(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】骨関節炎の予防または治療用の薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/32 20150101AFI20240312BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240312BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240312BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A61K35/32
A61K35/12
A61P29/00
A61P19/02
A61P43/00 121
A61L27/38 112
A61L27/38 200
A61L27/38 300
(21)【出願番号】P 2020522653
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 KR2018007437
(87)【国際公開番号】W WO2019004794
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2017-0083560
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517249886
【氏名又は名称】コーロン ライフ サイエンス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】KOLON LIFE SCIENCE, INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】520000892
【氏名又は名称】コーロン ティシュージーン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ノ、サンウン
(72)【発明者】
【氏名】イ、スントン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヒョンヨル
(72)【発明者】
【氏名】ワン、スンテ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ホウン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ミンホ
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/126139(WO,A1)
【文献】特開2009-137980(JP,A)
【文献】TISSUE ENGINEERING,2005年,Vol.11, Number 1/2,pp.310-318
【文献】TISSUE ENGINEERING,2005年,Vol.11, Number 9/10,pp.1516-1526
【文献】Cytotherapy,2012年,Vol.14,pp.247-256
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGF-β(Transforming growth factor beta)を発現するように形質転換した哺乳類細胞集団および形質転換していない哺乳類細胞集団を含む骨関節炎の予防または治療用の薬学的組成物であって、前記形質転換した哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、200μm未満のD
90粒子径を有するものであり、
前記形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、300μm未満のD90粒子径を有するものであり、
前記形質転換していない哺乳類細胞は軟骨細胞である、薬学的組成物。
【請求項2】
前記形質転換した哺乳類細胞集団は、追加的に放射線照射(irradiate)したものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記組成物は、「形質転換していない哺乳類細胞集団」対「形質転換した哺乳類細胞集団」が、細胞数を基準に1~10対1の割合で混合されたものである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
TGF-β(Transforming growth factor beta)を発現するように形質転換した哺乳類細胞集団および形質転換していない哺乳類細胞集団を含む、骨関節炎の細胞治療剤製造用キットであって、
前記形質転換した哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、200μm未満のD
90粒子径を有するものであり、
前記形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、300μm未満のD90粒子径を有するものであり、
前記形質転換していない哺乳類細胞は軟骨細胞である、キット。
【請求項5】
前記キットは、「形質転換していない哺乳類細胞集団」対「形質転換した哺乳類細胞集団」が、細胞数を基準に1~10対1の割合で混合されたものである、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
(
1)TGF-βで形質転換した哺乳類細胞集団の培養浮遊液をポアサイズ200μm未満のセルストレーナーでろ過して得られた細胞または細胞群と、形質転換していない哺乳類細胞集団の培養浮遊液をポアサイズ300μm未満のセルストレーナーでろ過して得られた細胞または細胞群をそれぞれ選別するステップと、
