(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】水素製造システム及び水素製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/04 20210101AFI20240312BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240312BHJP
F03B 3/02 20060101ALI20240312BHJP
F03B 7/00 20060101ALI20240312BHJP
C01B 3/02 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C25B1/04
C25B9/00 A
F03B3/02
F03B7/00
C01B3/02 Z
(21)【出願番号】P 2020035944
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】518379658
【氏名又は名称】日本水力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】石原 条
(72)【発明者】
【氏名】川本 正男
(72)【発明者】
【氏名】市橋 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】長田 芳明
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-201483(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102433864(CN,A)
【文献】特開昭59-000574(JP,A)
【文献】特開平08-284792(JP,A)
【文献】特開2011-017298(JP,A)
【文献】特開2012-107331(JP,A)
【文献】特開2006-236741(JP,A)
【文献】特開2003-017083(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189501(WO,A1)
【文献】特開2019-161836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 9/77
C25B 13/00 - 15/08
C01B 3/00 - 6/34
F03B 1/00 - 11/08
H01M 8/00 - 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水量を調整するガイドベーンを備えた水車及びこれに接続される交流発電機を備え、1kW以上30000kW未満の交流電力を発生させる再生可能エネルギー発電機と、
前記再生可能エネルギー発電機が発生させる前記交流電力を120V以下の第一の直流電力に
変換及び出力するとともに、前記再生可能エネルギー発電機が発生させる前記交流電力を750V以下の第二の直流電力にも変換及び出力する第一の電力変換装置と、
前記第一の電力変換装置が発生させる前記第一の直流電力を用いて水から水素を発生させる水素発生装置と、
前記第一の電力変換装置から分岐し、前記第二の直流電力を交流電力に変換する第二の電力変換装置と、
前記水素発生装置が発生させた水素を貯蔵する水素貯蔵容器と、を備える水素製造システム。
【請求項2】
水量を調整するガイドベーンを備えた水車及びこれに接続される交流発電機を備え、再生可能エネルギー発電機により
1kW以上30000kW未満の交流電力を発生させるステップ、
前記再生可能エネルギー発電機により発生した前記交流電力を120V以下の第一の直流電力に変換
及び出力するとともに、前記再生可能エネルギー発電機により発生した前記交流電力を750V以下の第二の直流電力にも変換及び出力するステップ、
前記第一の直流電力を用いて
水から水素を発生させるステップ、
前記第二の直流電力を交流電力に変換するステップ、
前記水素を貯蔵するステップ、を備える水素製造方法。
【請求項3】
