(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】検査装置及び画像生成方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20240312BHJP
【FI】
G01N23/041
(21)【出願番号】P 2023022070
(22)【出願日】2023-02-16
(62)【分割の表示】P 2019093621の分割
【原出願日】2019-05-17
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今田 昌宏
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102007001928(DE,A1)
【文献】特開昭56-12540(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074402(WO,A1)
【文献】巻渕 千穂ほか,X線タルボ・ロー干渉計による非破壊検査,Konica Minolta technology report,2019年01月,第16巻,PP.121-126
【文献】麓 隆行,新しい機構のX線CTの開発とポリマーコンクリートの圧縮試験への適用,土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),2013年,第69巻,第2号,PP.182-191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 3/00-G01N 3/62
A61B 6/00-A61B 6/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源と、複数の格子と、放射線検出器と、が放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記放射線照射軸方向に配置された、樹脂から作製されたプラスティック被検体に前記放射線源により放射線を照射して撮影を行うことにより得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被検体の微分位相画像を生成するタルボ撮影手段と、
前記被検体に負荷を与える付与手段と、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影させて微分位相画像を生成させる制御を繰り返し実行する制御手段と、
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の複数の微分位相画像に基づいて、前記微分位相画像の変化を検知する検知手段と、
を備え、
前記タルボ撮影手段は、前記制御手段の制御に基づいて前記微分位相画像を生成する際に、さらに小角散乱画像又は吸収画像を生成し、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与える前及び前記付与手段により前記被検体に負荷を与えることにより前記被検体が破断した後に前記タルボ撮影手段により撮影された複数の前記小角散乱画像、微分位相画像、又は吸収画像を解析して複数の特徴点の位置を抽出し、抽出した前記複数の特徴点間の前記
被検体に負荷を与える前と前記被検体に負荷を与えることにより前記被検体が破断した後の距離の比較に基づいて、前記被検体の内部において弾性変形した部分と塑性変形した部分を識別する識別手段を備える検査装置。
【請求項2】
放射線源と、複数の格子と、放射線検出器と、が放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記放射線照射軸方向に配置された、樹脂から作製されたプラスティック被検体に前記放射線源により放射線を照射して撮影を行うことにより得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被検体の微分位相画像を生成するタルボ撮影手段と、
前記被検体に負荷を与える付与手段と、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影させて微分位相画像を生成させる制御を繰り返し実行する制御手段と、
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の複数の微分位相画像に基づいて、前記微分位相画像の変化を検知する検知手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影して微分位相画像を生成させる制御を前記被検体が劣化するまで繰り返し実行し、
前記生成された複数の微分位相画像のそれぞれから信号値が予め定められた閾値以上の領域を抽出し、抽出した領域の信号強度、大きさ、面内分布を、その微分位相画像を撮影したときに前記付与手段により前記被検体に与えられた負荷を表す値と対応付けてデータベースに記憶させ、新たな被検体を前記タルボ撮影手段により撮影することにより得られた微分位相画像と、前記データベースに蓄積されている情報に基づいて、前記新たな被検体の劣化度合いを推定する推定手段を備える検査装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記付与手段により前記被検体に与える負荷の大きさを変化させる毎に前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影させて微分位相画像を生成させる制御を繰り返し実行する請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記タルボ撮影手段による撮影後、予め定められた条件を満たした場合に、次の前記タルボ撮影手段による撮影が行われるよう制御する請求項1~3のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項5】
前記タルボ撮影手段は、前記制御手段の制御に基づいて前記微分位相画像を生成する際に、さらに小角散乱画像又は吸収画像を生成する請求項2に記載の検査装置。
【請求項6】
前記被検体の外観を撮影して前記被検体の撮影画像を取得する撮影手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記タルボ撮影手段による撮影時に、さらに前記撮影手段により前記被検体の外観を撮影させる請求項1~5のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記被検体の温度分布画像を取得する温度分布画像取得手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記タルボ撮影手段による撮影時に、さらに前記温度分布画像取得手段により前記被検体の温度分布画像を取得させる請求項1~6のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項8】
前記タルボ撮影手段は、前記制御手段の制御に基づいて前記微分位相画像を生成する際に、さらに小角散乱画像又は吸収画像を生成し、
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の複数の小角散乱画像、微分位相画像又は吸収画像を解析して複数の特徴点の位置を抽出し、抽出した前記複数の特徴点間の距離の変化量を算出することにより、前記被検体の内部の歪分布を算出する歪分布算出手段を備える請求項1~7のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項9】
前記被検体には、複数のマーカーが配置され、
前記歪分布算出手段は、前記複数の小角散乱画像、微分位相画像、又は吸収画像を解析して前記複数のマーカーの位置を抽出し、抽出した前記複数のマーカー間の距離の変化量を算出することにより、前記被検体の内部の歪み分布を算出する請求項8に記載の検査装置。
【請求項10】
前記歪分布算出手段により算出された歪み分布に基づき歪分布画像を生成し、前記歪み分布画像における歪が大きい箇所を強調して表示手段に表示させる強調表示手段を備える請求項8又は9に記載の検査装置。
【請求項11】
前記タルボ撮影手段は、前記制御手段の制御に基づいて前記微分位相画像を生成する際に、さらに小角散乱画像又は吸収画像を生成し、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与える前及び前記付与手段により前記被検体に負荷を与えることにより前記被検体が破断した後に前記タルボ撮影手段により撮影された複数の前記小角散乱画像、微分位相画像、又は吸収画像を解析し、前記被検体の内部の変化が弾性変形によるものか塑性変形によるものかを識別する識別手段を備える請求項2に記載の検査装置。
【請求項12】
前記タルボ撮影手段により取得された前記被検体の微分位相画像を、撮影時に前記被検体に与えられた負荷を表す値、当該微分位相画像と併せて撮影又は取得された画像、及び/又は当該微分位相画像の解析結果に対応付けて表示手段に表示させる表示制御手段を備える請求項1~11のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項13】
前記タルボ撮影手段により取得された前記被検体の微分位相画像を、撮影時に前記被検体に与えられた負荷を表す値、当該微分位相画像と併せて撮影又は取得された画像、及び/又は当該微分位相画像の解析結果に対応付けて記憶手段に記憶させる記憶制御手段を備える請求項1~12のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項14】
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の画像のコントラスト及び/又はブライトネスを、画像の種類ごとに一括して調整する調整手段を備える請求項1~13のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項15】
放射線源と、複数の格子と、放射線検出器と、が放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記放射線照射軸方向に配置された、樹脂から作製されたプラスティック被検体に前記放射線源により放射線を照射して撮影を行うことにより得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被検体の微分位相画像を生成するタルボ撮影手段と、
前記被検体に負荷を与える付与手段と、
を備える検査装置における画像生成方法であって、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影させて微分位相画像と、さらに小角散乱画像又は吸収画像とを生成させる処理を繰り返し実行し、
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の複数の微分位相画像に基づいて、前記微分位相画像の変化を検知し、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与える前及び前記付与手段により前記被検体に負荷を与えることにより前記被検体が破断した後に前記タルボ撮影手段により撮影された複数の前記小角散乱画像、微分位相画像、又は吸収画像を解析して複数の特徴点の位置を抽出し、抽出した前記複数の特徴点間の前記
被検体に負荷を与える前と前記被検体に負荷を与えることにより前記被検体が破断した後の距離の比較に基づいて、前記被検体の内部において弾性変形した部分と塑性変形した部分を識別する、画像生成方法。
【請求項16】
放射線源と、複数の格子と、放射線検出器と、が放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記放射線照射軸方向に配置された、樹脂から作製されたプラスティック被検体に前記放射線源により放射線を照射して撮影を行うことにより得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被検体の微分位相画像を生成するタルボ撮影手段と、
前記被検体に負荷を与える付与手段と、
を備える検査装置における画像生成方法であって、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影させて微分位相画像を生成させる処理を繰り返し実行し、
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の複数の微分位相画像に基づいて、前記微分位相画像の変化を検知し、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影して微分位相画像を生成させる処理を前記被検体が劣化するまで繰り返し実行することにより生成された複数の微分位相画像のそれぞれから信号値が予め定められた閾値以上の領域を抽出し、抽出した領域の信号強度、大きさ、面内分布を、その微分位相画像を撮影したときに前記付与手段により前記被検体に与えられた負荷を表す値と対応付けてデータベースに記憶させ、新たな被検体を前記タルボ撮影手段により撮影することにより得られた微分位相画像と、前記データベースに蓄積されている情報に基づいて、前記新たな被検体の劣化度合いを推定する、画像生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置及び画像生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の強度や耐久性を評価するために、試験片に荷重をかけてどの程度の荷重で破壊されるのかを評価する引張試験・曲げ試験などが広く行われている。また、実際の使用条件に即した荷重を繰り返し試験片に付与して、どのぐらいの繰り返し回数で破壊されるかを評価する疲労試験や耐久試験なども広く行われている。
