(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】整形外科用人工関節で利用されるセラミック-ポリエチレンまたはセラミック-セラミック関節接合カップルの摩耗性能の改善方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/597 20060101AFI20240312BHJP
C04B 35/626 20060101ALI20240312BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20240312BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240312BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C04B35/597
C04B35/626 450
A61L27/10
A61L27/16
C01B33/12 A
(21)【出願番号】P 2020555312
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 US2019026789
(87)【国際公開番号】W WO2019199973
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-28
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519324710
【氏名又は名称】シントクス テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】マッケンタイア、ブライアン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ボック、ライアン エム.
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1522986(CN,A)
【文献】特開2007-039306(JP,A)
【文献】特開平08-059350(JP,A)
【文献】PEZZOTTI G et al.,On the molecular interaction between femoral heads and polyethylene liners in artificial hip joints: phenomenology and molecular scale phenomena.,Biomedical materials (Bristol, England), 015005,2016年12月02日,Vol. 12,No. 1,P. 1~13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C04B 38/00-38/10
C04B 41/00-41/91
C01B 33/12-33/193
A61L 27/10
A61L 27/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシ窒化ケイ素材料を調製する方法であって、前記オキシ窒化ケイ素材料が、改善された摩耗性能を有し、前記方法が、
窒化ケイ素材料ブロックを形成することと、
蒸気オートクレーブでの水熱酸化を使用して前記窒化ケイ素材料ブロックを酸化させる
ことと、を含み、
前記水熱酸化が、100℃~150℃の範囲の温度で行われ、
前記水熱酸化が、50~200時間の範囲の持続時間で行われる、前記方法。
【請求項2】
前記窒化ケイ素材料ブロックを形成することが、
ケイ素、酸素、および窒素を含み、酸化イットリウムおよび酸化アルミニウムのうちの少なくとも1つをさらに含むスラリーを調製することと、
前記スラリーを粉砕することと、
前記スラリーを乾燥させて、乾燥したスラリーを得ることと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オキシ窒化ケイ素材料が、第1の結晶相と、第1の非晶相と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水熱酸化が、1気圧~250気圧の範囲の圧力で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水熱酸化が、2気圧の圧力で行われる、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記水熱酸化が、120℃~135℃の範囲の温度で行われる、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水熱酸化が、132℃の温度で行われる、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水熱酸化が、70~150時間の範囲の持続時間で行われる、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水熱酸化が、72時間の持続時間で行われる、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年4月10日に出願された米国仮出願第62/655,457号に対する優先権を主張し、その内容は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、改善されたポリエチレン摩耗性能を有するオキシ窒化ケイ素材料の生成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
人工股関節全置換術(THA)、人工膝関節全置換術(TKA)、または人工肩関節全置換術(TSA)を含む整形外科再建手術は、様々な末期変性変形性関節症状態の治療のための実証された処置である。これらの療法は、天然の生体関節接合組織を非生物的な生体材料に置き換えることを伴う。典型的なTHA人工関節デバイスとしては、固定式ポリエチレンカウンターフェース(それぞれ、MoPまたはCoP)に対して関節接合する移動式金属またはセラミックヘッドが挙げられる。他の変更例としては、セラミック・オン・セラミック(CoC)デバイスが挙げられる。これらの人工関節の寿命は妥当であるが(すなわち、10~15年)、これらの破損は、一般に、過度のポリエチレン摩耗、セラミック摩耗、または無菌性弛み、骨溶解、および/または骨髄炎をもたらす構成要素の損傷に関連する。その後、摩耗した構成要素を交換するために再置換手術(外科医と病院の両方にとって不要で高価な二次的処置)が必要となり、患者の合併症が付加されることで歩行機能の悪化をもたらすことが多い。したがって、人工関節に使用できる摩耗性能を高めた材料が必要とされている。
【0004】
本開示の様々な態様が構想され、開発されたのは、とりわけこれらの観察を念頭に置いている。
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様は、オキシ窒化ケイ素材料を包含し、ここで、オキシ窒化ケイ素材料は、改善された摩耗性能を有する。オキシ窒化ケイ素材料は、窒化ケイ素材料ブロックを形成し、窒化ケイ素材料ブロックを酸化させることを含むプロセスによって調製される。
【0006】
本発明の他の態様および特徴は、一部は明らかであり、一部は以下で指摘される。
【0007】
本特許または出願ファイルは、着色された少なくとも1つの図面を含む。本特許または特許出願公開のカラー図面付きコピーは、要望および必要な料金の支払いに応じて、事務所により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aおよび
図1Bは、Si
3N
4セラミックスの表面化学に関する概略図を表示しており、(
図1A)は水熱酸化前、および(
図1B)は水熱酸化後である。水熱酸化表面におけるアミン濃度の低減およびシラノールおよびケイ素(SiO
2)結合の濃度の増加に留意されたい。
【
図3A】
図3Aおよび
図3Bは、XPSデータの統計的分析および有意性を示すグラフを表示する。
【
図4A】
図4Aおよび
図4Bは、処理がセラミック表面内の細孔または空隙を埋めることを実証している、72時間の水熱処理前(すなわち、元の状態の、
図4A)および72時間の水熱処理後(すなわち、酸化した、
図4B)の研磨したSi
3N
4表面の微細構造写真を表示する。
【
図5】
図5は、MC
2(登録商標)Si
3N
4をBIOLOX(登録商標)デルタ(ZTA)と比較した標準股関節シミュレータ研究によるポリエチレン摩耗結果を例示するグラフを表示する。
【
図6A】
図6Aおよび
図6Bは、非摩耗性ゾーン(NWZ)および主摩耗性ゾーン(MWZ)の両方についてSi
3N
4またはZTA大腿骨頭のいずれかに対して関節接合するビタミンEドープ型ポリエチレンライナーの結晶化度および酸化のラマン分光測定値を示すグラフを表示しており、(
図6A)は、摺動面において、z=0μmの深さであり、および(
図6B)は、z=200μmの深さである。
【
図7】
図7は、酸性ゲル中の時間の関数としての、焼結したままの(研磨した)Si
3N
4試料周囲のpHの室温での発展の代表的な画像を表示する。Si
3N
4の緩衝能力は、周囲の酸性ゲルのより広いゾーンにおいてpHを徐々に上昇させる。かき乱されていないゲルの平均pHは、4.5である。
【
図8A】
図8Aは、UHMWPE/セラミックカップルに使用されるオートクレーブにおける静的接触試験の概略図である。
【
図8B】
図8Bは、UHMWPE/セラミックカップルに使用されるオートクレーブにおける摩擦スイング試験を例示する。
【
図8C】
図8Cは、UHMWPE/セラミックカップルに使用される股関節シミュレータ摩耗試験を例示する。
【
図9A】
図9Aは、受け取ったままのAl
2O
3(BIOLOX(登録商標)フォルテ)中のAl2pについての、XPSスペクトルおよびそれらのサブバンドへのデコンボリューションを示す。
【
図9B】
図9Bは、受け取ったままのZTA(BIOLOX(登録商標)デルタ)中のAl2pについての、XPSスペクトルおよびそれらのサブバンドへのデコンボリューションを示す。
