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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】株元保護資材及び果菜類の栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/44 20180101AFI20240312BHJP
   A01G 2/30 20180101ALI20240312BHJP
   A01G 22/05 20180101ALI20240312BHJP
   A01G 24/25 20180101ALI20240312BHJP
   A01G 24/30 20180101ALI20240312BHJP
   A01G 24/48 20180101ALI20240312BHJP
【FI】
A01G24/44
A01G2/30
A01G22/05 Z
A01G24/25
A01G24/30
A01G24/48
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021063095
(22)【出願日】2021-04-01
(65)【公開番号】P2022158310
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390010814
【氏名又は名称】株式会社誠和
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】陣在 ゆかり
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-088845(JP,A)
【文献】特表2016-506741(JP,A)
【文献】特開2002-078416(JP,A)
【文献】特開2017-023065(JP,A)
【文献】特開2004-217495(JP,A)
【文献】特開2003-061459(JP,A)
【文献】特許第5820382(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/44
A01G 2/30
A01G 22/05
A01G 24/25
A01G 24/30
A01G 24/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地材を用いて成形され、保水性を備えていると共に、所定の厚さを有し、本圃に定植される果菜類の苗の株元に相当する茎の周囲の少なくとも一部に隣接して、前記本圃の培地上に配設され、前記株元に相当する茎から発生する不定根が伸長する株元保護資材。
【請求項2】
前記苗の株元を配置するための苗配置部を有すると共に、前記株元の周囲を取り囲み可能に形成されている請求項1記載の株元保護資材。
【請求項3】
厚さが0.5~5cmの範囲である請求項1記載の株元保護資材。
【請求項4】
接ぎ木苗用であり、前記本圃の培地の地際から台木の高さ以下の厚さで成形されている請求項1~3のいずれか1に記載の株元保護資材。
【請求項5】
定植前の前記苗に付設されている請求項1~4のいずれか1に記載の株元保護資材。
【請求項6】
保水率が体積比で20%以上である請求項1~5のいずれか1に記載の株元保護資材。
【請求項7】
保水率が体積比で20~60%の範囲である請求項6記載の株元保護資材。
【請求項8】
比重が0.02~0.6g/cm の範囲である請求項1~7のいずれか1に記載の株元保護資材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1に記載の株元保護資材を、本圃に定植された果菜類の苗の株元に相当する茎の周囲の少なくとも一部に隣接するように、前記本圃の培地上に配設して栽培し、前記株元に相当する茎から不定根を発生させ、前記不定根の少なくとも一部を前記本圃の培地に至るまで伸長させる果菜類の栽培方法。
【請求項10】
トマト栽培に適用される請求項9記載の果菜類の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、株元保護資材及び該株元保護資材を用いた果菜類の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果菜類、なかでもトマトは、茎から発生する不定根が生じやすい。特に、根からの水分や肥料分の吸収が十分でない場合に生じやすく、不定根はいわば環境不良を示す一つの指標であり、不定根の発生は通常の栽培では必ずしも好ましいものとは言えない。一方、土耕栽培においては、非特許文献1に示されているように、定植時に茎を土中に埋め、茎から発生する不定根を積極的に利用するいわゆる寝かせ植えと呼ばれる栽培法も知られている。しかしながら、ロックウールなどを本圃培地として用いる養液栽培では、育苗した苗の定植は、苗を保持している一辺10cm程度の立体形状の育苗培地をそのまま本圃培地上に置く方式であり、寝かせ植えを採用することはできない。