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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】空燃比制御システム及び空燃比制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240312BHJP
   F02D 41/32 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
F02D45/00 368F
F02D41/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019189346
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021063482
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-03-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 裕希
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-086213(JP,A)
【文献】特開平09-126015(JP,A)
【文献】特開2001-020804(JP,A)
【文献】特開2002-309928(JP,A)
【文献】特開2003-254130(JP,A)
【文献】特開2006-250945(JP,A)
【文献】特開2007-198158(JP,A)
【文献】特開2012-036814(JP,A)
【文献】特開2013-185483(JP,A)
【文献】特開2016-089819(JP,A)
【文献】特開2018-179856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に供給される燃料混合気の空燃比λを、目標空燃比となるように、前記燃料混合気の混合比を調節して制御する空燃比制御部と、
前記内燃機関の排気側に設けられ、前記内燃機関からの排気を浄化する排気ガス浄化装置と、
前記内燃機関の排気側に設けられ、理論空燃比を境にリッチ側とリーン側とで出力が急峻に変化する空燃比センサと、
前記空燃比センサを加熱するヒータと、
前記ヒータの温度を調節して、前記空燃比センサの温度を制御する温度制御部とを備 える空燃比制御システムであって、
前記空燃比制御部は、前記空燃比センサの出力差ΔVが50mV以上90mV以下となる、0.990≦λ≦0.998の範囲を、前記目標空燃比とし、かつ、前記空燃比センサの出力に基づいて、前記燃料混合気の前記混合比を制御し、
前記温度制御部は、前記空燃比センサの温度が650℃以上の温度範囲内における所定の目標温度となるように前記空燃比センサの温度を制御する空燃比制御システム。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記空燃比センサの温度が850℃以下となるように制御する請求項1に記載の空燃比制御システム。
【請求項3】
前記空燃比センサは、前記排気ガス浄化装置中、若しくは前記排気ガス浄化装置の下流側に設けられる請求項1又は請求項2に記載の空燃比制御システム。
【請求項4】
内燃機関に供給される燃料混合気の空燃比λを、目標空燃比となるように、前記燃料混合気の混合比を調節して制御する空燃比制御方法であって、
前記内燃機関の排気側に、前記内燃機関からの排気を浄化する排気ガス浄化装置が設けられ、
前記内燃機関の排気側に設けられ、理論空燃比を境にリッチ側とリーン側とで出力が急峻に変化する空燃比センサが設けられ、
前記空燃比センサの出力差ΔVが50mV以上90mV以下となる、0.990≦λ≦0.998の範囲を、前記目標空燃比とし、前記空燃比センサの出力に基づいて、前記燃料混合気の前記混合比を制御する空燃比制御工程と、
前記空燃比センサの温度が650℃以上の温度範囲内における所定の目標温度となるように、前記空燃比センサを加熱するヒータの温度を調節する温度制御工程とを備える空燃比制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空燃比制御システム及び空燃比制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の空燃比制御を行うために、排気経路(排気管)に設けられた空燃比センサの出力を用いてフィードバック制御を行う空燃比制御システムが知られている。この種のシステムでは、空燃比センサにより排気ガス中の特定ガス(例えば、酸素)の濃度が検出され、その検出結果を用いて空燃比のフィードバック制御が行われる。
【0003】
