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特許7452869蒟蒻食品とその製造方法、並びにその製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】蒟蒻食品とその製造方法、並びにその製造装置
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20240312BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240312BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20240312BHJP
   A23L 33/21 20160101ALN20240312BHJP
【FI】
A23L19/00 102Z
A23L7/10 Z
A23L19/00 102B
A23L29/244
A23L33/21
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021034933
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135249
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-10-31
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508009172
【氏名又は名称】エムテックス有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩治
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0138559(KR,A)
【文献】特開2012-095577(JP,A)
【文献】特開2005-348614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒟蒻粉と水酸化カルシウムと澱粉と水とを含む原料のゲル化物である蒟蒻食品であって、
前記原料は、
前記蒟蒻粉の含有率が0.5重量%乃至3.0重量%であり、
前記水酸化カルシウムの含有率が0.02重量%乃至0.13重量%であり、
前記澱粉の含有率が55.0重量%乃至60.0重量%であり、
前記水の含有率が36.0重量%乃至42.0重量%であり、
前記蒟蒻粉は、1重量%の水溶液とした場合のB型粘度計による35℃下での粘度が130cps乃至180cpsとなり、
前記澱粉は、エンドウ豆澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉から選択される少なくとも1種を含み、
前記蒟蒻食品は、
60℃まで加熱された際に放散するトリメチルアミンが100g当たり4.0mg以下であることを特徴とする蒟蒻食品。
【請求項2】
前記澱粉は、前記甘藷澱粉と前記馬鈴薯澱粉とタピオカ澱粉からなることを特徴とする請求項1に記載の蒟蒻食品。
【請求項3】
前記蒟蒻食品が米粒状又は麺状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蒟蒻食品。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の蒟蒻食品の製造方法であって、
前記原料を混練して混練物を得る混練工程と、
前記混練物を加熱及び加圧しながら成形体を得る成形工程と、
前記成形体を一定の長さに切断して短尺品を得る切断工程と、
前記短尺品を加熱して硬化させる硬化工程と、を有し、
前記成形工程では、前記混練物に10kgf/cm乃至50kgf/cmの圧力を加えるとともに、60℃乃至70℃まで加熱し、
前記硬化工程では、前記短尺品を80℃乃至100℃に加熱することを特徴とする蒟蒻食品の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の蒟蒻食品の製造装置であって、
前記原料を混練して混練物を得るためのミキサーと、
前記混練物を加熱及び加圧しながら成形体を押出し成形するエクストルーダと、
前記成形体を一定の長さに切断して短尺品を得るペレタイザーと、
前記短尺品を加熱して硬化させる加熱装置と、を有し、
前記エクストルーダは、前記混練物に10kgf/cm乃至50kgf/cmの圧力を加えながら60℃乃至70℃まで加熱し、
前記加熱装置は、前記短尺品を80℃乃至100℃に加熱することを特徴とする蒟蒻食品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒟蒻特有の臭気が少なく、米及び麺類の代替品として利用可能な蒟蒻食品とその製造方法、並びにその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では糖尿病患者及びその予備軍といわれる者が急激に増えてきている。糖尿病は、炭水化物といった糖質の過剰摂取が原因の1つとして考えられており、発病して悪化した場合には、網膜症、腎症といった様々な合併症も併発することが知られている。
このような糖尿病を発病しないように、又は発病してもさらなる悪化が抑えられるように、糖尿病患者及びその予備軍といわれる者は、一般的に血糖値をコントロールするために食事療法が適用される。この食事療法は、確かに治療方法としてはシンプルであり効果的である。しかしながら、これまでの食生活を大幅に見直す必要のある者にとって、摂取する糖質を減らす食事療法は精神的に大きなストレスとなり、我慢できず治療を中断してしまう場合も少なくない。
【0003】
一方、最近では、将来の糖尿病リスクを低減するという目的とともに、健康志向の高まりから、これまでの食生活を大きく変えることなく、低カロリー・低糖質となる食生活を求める者も増えてきている。
このような背景から、糖質の摂取を制限しながらも、これまでと大きく変わらない食生活を維持できる食品を求める声が強くなってきている。このような中で、低カロリー・低糖質であり、繊維質に富む食品となる「蒟蒻」が再び注目されてきている。
【0004】
蒟蒻とは、グルコマンナンを含む蒟蒻粉、水等に水酸化カルシウム等の凝固剤を添加して混ぜ合わせた後、加熱してゲル化させたゲル化物をいう。この蒟蒻のゲル化のメカニズムについては諸説あるが、一般的にアルカリ性の条件の下で、グルコマンナンの分子の持つアセチル基が脱離し、これに伴いグルコマンナンの分子間に水素結合が生成して架橋が起こる。こうした架橋が次第に増えることで、3次元ネットワーク構造が形成され、ゲル化したものが蒟蒻であると考えられている。
【0005】
古くから蒟蒻は様々な料理に利用され、我々にとって馴染みのある食材の一つとなっている。そのため、食品メーカーは、このような馴染みのある蒟蒻を低カロリー・低糖質食品として用いれば消費者に受け入れられ易いと考え、近年様々な蒟蒻食品を市場に投入してきている。例えば、麺の代替品としての蒟蒻麺や、米の代替品としての粒状蒟蒻等が挙げられる。また、市場に投入され始めた当初の蒟蒻食品は基本的に形状を麺及び米等の食品に似せただけのものであったが、最近では単に形状を似せるだけでなく、味や歯ごたえも似せた蒟蒻食品が数多く登場してきている。
【0006】
以上のように、様々な蒟蒻食品が市場へ投入されているものの、我々消費者に米、麺の代替品として十分に認知されるまでには至っていない。理由としては様々あると考えられるが、最も大きな理由は蒟蒻の放つ特有の臭気(以下、蒟蒻臭と呼ぶ)の存在と考えられる。なぜなら、この蒟蒻臭を不快に感じて摂取を躊躇う者が多く、さらに摂取は可能だが蒟蒻臭により蒟蒻を食べている感覚が強いため利用に消極的な者が少なからずいるためである。なお、この蒟蒻臭は、蒟蒻芋に含まれるトリメチルアミン(沸点は約3℃)が主成分であることが知られている。
