(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】高密度織物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 11/05 20060101AFI20240312BHJP
D03D 15/233 20210101ALI20240312BHJP
D01F 4/02 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
D06M11/05
D03D15/233
D01F4/02
(21)【出願番号】P 2020512312
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2019014897
(87)【国際公開番号】W WO2019194262
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2018071892
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、内閣府、革新的研究開発推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】池田 敦
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/147590(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/188434(WO,A1)
【文献】特許第0006213(JP,C1)
【文献】特許第111700(JP,C2)
【文献】特開平09-031798(JP,A)
【文献】特開平07-252746(JP,A)
【文献】国際公開第2018/087239(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105755641(CN,A)
【文献】特開平04-126839(JP,A)
【文献】特開平01-306641(JP,A)
【文献】特開2004-324027(JP,A)
【文献】特開2003-020540(JP,A)
【文献】特開昭60-139847(JP,A)
【文献】実公昭28-007489(JP,Y1)
【文献】Z SHAO et al.,“Analysis of spider silk in native and supercontracted states using Raman spectroscopy”,Polymer,1999年05月,Vol. 40, No. 10,p.2493-2500,DOI: 10.1016/S0032-3861(98)00475-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-23/18
D01F1/00-6/96
D03D1/00-27/18
D06B1/00-23/30
D06C3/00-29/00
D06G1/00-5/00
D06H1/00-7/24
D06J1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維を織って原料織物を得る織成工程と、
前記原料織物と40℃以上の水分とを接触させて高密度織物を得る収縮工程と、
を含み、
前記タンパク質繊維は改変フィブロインを含み、該改変フィブロインは、式1:[(A)
n
モチーフ-REP]
m
又は式2:[(A)
n
モチーフ-REP]
m
-(A)
n
モチーフで表されるドメイン配列を含み、該ドメイン配列は、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なり、
前記タンパク質繊維は、水分と接触させることにより2%以上収縮しうる、高密度織物の製造方法。
[式1及び式2中、(A)
n
モチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)
n
モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は40%以上である。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)
n
モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
【請求項2】
前記タンパク質繊維は、水分と接触させて、次いで乾燥させることにより7%超収縮しうる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水分の温度が沸点未満である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記織成工程において、前記原料織物の織り密度を調整する工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記タンパク質繊維がフィブロイン繊維である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記フィブロイン繊維が改変クモ糸フィブロイン繊維である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記改変フィブロインが、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表される
前記ドメイン配列を含み、
(A)
n
モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上であり、REPが10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、
前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)
nモチーフが欠失したことに相当する、(A)
nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法
。
【請求項8】
前記改変フィブロインが、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表される
前記ドメイン配列を含み、
(A)
n
モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上であり、REPが10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、
前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当する、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法
。
【請求項9】
前記改変フィブロインが、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表される
前記ドメイン配列を含み、
(A)
n
モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上であり、REPが10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、
前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法
。
【請求項10】
前記(A)
n
モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上であり、REPが10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、
前記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当する、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法
。
【請求項11】
前記改変フィブロインが、26.0以上の限界酸素指数(LOI)値を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記改変フィブロインの下記式Aに従って求められる最高吸湿発熱度が0.025℃/g超である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
[式A中、低湿度環境は、温度20℃及び相対湿度40%の環境を意味し、高湿度環境は、温度20℃及び相対湿度90%の環境を意味する。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度織物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、織物は、衣料品や寝具を初めとして、各種の産業用製品や医療具の一部等で広く使用されている。
【0003】
ところで、そのような織物では、繊維間の隙間を小さくするように織り密度を高める、所謂高密度化が要求される場合がある。例えば、衣料品用織物等においては、防風性や防塵性等を高めるために、また、産業用製品の一種たるフィルター用織物等では捕集性を高めるために、高密度が求められる。
【0004】
高密度の織物を得る際には、細い糸を密に織成する方法が一般に採用されるが、この方法には限界がある。そこで、例えば、特許文献1では、セルロース繊維を織成してなる織物を熱水で処理することで織物の織り密度を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、タンパク質繊維を含む織物については、充分な検討がなされていないのが実情である。本発明は、タンパク質繊維を含む高密度な織物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
タンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維を織って原料織物を得る織成工程と、
上記原料織物と水分とを接触させて高密度織物を得る収縮工程と、
を含む、高密度織物の製造方法。
[2]
上記タンパク質繊維は、水分と接触させることにより2%以上収縮しうる、[1]に記載の製造方法。
[3]
上記タンパク質繊維は、水分と接触させて、次いで乾燥させることにより7%超収縮しうる、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
上記水分の温度が沸点未満である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
上記織成工程において、上記原料織物の織り密度を調整する工程を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
上記タンパク質繊維がフィブロイン繊維である、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
上記フィブロイン繊維が改変クモ糸フィブロイン繊維である、[6]に記載の製造方法。
[8]
タンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維を有する織物であって、上記繊維が水分により収縮されている高密度織物。
[9]
タンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維を有する織物であって、上記織物が水分により収縮されている高密度織物。
[10]
タンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維を有する織物であって、上記織物の織り密度が、上記繊維の織成によって実現可能な織り密度の最大値を超える、高密度織物。
[11]
上記タンパク質繊維がフィブロイン繊維である、[8]~[10]のいずれかに記載の高密度織物。
[12]
上記フィブロイン繊維が改変クモ糸フィブロイン繊維である、[11]に記載の高密度織物。
[13]
上記タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、