水素発生装置として燃料電池の再利用を図る請求項1記載の水素製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造システム及び水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーとは、石油や石炭等を燃焼させることによって得られる化石エネルギーとは異なり、太陽光、風、水流等自然界におけるエネルギー源から得られるエネルギーをいう。再生可能エネルギーは、枯渇せず、二酸化炭素等の温室効果ガスを排出しないという利点を有しており、環境問題が深刻化する現代社会においてその重要性は益々高いものとなっていくと考えられている。
【0003】
再生可能エネルギーのうち、水力発電によって得られる電気エネルギーは、急峻な山々とこの間に流れる河川に恵まれた日本において特に重要なエネルギーである。
【0004】
一方、水力発電は、その規模の大きさからいくつかのカテゴリーに分けられており、例えば環境省の定義によると30000kW未満を小水力とよび「新エネルギーの利用等の促進に関する特別措置法(新エネルギー法)」で活用を促している(以下、本明細書では30000kW未満の水力を「小水力」という。)。
【0005】
ところで、再生可能エネルギーは他のエネルギーと同様、発電機を用いて発生する電気エネルギーの形態をとるものが一般的であるが、電気エネルギーは電池等によって貯蔵が可能であるものの、その電池の容量や維持コストの観点から貯蔵において改善の余地がある。
【0006】
この改善に関する技術として、例えば下記特許文献1には、風力発電を用いて水素を発生させようとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は風力発電の構造に特化したものである。しかも、本装置は安定的に水素を製造する設備であることから安定した電力が必須となる。再生可能エネルギーとして風力や太陽光を用いる場合、発電変動が極めて大きいことから、経済合理性を無視した最大電力に合わせた極めて大きな水素製造設備を備えるか、過剰な電力の放出設備を備えるか、または蓄電池等の余剰電力を貯蔵する設備が必須となる。これはひとえに発電の元となるエネルギーの太陽光や風を一時的にも保存できないことによる。このため文献1においてもこれらの設備が必須となっている。
【0009】
一方、再生可能エネルギーとして小水力を用いれば発電電力の変動が極めて安定していることから経済合理性にかなう水素製造設備を備えることで効率良く水素を製造することが可能となる。また、水素製造に過剰な電力となった場合には水量を直接制御することで発電量そのものを制御することが可能となることから、余剰電気の放出設備や貯蔵設備は任意の選択肢となる。これは、一重に小水力発電は堰等を設けることで発電の元となる水エネルギーを一時的に保管できることによる。このように再生可能エネルギーにおいて小水力は、風力、太陽光とは一線を画するものである。
【0010】
さらに、30000kW未満のエネルギー量に適用するためには少なくない改善が必要である。具体的には、再生可能エネルギーにおいて、発電機を用いる場合、発生させた電力を交流から直流に、更に直流から交流に複数回変換し、更にその際昇圧及び降圧等を複数回行わなければならないといった課題がある。これはエネルギー損失となってエネルギーの利用効率低減をもたらす。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、よりエネルギー効率の良い水素製造システム及び水素製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の一観点に係る水素製造システムは、1kW以上30000kW未満の交流電力を発生させる再生可能エネルギー発電機と、再生可能エネルギー発電機が発生させる前記交流電力を120V以下の第一の直流電力に変換する第一の電力変換装置と、第一の電力変換装置が発生させる第一の直流電力を用いて水から水素を発生させる水素発生装置と、水素発生装置が発生させた水素を貯蔵する水素貯蔵容器と、を備えるものである。
【0013】
また、本観点において、再生可能エネルギー発電機は、水車及びこれに接続される交流発電機と、を備えることも好ましい。
【0014】
また、本観点において、水車は、水量を調整するガイドベーンを備えていることも好ましい。
【0015】
また、本観点において、第一の電力変換装置から分岐し、直流から交流電力に変換する第二の電力変換装置を有することが好ましい。
【0016】
また、本観点において、第一の電力変換装置は、再生可能エネルギー発電機が発生させる交流電力を750V以下の第二の直流電力に変換及び出力することも可能であり、第一の電力変換装置に接続され、第二の直流電力を、第二の直流電力より交流電力に変換する第二の電力変換装置を有することも好ましい。
