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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/082 20060101AFI20240312BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20240312BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240312BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B32B15/082 Z
B32B15/20
B05D7/14 101Z
B05D7/24 301T
B05D7/24 302P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020572176
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003748
(87)【国際公開番号】W WO2020166391
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019023387
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206185
【氏名又は名称】大成化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋田 宗明
(72)【発明者】
【氏名】松下 義弘
(72)【発明者】
【氏名】大西 健司
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119096(WO,A1)
【文献】特開2016-221922(JP,A)
【文献】国際公開第2004/011246(WO,A1)
【文献】特開2015-180539(JP,A)
【文献】特開2012-188498(JP,A)
【文献】特開2018-131481(JP,A)
【文献】特開2019-111782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/000-43/00
B05D 1/00-7/26
B65D 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と硬化層1と該硬化層1とは異なる硬化層2とをこの順で有し、
下記式(1)で表される前記硬化層1の前記金属基材側の硬化率が70~90%であり、下記式(2)で表される前記硬化層1の前記金属基材側とは反対側の硬化率が50~70%であ
前記硬化層1および2が、ビスフェノールA型エポキシアクリレートを含む紫外線LEDで硬化可能な組成物を用いて得られた層である、
積層体。
金属基材側の硬化率[%]={1-((B''/A'')/(B/A))}×100 ・・・(1)
金属基材側とは反対側の硬化率[%]={1-((B'/A')/(B/A))}×100 ・・・(2)
[A:前記硬化層1を形成する組成物のFT-IRスペクトルにおける、ベンゼン環の伸縮振動に由来する1510cm -1 のピーク強度
B:前記硬化層1を形成する組成物のFT-IRスペクトルにおける、C=C結合に由来する1410cm -1 のピーク強度
A':前記硬化層1の膜厚をaμmとした場合、前記硬化層1の前記金属基材側から0.9×aμmの部分(前記硬化層1の前記金属基材側表面を0μmとする)の前記硬化層1のFT-IRスペクトルにおける、ベンゼン環の伸縮振動に由来する1510cm -1 のピーク強度
B':前記硬化層1の膜厚をaμmとした場合、前記硬化層1の前記金属基材側から0.9×aμmの部分(前記硬化層1の前記金属基材側表面を0μmとする)の前記硬化層1のFT-IRスペクトルにおける、C=C結合に由来する1410cm -1 のピーク強度
A'':前記硬化層1の膜厚をaμmとした場合、前記硬化層1の前記金属基材側から0.1×aμmの部分(前記硬化層1の前記金属基材側表面を0μmとする)の前記硬化層1のFT-IRスペクトルにおける、ベンゼン環の伸縮振動に由来する1510cm -1 のピーク強度
B'':前記硬化層1の膜厚をaμmとした場合、前記硬化層1の前記金属基材側から0.1×aμmの部分(前記硬化層1の前記金属基材側表面を0μmとする)の前記硬化層1のFT-IRスペクトルにおける、C=C結合に由来する1410cm -1 のピーク強度]
【請求項2】
前記硬化層1が、ビスフェノールA型エポキシアクリレートと重合開始剤とを含む紫外線LEDで硬化可能な組成物を用いて得られる層であ
前記重合開始剤が、紫外線LEDによる紫外線の照射で重合を開始させることができる化合物を含む、
請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記硬化層1が着色顔料不含層であり、前記硬化層2が着色顔料含有層である、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記金属基材がアルミニウム基材である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記金属基材がアルミチューブである、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記金属基材に、ビスフェノールA型エポキシアクリレートと重合開始剤とを含む紫外線LEDで硬化可能な組成物を塗布し硬化させる工程1を含