上記改変フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当する、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、
[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法又は[8]~[12]のいずれか一つに記載の高密度織物。
[式1中、(A)nモチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[14]
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有する、[13]に記載の製造方法又は高密度織物。
[15]
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[13]に記載の製造方法又は高密度織物。
[16]
上記タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、
上記改変フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、
N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、上記ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが50%以上である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法又は[8]~[12]のいずれか一つに記載の高密度織物。
[式1中、(A)nモチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[17]
上記タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、
上記改変フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当する、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、
[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法又は[8]~[12]のいずれか一つに記載の高密度織物。
[式1中、(A)nモチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[18]
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有する、[17]に記載の製造方法又は高密度織物。
[19]
グリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上である、[18]に記載の製造方法又は高密度織物。
[20]
上記タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、
上記改変フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、
上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法又は[8]~[12]のいずれか一つに記載の高密度織物。
[式1中、(A)nモチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[21]
上記改変フィブロインが、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するのに加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列を有する、[17]~[20]のいずれか一つに記載の製造方法又は高密度織物。
[22]
上記タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、
上記改変フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有する、
[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法又は[8]~[12]のいずれか一つに記載の高密度織物。
[式1中、(A)nモチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[23]
上記局所的に疎水性指標の大きい領域が、連続する2~4アミノ酸残基で構成されている、[22]に記載の製造方法又は高密度織物。
[24]
上記疎水性指標の大きいアミノ酸残基が、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれる、[22]又は[23]に記載の製造方法又は高密度織物。
[25]
上記タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、
上記改変フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、
最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法又は[8]~[12]のいずれか一つに記載の高密度織物。
[式1中、(A)nモチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が83%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[26]
上記改変フィブロインが、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当するのに加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列を有する、[22]~[25]のいずれか一つに記載の製造方法又は高密度織物。
[27]
上記タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、
上記改変フィブロインが、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含み、
上記ドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当する、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する、
[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法又は[8]~[12]のいずれか一つに記載の高密度織物。
[式1及び式2中、(A)nモチーフは2~27アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。]
[28]
上記改変フィブロインが、REP中にGPGXX(但し、Xはグリシン残基以外のアミノ酸残基を示す。)モチーフを含み、GPGXXモチーフ含有率が10%以上である、[27]に記載の製造方法又は高密度織物。
[29]
上記改変フィブロインのグルタミン残基含有率が9%以下である、[27]又は[28]に記載の製造方法又は高密度織物。
[30]
上記他のアミノ酸残基が、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)、アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)からなる群より選択されるアミノ酸残基である、[27]~[29]のいずれか一つに記載の製造方法又は高密度織物。
[31]
上記改変フィブロインは、REPの疎水性度が-0.8以上である、[27]~[30]のいずれか一つに記載の製造方法又は高密度織物。
[32]
上記改変フィブロインが、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するのに加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列を有する、[27]~[31]のいずれか一つに記載の製造方法又は高密度織物。
[33]
上記タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、
上記改変フィブロインが、26.0以上の限界酸素指数(LOI)値を有する、[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法又は[8]~[12]のいずれか一つに記載の高密度織物。
[34]
上記タンパク質繊維が改変フィブロインを含み、
上記改変フィブロインの、下記式Aに従って求められる最高吸湿発熱度が0.025℃/g超である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法又は[8]~[12]のいずれか一つに記載の高密度織物。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
[式A中、低湿度環境は、温度20℃及び相対湿度40%の環境を意味し、高湿度環境は、温度20℃及び相対湿度90%の環境を意味する。]
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タンパク質繊維を含む高密度な織物及びその製造方法が提供される。特に、本発明によれば、織成工程で特別な制限や条件(例えば、細い糸の使用又は高い織り密度での織成)を加えることなく、高い密度を有する織物を提供することができる。また、本発明によれば、製織限界を超える織り密度を有する織物が提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図2】天然由来のフィブロインのz/w(%)の値の分布を示す図である。
【
図3】天然由来のフィブロインのx/y(%)の値の分布を示す図である。
【
図4】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図5】改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図6】タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
【
図7】吸湿発熱性試験の結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
〔高密度織物の製造方法〕
本実施形態に係る高密度織物の製造方法は、タンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維を織って原料織物を得る工程(織成工程)と、上記原料織物と水分とを接触させて高密度織物を得る工程(収縮工程)と、を含む。
【0012】
<織成工程>
織成工程において原料織物は、タンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維を織って得られる。
【0013】
<タンパク質>
タンパク質は、例えば、構造タンパク質及び当該構造タンパク質に由来する改変構造タンパク質であってもよい。構造タンパク質とは、生体内で構造及び形態等を形成又は保持するタンパク質を意味する。構造タンパク質としては、例えば、フィブロイン、コラ-ゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン等を挙げることができる。
【0014】
フィブロインとしては、例えば、以下のような改変フィブロインを用いることができる。本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0015】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0016】
