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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】菌数計測方法及び菌数計測システム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240312BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020071027
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021166489
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川邉 駿佑
(72)【発明者】
【氏名】内保 裕一
(72)【発明者】
【氏名】野田 英之
(72)【発明者】
【氏名】仁井見 英樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 篤
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-086279(JP,A)
【文献】特開2019-088339(JP,A)
【文献】A Rapid ATP Bioluminescence-based Test for Detecting Levofloxacin Resistance Starting from Positive Blood Culture Bottles.,Scientific reports,2019年10月02日,Vol. 9, No. 1,pp. 13565,doi:10.1038/s41598-019-49358-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌に関する既知の増殖曲線が予め格納されている記憶部の情報に基づいて解析する解析部を有し、
前記解析部は、
菌数計測の対象となる細菌である計測対象細菌が含まれている菌液を含む第1の培地を複数有するとともに、前記菌液及び抗菌薬を含む、前記第1の培地とは異なる第2の培地を有し、前記第1の培地及び前記第2の培地における培養が開始されている培養部に対し、前記第1の培地における菌数を計測する第1の計測を行い、
当該第1の計測の結果を、前記記憶部に格納されている前記増殖曲線と照合することにより、前記計測対象細菌の最小発育阻止濃度を判定するため、前記第2の培地における菌数の計測である第2の計測のタイミングを決定し、
決定した前記タイミングに従って前記第2の計測を行う
ことを特徴とする菌数計測方法。
【請求項2】
前記解析部は、
当該第1の計測の結果と、データベースに格納されている増殖曲線との照合の結果、前記計測対象細菌が対数増殖期に移行していれば、前記第2の計測を行う
ことを特徴とする請求項1に菌数計測方法。
【請求項3】
前記解析部は、
当該第1の計測の結果を、前記記憶部に格納されている、複数の細菌に関する前記増殖曲線と照合することにより、前記計測対象細菌の増殖曲線として特定された前記増殖曲線を基に、前記第2の計測を行う第2の計測時刻を算出し、
算出した前記第2の計測時刻までに待機した後、前記第2の計測を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の菌数計測方法。
【請求項4】
前記解析部は、
当該第1の計測の結果を、前記記憶部に格納されている、複数の前記細菌に関する前記増殖曲線と照合することにより、当該増殖曲線が、前記計測対象細菌の増殖曲線であると確定するために、追加して行われる前記第1の計測の回数を算出し、
前記第1の計測を算出された回数、追加して行った後、再度、前記記憶部に格納されている増殖曲線と照合することにより、前記計測対象細菌の増殖曲線が特定されると、特定された前記増殖曲線を基に、前記第2の計測を行う第2の計測時刻を算出し、
算出した前記第2の計測時刻までに待機した後、前記第2の計測を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の菌数計測方法。
【請求項5】
前記解析部は、
前記第2の計測の結果を基に、前記計測対象細菌の最小発育阻止濃度を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の菌数計測方法。
【請求項6】
前記第1の計測、及び、前記第2の計測のうち、少なくとも一方は、ATP化学発光を含む化学発光を利用した計測、または、前記計測対象細菌の遺伝子、あるいは、タンパク質の蛍光発光を利用した計測である
ことを特徴とする請求項1に記載の菌数計測方法。
【請求項7】
前記第1の計測、及び、前記第2の計測のうち、少なくとも一方は、濁度測定、及び、顕微鏡観察による菌数の計測を含む非破壊検査を利用した計測である
ことを特徴とする請求項1に記載の菌数計測方法。
【請求項8】
前記第1の計測の結果と、前記増殖曲線との照合は、
決定木分析、回帰分析、クラスタリング分析、ニューラルネットワークを含む機械学習のうち、いずれかが使用される
ことを特徴とした請求項1に記載の菌数計測方法。
【請求項9】
前記解析部は、
前記タイミングが決定するまで、複数回、前記第1の計測を行い、
前記タイミングが決定すると、前記第1の計測を停止する
ことを特徴とする請求項1に記載の菌数計測方法。
【請求項10】
前記第1の計測と、前記第2の計測とでは、同じ計測方法が用いられる
ことを特徴とする請求項1に記載の菌数計測方法。
【請求項11】
前記第1の計測と、前記第2の計測とでは、異なる計測方法が用いられる
ことを特徴とする請求項1に記載の菌数計測方法。
【請求項12】
菌数計測の対象となる細菌である計測対象細菌が含まれている菌液を含む第1の培地を複数有するとともに、前記菌液及び抗菌薬を含む、前記第1の培地とは異なる第2の培地を有し、前記第1の培地及び前記第2の培地における培養が開始されている培養部における菌数を計測する計測部と、
細菌に関する既知の増殖曲線が予め格納されている記憶部に基づいて解析する解析部と、
前記計測部を制御する制御部と、
を有し、
前記計測部が、
前記第1の培地における菌数を計測する第1の計測を行い、
前記解析部が、
当該第1の計測の結果を、前記記憶部に格納されている前記増殖曲線と照合することにより、前記計測対象細菌の最小発育阻止濃度を判定するため、前記第2の培地における菌数の計測である第2の計測のタイミングを決定し、