(
2)前記ステップ(
1)のそれぞれ選別された細胞集団を分離されたバイアル内にそれぞれ充填するステップと、
(
3)前記ステップ(
2)のバイアル内にそれぞれの細胞集団を混合するステップとを含み、
前記形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、300μm未満のD90粒子径を有するものであり、
前記形質転換していない哺乳類細胞は軟骨細胞である、骨関節炎治療剤を製造する方法。
【請求項7】
前記ステップ(
3)の混合は、前記ステップ(
1)の形質転換していない哺乳類細胞集団と形質転換した哺乳類細胞集団が、細胞数を基準に1~10対1の割合で混合されるものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(1)のTGF-βで形質転換した哺乳類細胞集団は、追加的に放射線照射(irradiate)したものである、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨関節炎の予防または治療用の薬学的組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
退行性関節炎とも呼ばれる骨関節炎は、軟骨の損傷または退行性変化により、関節をなす骨、軟骨及び靭帯などに損傷が起こり、炎症と痛みが生じる慢性疾患である。骨関節炎は指、膝(膝関節)、尻(股関節)、腰(腰椎関節)、首(頸椎の関節)などの体中のほぼすべての関節で発症する。骨関節炎は、その発生が年齢と関連し、関節の過度の使用や老化による軟骨の摩耗により発生するものと考えられてきた。しかし、最近、骨関節炎の発生機序と軟骨細胞の様々な刺激に対する反応が知られるにつれて、単純に老化と関連する避けることができない現象ではなく、軟骨細胞の代謝バランスの異常などの様々な原因による関節の損傷と、これにより、様々な全身的因子と局所的因子が相互に作用して発生する関節疾患として理解されている。
【0003】
骨関節炎の主な症状は、反復的な痛み、関節の強直感、機動力の低下および機能喪失である。臨床的な経過は、通常、徐々に進行していく。ある程度病気が進行するにつれて、関節軟骨の消失と変性によって関節面が不規則になると、痛みの程度が増強し、漸進的な運動障害のために日常生活に大きな支障をきたすことになる。また、関節の変形も起こる。
【0004】
軟骨の成長に関連する調節因子(modulator)及び生化学的因子(biochemical factor)を標的とした研究が進行中である。これらの因子は、骨形成の効果的な刺激因子であるBMP(bone morphogenetic protein)、及び細胞成長と細胞外基質(extracellular matrix、ECM)の形成を刺激するTGF-β(Transforming growth factor beta)を含む。
【0005】
特に、TGF-βは、プロテオグリカン(proteoglycan)の合成、軟骨細胞の生長及び組織再生に関与することが知られている。また、TGF-βは、免疫抑制および抗炎症機能を有することが知られている。EGF(epidermal growth factor)、IGF-I(insulin-like growth factor I)、bFGF(basic fibroblast growth factor)のような他の成長因子もまた軟骨の再生を刺激するが、これらの成長因子は、軟骨の損傷に効果を示さなかった。
【0006】
前記のような成長因子は、投与において、濃度、放出速度および伝達方法などの決定に困難がある。研究者らは、動物実験で証明された結果に基づいて、これらの因子をリポソームを介して、または培地に溶解して伝達しようとする努力を継続的に行ってきた。しかし、これらの因子の人間への適用は、大きく進んでいない状況である。
【0007】
遺伝的に変形された軟骨細胞の利用は、細胞媒介遺伝子治療法と組み合わせて軟骨の再生を成功的に導いた非常に新規な技術である(Lee KHらHum Gene Ther 2001;12:1805-1813、SUN U. SONGらTissue Engineering 2005;11:1516-1526)。この方法は、TGF-β遺伝子を有するレトロウイルスベクターで形質導入(transduction)された同種(allogeneic)ヒト軟骨細胞と同種正常軟骨細胞とを混合して使用する。この方法は、外科的方法を最小限に抑えるとともに、軟骨の再生を誘導することができる。
【0008】
成熟した軟骨細胞は球形の形状を有し、II型膠原線維(Type II collagen)と非常に大きな分子量の凝縮プロテオグリカン(proteoglycan)、非膠原繊維(non-collagenous fiber)を合成する。
【0009】
骨関節炎において、関節の損傷を軟骨細胞を移植して治療しようとする努力が継続的に行われている。特に軟骨損傷に対する組織工学的な支持体として軟骨細胞を用いようとする技術が公開されている。韓国特許公開第10-2015-0014369号では、軟骨細胞または軟骨分化能を有する細胞をV字底プレート(deep well plate)に分注し、遠心分離した後、3次元培養して玉状の軟骨細胞治療剤を製造する技術を開示している。前記文献では、玉状の軟骨組織が欠損部位を埋めることにより、軟骨損傷部位の形状および厚さに関係なく、欠損部位を修復できることを開示している。
【0010】
また、米国特許公開第2005-0152882号では、1~27mm3の直径を有する粒子(particle)状の軟骨とマトリックスとの組み合わせを含む軟骨の成長促進用組成物を開示している。
