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特許7452854水素透過検出のための試料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】水素透過検出のための試料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2202 20180101AFI20240312BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20240312BHJP
【FI】
G01N23/2202
G01N23/2251
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020123946
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020448
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2023-04-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「磁気冷凍材料および水素液化システムに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】中村 明子
(72)【発明者】
【氏名】矢ヶ部 太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮内 直弥
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 義治
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-225544(JP,A)
【文献】特開2017-187457(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045414(WO,A1)
【文献】特開2017-77312(JP,A)
【文献】国際公開第2017/085022(WO,A1)
【文献】板倉 明子ほか,水素放出に及ぼすステンレス鋼の表面加工の効果,Journal of the Vacuum Society of Japan,2014年,第57巻, 第1号,PP.23-26
【文献】板倉 明子ほか,電子衝撃脱離を用いたステンレスの透過水素観察,表面科学学術講演会要旨集,2012年,第32巻,P.163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01N 1/00-G01N 1/44
H01J 37/00-H01J 37/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の背面から透過した水素原子あるいは当該試料の材料内部から湧出した水素原子を走査型電子顕微鏡の走査電子により励起させて、水素イオンを電子遷移誘起脱離法によって脱離し、走査型電子顕微鏡の電子線の走査に同期して該脱離した水素イオンの電子衝撃脱離像を取得する、水素透過検出のための試料であって、 所定の剛性及び水素透過性を備えた板状の支持部材と、 前記支持部材の表面に配設された薄膜状の試料本体と、を備え、 前記支持部材は、前記走査型電子顕微鏡の分析室と試料ホルダーの水素室とを仕切る隔膜として機能し得る程度の剛性を有するように100μmから1000μmの厚さであり、 前記試料本体が、単体では自立できな薄膜である、水素透過検出のための試料。
【請求項2】
前記支持部材が、パラジウム,バナジウム,ニオブ,タンタル,チタン,ジルコニウム,銀又はこれらの合金の何れかから構成されている、請求項に記載の水素透過検出のための試料。
【請求項3】
前記支持部材は、その表面及び/又は裏面が鏡面研磨されている、請求項1又は2に記載の水素透過検出のための試料。
【請求項4】
前記支持部材が、水素透過性に関して均一に形成されている、請求項1からの何れかに記載の水素透過検出のための試料。
【請求項5】
前記支持部材が、前記試料本体の構造分布に対して大きい結晶粒又は単結晶から構成されている、請求項に記載の水素透過検出のための試料。
【請求項6】
前記支持部材が、前記試料本体の構造分布に対して小さい微結晶から構成されている、請求項に記載の水素透過検出のための試料。
【請求項7】
前記試料本体が、局所的に絶縁部分を備え又は全体が絶縁材料から構成されており、前記試料本体の表面上に、水素透過性を備えた導電性薄膜が配設されている、請求項1からの何れかに記載の水素透過検出のための試料。
【請求項8】
前記支持部材の表面上に、化学堆積法又は物理堆積法により前記試料本体を形成する、請求項1からの何れかに記載の水素透過検出のための試料の製造方法。
【請求項9】
前記試料本体が、真空蒸着法,電子ビーム蒸着法又はスパッタリング法の何れかにより形成される、請求項に記載の水素透過検出のための試料の製造方法。
【請求項10】
前記試料本体の表面上に、蒸着により前記導電性薄膜を形成する、請求項に記載の水素透過検出のための試料の製造方法。