あえて育苗培地を横向きにして育苗培地の側面が本圃培地上に接するように配置したとしても、苗は、本圃培地の上面から5cm程度上方に離れており、不定根が発生したとしても本圃培地に到達するまで成長することは困難である。また、非特許文献2に示されているように、寝かせ植えにより発生する多くの不定根により、栄養成長が促進され過ぎて、生殖成長が十分なされず、実がつきにくいなどの欠点も指摘されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】やまむファーム、ホームページ「トマト・ミニトマトの栽培方法・育て方のコツ」 URL: https://ymmfarm.com/cultivation/veg/tomato
【文献】トマト栽培者のブログ記事、 URL: https://ameblo.jp/mocki/entry-11870906927.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不定根を利用した栽培法は、土耕栽培で実施されているといっても、非特許文献2のように生殖成長が抑制されてしまうことから、養分を極端に制限するなど通常の栽培とは異なる肥培管理が要求され、また、茎の寝かせ度合いにより、不定根の発生数も大きく異なる。このため、果実の品質向上、収量向上には、茎の寝かせ度合いや肥培管理など相当の注意、熟練を要する。
【0005】
一方、本圃に定植する苗は、近年、育苗業者から購入するケースが増加している。そのため、苗の輸送時において傷がついたり、また、定植作業において苗に傷をつけてしまう場合もある。このような傷のある苗を用いると、定植後、株元付近の組織に壊死が発生し、病原菌の侵入、葉水分移動の阻害等による生育不良の原因となる場合がある。また、育苗培地表面に塩類集積等が生じているような生育環境で育苗された苗を用いた場合にも、株元の壊死などの障害が発生しやすい。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、寝かせ植えを行うことができない養液栽培においても不定根を利用した栽培法を実現すると共に、通常の肥培管理でも栄養成長と生殖成長のバランスを図ることができ、しかも苗を保護する機能も有する株元保護資材及び該株元保護資材を用いた果菜類の栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するため、本発明の株元保護資材は、
培地材を用いて成形され、保水性を備えていると共に、所定の厚さを有し、本圃に定植される果菜類の苗の株元の周囲の少なくとも一部に隣接して配設されることを特徴とする。
【0008】
前記苗の株元を配置するための苗配置部を有すると共に、前記株元の周囲を取り囲み可能に形成されていることが好ましい。
厚さが0.5~5cmの範囲であることが好ましい。
接ぎ木苗用の場合、前記本圃の培地の地際から台木の高さ以下の厚さで成形されていることが好ましい。
定植前の前記苗に付設されている構成とすることもできる。
保水率が体積比で20%以上であることが好ましい。
保水率が体積比で20~60%の範囲であることがより好ましい。
比重が0.02~0.6g/cm の範囲であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の果菜類の栽培方法は、上記の株元保護資材を、本圃に定植された果菜類の苗の株元の周囲の少なくとも一部に隣接するように配設して栽培し、前記株元から不定根を発生させ、前記不定根の少なくとも一部を前記本圃の培地に至るまで伸長させることを特徴とする。
この栽培方法は、特に、トマト栽培に適用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の株元保護資材は、果菜類の苗の株元の少なくとも一部に隣接して配設可能な形状を有すると共に、所定の厚さと保水性を有している。この株元保護資材を用いることにより、寝かせ植えのような特殊な栽培法を採用しなくても、株元保護資材に被覆された範囲の株元に位置する茎から、不定根の発生を促すことができる。そしてこの不定根を本圃の培地に到達するまで伸長させることにより、不定根を通じての養水分の吸収がなされることになり、苗の成長を促すことができる。不定根は、株元保護資材に隣接する範囲において発生しやすくなるため、株元保護資材の厚さにより、不定根の発生数を制御できる。また、株元保護資材を株元の周方向における隣接範囲、例えば、全周を取り囲む形状とするか、一部のみに隣接する形状とするかによっても不定根の発生しやすい範囲を調整できる。よって、不定根の発生を予定する範囲に相応する所定の厚さや形状に成形された株元保護資材を用いることにより、不定根の適切な利用を実現でき、通常の栽培管理でも栄養成長と生殖成長のバランスが図られ、果実の品質、収量の向上を図ることができる。
【0011】