このような蒟蒻食品を広く消費者の食生活に普及させるべく、食品メーカーにおいて蒟蒻臭の低減された蒟蒻食品の開発が精力的に行われている。そして、最近では特許文献1乃至特許文献4に記載された、蒟蒻臭の除去された蒟蒻食品に関する発明が開示されている。
【0007】
特許文献1には、「脱臭したコンニャク紛の製造方法」という名称で、蒟蒻紛の分散液に対して超音波処理を行いながら蒟蒻紛中の蒟蒻臭の成分を除去する方法の発明が開示されている。
特許文献1に記載の発明は、蒟蒻粉又は蒟蒻芋の砕解物にアルコール水溶液を添加して作られた分散液に対して超音波照射を行い、蒟蒻紛から蒟蒻臭となる成分及び不純物を液相中に抽出した後、脱臭・精製された蒟蒻紛を分散液から分離回収することを特徴とする。
【0008】
このような構成であれば、超音波を加えることで、単にアルコール水溶液に浸漬するという従来の方法に比べ、蒟蒻紛中の蒟蒻臭の成分や不純物をアルコール水溶液中に短時間で移動させるという作用を有する。
そして、上述する作用から、特許文献1に記載の発明では、蒟蒻紛の脱臭と不純物の除去を短時間で行うことにより、蒟蒻臭のない高品質な蒟蒻紛を効率良く生産できるという効果を有する。すなわち、上述する蒟蒻粉を用いた蒟蒻食品であれば、蒟蒻臭の問題を解消することができるのである。
【0009】
一方、特許文献2では、「コンニャクおよびコンニャク粉末からの異臭成分の除去方法」という名称で、蒟蒻又はその粉末から超臨界二酸化炭素抽出又は減圧蒸留により蒟蒻臭の成分を除去する方法の発明が開示されている。
この特許文献2における発明は、蒟蒻又はその粉末をエタノール等に浸漬し、次いで超臨界二酸化炭素による抽出を行うことで、蒟蒻臭の成分であるトリメチルアミンを効率的に除去することを特徴とする。
【0010】
このような構成であれば、蒟蒻又はその粉末がエタノールに浸漬されていることで、超臨界二酸化炭素が蒟蒻内を浸透し易くなるという作用を有する。さらに、トリメチルアミンとの親和性の高いエタノールを用いることで、超臨界二酸化炭素へのトリメチルアミンの溶解量を増加させるという作用も有する。
これらの作用により特許文献2に記載の発明は、トリメチルアミンを蒟蒻又はその粉末から簡単に取り除くことができ、蒟蒻臭のない商品価値の高い蒟蒻食品を市場に提供することができるという効果を有する。
【0011】
また、特許文献3では、「臭い低減グルコマンナンゲルの製造方法」という名称で、蒟蒻臭が低減されたグルコマンナンゲルの製造方法に関する発明が開示されている。この特許文献3に記載されている発明は、臭気の原因を凝固反応による臭いとした上で、グルコマンナンを主成分とする蒟蒻等の食材に臭気を低減させるための中和剤(有機酸塩類)を予め添加した後、この食材に水を加えて分散水を調製し、さらにこの分散水を加熱しながらアルカリ凝固剤を添加することによりグルコマンナンをゲル化させることを特徴とする。
【0012】
このような構成の方法であれば、ゲル化前に予め蒟蒻等の材料に有機酸塩類を添加しておくことで、蒟蒻内の有機酸塩類の分布が一様になるという作用も有する。この作用により、特許文献3に記載の発明は、グルコマンナンゲルの内部も含めて蒟蒻臭を低減させることができ、切断しても蒟蒻臭が放散され難く、消費者が摂取し易い蒟蒻食品を提供することができる。
【0013】
また、特許文献4では、「米粒状加工食品およびその製造法」という名称で、蒟蒻臭及び蒟蒻特有の弾力が抑えられ、低カロリー・低糖質となる米粒状加工食品に関する発明が開示されている。この特許文献4に記載されている発明は、熱不可逆性の多糖類ゲルの粒状物から少なくとも構成され、かつ不溶性食物繊維及び豆乳クリームが粒状物中に含まれていることを特徴とする。
上述する構成であれば、従来の蒟蒻とは異なり、炊飯時の米に近い粘りと硬さが蒟蒻に付与されるという作用を有する。加えて、不溶性食物繊維が臭気をマスキングするという作用も有する。これらの作用により、特許文献4に記載の発明は、蒟蒻臭と蒟蒻特有の弾力を抑制することができ、風味と食感が向上するとともに糖質やカロリー制限にも適した米粒状加工食品を提供することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平8-256704号公報
【文献】特開平9-047250号公報
【文献】特開2004-329089号公報
【文献】特開2019-24352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に開示されている発明は、確かに蒟蒻臭の成分や不純物の除去能力が高いと考えられるものの、超音波処理を行うための設備の導入が必要となる。このような装置は通常高額であり、かつ精密機器であるためメンテナンスも欠かせないことから、中小規模の蒟蒻製造業者にとっては安易に活用し難いという課題もある。また、蒟蒻紛をアルコール浸漬するといった新たな工程も増えるため、その工程分の経費が製品価格に反映され、利益の低減に繋がってしまう恐れもある。
【0016】
また、特許文献2に開示されている発明は、特許文献1と同様に、蒟蒻臭の成分を除去する能力は高いといえる。しかしながら、超臨界二酸化炭素を発生する装置を別途準備しなければならず、導入費用及びメンテナンスの面から中小規模の蒟蒻製造業者が安易に活用することができないという課題もある。また、蒟蒻紛をアルコール浸漬する等の新たな工程が増えたり、アルコールに浸漬させる時間として8時間乃至12時間を想定していたりする等、従来法に比べて生産コストを増加させる要素が多く、製品を安価に製造販売することができない可能性もある。
【0017】
一方、特許文献3に開示されている発明は、有機酸塩類を原料に添加するのみであり、確かに簡単に利用可能な方法と言える。しかしながら、アルカリ凝固剤の添加の前に有機酸塩類を添加する場合、原料の混練が不十分な場合には有機酸塩類の分散状態にムラが生じてしまうことも予想され、原料のゲル化に悪影響を及ぼす可能性がある。また、特許文献3に記載される臭気に対する官能評価の結果では、有機酸塩類を添加することで臭気低減効果は見られるものの大幅な低減には至っていない。そのため、依然蒟蒻臭の課題は十分に解消されていない可能性があると考えられる。
【0018】
加えて、特許文献4に開示されている発明では、確かに米と同様の食感を有する米粒状加工食品を得ることが可能と考えられる。しかしながら、蒟蒻臭の低減のため、不溶性食物繊維を添加する設備を新規に導入する必要があり、また生産機を他の商品と共用している場合であれば不溶性食物繊維によるコンタミ防止策も必要となり、管理者の労力が増大するという課題もある。さらに、特許文献4に記載されている官能評価では判断基準となる米飯が含まれておらず、米飯と間違える程度に蒟蒻臭が低減されているのか判断できないという課題もあった。
【0019】
本願発明者は、上記課題に鑑み、米や麺の代替品とすることが可能で、かつ蒟蒻臭の低減された蒟蒻食品、及びその製造方法及びその製造装置について鋭意検討してきた。この結果、上述した特許文献1乃至特許文献4のように、特殊な設備を設置したり、新規な添加物を加えたりすることなく、簡単かつスピーディに生産可能な蒟蒻食品、及びその製造方法及びその製造装置を見出した。
【0020】
すなわち本発明は、上述する従来の課題に対処してなされたものであり、その目的は既知の材料からなる原料を用いて簡単かつスピーディに生産することが可能であり、米、麺等の代替品として利用可能な蒟蒻臭の少ない蒟蒻食品を提供することにある。