また、実際の製品では一定の荷重を繰り返し加える耐久試験を長期間繰り返すことで、最終的な寿命が要求仕様を満足しているかどうかを評価しているが、評価に長い時間を要するため、耐久試験時の変化をもとにFEM(有限要素法)などの解析と組み合わせて、短時間の試験で製品寿命を予測する方法も考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
荷重をかけた時に試験片が破壊に至るメカニズムとしては、応力によって微小なボイド・クラックが内部に発生し、それが拡大・つながることによって、最終的に破壊に至ると考えられている。そこで、耐久試験時の試験片内部の変化を可視化することが求められるが、従来の光学顕微鏡では試験片の内部を観察できず、X線透視装置を用いた検査方法では分解能が不足しており、破断の起点、根本原因である微小なボイド・クラックを可視化することができない。
【0004】
高分解能のマイクロCTであれば、微小なボイド・クラックを可視化できるが以下のような課題がある。
・1回の測定に数十分~数時間という長い時間がかかる。
・測定できる領域の大きさが分解能を高くしたときには非常に狭くなる(例えばボクセルサイズ1ミクロンの場合、測定領域はおおよそ1mm3程度)。
・試験片を複数の方向から撮影する必要があるため、X線源と検出器を固定して試験片を回転させる、もしくは試験片を固定してX線源と検出器をセットにして回転させる必要があり、試験片のサイズが限定される。あまり大きな試験片だと回転させたときにX線源や検出器にぶつかってしまう。また、測定に大がかりな機構が必要である。
そのため、マイクロCTで引張試験などを行いながらin situ評価することは非常に難しい。しかし、今後製品をより軽量化・小型化するためには、部材を薄型・軽量にしつつ強度はより高めた新規材料を開発していく必要があり、そのためには破壊のメカニズムをより詳細に解明することが求められる。具体的には、破壊の起点やその時のその場所におけるボイド、クラックが進展していく様子などをより詳細に、かつ簡便に評価できる方法が求められている。
【0005】
例えば、非特許文献1に記載のように、シンクロトロンを利用したX線源(X線量が非常に強く分解能が高い)を利用すれば、試験片に荷重を付与した時に亀裂が進展する様子を撮影することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Y.-C.Hung et. al., “Fatigue crack growth and load redistribution in Ti/SiC composites observed in situ”,Acta Materialia, vol.57, pp.590-599 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、シンクロトロンは、非常に大掛かりで高価なものであり、大学などの研究用途ならともかく、一般の製品開発で頻繁に使用することはできない。
【0009】
本発明の課題は、大掛かりな装置を使用することなく、被写体に負荷を与えたときの、従来の吸収X線画像では見えないような被写体内部の変化を、より短い撮影時間でより広い視野で取得して観察できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の検査装置は、
放射線源と、複数の格子と、放射線検出器と、が放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記放射線照射軸方向に配置された、樹脂から作製されたプラスティック被検体に前記放射線源により放射線を照射して撮影を行うことにより得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被検体の微分位相画像を生成するタルボ撮影手段と、
前記被検体に負荷を与える付与手段と、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影させて微分位相画像を生成させる制御を繰り返し実行する制御手段と、
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の複数の微分位相画像に基づいて、前記微分位相画像の変化を検知する検知手段と、
を備え、
前記タルボ撮影手段は、前記制御手段の制御に基づいて前記微分位相画像を生成する際に、さらに小角散乱画像又は吸収画像を生成し、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与える前及び前記付与手段により前記被検体に負荷を与えることにより前記被検体が破断した後に前記タルボ撮影手段により撮影された複数の前記小角散乱画像、微分位相画像、又は吸収画像を解析して複数の特徴点の位置を抽出し、抽出した前記複数の特徴点間の前記被検体に負荷を与える前と前記被検体に負荷を与えることにより前記被検体が破断した後の距離の比較に基づいて、前記被検体の内部において弾性変形した部分と塑性変形した部分を識別する識別手段を備える。
また、本発明の検査装置は、
放射線源と、複数の格子と、放射線検出器と、が放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記放射線照射軸方向に配置された、樹脂から作製されたプラスティック被検体に前記放射線源により放射線を照射して撮影を行うことにより得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被検体の微分位相画像を生成するタルボ撮影手段と、
前記被検体に負荷を与える付与手段と、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影させて微分位相画像を生成させる制御を繰り返し実行する制御手段と、
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の複数の微分位相画像に基づいて、前記微分位相画像の変化を検知する検知手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影して微分位相画像を生成させる制御を前記被検体が劣化するまで繰り返し実行し、
前記生成された複数の微分位相画像のそれぞれから信号値が予め定められた閾値以上の領域を抽出し、抽出した領域の信号強度、大きさ、面内分布を、その微分位相画像を撮影したときに前記付与手段により前記被検体に与えられた負荷を表す値と対応付けてデータベースに記憶させ、新たな被検体を前記タルボ撮影手段により撮影することにより得られた微分位相画像と、前記データベースに蓄積されている情報に基づいて、前記新たな被検体の劣化度合いを推定する推定手段を備える。
【0011】
また、本発明の画像生成方法は、
放射線源と、複数の格子と、放射線検出器と、が放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記放射線照射軸方向に配置された、樹脂から作製されたプラスティック被検体に前記放射線源により放射線を照射して撮影を行うことにより得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被検体の微分位相画像を生成するタルボ撮影手段と、
前記被検体に負荷を与える付与手段と、
を備える検査装置における画像生成方法であって、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影させて微分位相画像と、さらに小角散乱画像又は吸収画像とを生成させる処理を繰り返し実行し、
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の複数の微分位相画像に基づいて、前記微分位相画像の変化を検知し、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与える前及び前記付与手段により前記被検体に負荷を与えることにより前記被検体が破断した後に前記タルボ撮影手段により撮影された複数の前記小角散乱画像、微分位相画像、又は吸収画像を解析して複数の特徴点の位置を抽出し、抽出した前記複数の特徴点間の前記被検体に負荷を与える前と前記被検体に負荷を与えることにより前記被検体が破断した後の距離の比較に基づいて、前記被検体の内部において弾性変形した部分と塑性変形した部分を識別する。
また、本発明の画像生成方法は、
放射線源と、複数の格子と、放射線検出器と、が放射線照射軸方向に並んで設けられ、前記放射線照射軸方向に配置された、樹脂から作製されたプラスティック被検体に前記放射線源により放射線を照射して撮影を行うことにより得られるモアレ縞画像に基づいて、少なくとも前記被検体の微分位相画像を生成するタルボ撮影手段と、
前記被検体に負荷を与える付与手段と、
を備える検査装置における画像生成方法であって、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影させて微分位相画像を生成させる処理を繰り返し実行し、
前記タルボ撮影手段により生成された前記被検体の複数の微分位相画像に基づいて、前記微分位相画像の変化を検知し、
前記付与手段により前記被検体に負荷を与えながら前記タルボ撮影手段により前記被検体を撮影して微分位相画像を生成させる処理を前記被検体が劣化するまで繰り返し実行することにより生成された複数の微分位相画像のそれぞれから信号値が予め定められた閾値以上の領域を抽出し、抽出した領域の信号強度、大きさ、面内分布を、その微分位相画像を撮影したときに前記付与手段により前記被検体に与えられた負荷を表す値と対応付けてデータベースに記憶させ、新たな被検体を前記タルボ撮影手段により撮影することにより得られた微分位相画像と、前記データベースに蓄積されている情報に基づいて、前記新たな被検体の劣化度合いを推定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大掛かりな装置を使用することなく、被写体に負荷を与えたときの、従来の吸収X線画像では見えないような被写体内部の変化を、より短い撮影時間でより広い視野で取得して観察できるようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る検査装置の構成例を示す図である。
【
図3】コントローラーの機能的構成を示すブロック図である。
【
図5】第1の実施形態において
図3の制御部により実行される撮影処理Aを示すフローチャートである。
【
図7】実施例1において使用された試験片を示す図である。
【
図8】実施例1における引張伸び量と応力の関係を示す図である。
【
図9】実施例1において生成された吸収画像、小角散乱画像、微分位相画像を時系列に並べた図である。
【
図10】実施例2における引張伸び量と応力の関係を示す図である。
【
図11】実施例2において生成された吸収画像、小角散乱画像、微分位相画像を時系列に並べた図である。
【
図12】実施例3において使用された試験片を示す図である。
【
図13】実施例3における引張伸び量と応力の関係を示す図である。
【
図14】実施例3において生成された吸収画像、小角散乱画像、微分位相画像を時系列に並べた図である。
【
図16】アルミダイキャスト部品をタルボ撮影した画像である。
【
図17】画像解析による内部応力推定の実施例において生成された歪分布画像を小角散乱画像と並べて示す図である。
【
図18】弾性変形と塑性変形の識別の実施例において生成された歪解析結果を小角散乱画像と並べて示す図である。
【
図19】取得画像の表示方法の一例を示す図である。
【
図20】被写体がセットされた引張試験機を上方から見た図である。
【
図21】第2の実施形態に係る検査装置の構成例を示す図である。
【
図22】第2の実施形態において
図3の制御部により実行される撮影処理Bを示すフローチャートである。
【
図23】実施例4において生成された吸収画像、小角散乱画像、微分位相画像を時系列に並べた図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
第1の実施形態では、被写体に与える負荷を荷重とした例について、第2の実施形態では、被写体に与える負荷を熱とした例について説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
(放射線撮影システムの構成)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る検査装置100を模式的に示した図である。
