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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】電流制御形AC-DC電源
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20240312BHJP
   H02M 3/28 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H02M7/12 R
H02M3/28 H
H02M7/12 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024006116
(22)【出願日】2024-01-18
【審査請求日】2024-02-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594170185
【氏名又は名称】大西 徳生
(72)【発明者】
【氏名】大 西 徳 生
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特許第7333127(JP,B1)
【文献】特許第7352327(JP,B1)
【文献】特開平6-078535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LCフィルタ回路ダイオードブリッジ回路1で構成する整流回路を交流電源に接続し、前記整流回路の直流出力端子からダイオードと逆並列接続したスイッチ素子で構成するスイッチ回路ブリッジ構成したインバータ回路の直流端子にインダクタを介して接続して構成する電流制御形インバータ回路の交流出力に接続した変圧器の二次側交流出力をダイオードブリッジ回路2に接続して直流変換した出力に平滑用キャパシタ接続した直流―交流―直流変換回路に直流負荷を接続し、
前記交流電源の周波数に対して十分高い周波数の短い周期で前記電流制御形インバータ回路の直流短絡動作期間と前記変圧器への給電動作期間の通電期間の割合を変えて電流制御することにより、前記交流電源から高力率で、前記直流負荷の電圧、電流を制御することを特徴とする電流制御形AC-DC電源。
【請求項2】
請求項1記載の電流制御形AC-DC電源において、前記インバータ回路の直流端子の両端にダイオードを介して過電圧保護キャパシタを接続し、前記過電圧保護キャパシタの両端に降圧スイッチを介してフリーフォイーリングダイオードと平滑用インダクタからなる降圧チョッパ回路を接続し、前記フリーフォイーリングダイオードと接続する前記平滑用インダクタの他端を前記整流回路前記直流出力端子に接続し、
前記降圧チョッパ回路通流比制御することにより、高効率で前記インバータ回路を過電圧保護することを特徴とする電流制御形AC-DC電源。
【請求項3】
請求項1および2記載の電流制御形AC-DC電源において、前記整流回路前記直流出力を複数組の前記直流―交流―直流変換回路の各直流入力に接続し、それらの直流出力を共に前記直流負荷に並列接続する多重化構成とし、
複数組の前記直流―交流―直流変換回路へのスイッチング制御信号を複数組数に応じた位相差で互いに働かせる多重化制御により、装置容量の増大や高い冗長性による信頼性の向上と、入出力電流脈動低減など運転制御特性を改善することを特徴とする電流制御形AC-DC電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源から高力率で絶縁した電圧制御可能な直流電源を得るAC-DC電源の小型化、軽量化、低価格化に貢献する技術である。
【背景技術】
【0002】
このような仕様を満たすAC-DC電源を構成するには、一般に交流電源を高力率整流し、スイッチング制御により交流変換して変圧器により必要に応じて電圧、電流制御する変換回路構成となるので、主回路構成および制御システムが複雑化する。
【0003】
また、AC-DC電源としての装置容量を拡大するには、一般には様々な容量毎に設計する必要があるので、電源装置の標準化をはかり必要とする容量に応じて多重化することで対応が望まれるが、電圧形変換装置においては、直接的な並列接続は装置間で横流が流れるため、多重化する装置間での電流バランス制御が難しいなどの課題もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】松瀬、斉藤著、「パワーエレクトロニクス」、電気学会、pp.35-36,p158,2012
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-6042:「直流電源装置」
【文献】特許第6328506号:「ACDCコンバータの制御装置」
【文献】特許第6667750号:「DC-DCコンバータ」
【文献】特許第6865985号:「共振絶縁形DC-DCコンバータ」
【文献】特許第7352327号:「共振電流制御形直流電源」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、高力率で絶縁した電圧制御可能な直流電源を得る主回路構成のブロック図を示したもので、同図(a)は、従来からの構成ブロック図であり、同図(b)は、本発明により構成するブロック図を示している。
【0007】
同図(a)では、3つのコンバータ部のそれぞれか制御部を少なくとも2つのコンバータでスイッチング制御を必要とするが、本発明では、同図(b)に示すように、これら3つのコンバータを一体化した一組のスイッチング制御部で構成することにより、AC-DC電源の小型化、軽量化、低価格化を実現しようとするものである。
【0008】
先ず、交流電源を整流して直流電圧源を得る過程において、ダイオードブリッジ回路を用いた整流回路が使われるが、平滑した直流電圧源を得るために平滑用キャパシタを直接接続した整流回路は、流入電流波形の歪を生じるため、小容量のものを除いては、流入電流波形が改善できるPFCコンバータが用いられている。
【0009】
一般のPFCコンバータは、比較的大きなインダクタを用いた昇圧形DCDCコンバータが用いられ、交流電流が交流電源電圧と同相の正弦波となるように、電流フィードバック量との瞬時電流比較制御が行なわれており、直流電圧の検出や、正弦波の基準電流波形の発生などが必要となり、IC化されているものを用いても、電圧、電流センサーが必要になるなど、主回路構成、制御システム共に複雑化する。
【0010】
また、交流電源と直流出力間の絶縁のため変圧器が用いられるが、商用周波数の変圧器は、サイズ、重量、コストの観点で問題があるため、PFCコンバータで得られた直流電圧を一度インバータで高周波化して高周波変圧器を用いることにより絶縁を図る手段がある。
【0011】
高周波変圧器の小型、軽量化の程度は、インバータのスイッチング周波数によっており、高周波化に伴いハードスイッチングによるスイッチング損失の増大が懸念される。
【0012】
そこで、高周波インバータのスイッチング動作に、ソフトスイッチング制御手法を適用することにより、スイッチング損失の低減を図ることも考えられるが、回路構成が複雑化する。
【0013】
そして、高周波変圧器を介して、必要とする電圧レベルに変換した後、再び整流回路で直流変換して平滑用キャパシタを接続して直流出力が得られるが、必要に応じて更に直流出力電圧、電流を制御するためのDC-DCコンバータが用いられる。
【0014】
以上のように、交流電源から高力率で絶縁した電圧制御可能な直流電源を得るAC-DC電源を構成するには、一般的に、交流電源から高力率で直流変換するPFCコンバータ、直流電源から絶縁した直流出力を得るために高周波変圧器を用いたDC-DCコンバータ、必要とする電圧レベルに変換した直流出力を必要とする電圧電流に制御する出力制御用DCDCコンバータの三つのコンバータが必要となる。
【0015】
