(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】肝細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240312BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240312BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/071
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2020563365
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050926
(87)【国際公開番号】W WO2020138208
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2018242917
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実用化研究事業」「難治性疾患創薬シーズの探索と薬剤安全性評価方法開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長船 健二
(72)【発明者】
【氏名】安田 勝太郎
(72)【発明者】
【氏名】上本 伸二
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/141038(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/183571(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/102532(WO,A1)
【文献】特表2017-511150(JP,A)
【文献】特表2015-527084(JP,A)
【文献】特表2012-529901(JP,A)
【文献】第17回日本再生医療学会総会 プログラム抄録,2018年02月23日,p.439 (O-25-2)
【文献】Nature,2011年,Vol.475,pp.386-389
【文献】Nature,2011年,Vol.475,pp.390-393
【文献】Cell Stem Cell,2013年,Vol.13,pp.328-340
【文献】Cell Stem Cell,2014年,Vol.14,pp.370-384
【文献】Cell Stem Cell,2014年,Vol.14,pp.394-403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Hnf4a(Hepatocyte nuclear factor 4 alpha)、Foxa3(Forkhead Box A3)、Cebpa(CCAAT/enhancer-binding protein alpha)、Cebpd(CCAAT/enhancer-binding protein delta)、Hnf6(Hepatocyte nuclear factor 6)およびOnecut2(Onecut domain family member 2)が導入された
線維芽細胞を用意する工程、および
当該
線維芽細胞を培養して肝細胞へと誘導する工程、を含む、肝細胞の製造方法。
【請求項2】
線維芽細胞がヒトまたはマウス由来である、請求項
1に記載の肝細胞の製造方法。
【請求項3】
Hnf4a、Foxa3、Cebpa、Cebpd、Hnf6およびOnecut2がヒトまたはマウス由来である、請求
項1
または2に記載の肝細胞の製造方法。
【請求項4】
Hnf4a、Foxa3、Cebpa、Cebpd、Hnf6およびOnecut2がレトロウイルスベクターを用いて導
入された、請求項1~
3のいずれか一項に記載の肝細胞の製造方法。
【請求項5】
前記
線維芽細胞は、さらにMycが導入されている、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
肝細胞の製造方法。
【請求項6】
前記培養工程が20日以上行われる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の肝細胞の製造方法。
【請求項7】
前記培養工程において培地はTGFβ(Transforming growth factor beta)受容体阻害剤を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の肝細胞の製造方法。
【請求項8】
TGFβ受容体阻害剤はA83-01である、請求項
7に記載の肝細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞関連技術に関し、より詳しくは機能的に成熟した哺乳動物肝細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人工多能性幹(iPS)細胞や胚性幹(ES)細胞から分化誘導される肝細胞や、線維芽細胞など肝細胞以外の細胞種に転写因子の組み合わせを導入することによって作製される誘導肝細胞を用いた、肝細胞移植療法(肝臓再生医療)、肝臓の再構築、肝疾患モデル作製、創薬、薬剤肝毒性評価系の構築などが期待されている。しかし、現在までのところ、機能的に未熟な胎児期の肝細胞に相当する肝細胞の作製にとどまり、成体の体内に存在する肝細胞に近い機能を有する肝細胞を作製することは可能となっていない。
【0003】
非特許文献1には、マウス胎仔および成体線維芽細胞にHnf4aと、Foxa1、Foxa2またはFoxa3の遺伝子を導入することで誘導肝細胞を作製したことが報告されている。
非特許文献2には、マウス成体線維芽細胞にGata4、Hnf1aおよびFoxa3の遺伝子を導入することで誘導肝細胞を作製したことが報告されている。
非特許文献3には、マウス胎仔線維芽細胞にHnf1bおよびFoxa3の遺伝子を導入することで誘導肝細胞を作製したことが報告されている。
非特許文献4には、ヒト線維芽細胞にFOXA3、HNF1AおよびHNF4Aの遺伝子を導入することで誘導肝細胞を作製したことが報告されている。
非特許文献5には、ヒト線維芽細胞にHNF1A、HNF4A、HNF6、ATF5、PROX1およびCEBPAの遺伝子を導入することで誘導肝細胞を作製したことが報告されている。
しかしながら、これまでに報告されている誘導肝細胞は肝マーカーの発現量が少なく、機能的に未熟で、上記のような再生医療等の目的に使用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Sekiya S. et al., Nature 475(7356), 390-393 (2011)
【文献】Huang P. et al., Nature 475(7356), 386-389 (2011)