検査装置100は、試験片等の被検体(被写体H)に引張試験を行いながら被写体Hの撮影を行う装置である。
【0016】
図1に示すように、検査装置100は、本体部1とコントローラー5を備える。
本体部1は、
図1に示すように、放射線源11と、マルチスリット12及び付加フィルター・コリメーター112を含む第1のカバーユニット120と、被写体台13、第1格子14、第2格子15、及び放射線検出器16を含む第2のカバーユニット130と、支柱17と、基台部19と、を有するタルボ・ロー干渉計を備える。本体部1のタルボ・ロー干渉計は縦型であり、放射線源11、マルチスリット12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、放射線検出器16は、この順序に重力方向であるz方向に配置されている。本体部1の第1のカバーユニット120と第2のカバーユニット130の間には、カメラ21、ミラー22が設けられている。また、被写体台13には、引張試験機23が設けられている。
【0017】
マルチスリット12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、放射線検出器16は、同一の基台部19に保持されて支柱17に取り付けられている。基台部19は、支柱17に対してz方向に移動可能に構成されていてもよい。
また、支柱17には、基台部19のほか、放射線源11が取り付けられている。放射線源11は、緩衝部材17aを介して支柱17に保持されている。緩衝部材17aは、衝撃や振動を吸収できる材料であれば何れの材料を用いてもよいが、例えばエラストマー等が挙げられる。放射線源11は放射線の照射によって発熱するため、放射線源11側の緩衝部材17aは加えて断熱素材であることが好ましい。
【0018】
放射線源11は、X線管を備え、当該X線管によりX線を発生させてz方向(重力方向)にX線を照射する。X線管としては、例えばクーリッジX線管や回転陽極X線管を用いることができる。陽極としては、タングステンやモリブデンを用いることができる。
放射線源11の焦点径は、0.03~3(mm)が好ましく、さらに好ましくは0.1~1(mm)である。
なお、本実施形態では、X線を用いて撮影を行う場合を例にとり説明するが、他の放射線、例えば、中性子線、ガンマ線等を用いてもよい。
【0019】
第1のカバーユニット120は、放射線源11の直下に設けられたユニットである。第1のカバーユニット120は、
図1に示すように、マルチスリット12、取付用アーム12b、付加フィルター・コリメーター112等を備えて構成されている。第1のカバーユニット120の各構成要素は、カバー部材に覆われて保護されている。
【0020】
マルチスリット12(G0格子)は回折格子であり、
図2に示すように、放射線照射軸方向(ここではz方向)と直交するx方向に複数のスリットが所定間隔で配列されて設けられている。マルチスリット12はシリコンやガラスといった放射線の吸収率が低い材質の基板上に、タングステン、鉛、金といった放射線の遮蔽力が大きい、つまり放射線の吸収率が高い材質により形成される。例えば、フォトリソグラフィーによりレジスト層がスリット状にマスクされ、UVが照射されてスリットのパターンがレジスト層に転写される。露光によって当該パターンと同じ形状のスリット構造が得られ、電鋳法によりスリット構造間に金属が埋め込まれて、マルチスリット12が形成される。
【0021】
マルチスリット12のスリット周期(格子周期)は1~60(μm)である。スリット周期は、
図2に示すように隣接するスリット間の距離を1周期とする。スリットの幅(各スリットのスリット周期方向(x方向)の長さ)はスリット周期の1~60(%)の長さであり、さらに好ましくは10~40(%)である。スリットの高さ(z方向の高さ)は1~1500(μm)であり、好ましくは30~1000(μm)である。マルチスリット12は、取付用アーム12bに支持されて基台部19に取り付けられている。
【0022】
付加フィルター・コリメーター112は、放射線源11から照射されるX線の照射領域を制限するとともに、放射線源11から照射されるX線の中から撮影に寄与しない低エネルギー成分を除去するものである。
【0023】
第2のカバーユニット130は、
図1に示すように、被写体台13、第1格子14及び第2格子15、移動機構15a、放射線検出器16等を備えて構成されている。第2のカバーユニット130は、上面が被写体台13となっており、被写体台13の周囲をカバー部材で覆うことにより、被写体Hや技師の接触によるダメージや塵埃の侵入から内部の構成要素を保護している。また、ユニット内の温度が外気の影響を受けにくくなるため、第1格子14及び第2格子15の熱膨張等による格子位置の変動を低減することができる。
【0024】
被写体台13は、被写体Hを載置するための台である。
被写体台13上には、引張試験機23が設けられており、引張試験機23に被写体Hが保持されるようになっている。
【0025】
第1格子14(G1格子)は、マルチスリット12と同様に、放射線照射軸方向であるz方向と直交するx方向に複数のスリットが配列されて設けられた回折格子である。第1格子14は、マルチスリット12と同様にUVを用いたフォトリソグラフィーによって形成することもできるし、いわゆるICP法によりシリコン基板に微細細線で深掘加工を行い、シリコンのみで格子構造を形成することとしてもよい。第1格子14のスリット周期は1~20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の20~70(%)であり、好ましくは35~60(%)である。スリットの高さは1~100(μm)である。
【0026】
第2格子15(G2格子)は、マルチスリット12と同様に、放射線照射軸方向であるz方向と直交するx方向に複数のスリットが配列されて設けられた回折格子である。第2格子15もフォトリソグラフィーにより形成することができる。第2格子15のスリット周期は1~20(μm)である。スリットの幅はスリット周期の30~70(%)であり、好ましくは35~60(%)である。スリットの高さは1~100(μm)である。第2格子15に隣接して、第2格子15をx方向に移動させる移動機構15aが設けられている。移動機構15aは、モーター等の駆動により第2格子15をx方向に直線送り可能であればどのような構成のものを用いてもよい。
【0027】
放射線検出器16は、照射された放射線に応じて電気信号を生成する変換素子が2次元状に配置され、当該変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取る。放射線検出器16の画素サイズは10~300(μm)であり、さらに好ましくは50~200(μm)である。放射線検出器16は第2格子15に当接するように基台部19に位置を固定することが好ましい。第2格子15と放射線検出器16間の距離が大きくなるほど、放射線検出器16により得られるモアレ縞画像がボケるからである。
【0028】
放射線検出器16としては、FPD(Flat Panel Detector)を用いることができる。
FPDには、放射線をシンチレーターを介して光電変換素子により電気信号に変換する間接変換型、放射線を直接的に電気信号に変換する直接変換型があるが、何れを用いてもよい。
また、放射線検出器16としては、第2格子15の強度変調効果を与えた放射線検出器を使用しても良い。例えば、シンチレーターに第2格子15のスリットと同等の周期および幅で不感領域を与えるために、シンチレーターに溝を掘り、格子状のシンチレーターとしたスリットシンチレーター検出器を放射線検出器16として用いても良い(参照文献1:Simon Rutishauser et al.,「Structured scintillator for hard x-ray grating interferometry」,APPLIED PHYSICS LETTERS 98, 171107 (2011))。この構成の放射線検出器16は、第2格子15と放射線検出器16とを兼ね備えたものであるため、第2格子15を別途設ける必要はない。即ち、スリットシンチレーター検出器を備えることは、第2格子15と放射線検出器16を備えていることと同じである。
【0029】
なお、本体部1のタルボ・ロー干渉計は、上側に設けられた放射線源11から下方の被写体Hに向けてX線を照射するように構成されている場合(いわゆる縦型の場合)として説明したが、これに限らず、下側に設けられた放射線源11から上方の被写体Hに向けてX線を照射するように構成してもよい。また、X線を水平方向(いわゆる横型の場合)に照射するなど任意の方向に照射するように構成することも可能である。
【0030】
カメラ21は、撮像レンズ、CCD(Charge Coupled Device)等のイメージセンサからなる撮像素子、A/D変換回路等を備えて構成され、撮像レンズを通過した被写体Hの光学像を撮像素子により2次元の画像信号に変換し、被写体Hの外観を表す撮影画像を取得する撮影手段である。カメラ21は、静止画撮影を行うものであってもよいし、動画撮影を行うビデオカメラであってもよい。
カメラ21の位置は、被写体Hが撮影できる位置であればどこでもよいが、タルボ・ロー干渉計と同一光軸上であれば、カメラ21により得られた撮影画像をタルボ・ロー干渉計による撮影により得られた小角散乱画像又は微分位相画像と比較するときに画像の歪み等がなくそのまま比較できるので好ましい。本実施形態では、放射線源11による放射線の照射軸上にミラー22を配置し、ミラー22により被写体Hの光学像をカメラ21の撮像レンズに導くようにしている。ミラー22は、アルミニウム、ガラス等、放射線を遮蔽しないものとする。
【0031】
引張試験機23は、被写体Hを保持する治具を移動させることにより被写体Hに引張荷重を与えるものである。引張試験機23は、被写体Hを両側から引っ張るように構成されており、引張試験時に被写体Hの中央が撮影視野から逃げないようになっている。引張試験機23は、負荷を与える付与手段として機能する。
【0032】
コントローラー5は、
図3に示すように、制御部51、操作部52、表示部53、通信部54、記憶部55を備えて構成されている。
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory
)等から構成されている。制御部51は、本体部1の各部(例えば、放射線源11、放射線検出器16、移動機構15a、カメラ21、引張試験機23等)に接続されており、各部の動作を制御する。また、制御部51は、記憶部55に記憶されているプログラムとの協働により、後述する撮影処理Aを始めとする各種処理を実行する。
制御部51は、制御手段、歪分布算出手段、強調表示手段、識別手段、表示制御手段、記憶制御手段、調整手段、推定手段として機能する。また、放射線源、格子(マルチスリット12、第1格子14、第2格子15)、放射線検出器16等との協働によりタルボ撮影手段として機能する。
【0033】
操作部52は、曝射スイッチや撮影条件等の入力操作に用いるキー群の他、表示部53のディスプレイと一体に構成されたタッチパネルを備え、これらの操作に応じた操作信号を生成して制御部51に出力する。
表示部53は制御部51の表示制御に従って、ディスプレイに操作画面、本体部1の動作状況等を表示する。
【0034】
通信部54は、通信インターフェイスを備え、ネットワーク上の外部機器と通信を行う。
記憶部55は、不揮発性の半導体メモリーやハードディスク等により構成され、制御部51により実行されるプログラム、プログラムの実行に必要なデータを記憶している。
【0035】
(タルボ干渉計、タルボ・ロー干渉計による撮影)
ここで、タルボ干渉計、タルボ・ロー干渉計による撮影方法を説明する。
図4に示すように、放射線源11から照射されたX線が第1格子14を透過すると、透過したX線がz方向に一定の間隔で像を結ぶ。この像を自己像といい、自己像が形成される現象をタルボ効果という。自己像を結ぶ位置に第2格子15が自己像と概ね平行に配置され、第2格子15を透過したX線によりモアレ縞画像(
図4においてMoで示す)が得られる。即ち、第1格子14は、周期パターンを形成し、第2格子15は周期パターンをモアレ縞に変換する。放射線源11と第1格子14間に被写体Hが存在すると、被写体HによってX線の位相がずれるため、
図4に示すようにモアレ縞画像上のモアレ縞は被写体Hの辺縁を境界に乱れる。このモアレ縞の乱れを、モアレ縞画像を処理することによって検出し、被写体像を画像化することができる。これがタルボ干渉計の原理である。
【0036】
本体部1では、放射線源11と第1格子14との間の放射線源11に近い位置に、マルチスリット12が配置され、タルボ・ロー干渉計によるX線撮影が行われる。タルボ干渉計は放射線源11が理想的な点線源であることを前提としているが、実際の撮影にはある程度焦点径が大きい焦点が用いられるため、マルチスリット12によってあたかも点線源が複数連なってX線が照射されているかのような効果が得られる。これがタルボ・ロー干渉計によるX線撮影法であり、焦点径がある程度大きい場合にも、タルボ干渉計と同様のタルボ効果を得ることができる。
【0037】
