(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】血圧降下用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/9066 20060101AFI20240312BHJP
A61K 31/12 20060101ALI20240312BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240312BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240312BHJP
A61K 125/00 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
A61K36/9066
A61K31/12
A61P9/12
A23L33/105
A61K125:00
(21)【出願番号】P 2021527279
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2019025839
(87)【国際公開番号】W WO2020261538
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内尾 隆正
(72)【発明者】
【氏名】室山 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 健吾
(72)【発明者】
【氏名】室▲崎▼ 伸二
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160841(JP,A)
【文献】特開2018-052894(JP,A)
【文献】ADARAMOYE, Oluwatosin, A. et al.,Hypotensive and endothelium-independent vasorelaxant effects of methanolic extract from Curcuma longa L. in rats,J Ethnopharm,2009年,Vol.24, No.3,p.457-462
【文献】LI, Jian et al.,Structure determination of two new bisabolane-type sesquiterpens from the rhizomes of Curcuma longa by NMR spectroscopy,Magn Reson Chem,2015年,Vol.53, No.7,p.536-538
【文献】ZENG, YongChi et al.,New sesquiterpenes and calebin derivatives from Curcuma longa,Chem Pharm Bull,2007年,Vol.55, No.6,p.940-943
【文献】阪井 那津子 ほか,紅参,アスタキサンチン及びウコンがSHRの血圧及び血液流動性に及ぼす影響,日本ヘモレオロジー学会誌,2013年,第13巻,第1号,p.25-32
【文献】LEONG, Xin-Fang et al.,The Spice for Hypertension: Protective Role of Curcuma Longa,Biomed Pharmacol J,2018年,Vol.11, No.4,p.1829-1840,doi: 10.13005/bpj/1555
【文献】岩嶋 義雄,高血圧治療の原則(ガイドライン6,8,14章),血圧,2018年,第25巻,第2号,p.101-105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 36/00-36/9068
A23L 33/00-33/29
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
継続的に摂取することにより収縮期における血圧を降下させる血圧降下用組成物であって、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する、ウコン
(Curcuma longa)根茎の水による抽出物を有効成分として含有する、血圧降下用組成物。
【請求項2】
1日の摂取量当たり合計で20μg以上のターメロノールA及びターメロノールBを含有する、請求項1に記載の血圧降下用組成物。
【請求項3】
1日の摂取量当たり17μg以上のターメロノールAを含有する、請求項1又は2に記載の血圧降下用組成物。
【請求項4】
1日の摂取量当たり5μg以上のターメロノールBを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の血圧降下用組成物。
【請求項5】
1日の摂取量当たり80μg以上のビサクロンを含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の血圧降下用組成物。
【請求項6】
1日の摂取量当たりのクルクミンの含有量が30mg未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の血圧降下用組成物。
【請求項7】
ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンを含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の血圧降下用組成物。
【請求項8】
収縮期血圧が130mmHg以上のヒトに投与される、請求項1~7のいずれか1項に記載の血圧降下用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧は脳血管障害や冠動脈疾患などの脳心血管病ならびに心不全、慢性腎臓病などの臓器障害の重要なリスクファクターであり、中年期の高血圧は高齢期の血管性認知症リスクも上昇させる。また、至適血圧(収縮期血圧120 mmHg未満)を超えて血圧が高くなると、脳心血管、脳卒中、心筋梗塞、慢性腎臓病などの罹患リスクや死亡リスクが高くなることが報告されている(非特許文献1)。そのため、高血圧者の血圧を低下させることは様々な循環器疾患の予防において重要である。
【0003】
一方、ウコンには、多数の生理活性物質が含まれることが知られている。
【0004】
特許文献1では、クルクミン濃度が95%のウコン抽出物と、他の植物の抽出物との組み合わせを含むハーブ組成物を摂取したヒトにおいて、血圧が低下したことが開示されている。
【0005】
特許文献2では、ターメロン等を含むウコンの脂溶性抽出物(ウコン油)を高血圧ラットに腹腔内投与すると、血圧が低下したことが開示されている、また、特許文献2では、前記ウコン油でラット由来の大動脈を処理すると、ノルエピネフリンが誘導する血管の収縮が抑制されたことが開示されている。
【0006】
特許文献3では、他の植物抽出物とともに、ウコンのエタノール抽出物が、高血圧症を治療又は予防する作用を有する成分として記載されている。しかし特許文献3には、ウコンのエタノール抽出物が実際に血圧降下作用を有することを裏付ける実験結果は記載されていない。
【0007】
特許文献4では、春ウコン原体を含む組成物が高血圧症治療に有効であると記載されている。
【0008】
非特許文献2では、ウコンの酢酸エチル抽出物は、アンジオテンシンII変換酵素の活性を阻害したことから、高血圧の治療に有効であることが示唆されたと記載されている。
【0009】
非特許文献3では、ウコンのメタノール抽出物を正常血圧ラットに投与したところ、用量依存的に血圧が低下したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2007-530574号公報
【文献】特表2005-516930号公報
【文献】国際公開WO02/47699
【文献】特開2008-280333号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】日本動脈硬化学会(2017).動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年度版.興和印刷株式会社.p.30.
