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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】生体信号センシング電極
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/263 20210101AFI20240312BHJP
【FI】
A61B5/263
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022553957
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035414
(87)【国際公開番号】W WO2022071231
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2020165302
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一存
(72)【発明者】
【氏名】部田 武志
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/179907(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/055784(WO,A1)
【文献】XU, Bingzhe et al.,Ultrathin MXene-Micropattern-Based Field-Effect Transistor for Probing Neural Activity,ADVANCED MATERIALS,2016年,Vol.28,pp.3333-3339
【文献】DRISCOLL, Nicolette et al.,Two-Dimensional Ti3C2 MXene for High-Resolution Neural Interfaces,ACS Nano,2018年10月23日,Vol.12,pp.10419-10429
【文献】SHARMA, Sudeep et al.,Wearable Capacitive Pressure Sensor Based on MXene Composite Nanofibrous Scaffolds for Reliable Huma,ACS Applied Materials & Interfaces,2020年05月13日,Vol.12,pp.22212-22224
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/263
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜と、多孔膜との積層を含み、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記多孔膜は親水性ポリマーを含み、
前記多孔膜が被検体との接触面に備えられた、生体信号センシング電極。
【請求項2】
前記導電性膜はポリマーを含む、請求項1に記載の生体信号センシング電極。
【請求項3】
前記多孔膜は、平均孔径が1nm以上1μm以下である、請求項1または2に記載の生体信号センシング電極。
【請求項4】
前記多孔膜の膜厚は0.1μm以上300μm以下である、請求項1~のいずれかに記載の生体信号センシング電極。
【請求項5】
前記導電性膜の膜厚は0.5μm以上20μm以下である、請求項1~のいずれかに記載の生体信号センシング電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号センシング電極に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者(患者)の例えば筋肉や心臓からの電気信号等の生体情報を、人体への苦痛等を伴うことなく検出する方法として、シート状の電極を被験者に接触させて測定する方法が挙げられる。例えば特許文献1には、水と電解質を含む親水性ゲルを用いた生体用電極被覆パッドが示されている。また特許文献2には、(a)電気的伝導体、(b)前記被験者に対し乾いた表面を呈するためにイオン伝導に対し選択的な透過性を有する薄膜、および(c)前記電気的伝導体の一部および前記薄膜の一部と通信するように配置される伝導性媒質を含む、生体電位電極が示されている。ところで近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる二次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。特許文献3には、このMXeneを含む接触材料で形成された生体電極が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/039151号パンフレット
【文献】米国特許第8798710号明細書
【文献】国際公開第2019/055784号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の生体用電極被覆パッドは、乾燥して水分量が変化するとインピーダンスが変化するため精度が高い信号が得られにくいと考えられる。また、水分を含むため、装着時にぬれたような不快感がある。特許文献2の生体電位電極は、層数や層の界面が多いため、インピーダンスが高くなり、精度が高い信号が得られにくいと考えられる。更に特許文献3は、被検体との接触部分にMXeneが用いられているが、接触によりMXeneが脱離する可能性があり、長期間にわたり安定して測定することが難しいと考えられる。
