(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】SSX2抗原を識別するT細胞受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240312BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240312BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240312BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20240312BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240312BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240312BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240312BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240312BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240312BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/725
C12N15/867 Z
C12N5/0783
C12N5/0789
C12N5/10
A61K35/12
A61K35/17
A61K35/76
A61K48/00
A61P35/00
A61P37/06
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2021517352
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 CN2019107097
(87)【国際公開番号】W WO2020063488
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】201811123747.0
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521121053
【氏名又は名称】エックスライフエスシー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リ イ
(72)【発明者】
【氏名】フ ジン
(72)【発明者】
【氏名】リ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】スン ハンリ
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-500002(JP,A)
【文献】特表2016-525537(JP,A)
【文献】特表2016-523268(JP,A)
【文献】カナダ国特許出願公開第03043951(CA,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
KASEKIFYV
(SEQ ID NO:9)-HLA A0201複合体に結合することができ、TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含む、T細胞受容体(TCR)であって、
前記TCRα鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域(CDR)は、
α CDR1-TSESDYY(SEQ ID NO:10)、
α CDR2-QEAYKQQN(SEQ ID NO:11)、
α CDR3-AYRSGIIQGAQKLV(SEQ ID NO:12)であり、および
前記TCRβ鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域は、
β CDR1-PRHDT(SEQ ID NO:13)、
β CDR2-FYEKMQ(SEQ ID NO:14)、
β CDR3-ASSSDRELLFYNEQF(SEQ ID NO:15)
であることを特徴とする、前記TCR。
【請求項2】
TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、前記TCRα鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:5と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であることを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項3】
前記TCRは、SEQ ID NO:1のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含むことを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項4】
前記TCRは、SEQ ID NO:5のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含むことを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項5】
前記TCRは、αβヘテロダイマーであり、TCRα鎖定常領域TRAC*01およびTCRβ鎖定常領域TRBC1*01またはTRBC2*01を含むことを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項6】
前記TCRα鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:3であり、および/または前記TCRβ鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:7であることを特徴とする
請求項5に記載のTCR。
【請求項7】
前記TCRは、可溶性であることを特徴とする
請求項1~4のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項8】
前記TCRは、一本鎖であることを特徴とする
請求項7に記載のTCR。
【請求項9】
前記TCRは、ペプチド結合配列を介してα鎖可変ドメインとβ鎖可変ドメインとを結合することによって形成されることを特徴とする
請求項8に記載のTCR。
【請求項10】
前記TCRは、α鎖可変領域の11、13、19、21、53、76、89、91または94番目のアミノ酸位置、および/またはα鎖J遺伝子の短いペプチドの最後から3番目、最後から5番目または最後から7番目のアミノ酸位置に一つまたは複数の突然変異があり、および/または前記TCRは、β鎖可変領域の11、13、19、21、53、76、89、91または94番目のアミノ酸位置、および/またはβ鎖J遺伝子の短いペプチドの最後から2番目、最後から4番目または最後から6番目のアミノ酸位置に一つまたは複数の突然変異があり、ここで、アミノ酸の位置番号は、IMGT(国際免疫遺伝学情報システム(International Immunogenetics Information System))に記載された位置番号によることを特徴とする
請求項9に記載のTCR。
【請求項11】
前記TCRα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:32を含み、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:34を含むことを特徴とする
請求項10に記載のTCR。
【請求項12】
前記TCRのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:30であることを特徴とする
請求項11に記載のTCR。
【請求項13】
前記TCRのα鎖定常ドメインおよびβ鎖定常ドメインにそれぞれシステイン残基が新たに導入され、導入されたシステイン残基は、前記TCRのα鎖定常ドメインとβ鎖定常ドメインとの間に人工的なジスルフィド結合を形成
し、
前記TCRにおいて、人工的なジスルフィド結合を形成する前記システイン残基は、
TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、
TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、
TRAC*01エクソン1のArg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、
TRAC*01エクソン1のPro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、および
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20から選択される1つの群または複数の群の部位を置換することを特徴とする
請求項
7に記載のTCR。
【請求項14】
前記TCRα鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:26であり、および/または前記TCRβ鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:28であることを特徴とする
請求項
13に記載のTCR。
【請求項15】
前記TCRのα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間には、人工の鎖間ジスルフィド結合が含まれることを特徴とする
請求項
7に記載のTCR。
【請求項16】
前記TCRにおいて、人工の鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、または
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸から選択される1つの群または複数の群の部位を置換することを特徴とする
請求項
15に記載のTCR。
【請求項17】
前記TCRα鎖および/またはβ鎖のC-末端またはN-末端にコンジュゲート(conjugate)が結合されることを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項18】
前記TCRに結合するコンジュゲートは、検出可能なマーカー、治療剤、PK修飾部分またはこれらの物質のいずれかの組み合わ
せであることを特徴とする
請求項
17に記載のTCR。
【請求項19】
前記治療剤は、抗CD3抗体であることを特徴とする
請求項18に記載のTCR。
【請求項20】
多価TCR複合体であって、
少なくとも二つのTCR分子を含み、TCR分子の少なくとも一つは
、請求項
1~19のいずれか1項に記載のTCRであることを特徴とする、前記多価TCR複合体。
【請求項21】
核酸分子であって、
前記核酸分子は
、請求項
1~19のいずれか1項に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補的配列を含むことを特徴とする、前記核酸分子。
