の形成および(2)金属酸化物層への金属有機構造体薄膜の形成を行った後、布状、板状、フィルム状、あるいはハニカム構造に加工しても良い。
【0071】
[第2実施態様]
本発明の第2実施態様は第1実施態様に係る複合膜構造体を用いたセンサを提供する。本発明のセンサは、ガス(特に二酸化炭素ガス)または匂いを検知するためのセンサであってもよい。本発明のセンサにおいては、第1実施態様においてと同様に、金属有機構造体薄膜の支持体に対する密着性が十分に向上する。このため、金属有機構造体薄膜の脱離・脱落が低減されて吸着性の高いセンサが得られ、結果として信頼性の高いセンサ(例えば、ガスセンサおよび匂いセンサ)を実現できる。
【0072】
本発明のセンサにおいて、金属有機構造体薄膜はその多孔形状によりガスを大量に吸着することが可能であり、その吸着量は周囲のガス濃度によって変化する。したがって、金属有機構造体薄膜はガスセンサの感応膜として機能させることが可能となる。
【0073】
詳しくは、ガス吸着により金属有機構造体の重量や電気特性が変化するため、ガス吸着量を電気信号に変換することが可能となり、すなわちガスセンサとすることが可能である。
【0074】
本発明のセンサにおける好ましい実施態様は以下の通りである。
【0075】
例えば、第1実施態様における支持体1として、水晶振動子や圧電セラミクスを用いた振動子など、重量によって周波数が変化するデバイスを用いることが好ましい。当該支持体1上に、金属酸化物層2および金属有機構造体薄膜3を形成することによって、重量変化型ガスセンサを作製することができる。
【0076】
また例えば、水晶振動子(支持体1)上に酸化亜鉛層(金属酸化物層2)とZIF-8などの金属有機構造体薄膜3を第1実施態様の手法により形成することで、重量変化型ガスセンサを作製できる。
【0077】
本実施態様において、金属酸化物層2の構成材料は、酸化亜鉛に限定されるものではなく、第1実施態様において、金属酸化物層2の構成材料として説明した金属酸化物と同様の金属酸化物から選択されてもよい。
【0078】
金属有機構造体薄膜3の構成材料は対象とするガスならびに必要とする感度および選択性によって決定することができる。例えば、金属有機構造体薄膜3を構成する金属有機構造体として、ZIF-1、ZIF-4、ZIF-7、ZIF-8などのイミダゾール系のMOFを用いることができる。
【0079】
湿度の影響を低減しセンサの精度を向上させるため、および応答速度ならびにリカバリー速度を得るため、ヒーター(特に、加熱用ヒータ)を内蔵して、複合膜構造体を加熱しても良い。
【0080】
複数種類の金属有機構造体材料を異なる振動子にアレイ化して配置することで、複数種類のガスを同時に検出することができるマルチガスセンサを作製できる。このようなマルチガスセンサはすなわち、においセンサとすることが可能である。
【0081】
シリコン基板上に圧電薄膜と電極を形成した上で、ヒーター配線と、上記金属酸化物上の金属有機構造体薄膜を形成した上で、シリコン基板をエッチングすることで、消費電力を抑えたMEMS型ガスセンサ・においセンサを形成できる。
【0082】
本発明のガスセンサの一例として、図3Aおよび図3Bに示すMEMS型ガスセンサが挙げられる。図3Aおよび図3Bはそれぞれ、本発明の第2実施態様に係るガスセンサの一例の模式的平面図および模式的断面図である。
【0083】
図3Aおよび図3Bに示すガスセンサ40は、圧電振動子41上に形成された金属酸化物層(図示せず)および当該金属酸化物層が有する金属有機構造体薄膜43を含む。なお、図3Bにおいて金属酸化物層は省略されている。圧電振動子41は、第1実施態様における支持体1に対応し、下部電極411、圧電薄膜412および上部電極413を含む。金属有機構造体薄膜43は第1実施態様における金属有機構造体薄膜3に対応する。
【0084】
ガスセンサ40は通常、さらに、シリコン基板44、当該シリコン基板44上に形成された支持膜45、当該支持膜45上に形成されたヒーター配線46、ヒーター用電極47aおよび振動子用電極47b、当該ヒーター用電極47aおよび振動子用電極47b上に形成されたワイヤボンド用コンタクトパッド47c、ならびにヒーター配線46と圧電振動子41とを絶縁するための絶縁層48を含む。
【0085】