前記重合開始剤が、紫外線LEDによる紫外線の照射で重合を開始させることができる化合物を含む、
請求項1~のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記工程1が、紫外線LEDを用いて紫外線を照射する工程を含む、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、積層体および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な用途において、金属製の基材(以下「金属基材」ともいう。)が用いられ、その表面には、所望の目的に応じ、硬化性組成物などを用いて得られる硬化層が形成されている。
【0003】
例えば、化粧品や医薬品、医薬部外品などの内容物を包装する包装容器として、内容物を光(紫外線)、空気(ガス)および水(水蒸気)から保護することができ、ノンエアバック性、携帯性、使用性などに優れることから、アルミチューブなどの金属チューブが用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、このような金属チューブ上に合成樹脂塗料の被膜(硬化層)を形成することで、チューブの内容物による金属の変色や腐食を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-306447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、金属基材上に硬化層が形成される場合、該硬化層は、金属基材との密着性に優れることが求められる。特に用途によっては、使用の際に金属基材を、折り曲げたり、押しつぶすなどにより変形させることがあり、このような場合であっても、金属基材と硬化層とは十分に密着していることが求められるが、金属基材上に形成された従来の硬化膜は、このような金属基材との密着性が十分ではなかった。
【0007】
本発明の一実施形態は、金属基材との密着性、特に、金属基材を折り曲げたり、押しつぶした場合などにおいても、金属基材との密着性に優れる硬化層を有する積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の積層体によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下のとおりである。
【0009】
[1] 金属基材と硬化層1とを有し、
前記硬化層1の前記金属基材側の硬化率が70~90%であり、前記硬化層1の前記金属基材側とは反対側の硬化率が50~70%である、
積層体。
【0010】
[2] 前記硬化層1が、硬化性化合物と重合開始剤とを含む硬化性組成物を用いて得られる層である、[1]に記載の積層体。
[3] 前記重合開始剤が、紫外線LEDによる紫外線の照射で重合を開始させることができる化合物を含む、[2]に記載の積層体。
【0011】
[4] 金属基材、前記硬化層1、および、該硬化層1とは異なる硬化層2をこの順で有する、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5] 前記硬化層1が着色顔料不含層であり、前記硬化層2が着色顔料含有層である、[4]に記載の積層体。
【0012】
[6] 前記金属基材がアルミニウム基材である、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7] 前記金属基材がアルミチューブである、[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
【0013】
[8] 金属基材に、硬化性組成物を塗布し硬化させる工程1を含む、
[1]~[7]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[9] 前記工程1が、紫外線LEDを用いて紫外線を照射する工程を含む、[8]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、金属基材との密着性、特に、金属基材を折り曲げたり、押しつぶした場合などにおいても、金属基材との密着性に優れる硬化層を有する積層体を得ることができる。
また、本発明の一実施形態によれば、金属基材との密着性に優れ、かつ、L値が大きく、耐薬品性に優れる硬化層を有する積層体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪積層体≫
本発明の一実施形態に係る積層体(以下「本積層体」ともいう。)は、金属基材と硬化層1とを有し、
前記硬化層1の前記金属基材側の硬化率(以下「内部硬化率」ともいう。)が70~90%であり、前記硬化層1の前記金属基材側とは反対側の硬化率(以下「表面硬化率」ともいう。)が50~70%である。
なお、本発明における、内部硬化率は、硬化層1の金属基材側ぎりぎりの部分の硬化率のことをいい、硬化層1の膜厚をaμmとした場合、硬化層1の基材側から0.1×aμmの部分(硬化層1の基材側表面を0μmとする)の硬化率とほぼ同じ値になるため、具体的には、硬化層1の基材側から0.1×aμmの部分の硬化率の値を採用する。
また、本発明における、表面硬化率は、硬化層1表面の硬化率のことをいい、硬化層1の膜厚をaμmとした場合、硬化層1の基材側から0.9×aμmの部分(硬化層1の基材側表面を0μmとする)の硬化率とほぼ同じ値になるため、具体的には、硬化層1の基材側から0.9×aμmの部分の硬化率の値を採用する。
【0016】
