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特許7452949セラミック繊維強化セラミック複合材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】セラミック繊維強化セラミック複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20240312BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20240312BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20240312BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240312BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C04B35/80 600
C04B41/87 G
B05D1/18
B05D7/00 C
B05D7/00 B
B05D7/24 301G
B05D7/24 303B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019027794
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020132470
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】川口 章秀
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-199587(JP,A)
【文献】特開平01-076970(JP,A)
【文献】特開2017-145181(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109020588(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80
C04B 41/87
B05D 1/18
B05D 7/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック繊維が1方向又は2方向に配向した骨材に、セラミック粒子と水とを含有するスラリーを含浸し、スラリー含浸体を得るスラリー含浸工程と、
前記スラリー含浸体を凍結乾燥し乾燥体を得る乾燥工程と、
前記乾燥工程の後に、前記乾燥体における前記骨材の間に、炭素前駆体又はSiC前駆体であるマトリックス原料を含浸させ、続いて、焼成することで、炭素又はSiCにセラミック化されたマトリックスを形成するマトリックス形成工程と、を含むことにより、
前記マトリックスが、
セラミック粒子が亀裂状の気孔を形成するように集まってできる前記気孔に相当する前記セラミック粒子を含有しない領域と、
前記気孔以外の領域に相当する前記セラミック粒子を含有する領域とで構成され、
前記気孔に相当する前記セラミック粒子を含有しない領域が、前記セラミック繊維の配向方向と略直交するように配向するように形成する、
セラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記セラミック繊維は、炭素繊維又はSiC繊維である、請求項1に記載のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記セラミック粒子は、炭素系粒子又はSiC粒子である、請求項1又は2に記載のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記マトリックス形成工程の後に、CVI法でセラミックスを沈積するCVI工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法。
【請求項5】
セラミック繊維が1方向又は2方向に配向した骨材に、セラミック粒子と水とを含有するスラリーを含浸し、スラリー含浸体を得るスラリー含浸工程と、
前記スラリー含浸体を凍結乾燥し乾燥体を得る乾燥工程と、
前記乾燥工程の後に、前記乾燥体における前記骨材の間に、炭素前駆体又はSiC前駆体であるマトリックス原料を含浸させ、続いて、焼成することで、炭素又はSiCにセラミック化されたマトリックスを形成するマトリックス形成工程と、
前記マトリックス形成工程の後に、CVI法でセラミックスを沈積するCVI工程と、を含むことにより、
前記マトリックスが、
セラミック粒子が亀裂状の気孔を形成するように集まってできる前記気孔に相当する前記セラミック粒子を含有しない領域と、
前記気孔以外の領域に相当する前記セラミック粒子を含有する領域とで構成され、
前記気孔に相当する前記セラミック粒子を含有しない領域が、前記セラミック繊維の配向方向と略直交するように配向するように形成する、
セラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記セラミック粒子の粒子径は0.1~10μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法。
【請求項7】
セラミック繊維が1方向又は2方向に配向した骨材と、
前記セラミック繊維の隙間を充填し、炭素またはSiCにセラミック粒子を含有して構成されるマトリックスと、を有し、
前記マトリックスは、
セラミック粒子が亀裂状の気孔を形成するように集まってできる前記気孔に相当する前記セラミック粒子を含有しない領域と、
前記気孔以外の領域に相当する前記セラミック粒子を含有する領域とで構成され、
前記気孔に相当する前記セラミック粒子を含有しない領域は、前記セラミック繊維の配向方向と略直交するように配向して形成されている、セラミック繊維強化セラミック複合材料。
【請求項8】
前記セラミック繊維は、炭素繊維又はSiC繊維である、請求項7に記載のセラミック繊維強化セラミック複合材料。
【請求項9】
前記セラミック粒子は、炭素系粒子又はSiC粒子である、請求項7又は8に記載のセラミック繊維強化セラミック複合材料。
【請求項10】
前記セラミック粒子の粒子径は0.1~10μmである、請求項7~9のいずれか1項に記載のセラミック繊維強化セラミック複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック繊維強化セラミック複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛、炭化ケイ素などは、耐熱性、化学的安定性、機械的特性等に優れた材料である。このため、これらのセラミック材料は、原子力分野、航空・宇宙分野、発電分野等の過酷な環境下や、ポンプメカニカルシール等の一般的な分野で使用される材料として開発が進められている。
【0003】
しかしながら、焼結体としての黒鉛、炭化ケイ素はセラミックス材料であるため、破壊靱性が小さく、その弱点を解消するためにセラミック繊維で強化した複合材料が開発されている。炭素繊維、SiC繊維などのセラミック繊維からなる骨材の間にセラミックスのマトリックスが充填されたセラミック繊維強化セラミック複合材料は、様々な製造方法がある。
【0004】
CVI(Chemical Vapor Infiltration)法ではセラミック繊維の骨材の間に気相成長法でSiC、炭素などからなるマトリックスを形成する。前駆体法では、セラミック繊維の骨材の間にマトリックスとなる前駆体を含浸したのち、焼成し、セラミック化してマトリックスを形成する。SiCマトリックスの場合にはMI(Melt Infiltration)法が適用できる。MI法ではセラミック繊維の隙間に炭素源を含浸したのち、溶融シリコンを含浸し、内部で炭素とシリコンを反応させSiCマトリックスを形成する。
【0005】
特許文献1には、炭化ケイ素が、丸編みされた炭素繊維構造物で強化されてなる炭素繊維強化炭化ケイ素系複合材料の製造方法であって、
(1)炭素繊維を丸編みして炭素繊維構造物を製造する工程、
(2)該炭素繊維構造物に炭化ケイ素系粉末を含むスラリーを含浸してプリプレグシートを製造する工程、又は該炭素繊維構造物と炭化ケイ素系粉末を含むグリーンシートを積層してプリプレグシートを製造する工程、
(3)該プリプレグシートを基材に被覆してプリフォームを製造する工程、及び
(4)該プリフォームを加熱処理する工程、を含む製造方法であり、このような方法で、セラミック繊維の骨材の隙間にセラミックスのマトリックスを形成することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-190545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、炭素繊維の隙間に炭化ケイ素系粉末を含有するスラリーを含浸し、加熱処理してセラミック化しているため、加熱処理によって緻密化と、スラリーの溶媒の揮散、分解ガスの発生が生じ、特に厚さ方向に向かって、剥離や、気泡の発生による膨れが起こりやすくなり内部に欠陥が生じてしまう。このような内部の欠陥によって強度の低下や、熱伝導率の低下の原因となる。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑み、膨れや、気泡の発生を抑制することにより、強度が高く、熱伝導率の高いセラミック繊維強化セラミック複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法は、以下の通りである。
【0010】
(1)セラミック繊維が1方向又は2方向に配向した骨材に、セラミック粒子と水とを含有するスラリーを含浸し、スラリー含浸体を得るスラリー含浸工程と、