本実施形態の本体部1においては、被写体Hの再構成画像を生成するために必要なモアレ縞画像を、縞走査法により撮影する。縞走査とは、一般的には、格子(マルチスリット12、第1格子14、第2格子15)のうちの何れか1枚(本実施形態では、第2格子15とする)または2枚をスリット周期方向(x方向)に相対的に動かしてM回(Mは正の整数、吸収画像はM>2、微分位相画像と小角散乱画像はM>3)の撮影(Mステップの撮影)を行い、再構成画像を生成するのに必要なM枚のモアレ縞画像を取得することをいう。具体的には、移動させる格子のスリット周期をd(μm)とすると、d/M(μm)ずつ格子をスリット周期方向に動かして撮影を行うことを繰り返し、M枚のモアレ縞画像を取得する。
【0038】
モアレ縞画像に基づいて生成される再構成画像には、小角散乱画像、微分位相画像、吸収画像がある。
小角散乱画像は、微小構造でのX線の散乱を画像化したもので、X線の散乱が大きいほど信号値が大きくなる。小角散乱画像では、画素サイズよりも小さい数um~数十umの微小
構造集合体を捉えることができる。
微分位相画像は、被写体によるX線の屈折を画像化したもので、X線の屈折が大きいほど信号値が大きくなる。吸収画像では軽元素ほど感度が低くなるが、微分位相画像では軽元素でも感度を高く保てるため、吸収画像で捉えにくい物質の変化も捉えることができる。
吸収画像は、被写体によるX線の吸収を画像化したもので、従来からの単純X線画像と同等の画像である。
【0039】
(検査装置100の動作)
次に、検査装置100の動作について説明する。
図5は、検査装置100の制御部51と記憶部55に記憶されているプログラムとの協働により実行される撮影処理Aを示すフローチャートである。撮影処理Aは、引張試験機23により被写体Hに与える荷重(引張荷重)又は引張長さを段階的に変化させていき、各段階ごと(引張ステップと呼ぶ)に被写体Hの撮影等を行う処理である。撮影処理Aは、被写体Hが引張試験機23にセットされ、操作部52により検査条件(例えば、撮影ごとに被写体Hに付与する荷重又は引張長さ(引張試験機23における被写体Hを保持する治具であるクランプの移動距離の設定値等)が入力され撮影実行が指示されることにより実行される。本実施形態では、撮影処理Aの開始前に、被写体Hを引張試験機23にセットしない状態、もしくは被写体Hを引張試験機23ごと被写体台13から除いた状態で、第2格子15を移動させて被写体なしのモアレ縞画像(BG(Back Ground)モアレ縞画像と呼ぶ)をM枚(例えば、4枚)取得して記憶部55に記憶していることとする。
【0040】
撮影処理Aが開始されると、制御部51は、引張試験機23により荷重を付与する前の被写体Hの撮影を行う。
すなわち、制御部51は、カメラ21により被写体Hを撮影させ、撮影画像を取得する(ステップS1)。撮影画像には、画像を識別するための画像番号、撮影条件、撮影日時等が付帯される。
次いで、制御部51は、放射線源11、移動機構15a、放射線検出器16等を制御して、上述のタルボ効果を利用してモアレ縞画像を取得する撮影(タルボ撮影と呼ぶ)を行う。本実施形態においては、縞走査法により、格子(本実施形態では第2格子15)をスリット周期方向に移動させながらM枚の被写体有りのモアレ縞画像(被写体モアレ縞画像と呼ぶ)を取得する。そして、予め取得されたBG縞モアレ画像と、被写体モアレ縞画像に基づいて、再構成画像(小角散乱画像、微分位相画像、吸収画像)を生成する(ステップS2)。
【0041】
再構成画像の生成は、例えば、まず、被写体モアレ縞画像に、オフセット補正処理、ゲイン補正処理、欠陥画素補正処理、X線強度変動補正等を施す。次いで、補正後の被写体モアレ縞画像及び構成画像生成用のBGモアレ縞画像に基づいて、再構成画像を生成する。吸収画像は、M枚の被写体モアレ縞画像の加算画像をM枚のBGモアレ縞画像の加算画像で割り算することにより生成される透過率画像を対数変換することにより生成される。微分位相画像は、被写体モアレ縞画像とBGモアレ縞画像のそれぞれについて縞走査法の原理を用いてモアレ縞の位相を計算することにより被写体有りの微分位相画像と被写体無しの微分位相画像をそれぞれ生成し、生成した被写体有りの微分位相画像から被写体無しの微分位相画像を減算することにより生成される。小角散乱画像は、被写体モアレ縞画像とBGモアレ縞画像のそれぞれについて縞走査法の原理を用いてモアレ縞のVisibilityを計算することにより(Visibility=振幅÷平均値)、被写体有りの小角散乱画像と被写体無しの小角散乱画像をそれぞれ生成し、生成した被写体有りの小角散乱画像を被写体無しの小角散乱画像で割り算することにより生成される(参照文献2;Timm Weitkamp,Ana Diazand,Christian David, franz Pfeiffer and Marco Stampanoni, Peter Cloetens and Eric Ziegler,X-ray Phase Imaging with a grating interferometer,OPTICSEXPRESS,Vol.13, No.16,6296-6004(2005)、参照文献3;Atsushi Momose, Wataru Yashiro, Yoshihiro Takeda, Yoshio Suzuki and Tadashi Hattori, Phase Tomography by X-ray Talbot Interferometry for Biological Imaging, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.45, No.6A, 2006, pp.5254-5262(2006)、参照文献4;F.Pfeiffer, M.Bech,O.Bunk, P.Kraft, E.F.Eikenberry, CH.Broennimann,C.Grunzweig, and C.David,Hard-X-ray dark-field imaging using a grating interferometer, nature materials Vol.7,134-137(2008)参照)。
再構成画像には、画像を識別するための画像番号、検査条件、タルボ撮影における撮影条件、撮影日時等が付帯される。
【0042】
なお、ステップS1とS2の順序は逆であってもよいし、同時であってもよい。カメラ21で撮影画像を取得する目的は、被写体Hを目視で観察したのと同様の画像、すなわち、被写体Hの外観を可視化した画像を取得することによって、タルボ撮影により取得される小角散乱画像や微分位相画像と比較検討するためのものであり、タルボ撮影とできるだけ同じタイミングで撮影することが好ましい。
また、カメラ21は、静止画を撮影してもよいし、動画を撮影しても良い。動画を撮影する場合、動画のどのタイミングでタルボ撮影を行ったかが分かるような信号が同時に記録されていることが好ましい。例えば、タルボ撮影時に発光するインジケーターをカメラ21の視野内に配置し、被写体Hと同時に撮影しても良いし、動画に付帯される動画記録時のタイムスタンプと再構成画像に付帯されるタルボ撮影の時間を比較するなど、色々な方法が考えられる。また、カメラ21で撮影を行うのではなく、ステップS2でタルボ撮影に基づいて生成された吸収画像を小角散乱画像や微分位相画像との比較用の画像としてもよい。この場合は、ステップS1は省略できる。また、複数手段を用いて比較用の画像を取得しても良い。例えば、サーモグラフィー装置(温度分布画像取得手段)を別途備え、被写体Hの温度を変えるような場合は、サーモグラフィー装置で被写体Hの温度分布画像を同時に取得しても良い。
【0043】
次いで、制御部51は、ステップS1で取得した撮影画像(温度分布画像を取得した場合は温度分布画像も含む)、ステップS2で取得した再構成画像をステップS1、S2の撮影時に引張試験機23により被写体Hに与えた負荷の値に対応付けて記憶部55に記憶させる(ステップS3)。なお、負荷の値としては、荷重そのものの値であってもよいし、引張試験機23における被写体Hを保持する冶具であるクランプの移動距離(引張長さ、引張伸び量に対応)であってもよいし、その両方でもよい。また、応力の値であってもよい。
【0044】
次いで、制御部51は、処理の終了条件を満たしたか否かを判断する(ステップS4)。処理の終了条件としては、例えば、
・引張試験機23の荷重が目標値に達した
・引張試験機23の引張長さが目標値に達した
・被写体Hが破断した
・異常発生(例えば、固定が不十分で被写体Hが引張試験機23から外れてしまった等)・所定の繰り返し回数の試験が終了した
などが挙げられる。
【0045】
被写体Hが破断したか否かは、例えば、ユーザーにより、破断を検知したことを示す操作部52の所定の操作が行われたか否か(例えば、破断を検知した場合に押下するためのボタンを設けておき、そのボタンが押下されたか否か等)により判断してもよいし、タルボ撮影に基づいて生成された再構成画像を解析することにより判断してもよい。あるいは、引張試験機23において一定距離引っ張ったのに荷重が増えない、逆に減少してしまう等から破断が起こったことを判断しても良い。
また、異常が発生したか否かは、例えば、ユーザーにより、異常を検知したことを示す操作部52の所定の操作が行われたか否か(例えば、異常を検知した場合に押下するためのボタンを設けておき、そのボタンが押下されたか否か等)により判断してもよいし、タルボ撮影に基づいて生成された再構成画像を解析することにより判断してもよい。あるいは、引張試験機23の荷重が減少し、設定値以下になった等から異常が発生したことを判定してもよい。
【0046】
処理の終了条件を満たしていないと判断した場合(ステップS4;NO)、制御部51は、検査条件に基づいて、引張試験機23の荷重もしくは引張長さの設定変更を行い、引張試験機23により被写体Hに与える荷重を変化させる(ステップS5)。
【0047】
次いで、制御部51は、引張試験機23の荷重もしくは引張長さが設定値になったか否かを判断する(ステップS6)。
ここで、引張試験機23は、ロードセル等の力を検出する力センサーを備え、この力センサーにより被写体Hに与えた荷重を測定して制御部51に出力している。また、引張試験機23は、被写体Hを保持する冶具であるクランプの移動距離を測定するセンサーを備え、このセンサーにより測定された移動距離を制御部51に出力している。制御部51は、これらのセンサーにより測定された荷重や移動距離に基づいて、ステップS6の判断を行う。
【0048】
引張試験機23が被写体Hに与えた荷重もしくは引張長さが設定値になっていないと判断した場合(ステップS6;NO)、制御部51は、荷重もしくは引張長さが設定値になるまで待機する。
引張試験機23が被写体Hに与えた荷重もしくは引張長さが設定値になったと判断した場合(ステップS6;YES)、制御部51は、ステップS7に移行する。
なお、引張試験機23の設定値を荷重で設定する場合、設定値に到達したらその後停止する設定と、設定値に到達した後も設定値の荷重を常に保持し続けるように、引張長さを微調整し続ける設定の2種類がある。後者の場合、クリープ現象(物体に持続応力が作用すると、時間の経過とともに歪みが増大する現象)が大きな被写体Hの場合、引張長さが徐々に長くなってしまう。その場合、被写体Hの変形がどんどん大きくなる、つまり伸び続けることとなり、タルボ撮影時に画像がぼけてしまう、ひどい場合には画像が再構成できなくなり撮影に失敗する恐れがある。そのため、タルボ撮影と組み合わせる場合は、荷重が設定値に到達したら引張試験機23のクランプの移動を停止する設定を用いることが好ましい。
【0049】
ステップS7において、制御部51は、放射線源11の管球の温度が予め定められた基準より低いか否かを判断する(ステップS7)。
放射線源11の管球の温度が予め定められた基準より低くないと判断した場合(ステップS7;NO)、制御部51は、放射線源11の管球の温度が予め定められた基準より低くなるまで待機する。
放射線源11によりX線を照射した結果、放射線源11の管球内部の陽極の温度が高くなった場合は、冷却されて温度が基準の値より下がるまで、次のX線照射を待つ必要がある。放射線源11の管球の温度が予め定められた基準より低いか否かは、例えば、放射線源11に設けられた温度計の値により判断してもよいし、放射線源11に設定した電力と時間に基づいて管球の温度を予測して判断してもよい。また、冷却能力が高い、あるいは連続でX線を照射できる放射線源11など、X線を長時間照射しても内部の温度が高くならず、冷却のための待ち時間が不要な場合は、このプロセスは不要である。
【0050】
放射線源11の管球の温度が予め定められた基準より低いと判断した場合(ステップS7;YES)、制御部51は、被写体Hの変形が安定したか否かを判断する(ステップS8)。
ここで、設定どおりに引張試験機23による荷重の付与(クランプの移動)が完了しても、実際には、応力緩和により被写体Hの応力は徐々に減少していく。
図6に、応力緩和の様子を示す。
図6において、横軸は時間、縦軸は応力を示す。矢印のタイミングで引張試験機23の設定値が変更され、被写体Hの応力が大きくなっている。局所ピークの時点で引張試験機23の荷重の付与(クランプの移動)は終了しているが、その後徐々に応力が減少している様子が分かる。これは、引張試験機23は動いていないが、被写体Hが徐々に伸びた結果、応力が減少していることを示している。この時、被写体Hは徐々に変形しており、この応力緩和による変形が大きく生じているタイミング(≒応力が大きく減少しているタイミング。