なお、高周波インバータは高周波変圧器を働かせる目的だけでなく、直流出力電圧や電流を検出して通流幅制御などで制御することができる場合は、三段目のDC―DCコンバータは整流平滑フィルタだけで働かせることができる。
【0016】
ここで、高周波インバータの構成法として、電圧形インバータと電流形インバータがあり、使用目的に応じて使い分けられるが、任意の時点で高速にスイッチング制御できるスイッチング素子の発達により、直流電圧源に対して、スイッチ素子と逆並列接続のダイオードで構成されるスイッチ回路をブリッジ構成した電圧形インバータが一般に広く用いられている。
【0017】
(非特許文献1)に、電圧源に接続される電圧形インバータと電流源に接続される電流形インバータおよびそれらに適合する代表的な負荷の組み合わせが示されており、電圧形インバータは、一般に負荷に直列にインダクタが接続された誘導性負荷、電流形インバータは負荷に並列にキャパシタが接続された容量性負荷が接続されて用いられる。
【0018】
電圧形インバータでは、スイッチをオフしたときに誘導性負荷電流に流れる電流経路を確保するために、スイッチ素子に逆並列にダイオードを接続したスイッチ回路が用いられ、電流形インバータでは、スイッチ切換え時にキャパシタの電圧がスイッチに逆電圧としてかかるために、逆耐圧を有するスイッチ素子かスイッチ素子にダイオードを直列に接続したスイッチ回路が用いられる。
【0019】
このため、電流形インバータでは一般に、通常の電圧形インバータで用いられるスイッチ構成に比べて、スイッチ回路が複雑になるだけでなく、ダイオードを必要とする場合は、通電損失が増加する。
【0020】
図2は、(a)一般の電流形インバータの回路構成と、(b)インダクタを用いた電流源においても電圧形インバータを構成するスイッチ回路で構成できるインバータの回路構成を示している。
【0021】
電流形インバータでも、同図(a)のように交流出力にキャパシタC ac が直接接続される場合と、同図(b)に示すように、交流負荷としてダイオードブリッジ整流回路を介してキャパシタC dc が接続される場合があり、後者では、インバータを構成するスイッチ回路には逆電圧はかからない。
【0022】
(特許文献1)は、降圧チョッパでインダクタ電流を制御して、インバータで変圧器を介してダイオード整流することにより、直流負荷電圧電流制御をするとき、負荷の急変に伴い電圧が素子を破壊しないように電圧検出に基づいて制御することを目的とした直流電源装置である。
【0023】
この文献において、用いられているインバータは、交流負荷としてダイオードブリッジ整流回路の直流出力にキャパシタを接続しているため、直流側にインダクタ電流から逆耐圧を有しないスイッチ回路が用いられている。
【0024】
しかし、インバータ回路が図2(b)に示すようなダイオードが逆並列に接続されるスイッチ回路構成となっていないため、インバータの出力に変圧器が接続されていることにより、スイッチ切換え時の変圧器の漏れインダクタによる電流経路が確保されていないため、スイッチ素子にスパイク電圧がかかることが懸念される。
【0025】
なお、(特許文献1)では、直流電源装置の交流電源からの整流回路部がダイオードブリッジ回路と平滑用キャパシタのみで構成されていて、高力率改善対策は施されていない。
【0026】
一方、(特許文献2)は、整流回路部PFC回路で構成されており、その直流出力電圧を電圧形インバータで交流変換し、変圧器を介して適当な電圧に変圧してダイオード整流回路の出力にLC平滑回路を接続して構成している図1(a)に類する一般的な回路構成による直流電源で、
PFCの制御法の改善を意図したものである。
【0027】
しかし、主回路構成は従来のものと同様に複雑化し、PFC制御とインバータ制御を必要とするなど、小型、軽量化が課題なると共に、複数のコンバータで構成されているために、装置全体としての効率の低下も懸念される。
【0028】
(特許文献3)は、LC共振回路を用いたソフトスイッチングによるDC-DCコンバータの制御技術であり、電圧形インバータにおけるハードスイッチングによるスイッチング損失やスイッチングノイズを低減するのに有効な制御技術である
【0029】
また、(特許文献4)は、(特許文献3)のソフトスイッチング制御DC―DCコンバータと高周波変圧器を用いて絶縁と電圧制御も可能にしたDC―DCコンバータの制御技術である。
【0030】
(特許文献2)の電圧形インバータ部に、(特許文献3)あるいは(特許文献4)を用いることで、効率の改善やノイズの低減が期待できるが、主回路構成の更なる複雑化を招く。
【0031】
(特許文献5)は、交流電源から絶縁して直流出力制御可能な直流電源を高力率で働かせることができるAC―DCコンバータの制御法で、1個のスイッチング素子で制御できる特徴がある。
【0032】
図3は、フライバック変圧器を用いて単相AC-DC電源として構成した回路構成例であり、極めて簡単な回路構成で、スイッチング素子の通流率を制御することで直流出力を制御することができる。
【0033】
しかし、変圧器は片電源動作となるために、変圧器の飽和を招きやすいことと、変圧器の漏れインダクタンスによる転流エネルギーをスナバ回路で処理する必要があることなどにより、適用分野が比較的小容量装置に限られる。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明では、図4に示すように交流電源をLCフィルタ回路を含むダイオードブリッジ整流回路に接続し、整流出力をインダクタに接続し、インダクタに流れる電流をダイオード逆並列に接続したスイッチ回路で構成する電流制御形インバータでスイッチ制御して、電流制御形インバータからの交流電流を高周波変圧器を介して必要な電圧に変換して、再びダイオードブリッジ整流回路により整流出力を平滑用キャパシタに接続して直流負荷に接続して直流電源を構成するもので、インバータのスイッチ制御部のみで、直流電流源の制御と交流変換および直流出力電圧、電流の制御を行うことができ、上記の各課題を解決することができる。
【0035】
交流電源として、本発明による単相電源から絶縁し制御可能な直流出力を得るための具体的な回路構成を図5に示す。
【0036】
同図は、LCフィルタ回路(300)をダイオードブリッジ回路1の整流回路(200)の直流側に接続し、フィルタキャパシタCaの直流電圧からインダクタを介してインバータ回路に接続して電流制御形インバータのスイッチ制御により電流源の大きさを制御する短絡通電期間と交流側への流す電流の通電期間を制御し、変圧器(500)の変圧比により適切な電圧、電流に変換した量をダイオードブリッジ回路2の整流回路と平滑用キャパシタによる整流回路(600)とで直流電源を構成して、直流負荷(800)に接続する構成となっている。
【0037】
図6は、LCフィルタ回路を(a)交流電源ラインに接続した場合と、(b)交流電源ラインにインダクタ、整流回路の直流出力ラインにキャパシタを接続したときの本発明のAC-DC電源回路を示している。
【0038】
図5図6いずれの構成においても、交流電源ラインインダクタは、LCフィルタ回路のインダクタンスLに含めて扱うことができる
【0039】
以上は、単相の交流電源に対するAC-DC電源の主回路構成を示しているが、交流電源が三相の場合の主回路構成を図7に示しており、三相電源が接続される場合は、ダイオードブリッジ回路と交流フィルタ回路は三相となるが、それ以外は、単相の回路構成と全く同じで構成することができる。
【0040】
さて、図8は、図5に示すAC-DC電源において、スイッチ回路S1からS4に対して、交流電源の周波数に比べて十分高い周波数で図示するスイッチ信号を与えたときのインダクタLdの電流iLdと変圧器、整流回路を介して流れる負荷電流の一次換算電流id1とその平均電流Id1の基本動作波形を示している。
【0041】
スイッチS1とS3あるいはスイッチS2とS4が通電するときインバータは直流短絡状態となり、零電流から流れるのでインバータへのインダクタに加わる電圧がeadのとき、インダクタの電流iLdは、次式