【0017】
また、本観点において、水素発生装置として燃料電池の再利用を図る物であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の他の一観点に係る水素製造方法は、再生可能エネルギー発電機により交流電力を発生させるステップ、再生可能エネルギー発電機により発生した交流電力を120V以下の第一の直流電力に変換するステップ、第一の直流電力を用いて水素を発生させるステップ、水素を貯蔵するステップ、を備えるものである。
【発明の効果】
【0019】
以上、本発明によって、よりエネルギー効率の良い水素製造システム及び水素製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る水素製造システムの全体概略を示す図である。
【
図2】実施形態に係る水素製造システムが水力を利用する場合の概略図である。
【
図3】実施形態に係る水素製造システムの再生可能エネルギー発電機として水車及び交流発電機を用いた場合の例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る水素製造システムにおける第一の電力変換装置の電子回路の一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る水素製造システムにおける第一の電力変換装置の電子回路の他の一例を示す図である。
【
図6】実施形態に係る水素製造システムにおいて第二の電力変換装置を設けた場合のその電子回路の一例を示しておく。
【
図7】実施形態に係る水素製造システムにおける第一の電力変換装置及び第二の電力変換装置に関する機能ブロックを示す図である。
【
図8】実施形態に係る水素製造システムにおける水素製造装置の構成の概略を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(水素製造システム)
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、また以下に示す実施形態、実施例において記載される具体的な例示についても適宜変更及び調整が可能であり、これらに限定されるものではない。
【0022】
図1は、本実施形態に係る水素製造システム(以下「本システム」という。)S全体の概略図である。本図で示すように、本システムSは、1kW以上30000kW未満の交流電力を発生させる再生可能エネルギー発電機1と、再生可能エネルギー発電機1が発生させる交流電力を120V以下の第一の直流電力に変換する第一の電力変換装置2と、第一の電力変換装置が発生させる第一の直流電力を用いて水から水素を発生させる水素発生装置3と、水素発生装置3が発生させた水素を貯蔵する水素貯蔵容器4と、を備えるものである。
【0023】
まず、本システムSは、1kW以上30000kW未満の交流電力を発生させる再生可能エネルギー発電機1を備える。
【0024】
再生可能エネルギー発電機1とは、再生可能エネルギーを利用して電力を発生させることができるものをいう。ここでまず「再生可能エネルギー」とは、上記の通り、石油や石炭等を燃焼させることによって得られる化石エネルギーとは異なり、自然界におけるエネルギー源から得られるエネルギーをいう。再生可能エネルギーの具体的な例としては、例えば太陽光エネルギー(太陽光発電)、太陽熱エネルギー(太陽熱発電)、風力エネルギー(風力発電)、水力エネルギー(水力発電)、地熱エネルギー(地熱発電)、バイオマスエネルギー(バイオマス発電)、波エネルギー(波力発電)、潮流エネルギー(潮流発電)その他大気中等の熱エネルギー等を例示することができるが、水力発電である場合は、その発電量及びその安定性、水流が存在する場所であれば小規模でも設置可能であり、更にはその水素の原料となる水が近くに豊富に存在する等の観点から特に好ましい。
【0025】