また、傷等を有することにより株元に壊死が発生する可能性のある場合でも、本発明の株元保護資材を配設することで不定根を根付かせることでき、不定根を通じての養水分の吸収により生育不良を抑制できる。また、接ぎ木苗の場合、本圃の培地の地際から台木の高さ以下の厚さで成形された株元保護資材を用いることにより、台木の範囲からの不定根の発生を促進させることができ、接ぎ木苗に傷等がある場合でも、台木の有する高い養水分の吸収機能を生かすことができる。
【0012】
また、本発明の株元保護資材を定植前の段階で、すなわち、育苗時に苗の周囲に配置した構成とすることで、苗の運搬時や本圃への定植時において、苗に傷を与えることを防ぐことができ、定植後の株元の壊死の抑制、生育不良の抑制に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一の実施形態に係る株元保護資材を示す斜視図である。
図2図2は、上記実施形態に係る株元保護資材を本圃に定植した苗に配設した状態を示す斜視図である。
図3図3(a)は、上記実施形態に係る株元保護資材を本圃に定植した苗に配設し、不定根が発生した様子を模式的に示した図であり、図3(b)は、接ぎ木苗を用いた場合における不定根が発生した様子を模式的に示した図である。
図4図4(a)は、実施例2の株元保護資材を示す斜視図であり、図4(b)は、実施例3の株元保護資材を示す斜視図である。
図5図5(a)は、実施例1の株元保護資材を用いた不定根の発生状況を示した図であり、図5(b)は、実施例2の株元保護資材を用いた不定根の発生状況を示した図であり、図5(c)は、実施例3の株元保護資材を用いた不定根の発生状況を示した図である。
図6図6(a)は、比較例1における不定根の発生状況を示した図であり、図6(b)は、比較例2における不定根の発生状況を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、さらに詳細に説明する。図1図3に示したように、本実施形態に係る株元保護資材1は、所定の厚さを有する形状に予め成形されたものである。株元保護資材1は、配置対象である果菜類の苗100の株元110の周囲の少なくとも一部に隣接可能な形状であればよい。例えば、略立方体形状、平面視で略円弧状の形状等で、本圃200に定植された苗100の株元110に相当する茎に隣接して培地210(第2培地210B)上に配設可能な形状であればよい。
ここで、上記のように、養液栽培における定植作業は、苗100を保持した育苗培地をそのまま本圃培地上に載置することであり、苗100の根は成長にともなって育苗培地を経て本圃培地に侵入する。そのため、育苗培地は定植後はそのまま本圃培地の一部として機能する。そこで、本明細書において本圃200の培地210は、本圃200として使用することが予定されている本来の本圃培地だけでなく、このように一体化され、本圃でそのまま使用される育苗培地を含む意味とし、両者を分けて説明する際は、本来の本圃培地を第1培地210Aとし、第1培地210Aに一体化される育苗培地を第2培地210Bとする(図2参照)。
【0015】
但し、株元110のほぼ全周を取り囲むことが可能な形状であることが好ましい。例えば、図1に示したように、略環状で、中空部1aを形成する内周縁と外周縁との間に切り込み1bが形成された構造とすることができる。この場合、苗100の株元110、すなわち、本圃200の第2培地210Bの地際210B1から上方に数cmの範囲の茎の部分を切り込み1bに通し、苗配置部となる中空部1aに該株元付110近を位置させる(図3(a)参照)。これにより、株元110のほぼ全周が株元保護資材1により取り囲まれることになる。略環状といっても、内周縁及び外周縁は必ずしも略円形のものでなくてもよく、角形、一部が変形した異形のもの等であってもよい(図4(b)に示した株元保護資材1B参照)。但し、苗配置部となる中空部1aは、その断面形状及び大きさ共に、できるだけ株元110の外面に接触できるものであることが好ましい。苗配置部は、株元110を通すことができればよく、中空部1aを有していない、単なる切り込み1bが形成されたものでもよい(図4(a)に示した株元保護資材1A参照)。切り込み1bに株元110を挟み込んだ状態で配置することで、切り込み1b自体を苗配置部とすることができる。
【0016】
株元保護資材1を形成する材料は、不定根120が伸長できるもの、具体的には、所定の形状に成形可能な培地材が使用される。なかでも、苗100に接した際に傷をつけないよう柔らかな材料が好ましい。このような培地材としては、例えば、ヤシガラ、園芸用スポンジ(発泡フェノール樹脂)等を用いることができる。成形方法は任意であり、例えばヤシガラ等であれば、圧縮したり、あるいは、PVA(ポリビニルアルコール)や酢酸ビニル樹脂等のバインダーを用いて所定形状に固めたりして成形できる。また、発泡フェノール樹脂材料を成形機で発泡成形したりして成形できる。成形された株元保護資材1は、不定根120の発生、伸長に適した適度な湿度と通気性を有することが好ましい。そのため、保水率が、体積比で20%以上のものであることが好ましく、20~60%のものがより好ましい。また、通気性の点や作業時の持ち運びの便宜から、比重0.02~0.6g/cm の範囲のものが好ましい。また、苗100の病気の発生要因とならないように、滅菌処理したものであることが好ましい。