【請求項22】
前記TCRα鎖可変ドメインをコードするSEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:33のヌクレオチド配列を含むことを特徴とする
請求項
21に記載の核酸分子。
【請求項23】
前記TCRβ鎖可変ドメインをコードするSEQ ID NO:6またはSEQ ID NO:35のヌクレオチド配列を含むことを特徴とする
請求項
21または
22に記載の核酸分子。
【請求項24】
TCRα鎖をコードするSEQ ID NO:4のヌクレオチド配列を含み、および/またはTCRβ鎖をコードするSEQ ID NO:8のヌクレオチド配列を含むことを特徴とする
請求項
21に記載の核酸分子。
【請求項25】
ベクターであって、
前記ベクターは、請求項
21~
24のいずれか1項に記載の核酸分子を含
むことを特徴とする、前記ベクター。
【請求項26】
前記ベクターは、ウイルスベクターであることを特徴とする
請求項25に記載のベクター。
【請求項27】
前記ベクターは、レンチウイルスベクターであることを特徴とする
請求項25に記載のベクター。
【請求項28】
単離された宿主細胞であって、
前記宿主細胞は、請求項
25~27
のいずれか1項に記載のベクターを含むか、または染色体に外因性の請求項
21~
24のいずれか1項に記載の核酸分子が組み込まれたことを特徴とする、前記単離された宿主細胞。
【請求項29】
細胞であって、
前記細胞は、請求項
21~
24のいずれか1項に記載の核酸分子または請求項
25~27
のいずれか1項に記載のベクターが形質導入さ
れることを特徴とする、前記細胞。
【請求項30】
前記細胞は、T細胞または幹細胞であることを特徴とする
請求項29に記載の細胞。
【請求項31】
医薬組成物であって、
前記組成物は、薬学的に許容されるベクターおよび請求項1~
19のいずれか1項に記載のTCR、請求項
20に記載のTCR複合体、または請求項29
または30に記載の細胞を含むことを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項32】
腫瘍または自己免疫疾患を治療するための請求項1~
19のいずれか1項に記載のT細胞受容体、または請求項
20に記載のTCR複合体または請求項29
または30に記載の細胞
を含む医薬。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、SSX2抗原に由来する短いペプチドを識別することができるTCRに関し、本発明は、前記TCRを形質導入することによって得られたSSX2特異的T細胞、およびSSX2関連疾患の予防及び治療におけるそれらの使用にさらに関する。
【0002】
[背景技術]
SSX2は、HOM―MEL―40とも呼ばれる滑膜肉腫Xブレークポイントである。SSX2は、SSXファミリーの相同性の高い10種類の核酸タンパク質中の一つである。SSXタンパク質は、腫瘍精巣抗原であり、腫瘍細胞およびMHC発現しない精巣胚細胞でのみ発現される。SSX2は、肝臓がん、肺がん、線維線維、乳がん、結腸癌および前立腺がん等を含むがこれらに限定されない、様々なヒトがん細胞で発現される。KASEKIFYV(SEQ ID NO:9)は、SSX2抗原に由来する短いペプチドであり、SSX2関連疾患を治療する標的である。前記疾患の治療は、化学療法および放射線療法などの方法を使用することができるが、すべて自身の正常細胞に損傷を与える。
【0003】
T細胞養子免疫療法は、標的細胞抗原に対して特異的を有する反応性T細胞を患者の体内に移し、標的細胞に対して作用できるようにすることである。T細胞受容体(TCR)は、T細胞表面の膜タンパク質であり、対応する標的細胞表面の抗原の短いペプチド識別することができる。免疫システムにおいて、抗原の短いペプチドの特異的TCRと短いペプチド-主要組織適合遺伝子複合体(pMHC複合体)の結合により、T細胞と抗原提示細胞(APC)との直接的な物理的接触を引き起こし、次に、T細胞とAPCとの他の細胞膜表面分子が相互作用し、一連の後続の細胞信号伝達と他の生理学的反応を引き起こし、従って、異なる抗原特異的T細胞がその標的細胞に免疫効果発揮することができる。従って、当業者は、SSX2抗原の短いペプチドに対して特異的を有するTCRを単離し、および当該TCRをT細胞に形質導入して、SSX2抗原の短いペプチド対して特異的を有するT細胞を得、従って、それらが細胞免疫治療において作用を発揮するようにすることに専念している。
【0004】
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
本発明の目的は、SSX2抗原の短いペプチドを識別するT細胞受容体を提供することである。
【0005】
[課題を解決するための手段]
本発明の第1の態様は、T細胞受容体(TCR)を提供し、前記TCRは、KASEKIFYV―HLA A0201複合体に結合することができる。
【0006】
別の好ましい例において、前記TCRは、TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、前記TCRα鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、AYRSGIIQGAQKLV(SEQ ID NO:12)であり、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、ASSSDRELLFYNEQF(SEQ ID NO:15)である。
【0007】
別の好ましい例において、前記TCRα鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域(CDR)は、
α CDR1―TSESDYY(SEQ ID NO:10)、
α CDR2―QEAYKQQN(SEQ ID NO:11)、
α CDR3―AYRSGIIQGAQKLV(SEQ ID NO:12)であり、および/または
前記TCRβ鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域は、
β CDR1―PRHDT(SEQ ID NO:13)、
β CDR2―FYEKMQ(SEQ ID NO:14)、
β CDR3―ASSSDRELLFYNEQF(SEQ ID NO:15)である。
【0008】
別の好ましい例において、前記TCRは、TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、前記TCRα鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:5と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。
【0009】
別の好ましい例において、前記TCRは、SEQ ID NO:1のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含む。
別の好ましい例において、前記TCRは、SEQ ID NO:5のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含む。
【0010】
別の好ましい例において、前記TCRは、αβヘテロダイマーであり、TCRα鎖定常領域TRAC*01およびTCRβ鎖定常領域TRBC1*01またはTRBC2*01を含む。
【0011】
別の好ましい例において、前記TCRα鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:3であり、および/または前記TCRβ鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:7である。
【0012】
別の好ましい例において、前記TCRは、可溶性である。
別の好ましい例において、前記TCRは、一本鎖である。
別の好ましい例において、前記TCRは、ペプチド結合配列を介してα鎖可変ドメインとβ鎖可変ドメインとを結合することによって形成される。
【0013】
別の好ましい例において、前記TCRは、α鎖可変領域の11、13、19、21、53、76、89、91または94番目のアミノ酸位置、および/またはα鎖J遺伝子の短いペプチドの最後から3番目、最後から5番目または最後から7番目のアミノ酸位置に一つまたは複数の突然変異があり、および/または前記TCRは、β鎖可変領域の11、13、19、21、53、76、89、91または94番目のアミノ酸位置、および/またはβ鎖J遺伝子の短いペプチドの最後から2番目、最後から4番目または最後から6番目のアミノ酸位置に一つまたは複数の突然変異があり、ここで、アミノ酸の位置番号は、IMGT(国際免疫遺伝学情報システム(International Immunogenetics Information System))に記載された位置番号による。
【0014】
別の好ましい例において、前記TCRα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:32を含み、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:34を含む。
【0015】
別の好ましい例において、前記TCRのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:30である。
別の好ましい例において、前記TCRは、(a)膜貫通ドメインを除くTCRα鎖の全部または一部、および(b)膜貫通ドメインを除くTCRβ鎖の全部または一部を含み、
(a)および(b)は、それぞれ機能的可変ドメインを含むか、または機能的可変ドメインおよび前記TCR鎖の定常ドメインの少なくとも一部を含む。
【0016】
別の好ましい例において、システイン残基は、前記TCRα鎖定常ドメインとβ鎖定常ドメインとの間に人工的なジスルフィド結合を形成する。
【0017】
別の好ましい例において、前記TCRにおいて、人工的なジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、
TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、
TRAC*01エクソン1のArg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、
TRAC*01エクソン1のPro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、および
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20からなる群から選択される1つの群または複数の群の部位を置換する。
【0018】
別の好ましい例において、前記TCRα鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:26であり、および/または前記TCRβ鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:28である。
【0019】