前記計測部が、
決定した前記タイミングに従って前記第2の計測を行う
ことを特徴とする菌数計測システム。
【請求項13】
前記培養部において、複数の前記第1の培地が、互いに隣接するよう前記菌液が分注されている
ことを特徴とする請求項12に記載の菌数計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌数計測方法及び菌数計測システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌感染症の患者に対して、適切な投薬判断を行うため、細菌の薬剤感受性試験を行い、最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration:以下、MICと称する)を求めることが行われている。このような薬剤感受性試験は、細菌と抗菌薬とを混合して培養し、細菌の増殖挙動を評価することで行われる。細菌の増殖挙動を評価するために菌数を知る必要があるが、菌数を計測する方法として、例えば、吸光度測定による濁度評価や、化学発光によるATP(Adenosine Triphosphate)量評価、顕微鏡による直接観察等が挙げられる。
【0003】
近年、より迅速にMICを求めるため、増殖挙動を常にモニタリングし、事前に収集したデータベースと照合することで、迅速にMICを判定する方法が提案されている。モニタリング頻度は数分から数十分毎に行うことが多い。
【0004】
このようなMICを判定する方法として、例えば、特許文献1が開示されている。特許文献1には、「被検微生物又は腫瘍細胞の薬剤感受性を評価する方法であって、薬剤に対するMICが既知の微生物又はIC50が既知の腫瘍細胞について、当該薬剤が1又は2以上の異なる濃度の培地で培養して得られる増殖曲線をそれぞれ曲線データとして予めデータベース化し、被検微生物又は腫瘍細胞を同一条件下で培養して得られる増殖曲線の各曲線データを当該データベースに照合し、類似性評価法に基づき非類似度を求め、非類似度が最小値を示す微生物又は腫瘍細胞の当該薬剤に対するMIC又はIC50を被検微生物のMIC又は腫瘍細胞のIC50と判定することを特徴とする」薬剤感受性評価方法及び微生物同定方法が開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-86279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13に示すように細菌の増殖期間は、誘導期401、対数増殖期402、静止期403、死滅期404の4種類で構成されている。このうち、対数増殖期402が抗菌薬の影響を最も受けやすく、迅速なMIC判定において重要な計測時期である。そのため、対数増殖期402以外のタイミングで菌数の計測を行っても、MIC判定に有益な情報は得られない。この4つの期401~404のタイミングは菌種や菌株によって異なる。
【0007】
従来技術では、MIC判定を目的として、抗菌薬と混合された菌数の計測を一定時間毎に行い、データベースと照合してMIC判定を行っている。このような判定は、一般に、複数のウェル(凹部)を有するマイクロプレートを用い、ウェル毎に菌数の計測を行うことで行われる。そして、1個のマイクロプレートにつき少なくとも数分間の測定時間を必要とする。従って、濁度測定や、顕微鏡観察等の非破壊検査でも、ATP発光計測等の破壊検査でも、複数のマイクロプレートを同時に処理することは困難である。また、前記した通り、対数増殖期402以外のタイミングで菌数の計測を行っても、MIC判定に有効な情報を得ることはできないため、MIC判定の精度が低下する。また、予め決められた培養時間でMIC判定のための計測を行うことも、菌種や菌株によって対数増殖期のタイミングが異なるため、困難である。
【0008】
また、破壊検査、例えば細菌内に含まれるATPや核酸を利用した化学発光計測、蛍光発光計測などは、高感度に菌数を評価できるという利点がある。しかし、一方で、一回の計測毎に細菌を破壊しなければいけないため、菌数の計測毎にサンプルの一部を細菌を培養している培養部から抜き取り、細菌を破壊して計測しなければいけない。そのため、計測回数に比例して計測コストや煩雑な作業が増える課題がある。
【0009】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、効率的なMIC判定を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するため、本発明は、細菌に関する既知の増殖曲線が予め格納されている記憶部の情報に基づいて解析する解析部を有し、前記解析部は、菌数計測の対象となる細菌である計測対象細菌が含まれている菌液を含む第1の培地を複数有するとともに、前記菌液及び抗菌薬を含む、前記第1の培地とは異なる第2の培地を有し、前記第1の培地及び前記第2の培地における培養が開始されている培養部に対し、前記第1の培地における菌数を計測する第1の計測を行い、当該第1の計測の結果を、前記記憶部に格納されている前記増殖曲線と照合することにより、前記計測対象細菌の最小発育阻止濃度を判定するため、前記第2の培地における菌数の計測である第2の計測のタイミングを決定し、決定した前記タイミングに従って前記第2の計測を行うことを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中に適宜記載する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、効率的なMIC判定を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る薬剤感受性試験システムの構成例を示す図である。
図2】第1実施形態における計測装置の構成例を示す図である。
図3】第1実施形態における解析制御装置の構成例を示す図である。
図4】解析制御装置のハードウェア構成を示す図である。
図5】第1実施形態におけるMIC決定処理の手順を示すフローチャートである。
図6】マイクロプレートを示す図である。
図7】第1実施形態において横軸に培養経過時間を示し、縦軸に菌数を示すグラフである。
図8A】本実施形態の薬剤感受性試験システムを用いてMIC計測が行われたMIC判定用ウェルの菌数を示す図である。
図8B】並行処理によるMIC決定を説明するための図である。
