(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】組換えタンパク質の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240312BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2018531939
(86)(22)【出願日】2017-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2017027958
(87)【国際公開番号】W WO2018025886
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-08-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2016151763
(32)【優先日】2016-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【氏名又は名称】原田 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】倉知 建始
(72)【発明者】
【氏名】木下 みほこ
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】加々美 一恵
【審判官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】BIOTECHNOL.Prog.,1997,Vol.13,No.3,p249-257
【文献】Sci.Rep.,2015,Vol.5,No.9684
【文献】Biomacromolecules,2014,Vol.15,No.7,p2701-2708
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/09
C12M
C12N1
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導性プロモーターの制御下で組換えタンパク質を発現する組換え細胞を用いた当該組換えタンパク質の生産方法であって、
前記組換えタンパク質が、ケラチン、コラ-ゲン、エラスチン、レシリン、カイコシルク及びスパイダーシルクからなる群から選ばれるタンパク質由来のタンパク質であり、
前記組換え細胞が、前記組換えタンパク質をコードする遺伝子が染色体に組み込まれた細胞であり、
下記(A)~(E)工程を繰り返すことを含み、
(A)前記組換え細胞を
第1の培養槽で回分培養又は流加培養により増殖させる工程
(B)
前記組換え細胞における前記組換えタンパク質の発現を誘導させるための第2の培養槽を用意し、(A)工程での増殖後
の第1の培養槽の培養液の一部を
第2の培養槽に移送
する工程
(C)(B)工
程の移送後、第1の培養槽に新鮮な培地を添加して、(A)工程に進む工程
(D)第2の培養槽で前記組換えタンパク質の発現を誘導し、前記組換えタンパク質を蓄積させる工程
(E)(D)工程で蓄積させた前記組換えタンパク質を、培養液から分離及び精製する工程
ここで、(B)工
程の移送後
において、第1の培養槽
の培養液の量が
移送前の第1の培養槽の培養液全量を基準として、1~10体積%であり、第2の培養槽の前記培養液の量が
移送前の第1の培養槽の培養液全量を基準として、90~99体積%である、組換えタンパク質の生産方法。
【請求項2】
第1の培養槽において前記組換え細胞の増殖が対数増殖期の中期に達した時に
培養液を第2の培養槽に移送し、
第2の培養槽において前記組換えタンパク質の発現の誘導を開始する、請求項1に記載の組換えタンパク質の生産方法。
【請求項3】
第2の培養槽での前記組換えタンパク質の発現の誘導が、
培養液に発現誘導剤
を添加すること、又は培養液の温度を変えることによって行われる、請求項1又は2に記載の組換えタンパク質の生産方法。
【請求項4】
前記誘導性プロモーターが、T7プロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、lacプロモーター及びlacUV5プロモーターから選ばれるIPTG誘導性プロモーター、又はPRプロモーター及びPLプロモーターから選ばれる温度誘導性プロモーターである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換えタンパク質の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物による工業規模における組換えタンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質の工業規模での生産には、流加培養、半連続培養及び連続培養等の培養方法が採用されている。
【0003】
流加培養は、半回分培養とも呼ばれる。回分培養は、培養に必要な基質(栄養源、培地成分等)の全てを培養開始時に培地に加えておく培養方法である。これに対し、流加培養は、適度な基質濃度に調製された培地で培養を聞始し、その後消費されたそれぞれの基質を逐次添加して補う培養方法である。回分培養も流加培養も、培養終了まで培養液を培養槽(バイオリアクター)から取り除かない培養方法である。流加培養は、基質が高濃度に存在すると増殖阻害を生ずるような培養系においては、基質濃度を適切な低濃度に制御することで増殖阻害を回避することができる。流加培養により、高細胞密度培養が可能な場合もあり、組換えタンパク質を高濃度で生産させることが可能である。流加基質の添加方法としては、流加基質を分割して逐次添加する方法、流加基質を一定の流量で添加する定流量添加法(定速流加法)、流加基質の流量を指数関数的に増加させて添加する指数的流加法等が知られている。
【0004】
連続培養は、培養液量を一定に保ちつつ新鮮な培地の流加と培養液の排出を連読的に行い、培養液中の培地組成が時間的に変化しない定常状態で培養を行う培養方法である。連続培養における細胞密度は、流加培養における細胞密度と比較して、一般的には低い。他方、連続培養では、組換えタンパク質を継続して生産することが可能である。
【0005】
半連続培養は、回分培養又は流加培養により特定の容量又はバイオマスが得られた後、組換えタンパク質を含む培養液の一部をバイオリアクターから取り除くと共に、バイオリアクターに新鮮な培地を添加することで組換えタンパク質の生産を継続して、繰り返し行う方法である(特許文献1)。
【0006】
極めて大きな弾性及び反発弾性を有し、同時にゴム様の性質を有するレシリン及びエラスチン、カシミヤ及びウールの主成分タンパク質の一種であるケラチン、様々な結合組織に力学的な強度を与えるために役立っているコラ-ゲン、軽くて、丈夫であり独特の光沢を有するカイコシルク、並びに優れた強度と伸度を有するスパイダーシルク等の構造タンパク質について、これら構造タンパク質由来の組換えタンパク質の工業規模での生産方法が検討されているが、実用化にはまだ多くの課題がある状況である。精力的に研究されているスパイダーシルクタンパク質についても、まだ生産レベルが低く細菌宿主において天然型のスパイダーシルクタンパク質を発現させるのは非能率的と考えられている(非特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2010-527239号公報
【文献】国際公開第2015/042164号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Appl Microbiol Biotechnol.,1998年,49(1),pp.31-38.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、工業規模で組換えタンパク質を効率よく安定して生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、形質転換された微生物による、連続的な培養による組換えタンパク質の工業規模での生産方法を研究している過程で、一度発現誘導を行った当該微生物を繰り返し使用しないことで、効率よく、安定して目的とする組換えタンパク質を高生産させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