【
図9C】
図9Cは、受け取ったままのSi
3N
4(MC
2(登録商標))中のSi2pについての、XPSスペクトルおよびそれらのサブバンドへのデコンボリューションを示す。
【
図9D】
図9Dは、121℃のオートクレーブでの24時間の断熱曝露後のAl
2O
3(BIOLOX(登録商標)フォルテ)中のAl2pについての、XPSスペクトルおよびそれらのサブバンドへのデコンボリューションを示す。
【
図9E】
図9Eは、121℃のオートクレーブでの24時間の断熱曝露後のZTA(BIOLOX(登録商標)デルタ)中のAl2pについての、XPSスペクトルおよびそれらのサブバンドへのデコンボリューションを示す。
【
図9F】
図9Fは、121℃のオートクレーブでの24時間の断熱曝露後のSi
3N
4(MC
2(登録商標))中のSi2pについての、XPSスペクトルおよびそれらのサブバンドへのデコンボリューションを示す。
【
図10A】
図10Aは、モノリシックAl
2O
3(Al2p)セラミックヘッドについてのオートクレーブ時間の関数としてのXPS分析を示す。
【
図10B】
図10Bは、ZTA(Al2p)セラミックヘッドについてのオートクレーブ時間の関数としてのXPS分析を示す。
【
図10C】
図10Cは、Si
3N
4(O1s)セラミックヘッドについてのオートクレーブ時間の関数としてのXPS分析を示す。
【
図10D】
図10Dは、Si
3N
4(Si2p)セラミックヘッドについてのオートクレーブ時間の関数としてのXPS分析を示す。
【
図11】
図11Aは、モノリシックAl
2O
3におけるスペクトル発展に対するオートクレーブ時間の関数としてのCL分析を示す。
図11Bは、ZTA複合材料におけるスペクトル発展に対するオートクレーブ時間の関数としてのCL分析を示す。
図11Cは、2つの種類の酸化物ヘッドについての酸素空孔からのCL排出の強度のオートクレーブ時間に対するプロットである。
図11Dは、2つの種類の酸化物ヘッドについてのXPSとCLデータとの間の比較を示す。
【
図12A】
図12Aは、オートクレーブ中で24時間、酸化物および非酸化物セラミックヘッドに静的連結されたX3 UHMWPEライナーの振動分光によって検出されるときの結晶化度および酸化指数の変動を示す。
【
図13-1】
図13Aは、1Hzで5×10
5サイクルのX3 UHMWPEライナーに対する摩擦スイング試験前のZTA大腿骨頭のXPS(Al2p)分析を示す。
図13Bは、1Hzで5×10
5サイクルのX3 UHMWPEライナーに対する摩擦スイング試験後のZTA大腿骨頭のXPS(Al2p)分析を示す。
【
図13-2】
図13Cは、定量的結合画分が(Al2p)に与えられることを示す。
図13Dは、定量的結合画分が(O1sおよびZr3d)に与えられることを示す。
【
図14-1】
図14Aは、1Hzで5×10
5サイクルのX3 UHMWPEライナーに対する摩擦スイング試験前のSi
3N
4大腿骨頭のXPS(N1s)分析を示す。
図14Bは、1Hzで5×10
5サイクルのX3 UHMWPEライナーに対する摩擦スイング試験後のSi
3N
4大腿骨頭のXPS(N1s)分析を示す。
【
図14-2】
図14Cは、定量的結合画分が(N1s)に与えられることを示す。
図14Dは、定量的結合画分が(Si2pおよびO1s)に与えられることを示す。
【
図15】
図15Aは、摩擦スイング試験のサイクル数、n
cの関数として、Si
3N
4およびZTAと連結されたX3 UHMWPEライナーの表面における結晶化度を示す。
図15Bは、摩擦スイング試験のサイクル数、n
cの関数として、Si
3N
4およびZTAと連結されたX3 UHMWPEライナーの表面における酸化を示す。
【
図16A】
図16Aは、ZTAおよびSi
3N
4大腿骨頭と連結されたX3 (商標)UHMWPEライナーの元の状態およびMWZ摩耗面(5×10
5スイングサイクル後)の走査レーザー顕微鏡画像を示す。
【
図16B】
図16Bは、同じライナーのNWZおよびMWZにおけるXPS分析の結果を示す。
【
図17】
図17Aは、標準股関節シミュレータ試験で5×10
6サイクルを受けた後、Si
3N
4およびZTA大腿骨頭と連結されたビタミンEドープ型UHMWPEライナーの表面で観察される結晶化度および酸化の変動を示す。
図17Bは、標準股関節シミュレータ試験で5×10
6サイクルを受けた後、Si
3N
4およびZTA大腿骨頭と連結されたビタミンEドープ型UHMWPEライナーの200μmの深さで観察される結晶化度および酸化の変動を示す。
【
図18A】
図18Aは、長期的にインビボ曝露されたモノリシックAl
2O
3大腿骨頭を示す。
【
図18B】
図18Bは、長期的にインビボ曝露されたモノリシックAl
2O
3大腿骨頭のMWZにおける微細構造を示す。
【
図18D】
図18Dは、元の状態のAl
2O
3試料のものと比較して、そのCL酸素空孔排出量を示す。
【
図18E】
図18Eは、そのデコンボリューションされた平均XPS(Al2p)スペクトルを示す。
【
図19B】
図19Bは、短期的にインビボ曝露されたZTA複合大腿骨頭の微細構造を示す。
【
図19D】
図19Dは、元の状態のZTA試料のものと比較して、そのCL酸素空孔排出量を示す。
【
図19E】
図19Eは、そのデコンボリューションされた平均XPS(Al2p)スペクトルを示す。 対応する参照文字は、図面の図の中の対応する要素を示す。図面で使用される見出しは、特許請求の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特定の実施形態が例示および説明されているが、当業者には明白であろうように、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、その様々な修正を行われ得ることは、上述から理解されるべきである。このような変更および修正は、本明細書に添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲および教示の範囲内にある。
【0010】
上記の開示全体を通じて適用されるいくつかの定義がここで提示されるようになる。本明細書で使用される場合、「改善された摩耗性能」とは、既存のTHA人工補綴デバイスを超える材料またはデバイスの寿命の改善を意味する。例えば、「改善された摩耗性能」とは、材料および/またはデバイスが患者に移植された後10~15年以上の寿命を有することを意味する。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「有する(having)」は、本開示において互換的に使用される。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「有する(having)」は、そのように記載されるものを含むことを意味するが、必ずしもそれに限定されない。
【0011】
人工関節としての長期的な性能に直接影響を及ぼす生体材料表面の重要な物理化学的特性がある。窒化ケイ素などの非酸化バイオセラミックスは、ポリエチレン摺動対向面を酸化から自然に保護する好ましい表面化学を有し得る。この有利な化学を確立するための重要な概念は、そうでなければ嫌気性の体内環境におけるトリボケミカル負荷中のバイオセラミック表面における酸素活性の制御である。
【0012】
金属および酸素元素から構成されるセラミック酸化物は、液体/固体界面での相乗効果の高い水素結合のため、水に対して著しい親和性を呈する。アルミナ(Al2O3)の場合、特殊な近表面電子状態は、複数のH結合を提供し、これにより、股関節トライボロジーにおける正の現象である完全な湿潤をもたらす。しかしながら、この同じ特殊性は、熱活性化または摩擦活性化環境における表面ヒドロキシル化および脱ヒドロキシル化の複雑なパターンにつながる。ヒドロキシル化および脱ヒドロキシル化は、表面電荷問題を合理化する上で重要な事象であり、摩擦相互作用において重要な役割を果たしているが、その正確な微視的機構は現在知られていない。Al2O3結晶構造に水を組み込むことにより、水酸化アルミニウムの形成をもたらす。両性イオン化反応を介したアルミナの溶解は、酸素を遊離させ、アルミナ格子内に酸素空孔を形成する。加水分解生成物としての可溶性Al種のその後の放出は、pHおよび温度の両方に依存する。逆に、非酸化物セラミックスとその環境との間の水熱相互作用は、主にそれらのカチオン元素の酸化によって駆動される。窒化ケイ素(Si3N4)の場合、表面反応は、ケイ素と窒素との間の共有結合の均等開裂から始まり、ケイ素部位の酸化、および窒素のアンモニアとしての放出に続く。水性環境における摩擦荷重中に、不溶性トライボ生成物(すなわち、水和酸化ケイ素)の層が固体表面に形成する。全体的に、保護膜を形成することによって、これらは摩擦摺動の潤滑剤として機能する。摩擦低減におけるこの水和層の利点は、Al2O3の水和層の利点と同様である。しかしながら、ここで類似点が終わってしまう。酸素は(Al2O3の場合と同様に)放出されるのではなく、非酸化セラミックの表面(Si部位で)に引き寄せられる一方で、窒素は水素と反応して揮発性アンモニアを形成する。さらに、Si3N4の表面に形成される両性シリカ層は、水が対応するアレニウス塩基であるアレニウス酸として作用する。また、Si3N4の表面電荷は環境のpHに依存し、その等電点は極めて酸性値(pH=1.2~4)に存在する。逆に、Al2O3は、比較的高いアルカリ値(pH=8~8.5)でゼロ電荷の点を有する。Si3N4のH2O-化学吸着表面で発生するシリカ層は、水よりもかなり酸性である(すなわち、その溶解度は、Al2O3の約100倍である)ため、容易に溶解することができるが、酸素は、オルトケイ酸鎖として厳密に結合される。本質的には、セラミックスの表面での水吸着は、酸化物用の溶媒として、および非酸化物用の酸化剤としての役割を果たす。いずれの場合も、これらの水性表面反応の最終生成物は、水和種(すなわち、Al2O3およびSi3N4についてそれぞれ、水酸化アルミニウムおよびオルトケイ酸)である。いずれも潤滑剤として作用し、トライボロジー摺動時の摩擦を低減する。この共通の特性は、酸化物および非酸化物セラミックスの両方を低摩擦人工関節材料として好適なものにするが、これらは、トライボ層を横断する酸素の流れる方向で実質的に異なる。具体的には、酸素はAl2O3表面から離れる方向に移動し、かつSi3N4表面に向かって移動する。人工関節の摺動するカウンターパーツがポリエチレンである場合、この違いは重要である。