別の好ましい例において、前記TCRα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間には、人工の鎖間ジスルフィド結合が含まれる。
別の好ましい例において、其特征在于、前記TCRにおいて、人工の鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、または
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸かから選択される1つの群または複数の群の部位を置換する。
【0020】
別の好ましい例において、前記TCRは、α鎖可変ドメインおよびβ鎖可変ドメインならびに膜貫通ドメインを除くβ鎖定常ドメインの全部または一部を含むが、α鎖定常ドメインを含まず、前記TCRα鎖可変ドメインとβ鎖とは、ヘテロダイマーを形成する。
【0021】
別の好ましい例において、前記TCRα鎖および/またはβ鎖のC―末端またはN―末端にコンジュゲート(conjugate)が結合される。
【0022】
別の好ましい例において、前記T細胞受容体に結合するコンジュゲートは、検出可能なマーカー、治療剤、PK修飾部分またはこれらの物質のいずれかの組み合わせである。好ましくは、前記治療剤は、抗―CD3抗体である。
【0023】
本発明の第2の態様は、多価TCR複合体を提供し、少なくとも二つのTCR分子を含み、TCR分子の少なくとも一つは、本発明の第1の態様に記載のTCRである。
【0024】
本発明の第3の態様は、核酸分子を提供し、前記核酸分子は、本発明の第1の態様に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補的配列を含む。
【0025】
別の好ましい例において、前記核酸分子は、TCRα鎖可変ドメインをコードするSEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:33のヌクレオチド配列を含む。
【0026】
別の好ましい例において、前記核酸分子は、TCRβ鎖可変ドメインをコードするSEQ ID NO:6またはSEQ ID NO:35のヌクレオチド配列を含む。
【0027】
別の好ましい例において、前記核酸分子は、TCRα鎖をコードするSEQ ID NO:4のヌクレオチド配列を含み、および/またはTCRβ鎖をコードするSEQ ID NO:8のヌクレオチド配列を含む。
【0028】
本発明の第4の態様は、ベクターを提供し、前記ベクターは、本発明の第3の態様に記載の核酸分子を含み、好ましくは、前記ベクターは、ウイルスベクターであり、より好ましくは、前記ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0029】
本発明の第5の態様は、単離された宿主細胞を提供し、前記宿主細胞は、本発明の第4の態様に記載のベクターを含むか、またはゲノムに外因性の本発明の第3の態様に記載の核酸分子が組み込まれた。
【0030】
本発明の第6の態様は、細胞を提供し、前記細胞は、本発明の第3の態様に記載の核酸分子または本発明の第4の態様に記載のベクターが形質導入され、好ましくは、前記細胞は、T細胞または幹細胞である。
【0031】
本発明の第7の態様は、医薬組成物を提供し、前記組成物は、薬学的に許容されるベクターおよび本発明の第1の態様に記載のTCR、本発明の第2の態様に記載のTCR複合体、本発明の第3の態様に記載の核酸分子、本発明の第4の態様に記載のベクター、または本発明の第6の態様に記載の細胞を含む。
【0032】
本発明の第8の態様は、本発明の第1の態様に記載のT細胞受容体、または本発明の第2の態様に記載のTCR複合体、本発明の第3の態様に記載の核酸分子、本発明の第4の態様に記載のベクター、または本発明の第6の態様に記載の細胞の用途を提供し、腫瘍または自己免疫疾患を治療する薬物の調製に使用される。
【0033】
本発明の第9の態様は、治療を必要とする対象に適切な量の本発明の第1の態様に記載のT細胞受容体、または本発明の第2の態様に記載のTCR複合体、本発明の第3の態様に記載の核酸分子、本発明の第4の態様に記載のベクター、または本発明の第6の態様に記載の細胞、または本発明の第7の態様に記載の医薬組成物を投与する段階を含む、疾患を治療する方法を提供し、
好ましくは、前記疾患は、腫瘍であり、好ましくは、前記腫瘍は、肝細胞癌である。
【0034】
[発明の効果]
本発明の範囲内で、本発明の前記の各技術的特徴と以下(例えば、実施例)に具体的に説明される各技術的特徴との間を、互いに組み合わせることにより、新しいまたは好ましい技術的解決策を構成することができることに理解されたい。スペースに限りがあるため、ここでは繰り返さない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1a】TCRα鎖可変ドメインアミノ酸配列である。
【
図1b】TCRα鎖可変ドメインヌクレオチド配列である。
【
図1e】リーダー配列を有するTCRα鎖アミノ酸配列である。
【
図1f】リーダー配列を有するTCRα鎖ヌクレオチド配列である。
【
図2a】TCRβ鎖可変ドメインアミノ酸配列である。
【
図2b】TCRβ鎖可変ドメインヌクレオチド配列である。
【
図2e】リーダー配列を有するTCRβ鎖アミノ酸配列である。
【
図2f】リーダー配列を有するTCRβ鎖ヌクレオチド配列である。
【
図3】モノクローナル細胞のCD8
+およびテトラマー―PE二重陽性染色結果である。
【
図4b】可溶性TCRα鎖のヌクレオチド配列である。
【
図5b】可溶性TCRβ鎖のヌクレオチド配列である。
【
図6】精製後に得られた可溶性TCRのゲル図である。最左端のレーンは、分子量マーカー(marker)であり、右の三つのレーンは、非還元ゲルである。
【
図8a】一本鎖TCRα鎖可変ドメインのアミノ酸配列である。
【
図8b】一本鎖TCRα鎖可変ドメインのヌクレオチド配列である。
【
図9a】一本鎖TCRβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列である。
【
図9b】一本鎖TCRβ鎖可変ドメインのヌクレオチド配列である。
【
図10a】一本鎖TCRリンカー(linker)のアミノ酸配列である。
【
図10b】一本鎖TCRリンカー(linker)のヌクレオチド配列である。
【
図11】精製後に得られた可溶性一本鎖TCRのゲル図である。右のレーンは、分子量マーカー(marker)であり、左のレーンは、非還元ゲルである。
【
図12】本発明の可溶性TCRとKASEKIFYV―HLA A0201複合体との結合のビアコア(BIAcore)動態学マップである。
【
図13】本発明の可溶性一本鎖TCRとKASEKIFYV―HLA A0201複合体との結合のビアコア動態学マップである。
【
図14】得られたT細胞クローンのELISPOT活性化機能検証の結果である。
【
図15】本発明のTCRを形質導入したエフェクター細胞のELISPOT活性化機能検証の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
広範囲にわたる詳細な研究の結果、本発明者らは、SSX2抗原の短いペプチドKASEKIFYV(SEQ ID NO:9)に特異的に結合することができるTCRを発見し、前記抗原の短いペプチドKASEKIFYVは、HLA A0201と複合体を形成し、一緒に細胞表面に提示されることができる。本発明は、前記TCRをコードする核酸分子および前記核酸分子を含むベクターを提供する。また、本発明は、本発明のTCRを形質導入する細胞をさらに提供する。
【0037】
用語
MHC分子は、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質であり、クラスIまたはクラスIIのMHC分子であり得る。従って、抗原の提示に対して特異的を有し、異なる個体は、異なるMHCを有し、タンパク質抗原の異なる短いペプチドをそれぞれのAPC細胞表面に提示することができる。ヒトMHCは、通常HLA遺伝子またはHLA複合体と呼ばれる。
【0038】
T細胞受容体(TCR)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に提示する特異的抗原ペプチドの唯一の受容体である。免疫システムにおいて、抗原の特異的TCRとpMHC複合体との結合は、T細胞と抗原提示細胞(APC)との間の直接的な物理的接触を引き起こした後、T細胞とAPCとの他の細胞膜表面分子が相互作用し、一連の後続の細胞信号伝達および他の生理学的反応を引き起こすことにより、異なる抗原特異的T細胞が標的細胞に対して免疫効果を発揮することができる。
【0039】
TCRは、α鎖/β鎖またはγ鎖/δ鎖がヘテロダイマーの形式で存在する細胞膜表面の糖タンパク質である。T細胞の95%において、TCRヘテロダイマーは、α鎖とβとで構成され、T細胞の5%は、γ鎖とδ鎖とで構成されるTCRを有する。天然のαβヘテロ二量体化TCRは、α鎖とβ鎖とを有し、α鎖とβ鎖とは、αβヘテロ二量体化TCRのサブユニットを構成する。大まかに言って、αとβとの各鎖は、可変領域、結合領域および定常領域を含み、β鎖は、通常可変領域と結合領域との間に短い多変領域をさらに含むが、当該多変領域は、通常結合領域の一部としてみなされる。各可変領域は、フレームワーク領域(framework regions)に埋め込まれた三つのCDR(相補性決定領域)であるCDR1、CDR2およびCDR3を含む。CDR領域は、TCRとpMHC複合体との結合を決定し、ここで、CDR3は、超可変領域と呼ばれる可変領域と結合領域とから再結合される。TCRのα鎖とβ鎖とは、一般にそれぞれ二つの「ドメイン」、つまり可変ドメインと定常ドメインとを有すると見なされ、可変ドメインは、結合された可変領域と結合領域とで構成される。TCRの定常ドメインの配列は、国際免疫遺伝学情報システム(IMGT)の公開データベースで見つかることができ、例えば、TCR分子のα鎖の定常ドメイン配列は、「TRAC*01」であり、TCR分子のβ鎖の定常ドメイン配列は、「TRBC1*01」または「TRBC2*01」である。加えて、TCRのα鎖とβ鎖とは、膜貫通領域と細胞質領域とを含み、細胞質領域は、非常に短い。
【0040】
本発明において、「本発明のポリペプチド」、「本発明のTCR」、「本発明のT細胞受容体」という用語は、交換可能に使用される。
天然の鎖間ジスルフィド結合および人工の鎖間ジスルフィド結合
天然のTCRの膜近位領域のCα鎖とCβ鎖との間には、一つのグループのジスルフィド結合が存在し、本発明では、「天然の鎖間ジスルフィド結合」と呼ばれる。本発明において、天然の鎖間ジスルフィド結合とは位置が異なる人工的に導入された鎖間共有ジスルフィド結合は、「人工の鎖間ジスルフィド結合」と呼ばれる。
【0041】
