(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ZnO薄膜の製造方法、透明電極の製造方法、ZnO薄膜、および透明電極
(51)【国際特許分類】
H01L 21/363 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
H01L21/363
(21)【出願番号】P 2019228641
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-12-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・集 会 名:日本金属学会 2019年秋期(第165回)講演大会 開 催 日:2019年(令和1年)9月11日~9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(73)【特許権者】
【識別番号】597124316
【氏名又は名称】学校法人東北工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】下位 法弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊一郎
【審査官】山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-057605(JP,A)
【文献】特開2013-191520(JP,A)
【文献】特開2007-055850(JP,A)
【文献】特表2016-505476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面にZnO粒子を層状に配置し、前記ZnO粒子に対して、電子分光法によるピークの半値幅が300meV以下の電子線を照射することにより、ZnO薄膜を形成することを特徴とするZnO薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記電子線は、電子分光法によるピークの半値幅が100meV以下であることを特徴とする請求項1記載のZnO薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記電子線は、電界電子放出(Field Emission)により放出された電子から成ることを特徴とする請求項1または2記載のZnO薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記電子線を95kV~115kVで加速して、前記ZnO粒子に照射することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のZnO薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のZnO薄膜の製造方法を利用した透明電極の製造方法であって、
光透過性の樹脂から成る前記基材の表面に、電極材として前記ZnO薄膜を形成することを
特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項6】
前記基材はフレキシブルであることを特徴とする請求項5記載の透明電極の製造方法。
【請求項7】
基材の表面に形成されたZnO薄膜であって、
ZnO粒子が繋がった概ね楕円体状の凝集粒子を有し、前記凝集粒子中のZnO結晶のc軸の方向が、所定の軸に対して30°以下の範囲内に揃って
おり、
ホール移動度(Hall mobility)が150cm
2
/Vs以上であることを
特徴とするZnO薄膜。
【請求項8】
前記凝集粒子は、概ね長軸を中心軸とした回転楕円体状を成し、前記c軸の方向が前記長軸に対して30°以下の範囲内に揃っていることを特徴とする請求項
7記載のZnO薄膜。
【請求項9】
電極材としての請求項
7または8に記載のZnO薄膜と、
光透過性の樹脂から成る前記基材とを、
有することを特徴とする透明電極。
【請求項10】
前記基材はフレキシブルであることを特徴とする請求項
9記載の透明電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO薄膜の製造方法、透明電極の製造方法、ZnO薄膜、および透明電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モノのインターネット(IoT)に関するアプリケーションにより、私たちの身の周りで、電子デバイスを使用する機会が増えている。また、これに伴い、さまざまなデバイスで情報を共有するネットワークが、確立されてきている。このような状況で、データの継続的な保存と共有とを可能にするウェアラブル端末の開発が進められており、かつてない機能を備えたウェアラブル電子端末の実現が期待されている。例えば、フレキシブルな形状で、軽量、大面積、かつ、光透過性のウェアラブル端末が求められている。
【0003】
