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特許7452900乳酸耐性の向上を有する酵母およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】乳酸耐性の向上を有する酵母およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20240312BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20240312BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N1/19 ZNA
C12N15/90 102Z
C12P7/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022508758
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-28
(86)【国際出願番号】 TH2019000030
(87)【国際公開番号】W WO2021034276
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-03-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513160707
【氏名又は名称】ピーティーティー グローバル ケミカル パブリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プラシトチョーク、ファッタノン
(72)【発明者】
【氏名】プームシラ、ナッタウト
(72)【発明者】
【氏名】キッティスリヤノント、クライレアーク
(72)【発明者】
【氏名】カエウスワン、ナロン
(72)【発明者】
【氏名】テチャナン、ウィカンダ
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/159011(WO,A2)
【文献】特開2009-000124(JP,A)
【文献】特表2009-517045(JP,A)
【文献】特表2015-528312(JP,A)
【文献】特表2019-513408(JP,A)
【文献】LERTWATTANASAKUL, N. et al.,Genetic basis of the highly efficient yeast Kluyveromyces marxianus: complete genome sequence and transcriptome analyses,Biotechnology for Biofuels,2015年,Volume 8, Article number: 47,P. 1-14,DOI: 10.1186/s13068-015-0227-x
【文献】PALMA, M. et al.,The Zygosaccharomyces bailii transcription factor Haa1 is required for acetic acid and copper stress responses suggesting subfunctionalization of the ancestral bifunctional protein Haa1/Cup2,BMC Genomics,2017年,Vol.18, Article No. 75,P. 1-22
【文献】ABBOTT, D. A. et al.,Physiological and Transcriptional Responses to High Concentrations of Lactic Acid in Anaerobic Chemostat Cultures of Saccharomyces cerevisiae,Applied and Environmental Microbiology,2008年,Vol. 74, Iss. 18,P. 5759-5768,https://doi.org/10.1128/AEM.01030-08
【文献】FERNANDES, A. R. et al.,Saccharomyces cerevisiae adaptation to weak acids involves the transcription factor Haa1p and Haa1p-regulated genes,Biochemical and Biophysical Research Communications,2005年,Vol. 337, Iss. 1,P. 95-103,https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2005.09.010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作されたクルイベロミセス・マルシアナス酵母細胞であって、前記酵母細胞は、少なくとも、アミノ酸配列識別番号2にエンコードするヌクレオチド配列を不活性化または欠失させる遺伝子修飾を含む、遺伝子操作されたクルイベロミセス・マルシアナス酵母細胞。
【請求項2】
前記アミノ酸配列識別番号2は、酸反応性転写因子Haa1である、請求項1に記載の遺伝子操作されたクルイベロミセス・マルシアナス酵母細胞。
【請求項3】
前記遺伝子修飾は、親と比較して乳酸耐性を増大させる、請求項1または2に記載の遺伝子操作されたクルイベロミセス・マルシアナス酵母細胞。
【請求項4】