【文献】Yu B. et al., Cell Stem Cell 13(3) 328-340, (2013)
【文献】Huang P. et al., Cell Stem Cell 14(3), 370-384 (2014)
【文献】Du Y. et al., Cell Stem Cell 14(3), 394-403 (2014):
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は機能的に成熟した肝細胞を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、発明者らは、マウス成体肝細胞に発現する遺伝子の発現プロファイルを探索し、iPS干渉法(Hikichi T. 2013 Apr 16;110(16):6412-7)を用いて成熟肝細胞を誘導する転写因子の組み合わせの絞り込みを行った。その結果、Hnf4a(Hepatocyte nuclear factor 4 alpha)、Foxa3(Forkhead Box A3)、Cebpa(CCAAT/enhancer-binding protein alpha)、Cebpd(CCAAT/enhancer-binding protein delta)、Hnf6(Hepatocyte nuclear factor 6)およびOnecut2(One cut domain family member 2)の6種類の転写因子の組み合わせ(6因子)の遺伝子導入により、マウスおよびヒトの線維芽細胞から最も機能的に成熟した肝細胞を作製することに成功した。また、前述の6因子に加えMycを導入すること、およびTGF-β受容体阻害剤を用いて培養することにより、機能的成熟度をさらに上げることができることを見出した。以上の発見に基づき、本発明を完成させた。
【0007】
したがって、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]Hnf4a、Foxa3、Cebpa、Cebpd、Hnf6およびOnecut2が導入された体細胞を用意する工程、および当該体細胞を培養して肝細胞へと誘導する工程、を含む、肝細胞の製造方法。
[2]体細胞が線維芽細胞である、[1]に記載の肝細胞の製造方法。
[3]体細胞がヒトまたはマウス由来である、[1]または[2]に記載の肝細胞の製造方法。
[4]Hnf4a、Foxa3、Cebpa、Cebpd、Hnf6およびOnecut2がヒトまたはマウス由来である、[1]~[3]のいずれかに記載の肝細胞の製造方法。
[5]Hnf4a、Foxa3、Cebpa、Cebpd、Hnf6およびOnecut2がレトロウイルスベクターを用いて導入された、[1]~[4]のいずれかに記載の肝細胞の製造方法。
[6]前記体細胞は、さらにMycが導入されている、[1]~[5]のいずれかに記載の肝細胞の製造方法。
[7]前記培養工程が20日以上行われる、[1]~[6]のいずれかに記載の肝細胞の製造方法。
[8]前記培養工程において培地はTGFβ(Transforming growth factor beta)受容体阻害剤を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の肝細胞の製造方法。
[9]TGFβ受容体阻害剤はA83-01である、請求項8に記載の肝細胞の製造方法。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の方法によって製造された肝細胞。
[11] [10]に記載の肝細胞を含む、再生医療用細胞製剤。
[12]下記工程を(i)-(iii)の順番で含む、被検物質の毒性評価方法;
(i)[1]~[9]のいずれかに記載の方法によって製造された肝細胞に被検物質を接触させる工程、
(ii)前記肝細胞の生存率または培養上清中の肝障害マーカー量を測定する工程、および
(iii)前記被検物質と接触させた肝細胞の生存率が、被検物質と接触させなかった肝細胞(対照細胞)の生存率よりも低値、または、前記被検物質と接触させた肝細胞の培養上清中の肝障害マーカー量が、対照細胞の培養上清中の肝障害マーカー量よりも高値である被検物質を、肝毒性を有すると評価する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明により機能的に成熟した哺乳動物肝細胞を効率よく製造することができる。
本発明の方法により得られる哺乳動物成熟肝細胞を用いることにより、難治性肝疾患に対する肝細胞移植療法(肝臓再生医療)、肝疾患モデル作製、肝細胞を用いた創薬、薬剤肝毒性評価等をこれまでにない高い精度で実施可能となる。また、本発明の方法により得られる肝細胞は、肝細胞の分化および成熟化機構の解明の目的にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】2因子(Hnf4a+Foxa3)または6因子(Hnf4a+Foxa3+Cebpa+Cebpd+Hnf6+Onecut2)を導入して誘導された肝細胞における各遺伝子の発現量を示すグラフ。
【
図2】6因子を導入して誘導された肝細胞をA83-01のあるなしで培養した時のVimentin、Cola1(コラーゲン1a1)、Afp(Alpha-fetoprotein)の発現量を示すグラフ。
【
図3】6因子を導入して誘導された肝細胞をA83-01のあるなしで培養した時のアルブミンの分泌量を示すグラフ。
【
図4】6因子およびMycの強制発現により得られた誘導肝細胞の免疫染色結果を示す図(写真)。略称は次の通り:Alb, Albumin. E-cad, E-cadherin. Ho, Hoechst 33342。
【
図5】培地中への24時間あたりのAlbumin分泌量をELISAにより測定した結果を示す図。Albumin分泌量は、免疫染色でAlbumin陽性となる細胞数で補正した。N=3で行い、平均値±標準偏差で示した。**P < 0.01(one-way ANOVA with Tukey’s correction)。
【
図6】各細胞においてCyp3a11の酵素活性を比較した結果を示す図。N=3で行い、平均値±標準偏差で示した。*P < 0.05, **P < 0.01(one-way ANOVA with Tukey’s correction)
【
図7】6因子+Mycを導入して誘導された肝細胞において、各薬剤で刺激した時の、CYP遺伝子の発現変動を示すグラフ。矢印は発現量が顕著に増加した遺伝子を指す。
【
図8】2~6因子を導入して誘導された肝細胞におけるCps1(Carbamoylphosphate synthase I)遺伝子の発現量(n = 3, mean ± SD)を示すグラフ。βアクチン(Actb)で標準化したのち、2因子(Hnf4a+Foxa3)を導入して誘導された肝細胞における値を1として表した。
【
