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特許7452918マクロファージの製造方法、分化誘導剤、分化誘導キット、マクロファージの分化誘導方法、マクロファージの増殖促進剤、マクロファージの増殖促進キット、マクロファージの増殖方法及びマクロファージ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】マクロファージの製造方法、分化誘導剤、分化誘導キット、マクロファージの分化誘導方法、マクロファージの増殖促進剤、マクロファージの増殖促進キット、マクロファージの増殖方法及びマクロファージ
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0786 20100101AFI20240312BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20240312BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N5/0786
C12N5/0789
C12M3/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023569552
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2022047472
(87)【国際公開番号】W WO2023120673
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2021208420
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】原 博満
(72)【発明者】
【氏名】松本 信英
(72)【発明者】
【氏名】豊永 憲司
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523814(JP,A)
【文献】特表2021-513329(JP,A)
【文献】特開2017-136014(JP,A)
【文献】特表2018-522556(JP,A)
【文献】Nature Communications,2021年04月,Vol.12, No.1,Article No.2299
【文献】The Journal of Immunology,2010年,Vol.184, pp.6522-6528
【文献】Diabetes,2015年,Vol.64,pp.117-127
【文献】BMC Immunology,2021年05月,22:30
【文献】Cell,2019年,Vol.178,pp.686-698
【文献】Cell,2017年,Vol.169,pp.1276-1290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下、かつリゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤存在下で骨髄細胞を培養する培養ステップを含む、
マクロファージの製造方法。
【請求項2】
前記骨髄細胞を培養する細胞培養容器の表面が、
前記TREM2シグナル活性化剤でコートされている、
請求項1に記載のマクロファージの製造方法。
【請求項3】
リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤を含み、かつマクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子のいずれも含まない、
骨髄細胞からマクロファージへの分化誘導剤。
【請求項4】
リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤で表面がコートされた細胞培養容器を備え、
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下での骨髄細胞の培養で使用される、
骨髄細胞からマクロファージへの分化誘導キット。
【請求項5】
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下、かつリゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤存在下で骨髄細胞を培養する培養ステップを含む、
マクロファージの分化誘導方法。
【請求項6】
リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤を含み、かつマクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子のいずれも含まない、
マクロファージの増殖促進剤。
【請求項7】
リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤で表面がコートされた細胞培養容器を備え、
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下でのマクロファージの培養で使用される、
マクロファージの増殖促進キット。
【請求項8】
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下、かつリゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤存在下でマクロファージを培養する培養ステップを含む、
マクロファージの増殖方法。
【請求項9】
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子のいずれも含まず、かつリゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤を含む培地で骨髄細胞を培養することで、TREM2依存的に分化が誘導された、
マクロファージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージの製造方法、分化誘導剤、分化誘導キット、マクロファージの分化誘導方法、マクロファージの増殖促進剤、マクロファージの増殖促進キット、マクロファージの増殖方法及びマクロファージに関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージは感染防御及び組織恒常性の維持に寄与する白血球細胞である。生体におけるマクロファージは、骨髄の造血幹細胞に由来し、その分化にはマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の刺激が必要とされている。実際、マウスの骨髄細胞をin vitroでM-CSFの存在下で培養することで、単球とマクロファージの性質を有する細胞(Bone marrow derived macrophage:BMDM)を分化誘導する手法が確立されている。BMDMは、in vitroにおけるマクロファージの研究ツールとして広く利用されている。
【0003】
BMDMには、i)誘導に使用するM-CSFが高価であるため、BMDMを大量培養する際のコストが大きくなる、ii)一週間程度しか生存することができない、iii)分化後は増殖が止まるため、一回の培養で得られる細胞数が限定される、iv)上記iii)のために凍結保存後に融解して再培養ができない、等の問題がある。BMDM以外にも、げっ歯類及びヒト由来の様々なマクロファージ細胞株がin vitro研究で頻繁に使用されている。これらの細胞には上記のi)~iv)の問題は存在しないが、腫瘍細胞であるため生体への投与等のin vivo試験での使用が制限される。
【0004】