誘導性プロモーターの制御下で組換えタンパク質を発現する組換え細胞を用いた当該組換えタンパク質の生産方法であって、
上記組換え細胞を増殖させた培養液の一部に新鮮な培地を添加して連続的に培養することを含み、
上記組換えタンパク質の発現を誘導した組換え細胞を繰り返し使用しない、組換えタンパク質の生産方法。
[2]
上記組換え細胞の増殖と、上記組換えタンパク質の発現の誘導とが、異なる培養槽で行われる、[1]に記載の組換えタンパク質の生産方法。
[3]
上記組換え細胞の増殖が、流加培養により行われる、[1]又は[2]に記載の組換えタンパク質の生産方法。
[4]
誘導性プロモーターの制御下で組換えタンパク質を発現する組換え細胞を用いた当該組換えタンパク質の生産方法であって、
下記(A)~(E)工程を繰り返すことを含む、組換えタンパク質の生産方法。
(A)上記組換え細胞を、培養槽で回分培養又は流加培養により増殖させる工程
(B)(A)工程での増殖後、上記培養槽の培養液の一部を受け入れ用の培養槽に移送する工程
(C)(B)工程での移送後、両培養槽のいずれか一方に新鮮な培地を添加して、(A)工程に進む工程
(D)(C)工程で(A)工程に進まなかったもう一方の培養槽で上記組換えタンパク質の発現を誘導し、上記組換えタンパク質を蓄積させる工程
(E)(D)工程で蓄積させた上記組換えタンパク質を、培養液から分離及び精製する工程
[5]
上記組換え細胞の増殖が対数増殖期の中期に達した時に、上記組換えタンパク質の発現の誘導を開始する、[1]~[4]のいずれかに記載の組換えタンパク質の生産方法。
[6]
上記組換えタンパク質の発現の誘導が、発現誘導剤を培養液に添加すること、又は培養液の温度を変えることによって行われる、[1]~[5]のいずれかに記載の組換えタンパク質の生産方法。
[7]
(B)工程で受け入れ用の培養槽に移送する培養液の量が、培養液全量を基準として、80~99体積%である、[4]に記載の組換えタンパク質の生産方法。
[8]
上記組換え細胞が、上記組換えタンパク質をコードする遺伝子が染色体に組み込まれた細胞である、[1]~[7]のいずれかに記載の組換えタンパク質の生産方法。
[9]
上記組換えタンパク質が、構造タンパク質である、[1]~[8]のいずれかに記載の組換えタンパク質の生産方法。
[10]
上記構造タンパク質が、ケラチン、コラ-ゲン、エラスチン、レシリン、カイコシルク及びスパイダーシルクからなる群から選ばれるタンパク質由来のタンパク質である、[9]に記載の組換えタンパク質の生産方法。
[11]
上記誘導性プロモーターが、T7プロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、lacプロモーター及びlacUV5プロモーターから選ばれるIPTG誘導性プロモーター、又はPRプロモーター及びPLプロモーターから選ばれる温度誘導性プロモーターである、[1]~[10]のいずれかに記載の組換えタンパク質の生産方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工業規模で組換えタンパク質を効率よく生産することができる。
【0013】
プラスミドを導入したプラスミド型発現株を用いた、連続的な培養による組換えタンパク質の発現誘導生産において、従来技術では、プラスミドの脱落、構造の不安定化、発現量の低下等に起因し、生産性が低下する問題があった。本発明によれば、プラスミド型発現株に対して連続的に培養を行っても、プラスミドの脱落等は生じず、染色体に目的とするタンパク質を組み込んだ染色体組込み型発現株と同等以上に、安定して組換えタンパク質を効率よく生産できるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る組換えタンパク質の生産方法に使用する培養システムを模式的に示す図である。
【
図2】実施例1の反復流加培養による組換え改変フィブロインの生産量を示すグラフである。
【
図3】比較例1の反復流加培養による組換え改変フィブロインの生産量を示すグラフである。
【
図4】従来の組換えタンパク質の生産方法に使用する培養システムを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
〔組換えタンパク質の生産方法〕
本実施形態に係る組換えタンパク質の生産方法は、組換えタンパク質を発現する組換え細胞を用いるものであり、組換え細胞を増殖させた培養液の一部に新鮮な培地を添加して連続的に培養することを含み、組換えタンパク質の発現を誘導した組換え細胞を繰り返し使用しないことを特徴とする。本実施形態に係る生産方法に用いる組換え細胞は、誘導性プロモーターの制御下で組換えタンパク質を発現する組換え細胞であることが好ましい。
【0017】
(組換えタンパク質)
本実施形態に係る生産方法で生産する組換えタンパク質(以下、「目的とするタンパク質」ということもある。)としては、工業規模での製造が好ましい任意のタンパク質を挙げることができ、例えば、工業用に利用できるタンパク質、医療用に利用できるタンパク質、構造タンパク質等を挙げることができる。工業用又は医療用に利用できるタンパク質の具体例としては、酵素、制御タンパク質、受容体、ペプチドホルモン、サイトカイン、膜又は輸送タンパク質、予防接種に使用する抗原、ワクチン、抗原結合タンパク質、免疫刺激タンパク質、アレルゲン、完全長抗体又は抗体フラグメント若しくは誘導体を挙げることができる。構造タンパク質の具体例としては、スパイダーシルク、カイコシルク、ケラチン、コラ-ゲン、エラスチン及びレシリン、並びにこれら由来のタンパク質等を挙げることができる。
【0018】
フィブロイン様タンパク質であるスパイダーシルク又はカイコシルク由来のタンパク質として、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式1中、(A)nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは8~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。
【0019】
コラーゲン由来のタンパク質として、例えば、式2:[REP2]oで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式2中、oは5~300の整数を示す。REP2は、Gly一X一Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP2は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenbankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0020】
レシリン由来のタンパク質として、例えば、式3:[REP3]pで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、pは4~300の整数を示す。REP3はSer一J一J一Tyr一Gly一U-Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意のアミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP3は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenbankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0021】
エラスチン由来のタンパク質として、例えば、NCBIのGenbankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenbankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0022】
