(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】食品乳化用みそ風味調味料とその製造方法および水中油型乳化食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/24 20160101AFI20240312BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20240312BHJP
【FI】
A23L27/24
A23L27/00 D
(21)【出願番号】P 2023002398
(22)【出願日】2023-01-11
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】592102940
【氏名又は名称】新潟県
(73)【特許権者】
【識別番号】596044181
【氏名又は名称】山崎醸造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 和也
(72)【発明者】
【氏名】奥原 宏明
(72)【発明者】
【氏名】田中 美優
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-143009(JP,A)
【文献】特開2020-099252(JP,A)
【文献】特開2018-158289(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0248030(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
日経テレコン
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸米と、米麹と、食塩と、酵母と、水とを混合し、発酵させ、ペースト状に加工することによって得られた食品乳化用みそ風味調味料。
【請求項2】
仕上げとして目開き1,180μm以下のこし器で裏ごしして得られた請求項1に記載の食品乳化用みそ風味調味料。
【請求項3】
仕上げとして目開き600μm以下のこし器で裏ごしして得られた請求項1に記載の食品乳化用みそ風味調味料。
【請求項4】
蒸米と、米麹と、食塩と、酵母と、水とを混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を発酵させる発酵工程と、この発酵工程において得られた発酵物をペースト状に加工する加工工程とを備えた食品乳化用みそ風味調味料の製造方法。
【請求項5】
前記加工工程の後に、目開き1,180μm以下のこし器で裏ごしする裏ごし工程をさらに備えた請求項4に記載の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法。
【請求項6】
前記加工工程の後に、目開き600μm以下のこし器で裏ごしする裏ごし工程をさらに備えた請求項4に記載の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法により得られた食品乳化用みそ風味調味料と食酢とを含む組成物に植物油を加えながら混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を乳化する乳化工程とを備えた水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法により得られた食品乳化用みそ風味調味料と食酢とを含む組成物に植物油を加えながら混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を乳化する乳化工程とを備え、前記混合工程において、植物油の割合を62.5%以下とする水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法により得られた食品乳化用みそ風味調味料と食酢とを含む組成物に植物油を加えながら混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を乳化する乳化工程とを備え、前記混合工程において、植物油の割合を70.0%以下とする水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の水中油型乳化食品の製造方法により得られた粘度が30Pa・sを超える水中油型乳化食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化食品の製造に用いられる食品乳化用みそ風味調味料とその製造方法および水中油型乳化食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品アレルギーの予防およびプラントベース食品のニーズが高まってきており、それに伴い、すべての原料を植物由来とする食品のニーズも高まってきている。それは、乳化油脂食品の分野においても例外ではない。
