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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】異常検知装置および異常検知方法
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/38 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
F22B37/38 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022565066
(86)(22)【出願日】2021-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2021031930
(87)【国際公開番号】W WO2022113459
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2020197857
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】川部 浩隆
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-211923(JP,A)
【文献】特開2008-144995(JP,A)
【文献】特開2020-076543(JP,A)
【文献】米国特許第06192352(US,B1)
【文献】米国特許第06484108(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 37/38
F22B 37/42
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラにおける水の循環系統から前記循環系統外へ水を抜き出す1または複数の抜出機器それぞれの運転データ、および、前記循環系統への補給水量の実測値を取得するデータ取得部と、
前記データ取得部によって取得された前記運転データに基づき、前記補給水量の予測値を導出する予測部と、
前記データ取得部によって取得された前記補給水量の実測値と、前記予測部によって導出された前記補給水量の予測値とを比較する比較部と、
を備え
前記予測部は、前記ボイラが正常運転している際の、前記1または複数の抜出機器それぞれの運転データ、および、前記補給水量の実測値に基づき、前記補給水量の予測値を出力するように予め構築される異常検知装置。
【請求項2】
前記予測部は、前記運転データに対し、所定の統計処理を施して、前記補給水量の予測値を導出する請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記統計処理は、所定期間における前記抜出機器の運転データの積算値、平均値、または、分散を導出する処理である請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記予測部において用いられる前記複数の運転データのうち、少なくとも1の運転データは、他の運転データと、取得タイミングまたは取得期間が異なる請求項1から3のいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項5】
ボイラが正常運転している際の、前記ボイラにおける水の循環系統から前記循環系統外へ水を抜き出す1または複数の抜出機器それぞれの運転データ、および、前記循環系統への補給水量の実測値に基づき、前記補給水量の予測値を出力するように予測部を構築する工程と、
前記1または複数の抜出機器それぞれの運転データ、および、前記循環系統への補給水量の実測値を取得する工程と、
前記予測部を用いて、取得した複数の前記運転データに基づき、前記補給水量の予測値を導出する工程と、
取得した前記補給水量の実測値と、導出した前記補給水量の予測値とを比較する工程と、
を含む異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常検知装置および異常検知方法に関する。本出願は2020年11月30日に提出された日本特許出願第2020-197857号に基づく優先権の利益を主張するものであり、その内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0002】
ボイラは、石炭等の燃料を燃焼させることで生じる高温の燃焼排ガスにより、給水を複数の熱交換器において加熱し、蒸気を生成する。燃焼排ガスは、燃料の硫黄成分から生成された高腐食性成分を含む。また、ボイラは、起動、停止や負荷変化を繰り返すことにより、熱交換器を構成する伝熱管、熱交換器同士を接続する接続配管等に繰り返し疲労が発生する。このため、伝熱管、接続配管等が破損する場合がある。そうすると、伝熱管、接続配管等から外部へ蒸気が漏洩(リーク)してしまう。
【0003】