ケラチン由来のタンパク質として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号5で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenbankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含むタンパク質を挙げることができる。
【0023】
(組換えタンパク質を発現する組換え細胞)
本実施形態に係る組換え細胞は、例えば、目的とするタンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで宿主を形質転換することにより得ることができる。
【0024】
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0025】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。例えば原核生物の好ましい例として、大腸菌、バチルス・ズブチリス、シュードモナス、コリネバクテリウム、ラクトコッカス等を挙げることができ、より好ましくは、大腸菌細胞を挙げることができる。
【0026】
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、目的とするタンパク質をコードする核酸を転写できる位置に誘導性プロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0027】
誘導性プロモーターとしては、宿主細胞中で機能し、目的とするタンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターであればよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0028】
原核生物を宿主とした場合の誘導性プロモーターの具体例として、ラクトース又はそのアナログであるIPTG(イソプロピルチオール-β-D-ガラクトシド)により誘導されるT7プロモーター、tac及びtrcプロモーター、lac及びlacUV5プロモーター;アラビノースにより誘導されるaraBADプロモーター;β-インドールアクリル酸添加若しくはトリプトファン飢餓により誘導され、トリプトファン添加により抑制されるtrpプロモーター;ラムノースにより誘導されるrhaBADプロモーター;キシロースにより誘導されるxylFプロモーター及びxylAプロモーター;アラビノースにより誘導されるaraBADプロモーター;温度上昇により誘導されるλファージのPRプロモーター及びPLプロモーター;リン酸飢餓により誘導されるphoAプロモーター;並びにグルコース飢餓により誘導されるcstAプロモーター及びcstA-lacZプロモーター等を挙げることができる。
【0029】
細菌等の原核生物の宿主としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。
【0030】
エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ BL21(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)(ライフテクノロジーズ社)、エシェリヒア・コリ BLR(DE3)(メルクミリポア社)、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ GI698、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ K5(ATCC 23506)、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ MG1655(ATCC 47076)、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ TB1、エシェリヒア・コリ Tuner(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ Tuner(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) XL1-Blue、エシェリヒア・コリ XL2-Blue等を挙げることができる。
【0031】
ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ、ブレビバチルス・ボルステレンシス、ブレビバチルス・セントロポラスブレビバチルス・フォルモサス、ブレビバチルス・インボカツス、ブレビバチルス・ラチロスポラス、ブレビバチルス・リムノフィルス、ブレビバチルス・パラブレビス、ブレビバチルス・レウスゼリ、ブレビバチルス・サーモルバー、ブレビバチルス・ブレビス47(FERM BP-1223)、ブレビバチルス・ブレビス47K(FERM BP-2308)、ブレビバチルス・ブレビス47-5(FERM BP-1664)、ブレビバチルス・ブレビス47-5Q(JCM8975)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(FERM BP-1087)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-S(FERM BP-6623)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-OK(FERM BP-4573)、ブレビバチルス・チョウシネンシスSP3株(Takara社製)等を挙げることができる。
【0032】
セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス(Serratia liquefacience)ATCC14460、セラチア・エントモフィラ(Serratia entomophila)、セラチア・フィカリア(Serratia ficaria)、セラチア・フォンティコーラ(Serratia fonticola)、セラチア・グリメシ(Serratia grimesii)、セラチア・プロテアマキュランス(Serratia proteamaculans)、セラチア・オドリフェラ(Serratia odorifera)、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthica)、セラチア・ルビダエ(Serratia rubidaea)等を挙げることができる。
【0033】
バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等を挙げることができる。
【0034】
ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354等を挙げることができる。
【0035】
ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ATCC14020、ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067)ATCC13826、ATCC14067、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)ATCC14068、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869)ATCC13665、ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウムATCC13825、ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)ATCC14066、ブレビバクテリウム・チオゲニタリスATCC19240、ブレビバクテリウム・アルバムATCC15111、ブレビバクテリウム・セリヌムATCC15112等を挙げることができる。