また、本発明は、このような蒟蒻臭の少ない蒟蒻食品の製造方法、及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するための第1の発明は、蒟蒻粉と水酸化カルシウムと澱粉と水(以下、「蒟蒻粉等」と呼ぶ)とを含む原料のゲル化物である蒟蒻食品であって、原料は、蒟蒻粉の含有率が0.5重量%乃至3.0重量%であり、水酸化カルシウムの含有率が0.02重量%乃至0.13重量%であり、澱粉の含有率が55.0重量%乃至60.0重量%であり、水の含有率が36.0重量%乃至42.0重量%であり、蒟蒻粉は、1重量%の水溶液とした場合のB型粘度計による35℃下での粘度が130cps乃至180cpsとなり、澱粉は、エンドウ豆澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉から選択される少なくとも1種を含み、蒟蒻食品は、60℃まで加熱された際に放散するトリメチルアミンが100g当たり4.0mg以下であることを特徴とするものである。
【0022】
上記構成の第1の発明であれば、蒟蒻粉の含有率である0.5重量%乃至3.0重量%に応じた量のトリメチルアミンが原料中に混入される。ここで、一般的な蒟蒻食品の原料での蒟蒻粉の含有率は3.0重量%より大きいことが知られ、第1の発明の原料中の蒟蒻粉の含有率は一般的な蒟蒻食品に比べて低いものとなる。このため、第1の発明であれば、原料中のトリメチルアミンの含有率は一般的な蒟蒻食品に比べて少なくなるという作用を有する。
【0023】
次に、凝固剤として機能する水酸化カルシウムの含有率は0.02重量%乃至0.13重量%であることで、原料中のグルコマンナンのゲル化はこの含有率に応じた程度で進行する。そして、一般的な蒟蒻食品の水酸化カルシウムの含有率は0.2重量%乃至0.6重量%であるため、水酸化カルシウム含有率の低い第1の発明の原料中でのグルコマンナンのゲル化の進行の程度は、一般的な蒟蒻食品に比べて低くなるという作用を有する。
したがって、第1の発明では、その原料中の蒟蒻粉の含有率の低さに加え、水酸化カルシウムの含有率の低さにより、グルコマンナンの形成する3次元ネットワーク構造(以下、「蒟蒻ゲル構造」と呼ぶ)中の、単位体積当たりの架橋点の数(以下、架橋点密度と呼ぶ)は、一般的な蒟蒻食品において形成される蒟蒻ゲル構造の場合に比べて低くなる。このため、第1の発明において形成される蒟蒻ゲル構造は一般的な蒟蒻食品の場合に比べて柔軟であり、かつその網目サイズも大きくなる。その結果、第1の発明の蒟蒻ゲル構造では、含有されているトリメチルアミンは束縛を受け難く容易に移動できると考えられる。なお、第1の発明では、後述するように原料中に含まれる澱粉により3次元ネットワーク構造も形成されるが、蒟蒻ゲル構造が形成される際に澱粉は3次元ネットワークを形成せず糊状化しているため、澱粉がトリメチルアミンの移動を阻害することはないと考えられる。
【0024】
ここで、第1の発明の原料中に含まれる澱粉はアミロース及びアミロペクチンを主成分とするものであり、原材料の種類にもよるが凡そ60℃より高い温度に加熱されることで糊状化する(糊状となる現象を「糊化」と呼ぶ)。そして、この糊化した澱粉は冷却されることで、アミロース及びアミロペクチンが部分的に凝集しながら架橋し、3次元ネットワーク構造を形成することも知られている(この3次元ネットワーク構造の形成によるゲル化を澱粉の「老化」と呼ぶ)。なお、この老化により原料内に形成される3次元ネットワーク構造を、以下では「澱粉ゲル構造」と呼ぶこととする。
蒟蒻ゲル構造を形成させる際の温度は一般的に60℃乃至100℃程度であり、第1の発明の場合、原料中に蒟蒻ゲル構造を形成させようとすると原料中の澱粉は糊化する。このため、蒟蒻ゲル構造が形成された後に原料が冷却される過程で、糊化した澱粉は老化により澱粉ゲル構造を形成するようになる。そして、このとき形成される澱粉ゲル構造は、先に形成された蒟蒻ゲル構造と相互に侵入する網目構造を形成すると考えられる(以下、「相互侵入網目構造」と呼ぶ)。このような相互侵入網目構造の形成により、第1の発明において形成されるゲル化物は、保形性が向上したり、後述するように切断加工し易くなったりすると考えられる。
【0025】
一方、第1の発明では、原料中の澱粉の含有率が55.0重量%乃至60.0重量%に設定されることで、当該含有率に応じて形成された澱粉ゲル構造により上述する柔軟な蒟蒻ゲル構造が補強される。
また、第1の発明では、水の含有率を36.0重量%乃至42.0重量%に設定することで、この含有率に応じた粘度となる原料が調製される。
【0026】
また、蒟蒻粉は、濃度が1重量%となる蒟蒻粉の水溶液を作製した場合、この水溶液のB型粘度計による35℃下での粘度が130cps乃至180cpsの範囲内に入るものを使用する。
ここで、蒟蒻粉の水溶液の粘度は、一般的にグルコマンナンの濃度、分子量に依存すると考えられる。例えば、濃度、分子量が高い場合には、液中での分子鎖同士の衝突が頻繁に起こったり、絡み合ったりすることで水溶液の流れは阻害され、水溶液の粘度は高くなると考えられる。第1の発明の場合のように蒟蒻粉の水溶液の濃度を一定とするならば、この水溶液の粘度の高低はグルコマンナンの分子量に依存すると考えられる。そして、上記粘度範囲内に入る蒟蒻粉を設定することは、使用するグルコマンナンの分子量を設定することに等しくなる。
本願発明者は鋭意研究した結果、濃度を1重量%とした水溶液のB型粘度計による35℃下での粘度が上記範囲となる蒟蒻粉を使用することで、噛み応えのある蒟蒻食品が得られることを見出した。すなわち、水溶液が上記粘度範囲の蒟蒻粉を用いれば、第1の発明である蒟蒻食品を安定して得ることができるという作用を有する。
【0027】
加えて、原料中の澱粉が、エンドウ豆澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉から選択される少なくとも1種を含むことで、澱粉の老化の速さが高められるという作用を有する。
上述したように、澱粉は糊化温度以上に加熱されることで糊化し、この糊化した澱粉は冷却されることで老化する(澱粉ゲル構造が形成される)。なお、澱粉ゲル構造が形成される速さ(老化の速さ)は、用いる澱粉の原材料の種類に依存することも知られている。澱粉に用いられる原材料として、上述のエンドウ豆、甘藷、馬鈴薯の他に、タピオカ、コーン、小麦、うるち米、もち米、ワキシーポテト、ワキシーコーンも存在するが、この中でエンドウ豆、甘藷、馬鈴薯を原材料とする澱粉は老化の速さが高いものとなる。これらのエンドウ豆、甘藷、馬鈴薯を原材料とする澱粉が少なくとも1種含まれることで、上述するように第1の発明の原料内の澱粉が糊化した場合でも、冷却されれば素早く澱粉ゲル構造が形成されるようになる。その結果、架橋点密度の低い蒟蒻ゲル構造の形成されたゲル化物であっても、冷却によって澱粉ゲル構造が素早く形成されるため流動し難くなり、ゲル化物の加工を簡単かつ素早く行うことができる。
【0028】
加えて、第1の発明は、上述したように原料中の蒟蒻粉の含有率を低くすることで原料中のトリメチルアミンの含有量を低減できるとともに、原料中に形成される蒟蒻ゲル構造の架橋点密度の低さから、トリメチルアミンが蒟蒻ゲル構造内を通過して外部に放散され易くなると考えられる。この結果、第1の発明である蒟蒻食品を60℃まで加熱した際に放散されるトリメチルアミンが、蒟蒻食品100g当たり4.0mg以下になるように低減されるという作用を有する。
なお、本願明細書中に記載していないが、第1の発明の原料中に調味料を添加したり、原料をゲル化させる際に行う加熱を、真空下において行ったりすることで、トリメチルアミンによる臭気を隠蔽したり、トリメチルアミンの含有量を一層低減することも可能であると考えられる。
【0029】