硬化性組成物を用いて硬化層を形成する場合、完全硬化するまで硬化させるのが通常であり、特に、前記のような表面硬化率を50~70%に留めて硬化を終了することは通常行わない。
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、金属基材上に形成する硬化層の硬化率、特に、金属基材側の硬化率と金属基材側とは反対側の硬化率に注目し、これらの値を特定の範囲にすることで、柔軟性に優れ、金属基材を折り曲げたり、押しつぶしたりしても、金属基材との密着性に優れ、耐薬品性に優れる硬化層を有する積層体を得ることができることを見出した。
【0017】
本発明における硬化率とは、硬化前後の硬化反応で消失した構造の量(例:ピーク強度)に基づいて算出することができる。例えば、炭素-炭素不飽和二重結合(C=C結合)を有する硬化性組成物を用いた場合であって、硬化の際に該二重結合が消費される場合、該硬化性組成物中の該二重結合の量(ピーク強度)と硬化層1に含まれる二重結合の量(ピーク強度)とを測定することにより算出することができる。
このような硬化反応で消失する構造の量(ピーク強度)は、紫外線分光光度計、13C-NMR、1H-NMR、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)等の公知の測定機器を用いて測定することができる。
FT-IRを用いて測定する場合は、例えば、下記実施例に記載の方法で硬化率を算出することができる。なお、この際には、FT-IRスペクトルの測定ごとにベースがずれる可能性があるため、硬化反応に寄与しない構造(例:ベンゼン環)のピークを基準シグナルとして、硬化反応で消失する構造のピークを補正することが好ましい。
【0018】
前記内部硬化率は、金属基材との密着性により優れ、特に、金属基材を折り曲げたり、押しつぶした場合などにおいても、金属基材との密着性により優れる硬化層を得ることができる等の点から、好ましくは75~90%、より好ましくは80~90%である。
前記内部硬化率が70%を下回る場合や90%を上回る場合、金属基材との密着性、特に下記クラッシャー試験の際に亀裂や剥離が起こりやすくなる。
前記内部硬化率は、具体的には、下記実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0019】
前記表面硬化率は、金属基材との密着性により優れ、特に、金属基材を折り曲げたり、押しつぶした場合などにおいても、金属基材との密着性により優れる硬化層を得ることができ、厚さが薄くても耐薬品性に優れる硬化層1を得ることができる等の点から、好ましくは52~70%である。
前記表面硬化率が50%を下回る場合や70%を上回る場合、金属基材との密着性、特に下記クラッシャー試験の際に亀裂や剥離が起こりやすくなる。
前記表面硬化率は、本積層体が、硬化層1の上に下記硬化層2などの他の層を有する場合、該他の層を削り取るなどの方法により取り除いて得られる硬化層1表面の硬化率のことをいい、具体的には、下記実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0020】
前述の硬化率を有する硬化層1は、例えば、硬化性組成物に対し、紫外線LEDを用いて紫外線を照射することで形成することができる。
【0021】
硬化層1は、金属基材の表面に設けられることが好ましく、この場合、金属基材表面の全面に設けられてもよく、金属基材表面の一部に設けられてもよい。
なお、金属基材と硬化層1との間には、従来公知の層、例えば、接着層等が存在していてもよいが、本発明の一実施形態によれば、このような層がなくても、金属基材と硬化層1とが十分に密着した積層体を得ることができるため、積層体の製造コスト、製造容易性等を考慮し、本発明の効果がより発揮されることを考慮すると、このような層は存在しない方が好ましい。
【0022】
本積層体は、金属基材と硬化層1とを有すれば特に制限されないが、所望の用途に応じ、これら以外の他の層を有していてもよく、耐薬品性に優れる積層体を容易に得ることができる等の点や、L値が大きい積層体を容易に得ることができる等の点から、金属基材と、硬化層1と、該硬化層1とは異なる硬化層2とを有する、特にこれらの層をこの順で有する積層体が好ましい。
【0023】
金属基材、特に金属製容器はその用途によって、その内容物を表示するためや意匠性等のために印刷層が設けられることがある。該印刷層は、金属基材上に直接設けられると、印刷層が示す表示内容が分かりにくくなるため、通常、金属基材の上に着色層、好ましくはホワイト層を設け、その上に、印刷層を設けることが好ましい。
【0024】
前記内容物を表示するためや意匠性等のための印刷層が示す表示内容をはっきり理解できる積層体を得るには、L値が大きい、具体的にはL値が下記範囲にある積層体が好ましい。このような積層体とするには、着色層中の着色顔料の含有量を増加させたり、着色層の厚みを厚くすることが考えられる。しかしながら、着色顔料の含有量を増加させたり、着色層の厚みを厚くすると、得られる着色層の柔軟性が悪化し、金属基材との密着性、特に、金属基材を折り曲げたり、押しつぶした場合などにおける金属基材との密着性に優れる硬化層を得ることは容易ではない。
【0025】
前記硬化層1に着色顔料を配合し、前記着色層としてもよいが、L値が大きい、具体的にはL値が下記範囲にある積層体が要求される場合には、下記L値を有し、金属基材との密着性、特に、金属基材を折り曲げたり、押しつぶした場合などにおける金属基材との密着性に優れる硬化層を有する本積層体を容易に得ることができる等の点から、本積層体は、金属基材、硬化層1および着色層を有する積層体であることが好ましく、これらの層がこの順で積層された積層体であることがより好ましく、金属基材、着色顔料不含の硬化層1および着色顔料を有する硬化層2(着色層)をこの順で有する積層体であることが特に好ましい。
