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特許7452787光ファイバ切断装置、可動部材、ベース、および光ファイバ切断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】光ファイバ切断装置、可動部材、ベース、および光ファイバ切断方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/25 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
G02B6/25
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021158167
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2023048704
(43)【公開日】2023-04-07
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】591199590
【氏名又は名称】株式会社正電成和
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二夕見 英信
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 浩司
(72)【発明者】
【氏名】津田 正道
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-144292(JP,A)
【文献】特開平05-107415(JP,A)
【文献】特開昭60-184207(JP,A)
【文献】特開2018-084659(JP,A)
【文献】米国特許第04322025(US,A)
【文献】実開昭63-113101(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/25
B26D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に延びた状態に光ファイバを支持するベースと、
前記ベースに支持された前記光ファイバに対して前記第一方向と交差した第二方向に移動可能となるよう前記ベースに支持されるとともに、前記光ファイバの外周のうち当該光ファイバの軸心から前記第一方向および前記第二方向と交差した第三方向に離れた部位に切込を入れる刃と、当該刃から前記第二方向の反対方向にずれて位置し前記光ファイバに前記第三方向の分力成分を有する押圧力を与える押圧部と、を有した可動部材と、
を備え
前記可動部材は、前記ベースに、前記光ファイバから前記第三方向の反対方向に離れた回動中心回りに回動可能に支持された、光ファイバ切断装置。
【請求項2】
前記刃は、前記光ファイバに、前記切込を、前記第一方向に見た場合に最深部が前記第三方向に凸の円弧状となるよう形成する、請求項1に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項3】
前記刃の刃先のうち前記切込を形成する部位の各位置において、当該刃先の接線は、当該刃先の移動軌跡の接線に対して、前記第二方向に向かうにつれて前記第三方向へ向かうように傾斜した、請求項1または2に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項4】
前記押圧部は、前記第二方向の反対方向に向かうにつれて前記第三方向へ向かうように当該第二方向に対して傾斜して延びた傾斜面を有した、請求項1~のうちいずれか一つに記載の光ファイバ切断装置。
【請求項5】
前記傾斜面は、前記第三方向へ凸となるように湾曲しかつ当該傾斜面の延び方向に畝状に延びた湾曲凸面であり、
前記湾曲凸面は、前記第三方向の頂部の前記第一方向および前記第三方向に沿う断面における輪郭線の曲率半径が前記刃から遠ざかるほど小さくなる区間を有した、請求項に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項6】
前記曲率半径は、3[mm]以下である、請求項に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項7】
前記可動部材のうち少なくとも前記押圧部は、合成樹脂材料で作られた、請求項またはに記載の光ファイバ切断装置。
【請求項8】
前記合成樹脂材料は、ポリエーテルイミドである、請求項に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項9】
前記可動部材は、前記可動部材が前記第二方向へ移動する際に前記光ファイバを相対的に前記刃に向けて案内する案内部を有した、請求項1~のうちいずれか一つに記載の光ファイバ切断装置。
【請求項10】
前記可動部材は、前記ベースにスナップフィット機構を介して着脱可能に保持された、請求項1~のうちいずれか一つに記載の光ファイバ切断装置。
【請求項11】
前記ベースは、回動支持部を有し、
前記可動部材は、前記回動支持部によって回動可能に支持された被支持部を有し、
前記回動支持部と前記被支持部とが嵌合された、請求項10に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項12】
前記可動部材は、ボディと、前記刃を有する刃具と、を有し、
前記刃具は、前記ボディに着脱可能に取り付けられた、請求項1~11のうちいずれか一つに記載の光ファイバ切断装置。
【請求項13】
前記ベースに前記第一方向に往復スライド可能に保持されるとともに前記光ファイバを保持する保持部材と、