次に、第2の発明は、上述した第1の発明において、澱粉は、甘藷澱粉と馬鈴薯澱粉とタピオカ澱粉からなることを特徴とするものである。
上記構成の第2の発明であれば、上述する第1の発明と同じ作用に加えて、様々な澱粉の中でも比較的安価なタピオカ澱粉が含まれることで、タピオカ澱粉特有の甘味を蒟蒻食品に付加するという作用を有する。
【0030】
そして、第3の発明は、上述した第1又は第2の発明において、蒟蒻食品が米粒状又は麺状に形成されていることを特徴とするものである。
上記構成の第3の発明であれば、上述する第1又は第2の発明の作用に加えて、蒟蒻食品を米又は麺の代替品として消費者が違和感なく利用できるようになるという作用を有する。
【0031】
さらに、第4の発明は、上述した第1乃至第3の発明のいずれか1つの発明である蒟蒻食品の製造方法であって、原料を混練して混練物を得る混練工程と、混練物を加熱及び加圧しながら成形体を得る成形工程と、成形体を一定の長さに切断して短尺品を得る切断工程と、短尺品を加熱して硬化させる硬化工程と、を有し、成形工程では、混練物に10kgf/cm乃至50kgf/cmの圧力を加えるとともに、60℃乃至70℃まで加熱し、硬化工程では、短尺品を80℃乃至100℃に加熱することを特徴とするものである。
【0032】
上記構成の第4の発明であれば、上述する第1乃至第3の発明のいずれかの発明である蒟蒻食品は、以下の4つの工程からなる製造方法を実施することで製造される。
まず、混練工程において、蒟蒻粉等を含む原料がミキサー等により均一に一体化させられて混練物になるという作用を有する。
そして、続く成形工程では、混練工程で得た混練物がエクストルーダ等の成形機により混練されながら60℃乃至70℃に加熱されるとともに、10kgf/cm乃至50kgf/cmに加圧されながら成形される。
この成形工程では、成形機に投入された混練物が、吐出口と同じ形状の断面を有する成形体になるという作用を有する。また、成形機内で加熱されることで、混練物中のグルコマンナンのゲル化と澱粉の糊化が同時に進められるという作用を有する。さらに、この成形工程において、混練物中に含まれるトリメチルアミンは、加熱により運動性が高められ、架橋点密度の低い蒟蒻ゲル構造、並びに糊化した澱粉内を通過しながら成形体の外に放散され易くなるのである。
【0033】
また、成形工程では混練物及び成形体は加圧されるため、吐出口から出る成形体は圧力開放に伴って膨張する。このときの膨張により、成形体表面では澱粉の老化に伴う硬化と相俟って割れ等が発生し易くなり、割れた箇所から内部のトリメチルアミンが放散されると考えられる。
加えて、成形機から出た成形体は、冷却されることで成形体内のエンドウ豆澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉から選択される少なくとも1種を含む澱粉が糊化状態から素早く老化して、切断可能な程度まで硬化するという作用を有する。
【0034】
次いで実施される切断工程では、成形体を切断機により切断して所望のサイズの短尺品にするという作用を有する。なお、ここでの短尺品とは、成形機により連続的に吐出される成形体を所望に予め定めた間隔で切断したものである。例えば、成形機の吐出口が細孔である場合に吐出される麺状の成形体であれば、短尺品は米粒状のペレット、食用麺の長さにカットされた麺とすることができる。一方、成形機の吐出口がスリット状である場合に吐出されるシート体であれば、短尺品は餃子、春巻きの皮等に用いることが可能なシートとすることができる。
【0035】
そして、最後の硬化工程では、切断工程により得た短尺品が乾燥器等の加熱装置により80℃乃至100℃に加熱されることで、短尺品が含有するゲル化していないグルコマンナンを完全にゲル化させるとともに、成形工程において糊化しなかった澱粉を糊化させ、その後常温に冷却する際に老化させるという作用を有する。
なお、ここでの常温とは40℃以下で、かつ蒟蒻食品が凍結しない程度の温度を指し、本文中に常温と記載されている場合は、全てこのように定義する温度を示すものとする。
【0036】
さらに、第5の発明は、上述した第1乃至第3の発明のいずれか1つの発明である蒟蒻食品を製造する装置であって、原料を混練して混練物を得るためのミキサーと、混練物を加熱及び加圧しながら成形体を押出し成形するエクストルーダと、成形体を一定の長さに切断して上述した短尺品を得るペレタイザーと、短尺品を加熱して硬化させる加熱装置と、を有し、エクストルーダは、混練物に10kgf/cm乃至50kgf/cmの圧力を加えながら60℃乃至70℃まで加熱し、加熱装置は、短尺品を80℃乃至100℃に加熱することを特徴とするものである。
上述する構成の第5の発明は、先の第4の発明を装置の発明として捉えたものであり、その作用は第4の発明による作用と同じである。
【発明の効果】
【0037】
上述する第1の発明であれば、原料の単位重量当たりのトリメチルアミンの含有量が一般的な蒟蒻食品に比べて低くなり、かつトリメチルアミンがゲル化物から容易に放散されるため、一般的な蒟蒻食品に比べてトリメチルアミン含有量が低減された蒟蒻食品となる。この結果、蒟蒻臭により敬遠していた者でも摂取可能となり、蒟蒻食品を一層消費者の食生活に浸透させることができるようになる。
そして、第1の発明は、上述するように蒟蒻粉の含有率が0.5重量%乃至3.0重量%となり、水酸化カルシウムの含有率が0.02重量%乃至0.13重量%となり、澱粉の含有率が55.0重量%乃至60.0重量%となり、そして水の含有率が36.0重量%乃至42.0重量%となり、適度な粘度を有する原料を単にゲル化させただけであるため、特殊な装置により原材料を処理したり、及び新規な添加物を加えたりせず、簡単に生産することが可能となる。
さらに、第1の発明はグルコマンナンによる蒟蒻ゲル構造の形成とともに、澱粉による澱粉ゲル構造が形成される(すなわち、相互侵入網目構造が形成される)。このように、柔軟な蒟蒻ゲル構造が澱粉ゲル構造より補強されることで、ゲル化物は流動し難く加工が容易となり、製品の不良率を低減することができる。
【0038】
加えて、老化の速い澱粉が含有されていることで、グルコマンナンをゲル化させる際に糊化した澱粉が老化するのに要する時間を短縮することができる。このため、グルコマンナンのゲル化後に十分な時間をかけずとも、ゲル化物を切断できるようになり、生産スピードの向上による製造コストの低減が可能となる。
また、蒟蒻粉の水溶液の粘度が上述した範囲内(130cps乃至180cps)に入るように設定することでグルコマンナンの分子量を設定し、蒟蒻食品をその分子量に対応した噛み応えのあるものにすることができる。したがって、上記粘度を管理指標の一つとすることで、蒟蒻食品の不良率を低く維持しながら生産できるようになる。
【0039】
次に、第2の発明であれば、第1の発明の効果に加えて、澱粉中に比較的安価なタピオカ澱粉が含まれることで、製品価格を下げることも可能となる。その結果、本発明の蒟蒻食品は消費者が購入し易い価格となり、蒟蒻食品をさらに消費者の食生活に浸透させることができるようになる。
また、タピオカ澱粉の有する特有の甘味により、世代によらず食べ易い蒟蒻食品として認知され、売上の増加も期待できる。
【0040】
また、上述する第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、蒟蒻食品を米又は麺の代替品として消費者が違和感なく利用できるため、米や麺の代わりとして積極的に利用しようとする者も増えると考えられる。すなわち、蒟蒻食品を消費者が主食として利用することができるようになり、売上の一層の増加が期待できる。
【0041】