以下、硬化層1と硬化層2とを併せて「コート層」ともいう。
従来技術では、L値の大きい積層体を得ることと、金属基材との密着性に優れる硬化層を有する積層体を得ることとはトレードオフの関係にあり、これらの特性を両立できなかったが、このようなコート層を有する積層体によれば、これらの特性を両立することができる。
【0026】
本積層体のL値(金属基材とは反対側[例:硬化層1またはコート層側]から測定した場合のL値)は、内容物を表示するためや意匠性等のための印刷層が示す表示内容をはっきり理解できる積層体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは90以上、より好ましくは91以上である。L値の上限は、高ければ高いほど良いため、特に制限されないが、例えば、95である。
前記L値は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0027】
本積層体の金属基材とは反対側[例:硬化層1またはコート層側]から見た場合の色は、所望の用途や顧客の要望に応じて適宜選択すればよいが、内容物を表示するためや意匠性等のための印刷層が示す表示内容がはっきり理解できる積層体を容易に得ることができる等の点から、略白色であることが好ましい。
略白色である組成物は硬化させにくく、所望の物性を有する積層体を得ることは容易ではないが、前記コート層を有する本積層体によれば、前記所望の物性を有する積層体とすることができるため、本発明の効果がより発揮されることから、前記色は略白色であることが好ましい。
ここで略白色は、純白のみならず、白に近い色、例えば、黄白色、青白色、緑白色、赤白色等を含む。
【0028】
<金属基材>
前記金属基材としては特に制限されないが、本発明の効果がより発揮される等の点から、可とう性を有する基材であることが好ましく、折り曲げたり、押しつぶしたり、絞ったりし得る基材であることが好ましい。
前記金属としては、アルミニウム、銅、スズ、鉛、ニッケル、これらの金属を含む合金等が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより発揮される等の点から、アルミニウムが好ましい。
【0029】
前記基材の形状も特に制限されないが、例えば、板(箔)状、所望の容器形状が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより発揮される等の点から、所望の容器形状であることが好ましく、チューブ状であることがより好ましい。
従って、前記基材は、チューブ容器であることが好ましく、化粧品や医薬品、医薬部外品などを包装するチューブ容器であることがより好ましい。
また、前記基材がアルミチューブであると、内容物を光(紫外線)、空気(ガス)および水(水蒸気)から完全に保護することができ、ノンエアバック性、携帯性、使用性などに優れる積層体を得ることができるため好ましい。
【0030】
前記基材の厚み(容器の肉厚)は特に制限されないが、好ましくは0.10~0.15mm、より好ましくは0.10~0.12mmである。
このような厚みの基材は、容易に変形することが可能であるが、本発明の一実施形態によれば、このように基材が変形しても、基材と硬化層1またはコート層とが十分に密着した積層体を得ることができる。
【0031】
<硬化層1>
前記硬化層1は、最終的に得られる積層体において、その内部硬化率および表面硬化率が前記範囲にある層であれば特に制限されない。
このような硬化層1は、硬化性組成物(以下「第1組成物」ともいう。)を用いて得ることができ、好ましくは該第1組成物の硬化体である。第1組成物は、硬化性化合物と重合開始剤とを含む組成物であることが好ましい。
【0032】
硬化層1の厚みとしては特に制限されないが、厚くなると金属基材との密着性に劣る傾向にあり、特に、クラッシャー試験の際に密着性が劣る傾向にあるため、薄い方が好ましい。また、第1組成物として着色顔料含有組成物を用いる場合には、外観が所望の色を呈するように、特に、L値が前記範囲となるように、組成物中の着色顔料の量を考慮して、硬化層1の厚みを決定することが好ましい。
硬化層1の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは8μm以下である。
【0033】
[第1組成物]
前記第1組成物としては硬化性であれば特に制限されないが、活性エネルギー線硬化型組成物であることが好ましい。
従来の着色層は、熱硬化性組成物を用いて形成されていたが、活性エネルギー線硬化型組成物を用いることで、従来の熱硬化性組成物を用いる際に必要であった長い炉等が不用になるため、電力、設備等の点でコストダウンを図ることができ、環境負荷を低減しながら効率よく本積層体を製造することができる。
【0034】
前記活性エネルギー線硬化型組成物としては、前記硬化率の硬化層1を容易に得ることができる等の点から、紫外線LEDで硬化可能な組成物であることが好ましい。紫外線LEDで硬化可能な組成物によれば、より短時間で効率よく、省スペースで所望の硬化率を有する硬化層1を容易に得ることができる。また、紫外線LEDで硬化することで、照射対象に熱をあまり与えずに組成物を硬化できるため、所望の硬化層を容易に得ることができる。
【0035】
