(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】位置検出装置および位置検出方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20240312BHJP
【FI】
H02P6/16
(21)【出願番号】P 2023510175
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2021022352
(87)【国際公開番号】W WO2022208913
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2021056376
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 淳
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-149909(JP,A)
【文献】特開2014-196940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転位置を検出する位置検出装置であって、 前記モータに同期して回転する磁石と対向し且つ前記磁石の回転方向に沿って所定間隔で配置される3つの磁気センサと、 前記3つの磁気センサから出力される、互いに電気角で120°の位相差を有する三相の信号を処理する信号処理部と、 を備え、 前記信号処理部は、 前記三相の信号に含まれるU相信号、V相信号およびW相信号のそれぞれをデジタル変換することより、前記U相信号の瞬時値Hu’、前記V相信号の瞬時値Hv’および前記W相信号の瞬時値Hw’を取得する取得処理と、 前記U相信号の瞬時値Hu’、前記V相信号の瞬時値Hv’および前記W相信号の瞬時値Hw’が、第1ケース、第2ケースおよび第3ケースの全てにおいて下式(1)を満たすか否かを判定することにより、前記3つの磁気センサのうち異常な磁気センサである異常センサを特定する異常判別処理と、 前記3つの磁気センサのうち前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号に基づいて、残り一相の信号を生成する信号生成処理と、 前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号と、生成された前記残り一相の信号とに基づいて、前記モータの回転位置を推定する位置推定処理と、
前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号のうち、一方の信号を第1信号とし、前記第1信号に対して電気角で120°の位相遅れを有する他方の信号を第2信号とする場合に、 前記信号処理部は、前記信号生成処理において、 前記第1信号及び前記第2信号をデジタル変換することより、前記第1信号の瞬時値と前記第2信号の瞬時値とを取得する第1処理と、 前記第1信号の瞬時値から前記第2信号の瞬時値を減算することにより、前記第1信号に含まれる第1基本波信号と前記第2信号に含まれる第2基本波信号との合成信号の瞬時値を算出する第2処理と、 前記合成信号の瞬時値と予め用意された前記合成信号のノルムとに基づいて前記合成信号の偏角を算出する第3処理と、 前記合成信号の偏角と、前記合成信号のノルムと、予め用意された前記合成信号と前記第1基本波信号との位相差とに基づいて、前記合成信号と直交関係にある第3基本波信号の瞬時値を前記残り一相の信号の瞬時値として算出する第4処理と、を実行する、位置検出装置。
【数1】
【請求項2】
前記合成信号の偏角をωt+φ2とし、前記合成信号の瞬時値をHuvとし、前記合成信号のノルムを||Huv||とする場合に、 前記信号処理部は、前記第3処理において、下式(13)に基づいて前記合成信号の偏角ωt+φ2を算出し、算出された偏角ωt+φ2を拡張処理することにより、-180°以上且つ180°未満の範囲に含まれる偏角θを取得する、請求項
1に記載の位置検出装置。
【数2】
【請求項3】
前記合成信号と前記第1基本波信号との位相差をφ2とし、前記第3基本波信号の瞬時値をHwとする場合に、 前記信号処理部は、前記第2処理において、予め用意された、前記第1信号の振幅値と前記第2信号の振幅値とが等しくなる振幅補正値に基づいて、前記第1信号の瞬時値と前記第2信号の瞬時値との少なくとも一方を補正し、 前記信号処理部は、前記第4処理において、前記合成信号のノルム||Huv||と、前記位相差φ2と、前記偏角θとを下式(14)に代入することにより、前記第3基本波信号の瞬時値を算出する、請求項
2に記載の位置検出装置。
【数3】
【請求項4】
前記信号処理部は、前記信号生成処理において、 前記第1信号の瞬時値と、前記第2信号の瞬時値と、前記第3基本波信号の瞬時値とに基づいて、前記第1信号及び前記第2信号に含まれる同相信号の瞬時値を算出する第5処理と、 前記第1信号の瞬時値から前記同相信号の瞬時値を減算することにより、前記第1基本波信号の瞬時値を算出する第6処理と、 前記第2信号の瞬時値から前記同相信号の瞬時値を減算することにより、前記第2基本波信号の瞬時値を算出する第7処理と、 をさらに実行する、請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載の位置検出装置。
【請求項5】
前記第1信号の瞬時値をHu’とし、前記第2信号の瞬時値をHv’とし、前記第3基本波信号の瞬時値をHwとし、前記同相信号の瞬時値をNとする場合に、 前記信号処理部は、前記第5処理において、下式(15)及び下式(16)に基づいて前記同相信号の瞬時値を算出する、請求項
4に記載の位置検出装置。
【数4】
【請求項6】
前記信号処理部は、前記3つの磁気センサのうち前記異常センサへの電源供給を遮断する、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の位置検出装置。
【請求項7】
モータに同期して回転する磁石と対向し且つ前記磁石の回転方向に沿って所定間隔で配置される3つの磁気センサから出力される、互いに電気角で120°の位相差を有する三相の信号を用いて、前記モータの回転位置を検出する位置検出方法であって、 前記三相の信号に含まれるU相信号、V相信号およびW相信号のそれぞれをデジタル変換することより、前記U相信号の瞬時値Hu’、前記V相信号の瞬時値Hv’および前記W相信号の瞬時値Hw’を取得する取得ステップと、 前記U相信号の瞬時値Hu’、前記V相信号の瞬時値Hv’および前記W相信号の瞬時値Hw’が、第1ケース、第2ケースおよび第3ケースの全てにおいて下式(1)を満たすか否かを判定することにより、前記3つの磁気センサのうち異常な磁気センサである異常センサを特定する異常判別ステップと、 前記3つの磁気センサのうち前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号に基づいて、残り一相の信号を生成する信号生成ステップと、 前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号と、生成された前記残り一相の信号とに基づいて、前記モータの回転位置を推定する位置推定ステップと、
前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号のうち、一方の信号を第1信号とし、前記第1信号に対して電気角で120°の位相遅れを有する他方の信号を第2信号とする場合に、 前記信号生成ステップは、 前記第1信号及び前記第2信号をデジタル変換することより、前記第1信号の瞬時値と前記第2信号の瞬時値とを取得する第1ステップと、 前記第1信号の瞬時値から前記第2信号の瞬時値を減算することにより、前記第1信号に含まれる第1基本波信号と前記第2信号に含まれる第2基本波信号との合成信号の瞬時値を算出する第2ステップと、 前記合成信号の瞬時値と予め用意された前記合成信号のノルムとに基づいて前記合成信号の偏角を算出する第3ステップと、 前記合成信号の偏角と、前記合成信号のノルムと、予め用意された前記合成信号と前記第1基本波信号との位相差とに基づいて、前記合成信号と直交関係にある第3基本波信号の瞬時値を前記残り一相の信号の瞬時値として算出する第4ステップと、を含む、位置検出方法。
【数5】
【請求項8】