【文献】J. Food Sci. Technol. 2014 Dec; 51(12):3910-7
【文献】J. Ethnopharmacol. 2009 Jul 30; 124(3):457-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、血圧降下のために有効な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンを含有するウコン抽出物を含む錠剤を毎日12週間摂取したヒトにおいて血圧が有意に低下したことを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
(1)ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を有効成分として含有する、血圧降下用組成物。
(2)前記ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する、水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒によるウコン抽出物を含有する、(1)に記載の血圧降下用組成物。
(3)ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する、水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒によるウコン抽出物を有効成分として含有する、血圧降下用組成物。
(4)1日の摂取量当たり合計で20μg以上のターメロノールA及びターメロノールBを含有する、(1)~(3)のいずれかに記載の血圧降下用組成物。
(5)1日の摂取量当たり17μg以上のターメロノールAを含有する、(1)~(4)のいずれかに記載の血圧降下用組成物。
(6)1日の摂取量当たり5μg以上のターメロノールBを含有する、(1)~(5)のいずれかに記載の血圧降下用組成物。
(7)1日の摂取量当たり80μg以上のビサクロンを含有する、(1)~(6)のいずれかに記載の血圧降下用組成物。
(8)1日の摂取量当たりのクルクミンの含有量が30mg未満である、(1)~(7)のいずれかに記載の血圧降下用組成物。
【0014】
(9)ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種、或いは、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する、水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒によるウコン抽出物の、血圧降下用組成物の製造のための使用。
(10)ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種、或いは、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する、水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒によるウコン抽出物の、血圧降下用医薬の製造のための使用。
前記血圧降下用組成物又は医薬は、好ましくは、1日の摂取量当たり合計で20μg以上のターメロノールA及びターメロノールBを含有する。前記血圧降下用組成物又は医薬は、好ましくは、1日の摂取量当たり17μg以上のターメロノールAを含有する。前記血圧降下用組成物又は医薬は、好ましくは、1日の摂取量当たり5μg以上のターメロノールBを含有する。前記血圧降下用組成物又は医薬は、好ましくは、1日の摂取量当たり80μg以上のビサクロンを含有する。前記血圧降下用組成物又は医薬において、好ましくは、1日の摂取量当たりのクルクミンの含有量が30mg未満である。
(11)ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種、或いは、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する、水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒によるウコン抽出物を、血圧降下を必要とする対象に投与すること、及び
前記対象において血圧を降下すること
を含む、血圧を降下する方法。
(12)ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種、或いは、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する、水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒によるウコン抽出物を、高血圧症の治療又は予防を必要とする対象に投与すること、及び
前記対象において高血圧症を治療又は予防すること
を含む、高血圧症を治療又は予防する方法。