【0011】
また、米国特許公開第2016-0038544号では、骨関節炎での軟骨を代替するための軟骨類似組織を製造するために、高密度の軟骨細胞前駆体(chondroblast)集団を形成する。
【0012】
前記のように、これまで知られている軟骨細胞を用いた治療用組成物のほとんどは、小さく作った組織や高密度集団などの塊を用いるのが一般的であり、組織や細胞塊が排除された軟骨細胞組成物の治療効果については知られていない。一方、生物学的製剤の場合には、非常に小さな差が全く異なる結果を示し得る。このため、塊を形成しない軟骨細胞が治療効果を示すことができるかについては、事実上まだ証明されていない状況である。
【0013】
また、実質的に患者に適用可能なレベルに有効性が確保された細胞治療剤を提供するためには、どのような大きさと種類の細胞が必要とされるかについて特定および選別する必要性が依然として残っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような状況の下で、本発明者らは、特定の疾患、特に骨関節炎に対する細胞治療剤を開発するために鋭意努力した。その結果、目的の遺伝子、例えばTGF-βを発現するように形質転換した細胞および形質転換していない正常細胞のそれぞれが特定のサイズを有するように選別することが、軟骨細胞相互間の凝集を最小限に抑えつつ、有効な治療効果を示すことを確認した。
【0015】
また、選別された特定のサイズ以下の混合細胞を患者に投与した場合、優れた治療効果を維持しながらも患者コンプライアンスを向上することができ、実際患者に投薬するための治療剤の生産施設または病院での品質管理が容易なことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0016】
したがって、本発明の目的は、骨関節炎の予防または治療用の薬学的組成物を提供することにある。
【0017】
また、本発明の他の目的は、細胞治療剤製造用キットを提供することにある。
【0018】
さらに、本発明のまた他の目的は、骨関節炎治療剤を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0020】
本発明の一態様によると、本発明は、形質転換した哺乳類細胞集団を含む骨関節炎の予防または治療用の薬学的組成物であって、前記集団に含まれる細胞または細胞群は、200μm未満のD90粒子径を有する薬学的組成物を提供する。
【0021】
本発明の最大の特徴は、目的の遺伝子[例えば、TGF-βのTGF-β1]で形質転換した哺乳類細胞(細胞群または細胞集団)を特定する基準として、粒子のサイズ、例えば200μm未満のD90粒子径を基準に選別して、前記細胞の治療学的有効性を確認することにより、細胞治療剤の組成物として用いることにある。
【0022】
本発明で使用される用語「形質転換」は、形質導入または形質感染と同じ意味で混用される。
【0023】
本発明の組成物の有効成分である前記哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、単一の細胞または細胞が結合している形態と定義される。
【0024】
本発明で哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群の分類基準は、粒子のサイズ、特に粒子径サイズ分布のDxである。
【0025】
本明細書で前記哺乳類細胞集団の基準を示すときに使用する用語「粒子径サイズ分布のDx」は、分布のx番目の百分位を示す。本発明において、例えばD90は90番目の百分位を示し、D90は、D(0.90)又はD[0.9]、或いはそれと類似した表現で記載してもよい。中央粒子サイズおよびDxにおいて、大文字D又は小文字dは相互交換してもよく、同じ意味を持つ。
【0026】
前記形質転換した哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、200μm未満のD90粒子径を有することが好ましい。前記形質転換した哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群の粒子径は、例えば、1μm~199μm、1μm~150μm、1μm~100μm、1μm~90μm、1μm~80μm、1μm~70μm、1μm~60μm、1μm~50μmまたは1μm~40μmであってもよい。
【0027】
一方、200μm以上のD90粒子径を有する形質転換した哺乳類細胞集団の場合は、不規則で大きな塊がなくならずにそのまま残存し、骨関節炎治療用の薬学的組成物に適用するには適していない。
【0028】
本発明において、形質転換した哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、好ましくは、TGF-βを発現する細胞または細胞群であり、最も好ましくはTGF-β1を発現する細胞または細胞群である。本発明によると、前記細胞集団は、不活性化されることが好ましい。
【0029】
前記不活性化は、放射線照射(irradiate)によるものであり、前記放射線照射は、ガンマ線、X線または電子線であってもよい。
【0030】
また、本発明の好ましい実施形態によると、前記細胞集団は、形質転換していない哺乳類細胞集団と混合して投与することができる。
【0031】