ガスセンサ40において、CP1はヒーターとの接続端子(正)、CP2はヒーターとの接続端子(負)、CP3は振動子の上部電極との接続端子、CP4は振動子の下部電極との接続端子である。ワイヤボンド用コンタクトパッド47cはこのような接続端子として機能している。
【0086】
ガスセンサ40は例えば以下の方法により製造することができる。
詳しくは、まず、図3(C)に示すように、シリコン基板44上に支持膜45を形成する(工程(1))。次いで、支持膜45上に、ヒーター配線46、ヒーター用電極47aおよび振動子用電極47bを形成するとともに、ヒーター用電極47aおよび振動子用電極47bの上にはワイヤボンド用コンタクトパッド47cを形成する(工程(2))。さらに、絶縁層48を形成し、ヒーター配線46を後述の圧電振動子41と絶縁する(工程(3)。絶縁層48の上に下部電極411を形成し(工程(4))、下部電極411の上に圧電薄膜412を形成し(工程(5))、圧電薄膜412の上に上部電極413を形成する(工程(6))。そして、上部電極413の上に金属酸化物層(図示せず)を形成した後、金属酸化物層(図示せず)に金属有機構造体薄膜43を形成し、絶縁層48の一部をエッチングしてワイヤボンド用コンタクトパッド47cを露出させる(工程(7))。その後、絶縁層48上の部材(金属有機構造体薄膜43、金属酸化物層(図示せず)、上部電極413、圧電薄膜412および下部電極411)の一部をエッチングし(工程(8))、シリコン基板43の一部をエッチングする(工程(9))して、センサ40を得ることができる(工程(10))。図3Cは、本発明の第2実施態様に係るガスセンサを製造する方法の一例を示す模式的工程図である。
【0087】
ガスセンサ40は消費電力が抑えられている。
【0088】
本発明のマルチガスセンサの一例として、図4Aおよび図4Bに示すMEMS型マルチガスセンサが挙げられる。図4Aおよび図4Bはそれぞれ、本発明の第2実施態様に係るマルチガスセンサの一例の模式的平面図および模式的断面図である。
【0089】
図4Aおよび図4Bに示すマルチガスセンサ50は、図3Aおよび図3Bに示すガスセンサ40を複数個(例えば4個)で有し、当該4つのガスセンサ40は相互に異なる金属有機構造体を含む金属有機構造体薄膜を有している。
【0090】
マルチガスセンサ50は、複数個(例えば4個)の、図3Aおよび図3Bに示すガスセンサ40複数個(例えば4個)を同時に製造すること、当該4つのガスセンサ40は相互に異なる金属有機構造体を含む金属有機構造体薄膜を有すること以外、ガスセンサ40の製造方法と同様である。4個のガスセンサ40の金属有機構造体は相互に異なるガスに対応した相互に異なる金属有機構造体である。
【0091】
マルチガスセンサ50は消費電力が抑えられている。マルチセンサ50は匂いセンサとして機能し得る。
【0092】
[第3実施態様]
本発明の第3実施態様は第1実施態様に係る複合膜構造体を用いたガス吸着フィルタを提供する。本発明のガス吸着フィルタは、二酸化炭素ガスを吸着するためのフィルタであってもよい。本発明のガス吸着フィルタにおいては、第1実施態様においてと同様に、金属有機構造体薄膜の支持体に対する密着性が十分に向上する。このため、信頼性の高いガス吸着フィルタを実現できる。
【0093】
本実施態様のガス吸着フィルタは、金属有機構造体薄膜表面に、当該金属有機構造体とは別の吸着材が添着または担持されていること以外、第1実施態様に係る複合膜構造体と同様の構造を有している。
【0094】
本発明のガス吸着フィルタにおける好ましい実施態様は以下の通りである。
ガス吸着フィルタ60は、図5に示すように、ハニカム構造を有する支持体61上に形成された金属酸化物層62、当該金属酸化物層62が有する金属有機構造体薄膜63および当該金属有機構造体薄膜63が有する吸着材65を含む。なお、図5において金属有機構造体薄膜63は金属酸化物層62の外部表面上に形成されているが(図1B参照)、第1実施態様の図1Aに示すように、金属酸化物層62の内部における少なくとも表層部(すなわち変質層(図5において図示せず))に配置されてもよい。例えば、金属有機構造体薄膜63は多孔質金属酸化物層62の少なくとも表層部における金属酸化物の表面に形成されていてもよい。本実施態様において、ハニカム構造を有する支持体61は、第1実施態様における支持体1に対応する。金属酸化物層62は、第1実施態様における金属酸化物層2に対応する。金属有機構造体薄膜63は第1実施態様における金属有機構造体薄膜3に対応する。図5は、本発明の第3実施態様に係るガス吸着フィルタの一例の模式図である。
