(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】バンド及び時計
(51)【国際特許分類】
A44C 5/00 20060101AFI20240312BHJP
G04B 37/16 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A44C5/00 C
G04B37/16 P
(21)【出願番号】P 2018117627
(22)【出願日】2018-06-21
【審査請求日】2021-05-31
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎一
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】長馬 望
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-112517(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0103728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C 5/00
G04B 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する軟性材料で形成され、少なくとも一方の面に所定の塗料により印刷されるバンド基材と、
変形時において前記印刷が割れを生じない程度の大きさに形成される印刷構成部と、
前記印刷構成部を、前記バンド基材に所定の隙間を空けて配置する単位印刷部と、
を備え、
前記バンド基材は、前記バンド基材の延在方向における前記印刷構成部の長さが、前記バンド基材の幅方向における前記印刷構成部の長さよりも短く形成されていることを特徴とするバンド。
【請求項2】
前記バンド基材は、前記バンド基材の延在方向に隣接して配置される前記印刷構成部同士の間に設けられた隙間が、前記バンド基材の幅方向に隣接して配置される前記印刷構成部同士の間に設けられた隙間より大きく設けられていることを特徴とする請求項1に記載のバンド。
【請求項3】
前記バンド基材の小穴がある領域における前記印刷構成部の大きさは、前記バンド基材の小穴がない領域における前記印刷構成部の大きさよりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載のバンド。
【請求項4】
前記バンド基材と前記所定の塗料との間に、合成樹脂塗料で形成された下地層が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載のバンド。
【請求項5】
前記単位印刷部側でその周囲に、凸状部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載のバンド。
【請求項6】
前記凸状部は、前記単位印刷部の表面よりも高くなるように形成されていることを特徴とする請求項
5に記載のバンド。
【請求項7】
前記所定の塗料は、天然樹脂塗料であることを特徴とする請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載のバンド。
【請求項8】
前記バンド基材は、天然皮革であることを特徴とする請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載のバンド。
【請求項9】
請求項1から請求項
8のいずれか一項に記載のバンドと、
前記バンドが取り付けられるバンド取付け部を有するケースと、
ケース内に収容された表示部と、
を備えることを特徴とする時計。
【請求項10】
前記バンド基材は、
変形しにくい硬い部分と変形しやすい柔らかい部分とを含み、
前記
柔らかい部分の方が前記硬い部分より、隣接して配置される前記印刷構成部同士の間に設けられた隙間が大きく設けられていることを特徴とする請求項
9に記載の時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンド及びバンドを備える時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、腕時計等、腕に装着される機器に設けられるバンドは、腕になじみやすいように合成樹脂や天然又は合成の皮革等、各種軟性の材料で形成されている。
こうしたバンドではデザイン性を高めるために表面に各種の装飾模様を施すことも行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、軟性の材料で形成されたバンドは捩れ等を生じやすく、印刷によって装飾模様を施すとバンドの使用によって装飾模様が擦れたり、剥がれる等のおそれがある。