さらに、上述する第4の発明であれば、第1乃至第3の発明のいずれかの発明の蒟蒻食品の製造にあたり、4つの工程である「混練工程」、「成形工程」、「切断工程」、「硬化工程」を行うことで、簡単に本発明の蒟蒻食品を製造することが可能となる。
最初の混練工程では、蒟蒻粉等を含む原料をミキサー等の混練機により均一に混練しておくことで、混練物内に分散ムラがなくなり、ゲル化させた際に部位によるゲル化不良が発生し難くなる。これは最終製品の不良率を下げることに他ならない。
続く成形工程では、混練工程で得た混練物を成形機で混練しながら60℃乃至70℃に加熱され、かつ10kgf/cm乃至50kgf/cmに加圧されることで、グルコマンナンのゲル化と澱粉の糊化が同時に進行しながら成形されるとともにトリメチルアミンが放散される。この結果、得られた成形体は一般的な蒟蒻食品に比べて蒟蒻臭が低減され、蒟蒻臭により敬遠していた者でも摂取可能な蒟蒻食品とすることができる。
加えて、成形機から出た成形体では、エンドウ豆澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉から選択される少なくとも1種の澱粉が糊化しており、これが外気に触れて冷却されることで、成形体の表面より素早く老化が進行し硬化する。このような成形体であれば、成形機から吐出された後直ちに切断加工を行うことが可能となり、本発明の蒟蒻食品を生産するスピードを向上させることが可能となる。
【0042】
そして、切断工程において所望のサイズの短尺品となるように切断することで、消費者の摂取し易い形状(米粒状、麺状等)にすることができる。
そして、切断工程の次に実施される硬化工程により、短尺品を加熱してグルコマンナンのゲル化及び澱粉の糊化(その後の老化)を完了させることができる。これにより、本発明の蒟蒻食品が調理の際にゲル化不良等により溶解したり、形状を崩したりするのを防止できる。その結果、料理の見栄えも良くなり、購入した消費者の満足度も向上させることができると考えられる。
【0043】
第5の発明は、上述の第4の発明を装置の発明として捉えたものである。そのため、その効果は第4の発明による場合と同じであり、ここでの説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品(米粒状)の外観写真であり、(a)は未処理のものであり、(b)は水に浸漬して煮沸処理したものである。
図2】本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品(麺状)の外観写真であり、(a)は未処理のものであり、(b)は水に浸漬して煮沸処理したものである。
図3】本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の製造方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
[1.本発明の蒟蒻食品]
初めに、図1図2を用いながら、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品について説明する。なお、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の形状は、図1図2に限定されるものではない。
図1は本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品が米粒状に形成された場合の外観写真を示しており、図1(a)は未処理のものであり、図1(b)は水に浸漬して煮沸処理したものである。なお、図1に示す蒟蒻食品1は多数の粒の集合体であるが、図が煩雑にならないように粒の全てに符号付けを行っていない。
一方、図2は本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品が麺状に形成された場合の外観写真を示しており、図2(a)は未処理のものであり、図2(b)は水に浸漬して煮沸処理したものである。なお、図2に示す蒟蒻食品2は複数の麺の集合体であるが、図が煩雑にならないように麺の全てに符号付けを行っていない。
また、本願明細書において、図1図2の説明以外では、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品には符号を付さないものとする。
【0046】
図1(a)に示すように、蒟蒻食品1は米粒(図示せず)と同様の外観を有し、図1(b)のように米の炊飯方法により調理した場合には、蒟蒻食品1は炊かれた米(図示せず)のように半透明となり、その触感もほぼ同様となる。このように、米粒状に形成された蒟蒻食品1は、調理前後の外観からも米の代替品として十分に活用可能なものとなる。
一方、図2(a)に示すように、麺状に形成された蒟蒻食品2も、市販の乾麺(図示せず)と同様の外観を示す。また、図2(a)の蒟蒻食品2を市販の乾麺と同様に水で茹でた場合も(図2(b)参照)、茹でられた市販の乾麺(図示せず)のような外観を有し、麺の代替品としても十分に利用可能と考えられる。
したがって、上述する蒟蒻食品1、蒟蒻食品2であれば、米、麺の代替品として違和感なく利用できる。そして後述するように、蒟蒻食品1、蒟蒻食品2のトリメチルアミンが低減されていることで、これまで蒟蒻臭により摂取を避けてきた消費者も、積極的に利用することが可能となる。この結果、蒟蒻食品1、蒟蒻食品2が低カロリー・低糖質食品として認知され、市場のさらなる拡大が期待できる。また、上述したように蒟蒻食品1、蒟蒻食品2は、市販される一般的な蒟蒻と同様に、単なる蒟蒻粉等を含む原料のゲル化物であり、特殊な原材料を添加するといった工程も不要なため、中小規模の蒟蒻製造業者でも取り扱いが可能となる。
【0047】
[2.本発明の製造方法]
以下では、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の製造方法について、使用する原料の基本的な配合、製造時に実施される工程の順に具体的に説明する。
【0048】
[2-1.使用する原料の基本的な配合]
本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の原料では、蒟蒻粉の含有率は0.5重量%乃至3.0重量%、水酸化カルシウムの含有率は0.02重量%乃至0.13重量%とされ、市販される一般的な蒟蒻食品(市販品、蒟蒻粉の含有率=3.0重量%、水酸化カルシウムの含有率=0.02重量%乃至0.13重量%)の数値より低くなる。このため、原料中のトリメチルアミンの含有量も市販品に比べて少ない。
なお、上述したように本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の蒟蒻臭及び噛み応えを考慮し、ここで用いる蒟蒻粉は1重量%の水溶液とした場合のB型粘度計による35℃下での粘度が130cps乃至180cpsの範囲内に入るものを使用している。
以上から、原料中の蒟蒻粉、水酸化カルシウムの各含有率を市販品より低くすることで、トリメチルアミンの含有量を少なくすることができる。さらに、原料中に形成される蒟蒻ゲル構造の架橋点密度も市販品に比べ低くなることで、蒟蒻ゲル構造が柔軟かつ大きな網目を有するようになり、含有されているトリメチルアミンも蒟蒻ゲル構造内から外部に向け放散され易くなる。その結果、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品は、市販品に比べて蒟蒻臭を低減することができるようになる。
【0049】
また、原料中に澱粉が55.0重量%乃至60.0重量%の範囲内で含まれることで、蒟蒻ゲル構造が形成される際に糊化した澱粉は、老化の際にこの含有率に応じた量の澱粉ゲル構造を形成する。本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品は、ここで形成された澱粉ゲル構造によって補強され、噛み応えのある蒟蒻食品が得られるようになる。