前記保持部材を、前記光ファイバの切断位置から離れる方向に弾性的に押圧する弾性部材と、
を備えた、請求項1~12のうちいずれか一つに記載の光ファイバ切断装置。
【請求項14】
前記弾性部材は、JIS K6253準拠のタイプAデューロメータで60以上の硬度を有した、請求項13に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項15】
前記弾性部材は、エラストマである、請求項13または14に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項16】
請求項1~15のうちいずれか一つの光ファイバ切断装置を構成する前記可動部材であって、
前記ベースにスナップフィット機構を介して着脱可能に保持される可動部材。
【請求項17】
請求項1~16のうちいずれか一つの光ファイバ切断装置を構成する前記ベースであって、
前記可動部材をスナップフィット機構を介して着脱可能に保持するベース。
【請求項18】
請求項1~17のうちいずれか一つに記載の光ファイバ切断装置を用いて光ファイバを切断する、光ファイバの切断方法であって、
前記ベースに、前記第一方向に延びた状態に前記光ファイバをセットする工程と、
前記刃によって前記光ファイバに前記切込が入れられた後、前記押圧部による前記光ファイバの押圧によって前記切込が拡大され前記光ファイバが切断されるよう、前記ベースに対して前記可動部材を前記第二方向に移動する工程と、
を備えた、光ファイバ切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ切断装置、可動部材、ベース、および光ファイバ切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、刃を用いて光ファイバに傷を形成した後、光ファイバを引っ張ったり曲げたりすることによって当該傷を成長させて劈開する光ファイバ切断装置が、知られている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-194204号公報
【文献】特開2014-211608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光ファイバ切断装置は、構造が複雑であり、それに伴って、光ファイバ切断装置が大型化したり、重量が増大したり、ひいては製造の手間やコストが増大したり、といった問題があった。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、より構成を簡素化することが可能となるような、改善された新規な光ファイバ切断装置、可動部材、ベース、および光ファイバ切断方法を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光ファイバ切断装置は、例えば、第一方向に延びた状態に光ファイバを支持するベースと、前記ベースに支持された前記光ファイバに対して前記第一方向と交差した第二方向に移動可能となるよう前記ベースに支持されるとともに、前記光ファイバの外周のうち当該光ファイバの軸心から前記第一方向および前記第二方向と交差した第三方向に離れた部位に切込を入れる刃と、当該刃から前記第二方向の反対方向にずれて位置し前記光ファイバに前記第三方向の分力成分を有する押圧力を与える押圧部と、を有した可動部材と、を備える。
【0007】
前記光ファイバ切断装置では、前記可動部材は、前記ベースに回動可能に支持されてもよい。
【0008】
前記光ファイバ切断装置では、前記可動部材は、前記ベースに、前記光ファイバから前記第三方向の反対方向に離れた回動中心回りに回動可能に支持されてもよい。
【0009】
前記光ファイバ切断装置では、前記刃は、前記光ファイバに、前記切込を、前記第一方向に見た場合に最深部が前記第三方向に凸の円弧状となるよう形成してもよい。
【0010】
前記光ファイバ切断装置では、前記刃の刃先のうち前記切込を形成する部位の各位置において、当該刃先の接線は、当該刃先の移動軌跡の接線に対して、前記第二方向に向かうにつれて前記第三方向へ向かうように傾斜してもよい。
【0011】
前記光ファイバ切断装置では、前記押圧部は、前記第二方向の反対方向に向かうにつれて前記第三方向へ向かうように当該第二方向に対して傾斜して延びた傾斜面を有してもよい。
【0012】
前記光ファイバ切断装置では、前記傾斜面は、前記第三方向へ凸となるように湾曲しかつ当該傾斜面の延び方向に畝状に延びた湾曲凸面であり、前記湾曲凸面は、前記第三方向の頂部の前記第一方向および前記第三方向に沿う断面における輪郭線の曲率半径が前記刃から遠ざかるほど小さくなる区間を有してもよい。
【0013】
前記光ファイバ切断装置では、前記曲率半径は、3[mm]以下であってもよい。
【0014】
前記光ファイバ切断装置では、前記可動部材のうち少なくとも前記押圧部は、合成樹脂材料で作られてもよい。
【0015】
前記光ファイバ切断装置では、前記合成樹脂材料は、ポリエーテルイミドであってもよい。
【0016】
前記光ファイバ切断装置では、前記可動部材は、前記可動部材が前記第二方向へ移動する際に前記光ファイバを相対的に前記刃に向けて案内する案内部を有してもよい。
【0017】
前記光ファイバ切断装置では、前記可動部材は、前記ベースにスナップフィット機構を介して着脱可能に保持されてもよい。
【0018】
前記光ファイバ切断装置では、前記ベースは、回動支持部を有し、前記可動部材は、前記回動支持部によって回動可能に支持された被支持部を有し、前記回動支持部と前記被支持部とが嵌合されてもよい。
【0019】