そこで、特許文献1には、合成樹脂製の時計バンドにおいて、合成樹脂フィルムの表面に装飾模様を形成し、当該装飾模様の上に透明保護塗膜を設けて、合成樹脂製のバンド本体と一体成型することが記載されている。
このようにすれば、軟性の材料で形成されたバンドにおける柔軟性を損なわずに、意匠性と耐久性とを両立させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、バンドの装飾に、例えば漆等の天然材料を含む塗料等を用いたいとの要望がある。
漆等によって装飾を施すことで、意匠性に優れ、日本の伝統文化を取り入れた高級感のある外観を実現することができる。
しかし、こうした漆等の天然材料は、特許文献1で示されている合成樹脂フィルムによる装飾以上に割れやすく擦れや剥がれ等に弱い。
【0006】
他方で、塗料の上から透明な保護膜等で覆ってしまうと、せっかくの天然材料の質感を失ってしまい、好ましくないとの問題がある。
【0007】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、質感を損なわずに、装飾部分の耐久性にも優れたバンド及びバンドを備える時計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のバンドは、
柔軟性を有する軟性材料で形成され、少なくとも一方の面に所定の塗料により印刷されるバンド基材と、
変形時において前記印刷が割れを生じない程度の大きさに形成される印刷構成部51と、
前記印刷構成部を、前記バンド基材に所定の隙間を空けて配置する単位印刷部と、
を備え、
前記バンド基材は、前記バンド基材の延在方向における前記印刷構成部の長さが、前記バンド基材の幅方向における前記印刷構成部の長さよりも短く形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、質感を損なわずに、装飾部分の耐久性にも優れたバンド及びバンドを備える時計を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態における時計の外観を示す平面図である。
【
図2】(a)は、
図1に示すバンドの平面図であり、(b)は、(a)において一点鎖線で囲んだb部分の拡大図であり、(c)は、(b)に示す部分の要部断面図である。
【
図3】(a)は、バンドの一変形例の平面図であり、(b)は、(a)において一点鎖線で囲んだb部分の拡大図である。
【
図4】(a)は、バンドの一変形例の平面図であり、(b)は、(a)において一点鎖線で囲んだb部分の拡大図である。
【
図5】(a)は、バンドの一変形例の平面図であり、(b)は、(a)において一点鎖線で囲んだb部分の拡大図であり、(c)は、(b)に示す部分の要部断面図である。
【
図6】(a)は、バンドの一変形例の平面図であり、(b)は、(a)において一点鎖線で囲んだb部分の拡大図である。
【
図7】(a)は、バンドの一変形例の平面図であり、(b)は、(a)において一点鎖線で囲んだb部分の拡大図である。
【
図8】(a)は、第2の実施形態のバンドの平面図であり、(b)は、(a)において一点鎖線で囲んだb部分の拡大図であり、(c)は、(b)に示す部分の要部断面図である。
【
図9】(a)は、バンドの一変形例の平面図であり、(b)は、バンドの分解断面図であり、(c)は、(a)に示すバンドの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
図1及び
図2(a)から
図2(c)を参照しつつ、本発明に係るバンド及びバンドを備える時計の第1の実施形態を説明する。なお、以下では、バンドが腕時計(以下、単に「時計」と言う)のバンドである場合について説明するが、本発明を適用可能な実施形態はこれに限定されるものではない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る時計の正面図である。
図1に示すように、本実施形態において、時計1は、本体ケース3と、この本体ケース3に取り付けられたバンド2とを備えている。
【0013】
本体ケース3の上下両端部(
図1において上下端部)、つまり時計の12時方向側端部及び6時方向側端部には、バンド2が取り付けられるバンド取付け部31が形成されている。
また、本体ケース3の内部には、文字板や指針等を備える表示部32等が収容されている。
【0014】
本実施形態において、バンド2は、本体ケース3のバンド取付け部31のうち、アナログ時計における12時側に取り付けられる親バンド2aと6時側に取り付けられる剣先バンド2bとで構成されている。親バンド2aには、カサ21及びツク棒22(カサ21及びツク棒22を合わせて「尾錠」ともいう。)が設けられており、剣先バンド2bには、ツク棒22が係止される小穴23が剣先バンド2bの延在方向に並んで複数設けられている。