M-CSFを使用せずに単球からマクロファージを分化誘導する分化誘導剤として、特許文献1には、アンジオテンシンII受容体拮抗作用及びペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ活性化作用を有する化合物を含有する分化誘導剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-47125号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hadas Keren-Shaul,外13名,「A Unique Microglia Type Associated with Restricting Development of Alzheimer’s Disease」,Cell,2017年,169,1276-1290
【文献】Diego Adhemar Jaitin,外22名,「Lipid-Associated Macrophages Control Metabolic Homeostasis in a Trem2-Dependent Manner」,Cell,2019年,178,686-698
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、当該分化誘導剤によって得られるマクロファージの生存期間、分化後は増殖特性及び凍結保存の可否等は検討されていない。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、生存期間及び増殖期間が長く、凍結保存が可能で、研究ツールとして汎用性の高いマクロファージが得られるマクロファージの製造方法、分化誘導剤、分化誘導キット、マクロファージの分化誘導方法、マクロファージの増殖促進剤、マクロファージの増殖促進キット及びマクロファージの増殖方法を提供することを目的とする。また、本発明は、生存期間及び増殖期間が長く、凍結保存が可能で、研究ツールとして汎用性の高いマクロファージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
疾患発症時には免疫細胞のリモデリングが生じて特殊な形質のマクロファージ集団が組織内に出現し、疾患の増悪又は抑制に重要な役割を担っていることが明らかになっている。例えば、アルツハイマー病のモデルマウスの脳には、特殊な性格を示す活性化ミクログリア(Disease-associated microglia:DAM)が出現する(非特許文献1参照)。また、高脂肪食負荷により生活習慣病を発症したマウスの脂肪組織には定常時には存在しないマクロファージ集団(Lipid-associated macrophage:LAM)が出現する(非特許文献2参照)。DAM及びLAMは脂質認識受容体であるTREM2(triggering receptor expressed on myeloid cells 2)に特徴的に高発現する分子の1つである。非特許文献1及び2には、これらの疾患関連マクロファージの誘導にTREM2が深く関わることが示されている。
【0010】
本発明者は、骨髄細胞をTREM2シグナル活性化剤で刺激することでマクロファージ様の細胞が出現することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
(マクロファージの製造方法)
本明細書に記載されたマクロファージの製造方法は、
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下、かつリゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤存在下で骨髄細胞を培養する培養ステップを含む。
【0015】
前記骨髄細胞を培養する細胞培養容器の表面が、
前記TREM2シグナル活性化剤でコートされていることとしてもよい。
【0018】
(マクロファージへの分化誘導剤)
本明細書に記載された骨髄細胞からマクロファージへの分化誘導剤は、
リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤を含み、かつマクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子のいずれも含まない
【0019】
(マクロファージへの分化誘導キット)
本明細書に記載された骨髄細胞からマクロファージへの分化誘導キットは、
リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤で表面がコートされた細胞培養容器を備え
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下での骨髄細胞の培養で使用される。
【0020】
(マクロファージの分化誘導方法)
本明細書に記載されたマクロファージの分化誘導方法は、
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下、かつリゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤存在下で骨髄細胞を培養する培養ステップを含む。
【0021】
(マクロファージの増殖促進剤)
本明細書に記載されたマクロファージの増殖促進剤は、
リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤を含み、かつマクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子のいずれも含まない
【0022】
(マクロファージの増殖促進キット)
本明細書に記載されたマクロファージの増殖促進キットは、
リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤で表面がコートされた細胞培養容器を備え
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下でのマクロファージの培養で使用される。
【0023】
(マクロファージの増殖方法)
本明細書に記載されたマクロファージの増殖方法は、
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の非存在下、かつリゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤存在下でマクロファージを培養する培養ステップを含む。
【0025】
本明細書に記載されたマクロファージは、
マクロファージコロニー刺激因子及び顆粒球マクロファージ刺激因子のいずれも含まず、かつリゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びミコール酸からなる群から選択されるTREM2シグナル活性化剤を含む培地で骨髄細胞を培養することで、TREM2依存的に分化が誘導されたマクロファージである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、生存期間及び増殖期間が長く、凍結保存が可能で、研究ツールとして汎用性の高いマクロファージが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】マウス骨髄細胞から分化誘導したマクロファージの画像を示す図である。(A)は、脳脂質で分化誘導したマクロファージの画像を示す。(B)はM-CSFで分化誘導したマクロファージの画像を示す。
図2】試験例2に係るフローサイトメトリーによる解析で得られたドットプロットを示す図である。
図3】試験例2に係るフローサイトメトリーによる解析で得られた表面抗原の単変量ヒストグラムを示す図である。
図4】試験例3に係る単位培養面積当たりの脳脂質の質量に対する細胞数を示す図である。