蒸気のリークを検知する技術として、ボイラの配管からのリーク(チューブリーク)時に発生する複数の現象それぞれに対し、予め設定された境界値を超えたか否かを観察し、ボイラのチューブリーク発生と認定された箇所を表示して警告する技術が記載されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4963907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載された、チューブリーク時に発生する現象のうち、チューブリーク以外の要因で発生する現象もある。このため、特許文献1の技術では、リークしていないにも拘わらず、チューブリークが発生したと誤判定してしまうという問題があった。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑み、ボイラにおける蒸気の漏洩を精度よく検知することが異常検知装置および異常検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る異常検知装置は、ボイラにおける水の循環系統から循環系統外へ水を抜き出す1または複数の抜出機器それぞれの運転データ、および、循環系統への補給水量の実測値を取得するデータ取得部と、データ取得部によって取得された運転データに基づき、補給水量の予測値を導出する予測部と、データ取得部によって取得された補給水量の実測値と、予測部によって導出された補給水量の予測値とを比較する比較部と、を備え、予測部は、ボイラが正常運転している際の、1または複数の抜出機器それぞれの運転データ、および、補給水量の実測値に基づき、補給水量の予測値を出力するように予め構築される。
【0008】
また、予測部は、運転データに対し、所定の統計処理を施して、補給水量の予測値を導出してもよい。
【0009】
また、統計処理は、所定期間における抜出機器の運転データの積算値、平均値、または、分散を導出する処理であってもよい。
【0010】
また、予測部において用いられる複数の運転データのうち、少なくとも1の運転データは、他の運転データと、取得タイミングまたは取得期間が異なってもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る異常検知方法は、ボイラが正常運転している際の、ボイラにおける水の循環系統から循環系統外へ水を抜き出す1または複数の抜出機器それぞれの運転データ、および、循環系統への補給水量の実測値に基づき、補給水量の予測値を出力するように予測部を構築する工程と、1または複数の抜出機器それぞれの運転データ、および、循環系統への補給水量の実測値を取得する工程と、予測部を用いて、取得した複数の運転データに基づき、補給水量の予測値を導出する工程と、取得した補給水量の実測値と、導出した補給水量の予測値とを比較する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ボイラにおける蒸気の漏洩を精度よく検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係るボイラシステムを説明する図である。
図2図2は、異常検知装置を説明する図である。
図3図3は、予測部の構築について説明する図である。
図4図4は、実施形態に係る異常検知方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
図5図5は、異常検知装置によって導出された実測値と予測値との差分の経時変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
[ボイラシステム100]
図1は、本実施形態に係るボイラシステム100を説明する図である。なお、図1中、実線の矢印は水の流れを示し、破線の矢印は燃焼排ガスの流れを示す。また、本実施形態では、液体の水、および、気体の水(蒸気)を纏めて水と呼ぶ場合がある。図1に示すように、ボイラシステム100は、ボイラ110と、異常検知装置300とを含む。
【0016】
[ボイラ110]
ボイラ110は、火炉120と、蒸発器130と、過熱器140と、タービン発電機150と、復水器160と、給水ポンプ170と、節炭器180と、補給水供給部190と、補助蒸気抜出部200と、排ガス浄化装置210とを含む。
【0017】
火炉120の側壁には、バーナ122が設けられる。バーナ122には、石炭、バイオマス、重油等の燃料および空気が供給される。バーナ122は、燃料を燃焼させる。
【0018】
バーナ122によって燃料が燃焼されることで生じた燃焼排ガスは、火炉120に接続された煙道124を通じて排ガス浄化装置210に導かれる。
【0019】
蒸発器130は、ドラム132と、降水管134と、水壁管136と、ドレン管138を含む。ドラム132は、火炉120の上部に設けられる。ドラム132は、液体の水および蒸気を貯留する。降水管134は、ドラム132の下部と水壁管136とを接続する。水壁管136は、火炉120内に設けられる。水壁管136は、降水管134とドラム132の下部とを接続する。
【0020】
ドレン管138は、ドラム132の下部に接続される。ドレン管138には、開閉弁138aが設けられる。ドレン管138は、ドラム132内の液体の水を外部に廃棄するために設けられる。
【0021】
なお、降水管134、水壁管136、および、ドレン管138は、ドラム132における喫水線Wより下方に接続される。
【0022】
過熱器140は、火炉120内に設けられる。過熱器140は、ドラム132から導かれた蒸気と、燃焼排ガスとを熱交換する熱交換器である。過熱器140は、ドラム132およびタービン発電機150に接続される。
【0023】
タービン発電機150は、タービン152と、発電機154とを含む。タービン152は、過熱器140から導かれた蒸気の熱エネルギーを回転動力に変換する。発電機154は、タービン152と同軸で接続される。発電機154は、タービン152によって生成された回転動力によって発電する。
【0024】
復水器160は、タービン発電機150を通過した蒸気を冷却して液体の水にする。
【0025】
給水ポンプ170は、吸入側が復水器160の下部に接続され、吐出側が節炭器180に接続される。給水ポンプ170は、復水器160で凝縮された液体の水を節炭器180に導く。