前記光ファイバ切断装置では、前記可動部材は、ボディと、前記刃を有する刃具と、を有し、前記刃具は、前記ボディに着脱可能に取り付けられてもよい。
【0020】
前記光ファイバ切断装置は、前記ベースに前記第一方向に往復スライド可能に保持されるとともに前記光ファイバを保持する保持部材と、前記保持部材を、前記光ファイバの切断位置から離れる方向に弾性的に押圧する弾性部材と、を備えてもよい。
【0021】
本発明の光ファイバ切断装置は、例えば、第一方向に延びた状態に光ファイバを支持するベースと、前記ベースに前記第一方向と交差した第二方向に移動可能に支持され、前記光ファイバに切込を入れる刃を有した可動部材と、前記ベースに前記第一方向に往復スライド可能に保持されるとともに前記光ファイバを保持する保持部材と、前記保持部材を、前記光ファイバの切断位置から離れる方向に弾性的に押圧する弾性部材と、を備える。
【0022】
前記光ファイバ切断装置では、前記弾性部材は、JIS K6253準拠のタイプAデューロメータで60以上の硬度を有してもよい。
【0023】
本発明の光ファイバ切断装置では、前記弾性部材は、エラストマであってもよい。
【0024】
本発明の前記光ファイバ切断装置を構成する前記可動部材は、例えば、前記ベースにスナップフィット機構を介して着脱可能に保持される。
【0025】
本発明の前記光ファイバ切断装置を構成する前記ベースは、例えば、前記可動部材をスナップフィット機構を介して着脱可能に保持する。
【0026】
本発明の光ファイバ切断方法は、例えば、第一方向に延びた状態に光ファイバを支持するベースと、前記ベースに前記第一方向と交差した第二方向に移動可能に支持されるとともに、前記光ファイバの外周のうち当該光ファイバの軸心から前記第一方向および前記第二方向と交差した第三方向に離れた部位に切込を入れる刃と、当該刃から前記第二方向の反対方向に離れて位置し前記光ファイバに前記第三方向の分力成分を有する押圧力を与える押圧部と、を有した可動部材と、を備えた光ファイバ切断装置を用いて光ファイバを切断する、光ファイバの切断方法であって、前記ベースに、前記第一方向に延びた状態に前記光ファイバをセットする工程と、前記刃によって前記光ファイバに前記切込が入れられた後、前記押圧部による前記光ファイバの押圧によって前記切込が拡大され前記光ファイバが切断されるよう、前記ベースに対して前記可動部材を前記第二方向に移動する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、例えば、改善された新規な光ファイバ切断装置、可動部材、ベース、および光ファイバ切断方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施形態の光ファイバ切断装置の例示的かつ模式的な分解斜視図である。
図2図2は、実施形態の光ファイバ切断装置の例示的かつ模式的な斜視図であって、光ファイバケーブルのセットが完了する前の状態を示す図である。
図3図3は、実施形態の光ファイバ切断装置の例示的かつ模式的な斜視図であって、光ファイバケーブルのセットが完了し、切断される前の状態を示す図である。
図4図4は、実施形態の光ファイバ切断装置の例示的かつ模式的な斜視図であって、光ファイバケーブルが切断された状態を示す図である。
図5図5は、実施形態の光ファイバ切断装置の一部の例示的かつ模式的な平面図であって、光ファイバに張力が印加される前の状態を示す図である。
図6図6は、実施形態の光ファイバ切断装置の一部の例示的かつ模式的な平面図であって、光ファイバに張力が印加された状態を示す図である。
図7図7は、実施形態の光ファイバ切断装置の刃アセンブリの例示的かつ模式的な分解斜視図である。
図8図8は、実施形態の光ファイバ切断装置の刃アセンブリの例示的かつ模式的な正面図である。
図9図9は、実施形態の光ファイバ切断装置の切断位置における例示的かつ模式的な断面図であって、可動部材が切断前位置に位置した状態を示す図である。
図10図10は、実施形態の光ファイバ切断装置の切断位置における例示的かつ模式的な断面図であって、可動部材が切込形成位置に位置した状態を示す図である。
図11図11は、実施形態の光ファイバ切断装置の切断位置における例示的かつ模式的な断面図であって、可動部材が押圧位置に位置した状態を示す図である。
図12図12は、実施形態の光ファイバ切断装置の切断位置における例示的かつ模式的な断面図であって、可動部材が切断後位置に位置した状態を示す図である。
図13図13は、実施形態の光ファイバ切断装置によって形成される光ファイバの切込を示す例示的な模式図である。
図14図14は、実施形態の光ファイバ切断装置の刃の一部の例示的かつ模式的な正面図である。
図15図15は、図8のXV-XV断面図である。
図16図16は、図8のXVI-XVI断面図である。
図17図17は、実施形態の変形例の可動部材の一部の例示的かつ模式的な正面図である。
図18図18は、実施形態の別の変形例の可動部材の一部の例示的かつ模式的な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の例示的な実施形態および変形例が開示される。以下に示される実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態および変形例に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、実施形態および変形例の構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0030】