ジスルフィド結合の位置を容易に説明するために、本発明におけるTRAC*01およびTRBC1*01またはTRBC2*01アミノ酸配列の位置番号は、N端からC端まで順番に位置番号を付け、例えば、TRBC1*01またはTRBC2*01において、N端からC端までの順番の順序の60番目のアミノ酸は、P(プロリン)であると、本発明では、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のPro60と表現することができ、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸と表現することもでき、例えば、TRBC1*01またはTRBC2*01において、N端からC端までの順次的順序の61番目のアミノ酸は、Q(グルタミン)であると、本発明では、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGln61と表現することができ、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸と表現することもでき、他は、類推によって推測することができる。本発明において、可変領域のTRAVとTRBVとのアミノ酸配列の位置番号は、IMGTに記載の位置番号に従って番号が付けられる。例えば、TRAVの特定のアミノ酸について、IMGTに記載された位置番号が46であると、本発明においてTRAVの46番目のアミノ酸と表現され、他は、類推によって推測することができる。本発明において、他のアミノ酸の配列位置番号について特別な指示がある場合、特別な指示に従う。
【0042】
本発明の詳細な説明
TCR分子
抗原プロセシングの過程において、抗原は、細胞内で分解された後、MHC分子によって細胞表面に運ばれる。T細胞受容体は、抗原提示細胞表面のペプチド-MHC複合体を識別することができる。従って、本発明の第1の様態は、KASEKIFYV―HLA A0201複合体に結合することができるTCR分子を提供する。好ましくは、前記TCR分子は、単離または精製されたものである。当該TCRのα鎖と、β鎖とは、それぞれ三つの相補性決定領域(CDR)を有する。
【0043】
本発明の好ましい実施形態において、前記TCRのα鎖は、
α CDR1―TSESDYY(SEQ ID NO:10)、
α CDR2―QEAYKQQN(SEQ ID NO:11)、
α CDR3―AYRSGIIQGAQKLV(SEQ ID NO:12)のアミノ酸配列を有するCDRを含み、および/または
前記TCRβ鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域は、
β CDR1―PRHDT(SEQ ID NO:13)、
β CDR2―FYEKMQ(SEQ ID NO:14)、
β CDR3―ASSSDRELLFYNEQF(SEQ ID NO:15)のアミノ酸配列を有するCDRを含む。
【0044】
本発明のCDR領域の前記アミノ酸配列は、任意の適切なフレームワーク領域に挿入されて、キメラTCRを調製することができる。フレームワーク領域が本発明のTCRのCDR領域と交換性がある限り、当業者は、本発明に開示されたCDR領域に基づいて対応する機能を有するTCR分子を設計または合成することができる。従って、本発明のTCR分子は、前記α鎖および/またはβ鎖のCDR領域配列および任意の適切なフレームワーク領域を含むTCR分子を指す。本発明のTCRα鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:1と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または本発明のTCRβ鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:5と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。
【0045】
本発明の好ましい例において、本発明のTCR分子は、α鎖とβ鎖とから構成されるヘテロダイマーである。具体的には、一方で、前記ヘテロ二量体化TCR分子のα鎖は、可変ドメインと定常ドメインとを含み、前記α鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、前記α鎖のCDR1(SEQ ID NO:10)、CDR2(SEQ ID NO:11)およびCDR3(SEQ ID NO:12)を含む。好ましくは、前記TCR分子は、SEQ ID NO:1のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含む。より好ましくは、前記TCR分子のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1である。一方で、前記ヘテロ二量体化TCR分子のβ鎖は、可変ドメインと定常ドメインとを含み、前記β鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、上記β鎖のCDR1(SEQ ID NO:13)、CDR2(SEQ ID NO:14)およびCDR3(SEQ ID NO:15)を含む。好ましくは、前記TCR分子は、SEQ ID NO:5のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含む。より好ましくは、前記TCR分子のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:5である。
【0046】
本発明の好ましい例において、本発明のTCR分子は、α鎖の一部または全部および/またはβ鎖の一部または全部から構成される一本鎖TCR分子である。一本鎖TCR分子の説明しついては、Chung et al(1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91、12654-12658を参照することができる。文献によると、当業者は、本発明のCDRs領域を含む一本鎖TCR分子を容易に構築することができる。具体的には、前記一本鎖TCR分子は、Vα、VβおよびCβを含み、好ましくは、N端からC端までの順序に従って結合される。
【0047】
前記一本鎖TCR分子のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、前記α鎖のCDR1(SEQ ID NO:10)、CDR2(SEQ ID NO:11)およびCDR3(SEQ ID NO:12)を含む。好ましくは、前記一本鎖TCR分子は、SEQ ID NO:1のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含む。より好ましくは、前記一本鎖TCR分子のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1である。前記一本鎖TCR分子のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、上記β鎖のCDR1(SEQ ID NO:13)、CDR2(SEQ ID NO:14)およびCDR3(SEQ ID NO:15)を含む。好ましくは、前記一本鎖TCR分子は、SEQ ID NO:5のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列を含む。より好ましくは、前記一本鎖TCR分子のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:5である。
【0048】
本発明の好ましい例において、本発明のTCR分子の定常ドメインは、ヒト定常ドメインである。当業者は、関連する本またはIMGT(国際免疫遺伝学情報システム)の公開データベースを参照することにより、ヒト定常ドメインのアミノ酸配列を知るか、または得ることができる。例えば、本発明のTCR分子のα鎖の定常ドメイン配列は、「TRAC*01」であり得、TCR分子のβ鎖の定常ドメイン配列は、「TRBC1*01」または「TRBC2*01」であり得る。IMGTのTRAC*01に記載されたアミノ酸配列の53番目の位置は、Argであり、ここでは、TRAC*01エクソン1のArg53を表示し、他は、類推によって推測することができる。好ましくは、本発明のTCR分子のα鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:3であり、および/またはβ鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:7である。
【0049】
天然に存在するTCRは、膜貫通領域によって安定化された膜タンパク質である。抗原同定分子としての免疫グロブリン(抗体)と同様に、TCRも、診断や治療のために開発されることができ、この場合、可溶性TCR分子を得る必要がある。可溶性TCR分子は、膜貫通領域を含まない。可溶性TCRは、幅広い用途を有し、TCRとpMHCとの相互作用を研究するだけでなく、感染症を検出するための師団ツールや自身免疫疾患のマーカーとしても使用することができる。類似的に、可溶性TCRを使用して、特異的抗原を提示する細胞に治療剤(例えば、細胞毒素化合物または免疫刺激性化合物)を送達することができ、また、可溶性TCRを他の分子(例えば、抗-CD3-抗体)と結合して、T細胞を特定の抗原を提示する標的細胞にリダイレクトすることもできる。本発明は、SSX2抗原の短いペプチドに対して特異的を有する可溶性TCRも得る。
【0050】
可溶性TCRを得るために、一方で、本発明のTCRは、そのα鎖とβ鎖との定常ドメインの残基の間に人工的なジスルフィド結合を導入するTCRであり得る。システイン残基は、前記TCRのα鎖とβ鎖との定常ドメインの間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成する。システイン残基は、天然のTCRの適切な部位の他のアミノ酸残基を置換して、人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成することができる。例えば、TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57のシステイン残基を置換してジスルフィド結合を形成する。システイン残基を導入してジスルフィド結合を形成する他の部位は、TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77、TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、TRAC*01エクソン1のArg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、TRAC*01エクソン1のPro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、またはTRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20であり得る。つまり、システイン残基は、上記α鎖とβ鎖との定常ドメインの任意の部位のグループを置換する。天然のジスルフィド結合を失う目的を達成するためのシステイン残基を含まないように、本発明のTCR定常ドメインの一つまたは複数のC末端で、最大50個、または最大30個、または最大15個、または最大10個、または最大8個またはもっと少ないアミノ酸を切り詰めることができ、天然のジスルフィド結合を形成するシステイン残基を別のアミノ酸へ突然変異させることによっても上記目的を達成することができる。
【0051】