iLd=(ead/Ld) t ---------------(1)

で示されるようにランプ状に増加する波形の電流が流れ、インバータの直流短絡期間の割合としての通流率をα、スイッチング周期T s とおくとt=αT s の時点で電流は最大となる。
【0042】
そして、スイッチS1とS4あるいはスイッチS2とS3が通電すると、電流経路は変圧器を介して直流負荷端子に流れ、直流キャパシタCdへの負荷電流の一次換算値id1は、ed1を直流負荷端子電圧edの一次換算値とすると次式のように減少する。

id1=(ead/Ld) *αTs-[(ed1-ead)/Ld] t---------------(2)
【0043】
図9は、この電流制御波形に対し、交流電源および直流出力間のAC―DC直流電源としての制御動作波形の関係を示したものである。
【0044】
ここで、インバータのスイッチング動作として、電源電圧の電源周期Ta に比べて十分短いスイッチング周期Ts で一定の通流幅制御をかけたときの動作波形を示している。
【0045】
ここで、電圧eadは、スイッチング調波成分をカットするLCフィルタのカットオフ周波数が電源周波数に対して十分高いので、交流電源波形への影響は小さく、交流電源電圧の実効値をEa、電源角周波数をωとおくと次式で近似できる。

ead=|/2 Ea sin ωt | ---------------(3)
【0046】
このため、インダクタに流れる電流iLdは、t=αTの時点で最大値となり、ピーク値は次式

iLd(αTs)= (ead/Ld)*αTs=(| /2 Ea sin ωt |/Ld)*αTs ---------------(4)

で示されるようになり、交流電源電圧eaの絶対値波形に比例した電流波形となる。
【0047】
このため、交流電源電流i a のスイッチング周期単位でのピーク値i ap は、図9に示すようにインダクタに流れる電流iLdが電源半周期毎に正負が反転した波形となり、次式で示されるように交流電源電圧と同相の正弦波形となり、

i ap =(/2 EaαTs /Ld) sin ωt ---------------(5)

スイッチング調波成分を除いた交流電源電流i a 図8に示す点線で示される正弦波となる。
【0048】
一方、変圧器の電流iinvは、インダクタの電流iLdが立ち下がるときの電流id1が電源半周期毎にインバータのスイッチ動作によって切り替わり、図9に示す電流波形となり、変圧器で変流され二次側に接続されたダイオードブリッジによって絶対値変換された電流idsが直流キャパシタCdcに流れ込む。
【0049】
ここで、直流電流ids は、(2)式で示される電流波形id1の用いた変圧器の巻数比で換算した量で与えられる。

ids=(N1/N2)*id1=(N1/N2){(ead/Ld) *αTs-(ed1-ead)/Ld) t}---------------(6)

