(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】セルロースゲル、フィルムおよび該ゲルを含む複合材料、ならびにそれを形成する方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/28 20060101AFI20240312BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240312BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20240312BHJP
C08B 15/02 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08J9/28 CEP
C08J5/18
C08J3/24 A
C08B15/02
(21)【出願番号】P 2020569114
(86)(22)【出願日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 US2019037123
(87)【国際公開番号】W WO2019241604
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-13
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508214950
【氏名又は名称】ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・コロラド,ア・ボディー・コーポレイト
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】スマリュク,アイバン・アイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘス,アンドリュー・ジョンストン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,チュインクン
(72)【発明者】
【氏名】デ ラ クルーズ,ジョシュア・エイ
(72)【発明者】
【氏名】フルーリー,ブレーズ
(72)【発明者】
【氏名】アブラーム,エルド
(72)【発明者】
【氏名】セニュク,ボーダン
(72)【発明者】
【氏名】チェルパク,ブラディスラフ
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-062341(JP,A)
【文献】特開2017-115047(JP,A)
【文献】特開2014-121314(JP,A)
【文献】特開平01-193335(JP,A)
【文献】特開2015-105366(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090686(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08J 5/18
C08J 3/24
C08B 1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルを調製する方法であって、
a)バクテリアセルロースのアルコール単位を酸化させて、複数のカルボキシレート基および/またはカルボン酸基を含有するバクテリアセルロースを形成するステップと、
b)酸化されたバクテリアセルロースカルボキシレート基を表面改質剤と反応させて、表面改質されたバクテリアセルロースを形成するステップと、
c)溶媒中で表面改質されたバクテリアセルロースを架橋剤と反応させて、バクテリアセルロースエアロゲルを形成するステップと
を含
み、架橋剤がポリシロキサン前駆体を含み、ポリシロキサン前駆体がビニルメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、およびメチルトリエトキシシランの1種または複数を含む、方法。
【請求項2】
d)エアロゲル内に存在する水溶液を溶媒と交換するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
e)揮発性の溶媒を乾燥させることにより除去して、キセロゲルを形成するステップ
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
バクテリアセルロースがAcetobacter hanseniiおよびAcetobacter xylinumの1種または複数から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
表面改質剤がアミン官能基および1つまたは複数のケイ素原子を含む化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
表面改質剤がシリルアミンおよびアミノプロピルトリメトキシシランの1種または複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
表面改質剤がアミノアルキルシランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法に従って形成されるゲル。
【請求項9】
キセロゲルを含む、請求項
8に記載のゲル。
【請求項10】
請求項
8に記載のゲルを含むフィルム。
【請求項11】
約1μm~約10cmの厚さを有する、請求項
10に記載のフィルム。
【請求項12】
約400nm~約700nmの光波長に対して0%~100%、または約25%~約100%の電磁透過率を有する、請求項
10に記載のフィルム。
【請求項13】
約10
-3W/(m・K)~約10W/(m・K)の熱伝導率を有する、請求項
10に記載のフィルム。
【請求項14】
約1Pa~約10
6Paの体積弾性率を有する、請求項
10に記載のフィルム。
【請求項15】
ネットワーク化されたセルロースエアロゲルを調製する方法であって、
a)バクテリアセルロースの分散液を、セルロースのヒドロキシル単位をカルボキシレートおよび/またはカルボン酸単位に酸化させる酸化系と接触させて、酸化されたセルロースナノファイバーの
分散液を形成するステップと、
b)酸化されたセルロースナノファイバーを
、C
1
~C
6
線状または分岐した飽和または不飽和のアルキルアミン、カチオン性部分を含む低分子量化合物、オリゴマーおよび/またはポリマー、又は、アリルアミンを含む化合物から選ばれる化合物の1種または複数を含む表面改質剤と反応させて、表面改質されたセルロースナノファイバーの
分散液を形成するステップと、
c)表面改質されたセルロースナノファイバーを架橋剤と接触させて、バクテリアセルロースナノファイバーマトリックスを形成するステップと、
d)触媒の存在下でマトリックスを加水分解して、ネットワーク化されたセルロースヒドロゲルを形成するステップと、
e)ヒドロゲルに含まれる溶媒を溶媒と交換して、オルガノゲルを形成するステップと、
f)溶媒を除去して、エアロゲルを形成するステップと
を含む、方法。
【請求項16】
バクテリアセルロースがAcetobacter hanseniiおよびAcetobacter xylinumの1種または複数から得られる、請求項