図9】6因子およびMycをヒト細胞に導入することにより得られた誘導肝細胞の免疫染色結果を示す図(写真)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の肝細胞の製造方法は、Hnf4a、Foxa3、Cebpa、Cebpd、Hnf6およびOnecut2が導入された体細胞を用意する工程、および当該体細胞を培養して肝細胞へと誘導する工程、を含む。
【0011】
<6因子導入体細胞を用意する工程>
ここで、用意するとは、体細胞に6因子を導入して新たに用意する場合に限られず、6因子の一部が既に導入された体細胞に残りの因子すべてを導入する場合や、予め6因子が導入された体細胞を調達してくる場合も含む。
【0012】
<体細胞>
本発明において、体細胞は肝細胞以外の体細胞であれば特に限定されないが、例えば線維芽細胞、上皮細胞(皮膚表皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞など)、表皮細胞、歯肉細胞(歯肉線維芽細胞、歯肉上皮細胞)、歯髄細胞、白色脂肪細胞、 皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉、血液細胞などが挙げられる。また、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell: MSC)、腸幹細胞、皮膚幹細胞、毛包幹細胞、色素細胞幹細胞などの体性幹細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて作製した体細胞も挙げられる。
【0013】
体細胞の由来は、成体であっても小児であっても胎児であってもよい。体細胞は、ヒト、マウス、ラット、ブタ等のヒト以外の哺乳動物から単離されたものであっても、その継代培養細胞であってもよい。線維芽細胞としては、例えば、胎児線維芽細胞、尾先端部由来線維芽細胞、心臓線維芽細胞、包皮線維芽細胞、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞等を用いることができる。
【0014】
また、得られる肝細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、当該肝細胞の製造に用いる体細胞は、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一または実質的に同一である体細胞であることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、移植先の個体とHLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座またはHLA-Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。
【0015】
<6因子>
6因子として、Hnf4a、Foxa3、Cebpa、Cebpd、Hnf6およびOnecut2を用いる。
【0016】
Hnf4aはHepatocyte nuclear factor 4 alphaと呼ばれ、糖代謝や脂質代謝、薬物代謝など、多くの肝細胞機能に関わる遺伝子の発現を調節することが知られている。ヒトHNF4Aタンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_849180(配列番号1)に登録されており、マウスHNF4aタンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_032287(配列番号2)に登録されている。ただし、これら特定のアミノ酸配列を有するタンパク質には限定されず、転写因子としての機能を有する限り、これらの配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質でもよい。ヒトHNF4aタンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_178849に登録されており、マウスHNF4aタンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_008261に登録されている。
【0017】
Foxa3はForkhead box A3と呼ばれ、肝細胞においては糖新生に関わる遺伝子などの発現を調節することが知られている。ヒトFOXA3タンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_004488(配列番号3)に登録されており、マウスFoxa3タンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_032286(配列番号4)に登録されている。ただし、これら特定のアミノ酸配列を有するタンパク質には限定されず、転写因子としての機能を有する限り、これらの配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質でもよい。ヒトFOXA3タンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_004497に登録されており、マウスFoxa3タンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_008260に登録されている。
【0018】
CebpaはCCAAT/enhancer-binding protein alphaと呼ばれ、肝細胞分化や肝細胞における糖・脂質代謝を調節することが知られている。ヒトCEBPA タンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_004355(配列番号5)に登録されており、マウスCebpa タンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_031704(配列番号6)に登録されている。ただし、これら特定のアミノ酸配列を有するタンパク質には限定されず、転写因子としての機能を有する限り、これらの配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質でもよい。ヒトCEBPAタンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_004364に登録されており、マウスCebpa タンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_007678に登録されている。
【0019】
