(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】車両検出装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/01 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
G08G1/01 D
(21)【出願番号】P 2022554513
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010715
(87)【国際公開番号】W WO2021181594
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】ペトラードワラー ムルトゥザ
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔平
(72)【発明者】
【氏名】葛西 茂
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-067721(JP,A)
【文献】特開平06-028595(JP,A)
【文献】特開2004-252520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に走る複数の車線を含む橋梁の各車線に設けられ、前記車線を通過する車両によって誘発される振動を検知することが可能である複数のセンサからそれぞれ複数の振動信号を取得する信号取得部と、
前記信号取得部から前記複数の振動信号を受信し、前記複数の振動信号に対してブラインドソース分離(BSS)を適用して、各車線に特有な複数のソース振動信号を推定して分離し、前記複数のソース振動信号の個々の信号の振幅を調整して複数の振幅調整された振動信号を出力する信号分離部と、
前記信号分離部から関心対象の前記車線に対応する前記振幅調整された振動信号を受信し、前記振幅調整された振動信号から前記車線を通過する車両による応答振動を推定して、前記車線を通過する個々の車両を検出してカウントする車両推定部と、
を含む車両検出装置。
【請求項2】
前記信号分離部は、
スライディングウィンドウによって前記振動信号から抽出された各フレームにフーリエ変換を適用して前記振動信号の前記各フレームの周波数スペクトルを算出し、
各車線について、前記各フレームの周波数スペクトルから正規化された周波数スペクトルの和を算出し、
正規化された周波数スペクトルの各和は各車線に対応し、正規化された周波数スペクトルの複数の前記和の少なくとも一つの和において第1のピークを検出し、一台の車両が一つの車線を走行し、他方の車線には走行している車両がない時間間隔である第1の車両領域を判断し、
前記第1の車両領域を含む時間間隔の前記振動信号に対して前記BSSを実行して前記ソース振動信号を推定及び分離し、
各車線について前記センサによって測定された前記振動信号と、前記BSSによって推定された、各車線に特有の対応するソース振動信号とに基づいて、振幅比を算出し、
前記ソース振動信号の振幅を前記振幅比で増幅して、前記振幅調整された振動信号を出力することにより、各車線に特有の前記ソース振動信号の振幅を調整する、請求項1に記載の車両検出装置。
【請求項3】
前記車両推定部は、
所定の長さのウィンドウによって抽出された各フレームに対してフーリエ変換を適用し、周波数領域における前記各フレームの特徴量を算出することにより、前記振幅調整された振動信号の前記各フレームについて特徴量を取得し、
それぞれのフレームについての前記特徴量の時系列に対してガウス混合モデルクラスタリングを実行し、それぞれが前記時系列に最もよく適合するガウス確率分布でモデル化される1つ以上のクラスタを推定し、
それぞれが前記車線を通過する車両による応答振動を検出するための所定の閾値よりも大きい確率密度値を有するクラスタの数をカウントすることにより、前記車線を通過する個々の車両を検出してカウントする、請求項1又は2に記載の車両検出装置。
【請求項4】
前記車両推定部は、
所定の長さのウィンドウによって抽出された各フレームにフーリエ変換を適用して、前記各フレームの周波数スペクトルを取得し、
前記各フレームの前記周波数スペクトルを正規化することにより、前記各フレームの正規化された周波数スペクトルを算出し、
前記各フレームについて、前記正規化された周波数スペクトルの振幅スペクトルのフレームごとの和を算出し、
前記フレームごとの和を予め定められた範囲にスケーリングし、
前記スケーリングされたフレームごとの和それぞれの時間値に、前記フレームごとの和それぞれの大きさを乗算することにより、前記スケーリングされたフレームごとの和の時間繰り返しベクトルを取得し、
前記時間繰り返しベクトルに対してガウス混合モデルクラスタリングを実行し、
前記車線を通過する車両による応答振動を検出するための所定の閾値よりも大きい確率密度値を有するクラスタの数をカウントすることにより、前記車線を通過する個々の車両を検出してカウントする、請求項1又は2に記載の車両検出装置。
【請求項5】
各センサが平行に走る複数の車線を含む橋梁の各車線に設けられ、前記車線を通過する車両によって誘発される振動を検知することが可能な複数のセンサからそれぞれ複数の振動信号を取得すること、
信号分離処理を実行すること、及び、
推定処理を実行すること、
を含み、
前記信号分離処理は、
前記複数の振動信号に対してブラインドソース分離(BSS)を適用して、それぞれが各車線に特有である複数のソース振動信号を推定して分離すること、
前記複数のソース振動信号の内の個々の信号の振幅を調整し、複数の振幅調整された振動信号を出力すること、
を含み、
前記推定処理は、
前記信号分離処理から出力された、関心対象の車線に対応する前記振幅調整された振動信号を受信すること、
前記振幅調整された振動信号から前記
関心対象
の前記車線を通過する車両による応答振動を推定して、前記関心対象の
前記車線を通過する個々の車両を検出してカウントする、
ことを含む、コンピュータ・ベースの車両検出方法。
【請求項6】
前記信号分離処理は、
所定の長さのウィンドウによって抽出された各フレームにフーリエ変換を適用することにより、前記振動信号の各フレームの周波数スペクトルを算出すること、
各車線について、各フレームの前記周波数スペクトルから正規化された周波数スペクトルの和を算出すること、
前記正規化された周波数スペクトルの複数の前記和の少なくとも一つで第1のピークを検出し、前記和それぞれはそれぞれの車線に対応し、1台の車両が一つの車線を走行し、他方の車線には走行している車両がない時間間隔である第1の車両領域を判断すること、
前記第1の車両領域を含む時間間隔の前記振動信号に対して前記BSSを実行し前記ソース振動信号を推定して分離すること、
各車線について前記センサによって測定された前記振動信号と、前記BSSによって推定された、各車線に特有の対応するソース振動信号とに基づいて、振幅比を算出すること、
前記ソース振動信号の振幅を前記振幅比で増幅して、前記振幅調整された振動信号を出力することにより、各車線に特有の前記ソース振動信号の振幅を調整すること、
を含む、請求項5に記載のコンピュータ・ベースの車両検出方法。
【請求項7】
前記推定処理は、