なお、以下において、単に「バンド2」とするときには、親バンド2aと剣先バンド2bとの双方を意味するものとする。
【0015】
バンド2は、少なくとも一方向に柔軟性を有する軟性材料で形成されるバンド基材20を備えている。本実施形態において、バンド基材20を形成する軟性材料は、例えば鹿革等の天然皮革である。
時計1のバンド2の場合、幅方向(
図1等においてY方向)にはあまり曲げたり折ったりする力は加えられず、大きく変形したり、大きく伸縮することは少ない。これに対して、バンド2の延在方向(
図1等においてX方向)には、バンド2の着脱の際等に曲げたり捩じったりするような大きな力が加わることがある。よって、バンド2は大きく変形する。
なお、バンド2は、バンド取付け部31に取り付けられる側は比較的強度があり、また本体ケース3によってある程度動きが規制されるため曲げ伸ばしや捩じれ等の外力を受けにくい。これに対して、本体ケース3から離れるほど(なお、
図1等において、本体ケース3から離れる方向をX方向の矢印で示している。)、曲げ伸ばしや捩じれ等の外力を受けやすくなる。
【0016】
本実施形態は、このようなバンド基材20における少なくとも一方の面(以下の実施形態では、視認側の面、すなわち、腕等に装着する面とは反対側の面、表面)に天然材料を含む塗料等の所定の塗料により印刷等の装飾を施す場合を想定している。
ここで、天然材料を含む塗料とは、例えば、漆等を含む天然樹脂塗料(以下「漆インク」ともいう。)である。なお、天然材料を含む塗料としては漆を用いたものに限定されず、各種のものを適用可能である。
こうした天然材料を含む塗料は、塗布後、塗布箇所に曲げ伸ばし等の外力が加えられると、割れや剥がれを生じやすい。
特に塗布面積が広い場合には、塗料自体が割れや剥がれ等を生じやすくなる。
そこで、本実施形態では、柔軟性を有する天然皮革等の軟性材料で形成されたバンド基材20の表面に漆インク等の塗料により印刷を施す場合に、バンド2(バンド基材20)の変形時(伸縮時)において、印刷が(塗料それ自体として)割れを生じない程度の大きさに形成された印刷構成部51(
図2(b)等参照)を少なくともバンド基材20の変形方向(伸縮方向)に所定の隙間α(
図2(b)等参照)を空けて配置することで、単位印刷部5(
図2(a)等参照)を構成することとしている。
【0017】
図2(a)は、
図1に示すバンドの平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)において一点鎖線で囲んだb部分の拡大図であり、
図2(c)は、
図2(b)に示す部分の要部断面図である。
単位印刷部5とは、印刷によって形成される装飾領域である。例えば
図2(a)では、バンド2に「ABC」の文字を印刷する例を示しており、この場合、「ABC」の文字部分が単位印刷部5となる。なお、
図2(a)では、単位印刷部5が1つ設けられている例を示しているが、単位印刷部5は1つのバンド中に複数箇所設けられていてもよい。
また、「塗料それ自体として割れを生じない程度の大きさ」は、天然材料を含む塗料の種類(割れやすさ、剥がれやすさ等の特性に着目した場合の種類)や、印刷先のバンド基材20の種類(伸縮しやすさ、塗料の密着性等の特性に着目した場合の種類)等に応じて適宜設定される事項である。
【0018】
例えば、割れやすく剥がれやすい塗料を、大きく伸縮するような柔らかいバンド基材20上に印刷する場合には、印刷構成部51を極微細なドット(点状)とする。これに対して、比較的割れにくく密着性の高い塗料を、比較的変形しにくいバンド基材20上に印刷する場合には、印刷構成部51を上記よりも多少径の大きなドット(点状)とする。
なお、印刷構成部51としてのドットの形状は、表面張力により得られる半球形状又はこれに近い形状であることが望ましい。
印刷構成部51としてのドットをこのような構成とすることで、割れやすく、剥がれやすい天然材料を含む塗料を用いた場合でも、バンド2の着脱操作等の際のバンド基材20の伸縮によって塗料が伸びたり捩れたりせず、割れや剥がれも生じにくくなる。また、バンド基材20が天然皮革等である場合にもバンド基材20に対する塗料の密着性を維持することができる。
【0019】
図2(a)から
図2(c)に示す例では、単位印刷部5である「ABC」の文字部分を極微細なドットとしての印刷構成部51の集合体として表現している。
この場合、
図2(b)及び
図2(c)に示すように、各印刷構成部51を少なくともバンド基材20の伸縮方向(すなわち、
図1におけるX方向)に所定の隙間αを空けて配置する。なお、
図2(b)及び
図2(c)では、隣接して配置される印刷構成部51同士の間にそれぞれ所定の隙間αを設ける例を示している。
【0020】
ここで「所定の隙間α」をどの程度とするかは、天然材料を含む塗料の種類(割れやすさ、剥がれやすさ等の特性に着目した場合の種類)や、印刷先のバンド基材20の種類(伸縮しやすさ、塗料の密着性等の特性に着目した場合の種類)、印刷構成部51の大きさ等に応じて適宜設定される。