【0026】
節炭器180は、煙道124内に設けられる。節炭器180は、液体の水と燃焼排ガスとを熱交換する熱交換器である。
【0027】
補給水供給部190は、復水器160に液体の水を補給する。補給水供給部190は、後述する循環系統を循環する水の量が所定値に維持されるように液体の水を補給する。
【0028】
補助蒸気抜出部200は、ドラム132から蒸気を抜き出し、利用先に供給する。補助蒸気抜出部200は、例えば、スートブロワである。
【0029】
排ガス浄化装置210は、燃焼排ガスを浄化する。排ガス浄化装置210は、例えば、脱硝装置、除塵装置、脱硫装置を含む。排ガス浄化装置210によって浄化された燃焼排ガスは、煙突212を通じて外部に排気される。
【0030】
ここで、燃焼排ガスの流れおよび水の流れについて説明する。図1中、破線の矢印で示すように、バーナ122において生じた燃焼排ガスは、まず、水壁管136を通過し、次に、過熱器140を通過する。そして、燃焼排ガスは、節炭器180を通過した後、排ガス浄化装置210に導かれる。
【0031】
一方、復水器160で生成された液体の水は、給水ポンプ170、節炭器180をこの順で通過して、ドラム132に導かれる。また、ドラム132内の液体の水は、降水管134、水壁管136を循環することで蒸発する。
【0032】
そして、ドラム132内の蒸気は、過熱器140を通過して、タービン152に導かれる。また、タービン152を通過した蒸気は、復水器160に戻される。
【0033】
このように、水は、復水器160、給水ポンプ170、節炭器180、蒸発器130、過熱器140、タービン152をこの順で循環する。つまり、ボイラ110は、復水器160、給水ポンプ170、節炭器180、蒸発器130、過熱器140、タービン152で構成される水の循環系統を有する。
【0034】
循環系統を構成する上記各機器、配管、バルブ、配管同士の接続箇所、配管とバルブの接続箇所等は、経年劣化等により破損する場合がある。そうすると、破損した部分から外部へ水が漏洩(リーク)してしまう。
【0035】
そこで、本実施形態のボイラシステム100は、水のリークを検知する異常検知装置300を備える。以下、異常検知装置300について説明する。
【0036】
[異常検知装置300]
図2は、異常検知装置300を説明する図である。図2中、破線の矢印は、信号の流れを示す。
【0037】
図2に示すように、異常検知装置300は、中央制御部310と、報知部320とを含む。
【0038】
中央制御部310は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成される。中央制御部310は、ROMからCPUを動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出す。中央制御部310は、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して異常検知装置300全体を管理および制御する。
【0039】
報知部320は、表示装置、または、スピーカを含む。
【0040】
本実施形態において、中央制御部310は、データ取得部312、予測部314、比較部316として機能する。
【0041】
データ取得部312は、ボイラ110における水の循環系統から循環系統外へ水を抜き出す複数の抜出機器それぞれの運転データを取得する。抜出機器は、運転状態によって、補給水量が変動(増加、または、減少)する機器である。抜出機器は、例えば、開閉弁138a、タービン発電機150、復水器160、補助蒸気抜出部200である。
【0042】
データ取得部312は、開閉弁138aの運転データとして、例えば、開閉弁138aの開度を取得する。データ取得部312は、タービン発電機150の運転データとして、例えば、タービン発電機150の発電量を取得する。データ取得部312は、復水器160の運転データとして、例えば、復水器160の真空度を取得する。データ取得部312は、補助蒸気抜出部200の運転データとして、例えば、補助蒸気抜出部200が抜き出す蒸気量を取得する。
【0043】
また、データ取得部312は、補給水供給部190によって循環系統へ供給される補給水量の実測値を取得する。
【0044】
予測部314は、データ取得部312によって取得された複数の運転データに基づき、補給水量の予測値を導出する。
【0045】
予測部314は、ボイラ110が正常運転している際に、データ取得部312によって取得された複数の運転データと、補給水量の実測値とに基づき、補給水量の予測値を出力するように機械学習させて構築される。機械学習は、例えば、XGブースト、重回帰分析等である。正常運転は、ボイラ110において水のリークがない期間の運転状態である。
【0046】
図3は、予測部314の構築について説明する図である。図3に示すように、本実施形態において、予測部314は、時刻T1~時刻T2までの期間における開閉弁138aの開度の積算値Va、時刻T1~時刻T2までの期間における発電量の積算値Vb、時刻T1~時刻T2までの期間における真空度の積算値Vc、および、時刻T3~時刻T4までの期間における抜き出し蒸気量の積算値Vdと、時刻T1~時刻T2までの期間における補給水量(実測値)の積算値とに基づいて構築される。なお、時刻T4は、時刻T1~時刻T3よりも後の時刻であり、時刻T3は、時刻T1よりも後の時刻であり、時刻T2は、時刻T1よりも後の時刻である。時刻T3は、時刻T2よりも前の時刻であってもよいし、後の時刻であってもよいし、同じ時刻であってもよい。
【0047】