図6のグラフの傾きが大きいタイミング。)でタルボ撮影を行っても、画像がぼけるあるいは撮影に失敗してしまう。そこで被写体Hの変形が安定している(≒応力の変化が小さい、飽和している。例えば、
図6のグラフの傾きの絶対値が所定の閾値以下である。)ことを応力値の変化やカメラ21の画像などで確認してから、次のステップであるカメラ撮影、タルボ撮影に進むことが望ましい。
なお、応力(N/m
2=Pa)は、引張試験機23から出力される荷重(N)と被写体Hの断面積から算出することができる。
【0051】
被写体Hの変形が安定していないと判断した場合(ステップS8;NO)、制御部51は、被写体Hの変形が安定するのを待機する。
被写体Hの変形が安定したと判断した場合(ステップS8;YES)、制御部51は、ステップS1に戻り、撮影を行う。
制御部51は、終了条件を満たすまで上述のステップを繰り返し実行し、終了条件を満たしたと判断したと判断した場合(ステップS4;YES)、撮影処理Aを終了する。
【0052】
上記第1の実施形態の有効性を検証するため、(実施例1)~(実施例3)の撮影を行った。
(実施例1)~(実施例3)においては、検査装置100において、試験片を被写体Hとして引張試験をしながらタルボ撮影を行い、得られた再構成画像から引張試験の最中に被写体Hの内部でどのようにマイクロクラックなどが成長していくのかを評価した。具体的には、被写体Hを引張試験機23にセットして
図5の撮影処理Aを実行し、被写体Hに引張荷重を付与し、変形が安定したらタルボ撮影を行って再構成画像を生成する、という工程を複数回繰り返した。なお、
図5のステップS1は省略し、比較用として吸収画像を用いた。
引張試験機23としては、英国DEBEN社製小型引張試験機を用いた。使用した引張試験
機は、被写体Hを両側から引っ張るようになっている。被写体Hとしては、3Dプリンターでダンベル形状に作製したABS樹脂などを用いた。(実施例1)~(実施例3)は、使用した試験片及び検査条件(荷重等)が異なっている。以下、各実施例について説明する。
【0053】
(実施例1)
3DプリンターでABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂を用いて試験片を
作製し、これを被写体Hとして撮影処理Aの手順で引張試験をしながらタルボ撮影を実施した。
図7に、試験片の形状(寸法)を示す。厚さは3mmである。また、
図8に、実施例1における引張試験による被写体Hの引張伸び量と応力のグラフを示す。
図9に、実施例1におけるタルボ撮影により得られた吸収画像、小角散乱画像、微分位相画像を時系列に並べて示す。
【0054】
図9に示すように、一般的なX線画像と同等の吸収画像では、(5)の亀裂が発生する段階、あるいは(6)の破断に至るまでほとんど変化が見られないのに対して、小角散乱画像では、破断に至る前の(2)の段階で、矢印で示すように、被写体Hの左右の端部分に白い筋が複数見られていることが分かる。また、(3)、(4)と引張長さを増やすことで、さらに、白い筋が端から内部に伸びていくとともに、新たに白い筋が表れている様子が分かる。小角散乱画像で白く映っている領域(高信号の領域)は、周囲に比べて散乱が大きいことを意味しており、これは被写体H内部に微小なクラック・ボイドなどが発生し、それによる散乱をとらえていると考えられる。(3)→(4)→(5)と引張伸び量を増やすに伴って、小角散乱画像で白く映っている領域の白さが増している(信号の強度が増加している)。これは、同じ場所でもよりクラック・ボイドが大きくなって散乱が強くなっていることを表しており、小角散乱画像を観察することで劣化の程度も判断できることが分かる。(4)の段階では、吸収画像でも被写体H左下のクラックは見えつつあるが、小角散乱画像では、それ以外の部分の劣化も捉えており、小角散乱画像の有効性を示している。最終的には、(5)に示すように、小角散乱画像では被写体Hの上下の端部から伸びてきた白い筋がつながって、(6)に示すように破断に至っている様子が分かる。微分位相画像でも、矢印で示すように、わずかにクラックの様子は捉えられているが、小角散乱画像ほど顕著ではない。
実施例1においては、タルボ撮影特有の小角散乱画像によって、破断に至る前の段階から被写体Hが劣化していく様子が捉えられており、引張試験を行いつつタルボ撮影を行って小角散乱画像を取得することにより、材料の劣化のメカニズムの検討や、より強い材料・構造の検討に有用な情報を得ることが可能となるということが確認された。
また、(6)の破断後の小角散乱画像を見ても破断個所以外に信号が強い場所が複数あり、これらの場所では破断には至っていないが内部では劣化が進行していると考えられる。すなわち、破断後の小角散乱画像を観察することにより、破断部以外に被写体Hのどの部分が劣化しているかについてもユーザーが認識することが可能となることが確認された。
【0055】
(実施例2)
3DプリンターでPLA(ポリ乳酸)樹脂を使って試験片を作製し、これを被写体Hとして撮影処理Aの手順で引張試験をしながらタルボ撮影を実施した。被写体Hの形状(寸法)は、
図7に示すものと同様である。
図10に、実施例2における引張試験による被写体Hの引張伸び量と応力のグラフを示す。
図11に、実施例2におけるタルボ撮影により得られた吸収画像、小角散乱画像、微分位相画像を時系列に並べて示す。
【0056】
図11に示すように、実施例1と同様に、一般的なX線画像である吸収画像では亀裂・破断が発生する(5)の段階まで画像に変化が見られないのに対して、小角散乱画像ではその前の(3)や(4)の段階から、被写体Hの上下端部に白い筋が複数見えている(
図3の矢印参照)。この白い筋の部分にマイクロクラックが発生していると考えられ、小角散乱画像では、劣化が始まる様子を吸収画像より早い段階でとらえていることが分かる。また、小角散乱画像では、(4)→(5)→(6)→(7)と引張伸び量を増やすにしたがって白い筋が進展して破断に至っている様子が見られる。さらに、破断後の(8)の小角散乱画像においては、破断場所以外にも白く映っている領域が見られ、破断した場所以外においても劣化が進展していると考えられる。
すなわち、実施例1と材料の異なる実施例2の被写体Hについても、タルボ撮影特有の小角散乱画像によって、破断に至る前の段階から被写体Hが劣化していく様子が捉えられており、引張試験を行いつつタルボ撮影を行って小角散乱画像を取得することにより、材料の劣化のメカニズムの検討や、より強い材料・構造の検討に有用な情報を得ることが可能となることが確認された。また、破断後の小角散乱画像を観察することにより、破断部以外に被写体Hのどの部分が劣化しているかについてもユーザーが認識することが可能となることが確認された。
【0057】
(実施例3)
CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)板(厚さ1mm)で試験片を作製し、これを被写体Hとして引張試験をしながらタルボ撮影を実施した。
図12に、試験片の形状(寸法)を示す。厚さは1mmである。また、
図13に、実施例3における引張試験による試験片の引張伸びと応力のグラフを示す。
図14に、実施例3におけるタルボ撮影により得られた吸収画像、小角散乱画像、微分位相画像を時系列に並べて示す。
【0058】
図14に示すように、実施例1、2と同様に、吸収画像では破断が発生する(8)の段階まで画像に変化が見られないのに対して、小角散乱画像では、破断する前の段階から亀裂が入っている様子が見られる。例えば、(2)の小角散乱画像を見ると、矢印で示した部分に白い縦筋が発生しており、マイクロクラックが発生していると考えられる。また、(3)→(4)と引張伸び量を増やすにしたがって試験片の白い縦筋が増加し、さらには、(5)において矢印で示すように試験片の細く削った部分だけでなく、幅が広い部分にも白い縦筋が発生し、(6)においてその数が増加し、最終的に破断に至っている。(8)の破断した後の小角散乱画像においても、白い筋が残存しており、このような場所は破断はしていないが劣化しており強度的に弱いと考えられる。
すなわち、実施例1、2と材料の異なる実施例3の試験片についても、タルボ撮影特有の小角散乱画像によって、破断に至る前の段階から被写体Hの内部が劣化していく様子が捉えられており、引張試験を行いつつタルボ撮影を行って小角散乱画像を取得することにより、材料の劣化のメカニズムの検討や、より強い材料・構造の検討に有用な情報を得ることが可能となることが確認された。また、破断後の小角散乱画像を観察することにより、破断部以外に試験片のどの部分が劣化しているかについてもユーザーが認識することが可能となることが確認された。
【0059】
このように、第1の実施形態の検査装置100の構成及び動作によれば、大掛かりな装置を使用することなく、被写体Hに負荷を与えたときの、従来の吸収X線画像では見えないような被写体内部の変化を、より短い撮影時間でより広い視野で取得して観察することが可能となる。
【0060】
以下、第1の実施形態の変形例について説明する。
【0061】
(画像解析による内部応力推定)
検査装置100の制御部51は、上記第1の実施形態の撮影処理Aで得られる一連の撮影画像又は再構成画像(吸収画像、小角散乱画像、微分位相画像)を解析して、特徴的な点を複数抽出し、被写体Hに荷重を与えたときの特徴点間の距離の変化から、被写体内部に生じた応力の強さやその分布を演算して数値化したり、さらには、それらを画像化したりして、表示部53に表示させても良い。
【0062】
例えば、実施例2の場合なら、制御部51は、
図11に示す複数の吸収画像、小角散乱画像、又は微分位相画像のそれぞれで見られる網目模様の交点1つ1つの位置や、小角散乱画像で捉えられたマイクロクラックを反映したと考えられる白い筋の位置を特徴点として抽出して各画像で数値化し(例えば、位置の座標情報を取得し)、各特徴点間の距離を演算する。次に、各引張ステップと引張前、もしくは前のステップ(1つ前でも、もっと
前でも良い)の各特徴点間の相対距離の変化を演算することで、各引張ステップにおける
被写体H内部の伸び量の大小を数値化する。この伸び量は、被写体H内部の歪量に対応する。歪量の大きさは、その部分に加わっている応力に対応するので、被写体H内部の歪量を内部応力として推定することができる。または、別途計測した、あるいは材料メーカーから入手した被写体Hの材料の伸び量と応力の関係を予め記憶部55に記憶しておき、画像から演算した伸び量と、記憶部55に記憶されている伸び量と応力の関係に基づいて、被写体Hの各点間の内部応力を推定してもよい。このようにして推定された被写体Hの各特徴点間の内部応力の分布から、制御部51は、内部応力がどの部分で強く発生しているかを特定することができる。また、被写体Hの内部応力の分布をCADモデルのシミュレーション結果などと比較することで、設計の確からしさ、どのぐらいの応力が生じたときにマイクロクラックが発生するのか、あるいは破断時の応力などを解析することができる。
【0063】
引張試験で得られた一連の再構成画像のうち、いくつかの引張ステップの画像だけを使って上記計算を行っても良い。例えば、
図11に示す画像であれば、引張前の(1)と、(3)、(5)、(7)だけを使って内部応力の分布を演算しても良い。
また、被写体H、もしくは検査装置100のどちらかを回転させて複数角度からタルボ撮影(タルボCT撮影)を行うことで3D画像を取得し、その3D画像をもとに上記演算を行っても良い。その場合、歪量(応力)の2次元面内分布ではなく、3次元分布を取得することができ、破壊メカニズムの解析やシミュレーション結果との比較をより詳細に行うことが可能となる。
上記演算結果の表示方法として、数値データで表示する以外に、歪量や応力の大小を色や矢印で示した歪分布画像や応力分布画像を作成しても良い。そして、歪分布画像や応力分布画像をカメラ21により取得された撮影画像や再構成画像に重ねて表示しても良い。歪分布画像や応力分布画像において、歪量の数値データの大きい箇所をアノテーション等により強調表示することとしてもよい。
【0064】
上述の解析の対象となる再構成画像としては、例えば、
図15に示すように、繊維を含む被写体Hをタルボ撮影することにより得られた再構成画像を用いても良い。
図15は、CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics:熱可塑性炭素繊維強化プラスティック)をタルボ撮影することにより得られた再構成画像を示す図である。
図15の(a)は吸収画像、(b)は微分位相画像、(c)は小角散乱画像である。
図15(a)~(c)に示すように、吸収画像では見えない内部の繊維が、微分位相画像や小角散乱画像では可視化できていることが分かる。このような、内部の繊維が可視化された、微分位相画像や小角散乱画像から繊維の特徴点を複数抽出して、上述のように、各引張ステップと引張前あるいは前のステップの各特徴点間の相対距離の変化を演算して演算結果を表示することで、各引張ステップにおける被写体Hの内部の歪量を可視化することができる。