図9】第2実施形態におけるMIC決定処理の手順を示すフローチャートである。
図10】第2実施形態において横軸に培養経過時間を示し、縦軸に菌数を示すグラフである。増殖パターンLは図7と同様である。
図11A】第3実施形態におけるMIC決定処理の手順を示すフローチャートである(その1)。
図11B】第3実施形態におけるMIC決定処理の手順を示すフローチャートである(その2)。
図12】第3実施形態において横軸に培養経過時間を示し、縦軸に菌数を示すグラフである。
図13】細菌の増殖期間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
[第1実施形態]
(薬剤感受性試験システムZ)
図1は、第1実施形態に係る薬剤感受性試験システムZの構成例を示す図である。
薬剤感受性試験システムZは、計測装置2及び解析制御装置1を有する。
計測装置2は、マイクロプレート3(図2参照)に対して菌数の計測(菌数計測)を行い、その結果を取得して解析制御装置1へ送信する。菌数計測には、ATP発光計測や、濁度計測、顕微鏡による菌数の計測等が用いられる。
解析制御装置1は、マイクロプレート3への菌液や、抗菌薬の分注を制御する。また、解析制御装置1は、菌数計測の制御を行う。さらに、解析制御装置1は、菌数計測の結果から、計測対象細菌が対数増殖期402(図13参照)に移行したか否かの判定や、MICの判定を行う。ここで、計測対象細菌とは、MIC判定のための菌数計測の対象となっている細菌であり、マイクロプレート3に分注される細菌である。
【0015】
(計測装置2)
図2は、第1実施形態における計測装置2の構成例を示す図である。
計測装置2は、分注部21、計測部22及び培養部23を有する。
分注部21は、菌液や、抗菌薬をマイクロプレート3の凹部であるウェル301に分注する。
計測部22は、マイクロプレート3のウェル301に対して菌数計測を行う。ウェル301については後記する。前記したように、菌数計測にはATP発光計測や、濁度計測、顕微鏡による菌数の計測等が用いられる。
培養部23は、一定の温度に保たれている。そして、培養部23は、マイクロプレート3に分注された計測対象細菌の培養が行われる。
【0016】
(解析制御装置1)
図3は、第1実施形態における解析制御装置1の構成例を示す図である。
解析制御装置1は、解析部110、制御部120、対数増殖期データベース130及びMIC判定用データベース140を有する。
対数増殖期データベース130には、様々な菌種の増殖パターンL(図7参照;増殖曲線)が格納されている。対数増殖期データベース130には、例えば、過去に取得された全部で数千パターンの菌の増殖曲線(増殖パターンL)及び最小発育阻止濃度が保存されている。例えば、大腸菌数百パターン、黄色ブドウ球菌数百パターン、肺炎桿菌数百パターン、緑膿菌数百パターン、等である
MIC判定用データベース140には、複数の抗菌薬に対する様々な菌種のMIC判定用のデータが格納されている。具体的には、MIC判定用データベース140には、過去におけるMIC判定での菌数のデータが菌種毎及び薬剤毎に格納されている。
【0017】
解析部110は、対数増殖期解析部111及びMIC解析部112を有する。
対数増殖期解析部111は、図2に示すマイクロプレート3のモニタリング用ウェル31のそれぞれのウェル301における菌数計測を基に、マイクロプレート3に分注されている計測対象細菌が対数増殖期402に移行しているか否かを判定する。
MIC解析部112は、対数増殖期解析部111によってマイクロプレート3に分注されている計測対象細菌が対数増殖期402に移行していると判定されると、MIC判定用ウェル32の各ウェル301に対し一斉に菌数計測を行わせる。ここで、「一斉に」とは、MIC判定用ウェル32の各ウェル301を順に、かつ、連続して菌数計測することである。そして、MIC解析部112は、得られた菌数計測の結果を基に、計測対象細菌のMICを判定する。なお、モニタリング用ウェル31及びMIC判定用ウェル32については後記する。また、後記する第2実施形態や、第3実施形態では、MIC解析部112が、MIC計測の時刻(MIC計測時刻)を決定する。MIC計測とは、MIC判定を行うため、MIC判定用ウェル32に対して菌数計測を行うことである。
【0018】
制御部120は、分注制御部121及び計測制御部122を有する。
分注制御部121は、計測装置2の分注部21を制御して抗菌薬や、計測対象細菌が含まれる菌液をマイクロプレート3へ分注させる。
計測制御部122は、計測装置2の計測部22を制御して、マイクロプレート3に対し菌数計測を行い、その結果得られる菌数を取得する。
【0019】
(ハードウェア構成)
図4は、解析制御装置1のハードウェア構成を示す図である。
解析制御装置1は、メモリ151、CPU(Central Processing Unit)152.通信装置153、記憶装置154等を有する。
記憶装置154に格納されているプログラムがメモリ151にロードされ、CPU152によって実行される。これにより、図3に示される解析部110、制御部120、解析部110を構成する対数増殖期解析部111、MIC解析部112、制御部120を構成する分注制御部121、計測制御部122が具現化する。
また、記憶装置154は、図3の対数増殖期データベース130及びMIC判定用データベース140に相当するものでもある。
通信装置153は、計測装置2の分注部21へ制御指示を送信したり、計測部22から菌数のデータを受信したりする。
【0020】
(フローチャート)
図5は、第1実施形態におけるMIC決定処理の手順を示すフローチャートである。
まず、分注制御部121は、分注部21にマイクロプレート3のウェル301(図6参照)に抗菌薬を分注させる(S101)。
ステップS101における抗菌薬の分注について図6を参照して説明する。
【0021】
(モニタリング用ウェル31及びMIC判定用ウェル32)
図6は、マイクロプレート3を示す図である。
図6に示すように、本実施形態で使用するマイクロプレート3は、12×8=96個のウェル301を有する。ここで、ウェル301とは計測対象細菌や、薬剤を分注する凹部である。
ここで、図6に示すように、各列には「1」~「12」の番号が振られており、各行には「A」~「H」の番号が振られている。そして、個々のウェル301は「A」~「H」の番号と、「1」~「12」の番号で表されるものとする。例えば、符号311のウェル301は、「F-7」と表される。