【0036】
コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC6871、ATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC14067、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)ATCC13870、コリネバクテリウム・アセトグルタミカムATCC15806、コリネバクテリウム・アルカノリティカムATCC21511、コリネバクテリウム・カルナエATCC15991、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13020,ATCC13032,ATCC13060、コリネバクテリウム・リリウムATCC15990、コリネバクテリウム・メラセコーラATCC17965、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネスAJ12340(FERMBP-1539)、コリネバクテリウム・ハーキュリスATCC13868等を挙げることができる。
【0037】
シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・ブラシカセラム(Pseudomonas brassicacearum)、シュードモナス・フルバ(Pseudomonas fulva)、及びシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)D-0110等を挙げることができる。
【0038】
上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63-248394号公報)、又はGene,17,107(1982)やMolecular & General Genetics,168,111(1979)に記載の方法等を挙げることができる。
【0039】
ブレビバチルス属に属する微生物の形質転換は、例えば、Takahashiらの方法(J.Bacteriol.,1983,156:1130-1134)や、Takagiらの方法(Agric.Biol.Chem.,1989,53:3099-3100)、又はOkamotoらの方法(Biosci.Biotechnol.Biochem.,1997,61:202-203)により実施することができる。
【0040】
目的とするタンパク質をコードする核酸を導入するベクター(以下、単に「ベクター」という。)としては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600号公報)、pKYP200〔Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescript II SK(-)(Stratagene社製)、pTrs30〔Escherichiacoli JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製〕、pTrs32〔Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製〕、pGHA2〔Escherichia coli IGHA2(FERM B-400)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pGKA2〔Escherichia coli IGKA2(FERM BP-6798)より調製、特開昭60-221091号公報〕、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pGEX(Pharmacia社製)、pETシステム(Novagen社製)等を挙げることができる。
【0041】
宿主としてEscherichia coliを用いる場合は、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold等を好適なベクターとして挙げることができる。
【0042】
ブレビバチルス属に属する微生物に好適なベクターの具体例として、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、又はpHY500(特開平2-31682号公報)、pNY700(特開平4-278091号公報)、pHY4831(J.Bacteriol.,1987,1239-1245)、pNU200(鵜高重三、日本農芸化学会誌1987,61:669-676)、pNU100(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1989,30:75-80)、pNU211(J.Biochem.,1992,112:488-491)、pNU211R2L5(特開平7-170984号公報)、pNH301(Appl.Environ.Microbiol.,1992,58:525-531)、pNH326、pNH400(J.Bacteriol.,1995,177:745-749)、pHT210(特開平6-133782号公報)、pHT110R2L5(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1994,42:358-363)、又は大腸菌とブレビバチルス属に属する微生物とのシャトルベクターであるpNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0043】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。
【0044】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、シワニオミセス(Schwanniomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、ヤロウィア属及びハンゼヌラ属等に属する酵母を挙げることができる。より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、トリコスポロン・プルランス(Trichosporon pullulans)、シワニオマイセス・アルビウス(Schwanniomyces alluvius)、シワニオマイセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)ピキア・アングスタ(Pichia angusta)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・ポリモルファ(Pichia polymorpha)、ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等を挙げることができる。
【0045】
酵母を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターは通常、複製起点(宿主における増幅が必要である場合)及び大腸菌中でのベクターの増殖のための選抜マーカー、酵母における組換えタンパク質発現のための誘導性プロモーター及びターミネーター、並びに酵母のための選抜マーカーを含むことが好ましい。
【0046】
発現ベクターが非組込みベクターの場合、さらに自己複製配列(ARS)を含むことが好ましい。これにより細胞内における発現ベクターの安定性を向上させることができる(Myers、A.M.、et al.(1986)Gene 45:299-310)。
【0047】
酵母を宿主として用いる場合のベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、YIp、pHS19、pHS15、pA0804、pHIL3Ol、pHIL-S1、pPIC9K、pPICZα、pGAPZα、pPICZ B等を挙げることができる。
【0048】