すなわち、バンド基材20の伸縮度合いの大きな箇所ほど、印刷構成部51を小さく形成し、隙間αは大きく設けることが好ましい。
また、バンド基材20に変形しにくい硬い部分(例えば、本体ケース3に近い部分等)と変形しやすい柔らかい部分(例えば、本体ケース3から遠い部分等)とがある場合には、硬い部分では隙間αを小さくし、柔らかい部分では隙間αを大きくする等、隙間αの大きさを部分ごとに変えてもよい。
なお、見た目上印刷構成部51同士が接触しているように見える場合でも、印刷構成部51同士が融着せず、印刷構成部51同士の間にスリットが入った状態となっていれば、バンド基材20が伸縮しても塗料の割れや剥がれ、撚れ等を生じにくい。
このため、「所定の隙間α」は、バンド基材20が伸縮した際にも印刷構成部51同士の間にスリットが確保される程度の僅かなものであっても足りる。
【0021】
また、
図2(c)に示すように、本実施形態では、バンド基材20と天然材料を含む塗料(本実施形態では天然材料を含む塗料によって形成される印刷構成部51)との間に、合成樹脂塗料(以下、合成樹脂インクともいう。)で形成された下地層52が設けられている。
図2(c)では、各印刷構成部51に対応して下地層52を設ける例を示している。なお、下地層52は各印刷構成部51と同じ範囲に設けられていてもよいし、各印刷構成部51よりも広い範囲に下地層52を設けてもよい。下地層52を各印刷構成部51よりも広い範囲に設ける場合には、下地層52のうち各印刷構成部51によって表面を覆われない部分が外部から視認されるため、外観を損なわないように、下地層52を透明やバンド基材20と同色の合成樹脂塗料(合成樹脂インク)で形成することが好ましい。
下地層52を構成する合成樹脂塗料は、例えばポリエステル樹脂塗料(ポリエステルインク)である。
なお、下地層52を構成する合成樹脂塗料は、ポリエステル樹脂塗料に限定されず、各種の物を適用可能である。例えばバンド基材20を形成する材料や印刷構成部51を構成する天然材料を含む塗料との相性等に応じて、下地層52に用いる材料を適宜選択してもよい。
【0022】
漆インク等の天然材料を含む塗料を鹿革のような天然皮革等のバンド基材20の上に直接印刷しようすると、バンド基材20上に塗料を強固に密着させることができず、塗料の割れや剥がれ等を生じやすくなる。
この点、合成樹脂塗料(合成樹脂インク)は、天然材料を含む塗料(例えば、漆インク)と比較して伸び性がよく、割れや剥がれを生じにくいものであり、天然皮革等のバンド基材20の上でも強固に密着させることができる。
そして、合成樹脂塗料(合成樹脂インク)の上であれば、天然材料を含む塗料(例えば、漆インク)も比較的安定して密着する。
なお、下地層52の厚みは特に限定されない。下地層52を構成する合成樹脂塗料(樹脂インク)は伸びがよく、薄くても剥がれにくいことから、バンド基材20の上に薄く合成樹脂塗料(合成樹脂インク)を塗布して下地層52を構成してもよい。
【0023】
次に、本実施形態における作用について説明する。
【0024】
本実施形態のバンド2を形成する際は、まず、バンド基材20の表面であって、単位印刷部5が構成される部分に、単位印刷部5を構成する各印刷構成部51の位置に合せて、下地層52を形成する。
例えば
図2(b)及び
図2(c)に示す例では、単位印刷部5である「ABC」を構成する各ドット(印刷構成部51)が印刷される部分に、まず下地層52として合成樹脂インク等を印刷する。
なお、下地層52は各ドット(印刷構成部51)に1対1で対応して設けられていてもよいが、例えば、「ABC」といった単位印刷部5の全体に下地層52を設けて、この下地層52の上に所定の隙間αをあけながら個々のドット(印刷構成部51)を形成してもよい。
これにより、天然皮革のような軟性材料で構成されるバンド基材20の上に、漆インク等の天然材料を含む塗料等で印刷を施す場合でも、バンド基材20と天然材料を含む塗料との密着性を高めることができる。また、各ドット(印刷構成部51)間に所定の隙間αを設けることで、ドット(印刷構成部51)の割れ等を防ぐことができる。
このため、バンド2を時計1に適用した場合、日常的にバンド2の着脱を行ってもバンド2の外観が損なわれず、優れた意匠のまま使用することができる
【0025】
以上のように、本実施形態によれば、バンド2が少なくとも一方向に変形(伸縮)する柔軟性を有する軟性材料で形成されるバンド基材20を備えている場合に、バンド基材20における少なくとも一方の面(本実施形態では視認側の面)に、天然材料を含む塗料により変形(伸縮)時において、それ自体として割れを生じない程度の大きさに形成され単位印刷部5を構成する印刷構成部51を、少なくともバンド基材20の変形(伸縮)方向に所定の隙間αを空けて配置する。