前記遺伝子修飾は、親と比較して乳酸生産を増大させる、請求項1または2に記載の遺伝子操作されたクルイベロミセス・マルシアナス酵母細胞。
【請求項5】
請求項1に記載の遺伝子操作されたクルイベロミセス・マルシアナス酵母細胞を使用する、乳酸生産のための方法であって、
請求項1に記載の遺伝子操作されたクルイベロミセス・マルシアナス酵母細胞を発酵培地で増殖させて乳酸を生成する段階、及び、
前記発酵培地から前記乳酸を任意に精製する段階を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、アミノ酸配列識別番号2、特にHaa1のためにエンコードするヌクレオチド配列を不活性化または欠失させる少なくとも遺伝子修飾を含む、遺伝子操作されたクルイベロミセスsp.(Kluyveromyces sp.)酵母細胞に関する。
【0002】
本発明による遺伝子操作された酵母細胞は、その親と比較して向上した乳酸耐性、乳酸生産、またはそれらの組み合わせを有する。
【技術分野】
【0003】
向上した乳酸耐性を有する酵母およびその使用に関する、バイオテクノロジ、特に遺伝子操作。
【背景技術】
【0004】
再生可能資源から生産される有機酸は、いくつかの産業にとって魅力的な分子となりつつある。エネルギ産業において、バイオエタノールおよびバイオブタノールは、長年開発されてきており、商業的に使用されている。生物学的にも生産され、様々な用途、たとえば食品産業における食品および飼料添加剤、パーソナルケア生産における穏やかな溶媒用途、ならびにバイオベース樹脂生産のためのバイオ-ポリマ合成において、原材料として使用される乳酸およびコハク酸。前述のすべての分子は、発酵と呼ばれる周知の処理によって生産される。発酵処理の最も大きな課題は、生産コストである。
【0005】
生産コストを低減するためのいくつかの試みが取り組まれてきた。発酵原料のコストを低減するために、農業廃棄物、たとえば製糖業からのバガスが提案されている。バガス由来のセルロースは、細菌利用のために、発酵可能な糖に物理的および化学的に分解することができる。しかしながら、前処理プロセスからの様々な不純物により、細菌に対する阻害作用が起こる。たとえば、ヘミセルロース分解から放出される酢酸塩は、ほとんどの微生物に対する周知の阻害物質である。さらに、バガス保管中のいくらかの細菌の汚染からの望ましくない乳酸も、発酵処理に影響するおそれがある。
【0006】
他方で、発酵中の細胞傷害を防止するという課題にもコストがかかる。たとえばこれは、弱酸、たとえば乳酸およびコハク酸の生産の場合に起こる。これらの酸の発酵中、生産される乳酸を中和し、得られる乳酸塩を脱塩して、pHの低下が原因の細胞活性傷害を防止することが重要である。バイオテクノロジプロセスにおいて使用する効力のある細菌の中から、酵母が、そのロバスト性および低pH耐性のために最も使用されてきた。それでも、2.8より低いpH値では、操作された酵母菌株を用いた乳酸生産は低下した。したがって、より高い乳酸耐性を酵母に与えることにより、非中和条件下で乳酸生産性が向上する。
【0007】
サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)酵母において、いくつかの研究が行われてきており、それによって、HAA1遺伝子によってエンコードされる転写因子の調節によって酵母細胞が酸に応答することが明らかに示されている。
【0008】
Sugiyamaら(Applied and Environmental Microbiology,2014,80,3488~3495)は、転写因子のためにエンコードするHAA1遺伝子を過剰発現させ、そのタンパク質、Haa1pの再局在化をヌクレアーゼに模倣させることに取り組んだのであり、それにより結果として、サッカロミセス・セレビシエにおける乳酸耐性を向上するために、弱酸適応機構を誘導する。この研究により、haa1破壊株は親株と比較して、重度の乳酸感受性を引き起こすことも見出された。
【0009】
Tanakaら(Applied and Environmental Microbiology,2012,78,8161~8163)は、酢酸耐性を増強し得る、サッカロミセス・セレビシエにおけるHAA1の過剰発現について、同様の結果を開示した。
【0010】
US9085781B2およびSwinnenら(Microbial Cell Factories,2017,16:7,1-15)は、点突然変異を誘導して、サッカロミセス・セレビシエにおけるHAA1発現を微調整することを試み、その結果、野性型対立遺伝子と比較してより高い酢酸耐性をもたらした。
【0011】
WO2016083397A1は、酵母、特にサッカロミセス・セレビシエにおける酸耐性の向上を達成するためのHAA1とそのパラログCUP2との組み合わせを開示した。これらの複雑さは、商業規模の生産においてこのアプローチを使用することへの支障となる。
【0012】
さらに、乳酸耐性を向上するがHAA1遺伝子が関与しないような、酵母菌株、特にサッカロミセス・セレビシエのこの調査分野におけるいくつかの研究がある。
【0013】
US9994877B2は、遺伝子操作された酵母細胞が、SUL1、STR3、AAD10、MXR1、GRX8、MRK1、GRE1、HTX7、ERR1、またはそれらの組み合わせの活性を増大したことを開示した。得られた酵母菌株は、その親細胞と比較して酸耐性を増大したのであり、乳酸塩を生産するのに有用である。
【0014】
US9758564B2は、乳酸耐性を増大するために、Fps1をエンコードするポリヌクレオチドの発現が低減された酸耐性酵母細胞を開示した。