15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、ナノセルロースキセロゲルの製造方法と題する、2018年6月13日に出願された米国仮出願第62/684,670号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
連邦政府によって支援された研究
本発明は米エネルギー省により授与された認可番号DE-AR0000743、およびアメリカ国立科学財団により授与された助成DMR-1410735の下で政府支援を受けてなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、(例えば、柔軟な)エアロゲルおよびキセロゲルのようなセルロースベースのゲルに関する。例示的なセルロースベースのゲルはセルロースナノロッド、リボン、ファイバー、などを含み、ここでゲルは光学的、熱的、および機械的性質のような調節可能な性質を有しうる。改善された機械的性質、例えばロバスト性、調節可能な光学的異方性、および低い熱伝導率を特徴とする、透明性が高く柔軟性のセルロースナノファイバー-ポリシロキサン複合エアロゲルがさらに開示される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1A】
図1A-1Eは、開示されたキセロゲル形成の過程中の透明性特性を示す図である。
図1Aは、イソプロピルアルコールによる溶媒交換前のゲルを示す図である。
【
図1B】
図1A-1Eは、開示されたキセロゲル形成の過程中の透明性特性を示す図である。
図1Bは、イソプロピルアルコールによる第1の8時間におけるアルコゲル後を示す図である。
【
図1C】
図1A-1Eは、開示されたキセロゲル形成の過程中の透明性特性を示す図である。
図1Cは、イソプロピルアルコールによる第2の8時間交換中のアルコゲルの収縮挙動を示す図である。
【
図1D】
図1A-1Eは、開示されたキセロゲル形成の過程中の透明性特性を示す図である。
図1Dは、イソプロピルアルコールによる第3の8時間の交換においてアルコゲルが透明に回復することを示す図である。
【
図1E】
図1A-1Eは、開示されたキセロゲル形成の過程中の透明性特性を示す図である。
図1Eは、最終のポリビニルメチルジメトキシシリル(PVMDMS)周囲乾燥されたエアロゲルを示す図である。
【
図2】周囲乾燥中、例示的なアルコゲル(a)および(b)が収縮し白色になることを示す図である。一旦乾燥されると、それらはその元の大きさに回復し、透明になる(cおよびd)。
【
図3】
図3A-3Cは、ビール麦汁から得られたバクテリアセルロース薄膜を示す図である。
図3Aは、培養チャンバー内でのオートクレーブ処理後のWBWを、
図3Bは2週後、
図3Cは精製のために取り出された薄膜を示す図である。
【
図4】
図4A-4Cは、精製のいろいろな段階のバクテリアセルロース薄膜を示す図である。
図4Aは1%NaOHにより80℃で処理された材料を示す図である。
図4BはDI水で処理された材料す図である。
図4Cは最終の精製されたバクテリアセルロースを示す図である。
【
図5】TEMPO酸化されたバクテリアセルロースのスペクトルをAPTMS官能化されたバクテリアセルロースと比較するFTIRであるを示す図である。
【
図6】
図6A-6Fは、ガラスモールドを用いたMTMS/CNF-APTMSの大きいエアロゲルの製作を示す図である。
図6Aは、ガラスで作成された重縮合反応チャンバーのためのモールドを示す図である。
図6Bは水浴加熱におけるオルガノゲル製作セットアップを示す図である。
図6CはDI水中のオルガノゲルを示す図である。
図6Dは水/イソプロパノール中のオルガノゲルを示す図である。
図6Eはイソプロパノール中のオルガノゲルを示す図である。
図6Fは最終のエアロゲルを示す図である。
【
図7】
図7A-7Cは、直径16.51cm(6.5インチ)のCNF-APTMS/MTMSエアロゲルの大規模生産サンプルを示す図である。
【
図8】開示されたエアロゲルの透過率およびヘイズの測定値を示すグラフである。
【
図9】
図9Aおよび9Bは、熱い(
図9A)および冷たい表面(
図9B)の上のセルロースエアロゲルのIR画像を示す図である。
【
図10】
図10Aはエアロゲルの板(点線の赤い四角)を通して撮られた写真である。
図10Bはエアロゲルの断熱特性を示す同じ写真のIR像を示す図である。
【
図11】本開示の少なくとも1つの実施形態に従った手順を示す図である。
【
図12】本開示の少なくとも1つの実施形態に従ったキセロゲルを調製する方法の一例を示す図である。
【
図13】本開示の少なくとも1つの実施例に従った提案された反応機構を示す図である。
【
図14】発明者らの基材の表面上のシラノールを示す図である。
【
図15】本開示の少なくとも1つの実施形態に従った改質されたガラス基材に結合したゲルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本明細書で使用されるとき、「ゲル」は、定常状態にあるとき流れを示さない実質的に希薄な架橋された系であると理解される。ゲルの基本的な構成成分はそれを取り囲む周囲の流体であり、その形態は液体または気体であり得る。「エアロ」、「オルガノ」、「ヒドロ」ような接頭辞および変化形は架橋されたゲルマトリックス中の周囲の流体およびゲル材料の主要な成分を示すと理解される。
【0006】
開示されたゲルは、整列させられた液晶相であってもよいセルロースナノ複合材料を含有し得る。したがって、開示されたゲルは、配合者が、ゲルの光学的透過性を調整することにより、ゲルの光学的性質を不透明~透明の範囲で設定することを可能にする。加えて、これらの性質は、例えば可視スペクトルから赤外スペクトルまでの広範囲の電磁放射線と相互作用するように調整され得る。1つの実施形態において、ゲルの熱伝導率が調整され得る。開示されたゲルのバルク特性、例えば剛性または柔軟性のレベルは構成成分のセルロース材料、例えば、ナノロッド、リボン、ファイバー、などの選択、ならびに得られるゲル内のこれらの材料の濃度により調整され得る。
【0007】
本明細書で使用されるとき、「フィルム」および変化形は、例えば、約1μm~約10cmまたは約10nm~1mmの厚さおよび任意の横方向の広がりの範囲であり得るラメラを示す。
【0008】
本明細書で使用されるとき、用語「横断面」は幅を意味し、これらの用語は同義で使用される。開示されたセルロースナノ材料は約10nm~約500nmまたは1nm未満またはさらに0.1nm未満の幅を有する。ナノ材料の長さは幅の少なくとも10倍であり得る。
【0009】
用語「組成物」は、本明細書で使用されるとき、開示されたセルロースナノ材料水性分散液、ヒドロゲル、オルガノゲル、エアロゲル、および液晶ゲルを指すことができる。組成物はナノ材料を含む材料の単一の層であってもよく、または組成物は各々の層が1種の材料のみからなる2以上の別個の層から形成されてもよい。非限定例として、1つの層は秩序化されたネマチックセルロースゲルからなり得、その上に整列させられたコレステリックセルロースフィルムの第2の層が適用される。この層構成はこれにより別個の層を含む一体化された複合材料を形成する。