【0013】
様々な酸化物セラミックスの表面から放出される酸素は、高度なポリエチレンライナーの酸化につながり得る。酸化表面を有する窒化ケイ素(オキシ窒化ケイ素)は、ポリエチレンライナー酸化に対してはるかに低い影響を有する可能性があり、「イオン保護」効果を提供し得る。大腿骨頭における窒化ケイ素セラミックスは、ポリエチレンライナーの酸化を遅延させることができる。したがって、酸化表面を有する窒化ケイ素大腿骨頭を使用することによって、人工関節の最終的な寿命を改善することができる。
【0014】
(I)オキシ窒化ケイ素材料
本開示の態様は、改善された摩耗性能または特性を有するオキシ窒化ケイ素材料を包含する。一般に、オキシ窒化ケイ素材料は、窒化ケイ素材料の表面を酸化させることによって形成され得る。
【0015】
様々な実施形態では、オキシ窒化ケイ素材料は、生体医学インプラントまたは生体医学インプラントの一部を形成し得る。好ましい実施形態では、したがって、いくつかの実施形態では、それらの摩耗特性、水湿潤性、および/または他の所望される特性に対して改善するように処理され得るオキシ窒化ケイ素材料インプラントが提供され得る。
【0016】
他の実施形態では、オキシ窒化ケイ素材料は、最終的に成形され、機械加工され、ないしは別の方法で適切な形状および/または構成に形成され、上述の完成した生体医学インプラントの1つとして機能する未完成の材料片を含んでもよい。いくつかのこのような実施形態では、未完成の材料片は、それが完了し、移植の準備ができたと見なされる前に、1つ以上の追加の加工工程を必要とし得る。例えば、いくつかの実施形態では、生体医学インプラントは、最終的に完成した生体医学インプラントになるものの部分または一部のみを含んでよい。一実施形態では、生体医学インプラントは、関節接合構成要素である。関節接合構成要素の例は、大腿骨頭、大腿骨か(かは、骨へんに果)、寛骨臼カップ/ライナーなどであり得るが、これらに限定されない。例示的な実施形態では、関節接合構成要素は、大腿骨頭であり得る。
【0017】
さらに別の代替として、本明細書に開示されるオキシ窒化ケイ素材料は、充填剤として使用されてもよく、ないしは別の方法で、ガラス、金属、セラミックス、ポリマーなどのの他の材料に組み込まれてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるセラミック材料のうちの1つ以上は、高分子材料中の充填剤として使用され得る。逆に、本明細書に開示されるセラミック材料は、ポリマー材料、グラス、または金属を組み込むための多孔質マトリックスとして使用され得る。
【0018】
代替実施形態および実装では、オキシ窒化ケイ素材料の表面化学は、このようなインプラントの摩耗性能特性を改善するために変更されてもよい。いくつかのこのような実施態様では、モノリシックデバイスの表面化学、またはオキシ窒化ケイ素インプラント、オキシ窒化ケイ素コーティングされたインプラント、もしくは他の移植可能な生体医学インプラント上のコーティングの表面の化学は、摩耗性能特性を向上させるように修正されてもよい。表面化学を変更するためのこれらの方法は、本明細書に記載される他の方法の代替として、またはそれに加えて、例えば、インプラントの表面粗さを変更する方法および/または好適なコーティングを生体医学インプラントに適用する方法として用いられ得る。表面化学を変更するためのこれらの方法はまた、以下にさらに記載されるように、いくつかの方法で達成されてもよい。
【0019】
(II)オキシ窒化ケイ素材料の調製方法
本開示の別の態様は、窒化ケイ素材料ブロックを形成することと、窒化ケイ素材料ブロックを酸化させること、とを含む、オキシ窒化ケイ素材料を調製するためのプロセスを包含する。この方法は、摩耗性能が改善されたオキシ窒化ケイ素インプラントを生成し得る。
【0020】
方法の各ステップを以下に詳述する。
【0021】
(a)窒化ケイ素
一般に、窒化ケイ素は、窒化ケイ素セラミックまたはドープ窒化ケイ素セラミック基材から作製され得る。あるいは、このような実施形態は、異なる材料の基材上に窒化ケイ素またはドープ窒化ケイ素コーティングを含んでもよい。他の実施形態では、インプラントおよびコーティングは、窒化ケイ素材料から構成されてもよい。さらに他の実施形態では、インプラントの1つ以上の部分または領域は、窒化ケイ素材料および/または窒化ケイ素コーティングを含んでよく、他の部分または領域は、他の生体医学材料を含んでよい。
【0022】
窒化ケイ素セラミックスは、非常に大きな曲げ強度および破壊靭性を有している。いくつかの実施形態では、このようなセラミックスは、約700メガパスカル(MPa)を超える曲げ強度を有することが見出されている。実際、いくつかの実施形態では、このようなセラミックスの曲げ強度は、約800MPa超、約900MPa超、または約1,000MPaで測定されている。いくつかの実施形態では、窒化ケイ素セラミックスの破壊靭性は、約7メガ-パスカルルートメートル(MPa・m1/2)を超える。)実際、いくつかの実施形態では、このような材料の破断靭性は、約7~10MPa・m1/2である。
【0023】
好適な窒化ケイ素材料の例は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、「Metal-Ceramic Composite Articulation」と題される米国特許第6,881,229号に記載される。いくつかの実施形態では、アルミナ(Al2O3)、イットリア(Y2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、および酸化ストロンチウム(SrO)などのドーパントを処理して、窒化ケイ素のドープ組成物を形成することができる。ドープ窒化ケイ素または別の同様のセラミック材料を含む実施形態では、ドーパント量は、最高密度、機械的、および/または抗菌特性を達成するように最適化され得る。さらなる実施形態では、生体適合性セラミックは、約900MPaを超える曲げ強度、および約9MPa・m1/2を超える靭性を有し得る。曲げ強度は、米国金属試験学会(ASTM)プロトコル法C-1161に従って標準的な3点曲げ試験片で測定することができ、破壊靭性は、ASTMプロトコル法E399に従って片側切り欠き(single edge notched beam)試験片を使用して測定することができる。いくつかの実施形態では、窒化ケイ素の粉末は、単独で、または上述のドーパントのうちの1つ以上と組み合わせて、セラミックインプラントを形成するために使用され得る。
【0024】
好適な窒化ケイ素材料の他の例は、参照により本明細書に組み込まれる「Ceramic-Ceramic Articulation Surface Implants」と題された米国特許第7,666,229号に記載されている。好適な窒化ケイ素材料のさらに他の例は、参照により本明細書に組み込まれる「Hip Prosthesis with Monoblock Ceramic Acetabular Cup」と題された米国特許第7,695,521号に記載されている。
【0025】
(i)窒化ケイ素材料ブロックの調製方法
一実施形態では、窒化ケイ素材料ブロックを調製することは、スラリーを調製することを含むことができ、スラリーは、ケイ素、酸素、および窒素を含むことができ、さらに、酸化イットリウムおよび酸化アルミニウムのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0026】
スラリーは、軟質凝集体を分解し、成分混合を容易にするために粉砕され得る。一般に、スラリーは、当業者に知られている技術を使用して粉砕され得る。例示的な実施形態では、スラリーは、ボール粉砕される。加えて、当業者は、粉砕加工に適切な媒体、媒体サイズ、および持続時間を決定することができるであろう。
【0027】
スラリーは、乾燥したスラリーを得るために乾燥され得、その後、乾燥されたスラリーは、大腿骨頭、関節接合構成要素などの多数の異なる形状に形成され得る。一般に、スラリーは、当業者に知られている技術を使用して乾燥され得る。例示的な実施形態では、スラリーは、噴霧乾燥を使用して乾燥される。
【0028】
一般に、窒化ケイ素材料ブロックは、生体医学構成要素に適用され得るか、または生体医学インプラントに形成または成形され得る。一例では、窒化ケイ素材料ブロックは、関節接合構成要素に形成または成形され得る。関節接合構成要素の例は、大腿骨頭、大腿骨か(かは、骨へんに果)、寛骨臼カップなどであり得るが、これらに限定されない。例示的な実施形態では、関節接合構成要素は、大腿骨頭であり得る。
【0029】
他の実施形態では、窒化ケイ素材料ブロックは、限定されないが脊椎ケージ、整形ネジ、プレート、ワイヤー、および他の固定デバイス、脊柱、股関節、膝、肩、足首および指骨内の関節接合デバイス、カテーテル、人工血管およびシャント、顔または他の再建形成外科用のインプラント、中耳インプラント、歯科デバイスなどを含む任意の数および種類の生体医学構成要素に適用され得る。一例では、窒化ケイ素材料ブロックは、THA人工補綴物の大腿骨頭などの人工関節に適用され得る。
【0030】
窒化ケイ素材料ブロックを生体医学構成要素に適用することは、当業者によって容易に知られている方法によって実行することができる。
【0031】
窒化ケイ素材料ブロックの形成または成形は、当業者によって容易に知られている方法によって実行することができる。例示的な実施形態では、指向スラリーは、適切な形状を形成するために、単軸圧縮装置または静水圧圧縮装置を使用して圧密化され得る。その後、これらの形状は、従来のコンピュータ数値制御(CNC)回転または粉砕機を使用して、焼成前の寸法に機械加工され得る。いくつかの実施形態では、窒化ケイ素材料ブロックは、限定されないが脊椎ケージ、整形ネジ、プレート、ワイヤー、および他の固定デバイス、脊柱、股関節、膝、肩、足首および指骨内の関節接合デバイス、カテーテル、人工血管およびシャント、顔または他の再建形成外科用のインプラント、中耳インプラント、歯科デバイスなどを含む任意の数および種類の生体医学構成要素に形成され得る。一例では、窒化ケイ素材料ブロックは、THA人工補綴物の大腿骨頭などの人工関節に適用され得る。