前記スラリー含浸体を凍結乾燥し乾燥体を得る乾燥工程と、
前記乾燥工程の後に前記セラミック粒子間にマトリックス原料を導入しマトリックスを形成するマトリックス形成工程と、を含む、
セラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法。
【0011】
本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法によれば、スラリー含浸工程において、スラリーが水とセラミック粒子を含有しているため、スラリー中の水が揮散しても、濃縮され粘度が高くなる溶質がなく、水蒸気の拡散を妨げる溶質の硬化した被膜が形成されない。このため剥離や膨れを起こりにくくすることができる。なお、スラリーはセラミック粒子と水以外のものを含有しても良い。
【0012】
さらに、スラリーから凍結乾燥で溶媒である水を除去しているため、乾燥の過程でスラリーは流動化しておらず、スラリーが含浸されたときの形状で固定されたまま乾燥する。このため、乾燥の過程で体積収縮が起こっても、細かく分散して亀裂状に気孔が形成されるので、大きな気泡や剥離を生じることなく水分が除去される。また、このときの細かな気孔は、セラミック繊維との相互作用により、セラミック繊維の配向方向に直交するように配向して形成されやすい。この場合、スラリー含浸工程の後のマトリックス形成工程やCVI工程などにおいて、セラミック前駆体や原料ガスが複合材内部まで浸透されやすくすることができる。
【0013】
また本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法は以下の態様であることが好ましい。
【0014】
(2)前記セラミック繊維は、炭素繊維又はSiC繊維である。
【0015】
炭素繊維やSiC繊維は、高い耐熱性、強度を有しているので複合材料として好適に利用することができる。
【0016】
(3)前記セラミック粒子は、炭素系粒子又はSiC粒子である。
【0017】
炭素系粒子やSiC粒子は、高い耐熱性を有しているので複合材料として好適に利用することができる。炭素系粒子としては黒鉛、コークス、カーボンブラック、ガラス状炭素などが利用できる。SiC粒子としてはα-SiC、β-SiCなどが利用できる。
【0018】
(4)前記マトリックス原料は、炭素前駆体又はSiC前駆体である。
【0019】
炭素前駆体としてはフェノール樹脂、コプナ樹脂、ポリイミド樹脂などが利用できる。これらの炭素前駆体は、乾燥工程で形成された気孔に含浸され焼成することによって炭素化し、セラミック粒子とともにマトリックスを形成することができる。
【0020】
SiC前駆体は、焼成によってSiCを形成するものであればよい。SiC前駆体としては、ポリカルボシラン及びこの誘導体、シラン系化合物と有機物との混合物などが利用できる。これらのSiC前駆体は焼成することによりSiC化し、セラミック粒子とともにマトリックスを形成することができる。
【0021】
(5)前記マトリックス形成工程の後に、CVI法でセラミックスを沈積するCVI工程を、さらに含む。
【0022】
CVI(Chemical Vapor Infiltration)法でセラミックスを形成するとマトリックス間に気孔を充填し、緻密で気体不浸透性の高いセラミック繊維強化セラミック複合材料を得ることができる。
【0023】
(6)前記セラミック繊維はSiC繊維であり、前記セラミック粒子は炭素系粒子又はSiC粒子であり、前記マトリックス原料は溶融シリコンである。
【0024】
SiC系材料の製造方法に、炭素とシリコンとを反応させSiCを得る反応焼結法がある。この方法では、シリコンと炭素との混合物を加熱してシリコンを溶融させて所定の形状のSiCを得ることができる。しかしながら炭素とシリコンの反応に伴う寸法変化が大きいため、所定の形状の部材を得るために、あらかじめ炭素又はSiCを含む骨材を所定の形状に成形しておき、必要最小限のシリコンを溶融し含浸する方法(MI法:Melt Infiltration法)がある。MI法では、骨材として炭素と必要に応じてSiCとを使用する。SiCと炭素との比率は適宜設定することができる。本発明の製造方法をMI法に適用することにより、熱伝導率の高いセラミック繊維強化セラミック複合材料を得ることができる。
【0025】
(7)前記セラミック粒子の粒子径は0.1~10μmである。
【0026】
セラミック粒子の粒子径が0.1μm以上であると、高い濃度のスラリーを得ることができ、効率よくセラミック粒子を骨材間に充填することができる。また、セラミック粒子の粒子径が10μm以下であると、内部までセラミック粒子を充填しやすくすることができる。
【0027】
また、上記課題を解決するための本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料は、以下の通りである。