【0005】
本発明の目的は、高伝導率(低インピーダンス)を示し、所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)の剥離が抑制され、更に装着時に不快感を生じない、生体信号センシング電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜と、多孔膜との積層を含み、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記多孔膜が被検体との接触面に備えられた、生体信号センシング電極が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生体信号センシング電極が、所定の層状材料の粒子を含む導電性膜と、多孔膜との積層を含み、前記多孔膜が被検体との接触面に備えられており、これにより、高伝導率(低インピーダンス)を示し、MXeneの剥離が抑制され、更に装着時に不快感を生じない、生体信号センシング電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の生体信号センシング電極の1つの実施形態における導電性膜を説明する図であって、(a)は導電性膜の概略模式断面図を示し、(b)は導電性膜におけるMXeneの概略模式斜視図を示す。
図2】本発明の生体信号センシング電極の1つの実施形態における導電性膜に利用可能な層状材料であるMXeneを示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXeneを示し、(b)は多層(例示的に二層)MXeneを示す。
図3】本発明の別の実施形態における導電性膜を示す概略模式断面図である。
図4】本発明の生体信号センシング電極における多孔膜の孔形状を例示する図である。
図5】本発明の1つの実施形態における生体信号センシング電極を示す概略模式断面図である。
図6】本発明の別の実施形態における生体信号センシング電極を示す概略模式断面図である。
図7】本発明の別の実施形態における生体信号センシング電極を示す概略模式斜視図である。
図8】本発明の別の実施形態における生体信号センシング電極を示す概略模式断面図である。
図9】本発明の別の実施形態における生体信号センシング電極を示す概略模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態における生体信号センシング電極について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明の実施形態における生体信号センシング電極は、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜と、多孔膜との積層を有する。まず前記導電性膜と、多孔膜のそれぞれについて説明する。
【0011】
[導電性膜]
図1を参照して、本実施形態の電極に含まれる導電性膜30は、所定の層状材料の粒子10を含む。本実施形態における導電性膜に含まれる所定の層状材料の粒子は、次のように規定される。
1つまたは複数の層を含む層状材料であって、前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「M」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0012】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0013】
かかるMXeneは、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
AX
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、Mで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「M層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したM層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子等が修飾して、かかる表面を終端する。エッチングは、Fを含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、インターカレーターでもあるフッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いたエッチングとインターカレーションとを兼ねた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。その後、適宜、任意の適切な後処理(例えば、層間剥離処理の一つとしてインターカレーターを用いたインターカレーション、超音波処理、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなど)により、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneを単層MXeneに分離すること)を促進してもよい。なお、超音波処理は、せん断力が大きすぎてMXeneが破壊され得るので、アスペクト比がより大きい2次元形状のMXene(好ましくは単層MXene)を得ることが望まれる場合には、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどにより適切なせん断力を付与することが好ましい。