【0017】
株元保護資材1は、上記のように、種々の形状とすることができるが、株元110のうち、株元保護資材1に対峙している範囲が不定根120の主な発生範囲となる。このため、株元保護資材1が株元110回りの全周を被覆する形状か、一部のみを被覆する形状かにより、株元110から発生する不定根120の数も変化する。同様に、株元保護資材1の厚さによっても、株元110の対峙範囲が増減し、不定根120の発生数が変化する。よって、株元保護資材1の株元110回りに対する範囲の面積を、形状や厚さによって調整することで、不定根120の発生数を調整できる。
【0018】
上記のように、不定根120の発生数が多くなりすぎると、養水分の吸収量が過多となる等の不都合があるし、少なすぎる場合には、株元110に壊死等が生じている場合の養水分の吸収源として機能的に不足する。よって、株元110が正常な状態において、苗100を上方に成長させていく通常の栽培法において、予め定めた標準的な肥培管理条件で概ね対処可能な範囲となるような発生数とすることが好ましい。すなわち、株元110の養水分の吸収機能が不十分の場合に、株元保護資材1を配置することで、株元110の養水分の吸収機能を補うことができる程度となるようにすることが好ましい。その意味では、栽培対象の作物の種類、季節、温度や湿度等のハウス内環境に応じて、個別に、株元保護資材1を所定の形状、厚さとすることが好ましく、そのようなオーダーメイドでの生産も可能である。但し、その場合には量産化に劣り、価格も高くなる。従って、株元保護資材1としては、株元110の周方向においてできるだけ満遍なく、あるいはいずれから発生しても対応できるよう、形状としては、株元110の全周を被覆するものであることが好ましい。厚さは、苗100を上方に生育させる栽培法の場合、苗100における不定根を発生させる予定の高さから離れすぎると、発生した不定根120が到達できなくなり、また、厚すぎても株元保護資材1の範囲を脱して第2培地210Bに至るまで伸長することが困難になるため、0.5~5cmの範囲とすることが好ましい。より好ましい厚さは、0.5~3cmであり、さらに好ましい厚さは1~2cmである。このような形状、厚さを有する株元保護資材1を予め準備しておけば、苗100を定植後、株元保護資材1を速やかに配置でき、作業性に優れる。
【0019】
苗として接ぎ木苗100Aを用いる場合、図3(b)に示したように、株元保護資材1は、第2培地210Bの地際210B1から台木100A2の高さ(H1)以下の厚さのものが用いられる。これにより、穂木100A1からの不定根の発生を抑制し、台木100A2からの不定根120の発生を促進できる。接ぎ木苗100A用の株元保護資材1の好ましい厚さの範囲は基本的には上記と同様であるが、上限は台木100A2の高さ(H1)となる。従来の寝かせ植えによる栽培法では穂木から不定根が発生してしまうため、接ぎ木苗を用いた上での寝かせ植えは適していない(非特許文献1参照)。しかしながら、本実施形態によれば、予め成形された所定厚さの株元保護資材1を用いるため、穂木100A1からの不定根の発生を抑制しつつ、台木100A2からの不定根120の発生を促進できる。従って、接ぎ木苗100Aが傷等を有するものであっても、良好な生育を促すことができる。
【0020】
本実施形態の株元保護資材1を用いる場合には次のように行われる。まず、苗100(又は接ぎ木苗100A)が育成されている育苗培地を、本圃200の第1培地210A上に載置する定植作業を行う(図2参照)。この育苗培地が、本明細書において、本圃200の培地210に含まれる第2培地210Bとなることは上記のとおりである。次に、株元保護資材1の切り込み1bを広げ、株元110を該切り込み1b内に位置させるように挿入し、中空部1a内に株元100を位置させる。株元保護資材1の配置作業はかかる工程のみである。株元保護資材1は、予め成形された構造であるため、配置作業は極めて容易である。その後は、通常通りの栽培管理を行えば、株元保護資材1に対峙する範囲から発生する不定根120が株元保護資材1方向に伸長し、さらに培地210(第2培地210B)方向に伸びていく。培地210(第2培地210B)に根付くと、培地210(第2培地210B)からの養水分の吸収が可能となり、運搬時や定植時において苗100に傷等を生じ株元110が壊死等していても、良好な生育が可能となる。
【0021】
なお、上記した実施形態では、苗100を本圃200の培地210に定植後、株元保護資材1を配設しているが、株元保護支持材1を予め苗100に付設した構成とすることもできる。例えば、育苗培地において苗100がある程度成長したばならば、育苗培地の上面に株元保護支持材1を、上記と同様に、切り込み1bを介して該苗100を取り囲むように配設する。育苗培地は、そのまま本圃200の培地210(第2培地210B)として利用されるため、かかる方法によれば、苗100の定植作業と同時に株元保護資材1を配置することができ、作業効率をより向上させることができる。