(13)血圧の降下を必要とする対象において、血圧を降下するための、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種、或いは、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する、水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒によるウコン抽出物。
前記(13)の前記活性化合物又は前記ウコン抽出物は、好ましくは、1日当たり合計で20μg以上のターメロノールA及びターメロノールBを前記対象に投与することで血圧を降下するためのものである。前記(13)の前記活性化合物又は前記ウコン抽出物は、好ましくは、1日当たり17μg以上のターメロノールAを前記対象に投与することで血圧を降下するためのものである。前記(13)の前記活性化合物又は前記ウコン抽出物は、好ましくは、1日当たり5μg以上のターメロノールBを前記対象に投与することで血圧を降下するためのものである。前記(13)の前記活性化合物又は前記ウコン抽出物は、好ましくは、1日当たり80μg以上のビサクロンを前記対象に投与することで血圧を降下するためのものである。前記(13)の前記活性化合物又は前記ウコン抽出物は、好ましくは、1日当たりのクルクミンの投与量が30mg未満となるように前記対象に投与することで血圧を降下するためのものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、血圧降下用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、ウコン抽出物を含有する被験食品を摂取した群(ウコン抽出物群、n=25)及びプラセボ食品を摂取した群(プラセボ群、n=20)の、摂取前、摂取4週間後、摂取8週間後、摂取12週間後の各時点での収縮期血圧の測定値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ウコン>
本発明においてウコンは、ショウガ科ウコン属の植物を指し、具体的には、Curcuma longa(秋ウコン)、Curcuma aromatica、Curcuma zedoaria、Curcuma phaeocaulis、Curcuma kwangsiensis、Curcuma wenyujin、及び/又は、Curcuma xanthorrhizaが挙げられ、Curcuma longaが特に好ましい。
【0018】
本発明においてウコンとして、根茎を含む部分を用いることが好ましい。
【0019】
本発明で用いるウコンの形態は特に限定されず、ウコンの破砕物、搾汁、抽出物、それらの処理物等であってよく、特に好ましくは、ウコン抽出物である。以下に、ウコン抽出物の好ましい実施形態について説明する。
【0020】
<ウコン抽出物>
本発明においてウコン抽出物とは、ショウガ科ウコン属の植物に由来する植物原料の抽出溶媒による抽出物(ウコンエキス)をいう。ウコン抽出物は、抽出溶媒による抽出により得られた溶媒抽出物に限らず、溶媒抽出物を更に、カラムクロマトグラフィ等で分画精製したものをも包含する。本発明で用いるウコン抽出物は、抽出操作(分画精製を行う場合は分画精製操作も含む)の完了した抽出液、抽出液から溶媒を部分的に除去した濃縮物、或いは、抽出液から溶媒を除去した乾燥物の形態であることができる。抽出物からの溶媒の除去は、加熱及び/又は減圧等により溶媒を揮発することにより行うことができる。これらの加熱、減圧の方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を使用することができる。
【0021】
前記植物原料としては上記で挙げたウコンの根茎等が挙げられ、特に、Curcuma longaの根茎等が好適である。根茎は土中から採取したものを使用してよく、根茎の適当な部位を原型のまま、あるいは適当な寸法又は形状にカットしたもの、あるいは粉砕物の形態にしたものを使用することができる。これらの植物原料は適宜乾燥されたものであってよい。
【0022】
抽出溶媒としては、水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。親水性有機溶媒は複数種の親水性有機溶媒の混合溶媒であってもよい。「水」とは熱水も包含する。熱水としては例えば95℃以上の熱水が使用できる。親水性有機溶媒としては少なくとも1種のアルコール(複数種のアルコールの混合溶媒であってもよい)が挙げられ、アルコールとしては、特に限定されないが、エタノールが好ましい。抽出溶媒としてアルコールと水との混合溶媒を用いる場合の混合比は特に限定されないが、例えば重量比で10:90~90:10の範囲が好ましく、20:80~50:50の範囲がより好ましい。
【0023】
また、抽出溶媒として、超臨界二酸化炭素を用いることもできる。
【0024】
植物原料からのウコン抽出物の抽出方法は特に限定されない。
【0025】