【0014】
上記後処理後には、遠心分離器を用いて、単層MXeneおよび/または2~5層程度の少層MXeneの含まれる上澄みと、多層MXeneの含まれる下澄みに分けてもよい。本実施形態では、上記上澄みおよび/または下澄みに含まれるMXeneを、層状材料の粒子として用いることができる。単層・少層MXeneを含む上澄みに含まれるMXeneを層状材料の粒子として用いると、低いインピーダンスを実現しやすいので好ましい。
【0015】
MXeneは、上記の式:Mが、以下のように表現されるものが知られている。
ScC、TiC、TiN、ZrC、ZrN、HfC、HfN、VC、VN、NbC、TaC、CrC、CrN、MoC、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)C、(Ti,Nb)C、WC、W1.3C、MoN、Nb1.3C、Mo1.30.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti、Ti、Ti(CN)、Zr、(Ti,V)、(TiNb)C、(TiTa)C、(TiMn)C、Hf、(HfV)C、(HfMn)C、(VTi)C、(CrTi)C、(CrV)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoSc)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(MoV)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C
Ti、V、Nb、Ta、(Ti,Nb)、(Nb,Zr)、(TiNb)C、(TiTa)C、(VTi)C、(VNb)C、(VTa)C、(NbTa)C、(CrTi)C、(Cr)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(Mo)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C、(Mo2.71.3)C(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0016】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、TiAlCであり、MXeneは、Tiである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0017】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、導電性膜の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0018】
このようにして合成されるMXene(粒子)10は、図2に模式的に示すように、1つまたは複数のMXene層7a、7bを含む層状材料(MXene(粒子)10の例として、図2(a)中に1つの層のMXene10aを、図2(b)中に2つの層のMXene10bを示しているが、これらの例に限定されない)であり得る。より詳細には、MXene層7a、7bは、Mで表される層本体(M層)1a、1bと、層本体1a、1bの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T 3a、5a、3b、5bとを有する。よって、MXene層7a、7bは、「M」とも表され、sは任意の数である。MXene10は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在するもの(図2(a)に示す単層構造体、いわゆる単層MXene10a)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体(図2(b)に示す多層構造体、いわゆる多層MXene10b)であっても、それらの混合物であってもよい。MXene10は、単層MXene10aおよび/または多層MXene10bから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。多層MXeneである場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。
【0019】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)、層に平行な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上200μm以下、特に1μm以上40μm以下である。MXeneが積層体(多層MXene)である場合、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、図2(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmでありうる。上記含みうる多層MXeneが、層間剥離処理を経て得られた、層数の少ないMXeneであることが好ましい。前記「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が6層以下であることをいう。また、層数の少ない多層MXeneの積層方向の厚みは、10nm以下であることが好ましい。以下、この「層数の少ない多層MXene」を「少層MXene」ということがある。また、単層MXeneと少層MXeneを併せて「単層・少層MXene」ということがある。