【0003】
ところで、乳化油脂食品の製造においては、乳化処理後の乳化安定性が重要である。代表的な乳化油脂食品であるマヨネーズにおいては、卵黄に含まれるレシチンが乳化処理後の安定性に大きく寄与している。しかし、卵黄は動物性の原料である。
【0004】
そこで、卵黄に代えて大豆由来の食品を利用して、マヨネーズ様調味料を製造する試みがなされている。例えば、非特許文献1では、豆乳素材からマヨネーズ様調味料を製造することが提案されており、非特許文献2では、みその乳化作用が報告されている。しかし、大豆由来の食品を利用する場合には、当然ながら、大豆アレルゲンの混入が排除できないという問題があった。
【0005】
このような背景から、さらに、米だけを原料としたマヨネーズ様調味料を製造する試みもなされている。例えば、特許文献1では、マヨネーズ様食品の製造において、乳酸菌が含まれる鮒寿司に由来する発酵物を乳化剤として用いることが提案されている。しかし、鮒寿司という微生物が複数存在している食品を原料として用いるため、製造上、品質を一定に保つことが難しいという問題があった。また、特許文献1に記載の方法では、2度の混合・発酵工程と加熱工程を経なければならないなど、多段階の工程が必要であり、製造コストが多くかかるという問題もあった。さらに、特許文献1に記載の方法により得られたマヨネーズ様食品に含まれる油は27~47重量%であって、日本農林規格(JAS)で定められたマヨネーズの植物油脂65%以上と比較して低いため、マヨネーズと比べて食味が劣るという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】伊藤健介、他3名、「コロイドの分散状態を制御して生まれた豆乳クリーム」、日本調理科学会誌、第47巻、p.278-279(2014)
【文献】食品の物性 第14集、p.27-48(食品資材研究会、1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、動物性原料および大豆アレルゲン含有原料を含まず、容易に製造することができる食品乳化用の素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、蒸米、米麹、食塩、酵母、水を混合し、長期間発酵、熟成して得られるみそ風味調味料が優れた乳化力を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明の食品乳化用みそ風味調味料は、蒸米と、米麹と、食塩と、酵母と、水とを混合し、発酵させ、ペースト状に加工することによって得られたものである。
【0011】
また、本発明の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法は、蒸米と、米麹と、食塩と、酵母と、水とを混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を発酵させる発酵工程と、この発酵工程において得られた発酵物をペースト状に加工する加工工程とを備えたものである。
【0012】
さらに、本発明の水中油型乳化食品の製造方法は、本発明の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法により得られた食品乳化用みそ風味調味料と食酢とを含む組成物に植物油を加えながら混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を乳化する乳化工程とを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、動物性原料および大豆アレルゲン含有原料を含まず、容易に製造することができる食品乳化用の素材を提供することができる。また、本発明による素材を使用して得られたマヨネーズ様の水中油型乳化食品は、プラントベース食品の味付け用途はもとより、大豆に対するアレルギー症状をもつ人が安心して喫食することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法の一実施例を示す工程図である。
【
図2】本発明の食品乳化用みそ風味調味料を用いた水中油型乳化食品の製造方法の一実施例を示す工程図である。
【
図3】本発明の食品乳化用みそ風味調味料の乳化力を示すエマルションの拡大写真である。
【
図4】本発明の水中油型乳化食品の植物油含有量の影響を示す写真である。
【
図5】本発明の水中油型乳化食品の裏ごし処理による乳化力の変化を示す写真である。
【
図6】本発明の水中油型乳化食品の植物油含有量の影響を示す写真である。
【
図7】本発明の水中油型乳化食品の原料の適応性を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の食品乳化用みそ風味調味料の製造工程の一実施例を示す