前記合成信号の偏角をωt+φ2とし、前記合成信号の瞬時値をHuvとし、前記合成信号のノルムを||Huv||とする場合に、 前記第3ステップにおいて、下式(13)に基づいて前記合成信号の偏角ωt+φ2を算出し、算出された偏角ωt+φ2を拡張処理することにより、-180°以上且つ180°未満の範囲に含まれる偏角θを取得する、請求項
7に記載の位置検出方法。
【数6】
【請求項9】
前記合成信号と前記第1基本波信号との位相差をφ2とし、前記第3基本波信号の瞬時値をHwとする場合に、 前記第2ステップにおいて、予め用意された、前記第1信号の振幅値と前記第2信号の振幅値とが等しくなる振幅補正値に基づいて、前記第1信号の瞬時値と前記第2信号の瞬時値との少なくとも一方を補正し、 前記第4ステップにおいて、前記合成信号のノルム||Huv||と、前記位相差φ2と、前記偏角θとを下式(14)に代入することにより、前記第3基本波信号の瞬時値を算出する、請求項
8に記載の位置検出方法。
【数7】
【請求項10】
前記信号生成ステップは、 前記第1信号の瞬時値と、前記第2信号の瞬時値と、前記第3基本波信号の瞬時値とに基づいて、前記第1信号及び前記第2信号に含まれる同相信号の瞬時値を算出する第5ステップと、 前記第1信号の瞬時値から前記同相信号の瞬時値を減算することにより、前記第1基本波信号の瞬時値を算出する第6ステップと、 前記第2信号の瞬時値から前記同相信号の瞬時値を減算することにより、前記第2基本波信号の瞬時値を算出する第7ステップと、 をさらに含む、請求項
7から請求項
9のいずれか一項に記載の位置検出方法。
【請求項11】
前記第1信号の瞬時値をHu’とし、前記第2信号の瞬時値をHv’とし、前記第3基本波信号の瞬時値をHwとし、前記同相信号の瞬時値をNとする場合に、 前記第5ステップにおいて、下式(15)及び下式(16)に基づいて前記同相信号の瞬時値を算出する、請求項
10に記載の位置検出方法。
【数8】
【請求項12】
前記3つの磁気センサのうち前記異常センサへの電源供給を遮断するステップをさらに含む、請求項
7から請求項
11のいずれか一項に記載の位置検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置検出装置および位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、モータの回転を検出するのに必要な回路を二系統備えることにより、回路の一部に異常が生じたとしても回転検出動作を継続して行うことのできる回転検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術では、モータの回転を検出するのに必要な回路を二系統備えることに起因して、装置の大型化と部品コストの増加を招く。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の位置検出装置における一つの態様は、モータの回転位置を検出する位置検出装置であって、前記モータに同期して回転する磁石と対向し且つ前記磁石の回転方向に沿って所定間隔で配置される3つの磁気センサと、前記3つの磁気センサから出力される、互いに電気角で120°の位相差を有する三相の信号を処理する信号処理部と、を備える。前記信号処理部は、前記三相の信号に含まれるU相信号、V相信号およびW相信号のそれぞれをデジタル変換することより、前記U相信号の瞬時値Hu’、前記V相信号の瞬時値Hv’および前記W相信号の瞬時値Hw’を取得する取得処理と、前記U相信号の瞬時値Hu’、前記V相信号の瞬時値Hv’および前記W相信号の瞬時値Hw’が、第1ケース、第2ケースおよび第3ケースの全てにおいて下式(1)を満たすか否かを判定することにより、前記3つの磁気センサのうち異常な磁気センサである異常センサを特定する異常判別処理と、前記3つの磁気センサのうち前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号に基づいて、残り一相の信号を生成する信号生成処理と、前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号と、生成された前記残り一相の信号とに基づいて、前記モータの回転位置を推定する位置推定処理と、を実行する。
【0006】
本発明の位置検出方法における一つの態様は、モータに同期して回転する磁石と対向し且つ前記磁石の回転方向に沿って所定間隔で配置される3つの磁気センサから出力される、互いに電気角で120°の位相差を有する三相の信号を用いて、前記モータの回転位置を検出する位置検出方法であって、前記三相の信号に含まれるU相信号、V相信号およびW相信号のそれぞれをデジタル変換することより、前記U相信号の瞬時値Hu’、前記V相信号の瞬時値Hv’および前記W相信号の瞬時値Hw’を取得する取得ステップと、前記U相信号の瞬時値Hu’、前記V相信号の瞬時値Hv’および前記W相信号の瞬時値Hw’が、第1ケース、第2ケースおよび第3ケースの全てにおいて下式(1)を満たすか否かを判定することにより、前記3つの磁気センサのうち異常な磁気センサである異常センサを特定する異常判別ステップと、前記3つの磁気センサのうち前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号に基づいて、残り一相の信号を生成する信号生成ステップと、前記異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号と、生成された前記残り一相の信号とに基づいて、前記モータの回転位置を推定する位置推定ステップと、を含む。
【0007】
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記態様によれば、3つの磁気センサのうち1つの磁気センサに異常が発生した場合であっても、異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号に基づいて残り一相の信号を生成することにより、モータの回転位置の推定を継続して行うことができる位置検出装置および位置検出方法が提供される。従って、モータの回転を検出するのに必要な回路を二系統用意する従来技術と比較して、装置の小型化と部品コストの削減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態における位置検出装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における3つの磁気センサと電源回路と処理部との接続関係を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における位置検出装置の処理部が実行する各処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本実施形態における位置検出装置の処理部が実行する異常判別処理に関する説明図である。
【
図5】
図5は、本実施形態における位置検出装置の処理部が実行する信号生成処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第1信号Hu’及び第2信号Hv’を複素平面上において回転するベクトルで表した図である。
【
図7】
図7は、複素平面上において第1信号Hu’のベクトルが1回転する間に得られる第1信号Hu’の波形データと、複素平面上において第2信号Hv’のベクトルが1回転する間に得られる第2信号Hv’の波形データとの一例を示す図である。
【
図8】
図8は、第1基本波信号Huと第2基本波信号Hvとの合成信号Huvを複素平面上において回転するベクトルで表した図である。
【
図9】
図9は、複素平面上において第1信号Hu’及び第2信号Hv’のベクトルが1回転する間に得られる合成信号Huvの波形データの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、学習処理において第1信号Hu’と第2信号Hv’との位相差φ1を算出する方法に関する説明図である。
【
図11】
図11は、学習処理において合成信号Huvと第1信号Hu’との位相差φ2を算出する方法に関する説明図である。
【
図12】
図12は、合成信号Huvと第1基本波信号Huとの位相差は、合成信号Huvと第1信号Hu’との位相差φ2と等しいことを示す説明図である。
【
図13】
図13は、合成信号Huvの偏角ωt+φ2に関する説明図である。
【
図14】
図14は、合成信号Huvと直交関係にある第3基本波信号Hwを複素平面上において回転するベクトルで表した図である。