【0032】
適切に成形されたライナーまたは構成要素は、次いで、限定されないが、ビスク焼成、焼結、および熱間静水圧化圧を含む一連の熱処理操作を受け得る。
【0033】
熱処理されたライナーまたは構成要素は、その後、最終サイズおよび表面仕上げを達成するためにダイヤモンド研削および研磨を受けることができる。
【0034】
(b)酸化方法
窒化ケイ素材料の表面は、熱、水熱、または化学的酸化によって酸化され得る。一般に、本明細書に記載される酸化方法は、材料表面上のSi3N4のいくつかをSiO2に変換する。
【0035】
(i)熱酸化
一般に、窒化ケイ素材料の表面は、熱酸化を使用して酸化され得る。熱酸化プロセスは、当業者に既知の手段を使用して行われ得る。
【0036】
一般に、熱酸化プロセスは、最高で約1100℃の温度で行われ得る。好ましい実施形態では、熱酸化プロセスは、約800~約1100℃の範囲の温度で行われ得る。
【0037】
熱酸化プロセスは、約5時間~約20時間の範囲の持続時間にわたって行われ得る。いくつかの実施形態では、熱酸化プロセスは、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、または約20時間行われ得る。
【0038】
(ii)水熱酸化
一般に、窒化ケイ素材料の表面は、水熱酸化を使用して酸化され得る。水熱酸化プロセスは、当業者に既知の手段を使用して行われ得る。例示的な実施形態では、水熱酸化は、蒸気オートクレーブ内で実行され得る。Si
3N
4セラミックスの表面化学に対する水熱酸化プロセスの影響は、
図1A(水熱酸化前)および
図1B(水熱酸化後)に例示される。
【0039】
一般に、水熱酸化プロセスは、約1気圧~約250気圧の範囲の圧力で行われ得る。さらに、実施形態では、水熱酸化プロセスは、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約55、約60、約65、約70、約75、約80、約85、約90、約95、約100、約105、約110、約115、約120、約125、約130、約135、約140、約145、約150、約155、約160、約165、約170、約175、約180、約185、約190、約195、約200、約205、約210、約215、約220、約225、約230、約235、約240、約245、または約250気圧の圧力で行われ得る。例示的な実施形態では、水熱酸化プロセスは、約2気圧の圧力で行われ得る。
【0040】
水熱酸化プロセスは、約50時間~約200時間の範囲の持続時間にわたって行われ得る。いくつかの実施形態では、水熱酸化は、約50時間、約55時間、約60時間、約65時間、約70時間、約75時間、約80時間、約85時間、約90時間、約95時間、約100時間、約105時間、約110時間、約115時間、約120時間、約125時間、約130時間、約135時間、約140時間、約145時間、約150時間、約155 時間、約160時間、約165時間、約170時間、約175時間、約180時間、約185時間、約190時間、約195時間、または約200時間行われ得る。例示的な実施形態では、水熱酸化プロセスは、約70時間~約150時間の範囲の持続時間にわたって行われ得る。
【0041】
水熱酸化プロセスは、約100℃~約150℃の範囲の温度で行われ得る。いくつかの実施形態では、水熱酸化は、約100、約105、約110、約115、約120、約125、約130、約135、約140、約145、または約150℃で行われ得る。好ましい実施形態では、水熱酸化は、約120℃~約135℃で行われ得る。さらなる実施形態では、水熱酸化は、約120、約121、約122、約123、約124、約125、約126、約127、約128、約129、約130、約131、約132、約133、約134、または約135℃で行われ得る。
【0042】
(iii)化学酸化
一般に、窒化ケイ素材料の表面は、化学酸化を使用して酸化され得る。化学酸化プロセスは、当業者に既知の手段を使用して行われ得る。
【0043】
化学酸化プロセスは、窒化ケイ素材料を苛性溶液に曝露することによって行われ得る。苛性溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムなど、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0044】
本開示の様々な実施形態を実証するために、以下の実施例が含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施において良好に機能することが発明者によって発見された技術を表し、したがって、その実施のための好ましいモードを構成すると考えることができることが、当業者によって理解されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、開示される特定の実施形態において多くの変更を加えることができ、なお、同様または類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【0045】
実施例1:生体適合性窒化ケイ素セラミック構成要素の調製
α-Si3N4(90重量%)、酸化イットリウム(Y2O3、6重量%)、および酸化アルミニウム(Al2O3、4重量%)の原料粉末を水中で混合し、粉砕し、噴霧乾燥させた。次いで、噴霧乾燥粉末を、単軸または静水圧圧縮装置(最大310MPa)を使用して圧密化させ、適切な形状、すなわち、大腿骨頭および機械的試験バーを形成した。その後、これらの構成要素は、従来のコンピュータ数値制御(CNC)回転または粉砕機を使用して、焼成前の寸法に機械加工された。次いで、1700℃までの温度でビスク焼成、焼結、および熱間静水圧プレスを含む一連の熱処理操作を受けた。焼成工程により、炭素質化合物および水を排除し、構成原料を反応させ、セラミックをほぼ最終サイズに高密度化した。その後、ダイヤモンド研削および研磨を行い、構成要素の最終サイズおよび表面仕上げを実現した。
【0046】
実施例2:生体適合性窒化ケイ素セラミック構成要素の酸化
実施例1からの最終構成要素を、蒸気オートクレーブを使用して、2atmの気圧および121℃の温度で24時間、48時間、または72時間、水熱酸化を受けさせた。
【0047】
酸化反応の程度を決定するために、水熱酸化プロセスへの曝露0時間後(
図2Aおよび
図2E)、24時間後(
図2Bおよび
図2F)、48時間後(
図2Cおよび
図2G)、ならびに72時間後(
図2Dおよび
図2H)に、酸化構成要素に対してX線光電子分光法を行った。さらに、X線光電子分光法は、O1sおよびSi
2Pバンドのデコンボリューションを分析した。O1sバンドのデコンボリューションの結果(
図2E、
図2F、
図2G、および
図2H)は、O-Si-O-Si結合に有利な近表面N-Si-O-Si結合の低減を実証した。Si
2Pバンドのデコンボリューションの結果(
図2E、
図2F、
図2G、および
図2H)は、N-Si-OおよびO-Si-O結合に有利な表面N-Si-N結合の低減を実証した。O1sバンドのデコンボリューション(
図2A、
図2B、
図2C、および
図2D)ならびにSi
2Pバンドのデコンボリューション(
図2E、
図2F、
図2G、および
図2H)は両方ともに、Si
3N
4表面の酸化の増加を示した。
【0048】
これらの化学結合の変化に関連する統計的有意性を、
図3Aおよび
図3Bに示す。O1sバンドは、O-Si-O結合に有利なO-Si-N結合の低減を示す(
図3A)。Si
2Pバンドは、O-Si-O結合に有利なN-Si-N結合の低減を示す(
図3B)。これらのデータは、水熱環境への曝露を増加させることによって、Si
3N
4が混合窒化物酸化物表面から主に酸化物条件にゆっくりと変換されることを示す。これは、
図4Aおよび
図4Bに提供される微細構造写真によって実証される。これらは、水熱処理の前の元の状態の研磨された試料を示す(
図4A)。元の状態の表面は、その水熱酸化処理後にシリカ(すなわち、SiO
2)ガラスで満たされた周期的なピットおよび欠陥を有する(
図4B)。理論に束縛されるものではないが、この固有の表面化学の操作により、Si
3N
4は全関節形成術の人工関節における優れた関節接合部材として機能すると考えられる。
【0049】
実施例3:摩耗試験
実施例1および2に記載されるように調製された大腿骨頭およびBIOLOXデルタ(ジルコニア強化アルミナ)で調製された大腿骨頭を、股関節シミュレータを使用して摩耗試験に供した。具体的には、寛骨臼カップを121℃で72時間、水熱酸化処理した。簡単に説明すると、寛骨臼カップを重み付けし、ウシ血清を含む浴に予浸して、(ISO14242/2で推奨されるように)定常レベルの液体吸着を達成した。50時間浸漬した後、全ての寛骨臼カップを洗浄し、再重み付けした。この手順を、24時間にわたる寛骨臼カップの増分変化が以前の累積質量変化の10%未満であるまで繰り返した(ISO14242-2の一部として)。
【0050】
寛骨臼カップを大腿骨頭に連結し、潤滑剤(脱イオン水でバランスを取った25%の無菌子ウシ血清(Sigma Aldrich,St.Louis,MO)、0.2%のアジドナトリウム、および20mmol/dm3エチレンジアミン四酢酸(EDTA))を用いて12ステーション股関節シミュレータ上で試験した。股関節シミュレータで400,000サイクルごとに、寛骨臼カップの減量を評価した。各重み付け停止部で、寛骨臼カップを除去し、超音波洗浄器中で40℃にて、専用洗剤、すなわちClean65を用いて15分間洗浄した。すすぎ後、脱イオン水を含む超音波洗浄器でさらに15分間、寛骨臼カップを洗浄した。寛骨臼カップを最初に窒素を使用して乾燥させ、次いで真空(0.1バール)下に40分間置いて乾燥を完了した。微量天秤を用いて減量を測定した。各寛骨臼カップを3回重み付けし、平均値を計算した。