図1を参照すると、はじめに、
図1の1段目に示すように、原料米として玄米を使用し、玄米を洗浄後、一晩水に浸漬する。浸漬後の玄米を水切りし、蒸気で蒸した後に冷却し、糊化した蒸米を得る。
【0016】
つぎに、
図1の2段目に示すように、麹の原料として米(白米)を使用し、米を洗浄後、一晩水に浸漬する。浸漬後の水を蒸気で蒸した後に冷却し、種麹を加えて製麹し、米麹を得る。
【0017】
そして、
図1の3段目に示すように、
図1の1段目に示す工程で得られた蒸米と、
図1の2段目に示す工程で得られた米麹と、
図1の4段目に示す別に用意した食塩と、耐塩性の酵母と、水とをタンクの中で混合して仕込みを行う。ここで、原料の混合比は、蒸米の原料の玄米1重量部に対して米麹の原料の米0.5~2重量部とするのが好ましい。また、種麹、食塩、酵母、水の量は、適宜決定すればよい。例えば、最終的に得られる食品乳化用みそ風味調味料の塩分が5~15%となるように食塩を加えてもよい。
【0018】
仕込みを行った後、1ヶ月以上熟成・発酵させた後、タンクから掘り出し、撹拌して均一になるように調整する。その後、マスコロイダー処理によりつぶして、ペースト状に加工することで、食品乳化用みそ風味調味料が得られる。なお、ペースト状とは、流動性と高い粘性を有した状態のことをいう。
【0019】
以上のように、本発明の食品乳化用みそ風味調味料は、蒸米と、米麹と、食塩と、酵母と、水とを混合し、発酵させ、ペースト状に加工することによって得られたものである。
【0020】
また、本発明の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法は、蒸米と、米麹と、食塩と、酵母と、水とを混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を発酵させる発酵工程と、この発酵工程において得られた発酵物をペースト状に加工する加工工程とを備えたものである。
【0021】
本発明によれば、動物性原料および大豆アレルゲン含有原料を含まず、容易に製造することができる食品乳化用の素材を提供することができる。
【0022】
さらに、本発明の食品乳化用みそ風味調味料を用いた水中油型乳化食品の製造方法の一実施例を示す
図2を参照すると、はじめに、上記で製造した本発明の食品乳化用みそ風味調味料と、食用酢と、水とを混合して懸濁した水相組成物を得る。つぎに、この水相組成物に植物油を加えながら混合し、その後、高速撹拌による乳化処理を施すことで、可塑性のある水中油型乳化食品を得ることができる。
【0023】
なお、食酢と混合する前に、食品乳化用みそ風味調味料を目皿などのこし器により裏ごしするなどして粒径の大きな組成物を除去することで、乳化処理時の乳化力を向上させることができる。
【0024】
特に、以下の実施例に示すように、仕上げとして目開き1,180μm以下のこし器で裏ごしした食品乳化用みそ風味調味料を使用することによって、植物油の含有量を62.5%まで増加させることができ、さらに、仕上げとして目開き600μm以下のこし器で裏ごしした食品乳化用みそ風味調味料を使用することによって、植物油の含有量を70.0%まで増加させることができ、その結果、粘度が30Pa・sを超える水中油型乳化食品を製造することができる。
【0025】
以上のように、本発明の水中油型乳化食品の製造方法は、本発明の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法により得られた食品乳化用みそ風味調味料と食酢とを含む組成物に植物油を加えながら混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を乳化する乳化工程とを備えたものである。
【0026】
本発明により得られた水中油型乳化食品は、プラントベース食品の味付け用途はもとより、大豆に対するアレルギー症状をもつ人が安心して喫食することができる。
【0027】
以下、具体的な実施例に基いて、本発明について説明する。
【実施例1】
【0028】
[食品乳化用みそ風味調味料の製造]
蒸米には玄米を使用し、玄米を洗浄後、一晩水に漬けた。浸漬後の玄米を水切りし、蒸気で60分蒸した後に品温を35度まで冷却した。麹原料には白米を使用し、玄米1重量部に対して1.5重量部の米を洗浄後一晩浸漬し、蒸気で60分蒸した後に品温を30度まで冷却し、種麹を加えて米麹をつくった。冷却後の蒸米、米麹、食塩、酵母および水を混合し、1ヶ月以上熟成・発酵させた後、タンクから掘り出し、撹拌して均一になるように調整した。その後、マスコロイダーでペースト状に調整することで、食品乳化用みそ風味調味料が得られた。
【実施例2】
【0029】
[食品乳化用みそ風味調味料の乳化力]