紫外線LEDとしては、紫外線を照射することができるLED(発光ダイオード)であればよく、特に制限されない。
前記紫外線LEDは、所望の硬化率を有する硬化層を容易に形成できる等の点から、その発する紫外線のピーク波長が、UVC領域、UVB領域、UVA領域、UVA2領域またはUVV領域にあるLEDが好ましく、発する紫外線のピーク波長が、UVA領域またはUVA2領域にあるLEDがより好ましい。
該ピーク波長は、発光スペクトルにおいて発光強度が最大となる波長をいい、市販の分光光度計を用いて測定することができる。
【0036】
前記紫外線LEDとしては、市販品を用いることができ、例えば、前記ピーク波長が、355nm、360nm、365nm、370nm、375nm、385nm、395nm、400nmまたは405nmにあるLEDを用いることができ、これらの中でも、前記ピーク波長が、360~395nmにあるLEDがより好ましい。
【0037】
前記活性エネルギー線硬化型組成物としては、従来公知の組成物を用いることができるが、硬化性化合物として、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を1種または2種以上含む組成物が好ましく、1種または2種以上の(メタ)アクリル系化合物を含む組成物がより好ましい。
(メタ)アクリル系化合物としては、従来公知の化合物を用いることができるが、二官能以上の多官能(メタ)アクリレートを1種または2種以上含むことが所望の効果を奏する積層体をより容易に得ることができる等の点から好ましい。
前記多官能(メタ)アクリレートとしては、所望の効果を奏する積層体をより容易に得ることができる等の点から、多官能ウレタン(メタ)アクリレートおよび/または多官能エポキシ(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、これらの両者を含むことがより好ましい。
【0038】
前記活性エネルギー線硬化型組成物には、従来公知の成分、例えば、重合開始剤、顔料、分散剤が含まれていてもよい。これらの成分は、それぞれ1種または2種以上を用いてもよい。
【0039】
特に、紫外線LEDで硬化可能な組成物を容易に得ることができる等の点から、第1組成物には、重合開始剤として、光重合開始剤を含むことが好ましく、紫外線LEDによる紫外線の照射で重合を開始させることができる化合物を含むことがより好ましい。
このような化合物としては、従来公知の化合物を用いることができ、例えば、特開2012-189994号公報や特開2018-70820号公報に記載の光重合開始剤を用いることができる。
【0040】
これらの中でも、所望の硬化率の硬化層を容易に得ることができる等の点から、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、α-ヒドロキシケトン系光重合開始剤が好ましく、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤がより好ましい。
前記アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメチルベンゾイル)-エチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドが挙げられる。
前記α-ヒドロキシケトン系光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オンが挙げられる。
【0041】
前記光重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.5~25質量%である。
【0042】
前記第1組成物は、着色顔料含有組成物であってもよく、着色顔料不含組成物であってもよいが、金属基材との密着性、特に、金属基材を折り曲げたり、押しつぶした場合などにおける金属基材との密着性に優れる硬化層を容易に得ることができる等の点から、着色顔料不含組成物であることが好ましい。
【0043】
前記着色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化アルミニウム、黄酸化鉄、黒酸化鉄、ベンガラ、紺青、群青、酸化クロム、水酸化クロム、マンガンバイオレット、チタン酸コバルト、カーボンブラック等が挙げられる。これらの中でも、内容物を表示するためや意匠性等のための印刷層が示す表示内容をはっきり理解できる積層体を容易に得ることができる等の点から、酸化チタンが好ましい。
前記着色顔料は、1種または2種以上を用いてもよい。
【0044】
<硬化層2>
本積層体は、前述の理由から、前記硬化層1とは異なる硬化層2を有することが好ましい。
このような硬化層2は、前記第1組成物を用いて、その硬化率を硬化層1と異なるようにした層であってもよいが、前記第1組成物とは異なる硬化性組成物(以下「第2組成物」ともいう。)を用いて得られる層(第2組成物の硬化体)であることが好ましい。
【0045】
金属基材を折り曲げたり、押しつぶしたりしても、金属基材との密着性に優れ、かつ、L値が大きい耐薬品性に優れるコート層を有する積層体を容易に得ることができる等の点から、第1組成物が着色顔料不含組成物であり、第2組成物が着色顔料含有組成物であることが好ましい。
この場合、第2組成物は、第1組成物に前記着色顔料を配合した以外は、第1組成物と同様の組成物であることが好ましい。
【0046】
前記着色顔料含有組成物の不揮発分中の着色顔料の重量濃度(PWC)は、所望のL値を有しながらも、金属基材との密着性に優れるコート層を有する積層体を容易に得ることができる等の点から、好ましくは25~50%、より好ましくは40~50%である。