上記のように、本発明のTCRは、そのα鎖とβ鎖との定常ドメインの残基の間に導入された人工的なジスルフィド結合を含むことができる。定常ドメインの間に上記導入された人工的なジスルフィド結合を含むか、または含まないことにかかわらず、本発明のTCRは、すべてTRAC定常ドメイン配列およびTRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列を含むことができることに留意されたい。TCRのTRAC定常ドメイン配列およびTRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列は、TCRに存在する天然のジスルフィド結合によって結合されることができる。
【0052】
可溶性TCRを得るために、一方で、本発明のTCRは、その疎水性コア領域に突然変異が発生するTCRを含み、これらの疎水性コア領域の突然変異は、好ましくは、例えば、公開番号WO2014/206304の特許文書に記載されたように、本発明の可溶性TCRの安定性を改善することができる突然変異である。このようなTCRは、(α鎖および/またはβ鎖)可変領域アミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、94番目、および/またはα鎖J遺伝子(TRAJ)の短いペプチドアミノ酸の最後から3番目、最後から5番目、最後から7番目、および/またはβ鎖J遺伝子(TRBJ)の短いペプチドアミノ酸の最後から2番目、4番目、6番目の可変ドメイン疎水性コア位置で突然変異させることができ、ここで、アミノ酸配列の位置番号は、国際免疫遺伝学情報システム(IMGT)に記載された位置番号による。当業者は、上記国際免疫遺伝学情報システムを知り、当該データベースに従って、IMGTにおける異なるTCRのアミノ酸残基の位置番号を得ることができる。
【0053】
本発明において、疎水性コア領域で突然変異が発生するTCRは、TCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインを結合する柔軟なペプチド鎖から構成される安定的な可溶性一本鎖TCRであり得る。本発明における柔軟なペプチド鎖は、TCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインを結合するのに適した任意のペプチド鎖であり得ることに留意されたい。本発明の実施例4で構築された一本鎖可溶性TCRの場合、そのα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:32であり、コードされたヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:33であり、β鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:34であり、コードされたヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:35である。
【0054】
また、安定性の観点から、特許文書201510260322.4は、TCRのα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を導入することにより、TCRの安定性を顕著に向上させることができる。従って、本発明の高親和性TCRのα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を含むことができる。具体的には、前記TCRのα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、またはTRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸を置換する。好ましくは、このようなTCRは、(I)膜貫通ドメインを除くTCRのα鎖の全部または一部、および(II)膜貫通ドメインを除くTCRβ鎖の全部または一部を含むことができ、ここで、(I)および(II)は、それぞれTCR鎖の可変ドメインおよび少なくとも定常ドメインの一部を含み、α鎖とβ鎖とは、ヘテロダイマー形成する。より好ましくは、このようなTCRは、α鎖可変ドメインおよびβ鎖可変ドメインならびに膜貫通ドメインを除くβ鎖定常ドメインの全部または一部を含むが、α鎖定常ドメインを含まなく、前記TCRα鎖可変ドメインとβ鎖とは、ヘテロダイマーを形成する。
【0055】
本発明のTCRは、多価複合体の形態で提供することもできる。本発明の多価TCR複合体は、例えば、p53の四量体化ドメインを使用して、テトラマーを生成することができる二つ、三つ、四つまたはそれ以上の本発明のTCRを結合させることによって形成されるポリマーを含むか、または本発明の複数のTCRを別の分子と結合させることによって形成された複合体を含むことができる。本発明のTCR複合体は、インビトロまたはインビボで特定の抗原を提示する細胞を追跡または標的化するために使用することができ、そのような用途を有する他の多価TCR複合体の中間体を生成するために使用することもできる。
【0056】
本発明のTCRは、単独で使用することができ、共有結合または他の方法で、好ましくは、共有結合でコンジュゲートと結合することができる。前記コンジュゲートは、検出可能なマーカー(診断目的とし、ここで、前記TCRは、KASEKIFYV―HLA A0201複合体を提示する細胞の存在を検出する)、治療剤、PK(プロテインキナーゼ)修飾部分あるいは、これらの物質の任意の組み合わせ結合またはカップリングを含む。
【0057】
診断目的で使用される検出可能なマーカーは、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(電子コンピューターX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成することができる酵素を含むが、これらに限定されない。
【0058】
本発明のTCRと結合またはカップリングすることができる治療剤は、(1)放射性核種(Koppeら、2005、癌転移レビュー(Cancer metastasis reviews)24、539)、(2)生物学的毒性(Chaudharyら、1989、自然(Nature)339、394、Epelら、2002、癌免疫学および免疫治療(Cancer Immunology and Immunotherapy)51、565)、(3)IL-2等のサイトカイン(Gilliesら、1992、米国国立科学アカデミーの学術誌(PNAS)89、1428、Cardら、2004、癌免疫学および免疫治療(Cancer Immunology and Immunotherapy)53、345、Halinら、2003、癌研究(Cancer Research)63、3202)、(4)抗体Fcフラグメント(Mosqueraら、2005、免疫学ジャーナル(The Journal Of Immunology)174、4381)、(5)抗体scFvフラグメント(Zhuら、1995、癌国際ジャーナル(International Journal of Cancer)62、 319)、(6)金ナノ粒子/名のロッド(Lapotkoら、2005、癌コミュニケーション(Cancer letters)239、36、Huangら、2006、米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)128、2115)、(7)ウイルス粒子(Pengら、2004、遺伝子治療(Gene therapy)11、1234)、(8)リポソーム(Mamotら、2005、癌研究(Cancer research)65、11631)、(9)ナノ磁性粒子、(10)プロドラッグ活性化酵素(例えば、DT-ジアホラーゼ(DTD)またはビフェニル加水分解酵素様タンパク質(BPHL))、(11)化学療法剤(例えば、シスプラチン)または任意の形態のナノ粒子等を含むが、これらに限定されない。
【0059】
また、本発明のTCRは、一つを超える種に由来する配列を含むハイブリッドTCRであり得る。例えば、研究によると、マウスTCRは、ヒトTCRよりもT細胞でより効果的に発現することができることが示される。従って、本発明のTCRは、ヒト可変ドメインおよびマウス定常ドメインを含むことができる。この方法の欠点は、免疫応答を引き起こす可能性があることである。従って、養子T細胞治療に使用する場合、マウスT細胞を発現する移植を可能にする免疫抑制の調節スキームが必要される。
【0060】
本明細書におけるアミノ酸の名称は、国際的に使用される単一の英字または三つの英字で表示され、単一の英字と三つの英字のアミノ酸の名称の対応関係は、Ala(A)、Arg(R)、Asn(N)、Asp(D)、Cys(C)、Gln(Q)、Glu(E)、Gly(G)、His(H)、Ile(I)、Leu(L)、Lys(K)、Met(M)、Phe(F)、Pro(P)、Ser(S)、Thr(T)、Trp(W)、Tyr(Y)、Val(V)等のとおりであることは理解されたい。
【0061】
核酸分子
本発明の第2の様態は、本発明の第1の様態のTCR分子またはその一部をコードする核酸分子を提供し、前記一部は、一つまたは複数のCDR、α鎖および/またはβ鎖の可変ドメイン、およびα鎖および/またはβ鎖であり得る。
【0062】
本発明の第1の態様TCR分子のα鎖CDR領域をコードするヌクレオチド配列は、
α CDR1―accagtgagagtgattattat(SEQ ID NO:16)
α CDR2―caagaagcttataagcaacagaat(SEQ ID NO:17)
α CDR3―gcttataggagcggcataattcagggagcccagaagctggta(SEQ ID NO:18)であり、
本発明の第1の態様TCR分子のβ鎖CDR領域をコードするヌクレオチド配列は、
β CDR1―cctagacacgacact(SEQ ID NO:19)
β CDR2―ttttatgaaaagatgcag(SEQ ID NO:20)
β CDR3―gccagcagctcagacagggaactattattctacaatgagcagttc(SEQ ID NO:21)である。
【0063】
従って、本発明のTCRのα鎖をコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17およびSEQ ID NO:18を含み、および/または本発明のTCRβ鎖をコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20およびSEQ ID NO:21を含む。
【0064】