以下に示される実施形態および変形例は、同様の構成を備えている。よって、各実施形態および変形例の構成によれば、当該同様の構成に基づく同様の作用および効果が得られる。また、以下では、それら同様の構成には同様の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される場合がある。
【0031】
本明細書において、序数は、方向等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を示すものではない。
【0032】
また、図中、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表し、Dc方向を矢印Dcで表す。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに直交している。
【0033】
[実施形態]
図1は、実施形態の光ファイバ切断装置100の分解斜視図であり、図2は、光ファイバ切断装置100の斜視図である。
【0034】
図1,2に示されるように、光ファイバ切断装置100は、ベース10と、可動部材20と、を備えている。ベース10は、光ファイバ2を、X方向に延びた状態に支持する。X方向は、第一方向の一例である。光ファイバ切断装置100は、全体の質量が例えば50[g]以下となるよう、構成される。
【0035】
ベース10は、X方向に延びた略直方体状の形状を有している。X方向は、長手方向とも称されうる。ベース10は、例えば、合成樹脂材料で作られる。この場合の合成樹脂材料は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とするのが好ましい。PBTは、吸水性や、耐候性、耐薬品性、耐熱性等に優れたバランスの取れた素材である上に、比較的安価な、結晶性のエンジニアリングプラスチックである。なお、ベース10は、光ファイバ切断装置100のボディとも称されうる。
【0036】
可動部材20は、X方向に延びた回動中心Ax回りに回動可能に、すなわち移動可能に、ベース10に支持されている。本実施形態では、ベース10には、X方向に延びたシャフト16が設けられている。また、可動部材20のシャフトホルダ22には、シャフト16を回転可能に収容可能な凹溝22aが設けられている。シャフト16とシャフトホルダ22とは、当該シャフト16が凹溝22aに収容された状態に嵌合される。このような構造により、シャフトホルダ22ひいては可動部材20は、シャフト16に、当該シャフト16の中心軸としてのX方向に延びた回動中心Ax回りに回動可能に支持されている。可動部材20は、ベース10に対して回動中心Ax回りの周方向であるDc方向に移動することにより、ベース10に支持された光ファイバ2(図2参照)を切断する。Dc方向は、光ファイバ2の切断位置において、X方向と交差しており、第二方向の一例である。なお、シャフト16と凹溝22aとの嵌め合いは、例えば、すきま嵌め程度に設定される。シャフト16は、回動支持部の一例であり、シャフトホルダ22は、被支持部の一例である。シャフト16とシャフトホルダ22とは、ヒンジを構成している。
【0037】
また、シャフト16とシャフトホルダ22とは、スナップフィット機構を構成しており、力を印加しながら近付けることで互いに統合することができるとともに、力を印加しながら引き離すことで互いに分離することができる。すなわち、凹溝22aの開口幅は、当該凹溝22aの開口端がシャフト16から大きな押圧力を受けていない通常状態では、シャフト16の直径よりも狭くなっている。このため、通常状態では、シャフト16は、当該開口端を通過することができない。これに対し、統合および分離の際に、当該開口端がシャフト16から相対的に押圧されると、当該開口端は、弾性変形し、凹溝22aの開口幅がシャフト16に沿って拡開して、シャフト16の通過が許容される状態となる。シャフト16が通過した後は、当該開口幅は、拡開した状態から通常の状態に狭まる。このような構造により、ベース10は、可動部材20を着脱可能に支持している。なお、スナップフィット機構は、上述した構成には限定されず、例えば、シャフトが可動部材20に設けられ、凹溝がベース10に設けられてもよい。
【0038】
ベース10のX方向の中央部には、Y方向の反対方向に開放された凹部13が設けられている。凹部13のX方向の両側には、光ファイバ2の支持部12が設けられている。支持部12は、ベース10の上面11から上方に突出し、X方向に延びて光ファイバ2を収容するスリットが設けられている。スリットは、光ファイバ2よりも僅かに幅広でY方向の反対方向に延びた略U字状の断面形状を有している。図2に示されるように、光ファイバ2は、X方向に離間した二つの支持部12によって両端支持されており、これら支持部12の間の区間2cに方向Dcに回動した可動部材20が作用することにより、光ファイバ2が当該区間2cにおいて切断される。なお、切断の際、可動部材20(刃具50)の一部は、凹部13内に進入する。
【0039】
図2は、光ファイバ2(芯線)と被覆3とを有したケーブル1が、ベース10に装着された状態を示している。ケーブル1は、ケーブルホルダ70を介してベース10に装着される。ケーブルホルダ70は、ベース10に設けられたケーブルホルダ70の収容部15に収容される。他方、ケーブル1において部分的に被覆3が除去されることで露出した光ファイバ2の端部2tは、ファイバホルダ60を介してベース10に装着される。この場合、凹部13と収容部15との間の支持部12は、光ファイバ2の根元部2rを支持し、凹部13と収容部14との間の支持部12は、光ファイバ2の端部2tを支持する。なお、収容部15には、ファイバホルダ60が収容されてもよい。この場合、ベース10は、被覆3の無い光ファイバ2を支持することができる。