【0028】
(8)セラミック繊維が1方向又は2方向に配向した骨材と、
前記セラミック繊維の隙間を充填しセラミック粒子を含有するマトリックスと、を有し、
前記マトリックスは、セラミック粒子を含有する領域と、セラミック粒子を含有しない領域とで構成され、
前記セラミック粒子を含有しない領域は、亀裂状に形成されている、
セラミック繊維強化セラミック複合材料。
【0029】
本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料は、セラミック繊維が1方向又は2方向に配向しており、セラミック繊維の配向していない強度、熱伝導の劣る方向を有している。マトリックスにはセラミック粒子を含有する領域と、セラミック粒子を含有しない領域とを有している。セラミック粒子を含有しない領域は、製造段階の乾燥工程において気孔ができセラミック粒子が充填されなかった部分であり、マトリックス形成工程でセラミック前駆体や、溶融シリコンが特に多く充填される部分である。セラミック粒子を含有しない領域は、亀裂状に細かく分散して形成されるので、膨れ、剥離などが大きく成長しにくく、強度、熱伝導率の大きなセラミック繊維強化セラミック複合材料を提供することができる。
【0030】
セラミック粒子を含有する領域とセラミック粒子を含有しない領域とでは、物性が異なり、特にセラミック前駆体を導入してセラミック繊維強化セラミック複合材料を得た場合にはセラミック粒子を含有しない領域には気孔が残りやすく、強度、熱伝導率が他の部分よりも劣るが、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料は、セラミック粒子を含有しない領域となる細かな気孔が、亀裂状に細かく分散して形成されるので、膨れ、剥離などが大きく成長しにくく、強度、熱伝導率の大きなセラミック繊維強化セラミック複合材料を提供することができる。
【0031】
また、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料は、以下の態様であることが好ましい。
【0032】
(9)前記セラミック粒子を含有しない領域は、前記セラミック繊維が配向する方向と略直交するように配向して形成されている。
【0033】
本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料では、物性の異なる領域がセラミック繊維の配向方向と略直交するように配向して形成されているので、マトリックスの内部で当該方向での界面の熱抵抗、強度の低下を防止することができる。結果として、セラミック繊維強化セラミック複合材料の特に繊維の配向していない方向に対する強度、熱伝導率を高くすることができる。
【0034】
(10)前記セラミック繊維は、炭素繊維又はSiC繊維である。
【0035】
炭素繊維、SiC繊維は、高い耐熱性、強度を有しているので複合材料として好適に利用することができる。
【0036】
(11)前記セラミック粒子は、炭素系粒子又はSiC粒子である。
【0037】
炭素系粒子、SiC粒子は、高い耐熱性を有しているので複合材料として好適に利用することができる。炭素系粒子としては黒鉛、コークス、カーボンブラック、ガラス状炭素などが利用できる。SiC粒子としてはα-SiC、β-SiCなどが利用できる。
【0038】
(12)前記セラミック粒子の粒子径は0.1~10μmである。
【0039】
セラミック粒子の粒子径が0.1μm以上であると、セラミック粒子を含有する領域においてセラミック粒子が高密度で充填され、マトリックスが形成された後、セラミック粒子を含有しない領域が、周囲と明確に区別される。このため、セラミック繊維の配向と略直交する方向に配向性を形成しやすくすることができる。セラミック粒子の粒子径が10μm以下であると、セラミック繊維強化セラミック複合材料の内部まで十分にセラミック粒子を充填させることができる。
【発明の効果】
【0040】
スラリー含浸工程において、スラリーが水とセラミック粒子を含有しているため、スラリー中の水が揮散しても、濃縮され粘度が高くなる溶質がなく、水蒸気の拡散を妨げる溶質の硬化した被膜が形成されない。このため剥離や膨れを起こりにくくすることができる。さらに、スラリーから凍結乾燥で溶媒である水を除去しているため、乾燥の過程でスラリーは流動化しておらず、スラリーが含浸されたときの形状で固定されたまま乾燥する。このため乾燥の過程で体積収縮が起こっても細かく分散して気孔が亀裂状に形成されるので大きな気泡や、剥離を生じることなく水分が除去される。
【0041】
また、このときのセラミック粒子を含有しない領域となる細かな気孔は、亀裂状に細かく分散して形成されるので、膨れ、剥離などが大きく成長しにくく、強度、熱伝導率の大きなセラミック繊維強化セラミック複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本発明の実施例(A)と従来技術の比較例(B)とを対比した製造工程中の変化を示す表である。