【
図15】
図15は、複素平面上において合成信号Huvのベクトルが1回転する間に得られる第3基本波信号Hwの波形データの一例を示す図である。
【
図16】
図16は、第1基本波信号Huの波形データと、第2基本波信号Hvの波形データと、第3基本波信号Hwの波形データとの一例を示す図である。
【
図17】
図17は、本実施形態における位置検出装置の処理部が実行する位置推定処理に関する第1説明図である。
【
図18】
図18は、本実施形態における位置検出装置の処理部が実行する位置推定処理に関する第2説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態における位置検出装置1の構成を模式的に示すブロック図である。
図1に示すように、位置検出装置1は、モータ100の回転位置(回転角)を検出する装置である。本実施形態においてモータ100は、例えばインナーロータ型の三相ブラシレスDCモータである。モータ100は、ロータシャフト110と、センサマグネット120と、を有する。ロータシャフト110は、モータ100の回転軸である。モータ100の回転位置とは、ロータシャフト110の回転位置を意味する。
【0011】
センサマグネット120は、ロータシャフト110に取り付けられる円板状の磁石である。センサマグネット120は、ロータシャフト110に同期して回転する磁石である。センサマグネット120は、P個(Pは2以上の整数)の磁極対を有する。本実施形態では、一例として、センサマグネット120は、4つの磁極対を有する。なお、磁極対とは、N極とS極とのペアを意味する。すなわち、本実施形態においてセンサマグネット120は、N極とS極とのペアを4つ有し、計8つの磁極を有する。
【0012】
位置検出装置1は、3つの磁気センサ11、12及び13と、信号処理部20と、を備える。
図1では図示を省略するが、モータ100には回路基板が装着されており、3つの磁気センサ11、12及び13と、信号処理部20とは、回路基板上に配置される。センサマグネット120は、回路基板と干渉しない位置に配置される。センサマグネット120は、モータ100のハウジングの内部に配置されてもよいし、或いはハウジングの外部に配置されてもよい。
【0013】
磁気センサ11、12及び13は、回路基板上において、センサマグネット120と対向し且つセンサマグネット120の回転方向CWに沿って所定の間隔で配置される。本実施形態において、磁気センサ11、12及び13は、センサマグネット120の回転方向CWに沿って30°間隔で配置される。例えば、磁気センサ11、12及び13は、それぞれ、例えばホール素子、或いはリニアホールICなど、磁気抵抗素子を含めたアナログ出力タイプの磁気センサである。磁気センサ11、12及び13は、それぞれ、ロータシャフト110の回転位置、すなわちセンサマグネット120の回転位置に応じて変化する磁界強度を示すアナログ信号を出力する。
【0014】
磁気センサ11、12及び13から出力される各アナログ信号の電気角1周期は、機械角1周期の1/Pに相当する。本実施形態では、センサマグネット120の極対数Pが「4」なので、各アナログ信号の電気角1周期は、機械角1周期の1/4、すなわち機械角で90°に相当する。また、磁気センサ11、12及び13から出力されるアナログ信号は、互いに電気角で120°の位相差を有する。
【0015】
以下では、磁気センサ11から出力されるアナログ信号をU相信号Hu’と呼称し、磁気センサ12から出力されるアナログ信号をV相信号Hv’と呼称し、磁気センサ13から出力されるアナログ信号をW相信号Hw’と呼称する。V相信号Hv’は、U相信号Hu’ に対して電気角で120°の位相遅れを有する。W相信号Hw’は、V相信号Hv’に対して電気角で120°の位相遅れを有する。
【0016】
上記のように、3つの磁気センサ11、12及び13は、互いに電気角で120°の位相差を有する三相の信号を出力する。磁気センサ11は、U相信号Hu’を信号処理部20に出力する。磁気センサ12は、V相信号Hv’を信号処理部20に出力する。磁気センサ13は、W相信号Hw’を信号処理部20に出力する。
【0017】
信号処理部20は、3つの磁気センサ11、12及び13から出力される、互いに電気角で120°の位相差を有する三相の信号を処理する信号処理回路である。信号処理部20は、磁気センサ11から出力されるU相信号Hu’と、磁気センサ12から出力されるV相信号Hv’と、磁気センサ13から出力されるW相信号Hw’とに基づいて、モータ100の回転位置、すなわちロータシャフト110の回転位置を推定する。信号処理部20は、電源回路21と、処理部22と、記憶部23と、を備える。
【0018】
電源回路21は、バッテリなどの直流電源200から供給される外部電源電圧を、信号処理部20の内部回路を動作させるのに必要な内部電源電圧に変換する回路である。一例として、直流電源200から供給される外部電源電圧は5Vであり、電源回路21から出力される内部電源電圧は3.3Vである。例えば、電源回路21として、ロードロップアウトレギュレータが使用されてもよい。
【0019】
電源回路21は、電源線Vccと、グランド線GNDとを介して処理部22と電気的に接続される。電源回路21は、電源線Vccと、グランド線GNDとを介して内部電源電圧を処理部22に出力する。
図1では図示を省略するが、電源回路21は、電源線Vccと、グランド線GNDとを介して記憶部23とも電気的に接続される。
【0020】
処理部22は、例えばMCU(Microcontroller Unit)などのマイクロプロセッサである。磁気センサ11から出力されるU相信号Hu’と、磁気センサ12から出力されるV相信号Hv’と、磁気センサ13から出力されるW相信号Hw’とは、それぞれ、処理部22に入力される。処理部22は、不図示の通信バスを介して記憶部23と通信可能に接続される。詳細は後述するが、処理部22は、記憶部23に予め記憶されるプログラムに従って、取得処理、異常判別処理、信号生成処理および位置推定処理を実行する。
【0021】
図2に示すように、処理部22は、3つの出力ポートP1、P2及びP3を有する。出力ポートP1、P2及びP3は、例えばCMOS出力ポートである。出力ポートP1は、センサ用電源線Vcc1を介して磁気センサ11と電気的に接続される。出力ポートP2は、センサ用電源線Vcc2を介して磁気センサ12と電気的に接続される。出力ポートP3は、センサ用電源線Vcc3を介して磁気センサ13と電気的に接続される。なお、
図2に示すように、電源回路21は、グランド線GNDを介して磁気センサ11、12及び13のそれぞれと電気的に接続される。
【0022】
処理部22は、センサ用電源電圧としてハイレベル電圧を出力ポートP1から磁気センサ11に出力する。処理部22は、センサ用電源電圧としてハイレベル電圧を出力ポートP2から磁気センサ12に出力する。処理部22は、センサ用電源電圧としてハイレベル電圧を出力ポートP3から磁気センサ13に出力する。例えば、電源回路21によって生成される内部電源電圧が3.3Vの場合、ハイレベル電圧は3.3Vである。
【0023】
磁気センサ11への電源供給を遮断する場合、処理部22は、出力ポートP1の出力電圧をローレベルに切り替える。磁気センサ12への電源供給を遮断する場合、処理部22は、出力ポートP2の出力電圧をローレベルに切り替える。磁気センサ13への電源供給を遮断する場合、処理部22は、出力ポートP3の出力電圧をローレベルに切り替える。
【0024】
記憶部23は、処理部22に各種処理を実行させるのに必要なプログラムおよび各種設定データなどを記憶する不揮発性メモリと、処理部22が各種処理を実行する際にデータの一時保存先として使用される揮発性メモリとを含む。不揮発性メモリは、例えばEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)又はフラッシュメモリなどである。揮発性メモリは、例えばRAM(Random Access Memory)などである。
【0025】
次に、処理部22によって実行される、取得処理、異常判別処理、信号生成処理および位置推定処理について説明する。
【0026】
電源回路21が内部電源電圧を処理部22に出力すると、処理部22は起動して所定の初期化処理を行った後、出力ポートP1、P2及びP3のそれぞれからハイレベル電圧を出力する。これにより、3つの磁気センサ11、12及び13のそれぞれにセンサ用電源電圧が供給され、各磁気センサ11、12及び13は磁界強度を検出可能な状態になる。