【0040】
図1に示されるように、可動部材20は、ボディ21と、シャフトホルダ22と、刃具50が装着される被装着部23と、を備えている。図1,2に示されるように、被装着部23は、ボディ21に凹部として形成されており、刃具50は、被装着部23に差し込まれた状態で、ボディ21と固定される。刃具50と被装着部23(ボディ21)とは、弾性的に着脱可能に係合されてもよいし、ねじのような結合具によって着脱可能に結合されてもよいし、接着剤によって接着されてもよいし、複数の結合手段の組み合わせによって互いに固定されてもよい。ボディ21は、光ファイバ2を切断する際に、作業者が押圧する部位である。ボディ21は、押圧部とも称されうる。刃具50は、可動部材20の一部であって、作業者の押圧操作によって可動部材20がDc方向に回動した際に、光ファイバ2に外力を与えて当該光ファイバ2を切断する部位である。刃具50がボディ21に着脱可能に取り付けられた場合、刃40や刃ホルダ30の点検や刃具50の新品への交換をより容易に行えるという利点が得られる。
【0041】
図3,4は、光ファイバ切断装置100の斜視図であって、図3は、光ファイバ2のベース10へのセットが完了し切断される前の状態を示し、図4は、光ファイバ2が切断された後の状態を示す。なお、図2は、光ファイバ2のベース10へのセットが完了する前の状態を示している。
【0042】
図2に示されるように、ファイバホルダ60およびケーブルホルダ70を介して光ファイバ2あるいはケーブル1がベース10上に載置された後、図2に示されるようにファイバホルダ60のホルダベース61に対して開いていたアーム62を、図3に示されるようにホルダベース61に近づけて倒し、ホルダベース61とアーム62との間に光ファイバ2の端部2tを挟持する。これにより、光ファイバ2がファイバホルダ60およびケーブルホルダ70を介してベース10にセットされた状態となる。なお、セットされた状態において、光ファイバ2は、支持部12においては、ベース10に直接支持されている。なお、光ファイバ2は、全体的にベース10に直接支持されてもよい。
【0043】
そして、図3に示されるように、ベース10に対して開いていた可動部材20を、作業者が操作することにより方向Dcへ移動して図4のように閉じることにより、可動部材20の刃具50によって、光ファイバ2が切断される。図3の可動部材20の位置は、開位置Poとも称され、図4の可動部材20の位置は、閉位置Pcとも称される。
【0044】
図5,6は、光ファイバ切断装置100の一部の平面図であって、図5は、光ファイバ2に張力が印加される前の状態を示し、図6は、光ファイバ2に張力が印加された後の状態を示している。図5,6に示されるように、本実施形態では、ベース10とケーブルホルダ70との間に介在したエラストマ80によって、光ファイバ2に張力を付与している。ケーブルホルダ70は、X方向およびX方向の反対方向にスライド可能に、収容部15に収容されている。エラストマ80は、ケーブルホルダ70のX方向の反対方向の端面70aと、当該端面70aと面したベース10の端面15aとの間に介在している。また、ベース10には、ケーブルホルダ70がベース10に対してY方向の反対方向にずれるのを抑制しながらX方向およびX方向の反対方向に案内するガイド15bが設けられている。ケーブルホルダ70のX方向の反対方向の先端部分は、X方向およびX方向の反対方向に移動可能な状態で、ガイド15bと収容部15の底面との間に挟まれる。エラストマ80は、例えば、合成ゴムのようなゴムであり、弾性部材の一例である。
【0045】
作業者は、図6に示されるように、ケーブルホルダ70に対してX方向の反対方向に押圧力を印加することによりエラストマ80がX方向に弾性的に圧縮された状態で、ケーブル1をベース10に装着する。作業者は、光ファイバ2をベース10に装着した後、ケーブルホルダ70に印加していたX方向の反対方向への力を解放する。これにより、エラストマ80はX方向において弾性的に伸長し、ケーブルホルダ70に対して、X方向、すなわち、光ファイバ2の切断位置から離れる方向に、押圧力を与え、ひいては、光ファイバ2に張力が印加される。このような構成によれば、張力を付与する部材としてコイルスプリングを設けた場合に比べて、より簡素であるとともによりコンパクトな構成によって、光ファイバ2に張力を付与することが可能となる。これにより、例えば、光ファイバ切断装置100をより小さくかつより軽量に構成できたり、光ファイバ切断装置100の製造の手間やコストをより低減できたり、といった利点が得られる。なお、エラストマ80は、収容部15に収容されたケーブルホルダ70を押圧することも可能であるし、図5と同様の構成を有して収容部14に装着されたエラストマ80が、当該収容部14に収容されたファイバホルダ60あるいはケーブルホルダ70を、X方向の反対方向に弾性的に押圧してもよい。
【0046】
このような張力を付与する構成において、エラストマ80は、JIS K6253準拠のタイプAデューロメータで60の硬さを有するのが好ましいことが判明している。また、エラストマ80から光ファイバ2に与える張力は、2[N]以上であり、ケーブルホルダ70またはファイバホルダ60の脱落防止力(ベース10との係合による保持力)は、2[N]未満であるのが好ましいことが判明している。
【0047】