【0095】
ハニカム構造を有する支持体61を用いることにより、支持体自体の表面積を極めて広くすることができる。しかも、第1実施態様においてと同様に、金属酸化物層62を介した金属有機構造体薄膜63の支持体61への密着性が向上している。このため、より多くの金属有機構造体を添着または担持できる。そのため、単位面積当たりの二酸化炭素ガスの吸着速度を維持したまま、より多くの吸着材65を添着または担持することが可能となる。したがって、二酸化炭素ガスの吸着能力が著しく向上する。本実施態様においても、金属酸化物層62が密着層として働くため、金属有機構造体薄膜63の脱落を十分に防止することができ、耐久性が向上する。
【0096】
詳しくは、本実施態様においては、支持体61のハニカム構造による表面積増大、ならびに金属有機構造体薄膜63の多孔性に基づく表面凹凸および金属有機構造体結晶(内部凹凸(すなわち細孔))による表面積増大の複合効果により、二酸化炭素に接触する実効表面積が極めて大きくなる。その結果、二酸化炭素ガスの吸着能力が著しく向上する。しかも、金属酸化物層を多孔質とすることにより、二酸化炭素ガスの吸着能力のさらなる向上を図ることができる。
【0097】
吸着材65はガス(特に二酸化炭素ガス)を吸着できる限り特に限定されず、ガス吸着の分野で使用されているあらゆる吸着材が使用可能である。吸着材65として、二酸化炭素ガスの吸着の観点から、アミン化合物を使用することが好ましい。アミン化合物は、アミノ基を有する物質であれば特に限定されず、通常はアミノ基含有有機化合物が使用される。アミノ基含有有機物質は、揮発による二酸化炭素ガスの吸着能力の低下を防止する観点から、重量平均分子量が1,000以上、好ましくは10,000以上、さらに好ましくは20,000以上のアミノ基含有ポリマーが望ましい。アミノ基含有ポリマーの具体例として、例えば、ポリエチレンイミン、ポリアミドアミン、ポリビニルアミン等が挙げられる。アミノ基含有ポリマーは、直鎖状または分枝状であってもよく、二酸化炭素ガスの吸着能力のさらなる向上の観点から、分枝状であることが好ましい。
【0098】
吸着材65は、二酸化炭素ガスの吸着能力のさらなる向上の観点から、ポリエチレンイミン、特に分枝状ポリエチレンイミンが好ましい。
【0099】
アミン化合物(特にアミノ基含有ポリマー)のアミン価は特に限定されず、通常は15~25mmol/g・solidであり、ガス(特に二酸化炭素ガス)吸着性のさらなる向上の観点から、好ましくは17~19mmol/g・solidである。
【0100】
アミン価はアミン化合物を中和するのに必要な塩酸量から算出する中和法により測定された値を用いている。
【0101】
金属有機構造体薄膜を構成する有機分子として、アゾール系有機分子(特にイミダゾール系有機分子)またはシアン系有機分子を用いることで、金属有機構造体の耐水性が向上する。そのため、吸着材(特にアミノ基含有ポリマー)を担持しても信頼性がより高い。
【0102】
支持体61をハニカム構造にすることで、圧損を保った上で二酸化炭素吸着能を向上させることができる。
【0103】
本実施態様のガス吸着フィルタは、第1実施態様と同様の方法により、支持体61(第1実施態様では「1」)に対して、金属酸化物層62(第1実施態様では「2」)および金属有機構造体薄膜63(第1実施態様では「3」)を形成した後、加熱により残留溶媒および吸着ガスを除去し、吸着材65の添着または担持を行うことにより、製造することができる。加熱は真空中(または減圧雰囲気下)で行うことが好ましい。
【0104】
吸着材65の添着または担持は、金属有機構造体薄膜が形成された複合膜構造体を、吸着材(特にアミン化合物)の水溶液に含浸させた後、乾燥させることにより達成することができる。これにより、吸着材65(特にアミン化合物)の薄膜が金属有機構造体薄膜上に形成されてもよい。
【0105】
[第4実施態様]
本発明の第4実施態様は、第3実施態様に係るガス吸着フィルタ60を含むガス除去装置(またはガス除去システム)を提供する。本発明のガス除去装置は、二酸化炭素ガスを除去するための装置(またはシステム)であってもよい。本発明のガス除去装置においては、第3実施態様においてと同様に、金属有機構造体薄膜の支持体に対する密着性が十分に向上するとともに、二酸化炭素ガスの吸着能力を著しく向上させ得る。本発明は、小型、省エネルギー、低コストかつ高信頼性のガス除去装置(特に二酸化炭素ガス除去装置)を実現することが可能になる。本発明のガス除去装置はまた、一般空調用に使用できる。