酵母を宿主とした場合の誘導性プロモーターの具体例として、ガラクトース誘導性のgal 1プロモーター及びgal 10プロモーター;銅誘導性のCUP 1プロモーター;チアミン誘導性のnmt1プロモーター;並びにメタノール誘導性のAOX1プロモーター、AOX2プロモーター、DHASプロモーター、DASプロモーター、FDHプロモーター、FMDHプロモーター、MOXプロモーター、ZZA1、PEX5-、PEX8-及びPEX14-プロモーター等を挙げることができる。
【0049】
酵母への発現ベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法(Methods Enzymol.,194,182(1990))、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,4889(1984))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983))、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法等を挙げることができる。
【0050】
糸状真菌としては、例えば、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ウスチラーゴ(Ustilago)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、フザリウム(Fusarium)属、フミコーラ(Humicola)属、ペニシリウム(Penicillium)属、マイセリオフトラ(Myceliophtora)属、ボトリティス(Botryts)属、マグナポルサ(Magnaporthe)属、ムコア(Mucor)属、メタリチウム(Metarhizium)属、モナスカス(Monascus)属、リゾプス(Rhizopus)属、及びリゾムコア属に属する菌等を挙げることができる。
【0051】
糸状真菌の具体例として、アクレモニウム・アラバメンゼ(Acremonium alabamense)、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)、アスペルギルス・アクレアツス(アキュレータス)(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・サケ(Aspergillus sake)、アスペルギルス・ゾジエ(ソーヤ)(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・テュビゲンシス(Aspergillus tubigensis)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・パラシチクス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・フィクム(フィキュウム)(Aspergillus ficuum)、アスペルギルス・フェニクス(Aspergillus phoeicus)、アスペルギルス・フォエチズス(フェチダス)(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・フラーブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ヤポニクス(ジャポニカス)(Aspergillus japonicus)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・ハージアヌム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reseei)、クリソスポリウム・ルクノエンス(Chrysosporium lucknowense)、サーモアスクス(Thermoascus)、スポロトリクム(Sporotrichum)、スポロトリクム・セルロフィルム(Sporotrichum cellulophilum)、タラロマイセス(Talaromyces)、チエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)、チラビア(Thielavia)、ノイロスポラ・クラザ(Neurospora crassa)、フザリウム・オキシスポーラス(Fusarium oxysporus)、フザリウム・グラミネルム(Fusarium graminearum)、フザリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、ペニシリウム・クリゾゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・カネセンス(Penicillium canescens)、ペニシリウム・エメルソニ(Penicillium emersonii)、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium funiculosum)、ペニシリウム・グリゼオロゼウム(Penicillium griseoroseum)、ペニシリウム・パープロゲナム(Penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・ロケフォルチ(Penicillium roqueforti)、マイセリオフトラ・サーモフィルム(Myceliophtaora thermophilum)、ムコア・アンビグス(Mucor ambiguus)、ムコア・シイルシネロイデェス(Mucor circinelloides)、ムコア・フラギリス(Mucor fragilis)、ムコア・ヘマリス(Mucor hiemalis)、ムコア・イナエクイスポラス(Mucor inaequisporus)、ムコア・オブロンジエリプティカス(Mucor oblongiellipticus)、ムコア・ラセモサス(Mucor racemosus)、ムコア・レクルバス(Mucor recurvus)、ムコア・サトゥルニナス(Mocor saturninus)、ムコア・サブティリススミウス(Mocor subtilissmus)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、リゾムコア・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾムコア・プシルス(Rhizomucor pusillus)、リゾプス・アルヒザス(Rhizopus arrhizus)等を挙げることができる。
【0052】
糸状真菌を宿主とした場合の誘導性プロモーターの具体例として、サリチル酸誘導性PR1aプロモーター;シクロヘキシミド誘導性Placcプロモーター;及びキナ酸誘導性Pqa-2プロモーター等を挙げることができる。
【0053】
糸状真菌への発現ベクターの導入は,従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、Cohenらの方法(塩化カルシウム法)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69:2110(1972)]、プロトプラスト法[Mol.Gen.Genet.,168:111(1979)]、コンピテント法[J.Mol.Biol.,56:209(1971)]、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0054】
本実施形態に係る組換え細胞は、目的とするタンパク質をコードする核酸が染色体(染色体DNA)に組み込まれていてもよい。目的とするタンパク質をコードする核酸は、1又は複数の調節配列に作動可能に連結されている。この場合の調節配列は、外来性のものであってもよく、内在性のものであってもよい。
【0055】
目的とするタンパク質をコードする核酸を宿主の染色体へ組み込む方法としては、公知の方法を使用することができ、例えば、λファージの2重鎖切断修復における組換え機構を応用したλred法、Red/ET相同組換え法、pUT-mini Tn5を用いたトランスポゾン活性を利用した転移法が挙げられる。また、例えば、バイオメダル社の「トランスポゾンによる遺伝子導入キット:pUTmini-Tn5 Kit」等を用い、キットに記載の方法に準じて、目的とするタンパク質をコードする核酸を宿主の染色体に組み込むことができる。