空燃比センサとしては、例えば、特許文献1に示されるように、排気ガス中の酸素濃度(燃料混合気の空燃比)について、リーン側からリッチ側までの広範囲に亘ってリニアなセンサ出力を示す全領域空燃比センサ(A/Fセンサ)が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-126015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、三元触媒による排気ガス(HC、CO、NOx)の浄化効率を高める等の目的で、目標空燃比を、理論空燃比(λ=1)よりも僅かにリッチ側にある微小範囲(例えば、検出域の幅(Δλ)が0.008)に設定したい場合がある。そのような微小範囲の空燃比λを、A/Fセンサで検出しようとしても、そのような範囲におけるA/Fセンサのセンサ出力は殆ど変わらない。つまり、A/Fセンサは、空燃比λの検出対象域が、特定の微小範囲に設定されると、出力分解能が不十分となり、空燃比λをリニアに検出することができない。
【0006】
なお、特許文献1では、空燃比センサとして、空燃比が理論空燃比(λ=1)に対してリッチかリーンかに応じた電圧を出力するバイナリセンサも使用されている。バイナリセンサは、理論空燃比(λ=1)を境にして、出力電圧が大きく変化するものの、理論空燃比(λ=1)近傍の微小範囲(λ=0.996~1.004)では、空燃比λをリニアに検出できることが示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1では、バイナリセンサを使用して空燃比λをリニアに検出できる範囲は、理論空燃比(λ=1)を跨ぐように、リッチ側とリーン側との間に設定された微小範囲(λ=0.996~1.004)に限られていた。そのため、例えば、空燃比λの検出対象域を、上述したような、理論空燃比(λ=1)よりも僅かにリッチ側にある微小範囲に設定した場合では、バイナリセンサの出力分解能は十分でなく、改善の余地があった。なお、バイナリセンサは、A/Fセンサ等の全領域空燃比センサと比べて、安価であり、空燃比センサとしての利用が望まれている。
【0008】
本発明の目的は、理論空燃比を境にリッチ側とリーン側とで出力が急峻に変化する空燃比センサを使用して、リッチ側に設定された微小範囲における所定の目標空燃比となるように空燃比を制御する空燃比制御システム及び空燃比制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 内燃機関に供給される燃料混合気の空燃比λを、目標空燃比となるように、前記燃料混合気の混合比を調節して制御する空燃比制御部と、前記内燃機関の排気側に設けられ、前記内燃機関からの排気を浄化する排気ガス浄化装置と、前記内燃機関の排気側に設けられ、理論空燃比を境にリッチ側とリーン側とで出力が急峻に変化する空燃比センサと、前記空燃比センサを加熱するヒータと、前記ヒータの温度を調節して、前記空燃比センサの温度を制御する温度制御部とを備える空燃比制御システムであって、前記空燃比制御部は、0.980≦λ<1.000、かつ前記空燃比λの変化量Δλが0.008の範囲であって、前記空燃比センサの出力差ΔVが150mV以下となる前記範囲内の所定の空燃比を、前記目標空燃比とし、かつ、前記空燃比センサの出力に基づいて、前記燃料混合気の前記混合比を制御し、前記温度制御部は、前記空燃比センサの温度が650℃以上の温度範囲内における所定の目標温度となるように前記空燃比センサの温度を制御する空燃比制御システム。
【0010】
<2> 前記範囲における前記出力差ΔVが50mV以上である前記<1>に記載の空燃比制御システム。
【0011】
<3> 前記温度制御部は、前記空燃比センサの温度が850℃以下となるように制御する前記<1>又は<2>に記載の空燃比制御システム。
【0012】
<4> 前記空燃比センサは、前記排気ガス浄化装置中、若しくは前記排気ガス浄化装置の下流側に設けられる前記<1>から<3>の何れか1つに記載の空燃比制御システム。
【0013】
<5> 内燃機関に供給される燃料混合気の空燃比λを、目標空燃比となるように、前記燃料混合気の混合比を調節して制御する空燃比制御方法であって、前記内燃機関の排気側に、前記内燃機関からの排気を浄化する排気ガス浄化装置(三元触媒等)が設けられ、前記内燃機関の排気側に設けられ、理論空燃比を境にリッチ側とリーン側とで出力が急峻に変化する空燃比センサが設けられ、0.980≦λ<1.000、かつ前記空燃比λの変化量Δλが0.008の範囲であって、前記空燃比センサの出力差ΔVが150mV以下となる前記範囲内の所定の空燃比を、前記目標空燃比とし、前記空燃比センサの出力に基づいて、前記燃料混合気の前記混合比を制御する空燃比制御工程と、前記空燃比センサの温度が650℃以上の温度範囲内における所定の目標温度となるように、前記空燃比センサを加熱するヒータの温度を調節する温度制御工程とを備える空燃比制御方法。
【0014】
<6> 前記範囲における前記出力差ΔVが50mV以上である前記<5>に記載の空燃比制御方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、理論空燃比を境にリッチ側とリーン側とで出力が急峻に変化する空燃比センサを使用して、リッチ側に設定された微小範囲における所定の目標空燃比となるように空燃比を制御する空燃比制御システム及び空燃比制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態1に係る空燃比制御システムが設けられた内燃機関とその周辺機器の構成を模式的に表した説明図