【0027】
図3に示すように、処理部22は、各磁気センサ11、12及び13への電源供給を開始した後、3つの磁気センサ11、12及び13から出力される三相の信号に含まれるU相信号Hu’、V相信号Hv’およびW相信号Hw’のそれぞれをデジタル変換することより、U相信号Hu’の瞬時値、V相信号Hv’の瞬時値およびW相信号Hw’の瞬時値を取得する取得処理を実行する(ステップS1)。このステップS1は、取得ステップに相当する。
【0028】
具体的には、処理部22にはA/D変換器が内蔵されており、処理部22は、A/D変換器によってU相信号Hu’、V相信号Hv’およびW相信号Hw’のそれぞれを所定のサンプリング周波数でデジタル変換することにより、U相信号Hu’の瞬時値、V相信号Hv’の瞬時値およびW相信号Hw’の瞬時値をデジタル値として取得する。
【0029】
そして、処理部22は、U相信号Hu’の瞬時値、V相信号Hv’の瞬時値およびW相信号Hw’の瞬時値が、第1ケース、第2ケースおよび第3ケースの全てにおいて下式(1)を満たすか否かを判定することにより、3つの磁気センサ11、12及び13のうち異常な磁気センサである異常センサを特定する異常判別処理を実行する(ステップS2)。このステップS2は、異常判別ステップに相当する。
【0030】
【0031】
上式(1)において、最小閾値THmin及び最大閾値THmaxは、事前に行われる第1の学習処理によって得られる学習値であり、予め記憶部23の不揮発性メモリに記憶されている。以下では、第1の学習処理について説明する。
【0032】
図4は、3つの磁気センサ11、12及び13の全てが正常の場合に得られる、U相信号Hu’の瞬時値の時系列データ(U相信号Hu’の波形データ)と、V相信号Hv’の瞬時値の時系列データ(V相信号Hv’の波形データ)と、W相信号Hw’の瞬時値の時系列データ(W相信号Hw’の波形データ)との一例を示す。
図4において、横軸は時間を示し、縦軸はデジタル値を示す。
【0033】
第1の学習処理において、処理部22は、上記のように3つの磁気センサ11、12及び13の全てが正常の場合に得られた三相信号の波形データに基づいて、三相不平衡成分Nzpn(=Hu’+Hv’+Hw’)の最大値Nzpn1と最小値Nzpn2とを演算する。そして、処理部22は、三相不平衡成分の最大値Nzpn1に、設計上のマージンである設定値Δthを加算して得られる値を最大閾値THmax(=Nzpn1+Δth)として記憶部23の不揮発性メモリに格納する。また、処理部22は、三相不平衡成分の最小値Nzpn2から設定値Δthを減算して得られる値を最小閾値THmin(=Nzpn2-Δth)として記憶部23の不揮発性メモリに格納する。
【0034】
以上が第1の学習処理の説明である。ステップS2において、処理部22は、記憶部23の不揮発性メモリから最大閾値THmax及び最小閾値THminを読み出し、ステップS1で取得した三相信号の瞬時値が、第1ケース、第2ケースおよび第3ケースの全てにおいて式(1)を満たすか否かを判定することにより、3つの磁気センサ11、12及び13のなかから異常センサを特定する。
【0035】
図4に示すように、例えば磁気センサ13が天絡状態にあるとき、磁気センサ13から出力されるW相信号Hw’の瞬時値は、ハイレベル(例えば3.3V)を示すデジタル値に固定される。例えば磁気センサ13が地絡状態にあるとき、磁気センサ13から出力されるW相信号Hw’の瞬時値は、ローレベル(例えば0V)を示すデジタル値に固定される。例えば磁気センサ13が故障状態にあるとき、磁気センサ13から出力されるW相信号Hw’の波形データは、正常時の波形データと異なる異常なデジタル値を示す。
【0036】
上記のように、例えば磁気センサ13が異常状態にあるとき、第1ケースにおいて式(1)が満たされない。処理部22は、第1ケースにおいて式(1)が満たされない場合、磁気センサ13を異常センサとして特定する。同様に、磁気センサ11が異常状態にあるとき、第2ケースにおいて式(1)が満たされない。処理部22は、第2ケースにおいて式(1)が満たされない場合、磁気センサ11を異常センサとして特定する。また、磁気センサ12が異常状態にあるとき、第3ケースにおいて式(1)が満たされない。処理部22は、第3ケースにおいて式(1)が満たされない場合、磁気センサ12を異常センサとして特定する。
【0037】
処理部22は、ステップS2の異常判別処理によって異常センサを特定すると、3つの磁気センサ11、12及び13のうち異常センサへの電源供給を遮断する。例えば、磁気センサ11が異常センサの場合、処理部22は、出力ポートP1の出力電圧をローレベルに切り替えることにより、磁気センサ11への電源供給を遮断する。磁気センサ12が異常センサの場合、処理部22は、出力ポートP2の出力電圧をローレベルに切り替えることにより、磁気センサ12への電源供給を遮断する。磁気センサ13が異常センサの場合、処理部22は、出力ポートP3の出力電圧をローレベルに切り替えることにより、磁気センサ13への電源供給を遮断する。
【0038】
そして、処理部22は、3つの磁気センサ11、12及び13のうち異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号に基づいて、残り一相の信号を生成する信号生成処理を実行する(ステップS3)。このステップS3は、信号生成ステップに相当する。以下では、異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号のうち、一方の信号を第1信号とし、第1信号に対して電気角で120°の位相遅れを有する他方の信号を第2信号とする。例えば、磁気センサ13が異常センサの場合、磁気センサ11から出力されるU相信号Hu’が第1信号であり、磁気センサ12から出力されるV相信号Hv’が第2信号である。
【0039】
ロータシャフト110とともにセンサマグネット120が回転すると、センサマグネット120の回転位置に応じて変化する磁界強度を示す第1信号Hu’が磁気センサ11から出力され、第1信号Hu’に対して電気角で120°の位相遅れを有する第2信号Hv’が磁気センサ12から出力される。処理部22は、A/D変換器によって第1信号Hu’及び第2信号Hv’を所定のサンプリング周波数でデジタル変換する。処理部22は、デジタル変換の実行タイミング、すなわちサンプリングタイミングが到来するたびに、
図5のフローチャートで示される信号生成処理を実行する。
【0040】
図5に示すように、サンプリングタイミングが到来すると、処理部22は、上記のようにセンサマグネット120の回転に伴って処理部22に出力される第1信号Hu’及び第2信号Hv’をデジタル変換することにより、第1信号Hu’の瞬時値と、第2信号Hv’の瞬時値とをデジタル値として取得する(ステップS11)。このステップS11は第1ステップに相当し、ステップS11で実行される処理は第1処理に相当する。
【0041】
図6は、第1信号Hu’及び第2信号Hv’を複素平面上において回転するベクトルで表した図である。
図6において、横軸は実数軸であり、縦軸は虚数軸である。第1信号Hu’及び第2信号Hv’は、複素平面上において矢印の方向に角速度ωで回転する。
図6に示すように、第1信号Hu’は、基本波信号である第1基本波信号Huと、同相信号Nとを含む。第1信号Hu’は、第1基本波信号Huと同相信号Nとの合成ベクトルで表される。すなわち、第1信号Hu’は、下式(2)で表される。第2信号Hv’は、基本波信号である第2基本波信号Hvと、同相信号Nとを含む。第2信号Hv’は、第2基本波信号Hvと同相信号Nとの合成ベクトルで表される。すなわち、第2信号Hv’は、下式(3)で表される。同相信号Nは、直流信号および第3次高調波信号などを含むノイズ信号である。
【0042】
【0043】
ステップS11で取得される第1信号Hu’の瞬時値は、
図6においてベクトルで表される第1信号Hu’の実数部(実数軸に投影される部分)に相当する。同様に、ステップS11取得される第2信号Hv’の瞬時値は、
図6においてベクトルで表される第2信号Hv’の実数部に相当する。例えば、第1信号Hu’の瞬時値は、下式(4)で表される。下式(4)において、||Hu’||は第1信号Hu’のノルムであり、kは1以上の整数である。
【0044】
【0045】