【0056】
(培養方法)
本実施形態に係る生産方法は、組換え細胞を増殖させた培養液の一部に新鮮な培地を添加して連続的に培養することを含み、組換えタンパク質の発現を誘導した組換え細胞を繰り返し使用しないことを特徴とする。ここで、「繰り返し使用しない」とは、当該組換えタンパク質の発現を誘導した組換え細胞を再度の増殖のための培養に使用しないことを意味する。培養は、例えば、深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。
【0057】
本実施形態に係る培養方法としては、例えば、回分培養又は流加培養で組換え細胞を増殖させた後、増殖した組換え細胞を含む培養液を組換えタンパク質の発現誘導用と再度の増殖のための培養用に分け、再度の増殖のための培養用の培養液に新鮮な培地を添加して培養することを繰り返す方法が挙げられる。組換えタンパク質の発現誘導用の培養液として取り分ける量は、例えば、培養液全体を基準として、70~99体積%であってよく、80~99体積%であることが好ましく、90~99体積%であることがより好ましい。再度の増殖のための培養用の培養液として取り分ける量は、例えば、培養液全体を基準として、1~30体積%であってよく、1~20体積%であることが好ましく、1~10体積%であることがより好ましい。
【0058】
増殖のための培養を流加培養で行う場合、流加基質溶液は、例えば、培地成分の1以上の栄養素を含むものとすることができる。流加基質溶液のフィードは、当該技術分野で公知の方法に従って、連続方式、不連続方式等で行えばよい。フィード量について特に制限はなく、線形定係数方式、線形増加方式、段階的増加方式、指数関数的フィード方式等を組み合わせ、増殖した菌体量を指標としてフィードを行えばよい。菌体量は、例えば、乾燥菌体重量、湿菌体重量、コロニー形成単位等で確認することができる。フィードを行うことにより組換え細胞を高密度に培養することができる。
【0059】
他の実施形態に係る培養方法としては、例えば、培養液量を略一定に保ちつつ新鮮な培地の流加と培養液の排出を連読的に行い、培養液中の培地組成が時間的に変化しない定常状態で培養を行う培養方法(連続培養)において、排出された培養液を組換えタンパク質の発現誘導用の培養液として使用する方法が挙げられる。
【0060】
培養に用いられる培地の種類に関して特に制限はない。組換え細胞が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、組換え細胞の培養を効率的に行える培地であれば天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。
【0061】
炭素源としては、組換え細胞が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0062】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
【0063】
無機塩としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0064】
培養温度は、例えば、15~40℃である。培養中の培養液のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養液のpHは、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて調整することができる。
【0065】
図1を参照して一実施形態に係る生産方法をより具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る組換えタンパク質の生産方法に使用する培養システムを模式的に示す図である。
図1に示す培養システム100は、2機の培養槽10及び培養槽20を備える。培養槽10は、組換え細胞を増殖させる培養槽である。培養槽10には、ポンプ50を介して接続された流加基質溶液貯槽30から流加基質溶液31が供給される。
【0066】
培養槽10で増殖させた組換え細胞は、例えば、対数増殖期の中期から後期に差し掛かった時点で培養液11として培養槽20に移送される。移送される培養液11の量は、例えば、培養液11の全量を基準として、70~99体積%であってよく、80~99体積%であることが好ましく、90~99体積%であることがより好ましい。移送後の培養槽10には、培養液11の一部が残留しており、ここに培地貯槽40から新鮮な培地41が供給され、組換え細胞の増殖が繰り返される。
【0067】
培養槽20は、組換えタンパク質を発現させる培養槽である。培養槽20では、誘導性プロモーターを活性化させ、組換えタンパク質の発現を誘導する。ここで、誘導性プロモーターの活性化とは、誘導性プロモーターによる組換えタンパク質をコードする核酸の転写を活性化することを意味する。例えば、誘導性プロモーターが誘導物質(発現誘導剤)の存在により活性化するものである場合、培養槽20に当該誘導物質を添加することで組換えタンパク質の発現を誘導することができる。また、例えば、誘導性プロモーターが温度の上昇又は低下により活性化するものである場合、培養槽20を加温又は冷却して培養液21の温度を制御することで組換えタンパク質の発現を誘導することができる。
【0068】
培養槽20では、例えば、10~20時間の間、組換えタンパク質の発現を誘導する。この間、培養槽20には、ポンプ51を介して接続された流加基質溶液貯槽30から流加基質溶液31を供給してもよい。流加基質溶液31は、培養培地に含まれる1以上の栄養素を含む。流加基質溶液31を供給することにより、組換えタンパク質の発現誘導の効率が向上する。
【0069】
組換えタンパク質の発現の誘導を所望の時間行った後、培養液21は、分離精製槽60に移送される。移送される培養液21の量は、培養液21の全量を基準として、例えば、50~100体積%であってよく、80~100体積%であることが好ましく、90~100体積%であることがより好ましく、100体積%であることが更に好ましい。分離精製槽60では、発現された組換えタンパク質の分離及び精製が行われる。
【0070】
培養液21が移送された後の培養槽20には、培養槽10で増殖させた組換え細胞が移送され、組換えタンパク質の発現が誘導される。このようにして、培養槽10での組換え細胞の増殖、及び培養槽20での組換えタンパク質の発現誘導が連続的に繰り返される。
【0071】
培養システム100では、組換え細胞の増殖と、組換えタンパク質の発現の誘導とが、異なる培養槽(培養槽10及び培養槽20)で行われるため、組換えタンパク質の発現を誘導した組換え細胞が繰り返し使用されることはない。この構成により、上述したサイクルを繰り返しても、安定して組換えタンパク質を効率よく生産できる。また、組換え細胞としてプラスミド型発現株を使用した場合、プラスミドの脱落等も抑制される。
【0072】
図4は、従来の組換えタンパク質の生産方法に使用する培養システムを模式的に示す図である。
図4に示す培養システム200は、1機の培養槽10のみを備える。培養槽10では、組換え細胞の増殖、及び組換えタンパク質の発現誘導の双方が行われる。培養槽10で組換えタンパク質の発現の誘導を所望の時間行った後、培養液11は、分離精製槽60に移送される。移送後の培養槽10には、培養液11の一部が残留しており、ここに培地貯槽40から新鮮な培地41が供給され、組換え細胞の増殖、及び組換えタンパク質の発現誘導が繰り返される。培養システム200の構成では、上述したサイクルを繰り返した場合に組換えタンパク質の生産量が著しく低下する。また、組換え細胞としてプラスミド型発現株を使用した場合、プラスミドの脱落が生じやすい。
【0073】
一実施形態に係る生産方法は、下記(A)~(E)工程を繰り返すことを含んでいてもよい。
(A)組換え細胞を、培養槽で回分培養又は流加培養により増殖させる工程