所定の長さのウィンドウによって抽出された各フレームに対してフーリエ変換を適用し、周波数領域における前記各フレームの特徴量を算出することにより、前記振幅調整された振動信号の各フレームについて特徴量を取得すること、
それぞれのフレームについての前記特徴量の時系列に対してガウス混合モデルクラスタリングを実行し、それぞれが前記時系列に最もよく適合するガウス確率分布でモデル化される1つ以上のクラスタを推定すること、
それぞれが前記車線を通過する車両による応答振動を検出するための所定の閾値よりも大きい確率密度値を有するクラスタの数をカウントすることにより、
前記関心対象の前記車線を通過する個々の車両を検出してカウントすること、
を含む、請求項5又は6に記載のコンピュータ・ベースの車両検出方法。
【請求項8】
コンピュータに、
各センサが平行に走る複数の車線を含む橋梁の各車線に設けられ、前記車線を通過する車両によって誘発される振動を検知することが可能な複数のセンサからそれぞれ複数の振動信号を取得すること、
信号分離処理を実行すること、及び、
推定処理を実行すること、
を含む処理であって、
前記信号分離処理は、
前記複数の振動信号に対してブラインドソース分離(BSS)を適用して、それぞれが各車線に特有である複数のソース振動信号を推定して分離すること、
前記複数のソース振動信号の内の個々の信号の振幅を調整し、複数の振幅調整された振動信号を出力すること、
を含み、
前記推定処理は、
前記信号分離処理から出力された、関心対象の車線に対応する前記振幅調整された振動信号を受信すること、
前記振幅調整された振動信号から
前記関心対象
の前記車線を通過する車両による応答振動を推定して、前記関心対象の車線を通過する個々の車両を検出してカウントすること、
を含む処理を実行させるプログラム。
【請求項9】
各センサが平行に走る複数の車線を含む橋梁の各車線に設けられ、前記車線を通過する車両によって誘発される振動を検知することが可能な複数のセンサからそれぞれ複数の振動信号を取得する信号取得部と、
車両推定部と、を備え、
前記車両推定部は、
スライディングウィンドウによって前記振動信号から抽出された各フレームにフーリエ変換を適用することにより、前記振動信号の前記各フレームの周波数スペクトルを取得し、
各車線について、前記各フレームの周波数スペクトルから正規化周波数ベクトルの和を算出し、
前記複数の車線について算出された
前記正規化周波数ベクトルの和の最大値
を各要素とする最大ベクトルを生成し、
列の数が
前記正規化周波数ベクトルの和の数に等し
く、
行の
数が
前記最大ベクトルの要素の数に等しく、各要素が時間インデックスに対応し、各行に
対応する前記正規化周波数ベクトルの和が最大値を有する要素
の位置で値1を有し、それ以外の場合は0を有する行を有するバイナリ
行列を生成し、
時間値に
前記最大ベクトルの
前記時間値に対応する要素の大きさの値を乗算することにより、時間繰り返しベクトルを取得し、
前記時間繰り返しベクトルに対して、ガウス混合モデルクラスタリングを実行して、クラスタの数をカウントし、各車線における車両の存在の開始時刻及び終了時刻を判断し、
前記バイナリ行列の行において、前記開始時刻及び前記終了時刻に対応する要素の列ごとの平均値を算出して、前記列ごとの平均値が所定の閾値以上である場合、前記車両が、前記列ごとの平均値が算出される前記バイナリ行列の列に対応する車線に存在すると判断し、
前記列ごとの平均値が前記バイナリ行列のすべての列について所定の閾値よりも小さい場合、前記車両が前記複数の車線に存在すると判断する、車両検出装置。
【請求項10】
各センサが平行に走る複数の車線を含む橋梁の各車線に設けられ、前記車線を通過する車両によって誘発される振動を検知することが可能である複数のセンサからそれぞれ複数の振動信号を取得すること、
スライディングウィンドウによって前記振動信号から抽出された各フレームにフーリエ変換を適用することにより、前記振動信号の前記各フレームの周波数スペクトルを取得し、各車線について、前記各フレームの周波数スペクトルから正規化周波数ベクトルの和を算出して、前記複数の車線について算出された
前記正規化周波数ベクトルの和の最大値
を各要素とする最大ベクトルを生成すること、
列の数が
前記正規化周波数ベクトルの和の数に等し
く、
行の
数が
前記最大ベクトルの要素の数に等しく、各要素が時間インデックスに対応し、各行に
対応する前記正規化周波数ベクトルの和が最大値を有する要素
の位置で値1を有し、それ以外の場合は0を有する行を有するバイナリ
行列を生成すること、
時間値に
前記最大ベクトルの
前記時間値に対応する要素の大きさの値を乗算することにより、時間繰り返しベクトルを取得
すること、
前記時間繰り返しベクトルに対して、ガウス混合モデルクラスタリングを実行して、クラスタの数をカウントし、各車線における車両の存在の開始時刻及び終了時刻を判断すること、
前記バイナリ行列の行において、前記開始時刻及び前記終了時刻に対応する要素の列ごとの平均値を算出して、前記列ごとの平均値が所定の閾値以上である場合、前記車両が、前記列ごとの平均値が算出される前記バイナリ行列の列に対応する車線に存在すると判断すること、
前記列ごとの平均値が前記バイナリ行列のすべての列について所定の閾値よりも小さい場合、前記車両が前記複数の車線に存在すると判断すること、
を含むコンピュータ・ベースの車両検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両検出装置、方法及びプログラムに関する。
【0002】
橋梁上を通過する車両について計測された応答を用いた検出に関して、非特許文献(NPL)1には、交通負荷がかかった橋梁の加速度応答データ(時間履歴)から自動的に車両の台数を得る自動車両検出(automatic Vehicle Detection: AVD)アルゴリズムが開示されている。非特許文献1のAVDアルゴリズムは、ある時間間隔の間に通過した車両の総数(車両台数)といった交通に関する情報を提供する。ヘッドウェイ(headway)は、高速道路の交通状況における先行車と後続車との時間差又は距離差である。時間ヘッドウェイ(T
HW)と、距離ヘッドウェイ(D
HW)は、非特許文献1の
図1及び
図2を引用した本願の
図16(A)及び
図16(B)に示すように、車両の速度(V)を用いて、T
HW=D
HW/Vという関係を有する。AVDでは、車両を識別するために、辞書を用いて車両識別(Vehicle Identification)を行う。AVDでは、以下の条件が成り立つとき、2台の車両を識別できる。
T
HW>=T
HWmin
ただし、T
HWminは時間ヘッドウェイの最小値である。
AVDでは、時間ヘッドウェイの最小値T
HWminは予め定められる。その値は、大多数のトラックが互いに追従することになる値に設定される。T
HW<T
HWminとなるよう通過する一対のトラックは、1台の車両とみなされる。つまり、AVDでは、T
HW<T
HWminで通過する一対のトラックを個々に識別できない。
【0003】
特許文献1は、フィンガージョイントのフィンガー部先端裏側に歪ゲージを取り付けることにより、車両が継手部を通過する際に生じるフィンガージョイントのフィンガー部のたわみを電気信号に変える、フィンガージョイントベースの検出システムが開示されている。橋梁の幅方向に適切な間隔で設けられた歪ゲージにより、車線ごとの交通量調査が可能となる。