ここで、t は(t <=(1-α)Ts)なる範囲で、電流が零になるまでの電流波形となる。
【0050】
この電流波形の最大値はインダクタの電流の最大値を二次換算した量であり、スイッチング周波数成分を除いた波形は、図8電流idsの平均量を点線で示す正弦波の絶対値波形となる。
【0051】
このため、直流キャパシタCd はこの電源周波数の2倍を基本とする大きな電流脈動波形に対して、十分に平滑できるだけの大きな値のものを用いる必要がある。
【0052】
このとき、直流負荷電圧ed、電流idは大きな直流キャパシタCd を用いることによって、ほぼ一定の量となる。
【0053】
なお、交流電源が図7に示した三相の場合は、ダイオードブリッジ整流回路の出力電圧波形の脈動は小さくなるので、直流キャパシタCdの値は小さく抑えることができる。
【0054】
また、この場合の交流電源からの流入電流波形iaは、整流回路に抵抗負荷が接続されたような整流した電源電圧波形に比例した120度通流幅の波形となる。
【0055】
本発明のAC-DC電源で用いる中段の高周波変圧器がほぼ理想変圧器であれば、問題なく動作できるが、実変圧器では巻線抵抗や漏れインダクタンスの影響を考慮する必要がある。
【0056】
実変圧器を用いる場合は、特に漏れインダクタンスがインバータのスイッチ切換え時に過電圧の発生を伴うことが課題となり、その対策が不可欠となる。
【0057】
この問題は、図3に示したフライバック変圧器を用いたAC-DC電源でも同様であり、この場合は、装置の容量が比較的小さいため、RCスナバ回路を用いた対策が採られている。
【0058】
本発明のAC-DC電源の場合でも小容量の場合は、RCスナバ回路を用いた対策が考えられるが、容量が大きくなるとスナバ損が問題となるので根本的な対策が求められる。
【0059】
ここで、この漏れインダクタンスが、インバータ動作に対してどのような影響を与えるかを図10に示す等価回路で考察することとする。
【0060】
同図では、電流制御形インバータ回路とダイオードブリッジ整流回路間に挿入される変圧器影響の大きい漏れインダクタンスのみで示している。
【0061】
図11は、図8に示すインバータの各スイッチ信号による4つの動作モードにおける電流経路、転流時点での電流経路を示しており、スイッチ素子S1にかかる高いパルス電圧es1漏れインダクタンスl o にインダクタに流れる電流i Ld によることが分かる。
【0062】
4つの動作モードにおける電流経路としては、インバータによる直流短絡モード((1),(3))と負荷への給電モード((2),(4))があり、スイッチ素子S1にかかる電圧es1は、(1)から(2)への転流時点において、インダクタLdに流れている電流iLdが、漏れインダクタンスにかかるため、

es1=ed1+el=(N1/N2)Ed+lo(diLd/dt) ---------------(6)