図2図2は、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料(実施例1:図1のA(4))を拡大した模式図である。
図3図3は、従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料(比較例1:図1のB(4))を拡大した模式図である。
図4図4は、本発明の実施例2のセラミック繊維強化セラミック複合材料の乾燥工程後の断面写真である。
図5図5は、本発明の比較例2のセラミック繊維強化セラミック複合材料の乾燥工程後の断面写真である。
【0043】
(発明の詳細な説明)
上記の通り、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法は、セラミック繊維が1方向又は2方向に配向した骨材に、セラミック粒子と水とを含有するスラリーを含浸し、スラリー含浸体を得るスラリー含浸工程と、前記スラリー含浸体を凍結乾燥し乾燥体を得る乾燥工程と、前記乾燥工程の後に前記セラミック粒子間にマトリックス原料を導入しマトリックスを形成するマトリックス形成工程と、を含む。
【0044】
本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法によれば、スラリー含浸工程において、スラリーが水とセラミック粒子を含有しているため、スラリー中の水が揮散しても、濃縮され粘度が高くなる溶質がなく、水蒸気の拡散を妨げる溶質の硬化した被膜が形成されない。このため剥離や膨れを起こりにくくすることができる。なお、スラリーはセラミック粒子と水以外のものを含有しても良い。
【0045】
さらに、スラリーから凍結乾燥で溶媒である水を除去しているため、乾燥の過程でスラリーは流動化しておらず、スラリーが含浸されたときの形状で固定されたまま乾燥する。このため乾燥の過程で体積収縮が起こっても、細かく分散して亀裂状に気孔が形成されるので、大きな気泡や、剥離を生じることなく水分が除去される。また、このときの細かな気孔は、セラミック繊維との相互作用により、セラミック繊維の配向方向に略直交するように配向して形成される。このため、スラリー含浸工程の後のマトリックス形成工程、CVI工程などにおいて、セラミック前駆体、原料ガスが複合材料内部まで浸透されやすくすることができる。
【0046】
また本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料の製造方法は以下の態様であることが好ましい。
【0047】
前記セラミック繊維は、炭素繊維又はSiC繊維である。
【0048】
炭素繊維やSiC繊維は、高い耐熱性、強度を有しているので複合材料として好適に利用することができる。
【0049】
前記セラミック粒子は、炭素系粒子又はSiC粒子である。
【0050】
炭素系粒子やSiC粒子は、高い耐熱性を有しているので複合材として好適に利用することができる。炭素系粒子としては黒鉛、コークス、カーボンブラック、ガラス状炭素などが利用できる。SiC粒子としてはα-SiC、β-SiCなどが利用できる。
【0051】
前記マトリックス原料は、炭素前駆体又はSiC前駆体である。
【0052】
炭素前駆体としてはフェノール樹脂、コプナ樹脂、ポリイミド樹脂などが利用できる。これらの炭素前駆体は焼成することによって炭素化し、セラミック粒子とともにマトリックスを形成することができる。
【0053】
SiC前駆体としては、ポリカルボシラン及びこの誘導体、シラン系化合物と有機物との混合物などが利用できる。これらのSiC前駆体は焼成することによりSiC化し、セラミック粒子とともにマトリックスを形成することができる。
【0054】
前記マトリックス形成工程の後に、CVI法でセラミックスを沈積するCVI工程を、さらに含む。
【0055】
CVI法でセラミックスを形成するとマトリックス間に気孔を充填し、緻密で気体不浸透性の高いセラミック繊維強化セラミック複合材料を得ることができる。
【0056】
前記セラミック繊維はSiC繊維であり、前記セラミック粒子は炭素系粒子又はSiC粒子であり、前記マトリックス原料は溶融シリコンである。
【0057】
SiC系材料の製造方法に、炭素とシリコンとを反応させSiCを得る反応焼結法がある。この方法では、シリコンと炭素との混合物を加熱してシリコンを溶融させて所定の形状のSiCを得ることができる。しかしながら炭素とシリコンの反応に伴う寸法変化が大きいため、所定の形状の部材を得るために、あらかじめ炭素又はSiCを含む骨材を所定の形状に成形しておき、必要最小限のシリコンを溶融し含浸する方法(MI法)がとられる。MI法では骨材としてSiC及び/又は炭素とを使用する。SiCと炭素との比率は適宜設定することができる。本発明の製造方法をMI法に適用することにより、特にセラミック繊維の配向と直交する方向に剥離しにくく、熱伝導率の高いセラミック繊維強化セラミック複合材料を得ることができる。