【0051】
大腿骨頭と連結された寛骨臼カップについての減量対サイクル数を
図5に示す。実施例1および2に記載されるように調製された大腿骨頭(
図5でMC
2(登録商標)AMEDICA Si
3N
4とラベル付けされた)は、ZTA BIOLOX(登録商標)デルタ(0.55mg/Mc)の平均質量損失よりも低い平均質量損失(0.46mg/Mc)を有した。
【0052】
実施例4:静的水熱曝露
実施例1および2に記載されるように調製された大腿骨頭ならびにBIOLOXデルタを、実施例3と同様の様式で股関節シミュレータを使用して摩耗試験に供した。しかしながら、大腿骨頭をE1(ビタミンE注入ポリエチレン)に対して関節接合させた。
【0053】
結果は、ライナーの非摩耗ゾーン(NWZ)および主摩耗ゾーン(MWZ)の両方についての摺動面(すなわち、z=0)(
図6A)および200μmの深さ(
図6B)におけるE1の結晶化度および対応する酸化指数の差を示す。Si
3N
4は、表面におけるライナーの酸化を低減するのに著しく有効であった(すなわち、負の結晶化度および酸化指数)が、ZTAに対して関節接合するライナーについて酸化が増加した。200μmの深さでは、Si
3N
4の結晶化度および酸化指数の変化はゼロに近いままであった。逆に、ZTAに対して関節接合するライナーは、両方のパラメータの顕著な増加を示した。
【0054】
実施例5:恒常生状態
実施例1で調製した窒化ケイ素セラミックのブロックを研磨し、次いで酸性ゲルに埋め込んだ。高空間分解能で固体表面の局所pH値を測定およびマッピングできるpH顕微鏡(SCHEM-110;Horiba,Kyoto,Japan)。pHマッピング実験を実行する際に、Si3N4試料を、人工唾液、KCl、および寒天からなる酸性ゲルに完全に埋め込んだ。pH撮像センサーは、総感知面積2.5×2.5cm2の平坦な半導体プレートからなった。センサーの最高空間分解能およびpH感度は、それぞれ100μmおよび0.1pHであった。顕微鏡には、電解質内の陽子を検出することができる光アドレス型電位差測定センサーが搭載されていた。センサーの背面から電解質と背面との間に印加されたバイアス電圧で光線を向けた。センサーの背面からの変調照明によって誘導されたAC光電流の特性が、センサー表面の陽子量に依存するため、電流の局所値を測定することにより、pH値を高精度に決定した。次いで、検出された電流信号をカラースケールに変換し、各画素は画像解析ソフトウェア(Image Pro Plus,Media Cybernetics,MD,USA)を使用してpH画像と相関する。これにより、埋め込まれたSi3N4試料の周りに視覚的pHマップを生成した。試験片を埋め込んだ後、最長で45分間の様々な時間間隔でpHマップを得た。
【0055】
pH顕微鏡を使用することによって、約45分間にわたって、インプラントの近くの酸性レベルの変化が注目された。
【0056】
Si
3N
4表面は、そのわずかな溶解および溶出挙動(すなわち、前述の反応を指す)により局所pHを変化させるのに有効である。主な結果を
図7に示す。このグラフィック図は、インプラント周辺のpHがその初期酸性値5.5からすぐに上昇し始め、45分の間隔にわたって約8.5で塩基性状態に達することを示す。pH変化の程度は、インプラントの表面化学を変化させることによって(すなわち、混合窒化物酸化物から酸化物表面へ)、予め操作され得ると推測される。
【0057】
実施例6:酸化セラミックおよび非酸化セラミック大腿骨頭対UHMWPEライナー
2つの種類の酸化物大腿骨頭(Al2O3、BIOLOX(登録商標)フォルテならびにジルコニア強化アルミナ、ZTA、BIOLOX(登録商標)デルタ、CeramTec,GmbH,Plochingen,Germany)および1つの種類の非酸化物大腿骨頭(MC2(登録商標)Si3N4、Amedica Corporation,Salt Lake City,UT,USA)を、連続して照射され、アニールされた材料(X3、Stryker Orthopedics、Inc.,Mahwah,New Jersey,USA)およびビタミンE注入材料(E1(登録商標),Zimmer Biomet,Warsaw,Indiana,USA)を含む2つの最先端の高度に架橋された超高分子ポリエチレンライナー(UHMWPE)に対比して試験した。
【0058】
合計4回の実験を実行した。(i)時間の関数として水蒸気雰囲気における予備水熱試験、(ii)湿式界面を有するUHMWPEライナーと連結されたセラミックヘッドの静的、無荷重、および短時間の水熱暴露、(iii)潤滑環境における摩擦往復式または「スイング」試験、および(iv)潤滑剤としてウシ血清を用いた股関節シミュレータ試験。(ii)、(iii)、および(iv)における試験手順の概略図は、それぞれ
図8A、8B、および8Cに示され、主な試験条件はそれぞれの図の挿入図に示されている。
【0059】
セラミック/UHMWPEカップル(上記項目(ii);
図8A)の静的水熱試験において、サイズおよび形状が等しい6つのX3 UHMWPEライナーは、3つの種類のφ32mmセラミック大腿骨頭(Al
2O
3、ZTA、およびSi
3N
4)と連結された。ライナーは以前に、平均線量32kGyでガンマ線照射されていた。比較のために、6つの同一の凸状UHMWPE試料を整合させ、6つの球状(凹状)UHMWPE切片に対して試験した。凸状UHMWPE試料は、照射しなかった。一定の接触(すなわち、25N)を確実にするために軽くクランプし、カップルを加速されたオートクレーブエージング試験に供した。全ての表面を純粋な水に浸してから連結させ、すぐに断熱的な水蒸気圧下で121℃でオートクレーブに配置した。エージング時間を24時間の固定間隔で意図的に短く保ち、全ての試料を同じ実験セッションで同時に実行した。加速エージング試験終了後、試料を乾燥させ、100℃/時の速度で冷却した。各実験セッション中に材料の種類ごとに2つのカップルを使用して、実験を3回繰り返した。
【0060】
摩擦スイング試験(上記の項目(iii)、
図8B)は、潤滑環境でX3ライナーと連結された2種類のφ28mmの大腿骨頭(すなわち、ZTAおよびSi
3N
4、それぞれn=3)を使用して行った。UHMWPEライナーを、上述のように予備照射した。摩耗試験装置は、平面往復(またはロッカー運動)股関節シミュレータ内の単一のステーションからなった。シミュレータは減速ギアを備えたステッパーモータで構成されており、+20°と-20°で短時間(約0.25秒)の休止で1Hzの周波数で±20のスイングモーションを生み出した。このユニットを、サイクル全体を通して、一定軸方向にかけられる1700Nの荷重の圧縮試験機(600LX、Instron Corporation,Norwood,MA,USA)に配置した。トラニオンおよびライナーを33の角度で配向し、関連する生理的負荷を再現した。摩耗試験を周囲温度(すなわち、約25℃)で実行し、試験中に温度を定期的に監視した。試験で使用される潤滑剤の基本組成物は、脱イオン水、2つの塩(すなわち、8mg/mlのNaClおよび2.68mg/mlのNa
2HPO
4・7H
2O)、および2つのタンパク質(すなわち、11.1mg/mlのウシアルブミンおよび5.1mg/mlのウシγ-グロブリン)からなった。塩基性潤滑剤に約0.29mg/mlのFeCl
3を添加して、関節液中の生理的に適切な濃度のFe
3+イオン(すなわち、約100mg/l)を再現した。各試験シーケンスを1Hzで5×10
5サイクルまで実施した。
【0061】
股関節シミュレータ試験では、12本のE1(登録商標)UHMWPEライナー(6本はZTAに連結し、6本はSi
3N
4大腿骨頭に連結した)を、摩耗試験の前に4週間、子ウシ血清に浸漬させ、ISO14242-2に従って流体吸収による体重変化を補償した。
図8Cに示されるように、摩耗試験を、ISO14242-3に従って、反転位置型12ステーション股関節シミュレータ(Shore Western,Monrovia,Los Angeles,CA)を使用して実行した。関節接合カップルを、2kNのピークおよび1.1Hzの回転周波数を有する正弦荷重に供した。ライナーの減量を化学天秤(Sartorius AG,Gottingen,Germany)を用いて50万サイクル(Mc)間隔で測定した。
【0062】
比較のために、インビボでポリエチレンライナーに対して関節接合していた2つの回収された大腿骨頭も調査した。1つは、第2世代モノリシックAl2O3(Biolox(登録商標)フォルテ、CeramTec,GmbH,Plochingen,Germany)であった。これは、ポリエチレンライナーの摩耗により、体内で26.3年後に回収された。2つ目は、いわゆる第4世代ZTAヘッド(BIOLOX(登録商標)デルタ、CeramTec,GmbH,Plochingen,Germany)であった。これは、X3(商標)(Stryker Orthopedics,Inc.,Mahwah,New Jersey,USA)ライナーに対して20ヶ月間インビボで関節接合し、股関節脱臼により除去された。
【0063】
実施例7:分析特性評価
実施例6に記載のセラミック大腿骨頭およびUHMWPE試料の両方の表面上で、水熱エージング、セラミック/UHMWPEカップルの静的水熱試験、および摩擦スイング試験の前後にXPS分析を実行した。これらの分析には、単色MgKα(出力10kV、10mA)のX線源を有する光電子分光計(JPS-9010MC;JEOL Ltd.,Tokyo,Japan)を採用した。試料の表面をプレチャンバ内のAr+スパッタリングによって洗浄したが、実際の測定は、10eVの分析器パスエネルギーおよび0.1eVの電圧ステップサイズで約2×10-7Paで真空チャンバ内で行った。X線入射角および取出角をそれぞれ34°および90°に設定した。元素酸素の画分を、選択された場所(例えば、摩耗ゾーンおよび非摩耗ゾーン)で試験されたUHMWPEライナーの各々上で3つの別個の測定値を平均することによって決定した。セラミック試料とUHMWPE試料とのXPS出力間の比較は、股関節カウンターパーツ間の酸素の流れを評価する役割を果たした。C、O、Si、およびNの計算に使用される感度係数(a%)は、それぞれ4.079、10.958、2.387、および7.039であった。