CebpdはCCAAT/enhancer-binding protein deltaと呼ばれ、肝細胞においてはIL-6によるシグナルの下流に位置し、急性期反応に関わることが知られている。ヒトCEBPDタンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_005186(配列番号7)に登録されており、マウスCebpdタンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_031705(配列番号8)に登録されている。ただし、これら特定のアミノ酸配列を有するタンパク質には限定されず、転写因子としての機能を有する限り、これらの配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質でもよい。ヒトCEBPDタンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_005195に登録されており、マウスCebpdタンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_007679に登録されている。
【0020】
Hnf6はHepatocyte nuclear factor 6と呼ばれ、肝細胞分化や肝細胞における糖・脂質代謝を調節することが知られている。ヒトHNF6タンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_004489(配列番号9)に登録されており、マウスHnf6タンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_032288(配列番号10)に登録されている。ただし、これら特定のアミノ酸配列を有するタンパク質には限定されず、転写因子としての機能を有する限り、これらの配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質でもよい。ヒトHNF6タンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_004498に登録されており、マウスHnf6タンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_008262に登録されている。
【0021】
Onecut2はOnecut domain family member 2と呼ばれ、Foxa2遺伝子の発現を誘導するなど、肝細胞の分化や代謝に関与することが知られている。ヒトONECUT2タンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_004843(配列番号11)に登録されており、マウスOnecut2タンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_919244(配列番号12)に登録されている。ただし、これら特定のアミノ酸配列を有するタンパク質には限定されず、転写因子としての機能を有する限り、これらの配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質でもよい。ヒトONECUT2タンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_004852に登録されており、マウスOnecut2タンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_194268に登録されている。
【0022】
さらに、Mycが導入されることが好ましい。ヒトMYCタンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_002458(配列番号13)に登録されており、マウスMycタンパク質のアミノ酸配列は例えば、GenBank Accession No. NP_034979(配列番号14)に登録されている。ただし、これら特定のアミノ酸配列を有するタンパク質には限定されず、転写因子としての機能を有する限り、これらの配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質でもよい。ヒトMYCタンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_002467に登録されており、マウスMycタンパク質をコードする塩基配列は例えば、GenBank Accession No. NM_010849に登録されている。
【0023】
上記6因子およびMycは同時に導入されてもよいし、個別因子または複数因子が順次導入されてもよい。
【0024】
これらの転写因子の導入により、これらの転写因子の発現量(遺伝子レベルまたはタンパク質レベル)は、導入前の細胞における発現量の5倍以上に維持されることが好ましく、10倍以上に維持されることがより好ましい。前記発現量が前記レベルに維持される期間としては、例えば、少なくとも7日間、好ましくは10日間、さらに好ましくは14日間、特に好ましくは肝細胞への分化が終了するまでの期間である。これにより、成熟肝細胞への高効率での分化誘導が可能になる。肝細胞への分化が終了して実験に供されるまで持続することがさらに好ましい。これにより、成熟肝細胞への高効率な分化誘導と、得られた成熟肝細胞機能の機能が良好に維持される場合がある。
【0025】
本発明において、上記の転写因子は遺伝子レベルで体細胞に導入されてもよいし、タンパク質レベルで体細胞に導入されてもよい。なお、内因性で発現している転写因子であれば内因性転写因子の発現を誘導してもよい。すなわち、転写因子の導入は内因性転写因子の誘導を含む。
【0026】
<導入方法>
遺伝子(DNA)の形態で導入する場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクターをリポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。導入は一過的導入でもよいし、安定的導入でもよい。
ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる。ベクターには、導入遺伝子が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、蛍光タンパク質、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。プロモーターとして、SV40プロモーター、 LTRプロモーター、CMV (cytomegalovirus)プロモーター、RSV (Rous sarcoma virus)プロモーター、MoMuLV (Moloney mouse leukemia virus) LTR、HSV-TK (herpes simplex virus thymidine kinase)プロモーター、EF-αプロモーター、CAGプロモーターおよびTREプロモーター(tetO 配列が7回連続したTet応答配列をもつCMV 最小プロモーター)が例示される。
【0027】
RNAの形態で導入する場合、例えばエレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入してもよい。
【0028】