さらに、老化の速さの高い、エンドウ豆澱粉、甘薯澱粉、馬鈴薯澱粉のいずれか少なくとも1種を含む澱粉が用いられていることで、糊化したこれらの澱粉を含む成形体がエクストルーダより吐出された際に素早く老化し、吐出後であっても直ちに切断加工を行うことが可能となる。
なお、澱粉の成分として、例えば比較的安価なタピオカ澱粉を併用してもよい。タピオカ澱粉との併用により特有の甘味が付加されるだけでなく、安価なため商品価格を下げることもでき、一層売上を増加させることが可能となる。また、市販されているコーン、小麦、うるち米、もち米、ワキシーポテト、ワキシーコーンを原材料とする澱粉を併用することも可能である。
【0050】
加えて、原料中の水の含有率を36.0重量%乃至42.0重量%とすることで、原料中の原材料が均一に分散するように、原料が適度な粘度を有する流体とすることができる。
加えて、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の作用及び効果を発揮する範囲内であれば、上述する配合に調味料及び着色料等の食品添加物を適宜追加してもよい。
上述する配合の原料を用いることで、後述するように本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品は60℃まで加熱された際に放散するトリメチルアミンが、100g当たり4.0mg以下となるのである(表1参照)。
【0051】
[2-2.本発明の製造方法における工程]
本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の製造方法において実施される工程について、図3を参照しながら具体的に説明する。
図3は、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の製造方法を示すフローチャートである。
図3に示されるように、本発明の製造方法は、「混練工程」、「成形工程」、「切断工程」、「硬化工程」の順に実施される4つの工程からなる。
まず最初に、蒟蒻粉等を含む原料を混練して混練物を作製する「混練工程」が実施される(ステップS1)。次に、このステップS1において作製された混練物を加熱、加圧しながら所望の断面形状の成形体を連続的に成形する「成形工程」が実施される(ステップS2)。さらに、このステップS2で得られた成形体を一定の長さに切断して短尺品を作製する「切断工程」が実施される(ステップS3)。そしてステップS3の後、得られた短尺品を加熱してゲル化を完了させる「硬化工程」が実施され(ステップS4)、本発明の蒟蒻食品を得ることができる。
【0052】
[2-2-1.混練工程(ステップS1)]
ステップS1では、蒟蒻粉の含有率が0.5重量%乃至3.0重量%となり、水酸化カルシウムの含有率が0.02重量%乃至0.13重量%となり、澱粉の含有率が55.0重量%乃至60.0重量%となり、そして水の含有率が36.0重量%乃至42.0重量%となるように、それぞれの原材料が秤量されて合わせられた原料がミキサー等の混練機により混練される。この結果、蒟蒻粉等が均一に分散された混練物が得られる。このステップS1により、混練物内の蒟蒻粉等の材料の分散ムラが解消され、ゲル化させた際に部位によるゲル化不良が発生し難くなり、製品の不良率を下げることができる。
なお、蒟蒻粉等はいずれも常温のものを用い、混練の際には原料温度が過度に上昇しないように注意しなければならない。なぜなら、原料温度の上昇により、蒟蒻ゲル構造が過度に形成されたり、澱粉が糊化してその後澱粉ゲル構造が形成されたりした場合に、混練物は高粘度化又は固化して流動し難いものとなり、エクストルーダ等による成形が困難となる可能性があるからである。
【0053】
[2-2-2.成形工程(ステップS2)]
次のステップS2では、ステップS1において得た混練物を成形機に投入して60℃乃至70℃に加熱されるとともに10kgf/cm乃至50kgf/cmに加圧されながら混練されて吐出口から吐出される。
このような工程のステップS2であれば、成形機に投入された混練物は、吐出口と同じ形状の断面を有する成形体として吐出される。例えば吐出口が細孔であれば、成形体は麺状とすることができ、スリット状であればシート状となる。すなわち、吐出口を所望の形状にすることで、種々断面形状の成形体を作製することができるのである。
また、混練物は成形機内で加熱されることで、グルコマンナンのゲル化と澱粉の糊化が同時に進行するとともに、形成された架橋点密度の低い蒟蒻ゲル構造の内部、並びに糊化した澱粉の内部をトリメチルアミンが簡単に通過しながら外部に放散されるようになり、トリメチルアミンの含有量が低減される。
さらに、ステップS2では混練物が加圧されているため、成形体は吐出口から出る際に圧力開放に伴って膨張する。この際に、成形体表面では澱粉の老化に伴う硬化により割れ易い状態にあるため、その割れた箇所からトリメチルアミンが放散する可能性もあると考えられる。
加えて、成形機から吐出された成形体において、糊化したエンドウ豆澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉から選択される少なくとも1種の澱粉が外気に触れることで、成形体は表面より急速に老化して硬化する。この結果、成形体は老化のための時間を十分にとらずとも切断を行うことが可能となる。したがって、成形機に併設されたペレタイザー等の切断機があれば、直ちに切断加工ができるのである。これにより、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の、生産スピードの向上を図ることも可能となる。
【0054】
[2-2-3.切断工程(ステップS3)]
さらに、ステップS3では、ステップS2において得られた成形体を切断して、消費者が利用し易い形状を有する短尺品を得ることができる。なお、ここでの短尺品とは、上述したように連続的に吐出される成形体を所望に予め定めた間隔で切断したものを意味する。このステップS3に関し、例えば、吐出口の形状が細孔となる成形機に切断機を併設しておけば、単位時間当たりの切断回数を調整することで、成形体を粒、麺といった形状の短尺品に加工することができる。
【0055】
[2-2-4.硬化工程(ステップS4)]
そして、ステップS4では、ステップS3により得た短尺品が、加熱装置により80℃乃至100℃に加熱される。この結果、短尺品がゲル化していないグルコマンナンを含む場合には、完全にゲル化させるとともに、成形工程において糊化しなかった澱粉があれば糊化させ、その後常温に戻すことで老化させることができる。すなわち、短尺品のゲル化を完了させて最終製品とすることができるのである。これにより、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品のゲル化不良をなくすことができ、調理の際に溶解したり、形状の崩れを生じたりするのを防止することができる。この結果、料理の見栄えも良くなり、購入した消費者の満足度も向上させることができると考えられる。
【0056】
[3.本発明の製造装置]
次に、本発明の蒟蒻食品を製造するための製造装置について、図4を参照しながら説明する。図4は、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の製造装置の概略図である。なお、製造装置3は、図3に示す蒟蒻食品の製造方法を装置の発明として捉えたものとなり、その作用及び効果は[2.本発明の製造方法]において記載したものと基本的に同じである。