【0106】
本実施態様のガス除去装置70は、図6に示すように、以下のステップを経て、室内の二酸化炭素ガスを室外に放出することができる。図6は、本発明の第4実施態様に係るガス除去装置の一例の模式図である。
【0107】
ステップ(i):
室内の空気をガス吸着フィルタ60に吹き付け、二酸化炭素ガスを吸着させる。
ステップ(ii):
ガス吸着フィルタ60に加温した空気を吹き付けること、またはガス吸着フィルタ60を加熱することにより、吸着した二酸化炭素ガスを放出する。
ステップ(iii):
放出された二酸化炭素ガスを室外に排出する。
【0108】
ガス除去装置70においては、図6に示すように、二酸化炭素の吸着(ステップ(i))と放出および排出(ステップ(ii)および(iii))とを、吸着フィルタ60の相互に異なる位置を使って同時に行ってもよい。このとき、吸着フィルタ60の回転により、吸着フィルタ60において、放出位置を排出位置に、排出位置を放出位置に変更させることができる。これらの結果、二酸化炭素ガスの吸着、放出および排出を継続的に行うことができる。
【0109】
ガス除去装置70においては、別法として、二酸化炭素の吸着(ステップ(i))と放出および排出(ステップ(ii)および(iii))とを、吸着フィルタ60の同じ位置を使って順番に行ってもよい。
【実施例
【0110】
<実験例1>
[複合膜構造体の製造]
(実施例1)
・金属酸化物層の形成
ガラス繊維の不織布支持体にZnOめっきを行った。詳しくは、ガラス製支持体に、以下の条件により、全面無電解Cuめっきおよび電解ZnOめっきを行った(金属酸化物層の厚み3μm):
全面無電解Cuめっき:OPC H-TEC(奥野製薬工業)、32℃、10分間;
電解ZnOめっき:Zn(NO32(奥野製薬工業)、濃度0.1mol/l、温度:60℃、電流30mA/dm、時間2時間。
【0111】
・金属有機構造体薄膜の形成
有機分子としての2-メチルイミダゾール(シグマアルドリッチ)2.0gをN,N-ジメチルホルムアミド(シグマアルドリッチ)40mlに溶解し、有機分子溶液を得た。
金属酸化物層が形成されたガラス繊維不織布支持体を、上記有機分子溶液とともに、ステンレスジャケットに入れ、140℃で24時間加熱した。
その後、支持体を取り出して、メタノールに浸漬し、超音波洗浄を10分間行った。メタノールを交換し超音波洗浄することを5回繰り返し、金属酸化物層に金属有機構造体薄膜(ZIF-8(組成式:Zn(mIm)2))を形成した(金属有機構造体薄膜の厚み70nm)。
その結果、図1Aに示すような複合膜構造体を得た。
X線回折(XRD)スペクトルにより、金属酸化物層にZIF-8薄膜が形成されていることを確認した。詳しくは図8に示すように、酸化亜鉛層(ZnO)表面に金属有機構造体薄膜(ZIF-8)を形成したものでは、X線回折(XRD)スペクトルのピークが、ZIF-8単体の粒子のピーク位置およびZnO単体の膜のピーク位置と同じ位置にあり、ZIF-8とZnOの両方を有する複合膜構造体であることを確認した。図8中、(1)は金属有機構造体(ZIF-8)単体の粒子のXRDスペクトルを示し、(2)は酸化亜鉛(ZnO)上に金属有機構造体(ZIF-8)を形成した膜のXRDスペクトルを示し、(3)は酸化亜鉛(ZnO)単体の膜のXRDスペクトルを示す。
【0112】
(比較例1)
ガラス繊維の不織布に、50g/L濃度のZIF-8エタノール分散液を4ml滴下した後、乾燥させ、ガラス製支持体表面にZIF-8薄膜を形成した。
【0113】
(密着性の評価)
実施例1または比較例1で得られた試料を純水に浸漬し、室温にて超音波を10分間印加した後、ガラス製支持体を除去し、残った液体を3cc採取した。当該液体を用い、光路長1cmの光学セルにて、波長550nm光の吸光度(水溶媒に対する吸光度)を測定した。
実施例1の液体では白濁は見られなかった。当該液体の吸光度A550は0.01未満であり、透過光の減衰が見られなかった。したがってMOF薄膜の脱離は見られなかった。