本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、一本鎖または二本鎖であり得、当該核酸分子は、RNAまたはDNAであり得、イントロンを含むか、または含まないことができる。好ましくは、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、イントロンを含まないが、本発明のポリペプチドをコードすることができ、例えば、本発明のTCRα鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:2を含み、および/または本発明のTCRβ鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:6を含む。あるいは、本発明のTCRα鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:33を含み、および/または本発明のTCRβ鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:35を含む。より好ましくは、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:4および/またはSEQ ID NO:8を含む。あるいは、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:31である。
【0065】
遺伝暗号の縮重により、異なるヌクレオチド配列は、同じポリペプチドをコードすることができることは理解されたい。従って、本発明のTCRをコードする核酸配列は、本発明の図面に示される核酸配列と同じであるか、または縮重された変異体であり得る。本発明の一つの例を説明すると、「縮重された変異体」は、SEQ ID NO:1を有するタンパク質配列をコードするが、SEQ ID NO:2の配列とは異なる核酸配列を指す。
【0066】
ヌクレオチド配列は、コドン最適化されることができる。異なる細胞によって具体的なコドンの使い方が異なり、細胞の種類に応じて、配列のコドンを変更して発現量を増やすことができる。哺乳動物の細胞および他の多くの生物のコドン選択リストは、当業者によく知られている。
【0067】
本発明の核酸分子の全長配列またはそのフラグメントは、通常、PCR増幅法、組換え胞または人工的合成法によって得ることができるが、これらに限定されない。現在、本発明のTCR(またはそのフラグメント、またはその誘導体)をコードするDNA配列は、化学合成によって完全に得ることができる。次に、当該DNA配列は、当技術分野で知られている様々な既存のDNA分子(またはベクター等)および細胞に導入されることができる。DNAは、コード鎖または非コード鎖であり得る。
【0068】
ベクター
本発明は、発現ベクター、即ち、インビボまたはインビトロで発現することができる構築物を含む、本発明の核酸分子を含むベクターに関する。一般に使用されるベクターは、細菌プラスミド、バクテリオファージおよび動植物ウイルスを含む。
【0069】
ウイルス送達システムは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターおよびバキュロウイルスベクターを含むが、これらに限定されない。
【0070】
好ましくは、ベクターは、本発明のヌクレオチドをT細胞等の細胞に移して、当該細胞がSSX2抗原に特異的TCRを発現することができる。理想的には、当該ベクターは、T細胞で高レベルで継続的に発現することができる。
【0071】
細胞
本発明は、本発明のベクターまたはコード配列を使用して遺伝子工学によって作成された宿主細胞に関する。前記宿主細胞は、本発明のベクターを含むか、または染色体に本発明の核酸分子が組み込まれた。宿主細胞は、原核細胞および大腸菌、酵母細胞およびCHO細胞等の真核細胞から選択される。
【0072】
また、本発明は、本発明のTCRを発現する単離された細胞、特にT細胞を含む。当該T細胞は、被験者から単離されたT細胞に由来することができるか、または末梢血リンパ球(PBL)グループの一部等の被験者から単離された混合細胞グループであり得る。例えば、当該細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)から単離されることができ、CD4+ヘルパーT細胞またはCD8+細胞毒性T細胞であり得る。当該細胞は、CD4+ヘルパーT細胞/CD8+細胞毒性T細胞の混合グループに存在することができる。一般に、当該細胞は、抗体(例えば、抗-CD3または抗-CD28の抗体)で活性化され、トランスフェクションをより受け入れやすくすることができ、例えば、本発明のTCR分子をコードするヌクレオチド配列を含むベクターを用いてトランスフェクションを行う。
【0073】
選択的に、本発明の細胞は、幹細胞であるか、または造血幹細胞(HSC)等の幹細胞に由来することができる。幹細胞の表面は、CD3分子を発現しないため、HSCへの遺伝子導入は、細胞表面でのTCRの発言を引き起こさない。しかし、幹細胞が胸腺に移動するリンパ球前駆細胞(lymphoid precursor)に分化する場合、CD3分子の発現により、胸腺細胞表面に導入されたTCR分子の発現が開始される。
【0074】
本発明のTCRをコードするDNAまたはRNAによるT細胞トランスフェクション(例えば、Robbinsら、(2008)J. Immunol.180:6116-6131)に適した多くの方法がある。本発明のTCRを発現するT細胞は、養子免疫治療に使用することができる。当業者は、養子治療に適した多くの方法を知ることができる(例えば、Rosenbergら、(2008)Nat Rev Cancer8(4):299-308)。
【0075】
SSX2抗原関連疾患
本発明は、SSX2特異的T細胞を被験者に養子移入する段階を含む、被験者におけるSSX2関連疾患を治療および/または予防する方法に関する。当該SSX2特異的T細胞は、KASEKIFYV―HLA A0201複合体を識別することができる。
【0076】
本発明のSSX2特異的T細胞は、SSX2抗原の短いペプチドFMNKFIYEI-HLA A0201複合体を提示する任意のSSX2関連疾患を治療するに使用されることができる。肝臓がん、肺がん、線維線維、乳がん、結腸癌および前立腺がん等の腫瘍を含むが、これらに限定されない。
【0077】
治療方法
治療は、SSX2抗原関連疾患を患う患者または志願者からT細胞を単離し、本発明のTCRを上記T細胞に導入した後、これらの遺伝子操作された細胞を治療にために患者の体内に注入することによって実施されることができる。従って、本発明は、本発明のTCRを発現する単離されたT細胞を含む、SSX2関連疾患を治療する方法を提供し、好ましくは、当該T細胞は、患者自身に由来し、患者の体内に移される。一般に、(1)患者のT細胞の単離、(2)本発明の核酸分子または本発明のTCR分子をコードすることができる核酸分子によるT細胞のインビトロ形質導入、(3)患者の体内に注入された遺伝子操作されたT細胞を含む。単離、トランスフェクションおよび再注入される細胞の数は、医師によって決定されることができる。
本発明の主な利点は次のとおりである。
【0078】
(1)本発明のTCRは、SSX2抗原の短いペプチド複合体KASEKIFYV―HLA A0201に結合することができ、同時に標的細胞に対して、本発明のTCRを形質導入した細胞を特異的に活性化することができる。
【0079】
以下、本発明は、具体的実施例と併せてさらに説明される。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。以下の実施例における具体的な条件を示さない実験方法は、通常、一般的な条件、例えば、(SambrookおよびRussellら、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第3版)(2001)CSHL出版社)に記載の条件、メーカーよって提案された条件に従う。特に明記されない限り、パーセンテージと部数とは、重量で計算される。以下の実施例で使用される実験材料および試薬は、特に明記しない限り、商業チャネルから入手することができる。
【0080】
実施例1.SSX2抗原の短いペプチド特異的T細胞のクローニング
合成された短いペプチドKASEKIFYV(SEQ ID NO.:9、北京サイバーソン遺伝子技術会社)を使用して、遺伝子型がHLA―A0201である健康なボランティアの末梢血リンパ球(PBL)を刺激した。KASEKIFYV短いペプチドを、ビオチンマーカーを有するHLA―A0201で再生し、pHLA半数体を調製する。これらの半数体は、PEマーカーのストレプトアビジン(BD会社)と組み合わされてPEマーカーのテトラマーを形成し、当該テトラマーおよび抗―CD8―APC二重陽性細胞が選択される。選択された細胞を増幅し、前記方法に従って二次選択を行い、次に、限界希釈法を使用して単一クローンを行う。モノクローナル細胞をテトラマーで染色し、スクリーニングされた二重陽性クローンは、
図3に示されるようである。
【0081】
ELISPOT実験を通じて、当該T細胞クローンの機能および特異的をさらに検出する。当業者は、ELISPOT実験を使用して細胞機能を検出する方法をよく知っている。本実施例のIFN―γELISPOT実験で使用されるエフェクター細胞は、本発明で得られたT細胞クローンであり、標的細胞は、本発明の短いペプチドをロードしたT2細胞であり、対照グループは、他の短いペプチドをロードしたT2細胞および任意の短いペプチドをロードしたT2細胞である。
【0082】
まず、ELISPOTプレートを準備し、ELISPOT実験の段階は、次のとおりである。次の順序で試験の各成分をELISPOTプレートに加え、40μlのT2細胞5×10
5細胞/ml(即ち、20000T2細胞/ウェル)、40μlのエフェクター細胞(2000T細胞クローン/ウェル)の後、20μlの特異的短いペプチドを実験グループに加え、20μlの非特異的短いペプチドを対照グループに加え、20μlの培地(試験培地)をブランクグループに加え、二つのデュープリケートウェルを設置する。次に、一晩インキュベートする(37℃、5%CO
2)。その後、プレートを洗浄し、二次検出および発色を行い、プレートを1時間乾燥させ、イムノスポットプレートリーダー(ELISPOT READER system、AID会社)を使用して、メンブレンに形成されたスポットを数える。
図14に示されたように、実験結果によると、得られた特定の抗原特異的T細胞クローンは、本発明の短いペプチドをロードしたT2細胞に対して特異的反応を有し、他の無関係なペプチドおよび短いペプチドをロードしないT2細胞に対してほぼ反応がない。
【0083】
実施例2.SSX2抗原の短いペプチド特異的T細胞クローンを得るためのTCR遺伝子およびベクターの構築
Quick―RNA
TM MiniPrep(ZYMO research)を使用して、実施例1で選択された抗原の短いペプチドKASEKIFYV特異性を、HLA―A0201制限性T細胞クローンのトータルRNAを抽出する。cDNAの合成は、clontechのSMART RACE cDNA増幅キットを使用し、使用されるプライマーは、ヒトTCR遺伝子のC末端保存領域で設計される。配列をTベクター(TAKARA)にクローンして、シーケンシングする。当該配列は、イントロンを含まない相補的配列であることに注意されたい。シーケンシング後、当該二重陽性クローンによって発現されたTCRのα鎖およびβ鎖配列構造は、それぞれ
図1および
図2に示されたとおりであり、
図1a、
図1b、
図1c、
図1d、
図1eおよび
図1fは、それぞれTCRα鎖可変ドメインのアミノ酸配列、TCRα鎖可変ドメインのヌクレオチド配列、TCRα鎖アミノ酸配列、TCRα鎖ヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRα鎖アミノ酸配列およびリーダー配列を有するTCRα鎖ヌクレオチド配列であり、