【0010】
用語「ヒドロゲル」は本明細書で使用されるとき、担体に分散されたコロイド状ゲルとしてのセルロース材料のネットワークを表わす。1つの実施形態において担体は水である。別の実施形態において担体は水相溶性(混和性)の有機溶媒の混合物である。セルロース材料は架橋されていてもよく、または非架橋であってもよい。
【0011】
用語「キセロゲル」は本明細書中で、その主要な溶媒が空気のような周囲の気体であるゲルと定義され、その液体-気体の溶媒交換は周囲の温度および圧力に近い大気条件下での液体の蒸発を介して成し遂げられる。
【0012】
用語「ナノ材料」は開示されたセルロース材料をいう。これらの材料の幅はナノメートル範囲であるが、セルロース材料の長さはナノメートルの長さからマイクロメートルで変化し得る。用語「ナノ材料」、「セルロース材料」および「セルロースナノ材料」は本開示を通じて同義に使用される。
【0013】
本明細書には、キセロゲルおよびエアロゲルのようなゲルを形成する方法が開示される。例示的なキセロゲルはキセロゲルのポリマー骨格構造に液晶秩序化を有するナノセルロース構成成分を含む。
【0014】
さらなる例示的なバクテリアセルロースベースの柔軟ゲルは1つの実施形態において約1:1000のアスペクト比を有するセルロースリボン、ファイバー、およびその他の構成成分-粒子構造を含み得る。これらの柔軟ゲルは材料内のセルロース粒子ネットワークを連結することにより形成されてもよい。ゲルネットワークの形成に使用される最初のセルロース溶媒は保持されまたは置き換えられて様々なゲルタイプ、例えば、ヒドロゲル、アルコゲル、エアロゲル、および液晶ゲルを生み出すことができる。ゲルネットワークを形成するための開示されたセルロース材料の使用は、配合者が、ゲルの可撓性を含めてゲルの様々な性質を調整することを可能にする。
【0015】
柔軟性に加えて、開示されたゲルの光学的透過性が不透明から透明の範囲であるように調整され得る。これらの結果は開示された複合材料の様々な性質、すなわち、セルロースナノ材料の密度または大きさの分布を調整することにより得られ得る。また、液晶材料のような補助成分の添加は開示された複合材料の光学的性質を調節するのに使用され得る。
【0016】
調整されることができるさらなる性質はゲルにより示される熱抵抗性の度合いである。いくつかの要因は、(1)セルロースの本質的に低い熱伝導性、(2)セルロースネットワーク内の流体の希薄化による熱対流の調整、および(3)セルロース-ゲルネットワークを含む流体の熱伝導性および対流特性を始めとする熱抵抗特性の調整を可能にする。
【0017】
本開示の別の態様において整列させられたセルロースナノロッドを含む組成物であり、その配向は配合者により調整され得る。開示されたナノロッドは約1:10~約1:100のアスペクト比を有し得る。1つの態様において、開示されたナノロッドはコレステリック相を有する組成物を形成するのに使用され得る。
【0018】
1つの実施形態において開示されたナノ結晶は、フィルムにおいてコレステリック相に秩序化されて周期的構造を形成することができる秩序化されたフィルムを形成し、そのピッチおよびピッチ勾配は入射電磁放射線の広帯域のBragg反射に対して調整可能である。別の実施形態において得られる秩序化されたゲルはセルロースナノロッドまたはナノ結晶を含む同様なナノ材料の小さい相対的アスペクト比の故に得られる。ナノロッドは、結果として、ナノファイバーのような他のナノ材料とは異なる相を形成する。この事実のため、例えば、約1:10~約1:100のアスペクト比を有するセルロース構造から形成される秩序化されたセルロースゲルにおいて広帯域の反射を可能とする。
【0019】
したがって、機械的可撓性、光学的透過性、および熱抵抗性は、例えば、ナノファイバーに関連して上に記載された同じパラメーターであって、それらのパラメーターがここでは明確にセルロースナノロッドまたは他の幾何学的に異方性のセルロース構造に関することを除いて同じパラメーターを調節することにより設定され得る。
【0020】
本開示のさらなる態様は開示されたエアロゲルおよび/または液晶ゲルから形成されるラメラを含む複合構造に関する。ラメラを有する複合構造はナノファイバー様のセルロース材料(例えば、ネマチック相材料を形成するため)を含む開示された組成物から、またはナノロッド様のセルロース材料(例えば、コレステリック相材料を形成するため)から形成されてもよい。これらの複合構造は複数の層を含む。
【0021】
開示されたゲルおよび/またはフィルムは約1μm~約10cmの厚さを有することができる。1つの実施形態において厚さは約10μm~約1cmで変化する。別の実施形態において厚さは約100μm~約10cmで変化する。さらなる実施形態において厚さは約50μm~約1cmで変化する。さらに別の実施形態において厚さは約1cm~約10cmで変化する。さらにもう1つ別の実施形態において厚さは約10μm~約100cmで変化する。なおさらなる実施形態において厚さは約500μm~約10cmで変化する。
【0022】
開示されたゲルおよび/またはフィルムの透過率はゲルを貫通する可視電磁放射線の量に関する。0%の透過率は透過を許さない不透明な材料を生じる。100%の透過率は電磁放射線に対して透明な材料となる。開示されたゲルは0%~100%の透過率を有することができる。1つの実施形態においてゲルは約5%~約15%の透過率を有する。別の実施形態においてゲルは約25%~約50%の透過率を有する。さらなる実施形態においてゲルは約95%~100%の透過率を有する。さらにさらなる実施形態においてゲルは約15%~約35%の透過率を有する。さらに別のさらなる実施形態においてゲルは約50%~約75%の透過率を有する。さらにもう1つ別の実施形態においてゲルは約25%~約75%の透過率を有する。特定の例として、ゲルおよび/またはフィルムは約400nm~約700nmの光波長に対して0%~100%、または約25%~約100%の電磁透過率を示す。
【0023】
開示されたゲルおよび複合材料は約10-3W/(m・K)~約10W/(m・K)の熱伝導率を有し得る。別の実施形態において熱伝導率は約10-2W/(m・K)~約10W/(m・K)である。さらなる実施形態において熱伝導率は約10-1W/(m・K)~約10W/(m・K)である。さらにさらなる実施形態において熱伝導率は約10-3W/(m・K)~約1W/(m・K)である。さらに別の実施形態において熱伝導率は約10-2W/(m・K)~約1W/(m・K)である。さらにもう1つ別の実施形態において熱伝導率は約1W/(m・K)~約10W/(m・K)である。
【0024】
開示されたゲルの相対的放射率値は約10-2~0.99の範囲である。
開示されたゲルおよび複合材料は約1Pa~約106Paの体積弾性率を有し得る。1つの実施形態において弾性率は約10Pa~約105Paである。別の実施形態において弾性率は約102Pa~約106Paである。さらなる実施形態において弾性率は約103Pa~約105Paである。さらにさらなる実施形態において弾性率は約10Pa~約103Paである。さらに別のさらなる実施形態において弾性率は約1Pa~約10Paである。さらにもう1つ別の実施形態において弾性率は約104Pa~約106Paである。