【0004】
特許文献2は、橋梁の床版上を通過する車両を、床版の側面に取り付けられた加速度センサから送信される加速度信号(振動信号)に基づいて検出する計測装置を開示している。車両検知は、振動信号の包絡線を用いて、以下の手順で行われる。測定装置は、垂直方向の加速度の絶対値を算出し、その絶対値の包絡線(信号)を算出する。車両が加速度センサの近傍に進入すると、車両通過時の開始時刻に包絡線の大きさが大きくなり、反対方向から進入すると、終了時刻に包絡線の大きさが大きくなり、加速度センサの近傍に車両が進入すると、車両通過時の開始時刻に包絡線の大きさが大きくなる。
【0005】
特許文献3には、橋梁を通過する車両の車軸間隔を検出するために、橋梁の各車線に複数のセンサを配置するシステムが開示されている。車軸の通過時間群において、車軸間の通過時間差が設定値よりも大きい点を車両と車両の区切れとして、車両ごとの車軸間隔を検出する。活荷重ひずみと、車線Pにおけるk番目の車軸が基準位置を通過した時刻と、車線P上のk番目の車両の速度と、車両が通過する車線Pとが取得される。橋梁の車線を通過中の車両の車軸間隔を、車軸間隔と車種との対応関係が予め格納されているデータベースと照合することにより、橋梁を通過中の車両の車種が、自動的に且つ実質的にリアルタイムで検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平4-112903号公報
【文献】特開2017-068781号公報
【文献】特開2006-084404号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kanwardeep Singh Bhachu, J. David Baldwin, Kyran D. Mish, “Method for Vehicle Identification and Classification for Bridge Response Monitoring”, Proceedings of the IMAC-XXVIII February 1-4, 2010, Jacksonville, Florida USA
【文献】2.1. “Gaussian mixture models”,[令和2年1月8日検索]、インターネット〈URL https://scikit-learn.org/stable/modules/mixture.html〉
【文献】David M. Blei, Michael I. Jordan, “Variational Inference for Dirichlet Process Mixtures”, 2006 International Society for Bayesian Analysis, 1, Number 1, pp. 121-144,[令和2年1月8日検索]、インターネット〈URL http://www.cs.columbia.edu/~blei/papers/BleiJordan2004.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下の分析は、本願発明者らによってなされたものである。
【0009】
非特許文献1に開示されているAVDアルゴリズムは、車線上を通過する車両(トラック)と、それに先行する又は後続する他の車両との間の時間ヘッドウェイT
HWが最小時間ヘッドウェイ以上である場合、個々の車両を識別又は区別することができる。しかしながら、AVDアルゴリズムは、
図17に例示されるように、以下の交通状況において車両をよく識別/区別することができない。
【0010】
(1)橋梁の並列車線を通過する複数の車両(並列交通モデル)。
【0011】
(2)例えば、トラックと乗用車など車種の組み合わせで次々に通過する複数の車両(直列交通モデル)。
【0012】
(3)並列交通モデル(1)と直列交通モデル(2)との組み合わせで通過する複数の車両(混合交通モデル)。
【0013】
複数の車両が橋梁の並列の車線を通過する場合、各車線における車両の存在は、個々の車両に特有の振動が発生する。AVDアルゴリズムは、橋梁の並列車線を通過する車両を識別/区別することができない。混合した加速度信号(振動信号)の組み合わせは、
図18(B)に示すように測定される。
図18(B)は、
図18(A)に例示されるように、橋梁の車線1を通過する車両1(4軸トラック)と、当該橋梁の車線2を通過する車両2(2軸車)とが存在する並列交通モデルにおいて、加速度センサによって測定された加速度信号の測定結果を示している。
【0014】
図19(B)は、直列交通モデルにおいて、加速度センサによって測定された加速度の測定結果を示している。
図19(A)に例示されるように、単一車線(single lane)1において、大型車両1(5軸トラック)のあとに小型車両2(2軸車)が続く。小型車両2によって誘発される橋梁の加速度信号(振動信号)は、大型車両1によって誘発される橋梁の振動信号の中に埋もれてしまう。非特許文献1に開示されているAVDアルゴリズムは、車種が組み合わされた直列交通モデルにおいて、大型車両1に続く小型車両2を識別することができない。
【0015】
図20(B)は、混合交通モデルにおいて、加速度センサによって測定された加速度の測定結果を示している。この混合交通モデルでは、
図20(A)に例示されるように、橋梁の車線1を通過する車両1(3軸トラック)と、車両1に続き橋梁の車線1を通過する車両2(2軸車)が存在する。また、車線2には、車線1の車両1と並列に通過する車両3(2軸車)と、車両3に続いて車線2を通過する車両4(2軸車)が存在している。なお、橋梁下の加速度信号(振動信号)の測定位置は、非特許文献1に開示されているAVDアルゴリズムで提案されている通りであり、
図17、
図18及び
図19に示された信号は、AVDアルゴリズムにおいて定義された同一の位置に対応する。
【0016】
非特許文献1に開示されているAVDアルゴリズムは、
図20(A)に例示されるように、橋梁上に複数の車両が存在する間、橋梁の2車線を通過する個々の車両を識別/区別できない。非特許文献1に開示されているAVDアルゴリズムは、前述の理由により、直列と並列とが混合して通過する車両を識別できない。
【0017】
非特許文献1に開示されているAVDアルゴリズムは、閾値ベースの辞書を使用している。複数の車種の組み合わせのために辞書を作成することは、時間がかかり、非常に複雑である。
【0018】
したがって、本発明の目的の1つは、それぞれが橋梁の並列車線を通過する車両の検出及び識別を可能とする検出装置、方法、プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本開示の第1の側面によれば、平行に走る複数の車線を含む橋梁の各車線に設けられ、前記車線を通過する車両によって誘発される振動を検知することが可能である複数のセンサからそれぞれ複数の振動信号を取得する信号取得部と、
前記信号取得部から前記複数の振動信号を受信し、前記複数の振動信号に対してブラインドソース分離(BSS)を適用して、各車線に特有な複数のソース振動信号を推定して分離し、前記複数のソース振動信号の個々の信号の振幅を調整して複数の振幅調整された振動信号を出力する信号分離部と、