タンパク質の形態で導入する場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって多能性幹細胞内に導入してもよい。
6因子の発現は、少なくとも7日間、好ましくは10日間、さらに好ましくは14日間、特に好ましくは肝細胞への分化が終了するまでの期間、持続することが望ましい。これにより、成熟肝細胞への高効率での分化誘導が可能になる。さらに、分化が終了して実験に供されるまで持続してもよい。これにより、得られた成熟肝細胞の機能が良好に維持される場合がある。
【0029】
<培養工程>
転写因子が導入された細胞を培養する工程に使用する培養液は、特に限定されないが、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地とし、適切な成分を添加して調製することができる。基礎培地には、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。HCM BulletKit Medium、William’s E Medium (Thermo Fisher Scientific), Leibovitz’s L-15 Medium (Thermo Fisher Scientific)などの肝細胞用培地も好ましく用いることができる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、副腎皮質ホルモン(デキサメタゾンなどのホルモン、サイトカインなどの物質も含有し得る。
サイトカインとしては、肝細胞増殖因子(HGF)やオンコスタチンM(OSM)などが挙げられ、これらは、例えば、1~100ng/mLの濃度で添加される。
【0030】
<TGFβ受容体阻害剤>
培地にはTGFβ受容体阻害剤を添加することが好ましい。TGFβ受容体阻害剤とは、TGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、またはALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質が挙げられ、例えば、Lefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、 NPC30345、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、 LY580276 (Lilly Research Laboratories)、A83-01(WO 2009146408) およびこれらの誘導体などが例示される。本発明で使用されるTGFβ受容体阻害剤は、好ましくは、A83-01であり得る。
【0031】
培養液中におけるA83-01の濃度は、ALK5を阻害する濃度であれば特に限定されないが、例えば、500nMから5μMである。
【0032】
培養は接着培養でも浮遊培養でもよく、用いる体細胞の種類によって適宜選択できる。浮遊培養によって行われる場合、細胞を培養容器へ非接着の状態で凝集体(スフェアとも言う)を形成させて培養することが望ましく、このような培養は、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていない培養容器、若しくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)、非イオン性の界面活性ポリオール(Pluronic F-127等)またはリン脂質類似構造物(例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位とする水溶性ポリマー(Lipidure))によるコーティング処理した培養容器を使用することによって行うことができる。
【0033】
接着培養によって培養が行われる場合、細胞外基質をコーティング処理された培養容器を用いて培養することによって行うことができる。コーティング処理は、細胞外基質を含有する溶液を培養容器に入れた後、当該溶液を適宜除くことによって行い得る。ここで、細胞外基質とは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、ポリリジン、ポリオルニチン、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリン、ラミニンといった物質およびこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(商標)などの細胞からの調製物であってもよい。
【0034】
培養条件は、特に限定されないが、例えば、約37℃~約42℃程度、約37~約39℃程度が好ましい。CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2~5%である。また、培養期間については、当業者であれば細胞数などをモニターしながら、適宜決定することが可能である。日数は特に限定されないが、例えば、10日間以上、12日以上、14日以上、16日以上、18日以上、20日以上、25日以上である。
【0035】
<肝細胞>
肝細胞が得られたことは、アルブミンなどの発現を測定することにより評価できる。
肝細胞は、他の細胞種が含まれる細胞集団として得られてもよく、純化されてもよい。本発明の方法で得られる細胞集団は、例えば、3%以上、5%以上、10%以上もしくは20%以上の肝細胞を含むが、好ましくは、50%以上、60%以上、70%以上または80%以上の肝細胞を含む。なお、肝細胞を純化する方法する方法として、アシアログライコプロテイン(ASGP)受容体に対する抗体などを用いて染色し、染色された細胞をフローサイトメーター(FACS)や磁気細胞分離装置(MACS)を用いて濃縮する方法が例示される。
【0036】
本発明で得られた肝細胞は上記6因子、好ましくはさらにMycが導入されたことにより、成体の肝細胞としての機能を有する。例えば、肝細胞はアルブミンの分泌に加え、シトクロムP450活性、薬物代謝、グリコーゲンの蓄積、低比重リポタンパク質(LDL)の取り込み、アンモニア代謝と尿素合成などの肝細胞の機能の1つ以上を有する。
【0037】
<細胞製剤>
本発明では、上述した方法により得られた肝細胞を含む、肝疾患治療等に使用される再生医療用細胞製剤を提供する。
患者への細胞製剤の投与方法としては、例えば、得られた肝細胞をシート化して、患者の肝臓に貼付する方法、得られた肝細胞を生理食塩水等に懸濁させ、患者の肝臓に直接移植する方法、マトリゲル等から構成されたスキャフォールド上で三次元培養し、得られた肝細胞塊を移植する方法などが挙げられる。
【0038】
本発明において、細胞製剤に含まれる肝細胞の細胞数は、移植片が投与後に生着できれば特に限定されなく、患部の大きさや体躯の大きさに合わせて適宜増減して調製すればよい。
【0039】
<肝細胞を用いた薬物評価>
本発明の方法で調製した肝細胞を用いて被検物質の代謝についてin vitroで試験することができる。