また、上記の通り、本システムSでは、再生可能エネルギーを発生させるための発電機(再生可能エネルギー発電機)を備えている。この発電機としては、適合する再生可能エネルギーに応じて適宜可能であるが、例えば、太陽光エネルギー(太陽光発電)の場合は太陽パネル、太陽熱エネルギー(太陽熱発電)の場合はタービン及びこれに接続される交流発電機、風力エネルギー(風力発電)の場合は風車及びこれに接続される交流発電機、水力エネルギー(水力発電)の場合は水車及びこれに接続される交流発電機、地熱エネルギー(地熱発電)の場合はタービン及びこれに接続される交流発電機、バイオマスエネルギー(バイオマス発電)の場合は燃焼炉、タービン及びこれに接続される交流発電機等を例示することができるがこれに限定されない。なおここで「交流発電機」とは、交流電力を発生させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、軸とこの軸に接続されるコイルと、このコイルの周囲に設けられる磁石等の磁場発生部材を備え、このコイル又は磁石を回転させることにより交流電力を得ることができるいわゆる同期発電機や誘導発電機を例示することができる。
【0026】
また、上記の通り、再生可能エネルギー発電機1が発生させる電力は、1kW以上30000kW未満の交流電力であることが好ましい。再生可能エネルギー発電機1が発生させる電力をこの範囲とすることで、電力発電量とその設置容易性を効率的に確保し、安定的なエネルギーとして使用することができる範囲となる。
【0027】
すなわち、本システムSでは、水力発電とする場合、再生可能エネルギー発電機1としては、より具体的には、上記の通り水車11及びこれに接続される交流発電機12を用いることが好ましいといえる。この場合のイメージを
図2に示しておくとともに、
図3に、この水力発電の水車11及び交流発電機12を含む概略のイメージを示しておく。
【0028】
また、本図で示すように、水力発電の水車11の構成は、水力を用いて交流電力を発生させることができる限りにおいて限定されず、衝動水車であっても、反動水車であってもよい。衝動水車の場合は、例えばベルトン水車、ターゴ水車、クロスフロー水車等を例示することができ、反動水車の場合、フランシス水車、カプラン水車、チューブラ水車、ポンプ逆転水車等を例示することができる。なお、より小規模水力に対応して設置しやすく効率的な発電の観点からはフランシス水車であることが好ましい。
【0029】
また、上記の例として、フランシス水車を採用する場合、限定されるわけではないが構成として、小河川等の水源から水を内部に導き流し込むことができるケーシング111と、このケーシング111の内部に配置され水量を調節するためのガイドベーン112、及び、水流を受けて回転するランナー113、ケーシング111に導入された水を排出させるベンド管114、及び、水の排出口となる吸出管115を備えている。また更に、ランナー113にはランナー113に接続されこの回転を伝えるための棒状部材であるシャフト114が接続されていることが好ましい。そしてこのシャフト114は、交流発電機12の回転軸121になっており又は回転軸121に接続されており、交流発電機はこの回転軸121と、回転軸121に接続される発電機ローター122、及び、この発電機ローター122の周囲に配置される発電機ステータ123、これらを収容する筐体123と、を有することが好ましい。このような構成により、小河川等から引き入れた水はケーシング111内に導入され、ガイドベーン112により流量が調整され、ランナー113内に流れ込み、ランナー113の回転とともにシャフト114を回転させる。そしてシャフト114の回転はそのまま又は軸に接続され発電機ローター122を回転させ、誘導起電力によって交流の電力を発生させることが可能となる。なおランナーに導入された水はその後ベンド管114及び吸出管115を介して再び水車外に排出されることになる。このような小水力発電は比較的小規模に製造及び設置が可能であり、山間部への設置が容易であるといった利点がある。
【0030】
また、本図で示すように、再生可能エネルギー発電機1が発生させる電力は、上記の通り交流電力となる。そのため、本システムSでは、この交流を直流に変換する第一の電力変換装置2を備えている。より具体的に説明すると、本システムSでは、再生可能エネルギー発電機1が発生させる交流電力を120V以下の第一の直流電力に変換する第一の電力変換装置2を有する。ここで「第一の電力変換装置」と「第一」を用いているのは、後述の記載から明らかであるが、本システムSでは電力変換装置を複数設ける場合があるため、この二つの電力変換装置を異なるものとして区別するために用いる文言であって、「第一」という文言自体に、本明細書で言及する意味以外の技術的意味は含まない。また、「第一の直流電力」とは、後述のようにこれ以外にも交流電力から直流電力に変換する場合があるため、この二つ目の直流変換とは異なる直流変換であるという意味において「第一」という表現を加えるものであり、「第一」という文言自体に本明細書で言及する以外に特別な技術的な意味は含まれない。