【0064】
CLスペクトルを、光学デバイスを備えた電界放射型電子流走査電子顕微鏡(FEG-SEM、SE-4300、Hitachi Co.,Tokyo,Japan)を使用して収集した。5kVの加速度電圧(調査されたセラミックスの化学量論的構造の乱れの閾値を下回る)で電子照射すると、放出されたCL放射を、光ファイバー束を介して高分光分解能モノクロメータに接続された楕円形ミラー(Triax320、Jobin-Yvon/Horiba Group,Tokyo,Japan)で収集した。実験全体を通じて150g/mmの格子を使用し、液体窒素冷却した1024×256ピクセルのCCDカメラがCL発光を収集した。得られたスペクトルを、市販ソフトウェア(LabSpec4.02、Horiba/Jobin-Yvon,Kyoto,Japan)を用いて分析した。マップごとに1600測定点の自動収集で50nmの横方向ステップを使用してマッピングを実行した。CLプローブサイズは、それぞれ、68×280nmの深さおよび面内の大きさであった。
【0065】
ラマン評価は、電荷結合デバイス(CCD)検出器を装備したトリプルモノクロメータ(T-64000、Jobin-Ivon/Horiba Group,Kyoto,Japan)を使用した。市販の計算パッケージ(LabSpec 4.2,Horiba/Jobin-Yvon,Kyoto,Japan)を使用して、スペクトルデコンボリューションのための自動フィッティングアルゴリズムを取得した。ラマンプローブの深部空間分解能は、光学回路に共焦点ピンホールφ(100μm)を配置した100×対物レンズによって約6μmに制限された。自動サンプルステージを用いて、表面下の異なる深さのラマンスペクトルの正方形マップ(5μmのステップの正方形メッシュで分割された50×50μm2)を収集した。各UHMWPE試料は、加速エージング試験の前後の3つの別個の場所で特性化された。酸化現象が再結晶化の唯一のトリガーであると仮定して、酸化指数における変動(ΔOI)を、以前に較正された現象論的方程式を用いて計算した。
【0066】
FTIR分光法(FT/IR-4000シリーズ、Jasco,Easton,MD,USA)を用いて、UHMWPEライナーの断面に沿って酸化を監視した。試験されたライナーの一部を関節接合面に垂直に切断し、マイクロトームデバイスを使用して一連の薄いスライスを得た。分析面積を100×100μm2に設定した。スペクトルをライナーの遊離表面と平行に100μmの間隔で記録した。スペクトルは、常に4cm-1のスペクトル分解能で伝送モードで収集した。酸化指数OIは、スペクトル間隔1650~1850cm-1に位置するポリエチレンの赤外線吸収バンドによって範囲を定めた面積と、間隔1330~1396cm-1に位置する吸収バンドの面積(すなわち、C-H変角振動(bending)に関連する放射)との比率として計算された。両方の種類のUHMWPEライナーの限られた数の試料のために、FTIRによって得られたOI値を、同じ材料について以前に較正されたアルゴリズムを使用して結晶性変動のラマン評価から得られたものと比較した。FTIRとラマンとの比較は、これらの試験手順を使用して以前の所見を確認し、精度±5%以内のOI評価のラマンアルゴリズムを検証した。
【0067】
統計分析には、対応のないスチューデントのt検定を活用した。試料サイズは、各図の挿入図に規定されている。p値<0.05は統計的に有意であると見なされ、アスタリスクが付されている。
【0068】
実施例8:水熱アニーリングによる表面化学変化
予備手順を、水熱曝露による酸化物および非酸化物バイオセラミックスにおいて生じる化学変化を定量的に評価するように設計した。この手順は、XPSおよびCL分光法によって取得したスペクトルデータの組み合わせを利用した。
【0069】
図9A、
図9B、および
図9Cは、受け取ったままのAl
2O
3中のAl2p(BIOLOX(登録商標)フォルテ)、ZTA中のAl2p(BIOLOX(登録商標)デルタ)、およびSi
3N
4中のSi2p(MC
2(登録商標))のそれぞれの平均XPSスペクトルを示し、
図9D、
図9E、および
図9Fは、それぞれ、121℃でのオートクレーブ中で24時間の断熱曝露後の同じセラミックスを示す。酸化物スペクトルを、ヒドロキシル化(O-Al-O-H)結合、非ヒドロキシル化(O-Al-O)結合、および材料表面における結合集団を表すO-Al-VO結合の3つのVoigtianサブバンド構成要素にデコンボリューションした。一方で、非酸化物スペクトルは、3つのサブバンドを含み、1つはN-Si-Nに関連しており、2つのさらなるサブバンドは、それぞれバルク
Si3N4格子および表面形成オキシ窒化ケイ素格子に属するN-Si-OおよびO-Si-Oという異なる種類のSi-O結合からのものである。元の状態の試料と短期的なオートクレーブにかけた試料との間の比較は、実際に、酸化物および非酸化物セラミックスの両方の表面で一般的にどれだけ迅速に化学量論的変化が起こるかを示している。両方の酸化物試料において、O-Al-V
O結合の画分は、O-Al-OおよびO-Al-O-H結合の両方を犠牲にして増加し、一方、非酸化物試料において、O-Si-OおよびN-Si-Oタイプの結合の両方は、N-Si-N結合集団を犠牲にして画分増加を受けた。
【0070】
図10A~10Fは、セラミックヘッドの球面上のn=6個の異なるゾーンで実行されるn>6個の測定値を平均することによって、オートクレーブ(121℃、1バール)における曝露時間の関数として収集されたXPS結果を示す。
図10Aおよび10Bでは、モノリシックアルミナおよびZTA複合ヘッドのAl2p縁部に関する結果をそれぞれ示す。
図9A~9Fに示される同じVoigtian関数に適合したXPSスペクトルは、酸化物セラミックスの両方の酸素空孔O-Al-VO部位に有利なO-Al-O結合の漸進的な低減とともに均質な傾向を明らかにした(p<0.05)。データのより細密な検査は、複合ZTAと比較して、モノリシック
Al2O3における欠陥部位のより大きな初期画分を示した。また、ZTAよりもオートクレーブ時間が増加したAl
2O
3に多くの欠陥が現れた(
図10Aおよび10Bを参照されたい)。それでも、このプロセスが異なる速度で発生したものの、酸素は、酸化物ヘッドの両方の種類の表面を徐々に残った。
【0071】
次いで、酸化物成分上で収集されたXPSデータを、非酸化Si
3N
4ヘッドについて全く同じ実験条件下で得られた値と比較した。
図10Cおよび10Dは、オートクレーブ曝露の関数として、Si
3N
4についてそれぞれO1sおよびSi2p縁部で検出されるXPSの傾向を示す。これらの後者のデータセットは、セラミック表面におけるO-Si-OおよびN-Si-N部位に有利なO-Si-NおよびN-Si-N結合の漸進的な画分減少を明らかにしている(p<0.05)。これは、表面窒素が徐々に酸素に置き換わることを示している。
【0072】
2つの酸化物系セラミックスのCLデータを
図11A~11Dに示す。
図11Aおよび
図11Bは、Al
2O
3およびZTAからそれぞれ作製される大腿骨頭のオートクレーブ時間を増加させる関数として、CLスペクトルのそれらの形態的発展を示す。両方の材料は、325~330nm周辺で増加した光学発光を示し、これは酸素空孔の形成に相応する。
図11Cは、調査された全オートクレーブ時間にわたって、Al
2O
3およびZTAからの酸素空孔排出量のCL強度を比較する。
図10A~10DのXPSデータと一致して、CL実験は、ZTA複合材料が、モノリシックAl
2O
3と比較して、より低い初期量の酸素空孔を含み、オートクラブ時間とともにその集団を軽度に増加させたことを明らかにした。これらの差は、酸素放出アルミナの面積画分を約17体積%低減させたジルコニア相の存在に起因する可能性が高い。加えて、Cr
3+(すなわち、Al
3+の代わりに意図的に添加されるドーパント)の存在は、Al
3+と比較して、そのエネルギー水素結合が高いため、脱ヒドロキシル化を遅らせる。XPSおよびCLの両方における電子プローブの幾何学的形状が、同様に浅い(すなわち、ナノメートルの深さ)ため、これら2つの方法による結果が同等であることが示唆されることに留意されたい。
図11Dは、Al
2O
3およびZTAヘッドの両方のCL強度を増加させるために、XPSによる化学量論におけるドリフトにリンクする。これらのプロットは、これらの2つのセラミックスの表面でインビトロで形成される酸素空孔に半定量的データを提供する。
【0073】
オートクレーブ時間(図示せず)の関数として、Si3N4ヘッドの表面上で同様のCL実験を行った。窒素を置き換える酸素の傾向は、シリカガラスに典型的な酸素過剰部位(すなわち、非架橋酸素孔中心)に属する約650nmでのCLバンドの強度の増加によって反映された。
【0074】
図10A~10Dおよび11A~11Dは、酸化物および非酸化物セラミックスに関する反対のシナリオを明らかにしている。分子水の吸着は、遊離酸素がそれらの表面から流れ去る酸化物セラミックスの溶媒の役割を果たし、一方で、Si
3N
4に対して酸化剤であり、したがって酸素はその表面に向かって流れる。水分子は、酸化物および非酸化物セラミック表面(すなわち、Al
2O
3系およびSi
3N
4セラミックスについて、それぞれアルミノールおよびシラノール)への水素結合時に異なる強度を有する。強力な結合は、シラノールが形成されるときのH結合アクセプターから、および界面アルミノールにおけるH結合ドナーから生じるが、弱結合は、Si
3N
4およびAl
2O
3の表面におけるH結合ドナーおよびアクセプターからそれぞれ生じる。
【0075】
実施例9:セラミック/ポリエチレンカップルに対する静的水熱試験