【請求項11】
前記導電性薄膜が、真空蒸着法又は電子ビーム蒸着法により形成される、請求項10に記載の水素透過検出のための試料の製造方法。
【請求項12】
前記導電性薄膜が、前記試料本体の表面を損傷しない程度にスパッタリング法により形成される、請求項10に記載の水素透過検出のための試料の製造方法。
【請求項13】
試料の背面から透過した水素原子あるいは当該試料の材料内部から湧出した水素原子を走査型電子顕微鏡の走査電子により励起させて、水素イオンを電子遷移誘起脱離法によって脱離し、走査型電子顕微鏡の電子線の走査に同期して該脱離した水素イオンの電子衝撃脱離像を取得する、水素透過検出のための試料であって、 所定の剛性及び水素透過性を備えた板状の支持部材と、 前記支持部材の表面に配設された薄膜状の試料本体と、を備え、 前記支持部材は、前記走査型電子顕微鏡の分析室と試料ホルダーの水素室とを仕切る隔膜として機能し得る程度の剛性を有するように、100μmから1000μmの厚さであり、
前記試料本体が、単体では自立できない薄膜であり、
前記試料本体が、局所的に絶縁部分を備えるか又は全体が絶縁材料から構成され、該試料本体の表面全体に水素透過性を備えた導電性薄膜が均一の膜厚で配設されている、水素透過検出のための試料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の試料の背面から透過した水素原子あるいは当該試料の材料内部から湧出した水素原子を走査型電子顕微鏡の走査電子により励起させて、水素イオンを電子遷移誘起脱離法によって脱離し、走査型電子顕微鏡の電子線の走査に同期して該脱離した水素イオンのESD像を取得する、水素透過検出のための試料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような水素透過検出のためには、例えば特許文献1に開示されている水素透過拡散経路観測装置が使用される。水素透過拡散経路観測装置は、走査型電子顕微鏡と、分析室と、試料が装着される隔膜型真空容器と、隔膜型真空容器に接続されて試料の裏面側に水素を供給する水素配管等を備えている。試料が、分析室と隔膜型真空容器の水素を収容する中空部(以下、水素室という)とを仕切る隔膜となる。試料表面から湧出する水素が、走査型電子顕微鏡像(Scanning Electron Microscope 像、以下、SEM像と呼ぶ)を取得する電子線より励起されて水素イオンとなって表面から脱離し(これをESD(Electron Stimulated Desorption)機構と呼ぶ)、この水素イオンによるESD像が、SEM像と共に取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-187457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような水素透過拡散経路観測装置においては、上述したように、試料自体が分析室と水素室とを仕切る隔膜としても機能していることから、ある程度の剛性と真空シールとして機能することが必要である。
これに対して、試料が単体では自立できない程度に薄い薄膜状に形成されている場合には、剛性が低いため形状を保持することが困難であると共に、前述した隔膜としては機能し得なくなってしまう。このため、このような試料に関しては、試料単体では水素透過検出を行なうことが実質的に不可能であった。
【0005】
さらに、このように試料単体では自立できない程度に薄い薄膜状の試料の表面に、局所的な絶縁領域が存在すると、当該絶縁領域が局所的にマイナスに帯電して、所謂チャージアップが発生する。その結果、当該絶縁領域のチャージアップ発生エリアにおいて、電子照射の際に電子が接近しにくくなるため、試料の表面全体における電子照射密度が不均一になってしまう。
【0006】
これに対して、一般的な電子顕微鏡においては、チャージアップしやすい絶縁体やプラスチックの表面にプラスイオンを照射して中性化する手法や、絶縁体やプラスチック自体の測定を行なう場合には表面に薄いカーボンや金属の薄膜をコーティングしてチャージアップの発生を抑制する手法が知られている。
【0007】
しかしながら、二次電子の測定を行なう場合には、カーボンや金属の薄膜を試料表面に配設することは、チャージアップの発生を抑止するために有効ではあるが、水素イオンの測定を行なう場合には、水素イオンの透過を妨げるおそれがあることから、このようなカーボンや金属の薄膜を用いることは、水素イオンの透過には必ずしも有効ではない。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、自立できない程度に剛性の低い薄膜状の試料本体に対して、支持部材により所望の剛性と真空シールとして機能を付与するようにした水素透過検出のための試料を提供することを第1の目的とし,その製造方法を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の目的は、試料の背面から透過した水素原子あるいは当該試料の材料内部から湧出した水素原子を走査型電子顕微鏡の走査電子により励起させて、水素イオンを電子遷移誘起脱離法によって脱離し、走査型電子顕微鏡の電子線の走査に同期して該脱離した水素イオンの電子衝撃脱離像を取得する、水素透過検出のための試料であって、所定の剛性及び水素透過性を備えた板状の支持部材と、支持部材の表面に配設された薄膜状の試料本体と、を備え、支持部材は、走査型電子顕微鏡の分析室と試料ホルダーの水素室とを仕切る隔膜として機能し得る程度の剛性を有するように100μmから1000μmの厚さであり、試料本体が、単体では自立できな薄膜である、水素透過検出のための試料により達成される。