図5】試験例4に係る細胞数の経時変化を示す図である。(A)の上段は培養0~21日後の細胞数を示す。(A)の下段は0日目の細胞数を1とした培養0~21日後における細胞数の増加倍率を示す。(B)の上段は培養0~544日後の細胞数を示す。(B)の下段は0日目の細胞数を1とした培養0~544日後における細胞数の増加倍率を示す。(C)は脳脂質存在下又は非存在下で培養したマクロファージの細胞数を示す。
図6】試験例5に係る凍結保存後に融解したマクロファージの細胞数の経時変化を示す図である。
図7】試験例6に係る脳脂質での刺激後のマクロファージ数を示す図である。(A)は混合培養されたLin陽性細胞及びLin陰性細胞から分化したマクロファージ数を示す。(B)はそれぞれ単独で培養されたLin陽性細胞及びLin陰性細胞から分化したマクロファージ数を示す。
図8】試験例7に係る各マウス骨髄細胞を分化誘導後の生細胞数を示す図である。
図9】試験例8に係るTREM2レポーター細胞を用いたリガンド活性を示す図である。
図10】試験例8に係るマウス骨髄細胞を被験物質で分化誘導後の生細胞数を示す図である。
図11】試験例9に係るマクロファージの貪食能を示す図である。
図12】試験例10に係るマクロファージのリポ多糖(LPS)刺激に対するサイトカイン産生応答を示す図である。(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)は、それぞれmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)、TNF-α、IL-6、IL-10及び一酸化窒素(NO)の濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
【0033】
本実施の形態に係るマクロファージの製造方法は、TREM2シグナル活性化剤存在下で造血系前駆細胞を培養する培養ステップを含む。TREM2はアダプター分子であるDAP12(DNAX-activating protein of 12kDa)と会合するイムノグロブリンスーパーファミリー受容体である。TREM2シグナル活性化剤は、TREM2に特異的に結合し、DAP12を介したシグナルを生成する物質であれば任意である。
【0034】
TREM2シグナル活性化剤は、例えば、TREM2アゴニスト活性若しくはDAP12アゴニスト活性を有する、抗体若しくはその抗原結合断片又は化合物、及びTREM2のリガンド等である。抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。また、抗体は、ヒト型キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体であってもよい。本明細書における抗体は抗体の抗原結合を含む。抗原結合断片は、抗体の一部分(部分断片)を含むタンパク質又はペプチドであって、抗体の抗原への作用結合性を保持し、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fab3、一本鎖Fv(scFv)、(タンデム)バイスペシフィック一本鎖Fv(sc(Fv)2)、一本鎖トリプルボディ、ナノボディ、ダイバレントVHH、ペンタバレントVHH、ミニボディ、(二本鎖)ダイアボディ、タンデムダイアボディ、バイスペシフィックトリボディ、バイスペシフィックバイボディ、デュアルアフィニティリターゲティング分子(DART)、トリアボディ(又はトリボディ)、テトラボディ(又は[sc(Fv)2]2)、若しくはジスルフィド結合Fv(dsFv)、又はそれらの重合体を挙げることができる(Nature Biotechnology, 29(1):5-6 (2011);Maneesh Jain et al., TRENDS in Biotechnology, 25(7)(2007):307-316、及びChristoph steinら、Antibodies(1):88-123(2012)参照)。
【0035】
TREM2シグナル活性化剤は、例えば、TREM2のリガンド又は脂質である。脂質とは、水に不溶性で有機溶媒に易溶性の有機化合物である。脂質は特に制限がなく、常温で液体であっても、固体であってもよい。脂質としては、例えば、スフィンゴ糖脂質、リン脂質、硫酸化糖脂質及び脂肪酸等が挙げられる。好ましくは、脂質は2本の長鎖脂肪基を有する脂質である。長鎖脂肪酸基としては、炭素数6~60又は10~50の脂肪酸基が挙げられ、各長鎖脂肪酸基の炭素鎖を構成する炭素の数は同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。好ましくは、脂質として、2-テトラデシルヘキサデカノン酸(2-tetradecylhexadecanoic acid)(THA)、β-グルコシルセラミド(β-GluCer)、α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)、ホスファチジルコリン(PC)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、スルファチド(Sulf)及びミコール酸(MA)等が例示される。TREM2シグナル活性化剤は、複数種の脂質の混合物であってもよく、例えば脳等の動物由来の組織、植物由来の組織、細菌等の微生物から有機溶媒を用いて抽出した全脂質又はTREM2に結合する合成脂質であってもよい。TREM2シグナル活性化剤の一態様として、細胞表面に脂質を有する細胞又は微生物が挙げられる。好適には、TREM2シグナル活性化剤は、脳由来の脂質又はMAである。
【0037】
TREM2シグナル活性化剤は、式(I)で示される化合物、そのエステル又はその塩であってもよい。当該化合物1分子の炭素数は例えば60~90個又は70~80個である。Rは飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基を表す。Rの炭素数は、例えば6~60個、10~50個、20~40個、22~30個又は22~26個である。Rは環状構造又は置換基を有してもよい飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基を表す。Rの炭素数は、例えば6~60個、10~50個、20~40個、22~30個又は22~26個である。環状構造を構成する炭素数は例えば3~6個である。環状構造は、シクロアルキレン基としてRに含まれてもよいし、シクロアルキル基としてRに含まれてもよい。Rに、環状構造が1~数個含まれていてもよい。置換基は、特に限定されず、メチル基、ヒドロキシ基、カルボニル基及びカルボキシル基等である。
【0038】
【化1】
【0039】
上記式(I)で示される化合物の塩は、薬理学的に許容される塩であれば特に限定されず、酸性塩及び塩基性塩のいずれであってもよい。塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素塩、硫酸塩、硝酸塩及びリン酸塩等の無機酸塩、並びにギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、プロピオン酸塩、ヘキサン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、グリコール酸塩、ピルビン酸塩、乳酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、ジベンゾイル酒石酸塩、ジトルオイル酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸塩、桂皮酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、1,2-エタンジスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-クロロベンゼンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、アスパラギン酸塩、カンファースルホン酸塩、グルコヘプタン酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、トリメチル酢酸塩、第三級ブチル酢酸塩、ラウリル硫酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、トリフルオロ酢酸(TFA)塩、マレイン酸塩、二マレイン酸塩及びムコン酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