【0058】
前記セラミック粒子の粒子径は0.1~10μmである。
【0059】
セラミック粒子の粒子径が0.1μm以上であると、高い濃度のスラリーを得ることができ、効率よくセラミック粒子を骨材間に充填することができる。また、セラミック粒子の粒子径が10μm以下であると、内部までセラミック粒子を充填しやすくすることができる。
【0060】
また上記の通り、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料は、セラミック繊維が1方向又は2方向に配向した骨材と、前記セラミック繊維の隙間を充填し、セラミック粒子を含有する領域と、セラミック粒子を含有しない領域とで構成されるマトリックスとからなり、前記セラミック粒子を含有しない領域は、亀裂状に形成されている。セラミック粒子を含有しない領域は、亀裂状に細かく分散して形成されるので、膨れ、剥離などが大きく成長しにくく、強度、熱伝導率の大きなセラミック繊維強化セラミック複合材料を提供することができる。
【0061】
セラミック粒子を含有する領域とセラミック粒子を含有しない領域とでは、物性が異なり、特にセラミック前駆体を導入してセラミック繊維強化セラミック複合材料を得た場合には、セラミック粒子を含有しない領域には気孔が残りやすく、強度、熱伝導率が他の部分よりも劣るが、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料は、セラミック粒子を含有しない領域となる細かな気孔は、細かく分散して亀裂状に形成されるので、剥離、膨れが発生しにくく、高い強度、熱伝導率を得ることができる。
【0062】
また、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料は、以下の態様であることが好ましい。
【0063】
前記セラミック粒子を含有しない領域は、前記セラミック繊維が配向する方向と略直交するように配向している。
【0064】
本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料では、物性の異なる領域がセラミック繊維の配向方向と略直交するように配向して形成されているので、マトリックスの内部で当該方向での界面の熱抵抗、強度の低下を防止することができる。結果として、セラミック繊維強化セラミック複合材料における、特に繊維の配向していない方向に対する強度、熱伝導率を高くすることができる。
本発明において、略直交とは、厳密な直交(90°)に加えて、例えば75~105°の範囲である。
【0065】
前記セラミック繊維は、炭素繊維又はSiC繊維である。
【0066】
炭素繊維やSiC繊維は、高い耐熱性、強度を有しているので複合材料として好適に利用することができる。
【0067】
前記セラミック粒子は、炭素系粒子又はSiC粒子である。
【0068】
炭素系粒子やSiC粒子は、高い耐熱性を有しているので複合材料として好適に利用することができる。炭素系粒子としては黒鉛、コークス、カーボンブラック、ガラス状炭素などが利用できる。SiC粒子としてはα-SiC、β-SiCなどが利用できる。
【0069】
前記セラミック粒子の粒子径は0.1~10μmである。
【0070】
セラミック粒子の粒子径が0.1μm以上であると、セラミック粒子を含有する領域においてセラミック粒子が高密度に充填され、マトリックスが形成された後、セラミック粒子を含有しない領域が周囲と明確に区別される。このため、セラミック繊維の配向と略直交する方向に配向性を形成しやすくすることができる。セラミック粒子の粒子径が10μm以下であると、セラミック繊維強化セラミック複合材料の内部まで十分にセラミック粒子を充填させることができる。
【0071】
(発明を実施するための形態)
本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料の特徴が明確になるよう、従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料と対比しながら記載する。
【0072】
[実施例1、比較例1]
図1は、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料7A(実施例1)と、従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料7B(比較例1)を対比して示した表である。左側に本発明(A)のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Aを示し、右側に従来技術(B)のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Bを示している。