前記試料本体が、好ましくは、局所的に絶縁部分を備え又は全体が絶縁材料から構成されており、該試料本体の表面全体に、水素透過性を備えた導電性薄膜が均一の膜厚で配設されている。
【0010】
上記構成において支持部材は、好ましくは、パラジウム,バナジウム,ニオブ,タンタル,チタン,ジルコニウム,銀又はこれらの合金の何れかから構成される。支持部材の表面及び/又は裏面が鏡面研磨されることが好ましい。この支持部材は好ましくは、水素透過性に関して均一に形成され、試料本体の構造分布に対して大きい、例えば一桁以上大きい結晶粒又は単結晶から構成されるか、または、試料本体の構造分布に対して小さい、例えば一桁以上小さい微結晶から構成されていてもよい。この試料本体は、好ましくは局所的に絶縁部分を備え、又は全体が絶縁材料から構成され、試料本体の表面上に水素透過性を備えた導電性薄膜が配設されている。
【0011】
上記第2の目的は、支持部材の表面上に化学堆積法又は物理堆積法により試料本体を形成する、水素透過検出のための試料の製造方法により達成される。
【0012】
上記構成において、試料本体は、好ましくは、真空蒸着法,電子ビーム蒸着法又はスパッタリング法の何れかにより形成される。
試料本体の表面上に、好ましくは蒸着により導電性薄膜を形成する。この導電性薄膜は、好ましくは真空蒸着法,電子ビーム蒸着法又はスパッタリング法により形成され、または、前記試料の表面を損傷しない程度にスパッタリング法により形成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、自立できない程度に剛性の低い薄膜状の試料本体に対して、支持部材により所望の剛性を付与するようにした水素透過検出のための試料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による水素透過検出のための試料の第一の実施形態の構成を示す拡大断面図である。
図2図1の試料に対して水素透過検出を行なうための水素透過拡散経路観測装置の構成例を模式的に示す図である。
図3図2の水素透過拡散経路観測装置の分析室内の水素イオン検出部と試料ホルダーの装着構造等を示す部分拡大図である。
図4図2の水素透過拡散経路観測装置の制御部の構成を示すブロック図である。
図5図2の水素透過拡散経路観測装置の電子衝撃脱離全体制御部の構成を示すブロック図である。
図6】電子線の走査とESD像の二次元計測との関係を示す模式図である。
図7】電子線の走査により二次元のESD像を計測するフロー図である。
図8図1の試料を支持する支持部材として大きな結晶粒を有する結晶構造の一例を示す図である。
図9図8の結晶構造をさらに拡大して示す図である。
図10】本発明による水素透過検出のための試料の第二の実施形態の構成を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明による水素透過検出のための試料(以下、試料という)の第一の実施形態の構成を示している。
【0016】
図1において、試料45は、支持部材46と支持部材46の表面に配設された試料本体47とから構成されている。試料本体47は、導電性材料又は絶縁材料からなる薄膜状の層である。図示の場合、試料本体47の一部には絶縁領域48a,48bが配設されている。この絶縁領域48a,48bは1箇所に限らず複数が配設される場合を示している。支持部材46は、所定の剛性及び水素透過性を備えた材料から構成されており、板状の偏平な形状に形成されている。
所定の剛性とは、後述する水素透過拡散経路観測装置10において、試料本体47の形状を保持し得ると共に、走査型電子顕微鏡15の分析室11と試料ホルダー12の中空部12a(水素室と呼ぶ)とを仕切る隔膜として機能し得る程度の剛性である。このような剛性と水素透過性を備えた材料としては、金属材料、例えばパラジウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、チタン、ジルコニウム、銀やこれらの合金が好適である。合金としては、例えばパラジウムと銀との合金等が挙げられる。
【0017】
また、支持部材46は、その厚さが例えば100μmから1000μm程度の範囲において、支持部材46表面に配設される試料本体47の種類に応じて所定の剛性を備えるように適宜に選定される。支持部材46の寸法は任意であるが、直径を例えば5mm~20mm程度としてもよい。
【0018】
さらに、支持部材46は、好ましくはその表面及び/又は裏面が鏡面研磨されている。支持部材46の表面が鏡面研磨されることにより、支持部材46の表面から水素原子が脱離する際に、支持部材46の表面形状によって影響を受けることがなく、正確な水素透過検出が行なわれ得ると共に、さらに支持部材46の裏面が鏡面研磨されることにより密着性が向上して、仕切る隔膜としての真空シール性が確保される。