図7は、複素平面上において第1信号Hu’のベクトルが1回転する間に得られる第1信号Hu’の瞬時値の時系列データ(第1信号Hu’の波形データ)と、複素平面上において第2信号Hv’のベクトルが1回転する間に得られる第2信号Hv’の瞬時値の時系列データ(第2信号Hv’の波形データ)との一例を示す図である。
図7において、横軸は時間を示し、縦軸はデジタル値を示す。
図7に示すように、同相信号Nを含む第1信号Hu’及び第2信号Hv’の波形は完全な正弦波形にならず、歪みを有する波形となる。
【0046】
図5に戻り、処理部22は、第1信号Hu’の瞬時値から第2信号Hv’の瞬時値を減算することにより、第1信号Hu’に含まれる第1基本波信号Huと第2信号Hv’に含まれる第2基本波信号Hvとの合成信号Huvの瞬時値を算出する(ステップS12)。このステップS12は第2ステップに相当し、ステップS12で実行される処理は第2処理に相当する。
【0047】
下式(5)に示すように、第1信号Hu’の瞬時値から第2信号Hv’の瞬時値を減算することにより、両信号に含まれる同相信号Nが相殺され、第1基本波信号Huと第2基本波信号Hvとの合成信号Huvの瞬時値が得られることがわかる。
図8は、第1基本波信号Huと第2基本波信号Hvとの合成信号Huvを複素平面上において回転するベクトルで表した図である。
図9は、複素平面上において第1信号Hu’及び第2信号Hv’のベクトルが1回転する間に得られる合成信号Huvの瞬時値の時系列データ(合成信号Huvの波形データ)の一例を示す図である。
図9に示すように、合成信号Huvの波形は、完全な正弦波形となる。
【0048】
【0049】
なお、ステップS12において、処理部22は、合成信号Huvの瞬時値を算出する前に、予め用意された振幅補正値に基づいて、第1信号Hu’の瞬時値と第2信号Hv’の瞬時値との少なくとも一方を補正する。振幅補正値とは、第1信号Hu’の振幅値と第2信号Hv’の振幅値とが等しくなる補正値である。振幅補正値は、事前に行われる第2の学習処理によって得られる学習値の一つであり、予め記憶部23の不揮発性メモリに記憶されている。すなわち、ステップS12において、処理部22は、記憶部23の不揮発性メモリから振幅補正値を読み出し、読み出した振幅補正値に基づいて、第1信号Hu’の振幅値と第2信号Hv’の振幅値とが等しくなるように第1信号Hu’の瞬時値と第2信号Hv’の瞬時値との少なくとも一方を補正する。
【0050】
図5に戻り、処理部22は、合成信号Huvの瞬時値と予め用意された合成信号Huvのノルムとに基づいて、合成信号Huvの偏角を算出する(ステップS13)。このステップS13は第3ステップに相当し、ステップS13で実行される処理は第3処理に相当する。
【0051】
合成信号Huvのノルムは、上記の振幅補正値と同様に、事前に行われる第2の学習処理によって得られる学習値の一つであり、予め記憶部23の不揮発性メモリに記憶されている。振幅補正値および合成信号Huvのノルムの他、合成信号Huvと第1基本波信号Huとの位相差も学習値として予め記憶部23の不揮発性メモリに記憶されている。以下では、事前に行われる第2の学習処理について説明する。
【0052】
第2の学習処理は、ロータシャフト110とともにセンサマグネット120が回転する状態で行われる。第2の学習処理において、処理部22は、少なくとも第1信号Hu’及び第2信号Hv’の電気角1周期に相当する時間が経過するまで、つまり、少なくともセンサマグネット120が機械角で90°回転するまで、上記のステップS11及びステップS12の処理を所定のサンプリング周波数で繰り返す。言い換えれば、処理部22は、複素平面上において第1信号Hu’及び第2信号Hv’のベクトルが少なくとも1回転するまで、上記のステップS11及びステップS12の処理を所定のサンプリング周波数で繰り返す。
【0053】
これにより、処理部31は、第1信号Hu’の瞬時値と、第2信号Hv’の瞬時値と、合成信号Huvの瞬時値とを逐次取得し、過去の各瞬時値の最大値と現時刻(現在のサンプリングタイミング)の各瞬時値とを比較し、現時刻の各瞬時値が過去の各瞬時値の最大値より大きい場合に、過去の各瞬時値の最大値を現時刻の各瞬時値に更新する処理を行う。また、処理部31は、第1信号Hu’の瞬時値と、第2信号Hv’の瞬時値と、合成信号Huvの瞬時値とを逐次取得し、過去の各瞬時値の最小値と現時刻の各瞬時値とを比較し、現時刻の各瞬時値が過去の各瞬時値の最小値より小さい場合に、過去の各瞬時値の最小値を現時刻の各瞬時値に更新する処理を行う。
【0054】
処理部22は、上記のような逐次更新処理を行うことにより各信号の最大値及び最小値を取得する。そして、処理部22は、第1信号Hu’の最大値Max(Hu’)及び最小値Min(Hu’)を下式(6)に代入することにより、第1信号Hu’の振幅値であるノルム||Hu’||を算出する。処理部22は、第2信号Hv’の最大値Max(Hv’)及び最小値Min(Hv’)を下式(7)に代入することにより、第2信号Hv’の振幅値であるノルム||Hv’||を算出する。処理部22は、合成信号Huvの最大値Max(Huv)及び最小値Min(Huv)を下式(8)に代入することにより、合成信号Huvの振幅値であるノルム||Huv||を算出する。
【0055】
【0056】
処理部22は、第1信号Hu’のノルム||Hu’||と、第2信号Hv’のノルム||Hv’||とが等しくなる振幅補正値を算出する。処理部22は、第1信号Hu’の波形データに含まれる全ての瞬時値と、第2信号Hv’の波形データに含まれる全ての瞬時値との少なくとも一方を、振幅補正値によって補正する。これにより、振幅値(ノルム)が等しい第1信号Hu’の波形データと第2信号Hv’の波形データとが得られる。
【0057】
図10に示すように、処理部22は、振幅補正後の第1信号Hu’の波形データと第2信号Hv’の波形データとに基づいて、第1信号Hu’を基準として、第1信号Hu’と第2信号Hv’との位相差φ1(≒typ.-120°)を算出する。具体的には、
図10に示すように、処理部22は、第1信号Hu’の最大値Max(Hu’)と第2信号Hv’の最大値Max(Hv’)との間の時間を基準エンコーダなどでカウントし、カウント結果Nmaxを下式(9)に代入することで位相差φ1を算出する。または、処理部22は、第1信号Hu’の最小値Min(Hu’)と第2信号Hv’の最小値Min(Hv’)との間の時間を基準エンコーダなどでカウントし、カウント結果Nminを下式(10)に代入することで位相差φ1を算出してもよい。式(9)及び式(10)において、Ncprは、基準エンコーダの分解能である。なお、第2の学習処理において、基準エンコーダは回転軸に予め取り付けられる。
【0058】
【0059】
図11に示すように、処理部22は、第1信号Hu’と第2信号Hv’との位相差φ1に基づいて、合成信号Huvと第1信号Hu’との位相差φ2(≒typ.+30°)を算出する。具体的には、処理部22は、第1信号Hu’と第2信号Hv’との位相差φ1を下式(11)に代入することにより、合成信号Huvと第1信号Hu’との位相差φ2を算出する。
【0060】
【0061】
図12に示すように、合成信号Huvと第1信号Hu’との位相差φ2は、合成信号Huvと第1基本波信号Huとの位相差と等しい。従って、処理部22は、合成信号Huvと第1信号Hu’との位相差φ2を、合成信号Huvと第1基本波信号Huとの位相差として取得する。上記のような第2の学習処理によって、振幅補正値と、合成信号Huvのノルム||Huv||と、合成信号Huvと第1基本波信号Huとの位相差φ2とが学習値として得られる。処理部22は、第2の学習処理によって得られた各学習値を記憶部23の不揮発性メモリに格納する。
【0062】
以上が第2の学習処理の説明であり、以下では
図5に戻って信号生成処理の説明を続ける。
図5のステップS13において、処理部22は、ステップS12で算出された合成信号Huvの瞬時値と、第2の学習処理によって事前に得られた合成信号Huvのノルム||Huv||とに基づいて、合成信号Huvの偏角を算出する。
図13に示すように、合成信号Huvの偏角をωt+φ2とすると、合成信号Huvの瞬時値は下式(12)で表される。
【0063】
【0064】