本発明では、ウコン抽出物として、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する、前記抽出溶媒によるウコン抽出物を用いることが好ましく、少なくともターメロノールA及びターメロノールBを含有する、前記抽出溶媒によるウコン抽出物を用いることがより好ましく、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンを含有する、前記抽出溶媒によるウコン抽出物を用いることがより好ましい。
ターメロノールA及びターメロノールBは、それぞれ、以下の平面構造を有する化合物である。
【0026】
【0027】
【0028】
ウコンから分離される天然物においてターメロノールA及びターメロノールBは、2-メチル-2-ヘプテン-4-オンの部分構造における6位炭素の立体配置がS体であるが、本発明においてターメロノールA及びターメロノールBは上記の平面構造を有していればよく、前記立体配置がS体であってもよいし、R体であってもよいし、S体とR体との混合物であってもよい。
【0029】
本発明においてビサクロンとは、以下の平面構造を有する化合物である。ビサクロンは平面構造式中*印で示した位置に不斉炭素を有し、複数の光学異性体を含み得るが、本発明においてビサクロンはいずれの光学異性体であってもよく、2種以上の光学異性体の混合物であってもよい。
【0030】
【化3】
<ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロン>
本発明で用いるターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種(以下「活性化合物」という場合がある)は植物に由来するものであってもよいし、人為的に合成されたものであってもよい。例えば光学活性の(+)-ターメロノールAは、Biosci Biotechnol Biochem. 1993;57(7):1137-40に記載の方法により合成することできる。
【0031】
本発明においてターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンはそれぞれ上記の平面構造を有していればよく、いずれの光学異性体であってもよく、複数の光学異性体の混合物であってもよい。
【0032】
本発明で用いる活性化合物はより好ましくは植物原料に由来するものであり、より好ましくは、ショウガ科ウコン属植物に由来するものである。ショウガ科ウコン属植物及びその部位の具体例は上記の通りである。ショウガ科ウコン属の植物の根茎等の部位から活性化合物を得ることができる。
【0033】
活性化合物は、それを含む植物原料から抽出することができる。抽出方法は既述の通りである。活性化合物は、植物抽出物、特に、水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒によるウコン抽出物の形態であってよい。
【0034】
また、活性化合物を含む植物抽出物から、活性化合物を高純度化した画分を、本発明に使用してもよく、本発明の組成物に配合してもよい。例えば、活性化合物を含む植物抽出物を酢酸エチル/水の液液分配に供し、酢酸エチル画分に活性化合物を高純度化することができる。また、活性化合物を含む植物抽出物又はその画分を、クロマトグラフィによる精製処理に供して、高純度化した活性化合物を得ることもできる。クロマトグラフィとしては、逆相カラムクロマトグラフィ、順相薄層クロマトグラフィ等を使用することができる。
【0035】
活性化合物を含む植物抽出物又はその画分は、常法により、乾燥、粉末化、顆粒化、溶液化等の加工を施したものであってもよい。
【0036】
前記活性化合物は、好ましくは、少なくともターメロノールA及びターメロノールBを含有し、より好ましくは、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンを含有する。
【0037】
<血圧降下用組成物>
本発明の血圧降下用組成物は、血圧を降下する作用を有る。
【0038】
本発明の血圧降下用組成物は、収縮期血圧又は拡張期血圧のいずれかを降下する作用を有し、典型的には、収縮期血圧を降下する作用を有する。本発明の血圧降下用組成物の対象は典型的にはヒトであるが、ヒトには限定されず他の非ヒト動物、例えばヒト以外の哺乳類であってもよい。
【0039】
本発明の血圧降下用組成物の対象は、血圧の降下を必要とする対象であり、好ましくは、高血圧症を有する又は血圧が正常値を上回る対象である。血圧の降下を必要とする対象としては特に、収縮期血圧が正常値を上回るヒト、例えば収縮期血圧が130mmHg以上のヒトであり、特に、収縮期血圧が130mmHg以上、160mmHg未満のヒトである。
【0040】
本発明の血圧降下用組成物は、高血圧症の予防又は治療のために用いることができる。本発明の血圧降下用組成物は、高血圧症を患う対象や、血圧が高めの対象だけでなく、健常な対象に対しても有効である。
【0041】