前記信号分離部から関心対象の前記車線に対応する前記振幅調整された振動信号を受信し、前記振幅調整された振動信号から前記車線を通過する車両による応答振動を推定して、前記車線を通過する個々の車両を検出してカウントする車両推定部を含む検出装置が提供される。
【0020】
本開示の第2の側面によれば、各センサが平行に走る複数の車線を含む橋梁の各車線に設けられ、前記車線を通過する車両によって誘発される振動を検知することが可能な複数のセンサからそれぞれ複数の振動信号を取得すること、
信号分離処理を実行すること、及び、
推定処理を実行すること、
を含み、
前記信号分離処理は、
前記複数の振動信号に対してブラインドソース分離(BSS)を適用して、それぞれが各車線に特有である複数のソース振動信号を推定して分離すること、
前記複数のソース振動信号の内の個々の信号の振幅を調整し、複数の振幅調整された振動信号を出力すること、
を含み、
前記推定処理は、
前記信号分離処理から出力された、関心対象の車線に対応する前記振幅調整された振動信号を受信すること、
前記振幅調整された振動信号から前記対象車線を通過する車両による応答振動を推定して、前記関心対象の車線を通過する個々の車両を検出してカウントする、
ことを含む、コンピュータ・ベースの車両検出方法が提供される。
【0021】
本開示の第3の側面によれば、コンピュータに、
各センサが平行に走る複数の車線を含む橋梁の各車線に設けられ、前記車線を通過する車両によって誘発される振動を検知することが可能な複数のセンサからそれぞれ複数の振動信号を取得すること、
信号分離処理を実行すること、及び、
推定処理を実行すること、
を含む処理であって、
前記信号分離処理は、
前記複数の振動信号に対してブラインドソース分離(BSS)を適用して、それぞれが各車線に特有である複数のソース振動信号を推定して分離すること、
前記複数のソース振動信号の内の個々の信号の振幅を調整し、複数の振幅調整された振動信号を出力すること、
を含み、
前記推定処理は、
前記信号分離処理から出力された、関心対象の車線に対応する前記振幅調整された振動信号を受信すること、
前記振幅調整された振動信号から前記対象車線を通過する車両による応答振動を推定して、前記関心対象の車線を通過する個々の車両を検出してカウントすること、を含む処理を実行させるプログラムを記憶した記録媒体が提供される。
【0022】
本開示によれば、本開示の上記第3の側面によるプログラムが格納されたコンピュータ読み出し可能な記録媒体が提供される。前記記録媒体は、半導体メモリ(ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)など)、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive(HDD))、SSD(Solid State Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などでもよい。
【0023】
本開示のさらなる側面によれば、各センサが平行に走る複数の車線を含む橋梁の各車線に設けられ、前記車線を通過する車両によって誘発される振動を検知することが可能な複数のセンサからそれぞれ複数の振動信号を取得する信号取得部と、
車両推定部と、を備え、
前記車両推定部は、
スライディングウィンドウによって前記振動信号から抽出された各フレームにフーリエ変換を適用することにより、前記振動信号の前記各フレームの周波数スペクトルを取得し、各車線について、前記各フレームの周波数スペクトルから正規化周波数ベクトルの和を算出し、その各要素が前記複数の車線について算出された正規化周波数ベクトルの前記和の最大値である最大ベクトルを生成し、
その数が正規化周波数ベクトルの前記和の数に等しい列と、その要素が時間インデックスに対応し、最大値を有する要素位置で値1を有し、それ以外の場合は0を有する行とを有するバイナリベクトルを生成し、
時間値に正規化周波数ベクトル及び最大ベクトルの大きさの値を乗算することにより、前記ベクトルそれぞれの和の時間繰り返しベクトルを取得し、
前記時間繰り返しベクトルに対して、ガウス混合モデルクラスタリングを実行して、クラスタの数をカウントし、各車線における車両の存在の開始時刻及び終了時刻を判断し、
前記バイナリ行列の行において、前記開始時刻及び前記終了時刻に対応する要素の列ごとの平均値を算出して、前記列ごとの平均値が所定の閾値以上である場合、前記車両が、前記列ごとの平均値が算出される前記バイナリ行列の列に対応する車線に存在すると判断し、
前記列ごとの平均値が前記バイナリ行列のすべての列について所定の閾値よりも小さい場合、前記車両が前記複数の車線に存在すると判断する、車両検出装置が提供される。本開示の前記さらなる側面に対応する方法、プログラム、非一時的媒体が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、橋梁の並列車線を通過する車両の検出及び識別を可能としている。本発明のさらに他の特徴及び利点は、本発明を実施することが企図されている最良の形態の単なる例示により、本発明の実施形態のみを図示及び説明した添付の図面と併せて以下の詳細な説明から当業者には容易に明らかになるであろう。本発明は、他の異なる実施形態が可能であり、そのいくつかの詳細は、本発明から逸脱することなく、様々な明白な点において変更可能である。したがって、図面及び説明は、本質的に例示的であるとみなされるべきであり、限定的ではないとみなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1(A)、
図1(B)は本発明の一実施形態説明する図である。
【
図2】
図2は実施形態の車両検出システムの構成を説明する図である。
【
図3】
図3(A)~
図3(C)はBSSによる車線分離を説明する図である。
【
図4】
図4は実施形態の動作例を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5(A)~
図5(C)は実施形態の一例を説明する図である。
【
図6】
図6(A)~
図6(D)は実施形態の一例を説明する図である。
【
図8】
図8(A)~
図8(D)は実施形態の一例を説明する図である。
【
図9】
図9(A)、
図9(B)は実施形態の一例を説明する図である。
【
図10】
図10は実施形態の動作例を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は実施形態の車両検出システムの構成説明する図である。
【
図15】
図15は別の実施形態の車両推定部の動作例説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を参照して実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態を説明する模式図である。
図1(A)は側面図の模式的な例示であり、
図1(B)は平面図の模式的な例示である。
図1を参照すると、伸縮継手14は、鉄筋及びプレストレストコンクリート、複合材料並びに鉄骨構造物の動き、収縮、及び温度変化に対応するための、異なる特性を有する別個の構造物の間に設けられる継手である。橋梁10の車線を通過する車両1によって引き起こされる橋梁の加速度(すなわち、振動)を検出して振動を電気信号に変換するためのセンサ12としては、加速度センサが使用される。センサ(加速度センサ)12は、橋梁10のコンクリートスラブの下、少なくとも橋梁10の端点上に設けられている。加速度センサによって取得された加速度データ(振動信号)は、有線又は無線通信を介してデジタルデータとして不図示の車両検出装置に送信される。