【0019】
支持部材46の上記した材料は、所定の剛性を備え前記隔膜として機能し得ると共に高い水素透過性を備え、従来から所謂水素フィルタとして実用化されており、水素透過性を備えているので支持部材46として使用することができ、水素透過検出の際に水素イオンの透過を妨げるようなことはない。
【0020】
さらに、支持部材46は、水素透過性に関して均一に形成されている。この構成によれば、試料本体47が水素透過性に関して均一に形成された支持部材46の表面に配設されることで、試料本体47の電子遷移誘起による水素透過検出を、支持部材46の水素透過性に影響されることなく、試料本体47の表面全体に亘って均一に且つ正確に行なうことができる。
【0021】
具体的には、支持部材46は、試料本体47の水素透過検出が行なわれるべき領域、即ち構造分布に対して、あるいは走査型電子顕微鏡15の視野に対して、十分に大きい結晶粒又は単結晶から構成されている。支持部材46の結晶粒又は単結晶は、試料本体47の構造分布に対して一桁以上大きい結晶粒又は単結晶から構成してもよい。例えば、試料本体47の構造分布が30μmよりも小さい場合には、支持部材46を300μm以上の大きさの結晶粒又は単結晶から構成されるようにすればよい。これにより、試料本体47の水素透過検出が行なわれるべき領域即ち構造分布が支持部材46のただ一つの結晶内に収まることになり、試料本体47の電子遷移誘起による水素透過検出を、支持部材46の結晶の境界に影響されることなく、試料本体47の表面全体に亘って均一に且つ正確に行なうことができる。
【0022】
他方、支持部材46は、試料本体47の水素透過検出が行なわれるべき領域即ち構造分布に対して、あるいは走査型電子顕微鏡15の視野に対して、十分に小さい、例えば一桁以上小さい多数の微結晶から構成されていてもよい。例えば、試料本体47の構造分布が30μmとすれば、微結晶の粒径は3μm以下とすることでもよい。これにより、試料本体47の水素透過検出が行なわれるべき領域が、支持部材46の多数の微結晶で対応することになり、全体として水素透過性がほぼ均一になることから、試料本体47の電子遷移誘起による水素透過検出を支持部材46の結晶の境界に影響されることなく、試料本体47の表面全体に亘って均一に且つ正確に行なうことができる。
【0023】
試料本体47は、金属,Si等の材料から構成されている。ここで、試料本体47は、本発明による水素透過検出のための試料の製造方法の実施形態によって、支持部材46の表面に対して化学堆積法(CVD法)や物理堆積法(PVD法)により成膜することができる。物理堆積法としては、蒸着法、例えば真空蒸着法,電子ビーム蒸着法,スパッタリング法等の何れかの蒸着方法によって、支持部材46の表面に対するコーティング膜として形成される。これにより、試料本体47が、支持部材46の表面に対して例えば蒸着、特に真空蒸着法,電子ビーム蒸着法又はスパッタリング法の何れかの方法により確実に且つ均一に形成され得る。
【0024】
試料本体47は、単体では自立できない程度の低い剛性を備えた薄膜である。このため試料本体47を支持部材46表面に配設する場合、支持部材46により補強して自立できるような形状保持性を備えさせることが必要となり、これによって走査型電子顕微鏡15の分析室11と水素室12aとを仕切る隔膜として機能し得る。なお、試料本体47は、水素拡散防止効果又は水素拡散抑制効果がある場合もない場合も含む。さらに、試料本体47は、部分的に水素拡散防止効果又は水素拡散抑制効果がある薄膜も含む。
【0025】
本発明実施形態の水素透過検出のための試料45は以上のように構成されており、この試料45の水素透過検出を行なう場合について説明する。図2は試料45に対して水素透過検出を行なうための水素透過拡散経路観測装置10の構成例を模式的に示し、図3は水素透過拡散経路観測装置10の分析室11内の水素イオン検出部20の構造と試料ホルダー12の装着構造等を示す部分拡大図である。
【0026】
図2に示すように、水素透過拡散経路観測装置10は走査型電子顕微鏡15を備え、この走査型電子顕微鏡15の分析室11内には、試料ホルダー12の上部に配設した試料45に電子線を照射する電子源16が備えられている。さらに、分析室11には、分析室11で試料45に照射された電子線16aにより生じる二次電子を検出する二次電子検出器18と、電子源16から照射された電子線16aにより生じる水素イオンを検出する水素イオン検出部20と、水素イオン検出部20を制御する制御部50と、試料45の裏面側に接続される水素配管14に水素を供給するガス供給部19と、を備えている。
【0027】
試料45は、分析室11内で図示しない試料加熱部により加熱されてもよい。また、試料45は、試料ホルダー12の図示しない試料搭載部に固定され又は溶接等により接着される。図3に示すように、試料45は、試料ホルダー12と共に走査型電子顕微鏡15の分析室11内に配置される。これにより、試料ホルダー12の水素室12aと分析室11との間が試料45により仕切られるので、試料45が分析室11と水素室12aとを仕切る隔膜として機能する。