【0040】
上記式(I)で示される化合物のエステルは、薬理学的に許容されるエステルであれば特に限定されず、例えば、炭酸エステル、リン酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステル、ホウ酸エステル及びスルホン酸エステル等が挙げられる。なお、本実施の形態は、式(I)の化合物及びその塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質も包含する。
【0041】
TREM2シグナル活性化剤は、TREM2及びDAP12を発現させ、リガンドの結合によるTREM2のシグナルによってレポータータンパク質が発現する細胞を用いて選択してもよい。TREM2及びDAP12は、公知の方法、例えば遺伝子発現プラスミド等を細胞に導入することで細胞に発現させることができる。任意のレポータータンパク質が使用でき、レポータータンパク質としては、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)及び発光タンパク質ルシフェラーゼ等が挙げられる。TREM2のシグナルによって、NFAT(nuclear factor of activated T cells)型の転写因子に制御される遺伝子が発現することが知られている。よって、好ましくは、TREM2及びDAP12を発現させる細胞として、NFAT型の転写因子を有する細胞を使用すればよい。具体的には、NFAT型の転写因子で発現が制御される遺伝子としてレポータータンパク質をコードする遺伝子が導入された細胞にTREM2及びDAP12を発現させた細胞を、リガンドの評価に使用すればよい。
【0042】
造血系前駆細胞は、骨髄又は臍帯血に含まれる細胞である。造血系前駆細胞は、例えば骨髄系前駆細胞である。造血系前駆細胞として、骨髄から採取した骨髄細胞又は臍帯血から採取した単核細胞を使用してもよい。造血系前駆細胞としては、特にマクロファージ-樹状細胞前駆細胞(macrophage and dendritic cell progenitor;MDP)及び共通単球系前駆細胞(common monocyte progenitor;cMoP)が好ましい。
【0043】
培養ステップにおいて、造血系前駆細胞の濃度は、特に限定されないが、例えば、単位培養面積(cm)あたり1×10~1×10細胞又は1×10~1×10細胞が播種される。好ましくは、単位培養面積(cm)あたり1×10個の造血系前駆細胞が播種される。
【0044】
培養ステップでは、TREM2シグナル活性化剤を保持する細胞培養容器中で造血系前駆細胞を培養すればよい。細胞培養容器としては、例えば細胞培養プレート、細胞培養フラスコ及び細胞培養皿等が挙げられる。TREM2シグナル活性化剤が水に不溶性で液体培地に不溶である場合は、表面がTREM2シグナル活性化剤でコートされている細胞培養容器で造血系前駆細胞を培養すればよい。TREM2シグナル活性化剤として脳由来の脂質を使用する場合、細胞培養容器の表面をコートする脂質の質量は、例えば、1×10~1×10個の造血系前駆細胞に対して、1.0μg/cm以上で、1.5~20μg/cm、2~18μg/cm、3~16μg/cm、好ましくは3~12μg/cmである。細胞培養容器の表面をTREM2シグナル活性化剤でコートするには、有機溶媒等にリガンドを溶解(懸濁)し、細胞培養容器に加え、有機溶媒を乾燥させればよい。
【0045】
培養ステップでは、公知の培地を用いて細胞培養方法で細胞を培養すればよい。培養条件は、例えば37℃でCO濃度が5%である。培養中、培地を例えば、3~4日ごとに交換するのが好ましい。培養開始7~10日後頃からマクロファージ様の接着細胞が得られる。
【0046】
本実施の形態に係る製造方法で得られるマクロファージは、TREM2シグナル活性化剤で刺激する限り増殖性を維持し、培養可能な日数(生存期間)は少なくとも540日以上である。また、当該マクロファージを凍結保存後、融解して培養すると増殖性を維持しているため、当該マクロファージは凍結保存が可能である。さらに、当該マクロファージは、TREM2シグナル活性化剤非存在下で培養すると増殖が停止することから、腫瘍細胞ではなく、in vivoでの使用も限定されず、研究ツールとしての汎用性が高い。また、当該マクロファージは、がん等の疾患に対する細胞治療にも使用することができる。
【0047】
別の実施の形態では、マクロファージが提供され、当該マクロファージは、M-CSF及びGM-CSFのいずれも含まず、かつTREM2シグナル活性化剤を含む培地で造血系前駆細胞を培養することで、TREM2依存的に分化が誘導される。
【0048】
また、下記試験例4に示すように、M-CSFで骨髄細胞から誘導したBMDMは、M-CSFを含まない培地で継代培養したところ5日以降は増殖能を喪失したのに対し、当該マクロファージは、TREM2シグナル活性化剤存在下では培地にM-CSFを含まなくても、継代培養10日以降に増殖能を有していた。このため、別の実施の形態では、マクロファージが提供され、当該マクロファージは、誘導開始後又は凍結保存後に、M-CSF及びGM-CSFのいずれも含まず、かつTREM2シグナル活性化剤を含む培地での継代培養10日以降、好ましくは15日以降、20日以降、50日以降又は100日以降、より好ましくは200日以降、300日以降又は400日以降、さらに好ましくは500日以降に増殖能を有する。
【0049】
下記試験例5に示すように、凍結保存後に融解したBMDMはM-CSF存在下であっても増殖しなかったのに対し、融解した当該マクロファージはTREM2シグナル活性化剤の存在下で増殖した。このため、別の実施の形態では、凍結保存後に、M-CSF及びGM-CSFのいずれも含まず、かつTREM2シグナル活性化剤を含む培地で増殖能を有するマクロファージが提供される。凍結保存は、細胞の凍結保存で通常使用される温度であれば特に限定されず、例えば-80℃である。凍結保存の期間は、特に限定されず、凍結確認直後でもよいし、凍結から5日間、10日間、20日間又は30日間であってもよいし、数か月あるいは数年間であってもよい。
【0050】
さらに、下記試験例10に示すように、当該マクロファージは、LPS(例えば、10ng/ml)を含む培地で24時間培養後の培養上清中のMCP-1、TNF-α、IL-6及びNOの濃度が、LPSを含む培地で24時間培養したBMDMと比較して低かった。そこで、別の実施の形態では、マクロファージが提供され、当該マクロファージは、LPSを含む培地で24時間培養後の培養上清中のTNF-α、IL-6及び一酸化窒素の濃度が、M-CSFで骨髄細胞から誘導したBMDMと比較して30%以下である。上記培養上清中のTNF-αの濃度は、BMDMと比較して、25%以下又は20%以下であってもよい。上記培養上清中のIL-6の濃度は、BMDMと比較して、25%以下、20%以下又は15%以下であってもよい。上記培養上清中のNOの濃度は、BMDMと比較して、25%以下であってもよい。