図7は、刃具50の分解斜視図であり、図8は、刃具50の正面図である。図7,8に示されるように、刃具50は、刃ホルダ30と、刃40と、を有している。刃ホルダ30は、板状のベース31と、被装着部23に取り付けられる装着部32と、を有している。ベース31には、刃40の収容部30cが設けられている。刃40は、収容部30cに収容された状態で、ベース31すなわち刃ホルダ30と固定される。刃40とベース31とは、ねじのような結合具によって結合されてもよいし、接着剤によって接着されてもよいし、複数の結合手段の組み合わせによって互いに固定されてもよい。刃具50は、作動部材とも称されうる。
【0048】
刃40は、刃ボディ41と、刃先42と、を有している。刃ボディ41は、長方形状かつ板状の形状を有し、刃先42は、刃ボディ41の長手方向に対して直交している。このような構成により、刃先42が刃ボディ41に対して傾斜している構成に比べて、刃40の製造の手間やコストを低減することができる。刃ホルダ30における刃先42の位置や角度は、収容部30cの位置や角度によって適宜に設定される。なお、刃先42は、シャープエッジとも称されうる。
【0049】
刃具50(可動部材20)は、光ファイバ2の切断工程においてベース10に対して移動する際、すなわち、回動中心Ax(図8参照)回りにDc方向に回動する際に、光ファイバ2に作用を与える三つの部位を有している。三つの部位は、案内部30a、刃先42、および押圧部30bである。光ファイバ2を支持するベース10に対する刃具50の移動により、光ファイバ2には、案内部30a、刃先42、および押圧部30bが、この順で作用する。したがって、刃具50において、刃先42は、案内部30aに対して方向Dcの反対方向にずれて位置されるとともに、押圧部30bは、刃先42に対して方向Dcの反対方向にずれて位置される。
【0050】
図8に示されるように、刃具50のベース10に対する移動により、光ファイバ2は、刃具50に対して、相対的に、位置P0から、位置P1、位置P2、および位置P3を経由して、位置P4へ至る。
【0051】
図9~12は、光ファイバ2の切断操作において可動部材20が移動する各位置における光ファイバ切断装置100の断面図である。図9は、可動部材20が光ファイバ2を切断する前の切断前位置に位置した状態を示し、図10は、可動部材20が光ファイバ2に切込を形成する切込形成位置に位置した状態を示し、図11は、可動部材20が光ファイバ2を押圧する押圧位置に位置した状態を示し、図12は、可動部材20が光ファイバ2の切断が終了した切断後位置に位置した状態を示す。図9の状態において、光ファイバ2は、図8中、位置P0に位置する。図10の状態において、光ファイバ2は、図8中、位置P2に位置する。図11の状態において、光ファイバ2は、図8中、位置P3に位置する。図12の状態において、光ファイバ2は、図8中、位置P4に位置する。
【0052】
図8中、図9の状態に対応した位置P0において、光ファイバ2は、刃具50とはまだ接触していない。
【0053】
可動部材20の回動に応じて、光ファイバ2は、相対的に図8の位置P0から位置P1へ移動する。位置P1において、光ファイバ2は、回動中心Axとは反対側に位置する案内部30aによって案内される。案内部30aは、光ファイバ2に対して回動中心Axとは反対側で光ファイバ2と接し、当該光ファイバ2を、刃先42に向けて方向Dcとは反対方向に案内する。仮に、案内部30aが無かった場合、光ファイバ2は、支持部12による支持位置のばらつき等によって、刃先42の方向Dcの角部に当たる虞がある。光ファイバ2が刃先42の角部に当たると、例えば切断面に凹凸が生じるなど、所要の切断面が得られない虞がある。この点、本実施形態によれば、案内部30aを設けたことにより、光ファイバ2が刃先42の角部に当たるのを抑制することができる。なお、光ファイバ2の位置によっては、当該光ファイバ2は、案内部30aとは接しない場合もある。
【0054】
次に、図8中、図10に対応した位置P2において、光ファイバ2は、刃先42と接触する。刃先42は、光ファイバ2に対して、回動中心Axとは反対側に切込を形成する。
【0055】
図13は、光ファイバ2に形成される切込2eを示す模式図である。図13に示されるように、刃先42は、光ファイバ2に対して回動中心Ax(図8~12参照)を中心とした円弧に沿って、方向Dcに移動する。図13に示されるように、刃先42は、光ファイバ2の外周2dのうち、光ファイバ2の軸心AxfからX方向(第一方向)およびDc方向(第二方向)と交差したZ方向に離れた部位に、切込2eを形成する。Z方向は、第三方向の一例である。
【0056】
また、図10から明らかとなるように、回動中心Axは、光ファイバ2に対して刃先42とは反対側、すなわち、光ファイバ2に対してZ方向の反対方向に離れて位置している。これにより、図13に示されるように、X方向に見た場合に、光ファイバ2に形成される切込2eの最深部2e1は、Z方向に凸の円弧状に形成される。このような構成によれば、刃先42が直線状に移動して最深部2e1が直線状に形成される場合や、刃先42が本実施形態とは逆のZ方向の反対方向に凸の円弧状に移動して最深部2e1がZ方向の反対方向に凹む円弧状に形成される場合に比べて、より浅いあるいはより長い切込2eを形成することができる。光ファイバ2の外周2d上での切込2eの周方向の長さが同じ条件で比較すると、直線状の最深部2e1が形成される場合や、Z方向の反対方向に凹む最深部2e1が形成される場合に比べて、切込2eがより浅い分、光ファイバ2の断面のうち刃先42によって切込2eを形成する領域の断面積をより低減することができる。この場合、刃先42の摩耗の進展を抑制し、刃先42の寿命をより長くすることができる。また、切込2eの断面積が同じ条件で比較すると、直線状の最深部2e1が形成される場合や、Z方向の反対方向に凹む最深部2e1が形成される場合に比べて、切込2eの外周2d上での周方向の長さが長い分、押圧によって光ファイバ2がより劈開されやすい状態が得られる。