【0027】
図2は、実施形態の車両検出装置の構成の一例を説明する模式図である。
図2を参照すると、車両検出装置100は、信号取得部102と、信号分離部104と、車両推定部106と、出力部108とを含む。信号取得部102は、信号取得部102に通信接続されたセンサs1、s2から加速度データを取得する。加速度データは、車線のインパルス応答を含み、インパルスは、橋梁を通過する車両の車軸によって橋梁10に与えられる。センサs1およびs2からの加速度データ(振動信号)は、時間的に同期され、すなわち、同じサンプリング時間にてセンサs1およびs2によってサンプリングされた加速度データは、時系列加速度データベクトルにおいて同じインデックスのデータとして信号取得部102によって受信される。信号分離部104は、センサs1及びs2によって取得されたそれぞれの加速度データ(振動信号)を信号取得部102から受信し、センサs1及びs2からの加速度データ(振動信号)にブラインドソース分離(Blind Source Separation; BSS)を適用して、各車線に特有のそれぞれの振動信号へと分離する。車両推定部106は、信号分離部104によって分離されたそれぞれの車線特有の振動信号に基づいて、各車線における個々の車両を検出し、カウントする。車両推定部106は、車線ごとに分離された振動信号の振幅のピークから時間補充特徴(time repletion feature)を計算し、時間補充特徴に対してクラスタリングを行い、各車線における車両の存在を検出する。出力部108は、検出結果を記憶装置内の表示装置に出力するか、又は通信ネットワークを介して端末又はコンピュータシステムに出力する。信号取得部102、信号分離部104、車両推定部106、及び出力部108は、車両検出装置100に含まれ、車両検出装置100に含まれるメモリに記憶されたプログラム命令を実行することができるプロセッサによって実現されてもよい。
【0028】
図3(A)乃至
図3(C)は、一組の混合信号から一組のソース信号を、当該ソース信号や混合システムに関する情報を得ずに分離するブラインドソース分離(BSS)の模式的な例示である。
【0029】
BSSは、測定された振動応答を分離して車線ごとの個々の振動応答の推定が可能であるということを前提とする。
図3(A)では、2台の車両が橋梁の車線1と車線2が通過している。
図3(B)及び
図3(C)に例示されるように、センサs1及びs2は、車線1及び車線2のそれぞれの実際のソース信号(振動信号)x
1、x
2を混合する混合システムの出力である混合振動信号y
1、y
2を取得する。
…(1)
ここで、
は実際のソースからの信号、
はセンサ(加速度センサ)s
j(j=1,2)によって捕捉された信号、
は実際のソースからセンサ(加速度センサ)s
jへの混合行列である。
【0030】
BSSの出力は以下のようになる。
…(2)
ここで、
(j=1,2)は分離された信号、
はQタップの分離フィルタである。
【0031】
図3(B)及び
図3(C)に例示されるように、p=1、q=1の場合、以下のようになる。
…(3)
【0032】
図4は、本実施形態のフローチャートである。
図4を参照すると、信号取得部102が、センサs1、s2から振動信号(時間領域信号)を取得する(S101)。信号取得部102は、振動信号の直流成分をカットしてもよい。
【0033】
信号分離部104は、正規化された周波数スペクトルの和を算出する(S102)。より詳細には、信号分離部104は、時間間隔T(1フレームの長さ)のスライディングウィンドウを用いて波形データ(フレーム)を抽出し、抽出された波形データに対してFFT(fast Fourier transform;高速フーリエ変換)を実行して、各周波数成分(振幅)を、周波数スペクトルの周波数成分(振幅)の合計値で除することで正規化される周波数スペクトルを取得する。信号分離部104は、センサs1、s2によって取得された波形データの各フレームについて、正規化周波数スペクトルの和を算出する。
【0034】
図5は、本実施形態を説明するための図である。
図5(A)に例示されるように、3軸の車両1(トラック)が車線1を通過し、2軸の車両2(乗用車)が車線2を通過しているとする。
図5(B)及び
図5(C)は、車両1(3軸トラック)と車両2(2軸車)とが、それぞれ通過している車線1及び車線2に設けられたセンサs1、s2によって取得された波形データ(振動信号)を示している。
図5(B)及び
図5(C)において、横軸は時間であり、縦軸は加速度[m/s
2]である。
【0035】
図6(A)に、車線1の正規化周波数スペクトルの和の時系列を示し、
図6(B)に、車線2の正規化周波数スペクトルの和の時系列を示す。
図6(A)及び
図6(B)において、フレームごとの正規化周波数スペクトルの和が、時間軸(横軸)に沿ってプロットされている。
【0036】
周波数成分は、振動信号(各フレーム)の周波数スペクトルの総和によって正規化される。
図6(A)の場合、センサs1(車線1)によって取得されたフレームの正規化周波数の和は、以下の式によって与えられる。
…(4)
ここで、spectrum (s1)は、センサs1によって取得された振動信号のフレームの周波数スペクトルにおける各周波数ビンの振幅スペクトルを、各要素に有するベクトルであり、
spectrum (s2)は、センサs2によって取得された振動信号のフレームの周波数スペクトルにおける各周波数ビンの振幅スペクトルを、各要素に有するベクトルであり、
sum of (spectrum (s1), spectrum (s2))は、ベクトルスペクトル(s1)及びベクトルスペクトル(s2)の各要素の各振幅スペクトルを加算して、加算された振幅スペクトルを合計することによってスカラー値(和)を生成する和演算の組み合わせであり、
spectrum (s1)/sum of (spectrum (s1), spectrum (s2))は、ベクトルスペクトル(s1)の各要素(周波数ビン)の振幅スペクトルを、sum of (spectrum (s1), spectrum (s2))で除算し、スペクトル(s1)内の各要素(周波数ビン)の正規化された振幅スペクトルを得る演算であり、
sum ()は、スペクトル(s1)内の各要素(周波数ビン)の各正規化振幅スペクトルを合計する演算である。
【0037】
図6(B)の場合、センサs2(車線2)によって取得されたフレームの正規化周波数の和は、数式(4)と同様に、以下の式によって与えられる。
…(5)
【0038】
信号分離部104は、車線1及び車線2それぞれの正規化周波数スペクトルの和において最初のピークを検出する(S103)。
図6(C)は、車線1(センサs1)の正規化周波数の和を示しており、小さな円で表される第1のピークは、最初の車両が車線1に入ったことを示す。