【0025】
本開示の様々な実施形態に従って、ゲルを製造する方法は、
a)バクテリアセルロースのアルコール単位を酸化させて、複数のカルボキシレート基および/またはカルボン酸基を含有するバクテリアセルロースを形成するステップと、
b)酸化されたバクテリアセルロースカルボキシレート基を表面改質剤と反応させて、表面改質されたバクテリアセルロースを形成するステップと、
c)溶媒中で表面改質されたバクテリアセルロースを架橋剤と反応させて、バクテリアセルロースエアロゲルを形成するステップと
を含む。
【0026】
方法は、ゲル内に存在する水溶液を溶媒と交換する、および/または揮発性の溶媒を乾燥させることにより除去してキセロゲルを形成するステップをさらに含み得る。バクテリアセルロースは、例えば、Acetobacter hanseniiおよびAcetobacter xylinumの1種または複数から得られる。架橋剤はビニルメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、およびメチルトリエトキシシランの1種または複数のようなポリシロキサン前駆体を含む。表面改質剤はアミン官能基およびケイ素原子を含む化合物、例えば1種または複数のシリルアミンまたは1種または複数のアミノアルキルシランを含む。ゲルまたはフィルムはこの方法または本明細書に記載される他の方法に従って形成されてもよい。
【0027】
さらなる例示的な実施形態に従って、ネットワーク化されたセルロースエアロゲルを製造する方法は、
a)バクテリアセルロースの分散液を、セルロースのヒドロキシル単位をカルボキシレートおよび/またはカルボン酸単位に酸化させる酸化系と接触させて、酸化されたセルロースナノファイバーの溶液を形成するステップと、
b)酸化されたセルロースナノファイバーを表面改質剤と反応させて、表面改質されたセルロースナノファイバーの溶液を形成するステップと、
c)表面改質されたセルロースナノファイバーを架橋剤と接触させて、バクテリアセルロースナノファイバーマトリックスを形成するステップと、
d)触媒の存在下でマトリックスを加水分解して、ネットワーク化されたセルロースヒドロゲルを形成するステップと、
e)ヒドロゲルに含まれる溶媒を揮発性の溶媒と交換して、オルガノゲルを形成するステップと、
f)溶媒を除去して、エアロゲルを形成するステップと
を含む。
【0028】
バクテリアセルロースはAcetobacter hanseniiおよびAcetobacter xylinumの1種または複数から得られ得る。表面改質されたセルロースナノファイバーはC1~C6線状または分岐した飽和または不飽和のアルキルアミン、カチオン性部分を含む低分子量化合物、オリゴマーおよび/またはポリマーおよび/または本明細書に記載される他の改質剤、例えばアリルアミンを含む化合物から選ばれる化合物により改質され得る。
【0029】
また、透明なヒドロゲルのようなゲルを製造する方法であって、
a)バクテリアセルロースの(例えば、一級)アルコール単位を酸化させて、複数のカルボキシレート基および/またはカルボン酸基を含有するバクテリアセルロースを形成するステップと、
b)酸化されたバクテリアセルロースカルボキシレートおよび/またはカルボン酸基を表面改質剤と反応させて、表面改質されたバクテリアセルロースを形成するステップと、
c)表面改質されたバクテリアセルロースを(例えば、シリル)架橋剤と反応させて、バクテリアセルロースエアロゲルを形成するステップと
を含む、方法も開示される。
【0030】
1つの態様は、ステップ(a)において、バクテリアセルロースを2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)の存在下で次亜塩素酸ナトリウムにより酸化させることに関する。
【0031】
さらなる態様は、ステップ(b)における表面改質剤としてのアミノプロピルトリメトキシシランまたは他の適切な作用剤の使用に関する。本開示を通して使用されるとき、表面改質剤はアミン官能基およびケイ素原子を含む化合物、例えばシリルアミンまたは1種または複数のアミノアルキルシランを含み得る。
【0032】
別の態様はステップ(c)における架橋剤としてのトリメトキシメチルシランまたはその他のポリシロキサン前駆体の使用に関する。
さらに、透明なキセロゲルを製造する方法であって、
a)バクテリアセルロースの(例えば、一級)アルコール単位を酸化させて、複数のカルボキシレート基および/またはカルボン酸基を含有するバクテリアセルロースを形成するステップと、
b)酸化されたバクテリアセルロースカルボキシレート基および/またはカルボン酸を表面改質剤と反応させて、表面改質されたバクテリアセルロースを形成するステップと、
c)水のような溶媒中で、表面改質されたバクテリアセルロースを(例えば、シリル)架橋剤と反応させて、バクテリアセルロースエアロゲルを形成するステップと、
d)エアロゲル中に存在する溶媒をある溶媒と交換するステップと、
e)揮発性の溶媒を乾燥させることにより除去して、キセロゲルを形成するステップと
を含む、方法が開示される。
【0033】
本明細書には、ネットワーク化されたセルロースエアロゲルを製造する方法であって、
a)バクテリアセルロースの水性分散液を、セルロースの(例えば、C6ヒドロキシル単位)をカルボキシレート単位および/またはカルボン酸に酸化させる酸化系と接触させて酸化されたセルロースナノファイバーの水溶液を形成するステップと、
b)酸化されたセルロースナノファイバーを表面改質剤と反応させて、表面改質されたセルロースナノファイバーの水溶液を形成するステップと、
c)表面改質されたセルロースナノファイバーを試薬(例えば、ポリビニルメチル-シロキサン(PVMS))と接触させて、ポリシロキサン前駆体を形成するステップと、
d)ポリシロキサン前駆体を酸触媒の存在下で加水分解して、PMSQネットワークセルロースヒドロゲルを形成するステップと、
e)ヒドロゲル内に含まれる溶媒をある溶媒と交換して、オルガノゲルを形成するステップと、
f)溶媒を除去して、エアロゲルを形成するステップと
を含む、方法がまたさらに開示される。
【0034】
キセロゲルを調製する方法が本明細書に開示される。例示的な方法は、ラジカル重合および加水分解重縮合と、それに続く超低価格で高度に大規模化可能な、変更も追加の溶媒交換もない乾燥媒体としてのアルコールからの直接の周囲圧乾燥を含む連続的な方法に基づく。ポリビニルポリメチルシロキサン(CH2CH(Si(CH3)O))n可撓性ポリマーは周囲乾燥されたセルロースエアロゲルのための架橋剤として使用されてもよい。このポリマーは表面改質されたバクテリアセルロースをビニルメチルジメトキシシランまたは他の適切な作用剤と反応させることにより形成される。本開示を通じて使用されるとき、架橋剤はビニルメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、およびメチルトリエトキシシランの1種または複数のようなポリシロキサン前駆体を含んでもよい。
【0035】