図15に示す画像は2Dで撮影した結果であるが、被写体Hを複数の方向からタルボ撮影する(タルボCT撮影する)ことにより3D画像を取得して、被写体Hの内部の歪量を3次元で求めても良い。取得した各特徴点の歪量≒応力の値は、カメラ撮影やタルボ撮影などの一連の撮影によって得られた2D画像や3D画像上に、歪量や応力に応じた矢印の向き、長さ、色、それらの組み合わせを重畳して歪分布画像や応力分布画像を作成して表示しても良い。歪分布画像や応力分布画像において、歪量の数値データの大きい箇所をアノテーション等により強調表示することとしてもよい。
【0065】
また、内部にマイクロボイドが発生している被写体Hをタルボ撮影すると、吸収画像では見えない内部の微小なボイドを反映したと考えられる信号が小角散乱画像や微分位相画像で可視化される。
図16は、2つのアルミダイキャスト部品を並べてタルボ撮影した画像であり、(a)は吸収画像、(b)は微分位相画像、(c)は小角散乱画像である。
図16(b)、(c)では、(a)の吸収画像では写っていない、微小なマイクロボイドを反映したと考えられる信号が捉えられている。そこで、微分位相画像や小角散乱画像のマイクロボイドを反映したと考えられる信号の箇所を特徴点として複数の特徴点を抽出し、各特徴点間の相対距離の変化を演算して、演算結果を表示してもよい。これにより、被写体内部の歪量を可視化できる。この場合も同様に、被写体Hを複数の方向からタルボ撮影する(タルボCT撮影する)ことにより3D画像を取得して、被写体Hの内部の歪量を3次元で求めても良い。また、取得した各特徴点の歪量≒応力の値は、カメラ撮影やタルボ撮影などの一連の撮影によって得られた2D画像や3D画像上に、歪量や応力に応じた矢印の向き、長さ、色、それらの組み合わせを重畳して歪分布画像や応力分布画像を作成して表示しても良い。歪分布画像や応力分布画像において、歪量の数値データの大きい箇所をアノテーション等により強調表示することとしてもよい。
【0066】
(画像解析による内部応力推定の実施例)
ここで、実施例2で得られた
図11に示す(1)~(4)の小角散乱画像を用いて、上述の画像解析による内部応力推定を行った。具体的な処理は、以下の通りである。
・まず、
図11の(1)~(4)の各小角散乱画像を画像処理ソフト(Media Cybernetics社製 Image-Pro Plus)で画像処理して、各画像ごとに、特徴点(ここでは、網目で囲まれた黒い領域の重心)の座標を抽出した。その際、特徴点が正しく抽出できるように、画像のコントラスト、ブライトネス、抽出時の画素値の閾値、抽出する特徴点の形状などを指定した。
・次いで、(1)~(4)の小角散乱画像において、特徴点間の距離を算出し、(2)~(4)の各特徴点間の距離が引張前の(1)のそれと比べてどのくらい変化したか(相対距離の変化)を(式1)により算出した。
(引張後の特徴点間の距離-引張前の特徴点間の距離)/引張前の特徴点間の距離
・・・(式1)
ここで、特徴点間の距離が変化するのは、被写体Hを引っ張ったことにより特徴点が移動したためである。すなわち、(式1)の値は、引張による被写体内部の各特徴点間の歪量に対応する。
・次いで、被写体H内の各場所ごとに歪量を対応するグレースケールで表示した画像(歪分布画像)を作成した。
【0067】
図17は、
図11の(1)~(4)の各小角散乱画像と、上記画像解析により生成された(2)~(4)に対応する歪分布画像を並べて示した図である。なお、歪分布画像には、歪量とグレースケールとの対応関係を示すスケールバーが表示されている。
図17に示す歪分布画像には濃淡が見られ、場所ごとに歪量が異なっていることが分かる。歪の大きさは、その部分に加わっている応力に対応するので、歪分布画像は、応力分布を可視化している応力分布画像であると考えることもできる。(2)→(3)→(4)と引張伸び量が大きくなるにしたがって、歪の絶対値が増加していることが、下のスケールバーの最大値が大きくなっていることから分かる。歪が強い部分(歪分布画像で白くなっている場所付近)と、小角散乱画像で白い筋が現れている場所(マイクロクラックが発生していると考えられる場所)がおおよそ対応していることが確認できる。
【0068】
以上より、上述の画像解析によって、マイクロクラックが発生するときに被写体H内部でどのような歪分布(応力分布)が生じているのかを可視化することができ、破壊メカニズムを考察する上で有用な情報を得ることができることが確認できた。
なお、上記実施例では、小角散乱画像と歪分布を別々に表示したが、重ねて表示しても良いし、濃淡表示以外にカラー表示や矢印で表示しても良い。
【0069】
(配向状態の可視化)
内部に繊維状のものが含まれている被写体Hと格子(マルチスリット12、第1格子14及び第2格子15)の相対角度を変えながらタルボ撮影した複数の画像を解析することで、被写体Hの内部の繊維配向を可視化できることが知られている。
そこで、例えば、検査装置100において、放射線照射軸を中心として引張試験機23を回転させる(すなわち、引張試験機23にセットされた被写体Hを回転させる)回転機構(例えば、回転ステージ等)を備える。あるいは、引張試験機23を固定して、引張試験機23を除く検査装置100装置全体を放射線照射軸を中心として回転させる機構を備える。そして、制御部51は、上述の撮影処理Aにおける引張試験機23の各引張ステップにおいて、回転機構を制御して被写体Hもしくは検査装置100(格子)を回転させながら、複数回、例えば格子と被写体の相対角度が0度、60度、120度の3回撮影し、その画像を解析する。例えば、微分位相画像及び小角散乱画像において、格子のスリット延在方向(y方向)と平行な方向に配向した物質は強い信号で表されるが、格子のスリット延在方向と直交する方向に配向した物質は弱い信号で表されるという特徴がある。そのため、撮影時の格子に対する被写体Hの向きによって、被写体の同じ個所を表す画素の信号値が変化する。そこで、格子に対する被写体Hの相対角度を変えて複数回撮影することにより得られた微分位相画像又は小角散乱画像を解析し、被写体Hの同じ個所が写っている対応する画素において信号値がピーク(最大)となる相対角度を求めることで、被写体Hに含まれる繊維等の配向方向を可視化することができる。
このように、引張試験を行いながら各引張ステップで被写体Hと格子の相対角度を変えて複数のタルボ撮影を行って得られた画像を解析することで、引張を行っているときに内部の繊維の状態がどのように変化しているか、その変化とマイクロクラックの発生や進展の様子、さらには繊維の様子等も可視化することができ、材料・デバイス開発に有効なデータを取得することができる。
【0070】
(弾性変形と塑性変形の識別)
制御部51は、上記撮影処理Aにより取得された画像を解析して、被写体内部で弾性変形が起こった部分及び塑性変形が起こった部分を識別してもよい。
この場合、引張試験前の画像(例えば、実施例2の(1)の再構成画像のいずれか)と破断後の画像(例えば、実施例2の(8)の再構成画像のいずれか)を比較する。上述の(画像解析による内部応力推定)において説明したような特徴点間の距離が(1)と(8)でほぼ同じであれば、破断して応力がゼロになったことによって、元の長さに戻ったことを意味し、その部分(その特徴点間)は内部で弾性変形をしている、つまり、すべりや破壊などの現象が生じていないと判断することができる。
一方、引張試験前の画像と破断後の画像で特徴点間の距離が異なっている場合は、破断して応力がゼロになっても、もとの長さに戻っていない、つまり塑性変形していることを意味し、その部分は内部ですべりや破壊などの現象が生じていると判断することができる。
被写体H内の各特徴点ごとに上記比較を行うことで、弾性変形した部分と塑性変形した部分の分布を得ることができる。そして、例えば、タルボ撮影された(または、カメラ撮影された)画像上において、弾性変形した部分と塑性変形した部分を色分けして表示することで、弾性変形した部分と塑性変形した部分を可視化することができる。これにより、一連の試験によって被写体Hの面内がどのような態様で変形したのか(弾性変形したのか塑性変形したのか)を、より詳細に知ることができる。
上記の弾性変形と塑性変形の識別についても、2次元の画像に限らず、被写体Hを複数の方向からタルボ撮影する(タルボCT撮影する)ことにより3D画像を取得して、三次元画像に基づいて行うこととしてもよい。これにより、厚さ方向も空間分解することが可能となり、弾性変形した領域と塑性変形した領域の3次元的な空間分布を知ることが可能となる。
【0071】
(弾性変形と塑性変形の識別の実施例)
ここで、実施例2で得られた
図11に示す(1)、(8)の小角散乱画像を用いて、上述の解析により、被写体H内部の弾性変形と塑性変形の識別を行った。具体的な処理は、以下の通りである。
・まず、
図11の(1)、(8)の各小角散乱画像を画像処理ソフト(Media Cybernetics社製 Image-Pro Plus)で画像処理して、各画像ごとに、特徴点(ここでは、網目で囲まれた黒い領域の重心)の座標を抽出した。その際、特徴点が正しく抽出できるように、画像のコントラスト、ブライトネス、抽出時の画素値の閾値、抽出する特徴点の形状などを指定した。
・次いで、(1)、(8)の各小角散乱画像において、特徴点間の距離を算出し、破断後の(8)の各特徴点間の距離が引張前の(1)のそれと比べてどのくらい変化したか(相対距離の変化)を上述の(式1)により算出した。ここで、特徴点間の距離が変化するのは、被写体Hを引っ張ったことにより特徴点が移動したためである。すなわち、(式1)の値は、引張による被写体Hの歪量に対応する。
・次いで、被写体H内の各場所ごとに歪量を対応するグレースケールで表示した画像(歪分布画像)を作成した。
【0072】
図18は、
図11の(1)、(8)の各小角散乱画像と、上記識別処理により生成された歪分布画像を並べて示した図である。なお、歪分布画像には、歪量とグレースケールの濃淡との対応関係を示すスケールバーが表示されている。また、破断して被写体Hが2つに分かれているので歪量の解析結果である歪分布画像も大きく2つに分かれている。
弾性変形している箇所は、破断して応力がゼロになったときにはもとの状態に戻っており(引っ張ったゴムが手を離すと元に戻るのと同じ)、歪量としてはゼロに近い値になる。一方、塑性変形している箇所は、応力がゼロになっても元の状態には戻らないので、破断後も歪量がゼロに戻らない。
【0073】
図18に示す歪分布画像には濃淡が見られ、場所ごとに歪量が異なっていることが分かる。
図18においてAの部分の歪量が大きいのは亀裂が入っているためであり、当然この部分は塑性変形している。それ以外に、B、C、Dの部分も歪量が相対的に大きくなっており、塑性変形していると考えられる。一方E~Gの部分は、歪量が小さく、弾性変形している可能性が高いと考えられる。
歪が強い部分(画像で白くなっている場所付近)と、小角散乱で白い筋が現れる場所(マイクロクラックが発生していると考えられる場所)がおおよそ対応しているように見て取ることができる。
【0074】
以上より、上述の引張前と破断後の小角散乱画像を解析することにより、被写体H内部でどのような種類の変形が生じているのかを可視化することができ、破壊メカニズムやその部分がどの程度劣化しているのかを考察する上で有用な情報を得ることができることが確認できた。
なお、上記実施例では、小角散乱画像と歪分布を別々に表示したが、重ねて表示しても良いし、濃淡表示以外にカラー表示や矢印で表示しても良い。
【0075】
(取得画像の表示方法)
上述の撮影処理Aにおいては、タルボ撮影の3つの再構成画像と、撮影画像(写真(静止画)・動画)、温度分布画像などが各引張ステップごとに取得される。制御部51は、撮影処理Aにおいてタルボ撮影により得られた被写体Hの小角散乱画像や微分位相画像を、その画像の撮影時に被写体Hに与えられた負荷を表す値(荷重の値、応力値、引張伸び量等)、当該画像と併せて撮影又は取得された他の画像(例えば、カメラ21の撮影画像、温度分布画像、吸収画像等)、及び/又は当該画像の解析結果(例えば、歪分布の数値データや歪分布画像、弾性変形か塑性変形かの識別結果等)等に対応付けて表示部53に表示する。これにより、撮影処理Aにより取得された画像を見やすく表示することができる。
【0076】
図19に、撮影処理Aにおいて取得された画像の表示例を示す。
図19に示すように、例えば、各引張ステップごとに、小角散乱画像や微分位相画像を始めとする、取得された画像の全部もしくは一部を画面に配置し、かつ、測定日、測定時刻、試料名(被写体名)等の検査に関する基本情報や各引張ステップで被写体Hに与えられた負荷の値を同時に表示することが好ましい。
表示部53に表示する画像の種類及び項目は、ユーザーによる操作部52の操作等に応じて設定可能としてもよい。例えば、カメラ21による撮影画像は表示せずにタルボ撮影により得られた3つの再構成画像だけを表示する設定としてもよいし、吸収画像と小角散乱画像だけを並べて表示する設定としてもよい。
撮影した画像を表示する際には、画像の一部分だけを拡大表示しても良い。その場合、制御部51が3つの再構成画像で同一視野になるように自動で拡大表示範囲を設定することが好ましい。例えば、ユーザーが操作部52により小角散乱画像で視野・倍率を決めたときに、制御部51が吸収画像及び微分位相画像でも同じ視野・倍率になるように拡大表示範囲を自動設定することが好ましい。なお、カメラ画像・温度分布画像・歪解析結果も同時に表示し、その際同一視野が表示されるように自動で拡大表示範囲を設定しても良い。また設定した視野は、前後の別のステップの画像を表示する際にも反映することが好ましい。