【0047】
前記硬化層2表面(硬化層2の硬化層1とは反対側表面)の硬化率は、最終的に得られる積層体において、好ましくは70~90%、より好ましくは80~90%である。
積層体における硬化層2の硬化率が前記範囲にあることで、特に、柔軟性に優れるコート層を容易に得ることができ、所望のL値を有しながらも、金属基材との密着性に優れるコート層を有する積層体を容易に得ることができる。
該硬化率は、紫外線照射する場合の積算光量や電子線照射する場合の照射線量等を適宜選択することで、調整することができる。また、該硬化率は、具体的には、下記実施例の欄に記載の硬化層2の硬化率と同様の方法で測定することができる。
【0048】
硬化層2の厚みとしては特に制限されないが、厚くなると金属基材との密着性が劣る傾向にあり、特に、クラッシャー試験の際に密着性が劣る傾向にあるため、薄い方が好ましい。また、第2組成物として着色顔料含有組成物を用い、第1組成物として着色顔料不含組成物を用いる場合には、外観が所望の色を呈するように、特に、L値が前記範囲となるように、組成物中の着色顔料の量を考慮して、硬化層2の厚みを決定することが好ましい。
硬化層2の厚みは、好ましくは5~20μm、より好ましくは5~10μmである。
【0049】
硬化層2は、硬化層1の表面に設けられることが好ましく、この場合、硬化層1上の全面に設けられてもよく、硬化層1上の一部に設けられてもよい。
なお、硬化層1と硬化層2との間には、従来公知の層、例えば、接着層等が存在していてもよいが、本発明の一実施形態によれば、このような層がなくても、硬化層1と硬化層2とが十分に密着した積層体を得ることができるため、積層体の製造コスト、製造容易性等を考慮すると、このような層は存在しない方が好ましい。
【0050】
<印刷層>
本積層体は、さらに印刷層を有することが好ましい。該印刷層は、前記硬化層2が、着色顔料不含層である場合には、硬化層1と硬化層2との間に設けてもよいが、金属基材との密着性により優れるコート層を有する積層体を容易に得ることができる等の点から、前記硬化層2の硬化層1とは反対側に設けることが好ましい。
【0051】
前記印刷層としては、内容物を表示するためや意匠性等のために従来より設けられている層であれば特に制限されず、硬化層1や硬化層2に直接文字等を印刷した層であってもよいし、アクリル系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリウレタン系等の印刷インキ層であってもよい。
【0052】
≪積層体の製造方法≫
本積層体の製造方法は特に制限されないが、金属基材に、第1組成物を塗布し硬化させる工程1を含む方法が好ましく、硬化層2を有する本積層体の製造方法としては、前記工程1、および、該工程1で得られた層の上に、第2組成物を塗布し硬化させる工程2を含む方法が好ましい。
【0053】
前記第1または第2組成物を塗布する方法としては特に制限されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ロールコーター、フローコーター、エアレススプレー、エアースプレー、刷毛塗り、コテ塗り、ローラー塗り、各種印刷、浸漬、引き上げ、流し塗り、盛り付けなど常法によればよい。
この際には、得られる硬化層1および硬化層2が前記厚みの範囲となるように塗布することが好ましい。
【0054】
工程1および/または工程2において、組成物を塗布する前に、必要により、塗布面を従来公知の方法で表面処理する工程を含んでもよい。
【0055】
また、工程1および/または工程2において、組成物を塗布した後、硬化させる前に、必要により、塗布した組成物を加熱する工程を含んでもよい。
この際の加熱温度としては特に制限されず、用いた組成物に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは50~80℃、より好ましくは70~80℃である。
【0056】
前記工程1における硬化方法は特に制限されないが、前記所望の硬化率を有する硬化層1を容易に得ることができ、電力、設備等の点でコストダウンを図ることができ、環境負荷を低減しながら効率よく短時間で本積層体を製造することができる等の点から、紫外線LEDを用いて紫外線を照射することが好ましい。
この場合、1種類の紫外線LEDを用いてもよく、ピーク波長等の異なる2種類以上の紫外線LEDを用いてもよい。
【0057】
前記工程1における硬化は、最終的に得られる積層体における硬化層1の硬化率が前記範囲となるように硬化させればよいが、通常、下記工程2などにより、工程1で形成した硬化層1の硬化率は大きく変化しないため、所望の硬化率の硬化層1を容易に得ることができる等の点から、この工程1で得られる硬化層1の硬化率が前記内部硬化率および表面硬化率の範囲となるように硬化させることが好ましい。
また、このように硬化させることで、本積層体を製造する際の時間、コスト等を削減でき、硬化層1と硬化層2との密着性がより高い積層体を容易に得ることができる。
【0058】
紫外線LEDの照射の条件としては、前記所望の硬化率を有する硬化層1を得ることができれば特に制限されないが、積算光量は、好ましくは1000~4000mJ/cm2であり、より好ましくは2000~4000mJ/cm2である。
なお、照射強度は、好ましくは2000~5000mW/cm2である。
【0059】