このように、バンド基材20の変形(伸縮)しやすい方向を考慮してバンド基材20上に印刷による装飾を施すため、鹿革等の天然皮革のような軟性材料で構成されているバンド基材20に漆インク等の天然材料を含む塗料等を用いて印刷を行う場合にも、塗料(インク)の割れや剥がれ、擦れや撚れ等を生じにくく、通常の使用に耐え得るバンド2とすることができる。
また、塗料の上から透明な保護膜等で覆う等の手法を用いずに印刷による装飾部分の耐久性を高めることができるため、天然材料の質感を失わずに、意匠性に優れたデザインのバンド2とすることができる。
これにより、日本の伝統文化を取り入れた高級感のあるバンド2及びこれを有する時計1を実現することができる。
【0026】
また、本実施形態では、バンド基材20を形成する軟性材料は、鹿革等の天然皮革である。
このため、柔らかく腕馴染みのよいバンド2を実現することができる。
そして、このような天然皮革のバンド2に漆インク等の天然材料を含む塗料で装飾を施すことで、伝統工芸品のような日本独特の意匠性に優れたバンド2及びこれを有する時計1を実現することができる。
【0027】
また、本実施形態では、天然材料を含む塗料は、漆インク等の天然樹脂塗料である。
このため、日本独特の伝統工芸品の手法を応用した、意匠性に優れたバンド2及びこれを有する時計1を実現することができる。
【0028】
また、本実施形態では、隙間αは、隣接して配置される印刷構成部51同士の間にそれぞれ設けられている。
このため、
図1に示すX方向、Y方向のいずれの方向にバンド2が変形(伸縮)した場合でも、印刷構成部51間に隙間αが確保され、印刷構成部51同士が融着して割れや剥がれを生じやすくなることを防止できる。
【0029】
また、本実施形態では、バンド基材20の変形(伸縮)度合いの大きな箇所ほど、例えば、剣先バンド2bの小穴23が延在方向に並んでいる領域などは、印刷構成部51を小さく形成し、隙間αが大きく設けられる。
これにより、バンド基材20が変形(伸縮)しやすく曲がったり撚れたりしやすいものでも、印刷構成部51の割れや剥がれを防ぐことができる。
【0030】
また、本実施形態では、天然皮革等で構成されたバンド基材20と漆インク等の天然材料を含む塗料との間に、ポリエステルインク等の合成樹脂塗料で形成された下地層52が設けられている。
このため、バンド基材20への塗料の密着性を強固なものとすることができる。また、伸び性に優れた合成樹脂塗料上に天然材料を含む塗料による印刷を行うことで塗料の割れや剥がれを防ぐことができる。
【0031】
なお、天然材料を含む塗料による印刷は、
図2(a)等に示したようなロゴ等のワンポイント印刷に限定されない。
【0032】
例えば、
図3(a)に示すように、バンド基材20の全面に亘って印刷が施されてもよい。この場合には、バンド基材20の表面全体が単位印刷部5となる。
この場合、天然材料を含む塗料で形成される印刷構成部51は、
図3(b)に示すように、バンド基材20の全面に配置され、各印刷構成部51の間に隙間αが設けられる。
なお、バンド基材20の表面全体がべた塗りされているように見えるようにするためには、できるだけ粒状感が表現されないように、印刷構成部51及びその間に設けられる隙間αを小さくすることが好ましい。
また、この場合にも、特に、バンド基材20が天然皮革等、塗料(インク)の密着性が低い材料で形成されている場合には、印刷構成部51の設けられる位置に応じてそれぞれポリエステルインク等の合成樹脂塗料で形成された下地層52を設けることが好ましい。
なお、漆インク等の天然材料を含む塗料と比較して、ポリエステルインク等の合成樹脂塗料は伸び性に優れている。このため、ポリエステルインク等の合成樹脂塗料で形成される下地層52は、必ずしも個々の印刷構成部51に対応せず、例えばバンド基材20の表面全体に対して塗布(印刷)されてもよく、この場合でも天然皮革等で形成されたバンド基材20の風合いを損なうことはない。
【0033】
また、例えば、
図4(a)に示すように、バンド基材20の全面に亘って斜めにストライプ柄等が印刷されてもよい。この場合にも、バンド基材20の表面全体が単位印刷部5となる。
この場合、天然材料を含む塗料で形成される印刷構成部51は、
図4(b)に示すように、バンド基材20の全面に斜めに線を描くように配置され、各印刷構成部51の間に隙間αが設けられる。
また、この場合にも、特に、バンド基材20が天然皮革等、塗料(インク)の密着性が低い材料で形成されている場合には、ポリエステルインク等の合成樹脂塗料で形成された下地層52を設けることが好ましい。
この場合、上記
図3(a)等について説明した場合と同様に、ポリエステルインク等の合成樹脂塗料で形成される下地層52は、必ずしも個々の印刷構成部51に対応せず、例えばバンド基材20の表面全体に対して塗布(印刷)されてもよい。
【0034】