【0015】
US10053714B2は、ホスファチジルイノシトール(PI)およびセラミドのイノシトールホスホリルセラミド(IPC)およびジアシルグリセロール(DG)への転化に触媒作用する酵素の活性を増大する、または脂肪アシルCoAの脂肪アシル部位への二重結合の導入に触媒作用する酵素の活性を増大する、ならびに/またはDGからのトリアシルグリセロール(TG)の形成に触媒作用する酵素の活性を減少する遺伝子修飾、またはそれらの組み合わせ、ならびに任意選択で、1~20炭素原子を有する有機酸、特に乳酸の耐性を増大させ得る、ミトコンドリア外NADH脱水素酵素NDE1および/もしくはNDE2の活性を低減する遺伝子修飾を含む、酸耐性である遺伝子操作された酵母細胞を開示した。
【0016】
Suzukiら(Journal of Bioscience and Bioengineering,2013,115,467-474)は、乳酸耐性をもたらす遺伝子破壊を組み合わせることによる、サッカロミセス・セレビシエにおける酸耐性酵母の構築を報告した。この研究において、94個の遺伝子破壊株は乳酸への耐性を示すこと、および乳酸耐性は、中和をすることなく高い乳酸生産性をもたらす、いくつかの遺伝子の破壊を組み合わせることによって、さらに増強されることが見出された。
【0017】
上述の理由から、本発明は、他の非従来的な酵母、特にクルイベロミセスsp.において乳酸耐性を増強するための簡単なアプローチを開示し、アプローチにおいて、HAA1の欠失により、その乳酸耐性、乳酸生産、またはそれらの組み合わせが十分に向上される。
【0018】
本発明からの向上した酵母は、広範な側面において使用され得、たとえば、限定されないが、任意の酸不純物を含有する低コスト原料を使用し、発酵を行って高レベルの遊離乳酸を有する発酵ブロスを生産する発酵処理である。それらの利点は、費用対効果生産である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】菌株MYR2297およびMYR2787からHAA1遺伝子を欠失させるために使用されるカセットを含有するプラスミド、pHAA1del2の構造。
図2】菌株MYR2297およびMYR2787からHAA1遺伝子を欠失させるために使用される手順の概略図。
図3】0.5%(pH2.7)、1.0%(pH2.5)、1.5%(pH2.4)、2.0%(pH2.3)乳酸を補足した、または補足なし(pH3.5)のウラシルを除いたCM固形培地上で、30℃で2日間インキュベートしたMYR2297親細胞(MYR2297 HAA1)およびΔhaa1破壊を持つMYR2297(MYR2297 Δhaa1)の成長能力。
図4】0.5%(pH2.7)、1.0%(pH2.5)、1.5%(pH2.4)、2.0%(pH2.3)乳酸を補足した、または補足なし(pH3.5)のウラシルを除いたCM固形培地上で、30℃で2日間インキュベートしたMYR2787親細胞(MYR2787 HAA1)、Δhaa1破壊を持つMYR2787(MYR2787 Δhaa1)、およびHAA1過剰発現を持つMYR2787(MYR2787 2X HAA1)の成長能力。
図5】2日間のBioLector発酵におけるMYR2787親細胞(MYR2787 HAA1)、Δhaa1破壊を持つMYR2787(MYR2787 Δhaa1)、およびHAA1過剰発現を持つMYR2787(MYR2787 2X HAA1)の成長能力。
図6】2日間のBioLector発酵におけるMYR2787親細胞(MYR2787 HAA1)、Δhaa1破壊を持つMYR2787(MYR2787 Δhaa1)、およびHAA1過剰発現を持つMYR2787(MYR2787 2X HAA1)によって生産されたD-乳酸力価。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
本明細書で使用される技術的用語または科学的用語は、別段の定めがない限り、当業者によって理解されるような定義を有する。本発明の理解を容易にするために、専門語の説明を以下に定める。
【0021】
本明細書において挙げられる設備、器具、方法、または化学物質は、本発明において特定に使用される設備、器具、方法、または化学物質であるという明示的に別段の定めがない限り、当業者によって一般的に操作されるか、または使用される設備、器具、方法、または化学物質を意味する。
【0022】
特許請求の範囲または明細書における「含む(comprising)」という用語を伴う単数または複数名詞の使用は「1つ」を意味し、かつ「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つ以上」を含む。
【0023】
本願における、開示されるすべての組成物および/または方法ならびに特許請求の範囲は、本発明と著しく異なるいかなる実験も行うことなく、任意の操作、実行、修正、または調節による実施形態を包含し、特許請求の範囲で具体的に記述されていなくても、当業者によれば本実施形態と同じ実用性および結果を有する目的物に当てはまることを意図するものである。したがって、当業者には明白にわかる任意の小さい修正または調節を含む、本発明の実施形態に対して代替可能なまたは同様の目的物は、添付の特許請求の範囲に現れるように、発明の趣旨、範囲、および概念内にとどまるものとして解釈されるべきである。
【0024】
この出願全体を通して、「約(about)」という用語は、本明細書において提示される任意の値が場合によっては変動するまたは逸脱することを示すために使用される。そのような変動または逸脱は、計算において使用される器具、方法のエラーから、または器具または方法を実行する個々の操作者から生じ得る。これらは、物性の変化によって引き起こされる変動または逸脱を含む。