(B)(A)工程での増殖後、培養槽の培養液の一部を受け入れ用の培養槽に移送する工程
(C)(B)工程での移送後、両培養槽のいずれか一方に新鮮な培地を添加して、(A)工程に進む工程
(D)(C)工程で(A)工程に進まなかったもう一方の培養槽で上記組換えタンパク質の発現を誘導し、上記組換えタンパク質を蓄積させる工程
(E)(D)工程で蓄積させた上記組換えタンパク質を、培養液から分離及び精製する工程
【0074】
受け入れ用の培養槽で(D)工程を実施する場合、(B)工程で受け入れ用の培養槽に移送する培養液の量は、培養液全量を基準として、70~99体積%であってよく、80~99体積%であることが好ましく、90~99体積%であることがより好ましい。また、受け入れ用の培養槽で(C)工程を実施する場合、(B)工程で受け入れ用の培養槽に移送する培養液の量は、培養液全量を基準として、1~30体積%であってよく、1~20体積%であることが好ましく、1~10体積%であることがより好ましい。
【0075】
(組換えタンパク質の発現誘導)
組換えタンパク質の発現の誘導は、誘導性プロモーターによる転写(目的とするタンパク質をコードする核酸の転写)を活性化することにより行われる。誘導性プロモーターの活性化は、誘導性プロモーターの種類に応じて、当該技術分野で公知の方法に従って行うことができる。
【0076】
例えば、誘導物質(発現誘導剤)の存在により活性化される誘導性プロモーターを使用した場合、当該誘導物質を培養液に添加することにより、組換えタンパク質の発現を誘導することができる。誘導物質は、1度に、又は複数回に分けて培養液に添加してもよく、また、連続フィードにより培養液に添加してもよい。流加基質溶液に誘導物質を含有させてフィードしてもよい。添加する誘導物質の量は、誘導物質及び誘導性プロモーターの種類に応じて設定することができるが、例えば、組換え細胞の乾燥重量1g当たり0.1~30μgの範囲とすることができ、好ましくは、0.5~20μgの範囲である。
【0077】
また例えば、温度の上昇又は低下により活性化される誘導性プロモーターを使用した場合、培養液の温度を上昇又は低下させることにより、組換えタンパク質の発現を誘導することができる。例えば、温度上昇により活性化されるλファージのPRプロモーター又はPLプロモーターを使用した場合、増殖時の培養液の温度を20~37℃の範囲とすることで増殖時の組換えタンパク質の発現は抑えられ、次いで培養液の温度を38~44℃に上昇させることにより、組換えタンパク質の発現を誘導させることができる。このときに熱ショックタンパク質による影響を緩和させるために、特開平6-292563号公報に記載のように増殖時の培養液のpHを6.5~7.5とし、組換えタンパク質の発現誘導を開始する時点で培養液のpHを4.5~6.5と変動させることにより、より安定した発現誘導を行うことができる。
【0078】
組換え細胞の増殖を行う段階から、組換えタンパク質の発現を誘導する段階へ移行する時期には、特に制限はなく、培養システムの構成、生産プロセスの設計に応じて適宜設定することができる。組換えタンパク質の生産を効率よく行う観点からは、組換え細胞の増殖が対数増殖期の中期~後期に達した時に、組換えタンパク質の発現の誘導を開始するのが好ましい。
【0079】
組換え細胞の増殖は、遅延期又は誘導期(培養初期の細胞数の増加が遅い時期)から始まり、対数増殖期(単位時間ごとに細胞数が2倍と対数的に増加する時期)を経て、定常期(細胞の正味の数に変動の見られない時期)に至る。対数増殖期の中期とは、遅延期における細胞数と定常期における細胞数の中間程度の細胞数になる時期をいい、対数増殖期の後期とは、中期から定常期までの時期をいう。組換えタンパク質の発現の誘導を開始する時期の具体例として、例えば、定常期におけるOD600の値が約150になる組換え細胞の場合、OD600の値が30~110に達した時期であるのが好ましく、40~90に達した時期であるのがより好ましく、50~80に達した時期であるのが更に好ましい。
【0080】
組換えタンパク質の発現を誘導する時間は、使用する宿主、目的とするタンパク質の種類に応じて、設定した生産量に達するまで行えばよい。培養液の温度等の培養条件により生産速度は変化するため、組換えタンパク質の発現を誘導する時間を一義的に決める必要はない。次工程の組換えタンパク質の分離及び精製の進行に合わせて組換えタンパク質の発現を誘導する時間を設定してもよい。また、並行して行っている組換え細胞の増殖、及び当該増殖した組換え細胞の移送に影響がないように組換えタンパク質の発現を誘導する時間を設定することが、工業的生産においては好ましい。
【0081】
組換えタンパク質の発現誘導を行った培養液は、下記目的組換えタンパク質の分離、精製に使用する。
【0082】
(組換えタンパク質の分離、精製)
組換えタンパク質の分離及び精製は、通常用いられている方法で行うことができる。例えば、組換えタンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、組換えタンパク質の発現誘導のための培養終了後、宿主細胞(組換え細胞)を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、組換えタンパク質の精製標品を得ることができる。
【0083】
また、組換えタンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として組換えタンパク質の不溶体を回収する。回収した組換えタンパク質の不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により組換えタンパク質の精製標品を得ることができる。
【0084】
組換えタンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から組換えタンパク質を回収することができる。すなわち、培養液を遠心分離等の手法により処理することにより、培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、組換えタンパク質の精製標品を得ることができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
〔(1)改変フィブロイン発現株の作製〕
(プラスミド型発現株の作製)
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(以下、「SEC472」ともいう。)を設計した。
【0087】
配列番号1で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号6で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されている。
【0088】
次に、SEC472をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0089】
pET-22b(+)発現ベクターで大腸菌BLR(DE3)を形質転換し、プラスミドを導入したプラスミド型発現株SEC659を取得した。
【0090】
(染色体組込み型発現株の作製)
バイオメダル社のpUTmini-Tn5 Kitを用いて、染色体組込み型発現株を作製した。
【0091】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(SEC472)をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端及び終止コドン下流にNotIサイトを付加した。当該核酸をpUTmini-Tn5 KmのNotIサイトに挿入したプラスミドを作製した。次に、当該プラスミドでS17-1 λpirを形質転換させた株と、大腸菌BLR(DE3)を1:1で混合し、LB及びKm含有プレート培地で培養した。Km耐性及びAp感受性を示した株から、染色体に当該核酸が組み込まれた染色体組込み型発現株SEC714を取得した。
【0092】
〔(2)シード培養〕