【0031】
すなわち、本システムSでは、再生エネルギー発電機1が発生させる交流電力を、第一の電力変換装置2によって第一の直流電力に変換される。すなわち、第一の電力変換装置2は、いわゆるAC/DCコンバータ(交流から直流に返還する装置)であるといえる。そして、この第一の直流電力の電圧を120V以下とすることで、これに接続される水素発生装置3の公的動作範囲の電力とすることができ、これ以後の余計な電力変換処理は不要となる。なお、AC/DCコンバータの場合においてその構造は上記機能を有する限りにおいて限定されず、抵抗、コンデンサ及びダイオード等の電気素子を用いた電気回路によって実現することができ、半波整流型のものであっても、全波整流型のものであってもよい。AC/DCコンバータの電気回路の一例について
図4に示しておく。
【0032】
またこの場合において、第一の直流電力の電流量は、流量や再生エネルギー発電機1の性能によって適宜調整可能である。また電力量としては、好ましくは1kW以上30000kW未満、より好ましくは10kW以上1000kW以下、更に好ましくは10kW以上1000kW以下である。もちろん、第一の直流電力の電力量は、これに接続される水素発生装置3の水素発生量、個数によって適宜調整可能である。この範囲の第一の直流電力を得ることで、日本の山間部の狭い場所であっても好ましく設置することが可能となり非常に有用なシステムとして機能する。
【0033】
また、本システムSの第一の電力変換装置2では、再生可能エネルギー発電機1が発生させる交流電力を、上記第一の直流電力の他、750V以下の第二の直流電力に変換及び出力することが可能であることが好ましい。一般に再生可能エネルギー発電機1によって交流電力を発生させた場合、再生可能エネルギー発電機1が発生させる交流電力を一度この範囲の直流電力を発生させ、再びこの直流電力を交流電力に変換し外部に出力する。したがって、本システムSでは、第一の電力変換装置2によって、第一の直流電力として出力する一方、必要に応じて通常の再生可能エネルギー発電システムと同様に第二の直流電力を出力させることで、水素製造以外の用途を提供することができるようになる。なおここで「第二」とは、上記の説明からも明らかであるが、「第一の直流電力」と区別するために用いるための接頭語であり、本明細書において、これ以外に異なる技術的な意味を含ませるものではない。
【0034】
第一の電力変換装置2が上記第一の直流電流の他に第二の直流電力を出力することとする場合において、第一の直流電力の一部を用いて昇圧する構成としてもよく、再生可能エネルギー発電機1が発生させた交流電力の一部を第一の直流電力に、他の一部を第二の直流電力に振り分けるようにしてもよい。この場合の回路構成のイメージを
図5に示しておく。
【0035】
また、本システムSでは、上記第一の電力変換装置2が第二の直流電力を発生させることができる場合において、これに接続される第二の電力変換装置5を備えていることが好ましい。このようにすることで、後述の記載から明らかであるが改めて所定の電圧範囲の交流電力とすることで一般的な送電方式を採用し外部に電力を供給しやすくなる。ここで「第二の」としているのは、上記の通り、本システムSは複数の電力変換装置を備えている場合があり、これを区別するためである。すなわちこの「第二」においても、本明細書において、異なる技術的な意味が含まれるものではない。
【0036】
また、本システムSにおいて第二の電力変換装置5は、上記の記載からも明らかであるが、第二の直流電力の入力を受け、これに基づき、第二の直流電力より交流電力に変換するものである。これにより、上記の通り本システムS外において安定的に使用することのできる交流電力を得ることができる。この動作から明らかなように、第二の電力変換装置5は、直流電力から交流電力を得ることができるDC/ACコンバータ(直流を交流に変換する装置)であるということができる。DC/ACコンバータの場合においてその構造は上記機能を有する限りにおいて限定されず、抵抗、コンデンサ及びダイオード等の電気素子を用いた電気回路によって実現することができ、半波整流型のものであっても、全波整流型のものであってもよい。DC/ACコンバータの電気回路の一例について
図6に示しておく。
【0037】