米を原料とした乳化素材として、甘酒、塩麹および実施例1のみそ風味調味料を用いた。なお、甘酒はみそ用米麹を2倍量の熱水(60℃)で懸濁して60℃下で糖化させて調製した。これらの乳化素材20gを水20gで懸濁し、米油60gを加えながら混合した後、NS-30U型シャフトを取り付けたヒスコトロンでホモジナイズすることで乳化させたところ、水中油型乳化物が得られることを確認した。
【0030】
得られた水中油型乳化物の性状を表1に示した。供試した乳化素材のうち、該調味料が最も粘度が高かった。なお、本明細書での「粘度」とは、試作した水中油型乳化食品を50mL容プラスチック製遠沈管に45mL充填し、25℃の水浴で1時間以上放置した後、ミクロスパーテルで10回撹拌してB型粘度計(ローターNo.4)で計測した粘度(単位:Pa・s)を指す。
【0031】
【0032】
また、得られた水中油型乳化物のエマルションの拡大写真を
図3に示した。供試した乳化素材のうち、該調味料のエマルション粒径が最も小さかった。
【0033】
上記のことから、米を原料とした乳化素材の中で該調味料は優れた乳化力を有することを見出した。
【実施例3】
【0034】
[食品乳化用みそ風味調味料の使用事例]
実施例1の調味料を用い、表2に示した配合で酸性水中油型乳化食品を製造した。すなわち、該調味料に食用酢及び水を加えて水相組成物を調製し、この水相組成物に米油を加えながら混合した後、NS-30U型シャフトを取り付けたヒスコトロンでホモジナイズすることで乳化させ、酸性水中油型乳化食品を得た。
【0035】
【0036】
図4に示したとおり、油相の割合が62.5%までは可塑性のある乳化食品が得られたが、65%に達すると可塑性を失い、油相の分離が起きた。
【0037】
表2に示したとおり、油相の割合は62.5%を上限に高くなると粘度が増加した。
【実施例4】
【0038】
[食品乳化用みそ風味調味料の調製事例]
実施例1の調味料を目開きの異なる目皿により裏ごしした後、調味料(食塩濃度12.2%)20%、米酢(ミツカン製)(酸度4.5%)10%、水2.5%および米油67.5%を混合し、NS-30U型シャフトを取り付けたヒスコトロンでホモジナイズすることで酸性水中油型乳化食品を調製した。
【0039】
図5に示したとおり、目開き1,180μm以下の目皿で裏ごししたときには可塑性のある乳化食品を調製できたものの、これよりも目開きが大きくなると可塑性を失った。
【実施例5】
【0040】
[食品乳化用みそ風味調味料の使用事例]
実施例1の調味料を目開き600μmの目皿により調製したものを用い、表3に示した配合で酸性水中油型乳化食品を製造した。すなわち、該調味料に食用酢及び水を加えて水相組成物を調製し、この水相組成物に米油を加えながら混合した後、NS-30U型シャフトを取り付けたヒスコトロンでホモジナイズすることで乳化させ、酸性水中油型乳化食品を得た。
【0041】
【0042】
図6に示したとおり、油相が70.0%までは可塑性のある乳化食品が得られたが、油相の割合が72.5%に達すると乳化中に粘度が急激に低下し、液状になった。
【0043】
表3に示したとおり、油相の割合が65.0~70.0%の酸性水中油型乳化食品は粘度30Pa・sを超え、日本農林規格の半固体状ドレッシングの規格を満たすことを確認した。
【実施例6】
【0044】
[各種植物油および食用酢の使用事例]
実施例1の調味料を目開き600μmの目皿により調製したものを用い、表4に示した配合で酸性水中油型乳化食品を製造した。すなわち、該調味料に食用酢及び水を加えて水相組成物を調製し、この水相組成物に植物油を加えながら混合した後、NS-30U型シャフトを取り付けたヒスコトロンでホモジナイズすることで乳化させ、酸性水中油型乳化食品を得た。
【0045】
【0046】
図7に示したとおり、いずれの原料を使用した場合であっても可塑性の乳化食品が得られた。
【0047】
表4に示したとおり、いずれの試作品も粘度30Pa・sを超え、日本農林規格の半固体状ドレッシングの規格を満たすことを確認した。
【要約】
【課題】動物性原料および大豆アレルゲン含有原料を含まず、容易に製造することができる食品乳化用の素材を提供する。
【解決手段】本発明の食品乳化用みそ風味調味料は、蒸米と、米麹と、食塩と、酵母と、水とを混合し、発酵させ、ペースト状に加工することによって得られた。本発明の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法は、蒸米と、米麹と、食塩と、酵母と、水とを混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を発酵させる発酵工程と、この発酵工程において得られた発酵物をペースト状に加工する加工工程とを備えた。本発明の水中油型乳化食品の製造方法は、本発明の食品乳化用みそ風味調味料の製造方法により得られた食品乳化用みそ風味調味料と食酢とを含む組成物に植物油を加えながら混合する混合工程と、この混合工程において得られた混合物を乳化する乳化工程とを備えた。
【選択図】
図1