前記形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、300μm未満のD90粒子径を有することが好ましい。前記形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、例えば、1μm~299μm、1μm~240μm、1μm~230μm、1μm~220μm、1μm~210μm、1μm~200μm、1μm~190μm、1μm~180μm、1μm~170μm、1μm~160μm、1μm~150μm、1μm~140μm、1μm~130μm、1μm~120μm 、1μm~110μm、1μm~100μm、1μm~90μm、1μm~80μm、1μm~70μm、1μm~60μm、1μm~50μmまたは1μm~40μmであってもよい。
【0032】
一方、300μm以上のD90粒子径を有する形質転換していない哺乳類細胞集団の場合は、不規則で大きな塊がなくならずにそのまま残存し、骨関節炎治療用の薬学的組成物に適用するには適していない。
【0033】
本発明の一具現例では、TGF-βを発現するように形質転換した細胞および形質転換していない哺乳類細胞のそれぞれが特定のサイズを有するように分離することが、軟骨細胞相互間の凝集を最小限に抑え、治療効果にも有益であることを確認した。また、選別された特定のサイズ以下の細胞を患者に投与する場合、患者コンプライアンスを向上させることができ、治療剤の生産施設または病院での品質管理が容易である。
【0034】
また、一具現例では、TGF-βを発現する軟骨細胞および形質転換していない哺乳類細胞である正常細胞を、ろ過などにより特定のサイズの細胞または細胞群からなるように選別することが、細胞間の凝集を抑制できることを確認した。
【0035】
つまり、形質転換した哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群のD90値が200μm未満、例えば100μmであり、形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群のD90値が300μm未満、例えば200μmである場合、細胞間の凝集が効果的に抑制される。
【0036】
また、前記特定のサイズの細胞または細胞群は、単一細胞状態、コロニー状態、クラスタ状態、又はこれらが混合された状態であってもよい。
【0037】
本発明の好ましい具現例によると、前記「形質転換していない哺乳類細胞集団」対「形質転換した哺乳類細胞集団」の割合は、細胞数を基準として0.1~10対1であり、より好ましくは1~10対1であり、さらに好ましくは1~3対1であってもよく、最も好ましくは3対1であってもよい。
【0038】
本発明で哺乳類細胞は、軟骨細胞または軟骨前駆細胞であってもよい。
【0039】
本明細書で使用される用語「軟骨細胞」とは、細胞が脱分化または再分化するかに関係なく、分離された軟骨細胞集団を意味する。数時間かけて試験管培養を行った後、軟骨細胞は、繊維芽細胞のような他の細胞型に脱分化することが観察された。しかし、誘導を行う場合には、これらの細胞は、軟骨細胞に再分化することができる。本発明の目的において「軟骨細胞」は、時間の経過につれて脱分化する軟骨細胞を任意に含む、本来の出発軟骨細胞培養物を含むサンプルを意味する。
【0040】
本発明で軟骨細胞は、同種細胞であることが好ましい。本発明は、単一型の細胞だけでなく、結合組織細胞の混合された培養物でも実施できることをよく理解するであろう。結合組織細胞は、化合物または放射能で処理して、細胞が目的の遺伝子、好ましくはTGF-βを安定に発現するようにすることをよく理解するであろう。好ましくは、結合組織細胞は、これを注射した宿主有機体において免疫反応を起こさない。これに関し、細胞媒介された遺伝子治療または体細胞治療の場合には、自己細胞だけでなく、同種細胞を使用することもできる。
【0041】
また、前記哺乳類細胞は、ヒト由来であってもよい。
【0042】
本明細書で用語「予防」は、疾患または疾病を保有していると診断されたことはないが、この疾患または疾病にかかりやすい傾向がある動物、例えば哺乳類で疾患または疾病の発生を抑制することを意味する。
【0043】
本明細書で用語「治療」は、(i)疾患または疾病の発展の抑制、(ii)疾患または疾病の軽減、および(iii)疾患または疾病の除去を意味する。好ましくは、前記治療しようとする疾患または疾病は骨関節炎である。
【0044】
また、本発明の組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含むことができる。
【0045】
本発明の薬学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常的に用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分に加えて、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。薬剤学的に許容される適切な担体及び製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳細に記載されている。
【0046】
本発明の薬学的組成物の適切な投与量は、製剤化の方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、疾病症状の程度、食物、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性などの要因によって様々な方法で処方することができる。
【0047】
一方、本発明の薬学的組成物の投与量は、好ましくは1回あたり1.0x106~3x107個の細胞である。
【0048】