【0051】
また、本実施の形態に係るマクロファージは、表3に記載された遺伝子の内、1個若しくは1個以上、2個若しくは2個以上、3個若しくは3個以上、4個若しくは4個以上、5個若しくは5個以上、10個若しくは10個以上、20個若しくは20個以上、30個若しくは30個以上、40個若しくは40個以上、50個若しくは50個以上、60個若しくは60個以上、70個若しくは70個以上、80個若しくは80個以上、又は88個の発現が、肺胞マクロファージ、BMDM、M1に誘導されたBMDM、M2に誘導されたBMDM、クッパー細胞、ミクログリア、破骨細胞及び腹腔滲出マクロファージから選択される少なくとも1種類、好ましくは、2種類若しくは2種類以上、3種類若しくは3種類以上、4種類若しくは4種類以上、5種類若しくは5種類以上、6種類若しくは6種類以上、7種類若しくは7種類以上、又はこれらの8種類すべてと比較して高くてもよい。
【0052】
【表1】
【0053】
上記表3の遺伝子の発現とは関係なく、あるいは、上記表3の遺伝子の高発現に加えて、上記マクロファージは、表4に記載された遺伝子の内、1個若しくは1個以上、2個若しくは2個以上、3個若しくは3個以上、4個若しくは4個以上、5個若しくは5個以上、10個若しくは10個以上、20個若しくは20個以上、30個若しくは30個以上、40個若しくは40個以上、50個若しくは50個以上、60個若しくは60個以上、70個若しくは70個以上、80個若しくは80個以上、又は87個の発現が、肺胞マクロファージ、BMDM、M1に誘導されたBMDM、M2に誘導されたBMDM、クッパー細胞、ミクログリア、破骨細胞及び腹腔滲出マクロファージから選択される少なくとも1種類、好ましくは、2種類若しくは2種類以上、3種類若しくは3種類以上、4種類若しくは4種類以上、5種類若しくは5種類以上、6種類若しくは6種類以上、7種類若しくは7種類以上、又はこれらの8種類すべてと比較して低くてもよい。
【0054】
【表2】
【0055】
なお、好ましくは、上記遺伝子の発現はRNAの発現レベルである。本明細書全体において、“レベル”とは、数値化された存在量に関する指標を意味し、例えば、濃度、量又はその代わりとして用いることができる指標である。よって、レベルは測定値であってもよいし、濃度に換算された値であってもよい。また、レベルは、存在量及び単位面積当たりの存在量等の絶対的な数値であってもよいし、必要に応じて設定された比較対照と比較した相対的な数値であってもよい。
【0056】
本実施の形態に係るマクロファージは、上述の特徴から任意に選択される1種類、2種類若しくはそれ以上、3種類若しくはそれ以上、4種類若しくはそれ以上、5種類若しくはそれ以上、又はすべての特徴を有していてもよい。
【0057】
別の実施の形態では、上記の培養ステップを含む、マクロファージの調製方法、マクロファージの作製方法、マクロファージの誘導方法、マクロファージの培養方法又はマクロファージの増殖方法が提供される。当該マクロファージの培養方法等によれば長期に渡って維持できる。また、当該マクロファージの増殖方法によって、マクロファージは増殖する。なお、好ましくは、上記マクロファージの製造方法、マクロファージの調製方法、マクロファージの作製方法、マクロファージの誘導方法、マクロファージの培養方法及びマクロファージの増殖方法は、M-CSF及びGM-CSFのいずれも使用しない。
【0058】
また、別の実施の形態では、TREM2シグナル活性化剤を含む分化誘導剤が提供される。当該分化誘導剤は、造血系前駆細胞からマクロファージへの分化を誘導する。分化誘導剤は、TREM2シグナル活性化剤の他に、溶媒、水、エタノール、多価アルコール、油分、界面活性剤、増粘剤、防腐剤及びpH調整剤等を含んでもよい。分化誘導剤は、例えば、液状、ゲル状、クリーム状及び固形状であってもよい。好ましくは、分化誘導剤は細胞培養容器に加えられ、あるいは細胞培養容器の表面に塗布されて、その表面にコートされて用いられる。
【0059】
当該分化誘導剤によれば、造血系前駆細胞から生存期間が長く、凍結保存が可能なマクロファージを得ることができる。当該マクロファージは研究ツールとして汎用性が高く、各種実験に使用しやすい。
【0060】
また、別の実施の形態では、TREM2シグナル活性化剤を含むマクロファージの増殖促進剤が提供される。当該増殖促進剤は、マクロファージ、特には、上述の製造方法で得られるマクロファージの増殖を促進する。当該増殖促進剤は、上記分化誘導剤と同様に、TREM2シグナル活性化剤の他の成分を含んでもよい。
【0061】
他の実施の形態では、TREM2シグナル活性化剤で表面がコートされた細胞培養容器を備える、分化誘導キットが提供される。当該分化誘導キットは、造血系前駆細胞からマクロファージへの分化を誘導するのに使用される。分化誘導キットは、基本培地、血清低減培地及び無血清培地等の培地、ウシ胎児血清(FBS)等の細胞培養に必要な血清、その他培地に添加される公知の添加剤をさらに備えてもよい。
【0062】
当該細胞培養容器によれば、TREM2シグナル活性化剤で表面があらかじめコートされた細胞培養容器を備えるため、当該細胞培養容器に造血系前駆細胞を播種して培養するだけで生存期間が長く、凍結保存が可能なマクロファージを簡便に得ることができる。なお、当該分化誘導キットは、マクロファージの増殖促進キットとしても使用できる。
【0063】
なお、好ましくは、上記分化誘導剤及びマクロファージの増殖促進剤は、M-CSF及びGM-CSFのいずれも含まない。また、上記マクロファージへの分化誘導キット及びマクロファージの増殖促進キットは、M-CSF及びGM-CSFのいずれも備えない。
【実施例
【0064】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0065】
実施例1:脂質誘導マクロファージ(Lipid-induced macrophage:LIM)の調製
[マウス脳脂質の抽出]
マウスの脳(約400mg/匹)をポリプロピレンチューブ中の1mlのメタノールに沈め、ハサミで細断した。得られた試料全量をガラス試験管に移し、メタノール1ml及びクロロホルム4mlを加え、クロロホルムとメタノール(MeOH)との体積比を2:1(C-M 2:1)とした。シェイカーを用いて室温で3時間、試料を混和した(200rpm)。試料を2000rpmで15分間、遠心分離し、上清をろ過しガラス瓶に抽出液1として回収した。
【0066】
ガラス試験管に残った脳残渣に新たにメタノール2ml及びクロロホルム4mlを加えた試料を、シェイカーを用いて室温で16時間、混和した(200rpm)。ろ過した上清を抽出液1が入ったガラス瓶に回収しよく混和して抽出液2とした。抽出液2は使用時まで-30℃で保存した。
【0067】
抽出液2のうち1.8mlを秤量済みのガラス瓶に分注し、37℃に加温しつつ窒素吹付により溶媒を乾燥させ、脂質の乾燥重量を測定した。5mg/mlになるようにC-M 2:1に溶解し、脳脂質抽出液とした。
【0068】
[脳脂質による細胞培養プレートのコーティング]
脳脂質抽出液をメタノールで50μg/mlに希釈し、細胞培養プレートに3μg/cmになるように分注した。クリーンベンチ内で溶媒を乾燥させた。
【0069】
[脂質誘導マクロファージの誘導]
採取したマウス骨髄細胞を、4×10細胞/mlになるように10%FBS/RPMIに懸濁した。脳脂質コーティングした細胞培養プレートに、骨髄細胞懸濁液を1×10細胞/0.25ml/cmになるように加えた。骨髄細胞を37℃、5%COインキュベーターにて培養した。培養3日後に培養プレートに新鮮培地を半量追加した。その後3~4日ごとに培地を交換した。
【0070】
(結果)
培養開始7~10日後頃からマクロファージ様の接着細胞が出現し始めた。図1(A)は、培養開始14日後のLIMの画像を示す。