このようなフレキシブルなウェアラブル端末の中核となる半導体材料として、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化亜鉛(ZnO)などの導電性の酸化物薄膜が期待されており、例えば、ZnO薄膜を製造する方法として、従来、化学気相成長(CVD)、原子層堆積(ALD)、スパッタリングなどの方法が用いられている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【0004】
なお、高結晶質の単層カーボンナノチューブ(hc-SWCNTs;highly crystalline single-walled carbon nanotubes)を使用して、電界電子放出により、カソードから均一に平面状の電子線を放出する方法が、本発明者等により開発されている(例えば、非特許文献1または2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-244011号公報
【文献】特開2007-137757号公報
【文献】特開2010-109192号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】N. Shimoi, L. E. Adriana, Y. Tanaka, and K. Tohji, “Properties of a field emission lighting plane employing highly crystalline single-walled carbon nanotubes fabricated by simple processes”, Carbon, 2013, 65, p.228-235
【文献】N. Shimoi, Y. Sato, and K. Tohji, “Highly crystalline single-walled carbon nanotube field emitters: Energy-loss-free high current output and long durability with high power”, ACS Appl. Electron. Mater., 2019, 1, p.163-171
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ZnO薄膜をウェアラブル端末の材料として使用するためには、フレキシブルな基材上にZnO薄膜を形成し、柔軟性を維持しながら大量のデータを処理できる機能が要求される。しかしながら、特許文献1乃至3に記載の方法で製造されたZnO薄膜は、基材の柔軟性に対応することができず、基材が曲がったときに導電性が損なわれてしまうという問題があった。そこで、基材の柔軟性に対応するためには、基材が曲がっても導電性が損なわれない安定した構造および導電性を有するZnO薄膜を模索する必要がある。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、優れた導電性と、これまでにない安定した構造とを有するZnO薄膜の製造方法、透明電極の製造方法、ZnO薄膜、および透明電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るZnO薄膜の製造方法は、基材の表面にZnO粒子を層状に配置し、前記ZnO粒子に対して、電子分光法によるピークの半値幅が300meV以下の電子線を照射することにより、ZnO薄膜を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るZnO薄膜は、基材の表面に形成されたZnO薄膜であって、ZnO粒子が繋がった概ね楕円体状の凝集粒子を有し、前記凝集粒子中のZnO結晶のc軸の方向が、所定の軸に対して30°以下の範囲内に揃っており、ホール移動度(Hall mobility)が150cm
2
/Vs以上であることを特徴とする。本発明に係るZnO薄膜は、凝集粒子中のZnO結晶のc軸の方向が、所定の軸に対して10°以下の範囲内に揃っていることが好ましい。
【0011】
本発明に係るZnO薄膜の製造方法によれば、優れた導電性と、従来の製造方法では得られない、これまでにない安定した構造とを有する、本発明に係るZnO薄膜を好適に製造することができる。これにより、フレキシブルな基材を用いたときでも、基材の柔軟性に対応して優れた導電性を維持することができる材料の開発に寄与することができる。
【0012】
本発明に係るZnO薄膜の製造方法およびZnO薄膜で、基材は、いかなるものから成っていてもよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の、光透過性の樹脂から成っていてもよい。また、基材は、使用状態に応じて、いかなる形状であってもよく、例えば、ウェアラブル端末で使用する場合には、フレキシブルな薄い板状やフィルム状であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るZnO薄膜の製造方法で、前記電子線は、電子分光法によるピークの半値幅が200meV以下であることが好ましく、100meV以下であることがさらに好ましい。この場合、より優れた導電性と、安定した構造とを有するZnO薄膜を製造することができる。