本発明の薬学的組成物は、非経口投与することができ、非経口投与する場合には、関節腔内、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、経皮投与などで投与することができる。好ましくは、本発明の薬学的組成物は、関節腔部位に注入することができる。本発明の薬学的組成物は、適用される疾患の種類に応じて投与経路を決定することが好ましい。
【0049】
本発明の組成物に含まれる有効成分の濃度は、治療目的、患者の状態、必要期間、疾患の重度などを考慮して決定し、特定の範囲の濃度に限定されない。
【0050】
本発明の薬学的組成物は、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法に従って、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することにより、単位容量の形態で製造するか、または多容量容器内に入れて製造することができる。このとき、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【0051】
また、本発明の他の態様によると、本発明は、TGF-βで形質転換した哺乳類細胞集団を含む、骨関節炎の治療または予防のための細胞治療剤製造用キットを提供する。前記集団に含まれる細胞または細胞群は、200μm未満のD90粒子径を有することが好ましい。
【0052】
前記キットは、形質転換していない哺乳類細胞集団をさらに含むことができる。前記形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、300μm未満のD90粒子径を有することが好ましい。
【0053】
前記キットには、前記細胞治療剤として、前記哺乳類細胞集団のみならず、当該分野で一般的に使用されるツール、試薬などを含むことができる。
【0054】
前記ツールまたは試薬の一例としては、適切な担体、検出可能な信号を生成できる標識物質、発色団(chromophores)、溶解剤、洗浄剤、緩衝剤、安定化剤などが挙げられるが、これらに限定されない。標識物質が酵素である場合には、酵素活性を測定できる基質および反応停止剤を含むことができる。担体には、可溶性担体、不溶性担体がある。可溶性担体の一例としては、当該分野で公知の生理学的に許容される緩衝液、例えばPBSがあり、不溶性担体の一例としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド、ラテックスに金属をメッキした磁性微粒子のような高分子、その他の紙、ガラス、金属、アガロースおよびそれらの組み合わせであってもよい。
【0055】
本発明の他の態様によると、本発明は、次のステップを含む骨関節炎治療剤を製造する方法を提供する:
(1)TGF-βで形質転換した哺乳類細胞集団および形質転換していない哺乳類細胞集団をそれぞれ用意するステップと、
(2)前記ステップ(1)のTGF-βで形質転換した哺乳類細胞集団の中で200μm未満のD90粒子径を有する細胞または細胞群、および形質転換していない哺乳類細胞集団の中で300μm未満のD90粒子径を有する細胞または細胞群をそれぞれ選別するステップと、
(3)前記ステップ(2)のそれぞれ選別された細胞集団を、分離されたバイアル内にそれぞれ充填するステップと、
(4)前記ステップ(3)のバイアル内にそれぞれの細胞集団を混合するステップ。
【0056】
すなわち、前記骨関節炎治療剤は、TGF-βで形質転換した哺乳類細胞集団と形質転換していない哺乳類細胞集団を混合して投与することができ、TGF-βで形質転換した哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、200μm未満のD90粒子径を有し、前記形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、300μm未満のD90粒子径を有することが好ましい。
【0057】
前記選別は、物理的、化学的または電子的な選別であってもよい。物理的選別には、一定のサイズのメッシュ(mesh)を使用するか、或いはセルストレーナーまたはフィルタを使用する方法を用いることができる。また、この物理的選別のほか、細胞の蛍光、磁気、電荷などを用いる細胞選別方法を応用することができ、これらに限定されない。
【0058】
本発明のキットおよび治療剤の製造方法は、前述の構成を含むので、重複した内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるためにその記載を省略する。
【発明の効果】
【0059】
本発明の組成物の有効成分である選別された特定のサイズ以下のTGF-βで形質転換した哺乳類細胞および形質転換していない哺乳類細胞の混合細胞組成物は、細胞塊を内包していないながらも有効に優れた治療効果を示すので、医薬品の品質管理の側面から見て、不純物と容易に区別することができ、治療剤の生産施設や病院で管理しやすい利点がある。また、選別された細胞は、軟骨細胞相互間の追加凝集を示さず、保管にも有益である。さらに、選別された特定のサイズ以下の混合細胞を患者に投与する場合、患者コンプライアンスを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】
図1は、軟骨細胞のセルストレーナー(Cell strainer)を通過前後のバイアルを示す。
【
図2a】
図2aは、形質転換していない細胞のセルストレーナーを通過前後の顕微鏡観察結果を示す。
【
図2b】
図2bは、形質転換した細胞のセルストレーナーを通過前後の顕微鏡観察結果を示す。
【
図3a】
図3aは、形質転換していない細胞のセルストレーナーを通過前及び通過後における、時間経過による顕微鏡観察結果を示す。