【0028】
水素イオン検出部20は、試料45の表面から生じる水素イオンを収集する収集機構21と、水素イオン以外を除去するイオンエネルギー分解部22と、イオンエネルギー分解部22を通過した水素イオンを検出するイオン検出部23と、からなる。
【0029】
試料ホルダー12には、水素ガス供給部19から供給され試料ホルダー12の水素室12aの内部に存在する水素が、試料45の裏面側に接触していて、試料45の支持部材46の裏面側から内部に導入される。この水素は、試料45の支持部材46及び試料本体47の内部を拡散して、試料45の表側、即ち試料本体47の表面に到達し試料本体47の表面から放出される。つまり、水素や重水素は、試料45の裏面側から表面に透過する。この試料本体47の表面に到達した水素に電子線16aを照射することで、電子衝撃脱離(ESD)により試料本体47から水素イオンが脱離し、この水素イオンを収集機構21で集束することによって水素イオン検出部20で検出される。
【0030】
水素イオン検出部20では、ESD法により試料本体47の表面で発生する水素イオンを検出する。電子線16aの走査で検出した水素イオンによる二次元の像を、ESD像又はESDマップとも呼ぶ。
【0031】
試料45の表面側の近傍には、脱離イオンを効率よく収集するための収集機構21が配設されている。図示の収集機構21は例えば金属線のメッシュからなり、グリッド構造のレンズである。収集機構21で収集した目的ガスのイオン、例えば水素イオンは水素イオン検出部20に入射する。イオンエネルギー分解部22では、例えば水素イオンを選別してイオン検出器23に入射させる。
【0032】
イオンエネルギー分解部22は、イオン検出器23が試料45に直接対向しないように蓋形状を有する金属電極からなる。イオンエネルギー分解部22は円筒形や円錐を含む形状の電極を用いることができる。イオンエネルギー分解部22の円筒形の電極に適当な正電圧を印加し、電場により目的ガスのイオン、例えば水素イオンだけをイオン検出器23に導き、試料45に電子線16aを照射することで発生する光と電子を除去することができる。イオン検出器23は、例えばセラトロンや二次電子増倍管を用いることができる。
【0033】
制御部50は、電子源16から照射する電子線16aの走査により試料45から発生する二次電子によるSEM像を取得し、且つ試料45の内部や表面の点欠陥部分から湧出する水素原子を、電子線の電子衝撃脱離(ESD)により水素イオン化して、水素イオンのESD像を電子線の走査に同期して取得する。ここで、ESDは、材料から湧出して表面に滞在している水素原子に照射された電子が当たったとき、水素原子の中の電子が励起状態となり、あるいは剥ぎ取られて水素原子がイオン化することにより、表面に結合した状態から反結合状態になって脱離する現象で、ESD像はこの脱離した水素イオンを撮像して得られる。そして、制御部50によって試料45のSEM像とESD像とを同期させることにより検出した水素イオンの位置情報を得て、試料45の点欠陥の位置を検出することができる。
【0034】
次に、水素イオン検出装置10の制御部50の構成及び動作について、より詳細に説明する。図4及び図5のブロック図はそれぞれ、制御部50及び電子衝撃脱離全体制御部52の構成を示し、図6は電子源16の走査とESD像の二次元計測との関係を示す模式図である。
【0035】
図4に示すように制御部50は、走査型電子顕微鏡15を制御する電子顕微鏡全体制御部51と、ESD像の取得をする電子衝撃脱離全体制御部52と、を含んで構成されている。制御部50は、電子顕微鏡全体制御部51の他には、試料45の走査型電子顕微鏡像(SEM像)を取得するための二次電子検出部53と、電子光学系制御部54と、SEM用の画像演算部55と、高電圧安定化電源56と、入力装置57と、ディスプレイ58と、記憶装置59等から構成されている。電子顕微鏡全体制御部51により、二次電子検出部53と電子光学系制御部54とSEM用の画像演算部55と高電圧安定化電源56と記憶装置59とが制御される。走査型電子顕微鏡15の分析室11内に配設される二次電子検出器18の出力は、二次電子検出部53に入力される。
【0036】
次に、電子衝撃脱離全体制御部52について説明する。図5に示すように、ESD像の取得を制御する電子衝撃脱離全体制御部52は、二次元のマルチチャンネルスケーラー60と、パルス係数部61と、同期制御部62と、測定信号の二次元平面への並べ替え部63と、マイクロプロセッサ72等から構成されている。
分析室11内に配設される水素イオン検出部20の出力は、電子衝撃脱離イオン検出部67を介して、その出力67aがパルス計数部61に入力される。電子衝撃脱離全体制御部52には、電子光学系制御部54から走査信号が入力され、SEM像と同期して制御される。さらに、電子衝撃脱離全体制御部52には、ディスプレイ65と記憶装置66が接続されている。
【0037】
マイクロプロセッサ72は、マイクロコントローラ等のマイコン,パーソナルコンピュータ,現場でプログラム可能なゲートアレイであるFPGA(Field-Programmable Gate Array)であってもよい。