【0025】
専門語に関しては、細菌遺伝子またはコード領域は通常、大腸菌からの「ldhA」のように、イタリック体の小文字で名づけられ、一方で遺伝子によってエンコードされる酵素またはタンパク質は、「LdhA」のように、同じ文字であるが最初の文字が大文字でありかつイタリック体なしで名づけられ得る。酵母遺伝子またはコード領域は通常、「HAA1」のように、イタリック体の大文字で名づけられ、一方で遺伝子によってエンコードされる酵素またはタンパク質は、「Haa1」のように、同じ文字であるが最初の文字が大文字でありかつイタリック体なしで名づけられ得る。特定の遺伝子に突然変異を含有するか、または突然変異表現型を有する酵母菌株に関して、遺伝子または菌株は、haa1またはHAA1遺伝子の機能を欠く菌株に対するΔhaa1のように、小文字のイタリック体文字によって指定される。特定の遺伝子が由来する微生物を明示するために、遺伝子の名称には、属および種を示す2つの文字が前に付き得る。たとえば、KmURA3遺伝子はクルイベロミセス・マルシアナス(Kluyveromyces marxianus)に由来し、ScURA3遺伝子はサッカロミセス・セレビシエに由来する。
【0026】
「酵母」は、ある条件下で単細胞状態で成長可能な任意の真菌微生物を意味する。酵母菌株には、飢餓下などのある条件下で菌糸状態または擬菌糸(すなわち短い菌糸)状態で成長できるものもある。
【0027】
「乳酸」または「D-LAC」または「D-乳酸」は、乳酸が、乳酸塩など、その塩を含むことを意味する。「遺伝子操作」または「遺伝子操作された」は、1つまたは複数の遺伝子修飾を細胞に導入する行為、またはそれによって作製される細胞を意味する。
【0028】
「遺伝子修飾」は、細胞の遺伝子材料の特性または構造における人工的な改変を意味する。遺伝子修飾は、親細胞の遺伝子材料に対して、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、付加、挿入、または欠失のために、ポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドを細胞に導入すること、または親細胞の遺伝子材料の化学修飾を含む。
【0029】
「親細胞」または「親」または「親の」は、起源細胞、または特定の遺伝子修飾を有しない細胞を意味し、増大されたまたは減少された活性または生産を有する遺伝子操作された細胞を作製するための出発材料として使用され得る。
【0030】
「野性型」は、特定の遺伝子修飾を有しないポリペプチドまたはポリヌクレオチドを意味する。「形質転換体」は、線状または環状いずれかの、自己複製であるかまたはそうでない望ましいDNA配列を、宿主または親株に導入することから生じる細胞または菌株を意味する。
【0031】
「突然変異」は、天然または親のDNA配列からの任意の変化、たとえば、1つまたは複数の塩基対の逆位、複製、挿入、1つまたは複数の塩基対の欠失、未成熟終止コドンを作る塩基の変化を引き起こす点突然変異、またはその位置でエンコードされるアミノ酸を変化させるミスセンス突然変異を意味する。
【0032】
「突然変異体」は、天然、野性型、親、または前駆体株と比較して、1つまたは複数の突然変異を含む菌株を意味する。
【0033】
「カセット」は、宿主微生物に導入された場合、1つまたは複数の望ましいタンパク質もしくは酵素をエンコードする、生産する、もしくは過剰生産する、または代替的に、1つまたは複数の望ましいタンパク質もしくは酵素の活性を除去するもしくは低減することができるデオキシリボ核酸(DNA)配列を意味する。タンパク質または酵素を生産するカセットは典型的に、少なくとも1つのプロモータ、少なくとも1つのタンパク質コード配列、および任意選択で少なくとも1つの転写ターミネータを含む。カセットは、環状であり得るプラスミドに組み込むことができるか、またはカセットは、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)、プライマ伸長PCRによって、またはDNA断片の末端間のin vivoもしくはin vitro相同組換えによって作られる線状DNAであり得、カセットのそれぞれは、望ましい最終カセットのサブセットであり、ここで、各サブセット断片は、末端のいずれかまたは両端に、in vivoまたはin vitroのいずれかでの相同組換えによって、隣接する断片の結合をもたらすように設計された重複相同性を有する。カセットは、組み込まれると、約30塩基対以上の直接反復配列(組み込まれる選択遺伝子の両末端に存在する同じ方向の配列)によって囲まれる選択マーカ遺伝子またはDNA配列を含むように設計することができ、選択マーカは、選択マーカを含有する初期のカセットが染色体またはプラスミドに組み込まれた後、直接反復間での相同組換え(「ループアウト」としても公知である)によって削除することができるようにする。有用な選択マーカ遺伝子は、抗生物質G418耐性(kanまたはkanR)、ハイグロマイシン耐性(hygまたはhygR)、ゼオシン耐性(zeoまたはzeoR)、ナチュリシン耐性(natまたはnatR)、ならびにURA3、TRP1、TRP5、LEU2、およびHIS3などの生合成遺伝子を含むが、これらに限定されない。選択マーカとして使用される生合成遺伝子に関して、宿主株は、対応する遺伝子における突然変異、好ましくは非復帰性ヌル突然変異を含有しなくてはならない。たとえば、選択マーカ遺伝子としてURA3が使用される場合、形質転換される株は表現型がura3でなけらばならない。