【0022】
分注部21は、以下の手順で抗菌薬を分注する。
【0023】
まず、「A-1」~「A-12」の各ウェル301には計測対象細菌が混合されている菌液の分注が行われるものの、抗菌薬の分注は行われない。「A-1」~「A-12」のウェル301のように、菌液(計測対象細菌)の分注が行われるものの、抗菌薬の分注が行われない(コントロール)ウェル301をモニタリング用ウェル31と称する。図6に示すように、モニタリング用ウェル31におけるそれぞれのウェル301は、互いに隣接するように設けられる。換言すれば、分注部21は、モニタリング用ウェル31において、互いに隣接するように菌液を分注する。このような配置とすることにより、この後の処理を効率的に行うことができる。
【0024】
そして、「B」~「H」の各行のウェル301には菌液が分注され、さらに抗菌薬が分注される。このように、菌液が分注され、さらに抗菌薬が分注されるウェル301をMIC判定用ウェル32と称する。
【0025】
ここで、列「1」~「12」には異なる抗菌薬が分注され、「B」~「H」では異なる濃度で抗菌薬が分注される。例えば、「B-1」~「H-1」には「α」の抗菌薬が分注される。このとき、「H-1」にはある希釈濃度の抗菌薬「α」が分注されるとすると、「G-1」には「H-1」より2倍の希釈濃度の抗菌薬「α」が分注される。さらに、「F-1」には「G-1」より2倍の希釈濃度の抗菌薬「α」が分注され、「E-1」には「F-1」より2倍の希釈濃度の抗菌薬「α」が分注される。このように、「H-1」→「B-1」の順に、希釈濃度が2倍の抗菌薬「α」が分注される。
【0026】
同様に、「H-2」~「B-2」の各ウェル301において、「H-2」→「B-2」の順に、希釈濃度が2倍の抗菌薬「β」が分注される。ここで、抗菌薬「β」は抗菌薬「α」とは別の抗菌薬である。
以下、同様に、「H-3」~「B-3」、「H-4」~「B-4」、・・・、「H-12」~「B-12」の各ウェル301に、列毎に異なる抗菌薬が、「H」→「B」の順に、希釈濃度2倍ずつに増加させて分注される。
【0027】
なお、図6では、マイクロプレート3は、12×8=96個のウェル301を有するものとしているが、ウェル301の個数はこれに限らない。また、マイクロプレート3は、長方形の形状を有しているが、丸型等、長方形に限らない。そして、モニタリング用ウェル31は、「A」の1行のみとしているが、「A」及び「B」の行のウェル301をモニタリング用ウェル31とする等、複数の行をモニタリング用ウェル31としてもよい。さらに、「1」の列をモニタリング用ウェル31とする等、所定の列をモニタリング用ウェル31としてもよい。
【0028】
例えば、計測対象細菌がグラム陰性菌であれば、アンピシリン、タゾバクタム/ピペラシリン、セフタジジム、セフォタキシム、セフェピム、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、ミノサイクリン、アミカシン、アズトレオナム、メロペネム、イミペネム等が抗菌薬として用いられる。計測対象細菌がグラム陽性菌であれば、オキサシリン、セファゾリン、ベンジルペニシリン、アンピシリン、レボフロキサシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ミノサイクリン、ダプトマイシン、リネゾリド、バンコマイシン、ゲンタマイシン等が抗菌薬として用いられる。抗菌薬の濃度はCLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)で報告されているブレイクポイント濃度が希釈系列の範囲に入るように設定される。
【0029】
図5の説明に戻る。
次に、ユーザは、MIC判定対象の菌を、例えば、菌濃度10CFU/mLに調製した菌液を作成し、分注制御部121は、分注部21にマイクロプレート3における、すべてのウェル301に作成した菌液を分注させる(S102)。
ここで、菌濃度の調整には、例えば、濁度計が使用される。0.5McFに調製した菌液を500倍に希釈すると、およそ10CFU/mLになることが知られている。希釈液には例えば、陽イオン調整を行ったミューラヒントン培地を使用する。MIC判定対象の菌は、例えばグラム染色を用いて、事前にグラム陰性菌かグラム陽性菌かを判定しておく。その上で、マイクロプレート3における、すべてのウェル301に菌液が100μLずつ分注される。
【0030】
この結果、前記したように、モニタリング用ウェル31である「A」の行(「A-1」~「A-12」)のウェル301には、コントロールとして計測対象細菌のみが分注され、その他のウェル301には抗菌薬と計測対象細菌とが分注される。
【0031】
次に、培養部23において培養が開始される(S103)。培養は、例えば、35℃の環境下で行われる。
【0032】
培養を開始して一定時間後(例えば5分後)、計測制御部122はモニタリング用ウェル31、すなわち行「A」のウェル301のうち、菌数計測が行われていないウェル301を1つ(例えば「A-1」)選択する(S111)。そして、計測制御部122は、計測部22に選択したウェル301に対して、菌数計測を行わせる(S112)。前記したように、菌数計測にはATP発光計測や、濁度計測、顕微鏡観察による菌数の計測等の手法が用いられる。
【0033】
例えば、菌数計測としてATP発光計測が用いられる場合、ステップS112では、ATP発光計測に必要な抽出液と発光試薬とがステップS111で選択されたウェル301に分注されることで、ATP発光計測が行われる。発光試薬は、例えば、キッコーマンバイオケミファ株式会社のルシフェール(登録商標)HSセットが使用される。計測装置2は例えばTECAN(登録商標)社のマイクロプレートリーダ等が使用される。
【0034】
そして、対数増殖期解析部111は、対数増殖期データベース130を参照して、これまで、ステップS112において行われた菌数計測の結果に対して機械学習を行う(S121)。ここで、対数増殖期解析部111は、ランダムフォレストや、ニューラルネットワーク等を用いて、これまで行われた菌数計測の結果(つまり、計測された菌数)と近似する増殖パターンL(図7参照)を対数増殖期データベース130から抽出する。菌数計測にATP発光計測が用いられる場合、計測された菌数はATP発光量となる。