で示されるように、直流負荷電圧の一次側換算電圧ed1に加えて、変圧器の漏れインダクタンスによる大きな電圧elが加わることが分かる。
【0063】
なお、この動作モード(2)から直流短絡モード(3)に移るとき、もし、漏れインダクタンスに流れていた電流が零になっていなくても、電流形インバータを構成するスイッチ回路とは違って、スイッチ素子に接続されている逆導通ダイオードにより電流経路は確保されるので、動作モード(2)から動作モード(3)へのスイッチ切換えに対して問題は生じない。
【0064】
図12は、変圧器の漏れインダクタンスの影響を考慮したときのスイッチ切換え時の動作波形を示しており、動作モードが直流短絡モードから負荷への給電モードへの転流動作の度に、漏れインダクタンスによる大きな電圧がスイッチ素子にかかることがわかる。
【0065】
変圧器漏れインダクタンスに伴う転流エネルギー対策としては、第一には漏れインダクタンスの発生を限りなく抑えた巻線方法で変圧器を作ることが必要であることは言うまでもないが、漏れインダクタンスを小さくできても、電流が大きいと対策が不可欠になる。
【0066】
この転流時のエネルギーの処理対策として、転流時のエネルギースナバキャパシタに吸収する簡単な回路を付加することで、スイッチ素子への過電圧の発生は抑えられるが、スナバ抵抗で消費すると大きな発熱と効率の低下を招く。
【0067】
そこで、変圧器漏れインダクタンスに伴う転流エネルギーの根本的な処理対策としては、転流エネルギーを電源側か直流負荷側に転送することが考えられる。
【0068】
後者による場合は、フライバックDCDCコンバータなどを用いて絶縁して直流負荷側に転送することが考えられるが、回路構成が複雑化する。
【0069】
図13は、図4本発明の基本制御ブロックに対して、漏れインダクタンスに伴う転流エネルギーを電流制御形インバータ回路の直流電源側に返す過電圧保護回路を付加したものである。
【0070】
図14は、漏れインダクタンスに伴う転流エネルギーを降圧チョッパにより電流制御形インバータ回路の直流電源側に返す保護回路を付加したACDC直流電源の主回路構成を示している。
【0071】
図15は、過電圧保護回路を付加したときのインバータのスイッチング制御時の電制御動作波形であり、直流短絡モードから負荷への給電モードへ切り替わる転流時に着目すると、図14に示すように降圧チョッパ回路の過電圧保護キャパシタに流入する電流ibが、インダクタ流れる電流iLdを分流することにより、負荷への給電電流id1が急激に立ち上がらないため、漏れインダクタンスでの過大な電圧の上昇が抑えられることが分かる。
【0072】
なお、降圧チョッパ回路に分流するキャパシタCzの電圧vzは、降圧チョッパ回路の通流率を制御することで、設定した許容最大電圧以下の一定値に制御することができる。
【0073】
次に、本発明のAC-DC電源は、図9に示すように、直流出力電流波形が逆のこぎり波状のパルス電流となるため、直流平均電流に対するパルス電流の振幅が大きいことによる回路損失の増大が懸念され、また、インバータの直流側電流波形も零電流から流れ始める三角波状となる。
【0074】
本発明のAC-DC電源の装置容量を大きくしようとする場合は、電流源のためインバータ、変圧器、整流回路部の構成を直接的に並列化するだけで、容易に多重化構成でき、のこぎり波パルス状の電流伴う問題を解消することができる。
【0075】
本発明のAC-DC電源を多重化構成することにより、並列冗長度が増して、信頼性の向上も期待でき、装置の大容量化設計も容易になる。
【0076】
図16は、本発明のAC-DC電源を二重化構成にしたときの主回路構成のブロック図であり、漏れインダクタンスによる過電圧保護のための降圧チョッパ制御部は共用することができ、二重化構成だけでなく多重化構成しても兼ねることができる。
【0077】
図17は、本発明のAC-DC電源の二重化構成時の電流制御動作波形を示したものであり、二つのインバータ、変圧器、整流回路部が90度の位相差で働かせるために、交流電源から整流した直流電流波形iLdは三角波状の単独動作に比べて二つの電流の山と谷が相殺され、ほぼ一定の電流波形になり、直流負荷電流波形idも単独動作に比べて逆のこぎり波状のパルス電流が2倍となるので振幅値を抑えた脈動の少ない電流波形となることが分かる。
【0078】
また、直流出力電流Idの大きさに対するパルス電流idsの振幅も多重化の数に逆比例して低下させることができる利点が生まれる。
【0079】
なお、本発明の電流制御形AC-DC電源の基本スイッチ動作は、昇圧動作として働くため、インバータの交流側の動作電圧が低く、インバータの直流動作電圧が低くなる場合は、昇圧動作ができないために正常に動作させることはできない。
【0080】
本発明の電流制御形AC-DC電源は、交流電源電圧が高く直流出力電圧が低い場合でも、インバータの交流側の動作電圧を変圧比(N1/N2)により高くすることで働かせることができる
【発明の効果】
【0081】
以上、本発明の電流制御形AC-DC電源の効果を以下に列記する。