【
図3b】
図3bは、形質転換した細胞のセルストレーナーを通過前及び通過後における、時間経過による顕微鏡観察結果を示す。
【
図4a】
図4aは、MIA誘導骨関節炎動物モデルに選別された混合細胞を処理したときのフォンフレイフィラメントテストの結果を示す。
【
図4b】
図4bは、MIA誘導骨関節炎動物モデルに選別された混合細胞を処理したときのフォンフレイフィラメント結果をAUC(area under the curve)で表すものである。
【
図5】
図5は、MIA骨関節炎動物モデルに選別された混合細胞を処理したときのH&E染色軟骨組織の分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。本発明による実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲が後述する実施例に限定されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明である。
【0062】
実施例1.細胞治療剤の用意
本発明で用いられる細胞治療剤は、TGF-β1(NCBI Reference Sequence:NM_000660.6)を発現するように形質転換した細胞集団(第1集団;以下、「TC」)と、前記遺伝子で形質転換していない正常な細胞集団(第2集団;以下、「HC」)とを含む混合細胞である。
【0063】
前記TCは、TGF-β1のcDNAを公知の方法により細胞に注入して製造することができる。例えば、TGF-β1のcDNAを、アンピシリン、ネオマイシンなどの抵抗遺伝子を有する公知のベクター[例えば、Promega社製のpCI(アンピシリン抵抗遺伝子を含有)]に含ませて、TGF-β1のcDNAを含むベクターを製造した後、軟骨細胞にリン酸カルシウム(calcium phosphate)方法またはリポペクチン(lipofectin)方法などの公知の方法で注入することにより製造できる。又は、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどの遺伝子伝達体を使用して製造することもできる。
【0064】
前記HC及びTCは、ヒト由来の細胞であって、HCは正常軟骨細胞であり、TCはTGF-β1が分泌されるように形質転換された細胞である。HC及びTCの作製方法は、[Cytotherapy,2012 Feb;14(2):247-256]、並びに米国特許第7,005,127号および米国特許第7,282,200号に開示されている。
【0065】
前記HC及びTCの混合比は、細胞数を基準に3:1の割合で混合して以下の実施例に適用した。
【0066】
作製されたTC及びHCは、それぞれバイアルに充填した後、凍結し、混合細胞治療剤としての使用のために準備・保管した。このとき、TCは凍結前または凍結後、放射線照射により不活性化した。
【0067】
実施例2.有効性を有する細胞の種類の選別
本発明者らは、前記実施例1で用意した細胞治療剤である混合細胞の細胞凝集の種類およびサイズによる有効性を確認しようとした。
【0068】
そのために、セルストレーナー(cell strainer)をポア(pore)のサイズ別に用意し、ろ過した後、HC細胞及びTC細胞の凝集現象の有無を確認する一連のQC(quality control)を行った。
【0069】
2-1.HC細胞におけるセルストレーナーのポアサイズによる細胞凝集現象の確認
本発明者らは、HC細胞を培養して細胞浮遊液を集めた。一部の細胞に対しては、セルストレーナーを適用せずにバイアルに細胞を充填して異物検査を行った。残りの細胞浮遊液に対しては、200及び300μmポアサイズのセルストレーナーで細胞をろ過した後、セルストレーナーの適用後の異物検査を行った。
【0070】
その結果は、表1に示す通りである。
【0071】
【0072】
つまり、HC細胞におけるセルストレーナーのポアサイズによる細胞凝集現象の有無を確認するために、細胞塊を完全に除去する方法で、セルストレーナーを用いて細胞浮遊物を通過させた後、細胞塊の減少有無を確認した。HC細胞の場合、200μmセルストレーナーを通過した細胞は、
図1に示すように、細胞塊がすべて濾過され、充電後の異物検査で適合判定を受けた。
【0073】
また、
図2aに示すように、200μmセルストレーナーの適用後は、細胞塊がなくなることが顕微鏡で観察された。
【0074】
これに対して、300μmセルストレーナーを適用した後は、
図1に示すように、不規則で大きな塊がなくならずにそのまま残存することが肉眼で確認された。
【0075】
これらのことから、HC細胞の場合には、300μmセルストレーナーを通過することができる300μm未満のD90粒子径を有する細胞、特に200μm以下のD90粒子径を有する細胞が適切であることがわかる。
【0076】
2-2.TC細胞におけるセルストレーナーのポアサイズによる細胞凝集現象の確認
本発明者らは、TC細胞を培養して細胞浮遊液を集め、一部の細胞に対しては、セルストレーナーを適用せずにバイアルに細胞を充填して異物検査を行った。残りの細胞浮遊液に対しては、70、100及び200μmポアサイズのセルストレーナーで細胞をろ過した後、セルストレーナーの適用後の異物検査を行った。
【0077】
その結果は、表2に示す通りである。
【0078】
【0079】
つまり、TC細胞におけるセルストレーナーのポアサイズによる細胞凝集現象の有無を確認するために、細胞塊を完全に除去する方法で、セルストレーナーを用いて細胞浮遊物を通過させた後、細胞塊の減少有無を確認した。TC細胞の場合、70μm及び100μmセルストレーナーを通過した細胞は、