【0073】
また、項目の(1)は、セラミック繊維1からなる骨材2、(2)は、水とセラミック粒子3とからなるスラリーを含浸したスラリー含浸体4、(3)は、水分を除去した乾燥体5A,5B、(4)は、マトリックスを形成したセラミック繊維強化セラミック複合材料7A,7Bを示している。なお、図1中の各図は、各部材の断面写真をイラスト化したものである。
【0074】
本実施の形態では、セラミック繊維としてSiC繊維、セラミック粒子として黒鉛、セラミック前駆体として炭素前駆体であるフェノール樹脂を用い、セラミック繊維はSiC、セラミックマトリックスは炭素からなる。
【0075】
まず、本発明の変化を説明する。
【0076】
<骨材>
A(1)は、骨材2を示している。
【0077】
骨材2として、セラミック繊維1を束ねたストランドを使用し、平織りに織った織布を積層して使用する。図1の横方向(左右方向)及び紙面の垂直方向にセラミック繊維1がそれぞれ配向している。一方、2方向と直交する図1の上下方向にはセラミック繊維1が配向していない。なお、骨材2である織布は8層に積層されている。
【0078】
<スラリー含浸工程>
A(2)は、上記骨材2の間にマトリックス形成の際の充填材となるセラミック粒子3を水とともに含浸したスラリー含浸体4を示している。
【0079】
あらかじめ真空引きしたのちディップして全方向含浸するか、骨材2の内部の空気が排出されるよう出口を確保し一方向から含浸することにより、内部までセラミック粒子3を含浸することができる。なお、スラリーの濃度は特に限定されないが、流動性が確保さえすれば濃度が高い方が好ましい。
【0080】
<乾燥工程>
A(3)は、乾燥体5Aを示している。
【0081】
得られたスラリー含浸体4を一旦凍結させ、形状を固定したまま凍結乾燥する。この際、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Aでは、スラリーには流動性がないので、大きな気孔が成長することはない。また、乾燥段階で液状でないので、表面張力の作用により気孔が一体化することもない。
スラリー含浸体4から乾燥体5Aに至るにあたって、大きな気孔が成長せず、細かな亀裂状の気孔6が数多く形成される。また、セラミック繊維1の配向方向には収縮が起きにくいので、セラミック繊維1の配向方向と略直交する方向(図1中の上下方向)に細かな亀裂状の気孔が形成される。
なお、凍結乾燥の条件としては、上記スラリー含浸体4中の水分を凍結乾燥により除去でいるものであれば特に制限されないが、例えば、温度:-70~0℃、圧力:0~100Pa、時間:2~72hrとすることができる。
【0082】
<マトリックス形成工程>
A(4)は、マトリックスを形成したセラミック繊維強化セラミック複合材料7Aを示している。
【0083】
乾燥工程で得られた乾燥体5Aに炭素前駆体からなるマトリックス原料8を含浸する。炭素前駆体は、液状のフェノール樹脂を用いる。マトリックス原料8は、骨材2の間に含浸される。骨材2の間には、セラミック粒子3が存在する領域と存在しない領域(気孔6)とがあり、いずれにもマトリックス原料8が含浸される。この際、セラミック粒子3が存在しない領域は、セラミック繊維と略直交するよう厚み方向に配向しているので、マトリックス原料8の浸透を促進させる。含浸されたマトリックス原料8は、焼成されセラミック化する。このため、マトリックスには、セラミック粒子3が存在する領域と存在しない領域がセラミック繊維と略直交するように形成される。
【0084】
以上の製造工程によって本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Aを得ることができる。
【0085】
次に比較のため、従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Bについて説明する。なお、骨材(1)、スラリー含浸工程(2)までは、実施例1と同様に実施する。したがって、図1のB(3)、(4)について説明する。
【0086】
<乾燥工程>
B(3)は、従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Bを得るための乾燥工程により得られる乾燥体5Bを示している。
【0087】
従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Bの乾燥工程では、凍結乾燥を用いることなく(例えば自然乾燥又は熱風乾燥により)、水分を除去する。スラリーは流動性を有しているので、乾燥とともに体積が小さくなり、また乾燥に伴って発生する水蒸気によって内部に気泡が形成されてしまう。また、スラリーは乾燥過程で液体であるので、表面張力の作用により気孔を一体化させるよう作用する。
【0088】