本発明の血圧降下用組成物は、医薬品、飲食品、飼料、食品添加剤、飼料添加剤等の各形態の組成物であってよく、医薬品又は飲食品であることがより好ましい。飲食品は、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補給のためのサプリメント等の形態のものも包含する。
【0042】
本発明の血圧降下用組成物は、好ましくは、経口又は経鼻により摂取又は投与される組成物の形態であり、より好ましくは、経口により摂取又は投与される組成物の形態である。
【0043】
本発明において「1日の摂取量」とは、本発明の組成物の、一日間で摂取又は投与される量の総量を意味し、好ましくは、ヒト一人、特に成人一人により、本発明の組成物が一日間で摂取又は投与される量の総量を意味する。本発明の組成物の「1日の摂取量」の具体例として、経口又は経鼻による、好ましくは経口による、摂取又は投与の場合に、本発明の組成物の量として0.1g~500gが例示できる。本発明の組成物は、継続的に摂取又は投与されてもよいし、必要時に摂取又は投与されてもよい。
【0044】
本発明の組成物の形状は、特に限定されず、例えば、液体状、流動状、ゲル状、半固形状、又は固形状などの何れの形状であってもよい。
【0045】
本発明の組成物は、前記活性化合物又は前記ウコン抽出物に加えて、少なくとも1種の他の成分を更に含んでいてもよい。本発明の組成物が含み得る、少なくとも1種の他の成分としては、特に限定されないが、好ましくは、医薬品、飲食品、飼料、食品添加剤、飼料添加剤等の最終的な形態において許容される成分であって、経口摂取可能な成分が例示できる。
【0046】
このような他の成分としては例えば、甘味料、酸味料、ビタミン類、ミネラル類、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、水等が挙げられる。また、必要により、色素、香料、保存料、防腐剤、防かび剤、更なる生理活性物質等を添加してもよい。
【0047】
甘味料としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、パラチノース、トレハロース、キシロース等の単糖や二糖、異性化糖(ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、砂糖混合異性化糖等)、糖アルコール(エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、パラチニット、ソルビトール、還元水飴等)、はちみつ、高甘味度甘味料(スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、ステビア、アスパルテーム等)等が挙げられる。
【0048】
酸味料としては、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、リン酸、又はこれらの塩等があり、これらのうちの1種又は2種以上を利用することができる。
【0049】
ビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンE、ナイアシン、イノシトール等が挙げられる。
【0050】
ミネラル類としては、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄等が挙げられる。
【0051】
増粘剤としては、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、アラビアガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0052】
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、植物性ステロール、サポニン等が挙げられる。
【0053】
酸化防止剤としては、ビタミンC、トコフェロール(ビタミンE)、酵素処理ルチン等が挙げられる。
【0054】
前記他の成分は、それぞれ当業者が飲食品、医薬品等の組成物に通常採用する範囲内の量で適宜配合することができる。
【0055】
本発明において、前記活性化合物又は前記ウコン抽出物と、少なくとも1種の他の成分とを適当な手段で製剤化した組成物の形態は、粉末、顆粒、カプセル剤、錠剤(糖衣錠等のコーティング錠又は多層錠、口中崩壊剤、チュアブル錠等を含む)等の固形組成物の形態であってもよいし、溶液剤等の液体組成物の形態であってもよい。
【0056】
<ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を有効成分として含有する血圧降下用組成物>
本発明の血圧降下用組成物における、前記活性化合物又はそれを含む前記ウコン抽出物の含有量は特に限定されず、血圧降下のために有効な含有量であればよい。
【0057】