図1に示すように、細胞塊がすべて濾過され、充電後の異物検査を通過した。
【0080】
また、
図2bに示すように、100μmセルストレーナーの適用後は、細胞塊がなくなることが顕微鏡でも観察された。
【0081】
これに対して、200μmセルストレーナーを適用した後は、
図1に示すように、不規則で大きな塊がなくならずにそのまま残存することが肉眼で確認された。
【0082】
これらのことから、TC細胞の場合には、200μmセルストレーナーを通過することができる200μm未満のD90粒子径を有する細胞、特に100μm以下のD90粒子径を有する細胞が適切であることがわかる。
【0083】
実施例3.ストレーナーの適用が追加的な凝集を防止できるかどうかの確認
本発明者らは、前記実施例2で用意したセルストレーナーを通過する前後の細胞において、時間が経過するにつれて細胞凝集の種類およびサイズに変化がないかどうか、およびストレーナーの適用が追加的な凝集の防止にも役立つかどうかを確認しようとした。
【0084】
そのために、セルストレーナー(cell strainer)をポア(pore)サイズ別に用意し、ろ過した後、常温でバイアルを放置し、HC細胞及びTC細胞の凝集現象が時間の経過により変化するかを確認した。
【0085】
3-1.HC細胞におけるセルストレーナーの適用後の時間による細胞凝集現象の確認
本発明者らは、HC細胞を培養して細胞浮遊液を集めた。一部の細胞に対しては、セルストレーナーを適用せずにバイアルに細胞を充填し、時間の経過による細胞凝集現象を確認した。残りの細胞浮遊液に対しては、200μmポアサイズのセルストレーナーで細胞をろ過した後、バイアルに細胞を充填し、時間の経過による細胞凝集現象を確認した。
【0086】
HC細胞のセルストレーナーのポアサイズによる細胞凝集現象の有無を確認するために、細胞塊を完全に除去する方法で、セルストレーナーを用いて細胞浮遊物を通過させた後、細胞塊の減少有無を確認した。
【0087】
その結果、
図3aに示すように、0時間に200μmセルストレーナーを適用した後は、細胞塊がなくなることが顕微鏡で観察された。また、3時間経過後も細胞塊がこれ以上生じないことを顕微鏡で観察した。
【0088】
これに対して、セルストレーナーを適用していない場合には、不規則で大きな塊がなくならずにそのまま残存することが顕微鏡で観察され、これは時間が経ってもそのまま残存することを確認することができた。
【0089】
3-2.TC細胞におけるセルストレーナーの適用後の時間による細胞凝集現象の確認
本発明者らは、TC細胞を培養して細胞浮遊液を集めた。一部の細胞に対しては、セルストレーナーを適用せずにバイアルに細胞を充填し、時間の経過による細胞凝集現象を確認した。残りの細胞浮遊液に対しては、100μmポアサイズのセルストレーナーで細胞をろ過した後、バイアルに細胞を充填し、時間の経過による細胞凝集現象を確認した。
【0090】
TC細胞におけるセルストレーナーのポアサイズによる細胞凝集現象の有無を確認するために、細胞塊を完全に除去する方法で、セルストレーナーを用いて細胞浮遊物を通過させた後、細胞塊の減少有無を確認した。
【0091】
その結果、
図3bに示すように、0時間に100μmセルストレーナーを適用した後は、細胞塊がなくなることが顕微鏡でも観察された。また、3時間が経っても細胞塊がこれ以上生じないことを顕微鏡で観察した。
【0092】
これに対して、セルストレーナーを適用していない場合には、
図3bに示すように、不規則で大きな塊がなくならずにそのまま残存することが顕微鏡で観察された。これは時間が経ってもそのまま残存することを確認することができた。
【0093】
実施例4.MIA骨関節炎モデルにおける選別された混合細胞処理による骨関節炎の治療効果の確認
4-1.痛み緩和効果の確認
本発明者らは、MIA投与で骨関節炎を誘発させたラット動物モデルに、前記実施例2で確認された特定のサイズ以下の細胞に選別された混合細胞、すなわち、300μm未満のD90粒子径を有するHC細胞と200μm未満のD90粒子径を有するTC細胞とが3:1の割合で混合された混合細胞を投与したときの陣痛効果を比較し、本発明の混合細胞治療剤の有効性を確認しようとした。
【0094】
すなわち、本発明者らは、選別された混合細胞の治療効果を確認するために、MIA誘導骨関節炎動物モデルを作成した後、選別された混合細胞を処理して痛みの変化を観察した。
【0095】
まず、動物モデルの作成には、6週齢の雄ラット(Spargue-Dawley、200~225g、Nara-Biotec社、大韓民国)を使用した。動物実験は、コーロン生命科学社(大韓民国)の実験動物運営委員会(IACUC No. KLS IACUC 2013-04)の承認下で獣医的管理の下で行った。
【0096】
関節炎を誘導するために、60mg/mLの濃度のMIA(monosodium iodoacetate、Sigma、USA)溶液50μlを31G注射器を使用してラットの左膝の関節腔内に投与した。
【0097】
MIA投与2週間後、骨関節炎が誘発された個体を対象に対照物質(CS-10)と混合細胞をそれぞれ左膝の関節腔内に投与した。
【0098】
【0099】