図6(D)は、車線2の正規化周波数の和を示しており、円で表される第1のピークは、2番目の車両が車線2に入ったことを示す。正規化周波数の和のピークを用いて、信号分離部104は、1台の車両が一方の車線に進入し、他方の車線には車両が進入していない時間間隔である第1の車両領域と、両方の車線に車両が進入している時間間隔である混合信号領域との間の領域境界を判断する。信号分離部104は、
図6(C)の第1のピークのタイムスタンプから
図6(D)の第1のピークのタイムスタンプまでの第1の車両領域を選択する(S104)。
【0039】
図7に、センサs1によって取得された車線1の振動信号(時間領域信号)(
図5(B))にマッピングされた第1の車両領域及び混合信号領域を示す。信号分離部104は、車線1及び車線2(
図5(B)及び
図5(C))の時間領域信号を、車両検出装置に設けられた半導体メモリ(例えば、RAM(Random Access Memory)又はEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory))、又は記憶装置(例えば、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive))に記憶する。
【0040】
信号分離部104は、第1の領域及び混合信号領域を含む時間領域信号(
図5(B)、
図5(C))にBSSを適用して、推定ソース信号(
図3(C)の
、
)を取得する(S105)。
【0041】
図8(A)及び
図8(B)に、BSSによって推定された、車線1の推定ソース信号
と車線2の推定ソース信号
を示す。
【0042】
信号分離部104は、測定された時間領域信号の第1の車両領域のパワースペクトルの和を、BSSによって推定された時間領域信号の第1の車両領域のパワースペクトルの和で割ることによって、振幅比αを算出する。
…(6)
【0043】
信号分離部104は、振幅比αを推定信号
と
に乗算して、増幅された推定信号
と
を得る。
【0044】
振幅比αを、
図8(A)及び
図8(B)に示す車線1及び車線2の推定ソース信号
と
に乗算して得たそれぞれ車線1及び車線2の増幅された推定信号
と
を
図8(C)及び
図8(D)に示す。
【0045】
次に、増幅された推定信号
と
のいずれかに基づいて、単一対象車線(車線1及び車線2の内の1つ)ごとに、トラックと乗用車など異なる車種の組み合わせ(直列モデル)で次々に通過する車両を検出且つカウントすることができる車両推定部106の動作例を説明する。
【0046】
図9(A)は、橋梁10の車線1に車両1(3軸トラック)と、車両1に続く車両2(2軸車)が存在する直列のケースを示している。車両2は、好ましくは、車両1から、例えば、約0.5秒以上の時間間隔分離間している。
図9(B)は、事前にディリクレ過程(Dirichlet process)を使用したガウス混合分布モデルを用いたクラスタリングに基づく車両数の推定を説明する図である。クラスタリングと、所定の閾値より大きい値をとることによって得られるガウス確率密度関数の値が、車両数としてカウントされる。
【0047】
図10は、車線を通過する車両の数を検出する車両推定部106の動作例を説明するフローチャートである。
【0048】
車両推定部106は、信号取得部102から、振動信号、すなわち、
図11(A)に示すような、対象車線の増幅された推定信号を受信すると仮定する。
【0049】
車両推定部106は、センサs1によって捕捉された車線1の振動信号から、単一の車線(例えば、車線1)を直列に通過する車両を検出するように構成される。
【0050】
車両推定部106は、正規化された周波数スペクトルを算出する(S201)。
図11(B)は、
図11(A)に示される信号の正規化された周波数スペクトルを示す。より具体的には、車両推定部106は、
図11(A)に示す振動信号に短時間FFT(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換)(STFT)を適用する。すなわち、それぞれが所定の値だけシフトされる、所定の長さ(1フレームの長さ)のスライディングウィンドウを用いて、各フレームが振動信号から抽出される。隣接するフレームは重なり合う部分を有する。FFTをそれぞれのフレームに適用することにより、各フレームの周波数スペクトルが得られる。勿論、離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform; DFT)をFFTの代わりに用いてもよい。
【0051】
X
t=[x
0、x
1…、x
N-1、x
N、…]を振動信号のサンプル値x
k(ここで、kは非負の整数)の時系列、スライディングウィンドウのシフト=mとし、長さN(N>m)のフレームX
j(j=1,2,3…)を、スライディングウィンドウにより振動信号から抽出し、FFTを各フレームに適用し、j番目のフレームX
j(j=1,2,3…)の周波数スペクトル
を得る。
X
1=[x
0,…,x
N-1] → Y(ω)
1=FFT(X
1)
X
2=[x
m-1,…,x
N+m-2] → Y(ω)
2=FFT(X
2)
X
3=[x
2m-1,…,x
N+2m-3] → Y(ω)
3=FFT(X
3)
…
【0052】
車両推定部106は、各周波数成分(振幅)を周波数スペクトルの周波数成分の振幅の和で割ることにより、正規化された周波数スペクトルを算出する。j番目のフレームX
jの振幅スペクトルq
jの総和は次の式で与えられる。
…(7)
ここで、
は、j番目のフレームX
jの周波数スペクトル
のi番目の周波数ビンの振幅である。
…(8)
ここで、
(i=1,…,N/2-1)は、周波数スペクトル
のi番目の周波数成分(ビン)である。Re()及びIm()は、複素数
の実数部及び虚数部であり、ここで、
(i=0)は直流成分、その虚数部はゼロ、そしてその実数部はゼロであると仮定され、インデックスi=N/2は、ナイキスト周波数ビンに対応する。
【0053】
j番目のフレームX
jの正規化された周波数スペクトルQ
jは次のように与えられる。
…(9)
【0054】
車両推定部106は、正規化された周波数スペクトルのフレームごとの和(frame-wise sum)を算出する(S202)。
【0055】
j番目のフレームX
j(j=1,2,…)について、正規化された周波数スペクトルのフレームごとの和(frame-wise sum) f(j)は以下で与えられる。
…(10)
【0056】
図11(C)に、各フレームのフレームごとの和を示す。
図11(C)において、フレームごとの和f(j)(j=1,2,3,…)の値がプロットされ、横軸は時間軸(すなわち、インデックスj=1,2,3,…)、縦軸はフレームごとの和f(j)の値である。
図11(C)は、以下のベクトル(フレームごとの和のベクトル(frame-wise sum vector))のプロットである。
F=(f(1), f(2), f(3),…) …(11)
【0057】
車両推定部106は、ベクトルFの振幅変換を実行して、予め定められた範囲でスケーリングする(S203)。
図12(A)に、
図11(C)に示されるフレームごとの和のベクトルの振幅変換の結果を示す。
図12(A)の例において、
図11(C)のベクトルFが、0から100の範囲のベクトルF_scaledに変換されているが、これに限定されない。
scaled_min = 0,
scaled_max = 100,
F_min = min(F),
F_max = max(F).