【0038】
図4に示すように電子光学系制御部54から電子衝撃脱離全体制御部52に出力された走査信号は、図5に示すように、同期制御部62を介して垂直走査信号62aとして電子源16の第一の偏向コイル16bに出力される。同期制御部62からの水平走査信号62bは、電子源16の第二の偏向コイル16cに出力される。同期制御部62からの走査位置に関する情報62cはマイクロプロセッサ72に出力される。
【0039】
パルス計数部61から出力される水素イオンのカウント数信号61aは、各走査位置の水素イオンのカウント数信号としてマイクロプロセッサ72に出力される。
【0040】
マイクロプロセッサ72で生成されたESD像は、入出力インターフェース(I/O)72aを介してディスプレイ65に出力され、且つ入出力インターフェース(I/O)72bを介して記憶装置66に出力される。
【0041】
次に、電子衝撃脱離全体制御部52の動作について説明する。
図6に示すように、電子源16から発生した電子線16aは、第一の偏向コイル16bと第二の偏向コイル16cを通過することにより、水平方向と垂直方向に走査されて試料45に二次元に照射される。
【0042】
図6に示す同期制御部62で発生したデジタル信号である垂直走査信号62aのクロック信号は、デジタルアナログ変換器(DAC)62dにより鋸波に変換されて、電子源16の第一の偏向コイル16bに印加される。同様に、デジタル信号である水平走査信号62bのクロック信号は、デジタルアナログ変換器(DAC)62eにより鋸波に変換されて、電子源16の第二の偏向コイル16cに印加される。
【0043】
1パルスの撮影タイミング信号(Shoot timing、以下ST信号という)によって、垂直走査信号(Vertical clock)が、合計2048パルス発生するように制御が開始される。1パルスの垂直走査信号のパルス幅の期間に、水平方向の画素信号(Horizontal clock)が合計2048パルス出力される。これにより、2048行×2048列(=4194304)の約419万画素の二次元走査を生成する。つまり、パルス計数部61でカウントされる信号は、ST信号,垂直走査用のクロック信号,水平走査用のクロック信号からなる複数のカウンターを同期させることで、各走査位置におけるイオン検出器23からの水素イオンのカウント数として取得することができる。
【0044】
続いて、ESD像の取得方法について説明する。
図7は走査による二次元のESD像を計測するフロー図である。図7に示すように、二次元のESD像の取得は、以下のステップで行なうことができる。
ステップ1:試料45の表面から脱離した水素イオンが、イオン検出器23で検出される。
ステップ2:イオン検出器23で検出した水素イオンの定量計測を、パルス計数部61で行なう。
ステップ3:図6に示した垂直走査用のクロック信号及び水平走査用のクロック信号を生成する同期制御部62により、試料45の二次元の各測定点の水素イオンのカウントを行なう。
ステップ4:ステップ3で測定した試料45の二次元の各測定点の水素イオンのカウント数を記憶装置66のメモリーに保存する。
ステップ5:垂直走査用のクロック信号及び水平走査用のクロック信号を元に記憶装置66のメモリーに保存されたイオン信号を二次元画像(ESD像)として並べ替える。
ステップ6:ステップ5で取得したESD像をディスプレイ65に表示し、画像及び数値データとて記憶装置66に保存する。
これにより、SEM像と同じ領域のESD像が取得される。
【0045】
上記ステップ1~6のESD像の取得は、計測機器制御に特化したプログラム製作環境で作製したソフトウェアで実行することができる。このようなソフトウェアとしては、National Instruments社製のLabVIEW(登録商標)(http://www.ni.com/labview/ja/)を用いることができる。上記ステップ1~6のESD像は、マイクロプロセッサ72において、LabVIEWで作製したプログラムで実行される二次元のマルチチャンネルスケーラー60により取得できる。
【0046】
水素透過拡散経路観測装置10においては、SEM像は従来と同様にして得ることができる。二次電子検出器18からの信号は制御部50の二次電子検出部53で検知され、電子顕微鏡全体制御部51によりディスプレイ58に表示される。
【0047】
このようにして、水素透過拡散経路観測装置10によれば、試料45に関して二次電子によるSEM像と上記ステップ6で取得したESD像を比較することにより、例えば金属からなる試料本体47の組織の局所構造と水素透過との関連を調べることが可能となる。例えば、局所構造としては、金属の結晶粒サイズやその結晶構造と水素透過、つまり水素放出能とを比較することができる。
【0048】
ここで、水素放出位置の空間分解能は、本質的には走査型電子顕微鏡15の倍率に依存するため、走査型電子顕微鏡15の倍率と同等まで向上できるので、50nm以下、例えば2~10nm、つまり10nm以下の分解能が得られる。走査型電子顕微鏡15の倍率の限界は、走査型電子顕微鏡15とその周囲の振動除去と電子ビーム径により決まる。