上記(1)で作製したプラスミド型発現株SEC659及び染色体組込み型発現株SEC714を、それぞれアンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。同培養液をアンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD
600が0.005となるように添加し、培養液温度を30℃に保ち、OD
600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、それぞれのシード培養液を得た。
【表1】
【0093】
〔(3)本培養用培地の調製〕
本培養用培地の組成を表2に示す。
【表2】
培養槽に500mLの本培養用培地(表2)を加え、オートクレーブ(TOMY LSX-500)で121℃、20分間滅菌処理した。37℃まで冷却後、28-30%アンモニア水(関東化学、01266-88)を用いてpHを6.1~6.3に調整した。
【0094】
〔(4)流加基質溶液の調製〕
流加基質溶液の組成を表3に示す。
【表3】
流加ポットに所定量流加基質溶液を加え、オートクレーブ(TOMY LSX-500)で121℃、20分間滅菌処理した。
【0095】
〔(5)反復流加培養及び発現誘導〕
図1に示す培養システム100を使用し、プラスミド型発現株SEC659及び染色体組込み型発現株SEC714により組換え改変フィブロインの生産を行った。培養槽10及び培養槽20として、TSC-A1L-5型培養槽(高杉製作所,容量1L)を使用した。組換え改変フィブロインは、所定の細胞密度になるまで流加培養した培養液(約95%)を発現誘導に使用し、培養液の残部(約5%)に新鮮な培地を添加して流加培養を繰り返す、反復流加培養により生産した。
【0096】
本培養用培地(初発培地量0.5L)を培養槽10に張り込み、上記で得られたシード培養液をOD600が0.05となるように添加した。培養液の温度を37℃に保ち、30%アンモニア水及び4Mリン酸溶液(和光純薬工業)を用いてpH6.9で一定に制御して本培養した。また培養液中の溶存酸素濃度が、溶存酸素飽和濃度の30~40%に維持されるように、通気攪拌した。これらの制御には、マスフローコントローラー(アズビル、MPC0005BBRN0100D0)を用いた。
【0097】
本培養において、溶存酸素飽和濃度の約30%を下回った後に、同約55%を超えた時点で、流加基質溶液貯槽30から培養槽10へと流加基質溶液31の流加を開始した。流加基質溶液31の流加速度は、6g/時の定速流加とした。
【0098】
培養槽10において、培養液11のOD600が約60となるまで流加培養を継続した後、当該培養液11の約95%を、サンプリングライン(図示せず)を介して無菌的に培養槽20に移送した。移送後、培養槽20にIPTG(発現誘導剤)を0.2mMとなるように添加し、組換え改変フィブロインの発現誘導を開始した。
【0099】
発現誘導開始後、流加基質溶液貯槽30から培養槽20へと流加基質溶液31を流加速度9g/時で流加したこと以外は、培養槽10での本培養と同じ条件で培養を継続した。培養槽20で発現誘導を約16時間行った後、培養液21の全量を分離精製槽60に移送して、組換え改変フィブロインの分離・精製に用いた。
【0100】
培養槽20に培養液11を移送した後の培養槽10(約5%の培養液11が残っている)に、培地貯槽40から新鮮な培地41を添加し、上記と同様の条件で培養槽10で本培養及び流加培養を行った。培養液21の全量を分離精製槽60に移送した後の培養槽20に、上記と同様、OD600が約60となるまで流加培養した培養槽10の培養液11を移送し、組換え改変フィブロインの発現誘導を行った。上記本培養を含め、この反復流加培養を8回繰り返した。
【0101】
プラスミド型発現株SEC659及び染色体組込み型発現株SEC714による8回の反復流加培養における組換え改変フィブロインの生産量を解析した結果を
図2に示す。
図2に示す生産量は、SEC714による1回目の反復流加培養における組換え改変フィブロインの生産量を100%とした相対値で示している。
【0102】
図2に示すとおり、プラスミド型発現株SEC659及び染色体組込み型発現株SEC714の両株とも、1回目の反復流加培養における組換え改変フィブロインの生産量を8回目の反復流加培養においても維持していた。
【0103】
また、プラスミド型発現株SEC659におけるプラスミド保持率を以下の方法で確認した。反復流加培養の各回の培養後の培養液をLB培地で希釈し、LB寒天培地上(培地A)に播種した。37℃の恒温槽で18~20時間培養した後、生育してきたコロニー50~100個を、滅菌済みの爪楊枝でアンピシリンを添加したLB寒天培地(培地B)上に移した。この培地Bに植え替えた株を37℃の恒温槽で12~18時間培養した後、培地Aから培地Bに移したコロニー数と、培地B上で形成されたコロニー数を計数し、下記計算式で算出した。
プラスミド保持率=(培地B上で形成されたコロニー数)/(培地Aから培地Bに移したコロニー数)
その結果、プラスミド型発現株SEC659は、8回目の反復流加培養のIPTG添加時までプラスミド保持率100%を維持していた。
【0104】
なお、配列番号2~5のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、ケラチン、コラ-ゲン、エラスチン及びレシリン由来の組換えタンパク質についても、上述した方法により、安定した生産を継続できる。
【0105】
[比較例1]
〔反復流加培養及び発現誘導〕
図4に示す従来の培養システム200を使用し、プラスミド型発現株SEC659及び染色体組込み型発現株SEC714により組換え改変フィブロインの生産を行った。培養槽10及び培養槽20として、TSC-A1L-5型培養槽(高杉製作所,容量1L)を使用した。組換え改変フィブロインは、発現誘導を行った培養液の一部(約5%)に新鮮な培地を添加して流加培養を繰り返す、反復流加培養により生産した。
【0106】
組換え改変フィブロインの発現誘導を、培養槽20ではなく、本培養及び流加培養を行った培養槽10で継続して行ったこと以外は、実施例1とほぼ同条件で反復流加培養及び発現誘導を行った。
【0107】
すなわち、培養槽10において、培養液11のOD600が約60となるまで流加培養を継続した後、引き続き培養槽10にIPTG(発現誘導剤)を0.2mMとなるように添加し、組換え改変フィブロインの発現誘導を開始した。発現誘導開始後、流加基質溶液貯槽30から培養槽10へと流加基質溶液31を流加速度9g/時で流加した。培養槽10で発現誘導を約16時間行った後、培養液11の約95%を分離精製槽60に移送して、組換え改変フィブロインの分離・精製に用いた。移送後、当該培養槽10(約5%の培養液11が残っている)に、培地貯槽40から新鮮な培地41を添加し、同じ条件で本培養、流加培養及び組換え改変フィブロインの発現誘導を行った。この反復流加培養を5回繰り返した。
【0108】
プラスミド型発現株SEC659及び染色体組込み型発現株SEC714による5回の反復流加培養における組換え改変フィブロインの生産量を解析した結果を
図3に示す。
図3に示す生産量は、SEC714による1回目の反復流加培養における組換え改変フィブロインの生産量を100%とした相対値で示している。
【0109】
図3に示すとおり、培養槽10のみで反復流加培養を繰り返した場合(すなわち、組換え改変フィブロインの発現を誘導した組換え細胞を繰り返し使用した場合)、プラスミド型発現株SEC659では、2回目以降の組換え改変フィブロインの生産量は極端に低下した。実施例1と同様にして測定したプラスミド保持率は、2回目の反復流加培養のIPTG添加時点で0%となっていた。一方、染色体組込み型発現株SEC714では、反復流加培養の回数を重ねる毎に組換え改変フィブロインの生産量は低下するものの、プラスミド型発現株SEC659よりは、安定した生産量を示した。
【符号の説明】
【0110】
10,20…培養槽、11,21…培養液、30…流加基質溶液貯槽、31…流加基質溶液、40…培地貯槽、41…培地、50,51…ポンプ、60…分離精製槽、100,200…培養システム。
【配列表】