「改変フィブロイン」は、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0017】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよく、10~40、10~60、10~80、10~100、10~120、10~140、10~160、又は10~180アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、8~300、10~300、20~300、40~300、60~300、80~300、100~300、10~200、20~200、20~180、20~160、20~140、又は20~120の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0018】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0019】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0020】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0021】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0022】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0023】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0024】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0025】
本実施形態に係る改変フィブロインは、改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。改変フィブロインとしては、改変クモ糸フィブロインが好ましい。改変クモ糸フィブロインは、保温性、吸湿発熱性及び/又は難燃性にも優れる。
【0026】
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)nモチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0027】
第1の改変フィブロインとしては、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインにおいて、(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0028】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
【0029】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0030】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0031】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0032】
(1-i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0033】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0034】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0035】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0036】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0037】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0038】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、
図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)
nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0039】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を
図2に示す。
図2の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図2から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
【0040】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0041】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0042】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0043】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6(Met-PRT380)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0044】
(2-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
【0045】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
【0046】
(2-i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0047】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0048】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0049】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0050】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0051】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0052】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0053】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0054】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0055】
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0056】
(2-iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0057】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0058】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0059】
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0060】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0061】
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)nモチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0062】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0063】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0064】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0065】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0066】
x/yの算出方法を
図1を参照しながら更に詳細に説明する。
図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)
nモチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)
nモチーフという配列を有する。
【0067】
隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)
nモチーフ-REP]ユニットが存在してもよい。
図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0068】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0069】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。本明細書中、この比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0070】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。
図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0071】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0072】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0073】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0074】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9~4.1の場合の結果を
図3に示す。
【0075】
図3の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図3から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
【0076】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0077】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号17(Met-PRT399)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0078】
(3-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列は、第2の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0079】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0080】
(3-i)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0081】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0082】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0083】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0084】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0085】
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0086】
(3-iii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0087】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0088】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0089】