つまり、抜き出し蒸気量の積算値Vdを導出する際の積算期間は、開度の積算値Va、発電量の積算値Vb、真空度の積算値Vc、および、補給水量(実測値)の積算値を積算する際の積算期間よりも後の期間である。
【0048】
なお、時刻T1~時刻T2までの期間は、時刻T3~時刻T4までの期間と実質的に等しくは、例えば、1時間である。
【0049】
こうして、データ取得部312によって取得された複数の運転データ(積算値)を入力値とし、補給水量の予測値Vp(積算値)を出力値とする予測部314が構築される。
【0050】
図2に戻って説明すると、構築された予測部314を用いて、補給水量の予測値Vp(積算値)を導出する際、予測部314には、第1所定期間における開閉弁138aの開度の積算値Va、第1所定期間における発電量の積算値Vb、第1所定期間における真空度の積算値Vc、第2所定期間における抜き出し蒸気量の積算値Vdが入力される。なお、第1所定期間は、上記時刻T1~時刻T2までの期間と実質的に等しい長さである。第2所定期間は、上記時刻T3~時刻T4までの期間と実質的に等しい長さである。また、第2所定期間の終わりの時刻は、第1所定期間の終わりの時刻よりも後の時刻である。
【0051】
そして、予測部314は、入力された開度の積算値Va、発電量の積算値Vb、真空度の積算値Vc、および、抜き出し蒸気量の積算値Vdに基づき、補給水量の予測値Vp(積算値)を導出する。例えば、開度の積算値Vaが大きいほど、予測部314によって導出される補給水量の予測値Vpは大きくなる。また、発電量の積算値Vbが大きいほど、予測部314によって導出される補給水量の予測値Vpは大きくなる。また、真空度(圧力)の積算値Vcが小さいほど、予測部314によって導出される補給水量の予測値Vpは大きくなる。また、抜き出し蒸気量の積算値Vdが大きいほど、予測部314によって導出される補給水量の予測値Vpは大きくなる。
【0052】
比較部316は、データ取得部312によって取得された補給水量の実測値(第1所定期間における積算値)と、予測部314によって導出された補給水量の予測値Vp(積算値)とを比較する。
【0053】
そして、比較部316は、実測値と予測値Vpとの差分が所定の閾値以上である場合、水のリークが発生したと判定する。なお、閾値は、リークと判定できる値に設定される。
【0054】
比較部316は、リークが発生したと判定した場合、その旨を報知部320に出力させる。
【0055】
[異常検知方法]
続いて、上記異常検知装置300を用いた異常検知方法について説明する。図4は、本実施形態に係る異常検知方法の処理の流れを説明するフローチャートである。図4に示すように、異常検知方法は、データ取得工程S110と、予測値導出工程S120と、比較工程S130と、判定工程S140と、リーク報知工程S150と、正常報知工程S160を含む。以下、各工程について説明する。
【0056】
[データ取得工程S110]
データ取得工程S110は、データ取得部312が、複数の抜出機器それぞれの運転データ、および、補給水供給部190による補給水量の実測値を取得する工程である。
【0057】
[予測値導出工程S120]
予測値導出工程S120は、予測部314が、上記データ取得工程S110で取得した複数の運転データに基づき、補給水量の予測値Vpを導出する工程である。なお、上記したように、予測部314は、複数の抜出機器それぞれの運転データに基づき、補給水量の予測値Vpを出力するように機械学習させて事前に構築されている。
【0058】
[比較工程S130]
比較工程S130は、比較部316が、データ取得工程S110で取得した補給水量の実測値と、予測値導出工程S120で導出した補給水量の予測値Vpとを比較する工程である。本実施形態において、比較部316は、実測値と予測値Vpとの差分を導出する。
【0059】
[判定工程S140]
比較部316は、比較工程S130で導出した差分が所定の閾値以上であるか否かを判定する。その結果、差分が閾値以上であると判定した場合(S140におけるYES)、比較部316は、リーク報知工程S150に処理を移す。一方、差分が閾値未満であると判定した場合(S140におけるNO)、比較部316は、正常報知工程S160に処理を移す。
【0060】
[リーク報知工程S150]
比較部316は、水のリークが発生した旨を報知部320に出力させる。
【0061】
[正常報知工程S160]
比較部316は、水のリークが発生していない旨、つまり、正常である旨を報知部320に出力させる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係る異常検知装置300および異常検知方法は、正常運転時における複数の抜出機器それぞれの運転データのみを学習させて構築された予測部314を用いて、補給水量の予測値Vpを導出する。これにより、予測部314は、リーク(抜出機器以外による循環系統からの水の抜き出し)を除外し、抜出機器による水の抜き出し量のみに対応した補給水量の予測値Vpを導出することができる。したがって、比較部316は、補給水量の予測値Vpと、補給水量の実測値とを比較することで、水のリークを検知することが可能となる。このため、異常検知装置300は、ボイラ110における水のリークを精度よく検知することができる。
【0063】
また、上記したように、予測部314は、所定期間における抜出機器の運転データの積算値に基づき、補給水量の予測値Vpを導出するように構築される。また、予測部314は、リークを検知する際に、所定期間における抜出機器の運転データの積算値に基づき、補給水量の予測値Vpを導出する。これにより、予測部314の予測精度を向上させることが可能となる。