【0022】
(実施例1~3、比較例1~2)
株元保護資材1として、実施例1~3のものを製作し、これを定植した苗100の株元110に隣接配置して、不定根120の発生状況を調べた。
【0023】
苗100として、「ミニトマト CF千果 (タキイ種苗(株))」の種を2020年11月20日に播種して約1ヶ月間育苗したものを使用し、同年12月25日に本圃200に定植した。株元保護資材1は、本圃200への定植時に配置している。不定根120の発生の観察日は2021年3月9日である。
【0024】
実施例1:ヤシガラ等をPVA、酢酸ビニル樹脂を用いて略環状に成形し、図1に示した株元保護資材1を製作した。外径5cm、内径1.2cm、厚さ1.5cmであり、切り込み1bを設け、株元110回りに配設した。
実施例2:市販のヤシガラマット(HECHO EN CHINA 社製)を、1辺約5cm、厚さ0.5cmの四角形に切断し、切り込み1bを設け、これを成形された株元保護資材1Aとし(図4(a)参照)、株元110回りに配設した。
実施例3:園芸用スポンジ(発泡フェノール樹脂、SAC社製)を、5cm×2.5c m×1.5cmの略直方体に加工すると共に、一つの側面の略中央部に切り欠き1cを形成したものを成形された株元保護資材1Bとし(図4(b)参照)、これを2片用い、切り欠き1c同士を対向させて株元110を挟みこむようにして配置した。
【0025】
なお、比較のため、株元保護資材を株元回りに配設しない事例(比較例1)、ヤシガラ・バーミキュライト混合培養土を、実施例1の株元保護資材1と同じ厚さ分、株元110回りに盛土した事例(比較例2)についても不定根の発生状況を確認した。
【0026】
実施例1~3及び比較例1~2の比重、最大保水率及び不定根の発生状況を次表に示す。また、実施例1~3の不定根の発生状況の写真を図5(a)~(c)に示し、比較例1~2の不定根の発生状況の写真を図6(a)及び(b)に示す。これらの図において、実線の丸印は1cm以上の不定根を示し、破線の丸印は1cm未満の不定根を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1より、株元保護資材1を配設した実施例1~3が、株元110回りを何も被覆していない比較例1と比較して、不定根の発生数が増加していることがわかる。この点は、図5(a)~(c)の実施例1~3の写真と、図6(a)の比較例1の写真とを比較しても明らかである。
【0029】
また、実施例1及び実施例2は、1cm以上に伸長した不定根の数が実施例3に比較して多かった。実施例3の場合、保水率が高く、不定根の発生環境としては株元保護資材1付近の湿度が高かったことが影響していると考えられる。よって、最大保水率は、上記のように20~60%の範囲とすることが好ましい。
【0030】
比較例2の盛土を施した事例では、実施例3と同程度の不定根の発生が見られたものの、実施例1及び2と比較すると発生数が少なかった。予め成形された株元保護資材1の方が、適切な大きさとなっているため、安定して不定根が発生したものと考えられる。また、比較例2は、盛土作業を株毎に行う必要があり、実施例1~3のように予め成形した株元保護資材1を配置する場合と比較し、工数がかかった。また、株毎に盛土の高さや培養土の使用量にばらつきがあり、その点も不定根の発生数に影響があったものと考えられる。さらに、盛土に使用する培養土の使いすぎ、あるいは、作業中、本圃200から落下するなどの培養土の無駄使いもあった。また、落下した培養土が周辺の排水経路に入りこむことで、排液性を損なう可能性もあり、それらの点を考慮すると、実施例1~3の予め成形された株元保護資材1を用いることが適切である。
【0031】
(実施例4)
実施例1と同じ株元保護資材1をトマトの接ぎ木苗100A(穂木:「有彩014」((株)武蔵野種苗)、台木「フレンドシップ」((株)サカタのタネ))の回りに配設した場合、比較例1のように株元保護資材1を何ら配設しない場合とで生育状況を比較した。
その結果、株元保護資材1を配設したものは、枯死する株の割合が、株元保護資材1を用いない場合と比較して20%低減し、収量も最大10%向上した。
【0032】
なお、上記した実施例では、トマト(ミニトマト)を例に挙げているが、本発明の株元保護資材並びにこの株元保護資材を利用した栽培法は、トマトに限らず、ナス、キュウリ等の他の果菜類でも適用可能である。但し、特に不定根の発生しやすいトマト(ミニトマト)栽培において有効である。
【符号の説明】
【0033】
1,1A,1B 株元保護資材
1a 中空部
1b 切り込み
100 苗
100A 接ぎ木苗
100A1 穂木
100A2 台木
110 株元
120 不定根
200 本圃
210 培地
210A 第1培地
210B 第2培地
図1
図2
図3
図4
図5
図6