【0071】
比較例1:BMDMの調製
採取したマウス骨髄細胞を、4×10細胞/mlになるように10%FBS/RPMIに懸濁した。細胞懸濁液に25ng/ml M-CSFを加えた。24ウェル培養プレートの各ウェルに、骨髄細胞懸濁液を2×10細胞/0.5mlになるように加えた。骨髄細胞を37℃、5%COインキュベーターにて培養した。培養3日後に25ng/ml M-CSF/10%FBS/RPMIを半量(0.25ml/ウェル)追加した。培養5日後に上清を吸引し、0.5ml/ウェルの10%FBS/RPMIを加えスクレーパーで細胞を剥離した。10%FBS/RPMIで1/4希釈し、0.5ml/ウェルずつ分注し、25ng/ml M-CSFを加えた。その後3~4日ごとに25ng/ml M-CSF/10%FBS/RPMIを半量培地交換した。
【0072】
(結果)
培養開始5日後には4.0~6.5×10細胞/ウェルに増えた。図1(B)は、培養開5日後のM-CSFで誘導したBMDMの画像を示す。
【0073】
試験例1:細胞種の同定
[LIMからのTotal RNA抽出]
Sepasol(商標)-RNA I Super G(ナカライテスク社製)の取扱説明書に準じて、LIMからTotal RNAを次のように抽出した。培養開始14日目のLIM(1.6×10細胞)に対して1mlのSepasol(商標)-RNA I Super Gを加え、ピペッティングによって均質化した。試料をボルテックスミキサーで撹拌し、室温で5分間静置した。試料にクロロホルム200μlを加え転倒混和し、室温で3分間静置した。試料を12000G、4℃で15分間遠心分離し、上層の水相を1.5mlチューブに移した。水相にイソプロパノールを500μl加え混和した試料を室温で10分間静置した。試料を12000G、4℃で10分間遠心分離し、上清を除去した。沈殿に75%エタノールを1ml加え、沈殿を洗浄した。さらに12000G、4℃で5分間遠心分離し、上清を除去した。チューブの蓋を開け、室温で10分間静置し、残った液を乾燥させ、Total RNAを得た。Total RNAにNuclease-free waterを40μl加え、Total RNAを溶解させた。
【0074】
[Total RNAのDNase I処理]
Recombinant DNase I(タカラバイオ社製)の取扱説明書に準じて、Total RNAを次のようにDNase Iで処理した。Total RNA 38μlに対して10×DNase bufferを5μl、Recombinant DNase I(RNase-free)を2μl(10U)、RNase inhibitorを1μl(20U)、DEPC処理水を4μl加えた。37℃で20分間反応させ、DEPC処理水150μlを加え総量200μlの試料とした。試料にフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(体積比が25:24:1)200μlを加えて混合した。試料を12000G、室温で5分間遠心分離した。水相約200μlを1.5mlチューブに回収し、チューブに3M酢酸ナトリウム20μl及びエタノール500μlを加え混合した試料を室温で15分間静置した。
【0075】
試料を20000G、4℃で20分間遠心分離し、上清を除去した。70%エタノール1mlを加え沈殿を洗浄した。20000G、4℃で10分間遠心分離し、上清を除去した。チューブの蓋を開け室温で10分間静置し残った液を乾燥させた。TE buffer 40μlを加え、RNAを溶解させ、ナノドロップを使用して濃度を測定した。RNAを150ng/μlに調製し-80℃で保存した。
【0076】
[RNA-seq解析]
Veritas Genetics社の次世代シーケンス解析受託サービスを利用し(サービス名:mRNA-seq(150bp PE)、データ量:3G、リード数:1000万リード)、fastq形式のデータを取得した。
【0077】
[RNA-seqデータの解析]
取得したデータをpigzコマンドによりfastq.gz形式に圧縮した。fastpコマンドによりアダプター配列をトリミングし、クオリティチェックを実行した。hisat2コマンドによりリファレンスゲノム(マウス:GRCm38_genome)へのマッピングを実行した。samtoolsコマンドによりマッピング結果をソートし、BAMファイルに変換した。featurecountsコマンドにより遺伝子ごとのリードをカウントし発現量を定量した。得られたリードカウントデータを、Single Rパイプラインを用いてImmGen database(https://www.immgen.org/)を参照することで細胞種を同定した。
【0078】
(結果)
RNA-seqデータ解析により、LIMの細胞種は“マクロファージ”と同定された。
【0079】
試験例2:BMDM及びLIMの細胞表面マーカーの発現解析
実施例1における誘導開始14日後のLIM及び比較例1における誘導開始5日後のBMDMを、それぞれセルスクレーパーを用いて培地ごと剥離して回収し、血球計算盤を用いて細胞を計数した。500G、4℃で5分間遠心分離し、上清を除去した。1×10細胞/mlになるように1%FBS/HBSSを加え、懸濁した。細胞懸濁液に10μg/mlになるように抗マウスCD16/32抗体(BioLegend社製)を加え、氷上で10分間静置し、Fcγレセプターのブロッキングを行った。
【0080】
96ウェルV底プレートにブロッキング済みの細胞懸濁液を10μl/ウェルずつ分注し、取扱説明書に記載の推奨濃度になるように1%FBS/HBSSに希釈したPE抗マウスTREM2抗体(R&D社製)、PE 抗マウスDectin-1抗体、FITC 抗マウスCD9抗体、APC 抗マウスCD11c抗体、PE 抗マウスSiglec-F抗体、PE 抗マウスCD206抗体、APC 抗マウスP2RY12抗体、APC 抗マウスCX3CR1抗体、APC 抗マウスMHCクラスII抗体、APC/Cyanine7 抗マウスCD115抗体、PE/Cyanine7 抗マウスCD115抗体、FITC 抗マウスF4/80抗体、PE/Cyanine7 抗マウスLy-6C抗体、FITC 抗マウスLy-6G抗体、APC 抗マウスCD45抗体、又はPE 抗マウスCD11b抗体(いずれもBioLegend社製)を加えて総量20μl/ウェルとし、氷上で15分間静置し反応させた。1%FBS/HBSSを180μl/ウェルずつ加え洗浄した。
【0081】
試料を500G、4℃で5分間遠心分離し、上清を除去した。1%FBS/HBSSを180μl/ウェルずつ加え、試料を洗浄した。試料を500G、4℃で5分間遠心分離し、上清を除去した。10μg/ml PI/1%FBS/HBSSを50μl/ウェルずつ加え試料を懸濁した。得られた試料についてフローサイトメトリーにより解析し、表面抗原の単変量ヒストグラム解析ではLy6G陰性かつCD11b陽性細胞をマクロファージ細胞として抽出して各表面抗原を解析した。なお、CD115の検出には、フローサイトメトリーによるドットプロット解析ではAPC/Cyanine7 抗マウスCD115抗体を使用し、表面抗原の単変量ヒストグラム解析ではPE/Cyanine7 抗マウスCD115抗体を使用した。
【0082】
(結果)
ドットプロット解析の結果を図2に示す。細胞の大きさの指標である前方散乱光(FSC)及び細胞の乱雑性(顆粒の多さ)の指標である側方散乱光(SSC)のシグナルの分布は、LIMとBMDMとで類似していた。LIMは、Pan白血球マーカーのCD45及び単球マーカーのCD115の発現が高く、かつ、マクロファージマーカーのF4/80並びに顆粒球及びマクロファージのマーカーであるCD11bの発現が高かった。
【0083】