【0064】
また、上記したように、予測部314を構築する際、および、予測部314を利用する際に用いる、抜き出し蒸気量の積算値Vdを導出する際の積算期間は、開閉弁138aの開度の積算値Va、発電量の積算値Vb、および、真空度の積算値Vcを導出する際の積算期間よりも時間的に後にシフトされる。補助蒸気抜出部200によって蒸気が抜き出されて(消費されて)から、補給水供給部190によって不足分の補給水が補給されるまでには、所定時間を要する。このため、抜き出し蒸気量の積算値Vdを導出する際の積算期間を、他の積算値を導出する際の積算期間よりも時間的に後方にシフトさせることで、補給水量の予測値Vpを高精度に導出することができる。
【0065】
[実施例]
ボイラ110において、上記異常検知装置300を用いたリーク検知(実施例)と、監視員によるリーク検知(比較例)とを行った。
【0066】
図5は、異常検知装置300によって導出された実測値と予測値Vpとの差分の経時変化を説明する図である。図5中、縦軸は、実測値と予測値Vpとの差分を示し、横軸は日時を示す。
【0067】
図5に示すように、9月16日ごろから9月18日ごろまでの間、異常検知装置300によって導出された差分は、閾値程度となった。これは、補助蒸気抜出部200が、他のボイラ110の起動用に補助蒸気を大量に供給したためだと考えられる。また、異常検知装置300によって導出された差分は、9月22日ごろから上昇し始めた。そして、異常検知装置300は、9月22日にリークを検知した。一方、監視員は、9月27日にリークを検知した。
【0068】
以上の結果から、異常検知装置300は、監視員による従来技術よりも5日早くリークを検知できることが確認された。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0070】
例えば、上述した実施形態において、予測部314が、所定期間における抜出機器の運転データの積算値に基づき、補給水量の予測値を導出する場合を例に挙げた。しかし、予測部314は、抜出機器の運転データに対し、所定の統計処理を施して、補給水量の予測値を導出すればよい。統計処理は、上記所定期間における抜出機器の運転データの積算値を導出する処理のみならず、例えば、所定期間における運転データの平均値(加重平均、移動平均を含む)、または、所定期間における運転データのバラツキ(分散、標準偏差)を導出する処理である。これにより、予測部314の予測精度を向上させることが可能となる。
【0071】
また、上記実施形態において、抜き出し蒸気量の積算値Vdは、他の積算値と取得期間(積算期間)が異なる場合を例に挙げた。しかし、抜き出し蒸気量に拘わらず、予測部314において用いられる複数の運転データのうち、少なくとも1の運転データは、他の運転データと、取得タイミングまたは取得期間が異なってもよい。
【0072】
また、上記実施形態において、抜出機器として、開閉弁138a、タービン発電機150、復水器160、補助蒸気抜出部200を例に挙げた。しかし、抜出機器は、運転状態によって、補給水量が変動(増加、または、減少)する機器であれば、他の機器であってもよい。
【0073】
また、上記実施形態において、データ取得部312が、開閉弁138a、タービン発電機150、復水器160、および、補助蒸気抜出部200それぞれの運転データすべてを取得する場合を例に挙げた。しかし、データ取得部312は、開閉弁138a、タービン発電機150、復水器160、および、補助蒸気抜出部200のうちの1または2以上の運転データを取得してもよい。この場合、予測部314は、データ取得部312によって取得された運転データに基づき、補給水量の予測値を出力するように構築される。また、この場合、水の抜き出し量が相対的に多い抜出機器が選択されるとよい。
【0074】
また、上記実施形態において、時刻T1~時刻T2までの期間、時刻T3~時刻T4までの期間、第1所定期間、および、第2所定期間が実質的に等しい場合を例に挙げた。しかし、時刻T1~時刻T2までの期間、時刻T3~時刻T4までの期間、第1所定期間、および、第2所定期間のうちのいずれか1または複数の期間は、他の期間と長さが異なっていてもよい。
【0075】
また、上記実施形態において、異常検知装置300は、水のリークが発生したか否かを常時判定する場合を例に挙げた。しかし、異常検知装置300は、ボイラ110の起動前後の期間、または、意図的にボイラ110を停止する期間等の、データの取得が困難である期間、または、外乱が生じる期間については、水のリークが発生したか否かの判定期間から除外してもよい。
【0076】
なお、本明細書の異常検知方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【0077】
また、コンピュータを、異常検知装置300として機能させるプログラムや当該プログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能なフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)等の記憶媒体も提供される。ここで、プログラムは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理手段をいう。
【符号の説明】
【0078】
300:異常検知装置 312:データ取得部 314:予測部 316:比較部
図1
図2
図3
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図5