この結果、本システムSでは、従来の再生可能エネルギーシステムに比べ、非常に効率的な電力変換を可能とする。具体的には、従来の一般的な再生可能エネルギーシステムでは、再生可能エネルギー発電機によって交流電力を発生させ、これに基づき680V程度の直流電力に変換する(1回目の電力変換)。そして、これからさらに直流から交流電力に再度変換する(2回目の電力変換)。さらにこの電力供給を受けて外部装置、例えば水素発生装置を駆動させようとする場合、120V以下の直流電源に降圧及び電力変換(3回目の電力変換)を行う必要がある。すなわち、従来の再生可能エネルギーシステムを用いると多数回の電力変換並びに昇圧及び降圧を行うことが必要になる。そしてこの結果、この間のエネルギー損失が無視できず非常に無駄が多いものとなる。一方、本システムSによると、水素発生装置3を接続させるものであるが、再生可能エネルギー発電機1が発生させた交流電力を第一の直流電力に降圧及び変換するだけでその第一の直流電力をそのまま使用することができるようにしているため、上記の従来の再生可能エネルギーシステムに比べて非常に効率的な電力システムとなる。この結果、当然、システム全体の簡素化を図ることができ、再生可能エネルギー発電機1と同様、小型化が可能となり、狭い山間部の小河川においても好適に設置することができるようになる。特に、本システムSによると水素としてエネルギーを保存させることができるようになっているため、エネルギー源としての安定的保存が可能となり、しかも水素は燃焼させても水しか発生させないため、再生可能エネルギーと組み合わせて非常に環境に好ましいものとなる。
【0038】
また、本システムSにおいて、第一の直流電力を得る場合と第二の直流電力を得る場合に関し、これら直流電流は同時に出力を得ることとしてもよいが、それぞれにスイッチ素子を設け出力のオンオフを制御しておくことも好ましい。この場合の機能ブロック図について
図7に示しておく。このようにすることで、一方のみ及び双方に電力を振り分けることが可能となり、より電源装置としての機能選択の幅が広がる。
【0039】
また、本システムSでは、上記のとおり、再生可能エネルギー発電機1によって生ずる電力量に基づきこの電力量を制御するため、水車内にガイドベーン等の調整部材を制御するための制御装置を備えていることが好ましい。このようにすることで、より均一なエネルギー量を確保することが可能となる。具体的には、再生可能エネルギー発電機1が水力発電機である場合において、発生する電力量が少ない場合はより多くの水が導入されるようガイドベーンを制御する一方、発生する電力量が多い場合は回転による設計値以上の発電を防ぐために導入される水の量が少なくなるようガイドベーンを制御することが好ましい。
【0040】
また、本システムSでは、上記の通り、第一の電力変換装置に接続され、第一の電力変換装置が発生させる第一の直流電力を用いて水から水素を発生させる水素発生装置3を備えている。
【0041】
本システムSにおいて、水素発生装置3は文字通り、第一の電力変換装置が発生させる第一の直流電力を用いて水から水素を発生させることができるものであって、この機能を有するものである限りにおいて限定されないが、例えば第一の直流電力を用いて水を電気分解することができる水電気分解装置であることが好ましい一例である。この場合のイメージを
図6に示しておく。
【0042】
本図で示すように、水素発生装置3は、特段に規定するものでは無いが、水電解方法としてはアルカリ水電解、固体高分子形水電解、高温水電解などが挙げられ、特に固体高分子形水電解が好ましい。固体高分子水電解の装置の場合、水を収容することができる容器31と、この容器31内部に設けられ、容器31の領域を2つに分割する固体高分子膜32と、この固体高分子膜32が分割する領域それぞれに設けられる電極33、34(陽極33及び陰極34)と、を備えて構成されていることが好ましい。なお、第一の直流電力は導線等を介して上記一対の電極33に対して供給されるよう構成されており、この一対の電極33、34間に直流電力を供給することにより、水を酸化還元反応によって分解し、陽極側では酸素等の他の物質を、陰極側では水素をそれぞれ発生させることが可能となる。なお、当該水素製造装置は今後普及が期待される燃料電池車(FCV)の燃料電池と同様な構造であり、燃料電池として使用する場合は水素を充填することで発電を行い、水素製造装置として用いる場合は電気を通電すれば水素を発生させることができ可逆性を有している。このことから燃料電池を再利用することで水素を製造することが可能となる。