そこで、処理部22は、ステップS13において、下式(13)に基づいて合成信号Huvの偏角ωt+φ2を算出する。すなわち、処理部22は、記憶部23の不揮発性メモリから合成信号Huvのノルム||Huv||を読み出し、読み出した合成信号Huvのノルム||Huv||と、ステップS12で算出された合成信号Huvの瞬時値とを下式(13)に代入することにより、合成信号Huvの偏角ωt+φ2を算出する。
【0065】
ただし、式(13)によって得られる合成信号Huvの偏角ωt+φ2は、0°以上且つ180°以下の値に制限される。そのため、偏角ωt+φ2のサイン値は、0以上且つ1以下の正極性の値に制限される。そこで、本実施形態において処理部22は、算出された偏角ωt+φ2を拡張処理することにより、-180°以上且つ180°未満の範囲に含まれる偏角θを取得する。これにより、偏角θのサイン値は、-1以上且つ1以下の範囲内で正極性及び負極性の両方の値を取り得る。
【0066】
【0067】
そして、処理部22は、合成信号Huvの偏角θと、合成信号Huvのノルム||Huv||と、予め用意された合成信号Huvと第1基本波信号Huとの位相差φ2とに基づいて、合成信号Huvと直交関係にある第3基本波信号Hwの瞬時値を算出する(ステップS14)。このステップS14は第4ステップに相当し、ステップS14で実行される処理は第4処理に相当する。
【0068】
図14は、合成信号Huvと直交関係にある第3基本波信号Hwを複素平面上において回転するベクトルで表した図である。振幅補正により、第1信号Hu’の振幅値(||Hu’||)と第2信号Hv’の振幅値(||Hv’||)とが等しいという条件が成立する場合、第1基本波信号Huの振幅値(||Hu||)と第2基本波信号Hvの振幅値(||Hv||)とが等しくなる。この場合、合成信号Huvのノルム||Huv||と、第3基本波信号Hwのノルム||Hw||との比は、1/2sin(φ2)となる。従って、合成信号Huvと直交関係にある第3基本波信号Hwの瞬時値は、下式(14)で表される。
【0069】
ステップS14において、処理部22は、記憶部23の不揮発性メモリから合成信号Huvのノルム||Huv||と位相差φ2とを読み出し、これら合成信号Huvのノルム||Huv||及び位相差φ2と、ステップS13で取得した偏角θとを下式(14)に代入することにより、第3基本波信号Hwの瞬時値を算出する。
図15は、複素平面上において合成信号Huvのベクトルが1回転する間に得られる第3基本波信号Hwの瞬時値の時系列データ(第3基本波信号Hwの波形データ)の一例を示す図である。
図15に示すように、第3基本波信号Hwの波形は、合成信号Huv、第1基本波信号Hu及び第2基本波信号Hvの波形と同様に、完全な正弦波形となる。
【0070】
【0071】
図5に戻り、処理部22は、第1信号Hu’の瞬時値と、第2信号Hv’の瞬時値と、第3基本波信号Hwの瞬時値とに基づいて、第1信号Hu’及び第2信号Hv’に含まれる同相信号Nの瞬時値を算出する(ステップS15)。このステップS15は第5ステップに相当し、ステップS15で実行される処理は第5処理に相当する。具体的には、ステップS15において、処理部22は、下式(15)及び下式(16)に基づいて同相信号Nの瞬時値を算出する。
【0072】
【0073】
ステップS15において、処理部22は、まず、第1信号Hu’の瞬時値と第2信号Hv’の瞬時値とを上式(15)に代入することにより、第3信号Hw’の瞬時値を算出する。第3信号Hw’は、第1信号Hu’及び第2信号Hv’とともに三相平衡式(Hu’+Hv’+Hw’=0)を満たす信号である。言い換えれば、第3信号Hw’は、第1信号Hu’に対して電気角で240°の位相遅れを有し、第2信号Hv’に対して電気角で120°の位相遅れを有する信号である。
【0074】
図14に示すように、第3信号Hw’を複素平面上において回転するベクトルで表したとき、第3信号Hw’は、第3基本波信号Hwのベクトルと、同相信号Nの負の2倍のベクトルとを合成したベクトル(Hw’=Hw-2N)で表される。従って、同相信号Nは、上式(16)で表すことができる。ステップS15において、処理部22は、式(15)により算出した第3信号Hw’の瞬時値と、ステップS14で算出した第3基本波信号Hwの瞬時値とを式(16)に代入することにより、同相信号Nの瞬時値を算出する。
図15に、第3信号Hw’の波形及び同相信号Nの波形の一例を示す。
【0075】
図5に戻り、処理部22は、第1信号Hu’の瞬時値から同相信号Nの瞬時値を減算することにより、第1基本波信号Huの瞬時値を算出する(ステップS16)。このステップS16は第6ステップに相当し、ステップS16で実行される処理は第6処理に相当する。式(2)を参照すれば、第1信号Hu’の瞬時値から同相信号Nの瞬時値を減算することにより、第1基本波信号Huの瞬時値を算出できることは容易に理解できるであろう。
【0076】
最後に、処理部22は、第2信号Hv’の瞬時値から同相信号Nの瞬時値を減算することにより、第2基本波信号Hvの瞬時値を算出する(ステップS17)。このステップS17は第7ステップに相当し、ステップS17で実行される処理は第7処理に相当する。式(3)を参照すれば、第2信号Hv’の瞬時値から同相信号Nの瞬時値を減算することにより、第2基本波信号Hvの瞬時値を算出できることは容易に理解できるであろう。
【0077】
上記のようなステップS11からステップS17までの処理を含む信号生成処理が、サンプリングタイミングが到来するたびに処理部22によって実行される。その結果、
図16に示すように、第1基本波信号Huの瞬時値の時系列データ(第1基本波信号Huの波形データ)と、第2基本波信号Hvの瞬時値の時系列データ(第2基本波信号Hvの波形データ)と、第3基本波信号Hwの瞬時値の時系列データ(第3基本波信号Hwの波形データ)とが得られる。
図16に示すように、第1基本波信号Hu、第2基本波信号Hv及び第3基本波信号Hwの波形は完全な正弦波形となる。また、第1基本波信号Hu、第2基本波信号Hv及び第3基本波信号Hwは、互いに電気角で120°の位相差を有する。
【0078】
以上のような信号生成処理によって、3つの磁気センサ11、12及び13のうち異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号に基づいて、互いに電気角で120°の位相差を有する三相の基本波信号を生成することができる。
【0079】
図3に戻り、処理部22は、異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号と、生成された残り一相の信号とに基づいて、モータ100の回転位置を推定する位置推定処理を実行する(ステップS4)。すなわち、処理部22は、互いに電気角で120°の位相差を有する三相の基本波信号Hu、Hv及びHwに基づいて、モータ100の回転位置を推定する。このステップS4は、位置推定ステップに相当する。
【0080】
モータ100の回転位置の推定に必要な学習値を取得するために第3の学習処理が事前に行われる。以下では、事前に行われる第3の学習処理について説明する。第3の学習処理は、磁気センサ11、12及び13の全てが正常な状態で行われる。
【0081】
第3の学習処理において、処理部22は、ロータシャフト110とともにセンサマグネット120が回転する状態で、U相信号Hu’、V相信号Hv’およびW相信号Hw’のそれぞれの波形データ(瞬時値の時系列データ)を取得する。そして、処理部22は、これら3つの波形データに基づいて、U相信号Hu’に含まれる第1基本波信号Huの波形データと、V相信号Hv’に含まれる第2基本波信号Hvの波形データと、W相信号Hw’に含まれる第3基本波信号Hwの波形データとを算出する。なお、3つの磁気センサ11、12及び13から出力される三相の信号のそれぞれから基本波信号を抽出する演算式として、例えば特許第6233532号公報に記載された式(1)、式(2)及び式(3)を使用できる。
【0082】
図17に示すように、処理部22は、3つの基本波信号Hu、Hv及びHwの波形データに基づいて、機械角1周期を、4つの磁極対のそれぞれの極対位置を表す極対番号に紐付けられた4つの極対領域に分割し、4つの極対領域のそれぞれをさらに複数のセクションに分割し、複数のセクションのそれぞれに、ロータシャフト110の回転位置を表すセグメント番号を紐づける。
【0083】
本実施形態では、ロータシャフト110の回転位置を推定するために、センサマグネット120の4つの磁極対に対して、極対位置を表す極対番号が割り当てられる。例えば、