1)電流制御インバータのスイッチング制御だけで、特別な電流制御系を構成すること なく、流入電流を交流電源電圧に比例した正弦波電流で働かせることができる。
2)電流制御インバータを高周波で働かせることにより、電圧レベル変換と絶縁するた めの変圧器を小型化でき装置小型、軽量化することができる。
3)電流制御インバータのスイッチング制御だけで、高力率の制御可能な直流電源が得 られ、制御システムの構成が簡単である。
4)電流制御インバータを構成するインバータのスイッチ回路が電圧形インバータのス イッチ回路で構成できるため、スイッチ回路の電圧降下が一般の電流形インバータの スイッチ回路に比べて低くできると共に、誘導性負荷電流の電流経路を確保すること ができる。
5)電流制御インバータにより電流源を負荷側に給電するために、負荷短絡に対しても 電流源として動作するため、電圧形装置に比べて電流保護が容易である。
6)変圧器を介在しているために、電流制御インバータの基本動作は昇圧動作ではある が、変圧比を適切に設定することにより、直流出力電圧の設定に制限を伴わない。
7)直流出力が電流源であるため、電流制御インバータ、変圧器、ダイオードブリッジ 整流回路部を並列接続でき、多重化構成が極めて容易である。
8)多重化構成による並列冗長度が増して、信頼性の向上も期待でき、装置の大容量化設 計も容易になる。
9)多重化構成により、電流制御インバータの直流側のパルス電流、直流平滑キャパシ タへの給電パルス電流の振幅が抑えられるとともに、スイッチング成分の脈動を低減 することができる。
10)変圧器の漏れインダクタンスによる転流エネルギーは、降圧チョッパにより電流制 御インバータの直流電源に返すことにより、大きな損失を伴うことなく過電圧保 護をかけることができる。
11)交流電源が三相電源の場合は、三相ブリッジ整流回路と交流フィルタ回路部を三相 化するだけで、三相電源から直流出力を得るAC-DC電源を容易に構成することが できる。
12)交流電源が三相電源の場合においても、交流電流波形は三相整流回路に抵抗負荷が 接続された波形となり、特別な制御を付加することなく高力率で動作させることがで きる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】PCF機能付AC-DC電源の構成 (a) 一般的な主回路構成、(b)本発明による主回路構成
図2】電流形インバータの構成形態 (a)一般的な電流形インバータ回路、(b) 本発明の電流形インバータ回路
図3】高力率フライバックDC-DCコンバータ回路
図4】本発明のPCF機能付AC-DC電源の主回路構成ブロック図
図5】本発明の電流制御形AC-DC電源の基本回路
図6】本発明の整流回路部のLCフィルタの配置変更による電流制御形AC-DC電源回路
図7】本発明の三相電源に対する電流制御形AC-DC電源回路
図8】本発明の電流制御形AC-DC電源の電流制御原理波形
図9】本発明の電流制御形AC-DC電源のスイッチング制御動作波形
図10】本発明の電流制御形AC-DC電源の直流―交流ー直流変換部の一次換算回路
図11】本発明の電流制御形AC-DC電源の直流―交流ー直流変換部の動作モード
図12】変圧器の漏れインダクタンスの影響による電流制御動作波形
図13】本発明の過電圧保護回路付AC-DC電源の主回路構成ブロック図
図14】本発明の降圧チョッパによる過電圧保護回路付電流制御形AC-DC電源回路
図15】本発明の降圧チョッパによる過電圧保護電流制御動作波形
図16】本発明の直流―交流ー直流変換部の二重化構成による電流制御形AC-DC電源
図17】本発明の直流―交流ー直流変換部の二重化構成電流制御動作波形
図18】本発明の電流制御形AC-DC電源の制御システム
図19】本発明の電流制御形AC-DC電源のシミュレーション解析動作波形 (a)基本制御動作波形、(b)時間拡大による詳細な制御動作波形
図20】直流基準電圧が低いときの制御動作波形 (a)歪みを伴った制御動作波形(N1/N2=1)、(b)正常制御動作波形(N1/N2=2)
図21】過電圧保護回路動作の有無による電流制御形AC-DC電源の制御動作波形の比較 (a) 過電圧保護回路動作の無、(b) 過電圧保護回路動作の有
図22】過電圧保護回路動作の有無による電流制御形AC-DC電源の拡大波形の比較 (a) 過電圧保護回路動作の無、(b) 過電圧保護回路動作の有
図23】LCフィルタの配置変更による電流制御形AC-DC電源の制御動作波形の比較 (a)LCフィルタの交流側配置、(b)LCフィルタの組み合わせ配置
図24】二重化構成による電流制御形AC-DC電源の制御動作波形 (a)二重化制御動作波形、(b)時間拡大による詳細な制御動作波形
図25】三相電源に対する電流制御形AC-DC電源の制御動作波形 (a)三相電源に対する制御動作波形、(b)時間拡大による詳細な制御動作波形
【発明を実施するための形態】
【0083】
図18は、図13に示すAC-DC電源の基本構成ブロック図に対して、直流出力電圧、電流を制御する制御ループと過電圧保護制御ループの各制御ブロックを付加した本発明のAC-DC電源装置としての制御ブロックである。
【0084】