そして、対数増殖期解析部111は、ステップS121の結果を基に、計測対象細菌の増殖が対数増殖期402(図13参照)に移行しているか否かを判定する(S122)。ここでは、対数増殖期解析部111が、抽出した増殖パターンLと、これまで行われた菌数計測の結果(菌数)とを比較し計測対象細菌が対数増殖期402に移行したか否かを判定する。
【0035】
計測対象細菌が対数増殖期に移行していなかった場合(S122→No)、解析部110は、所定時間(例えば、20分)待機(S123)後、ステップS111へ処理を戻す。
計測対象細菌が対数増殖期に移行している場合(S122→Yes)、MIC解析部112は、計測制御部122を介して、計測部22にMIC判定用ウェル32におけるすべてのウェル301について一斉にMIC計測を行わせる(S131)。
ステップS131の処理は、ステップS122で「Yes」と判定されてから、すぐに行われてもよいし、所定時間(例えば、20分)待機した後、行われてもよい。すなわち、ステップS122で「Yes」と判定されることによりMIC解析部112は、MIC計測を行うタイミングを決定する。前記したように、MIC計測とは、MICを判定するため、MIC判定用ウェル32に対して菌数計測を行うことである。
そして、MIC解析部112はステップS131で行ったMIC計測の結果に対し、MIC判定用データベース140との照合を行う(S132)。これにより、MIC解析部112は各抗菌薬でのMICを決定する(S133)。ステップS132の照合は、機械学習や、最小二乗法等等による照合が行われる。
【0036】
(計測結果)
次に、図7を基に、図5の処理を説明する。
図7は、横軸に培養経過時間を示し、縦軸に菌数(菌数計測の結果)を示すグラフである。菌数の測定にATP発光計測が用いられた場合、縦軸はATP発光量となる。
プロットP1は、ステップS112で行われる菌数計測によって得られる菌数を示している。また、増殖パターンLは対数増殖期データベース130に予め格納されている増殖曲線である。
それぞれのプロットP1が得られる毎に機械学習による照合が行われる(図5のステップS121)。
そして、プロットP2の時点で対数増殖期402(図13参照)に移行していると判定されると、MIC判定用ウェル32に対してMIC計測及びMIC判定処理が行われる(図5のステップS131,S133)。図7に示す符号MTはMIC計測(菌数計測)の結果得られる菌数を示している。
【0037】
(MIC計測結果)
図8Aは、本実施形態の薬剤感受性試験システムZを用いてMIC計測(菌数計測)が行われたMIC判定用ウェル32の菌数を示す図である。
図8Aでは、例えば、「B-1」~「H-1」に相当するウェル301の菌数を示しており、横軸が同一の抗菌薬の濃度を示し、縦軸が菌数を示している。ヒストグラムH1は「B-1」で計測された菌数に相当し、ヒストグラムH2が「C-1」で計測された菌数に相当する。また、ヒストグラムH3は「D-1」で計測された菌数に相当し、ヒストグラムH4が「E-1」で計測された菌数に相当する。同様に、ヒストグラムH5は「F-1」で計測された菌数に相当し、ヒストグラムH6が「G-1」で計測された菌数に相当し、ヒストグラムH7が「H-1」で計測された菌数に相当する。
【0038】
図8Aに示すように、ヒストグラムH5(「F-1」)において菌数が急激に減少している。MIC解析部112は、各濃度における菌数(符号H1~H7)をMIC判定用データベース140と照合する(図5のステップS132)ことにより、抗菌薬濃度16μg/mLがMICであることがわかる。前記したように、MIC判定用ウェル32の菌数と、MIC判定用データベース140とを照合することによって、MICが決定される(図5のステップS133)。
【0039】
これまでの技術でも、抗菌薬を分注しない、いわゆるコントロールのウェル301が設けられることはある(コントロールが設けられない場合もある)。しかし、これまでの技術では、コントロールのウェル301は、計測対象外の菌によるコンタミネーションがないかや、抗菌薬も、菌も分注しないことで、培地そのものに菌がコンタミネーションしていないかを確認するために設けられる。これに対して、本実施形態におけるモニタリング用ウェル31は、対数増殖期402(図13参照)に移行しているか否かを判定するために設けられている点が、これまでの技術と異なる点である。
【0040】
また、第1実施形態では、モニタリング用ウェル31によって対数増殖期402への移行を判定することで、対数増殖期402の判定までは、それぞれのマイクロプレート3について1個のウェル301の菌数計測が行われればよい。これにより、本実施形態によれば、菌数計測の並行処理が可能、あるいは、並行処理するマイクロプレート3の個数を増加させることができる。
【0041】
以下、このことについて図8Bを参照して説明する。
10分毎に菌数の計測が行わなければならないものとし、菌数計測の開始時刻を時刻t0とし、時刻t0から10分後を時刻t10とし、時刻t10から10分後を時刻t20とする。以下、同様に10分経過する毎に、時刻t30,t40,・・・とする。なお、図8Bでは、説明上必要な時刻のみ示している。
これまでの技術では、コントロールのウェル301を設けても、設けなくても、マイクロプレート3についてすべてのウェル301の計測が毎回行われる。従って、1個のマイクロプレート3における計測部22の連続占有時間が長くなってしまう。例えば、1個のウェル301で菌数計測する時間が5秒であるとすると、1つのマイクロプレート3あたりの計測時間は8分となる。前記したように、10分毎に菌数の計測が行わなければならないとすると、時刻t0から時刻t10の間に1個のマイクロプレート3しか菌数計測できない。同様に、時刻t10から時刻t20の間に1個のマイクロプレート3しか菌数計測できない。
【0042】
これに対し、第1実施形態によれば、対数増殖期402と判定されるまで、モニタリング用ウェル31が1つずつ計測される。これにより、複数のマイクロプレート3を並行して処理することが可能となる。