アルケン基を含有するモノマーのラジカル重合は周囲乾燥されたエアロゲルの機械的性質を高めるために有効なアプローチである。ポリビニルシルセスキオキサンゲルのネットワーク中のビニル基のシラン改質されたCNFとのラジカル重合もまた、機械的に強化されたキセロゲルを生じる。可撓性ハイブリッドの湿性ゲルおよび高密度のゲルフィルムはVTMSのラジカル重合とそれに続く加水分解重縮合により得られ得る。PVMDMSにおいて、シロキサン結合により相互に連結されているポリエチレン鎖およびネットワーク内に分散されたCNF-APTMSはハイブリッドゲルに可撓性を提供する。加えて、二重ネットワーク構造を有する機械的に強く柔軟有機ポリマーヒドロゲルがラジカル重合を介して合成された。
【0036】
得られる周囲乾燥されたエアロゲルは、柔軟な炭化水素鎖および官能化されたセルロースナノファイバー(CNF-APTMS)により架橋された弾性のポリメチルシロキサンネットワークを有する均質な、調節可能な、高多孔質の、二重に架橋されたナノ構造を示す。開示された方法は超低価格、高い大規模化可能性、均一な細孔径、高い表面積、高い透明性、高い疎水性、優れた機械加工性、圧縮における超可撓性、曲げ加工における超可撓性をもたらし、超断熱特性は単一の周囲乾燥されたエアロゲルで達成されることができよう。
【0037】
本明細書で開示される1つの態様において、臨界点乾燥方法を用いて調製される中間規模のセルロース-ポリシロキサンエアロゲルである。例えば、16.51cm(6.5-インチ)の直径のエアロゲルが、ポリシロキサンネットワークにおいて第四級アミンでキャッピングされたセルロースナノファイバーを架橋することにより調製された。CNF-APTMSを用いて形成されたエアロゲルは優れた光学的透明性、断熱および可撓性を示す。セルロースエアロゲルは99%の透過率、2%のヘイズを有する。このエアロゲルの演色評価数は0.99である。エアロゲルは11mW/K/mの低い熱伝導率および7.3W/K/m2未満の熱コンダクタンスを有する。
【0038】
フィードストック
開示されたゲルを調製するのに有用な容易に入手可能なフィードストックが本明細書で開示される。1つの非限定例において、ビール麦汁廃棄物中のAcetobacter hanseniiに由来するバクテリアセルロースが使用された。バクテリアセルロースを生産するための理想的な培養溶液であるビール麦汁廃棄物中にはたくさんの炭水化物およびアミノ酸がある。適切な培地を提供するために1%グルコースがビール麦汁に添加され、これは標準培地に代わる低コスト代替として適切な収量のバクテリアセルロースを提供した。
【0039】
バルクによるバクテリアセルロース(BC)の大規模生産のための廃棄ビール麦汁および/または廃棄ビール(WBW)の使用およびフィードストックに見られる不必要な夾雑物の影響は既に研究されている。生成されたBCは透明な柔軟シロキサンエアロゲル(液体CO2で臨界圧乾燥される)および窓の断熱用途に有用なキセロゲル(周囲圧乾燥される)の生産に使用された。
【0040】
ビールの生産は米国における重要な経済活動であり、これ故に数千ガロンの廃棄ビール麦汁が各々の醸造所で毎年発生する。家畜および家禽用の使用済穀粒は醸造産業の主要な副産物であるので、WBWは排水中に捨てられ、莫大な廃棄物を生じ一連の環境問題を引き起こす。WBWは主として48~55%のタンパク質、23~28%の炭水化物、6~8%のRNA、1%のグルタチオン、および2%のビタミンBからなる。また、P、K、Ca、Fe、PおよびMgのような元素に富んでいる。この高い栄養素含有量のため、微生物の栄養源として使用されることがある。これらの炭水化物およびタンパク質を微生物により栄養源として直接使用するには、ほとんどのタンパク質および炭水化物は細胞壁内で大きいポリマーの形態で存在するので、大きい多糖分子を解重合するために前処理が望まれることがある。
【0041】
Acetobacter hanseniiは、バクテリアセルロースを産生するために単糖類を使用することができるので、栄養源として使用するには大きい多糖分子を小さく切断することが望ましい。1ステップの前処理、すなわち弱酸性雰囲気中での熱化学的高温高圧オートクレーブ処理がこの目的に有効であり得よう。この方法は細胞を破壊し大きいポリマー凝集体を分散させるばかりでなく、加水分解を改良するのにも有効であるはずである。以前の報告では、廃棄ビール酵母細胞が、酸加水分解、アルカリ加水分解および酵素加水分解を始めとする化学的前処理による栄養素の放出を通したバイオエタノールの生産に使用された。BCの生産のため、地元の醸造所から集められたWBWが120℃、6.4516cm2(平方インチ)当たり22.6796kg(50ポンド)の圧力で45分のオートクレーブ処理(熱化学的)により処理された。熱化学的処理の後、高速ホモジナイザーに続いて、1MのNaOHにより化学的処理に供し、WBWのpHを細菌の増殖に適切にするのに必要な5.5にした。
【0042】
弱酸性条件でのオートクレーブ前処理の後、WBWはホモジナイズされ、沈殿物を除去するために4000gで15分遠心分離され、上清が集められ、1%(w/v)の最終濃度に達するように滅菌されたグルコース溶液(50%w/v)が加えられた。
【0043】
上に記載されたように調製されたWBW加水分解物は、後そのpHを5.5に調整するために1MのNaOHで処理された。最後に、調製されたAcetobacter hansenii培養接種材料が1500mLのWBW培養物を含有するガラス皿(2000mL)に移され(5%w/v)、26℃で14~21日静的に培養された。
【0044】
加水分解後、Acetobacter hanseniiがBCを生産するための炭素および栄養源としてのWBW加水分解物に直接供給された。研究者の中にはBCを生産するために再生可能な森林残渣または産業副産物に由来する様々なセルロース廃棄物を調べているものもいるが、BC収量を改良するためにいくらかの追加の栄養が培地に加えられる。これはおそらく、これらの前処理後遠心分離されてないサンプルが高い糖濃度を有し(最も高い糖収量を示した)、これがBC生産の抑制を引き起こし、液体培地による酸素の供給を減らし得るという事実に起因する可能性があろう。一方、遠心分離されたサンプルにおいて糖濃度の低下は上清を水で希釈することにより低下させられ、これはBC生産のためにより良好な濃度をもたらし得よう。おそらく、この場合Acetobacter hanseniiによるセルロースの産生はこれらの前処理から得られたWBWの既に低い糖収量からさらに希釈された、遠心分離されたサンプル中に存在する低い糖濃度のために抑制された。したがって、我々は、1%の糖をWBW培養に供給した。
【0045】
10-14mmの厚さを有するBC薄膜は
図3A-3Cに示されているように前処理されたWBW培地で成功裡に生産された。
図3Aは培養チャンバー内のオートクレーブ処理後のWBWを示し、
図3Bは2週後を示し、
図3Cは精製のために取り出された薄膜を示す。培養後、BC膜は流水で一晩濯がれ、1MのNaOH中に80℃で2時間浸されて細菌を除去した後、脱イオン水で数回洗浄されてアルカリを完全に除去した。
図4A-4Cは精製の異なる段階の薄膜を示す。