表面抗原の単変量ヒストグラム解析の結果を図3に示す。腹腔マクロファージ(MΦ)、脾臓マクロファージ、クッパー細胞及びミクログリアといったマウス生体内のマクロファージと比較して、BMDM及びLIMの各種表面抗原発現パターンはよく類似していた。TREM2、CD206、P2RY12及びCX3CR1の発現量はLIMにおいて特に高かった。試験例1及び試験例2の結果から、LIMはマクロファージであることが示された。
【0084】
試験例3:LIM誘導のための脂質濃度の検討
[脳脂質のコーティング]
96ウェル細胞培養プレートに4、2、1、0.5、0.25又は0.125μg/ウェルになるように実施例1と同様に調製した脳脂質抽出液をコーティングした。採取したマウス骨髄細胞を4×10細胞/mlになるように10%FBS/RPMIに懸濁した。骨髄細胞懸濁液を100μl/ウェルずつ分注し、37℃、5%COインキュベーターにて細胞を培養した。培養3日後に新鮮培地を半量追加した。その後3~4日ごとに培地を交換した。培養開始7日後及び14日後にWST-8アッセイによって生細胞数を測定した。
【0085】
[WST-8アッセイ]
新しい10%FBS/RPMI培地に、1/10容量のWST-8(07553-15 生細胞数測定試薬SF、ナカライテスク社製)を加え、生細胞数測定培地を調製した。培養プレートの古い培地を吸引除去し、生細胞数測定培地を100μl/ウェルずつ分注した。37℃、5%COインキュベーターにて1時間、細胞を培養した。マイクロプレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。
【0086】
(結果)
図4は単位培養面積当たりのコーティングした脳脂質の質量に対する細胞数を示す。脳脂質が1.5μg/cm以上がLIMの誘導に適しており、特に3~12μg/cmでLIMの増殖が促進された。
【0087】
試験例4:LIMの継代培養
24ウェルプレートを使用した場合、誘導開始14日後頃に90~100%コンフルエントになる。そこで、次のように14日ごとにLIM又はBMDMを継代した。培養上清を吸引し、0.5ml/ウェルの1mM EDTA/PBSを加え37℃で5分間、インキュベートした。1mM EDTA/PBSを吸引除去し、0.5ml/ウェルの10%FBS/RPMIを加えピペッティングにより剥離し細胞を懸濁した。血球計算盤によって細胞数を測定した。細胞懸濁液を10%FBS/RPMIで1/4希釈し、新しい脳脂質コートプレートに0.5ml/ウェルずつ分注した。その後3~4日ごとに10%FBS/RPMIを半量培地交換し、14日後に再度継代した。
【0088】
また、586日間培養したLIMを脳脂質コートあり(BL+)又はなし(BL-)の24ウェルプレート(コーティングした脳脂質3μg/cm)に20000細胞/ウェルで播種し、培養した。
【0089】
(結果)
図5(A)の上段は培養0~21日後の細胞数を示し、図5(A)の下段は0日目の細胞数を1とした培養0~21日後における細胞数の増加倍率を示す。図5(B)の上段は培養0~544日後の細胞数を示し、図5(B)の下段は0日目の細胞数を1とした培養0~544日後における細胞数の増加倍率を示す。BMDMは継代希釈した後はほとんど増えなかった。一方、LIMは少なくとも培養544日を超えても生存し増殖した。
【0090】
図5(C)はBL+及びBL-で培養したLIMの細胞数を示す。BL-ではLIMは増殖及び生存しなかった。LIMは脳脂質による刺激がないと増殖及び生存しないため、腫瘍化した細胞ではないことが示された。
【0091】
試験例5:LIM及びBMDMの凍結保存試験
80~90%コンフルエントのLIM及びBMDMを培養プレートより剥離し、それぞれ500Gで5分間遠心分離し、上清を除去した。5×10~5×10細胞に対し1mlのセルバンカー1(日本全薬工業社製)に細胞を懸濁し、クライオチューブに移して-80℃で保存した。30日後に融解し、無刺激(None)、25ng/ml M-CSF添加(M-CSF)又は脳脂質コーティングあり(BL)の24ウェルプレートに播種した。播種から6日経過後又は14日経過後の生細胞数を血球計算盤により測定した。
【0092】
(結果)
図6に示すように、凍結保存後に融解したBMDMはM-CSF存在下であっても増殖しなかった。一方、融解したLIMは脳脂質刺激の存在下で増殖した。LIMは凍結保存が可能であることが示された。
【0093】
試験例6:Magnetic cell sorting及びセルソーターによる細胞の単離
CD45.1陽性のマウス又はCD45.2陽性のマウスの骨髄細胞1×10細胞あたり100μlの10μg/ml抗Fcγレセプター(CD16/32)抗体/0.5%BSA/PBSを加え、細胞を懸濁した。氷上に5分間静置してFcγレセプターをブロッキングした。各マウスの骨髄細胞懸濁液に下記の成熟細胞マーカー(Lineageマーカー:Lin)に対する蛍光標識抗体を加え反応させた。
抗CD3-FITC(2.5μg/ml)
抗CD19-FITC(2.5μg/ml)
抗NK1.1-FITC(2.5μg/ml)
抗Ly6G-FITC(2.5μg/ml)
抗TER-119-FITC(2.5μg/ml)
抗CD11b-FITC(2.5μg/ml)
【0094】
骨髄細胞懸濁液を氷上に15分間静置し、以降はミルテニーバイオテク社のAnti-FITC MicroBeads及びAnti-APC MicroBeadsの使用説明書に準じて操作した。1×10細胞試料あたりMACS(商標)バッファー(0.5% BSA/2mM EDTA/PBS)1mlを加え洗浄し、300G、4℃で試料を10分間遠心分離し、上清を除去した。沈殿をMACS(商標)バッファー80μlに懸濁し、抗FITC抗体標識磁気ビーズを20μl加えた。4℃で15分間静置し、試料にMACS(商標)バッファー1mlを加え洗浄した。試料を300G、4℃で10分間遠心分離し、上清を除去した。沈殿をMACS(商標)バッファー0.5mlに懸濁した。MACS(商標)セパレーターにセットし、あらかじめMACS(商標)バッファー3mlで洗浄したLSカラムに試料を加え、素通り液をLin陰性画分として回収した。
【0095】
MACS(商標)バッファー3mlによるLSカラムの洗浄を3回繰り返した。LSカラムをMACS(商標)セパレーターから外し、15mlチューブにセットした。LSカラムにMACS(商標)バッファーを5ml加え、プランジャで押し出し、Lin陽性画分として回収した。CD45.2陽性マウス由来のLin陰性画分及びCD45.1陽性マウス由来のLin陽性画分を、それぞれ500G、4℃で10分間遠心分離し、上清を除去した。得られた細胞を、5×10細胞/mlになるように10%FBS/RPMIに懸濁し、さらにセルソーターによって、Lin陰性画分及びLin陽性画分を厳密に単離した。単離後の細胞を含む試料500Gを、4℃で10分間遠心分離し上清を除去した。得られた細胞を、4×10細胞/mlになるように10%FBS/RPMIに懸濁し、CD45.2陽性マウス由来Lin陰性画分とCD45.1陽性マウス由来Lin陽性画分の比率を、骨髄中の比率とほぼ同様になる1:9となるように混合して、脳脂質コーティング済みの培養プレートに播種した。また、各画分を単独で同様に播種した。Lin陽性の細胞又はLin陰性の細胞が、脳脂質刺激によりLIMへと分化誘導されるか否かを、培養開始5、9及び14日後にフローサイトメトリーを用いてCD11b陽性F4/80陽性マクロファージの個数を計測することによって評価した。
【0096】
(結果)