【0034】
「プラスミド」は、染色体より実質的に小さく、微生物の染色体から分離されており、染色体とは別々に複製する線状または環状DNA分子を意味する。プラスミドは、1細胞当たり約1コピーで、または1細胞当たり1より多いコピーで存在することができる。微生物細胞内のプラスミドの維持には通常、たとえば、染色体栄養要求性の相補性または抗生物質耐性遺伝子を使用して、プラスミドの存在のために選択する培地において成長させることが必要である。
【0035】
「染色体」または「染色体の」は、プラスミドより実質的に大きい線状または環状DNA分子を意味し、通常、いかなる抗生物質または栄養の選択も必要としない。
【0036】
「破壊」は、遺伝子もしくはコード領域によってエンコードされた酵素もしくはタンパク質が生産されないようにすること、または同じもしくは同様の成長条件下で、宿主微生物において、宿主微生物の野性型版で見出されるレベルより低いレベルで生産されるようにすることを意味する。
【0037】
「過剰発現」は、遺伝子もしくはコード領域によってエンコードされた酵素もしくはタンパク質が、宿主微生物において同じもしくは同様の成長条件下で、宿主微生物の野性型版で見出されるレベルより高いレベルで生産されるようにすることを意味する。
【0038】
「ギブソン法」は、その末端で短い(約15~40塩基対)重複相同性を有する2つ以上の線状DNA断片をin vitroで結合するための方法を意味する。
この方法を使用して、合成線状DNA断片、PCR断片、または制限酵素によって生成された断片から、プラスミドを構築することができる。
キット、たとえばNEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit(New England BioLabs、Ipswitch、米国、マサチューセッツ州)を購入し、製造者の指示通りに使用して、ギブソン法を実施することができる。
【0039】
「力価」は、発酵ブロス中の化合物の濃度を意味し、通常、1リットル当たりのグラム(g/L)または体積当たりの重量%(%)で表される。
【0040】
本発明の理解を容易にするため、様々な遺伝子を表1に列挙する。
表1 遺伝子の名称および説明
【表1】
【0041】
別段の指定がない限り、本発明における組換えDNAおよび遺伝子操作は、当技術分野で周知である方法および材料を用いて行われた。プラスミドおよび線状DNAカセットは、製造者のプロトコルに従って「ギブソン法」を用いて、または上述したようにin vivo相同組換えによって組み立てられた。
【0042】
DNA配列を欠失させるために、または発現カセットを組み込むために、大腸菌において複製し得るプラスミド上にカセットを組み立てるために、またはカセットの2つ以上サブセクションを共形質転換することによって標的酵母菌株においてin vivoでカセットを組み立てるために、一般に使用した方法であって、隣り合うサブセクションは、結合される末端の塩基対、および染色体標的配列と相同的である、組み立てられたカセットの末端の塩基対を、重複させるように設計されている、方法。クルイベロミセスsp.における組み込みに関して本明細書で説明されるカセットのすべては、酵母URA3遺伝子(典型的にはScURA3遺伝子または天然KmURA3遺伝子)を発現するように設計されたのであり、レシピエント宿主微生物は、典型的に天然KmURA3遺伝子座での欠失によって、非復帰性ura3-表現型を有する。後の操作ステップにおいてURA3+選択を再利用するために、各カセットにおいて、直接反復DNA配列によってURA3遺伝子は囲まれており、直接反復DNA配列は、上記直接反復DNA配列間の相同組換えによって、第2のステップにおいて、5'-フルオロオロチン酸(5'-FOA)を含有する最少培地上でURA3遺伝子に対して選択することによって、組み込み後にカセットからURA3遺伝子を削除することを可能にする。
【0043】
したがって、組み込みのための破壊カセットの一般的な設計は、以下の順序で、以下の特徴、1)望ましい組み込み標的部位のすぐ上流にある標的染色体配列に相同的である塩基対の配列「Up」、2)望ましい欠失終点のすぐ下流にある標的染色体配列に相同的である塩基対の配列「Down」、3)URA3遺伝子などの選択マーカ遺伝子(および任意選択で対抗選択可能な)、4)欠失されることが望ましい染色体標的配列の少なくとも一部に相同的である塩基対の配列「Middle」を有する。形質転換および選択をすると、組み立てられたカセットは、「Up」配列と「Middle」配列との間の相同二重組換えによって染色体標的部位に組み込まれる。適正な組み込みを含有する形質転換体は、適正な期待されるサイズの上流および下流ジャンクション断片の両方を示す診断PCRによって識別される。第2のステップにおいて、選択マーカ遺伝子は、対抗選択、および、カセットの内側の「Down」配列と、組み込まれたカセットの下流に論理的に存在する染色体における「Down」と相同的である配列との間の相同組換えによって「ループアウト」される。
【0044】
他方で、組み込みのための発現カセットの一般的な設計は、以下の順序で、以下の特徴、1)望ましい組み込み標的部位のすぐ上流にある標的染色体配列に相同的であるより多くの塩基対の配列「Up」、2)組み込まれるように設計された配列、たとえば、プロモータ-ORF-ターミネータの組み合わせ、3)望ましい欠失終点のすぐ下流にある標的染色体配列に相同的である塩基対の配列「Down」、4)URA3遺伝子などの選択マーカ遺伝子(および任意選択で対抗選択可能な)、5)欠失されることが望ましい染色体標的配列の少なくとも一部に相同的である塩基対の配列「Middle」を有する。