本発明の電流制御形AC-DC電源の実施形態としては、図18に示す電圧制御システムに限らず、電流制御ループだけで制御することができ、さらにはインバータの通流幅制御だけでも実施することは可能である。
【0085】
また、変圧器の漏れインダクタンスが無視できる程度に小さい場合は、特別な過電圧保護回路は用いずに、RCスナバ回路を付加することで実施することができる。
【0086】
本発明の電流制御形AC-DC電源の制御動作を以下の条件下でのシミュレーション解析により確認する。
【0087】
本発明の電流制御形AC-DC電源のシミュレーション解析の回路定数は、交流電源に接続する整流回路部のLCフィルタ定数、La=1mH,Ca=1uF,電流形インバータを構成するインダクタは、Ld=100uH, 高周波変圧器の一次,二次漏れインダクタンスは、lo1=5uH,lo2=5uH, 変圧比(N1/N2)は、直流基準電圧Edrが500V以上の場合は1とし、E dr 300Vと低い場合は2とし、ダイオードブリッジ整流回路に接続する平滑キャパシタは、Cd=4000uF, 直流負荷抵抗は、Rd=250 ohmとした。
【0088】
また、本発明の電流制御形AC-DC電源のシミュレーション解析の動作条件として、インバータの動作周波数をfs=40kHzとし、単相電源電圧は、 Ea=200V,また三相電源電圧(線間)は、Ea=200V 、交流電源周波数はfa=60 Hz、直流基準値Edr=500Vとして制御動作を確認した。
(1)AC-DC電源の基本制御動作
【0089】
図19は、単相交流電圧Ea=200Vを加え、直流基準電圧Edr=500Vとしたときの各部のスイッチング動作波形であり、同図(a)は交流電源周期単位での各部動作波形で、同図(b)は交流電源電圧が最大値付近でのスイッチング制御の拡大動作波形である。
【0090】
電流制御形インバータのスイッチング制御により、逆のこぎり波状のパルス電流波形を高周波変圧器で変流動作して二次出力をダイオードブリッジ回路により整流し、直流キャパシタにより平滑化され一定の直流電圧、電流となっていることが確認される。
(2)直流基準電圧による制御動作
【0091】
図20は、直流基準電圧をEdr=300Vと低く設定したときの結果であり、同図(a)は変圧比N1/N2=1としたときの結果であり、変圧器の一次側に換算した直流出力電圧ed1が、交流電源の整流回路電圧eadより低い動作区間が生じて昇圧制御動作ができなくなり波形歪が発生している様子が分かる。
【0092】
これに対して、同図(b)は変圧比をN1/N2=2とすることにより、変圧器の一次側に換算した直流出力電圧ed1が2倍高くなるため、正常に動作できていることを示している。
(3)過電圧保護回路動作
【0093】
次に、図21は、図19と同じ動作条件であるが、高周波変圧器が、lo1=5uH,lo2=5uHの漏れインダクタンスを有するとき、過電圧保護回路動作の有無の比較を示している。
【0094】
インバータを構成するスイッチS1に加わる電圧es1に着目すると、同図(a)は過電圧保護回路動作を働かしていないときの動作波形で、数kVの高い電圧がスイッチ素子S1にかかっていることが確認されるが、過電圧保護回路動作を働かした同図(b)のスイッチS1にかかる電圧は設定基準電圧Vz=800Vに保たれており、降圧チョッパを用いた過電圧保護回路が有効に機能していることが分かる。
【0095】
図22は、過電圧保護制御動作を確認するため、スイッチング制御動作波形を拡大して示したもので、インバータによる直流短絡モードから負荷への給電モードへの切り替わり時点でスイッチ素子S1に過電圧がかかるが、それ以外の区間動作波形はほぼ同じであることが確認できる。
【0096】
同図(a)は転流時点でスパイク状の極めて高い電圧波形が確認されるが、過電圧保護制御動作を働かせた同図(b)では、過電圧保護回路に流れる電流ibによって、過電圧は発生せず基準値として設定した一定値に制御できていることが確認できる。
(4)LCフィルタの配置による動作波形
【0097】
図23は、過電圧保護回路の転流エネルギーの返還先となるLCフィルタの配置を、同図(a)はLCフィルタを交流側に、同図(b)はインダクタLaを交流側、キャパシタCaを直流側に配置したときのスイッチング制御動作波形である。
【0098】
LCフィルタ回路の配置によって制御動作波形に多少の違いは見られるもののAC-DC電源としての基本動作は変わらず、過電圧も生じず一定に制御できていることが確認できる。
(5)二重化構成制御時の動作波形
【0099】
次に、図24は本発明のAC-DC電源のインバータ、高周波変圧器、整流回路部を二重化構成としたときのスイッチング制御動作波形であり、同図(a)に示す波形で、交流電源電圧が最大値付近のスイッチング波形を拡大表示したのが同図(b)であり、二重化によりLCフィルタに流れる電流波形iLd、一次換算した直流出力電流波形id1の脈動が低減されている様子がわかる。
(6)三相電源に対する動作波形
【0100】
図25は、三相電源に対する本発明のAC-DC電源の動作波形であり、三相交流電流波形iaは、三相電源の整流電圧波形eadに比例したほぼ一定振幅の120度通流幅の波形となることが確認きる、