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0090】
第4の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述した第2の改変フィブロインと、第3の改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0091】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)、配列番号9(Met-PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4-ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0092】
第5の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0093】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0094】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0095】
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0096】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0097】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0098】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0099】
【0100】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0101】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、
図4に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、
図4に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)
nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。
図4の場合28/170=16.47%となる。
【0102】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0103】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0104】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0105】
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5-i)配列番号19(Met-PRT720)、配列番号20(Met-PRT665)若しくは配列番号21(Met-PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0106】
(5-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met-PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いて、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met-PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0107】
(5-i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0108】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0109】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0110】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0111】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0112】
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0113】
(5-iii)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0114】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0115】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0116】
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0117】
第6の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0118】
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0119】
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0120】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(すなわち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0121】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0122】
図5は、改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。
図5を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、
図5に示した改変フィブロインのドメイン配列(「[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、
図5の改変フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0123】
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0124】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0125】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0126】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0127】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0128】
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0129】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0130】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0131】
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0132】
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号25(Met-PRT888)、配列番号26(Met-PRT965)、配列番号27(Met-PRT889)、配列番号28(Met-PRT916)、配列番号29(Met-PRT918)、配列番号30(Met-PRT699)、配列番号31(Met-PRT698)若しくは配列番号32(Met-PRT966)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31若しくは配列番号32で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0133】
(6-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0134】
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met-PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0135】
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0136】
配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31及び配列番号32で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【0137】
【0138】
(6-i)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31又は配列番号32で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0139】
(6-ii)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31又は配列番号32で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0140】
(6-ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0141】
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0142】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)若しくは配列番号40(PRT966)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39若しくは配列番号40で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0143】
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31及び配列番号32で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39及び配列番号40で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【0144】
【0145】
(6-iii)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39又は配列番号40で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0146】
(6-iv)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39又は配列番号40で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0147】
(6-iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0148】
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0149】
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
【0150】