当該被検物質の代謝試験は、例えば、(i)本発明の方法で得られた肝細胞に被検物質を接触させる工程、および(ii)被検物質の代謝産物を検出する工程を含むことができる。
工程(i)での「接触」とは、本発明によって製造された肝細胞を培養する培地に被検物質を添加することによって行われ得る。被検化合物の添加のタイミングは特に限定されない。従って、被検物質を含まない培地で培養を開始した後、ある時点で被検物質を添加することにしても、予め被検物質を含む培地で培養を開始することにしてもよい。
【0040】
被検物質には、例えば、医薬品や栄養食品等の既存成分或いは候補成分などが包含される。被検物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なアッセイ系を構築することができる。
【0041】
被検物質を接触させる期間は任意に設定可能である。接触期間は例えば10分間~3日間、好ましくは1時間~1日間である。接触を複数回に分けて行うことにしてもよい。
【0042】
被検物質の代謝とは、エステルなどの加水分解、酸化反応(特にシトクロムP450による酸化)、還元反応などによる被検物質の化学修飾が例示され、このような代謝の有無は、例えば、代謝産物の検出によって行うことができる。好ましくは、工程(i)の後、得られた培養液をサンプルとして、予想される代謝産物を定性的又は定量的に測定する。測定方法は被検物質並びにその予測される代謝産物に応じて適切なものを選択すればよいが、例えば、質量分析、液体クロマトグラフィー、免疫学的手法(例えば蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法))等を採用可能である。
【0043】
被検物質の代謝産物が検出されたとき、「被検物質が代謝された」と判定する。また、代謝産物の量に応じて被検物質の代謝量を評価することができる。
【0044】
また、本発明で得られた肝細胞を用いて薬物代謝酵素(例えば、シトクロム、UGT)の発現誘導を確認することができる。薬物代謝酵素の発現はmRNAレベル又はタンパク質レベルで評価することができる。例えば、薬物代謝酵素のmRNAレベルに上昇を認めたとき、「被検物質は薬物相互作用を起こす疑いがある」と判定することができる。
【0045】
一方、本発明の方法で調製した肝細胞を用いて被検物質の毒性を試験することもできる。当該方法は、(i)本発明の方法で得られた肝細胞に被検物質を接触させる工程と、(ii)工程(i)後の肝細胞の状態を調べる工程と、(iii)(ii)の結果に基づいて被検物質の毒性を評価する工程、とを含むことができる。工程(i)は、前記被検物質の代謝と同様である。
【0046】
工程(ii)では、被検物質を接触させた後の肝細胞の状態を調べ、工程(iii)において被検物質の毒性を評価する。肝細胞の状態は、生存率の測定、細胞形態の観察、培養液(培養上清)中の肝障害マーカー(GOT、GPT等)の測定などによって把握することができる。例えば、被検物質の接触によって生存率の低下を認めたとき、「被検物質は肝毒性を有する」と判定することができる。また、被検物質の接触によって細胞形態の異常を認めたときや、培養液中の肝障害マーカーの量が上昇したときも同様に、「被検物質は肝毒性を有する」と判定することができる。生存率の低下の程度や肝障害マーカーの量に応じて定量的な判定を行ってもよい。なお、前記「生存率の低下」は、目安として、被検物質と接触させなかった肝細胞(対照細胞)の生存率に対し、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下の生存率であってもよい。また、前記「肝障害マーカーの量が上昇」は、目安として、対照細胞の生存率に対し、110%以上、120%以上、130%以下、140%以上、または150%以上の前記マーカー量であってもよい。
また、工程(ii)において被検物質のTC50を解析し、工程(iii)において、当該TC50値が特定の値以下の被検物質に対して「肝毒性を有する」と判定してもよい。被検物質の肝細胞に対するTC50を調べることで、人体への被検物質の適正投与量の予測に貢献することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の態様は以下には限定されない。
【0048】
[実施例1]
以下の手順でレトロウイルスベクターを使用して線維芽細胞に遺伝子導入を行うことにより誘導肝細胞(iHeps)を作製し、得られたiHepsを用いて肝細胞マーカーの発現などを解析した。
【0049】
ウイルスベクター作製
マウスのHnf4a遺伝子、Foxa3遺伝子、Cebpa遺伝子、Cebpd遺伝子、Hnf6遺伝子およびOnecut2遺伝子をそれぞれpMXsプラスミドに組み込み、各遺伝子導入用のレトロウイルスベクターをそれぞれ作製した。また、マウスのMyc遺伝子導入用のレトロウイルスベクターも同様に作製した。なお、pMXsは東京大学の北村俊雄教授より譲り受けた(Exp Hematol. 2003 Nov;31(11):1007-14.)。
【0050】
ウイルス上清準備
1. Plat-E (Cell Biolabs, Inc., Cat# RV-101) を、抗生物質を含まない10% FBS/DMEM (FBS (Thermo Fisher Scientific), DMEM (Nacalai tesque, Cat# 08459-64)) に懸濁し、ゼラチンコートした6-well plate (Greiner) に播種 (5.0 × 105 cells/1.5 ml/well)し、37℃ 5% CO2 で一晩インキュベートした。
【0051】
2. Plat-Eに対し、各転写因子のplasmidのlipofectionを行った。
37℃のOpti-MEM (Thermo Fisher Scientific, Cat# 31985062) 50 μlにFuGENE 6 (Promega, Cat# E2692) 4.5 μlを加え、vortex後に5分間室温静置した。そこに各転写因子のレトロウイルスベクター (pMXs) 500 ng/μlを加え、20分間室温静置し、その後、1で用意したPlat-Eの各wellに加え、37℃ 5% CO2 で一晩インキュベートした。
【0052】
3. 抗生物質を含まない10%FBS/DMEM 1.6 ml/wellで培地交換し、37℃ 5% CO2で一晩インキュベートし、それをウイルス上清として用いた。
【0053】
MEFs (mouse embryonic fibroblasts)準備
E13.5 妊娠マウス (C57BL/6J) の胎仔より得た。継代は行わず、Cell Reservoir One (Nacalai tesque, Cat# 07485-44)を細胞保存液として用いて、-80℃凍結保存した。
【0054】
iHep induction