また、図4に示す製造装置3は例として挙げたものであり、本発明の作用・効果を奏する範囲内であれば、構成要素の形状等については使用者が任意に設定することが可能である。加えて、図中の矢印は、ミキサー4で得た混練物又は容器7で回収された短尺品Fの移送方向を示すものである。
製造装置3は、蒟蒻粉等を含む原料を混練して混練物を得るためのミキサー4を有する。そして、この混練物(図示せず)をホッパー5aから投入し、スクリュー5bにより加圧しながら加熱して、目皿5cに形成されている吐出口(図示せず)より吐出して成形体を得るためのエクストルーダ5を有する。そして、成形体を一定の長さに切断して短尺品Fを得るため、エクストルーダ5に併設されたペレタイザー6と、このペレタイザー6により得た短尺品Fを回収するための容器7とを有する。さらに、容器7に回収された短尺品Fを加熱して硬化させるための、ヒーター、蒸気等を熱源とする加熱装置8を有する。なお、エクストルーダ5は、混練物に10kgf/cm乃至50kgf/cmの圧力を加えながら60℃乃至70℃まで加熱し、加熱装置8は、短尺品Fを80℃乃至100℃に加熱するものとなる。
【0057】
このような製造装置3であれば、ミキサー4により蒟蒻粉等を含む原料が均一に混練され、混練物内に原材料の分散ムラがなくなる。この結果、混練物をゲル化させた際にゲル化の不良箇所が発生し難くなり、製品の不良率を下げることが可能となる。
また、混練物はエクストルーダ5で混練されながら60℃乃至70℃に加熱され、かつ10kgf/cm乃至50kgf/cmに加圧される。その結果、混練物中のグルコマンナンのゲル化と澱粉の糊化を同時に進行させることができる。そして、この過程で含有するトリメチルアミンが架橋点密度の低い蒟蒻ゲル構造並びに糊化した澱粉内を簡単に通過しながら成形体から放散されるようになるため、トリメチルアミンの含有量の低減も簡単に行うことができる。加えて、成形体は吐出口から出る際に圧力開放に伴って膨張するため、成形体表面では澱粉の老化に伴う硬化と相俟って割れ等が発生し易くなり、その割れた箇所からもトリメチルアミンを放散させることができると考えられる。つまり、エクストルーダ5ではトリメチルアミンが放散され易い状態になり、そもそも原料中に含まれるトリメチルアミンの含有量が少量であることも相俟って、製造装置3で製造される本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品であれば、その蒟蒻臭は市販品に比べて大きく低減することになる。
【0058】
加えて、エクストルーダ5から吐出された成形体は、糊化したエンドウ豆澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉から選択される少なくとも1種の澱粉が外気に触れて冷却されることで、成形体の表面より急速に老化が進行する。この結果、成形体を長い時間かけて老化させなくともよく、エクストルーダ5に併設されたペレタイザー6により成形体を直ちに切断して所望のサイズの短尺品Fにすることができる。すなわち、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品の生産スピードを向上させることができる。
【0059】
そして、短尺品Fを加熱装置8により加熱してゲル化(グルコマンナンのゲル化及び澱粉の老化を含む)を完了させることで、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品がゲル化不良等により調理の際に溶解や形状崩れを起こすといった不具合を防止することができる。その結果、料理の見栄えも良くなり、購入した消費者の満足度を向上させることができると考えられる。
【0060】
[4.実施例]
次に、[2.本発明の製造方法]に記載されている配合及び製造方法(又は[3.本発明の製造装置]に記載されている製造装置)により得られる本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品について、実施例及び比較例の評価結果を示しながら詳細に説明する。なお、本発明の実施の形態に係る蒟蒻食品は、以下に示す配合及び方法並びに装置により製造された実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
[4-1.実施例で使用する原料の配合]
評価に用いた実施例である蒟蒻食品の配合を表1に示す。なお、表1には後述する成形性及びトリメチルアミンの含有量の評価結果も併記している。
表1に示すように、実施例では、水酸化カルシウムの含有率を0.02重量%(実施例1乃至実施例4)、0.06重量%(実施例5乃至実施例8)、0.13重量%(実施例9乃至実施例12)の3種とし、各水酸化カルシウムの含有率に対して、蒟蒻粉の含有率の異なる4種の配合を調製した。なお、実施例1乃至実施例12において使用した蒟蒻粉は、その1重量%の水溶液のB型粘度計による35℃下での粘度が140cpsとなるものである。また、澱粉は甘藷澱粉を2重量部、馬鈴薯澱粉を2重量部、タピオカ澱粉3重量部を秤量してブレンドしたものであり、このブレンドした澱粉の原料中の含有率については、本発明において設定する55.0重量%乃至60.0重量%の範囲内となる58.33重量%に統一した。また、水の含有率については、本発明において設定する36.0重量%乃至42.0重量%の範囲内となるように調整した。
【0062】
【表1】
【0063】
[4-2.実施例の製造方法]
実施例1乃至実施例12の蒟蒻食品を製造するにあたり、常温下で保持されていた蒟蒻粉等の原材料をそれぞれ秤量して簡易的に混ぜ合わせて原料を作製し、次いで製造装置3のミキサー4に原料を投入して均一に分散させることで混練物を得た。そして、この混練物をエクストルーダ5のホッパー5aに投入し、スクリュー5bによりエクストルーダ5内を移動させながら60℃まで加熱するとともに30kgf/cmで加圧し、目皿5cに形成されている吐出口(細孔)から吐出させて麺状の成形体とした。この成形体をエクストルーダ5に併設されたペレタイザー6の回転刃(図示せず)により吐出後直ちに切断し、米粒状の短尺体Fとした(図1(a)参照)。この短尺体Fは、その後90℃で60分程度加熱処理され、実施例となる蒟蒻食品を得た。
【0064】
なお、本願発明者は、蒟蒻粉の含有率が0.50重量%より低い場合(実施例4、実施例8、実施例12)、又はここでは示していない水酸化カルシウムの含有率が0.02重量%より低い場合には、蒟蒻ゲル構造が十分に形成されないため成形できないことを確認している。加えて、ここでは示していないが、蒟蒻粉の含有率が3.0重量%より高い場合(水酸化カルシウムの含有率が0.02重量%より低い場合を除く)、又は水酸化カルシウムの含有率が0.13重量%より高い場合(蒟蒻粉の含有率が0.50重量%より低い場合を除く)には、トリメチルアミンの含有量が増加したり、蒟蒻ゲル構造が過剰に形成されて高粘度化することで成形が困難となったり、蒟蒻食品が高硬度となり所望の噛み応えにならなかったりすることを確認している。このため、本発明の蒟蒻食品では、蒟蒻粉の含有率が0.5重量%乃至3.0重量%であり、水酸化カルシウムの含有率が0.02重量%乃至0.13重量%とすることが重要となる。
また、本願発明者は、澱粉の含有率が55.0重量%未満である場合に蒟蒻食品の噛み応えが不十分となり、60.0重量%より高い場合も噛み応えが不十分になるとともに低カロリー・低糖質食品として成立し難くなると考えられ好適ではないとしている。加えて、水の含有率が36.0重量%乃至42.0重量%としない場合、混練工程において蒟蒻粉等を含む原料が均一に混練されず、混練物内に原材料の分散ムラが生じることから好適ではないとしている。