【0049】
さらに、水素イオンの検出を走査型電子顕微鏡15の二次電子検出の限界と一致させるためには、電子と水素イオンの飛行時間の差が問題となるが、測定中の電子走査の時間を遅くすること、又はイオン検出器23と試料45の距離を短くすることで、対応することができる。
【0050】
このようにして、試料45において、単体では自立できない程度の剛性の低い薄膜からなる試料本体47が支持部材46の上に配設されることによって、支持部材46により補強されることになるので、所定の剛性を備えることになり走査型電子顕微鏡15の分析室11と水素室12aとを仕切る隔膜として確実に機能する。従って、単体では自立できない程度の薄膜からなる試料本体47であっても、その水素透過検出を行なうことが可能となる。
【0051】
ここで、図1において矢印Aで示すように、均一で高い水素透過性を備えた支持部材46を拡散してきた水素は、試料45の試料本体47に関して、水素拡散防止効果又は水素拡散抑制効果がある場合には、試料本体47を透過しないか、あるいはごく少量しか透過しない。
これに対して、矢印Bで示すように、均一で高い水素透過性を備えた支持部材46を拡散してきた水素は、試料45の試料本体47に関して、水素拡散防止効果又は水素拡散抑制効果がない場合には、試料本体47を高い透過率で透過する。従って、支持部材46が均一で高い水素透過性を備えていることによって、試料本体47を透過する表面水素分布は、試料本体47の水素透過特性を反映するものとなる。
【0052】
以上説明したように、本発明の水素透過検出のための試料45において、試料本体47が、単体では自立できない程度に低い剛性の薄膜であっても、所定の剛性及び水素透過性を備えた板状の支持部材46により支持され且つ補強されているので、試料本体47の形状が確実に保持され得ると共に、水素透過検出のために、水素透過拡散経路観測装置10における走査型電子顕微鏡15の分析室11と水素室12aとを仕切る隔膜として十分に機能し得ることとなる。従って、試料本体47が単体では自立できない程度の低剛性の薄膜であっても、確実に当該試料本体47の水素透過検出を行なうことができる。
【0053】
試料45を構成する支持部材46の試作例について説明する。
この試作例では、支持部材46をパラジウムの多結晶の薄板から構成するとともに、パラジウムの薄板の表面及び裏面を研磨して熱処理を施した。パラジウムの薄板の表面及び裏面の研磨と熱処理は、1回だけではなく繰り返して実施されてもよい。
このような支持部材46の試作例について、その構造解析のために、走査型電子顕微鏡15を使用して表面を撮像した。そのSEM像を図8に、また電子線後方散乱解析法(Electron Back Scattered Diffraction; 以下EBSD)によるEBSD像を図9にそれぞれ示す。
図8及び図9において、支持部材46の結晶構造が表現されており、各結晶粒はそれぞれ300μm以上であり、走査型電子顕微鏡15の視野内では均一な水素供給基板とすることができた。なお、図8の画像中心付近の三点のマーカーは、場所を特定するためにイオンビーム又はレーザーにより刻印したものである。
【0054】
図10は本発明による水素透過検出のための試料の第二の実施形態を示す。図10の試料45Aにおいて、図1に示した試料45の場合と支持部材46は同じであり、試料本体47の表面領域に局所的に酸化物等による絶縁領域48a及び48bが配設されているが、第二の実施形態では、さらに試料本体47の絶縁領域48a及び48bを含む表面全体に亘って導電性薄膜49が配設されている。
【0055】
絶縁領域48a及び48bは、それぞれ同様の絶縁材料から構成されてもよく、例えば試料本体47の表面に形成された酸化膜や窒化膜等の絶縁膜であってもよく、特に製造方法には依存しない。絶縁領域48a及び48bは、試料本体47の表面に形成された絶縁膜だけではなく、内部から表面に埋め込まれるように形成した絶縁膜でもよい。
【0056】
導電性薄膜49は水素透過性を備えた導電性材料、好ましくは試料本体47の表面との間で相互拡散を生じない材料から構成されている。相互拡散を生じないことによって、導電性薄膜49を配設しても、試料本体47の表面状態に影響を与えて変化させてしまうようなことはない。
【0057】
ここで、水素透過性を備えた導電性材料としては、金属材料、例えばパラジウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、チタン、ジルコニウム、銀や、これらの合金が好適である。合金としては、例えばパラジウムと銀との合金等が挙げられる。これらの材料は高い水素透過性を備えており、従来から所謂水素フィルタとして実用化されており、水素透過検出の際に水素イオンの透過を妨げるようなことはない。
【0058】
ここで、導電性薄膜49は、本発明による水素透過検出のための試料45Aの製造方法によって、試料本体47の表面に対して化学堆積法(CVD法)や物理堆積法(PVD法)により成膜することができる。物理堆積法としては、蒸着法、例えば真空蒸着法,電子ビーム蒸着法,スパッタリング法等の蒸着方法により、試料本体47の表面に対するコーティング膜として形成される。これにより、導電性薄膜49が、試料本体47の表面に対して蒸着、特に真空蒸着法又は電子ビーム蒸着法、あるいはスパッタリング法の何れかの方法により正確な膜厚で均一に形成される。