様々なセラミック大腿骨頭と連結された場合のポリエチレンライナーの結晶化度および酸化に対する酸素運動の影響を、最初にゼロに近い荷重の下で静的水熱活性化試験を用いて調査した。本実施例におけるデータは、X3高架橋ポリエチレンライナーの結晶化度および酸化の予備的なラマン/FT-IR特性評価を検証する。具体的には、本実施例の目的は、ポリエチレン表面のXPS分析を以前のラマンおよびFTIR特性評価に付加することによって、同じブランドの高度ポリエチレンに対する新しい実験を使用して、以前のデータを確認することであった。セラミック表面のXPS分析も実行したが、それらは実施例8に記載されている水熱試験と明白に異なることはなかった。したがって、
図10A~10Dは、UHMWPEライナーに連結されるときのこれらのセラミックスの静的水熱試験の結果を表す。
【0076】
図12Aは、X3(商標)ポリエチレンライナーの表面における、その元の状態の値に関する結晶化度、Δc
0、および酸化指数の変動、ΔOI
0を示す。セラミック対ポリエチレンカップルと同じ幾何学的構成を有するポリエチレン対ポリエチレンカップル(すなわち、X3(商標)対X3(商標))を、陽性対照として使用した。帰無仮説は、試験されたセラミックスの全て(完全に生体不活性である場合)が、オールポリエチレンカップルと同じΔc
0およびΔOI
0の変動を誘導することであった。
図12Bは、調査されたカップルの各々について、ポリエチレン表面で収集されたXPS結果を要約する。
【0077】
図12Aおよび
図12Bに提示されたデータが、帰無仮説から明らかに外れていることに留意されたい。酸化物セラミックスを含有するカップルにおいて、表面結晶化度(約55%)および酸化(約45%)の有意な増加が観察された。結果は、陽性対照と比較したとき(ポリエチレン対ポリエチレンカップル)に統計的に妥当であったが、2つの酸化物含有カップル間の差は有意ではなかった。Si
3N
4ヘッドと連結されたライナーは、酸化物セラミックスと連結されたライナーよりも約30%低い酸化指数の増加を経験し、これらは、対照カップルよりも約14%高いだけであった。ライナー表面のXPSデータは、振動データと一致していた。これらは、セラミック酸化物ヘッドと連結されたライナーの表面で最高量の酸素を示し(すなわち、オールポリエチレンカップルで検出された量の約2倍)、Al
2O
3またはZTAと連結されたライナー間で統計的に有意な差はなかった。Si
3N
4に結合されたライナーの表面でXPSによって検出された酸素含有量は、制御カップルの表面で検出された値よりもわずかに高かった(統計学的関連性はない)。試験された全てのライナーの表面に、XPSによってNおよびSiの痕跡が見出された、これは、UHMWPE構成要素の製造中のそれぞれのアニールおよび研磨によるものであると推測された。
【0078】
全ての試料上の環境荷重が幾何学的および熱力学的に同一であったと仮定すると、酸化物セラミックカップルのポリエチレン酸化の増加(対照と比較して)は、セラミック表面からの酸素排出から生じる。この仮説は、これらのライナーのXPSデータと一致している(
図10Aおよび
図10Bならびに
図12Bを参照されたい)。水熱環境で24時間曝露した後、酸化物セラミックス中のO-Al-Vo結合の画分の増加(約50%)は、ポリエチレンライナーの表面で検出された酸素結合の画分増加にほぼ等しい。
【0079】
UHMWPEライナーの酸化を防止するためのSi
3N
4ヘッドの潜在的な保護作用を定量化するために、水熱試験条件に同一に曝露されたX3(商標)ライナーをその後、分光学的に特性化した(n=3)。この追加の試料は、「遊離」ポリエチレンと呼ばれる。この試料についてのΔc
0およびΔOI
0値は、ポリエチレン対照カップルとポリエチレン対Si
3N
4カップルとの間であり、2つのカップルに対して統計的に有意な差はなかった。「遊離」試料の表面におけるXPSによって検出された酸素含有量(
図12B)に関しては、Si
3N
4と連結されたライナーの表面よりもやや高かったが、この差は統計的には関連しなかった。
【0080】
要約すると、非酸化物セラミックスは、この特定の静的水熱試験において酸化物セラミックスよりも、UHMWPEの酸化を遅らせる際に明らかに友好的なカウンターパーツであることが証明された。酸化物セラミックスによる酸素汚染は明確に定量化されていたが、UHMWPEライナーの劣化対策における非酸化物セラミックスによる任意の保護効果は、より長期的な水熱実験で評価する必要がある。
【0081】
実施例10:セラミック/ポリエチレンカップルの摩擦スイング試験
スイング動態下であるが、水熱活性化はそのままにして、カップルの2つの潤滑構成要素間の摩擦相互作用に基づいて、追加の実験セットを考案した。これらの試験の目的は、適度な荷重下で摩擦摺動を使用して、異なる大腿骨頭材料がUHMWPE(すなわち、X3(商標))の酸化に及ぼす影響を決定することであった。
図13Aおよび
図13Bは、この摩擦スイング試験の前後のZTA大腿骨頭からの典型的なAl2pのXPSスペクトルを、潤滑条件下で1700Nの荷重でそれぞれ1Hzで5×10
5サイクル示す。この摩擦試験は、酸化物複合材料の表面におけるXPSスペクトルの有意な変化を誘導し、酸素空孔が豊富な環境に向けた非化学量組成におけるドリフトを示した。Al2pスペクトルで観察された変動の定量的プロットを
図13Cに示す。このプロットは、O-Al-O結合集団の約28%の減少が、ほぼ同等のO-Al-VO結合の増加に有利であることを明らかにしている。O1s縁部は、一貫して、Al-O-Al-VOに有利なAl-O-Al-O集団の減少を示したが、Al-O-H結合の集団における有意な減少を伴う表面脱ヒドロキシル化を確認した(
図13D)。一方、ZTA表面のZr3d縁部(
図13Dにも示す)は、Zr-O-Hの不変画分およびZr-O-Zr結合の増加を明らかにした。この観察は、Al
2O
3の表面におけるO-H結合と比較してはるかに強いO-H結合のため、ZrO
2セラミックスにおいて脱ヒドロキシル化がほとんど起こらないという事実と一致していた。一方、その発生は、準安定正方晶(Yドープ)ジルコニア格子内の既存の空孔を埋めるトライボ層からの遊離酸素の結果であり、これは、反対にモノクリニック多形体への自発的相変化を誘導する。
【0082】
図14Aおよび14Bは、摩擦スイング試験の前後のSi
3N
4大腿骨頭からの典型的なN1sのXPSスペクトルをそれぞれ表す。これらの場合、長期間の摩擦曝露は、Si-N-Si-O結合のほぼ同等の増加に有利なSi-N-Si-N結合の約27%の減少を伴い、それらの表面で劇的な非化学量組成を誘導したが、Si-N-H結合の集団は変化しないままであった(
図14Cを参照されたい)。O1s縁部でのXPSデータは、N1s縁部で観察される傾向を確認した。Si2p縁部でN-Si-N結合の減少も観察された(
図14Dを参照されたい)。
図13A~13Dおよび
図14A~14Dに提供されるXPSデータは、UHMWPEライナーに対する摩擦荷重のために、ZTAおよびSi
3N
4セラミックスの表面における酸素化学の反対の傾向を実証した。前者の材料は酸素をその表面から放出した(すなわち、Al-O-Al-VO結合の増加)が、後者は酸素を除去した(すなわち、Si-N-Si-O結合の増加)。
【0083】
酸素のこの反対の移動がUHMWPEライナーに及ぼす影響を決定するために、振動挙動をスイングサイクルの数n
c関数として監視した。
図15Aおよび15Bは、ZTAおよび窒化ケイ素(データは、非摩耗ゾーン、NWZ、および主摩耗ゾーン、MWZからのデータ)のそれぞれと連結されたライナーのn
cの関数としての結晶可度および酸化指数の変化を示す。
図15A~15Bの結果は、摩擦接触が、ライナーが酸化物または非酸化物セラミックヘッドと連結されたかどうかに関係なく、NWZおよびMWZの両方の位置について表面結晶化度および酸化指数を増加させたことを明らかにしている。しかしながら、UHMWPEの劣化は、ZTAヘッドと連結されたライナーにおいて有意に大きく、特にNWZにおいて(すなわち、5×10
5サイクル後のΔOI-1.2対0.4)、MWZにおいて、Si
3N
4ヘッドと連結されたライナーについての平均ΔIは、NWZと同じであった(すなわち、-0.4)が、一方、ZTAと連結されたライナーは、NWZよりも-0.7低かった。なお、MWZにおけるΔOI対n
cの傾向は、Si
3N
4に結合したライナーでは飽和傾向にあり、ZTAとSi
3N
4セラミックスとの両方と連結されたライナーではNWZは指数的に増加した。したがって、摩擦摩耗によるライナーからの材料除去と、UHMWPEの表面の結晶化および酸化の速度との間に、MWZにおける競合効果がある可能性が高い。後者の速度は、前者よりも速いと思われる。したがって、ΔOIはn
cとともに連続的に増加した。これは、材料除去速度が実質的にゼロだったNWZの場合のようである。逆に、摩擦材料損失と比較して、より遅い酸化速度は、MWZについては、ΔOI対n
cの飽和をもたらした。
【0084】
UHMWPEの加工マークの除去および重量分析に基づいて、両方の種類のカップルの摩耗率は同様であった(
図16Aのレーザー顕微鏡検査結果およびそれぞれ-0.9mgの減量値を参照されたい)。
図16Bは、n
c=5×10
5において、MWZおよびNWZの両方のライナーの表面で収集されたXPSデータの比較を提供する。ZTAヘッドと連結されたライナーのNWZ表面における酸素結合の数は、この実験セットにおいて最も多く(-15原子%(at%))、Si
3N
4ヘッドと連結されたライナーよりも2倍高かった。Si
3N
4カップルについてのライナー酸化レベルは、NWZおよびMWZについて明らかに同じであったが、ZTAカップルは、MWZと比較して、NWZにおいてより高い酸化を示した(すなわち、-15対12.5原子%)。これは、ZTAと連結されたライナーの酸化速度が、対応する材料の除去速度よりも速かったことを示唆している。このレベルの酸化は、確かにZTAカップルにとって優れた現象であり、NWZにおいて-1.2ほど高いOI値に達した。これらの摩擦スイング試験実験は、UHMWPEライナー、特にZTAヘッドと連結されたものの酸化が、主に機械的作用ではなく化学反応に起因することを実証した。
【0085】
実施例11:セラミック/ポリエチレンカップルの股関節シミュレータ試験