図4Aは1%のNaOHで80℃において処理された材料を示し、
図4BはDI水で処理された材料を示し、
図4Cは最終の精製されたBCを示す。薄膜はさらなる分析、適用およびTEMPO酸化のために溶媒としてのDI水と共に密閉容器内に貯蔵された。WBWを用いたBC生産は慣習的に使用される化学培地と同等な収量を示した。
【0046】
バクテリアセルロースの酸化
架橋するための望ましいカルボキシレート基および/またはカルボン酸基を提供するためにバクテリアセルロースは、例えば、次亜塩素酸ナトリウムおよび触媒量の2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)ラジカルを用いてpH10で水中で酸化される。例えば、2gのバクテリアセルロースがTEMPO(0.025g)およびNaBr(0.25g)を含有する水(150mL)中に懸濁された。1.8MのNaClO溶液(4mL)が加えられ、懸濁液のpHは0.5MのNaOHを加えることにより10に維持された。pHのさらなる低下が観察されなくなったとき、反応が終了された。次いでpHは0.5MのHClを加えることにより7に調整される。TEMPO酸化された生成物は4~10nmの直径および1000~3000nmの長さに制御されたセルロースナノロッドであり、これは次にろ過により水で十分に洗浄され、4℃で貯蔵された。生産されたCNF-COOHは透明であり、水性分散液中で非常に粘稠な物質であった。
【0047】
シランによるCNFの化学的改質はポリシロキサンカップリング反応に適した構造および特性の設計のための多用途の経路を提供する。低コスト法により成功裡に生産されたBCはTEMPO媒介酸化で酸化されており、最終的に0.2wt.%の透明なカルボキシル化されたCNF水性分散液を得た。ヒドロキシルおよびカルボン酸基を有するCNFの化学的官能性のため、アミンシランによるアミド化は適切な方法であろう。この方法を用いてカルボキシレート基が各々のセルロース分子上で水溶性のカルボジイミドEDC・HCl[N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸)]およびN-ヒドロキシスクシンイミドにより選択的に活性化された。この手順は
図11に示されるスキームに示される。
【0048】
次に、末端のアミン官能性を有する化合物アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)が、官能化されたCNFを得るために、アミド化によって表面活性化された酸化されたCNF分子にグラフト化された。反応は室温において24hの間N
2雰囲気中で撹拌しながら行われた。CNFおよび触媒は非水性溶媒(DMSO)中に良好に分散されるべきであり、あらゆる痕跡量の水分を取り除いて、APTMSのシロキサンペンダントが研究されたポリシロキサン前駆体、MTMS、MTESおよびビニルシランと反応するまで保存され得る。これは、方法の最終ステップでシロキサン前駆体(MTMS/MTES/PVMDMS)と共有結合を形成するための必須条件である。改質および未改質のCNFのFTIR分析による化学的評価が
図5に示される。APTMS改質されたCNFの場合、TEMPO酸化されたバクテリアセルロースに対する1658cm-1のカルボニルバンドは低減され、2つのピークに分割されている。1710cm-1の新しいカルボニルピークはアミドの形成の直接標識であり、CNFのAPTMSによる官能化の成功の証拠である。
【0049】
ポリシロキサンにより架橋されたセルロースエアロゲルを製造するために、酸性条件下での加水分解および液体界面活性剤中の塩基性条件下での重縮合からなる2ステップのゾル-ゲル法は架橋されたナノサイズのコロイド状粒子をベースとする均質な細孔構造を生成する。大きなセルロースエアロゲルが、MTMSおよびAPTMSシランの重縮合反応により架橋されたAPTESで官能化されたセルロースナノファイバーを用いて生成された。
【0050】
開示されたキセロゲルの1つの例は、
図12に示されるスキームに概略が述べられ、下記実施例1に記載される手順により調製されてもよい。
実施例1
ビニルメチルジメトキシシラン(VMDMS)およびジ-tert-ブチルペルオキシド(DTBP)(1mol%)を水熱反応器に入れた。前駆体溶液の上の空間を窒素でフラッシュした後反応器を密封し、その後反応器全体を120℃で48h加熱し、続いて自然に室温に冷却して、主としてポリビニルメチルジメトキシシランを含有する透明で粘稠な液体を得た。この溶液に、ベンジルアルコール(4.3mol/mol Si)、H
2O(2mol/mol Si)、アミノプロピルトリメトキシシランCNF-APTMSでグラフト化されたセルロースナノファイバー(1mol/mol Si)および塩基触媒(水酸化トリメチルアンモニウム)(0.03mol/mol Si)を特定のモル比で撹拌しながら加えた。5分間撹拌した後、得られたゾルをモールド容器中に移し、次にこれを密封し、80℃のオーブンに入れたところ、1時間以内にゲルが生成した。ゲルを100℃で4日間エージングし、60℃で三回(各々8時間)IPAとの溶媒交換に供して、残留する化学薬品を除去した。IPAからの周囲乾燥のためにゲルを室温で2~5日間蒸発によりゆっくり乾燥させ、80℃で4時間乾燥させて所望のキセロゲルを得た。
【0051】
周囲乾燥されたセルロースエアロゲルを、その柔軟性、光の透過および熱伝導を改良するために架橋手法を変化させることにより調製した。1つの方法は、この架橋の分子柔軟性を増大するエチレン架橋したポリシロキサンを使用することである。他の方法は、ラジカル重合および加水分解重縮合に続く超低価格で高度に大規模化可能な、変更も追加の溶媒交換もない乾燥媒体としてのアルコールからの直接の周囲圧乾燥を含む連続的方法に基づく。周囲乾燥されたセルロースエアロゲルは目に見える波長範囲400-700nmでの高い可視光透過率90%、平均ヘイズ値3%、および0.01W/K/m未満の熱伝導率を示す。
【0052】
図1A-1Eは、実施例1に記載したキセロゲル形成の過程中の透明性特性を示す。
図1AはIPAによる溶媒交換前のゲルを示し、
図1BはIPAによる第1の8時間におけるアルコゲル後を示し、
図1CはIPAによる第2の8時間交換中のアルコゲルの収縮挙動を示し、
図IDはIPAによる第3の8時間交換においてアルコゲルが透明に回復することを示し、
図IEは最終のPVMDMS周囲圧乾燥されたエアロゲルを示す。
【0053】
周囲圧乾燥の際、IPAで湿性ゲルはゲル骨格全体に働く毛管力のためにおよそ21%の大きい一時的な線収縮を受けた後、豊富なメチル基および脂肪族炭化水素鎖および少しのOH基を有するその弾性の分子構造の結果としてほぼその元の大きさに回復する。理論により制限されることは望まないが、この回復現象は、圧縮中細孔に向かって内側に折り畳まれる柔軟な骨格に起因すると考えられ、この骨格は力が除去された直後は細孔内に折り畳まれたままで残り、次いで室温で徐々にかつ部分的に回復し、熱処理中メチルおよび脂肪族炭化水素鎖に富むネットワークの反発力および弛緩のために回復し続ける。亀裂のない大きいキセロゲルがCNF-APTMS/PVMDMSの組合せを介して得られた。それらは周囲乾燥により追加の溶媒、および処理時間なしで得られるので、開示された周囲乾燥されたエアロゲルを望む配合者に対する、時間、エネルギーおよびコスト削減は大幅に低減される。