【0043】
本図で示す水素発生装置3で用いる水は、水素を発生させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、不純物を含まない純水又は蒸留水を用いることが好ましいが、水道水に対してイオン交換によって不純物を除去した処理水、更には、河川から引き入れた水から砂等の不溶解物を除去し、更にイオン交換やpH調節などを行った処理水を用いることが可能である。特に水力発電を用いる場合、その水素発生減となる水は潤沢にあり、特に山間地等高地に存在する場合は不溶解物の混入及び不純物の溶解はあまり多くなく、水素発生源となる水自体も多大な費用をかけることなく調達できるといった利点がある。
【0044】
また、本システムSでは、上記の通り、水素発生装置3が発生させた水素を貯蔵する水素貯蔵容器4を備えている。水素貯蔵容器4の構造としては、水素を安定的に貯蔵することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水素を貯蔵するための空洞を備えた水素貯蔵容器であることとしてもよいが、より効率的な貯蔵を行わせるために高圧圧縮して水素貯蔵容器内に水素を貯蔵させるための圧縮ポンプを備えたもの、水素を液体化させて貯蔵するための冷却装置を備えたもの、内部に水素を吸着させる水素吸蔵合金等の水素吸着材を備えたもの等、その構成については特に限定されない。なお、水素を圧縮して貯蔵する場合、35気圧以上70気圧以下の範囲にしておくことが好ましい。この範囲としておくことで現状の技術水準による安全性と省スペース化を図ることができる。
【0045】
また、本システムSにおいて水素貯蔵容器4の容量としては、必要とする電力を賄うことができる程度の量となっていればよく適宜調整可能である。例えば、1日あたり水素10kg程度を確保しておくとすると、水素1モル当たり2gでその占める体積が1気圧で22.4Lであることを考慮すると、1日分の貯蓄量として112000L程度貯蔵できるようになっていることが好ましく、更にこれを必要とする日数分の容量備えていることが好ましい。なお、水素を貯蔵するための圧力を高めることができればこの容量を削減することができる。
【0046】
そして、本システムSの使用者は、水素貯蔵容器4に貯蔵された水素を必要に応じてエネルギー源として使用することが可能となる。具体的には、水素を燃焼させることで水を生成してその生成熱をエネルギー源として用いることができる。上記の通り、水素を燃焼させたとしても発生するのは水だけであり、しかもその動力源は再生可能エネルギーであって完全にクリーンなエネルギーとなる。
【0047】
また水力発電の場合、水力発電を行うことができるのは一定の水量と発電に必要な落差がある地形であることが求められるが、この多くは山間部である。このような場所ではこの水力発電所に連系する電力系統が存在しないかあるいはあっても主幹系統から離れているため発電した電力を送電するだけの容量を持たずこれが水力発電導入の妨げになってしまっている。しかしながら、本システムSのように、水力発電機によって電流を発生させながら水素を製造し、その水素を貯蔵することによって送電のための電力系統を必要としなくなるため、水力発電の導入が促進されることになる。
【0048】
以上、本実施形態によって、よりエネルギー効率の良い水素製造システムを提供することができる。繰り返しとなるが、本システムSでは、再生可能エネルギー、特に水力発電と水素を組み合わせ、比較的低電圧の第一の直流電力を発生させることで、水力発電から水素を製造するための電気使用効率の向上を図ることができ、設備機器におけるAC/DCコンバータ等の電力変換装置の構成や個数を削減することができるようになる。そしてこの結果、山間部での系統電源接続困難地域で余剰電力を有効利用することが可能となり、エネルギーの地産地消システムを構築することができる。さらに全国20,000箇所あるといわれる小水力発電可能な地域への普及が進めばエネルギーの自給率を向上させることができる。また、電気と水道が同時に利用可能となるため、エネルギーのベストミックスを図ることができる。さらに、水素を貯蔵することが可能となるため、今後更なる普及が見込まれる水素自動車(FCV)を導入するための水素ステーションの立地促進を図ることができるようになる。
【0049】
(水素製造方法)
ここで、本システムSを用いることで水素を製造する方法(水素製造方法)を実現することができる。以下具体的に説明する。