【0020】
本実施形態のMXene(粒子)は、好ましくは、単層MXeneと少層MXene、すなわち単層・少層MXeneを含む。前記MXene(粒子)は、厚みが10nm以下である単層・少層MXeneの割合が、90体積%以上であることが好ましく、より好ましくは95体積%以上である。
【0021】
層の総数は、2以上であればよいが、例えば50以上100,000以下、特に1,000以上20,000以下でありうる。導電性膜の積層方向の厚さは、例えば0.1μm以上200μm以下、特に1μm以上40μm以下であってもよい。積層方向に垂直な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上100μm以下、特に1μm以上20μm以下である。なお、これら寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)の写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求められる。
【0022】
前記層状粒子を含む前記導電性膜の膜厚は0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。前記導電性膜の膜厚を厚くすることによって、インピーダンスが安定しかつ低くなるため、0.5μm以上とすることが好ましい。前記膜厚は、より好ましくは1.0μm以上である。導電性の観点からは膜厚は厚いほど好ましいが、フレキシブル性等が求められる場合、前記膜厚は好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。
【0023】
前記導電性膜の膜厚は、例えばマイクロメーターでの測定、走査型電子顕微鏡(SEM)、マイクロスコープ、またはレーザー顕微鏡などの方法による断面観察により測定することができる。
【0024】
本発明の実施形態に係る導電性膜として、例えば図3に示す通り導電性2次元粒子10のみが積層して得られた導電性フィルム30を示すが、これに限定されない。
【0025】
導電性フィルムは、ポリマーをさらに含む導電性複合材料フィルム(導電性複合材料膜)であってもよい。前記ポリマーは、例えば、フィルム形成時に添加されるバインダー等の添加物として含まれていてもよいし、強度またはフレキシブル性を具備させるために添加されたものであってもよい。前記導電性複合材料フィルムの場合、前記ポリマーは、導電性複合材料フィルム(乾燥時)に占める割合で、0体積%超であって、好ましくは30体積%以下とすることができる。前記ポリマーの割合は、更には10体積%以下、より更には5体積%以下としてもよい。言い換えると、導電性複合材料フィルム(乾燥時)に占める層状材料の粒子の割合は、70体積%以上とすることが好ましく、更には90体積%以上、より更には95体積%以上としてもよい。1つの電極に、導電性膜として、前記層状材料の粒子の割合が異なる2以上の導電性複合材料フィルムの積層膜を設けてもよい。
【0026】
前記ポリマーとして、例えば、極性基を有する親水性ポリマーであって、前記極性基が、前記層の修飾または終端Tと水素結合を形成する基であるものが好ましい。前記ポリマーとして例えば、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンよりなる群から選択される1種類以上のポリマーが好ましく用いられる。
【0027】
これらの中でも、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、およびアルギン酸ナトリウムよりなる群から選択される1種類以上のポリマーがより好ましい。前記ポリマーとして、水素結合ドナー性と水素結合アクセプター性の両方の性質を持つウレタン結合を有するポリマーが好ましく、その観点から、前記水溶性ポリウレタンが特に好ましい。
【0028】
本実施形態の導電性膜は、例えば膜厚が5μmのシート状であるときに、好ましくは500S/cm以上の導電率を維持する。前記導電率は好ましくは1000S/cm以上、より好ましくは1800S/cm以上、更に好ましくは2400S/cm以上、より更に好ましくは2900S/cm以上の導電率を維持できる。導電性膜の導電率の上限は特に存在しないが、例えば10000S/cm以下であり得る。導電率は次のようにして求めることができる。すなわち、表面抵抗率は4探針法により測定し、厚み[cm]と表面抵抗率[Ω/□]をかけた値が、体積抵抗率[Ω.cm]となり、その逆数として、導電率[S/cm]を求めることができる。
【0029】
[多孔膜]
次に多孔膜について説明する。前記多孔膜は、電極における被検体との接触面に備えられ、該接触面と反対側の面に導電性膜が直接接触して形成されている。本明細書における「多孔膜」とは「微細な孔があいた膜であり、孔の径よりも小さいサイズのイオンや分子を選択的に透過する膜」をいう。
【0030】