なお、下地層52が印刷構成部51間の隙間部分から視認される場合や、
図5(a)から
図5(c)に示すように、単位印刷部5の設けられる範囲に関わらずバンド基材20の表面全体に下地層52を設ける場合には、バンド基材20を構成する天然皮革等の風合いを損なわないように、バンド基材20と同色や透明色の合成樹脂塗料で下地層52を形成することが好ましい。
但し、透明な合成樹脂塗料でバンド基材20の表面全体に下地層52を形成すると、表面に天然皮革等とは異なる人工的な艶が出てしまう。このため、エナメル調のデザインとして仕上げる場合等であれば、透明な合成樹脂塗料でバンド基材20の表面全体に下地層52を形成することで美しく仕上がるが、天然皮革等そのままの仕上がりを希望する場合にはイメージと異なる質感のものとなる。したがって、所望の仕上がりに応じて、下地層52を形成するか否か、また形成する場合にはどの範囲に形成するか等を選択することが好ましい。
また、逆に、印刷構成部51に用いる天然材料を含む塗料やバンド基材20の色と異なる色の合成樹脂塗料で下地層52を形成することにより、積極的に複数色で構成されるデザインとしてもよい。この場合にはカラーバリエーション豊かな、意匠性に優れたバンド2とすることができる。
【0035】
さらに、バンド基材20はバンド2の幅方向であるY方向にはほとんど伸縮や変形を生じず、バンド2の延在方向であるX方向には伸縮や変形を生じる場合には、少なくとも伸縮・変形を生じる側に十分な隙間αが確保されていればよい。
このため、例えば、
図6(a)及び
図6(b)に示すように、印刷構成部51をY方向には長く、X方向には短い楕円形状やライン形状とし、Y方向に隣接する印刷構成部51間の隙間αは小さく、X方向に隣接する印刷構成部51間の隙間αは大きくしてもよい。
また、例えば、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、印刷構成部51をY方向には長くべた塗りとし、X方向には短いライン形状等として、X方向に隣接する印刷構成部51間にだけ隙間αを設けてもよい。
なお、X方向の矢印の上流側ほどバンド2(バンド基材20)が伸縮・変形しにくい場合には、印刷構成部51のうち、バンド基材20の本体ケース3への取付け側に近い位置(すなわち、X方向の矢印の上流側の位置)に設けられるものについては、X方向の幅を広くしてもよい。
また、
図7(a)及び
図7(b)に示すようなY方向に延在するライン形状の印刷構成部51を、X方向の矢印に沿ってさらに複数設ける場合、X方向の矢印の下流側ほどバンド2(バンド基材20)が伸縮・変形しやすい場合には、X方向の矢印の下流側ほど印刷構成部51におけるX方向の幅を狭くしてもよいし、X方向に隣接する印刷構成部51間の隙間αを大きくしてもよい。また、印刷構成部51におけるX方向の幅と隣接する印刷構成部51間の隙間αの大きさとの掛け合わせにより、印刷構成部51が割れや剥がれを生じないように調整を行ってもよい。
【0036】
[第2の実施形態]
次に、
図8(a)から
図8(c)を参照しつつ、本発明に係るバンド及び時計の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態は、バンド2(バンド基材20)の表面の構成のみが第1の実施形態と異なるものであるため、以下においては、特に第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0037】
図8(a)は、単位印刷部5及びその周辺を他の部分よりも低くして、単位印刷部5の周囲が凸状部となっているバンドの平面図であり、
図8(b)は、
図8(a)におけるb部分の拡大図であり、
図8(c)は、
図8(b)の要部断面図である。
例えば、バンド基材20が天然皮革等で形成されている場合に、単位印刷部5及びその周辺を他の部分よりも低くする手法としては、低くしたい部分に熱したこて等を押し当てることで、熱を掛け、凹ませる型押しの手法を用いることができる。
これによれば、単位印刷部5を形成したい部分及びその周辺部をその他の部分よりも一段低い凹部25とすることができる。すなわち、単位印刷部5の周囲に単位印刷部5よりも高い凸状部26が形成される。なお、バンド基材20に凹部25及び凸状部26を形成する手法は型押しの手法に限定されず、その他の手法を用いることも可能である。
単位印刷部5を形成したい部分及びその周辺部とその他の部分との段差をどの程度とするかは特に限定されないが、
図8(c)において一点鎖線で示すように、凸状部は、単位印刷部5の表面よりも高くなるように形成されていることが好ましい。
このため、
図8(c)に示すように、下地層52の上に印刷構成部51を形成したものの集合体で単位印刷部5が構成される場合には、単位印刷部5を形成したい部分及びその周辺部とその他の部分との段差は、下地層52と印刷構成部51とを合わせた高さよりも高くすることが好ましい。