図2a、
図2b、
図2c、
図2d、
図2eおよび
図2fは、それぞれTCRβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列、TCRβ鎖可変ドメインのヌクレオチド配列、TCRβ鎖アミノ酸配列、TCRβ鎖ヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRβ鎖アミノ酸配列およびリーダー配列を有するTCRβ鎖ヌクレオチド配列である。
【0084】
同定によると、α鎖は、
α CDR1―TSESDYY(SEQ ID NO:10)
α CDR2―QEAYKQQN(SEQ ID NO:11)
α CDR3―AYRSGIIQGAQKLV(SEQ ID NO:12)のアミノ酸配列を有するCDRを含み、
β鎖は、
β CDR1―PRHDT(SEQ ID NO:13)
β CDR2―FYEKMQ(SEQ ID NO:14)
β CDR3―ASSSDRELLFYNEQF(SEQ ID NO:15)のアミノ酸配列を有するCDRを含む。
【0085】
オーバーラップ(overlap)PCRによって、それぞれTCRα鎖およびβ鎖の全長遺伝子をレンチウイルス発現ベクターpLenti(addgene)にクローンする。具体的には、overlap PCRを使用して、TCRα鎖およびTCRβ鎖の全長遺伝子を結合して、TCRα―2A―TCRβフラグメントを得る。レンチウイルス発現ベクターおよびTCRα―2A―TCRβを消化して、結合して、pLenti―TRA―2A―TRB―IRES―NGFRプラスミドを得る。対照として、同時にeGFPを発現するレンチウイルスベクターpLenti―eGFPも構築する。その後、293T/17を使用して偽ウイルスをパッケージ化する。
【0086】
実施例3.SSX2抗原の短いペプチド特異的可溶性TCRの発現、リフォールディングおよび精製
可溶性TCR分子を得るために、本発明のTCR分子のα鎖およびβ鎖は、それぞれその可変ドメインおよび定常ドメインの一部にのみを含むことができ、α鎖およびβ鎖の定常ドメインにそれぞれ一つのシステイン残基を導入して、人工の鎖間ジスルフィド結合を形成し、システイン残基を導入した位置は、それぞれTRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC2*01エクソン1のSer57、そのα鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図4aおよび
図4bに示され、そのβ鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図5aおよび
図5b所示に示される。「分子グローニング:実験マニュアル」(Molecular Cloning a Laboratory Manual)(第3版。SambrookおよびRussell)に記載の標準的な方法を通じて、前記TCRα鎖およびβ鎖の標的遺伝子配列を合成した後、それぞれ、発現ベクターpET28a+(Novagene)に挿入し、上流と下流とのクローニング部位は、それぞれNcoIおよびNotIである。挿入されたフラグメントは、シーケンシングによって確認される。
【0087】
TCRα鎖およびβ鎖の発現ベクターは、それぞれ化学形質転換法により発現細菌BL21(DE3)に形質転換され、細菌は、LB培養液で増殖し、OD600=0.6で最終濃度0.5mMのIPTGで誘導され、TCRα鎖およびβ鎖の発現後に形成された封入体を、BugBuster Mix(Novagene)で抽出し、BugBuster溶液で繰り返して洗浄し、最後に、封入体を6Mの塩酸グアニジン、10mMのジチオスレイトール(DTT)、10mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)および20mMのトリス(Tris)(pH 8.1)に溶解する。
【0088】
溶解号のTCRα鎖およびβ鎖は、5Mの尿素、0.4Mのアルギニン、20mMのトリス(pH 8.1)、3.7mMのシスタミン(cystamine)および6.6mMのβ―メルカポエチルアミン(β―mercapoethylamine)(4℃)に1:1の質量比ですばやく混合され、最終濃度は、60mg/mLである。混合後、溶液を10倍量の脱イオン水に入れて透析し(4℃)、12時間後、脱イオン水を緩衝液(20mMのトリス、pH 8.0)に変え、4℃で12時間透析を続ける。透析後の溶液を0.45μMのフィルターメンブレンでろ過した後、陰イオン交換カラム(HiTrap Q HP、5ml、GE Healthcare)で精製する。溶出されたピークに再生されたαおよびβダイマーが含まれるTCRは、SDS―PAGEゲルによって確認された。次に、TCRは、ゲルろ過クロマトグラフィー(HiPrep 16/60、Sephacryl S―100 HR、GE Healthcare)を通じてされに精製される。精製後のTCRの純度は、SDS―PAGEによって90%以上であることを確認され、濃度は、BCA法によって確認された。本発明により得られた可溶性TCRのSDS―PAGEゲル図は、
図6に示されたようである。
【0089】
実施例4.SSX2抗原の短いペプチド特異的可溶性一本鎖TCRの生成
特許文書WO2014/206304の記載によると、部位特異的突然変異の方法を使用して、実施例2のTCRα鎖およびβ鎖可変ドメインを、一つの柔軟な短いペプチド(linker)によって結合された安定的で可溶性の一本鎖TCR分子に構築した。当該一本鎖TCR分子のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図7aおよび
図7bに示される。そのα鎖可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図8aおよび
図8bに示され、そのβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図9aおよび
図9bに示され、そのリンカー(linker)配列のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図10aおよび
図10bに示される。
【0090】
標的遺伝子をNcoIとNotIとで二重消化した後、NcoIとNotIとで二重消化されたpET28aベクターに結合する。結合生成物をE.coli DH5αに形質転換し、カナマイシンを含むLBプレートにコーティングし、37℃で転倒して一晩培養し、PCRスクリーニング用の陽性クローンを選択し、陽性組換え単位に対してシーケンシングし、配列が正しいことを確認した後、組換えプラスミドを抽出し、発現のためにE.coli BL21(DE3)に形質転換した。
【0091】
実施例5.SSX2抗原の短いペプチド特異的可溶性一本鎖TCRの発現、再生和精製
実施例4で調製された組換えプラスミドpET28a―テンプレート鎖を含むすべてのBL21(DE 3)コロニーを、カナマイシンを含むLB培地に接種し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養し、最終濃度が0.5mMになるようにIPTGを加え、37℃で4時間インキュベートし続ける。5000rpmで15分間遠心分離して細胞ペレットを回収し、Bugbuster Master Mix(Merck)デ細胞ペレットを溶解し、6000rpmで15分間遠心分離して封入体を回収し、再びBugbuster(Merck)デ洗浄して細胞破片および膜成分を除去し、6000rpmで15分間遠心分離し、封入体を収集する。封入体を緩衝液(20mMのトリス―HCl pH 8.0、8Mの素)に溶解し、高速で遠心分離して不溶性物質を除去し、上清液をBCA法で定量した後、分注して―80℃で保存する。
【0092】
溶解した5mgの一本鎖TCR封入体タンパク質に、2.5mLの緩衝液(6MのGua―HCl、50mMのトリス―HCl pH 8.1、100mMのNaCl、10mMのEDTA)を加え、最終濃度が10mMになるまでDTTを加え、37℃で30分間処理する。注射器を使用して、125mLの再生緩衝液(100mMのトリス―HCl pH 8.1、0.4MのL―アルギニン、5Mの尿素、2mMのEDTA、6.5mMのβ―mercapthoethylamine、1.87mMのシスタミン)に、前記処理後の一本鎖TCRを滴下し、4℃で10分間撹拌した後、再生溶液をカットオフが4kDaであるセルロース膜透析バッグに入れ、透析バッグを1Lの予冷水に入れ、4℃で一晩ゆっくりと撹拌する。17時間後、透析溶液を1Lの予冷した緩衝液(20mMのトリス―HCl pH 8.0)に変更し、4℃で8時間透析を続けた後、透析溶液を同じ新鮮な緩衝液に変更し、一晩透析を続ける。17時間後、サンプルを0.45μmのフィルターメンブレンでろ過し、真空脱気した後、陰イオン交換カラム(HiTrap Q HP、GE Healthcare)に通過し、20mMのトリス―HCl pH 8.0で調製した0~1MのNaCl線形勾配溶出液でタンパク質を精製し、収集された溶出成分をSDS―PAGEで分析し、一本鎖TCRを含む成分を濃縮した後、さらにゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)デ精製し、ターゲット成分もSDS―PAGEで分析する。
【0093】
ビアコア分析に使用される溶出成分は、ゲルろ過によってその純度がさらにテストされる。条件は次のとおりである。クロマトグラフィーカラムAgilent Bio SEC―3(300 A、φ7.8×300mm)、移動相は、150mMのリン酸塩緩衝液、流速は、0.5mL/minであり、カラム温度は、25℃であり、UV検出波長は、214nmである。
【0094】
本発明で得られた可溶性一本鎖TCRのSDS―PAGEゲル図は、
図11に示されたようである。
実施例6.結合の特性化
ビアコア分析
本実施例は、本発明の可溶性TCR分子がKASEKIFYV―HLA A0201複合体に特異的に結合することができることを証明した。
【0095】
ビアコア T200リアルタイム分析システムを使用して、実施例3と実施例5とで得られたTCR分子およびKASEKIFYV―HLA A0201複合体の結合活性を検出する。抗ストレプトアビジン抗体(GenScript)をカップリング緩衝液(10mMの酢酸ナトリウム緩衝液、pH 4.77)に加えた後、抗体を事前にEDCとNHSとで活性化したCM5チップに流して、抗体をチップ表面に固定し、最後に、エタノールアミン塩酸溶液で反応してない活性化表面を密封して、カップリングプロセスを完了し、カップリングレベルは、15000RUである。
【0096】
抗体でコーティングされたチップ表面に低濃度のストレプトアビジンを流した後、KASEKIFYV―HLA A0201複合体を検出チャネルに流し、別のチャネルを参照チャネルとして流し、0.05mMのビオチンを10μL/minの流速で2分間チップに流し、ストレプトアビジンの残りの結合部位を密閉する。
【0097】
前記KASEKIFYV―HLA A0201複合体の調製プロセスは、次のとおりである。
a.精製