図2は、周囲乾燥中、アルコゲルaおよびbが収縮し白色になることを示す。一旦乾燥されると、ゲルはその元の大きさに回復し、透明になる(cおよびd)。
【0054】
開示された方法は、実施例2に記載されるように大量のエアロゲルを生産するように規模を拡大することができる。
【0055】
実施例2
200mgのCTABおよび1.5gの尿素を、澄んだ溶液が得られるまで5mLの水に溶かした。次いでこの混合物に1mLのMTMSおよび28.7μLの100倍希釈された氷酢酸を加え、30分撹拌した。最後にこの混合物にAPTMS官能化されたCNF(0.02mg/g Si)を加え、30分室温で撹拌し続ける。溶液をモールド内に注入し、それを十分に密封する。モールド全体を、ゲルが生成するまで60℃でオーブン内に保つ。これは通常12h~24hかかる。ゲル化中、ゲル内に生成した空気の泡を除去するために時たま振盪することが推奨される。ゲルが生成した後、さらに72時間モールドを60℃の水浴中に移す。ゲル化およびエージング工程後、ヒドロゲルを壊さないように細心の注意を払いつつ優しく注意深くモールドからゲルを取り出す。シロキサン前駆体と加えられたCNF-APTMSとの間で化学反応および重縮合が起こり、その化学反応および重縮合は、
図13に示されたスキームで示されている、その提案された反応機構と共に明らかに描かれている。
【0056】
CNFは、得られるポリシロキサンに対して強度および柔軟性を誘発する架橋分子として働き、特に窓用途用の巻き取ることおよび折り畳むことができるエアロゲルおよびキセロゲルの調整に有利である。
【0057】
図6A-6Fは、ガラスモールドを用いたMTMS/CNF-APTMSの大きいエアロゲルの製作を示す。
図6Aは、ガラスで作成された重縮合反応チャンバーのためのモールドを示し、
図6Bは水浴加熱におけるヒドロゲル製作セットアップを、
図6CはDI水中のヒドロゲルを、
図6Dは水/イソプロパノール中のアルコゲルを、
図6Eはイソプロパノール中のアルコゲルを、
図6Fは最終のエアロゲルを示す。
【0058】
ソーダ石灰ガラスおよび厚さ3.2mmのシリコーンゴムスペーサーで特注のモールドを製作した。モールドをエポキシゴムでしっかり密封し、さらに金属クリップで保持する。モールドを最終エージングのために60℃で72時間水浴中に保持した(
図6B)。エージング後取り出したヒドロゲルをまずDI水で(
図6C)、続いて水/イソプロパノール(IPA)混合物で(
図6D)、最後にIPAで(
図6E)処理した。
図6Fは0.02wt%のCNF-APTMSで調製した透明なエアロゲルを示す(可視透過率>99%、ヘイズ<3%)。
【0059】
開示された方法における次のステップはゲルのイソプロパノール中への溶媒交換である。その目的で、塩基および他の成分全体(未反応の化学薬品、尿素、CTABおよび水)を水、水:IPA混合物(50:50)による連続洗浄で除去し、最後にゲルを純粋なIPA中に貯蔵する。通例、全体の溶媒交換および余分な成分の洗浄を終えるには数日かかる。この全体の溶媒交換プロセス中室温を保つ。最後に、IPA中のゲルを液体CO2で作動する臨界点乾燥器(CPD)で乾燥させた。IPA中の15.24cm(6-インチ)のアルコゲルを薄い15.24cm(6-インチ)のガラススライドを有するCPDチャンバーに注意深く移す。各々のアルコゲルの間にスペーサーを入れる。サンプルをCPDチャンバーのエタノールに浸した。スペーサーは、上のガラスが確実にエアロゲルに触らないようにするために、エアロゲルより厚くするべきである。5mmのスペーサーを使用して、各々のサンプルが、各々の間に2mmの追加の自由空間を得(3mmサンプル)、最終のアルコゲルサンプルの上に追加のガラスを置くことができるようにした。スペーサーは、エタノールがCPDとガラスとの間に捕捉されること、および最終の乾燥工程中の液体CO2の容易な流動を防ぐことができる。通例、全体のCPDプロセスを終えるには6~10時間かかり、これはアルコゲルの厚さおよびチャンバー内のサンプルの数に依存する。
【0060】
図7A-7Cは、直径16.51cm(6.5インチ)のCNF-APTMS/MTMSエアロゲルの大規模生産サンプルを示す。
図7Aおよび7Bに示されているようにそれらは透明であり、1.5mmおよび3mmの厚さ、99%の可視光透過率ならびにそれぞれ2%および3%の上述したヘイズ値を有する。これらのサンプルのCNF-APTMS含有量は(<0.02wt%)であり、これは柔軟性を低下させる。
【0061】
高い割合のCNF-APTMS(0.2wt%)で作成されたエアロゲルはより大きい柔軟性を提供する(
図7C)。このエアロゲルの透過率およびヘイズの測定は
図8に記載されている。
【0062】
CNFエアロゲルは可視波長範囲400-700nmで99%の高い可視光透過率および平均ヘイズ値2%を示す(
図8)。これらの値は、発明者らがその乾燥重量の0.2wt%を超えるその最も高い濃度を適用しているのでふさわしく立派である。透明なエアロゲルを得るために、発明者らは、液体界面活性剤に基づく溶液における酸-塩基ゾル-ゲル反応を採用し最適化して、疎水性MTMS縮合物と水およびDMSOの極性溶媒との間の相分離を抑えた。また、嵩高いファイバーおよび最終的にずっと柔軟エアロゲルに起因する痕跡量の散乱を減少するために、CNFの大きさを2nmとずっと低下させた。
【0063】
エアロゲルは11mW/K/mの低い熱伝導率を有し、熱コンダクタンスは7.3W/K/m
2未満である。赤外線画像はホットプレートの表面および氷水上のエアロゲルの優れた断熱を示す。
図9Aおよび9Bは熱い(
図9A)および冷たい表面(
図9B)の上のセルロースエアロゲルのIR画像であり、セルロースエアロゲルの優れた断熱特性を示している。またセルロースエアロゲルは生来非常に柔軟性でもある。荷重を除去した後は容易に回復することができよう。
【0064】
開示されたエアロゲルは伝統的な窓におけるガラスまたはガラスのための付属品としての使用に適している。
図10Aは、エアロゲルの板(点線の赤い四角)を通して撮られた写真である。寸法は対角線が16.51cm(6.5インチ)、厚さが2.5mmである。
図10Bはエアロゲルの断熱特性を示す同じ写真のIR画像である。
【0065】
自立性のエアロゲルは注意して取扱うべきであり、パイロット規模の生産に適合しない可能性がある。さらに、積み重ねると互いにくっつくのでエアロゲルの貯蔵も技術を要する場合がある。
【0066】
場合によっては、ガラスの板のような基材上に(本明細書に記載されているエアロゲルのいずれかのような)エアロゲルを直接形成するのが望ましいことがある。いくつかの場合には、加水分解されたMTMSとガラス表面のシラノールとの反応を最大化することがヒドロゲルの強い固着を得るために望ましい。このアイデアは、ゲルを全てのプロセス中ガラスに結合させたままでおき、その同じ基材と共に販売するというものである。
【0067】