【0038】
なお、その他の構成は、第1の実施形態と同様であることから、同一部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0039】
次に、本実施形態における作用について説明する。
本実施形態において、バンド基材20中、単位印刷部5を形成したい部分が決定すると、単位印刷部5を形成したい部分及びその周辺部に熱したこて等を押し当てて型押しの手法により凹部25を形成する。これにより、凹部25の周囲は単位印刷部5が形成される位置よりも高い凸状部26となる。
凹部25及び凸状部26が形成されると、印刷構成部51を形成する位置に合せて合成樹脂塗料(合成樹脂インク)で下地層52を形成する。
図8(a)に示す例では、下地層52は各ドット(印刷構成部51)に1対1で対応して設けられるのではなく、例えば、「ABC」といった単位印刷部5が設けられる部分及びその周辺であって凹部25内の全体に下地層52を設ける。そして、この下地層52の上に所定の隙間αをあけながら個々のドット(印刷構成部51)を形成して単位印刷部5を構成する。
この場合、本実施形態では、下地層52上に形成された印刷構成部51の高さよりも、凹部25の周囲に設けられた凸状部26の高さが高くなっているため、単位印刷部5及びその周辺が凸状部26により取り囲まれた状態となる。このため、バンド2を着脱する際等にも、ドット(印刷構成部51)が服の袖等と触れる等の外部からの刺激から守られて、バンド基材20との強固な密着性が維持されて、印刷構成部51が割れたり剥がれたり汚れたりするのを防止することができる。
【0040】
なお、その他の点については、第1の実施形態と同様であることから、その説明を省略する。
【0041】
以上のように、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得られる他、以下の効果を得ることができる。
すなわち、本実施形態では、単位印刷部5の周囲に、凸状部が設けられている。
このため、単位印刷部5を構成するドット(印刷構成部51)が凸状部26によって保護され、外部からの刺激を受けにくい。
【0042】
さらに、本実施形態では、凸状部26が、単位印刷部5の表面よりも高くなるように形成されている。
これにより、単位印刷部5を構成するドット(印刷構成部51)が複の袖等に当たったり擦れたりしにくく、バンド基材20との密着性が維持される。又外部刺激を受けにくいことで、割れや剥がれを生じやすい漆インク等の天然材料を含む塗料で形成した場合でも割れや剥がれのない状態を長く維持することができ、意匠性に優れたバンド2及びこれを備える時計1を実現することができる。
【0043】
なお、以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で、種々変形が可能であることは言うまでもない。
【0044】
例えば、第2の実施形態では、単位印刷部5がバンド2(バンド基材20)の一部分にワンポイント的に設けられる場合を例示したが、例えば、第1の実施形態における
図3(a)及び
図4(a)等に示すように、単位印刷部5がバンド2(バンド基材20)の表面全体に設けられている場合にも、単位印刷部5の周囲に凸状部26を設けてもよい。
この場合には、
図9(a)に示すように、バンド2(バンド基材20)の外周部に凸状部26を設け、この凸状部26に囲まれた内部である凹部25内に単位印刷部5を形成する。
【0045】
バンド2(バンド基材20)の外周部に凸状部26を設ける手法は特に限定されないが、例えば、
図9(a)及び
図9(c)に示すように、バンド2(バンド基材20)の外周部にステッチ64を入れることで、バンド2(バンド基材20)の外周部分を中央部分よりも盛り上げ、ステッチ64よりも外側に凸状部26を形成してもよい。
【0046】
例えば、へり返しと呼ばれる手法でバンド2(バンド基材20)を形成する場合、
図9(b)に示すように、表面部材61によって芯材63の表面側を覆い、表面部材61の両側部を芯材63の裏面側に折り返して、裏面側を裏面部材62により被覆する。そして、
図9(c)に示すように、表面部材61及び裏面部材62を一体化させるようにバンド2(バンド基材20)の外周部にステッチ64を入れる。これにより、折り返されたバンド2(バンド基材20)の外周部分が中央部分よりも盛り上がり、凸状部26となる。
なお、芯材63を設けずに、表面部材61及び裏面部材62を縫い合わせることでバンド2(バンド基材20)を構成してもよい。
また、バンド2(バンド基材20)を形成する手法はへり返しに限定されない。例えば芯材63を裏面部材62によって覆い、裏面部材62の両側部を表面側に折り返して、表面側を表面部材61により被覆する、いわゆるフランス仕立て等、各種手法によることが可能である。