【0057】
図14は、刃先42を含む刃40の一部の正面図である。図14に示されるように、刃先42は、Z方向の反対方向の端部のうち光ファイバ2に切込2eを形成する部位の各位置Pbにおいて、刃先42の接線は、当該刃先42の移動軌跡Ptの接線Ltに対して、Dc方向(第二方向)に向かうにつれてZ方向へ向かうように傾斜している。本実施形態では、刃先42は直線状であるため、刃先42の接線は、刃先42に沿う。仮に、このような傾斜が無いと、刃先42が移動した際に、光ファイバ2に切込2eを形成できないか、あるいは、刃先42ではなく、刃40のDc方向のエッジ40eや当該エッジ40eと刃先42との角部40fが、光ファイバ2と接触し、所要の切断面が得られない虞がある。この点、本実施形態では、刃先42の接線は、移動軌跡Ptの接線Ltに対して、Dc方向(第二方向)に向かうにつれてZ方向へ向かうように傾斜しているため、刃先42によって光ファイバ2に対してより確実に切込2eを形成できるとともに、エッジ40eや角部40fが光ファイバ2と接触するのを抑制し、光ファイバ2の所期の切断面が得られやすくなる。発明者らの研究により、刃先42の接線と、移動軌跡Ptの接線Ltとの角度θは、略2°であるのが好ましいことが判明している。なお、刃先42(可動部材20)が直線状に移動する場合、位置Pbにおける移動軌跡Ptの接線Ltは、可動部材20の移動方向に沿う。
【0058】
また、光ファイバ2に切込2eをより確実に形成するため、刃40の少なくとも刃先42の硬度は、光ファイバ2の硬度よりも硬く、一例としては、石英系ガラスのビッカース硬さHV1103よりも高い硬度を有することが必要である。また、刃先42を形成する面状部分の幅および長さは、研磨が可能な必要最低限の大きさとした。発明者らの検討により、幅は、2[μm]以上かつ6[μm]以下であるのが好ましいことが判明した。
【0059】
次に、図8中、図11に対応した位置P3において、光ファイバ2は、押圧部30bと接触する。押圧部30bは、刃先42(刃40)に対して方向Dcとは反対方向にずれて位置している。また、押圧部30bは、図8から明らかとなるように、光ファイバ2に対して、刃先42が接触した側(図8における左側)とは反対側(図8における右側)、すなわち光ファイバ2に対して回動中心Axに近い側に接触する。
【0060】
このような押圧部30bを設けるため、刃ホルダ30のベース31には、X方向に貫通するとともに、押圧部30bに略沿って延びたスリット30dが形成されている。
【0061】
図15は、図8のXV-XV断面図であり、図16は、図8のXVI-XVI断面図である。図15,16に示されるように、押圧部30bは、Z方向に凸に釣鐘状に湾曲した湾曲凸面30b1を有している。当該湾曲凸面30b1は、光ファイバ2に対してZ方向の分力成分を有する押圧力Fを与え、当該光ファイバ2を、当該湾曲凸面30b1に沿ってZ方向に凸となる状態に曲げる。これにより、光ファイバ2において、押圧部30bとは反対側に形成された切込2eが拡大し、押圧部30bを通過し終わった時点で、光ファイバ2は劈開される(切断される)。
【0062】
図8から明らかとなるように、押圧部30bは、方向Dc(第二方向)の反対方向に向かうにつれてZ方向(第三方向)へ向かうように当該方向Dcに対して傾斜して延びている。押圧部30bは、延び方向(傾斜方向)に湾曲凸面30b1が連続した畝状の形状を有している。湾曲凸面30b1は、傾斜面の一例である。
【0063】
このような湾曲凸面30b1(押圧部30b)の傾斜により、図8のXVI-XVI断面の位置における押圧部30bによる光ファイバ2の押圧量δ2(図16)は、図8のXV-XV断面の位置における押圧部30bによる光ファイバ2の押圧量δ1(図15)よりも大きくなる。押圧部30bのうち、光ファイバ2が相対的に摺動し、当該光ファイバ2が少なくとも劈開されるまでの区間において、押圧量δ1は、徐々に大きくなるよう構成されている。
【0064】
また、図8のXVI-XVI断面の位置における、湾曲凸面30b1のX方向およびZ方向に沿う断面での輪郭線の曲率半径R2(図16)は、図8のXV-XV断面の位置における、湾曲凸面30b1のX方向およびZ方向に沿う断面での輪郭線の曲率半径R1(図15)よりも小さい。押圧部30bのうち、光ファイバ2が相対的に摺動し、当該光ファイバ2が少なくとも劈開されるまでの区間において、輪郭線の曲率半径Rは、徐々に小さくなるよう構成されている。
【0065】
したがって、可動部材20がDc方向へ移動するにつれて、光ファイバ2は、押圧部30bの湾曲凸面30b1(傾斜面)に沿って相対的にスライドしながら、徐々にZ方向へ押圧される。このような押圧部30bによる光ファイバ2の押圧において、光ファイバ2の湾曲形状が急変すると、光ファイバ2に綺麗な切断面が得られなくなる虞がある。この点、本実施形態によれば、押圧部30bによる押圧区間において、光ファイバ2は徐々に変形するため、光ファイバ2には、所期の位置において、X方向と略直交した、綺麗な切断面が得られる。
【0066】
発明者らの研究により、曲率半径Rを3[mm]以下とし、押圧量δを0.15[mm]以上とすることにより、光ファイバ2をより確実に切断できることが判明している。
【0067】
また、刃ホルダ30は、湾曲凸面30b1に沿ってスライドする際に光ファイバ2が損傷しないよう、例えば、合成樹脂材料で作られる。この場合の合成樹脂材料は、ポリエーテルイミド(PEI)とするのが好ましい。PEIは、耐摩耗性に優れた素材であり、押圧部30bの耐久性を高めることができる。また、PEIは、光ファイバ2の良好な摺動性を得ることができ、光ファイバ2が湾曲凸面30b1に引っ掛かり、当該光ファイバ2に過剰な応力が作用するのを、抑制することができる。なお、刃ホルダ30の全体がPEIであることは必須ではなく、刃ホルダ30のうち少なくとも押圧部30bが、PEIであればよい。