本発明に係る血圧降下用組成物は、1日の摂取量当たり合計で好ましくは20μg以上、より好ましくは37μg以上、特に好ましくは55μg以上、更に好ましくは74μg以上、最も好ましくは100μg以上のターメロノールA及びターメロノールBを含有する。この場合に、本発明に係る血圧降下用組成物は血圧降下作用が特に高い。ターメロノールA及びターメロノールBの合計の含有量の上限は特に限定されないが、本発明に係る血圧降下用組成物は、1日の摂取量当たり合計で典型的には1100μg以下、好ましくは550μg以下、より好ましくは330μg以下、特に好ましくは220μg以下、更に好ましくは170μg以下、最も好ましくは125μg以下のターメロノールA及びターメロノールBを含有する。本発明に係る血圧降下用組成物において、ターメロノールA及びターメロノールBの少なくとも1種がそれを含むウコン抽出物の形態である場合、前記組成物は、ターメロノールA及びターメロノールBの合計量が前記範囲となるように、前記ウコン抽出物を含有することが好ましい。
【0058】
本発明に係る血圧降下用組成物は、1日の摂取量当たり好ましくは17μg以上、より好ましくは28μg以上、特に好ましくは43μg以上、更に好ましくは57μg以上、最も好ましくは77μg以上のターメロノールAを含有する。この場合に、本発明に係る血圧降下用組成物は血圧降下作用が特に高い。ターメロノールAの含有量の上限は特に限定されないが、本発明に係る血圧降下用組成物は、1日の摂取量当たり、典型的には900μg以下、好ましくは430μg以下、より好ましくは260μg以下、特に好ましくは175μg以下、更に好ましくは130μg以下、最も好ましくは95μg以下のターメロノールAを含有する。本発明に係る血圧降下用組成物において、ターメロノールAがそれを含むウコン抽出物の形態である場合、前記組成物は、ターメロノールAの量が前記範囲となるように、前記ウコン抽出物を含有することが好ましい。
【0059】
本発明に係る血圧降下用組成物は、1日の摂取量当たり好ましくは5μg以上、より好ましくは8μg以上、特に好ましくは12μg以上、更に好ましくは16μg以上、最も好ましくは22μg以上のターメロノールBを含有する。この場合に、本発明に係る血圧降下用組成物は血圧降下作用が特に高い。ターメロノールBの含有量の上限は特に限定されないが、本発明に係る血圧降下用組成物は、1日の摂取量当たり典型的には250μg以下、好ましくは123μg以下、より好ましくは74μg以下、特に好ましくは50μg以下、更に好ましくは37μg以下、最も好ましくは27μg以下のターメロノールBを含有する。本発明に係る血圧降下用組成物において、ターメロノールBがそれを含むウコン抽出物の形態である場合、前記組成物は、ターメロノールBの量が前記範囲となるように、前記ウコン抽出物を含有することが好ましい。
【0060】
本発明に係る血圧降下用組成物は、1日の摂取量当たり好ましくは80μg以上、より好ましくは133μg以上、特に好ましくは200μg以上、更に好ましくは267μg以上、最も好ましくは360μg以上のビサクロンを含有する。この場合に、本発明に係る血圧降下用組成物は血圧降下作用が特に高い。ビサクロンの含有量の上限は特に限定されないが、本発明に係る血圧降下用組成物は、1日の摂取量当たり典型的には4000μg以下、好ましくは2000μg以下、より好ましくは1200μg以下、特に好ましくは800μg以下、更に好ましくは600μg以下、最も好ましくは440μg以下のビサクロンを含有する。本発明に係る血圧降下用組成物において、ビサクロンがそれを含むウコン抽出物の形態である場合、前記組成物は、ビサクロンの量が前記範囲となるように、前記ウコン抽出物を含有することが好ましい。
【0061】
本発明に係る血圧降下用組成物は、1日の摂取量当たりのクルクミンの含有量が、典型的には30mg未満、好ましくは5mg以下、より好ましくは2.5mg以下、特に好ましくは1.5mg以下、更に好ましくは1mg以下、更に好ましくは700μg以下、最も好ましくは520μg以下である。この場合に、本発明に係る血圧降下用組成物は血圧降下作用が特に高い。
【0062】
本発明に係る血圧降下用組成物は、継続的に摂取される組成物であることが好ましく、具体的には、1日1回又は2回以上の頻度で、好ましくは4週間以上、より好ましくは8週間以上、最も好ましくは12週間以上にわたり継続して摂取される組成物である。
【0063】
本発明に係る血圧降下用組成物は、前記活性化合物又はそれを含む前記ウコン抽出物自体であってもよいし、前記活性化合物又はそれを含む前記ウコン抽出物と、少なくとも1種の他の成分とを含む組成物であってもよい。本発明の組成物が、前記活性化合物又はそれを含む前記ウコン抽出物と、少なくとも1種の他の成分とを含む場合、前記活性化合物又はそれを含む前記ウコン抽出物と、少なくとも1種の他の成分とを混合した組成物であってもよいし、前記活性化合物又はそれを含む前記ウコン抽出物と、少なくとも1種の他の成分とを適当な手段で製剤化した組成物であってもよいし、前記活性化合物又はそれを含む前記ウコン抽出物と、少なくとも1種の他の成分との製剤化した組成物を、更に他の成分と混合した組成物であってもよい。
【0064】
<ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種の投与により血圧を降下する方法>
本発明の更なる一態様は、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種、或いは、ターメロノールA、ターメロノールB及びビサクロンの少なくとも1種を含有する水又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒によるウコン抽出物を、血圧降下を必要とする対象に投与すること、及び
前記対象において血圧を降下すること
を含む、血圧を降下する方法に関する。
【0065】
本態様に係る方法に用いる前記活性化合物又は前記ウコン抽出物は、本発明の組成物の上述した形態であることができる。本態様に係る方法は、医療的方法であってもよいし、非医療的方法であってもよい。
【0066】
本態様に係る方法での対象としては、典型的にはヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。血圧の降下を必要とする対象とは、好ましくは、高血圧症を有する又は血圧が正常値を上回る対象である。血圧の降下を必要とする対象としては特に、収縮期血圧が正常値を上回るヒト、例えば収縮期血圧が130mmHg以上のヒトであり、特に、収縮期血圧が130mmHg以上、160mmHg未満のヒトである。
【0067】
本態様に係る方法において、投与経路としては経口又は経鼻投与が好ましく、経口投与が特に好ましい。
【0068】
本態様に係る方法において、前記活性化合物又は前記ウコン抽出物を、対象に投与する投与量は、血圧を降下するための有効量であれば良く特に限定されない。例えば、一実施形態では、対象が成人である場合、1日当たり合計で20μg以上のターメロノールA及びターメロノールBを投与するように前記活性化合物又は前記ウコン抽出物を、対象に投与することが好ましい。別の一実施形態では、対象が成人である場合、1日当たり17μg以上のターメロノールAを投与するように前記活性化合物又は前記ウコン抽出物を、対象に投与することが好ましい。別の一実施形態では、対象が成人である場合、1日当たり5μg以上のターメロノールBを投与するように前記活性化合物又は前記ウコン抽出物を、対象に投与することが好ましい。別の一実施形態では、対象が成人である場合、1日当たり80μg以上のビサクロンを投与するように、前記活性化合物又は前記ウコン抽出物を、対象に投与することが好ましい。更に、1日当たりのクルクミンの投与量が30mg未満となるように、前記活性化合物又は前記ウコン抽出物を、対象に投与することが好ましい。更に好ましくは、本発明に係る血圧降下用組成物の1日摂取量当たりの各活性化合物の好ましい量として記載した重量の各活性化合物が1日当たりに投与されるように、前記活性化合物又は前記ウコン抽出物を対象に投与することが好ましい。
【実施例】
【0069】
1.ウコン抽出物の作製方法
ウコン抽出物は、ウコン(Curcuma longa)の根茎部分を水にて抽出し、得られた抽出液を減圧加熱乾燥して水分を除去することにより調製した。ウコン抽出物中のターメロノールA(TA)及びターメロノールB(TB)の量は、LC/MSを用いて測定し、ビサクロン及びクルクミンの量は、HPLCを用いて測定した。
【0070】
2.被験食品
被験食品は、3錠当たりウコン抽出物を、TAとして86.5μg、TBとして24.7μg、ビサクロンとして400μg、クルクミンとして471μg含有する錠剤である。被験食品は、ウコン抽出物、賦形剤、光沢剤、着色料及び製造用剤(微粒二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステル)を混合した後、打錠して錠剤としたものである。
【0071】
プラセボ食品は、上記被験食品のウコン抽出物を賦形剤に置換して調製された錠剤である。
【0072】
3.血圧評価試験
50~69歳の男女で、収縮期血圧が130 mmHg(正常高値血圧)以上、160mmHg未満の45名の被験者を2群に割り付け(プラセボ群:20名、ウコン抽出物群:25名)、二重盲検下で、前記のウコン抽出物を含有する被験食品もしくは当該抽出物が不含の前記プラセボ食品を1日1回、3錠を夕食前に12週間摂取させた。前記被験食品又は前記プラセボ食品の摂取前、摂取4週間後、摂取8週間後、摂取12週間後に収縮期血圧を測定した。
【0073】
図1に各時点の収縮期血圧の測定結果を示した。
図1に示したように、前記のウコン抽出物を含有する被験食品を摂取した群(ウコン抽出物群)の摂取4週間後、摂取8週間後、摂取12週間後の収縮期血圧は、前記プラセボ食品を摂取した群(プラセボ群)の各時点での収縮期血圧と比べて、有意に低値であった。これらの結果から、ウコン抽出物の摂取は血圧を低下させることが明らかとなった。
【0074】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。