さらに、画面上の矢印ボタンをクリックする、マウスをクリックする、ホイールを動かす等の操作に応じて、前のステップの表示に戻ったり、次のステップの表示に進んだりするよう制御することが好ましい。また、撮影処理Aにより取得された一連の画像を動画・アニメーションとして連続表示しても良い。
【0077】
(コントラスト・ブライトネス調整)
各引張ステップごとに画像のコントラストやブライトネス(明るさ)を個別に調整すると、表示したときに引張ステップごとに画像の明暗が変動し、比較しにくい。そこで、制御部51は、自動的に、またはユーザーによる操作部52の操作に応じて、画像の種類ごと(例えば吸収画像ごと、小角散乱画像ごと、微分位相画像ごと)に、一連の画像を一括して同じコントラスト・ブライトネスに調整することが好ましい。これにより、撮影により取得された一連の画像をアニメーション・動画表示した時に違和感がなくなる。なお、一連の画像において一括してコントラスト及びブライトネスを調整することが好ましいが、いずれか一方のみを調整してもよい。
【0078】
(トレンド補正)
タルボ撮影により得られた再構成画像では、例えば、格子が歪んでいる、格子が水平でない、X線強度が変動する等の装置由来のトレンド(データに本来備わっていない全体的なパターン、画像ムラ)が重畳することがあり、それを画像処理で補正するような処理を行う場合がある。特に引張試験を行いながらのタルボ撮影は長時間を要するため、途中で温度などの微妙な環境変化によって、トレンドが変化する可能性が考えられる。一連の撮影の途中でトレンドが変化すると、撮影により得られた一連の画像を表示・比較しようとしたときに、途中で画像の見た目が変わり違和感が生じる、比較した場合に誤った結果がでてしまう可能性があり、好ましくない。
これを解消するために、制御部51は、タルボ撮影に基づいて生成された再構成画像に対し、トレンド補正を行っても良い。トレンド補正は、例えば、特許第5831614号公報に記載の手法等を用いて行うことができる。トレンドは、タルボ撮影中に生じるものであるため、全引張ステップを一括して行うよりも、各引張ステップの画像ごとに個別にトレンド補正を行っても良い。全ステップ一括で行った場合は、装置自体が持つ信号値の面内分布を補正できるため、それも有効である。
【0079】
(保存・読み出し)
制御部51は、撮影処理Aにおいてタルボ撮影により得られた一連の小角散乱画像や微分位相画像を、それぞれ検査日(測定日)、検査時刻(測定時刻)、被写体名などの検査情報や、その画像の撮影時に被写体Hに与えられた負荷を表す値(荷重の値、応力値、引張伸び量等)、当該画像と併せて撮影又は取得された他の画像(例えば、カメラ21の撮影画像、温度分布画像、吸収画像等)、及び/又は当該画像の解析結果(例えば、歪分布の数値データや歪分布画像、弾性変形か塑性変形かの識別結果等)等に対応付けて(例えば、同じ検査ID及びステップIDを付与して)記憶部55に記憶させる。これにより、撮影処理Aにおいて同じタイミングでより取得された画像群を容易に読み出すことが可能となる。
また、上記コントラスト・ブライトネスを調整した一連の画像や動画、アニメーションを記憶部55に保存することが好ましい。また、過去に保存した画像を再度読み出して、上記コントラスト・ブライトネス、表示視野、表示倍率などの設定を変更できることが好ましい。
【0080】
(データベースの構築による劣化度合い推定)
タルボ撮影と引張試験を組み合わせることで、上述のように吸収画像ではわからない微小なマイクロボイド、マイクロクラックの発生やその進展を可視化することができる。そこで、上記撮影処理Aにより得られた小角散乱画像や微分位相画像を解析してマイクロボイドやマイクロクラックの情報を取得し、解析結果をデータベースに登録しておくことで、新たな被写体Hを撮影した際に、その劣化度合いを推定することができる。
例えば、制御部51は、被写体Hが破断するまで、上記の撮影処理Aを行ってタルボ撮影を行い、各引張ステップで生成された小角散乱画像又は微分位相画像においてマイクロクラックが発生している領域(例えば、信号値が所定の閾値以上の領域)を抽出し、抽出した領域の信号強度、大きさ(面積、長さ)、位置(面内分布)等を各引張ステップ毎の荷重や応力の値に対応付けて基準としてデータベースに(記憶部55に構築したデータベース)に記憶しておく。データベースには、1回の試験結果(検査結果)だけでなく、複数回の試験結果を蓄積してもよく、複数回の試験結果を統合した(例えば、平均した)ものを基準としてデータベースに記憶してもよい。
そして、制御部51は、新たな被写体H(同じ材料の試験片でもよいし、材料や作成条件を変えて特性改善を狙って作成した試験片でもよい)に荷重をかけてタルボ撮影し、得られた小角散乱画像や微分位相画像でマイクロクラックが発生している領域(信号値が所定の閾値以上の領域)を抽出し、抽出した領域の信号強度、大きさ(面積、長さ)、面内分布、撮影時の荷重や応力値など取得してデータベースの値と比較することで、新たな試験片のその時点での劣化度合いや基準と比べた強弱等を、破断まで荷重をかけなくても推定することができる。劣化度合いは、例えば、新たな被写体Hに荷重をかけてタルボ撮影することにより生成された小角散乱画像又は微分位相画像におけるマイクロクラックが発生している領域(信号値が所定の閾値以上の領域)の信号強度、大きさ(面積、長さ)、位置(面内分布)等をデータベースの基準と比較し、基準においてどのくらいの荷重をかけたときの状態に近いかを求め、求めた荷重が破断したときの荷重の何パーセント(何割)に相当するか等を算出することにより求めることができる。
また使用中の部品をタルボ撮影し、その時の小角散乱画像又は微分位相画像においてマイクロクラックが発生している領域(信号値が所定の閾値以上の領域)の信号強度、大きさ、面内分布等をデータベースと比較することで、その部品の劣化度合いを推定したり、部品を交換すべきかどうか等の判断を行ったりしてもよい。
【0081】
(被写体の変動の検出)
上記実施形態では、引張試験機23に荷重を設定後、クリープ現象による応力変化が安定するまで待ってから撮影するという作業フローについて説明したが、別の方法として以下の(1)~(3)のいずれかの撮影の流れとしてもよい。
(1)応力値が安定しているかどうかに関係なく、一定時間間隔あるいは任意のタイミングでタルボ撮影を実施する。撮影により取得された画像を解析し、ぼけの度合い、一つ前に撮影された画像との特徴点の位置の移動量、一つ前に撮影された画像との一致度合い(類似度、相関係数)等を算出する。そして、ぼけや移動量が予め定められた閾値以下あるいは一致の度合いが予め定められた閾値以上のものだけを抽出して、記憶部55に記憶したり、解析に使用したりする。一方、それ以外の、移動量が大きく誤差が含まれている画像は破棄する、もしくは残しても良いが誤差を含んでいることを示すフラグ等を付加して記憶部55に記憶し、後から誤差が含まれていることが識別できるようにする。
(2)被写体Hの変形が安定しているかどうかに関係なく、一定時間間隔あるいは任意のタイミングで格子を移動させながら2回撮影を行う簡易撮影を行い、得られた画像を再構成した画像を解析し、ぼけの度合い、一つ前のタイミングに撮影された画像との特徴点の位置の移動量、一つ前に撮影された画像との一致度合い(類似度、相関係数)等を算出する。そして、ぼけや移動量が予め定められた閾値以下あるいは一致の度合いが予め定められた閾値以上である場合に、タルボ撮影を実施する。なお、この場合、予め2回の簡易撮影でのBG画像を取得しておく必要がある。または、簡易撮影の代わりに、参照文献5(特開2017-176399号公報)に記載の簡易吸収画像撮影を行うこととしてもよい。簡易吸収画像撮影は、タルボ干渉計又はタルボ・ロー干渉計において、以下のいずれかの手法で1回の放射線撮影により得られたモアレ縞画像に基づいて吸収画像を生成する手法である。
・放射線源と放射線検出器との間の照射野内に散乱体を挿入することによりモアレ縞の鮮明度を低下させて放射線撮影を行う。
・複数の格子の少なくとも一つをタルボ撮影時の当該格子の位置に対して放射線照射軸周りに回転させた状態で撮影を行う。
・複数の格子の少なくとも一つをタルボ撮影時の当該格子の位置に対して放射線照射軸方向に移動させた状態で撮影を行う。
・複数の格子の少なくとも一つを格子のスリット周期方向にスリット1/4周期以上移動させながら撮影を行う。
(3)格子を動かさずに一定の間隔で2枚の画像を撮影する。変動がなければ、全く同じ画像が得られる。そこで2枚の画像を比較し、特徴点の移動量、一致度合い等を算出し、算出した移動量が予め定められた閾値以下、または一致度合いが予め定められた閾値以上である場合に、タルボ撮影を実施する。
【0082】
なお、(2)、(3)の簡易的な撮影の場合は、タルボ撮影に比べてX線の線量を下げても良い。それによって放射線源11の管球への熱負荷を低減でき、温度上昇による待ち時間が削減できる、管球寿命が長くなる、被写体HへのX線照射量を低減でき、被写体Hの劣化・温度上昇などを低減できる、などのメリットがある。
【0083】
(DIC法との組み合わせ)
被写体H上にランダムなマーカーを配置して、引張試験などを行ったときのマーカーの移動から面内の変位分布を可視化する技術であるDIC(デジタル画像相関法(Digital Image Correlation))という方法が知られている(例えば、特開2006-32962
8号公報参照)。
そこで、被写体Hに対し、予めタルボ撮影で撮影可能な材料を用いてインクジェットプリンター等により複数のマーカーを配置(印刷)し、マーカーが配置された被写体Hを上記撮影処理Aにより撮影してもよい。そして、制御部51は、DIC法により、タルボ撮影により得られた再構成画像のマーカーの位置を特徴点として抽出し、特徴点に基づいて、被写体Hの面内(xy平面)の歪分布を算出して可視化(算出値に応じて色を付けて表示部53に表示)してもよい。このようにすれば、タルボ撮影しても何も特徴点が見い出せないような場合・場所、あるいはマイクロクラックなどが面内で発生して小角散乱画像などで検出できる前の段階でも、面内の歪分布を可視化することが可能となる。また、算出した歪分布に基づいて、面内の応力分布を算出したり可視化したりすることが可能となる。
なお、マーカーの印刷に用いるインクとしては、タルボ撮影できるものであればよい。例えば、重金属を含むインクであれば吸収画像で撮影できる。また直径0.1um~数百umの散乱微粒子、繊維を含むインクであれば小角散乱画像で撮影できる。あるいは被写体Hの表面にインクで水滴形状を形成すれば、微分位相画像で輪郭を撮影できる。これらの組み合わせでも良い。
【0084】
(定期的なBG(バックグラウンド)撮影)
物理的な変化を加えながらのタルボ撮影は、ある程度の時間を要するため、その間に温度変動などで装置の状態が変化し、それが再構成画像のトレンド変化などを引き起こして画像を劣化させる可能性がある。
先に述べた通り、再構成画像上にあるトレンドは、トレンド補正などの画像処理である程度除去することも可能であるが、理想的には一連の測定の途中で、変動の影響を除去するために被写体Hがない状態でのタルボ撮影(BG撮影)を行うことが好ましい。
例えば、検査装置100が引張試験機23を移動させる移動ステージやロボットアームなどの移動機構を備える構成とし、制御部51は、移動機構により任意のタイミングで被写体H及び引張試験機23を撮影位置から退避させて、BG撮影を行う。任意のタイミングは、例えば、各引張ステップで荷重や引張長さを設定する直前や、被写体モアレ縞画像を撮影する直前又は直後でもよい。また、複数の引張ステップごとにBGを撮影することとしてもよい。そして、制御部51は、各引張ステップごとに撮影した被写体モアレ縞画像及び最新のBGモアレ縞画像を用いて再構成画像を生成する。
なお、BG撮影は、視野全域で撮影できる必要はなく、撮影時に被写体Hが位置する部分だけ撮影できれば良い。よって、被写体H及び引張試験機23を移動させる際は、視野から完全に取り除く必要はなく、撮影時に被写体Hが位置する領域が、被写体Hのない領域になる程度移動させれば良い。例えば、検査装置100の場合、
図20の吸収画像に示すように、引張試験機23に装着される被写体Hの周囲には、何もない開口部24が存在している。よって視野から引張試験機23全体が見えなくなるように長い距離移動させる必要はなく、被写体Hの幅+α程度、引張試験機23の引張方向と直交する方向に移動させてBG撮影を行い、その後最初の位置に被写体Hを戻してタルボ撮影をすればよい。こうすることで移動量が小さくできるため、移動機構を小型化でき、移動による位置ずれを低減でき、好ましい。
【0085】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図21は、第2の実施形態における検査装置200を模式的に示した図である。
検査装置200は、被検体(被写体H)に熱を与えて変化を見る熱負荷試験を行いながら被写体Hを撮影する装置である。