【0068】
次に、図8中、図12に対応した位置P4において、光ファイバ2は、貫通孔30eに到達する。位置P4に到達する前に光ファイバ2は切断されている。貫通孔30eは、スリット30dと繋がっており、スリット30dと貫通孔30eによって、切欠が形成されている。位置P1~P4に位置している間、光ファイバ2は、エラストマ80の弾性力によって作用した張力により、スリット30dおよび貫通孔30e内に維持される。また、位置P4において、光ファイバ2は、刃具50における貫通孔30eの周辺部位によって取り囲まれる。このような構成により、光ファイバ2をより確実に切断できるとともに、光ファイバ2の保護性を高めることができる。
【0069】
以上、説明したように、本実施形態によれば、可動部材20の一部である刃具50が、刃40および押圧部30bの双方を有する。このため、光ファイバ切断装置100をより簡素に構成できたり、より小型に構成できたりといった利点が得られる。また、刃具50が三つの部位、すなわち、案内部30a、刃先42(刃40)、および押圧部30bを一体に有するため、それら三つの部位の位置関係を固定することができる。これにより、刃具50の移動に伴って当該三つの部位が光ファイバ2に作用する間、当該三つの部位のそれぞれの光ファイバ2に対する相対的な位置関係が安定し位置精度を確保しやすくなるため、簡単な構成で光ファイバ2のより確実なあるいはより容易な切断を実現することが可能となる。また、光ファイバ2をセットした後、可動部材20を方向Dcに動かすだけの操作によって、光ファイバ2を、より容易にかつより迅速に切断できるという利点も得られる。
【0070】
また、エラストマ80は、ファイバホルダ60を介して光ファイバ2に作用した力を受けることができる。ここで、エラストマ80(弾性部材)は、上述したようにX方向に弾性変形可能であるとともに、X方向と交差した方向、すなわち光ファイバ2の軸方向と交差した方向(以下、交差方向と称する)にも、弾性変形可能である。そして、刃具50に設けられた三つの部位(案内部30a、刃先42、および押圧部30b)から光ファイバ2には、それぞれ交差方向に力が作用する。よって、本実施形態によれば、エラストマ80は、光ファイバ2に作用した交差方向の力に応じて弾性変形することができる。これにより、例えば、当該三つの部位のそれぞれから光ファイバ2に交差方向に作用する力をエラストマ80によって適度に吸収し、光ファイバ2が所期の形態とは異なる形態で破損するのを抑制できたり、ひいては、ベース10に対する光ファイバ2の支持位置や光ファイバ2と三つの部位との相対位置の許容度を高めることができたり、といった利点が得られる。
【0071】
[刃の変形例]
図17および図18は、変形例の刃40A,40Bを有した刃具50の一部の正面図である。図17の変形例では、刃40Aは、円弧状の刃先42を有している。また、図18の変形例では、収容部30cが、Z方向に延びており、刃40Bの刃先42が、刃ボディ41の延び方向に対して傾斜している。これらの場合も、上記実施形態と同様に、刃先42の各位置における接線は、移動軌跡Ptの接線Ltに対して、Dc方向(第二方向)に向かうにつれてZ方向へ向かうように傾斜している。よって、これら変形例によっても、刃先42によって光ファイバ2に対してより確実に切込2eを形成できるとともに、エッジ40eや角部40fが光ファイバ2と接触するのを抑制し、光ファイバ2の所期の切断面が得られやすくなる。
【0072】
以上、本発明の実施形態および変形例が例示されたが、上記実施形態および変形例は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0073】
例えば、可動部材は、ベースに対して直動してもよい。弾性部材は、コイルスプリングや板ばねのような、ばねであってもよい。また、弾性部材の材質は、プラスチックのような合成樹脂材料や、金属材料であってもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…ケーブル
2…光ファイバ
2c…区間
2d…外周
2e…切込
2e1…最深部
2r…根元部
2t…端部
3…被覆
10…ベース
11…上面
12…支持部
13…凹部
14…収容部
15…収容部
15a…端面
15b…ガイド
16…シャフト(回動支持部)
20…可動部材
21…ボディ
22…シャフトホルダ(被支持部)
22a…凹溝
23…被装着部
30…刃ホルダ
30a…案内部
30b…押圧部
30b1…湾曲凸面(傾斜面)
30c…収容部
30d…スリット
30e…貫通孔
31…ベース
32…装着部
40,40A,40B…刃
40e…エッジ
40f…角部
41…刃ボディ
42…刃先
50…刃具
60…ファイバホルダ
61…ホルダベース
62…アーム
70…ケーブルホルダ
70a…端面
80…エラストマ(弾性部材)
100…光ファイバ切断装置
Ax…回動中心
Axf…軸心
Dc…方向(第二方向)
F…押圧力
Lt…接線
P0~P4…(光ファイバの)位置
Pb…(刃先上の)位置
Pc…(可動部材の)閉位置
Po…(可動部材の)開位置
Pt…移動軌跡
R,R1,R2…曲率半径
X…方向(第一方向)
Y…方向
Z…方向(第三方向)
δ,δ1,δ2…押圧量
θ…角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18