前記多孔膜は、平均孔径が1nm以上1μm以下であることが好ましい。被検体すなわち人体に由来のイオンが、被検体に接している多孔膜内を通過して導電性膜に到達することで、被検体の筋電等の電極を測定できる。つまり多孔膜は、被検体と導電性膜の直接接触を防ぐ役割と、上記イオン等の透過膜としての役割を有している。電流のキャリアとなる上記イオン等を容易に透過させ、インピーダンスを容易に低減させる観点から、前記多孔膜は、平均孔径が1nm以上であることが好ましい。前記平均孔径は、より好ましくは10nm以上である。一方、導電性膜の脱離を十分に抑制し、導電性膜の優れた性能を長期にわたって発揮させる観点からは、多孔膜の平均孔径が1μm以下であることが好ましく、より好ましくは500nm以下である。前記平均孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)の写真に基づく画像解析により、数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)として求められる。
【0031】
前記多孔膜の孔形状は限定されず、例えば図4に模式的に例示する通り、孔26を複数有する、(a)凝集粒子状多孔膜、(b)網目状多孔膜、(c)繊維状多孔膜、(d)孤立および/または連通した管孔を複数有する多孔膜(図4(d)では、紙面に対して垂直に形成された円筒状孔が、複数存在する多孔膜を例示している)、または、図示していないがハニカム構造の多孔膜等とすることができる。
【0032】
前記多孔膜は、絶縁性であっても導電性であってもよい。前記多孔膜は、導電率が導電性膜の導電率よりも小さい導電率を有することが好ましい。前記導電性膜の導電率は、前述の通り500S/cm以上であり、多孔膜が、この記導電性膜の導電率よりも小さい導電性を有することで、被検体からのイオンを導電性膜へより容易に移動させることができ、結果として筋電等の生体信号をより正確に測定できると考えられる。
【0033】
多孔膜の材質は特に限定されず、有機材料、無機材料、またはその混合物で形成されたものを用いることができる。前記導電性膜の導電率よりも小さい導電率を有する有機材料としてポリマー、前記導電性膜の導電率よりも小さい導電率を有する無機材料としてセラミックス、またはこれらの組み合わせたものが挙げられる。
【0034】
前記多孔膜は、好ましくは、親水性ポリマーを含む。該親水性ポリマーには、疎水性ポリマーに親水性助剤が配合されて親水性を呈するものと、疎水性ポリマーの表面を親水化処理したものが含まれる。多孔膜が親水性ポリマーを含むことによって、上述の通り、親水性である導電性膜(MXene膜)との密着性をより高めることができる。
【0035】
導電性膜(MXene膜)とより密着性を高めることのできる親水性ポリマー(疎水性ポリマーに親水性助剤が配合されて親水性を呈するものと、疎水性ポリマー等の表面を親水化処理したものを含む)として、ポリスルホン、セルロースアセテート、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、水溶性ポリウレタン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンからなる群より選択される1以上をより好ましくは含むことが挙げられる。更に好ましくは多孔膜の50質量%以上が上記親水性ポリマーで占められていること、特に好ましくは上記親水性ポリマーの1以上からなることである。
【0036】
その他、疎水性ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリエステル等)の表面に、例えばプラズマ処理、グラフト重合処理など、種々の公知の方法で親水化処理が施されたものが挙げられる。前記疎水性ポリマーとして、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、およびポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される1以上がより好ましい。上記疎水性ポリマーは、複数の異なる疎水性ポリマー、例えばポリプロピレンとポリエチレンが積層構造のものでもよい。前記疎水性ポリマーの代わりに、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム等のセラミックスの表面に、上記親水化処理が施されたものであってもよい。
【0037】
前記多孔膜の膜厚は0.1μm以上300μm以下であることが好ましい。前記多孔膜の膜厚が薄いほど、イオンが透過しやすく、インピーダンスを低減させることができる。その観点から、前記多孔膜の膜厚は300μm以下であることが好ましく、より好ましくは200μm以下である。一方、耐久性を確保する観点から、前記多孔膜の膜厚は0.1μm以上であることが好ましい。前記多孔膜の膜厚は、例えばマイクロメーターでの測定、走査型電子顕微鏡(SEM)、マイクロスコープ、またはレーザー顕微鏡などの方法による断面観察により測定することができる。
【0038】
導電性膜と多孔膜との接触面積は、電極が、高伝導率を示し、MXeneの剥離が抑制され、更に装着時に不快感を生じない限り、特に限定されない。導電性膜と多孔膜の両方の全面が互いに接触していてもよいし、(a)導電性膜の一部に多孔膜が接触、または(b)多孔膜の一部に導電性膜が接触していてもよい。図5は、前記(a)の一例を示す図であり、導電性膜21の被検体側の表面に、多孔膜22と例えば絶縁性膜25とが設けられている。図6は、前記(b)の一例を示す図であり、導電性膜21と例えば絶縁性膜25で形成された表面に、多孔膜22が設けられている。上記特性をより容易に達成する観点からは、導電性膜の被検体側の表面における多孔膜との接触面積割合が、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、最も好ましくは100%である。