振幅変換は以下のように算出される。
F_scaled = scale * F + scaled_min - F_min * scale …(12)
ここで、
scale = (scaled _max - scaled_min) / (V_max - V_min) …(13)
【0058】
車両推定部106は、時間値(time value)を、その大きさの値(magnitude value)分、繰り返すことにより、ベクトルF_scaledから新しいベクトル(時間繰り返し(time-repeated)ベクトル)を作成する(S204)。
図12(B)は、新しいベクトル(時間繰り返しベクトル)の一例を示しており、縦軸は時間軸、横軸は繰り返し(repetition)インデックスである。より詳細には、車両推定部106は、時間オカレンス(time occurrence)(時間発生又は時間出現)を、その大きさの分、繰り返す。車両推定部106は、x(time value:時間値)をy(scaled amplitude:スケーリングされた振幅)回繰り返す。すなわち、(時間値)*(対応する時間におけるスケーリングされた振幅)。例えば、
図13(A)において、時間0(F_scaledのインデックス0)では、スケーリングされた振幅(F_scaledの要素0の値)は2であるため、時間繰り返しベクトルVは、2回繰り返される時間値0から始まり、次に、時間1(F_scaledのインデックス1)では、スケーリングされた振幅(F_scaledの要素1の値)は10であるため、時間値1は10回繰り返される。すべての時間値の乗算が繰り返された後、
図12(B)に示すような新しい時間繰り返しベクトルVを得ることができる。
図12(B)において、時間軸(横軸)は時間繰り返しベクトルVの各要素のインデックスであり、縦軸は時間繰り返しベクトルVの各要素の値である。
【0059】
各車両がガウス混合分布モデルに基づいて推定されると仮定すると、信号を時間反復特徴に変換することにより、ガウス混合モデリングを用いたクラスタリング及び車両検出を容易に実行することができる。振動信号における車両の出現時間(occurrence time)は不明である。車両の出現時間を検出するために、時間値(time value)を、スケーリングされた振幅値(scaled amplitude)分繰り返すことを採用し、振幅のピーク位置の密度を増加させる。この操作により、車両推定部106によって作成された時間繰り返しベクトルのヒストグラム(時間軸ヒストグラム)である
図12(C)に示されるように、各車両出現(vehicle occurrence)において予想される分布(例えば、ガウス確率分布)が得られる。
【0060】
車両推定部106は、ガウス確率分布の混合の学習(教師なしモデル学習)に基づいてクラスタリングを実行する(S205)。ガウス混合分布モデルは、すべてのデータポイントが未知のパラメータを有する有限数のガウス確率分布の混合から生成されると仮定する確率モデルである。ガウス混合分布モデルは、学習データから学習することができる。特に制限されないが、本実施形態では、変分ベイズDPGMM(Dirichlet Process Gaussian Mixture Model;ディリクレ過程ガウス混合モデル)などの、変分推論(variational inference)アルゴリズムを用いたガウス混合分布モデルの変形である変分ベイズガウス混合モデルが用いられ、これは、クラスタ数の事前分布としてのディリクレ過程を用いた無限混合モデルである。変分ベイズDPGMMに関しては、非特許文献2又は3を参照することができる。
図13(A)は、変分ベイズDPGMMを用いた時間繰り返しベクトルVのクラスタリング結果を示している。
図13(A)において、横軸は時間軸であり、縦軸はスケーリングされた確率密度値である。
【0061】
車両推定部106は、
図13(B)に例示されるように、それぞれが所定の閾値よりも大きい確率密度関数の値を有するクラスタの数をカウントする(S206)。この所定の閾値は、橋梁の車線を通過する車両によって誘発される橋の応答振動を識別するように決定される。
【0062】
車両検出装置100は、
図14に示されるようなコンピュータシステム上に実装されてもよい。
図14を参照すると、サーバなどのコンピュータ装置200は、プロセッサ(Central Processing Unit)202と、例えば半導体メモリ(例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)等)、及び/又はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等の少なくともいずれかを含む記憶装置などを含むメモリ204と、各車線を通過する車両の数の検出結果を表示する表示装置206と、通信インタフェース208を含む。通信インタフェース208(例えば、ネットワークインタフェースコントローラ(NIC))は、橋梁の車線の下に設けられたセンサと通信接続するように構成されてもよい。
図2に示す車両検出装置100の信号取得部102、信号分離部104、車両推定部106、出力部108の処理を実行するためのプログラム命令(プログラムモジュール)を含むプログラム210は、メモリ204に記憶される。プロセッサ202は、メモリ204からプログラム210(プログラム命令)を読み出し、プログラム(プログラム命令)を実行して、車両検出装置100の機能及び処理を実現するように構成される。
【0063】
上記実施形態では、橋梁の単一車線を通過する車両の数の検出が説明されているが、本発明は車両の数に制限されない。本発明は、橋梁の単一車線を通過する車両の重量の検出、車両の積載重量、橋梁の劣化/疲労診断などに適用することができる。
【0064】
上記実施形態では、加速度センサが、橋梁のインパルス応答(振動)を検出するためのセンサとして使用されている。しかしながら、本発明において、センサは、橋梁のインパルス応答(振動)の検出に制限されない。すなわち、本発明は、圧電トランスデューサ、マイクロフォンなどの音響センサによって検出される振動信号に適用可能である。
【0065】
以下では別の実施形態を説明する。この実施形態では、車両推定部106は、並列交通モデル(