本実施形態に係る改変フィブロインの限界酸素指数(LOI)値は、18以上、20以上、22以上、24以上、26以上、28以上、29以上、又は30以上であってもよい。本明細書において、LOI値は、「消防危50号(平成7年5月31日付け)」に記載の「粉粒状又は融点の低い合成樹脂の試験方法」に準拠して測定される値である。
【0151】
本実施形態に係る改変フィブロインの下記式Aに従って求められる最高吸湿発熱度は、0.025℃/g超であってよい。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
なお、式A中、低湿度環境は、温度20℃及び相対湿度40%の環境を意味し、高湿度環境は、温度20℃及び相対湿度90%の環境を意味する。
【0152】
本実施形態に係る改変フィブロインの最高吸湿発熱度は、0.026℃/g以上、0.027℃/g以上、0.028℃/g以上、0.029℃/g以上、0.030℃/g以上、0.035℃/g以上、又は0.040℃/g以上であってもよい。最高吸湿発熱度の上限に特に制限はないが、通常、0.060℃/g以下である。
【0153】
本実施形態に係る改変フィブロインは、下記式Bに従って求められる保温性指数が0.20以上であってよい。
式B:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m2)
ここで、本明細書において、保温率は、サーモラボII型試験機(30cm/秒の有風下)を用いたドライコンタクト法で測定した保温率を意味し、後述する参考例に記載の方法により測定される値である。
【0154】
本実施形態に係る改変フィブロインの保温性指数は、0.22以上であってよく、0.24以上であってよく、0.26以上であってよく、0.28以上であってよく、0.30以上であってよく、0.32以上であってよい。保温性指数の上限に特に制限はないが、例えば、0.60以下、又は0.40以下であってよい。
【0155】
コラーゲン由来のタンパク質として、例えば、式3:[REP2]iで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、iは5~300の整数を示す。REP2は、Gly-X-Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP2は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号41で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0156】
レシリン由来のタンパク質として、例えば、式4:[REP3]jで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式4中、jは4~300の整数を示す。REP3はSer-J-J-Tyr-Gly-U-Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意のアミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP4は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号42で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenBankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0157】
エラスチン由来のタンパク質として、例えば、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号43で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号43で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0158】
ケラチン由来のタンパク質として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号44で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含むタンパク質を挙げることができる。
【0159】
上述した構造タンパク質及び当該構造タンパク質に由来する改変構造タンパク質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0160】
<タンパク質の製造方法>
上記いずれの実施形態に係るタンパク質も、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0161】
タンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロインをコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したタンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
【0162】
調節配列は、宿主における改変フィブロインの発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、改変フィブロインを発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0163】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、タンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0164】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0165】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0166】
原核生物を宿主とする場合、タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0167】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0168】
真核生物を宿主とする場合、改変フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0169】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0170】
タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成及び蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0171】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。
【0172】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0173】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0174】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0175】
発現させたタンパク質の単離及び精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0176】
また、タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてタンパク質の不溶体を回収する。回収したタンパク質の不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりタンパク質の精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0177】
<タンパク質繊維の製造方法>
タンパク質繊維は、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、タンパク質を主成分として含むタンパク質繊維を製造する際には、まず、上述した方法に準じて製造したタンパク質(例えば、改変フィブロイン)をジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、又はヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)等の溶媒に、必要に応じて、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、目的とするタンパク質繊維を得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。
【0178】
図6は、タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
図6に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、未延伸糸製造装置2と、湿熱延伸装置3と、乾燥装置4とを有している。
【0179】
紡糸装置10を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽7に貯蔵されたドープ液6が、ギアポンプ8により口金9から押し出される。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て、凝固液槽20の凝固液11内に供給され、溶媒が除去されて、タンパク質が凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴(洗浄浴)槽21内の温水12中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ13と引き取りニップローラ14との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置4に供給され、糸道22内で乾燥されて、タンパク質繊維36が、巻糸体5として得られる。18a~18gは糸ガイドである。
【0180】
凝固液11としては、脱溶媒できる溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固液11の温度は、0~30℃であることが好ましい。口金9として、直径0.1~0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押出し速度は1ホール当たり、0.2~6.0ml/時間が好ましく、1.4~4.0ml/時間であることがより好ましい。凝固したタンパク質が凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200~500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1~20m/分であってよく、1~3m/分であることが好ましい。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01~3分であってよく、0.05~0.15分であることが好ましい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。凝固液槽20は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
【0181】
なお、タンパク質繊維を得る際に実施される延伸は、例えば、上記した凝固液槽20内で行う前延伸、及び延伸浴槽21内で行う湿熱延伸の他、乾熱延伸も採用される。
【0182】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。
【0183】
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃~270℃であってよく、160℃~230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5~8倍延伸することができ、1~4倍延伸することが好ましい。
【0184】