例えば、前記したように、1つのウェル301の菌数計測にかかる時間が5秒であり、仮に10個のマイクロプレート3の並行処理が行われるとする。この10個のマイクロプレート3をマイクロプレート3-1~3-10とする。対数増殖期402と判定されるまで、それぞれのマイクロプレート3におけるモニタリング用ウェル31が1つずつ菌数計測される。図6を参照すると、つまり、マイクロプレート3-1の「A-1」のウェル301→マイクロプレート3-2の「A-1」のウェル301→マイクロプレート3-3の「A-1」のウェル301→・・・→マイクロプレート3-10の「A-1」のウェル301の順に菌数計測が行われる。従って、マイクロプレート3-1~3-10のそれぞれにおける「A-1」のウェル301の菌数計測にかかる時間は50秒である。ここでは、計測部22の動作や、対数増殖期402への移行判定処理を考慮し、マイクロプレート3-1~3-10のそれぞれにおける「A-1」のウェル301の菌数計測及び対数増殖期402への移行判定にかかる時間を60秒(=1分)とする。
【0043】
ここで、前記した時刻t0から1分経過した時刻を時刻t1、2分経過した時刻をt2、・・・とする。また、時刻t10から1分経過した時刻を時刻t11、2分経過した時刻をt12、・・・とし、以下、同様に時刻が定義されるものとする。
時刻t0で対数増殖期402の判定のための菌数計測(1巡目)が開始されたとする。時刻t1には、マイクロプレート3-1~3-10すべてについて「A-1」のウェル301の菌数計測及び対数増殖期402への移行判定が終了する(図5のS111~122)。ここで、マイクロプレート3-1~3-10すべてが対数増殖期402へ移行していないと判定されたものとする(図5のS122→「No」)。解析部110は次に菌数計測が行われる時刻t10まで待機する(図5のS123)。
【0044】
時刻t10になると、対数増殖期402の判定のための菌数計測(2巡目)が開始される。ここでは、マイクロプレート3-1~3-10それぞれの「A-2」のウェル301について、菌数計測(図5のS112)、対数増殖期402への移行判定(図5のS122)が順に行われる。この菌数計測及び対数増殖期402への移行判定も時刻t11には終了する。
以下、同様に処理が進み、時刻t51(5巡目)で、マイクロプレート3-1において対数増殖期402への移行が判定されたものとする。なお、ここでは、マイクロプレート3-2~3-10では対数増殖期402への移行が観察されないものとする。
対数増殖期402への移行が判定されたマイクロプレート3-1に対して、MIC計測~MIC決定(図5のS131~S133)が行われる。このとき、マイクロプレート3-1のMIC判定用ウェル32における84個のウェル301に対して、MIC計測(図5のS131=菌数計測)~MIC決定(図5のS133)が行われる。MIC判定用ウェル32における84個のウェル301において菌数計測にかかる時間は7分である。従って、マイクロプレート3-1において対数増殖期402への移行が判定された時刻t51から開始された、マイクロプレート3-1におけるMIC判定用ウェル32の菌数計測(MIC計測)は、時刻t58には終了する。従って、次に、マイクロプレート3-2~3-10に対して対数増殖期402への移行判定のための菌数計測が開始される時刻t60までに、余裕をもってマイクロプレート3-1におけるMIC判定用ウェル32の菌数計測(MIC計測)が終了する。
【0045】
以下、対数増殖期402への移行が観察されていないマイクロプレート3-2~3-10において同様の処理が繰り返される。
【0046】
このように、第1実施形態における手法によれば、対数増殖期402の判定のために必要なウェル301は、1巡毎に1個である。このため、図8Bに示すように並行処理できるマイクロプレート3の個数を大幅に増加させることができる。これにより、第1実施形態における手法によれば、作業効率を大幅に向上させることができる。このような効果は、菌数計測の手法が破壊検査でも、非破壊検査でも奏することができる。
【0047】
また、第1実施形態によれば、菌数計測に非破壊検査を用いる場合、予めモニタリング用ウェル31を準備することで、対数増殖期402のための菌数計測毎に菌液を分取する作業が不要となる。これにより、検査コストや煩雑な作業を軽減することが可能となる。また、対数増殖期データベース130に格納されている増殖パターンLと、ステップS112における菌数計測の結果とを照合し、この照合結果から、MIC解析部112はMIC計測のタイミングを決定している。このようにすることで、効率的なMIC判定を実現することができる。そして、このタイミングで行われたMIC計測の結果により、MICが決定されることにより、効率的にMICを決定することができる。
【0048】
そして、第1実施形態によれば、計測対象細菌が現在、対数増殖期402にあれば、MIC計測を行っている。このようにすることで、適切かつ効率的なMIC判定を行うことができる。
【0049】
また、例えば、「A-1」のウェル301からステップS112の菌数計測が行われ、「A-7」の菌数計測によって計測対象細菌が対数増殖期402に入っていることがわかったものとする。この場合、「A-8」~「A-12」のウェル301に対して菌数計測が行われることはない。このようにすることによって、菌数計測に用いられる試薬の量を減らすことができる。
【0050】
[第2実施形態]
次に、図9及び図10を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。
第2実施形態において、解析制御装置1は、モニタリング用ウェル31(コントロール)のみを、計測対象細菌の増殖特性が判定できるまで、一定時間間隔で菌数計測を行い続ける。計測対象細菌の増殖特性が判明した時点で、解析制御装置1は、すべての菌数計測を止めて待機し、予測した時間(=十分に対数増殖期402に移行している時間)になったら、MIC判定用ウェル32におけるすべてのウェル301を菌数計測することでMIC判定を行うものである。
【0051】
(フローチャート)
図9は、第2実施形態におけるMIC決定処理の手順を示すフローチャートである。図9において、図5と同様の処理については同一のステップ番号を付して説明を省略する。
対数増殖期データベース130には、第1実施形態と同様に、例えば、過去に取得された全部で数千パターンの菌の増殖曲線(増殖パターンL)及び最小発育阻止濃度が保存されている。例えば、大腸菌数百パターン、黄色ブドウ球菌数百パターン、肺炎桿菌数百パターン、緑膿菌数百パターン、等である。
図9において、図5と同様の処理については同一のステップ番号を付して説明を省略する。
ステップS101~S112の処理は、図5の処理と同様である。