【0014】
本発明に係るZnO薄膜の製造方法で、前記電子線は、いかなる方法により放出された電子から成っていてもよいが、電界電子放出(Field Emission)により放出された電子から成り、特に平面内を均一に電界付加することで得られる電子から成ることが好ましい。電界電子放出を利用することにより、電子線のエネルギー分解能を高めることができ、より優れた導電性と、安定した構造とを有するZnO薄膜を製造することができる。
【0015】
本発明に係るZnO薄膜の製造方法は、前記電子線を95kV~115kVで加速して、前記ZnO粒子に照射することが好ましい。また、電子線を、数10 nA/cm2の電流密度で照射することが好ましい。これらの場合、凝集粒子中のZnO結晶のc軸の方向を、より狭い範囲に揃えることができ、さらに優れた導電性と、安定した構造とを有するZnO薄膜を製造することができる。
【0016】
本発明に係るZnO薄膜の製造方法によれば、照射する電子線の条件により、例えば、前記凝集粒子が、概ね長軸を中心軸とした回転楕円体状を成し、前記c軸の方向が前記長軸に対して30°以下の範囲内に揃っているZnO薄膜を製造することができる。また、ホール移動度(Hall mobility)が150cm2/Vs以上のZnO薄膜を製造することができる。
【0017】
本発明に係る透明電極の製造方法は、本発明に係るZnO薄膜の製造方法を利用した透明電極の製造方法であって、光透過性の樹脂から成る前記基材の表面に、電極材として前記ZnO薄膜を形成することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る透明電極の製造方法によれば、電極材として、優れた導電性と、安定した構造とを有する本発明に係るZnO薄膜と、光透過性の樹脂から成る前記基材とを有する、本発明に係る透明電極を好適に製造することができる。本発明に係る透明電極の製造方法および透明電極で、前記基材はフレキシブルであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた導電性と、これまでにない安定した構造とを有するZnO薄膜の製造方法、透明電極の製造方法、ZnO薄膜、および透明電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態のZnO薄膜の製造方法に関し、基材の表面にZnO薄膜を形成する実験の、電界電子放出により放出される電子線を照射してZnO薄膜を形成するためのZnO薄膜の製造装置を示す正面図である。
【
図2】
図1に示す実験装置の、カソードとゲート電極との間にかけた電圧(Applied voltage on Gate)と、基材での電流密度(Current density on Anode)との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態のZnO薄膜の製造方法に関し、基材の表面にZnO薄膜を形成する実験の、(a)電子線照射前のZnO粒子の、走査型透過電子顕微鏡(SEM)による二次電子像、(b) (a)の一部を拡大した透過電子顕微鏡(TEM)による明視野像、(c)タングステンワイヤからの熱電子(hot electron)による電子線を照射後のZnO粒子のSTEMによる高角環状暗視野(HAADF)像、(d)電界電子放出型電子線(Field emission electron)を照射後のZnO粒子のSTEMによるHAADF像、(e) (c)のZnO粒子のTEMによる明視野像および回折パターン(挿入図)、(f) (d)のZnO粒子のTEMによる明視野像および回折パターン(挿入図)である。
【
図4】本発明の実施の形態のZnO薄膜の製造方法に関し、基材の表面にZnO薄膜を形成する実験の、タングステンワイヤからの熱電子(hot electron)および電界電子放出の電子(FE electron)による電子線を照射後のZnO粒子、ならびに、電子線照射前のZnO粒子(As-grown)の、X線回折スペクトルである。
【
図5】本発明の実施の形態のZnO薄膜の製造方法に関し、基材の表面にZnO薄膜を形成する実験の、電界電子放出型電子線を照射後の凝集粒子の、電子エネルギー損失分光スペクトル(EELS)、および、各スペクトルの測定位置を示すSTEMによるTEM像(挿入図)である。
【
図6】本発明の実施の形態のZnO薄膜の製造方法に関し、基材の表面にZnO薄膜を形成する実験の、(a)形成されたZnO薄膜中の凝集粒子(Synthesized ZnO particle)の長軸と各ZnO結晶(ZnO grain)のc軸との関係を示す説明図、(b)タングステンワイヤからの熱電子(Hot electrons)、ショットキー(Schottky)接合型電子源からの電子、および電界電子放出(Field emission)の電子による電子線を照射後の凝集粒子の、加速エネルギー(Electron energy)に対する(a)に示すθ(Angle from normalized axis)の分布範囲を示すグラフ、(c) (b)に示す各電子線の加速電圧110 kV時のエネルギー分解能を示すスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態のZnO薄膜の製造方法は、基材の表面にZnO粒子を層状に配置し、ZnO粒子に対して、電子分光法によるピークの半値幅が300meV以下の電子線を照射することにより、ZnO薄膜を形成する。