前記工程2における硬化方法は特に制限されないが、前記所望の硬化率を有する硬化層2を容易に得ることができ、電力、設備等の点でコストダウンを図ることができ、環境負荷を低減しながら効率よく本積層体を製造することができる等の点から、紫外線を照射することが好ましい。
【0060】
紫外線照射の条件としては特に制限されないが、前記硬化率を有する硬化層2を得ることができる条件であることが好ましく、照射強度は、好ましくは400~600mW/cm2、より好ましくは450~600mW/cm2であり、積算光量は、好ましくは600~2500mJ/cm2であり、より好ましくは1500~2500mJ/cm2である。
【0061】
前記工程1と工程2の間または前記工程2の後、好ましくは前記工程2の後に、硬化層1や硬化層2に直接文字等を印刷し、必要により乾燥および/または硬化することや、硬化層1や硬化層2に前記印刷インキを塗布し、必要により乾燥および/または硬化することで、印刷層を形成することもできる。
【実施例
【0062】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0063】
[調製例1]
アクリル系塗料(ビスフェノールA型エポキシアクリレート[多官能アクリレート]含有、不揮発分50質量%)96質量部と、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド4質量部とを混合することで、組成物1を調製した。
【0064】
[調製例2]
アクリル系塗料(ビスフェノールA型エポキシアクリレート[多官能アクリレート]含有、不揮発分50質量%)65.6質量部と、α-ヒドロキシアルキルフェノン系の重合開始剤0.5質量部と、アシルホスフィンオキサイド系の重合開始剤1.0質量部と、酸化チタン32.8質量部とを混合することで、組成物2を調製した。
【0065】
[実施例1]
肉厚約0.1mmのアルミチューブ(チューブ基材)表面に、前記組成物1を得られる硬化層1の厚みが8μmになるように塗布した。その後、組成物1の塗布面に対し、紫外線LED(浜松ホトニクス(株)製)を用いて、積算光量が2400mJ/cm2になるように紫外線を照射することで、硬化層1付き基材を作成した。
【0066】
[実施例2~4および参考例1~3]
積算光量が表1の通りとなるように変更した以外は実施例1と同様にして硬化層1付き基材を作成した。
【0067】
[比較例1]
紫外線LEDの代わりに、UVランプ((株)GSユアサ製)を用いて、積算光量が2000mJ/cm2になるように紫外線を照射した以外は実施例1と同様にして、硬化層1付き基材を作成した。
【0068】
なお、実施例1~4および参考例1~3における積算光量は、LEDCURE L395(EIT社製)を用いて測定した、前記硬化層1を形成する際に照射したUVA2領域の紫外線の積算光量である。
一方、比較例1における積算光量は、UV Power Puck II(EIT社製)を用いて測定した、前記硬化層1を形成する際に照射したUVA領域の紫外線の積算光量である。
【0069】
<表面硬化率>
表面硬化率(硬化層1の前記金属基材側とは反対側の硬化率)は、用いた前記組成物1および前記形成した硬化層1をFT-IR(ATR法)により測定し、硬化反応で消失した構造の量(ピーク強度)に基づいて算出した。具体的には、以下の方法で算出した。
【0070】
前記組成物1のFT-IRスペクトルから、ベンゼン環の伸縮振動に由来する1510cm-1のピーク強度Aと、C=C結合に由来する1410cm-1のピーク強度Bとを求めた。
次に、前記硬化層1を基材方向に、サンドペーパー(目の粗さは#600~#1000)を用いて、硬化層1の膜厚が7.2μm(0.9×8)になるまで削っていき、このように削った面のFT-IRスペクトルを測定した。該スペクトルから、ベンゼン環の伸縮振動に由来する1510cm-1のピーク強度A'と、C=C結合に由来する1410cm-1のピーク強度B'とを求め、組成物1と、硬化層1表面の1510cm-1のピーク強度比に基づいて、硬化層1表面のFT-IRスペクトルにおける1410cm-1のピーク強度を補正した。
硬化率は、下記式から算出した。結果を表1に示す。
硬化率[%]={1-((B'/A')/(B/A))}×100
【0071】
<内部硬化率>
内部硬化率(硬化層1の前記金属基材側の硬化率)は、前記硬化層1表面のFT-IRスペクトルを測定する代わりに、形成した硬化層1を基材方向に、サンドペーパー(目の粗さは#600~#1000)を用いて、硬化層1の膜厚が0.8μm(0.1×8)になるまで削っていき、このように削った面のFT-IRスペクトルを測定した以外は、前記表面硬化率と同様にして算出した値である。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
[実施例5]
実施例1で得られた硬化層1付き基材の硬化層1上に、前記組成物2を得られる硬化層2の厚みが8μmになるように塗布した。その後、組成物2の塗布面に対し、UVランプ((株)GSユアサ製)を用いて、積算光量が2000mJ/cm2になるように紫外線を照射することで、基材、硬化層1および硬化層2をこの順で有する積層体を作成した。
【0074】
なお、得られた硬化層2表面(硬化層2の硬化層1とは反対側表面)の硬化率は、85.1%であった。該硬化層2の硬化率は、前記硬化層1の表面硬化率の測定において、サンドペーパーで削った面ではなく、形成した硬化層2表面自体を測定した以外は、前記硬化層1の表面硬化率の測定と同様にして算出した。
【0075】