ステップS112の後、対数増殖期解析部111は、ステップS112で菌数計測した結果を、機械学習によって対数増殖期データベース130と照合する(S201)。ここで、対数増殖期解析部111は、対数増殖期データベース130に格納されている、いずれの増殖パターンLと似ているか、機械学習を用いて評価することで、増殖パターンLの候補を絞り込む(特定する)。機械学習は、決定木分析等が用いられる。
【0052】
対数増殖期解析部111は、ステップS201の処理で増殖パターンLを絞り込む(特定する)ことができたか否かを判定する(S202)。
増殖パターンLの候補を絞り込めなかった場合(S202→No)、解析部110は、一定時間(例えば20分)待機(S203)した後にステップS111へ処理を戻す。
増殖パターンLの候補が絞り込めた場合(S202→Yes)、対数増殖期解析部111は、絞り込んだ増殖パターンLを基に、対数増殖期402に達する時期を予測する(S204)。
【0053】
次に、MIC解析部112は、ステップS204で予測した対数増殖期402に達する時期を基に、MIC計測時刻を決定する(S211)。MIC計測時刻とは、MIC判定用ウェル32に対してMIC計測(菌数計測)が行われる時刻である。
その後、MIC解析部112は、時刻がMIC計測時刻になるまで待機する(S212)
以降、図5と同様の処理であるステップS131~ステップS133が行われる。
【0054】
ステップS211の処理では、ステップS201で絞り込まれた増殖パターンLにおいて、例えば、倍加時間20~25分の速育性の菌である可能性が高いと分かった場合、MIC解析部112は、培養開始時刻から2時間待機するようMIC計測時刻を決定する。あるいは、倍加時間1時間の遅育性の菌である可能性が高いと分かった場合、MIC解析部112は、培養開始時刻から5時間待機するようMIC計測時刻を決定する。
【0055】
(計測結果)
次に、図10を基に、図9の処理を説明する。
図10は、横軸に培養経過時間を示し、縦軸に菌数(菌数計測の結果)を示すグラフである。増殖パターンLは図7と同様である。
プロットP11は、ステップS112で行われる菌数計測によって得られる菌数を示している。それぞれのプロットP11が得られる毎に機械学習による照合が行われる(図9のステップS202)。
そして、プロットP12で増殖パターンLの特定ができたものとする(図9のステップS202→Yes)。そして、MIC解析部112は、特定した増殖パターンLを基に、MIC計測時刻Tを算出する(図9のステップS211)。
【0056】
第2実施形態によれば、計測対象細菌の増殖パターンLが分かった時点でMIC計測時刻を決定し、MIC計測時刻まで菌数計測を行わないようにすることができる。これにより、不必要な計測時間や、菌数計測に用いる試薬の量を減らすことができる。従って、第1実施形態と同様に、複数のマイクロプレート3の並行処理や、コストの削減が可能となる。特に、菌数計測にATP発光計測が用いられる場合、ATP発光計測の試薬の使用量を減らすことができる。
【0057】
[第3実施形態]
次に、図11A図11B及び図12を参照して本発明の第3実施形態について説明する。
第3実施形態では、対数増殖期解析部111は、計測対象細菌の増殖特性を判定するのに必要な最小回数のみモニタリング用ウェル31の菌数計測を行う。そして、増殖特性が確定した時点で、解析部110は、モニタリング用ウェル31の菌数計測を止めて待機し、MIC計測時刻になったら、すべてのMIC判定用ウェル32を菌数計測してMIC判定を行う。
【0058】
(フローチャート)
図11A及び図11Bは、第3実施形態におけるMIC決定処理の手順を示すフローチャートである。図11A及び図11Bにおいて、図5及び図9と同様の処理については同一のステップ番号を付して、説明を省略する。
また、対数増殖期データベース130には、第1実施形態と同様に、例えば、過去に取得された全部で数千パターンの菌の増殖曲線(増殖パターンL)及び最小発育阻止濃度が保存されている。例えば、大腸菌数百パターン、黄色ブドウ球菌数百パターン、肺炎桿菌数百パターン、緑膿菌数百パターン、等である。
図11AにおけるステップS101~S112の処理までは、図9の処理と同様である。
ステップS112の後、対数増殖期解析部111は、菌数が、最初の菌数計測の時点よりn倍以上となったか否かを判定する(S301)。菌数は、菌数計測の結果(すなわち、菌数)から算出可能である。なお、nとして、どのような値が使用されるかは、試験前のグラム染色や質量分析装置等によって想定される菌種によるが、ここではn=2とする。
菌数がn倍未満である場合(S301→No)、解析部110はステップS201へ処理を戻す。
【0059】
菌数がn倍以上となっている場合(S301→Yes)、解析部110はステップS201へ処理を進める。
なお、第3実施形態のステップS201では、「接種菌数」と、「2倍になるまでに必要な時間」とを、対数増殖期データベース130に照らし合わせて機械学習によって菌種の特徴推定を行う。これによって、増殖パターンLが絞り込まれる。機械学習としては、例えば決定木分析等が用いられる。制御装置は、推定した増殖パターンLから、次回の菌数計測までの時間T1を決める。例えば、増殖が速い菌であればT1=1時間後、増殖が遅い菌であればT1=3時間後である。なお、分注した菌種が試験前から質量分析や遺伝子検査等で分かっている場合でも、菌株毎に増殖速度が異なるため、ここで改めて、増殖パターンの推定が行われる。
【0060】
そして、ステップS202で「Yes」と判定された後、絞り込んだ増殖パターンLを基に、さらに増殖パターンLを絞り込むために、追加して行われる菌数計測回数nと、それぞれの菌数計測時刻Y1~Ynを算出する(図11BのS311)。
例えば、ステップS202、S203で、速育性の菌という範囲まで絞り込めれば、対数増殖期解析部111は、20分毎に計4回、モニタリング用ウェル31に対して菌数計測を行うと計算する。ステップS202、S203で、で遅育性の菌という範囲まで絞り込めれば、対数増殖期解析部111は40分毎に計3回、モニタリング用ウェル31に対して菌数計測を行うと計算する。
【0061】
そして、対数増殖期解析部111は、現在の時刻tが、ステップS311で算出された菌数計測時刻Ym(m=1~n)のいずれかであるか否かを判定する(S312)。
現在の時刻tが、菌数計測時刻Ym(m=1~n)のいずれでもない場合(S312→No)、解析部110ステップS312へ処理を戻す。
【0062】