1. Viral transduction前日 (day-1)、凍結保存していたMEFsを起眠し、Matrigel (BD Matrigel Matrix Growth Factor Reduced, BD Biosciences, Cat# 354230) でコーティングした12-well plate (Greiner) 上に播種 (5.0 × 104 cells/well)した。
【0055】
2. Viral transduction当日(day0)、Plat-Eの培養上清をウイルス上清として回収し、filtering (Millex-HP Syringe Filter Unit 0.45 μm, Merck Millipore, Cat# SLHP033RS)した。
【0056】
3. 各転写因子のウイルス上清を各100 μl(c-Mycは12.5 μl), 10% FBS/DMEM 87.5 μl, Polybrene (nacalai tesque, Cat# 12996-81) 0.7 μlを加え、そのうち500 μlを、前日MEFsを播種した12-well plateの1wellあたりに加えた。
【0057】
4. 37℃, 5% CO2 で一晩インキュベートし、ウイルス感染を行った。
【0058】
5. 翌日 (day1) 培地交換 (10% FBS/DMEM)した。
【0059】
6. Day3にも培地交換 (10% FBS/DMEM)した。
【0060】
7. Day4でMatrigelでコートされた12-well plateに1:10の割合でreplateした。培地は10% FBS/DMEM/F12, GlutaMAXをベースにしたHepatic specification培地 (DMEM/F12, GlutaMAX (Thermo Fisher Scientific, Cat# 10565042) 360 ml, FBS 40 ml, Nicotinamide (STEMCELL Technologies, Cat# 07154) 10mM, ITS-X (Thermo Fisher Scientific, Cat# 51500056) 400μl, Dexamethasone (Merck, Cat# D4902-25MG) 0.1μM, 2-Mercaptoethanol (Thermo Fisher Scientific, Cat# 21985023) 50 μM, Penicillin-Streptomycin (Thermo Fisher Scientific, Cat# 15140122) 2 ml)とし、Day6に培地交換を行った。
【0061】
8. Day7から、hepatic maturation培地(HCM BulletKit Medium (Lonza, Cat# CC-3198), HGF (Peprotech, Cat# 100-39) 20 ng/ml, OSM (Peprotech, Cat# 300-10) 20 ng/ml, A83-01 (Merck, Cat# 616454-2MGCN) 1 μM)に変更して、2日に一度培地交換した。
Day25前後で遺伝子発現解析等の実験に供した。
【0062】
遺伝子発現はRT-qPCRで解析した。
Albuminの分泌量の定量はELISAキット(Mouse Albumin ELISA Kit (BETHYL Laboratories)を使用した。
Cyp3a11の活性測定においては、基質となるMidazolamを培地に加え、Cyp3a11による水酸化により産生されたHydroxy midazolamの24時間あたりの培地中への分泌量を、Mass spectrometryで測定した。
【0063】
<結果>
発明者らは、マウス成体肝細胞に発現する遺伝子の発現プロファイルを探索し、iPS干渉法を用いて成熟肝細胞を誘導する転写因子の組み合わせの絞り込みを行った。その結果、Hnf4a, Foxa3, Cebpa, Cebpd, Hnf6, Onecut2の6因子の組み合わせが成熟肝細胞の誘導に最適であることを見出した。
図1に、6因子の優位性を示すため、2因子(Hnf4a, Foxa3)のみを導入して誘導した場合とで、肝細胞マーカー遺伝子の発現を比較した。その結果、6因子の導入は、2因子に比べ、顕著に肝細胞マーカー遺伝子を増加させた。Cdx2は中腸・後腸マーカー遺伝子(腸管マーカー遺伝子 肝臓は後方前腸由来)であり、既報(Morris et al Cell 2014 Aug 14;158(4):889-902)で2因子から作製したiHepsはCdx2 positive細胞であることが示されたが、6因子を用いることで、Cdx2の発現は著明に低下した。また、Afpは肝芽細胞マーカーであるが、6因子を用いることで、Afpの発現も低下したことから、より成熟した肝細胞に近いiHepsが得られたことが示された。
【0064】
次に、6因子を導入したのちの培養条件を最適化するため、肝細胞を効率的に誘導できる培地成分の検討を行ったところ、TGFβ受容体阻害剤であるA83-01の添加が有効であることを見出した。hepatic maturation培地にA83-01を添加した場合と添加しない場合で培養を行って得られた肝細胞におけるマーカーの発現を調べた結果を
図2、3に示す。その結果、A83-01の添加はアルブミン分泌を増加させた。
一方、A83-01はVimentin、Col1a1、Afpなどの脱分化因子の発現を低下させ、肝細胞の分化効率を上げることが分かった。
【0065】
以下、6因子とともにMyc遺伝子を導入して誘導し、hepatic maturation培地にA83-01を添加して培養して得られた肝細胞を用いて実験を行った。
図4には、6因子およびMycの強制発現により得られたiHeps (6TF-Myc iHeps) の免疫染色結果を示す。Albumin陽性の上皮様細胞(6TF-Myc iHeps)が敷石状に拡がっていることがわかる。
【0066】
図5では、6TF-Myc iHepsを用い、培地中への24時間あたりのAlbumin分泌量をELISAにより測定した。なお、Albumin分泌量は、免疫染色でAlbumin陽性となる細胞数で補正して示した。その結果、6因子にMycを組み合わせた場合、得られる誘導肝細胞におけるアルブミン分泌量は6因子の場合に比べても顕著に多く、初代培養肝細胞に匹敵するほどであった。
【0067】
図6では、肝細胞による薬物代謝において、主要な役割を果たすCytochrome P450 (CYP)のうち、代表的なCyp3a11の酵素活性を、各誘導肝細胞又は初代培養肝細胞で比較した。Hydroxy midazolamの分泌量は、免疫染色でAlbumin陽性となる細胞数で補正した。代謝産物であるHydroxy midazolamの産生量が多いほど、酵素活性が高いことを意味し、より成熟化した肝細胞機能を有することを示す。
図6によれば、6因子にMycを組み合わせた場合、得られる誘導肝細胞における酵素活性は6因子の場合に比べても顕著に高く、初代培養肝細胞に匹敵するほどであった。
【0068】