なお、この実施例5で得られた積層体から、前記サンドペーパーを用いて、硬化層2および厚さ0.8μmの硬化層1を削り取った面の硬化率を前記と同様にして測定し、また、前記と同様にして、硬化層1の内部硬化率を測定したところ、硬化層2を形成した後の硬化層1の表面硬化率および内部硬化率は、硬化層2を形成する前の値とほぼ変わらなかった。
【0076】
[実施例6~8、参考例4~6および比較例2]
実施例1で得られた硬化層1付き基材の代わりに、実施例2~4、参考例1~3または比較例1で得られた硬化層1付き基材を用いた以外は、実施例5と同様にして、それぞれ、実施例6~8、参考例4~6および比較例2の積層体を作成した。
なお、これらの試験例で得られた積層体から、前記サンドペーパーを用いて、硬化層2および厚さ0.8μmの硬化層1を削り取った面の硬化率を前記と同様にして測定し、また、前記と同様にして、硬化層1の内部硬化率を測定したところ、硬化層2を形成した後の硬化層1の表面硬化率および内部硬化率は、硬化層2を形成する前の値とほぼ変わらなかった。つまり、実施例5~8で得られた積層体の硬化層1の、表面硬化率は50~70%の範囲を満たし、かつ、内部硬化率は70~90%の範囲を満たしており、参考例4~6および比較例2で得られた積層体の硬化層1の、表面硬化率および/または内部硬化率はこれらの範囲を満たしていなかった。
【0077】
<L値>
前記で得られた積層体のL値を、コニカミノルタ(株)製分光測色計「CM-2600d」を用いて測定した。L値が90以上である場合、所望の外観(色)の積層体を得ることができたといえる。
なお、各試験例で得られた積層体につき、10検体を用いて試験を行い、その平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0078】
<クロスカット試験>
クロスカット試験は以下のように行った。
前記で得られた積層体を用い、該積層体における硬化層2上のごみ、ほこりおよび油分等の異物を取り除き、このように取り除いた部分に、縦および横の切込み(基材に届く切込み)を1mm間隔でそれぞれ11本入れた。該切込みを入れた面に、15mm幅のセロテープ(ニチバン(株)製)を圧着した後、セロテープの端を持ち、塗膜面に対し、約90°の角度で急激にセロテープを剥がした。形成した100マス中、基材上に残存している硬化層2の面積である残存面積率(%)を算出した。残存面積率が100%の場合を◎、95%以上100%未満の場合を○、85%以上95%未満の場合を△、85%未満の場合を×とした。
なお、各試験例で得られた積層体につき、10検体を用いて試験を行い、その平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0079】
前述の通り、硬化層2を形成した後でも、硬化層1の硬化率はほとんど変化していないため、実施例1~4で得られた硬化層1付き基材を用いて、前記と同様のクロスカット試験を行っても、それぞれ実施例5~8と同様の結果になると考えられる。
【0080】
<クラッシャー試験>
クラッシャー試験は以下のように行った。
台の上に前記で得られた積層体を垂直に立て、その積層体の台とは反対側の端より上方50cmの高さから、2kgの重りを落下させ、該積層体を押しつぶした。
押しつぶされた積層体上の硬化層2に亀裂や剥離が全くなかった場合を◎とし、硬化層2側から見た場合に、基材は見えないが、硬化層2の一部に、亀裂や剥離がわずかにある場合を○とし、硬化層2側から見た場合に、基材が見え、硬化層2に亀裂や剥離が多く存在した場合を△とし、指で軽く触るだけで硬化層2が剥離した場合を×とした。
なお、各試験例で得られた積層体につき、10検体を用いて試験を行い、その平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0081】
前述の通り、硬化層2を形成した後でも、硬化層1の硬化率はほとんど変化していないため、実施例1~4で得られた硬化層1付き基材を用いて、前記と同様のクラッシャー試験を行っても、それぞれ実施例5~8と同様の結果になると考えられる。
【0082】
<耐薬品性>
耐薬品性試験は以下のように行った。
前記で得られた積層体の片面に0.3%のヒルドイドクリーム約0.5gを塗布し、恒温恒湿層に入れ、温度40℃、湿度75%の環境下で1週間保管した。1週間保管後、積層体を取り出し、該積層体上のクリームをキムワイプ(日本製紙クレシア(株)製)を用いて拭き取った。その後、クリーム拭き取り面を素手で10回扱き、積層体上の硬化層の浮きや剥がれの有無を確認した。積層体上の硬化層に浮きや剥がれがない場合には、再度前記と同様のクリーム約0.5gを塗布し、前記と同様に恒温恒湿層に入れ、1週間保管後の積層体上の硬化層の状態を前記と同様に確認した。この操作を、積層体上の硬化層に浮きや剥がれが確認されるまで最大10週間行った。
5週間以上積層体上の硬化層に浮きや剥がれが確認されなかった場合、耐薬品性が良好であるといえる。
なお、各試験例で得られた積層体につき、20検体を用いて試験を行い、硬化層の浮きや剥がれが生じるまでの期間の平均を算出した。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
[実施例9~10および参考例7]
前記チューブ基材表面に、前記組成物1を得られる硬化層1の厚みが8μmになるように塗布し、下記表3の表面硬化率および内部硬化率となるよう、紫外線LED(浜松ホトニクス(株)製)を用いて紫外線を照射することで、硬化層1付き基材を作成した。得られた硬化層1付き基材の硬化層1上に、実施例5と同様にして硬化層2を形成した積層体を用い、前記試験を行った。結果を表3に示す。
【0085】
【表3】