現在の時刻tが、菌数計測時刻Ym(m=1~n)のいずれかである場合(S312→Yes)、対数増殖期解析部111は菌数計測を行っていないモニタリング用ウェル31について菌数計測を行う(S321)。
そして、対数増殖期解析部111は、ステップS321を行った回数Nが、ステップS311で算出した菌数計測回数nと同じであるか否かを判定する(S322)。
同じではない場合(S322→No)、解析部110は、ステップS312へ処理を戻す。
【0063】
同じである場合(S322→Yes)、対数増殖期解析部111は、ステップS112及びステップS321における菌数計測の結果それぞれと、ステップS201、S202で絞り込んだ増殖パターンLを照合し、増殖パターンLが完全に絞り込めた(特定できた)か否かを判定する(S323)。
増殖パターンLを絞り込めなかった場合(S323→No)、所定時間(例えば20分)待機後(S324)、まだ、菌数計測を行っていないモニタリング用ウェル31について菌数計測を行う(S325)。その後、解析部110は、ステップS201へ処理を戻す。例えば、最初は速育性だと思っていたが、改めて菌数計測を行った結果、遅育性の可能性が浮上した場合は、改めて、菌数計測回数と、それぞれの菌数計測時刻Y1~Ynを再計算する。
【0064】
増殖パターンLを絞り込めた場合(S323→Yes)、絞り込んだ増殖パターンLを基に、MIC計測時刻を決定する(S211)。
以降の処理は、図9と同様であるので、ここでの説明を省略する。
【0065】
(計測結果)
次に、図12を基に、図11A及び図11Bの処理を説明する。
図12は、横軸に培養経過時間を示し、縦軸に菌数(菌数計測の結果)を示すグラフである。増殖パターンLは図7と同様である。
プロットP31は、ステップS112で行われる菌数計測によって得られる菌数を示している。
そして、プロットP32で増殖パターンLの特定ができたものとする(図9のステップS202→Yes)。
ここで、対数増殖期解析部111は、確認用の菌数計測を行う菌数計測時刻Y1,Y2を算出する。菌数計測時刻Y1,Y2で行った菌数計測の結果(プロットP33)が増殖パターンLにのることが確認されれば、MIC解析部112は、この増殖パターンLに基づいてMIC計測時刻Tを算出する。
【0066】
第3実施形態によれば、計測対象細菌として緑膿菌などの遅育性細菌の可能性が高いと分かった時点で、モニタリングの計測間隔時間を長く設定することにより、不必要な高頻度でのモニタリングを回避することができる。これにともない、モニタリング用ウェル31の菌数計測の回数を減らすことができる。これによって、菌数計測に用いる試薬の消費を抑えることができる。従って、コストの削減が可能となる。また、不必要なモニタリング回数を削減することによって、第1実施形態と同様、同一の薬剤感受性試験システム1内で並行して処理することが可能なマイクロプレート3の数が増加する。なお、モニタリングとは、モニタリング用ウェル31による菌数計測のことである。
【0067】
本実施形態では、菌数計測の手法として、前記したようにATP発光計測、濁度測定、顕微鏡観察による菌数の計測等が用いられている。しかし、これ以外の手法が用いられてもよい。例えば、非破壊検査方法として、自家蛍光測定、分光測定、電気抵抗値などの電気的検出法、菌外代謝物による検出法等が菌数計測の手法として用いられてもよい。あるいは、破壊検査として、菌内代謝物や菌特異的な酵素を利用した検出法、核酸(つまり遺伝子)を利用した検出法、細菌の遺伝子やタンパク質の蛍光発光を利用した検出法等が菌数計測等の手法として用いられてもよい。
【0068】
なお、第3実施形態のステップS301において、対数増殖期解析部111は、菌数が最初の菌数計測の時点よりn倍以上となったか否かを判定している。しかし、これに限らず、所定回数の菌数計測が行われたか否かが判定されてもよい。
【0069】
また、本実施形態では、ステップS121,S201で用いられている機械学習として、決定木分析が用いられているが、回帰分析、クラスタリング分析、ニューラルネットワーク等が用いられてもよい。また、ステップS112,S131,S321,S325で行われる菌数計測は、それぞれ同じ手法が用いられてもよいし、少なくとも1つにおいて異なる手法が用いられてもよい。
【0070】
また、対数増殖期データベース130を解析制御装置1自身が備えている必要はなく、解析制御装置1が図示しないクラウド上にある対数増殖期データベース130にアクセスできるものであってもよい。同様に、MIC判定用データベース140を解析制御装置1自身が備えている必要はなく、解析制御装置1が図示しないクラウド上にあるMIC判定用データベース140にアクセスできるものであってもよい。
【0071】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0072】
また、前記した各構成、機能、各部110~112,120~122、記憶装置154等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図4に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU152等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HD(Hard Disk)に格納すること以外に、メモリ151や、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0073】
1 解析制御装置
2 計測装置
3 マイクロプレート(培養部)
22 計測部
31 モニタリング用ウェル(第1の培地;計測対象細菌が含まれる)
32 MIC判定用ウェル(第2の培地;計測対象細菌及び抗菌薬が含まれる)
110 解析部
111 対数増殖期解析部(解析部)
112 MIC解析部(解析部)
120 制御部
122 計測制御部(制御部)
130 対数増殖期データベース(記憶部)
301 ウェル(培地)
S112 菌数計測(第1の計測)
S112 機械学習による照合(第1の計測結果と、増殖曲線との照合)
S122 対数増殖期への移行判定(第2の計測のタイミングの決定)
S211 MIC計測時刻の決定(第2の計測のタイミングの決定)
S131 MIC計測(第2の計測)
L 増殖パターン(増殖曲線)
Z 薬剤感受性試験システム(菌数計測システム)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13