図1に示すように、センサマグネット120の4つの磁極対には、時計回りに、「0」、「1」、「2」、「3」の順で極対番号が割り当てられる。
【0084】
図17に示すように、処理部22は、機械角1周期に得られた基本波信号Hu、Hv及びHwの波形データに基づいて、機械角1周期を4つの極対領域に分割する。
図17において、時刻t1から時刻t5までの期間が、機械角1周期に相当する。
図17において、「No.C」は極対番号を示す。
処理部22は、機械角1周期のうち時刻t1から時刻t2までの期間を、極対番号「0」に紐づけられた極対領域として分割する。
処理部22は、機械角1周期のうち時刻t2から時刻t3までの期間を、極対番号「1」に紐づけられた極対領域として分割する。
処理部22は、機械角1周期のうち時刻t3から時刻t4までの期間を、極対番号「2」に紐づけられた極対領域として分割する。
処理部22は、機械角1周期のうち時刻t4から時刻t5までの期間を、極対番号「3」に紐づけられた極対領域として分割する。
【0085】
図17に示すように、処理部22は、機械角1周期に得られた基本波信号Hu、Hv及びHwの波形データに基づいて、4つの極対領域のそれぞれをさらに12個のセクションに分割し、12個のセクションのそれぞれに、ロータシャフト110の回転位置を表すセグメント番号を紐づける。
図17において、「No.A」はセクションに割り当てられたセクション番号を示し、「No.B」はセグメント番号を示す。
【0086】
図17に示すように、4つの極対領域のそれぞれに含まれる12個のセクションには、「0」から「11」までのセクション番号が割り当てられる。一方、機械角1周期の全期間にわたって連続する番号がセグメント番号として各セクションに紐づけられる。具体的には、
図17に示すように、極対番号「0」に紐づけられた極対領域では、セクション番号「0」から「11」までに対して、セグメント番号「0」から「11」までが紐づけられる。極対番号「1」に紐づけられた極対領域では、セクション番号「0」から「11」までに対して、セグメント番号「12」から「23」までが紐づけられる。極対番号「2」に紐づけられた極対領域では、セクション番号「0」から「11」までに対して、セグメント番号「24」から「35」までが紐づけられる。極対番号「3」に紐づけられた極対領域では、セクション番号「0」から「11」までに対して、セグメント番号「36」から「47」までが紐づけられる。
【0087】
図18は、1つの極対領域に含まれる基本波信号Hu、Hv及びHwの拡大図である。以下、
図18を参照しながら、極対領域を12個のセクションに分割する方法について説明する。
図18において、振幅の基準値は「0」である。
図18において、正値である振幅のデジタル値は、一例として、N極の磁界強度のデジタル値を表す。また、負値である振幅のデジタル値は、一例として、S極の磁界強度のデジタル値を表す。
【0088】
処理部22は、4つの極対領域のそれぞれに含まれる3つの基本波信号Hu、Hv及びHwが基準値「0」と交差する点であるゼロクロス点を抽出する。
図18に示すように、処理部22は、ゼロクロス点として、点P1、点P3、点P5、点P7、点P9、点P11、及び点P13を抽出する。
【0089】
そして、処理部22は、4つの極対領域のそれぞれに含まれる3つの基本波信号Hu、Hv及びHwが互いに交差する点である交点を抽出する。
図18に示すように、処理部22は、交点として、点P2、点P4、点P6、点P8、点P10、及び点P12を抽出する。そして、処理部22は、互いに隣り合うゼロクロス点と交点との間の区間をセクションとして決定する。
【0090】
図18に示すように、処理部22は、ゼロクロス点P1と交点P2との間の区間を、セクション番号「0」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、交点P2とゼロクロス点P3との間の区間を、セクション番号「1」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、ゼロクロス点P3と交点P4との間の区間を、セクション番号「2」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、交点P4とゼロクロス点P5との間の区間を、セクション番号「3」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、ゼロクロス点P5と交点P6との間の区間を、セクション番号「4」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、交点P6とゼロクロス点P7との間の区間を、セクション番号「5」が割り当てられるセクションとして決定する。
【0091】
処理部22は、ゼロクロス点P7と交点P8との間の区間を、セクション番号「6」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、交点P8とゼロクロス点P9との間の区間を、セクション番号「7」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、ゼロクロス点P9と交点P10との間の区間を、セクション番号「8」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、交点P10とゼロクロス点P11との間の区間を、セクション番号「9」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、ゼロクロス点P11と交点P12との間の区間を、セクション番号「10」が割り当てられるセクションとして決定する。
処理部22は、交点P12とゼロクロス点P13との間の区間を、セクション番号「11」が割り当てられるセクションとして決定する。
【0092】
さらに、処理部22は、基本波信号Hu、Hv及びHwの瞬時値(デジタル値)の大小関係、および各瞬時値の正負の符号などの特徴データをセクションごとに抽出し、抽出した特徴データを各セクションのセクション番号に紐づける。
【0093】
以上のような処理が実行されることにより、
図17に示すように、機械角1周期が極対番号に紐付けられた4つの極対領域に分割され、4つの極対領域のそれぞれが12個のセクションに分割され、各セクションのセクション番号のそれぞれにセグメント番号が紐づけられる。なお、以下の説明において、例えば、セクション番号「0」が割り当てられたセクションを、「0番セクション」と呼称し、セクション番号「11」が割り当てられたセクションを、「11番セクション」と呼称する。
【0094】
処理部22は、セクション番号に紐づけられた特徴データと、セクション番号に紐づけられた回転位置を表すセグメント番号と、極対位置を表す極対番号との対応関係を示すデータを学習データとして取得し、取得した学習データを記憶部23に格納する。以上が第3の学習処理の説明である。
【0095】
ステップS4において、処理部22は、位置推定処理を開始すると、まず、ステップS3で得られた各基本波信号Hu、Hv及びHwの瞬時値に基づいて、12個のセクションのなかから現在のセクションを特定する。例えば
図18において、第1基本波信号Huの波形上に位置する点PHuと、第2基本波信号Hvの波形上に位置する点PHvと、第3基本波信号Hwの波形上に位置する点PHwとが、任意のサンプリングタイミングで得られた各基本波信号Hu、Hv及びHwの瞬時値であると仮定する。処理部22は、点PHu、点PHv及び点PHwの瞬時値の大小関係と、各瞬時値の正負の符号などの特徴データを抽出し、抽出した特徴データを記憶部23に格納された学習データと照合することにより、抽出した特徴データと一致する特徴データに紐づけられたセクション番号を現在のセクションとして特定する。
図18の例では、9番セクションが現在のセクションとして特定される。
【0096】
そして、処理部22は、特定された現在のセクション(セクション番号)と、記憶部23に格納された学習データとに基づいて、現在のセグメント番号をモータ100の回転位置として決定する。例えば、上記のように、9番セクションが現在のセクションとして特定されたと仮定する。また、点PHu、点PHv及び点PHwの瞬時値が得られたときの極対番号が「2」であると仮定する。この場合、
図17に示すように、処理部22は、セグメント番号「33」をモータ100の回転位置として決定する。
【0097】