【0065】
[4-3.成形性評価]
エクストルーダ5において、混練物を押出成形するのに要するモーターのトルクが高くなる場合、エクストルーダ5に過剰な負荷が加わり故障する可能性がある。このため、このような混練物は成形できないと判断される。一方、上記トルクが低過ぎる場合についても、混練物がゲル化し難い状態にあると考えられ、このような混練物も成形できないと判断される。すなわち、混練物を押出すのに要するトルクの値、並びにエクストルーダ5から吐出される混練物の性状から、配合の成形のし易さを判断することができるのである。
そこで、押出成形時のトルクの高低、エクストルーダ5から吐出される混練物の状態から、配合の成形のし易さを示す「成形性」を判定し、その結果を表1に併記した。なお、成形性の具体的な判定方法としては、押出し時のトルクがエクストルーダ5の許容トルクより低く、吐出される混練物が液状でない場合は「〇」とし、押出し時のトルクが上記許容トルクを超えるか近傍となる場合、又は押出し時のトルクが上記許容トルクより低くかつ吐出される混錬物が液状である場合を「×」とした。
表1より、実施例4、実施例8、実施例12の成形性はいずれも「×」であった。これらは上述したように、蒟蒻粉の含有率が低過ぎ、蒟蒻ゲル構造が十分に形成されておらず流動してしまうためである。
一方、実施例4、実施例8、実施例12以外の実施例の蒟蒻食品については、成形性に問題はなく、全て成形性は「〇」であった。
【0066】
[4-4.トリメチルアミンの含有量評価]
次に、実施例1乃至実施例3、実施例5乃至実施例7、実施例9乃至実施例11の蒟蒻食品に対し、ガスクロマトグラフ分析装置を使用してトリメチルアミンの含有量の評価を行った。その評価結果を表1に示す。また、比較のため、市販されている糸蒟蒻を比較例1として、その評価結果も併記した。
【0067】
ここで、用いたガスクロマトグラフ分析装置はアルファ・モス・ジャパン株式会社製のフラッシュGCノーズ HERACLES IIとなる。測定は、コーヒーミルにて粉砕したサンプル0.1gを分析用バイアル瓶に入れ、純水を2ml、水酸化ナトリウム水溶液(6N)2mlを加えて密封した後、60℃で60分間加熱した後、サンプルから放散されたヘッドスペースガス(揮発成分)を当該装置に導入して行った。
一方、上記揮発成分の分析条件として、カラムはMXT-5カラム(10m×0.18mmI.D. 0.25μm:レステック社製)、オーブン温度は初期温度40℃で20秒間保持し、その後毎秒1.5℃で250℃まで加熱し、250℃で20秒間保持した。キャリアガスとしてH(流速1ml/分)を使用し、イオン化法FIDで検出を行った。
そして、サンプル中のトリメチルアミンの含有量については、アルファ・モス・ジャパン株式会社製のAlpha Softを使用して、まずガスクロマトグラフ分析装置により得られたサンプルのクロマトグラフに対し、トリメチルアミンのピーク高さを求めた。次いで、市販のトリメチルアミン水溶液を純水により適宜希釈して調製したトリメチルアミン水溶液(濃度は0.5mg/l,1.0mg/l,2.5mg/l,5.0g/l,10.0mg/l)を用いて作成した、トリメチルアミンの濃度とピーク高さの関係を示す検量線を用い、サンプルのピーク高さからサンプル中のトリメチルアミンの含有量を算出した。
【0068】
表1より、実施例1乃至実施例3、実施例5乃至実施例7、実施例9乃至実施例11の各蒟蒻食品の、試料100g当たりのトリメチルアミン含有量(表中のTMA含有量)は、いずれも4.0mg未満となり、比較例1と比べて蒟蒻臭(トリメチルアミン)が大幅に低減されていることを確認できる。なお、水酸化カルシウムの含有率が同じである場合、トリメチルアミン含有量は蒟蒻粉の含有量に比例する。これについては、トリメチルアミンの供給源が蒟蒻粉であることを考慮すれば自明である。
一方で、蒟蒻粉の含有率が同じで、水酸化カルシウムの含有率が異なる場合(例えば、実施例1及び実施例5及び実施例9)、水酸化カルシウムの含有率が高くなるに従い、トリメチルアミンの含有量は低くなる傾向にある。この原因について詳細は不明だが、水酸化カルシウムの含有率が高くなることで原料のpHが上昇することに関連していると考えられる。すなわち、pHの上昇に伴って、グルコマンナンのゲル化が進み(蒟蒻ゲル構造内の架橋点の数が増加し)、蒟蒻ゲル構造の強度が増加するとともに、網目も小さくなることで、トリメチルアミンが蒟蒻ゲル構造内を通過し難くなり、放散が十分にできなかったことが原因とも考えられる。
【0069】
以上から、実施例1乃至実施例3、実施例5乃至実施例7、実施例9乃至実施例11の蒟蒻食品であれば、蒟蒻食品の単位重量当たりのトリメチルアミンの含有量が比較例1に比べて低くなり、蒟蒻臭(トリメチルアミン)により敬遠していた者でも摂取することができるため、蒟蒻食品を一層消費者の食生活に浸透させることができるようになる。
加えて、実施例1乃至実施例3、実施例5乃至実施例7、実施例9乃至実施例11の蒟蒻食品のいずれも、蒟蒻粉の含有率が0.5重量%乃至3.0重量%となり、水酸化カルシウムの含有率が0.02重量%乃至0.13重量%となり、澱粉の含有率が55.0重量%乃至60.0重量%となり、そして水の含有率が36.0重量%乃至42.0重量%となる原料をゲル化させたものであり、特殊な装置により原材料を処理したり、新規な添加物を加えたりせずとも、簡単に蒟蒻食品を生産することが可能となる。
さらに、グルコマンナンによる蒟蒻ゲル構造の形成とともに、澱粉の糊化と老化に伴う澱粉ゲル構造も形成され(又は相互侵入網目構造が形成され)、柔軟な蒟蒻ゲル構造が補強されることで流動せず加工容易な状態となり、実施例の加工時の不良率を低減することができる。
【0070】
また、原料中に含まれる老化の速い澱粉により、グルコマンナンをゲル化させる際に糊化した後、冷却時に素早く澱粉ゲル構造を形成するようになる。このため、グルコマンナンのゲル化後に直ちに切断が可能な程度に硬化し、蒟蒻食品を製造するのに要する時間が短縮でき、製造コストの低減にも繋げることができる。
そして、蒟蒻粉の水溶液の粘度が上述した範囲内(130cps乃至180cps)に入るように設定することが、蒟蒻食品を低臭気かつ噛み応えのあるものにする1つのファクターとなるため、この粘度を生産時に管理する指標とすることで、不良率を低く維持しながら生産を行うことができるようになる。
【0071】
さらに、比較的安価なタピオカ澱粉を加えることにより、商品価格を下げることも可能となる。その結果、購入し易い価格となり、一層消費者の食生活に浸透し易くなることで売上を増加させることが可能となる。また、タピオカ澱粉の有する甘味により、世代によらず食べ易い蒟蒻食品として認知されることによって、一層売上を増加させることが可能となる。
また、エクストルーダにより種々形状の蒟蒻食品を簡単に作ることが可能であり、特にその形状を米粒状又は麺状とすれば、米また麺の代替品として違和感のないものとなる(図1及び図2参照)。この結果、蒟蒻臭の低さも相俟って米や麺の代わりとして積極的に利用しようとする消費者の増加が期待でき、蒟蒻食品の消費者の食生活への浸透を一層促進させることができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明は蒟蒻臭が少なく形状保持性の良い蒟蒻食品であり、低カロリー・低糖質の食品に関する技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1,2…蒟蒻食品 3…製造装置 4…ミキサー 5…エクストルーダ 5a…ホッパー 5b…スクリュー 5c…目皿 6…ペレタイザー 7…容器 8…加熱装置 F…短尺品
図1
図2
図3
図4