【0022】
基材は、いかなるものから成っていてもよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の、光透過性の樹脂から成っていてもよい。光透過性の樹脂から成る基材を用いることにより、電極材として、優れた導電性と安定した構造とを有するZnO薄膜を有する透明電極を製造することができる。また、基材は、使用状態に応じて、いかなる形状であってもよく、例えば、ウェアラブル端末で使用する場合には、フレキシブルな薄い板状やフィルム状であることが好ましい。
【0023】
本発明に係るZnO薄膜の製造方法によれば、基材の表面に、ZnO粒子が繋がった概ね楕円体状の凝集粒子を有し、凝集粒子中のZnO結晶のc軸の方向が、所定の軸に対して30°以下、好ましくは10°以下の範囲内に揃った、本発明の実施の形態のZnO薄膜を製造することができる。また、本発明に係るZnO薄膜の製造方法によれば、加熱処理を行うことなく、本発明の実施の形態のZnO薄膜を製造することができる。製造されたZnO薄膜は、優れた導電性と、従来の製造方法では得られない、これまでにない安定した構造とを有している。このように、本発明に係るZnO薄膜の製造方法によれば、フレキシブルな基材を用いたときでも、基材の柔軟性に対応して優れた導電性を維持することができる材料の開発に寄与することができる。
【0024】
本発明の実施の形態のZnO薄膜の製造方法で、電子線は、より優れた導電性と、安定した構造とを有するZnO薄膜を製造するために、電子分光法によるピークの半値幅が200meV以下であることが好ましく、100meV以下であることがさらに好ましい。また、電子線は、いかなる方法により放出された電子から成っていてもよいが、電子線のエネルギー分解能を高めるために、電界電子放出(Field Emission)により放出された電子から成ることが特に好ましい。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施の形態のZnO薄膜の製造方法に関し、基材の表面にZnO薄膜を形成する実験を行った。実験では、ZnO粒子に対して照射する電子線として、タングステンワイヤから放出される熱電子線、ショットキー(Schottky)接合型電子源から放出される電子線、電界電子放出型電子線を使用した。また、原料のZnO粒子は、硝酸亜鉛と炭酸アンモニウムとエタノールと純水とを用いて合成した。基材は、光透過性樹脂のポリエチレンテレフタレート(PET)とした。
【0026】
電界電子放出型電子線を使用したときのZnO薄膜の製造装置10を、
図1に示す。
図1に示す実験では、非特許文献1および2に示す方法を用いて、電界電子放出により均一な平面状の電子線を放出するために、電子源として、高結晶質の単層カーボンナノチューブ(hc-SWCNTs)11を使用した。すなわち、
図1に示すように、電界電子放出による実験では、基材12をアノード(Anode)とし、その基材12とカソード(Cathode)13とを対向して配置した。基材12のカソード13の側の表面には、ZnOナノ粒子14を層状に配置し、カソード13の基材12の側の表面には、hc-SWCNTs11が埋め込まれたITO膜15を形成した。
【0027】
また、基材12とカソード13との間に、電子線のオンオフを制御するゲート電極16と、電子線を加速するための加速電極17とを配置した。加速電極17は、0kV~140kVの範囲の印加電圧で、電子線を加速可能になっている。カソード13とゲート電極16との間にかけた電圧(Applied voltage on Gate)と、基材12での電流密度(Current density on Anode)との関係を、
図2に示す。なお、電子源としてタングステンワイヤやショットキー接合型電子源を使用した実験では、カソードとして、それらの電子源を配置している。また、各実験では、真空中で電子線を照射した。
【0028】
電子線照射前のZnO粒子の、走査型透過電子顕微鏡(SEM)による二次電子像および透過電子顕微鏡(TEM)による明視野像を、それぞれ
図3(a)および(b)に示す。また、タングステンワイヤからの熱電子(hot electron)および電界電子放出の電子(FE electron)を利用したときの、電子線照射後のZnO薄膜中のZnO粒子の高角環状暗視野(HAADF)像を、それぞれ
図3(c)および(d)に、それらのZnO粒子の透過電子顕微鏡(TEM)による明視野像ならびに回折パターンを、それぞれ
図3(e)および(f)に示す。このときの各電子線の電流密度は、約10 nA/cm