【0039】
前記多孔膜として、市販品を用いる他、相転換法、溶融急冷法、抽出法、電子線照射法などの方法で前記多孔膜を得てもよい。前記相転換法は、有機溶剤に有機高分子を溶解させて調製した製膜溶液(キャスト液)をガラス板などに流延(キャスト)した後,それを適当なゲル化液(有機高分子の不溶な有機溶剤,水など)に浸すか、乾燥させるなどした際に生じる2相分離現象を利用して微細孔を形成させる方法である。前記溶融急冷法は、温度によって溶解度に大きく差が出るような溶剤と高分子を組み合わせたワニスをもちいて膜を形成した後、急冷凝固させる方法である。前記抽出法(レプリカ法)は、高分子溶液あるいは分散液中に、後工程で容易に抽出できるような添加剤を加え、これを膜状に成形した後、その添加剤を適当な方法で抽出する方法である。前記電子線照射法は、10μm程度の高分子薄膜に電子線(荷電粒子)を照射することによって、膜に粒子の軌跡を形成させた後、溶剤によるエッチング処理を行なうことにより、この軌跡を広げて微細孔とする製法である。
【0040】
[生体信号センシング電極]
本実施形態の生体信号センシング電極は、導電性膜と多孔膜とが直接接触した積層を含み、前記多孔膜が被検体との接触面に備えられていればよく、具体的な形態まで限定されない。前記電極は、固体状態のものから、フレキシブル性のある軟質状態のものまで考えられる。ただし、生体(肌)との追従性や電極ワレの抑制等の観点から、フレキシブル性を極力有することが好ましい。
【0041】
生体信号センシング電極の一実施形態として、図7に、スナップ型電極の模式斜視図を例示する。図7は、被検体との接触面が平面である電極30のスナップ部31に、リード線32が接続した、スナップ型電極の模式斜視図を例示する。図7の電極30の断面図の一例を図8に模式的に示す。
【0042】
図8において、導電材料で形成された基材23に前記導電性膜21が形成されている。この様に、導電性膜21が形成され、更に被検体との接触面として、多孔膜22が形成されていることで、感度が高く、かつ装着の不快感の低減された生体信号センシング電極を提供することができる。
【0043】
前記基材23を構成する導電材料として、金属材料である金、銀、銅、白金、ニッケル、チタン、スズ、鉄、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、タングステン、モリブデンと、導電性高分子とのうちの、少なくとも1つの材料が挙げられる。
【0044】
別の実施形態として、図9に示す通り、基材が、従来のスナップ型電極24であってもよい。該スナップ型電極を構成する導電材料として、上記導電材料で形成された基材23と同様の材料を用いることができる。上記構成によれば、汎用性のある引き出し電極を用いるため、コストが安くかつ高感度な生体信号センシング電極を提供することが可能となる。
【0045】
また、別の実施形態として、前記導電性膜が、MXene膜とポリマーとの導電性複合材料膜である場合、導電性複合材料膜と多孔膜の積層膜であって基材を有しない電極とすることができる。
【0046】
本実施形態の生体信号センシング電極は、特許文献1のように水分を含まないため、装着時のぬれたような不快感がない。また、特許文献1のように水分を含む場合、乾燥によるインピーダンス変化が生じうる。これに対して、本実施形態の生体信号センシング電極は、ドライ電極であるため、上記乾燥によるインピーダンス変化はなく、信号の信頼性が高い。
【0047】
本実施形態の生体信号センシング電極は、低インピーダンスのMXene膜を電気伝導体として含むため、信号精度が高い。更に導電性膜(MXene膜)と多孔膜の積層はフレキシブルであるため、肌への追従性のための層を設ける必要がない。よって本実施形態の生体信号センシング電極では、層数が少なく、低インピーダンスをより容易に実現できる。これに対して、例えば特許文献2では、電気伝導体が固く、肌への追従性の観点から伝導性媒質の層が必須となり、結果として層数が多く、インピーダンスが高くなる。
【0048】
また本実施形態の生体信号センシング電極は、導電性膜が多孔膜で保護され、被検体に接する接触層が多孔膜であるため、導電性膜からMXeneが脱離することを防ぐことができる。前記多孔膜は、被検体からのイオンが透過しやすいイオン伝導性を有しており、インピーダンスが低い。
【0049】
上記導電性膜と多孔膜とが直接接触することにより、親水性を示す導電性膜(MXene膜)と、好ましくは親水性ポリマーを含む多孔膜との密着性が高まり、導電性膜と多孔膜との間に新たに粘着剤等を含む中間層を設けなくとも、高い密着性を確保することができる。その結果、層数が少なく、被検体から多孔膜を介した導電性膜へのイオンの移動距離が短くなり、低インピーダンスをより容易に実現し、電極の感度をより高めることができる。
【0050】
[生体信号センシング電極の製造方法]
【0051】
上記の通り生成されたMXeneを用いて、本実施形態の電極を製造する方法は特に限定されない。本実施形態の導電性膜がシート状の形態を有する場合、例えば次に例示する通り、電極を形成することができる。
【0052】
まず上記MXene粒子(層状材料の粒子)を溶媒中に存在させたMXene水分散体、またはMXene有機溶媒分散体を用意する。上記MXene水分散体の溶媒は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。