従来技術と比較して、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Aの乾燥工程では、凍結して形状が保持されているので、乾燥に伴う体積収縮は小さいこと、水蒸気の発生に伴う気孔6ができにくいこと、また、スラリーの表面張力の作用による気孔の一体化が起こりにくいことが、従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Bとの相違点である。この違いによって、乾燥体5A,5Bの内部にできるセラミック粒子3の存在しない領域(気孔6)は、本発明では、図2中の気孔6で示すように、セラミック繊維1の配向と略直交する方向(図2中の上下方向)に亀裂状になってできるが、従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Bでは、図3中の気孔6で示すように、セラミック繊維1の配向と同じ方向(図3中の左右方向)に大きく成長してできる。
【0089】
<マトリックス形成工程>
B(4)は、従来技術のマトリックスを形成したセラミック繊維強化セラミック複合材料7Bを示している。
【0090】
本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Aと同様に、乾燥工程で得られた乾燥体5Bに炭素前駆体からなるマトリックス原料8を含浸する。炭素前駆体は、液状のフェノール樹脂を用いる。マトリックス原料8は、骨材2の間に含浸される。骨材2の間には、セラミック粒子3が存在する領域と存在しない領域(気孔6)とがあり、いずれにもマトリックス原料8が含浸される。含浸されたマトリックス原料8は、焼成されセラミック化する。このため、マトリックスには、セラミック粒子3が存在する領域と存在しない領域が形成される。
【0091】
以上のプロセスによって従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Bを得ることができる。
【0092】
従来技術のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Bにおいて、マトリックスの中のセラミック粒子3が存在しない領域は、厚み方向に収縮しやすく、セラミック繊維1の配向方向に沿って形成されやすい。
【0093】
これに対し、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Aでは、セラミック粒子3の存在しない領域は、セラミック繊維1に対し略直交する方向に配向する。このため、本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料7Aでは、セラミック繊維1に直交する方向に沿って2つの領域の界面が配向するので、セラミック繊維に直交する方向の強度、熱伝導率を強くすることができる。
【0094】
[実施例2]
図4は、セラミック粒子として実施例1の黒鉛粒子に代えてSiC粒子を含浸した実施例2の乾燥体の断面写真である。乾燥は、実施例1と同様、得られたスラリー含浸体を一旦凍結させ、形状を固定したまま凍結乾燥するものであり、具体的な凍結乾燥の条件は、温度:-50℃、圧力:8.9Pa、時間:24hrとした。図4より、乾燥工程では、セラミック繊維の配向方向と略直交する方向にセラミック粒子の存在しない領域(気孔)が亀裂状に形成されているのが確認できる。なお、断面写真は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて撮影した。
【0095】
[比較例2]
図5は、セラミック粒子として比較例1の黒鉛粒子に代えてSiC粒子を含浸した比較例2の乾燥体の断面写真である。乾燥は、比較例1と同様、得られたスラリー含浸体を、凍結乾燥を用いることなく水分を除去するものである。具体的な乾燥の条件は、温度:80℃、圧力:常圧、時間:24hrとした。図5より、乾燥工程では、セラミック繊維の配向方向と同じ方向にセラミック粒子の存在しない領域(気孔)が形成されているのが確認できる。なお、断面写真は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて撮影した。
【0096】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のセラミック繊維強化セラミック複合材料及びその製造方法は、強度が高く、熱伝導率の高いセラミック繊維強化セラミック複合材料を要望する分野に適合可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 セラミック繊維
2 骨材
3 セラミック粒子
4 スラリー含浸体
5A,5B 乾燥体
6 気孔
7A,7B セラミック繊維強化セラミック複合材料
8 マトリックス原料
図1
図2
図3
図4
図5