【符号の説明】
【0101】
100 …交流電源
100 -1…単相交流電源
100 -2…三相交流電源
200 …ダイオードブリッジ回路1
200 -1…単相整流回路
200 -2…三相整流回路
300 … LCフィルタ回路
300 -1…交流フィルタインダクタ
300 -2…直流フィルタキャパシタ
400 …電流制御電圧形インバータ
400-1…電流源インダクタ
400-2…電圧形インバータ
500 …変圧器
600 …ダイオードブリッジ回路2
700 …過電圧保護回路
800 …直流負荷
900 …制御回路
900-1…出力制御部
900-2…過電圧保護制御部
【要約】

【課題】
交流電源から高力率で絶縁した電圧制御可能な直流電源を得るAC-DC電源を構成するには、一般に交流電源を高力率整流し、スイッチング制御により交流変換し変圧器を介し、必要に応じて電圧、電流制御する変換回路構成となり、主回路構成および制御システムが複雑化する。

【解決手段】
電流制御型インバータを用いることにより、ダイオード整流回路1と、電流パルス幅制御インバータ、高周波変圧器およびダイオード整流回路2でAC-DC電源の主回路を構成することができ、用いる電流制御型インバータの通流比制御だけで高力率整流動作のもとで、制御可能な直流出力電圧を得ることを可能とする。

【選択図】 図18
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25