【0053】
より詳細には、前述の通り、MAX相からA原子を選択的にエッチングして得られたMXene含有水性混合物を、固液分離(例えば沈降、遠心分離等)に付し、混合物から水性溶媒(液相)を部分的に除去し、混合物にフレッシュな水性溶媒を添加し、混合物にせん断力を付与する操作を、任意の適切なタイミングで実施して、MXene含有水性媒体を得てもよい。かかる操作は1回実施しても、場合により2回以上繰り返して実施してもよい。
【0054】
乾燥させる前に、MXene水分散体、またはMXene有機溶媒分散体等のMXene含有水性媒体を用い、導電性膜の前駆体(「前駆体膜」とも言う)を形成してよい。前駆体膜の形成方法は特に限定されず、例えば塗工、吸引ろ過、スプレーなどを利用できる。
より詳細には、MXene含有水性媒体をそのままで、または適宜調整(例えば水性溶媒で希釈、またはバインダーを添加)して、基材に塗布することが挙げられる。塗布方法として、例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いて、スプレー塗布を行う方法、テーブルコーター、コンマコーター、バーコーターを用いたスリットコート、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等の方法、スピンコート、ディップコート、滴下等が挙げられる。前記基材として、生体信号センシング電極に適した金属材料、樹脂等で形成された基板を適宜採用することができる。任意の適切な基材(導電性膜と共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性膜から分離されてもよい)上に塗工することにより、該基材上に前駆体膜を形成することができる。
【0055】
また、MXene含有水性媒体を適宜調整(例えば水性溶媒で希釈)して、ヌッチェなどに設置したフィルター(導電性膜と共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性膜から分離されてもよい)を通じて吸引ろ過し、水性溶媒を少なくとも部分的に除去することによって、該フィルター上に前駆体を形成することができる。フィルターは、特に限定されないが、メンブレンフィルターなどを使用し得る。上記吸引ろ過することで、前記バインダー等を使用せずに導電性フィルムを作製することができる。
【0056】
次に、上記で形成した前駆体を乾燥させて、前記図3に模式的に示す通り導電性膜30を得ることができる。本発明において「乾燥」は、前駆体中に存在し得る水性溶媒を除去することを意味する。
【0057】
乾燥は、自然乾燥(代表的には常温常圧下にて、空気雰囲気中に配置する)や空気乾燥(空気を吹き付ける)などのマイルドな条件で行っても、温風乾燥(加熱した空気を吹き付ける)、加熱乾燥、および/または真空乾燥などの比較的アクティブな条件で行ってもよい。前記乾燥は、例えば、常圧オーブンあるいは真空オーブンを用いて400度以下の温度で行ってもよい。
【0058】
前駆体の形成および乾燥は、所望の導電性膜厚さが得られるまで適宜繰り返してもよい。例えば、スプレーと乾燥との組み合わせを複数回繰り返して実施してもよい。
【0059】
導電性膜がポリマーを含む場合も、導電性複合材料を備えた電極を製造する方法は特に限定されない。本実施形態の導電性複合材料がシート状の形態を有する場合、例えば次に例示する通り、前記層状材料とポリマーを混合し、塗膜を形成することができる。
【0060】
まず上記MXene粒子(層状材料の粒子)を溶媒中に存在させたMXene水分散体、MXene有機溶媒分散体、またはMXene粉末と、ポリマーとを混合すればよい。上記MXene水分散体の溶媒は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。
【0061】
上記MXene粒子とポリマーの撹拌は、ホモジナイザー、プロペラ撹拌機、薄膜旋回型撹拌機、プラネタリーミキサー、機械式振とう機、ボルテックスミキサーなどの分散装置を用いて行うことができる。
【0062】
上記MXene粒子とポリマーの混合物であるスラリーを、基材(例えば基板)に塗布すればよいが、塗布方法は限定されない。例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いて、スプレー塗布を行う方法、テーブルコーター、コンマコーター、バーコーターを用いたスリットコート、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等の方法、スピンコート、ディップコート、滴下による塗布方法が挙げられる。上記基材は、前述の通り、生体信号センシング電極に適した金属材料、樹脂等で形成された基板を適宜採用することができる。
【0063】
上記塗布および乾燥は、所望の厚みの膜が得られるまで、必要に応じて複数回繰り返し行ってもよい。乾燥および硬化は、例えば、常圧オーブンあるいは真空オーブンを用いて400度以下の温度で行ってもよい。
【0064】
上記いずれかの方法でMXene膜を形成後、MXene膜を乾燥・硬化させる前に、多孔膜として、前述の通り例えば市販品を積層させ、それから、MXene膜の乾燥・硬化を行うか、MXene膜を乾燥・硬化後に、前述した相転換法等によりMXene膜の表面に多孔膜を形成すればよい。