図7では、6TF-Myc iHepsを用い、種々の薬剤に対するCYP遺伝子の発現誘導を調べた。その結果、RifampicinではCyp3a11が誘導され、OmeprazoleではCyp1a2が誘導され、TCP0B0PではCyp2b10が誘導され、得られた誘導肝細胞は、薬剤に対応したCYPを活性化し、正常肝細胞の応答プロファイルを有していることが分かった。
【0069】
[実施例2]
6因子の必要性の検討
以下の手順で6因子のうちの2~6因子を導入し、肝細胞分化を誘導した。
iHep induction
1. Viral transduction前日 (day-1)、凍結保存していたMEFsを起眠し、Matrigel (BD Matrigel Matrix Growth Factor Reduced, BD Biosciences, Cat# 354230) でコーティングした12-well plate (Greiner) 上に播種 (5.0 × 104 cells/well)。
2. Viral transduction当日(day0)、Plat-Eの培養上清をウイルス上清として回収し、filtering (Millex-HP Syringe Filter Unit 0.45 μm, Merck Millipore, Cat# SLHP033RS)を行った。
3. 各転写因子のウイルス上清を各100 μl, Polybrene (nacalai tesque, Cat# 12996-81) 0.6 μl を加え、そのうち500 μlを、前日MEFsを播種した12-well plateの1wellあたりに加えた。
4. 37℃, 5% CO2 で一晩インキュベートし、ウイルス完成を行った。
5. 翌日 (day1) 培地交換 (10% FBS/DMEM)した。
6. Day3にも培地交換 (10% FBS/DMEM)した。
7. Day4で10% FBS/DMEM/F12, GlutaMAXをベースにしたHepatic specification培地 (DMEM/F12, GlutaMAX (Thermo Fisher Scientific, Cat# 10565042) 360 ml, FBS 40 ml, Nicotinamide (STEMCELL Technologies, Cat# 07154) 10mM, ITS-X (Thermo Fisher Scientific, Cat# 51500056) 400 μl, Dexamethasone (Merck, Cat# D4902-25MG) 0.1 μM, 2-Mercaptoethanol (Thermo Fisher Scientific, Cat# 21985023) 50 μM, Penicillin-Streptomycin (Thermo Fisher Scientific, Cat# 15140122) 2 ml)に培地交換した。さらに2日に一度培地交換した。
8. Day11から、hepatic maturation培地(HCM BulletKit Medium (Lonza, Cat# CC-3198), HGF (Peprotech, Cat# 100-39) 20 ng/ml, OSM (Peprotech, Cat# 300-10) 20 ng/ml)に変更して、2日に一度培地交換した。Day19前後で実験に供した。
【0070】
<結果>
図8に示すように、6因子のうち1つでも欠けると、肝細胞へのconversion 効率が大幅に落ちることが確認できた。なお、本実施例ではMyc遺伝子は導入しておらず、Myc遺伝子はなくとも6因子で肝細胞分化が効率よく実施できることが示された。
【0071】
[実施例3]
次に、ヒト体細胞を用いて以下の手順で肝細胞分化を誘導した。
iHep induction
1. Viral transduction前日 (day-1)、凍結保存していたHDF-Slc7a1(Yamakawa, Stem Cells 2016; gift from Okita lab.)を起眠し、Matrigel (BD Matrigel Matrix Growth Factor Reduced, BD Biosciences, Cat# 354230) でコーティングした12-well plate (Greiner) 上に播種 (5.0 × 104 cells/well)した。
2. Viral transduction当日(day0)、Plat-Eの培養上清をウイルス上清として回収し、filtering (Millex-HP Syringe Filter Unit 0.45 μm, Merck Millipore, Cat# SLHP033RS)した。
3. 各転写因子のウイルス上清を各100 μl, c-Myc 12.5 μl, 10% FBS/DMEM 87.5 μl, Polybrene (nacalai tesque, Cat# 12996-81) 0.7 μl を加え、そのうち500 μlを、前日HDF-Slc7a1を播種した12-well plateの1wellあたりに加えた。
4. 37℃, 5% CO2 で一晩インキュベートし、ウイルス完成を行った。
5. 翌日 (day1) 培地交換 (10% FBS/DMEM)した。
6. Day3にも培地交換 (10% FBS/DMEM)した。
7. Day4に、Matrigelでコーティングした12-well plate上に1:10の割合で再播種した。培地は10% FBS/DMEM/F12, GlutaMAXをベースにしたHepatic specification培地 (DMEM/F12, GlutaMAX (Thermo Fisher Scientific, Cat# 10565042) 360 ml, FBS 40 ml, Nicotinamide (STEMCELL Technologies, Cat# 07154) 10mM, ITS-X (Thermo Fisher Scientific, Cat# 51500056) 400 μl, Dexamethasone (Merck, Cat# D4902-25MG) 0.1 μM, 2-Mercaptoethanol (Thermo Fisher Scientific, Cat# 21985023) 50 μM, Penicillin-Streptomycin (Thermo Fisher Scientific, Cat# 15140122) 2 ml)に培地交換した。
8. Day6から、hepatic maturation培地(HCM BulletKit Medium (Lonza, Cat# CC-3198), HGF (Peprotech, Cat# 100-39) 20 ng/ml, OSM (Peprotech, Cat# 300-10) 20 ng/ml)に変更して、2日に一度培地交換した。Day20前後で実験に供した。
【0072】
<結果>
図9に示すように、ヒト細胞を用いても同様にアルブミン陽性の肝細胞を誘導できることが分かった。
【配列表】