図21に示すように、検査装置200の本体部2は、被写体Hに熱を与える付与手段としての加熱装置25、被写体Hの温度を計測する温度計26を備えて構成されている。引張試験機23は備えていなくてもかまわない。コントローラー5の制御部51は、加熱装置25に接続されており、加熱装置25の制御が可能である。また、制御部51は、温度計26に接続されており、被写体Hの温度の取得が可能である。また、記憶部55には、制御部51が後述する撮影処理Bを実行するためのプログラムが記憶されている。その他の検査装置200の構成は、第1の実施形態で説明した検査装置100と同様であるので説明を援用し、以下、検査装置200の動作について説明する。
【0086】
図22は、検査装置200の制御部51と記憶部55に記憶されているプログラムとのにより実行される撮影処理Bを示すフローチャートである。この撮影処理Bは、加熱装置25により被写体Hに与える加熱温度を段階的に変化させていき、各段階ごと(加熱ステップと呼ぶ)に被写体Hの撮影等を行う処理である。撮影処理Bは、被写体Hが被写体台13にセットされ、操作部52により検査条件(例えば、各撮影ごとの加熱装置25の設定温度や昇温速度等)が入力され撮影実行が指示されることにより実行される。なお、以下の説明においては、検査条件として加熱装置25の設定温度(被写体Hを加熱する温度)を設定して被写体Hを加熱する例について説明する。また、本実施形態では、撮影処理Bの開始前に、被写体Hを被写体台13にセットしない状態で、第2格子15を移動させて被写体なしのモアレ縞画像(BG(Back Ground)モアレ縞画像と呼ぶ)をM枚(例えば、4枚)取得して記憶部55に記憶していることとする。
【0087】
撮影処理Bが開始されると、制御部51は、加熱装置25による加熱前の被写体Hの温度の測定を温度計26により行うとともに、加熱前の被写体Hの撮影を行う。
すなわち、制御部51は、温度計26により被写体Hの温度を取得するとともに、カメラ21により被写体Hを撮影させ、撮影画像を取得する。撮影画像には、画像を識別するための画像番号、撮影条件、撮影日時等が付帯される(ステップS21)。
次いで、制御部51は、放射線源11、移動機構15a、放射線検出器16等を制御してタルボ撮影を行い、M枚の被写体モアレ縞画像を取得する。タルボ撮影では、格子をスリット周期方向に移動させながら、例えば、4回撮影を行う。そして、予め取得されたBGモアレ縞画像と、被写体モアレ縞画像に基づいて、再構成画像(小角散乱画像、微分位相画像、吸収画像)を生成する(ステップS22)。
【0088】
再構成画像の生成は、第1の実施形態のステップS2で説明したものと同様であるので説明を援用する。再構成画像には、画像を識別するための画像番号、検査条件、タルボ撮影における撮影条件、撮影日時等が付帯される。
【0089】
なお、ステップS21とS22の順序は逆であってもよいし、同時であってもよい。また、カメラ21の撮影画像は、タルボ撮影とできるだけ同じタイミングで撮影することが好ましい。
また、カメラ21は、静止画を撮影してもよいし、動画を撮影しても良い。動画を撮影する場合、動画のどのタイミングでタルボ撮影を行ったかが分かるような信号が同時に記録されていることが好ましい。この手法については、第1の実施形態で説明したものと同様である。また、カメラ21で撮影を行うのではなく、ステップS22でタルボ撮影に基づいて生成された吸収画像を小角散乱画像や微分位相画像との比較用の画像としてもよい。この場合は、ステップS21のカメラ撮影は省略できる。また、本実施形態において、カメラ21は、一般的なデジタルカメラだけでなく、サーモグラフィー装置を備えることが好ましく、カメラ撮影と同時にサーモグラフィー装置で被写体Hの温度分布画像を撮影することが好ましい。
【0090】
次いで、制御部51は、ステップS21で取得した撮影画像(温度分布画像を取得した場合は温度分布画像も含む)、ステップS22で取得した再構成画像を撮影時の被写体Hの温度を表す値に対応付けて記憶部55に記憶させる(ステップS23)。
【0091】
次いで、制御部51は、処理の終了条件を満たしたか否かを判断する(ステップS24)。処理の終了条件としては、例えば、
・加熱装置25の検査条件として設定された全ての温度での撮影が終了した
・被写体Hが十分変化・変質した(変形、融解、分解など)
・異常発生(想定していない事態の発生。例えば発煙、発火など)
・所定の繰り返し回数の撮影が終了した
などが考えられる。
異常が発生したか否かの判断は、例えば、ユーザーにより、異常を検知したことを示す操作部52の所定の操作が行われたか否か(例えば、異常を検知した場合に押下するためのボタンを設けておき、そのボタンが押下されたか否か等)により判断してもよいし、カメラ21により撮影された画像を解析することにより判断してもよい。あるいは、発煙や発火等の異常を検出するセンサーを設け、センサーの検知信号に基づいて判断してもよい。
【0092】
処理の終了条件を満たしていないと判断した場合(ステップS24;NO)、制御部51は、検査条件に基づいて、加熱装置25の設定温度の変更を行い、加熱装置25により被写体Hの加熱を行わせる(ステップS25)。
【0093】
次いで、制御部51は、温度計26から得られる被写体Hの温度が設定温度の値になったか否かを判断する(ステップS26)。
温度計26により取得される被写体Hの温度が設定温度の値になっていないと判断した場合(ステップS26;NO)、制御部51は、被写体Hの温度が設定温度になるまで待機する。
温度計26により取得される被写体Hの温度が設定温度の値になったと判断した場合(ステップS26;YES)、制御部51は、放射線源11の管球の温度が予め定められた基準より低いか否かを判断する(ステップS27)。
放射線源11の管球の温度が予め定められた基準より低くないと判断した場合(ステップS27;NO)、制御部51は、放射線源11の管球の温度が予め定められた基準より低くなるまで待機する。
【0094】
放射線源11の管球の温度が予め定められた基準より低いと判断した場合(ステップS27;YES)、制御部51は、被写体Hの変形が安定したか否かを判断する(ステップS28)。
ここで、被写体Hが軟化・溶解などにより物理的な形状が変化している間にタルボ撮影を行うと、第1の実施形態と同様に、画像がぼけて撮影が失敗してしまう。そこで、被写体Hの変形が安定してからカメラ撮影やタルボ撮影に進むことが望ましい。
被写体Hの形状が安定したか否かは、例えば、ユーザーにより、形状が安定したことを検知したことを示す操作部52の所定の操作が行われたか否か(例えば、形状が安定した場合に押下するためのボタンを設けておき、そのボタンが押下されたか否か等)により判断してもよいし、カメラ21により所定時間間隔で撮影を行い、直前に撮影された画像との比較に基づいて被写体Hの形状が安定したか否かを判断することとしてもよい。例えば、直前に撮影された画像との類似度、相関係数が所定の閾値を超えた場合に、被写体Hの形状が安定したと判断することとしてもよい。
【0095】
被写体Hの変形が安定していないと判断した場合(ステップS28;NO)、制御部51は、被写体Hの変形が安定するのを待機する。
被写体Hの変形が安定したと判断した場合(ステップS28;YES)、制御部51は、ステップS21に戻り、撮影を行う。
制御部51は、終了条件を満たすまで上述のステップを繰り返し実行し、終了条件を満たしたと判断したと判断した場合(ステップS24;YES)、撮影処理Bを終了する。
【0096】
(実施例4)
上記第2の実施形態の有効性を検証するため、実施例4の実験を行った。
実施例4においては、検査装置200において、被写体Hを加熱しながらタルボ撮影を行い、得られた再構成画像から被写体H内部が加熱によりどのように変化していくのかを評価した。具体的には、被写体Hを被写体台13にセットして
図22の撮影処理Bを実行した。なお、
図22のステップS21のカメラ撮影は省略し、比較用として吸収画像を用いた。
被写体Hとしては、2種類のワックス(ワックスW1:アクアワックス、軟化点50℃、ワックスW2:アピエゾンワックス、軟化点80~90℃)を用いた。被写体台13上で加熱を行い、その時の様子をタルボで撮影した。温度は被写体H近くに配置した温度計26で読み取った。
【0097】
図23に、実施例4におけるタルボ撮影により得られた吸収画像、小角散乱画像、微分位相画像を示す。
図23に示すように、ワックスW1は、軟化点である50℃を超えた(3)において、溶けて輪郭が不明瞭になっていると同時に、小角散乱画像と微分位相画像では、吸収画像では見えないワックス内部の気泡が観察できる。特に、微分位相画像では明瞭に見えている。さらに、(3)→(4)→(5)→(6)と温度を上げていくと、気泡が一か所に集まって消えていく様子が観察できる。また、温度が110℃以上となった(5)になると、ワックスW2も溶け始めて輪郭が不明瞭になる様子が、小角散乱画像と微分位相画像で観察できる。その後、加熱を止めて温度が低下した時には((9)、(10))、特に顕著な変化は見られないことも分かった。
【0098】
以上のように、被写体Hを加熱をしながらタルボ撮影をすることによって、被写体H内部の気泡の様子やその変化、被写体Hが溶ける様子などを従来の吸収画像よりも明瞭に観察することができることが確認できた。このような情報は、電子部品のはんだ付けの条件検討など、様々な検討に活用できる。なお、温度の測定に被写体H近傍に配置した温度計26を用いたが、サーモグラフィー装置で温度分布を撮影・測定すると、被写体H内部の温度分布が分かり、好ましい。
このように、第2の実施形態の検査装置200の構成及び動作によれば、大掛かりな装置を使用することなく、被写体Hに負荷を与えたときの、従来の吸収X線画像では見えないような被写体内部の変化を、より短い撮影時間でより広い視野で取得して観察することが可能となる。
【0099】
なお、第2の実施形態においても、第1の実施形態の変形例、例えば、(画像取得の表示方法)、(被写体の変動の検出)、(コントラスト・ブライトネス調整)、(トレンド補正)、(保存・読み出し)、(定期的なBG撮影)等を適用することができる。
【0100】
以上、本発明の第1~第2の実施形態及びその変形例について説明したが、上述した本実施形態における記述は、本発明に係る好適な一例であり、これに限定されるものではない。
【0101】
例えば、上記実施形態では、縞走査法による撮影時に第2格子15をマルチスリット12及び第1格子14に対して移動させる方式のタルボ・ロー干渉計を用いた検査装置を例にとり説明したが、本発明は、縞走査法による撮影時にマルチスリット12又は第1格子14又は第2格子15の何れか又はそのうちの二つの格子を移動させる方式のタルボ・ロー干渉計を用いた検査装置に適用してもよい。また、本発明は、第1格子14又は第2格子15の何れかを他の格子に対して移動させる方式のタルボ干渉計を用いた検査装置に適用してもよい。また、本発明は、マルチスリット12又は第1格子14の何れかを他の格子に対して移動させる方式のロー干渉計を用いた検査装置に適用してもよい。また、本発明は、縞走査を必要としないフーリエ変換法を用いたタルボ・ロー干渉計、タルボ干渉計、ロー干渉計に適用してもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、タルボ撮影により得られたモアレ縞画像に基づいて、小角散乱画像、微分位相画像、及び吸収画像を生成する場合を例にとり説明したが、小角散乱画像及び/又は微分位相画像を生成するものであれば、本発明を実現することができる。
【0103】
また、上記実施形態においては、被写体Hに引張試験や熱負荷試験を行いながらタルボ撮影する場合を例にとり説明したが、圧縮試験や曲げ試験を行いながら被写体Hの変化の様子をタルボ撮影してもよい。また、被写体Hに一定の負荷を繰り返し与える疲労試験、耐久試験を行いながら、被写体Hに負荷を所定回数与える毎に被写体Hの変化の様子をタルボ撮影してもよい。また、試験片に与える負荷が複数の組み合わせ、例えば引張と加熱を同時に与えても良い。
【0104】
また、例えば、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピューター読み取り可能な媒体としてハードディスクや半導体の不揮発性メモリー等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピューター読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0105】
その他、検査装置を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0106】
100、200 検査装置
1、2 本体部
11 放射線源
12 マルチスリット
13 被写体台
14 第1格子
15 第2格子
15a 移動機構
16 放射線検出器
17 支柱
17a 緩衝部材
111 焦点
112 付加フィルター・コリメーター
120 第1のカバーユニット
130 第2のカバーユニット
19 基台部
21 カメラ
22 ミラー
23 引張試験機
24 開口部
25 加熱装置
26 温度計
5 コントローラー
51 制御部
52 操作部
53 表示部
54 通信部
55 記憶部