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0185】
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。
【0186】
<タンパク質繊維>
本実施形態に係るタンパク質繊維はタンパク質を含み、好ましくはタンパク質を主成分として含む。タンパク質繊維は、上述したタンパク質を紡糸したものであってもよく、この場合、上述したタンパク質を主成分として含んでよい。以下、使用するタンパク質に応じて、単に「改変タンパク質繊維」、「改変フィブロイン繊維」、「改変クモ糸フィブロイン繊維」などともいう。タンパク質繊維は、短繊維であっても、長繊維であってもよい。
【0187】
本実施形態に係るタンパク質繊維は、水分に接触させて湿潤状態にするだけで収縮可能であることが好ましい。また、一実施形態に係るタンパク質繊維は、水分に接触させて湿潤状態にし、その後乾燥させることで、より高度に収縮可能であることが好ましい。タンパク質繊維の収縮率は、下記式Iで定義される。
式I:収縮率(%)={1-(水分に接触させることを含む収縮工程を経たタンパク質繊維の長さ/収縮工程を経る前のタンパク質繊維の長さ)}×100
【0188】
本実施形態に係るタンパク質繊維は、2.0%以上、2.5%以上、3%以上、3.5%以上、4%以上、4.5%以上、5%以上、5.5%以上、又は6%以上の収縮率を有するものであってよい。いいかえれば、湿潤状態にすることによるタンパク質繊維の収縮率(下式II参照)は2.0%以上であってよい。
式II:湿潤状態にすることによる収縮率(%)={1-(水分に接触させて湿潤状態にしたタンパク質繊維の長さ/水分に接触させる前のタンパク質繊維の長さ)}×100
【0189】
本実施形態に係るタンパク質繊維は、水分に接触させて湿潤状態にし、その後乾燥させた場合に、7%超、15%以上、25%以上、32%以上、40%以上、48%以上、56%以上で、64%以上、又は72%以上の収縮率で収縮するものであってよい。いいかえれば、湿潤及び乾燥状態にすることによるタンパク質繊維の収縮率(下式III参照)は7%超であってよい。
式III:湿潤及び乾燥状態にすることによる収縮率(%)={1-(水分に接触させて湿潤状態にした後乾燥させたタンパク質繊維の長さ/水分に接触させる前のタンパク質繊維の長さ)}×100
収縮率の上限は、通常、80%以下である。
【0190】
本実施形態に係るタンパク質繊維は、LOI値が、18以上であってよく、20以上であってもよく、22以上であってもよく、24以上であってもよく、26以上であってもよく、28以上であってもよく、29以上であってもよく、30以上であってもよい。本明細書において、
【0191】
本実施形態に係るタンパク質繊維は、下記式Aに従って求められる最高吸湿発熱度が0.025℃/g超であってよい。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
なお、式A中、低湿度環境は、温度20℃及び相対湿度40%の環境を意味し、高湿度環境は、温度20℃及び相対湿度90%の環境を意味する。
【0192】
本実施形態に係るタンパク質繊維は、最高吸湿発熱度が0.026℃/g以上であってもよく、0.027℃/g以上であってもよく、0.028℃/g以上であってもよく、0.029℃/g以上であってもよく、0.030℃/g以上であってもよく、0.035℃/g以上であってもよく、0.040℃/g以上であってもよい。最高吸湿発熱度の上限に特に制限はないが、通常、0.060℃/g以下である。
【0193】
本実施形態に係るタンパク質繊維は、下記式Bに従って求められる保温性指数が0.20以上であってよい。
式B:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m2)
【0194】
本実施形態に係るタンパク質繊維の保温性指数は、0.22以上であってよく、0.24以上であってよく、0.26以上であってよく、0.28以上であってよく、0.30以上であってよく、0.32以上であってよい。保温性指数の上限に特に制限はないが、例えば、0.60以下、又は0.40以下であってよい。
【0195】
<原料織物>
原料織物は上述のタンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維(材料糸ともいう)を織ることにより得ることができる。材料糸としては、タンパク質繊維のみからなる単独糸、及び、タンパク質繊維と他の繊維とを組み合わせてなる複合糸を、それぞれ単独で、又はそれらを組み合わせて用いてもよい。上記単独糸及び上記複合糸は、短繊維を撚り合わせたスパン糸であってもよく、長繊維を撚り合わせたフィラメント糸であってもよい。上記単独糸及び上記複合糸としては、フィラメント糸が好適に用いられる。なお、単独糸は1種類のタンパク質のみを使用した繊維からなるものであっても、複数種類のタンパク質を使用した繊維からなるものであってもよい。また、他の繊維とは、タンパク質を含まない繊維等をいい、例えば、ナイロン、ポリエステル等の合成繊維、キュプラ、レーヨン等の再生繊維、及び、綿、麻等の天然繊維が挙げられる。タンパク質繊維を他の繊維と組み合わせて使用する場合には、タンパク質繊維を含む繊維全量を基準として、タンパク質繊維の含有量が、質量5%以上であることが好ましく、質量20%以上であることがより好ましく、質量50%以上であることがさらに好ましい。タンパク質繊維の含有量を上記のような範囲とすることにより、原料織物の収縮工程における収縮率を調整できる。また、複合糸には、例えば、混紡糸、混繊糸、カバーリング糸等が含まれる。
【0196】
原料織物は、平織、綾織、又はサテン織り(繻子織)のうちのいずれの組織を有する織物であってもよい。一般に、織物の織り密度(経糸の織り密度及び緯糸の織り密度)は経糸及び緯糸のそれぞれの繊度等に大きく左右され(例えば、繊度が低くなれば最大織り密度が大きくなり、繊度が高まれば最大織り密度が小さくなり)、また、経糸の織り密度と緯糸の織り密度は互いに相関する(例えば、前者が大きくなると後者が小さくなり、或いは前者が小さくなると後者が大きくなる)。ここで用いられる原料織物の経糸及び緯糸の両方又は一方の織り密度は、例えば、繊度が190デニールである場合、20本/in以上又は25本/in以上であってよい。織り密度とは、織物1インチ(1inは2.54cmに相当。)あたりの経糸又は緯糸の本数である。経糸の織り密度及び緯糸の織り密度はそれぞれ経糸密度及び緯糸密度と呼ばれ、それぞれ織物1inあたりの経糸及び緯糸の本数を表す。織物の織り密度は、例えば、JIS L 1096:2010に準じた方法により測定することができる。
【0197】
織成方法は特に限定されず、例えば、公知の織機を使用して材料糸を織ることができる。使用される織機としては、例えば、有杼織機、及び、グリッパー織機、レピア織機、ウォータージェット織機、エアジェット織機等の無杼織機が挙げられる。
【0198】
織成工程は、原料織物の織り密度を調整する工程(以下、「織り密度調整工程」ともいう。)を含んでもよい。すなわち、織成工程は、目的とする高密度織物の織り密度に合わせて、原料織物の織り密度(経糸密度及び緯糸密度の両方又は一方)を調整する工程を含んでいてもよい。このような工程を含むことによって、原料織物を収縮させて得られる高密度織物の織り密度を容易に調整することができる。なお、原料織物の織り密度は、織機の筬羽の数、1つの筬羽に通す経糸の数(いわゆる「引込数」。)、及び、材料糸(経糸及び緯糸)の繊度を調整することによって制御できる。
【0199】
織り密度調整工程は、より具体的には、例えば、後述する収縮工程において得られる高密度織物が下記(i)又は(ii)の少なくともいずれか一方の条件を満たすように、原料織物の織り密度を調整する工程であってよい。
(i)高密度織物の経糸及び緯糸の繊度が190デニールの場合、経糸及び緯糸の両方又は一方の織り密度が、55本/in以上である。
(ii)原料織物の織り密度に対する高密度織物の織り密度の増加率が1倍超である。
【0200】
織り密度調整工程では、高密度織物の織り密度が上記(i)又は(i)の少なくともいずれか一方の条件を満たすように、原料織物の経糸及び緯糸の両方又は一方の織り密度を、例えば、繊度が190デニールの場合、20本/in以上又は25本/in以上となるように調整してもよい。
【0201】
<収縮工程>
収縮工程では、原料織物を水分と接触させて湿潤状態にする(以下、「接触ステップ」ともいう。)。湿潤状態とは、タンパク質繊維の少なくとも一部が水で濡れた状態を意味する。接触ステップでは、原料織物を湿潤状態にすることで、外力によらずに、タンパク質繊維を収縮させる(水収縮させるともいう)ことができ、これにより織物全体の収縮を生じさせる。かかる工程で、タンパク質繊維の外力によらない収縮は、例えば、以下の理由により生ずると考えられる。すなわち、一つの理由は、タンパク質の二次構造や三次構造に起因すると考えられ、また別の一つの理由は、例えば、製造工程での延伸等により生じた残留応力を有するタンパク質繊維において、水分が繊維間又は繊維内へ浸入することにより、残留応力が緩和されることで生ずると考えられる。それ故、収縮工程でのタンパク質繊維の収縮率は、例えば、上記したタンパク質繊維の製造過程での延伸倍率の大きさに応じて任意にコントロールすることもできると考えられる。したがって、上記タンパク質繊維の製造過程における延伸倍率の調節等により収縮率が調整されたタンパク質繊維を含む材料糸を用いることで、原料織物を水分と接触させて湿潤状態にした際の原料織物の収縮量を任意に調整することができる。その結果、所望の織り密度を有する高密度織物が得られるようになると考えられる。
【0202】
また、収縮率が互いに異なる材料糸の中から適当なものを適宜に選択し組み合わせて用いることによっても、高密度織物の織り密度の調整が可能になると期待される。さらに、湿潤状態にすることによる原料織物の収縮量を制限することにより、材料糸の種類等に関わらず、高密度織物の織り密度を調整することもできる。原料織物の水分との接触による収縮量を制限する方法は、特に限定されない。収縮量を制限する方法としては、例えば、原料織物の周端部を固定した状態で原料織物を水分と接触させて収縮させる方法などが挙げられる。より具体的には、水分との接触させる前の原料織物の元のサイズよりも小さく、且つ、周端部を自由にした状態で水分と原料織物とを接触させて最大量収縮させて得られる織物のサイズよりも所定寸法だけ大きなサイズの枠体等に、原料織物の周端部を全周において固定した状態(枠体のサイズと、原料織物のサイズとの差分だけ収縮が許容された状態)で、原料織物を水分に接触させることで、収縮量の調整が可能である。そのような枠体のサイズを種々調節することにより、高密度織物の織り密度を任意に調整することが可能となる。
【0203】
本明細書において「水分」とは、液体及び気体の何れの状態の水をも意味する。接触ステップにおいて、水分を原料織物に接触させる方法も、特に限定されない。例えば、原料織物を水に浸漬する方法、原料織物に対して、水を常温又は加温したスチーム等の状態で噴霧する方法、及び、原料織物を水蒸気が充満した高湿度環境下に暴露する方法等が挙げられる。これらの方法の中でも、収縮時間の短縮化が効果的に図れるとともに、加工設備の簡素化等が実現できることから、原料織物を水に浸漬する方法が好ましい。原料織物の水への浸漬方法としては、具体的には、例えば、原料織物を、所定の温度の水が収容された容器内に投入する方法等がある。
【0204】
接触ステップにおいて、水分を原料織物に接触させる際の水の温度は、特に限定されないが、例えば沸点未満であることが好ましい。このような温度であれば、取扱性及び収縮工程の作業性等が向上する。また水の温度の上限値は、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。水の温度の下限値は、10℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。原料織物に接触させる水の温度は、原料織物を構成する繊維に応じて調整することができる。また、水分を原料織物に接触させている間、水の温度は一定であってもよく、水の温度を所定の温度になるように変動させてもよい。