同時の挿入なく標的染色体配列が欠失されることが意図される場合、上述の一般的な設計の第2の断片2)は省かれる。適正な組み込みを含有する形質転換体は、適正な期待されるサイズの上流および下流ジャンクション断片の両方を示す診断PCRによって識別される。第2のステップにおいて、選択マーカ遺伝子は、対抗選択、および、カセットの内側の「Down」配列と、組み込まれたカセットの下流に論理的に存在する染色体における「Down」と相同的である配列との間の相同組換えによって「ループアウト」される。
【0045】
以下、発明実施形態が、本発明の任意の範囲を限定するいかなる目的もなしに、示される。
【0046】
本発明は、遺伝子操作されたクルイベロミセスsp.酵母細胞に関し、前記酵母細胞は、アミノ酸配列識別番号2のためにエンコードするヌクレオチド配列を不活性化または欠失させる少なくとも遺伝子修飾を含む。
【0047】
一実施形態において、本発明による遺伝子操作されたクルイベロミセスsp.酵母細胞は、酸反応性転写因子Haa1であるアミノ酸配列識別番号2をエンコードするヌクレオチド配列を含む。
【0048】
一実施形態において、本発明による遺伝子操作されたクルイベロミセスsp.酵母細胞は、その親と比較して乳酸耐性を増大させる遺伝子修飾を含む。
【0049】
一実施形態において、本発明による遺伝子操作されたクルイベロミセスsp.酵母細胞は、その親と比較して乳酸生産を増大させる遺伝子修飾を含む。
【0050】
一実施形態において、本発明による遺伝子操作されたクルイベロミセスsp.酵母細胞は、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロミセス・マルシアナス、またはクルイベロミセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)から選択することができる。
【0051】
別の実施形態において、本発明による遺伝子操作されたクルイベロミセスsp.酵母細胞は、乳酸生産のための発酵処理のすべてにおいて使用することができる。
【0052】
乳酸耐性および乳酸生産に対するKmHAA1遺伝子の効果を評価するために、HAA1遺伝子の破壊および過剰発現のための遺伝子修飾を検討し、また、親株に対する結果と比較した。結果を図3~6に示す。
【0053】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するために提供されるが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0054】
乳酸耐性に対するKmHAA1遺伝子の破壊効果を確認するために、本発明においては、2株のK.マルシアナス、D-LAC生産が可能なMYR2787、およびD-LAC生産が可能でないMYR2297を使用した。
【0055】
K.マルシアナス株MYR2297およびMYR2787のDNA形質転換のための方法
以下の化学ベースDNA形質転換法を、菌株MYR2297およびMYR2787のために改善されるように、Abdel-Banatら(Abdel-Banat、2010年)によって出版されているプロトコルから適合させた。菌株の多くは本明細書で説明される実施例において名づけられ、使用される。
【0056】
形質転換されることになる新鮮な菌株の単一コロニーを、1リットル当たり10gの酵母エキス、20gのペプトン、および3gのグルコースからなる5mLのYPD培地に植菌した。この出発培養物を、30℃で一晩、振盪培養器において飽和まで成長させた。
【0057】
その後、5mLの培養された酵母を、約4~5のOD600nmまで、30℃で約4~8時間の間中、振盪培養器において225rpmで、2%グルコースを有する45mLのYPD培地に植菌した。
【0058】
培養物の成長中、10mg/mlの一本鎖サケ精子(ssDNA)溶液を、サーマルサイクラにおいて10分間加熱することによって調製し、次いで氷水浴においてチューブを急冷した。エッペンドルフチューブを、チューブのそれぞれに10μlのssDNA溶液を、続いて菌株への形質転換用の5~10μlの実験的DNAを加えることによって、各個別の形質転換のために調製した。理想的には、実験的DNAの濃度は、1プラスミド当たり約500~1,000ngのDNAであるべきである。
【0059】
PEG 3350(40%ポリエチレングリコール)、2Mの酢酸リチウム(LiAc)、および1Mのジチオトレイトール(DTT)の最終濃縮物を含有する、形質転換のための細胞を化学的に調製するための滅菌形質転換混合物(TM)を調製する。実行する際には、このTMは、3つの保存液を形質転換の当日に混ぜ合わせることによって調製される。1mL当たりのTMの組成は、800μlの50%PEG 3350、100μlの2MのLiAc、および100μlの1MのDTTであった。
【0060】
形質転換される培養物が約4~5のOD600に達すると、細胞を7500rpmで5分間、室温にて遠心分離した。上清を流し捨て、細胞ペレットを、1mLのTMに再懸濁し、同じ条件下でもう一度遠心分離した。上清をマイクロピペットを用いて取り除き、1mLのTMに再懸濁した。後のステップのために、15μlの混合DNAおよび細胞懸濁液のアリコート85μl部を形質転換チューブのそれぞれに加え、約1~2分間、完全に混合した。チューブを42℃の水浴中に載置すること、または1時間加熱ブロックすることによって、各形質転換に熱ショックを与える。