重鎖または軽鎖の発現を誘導するE.coli菌溶液を100ml収集し、8000g、4℃で10分間遠心分離した後、10mlのPBSで細菌を1回洗浄し、次に、5mlのBugBuster Master Mix Extraction Reagents(Merck)で激しく振とうして細菌を再懸濁し、回転させながら20分間インキュベートした後、6000g、4℃で15分間遠心分離し、上清を捨てて封入体を収集する。
【0098】
前記封入体を5mlのBugBuster Master Mixに再懸濁し、回転させながら室温で5分間インキュベートし、10倍希釈した30mlのBugBusterを加え、よく混合し、6000g、4℃で15分間遠心分離し、上清を捨て、10倍希釈した30mlのBugBusterを加えて封入体を再懸濁し、よく混合し、6000g、4℃で15分間遠心分離し、2回繰り返し、30mlの20mM トリス―HCl pH 8.0を加えて封入体を再懸濁し、よく混合し、6000g、4℃で15分間遠心分離し、最後に20mMのトリス―HCl 8Mの尿素で封入体を溶解し、SDS―PAGEで封入体の純度を検出し、BCAキットで濃度を測定する。
【0099】
b.再生
合成された短いペプチドKASEKIFYV(北京サイバーソン遺伝子技術会社)をDMSOに20mg/mlの濃度になるまで溶解した。軽鎖と重鎖との封入体を8Mの尿素、20mMのトリスpH 8.0、10mMのDTTで溶解し、再生前に、3Mの塩酸グアニジン、10mMの酢酸ナトリウム、10mMのEDTAを加えてさらに変性する。KASEKIFYVペプチドを25mg/L(最終濃度)で再生緩衝液(0.4MのL―アルギニン、100mMのトリスpH 8.3、2mMのEDTA、0.5mMの酸化型グルタチオン、5mMの還元型グルタチオン、0.2mMのPMSF、4℃まで冷却し)に加えた後、順序に20mg/Lの軽鎖および90mg/Lの重鎖(最終濃度、重鎖は、8時間/回で3回分けて加える)を加え、再生は、4℃で少なくとも三日で完了し、SDS―PAGEで再生か成功したかどうかを検出する。
【0100】
c.再生後の精製
透析用として10倍量の20mMのトリスpH 8.0を使用して、再生緩衝液を交換し、緩衝液を少なくとも2回交換して、溶液のイオン強度を十分に低下させる。透析後、タンパク質溶液を0.45μmの酢酸セルロースフィルターメンブレンでろ過した後、HiTrap Q HP(GEゼネラルエレクトリックカンパニー(GE General Electric Company))陰イオン交換カラム上(5mlのベッドボリューム)にロードする。Akta精製器(GEゼネラルエレクトリックカンパニー)を使用して、20mMのトリスpH 8.0で調製した0~400mMのNaCl線形勾配溶液でタンパク質を溶出し、pMHCは、250mMのNaClで溶出され、ピーク成分を収集し、SDS―PAGEで純度を検出した。
【0101】
d.ビオチン化
精製したpMHC分子をMillipore限界ろ過チューブで濃縮し、同時に、緩衝液を20mMのトリスpH 8.0に交換した後、ビオチン化試薬0.05MのBicinepH 8.3、10mMのATP、10mMのMgOAc、50μMのD―Biotin、100μg/mlのBirA酵素(GST―BirA)を加え、室温で混合物を一晩インキュベートし、SDS―PAGEでビオチン化が完了したかどうかを検出する。
【0102】
e.ビオチン化後の複合体の精製
Millipore限界ろ過チューブでマーカー後のビオチン化pMHC分子を1mlに濃縮し、ゲルろ過クロマトグラフィーを使用してビオチン化pMHCを精製し、Akta精製器(GEゼネラルエレクトリックカンパニー)を使用して、ろ過したPBSを使用してHiPrepTM 16/60 S200 HRカラム(GEゼネラルエレクトリックカンパニー)で事前に平衡化し、1mlの濃縮後のビオチン化pMHC分子をロードした後、PBSで1ml/minの流速で溶出する。ビオチン化pMHC分子は、約55mlで単一のピークとして溶出される。タンパク質を含む成分を合わせ、Millipore限界ろ過チューブで濃縮し、BCA法(Thermo)でタンパク質濃度を測定し、タンパク質酵素阻害剤cocktail(Roche)を加えて、ビオチン化pMHC分子を分注して、―80℃で保存する。
【0103】
ビアコアEvaluationソフトウェアを使用して、ダイナミクスパラメーターを計算することにより、得られた本発明の可溶性TCR分子および本発明によって構築された可溶性一本鎖TCR分子とKASEKIFYV―HLA A0201複合体との結合の動態学マップは、それぞれ
図12および
図13に示されたようである。マップによると、本発明で得られた可溶性TCR分子および可溶性一本鎖TCR分子の両方は、KASEKIFYV―HLA A0201複合体に結合することができることを示す。同時に、前記方法をしようして、本発明の可溶性TCR分子および他のいくつかの無関係な抗原の短いペプチドおよびHLA複合体との結合活性を検出し、結果は、本発明のTCR分子が他の無関係な抗原に結合しなかったことを示す。
【0104】
実施例7.本発明のTCRを形質導入するT細胞の活性化実験
ELISPOTスキーム
以下の実験を実施して、標的細胞特異性に対する本発明のTCRで形質導入されたT細胞の活性化反応を証明した。ELISPOT試験で検出されたIFN―γ生成量をT細胞活性化の読み出し値として使用した。
【0105】
試薬
試験培地:10%FBS(Gibco会社、カタログ番号16000―044)、RPMI 1640(Gibco会社、カタログ番号C11875500bt)
洗浄緩衝液(PBST):0.01MのPBS/0.05%Tween20
PBS(Gibco会社、カタログ番号C10010500BT)
PVDF ELISPOT 96ウェルプレート(メルクミリポア(Merck Millipore)、カタログ番号MSIPS4510)
ヒトIFN―γ ELISPOT PVDF―酵素キット(BD)は、必要とする他のすべての試薬(捕捉および検出抗体、ストレプトアビジン―アルカリホスファターゼおよびBCIP/NBT溶液)を含む。
【0106】
方法
標的細胞の調製
本実験で使用される標的細胞は、特異的短いペプチドをロードしたT2細胞である。実験培地で標的細胞を調製し、標的細胞の濃度を2.0×105細胞/mlに調整し、ウェルあたり100μlを摂取して2.0×104細胞/ウェルを得る。
【0107】
エフェクター細胞の調製
本実験におけるエフェクター細胞(T細胞)は、本発明のSSX2抗原の短いペプチドの特異的TCRをトランスフェクションしたCD8+ T細胞であり、同じボランティアからのトランスフェクションされてない本発明のTCRのCD8+ Tを対照グループとして使用する。抗CD3/CD28コーティングビーズ(T細胞増幅生成物、ライフテクノロジー(life technologies))でT細胞を刺激し、SSX2抗原の短いペプチドと特異的TCR遺伝子を保有するレンチウイルスで形質導入し、形質導入後9~12日まで50IU/mlのIL―2と10ng/mlのIL―7とを含む10%FBSを含む1640培地で増幅し、次に、これらの細胞を試験培地に入れ、室温で10分間300gで遠心分離して洗浄する。次に、細胞を、所望の最終濃度の2倍で試験培地に再懸濁する。陰性対照エフェクター細胞も同様に処理する。
【0108】
短いペプチド溶液の調製
ELISPOTウェルプレートの短いペプチドの最終濃度を1μg/mlにするために、対応する短いペプチドを対応する標的細胞(T2)実験グループに加える。
【0109】
ELISPOT
製造業者の説明書に従って、ウェルプレートを次のように準備する。抗ヒトIFN―γ捕捉抗体をプレートあたり10mlの滅菌PBSで1:200に希釈した後、100μlの希釈捕捉抗体を各ウェルに均等に加える。ウェルプレートを4℃で一晩インキュベートする。インキュベートした後、ウェルプレートを洗浄して過剰な捕捉抗体を除去する。10%FBSを含む100μl/ウェルのRPMI 1640培地を加え、ウェルプレートを室温で2時間インキュベートする。次に、培地をウェルプレートから洗い流し、ELISPOTウェルプレートを紙の上でフリックして軽くたたくことにより、残りの洗浄緩衝液をすべて除去する。
【0110】
次に、次の順序で試験の各成分をELISPOTウェルプレートに加える。
100μlの標的細胞2*105細胞/ml(合計で約2*104標的細胞/ウェルを得る)。
【0111】
100μlのエフェクター細胞(1*104の対照エフェクター細胞/ウェルおよびSSX2 TCR陽性T細胞/ウェル)。
すべてのウェル一は、重複して調製されて、追加される。
【0112】
次に、ウェルプレートを一晩インキュベートし(37℃/5%CO2)、翌日、培地を捨て、ウェルプレートを再蒸留水で2回洗浄し、洗浄緩衝液で3回洗浄し、ペーパータオルに置いて、軽くたたいて、残りの洗浄緩衝液を除去する。次に、検出抗体を10%FBSを含むPBSで1:200に希釈し、100μl/ウェルで各ウェルに加える。ウェルプレートを室温で2時間インキュベートし、洗浄緩衝液で3回洗浄し、ウェルプレートをペーパータオルで軽くたたいて過剰な洗浄緩衝液を除去する。
【0113】
ストレプトアビジン―アルカリホスファターゼを10%FBSを含むPBSで1:100に希釈し、100μlの希釈したストレプトアビジン―アルカリホスファターゼを各ウェルに加え、ウェルプレートを室温で1時間インキュベートする。次に、洗浄緩衝液で4回洗浄し、PBSで2回洗浄し、ウェルプレートをペーパータオルで軽くたたいて過剰な洗浄緩衝液とPBSとを除去する。洗浄後、キットによって提供されるBCIP/NBT溶液を100μl/ウェルで加えて現象する。現象期間中に、光から保護するためにスズ箔でウェルプレートを覆い、5~15分間静置する。この期間中に反応が終了する最適な時間を確定するために、現象ウェルプレートのスポットを定期的にチャックする。BCIP/NBT溶液を除去し、ウェルプレートを再蒸留水で洗い流して、現象藩王を停止し、スピンドライした後、ウェルプレートの底部を除去し、各ウェルが完全に乾くまでウェルプレートを室温で乾燥し、イムノスポットプレートリーダー(CTL、細胞技術会社(Cellular Technology Limited))を使用して、ウェルプレートの底膜に形成されたスポットを数える。
【0114】
結果
ELISPOT実験(前記のように)を使用して、SSX2抗原の短いペプチドKASEKIFYVをロードする標的細胞に反応する、本発明のTCRで形質導入されたT細胞のIFN―γ放出を試験した。グラフパッドプリズム(graphpad prism)6を使用して、各ウェル中で観察されたELSPOTスポットの数を製図する。
【0115】
図15に示されたように、実験結果によると、本発明のTCRで形質導入されるT細胞は、その特異的短いペプチドをロードした標的細胞に対して良好な活性化反応を有するが、本発明のTCRで形質導入されないT細胞は、対応する標的細胞に対して基本的に活性化反応を有さない。
【0116】
本発明で言及されたすべての文書は、あたかも各文書が個別に参照として引用されたかのように、本出願における参照として引用される。さらに、本発明の上記の教示内容を読んだ後、当業者は本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態も、本出願の添付の請求範囲によって限られ定義される範囲に含まれる。
【配列表】