【0205】
接触ステップにおいて、水分を原料織物に接触させる時間は、特に制限されず、例えば、1分以上であってよい。当該時間は、10分以上であってよく、20分以上であってよく、30分以上であってもよい。また、当該時間の上限に特に制限はないが、製造工程の時間を短縮するという観点、及びタンパク質繊維の加水分解のおそれを排除する等の観点から、例えば、120分以下であってよく、90分以下であってよく、60分以下であってもよい。
【0206】
収縮工程は、接触ステップに加えて、原料織物を水分と接触させて湿潤状態にした後に、乾燥させること(以下、「乾燥ステップ」ともいう。)を更に含むものであってもよい。
【0207】
乾燥ステップにおける乾燥方法は、特に限定されず、例えば、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的に乾燥させてもよい。乾燥温度としては、織物を構成するタンパク質が熱的損傷を受けたりする温度より低い温度であれば何ら限定されるものではないが、一般的には、20~150℃の範囲内の温度であり、40~120℃の範囲内の温度であることが好ましく、60~100℃の範囲内の温度であることがより好ましい。このような温度範囲内であれば、タンパク質の熱的損傷等を生ずることなく、織物を、より迅速かつ効率的に乾燥させることができる。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜選択され、例えば、タンパク質繊維の過乾燥による織物の品質及び物性等への影響が可及的に排除されうる時間が採用される。
【0208】
上記製造方法によれば、タンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維を水分により収縮させているから、単に当該繊維を織成することで得られる従来の織物よりも織り密度の高い織物(高密度織物)を製造することができる。また、織り密度が上述した(i)又は(ii)の少なくともいずれか一方の条件を満たす高密度織物を製造することができ、上述の(i)又は(ii)の少なくとも何れか一方の条件を満たしつつ、且つ従来の技術により実現可能な織り密度を超える織り密度を有する織物を製造することができる。
【0209】
<高密度織物>
本明細書における「高密度織物」とは、織り密度の高い織物を意味する。
【0210】
一実施形態に係る高密度織物の経糸及び緯糸の両方又は一方の織り密度は、経糸及び緯糸の繊度等に影響されるものの、例えば、経糸又は緯糸の繊度が190デニールの場合、55本/in以上、60本/in以上、65本/in以上、70本/in以上、75本/in以上、80本/in以上、85本/in以上、90本/in以上、95本/in以上、100本/in以上、又は105本/in以上であってよい。経糸及び緯糸の両方又は一方の織り密度が上記下限値以上であると、織物に適度な張りや腰を持たせることができる。本発明により得られる高密度織物の織り密度の上限値は、特に制限されるものでなく、150本/in以下であってよい。高密度織物の織り密度は、原料織物の織り密度、原料織物の水分との接触による収縮率、原料織物を構成するタンパク質繊維を少なくとも一部に含む繊維の水分との接触による収縮率等を調整することにより制御することができる。
【0211】
一実施形態に係る高密度織物の経糸及び緯糸の両方又は一方の織り密度は、原料織物の水分との接触により、原料織物の経糸及び緯糸の両方又は一方の織り密度よりも増加している。
【0212】
高密度織物の織り密度の増加率は、上述した収縮工程を経る前の原料織物と、収縮工程を経た後の織物(高密度織物)との、織物1in2あたりの経糸及び緯糸の総数を比較することにより求めることができる。すなわち、例えば原料織物の織り密度に対する高密度織物の織り密度の増加率は下記式IVに従って算出される。
式IV:織り密度の増加率=(N1s+N2s)/(N1d+N2d)
式中、
N1sは、収縮工程を経た後の高密度織物の経糸密度を示し、
N2sは、収縮工程を経た後の高密度織物の緯糸密度を示し、
N1dは、収縮工程を経る前の原料織物の経糸密度を示し、
N2dは、収縮工程を経る前の原料織物の経糸密度を示す。
したがって、N1s+N2sは、収縮工程を経た後の高密度織物1in2あたりの経糸及び緯糸の総数であり、N1d+N2dは、収縮工程を経る前の原料織物1in2あたりの経糸及び緯糸の総数である。
【0213】
高密度織物の織り密度の増加率は、原料織物の織り密度に対して、例えば、1倍超、1.15倍、1.5倍、1.7倍、2倍、又は2.5倍であってよい。高密度織物の織り密度の増加率は、原料織物の織り密度に対して、例えば、10倍以下であってよい。織り密度の増加率が上記範囲となるように収縮工程を行うことにより、高密度織物に適度な張りや腰を持たせることができる。
【0214】
一実施形態に係る高密度織物は、従来法による織成工程で実現可能な織り密度の最大値(理論上の製織限界の密度)を超える織り密度(経糸密度及び緯糸密度の両方又はいずれか一方)を有する織物であってもよい。ここで、織成工程で実現可能な経糸及び緯糸の織り密度の最大値は、例えば、繊度及び織り密度から求められる経糸及び緯糸のそれぞれのカバー・ファクターと、それらの関係を示す製織性線図とを用いた公知の方法によって求めることができる。すなわち、経糸が所定のカバー・ファクターを有するときの緯糸の最大カバー・ファクターを製織性線図から読み取ることで、経糸が所定の織り密度を有するときの緯糸の理論上の製織限界密度を求めることができ、或いはその逆に、緯糸が所定のカバー・ファクターを有するときの経糸の最大カバー・ファクターを製織性線図から読み取ることで、緯糸が所定の織り密度を有するときの経糸の理論上の製織限界密度を求めることができる。
【0215】
なお、カバー・ファクターは、織物の表面を糸(経糸又は緯糸)がどの程度覆っているかを示す指標であり、ジャム織物という、糸と糸の間に隙間のない織物における糸のカバー・ファクターが、カバー・ファクターの理論上の最大値(限界値)である。経糸及び緯糸のカバー・ファクターの最大値は公知の製織性線図から求めることができる。製織性線図とは、ジャム織物における経糸のカバー・ファクターと緯糸のカバー・ファクターを、経糸と緯糸の番手比ごとにプロットしたものであり、織物を構成する組織ごとに固有の製織性線図が描かれる。
【0216】
一実施形態に係る高密度織物は、LOI値が、18以上であってよく、20以上であってもよく、22以上であってもよく、24以上であってもよく、26以上であってもよく、28以上であってもよく、29以上であってもよく、30以上であってもよい。
【0217】
一実施形態に係る高密度織物は、下記式Aに従って求められる最高吸湿発熱度が0.025℃/g超であってよい。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
なお、式A中、低湿度環境は、温度20℃及び相対湿度40%の環境を意味し、高湿度環境は、温度20℃及び相対湿度90%の環境を意味する。
【0218】
一実施形態に係る高密度織物は、最高吸湿発熱度が0.026℃/g以上であってもよく、0.027℃/g以上であってもよく、0.028℃/g以上であってもよく、0.029℃/g以上であってもよく、0.030℃/g以上であってもよく、0.035℃/g以上であってもよく、0.040℃/g以上であってもよい。最高吸湿発熱度の上限に特に制限はないが、通常、0.060℃/g以下である。
【0219】
一実施形態に係る高密度織物は、下記式Bに従って求められる保温性指数が0.20以上であってよい。
式B:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m2)
【0220】
一実施形態に係る高密度織物の保温性指数は、0.22以上であってよく、0.24以上であってよく、0.26以上であってよく、0.28以上であってよく、0.30以上であってよく、0.32以上であってよい。保温性指数の上限に特に制限はないが、例えば、0.60以下、又は0.40以下であってよい。
【実施例】
【0221】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0222】
〔(1)改変クモ糸フィブロイン(タンパク質)の製造〕
(改変クモ糸フィブロインをコードする核酸の合成、及び発現ベクターの構築)
配列番号18で示されるアミノ酸配列を有する改変クモ糸フィブロイン(PRT399)、配列番号12で示されるアミノ酸配列を有する改変クモ糸フィブロイン(PRT380)、配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する改変クモ糸フィブロイン(PRT410)、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する改変クモ糸フィブロイン(PRT799)を設計した。
【0223】
設計した4種類の改変クモ糸フィブロインをコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。これら4種類の核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0224】
(改変クモ糸フィブロインの発現)
得られたpET-22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0225】
【0226】
当該シード培養液を500mLの生産培地(下記表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
【0227】
【0228】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持しながら、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的とする改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインに相当するサイズのバンドの出現により、目的とする改変クモ糸フィブロインの発現を確認した。
【0229】
(改変クモ糸フィブロインの精製)
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収した。回収した凝集タンパク質から凍結乾燥機で水分を除き、目的とする改変フィブロインの凍結乾燥粉末を得た。
【0230】
〔(2)改変クモ糸フィブロイン繊維(改変タンパク質繊維)の製造〕
(ドープ液の調製)
4.0質量%になるようにLiClを溶解させたジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用意し、そこに改変フィブロインの凍結乾燥粉末を、濃度18質量%又は24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変クモ糸フィブロイン溶液を得た(表6~9参照)。
【0231】
(紡糸)
得られた改変クモ糸フィブロイン溶液をドープ液(紡糸原液)とし、
図6に示す紡糸装置10に準じた紡糸装置を用いた乾湿式紡糸によって、紡糸及び延伸された改変クモ糸フィブロイン繊維を製造した。用いた紡糸装置は、
図6に示す紡糸装置10において、未延伸糸製造装置2(第1浴)及び湿熱延伸装置3(第3浴)の間に、更に第2の未延伸糸製造装置(第2浴)を備えるものである。乾湿式紡糸の条件は以下のとおりである。
押出しノズル直径:0.2mm
凝固浴(第1及び第2浴)温度:2~15℃
洗浄浴(第3浴)温度:17℃
総延伸倍率:1~4倍
乾燥温度:60℃
【0232】
〔(3)改変クモ糸フィブロイン繊維(改変タンパク質繊維)の評価〕
(収縮率評価)
製造例1~17で得た各改変クモ糸フィブロイン繊維について、収縮率を評価した。すなわち、各改変クモ糸フィブロイン繊維を水に接触させて湿潤状態にし(接触ステップ)、その後乾燥させる(乾燥ステップ)、収縮工程を実施し、湿潤状態にすることによる改変クモ糸フィブロイン繊維の収縮率、並びに、湿潤及び乾燥状態にすることによる改変クモ糸フィブロイン繊維の収縮率を求めた。
【0233】
<接触ステップ>