【0061】
熱ショックを与えた後、次いで、最高速度で、ウラシルを除いたCM培地1mLを用いて微量遠心管中で細胞をペレット化し、すすいだ。各形質転換の細胞を遠心沈殿し、上清をピペットで取り除いた。各ペレットを、ウラシルを除いた新鮮なCM培地1mLで再懸濁し、100μlの細胞懸濁液を、ウラシルを除いたCM培地を含有するプレートに播種した。コロニーが現れるまで、典型的には2~4日間、プレートを30℃でインキュベートした。
【0062】
Δhaa1破壊を持つ菌株MYR2297(MYR2297 Δhaa1)の構築
表2 成長培地の組成。列挙されるすべての量は1リットル当たりである。ペトリ皿に関して、20g/Lの寒天を加えた。
【表2】
*1000X微量元素、リットル当たり:1.6gのFeCl・6HO、0.1gのCuCl・2HO、0.2gのZnCl、0.05gのHBO、0.55gのMnCl・4HO、10mLの85%リン酸
【0063】
出発株は、ウラシル栄養要求性酵母菌株、および野性型HAA1遺伝子、すなわちMYR2297 HAA1を有するK.マルシアナスであった。プラスミドpHAA1del2上に構築した破壊カセットを組み込むことによって、HAA1遺伝子を欠失させた。破壊カセットは、1)「HAA Up」配列、2)「HAA Down」配列、3)選択マーカとしてScURA3配列、および4)「HAA MID」配列で構成される。pHAA1del2の構造を示す略図は図1において与えられ、その配列は配列識別番号1として与えられる。KmHAA1欠失の手順は図2において与えられる。相同組換えによって、アミノ酸配列識別番号2のためにエンコードする標的HAA1遺伝子座で組み込まれるように破壊カセットを設計した。ScURA3遺伝子から選択することによって、ウラシルを除いたCM培地上で破壊株を選択した。次いで、5'-FOAを含有する培地上で下流フランクの直接反復間の相同組換えによってURA3遺伝子をループアウトした。次いで、得られた単一コロニーを、必要に応じて1回または複数回、再画線し、背景細胞から適正な菌株を離し、ヘテロ接合二倍体を除去した。カセットの末端と、組み込まれたカセットのすぐ上流またはすぐ下流にある、標的遺伝子座での染色体配列との間の境界を挟む適切なプライマを使用するPCRによって、適正な挿入および適正なループアウトを識別した。PCR診断では、適正に組み込まれたホモ接合二倍体から、一倍体に組み込まれたカセットを適正に区別することができなかったため、この区別は構築のいかなるステップでもされなかった。ループアウトが確認された後、テンプレートとしてのK.マルシアナス野性型株染色体DNAからPCRによって得られた線状DNA断片の形質転換によって、天然KmURA3遺伝子を再導入し、ウラシルを除いたCMプレート上で選択することによってウラシル原栄養株を得た。得られた菌株は、この時点でHAA1遺伝子の破壊を含有し、MYR2297 Δhaa1と名づけられた。
【0064】
Δhaa1破壊を持つ菌株MYR2787(MYR2787 Δhaa1)の構築
出発株は、ウラシル栄養要求性酵母菌株、およびD-LAC生産が可能な野性型HAA1遺伝子、すなわちMYR2787 HAA1を有するK.マルシアナスであった。MYR2787 HAA1の構築を以下に説明する。EcldhA遺伝子を発現するように設計された3つの異なるカセットをプラスミド上に構築した。3つすべての場合において、KmPDC1プロモータからldhA遺伝子が発現された。3つのEcldhAカセットを設計し、相同組換えによって、KmPDC1、KmGPP1、およびKmNDE1遺伝子座である標的遺伝子座において挿入した。ScURA3遺伝子から選択することによって、ウラシルを除いたCM培地上で破壊株を選択した。次いで、5'-FOAを含有する培地上で下流フランクの直接反復間の相同組換えによってURA3遺伝子をループアウトし、後の形質転換のためにURA3遺伝子を再利用した。各形質転換ステップおよび各ループアウトステップで、単一コロニーを、必要に応じて1回または複数回、再画線し、背景細胞から適正な菌株を離し、ヘテロ接合二倍体を除去した。カセットの末端と、組み込まれたカセットのすぐ上流またはすぐ下流にある、標的遺伝子座での染色体配列との間の境界を挟む適切なプライマを使用するPCRによって、適正な挿入および適正なループアウトを識別した。PCR診断では、適正に組み込まれたホモ接合二倍体から、一倍体に組み込まれたカセットを適正に区別することができなかったため、この区別は構築のいかなるステップでもされなかった。菌株MYR2297で出発し、3つのldhAカセットを、上述で列挙した順序で1つずつ導入した。カセットの最初の組み込みが終わる毎に、5'-FOA対抗選択によってURA3遺伝子をループアウトした。このようにして第3のカセットが導入された後、テンプレートとしてのK.マルシアナス野性型株染色体DNAからPCRによって得られた線状DNA断片の形質転換によって、天然KmURA3遺伝子を再導入し、ウラシルを除いたCMプレート上で選択することによってウラシル原栄養株を得た。得られた菌株は、この時点で、組み込まれたldhA遺伝子を3コピー含有し、MYR2787 HAA1と名づけられた。
【0065】
MYR2297 Δhaa1の構築において上で説明されたのと同じ手順で、HAA1の破壊カセットを、相同組換えによって標的遺伝子座において組み込まれるように設計した。得られたD-LAC生産株は、この時点でHAA1遺伝子の破壊を含有し、MYR2787 Δhaa1と名づけられた。
【0066】