【0047】
なお、第2の実施形態のように単位印刷部5の周囲に凸状部26を設ける場合にも、凹部25内に形成される単位印刷部5としては、第1の実施形態において示した、各構成(例えば
図2~
図7に示したような構成)のものを適用することができる。
【0048】
また、1つのバンド2(バンド基材20)内に構成の異なる各種の単位印刷部5が設けられていてもよい。
この場合、バンド2(バンド基材20)内の各部の変形(伸縮)度合等に応じて、複数の単位印刷部5を組み合わせるようにしてもよい。
【0049】
また、上記各実施形態では、天然材料を含む塗料が漆インク等の天然樹脂塗料である場合を例示したが、天然材料を含む塗料はこれに限定されない。
例えば、漆インク以外の天然樹脂塗料であってもよいし、金箔等、天然材料としての各種箔を含んだ塗料であってもよい。
【0050】
さらに、上記各実施形態では、バンド2(バンド基材20)を形成する軟性材料が、鹿革等の天然皮革である場合を例示したが、軟性材料はこれに限定されない。
塗料の割れや剥がれが生じやすい伸縮性や変形性のある柔軟性を有する材料であれば本発明を適用することができ、例えば合成皮革、クロス素材、ウレタンやゴム等の樹脂素材等であってもよい。
【0051】
なお、バンド2(バンド基材20)を形成する軟性材料が合成樹脂である場合等、軟性材料の種類によっては、天然材料を含む塗料等をバンド2(バンド基材20)上に直接塗布しても密着性が損なわれない場合もある。
この場合には、下地層52を設けずに、天然材料を含む塗料等のみを印刷することとしてもよい。
また、上記各実施形態では、天然材料を含む塗料を例示したが、これに限らず、塗布後、塗布箇所に曲げ伸ばし等の外力が加えられると、割れや剥がれを生じやすい塗料であればよく、他の塗料であってもよい。
【0052】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定するものではなく、各実施形態の各要素を組み合わせてなるものでもよく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲をその均等の範囲を含む。
以下に、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載した発明を付記する。付記に記載した請求項の項番は、この出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の通りである。
【0053】
〔付記〕
<請求項1>
少なくとも一方向に柔軟性を有する軟性材料で形成され、少なくとも一方の面に所定の塗料により印刷されるバンド基材と、
変形時において前記印刷が割れを生じない程度の大きさに形成される印刷構成部と、
前記印刷構成部を、少なくとも前記バンド基材の変形方向に所定の隙間を空けて配置する単位印刷部と、
を備えることを特徴とするバンド。
<請求項2>
前記隙間は、隣接して配置される前記印刷構成部同士の間にそれぞれ設けられることを特徴とする請求項1に記載のバンド。
<請求項3>
前記バンド基材の変形に応じて、前記印刷構成部の大きさを変えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバンド。
<請求項4>
前記バンド基材の小穴がある領域は、前記印刷構成部を小さく形成することを特徴とする請求項3に記載のバンド。
<請求項5>
前記バンド基材と前記所定の塗料との間に、合成樹脂塗料で形成された下地層が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のバンド。
<請求項6>
前記単位印刷部側でその周囲に、凸状部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のバンド。
<請求項7>
前記凸状部は、前記単位印刷部の表面よりも高くなるように形成されていることを特徴とする請求項6に記載のバンド。
<請求項8>
前記所定の塗料は、天然樹脂塗料であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のバンド。
<請求項9>
前記バンド基材を形成する軟性材料は、天然皮革であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のバンド。
<請求項10>
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のバンドと、
前記バンドが取り付けられるバンド取付け部を有するケースと、
ケース内に収容された表示部と、
を備えることを特徴とする時計。
【符号の説明】
【0054】
1 時計
2 バンド
3 本体ケース
5 単位印刷部
20 バンド基材
25 凹部
26 凸状部
51 印刷構成部
52 下地層
α 隙間