製造例1~17で得た改変クモ糸フィブロイン繊維の巻回物から、それぞれ、長さ30cmの複数本の試験用の改変クモ糸フィブロイン繊維を切り出した。それら複数本の改変クモ糸フィブロイン繊維を束ねて、繊度150デニールの改変クモ糸フィブロイン繊維束を得た。各改変クモ糸フィブロイン繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で各改変クモ糸フィブロイン繊維束を表6~9に示す温度の水に10分間浸漬した。その後、水中で各改変クモ糸フィブロイン繊維束の長さを測定した。測定は、改変クモ糸フィブロイン繊維束の縮れを無くすために、改変クモ糸フィブロイン繊維束に0.8gの鉛錘を取り付けたまま実施した。湿潤状態にすることによる改変クモ糸フィブロイン繊維の収縮率(%)を、下記式Vにより算出した。式V中、Ldは水に浸漬する前の改変クモ糸フィブロイン繊維束の長さ(30cm)を示し、Lwは水に浸漬して湿潤状態にした改変クモ糸フィブロイン繊維束の長さを示す。
式V:湿潤状態にすることによる収縮率(%)={1-(Lw/Ld)}×100
【0234】
<乾燥ステップ>
改変クモ糸フィブロイン繊維束を水中から取り出した。取り出した改変クモ糸フィブロイン繊維束を、0.8gの鉛錘を取り付けたまま、室温で2時間おいて乾燥させた。乾燥後、各改変クモ糸フィブロイン繊維束の長さを測定した。次いで、各改変クモ糸フィブロイン繊維の収縮率(%)を、下記式VIに従って算出した。式VI中、Ldは水に浸漬する前の改変クモ糸フィブロイン繊維束の長さ(30cm)を示し、Lwdは水に接触させて湿潤状態にし、その後乾燥させた改変クモ糸フィブロイン繊維束の長さを示す。
式VI:湿潤及び乾燥状態にすることによる収縮率(%)={1-(Lwd/Ld)}×100
【0235】
結果を表6~9に示す。なお、表6~9中における総延伸倍率は、紡糸工程における総延伸倍率を示す。表6~9中において、「収縮率(%)(湿潤状態)」は湿潤状態にすることによる改変クモ糸フィブロイン繊維の収縮率を示し、「収縮率(%)(乾燥状態)」は、湿潤及び乾燥状態にすることによる改変クモ糸フィブロイン繊維の収縮率を示す。
【0236】
【0237】
【0238】
【0239】
【0240】
〔(4)実施例〕
<原料織物の製造>
改変クモ糸フィブロイン繊維からなる撚糸を用い、レピア織機(Evergreen Automatic Sampling Loom:CCI製)により平織にて、下記表10に示すような互いに異なる織り密度を有する4種類の原料織物を織成した。ここで、改変フィブロイン繊維からなる撚糸の繊度は190dであり、撚数は450T/mであった。
【0241】
<高密度織物の製造>
上記で得られた4種類の原料織物をそれぞれ40℃の水に10分間浸漬した後、乾燥させることにより、改変フィブロイン繊維撚糸製の4種類の高密度織物(実施例1~4)を製造した。その後、それら実施例1~4の高密度織物の密度を調べた。その結果を下記表10に示す。表中、織り密度は、経糸密度かける緯糸密度の形で示す。例えば、織り密度「26×26」は、経糸密度26(本/in)及び緯糸密度26(本/in)を意味する。
【0242】
〔(5)比較例〕
上記改変フィブロイン繊維からなる撚糸に代えてポリアミド繊維からなる撚糸を用い、改変フィブロイン繊維撚糸製の原料織物の作製時と同様にして、下記表10に示すような互いに異なる密度を有する4種類の原料織物を織成した。ここで、ポリアミド繊維からなる撚糸の繊度は150dであり、撚数は150T/mであった。
【0243】
その後、上記実施例と同様にして、4種類の原料織物を水に浸漬させた後、乾燥させて、ポリアミド繊維撚糸製の4種類の織物(比較例1~4)を製造した。その後、それら比較例1~4の織物の密度を調べた。その結果を下記表10に併せて示す。
【0244】
【0245】
実施例1~4で使用した経糸及び緯糸のそれぞれの織り密度のうち、従来の織成工程により実現可能な経糸の織り密度の理論上の最大値は、緯糸の織り密度が78(本/in)のとき102(本/in)である。これに対し、実施例4の高密度織物の経糸の織り密度は119(本/in)となっており、これは経糸の織り密度の理論上(製織限界)の最大値を超える値である。
【0246】
〔(6)参考例1:改変クモ糸フィブロインの難燃性の評価〕
上記(1)と同様にして、改変クモ糸フィブロイン(PRT799)の凍結乾燥粉末を得た。PRT799は、0以下の平均HIを有する親水性改変クモ糸フィブロインである。
【0247】
LiClのDMSO溶液(濃度:4.0質量%)に、改変クモ糸フィブロイン(PRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間混合することにより、溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変クモ糸フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0248】
紡糸原液を90℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は90℃であった。凝固後、得られた原糸を巻き取り、自然乾燥させて改変クモ糸フィブロイン繊維(原料繊維)を得た。
【0249】
原料繊維を撚り合せた撚糸を使用して、丸編機を使用した丸編みで、編地(太さ:180デニール、ゲージ数:18)を製造した。得られた編地を20g切り出して、試験片として使用した。
【0250】
燃焼性試験を、「消防危50号(平成7年5月31日付け)」に記載の「粉粒状又は融点の低い合成樹脂の試験方法」に準拠して行った。試験は、温度22℃、相対湿度45%、気圧1021hPaの条件下で実施した。測定結果(酸素濃度(%)、燃焼率(%)、及び換算燃焼率(%))を表11に示す。
【表11】
【0251】
燃焼性試験の結果、改変クモ糸フィブロイン(PRT799)繊維で編んだ編地の限界酸素指数(LOI)値は27.2であった。一般にLOI値が26以上であれば、難燃性であるとされる。改変クモ糸フィブロインは、難燃性に優れていることが分かる。
【0252】
〔(7)参考例2:改変クモ糸フィブロインの吸湿発熱性の評価〕
上記(1)と同様にして、改変クモ糸フィブロイン(PRT918及びPRT799)の凍結乾燥粉末を得た。PRT918は、配列番号37で示されるアミノ酸配列を有し、0超の平均HIを有する、疎水性改変クモ糸フィブロインである。
【0253】
LiClのDMSO溶液(濃度:4.0質量%)に、改変クモ糸フィブロイン(PRT918及びPRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間混合することにより、溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変クモ糸フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0254】
紡糸原液を60℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は60℃であった。凝固後、得られた原糸を巻き取り、自然乾燥させて改変クモ糸フィブロイン繊維(原料繊維)を得た。
【0255】
比較のため、原料繊維として、市販されているウール繊維、コットン繊維、テンセル繊維、レーヨン繊維及びポリエステル繊維を用意した。
【0256】
各原料繊維を使用して、横編機を使用した横編みで編地をそれぞれ製造した。PRT918繊維又はPRT799繊維を使用した編地の太さ及びゲージ数を表12に示す。その他の原料繊維を使用した編地の太さ及びゲージ数は、カバーファクターが改変クモ糸フィブロイン繊維の編地のカバーファクターとほぼ同一となるように調整した。具体的には、表12に示すとおりである。
【表12】
【0257】
10cm×10cmに裁断した編地を2枚合わせにし、四辺を縫い合わせて試験片(試料)とした。試験片を低湿度環境(温度20±2℃、相対湿度40±5%)で4時間以上放置した後、高湿度環境(温度20±2℃、相対湿度90±5%)に移し、試験片内部中央に取り付けた温度センサーにより30分間、1分間隔で温度の測定を行った。
【0258】
測定結果から、下記式Aに従って、最高吸湿発熱度を求めた。
式A:最高吸湿発熱度={(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移したときの試料温度の最高値)-(試料を、試料温度が平衡に達するまで低湿度環境下に置いた後、高湿度環境下に移すときの試料温度)}(℃)/試料重量(g)
【0259】
図7は、吸湿発熱性試験の結果の一例を示すグラフである。グラフの横軸は、試料を低湿度環境から高湿度環境に移した時点を0とし、高湿度環境での放置時間(分)を示す。グラフの縦軸は、温度センサーで測定した温度(試料温度)を示す。
図7に示したグラフ中、Mで示した点が、試料温度の最高値に対応している。
【0260】
最高吸湿発熱度の算出結果を表13に示す。
【表13】
【0261】
表13に示すとおり、改変クモ糸フィブロイン(PRT918及びPRT799)繊維は、既存の材料と比べて、最高吸湿発熱度が高く、吸湿発熱性に優れていることが分かる。
【0262】
〔(8)参考例3:改変クモ糸フィブロインの保温性の評価〕
上記(1)と同様にして、改変クモ糸フィブロイン(PRT966及びPRT799)の凍結乾燥粉末を得た。PRT966は、配列番号40で示されるアミノ酸配列を有し、0超の平均HIを有する、疎水性改変クモ糸フィブロインである。
【0263】
LiClのDMSO溶液(濃度:4.0質量%)に、改変クモ糸フィブロイン(PRT966及びPRT799)の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるよう添加し、シェーカーを使用して3時間混合することにより、溶解させた。その後、不溶物と泡を取り除き、改変クモ糸フィブロイン溶液(紡糸原液)を得た。
【0264】
紡糸原液を60℃にて目開き5μmの金属フィルターで濾過し、次いで30mLのステンレスシリンジ内で静置し、脱泡させた後に、ニードル径0.2mmのソリッドノズルから100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出温度は60℃であった。凝固後、得られた原糸を巻き取り、自然乾燥させて改変クモ糸フィブロイン繊維(原料繊維)を得た。
【0265】
比較のため、原料繊維として、市販されているウール繊維、シルク繊維、綿繊維、レーヨン繊維及びポリエステル繊維を用意した。
【0266】
各原料繊維を使用して、横編機を使用した横編みで編地をそれぞれ製造した。PRT966繊維及びPRT799繊維を使用した編地の、番手、撚り本数、ゲージ数、及び目付けを表14に示す。その他の原料繊維を使用した編地の太さ及びゲージ数は、カバーファクターが改変クモ糸フィブロイン繊維の編地のカバーファクターとほぼ同一となるように調整した。具体的には、表14に示すとおりである。
【表14】
【0267】
保温性を、カトーテック株式会社製のKES-F7サーモラボII試験機を使用し、ドライコンタクト法を用いて評価した。ドライコンタクト法とは、皮膚と衣服が乾燥状態で直接触れたときを想定した方法である。20cm×20cmの矩形に裁断した編地1枚を試験片(試料)として使用した。試験片を、一定温度(30℃)に設定した熱板にセットし、風洞内風速30cm/秒の条件で、試験片を介して放散された熱量(a)を求めた。試験片をセットしない状態で、上記同様の条件で放散された熱量(b)を求め、下記の式に従い保温率(%)を算出した。
保温率(%)=(1-a/b)×100
【0268】
測定結果から、下記式Bに従って、保温性指数を求めた。
式B:保温性指数=保温率(%)/試料の目付け(g/m2)
【0269】
保温性指数の算出結果を表15に示す。保温性指数が高いほど、保温性に優れる材料と評価することができる。
【0270】
【0271】
表15に示すとおり、改変クモ糸フィブロイン(PRT966及びPRT799)繊維は、既存の材料と比べて、保温性指数が高く、保温性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0272】
1…押出し装置、2…未延伸糸製造装置、3…湿熱延伸装置、4…乾燥装置、6…ドープ液、10…紡糸装置、20…凝固液槽、21…延伸浴槽、36…タンパク質繊維。
【配列表】