【0050】
本実施形態に係る水素製造方法(以下「本方法」という。)は、(S1)再生可能エネルギー発電機により第一の交流電力を発生させるステップ、(S2)再生可能エネルギー発電機により発生した交流電力を120V以下の第一の直流電力に変換するステップ、(S3)第一の直流電力を用いて水素を発生させるステップ、(S4)水素を貯蔵するステップ、を備えるものである。
【0051】
まず、本方法では、まず(S1)再生可能エネルギー発電機により交流電力を発生させるステップを備える。具体的には、上記した水素製造システムSにおける再生可能エネルギー発電機1により交流電力を発生させる。例えばこの再生可能エネルギー発電機1が水力発電である場合、河川に水導入管を設置し、この水導入管から上述した水力発電機に水を引き入れ、発電ローターを回転させることで交流電力を発生させる。具体的な動作については上記のとおりである。なおこの交流発電機によって発生する交流電力は限定されるわけではないが、電圧として600V以下の範囲であって、更にその電力は1kW以上30000kW未満の範囲にあることが好ましい。
【0052】
また、本ステップでは、上記の通り、発生する電力量に基づきガイドベーンを制御し、再生可能エネルギー発電機により発生する交流電力を調整するステップを備えていることが好ましい。このようにすることで、より均一なエネルギー量の確保が可能となる。具体的には、本システムSにおける制御装置を制御し、再生可能エネルギー発電機1に付属させた調整部材を制御し、再生可能エネルギー発電機の発生する電力量を均一となるよう制御する。
【0053】
また、本方法では、(S2)再生可能エネルギー発電機により発生した交流電力を120V以下の第一の直流電力に変換するステップを備える。本ステップによると、この第一の直流電力を直接的に後段の水素発生装置に用いることが可能となり、複数回の電力変換が不要となるためより高いエネルギー効率を達成することが可能となる。
【0054】
また、本方法では、上記本システムSの説明の際言及したように、第一の直流電流の他、第二の直流電流を発生させるステップを備えていることが好ましい。このようにすることで、水素発生のための電力だけでなく、外部の機械装置の駆動のための電力を確保することができるようになるといった利点がある。もちろん、第二の直流電流を発生させた後は、改めて所定の電圧範囲の交流電流に変換するステップを備えていることが好ましい。さらにこの場合において、第一の直流電流、第二の直流電流への電力の流れを制御するステップを備えていることが好ましい。具体的に、水素発生のために用いる電力が不足している場合は第二の直流電流をカットして出力させず水素発生のために用いる電力を優先して確保するとともに、必要以上に発電量が多い場合は水素発生のための電力確保以外に、外部装置のための駆動電力として活用することができる。
【0055】
また、本方法では、(S3)第一の直流電力を用いて水素を発生させるステップを備える。これは上記したとおり、本システムSにおいても受けられる水素発生装置に電力を供給し、この電力により水中のイオンを水素と酸素等の他の物質に分解するステップである。なお、この場合において、酸素等他の物質については水素と同様貯蔵して医療や工業用に用いてもよいが、大気中に放出しても問題ない。
【0056】
また、本方法では、(S4)水素を貯蔵するステップを備える。具体的には、水素発生装置の水素を発生させる電極等の要素上に配管を接続し、この配管を介して水素貯蔵容器に水素を貯蔵させる。これにより、水素をエネルギー源として安定的に貯蔵することが可能となる。水素の貯蔵については、上記のとおり、特に限定されず、常温常圧でそのまま貯蔵容器に貯蔵してもよく、圧縮して高圧の状態で貯蔵容器に貯蔵してもよく、更には、水素を冷却装置によって液体化させて貯蔵するようにしてもよく、また、貯蔵容器内部に水素を吸着させる水素吸蔵合金等の水素吸着材を備えて貯蔵させることとしてもよい。
【0057】
以上、本実施形態によって、よりエネルギー効率の良い水素製造システム及び水素製造方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、水素製造システム及びこれを用いる水素製造方法として産業上の利用可能性がある。
【符号の簡単な説明】
【0059】
1・・・水素製造システム
2・・・第一の電力変換装置
3・・・水素発生装置
4・・・水素貯蔵容器
5・・・第二の電力変換装置