その後、フォンフレイフィラメント(von Frey filament)テストを測定した。前記テストでは、1980年Dixon(Chaplan SR et al.,Quantitative assessment of tactile allodynia in the rat paw,Journal of Neuroscience Methods,1994,53:55-63;及び、Dixon WJ,Efficient analysis of experimental observations,Annual Reviews Pharmacology and Toxicology,1980,20:441-62)が確立した50%up&down threshold法を使用した。N値がそれぞれ0.4、0.6、1、2、4、6、8、15gram(g)である9つのフィラメントを用いて痛みの反応を調査し、定められたパターンに従って閾値(threshold)を計算した。
【0100】
混合細胞および対照物質を投与してから一定時間(0、7、14、21、28、35、42、49、56日)が経過した後、フォンフレイフィラメントテスト値を測定した。
【0101】
その結果、
図4a及び4bに示すように、混合細胞を投与後、一定期間(0、7、14、21、28、35、42、49、56日)が経過した後のフォンフレイフィラメント測定値は、対照群であるCS-10投与群に比べて混合細胞投与群で統計的に有意な鎮痛効果が示されることを確認した(p<0.05)。フォンフレイフィラメント結果を、性能の評価指標として使用される曲線下面積AUC値で表示した場合にも、対照群であるCS-10投与群に比べて混合細胞投与群で統計的に有意な結果を確認した(p<0.05)。
【0102】
4-2.軟骨構造改善効果の確認
本発明者らは、MIA投与で骨関節炎を誘発させたラット動物モデルに、対照群(vehicle)と、前記実施例2のように特定のサイズ以下の細胞に選別された混合細胞の投与群の軟骨構造改善効果を比較して、混合細胞治療剤の有効性を確認しようとした。
【0103】
そのために、本発明者らは、前記実施例4-1と同様にして用意した動物モデルを実験実行56日後に犠牲にして、H&E染色組織の分析を行った。
【0104】
その結果、
図5に示すように、対照群(vehicle)であるCS-10投与群では、軟骨構造の改善が観察されないのに対して、混合細胞(mixed cell)投与群では、軟骨構造の改善が観察されることを確認した。
【0105】
結論として、本発明に基づいて選別された、300μm未満のD90粒子径を有するHC細胞と200μm未満のD90粒子径を有するTC細胞とが3:1の割合で混合された混合細胞は、塊状の細胞がない状態でも優れた痛みの緩和及び軟骨生成の効果を示すので、優れた骨関節炎治療剤として用いることができる。
本発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1>
形質転換した哺乳類細胞集団を含む骨関節炎の予防または治療用の薬学的組成物であって、前記集団に含まれる細胞または細胞群は、200μm未満のD90粒子径を有するものである、薬学的組成物。
<2>
前記形質転換した哺乳類細胞集団は、追加的に放射線照射(irradiate)したものである、<1>に記載の薬学的組成物。
<3>
前記組成物は、前記形質転換した哺乳類細胞集団のほか、形質転換していない哺乳類細胞集団をさらに含む、<1>に記載の薬学的組成物。
<4>
前記形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、300μm未満のD90粒子径を有する、<3>に記載の薬学的組成物。
<5>
前記組成物は、「形質転換していない哺乳類細胞集団」対「形質転換した哺乳類細胞集団」が、細胞数を基準に1~10対1の割合で混合されたものである、<3>に記載の薬学的組成物。
<6>
前記哺乳類細胞は、軟骨細胞または軟骨前駆細胞である、<1>に記載の薬学的組成物。
<7>
前記哺乳類細胞は、TGF-β(Transforming growth factor beta)で形質転換したものである、<1>に記載の薬学的組成物。
<8>
TGF-β(Transforming growth factor beta)で形質転換した哺乳類細胞集団を含む、細胞治療剤製造用キットであって、
前記集団に含まれる細胞または細胞群は、200μm未満のD90粒子径を有するものである、キット。
<9>
前記キットは、前記形質転換した哺乳類細胞集団のほか、形質転換していない哺乳類細胞集団をさらに含む、<8>に記載のキット。
<10>
前記形質転換していない哺乳類細胞集団に含まれる細胞または細胞群は、300μm未満のD90粒子径を有する、<9>に記載のキット。
<11>
前記キットは、「形質転換していない哺乳類細胞集団」対「形質転換した哺乳類細胞集団」が、細胞数を基準に1~10対1の割合で混合されたものである、<9>に記載のキット。
<12>
次のステップを含む骨関節炎治療剤を製造する方法:
(1)TGF-β(Transforming growth factor beta)で形質転換した哺乳類細胞集団および形質転換していない哺乳類細胞集団をそれぞれ用意するステップと、
(2)前記ステップ(1)のTGF-βで形質転換した哺乳類細胞集団の中で200μm未満のD90粒子径を有する細胞または細胞群と、形質転換していない哺乳類細胞集団の中で300μm未満のD90粒子径を有する細胞または細胞群をそれぞれ選別するステップと、
(3)前記ステップ(2)のそれぞれ選別された細胞集団を分離されたバイアル内にそれぞれ充填するステップと、
(4)前記ステップ(3)のバイアル内にそれぞれの細胞集団を混合するステップ。
<13>
前記ステップ(4)の混合は、前記ステップ(2)の形質転換していない哺乳類細胞集団と形質転換した哺乳類細胞集団が、細胞数を基準に1~10対1の割合で混合されるものである、<12>に記載の方法。
<14>
前記ステップ(1)のTGF-βで形質転換した哺乳類細胞集団は、追加的に放射線照射(irradiate)したものである、<12>に記載の方法。