ガラス上のシラノールの密度を変更するにはいろいろなやり方がある。1つの方法は、ピラニア溶液を用いて基材を処理することである。ピラニアは硫酸を過酸化水素と混合することにより得られる危険な化学薬品である。これは不安定である場合があるものの、マイクロエレクトロニクスにおいてウエハー、樹脂を清浄化するのに使用される。この処理後、発明者らは、
図14に示されているように発明者らの基材の表面上により高い密度のシラノールを期待する。この改質の素晴らしい点の1つは、さらなるステップに影響を及ぼさないということである。ゲルは、ガラスが改質されようとされまいと実験室と全く同じ仕方で作成される。
【0068】
ヒドロゲルの硬化後、ゲルをモールドから取り出すことができる。このステップで、ゲルが改質されたガラス基材に結合されていることが分かる(
図15)。次いでゲルはIPAに対して溶媒交換された後CPDチャンバー内で乾燥される。CPDチャンバー内でいくつかのサンプルの積み重ねを可能にするために、ガラス基材上のアルコゲルはアルミニウムケーシングにより保護されることがある。最後に、空気フィルムはガラス上で乾燥される。
【0069】
ピラニアの使用は化学実験室で極めて一般的であるが、比較的不安定で爆発し易いので、いくつか状況では最良の選択とはなり得ない。市販の安定なピラニア溶液が使用されてもよい。あるいは、KOHの濃厚溶液または他の化学薬品処理が使用されてもよい。
【0070】
プラズマ処理はあらゆるコーティング、印刷または接着に先立って様々な材料の表面を処理するのに使用される。プラズマによる処理は材料の表面上に存在するあらゆる異物を除去し、表面をさらなる処理に対してより適切にする。一定の条件下で使用されれば、いくらかの外来イオンを基材に植え付けて表面機能を改質することもできる。この処理はガラスに対して機能するばかりでなく、改良適用としてポリマーフィルムに使用される場合もある。プラズマ処理はガラス基材およびセロファンフィルム表面をより親水性にし、最終的にヒドロゲルに対するより良好な接着を得るために使用され得る。
【0071】
最後に、シロキサンまたはシリカ前駆体を含むプライマー層は物理または化学蒸着を介して基材上に堆積されてもよい。これは工業用ガラス生産ライン上に存在する典型的な低-Eコーターを用いて行われ得る。
【0072】
ゲルを直接基材上に成長させることは現存する設備を用いた生産の合理化に役立つだけではない。ガラス/ゲル界面における直接結合は(ゲル化、および乾燥中)ゲルの収縮および亀裂発生を防ぐことができる。また、通常のガラス切断技術を用いてゲルを切断することも可能になる。
【0073】
本発明はいくつかの例示的な実施形態および実施例を参照して上に記載されてきた。本明細書に示され記載された特定の実施形態は本発明の好ましい実施形態およびその最良の態様の説明のためのものであり、本発明の範囲を限定することは意図されていないと了解されたい。例えば、他に断らない限り、ステップは任意の順に実施されてよく、いくつかのステップは同時に行われてもよい。本明細書に記載された実施形態に対して、本発明の範囲から逸脱することなく変更および修正がなされてもよいことが認識されよう。これらおよびその他の変更または修正は本発明の範囲内に含まれることが意図されている。
本発明は以下の態様を含む。
[1]
ゲルを調製する方法であって、
a)バクテリアセルロースのアルコール単位を酸化させて、複数のカルボキシレート基および/またはカルボン酸基を含有するバクテリアセルロースを形成するステップと、
b)酸化されたバクテリアセルロースカルボキシレート基を表面改質剤と反応させて、表面改質されたバクテリアセルロースを形成するステップと、
c)溶媒中で表面改質されたバクテリアセルロースを架橋剤と反応させて、バクテリアセルロースエアロゲルを形成するステップと
を含む、方法。
[2]
d)エアロゲル内に存在する水溶液を溶媒と交換するステップ
をさらに含む、[1]に記載の方法。
[3]
e)揮発性の溶媒を乾燥させることにより除去して、キセロゲルを形成するステップ
をさらに含む、[2]に記載の方法。
[4]
バクテリアセルロースがAcetobacter hanseniiおよびAcetobacter xylinumの1種または複数から得られる、[1]に記載の方法。
[5]
架橋剤がポリシロキサン前駆体を含む、[1]に記載の方法。
[6]
ポリシロキサン前駆体がビニルメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、およびメチルトリエトキシシランの1種または複数を含む、[5]に記載の方法。
[7]
表面改質剤がアミン官能基および1つまたは複数のケイ素原子を含む化合物を含む、[1]に記載の方法。
[8]
表面改質剤がシリルアミンおよびアミノプロピルトリメトキシシランの1種または複数を含む、[1]に記載の方法。
[9]
表面改質剤がアミノアルキルシランを含む、[1]に記載の方法。
[10]
[1]に記載の方法に従って形成されるゲル。
[11]
キセロゲルを含む、[10]に記載のゲル。
[12]
[10]に記載のゲルを含むフィルム。
[13]
セルロースナノロッドを含む、[12]に記載のフィルム。
[14]
セルロースナノリボン、ナノファイバーおよびナノワイヤーの1種または複数を含む、[12]に記載のフィルム。
[15]
約1μm~約10cmの厚さを有する、[12]に記載のフィルム。
[16]
約400nm~約700nmの光波長に対して0%~100%、または約25%~約100%の電磁透過率を有する、[12]に記載のフィルム。
[17]
約10
-3
W/(m・K)~約10W/(m・K)の熱伝導率を有する、[12]に記載のフィルム。
[18]
約1Pa~約10
6
Paの体積弾性率を有する、[12]に記載のフィルム。
[19]
ネットワーク化されたセルロースエアロゲルを調製する方法であって、
a)バクテリアセルロースの分散液を、セルロースのヒドロキシル単位をカルボキシレートおよび/またはカルボン酸単位に酸化させる酸化系と接触させて、酸化されたセルロースナノファイバーの溶液を形成するステップと、
b)酸化されたセルロースナノファイバーを表面改質剤と反応させて、表面改質されたセルロースナノファイバーの溶液を形成するステップと、
c)表面改質されたセルロースナノファイバーを架橋剤と接触させて、バクテリアセルロースナノファイバーマトリックスを形成するステップと、
d)触媒の存在下でマトリックスを加水分解して、ネットワーク化されたセルロースヒドロゲルを形成するステップと、
e)ヒドロゲルに含まれる溶媒を溶媒と交換して、オルガノゲルを形成するステップと、
f)溶媒を除去して、エアロゲルを形成するステップと
を含む、方法。
[20]
バクテリアセルロースがAcetobacter hanseniiおよびAcetobacter xylinumの1種または複数から得られる、[19]に記載の方法。
[21]
表面改質されたセルロースナノファイバーがC
1
~C
6
線状または分岐した飽和または不飽和のアルキルアミン、カチオン性部分を含む低分子量化合物、オリゴマーおよび/またはポリマーから選ばれる化合物により改質される、[19]に記載の方法。
[22]
ナノファイバーの表面がアリルアミンを含む化合物により改質される、[19]に記載の方法。