2(10
16 electrons/cm
2s)であり、加速エネルギーは、110 keVである。
【0029】
図3(c)および(d)に示すように、電子線の照射により、接合剤や粘着性の物質がなくとも、複数のZnO粒子が凝集して繋がった凝集粒子が形成されていることが確認された。また、
図3(c)に示すように、熱電子によるものは、各凝集粒子が不規則な形状を成しているのに対して、
図3(d)に示すように、電界電子放出の電子によるものは、各凝集粒子が、概ね長軸が回転軸である回転楕円体形状を成していることが確認された。また、
図3(e)に示すように、熱電子によるものは、各凝集粒子中のZnO結晶のc軸の方向(図中の矢印の方向)が不規則であるのに対し、
図3(f)に示すように、電界電子放出の電子によるものは、各凝集粒子中のZnO結晶のc軸の方向(図中の矢印の方向)が、長軸の方向に揃っていることが確認された。また、
図3(e)および(f)の回折パターンに示すように、電界電子放出電子によるもの方が、熱電子によるものよりも、結晶化度が高いことが確認された。
【0030】
タングステンワイヤからの熱電子(hot electron)および電界電子放出の電子(FE electron)による電子線を照射後のZnO粒子に対して、X線回折装置(株式会社リガク製)を用いてX線回折を行った結果を、
図4に示す。このときの電子線の加速エネルギーは、110 keVである。なお、
図4には、参考のため、電子線照射前のZnO粒子(As-grown)の結果も示す。
図4に示すように、電界電子放出型電子を照射したZnO粒子の方が、熱電子を照射したものと比べて、X線スペクトルの各ピークの半値幅が小さく、各ピークの強度が大きいことが確認された。このことからも、電界電子放出型電子によるもの方が、熱電子によるものよりも、結晶化度が高いといえる。
【0031】
電界電子放出型電子による電子線を照射後の楕円体状の凝集粒子に対して、電子エネルギー損失分光(EELS)装置(Gatan社製)を用いて分析を行った結果を、
図5に示す。このときのZnO薄膜形成時の電子線の加速エネルギーは、110 keVである。
図5中の「1」~「3」のスペクトルは、TEMによる明視野像(挿入図)中の各位置に示すように、それぞれ凝集粒子の中心部、凝集粒子の短軸の端部、および凝集粒子の長軸の端部でのスペクトルである。
図5に示すように、凝集粒子の各位置で、スペクトルが異なっていることから、互いに異なる組成および異なる電気的結合状態を有していると考えられる。
【0032】
タングステンワイヤからの熱電子(Hot electrons)、ショットキー(Schottky)接合型電子源からの電子、および電界電子放出(Field emission)の電子による電子線を照射後の凝集粒子について、HAADF像から各ZnO結晶のc軸の方向を読み取り、凝集粒子の長軸方向から時計回り方向に測定した角度θを求めた。凝集粒子(Synthesized ZnO particle)の長軸と各ZnO結晶(ZnO grain)のc軸との関係を、
図6(a)に示す。また、各電子線について加速エネルギー(Electron energy)を変化させて、各電子線を照射後の凝集粒子に対して求めたθ(Angle from normalized axis)の分布範囲を、
図6(b)に示す。また、電子分光法により測定した各電子線のエネルギー分解能を、
図6(c)に示す。
【0033】
図6(b)に示すように、凝集粒子中の各ZnO結晶のc軸の分布範囲は、各電子線を95 keV~115 keVの加速エネルギーで照射したときに狭くなることが確認された。特に、電界電子放出型電子線を、95 keV~115 keVの加速エネルギーで照射したものは、θが10°以下で、各ZnO結晶のc軸の分布範囲が最も狭くなっており、c軸の方向が凝集粒子の超軸方向に揃っていることが確認された。
図6(c)に示すように、電界電子放出型電子線は、エネルギー分解能解析によるピークの半値幅が70 meVであり、最もエネルギー分解能が高いことから、エネルギー分解能が高い方が、各ZnO粒子のc軸が長軸方向に揃いやすいといえる。なお、タングステンワイヤからの熱電子による電子線は、エネルギー分解能解析によるピークの半値幅が5 eVであり、ショットキー(Schottky)接合型電子源からの電子線は、エネルギー分解能解析によるピークの半値幅が0.6 eVであった。
【0034】
電界電子放出型電子線を、110 keVの加速エネルギーで照射して形成されたZnO薄膜に対して、キャリア密度、ホール移動度(Hall mobility)、抵抗値、および、550 nmの波長の光の透過度を測定した。その結果、キャリア密度は 1.8×1018 cm-3、ホール移動度は 158.6 cm2/Vs、抵抗値は 8.6×10-4 Ωcm、光の透過度は 78%であった。
【符号の説明】
【0035】
10 ZnO薄膜の製造装置
11 高結晶質の単層カーボンナノチューブ(hc-SWCNTs)
12 基材
13 カソード
14 ZnOナノ粒子
15 ITO膜
16 ゲート電極
17 加速電極