以上のように、本実施形態の位置検出装置は、モータに同期して回転する磁石と対向し且つ磁石の回転方向に沿って所定間隔で配置される3つの磁気センサと、3つの磁気センサから出力される、互いに電気角で120°の位相差を有する三相の信号を処理する信号処理部とを備える。信号処理部は、三相の信号に含まれるU相信号、V相信号およびW相信号のそれぞれをデジタル変換することより、U相信号の瞬時値Hu’、V相信号の瞬時値Hv’およびW相信号の瞬時値Hw’を取得する取得処理と、U相信号の瞬時値Hu’、V相信号の瞬時値Hv’およびW相信号の瞬時値Hw’が、第1ケース、第2ケースおよび第3ケースの全てにおいて式(1)を満たすか否かを判定することにより、3つの磁気センサのうち異常な磁気センサである異常センサを特定する異常判別処理と、3つの磁気センサのうち異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号に基づいて、残り一相の信号を生成する信号生成処理と、異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号と、生成された残り一相の信号とに基づいて、モータの回転位置を推定する位置推定処理と、を実行する。
このような本実施形態によれば、3つの磁気センサのうち1つの磁気センサに異常が発生した場合であっても、異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号に基づいて残り一相の信号を生成することにより、モータの回転位置の推定を継続して行うことができる。従って、モータの回転を検出するのに必要な回路を二系統用意する従来技術と比較して、装置の小型化と部品コストの削減を実現できる。
【0098】
異常センサを除く2つの磁気センサから出力される二相の信号のうち、一方の信号を第1信号とし、第1信号に対して電気角で120°の位相遅れを有する他方の信号を第2信号とする場合、本実施形態の信号処理部は、信号生成処理において、第1信号の瞬時値と第2信号の瞬時値とを取得する第1処理と、第1信号の瞬時値から第2信号の瞬時値を減算することにより、第1信号に含まれる第1基本波信号と第2信号に含まれる第2基本波信号との合成信号の瞬時値を算出する第2処理と、合成信号の瞬時値と予め用意された合成信号のノルムとに基づいて合成信号の偏角を算出する第3処理と、合成信号の偏角と、合成信号のノルムと、予め用意された合成信号と第1基本波信号との位相差とに基づいて、合成信号と直交関係にある第3基本波信号の瞬時値を算出する第4処理と、を実行する。
これにより、異常センサを除く2つの磁気センサによって得られる二相の信号(第1信号及び第2信号)から、同相信号を含まない三相目の信号(第3基本波信号)を生成することができる。
【0099】
本実施形態の信号処理部は、第3処理において、式(13)に基づいて合成信号の偏角ωt+φ2を算出し、算出された偏角ωt+φ2を拡張処理することにより、-180°以上且つ180°未満の範囲に含まれる偏角θを取得する。
これにより、処理負荷の小さい簡易な数式によって、合成信号の瞬時値及びノルムから合成信号の偏角ωt+φ2を算出できる。なお、式(13)に基づいて合成信号の偏角ωt+φ2を算出する際に、テーブル値を用いた補間処理によって合成信号の偏角ωt+φ2を算出してもよい。また、算出された偏角ωt+φ2を拡張処理して、-180°以上且つ180°未満の範囲に含まれる偏角θを取得することにより、偏角θのサイン値は、-1以上且つ1以下の範囲内で正極性及び負極性の両方の値を取ることができるため、第4処理によって生成される第3基本波信号の波形を完全な正弦波形にすることができる。
【0100】
本実施形態の信号処理部は、第2処理において、予め用意された、第1信号の振幅値と第2信号の振幅値とが等しくなる振幅補正値に基づいて、第1信号の瞬時値と第2信号の瞬時値との少なくとも一方を補正し、信号処理部は、第4処理において、合成信号のノルム||Huv||と、位相差φ2と、偏角θとを式(14)に代入することにより、第3基本波信号の瞬時値を算出する。
これにより、処理負荷の小さい簡易な数式によって、合成信号のノルム及び偏角と、合成信号と第1基本波信号との位相差とから、合成信号と直交関係にある第3基本波信号の瞬時値を算出できる。
【0101】
本実施形態の信号処理部は、第1信号の瞬時値と第2信号の瞬時値と第3基本波信号の瞬時値とに基づいて同相信号の瞬時値を算出する第5処理と、第1信号の瞬時値から同相信号の瞬時値を減算することにより、第1基本波信号の瞬時値を算出する第6処理と、第2信号の瞬時値から同相信号の瞬時値を減算することにより、第2基本波信号の瞬時値を算出する第7処理と、をさらに実行する。
これにより、第1信号から正弦波形を有する第1基本波信号を抽出でき、第2信号から正弦波形を有し且つ第1基本波信号に対して電気角で120°の位相遅れを有する第2基本波信号を抽出することができる。
【0102】
本実施形態の信号処理部は、第5処理において、式(15)及び式(16)に基づいて同相信号の瞬時値を算出する。
これにより、処理負荷の小さい簡易な数式によって、第1信号及び第2信号から同相信号を抽出できる。
【0103】
本実施形態の信号処理部は、3つの磁気センサのうち異常センサへの電源供給を遮断する。
このように、異常センサへの電源供給を遮断することにより、位置検出装置の内部回路を保護することができる。
【0104】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されず、本明細書において説明した各構成は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。
【0105】
例えば、上記実施形態では、磁気センサ13が異常センサである場合の信号生成処理について説明した。すなわち、上記実施形態では、磁気センサ11から出力されるU相信号Hu’が第1信号であり、磁気センサ12から出力されるV相信号Hv’が第2信号である場合の信号生成処理について説明した。これに対して、磁気センサ11が異常センサである場合には、磁気センサ12から出力されるV相信号Hv’を第1信号とし、磁気センサ13から出力されるW相信号Hw’を第2信号として信号生成処理を実行することができる。また、磁気センサ12が異常センサである場合には、磁気センサ13から出力されるW相信号Hw’を第1信号とし、磁気センサ11から出力されるU相信号Hu’を第2信号として信号生成処理を実行することができる。
【0106】
上記実施形態では、処理部22が出力ポートP1の出力電圧をローレベルに切り替えることにより、磁気センサ11への電源供給を遮断する場合を例示した。これに対して、出力ポートP1と磁気センサ11との間にトランジスタを備えるバッファを設け、出力ポートP1の出力電圧によってバッファを制御することにより、磁気センサ11への電源供給を遮断する構成を採用してもよい。磁気センサ12及び13についても同様である。
【0107】
例えば、上記実施形態では、モータと位置検出装置との組み合わせを例示したが、本発明はこの形態に限定されず、回転軸に取り付けられたセンサマグネットと位置検出装置との組み合わせもあり得る。
上記実施形態では、回転軸の軸方向において、3つの磁気センサが、円板状のセンサマグネットに対向する状態で配置される形態を例示したが、本発明はこの形態に限定されない。例えば、円板状のセンサマグネットの代わりにリング状磁石を用いる場合、リング状磁石の半径方向に磁束が流入するため、リング状磁石の半径方向において、3つの磁気センサが、リング状磁石と対向する状態で配置されてもよい。
上記実施形態では、回転する磁石として、モータ100のロータシャフト110に取り付けられるセンサマグネット120を使用する場合を例示したが、モータ100のロータに取り付けられるロータマグネットを、回転する磁石として用いてもよい。ロータマグネットもロータシャフト110に同期して回転する磁石である。
【0108】
上記実施形態では、センサマグネット120が4つの磁極対を有する場合を例示したが、センサマグネット120の極対数は4つに限定されない。回転する磁石としてロータマグネットを用いる場合も同様に、ロータマグネットの極対数は4つに限定されない。
【符号の説明】
【0109】
1…位置検出装置、11、12、13…磁気センサ、20…信号処理部、21…電源回路、22…処理部、23…記憶部、100…モータ、110…ロータシャフト、120…センサマグネット(磁石)、200…直流電源