比較例1の液体では白濁が見られた。当該液体の吸光度A550は0.80であり、透過光の減衰が見られた。これより支持体からMOF薄膜が脱離していることがわかった。
以上のことから、本発明により金属有機構造体薄膜の支持体に対する密着性が向上していることが確認できた。
【0114】
ここで吸光度は、水溶媒単独の光量I0を基準として、以下の式で定義される。
【数1】
Iは上記超音波処理を行った後の溶媒を用いた際の光量である。(参考:αは吸光係数、Lは光路長(1cm))
【0115】
<実験例2>
[ガス吸着フィルタの製造]
(実施例2)
支持体として、セラミック製ハニカム構造フィルタ基材を用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、支持体表面に、金属酸化物層(厚み3μm)および金属有機構造体薄膜(厚み70nm)を形成した。
ポリエチレンイミンをエタノールに溶解し、60g/L濃度のエタノール溶液を調製した。
金属酸化物層および金属有機構造体薄膜が形成された支持体に、ポリエチレンイミンのエタノール溶液を4mL滴下することでフィルタ全体にポリエチレンイミンを含侵させ、乾燥によりガス吸着フィルタを得た。
【0116】
(参考例1)
金属酸化物層を以下の方法により形成したこと、および有機分子としてテレフタル酸を用いて金属有機構造体薄膜(MIL-53(Al))を形成したこと以外、実施例2と同様の方法により、ガス吸着フィルタを得た。
・金属酸化物層の形成
原子層体積法により酸化アルミニウム薄膜を膜厚100nmで成膜した。前駆体ガスはトリメチルアルミニウム(Al(CH33)、反応ガスは水蒸気(H2O+O2)、余分なガスのパージには窒素(N2)を用いた。チャンバー内の反応温度は200℃,反応圧力は40Pa,サイクル数は1000回と設定した。
【0117】
(参考例2)
金属酸化物層を以下の方法により形成したこと、および有機分子としてトリメシン酸を用いて金属有機構造体薄膜(Cu-BTC)を形成したこと以外、実施例2と同様の方法により、ガス吸着フィルタを得た。
・金属酸化物層の形成 全面無電解Cuめっき:OPC H-TEC(奥野製薬工業)、32℃、10分間;
電解ZnOめっき:CuSO4(シグマアルドリッチ)、濃度0.4mol/l、温度:32℃、電流100mA/dm、時間2時間。
【0118】
(参考例3)
有機分子として1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼンを用いて金属有機構造体薄膜(MOF-177(Zn))を形成したこと以外、実施例2と同様の方法により、ガス吸着フィルタを得た。
【0119】
(二酸化炭素ガス吸着量の評価)
実施例2および参考例1~3のそれぞれで得られたガス吸着フィルタをアクリルケース(12L)内に設置した。アクリルケース内の二酸化炭素ガス濃度をモニタすることで、二酸化炭素ガスの吸着量の経時的変化を測定し、図7のグラフに示した。
・CO2吸着測定
60℃で60分間加熱した後、25℃および40%RHでCO2濃度をモニタした。
・CO2脱離測定
25℃および40%RHでCO2吸着を飽和させた後、60℃および10%RHでCO2濃度をモニタした。
二酸化炭素ガス濃度の測定値から、以下の式を用いて二酸化炭素ガス吸着量を算出し、時間に対してプロットした。
【0120】
【数2】
【0121】
数式中、略号は以下を示す:
ΔC:測定開始時からの二酸化炭素濃度の減少量(二酸化炭素濃度と測定開始時の二酸化炭素濃度の差)
V:アクリルケースの容積
w:二酸化炭素吸着フィルタの重量とフィルタ支持体の重量の差(すなわち金属酸化物と金属有機構造体とアミン化合物の重量の総和)
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の複合膜構造体は、センサ(特にガスまたは匂い用センサ)、ガス吸着フィルタおよびガス除去装置に有用である。
【符号の説明】
【0123】
1:支持体
2:金属酸化物層
3:金属有機構造体薄膜(MOF薄膜)
10:複合膜構造体
20:金属酸化物
30:変質層
40:ガスセンサ
50:マルチガスセンサ
60:ガス吸着フィルタ
61:支持体
62:金属酸化物層
63:金属有機構造体薄膜(MOF薄膜)
65:吸着材
70:ガス除去装置
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8