なお、スパッタリング法の場合には、スパッタリングにより試料本体47の表面に衝突する粒子等によって、試料本体47の表面を損傷しない程度に導電性薄膜49を形成することにより、試料本体47の表面状態が変化してしまうことがなく、正確な水素透過検出を行なうことができる。
【0059】
さらに、導電性薄膜49は全体として均一の膜厚を有し、その膜厚は、例えば水素透過検出のために使用する走査型電子顕微鏡15の空間分解能と同程度以下、例えば50nm以下、好ましくは10nm~20nm程度、あるいは数nmから10nm程度に選定される。なお、導電性薄膜49は、好ましくは、数nmから10nm、例えば2nmから10nm程度の膜厚を備えるように形成される。導電性薄膜49の膜厚が厚すぎると、水素透過性が低下してしまうと共に、導電性薄膜49内で水素イオンが水平方向に移動して分解能が低下してしまう。これに対して膜厚が薄すぎると、均一な膜厚の形成が困難である。
【0060】
第二の実施形態の試料45Aによれば、試料45の場合と同様に、試料本体47が支持部材46により補強されることによって、走査型電子顕微鏡15の分析室11と水素室12aとを仕切る隔膜として機能し得る。さらに、水素透過検出を行なう場合に、導電性薄膜49の存在によって、絶縁領域48a,48bにおいてチャージアップが発生しないので、これらの絶縁領域48a,48bにて電子密度が低下するようなことはなく、試料本体47の全体に亘って水素透過検出を確実に行なうことができる。
【0061】
前記第二の実施形態の試料45Aによれば、試料本体47の表面に水素透過性を備えた導電性薄膜49が配設されているので、当該試料45Aを走査型電子顕微鏡15の走査電子により電子遷移誘起で励起させて水素透過を検出する際に、当該試料本体47の絶縁領域48a,48bに電子が蓄積しようとしても、導電性薄膜49に沿って移動することで、当該絶縁領域48a,48bが帯電して所謂チャージアップの発生が防止される。従って、上述した電子遷移誘起で励起された水素イオンは、チャージアップの影響を受けることなく脱離する。
【0062】
ここで、導電性薄膜49が水素透過性を備えていることから、水素イオンは導電性薄膜49の存在によって妨げられることなく脱離する。これにより、脱離した水素イオンのESD像を走査型電子顕微鏡15の電子線の走査に同期させることによって、ESD像が正確に取得され、高精度で水素イオンの透過検出が行なわれ得る。
【0063】
なお、水素透過検出で検出される水素原子は、それまでの透過経路の履歴を情報として記憶していることから、導電性薄膜49が水素透過性の材料から構成されることにより、水素原子が導電性薄膜49を透過する際にこれらの履歴情報が消されることはなく、チャージアップの影響のみを排除することが可能である。
【0064】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。上述した実施形態においては、試料45の試料本体47は、鉄鋼,ステンレス鋼等の導電性を備えた材料から構成されているが、これに限らず、絶縁材料から構成されていてもよいことは明らかである。
【0065】
また、上述した実施形態においては、試料45Aはその試料本体47の表面領域に局所的に配設された酸化物等による絶縁領域48a及び48b備えているが、これに限らず、試料45Aはその試料本体47の表面全体に絶縁領域を備えていてもよく、また試料本体47がそれ自体絶縁材料から構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10:水素透過拡散経路測定装置、 11:分析室、 12:試料ホルダー、 12a:中空部(水素室)、 14:水素配管、 15:走査型電子顕微鏡、 16:電子源、
18:二次電子検出器、 19:ガス供給部、 20:水素イオン検出部、 21:収集機構、 22:イオンエネルギー分解部、 23:イオン検出器、 45,45A:水素透過検出のための試料、 46:支持部材、 47:試料本体、 48a,48b:絶縁領域、 49:水素透過性を備えた導電性薄膜、
50:制御部、 51:電子顕微鏡全体制御部、 52:電子衝撃脱離全体制御部、
53:二次電子検出部、 54:電子光学系制御部、 55:SEM用の画像演算部、
56:高電圧安定化電源、 57:入力装置、 58,65:ディスプレイ、
59,66:記憶装置、 60:二次元のマルチチャンネルスケーラー、
61:パルス計数部、 61a:水素イオンのカウント数信号、 62:同期制御部、
62a:垂直走査信号、 62b:水平走査信号、 62c:走査位置に関する情報、
62d,62e:デジタルアナログ変換器、 63:測定信号の二次元平面への並べ替え部、 64:ESD用の画像演算部、 67:電子衝撃脱離イオン検出部、 72:マイクロプロセッサ、 72a,72b:入出力インターフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10