混合培養中のCD45.1陽性マウス由来のLin陽性細胞及びCD45.2陽性マウス由来のLin陰性細胞から分化したマクロファージ数、並びに各画分を単独で培養した場合のマクロファージ数の変化をそれぞれ図7(A)及び図7(B)に示す。培養開始時のLin陰性細胞とLin陽性細胞の比率が1:9であったにもかかわらず、LIMに分化誘導された細胞の大部分(66~83%)はLin陰性細胞であった。さらにLin陰性細胞を単独で培養した場合には、早期(5日目)に多数のLIMの分化誘導が見られた。以上のことから、LIMは主に骨髄系前駆細胞から分化することが示唆された。また、Lin陽性細胞からもある程度の数のマクロファージが誘導されることから、おそらくCD11b陽性の単球からも分化する可能性が示唆された。
【0097】
試験例7:各マウス由来骨髄細胞のBMDM及びLIMへの誘導
野生型(WT)マウス(C57BL/6)、TREM2ノックアウトマウス(KO)、TREM2 R47H変異導入マウス由来の骨髄細胞を用いて、実施例1及び比較例1と同様に、LIM及びBMDMを誘導した。TREM2 R47H変異は、野生型と比較してリガンド結合能が低下する。LIMについては誘導開始14日後にWST-8アッセイを行った。
【0098】
(結果)
BMDMについては誘導開始5日後に顕微鏡観察を行い、いずれのマウス由来でも誘導できることを確認した。図8は、WST-8アッセイで評価した生細胞数を示す。野生型マウス由来の骨髄細胞は脳脂質で刺激することでLIMに分化誘導されたのに対し、TREM2 KO及びTREM2 R47H由来の骨髄細胞は脳脂質で刺激してもLIMに分化誘導されなかった。
【0099】
試験例8:TREM2レポーター細胞を用いたリガンド活性の評価
2B4-NFAT-GFPレポーター細胞(理化学研究所から取得)にレトロウイルスベクターを用いてTREM2及びDAP12のcDNAを導入し、細胞表面に発現させたTREM2にリガンドが結合するとGFPの発現が誘導されるレポーター細胞を作製した(Iizasa et al.,Nature Communications,2021,vol.12(1),p.2299-16)。
【0100】
被験物質であるβ-GluCer、α-GalCer、パルミチン酸、ステアリン酸、コレステロール、PC、LPC、PE、Sulf又はMAをメタノールで希釈して50μg/mlとした。被験物質を96ウェル細胞培養プレートに20μl(1μg)ずつ分注し、クリーンベンチ内に静置してメタノールを乾燥させた。
【0101】
被験物質でコートした培養プレートにレポーター細胞を5×10細胞/100μl/ウェルずつ播種した。COインキュベーターにて細胞を16時間培養した。培養液をよく懸濁し、V底96ウェルプレートに移した。試料を500G、4℃で5分間遠心分離し、上清を除去した。10μg/ml PI/1%FBS/HBSSを50μl/ウェルずつ加え懸濁した。フローサイトメトリーにより試料におけるGFP陽性細胞を解析した。
【0102】
上記と同様の方法で各被験物質を96ウェル細胞培養プレートにコートし、マウス骨髄細胞を4×10細胞/100μl/ウェルずつプレートに播種した。COインキュベーターにて細胞を培養し、培養開始5、10、14及び20日後にWST-8アッセイを行い、生細胞数を測定した。
【0103】
(結果)
図9に示すように、β-GluCer、α-GalCer、PC、LPC、PE、Sulf及びMAにTREM2に対するリガンド活性を認めた。β-GluCer、α-ガラクトシルセラミド、PC、LPC、PE、Sulf及びMAは、図10に示すように骨髄細胞をLIMへ分化誘導した。
【0104】
試験例9:貪食能の評価
BMDM又はLIMを1×10細胞/200μl/ウェルで96ウェルプレートに播種し、1×10cfuのFITC標識BCG(Bacille Calmette-Guerin)を加え4時間、37℃でインキュベートした。4時間後、細胞を回収し、フローサイトメトリーによりFITCの蛍光強度を測定することでFITC標識BCG(BCG-FITC)の貪食能を比較した。
【0105】
(結果)
図11にFITC標識BCGに係る平均蛍光強度(MFI)を示す。LIMはBMDMと比較して貪食能が高いことが示された。
【0106】
試験例10:LPS刺激に対するサイトカイン産生応答の検討
BMDM又はLIMを1×10細胞/200μl/ウェルで96ウェルプレートに播種し、10ng/ml LPSを加え24時間、37℃でインキュベートした。24時間後の培養上清を回収し、上清中のMCP-1、TNF-α、IL-6、IL-10及びNOの濃度を測定した。
【0107】
(結果)
図12(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)に、それぞれMCP-1、TNF-α、IL-6、IL-10及びNOの濃度を示す。LIMはBMDMと比較して、IL-6及びTNF-αといった炎症性サイトカイン並びにNOの産生が低かった。
【0108】
試験例11:LIMのマーカー分子の検討
各種細胞のRNA-seqデータ(SRAファイル)は、Gene Expression Omnibus(GEO)データベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)より取得した。各種細胞の参照元(GEO accession number)は以下の通りである。
肺胞マクロファージ:GSM4476109、GSM4476110、GSM4476111
BMDM:GSM4552500、GSM4552501、GSM4552502
BMDM(M1):GSM4844180、 GSM4844181、 GSM4844182
BMDM(M2):GSM4844183、 GSM4844184、 GSM4844185
クッパー細胞:GSM4119149、GSM4119150、GSM4119151
ミクログリア:GSM4065894、GSM4065895、GSM4065896
破骨細胞:GSM3179449、GSM3179450、GSM3179451
腹腔滲出マクロファージ:GSM2859803、GSM2859804、GSM2859805
【0109】
なお、BMDM(M1)は、BMDMに100ng/ml LPSと50ng/ml mIFNγとを加え24時間培養した細胞である。BMDM(M2)は、BMDMに20ng/ml IL-4と20ng/ml IL-13とを加え24時間培養した細胞である。
【0110】
各種細胞のSRAファイルをfasterq-dumpコマンドによりfastq形式のデータに変換した。上記試験例1のRNA-seqデータの解析に記載の方法に準じてリードカウントデータを取得した。LIMとこれらの細胞のリードカウントデータを用いて、DESeq2により発現変動遺伝子(DEG)を抽出した。さらにそれぞれのDEGのリストから、LIMとその他のすべてのマクロファージとの比較において共通してLIMにおける発現が高いDEG(88個)及びLIMにおける発現が低いDEG(87個)をマーカー分子として抽出した。抽出にはCalculate and draw custom Venn diagrams(http://bioinformatics.psb.ugent.be/webtools/Venn/)を用いた。
【0111】
(結果)
表5にDEGの個数を示す。抽出されたLIMにおける発現が高いDEG及びLIMにおける発現が低いDEGをそれぞれ表6及び表7に示す。
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0116】
本出願は、2021年12月22日に出願された、日本国特許出願2021-208420号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2021-208420号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、マクロファージの取得に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12