【0065】
以上、本発明の1つの実施形態における生体信号センシング電極について詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本発明の生体信号センシング電極は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよいことに留意されたい。
【実施例
【0066】
・MAX粒子の調製
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック状MAX)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、MAX粒子としてTiAlC粒子を得た。
【0067】
・MXene分散液の調製
上記方法で調製したTiAlC粒子(粉末)を1g秤量し、フッ素系樹脂容器を用いて、1gのLiFと共に9モル/Lの塩酸10mLに添加して35℃にてスターラーで24時間撹拌して、エッチング処理を行い、TiAlC粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(懸濁液)を得た。エッチングを終えた固液混合物(懸濁液)を遠沈管に移し、純水を加えて攪拌し、遠心分離器で上澄みと沈殿を分離し、上澄みを捨てた。これを10回繰り返して洗浄した。その後、機械式振とう器を用いて、所定時間処理を行い、デラミネーション処理を行った。その後、遠心分離で上澄みを回収し、上澄みをMXene水分散体として用いた。
【0068】
・生体信号センシング電極試料の作製
親水性多孔膜(メルク株式会社製、品番GPWP04700、親水性ポリエーテルスルホン(PES)メンブレン、厚み175μm程度、孔径0.22μm)を、面積が196mmになるようにはさみで切り取ったものの上に、MXeneが4.5質量%含まれた水分散体を3秒間スプレーし、その後ドライヤーで仮乾燥させた。このスプレーと仮乾燥を5回繰り返したのち、オーブンにて80℃で30分間の条件で本乾燥させて得られた、膜厚が5μmの導電性膜(MXene膜)と、前記親水性多孔膜との積層膜を、生体信号センシング電極試料とした。比較例1として、上記多孔膜を設けず、MXene膜(面積が196mm、膜厚が5μmのMXene膜)のみとした以外は上記と同様にして作製した生体信号センシング電極試料も用意した。また比較例2として、市販の生体電極である、3M社製モニタリング電極(品番2228)も用意した。
【0069】
本実施形態に係る生体信号センシング電極試料(MXene膜+多孔膜)のインピーダンスと、比較例1に係る生体信号センシング電極試料(MXene膜のみ)のインピーダンスと、比較例2に係る市販電極のインピーダンスを下記の方法で測定した。
【0070】
人の皮膚と同等と考えられる、鶏肉の皮を除したものに、上記各電極(試料)を接触させて、インピーダンス測定装置Autolab(Metrohm Autolab社製)でインピーダンスを測定した。測定条件として、測定周波数1Hz、10Hzまたは1000Hz、実効電圧10mVとした。
【0071】
測定水準として、
・作用極、対極ともに上で作製した本実施形態に係る生体信号センシング電極の水準と、
・作用極、対極ともに比較例1に係る生体信号センシング電極(MXene膜のみ)の水準と、
・作用極、対極ともに比較例2に係る市販の生体電極の水準と、の合計3水準とした。今回は2極での測定としたため、参照極は使用しなかった。測定結果を下記表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
上記表1の結果から、本実施形態に係る生体信号センシング電極試料(MXene膜+多孔膜)は、いずれの周波数においても、MXene膜単独でのインピーダンスと同等で、多孔膜を形成してもインピーダンスの上昇が小さいことが分かった。また、本発明の生体信号センシング電極試料は、市販されているAg/AgClゲル電極よりもインピーダンスが低く、生体信号電極として十分抵抗が低いことがわかる。さらに本発明の生体信号センシング電極は、MXene膜と多孔膜が直接接触しており、密着性が良好であるため、MXene膜と多孔膜の間に粘着層を設ける必要がなく、その結果、層数を抑えて、低くかつ安定したインピーダンスを示す。更に本実施形態によれば、MXene膜が被検体と接触しないため、MXeneの剥離を抑制し、長期間にわたり安定して測定することができる。更に、水分等を保有したものではないため、装着の不快感を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の生体信号センシング電極は、例えば筋電図信号や心電図信号などの生体信号を抽出し、測定する装置に好ましく使用され得る。
【0075】
本出願は、日本国特許出願である特願2020-165302号を基礎出願とする優先権主張を伴う。特願2020-165302号は参照することにより本明細書に取り込まれる。
【符号の説明】
【0076】
1a、1b 層本体(M層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene(層状材料)
21 導電性膜
22 多孔膜
23 導電材料で形成された基材
24 従来のスナップ型電極
25 絶縁性膜
26 孔
30 生体信号センシング電極
31 電極のスナップ部
32 リード線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9