図18(A))における車両検出を実現するように構成されている。この実施形態では、車両推定部106は、BSSを使用することなく、橋梁10の車線を通過する車両の有無を確認することができる。この実施形態は、車両検出装置100は、信号取得部102と、車両推定部106と、出力部108を含む。信号分離部104は含まれなくてもよい。
【0066】
図15は、本実施形態における車両推定部106の動作例を説明するフローチャートである。信号取得部102は、センサs1及びs2から振動信号(時間領域信号)を取得する(S301)。
【0067】
車両推定部106は、正規化された周波数スペクトルの和を算出する(S302)。より詳細には、車両推定部106は、時間間隔T(1フレームの長さ)のスライディングウィンドウを用いて波形データ(フレーム)を抽出し、抽出された波形データに対してFFT(高速フーリエ変換)を実行して、各周波数成分(振幅)を、周波数スペクトルの周波数成分(振幅)の合計値で割ることによって正規化される周波数スペクトルを取得する。
【0068】
車両推定部106は、各フレームの正規化周波数の和を与える数式(4)及び(5)をそれぞれ用いて、センサs1及びs2から正規化周波数ベクトルの和を取得する(S303)。正規化周波数ベクトル(s1)の和は、その要素として(総数N個の要素とする)、例えば、フレーム1、2、…、N(又は時点1からN)について正規化された周波数の和(それぞれ数式(4)で与えられる)を含む時系列ベクトルによって構成される。センサs2からの正規化周波数ベクトルの和は、その要素として(総数N個の要素とする)、例えば、フレーム1、2、…、N(又は時点1からN)について正規化された周波数の和(それぞれ数式(5)で与えられる)を含む時系列ベクトルによって構成される。
【0069】
次に、車両推定部106は、正規化周波数ベクトル(s1)の和と正規化周波数ベクトル(s2)の和から、各時点(各要素)での最大振幅値を選択することにより、s1s2_maximumベクトルを得る。s1s2_maximumベクトルはN個の要素を有する(S304)。
s1s2_maximumベクトル=max(正規化周波数ベクトル(s1)の和、正規化周波数ベクトル(s2)の和) …(14)
【0070】
例えば、正規化周波数ベクトル(s1)の和=[sa1,sa2, …,saN](ここで、sa1,sa2,…,saNは、正規化周波数ベクトル(s1)の時点1,2,…,Nでの和)、正規化周波数ベクトルの和(s2)=[sb1,sb2,…,sbN](ここで、sb1,sb2,…,sbNは、正規化周波数ベクトル(s2)の時点1,2,…,Nでの和)、そして、sa1>sb1、sa2<sa2、..及びsaN<sbNとすると、
s1s2_maximumベクトル=[sa1,sb2,…,sbN]…(15)
【0071】
車両推定部106は、行数がs1s2_maximumベクトル(N要素)の要素数に等しく、列数が2(正規化周波数ベクトル(s1)と(s2)の和に対応)に等しい新しいバイナリ行列Bを生成し(S305)、ここで、各時点、すなわち各行において、値1は最大値を有する要素位置を表し、0はそうでないことを表す。数式(15)の場合、N行2列バイナリ行列は以下で与えられる。
…(16)
ここで、上付き文字Tは、行列Bの転置を示す。
【0072】
車両推定部106は、s1s2_maximumベクトルの対応する大きさの値だけ時間値を繰り返すことにより、時間繰り返しベクトルを作成する(S306)。同様に、車両推定部106は、s1s2_maximumベクトルの大きさの値に対応する各行を繰り返すことにより、行列Bの行を繰り返す。
【0073】
次に、車両推定部106は、
図10のステップS205及びS206で説明した通り、時間繰り返しベクトルに対してガウス混合分布モデルベースのクラスタリングを適用し(S307)、クラスタの数をカウントする(S308)。すなわち、推定されたガウス分布の数(車両の数)をカウントする。
【0074】
例えば、車両のインパルスの開始時刻及び終了時刻をガウス分布の平均値から±3σの値(ここで、σは標準偏差)と仮定して、車両推定部106は、各車線における各車両の存在の開始時刻と終了時刻を取得する(S309)。車両がどの車線に存在するかを検出するために、車両推定部106は、バイナリ行列Bからスライスした、各車両の存在の開始時刻及び終了時刻に対応する行の列ごとの平均(column-wise mean)を算出する。b
ijを、バイナリ行列Bのi番目の行及びj番目の列の値(1又は0)とすると(ここで、j=1又は2)(S310)、
…(17)
【0075】
バイナリ行列Bからスライスした行の列ごとの平均値が予め定められた閾値以上である場合(S311の「Yes」分岐)、車両推定部106は、行列Bの列ごとの平均値が算出された行列Bの列(センサs1又はセンサs2に対応)に対応する車線で車両が検出されたと推定する(S312)。行列Bの両方の列の列ごとの平均値(column-wise mean)が予め定められた閾値よりも小さい場合(S311の「No」分岐)、車両推定部106は、下にセンサs1とセンサs2が設けられている車線の両方で車両の存在が検出されたと推定する(S313)。なお、上記実施形態は、橋梁の上を平行に走る2車線に限定されず、橋梁上の3つ以上の車線を通過する車両の検出にも適用可能である。
【0076】
なお、上記の特許文献1乃至3及び非特許文献1乃至3の各開示は、本書に引用をもって繰り込み記載されているものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、各実施形態及び各実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において、種々の開示要素(各付記の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ及び選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0077】
1 車両
10 橋梁
12 センサ
14 伸縮継手
100 車両検出装置
102 信号取得部
104 信号分離部
106 車両推定部
108 出力部
200 コンピュータ装置
202 プロセッサ
204 メモリ
206 表示装置
208 通信インタフェース
210 プログラム