ZTAまたはSi3N4ヘッドのいずれかと連結されたビタミンEドープ型UHMWPEライナーの結晶化度および酸化を、標準股関節シミュレータ試験で500万サイクル後に評価した。これは、代替のセラミックベアリング材料としてのSi3N4の適合性を評価することを目的とした継続的な1,200万サイクル研究の一部である。抗酸化物質のビタミンEは、インビトロ実験中にライナー酸化を遅らせる能力を実証しているが、これらの分光試験の目的は、ビタミンEドープされたUHMWPEライナーを非酸化物セラミックヘッドに連結させることが、ライナー酸化のさらなる遅延に関しても明白な利点をもたらす可能性があるかを判断することであった。
【0086】
どちらの種類の摩耗カップルも、良好な性能を示した。ZTAおよびSi
3N
4カップルの平均ポリエチレンライナー摩耗率は、100万サイクルごとにそれぞれ0.55mgおよび0.46mgであった。
図17Aおよび
図17Bは、ライナー表面および200μmの深さのそれぞれの、ZTAおよびSi
3N
4カップルの結晶化度、Δc、および酸化指数、ΔOI、変動を比較している。摩擦スイング試験と同様に、ZTAと連結されたUHMWPEライナーは、Si
3N
4と連結されたライナーと比較した場合、結晶化度の量および酸化のレベルの両方において大きな増加を有した。UHMWPEの微細構造劣化は、ZTA連結ライナーの深さよりも表面でより顕著であった。逆に、調査された深さのいずれかでSi
3N
4と連結されたライナーについては、結晶化は明らかでなかった。これには、ライナーの酸化指数の本質的な変化は伴わなかった(すなわち、ΔOIが約0)。実際、Si
3N
4に対して関節接合されたライナーについては、非晶質化のわずかな増加が見られた(
図17A)。2つの種類のUHMWPEライナー(すなわち、X3対E1(登録商標))間の直接的な比較はまだ行われていないが、E1(登録商標)ライナーが試験サイクルの約10倍の数を有していたにもかかわらず、E1(登録商標)ライナーに関連する表面酸化量は、X3よりも約1桁低かったようである。しかしながら、ZTAヘッドと連結されたE1(登録商標)ライナーの酸化指数の増加は、この実施例の明白な結果であった。インビボで約2.5年に運動学的に同等する500万サイクルでは、ビタミンEを加えることで、酸化物セラミックスと連結された人工股関節のライナー酸化が完全に排除されるわけではないようである。
【0087】
実施例12:回収分析
この実施例は、ヒト患者から回収された酸化物セラミック大腿骨頭における酸素の枯渇に起因する表面非化学量論組成の評価を提供する。これらのインビボ結果は、先の実施例で論じられたインビトロ実験とは対照的である。モノリシックAl2O3およびZTAヘッドの両方の典型的な例として、2つの回収事例が提示される。逆に、Si3N4は新しい材料であり、全股関節形成術で使用するためにクリアされていないため、回収部はまだ利用可能ではない。
【0088】
図18Aは、インビボで26.3年間ポリエチレンライナーに対して関節接合しているモノリシックAl
2O
3の初期世代からの大腿骨頭の写真を示す。そのMWZ表面およびNWZ表面の走査型電子顕微鏡写真(それぞれ
図18Bおよび18C)は、生体医学アルミナの初期グレードに典型的な、3~6μmの範囲の平均粒度を有する比較的粗い粒状構造を明らかにした。おそらく酸性関節環境における化学エッチングによる粒界がはっきりと見えていたが、MWZおよびNWZの両方で著しい表面損傷は観察されなかった。この結果は、軟質のポリエチレンカウンターパーツに対する長期の関節接合と一致する。酸素空孔からのカソードルミネッセンス発光(
図18D)は、元の状態のアルミナヘッドと比較して約250%増加し、これらは、XPSによって検出されたO-Al-VO結合の約153%増加と一致した(Al2p縁部、
図18E)。逆に、Al-O-AlおよびO-Al-O-H結合の数は、それぞれ34%および26%減少した。
【0089】
図19Aの写真は、X3ライナーに対してインビボでわずか20ヶ月間だけ関節接合するZTA大腿骨頭の写真である(すなわち、インビトロで試験された同じライナー、
図12、15、および16を参照されたい)。その再置換手術に先立ついくつかの脱臼事象により、頭部表面に金属汚染が見られる。走査電子顕微鏡によって、MWZおよびNWZにおいて撮像された細かい微細構造(
図19Bおよび19C)は、それぞれ、約1および約0.4μmの平均サイズをそれぞれ有する、Al
2O
3(濃い色)およびZrO
2(白っぽい)粒からなった。どちらのゾーンも、製造プロセスによる典型的な加工マークが表面に明らかになっているため、ヘッドは基本的に破損していないことを示していた。MWZおよびNWZは、酸素空孔から同様のCL強度を放出し、いずれも元の状態の構成要素と比較して約450%高かった(
図19D)。XPS(Al2p)は、Al-O-Al結合の原子画分の約108%の減少に伴うO-Al-Vo結合の約213%の増加を検出した(
図19E)。しかしながら、
図18A~18Eに説明されるモノリシックアルミナヘッドとは異なり、O-Al-O-Hの集団は、元の状態のZTAヘッドと比較して約288%増加し、これは、より強い水素結合を有するアルミナ格子中のCr
3+ドーパントの存在に関連し得る。
【0090】
実質的には、CLおよびXPSの両方は、アルミナ系セラミックスから作製された長期および短期の大腿骨頭回収部の両方の表面で著しく高い酸素空孔集団を独立して検出した。さらに、回収部の表面で観察された非化学量論組成は、インビトロ実験中に同じ材料で誘導されたものよりも著しく高かった。これらの回収部の特性評価により、無視できない量の酸素が、それらの表面からトライボ層内に放出されたことが確認された。実際、短期の回収部でも放出酸素量が目立っている。変形性関節症患者における滑液に典型的である酸性水熱環境と、インビトロ実験で適用されるものより強い摩擦力との組み合わせは、その観察された酸素欠乏の顕著な傾向の原因である可能性が高かった。
【0091】
上記に示され説明される開示は、あくまでも一例である。本技術の多くの特徴および利点が、本開示の構造および機能の詳細とともに、前述の説明に記載されてはいるが、本開示はあくまでも例示的であり、特に、添付の特許請求の範囲で使用される用語の一般的な意味によって示される範囲で、本開示の原理の範囲内の部品の形状、大きさおよび配置に関する事項において、詳細に変更を加えることができる。したがって、上述の実施例は、添付の特許請求の範囲内で修正され得ることが理解されよう。
本願発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1>
オキシ窒化ケイ素材料であって、前記オキシ窒化ケイ素材料が、改善された摩耗性能を有し、前記オキシ窒化ケイ素材料が、
窒化ケイ素材料ブロックを形成することと、
前記窒化ケイ素材料ブロックを酸化させることと、を含む、プロセスによって調製される、オキシ窒化ケイ素材料。
<2>
前記窒化ケイ素材料ブロックを形成することが、
ケイ素、酸素、および窒素を含み、酸化イットリウムおよび酸化アルミニウムのうちの少なくとも1つをさらに含むスラリーを調製することと、
前記スラリーを粉砕することと、
前記スラリーを乾燥させて、乾燥したスラリーを得ることと、を含む、<1>に記載のプロセスの生成物。
<3>
前記オキシ窒化ケイ素材料が、第1の結晶相と、第1の非晶相と、を含む、<1>に記載のプロセスの生成物。
<4>
前記窒化ケイ素材料ブロックを酸化させることが、水熱酸化を使用して実行される、<1>に記載のプロセスの生成物。
<5>
前記水熱酸化が、蒸気オートクレーブ内で実行される、<4>に記載のプロセスの生成物。
<6>
前記水熱酸化が、約1気圧~約250気圧の範囲の圧力で行われる、<4>または<5>に記載のプロセスの生成物。
<7>
前記水熱酸化が、約2気圧の圧力で行われる、<4>~<6>のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
<8>
前記水熱酸化が、約100℃~約150℃の範囲の温度で行われる、<4>~<7>のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
<9>
前記水熱酸化が、約120℃~約135℃の範囲の温度で行われる、<4>~<8>のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
<10>
前記水熱酸化が、約132℃の温度で行われる、<4>~<9>のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
<11>
前記水熱酸化が、約50~約200時間の範囲の持続時間で行われる、<4>~<10>のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
<12>
前記水熱酸化が、約70~約150時間の範囲の持続時間で行われる、<4>~<11>のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
<13>
前記水熱酸化が、約72時間の持続時間で行われる、<4>~<12>のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
<14>
前記窒化ケイ素材料ブロックが、人工関節の関節接合構成要素である、<1>~<13>のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
<15>
前記関節接合構成要素が、大腿骨頭である、<14>に記載のプロセスの生成物。
<16>
前記改善された摩耗性能が、前記人工関節の寿命を、15年超増大させる、<14>または<15>に記載のプロセスの生成物。
<17>
前記窒化ケイ素材料が、前記関節接合構成要素の対向面を酸化から保護する表面化学を有する、<14>~<16>のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
<18>
前記対向面が、寛骨臼ポリエチレンカップである、<17>に記載のプロセスの生成物。