HAA1過剰発現を持つ酵母菌株(MYR2787 2X HAA1)の構築
ldhA発現カセットに交換することによって、菌株MYR2287に組み込まれるようにHAA1過剰発現カセットを設計した。プラスミドは、以下の順序で、以下の特徴、1)強力な構成的プロモータ、2)HAA1コード領域、3)ターミネータ、4)選択マーカとしてのScURA3、5)ldhA遺伝子座の中間配列への相同性を有する。3つのldhA発現遺伝子座のうちのいずれか1つに組み込まれることが可能なようにカセットは設計されたが、GPP1遺伝子座でHAA1過剰発現カセットが交換された組み込みがさらなる考察のために選択された。得られたD-LAC生産株は、この時点で、GPP1遺伝子座において、ldhA発現カセットの代わりにHAA1発現カセットを含有し、MYR2787 2X HAA1と名づけられた。
【0067】
乳酸補足培地上での酵母成長の比較
低pH条件で上述のとおりに得られたすべての酵母菌株の成長能力を決定し、比較するために、MYR2297 HAA1、MYR2297 Δhaa1、MYR2787 HAA1、MYR2787 Δhaa1 、およびMYR2787 2X HAA1における菌株を、0.5%、1.0%、1.5%、および2.0%w/vのL-乳酸なしならびにありで、ウラシルを除いたCM培地において培養した。各培地における出発pHはそれぞれ、3.5、2.7、2.5、2.4、および2.3であった。すべての固形培地は、2%の寒天を含有した。同じ寒天プレート上で互いに横並びで10cellから出発し、30℃で2日間インキュベートして、段階10倍希釈をスポットすることによって、酵母菌株間での成長の差異の定量的比較を行った。
【0068】
BioLector 2リットルにおける酵母成長およびD-LAC生産の比較
酵母の成長能力およびD-LAC生産を決定し、比較するために、MYR2787 HAA1、MYR2787 Δhaa1、およびMYR2787 2X HAA1のD-LAC生産株を、BioLectorミニ発酵槽でフラワープレートにおいて培養した。MYR2787 HAA1、MYR2787 Δhaa1、およびMYR2787 2X HAA1の酵母菌株の単一コロニーを、チューブに入った5mLのウラシルを除いたCMに個別に植菌し、速度率200rpmで12~18時間回転インキュベーションを用いることによって37℃でインキュベートした。その後、0.1mLの植菌材料を、0.1~0.2の出発OD600nmおよびpH6.0~6.2で、BioLector培養プレート中の0.9mLのSDM2培地(表2に示されるような)に植菌した。フラワープレートをそれぞれ、速度率1200rpmおよび37℃で48時間振盪させ、インキュベートした。実験の間、湿度を50~80%で制御して水分蒸発を除去した。発酵の間、pHは制御しなかった。したがって、D-LAC生産に起因して、各培養物のpHは発酵に沿って低下していった。培養が開始すると、30分毎にバイオマスをOD600nmで自動的に測定した。48時間後、実験を停止した。各菌株の細胞質量を遠心分離によって遠心沈殿させた。上清を回収し、乳酸含有量の量を分析した。
【0069】
図3および図4に示すように、Δhaa1破壊を有するすべての酵母細胞(MYR2297 Δhaa1およびMYR2787 Δhaa1)は、低pH条件で、その成長を親株と比較して向上した。それに加えて、図4に示すように、HAA1遺伝子の過剰発現を有する酵母細胞(MYR2787 2X HAA1)は、低pH条件で、親株と比較して感受性の応答を示した。これらの結果により、Δhaa1破壊を有する酵母細胞は、親株と比較して乳酸耐性を増大したことが例示される。
【0070】
図5に示すように、親株(MYR2787 HAA1)およびHAA1遺伝子の過剰発現を有する酵母細胞(MYR2787 2X HAA1)の成長は、培養の12時間後停止し、一方でΔhaa1破壊を有する酵母細胞(MYR2787 Δhaa1)の成長は継続された。これは、Δhaa1破壊を有する酵母細胞(MYR2787 Δhaa1)が、低pH条件において成長能力を向上することを示す。この結果により、Δhaa1破壊を有する酵母細胞は、親株と比較して乳酸耐性を増大したことがはっきりと確認される。
【0071】
図6に示すように、MYR2787親細胞(MYR2787 HAA1)、Δhaa1破壊を持つMYR2787(MYR2787 Δhaa1)、およびHAA1過剰発現を持つMYR2787(MYR2787 2X HAA1)によって48時間で生産されたD-LAC力価はそれぞれ、3.8g/L、7.5g/L、および0.8g/Lであった。この結果により、Δhaa1破壊を有する酵母細胞(MYR2787 Δhaa1)は、親株と比較して、pHを制御することなく乳酸生産を向上することが明白に実証される。他方で、HAA1遺伝子の過剰発現を有する酵母細胞(MYR2787 2X HAA1)は、親株、およびΔhaa1破壊を有する酵母細胞(MYR2787 Δhaa1)より少ない乳酸を生産した。
【0072】
上述のすべての実施例の結果から、発明の概要において言及したような、向上した乳酸耐性、乳酸生産、またはそれらの組み合わせを有する、本発明において発見されたΔhaa1破壊を有する遺伝子操作された酵母細胞が示される。本発明は最初の発見である。
【0073】
[発明の最良の形態]
本発明の最良の形態は、詳細な説明において開示されているとおりである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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