図2】空燃比センサの出力特性を模式的に表したグラフ
図3図2中に示される領域内を拡大したグラフ
図4】目標温度に設定された空燃比センサの出力特性を模式的に表したグラフ
図5】様々な素子温の空燃比センサについて、空燃比とセンサ出力との関係を示したグラフ
図6】空燃比センサの素子温(℃)と、空燃比が0.990から0.998までのセンサ出力における近似直線の傾きとの関係を示すグラフ
図7】LAFセンサの出力特性を模式的に表したグラフ
図8図7中に示される領域内を拡大したグラフ
図9】実施形態2に係る空燃比制御システムが設けられた内燃機関とその周辺機器の構成を模式的に表した説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を、図1図6を参照しつつ説明する。図1は、実施形態1に係る空燃比制御システム1が設けられた内燃機関2とその周辺機器の構成を模式的に表した説明図である。空燃比制御システム1は、車両に搭載されている内燃機関2に対して供給される燃料混合気の空燃比λを、目標空燃比λaとなるように制御するシステムである。空燃比制御システム1は、主として、空燃比制御部3、三元触媒(排気ガス浄化装置の一例)4、空燃比センサ5、ヒータ6、温度制御部7を備えている。なお、空燃比制御部3及び温度制御部7は、内燃機関2の運転を制御するECU(Electronic Control Unit)8内のCPU(Central Processing Unit)によって構成される。ECU8は、CPU、ROM、RAM等を備えており、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行し、空燃比センサ5等の各種センサから検出信号が入力される。
【0018】
内燃機関2は、直列4気筒4サイクルの火花点火式として構成されている。内燃機関2の上流側には、外部から吸入された空気(吸入空気)が流通する吸気管9が接続され、また、内燃機関2の下流側には、燃料の燃焼により生じた排気ガスが流通する排気管10が接続されている。吸気管9には、複数のインジェクタ(燃料噴射弁)11が設置されている。インジェクタ11は、燃料タンク(不図示)に接続され、内燃機関2の上流側において複数の気筒のそれぞれに設けられており、ECU8からの制御信号に応じて燃料を噴射する。なお、インジェクタ11よりも上流側の吸気管9には、内燃機関2への空気の吸気量を調整するスロットル弁12が設けられている。スロットル弁12の開度は、ECU8からの制御信号により制御される。
【0019】
外部からの吸入空気は、図示されないエアクリーナ、スロットル弁12等を通過しながら吸気管9内を移動し、インジェクタ11から噴射された燃料(ガソリン)と混合され、所定空燃比の燃料混合気として内燃機関2の各気筒に供給される。なお、各気筒には、それぞれ点火プラグが設けられており、各点火プラグは、ECU8からの制御信号に応じて各気筒の燃料混合気を所定のタイミングで点火する。そして、燃焼後に生じた排気ガスは、排気管10を通って外部に排出される。
【0020】
空燃比制御部3は、内燃機関2に供給される燃料混合気の空燃比λを、目標空燃比λaとなるように、燃料混合気の混合比を調節して制御する。内燃機関2に供給される燃料混合気の混合比の調節は、空燃比制御部3によってインジェクタ11からの燃料の噴射量や、スロットル弁12の開度等が調節されることで行われる。目標空燃比λaは、ECU8のROMに予め記憶されている。目標空燃比λaの詳細は、後述する。
【0021】
なお、空燃比は、通常、空気とガソリンとの混合比(質量比)を指すが、本明細書では、説明の便宜上、空気過剰率λ(=実際の空燃比/理論空燃比)を空燃比と称し、空燃比λ=1が理論空燃比を示すものとする。
【0022】
三元触媒4は、内燃機関2の排気側(下流側)に接続された排気管10の途中に設置され、内燃機関2から排出され、排気管10内を移動する排気ガス(例えば、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等)を浄化する。
【0023】
空燃比センサ5は、例えば、ジルコニア素子を用いたセンサ素子を備えており、大気側と排気側との酸素濃度差に応じて、理論空燃比(λ=1)を境にリッチ側とリーン側とで出力(起電力)が急峻に変化するセンサ(バイナリセンサ)からなる。
【0024】
空燃比センサ5は、図1に示されるように、内燃機関2の排気側に接続された排気管10に設けられている。具体的には、空燃比センサ5は、排気管10のうち、三元触媒4の下流側に設けられている。
【0025】
空燃比センサ5は、第1センサ制御装置51により制御される。第1センサ制御装置51は、ASIC(Application Specific integrated circuit, 特定用途向け集積回路)や、マイクロコンピュータ(以下、マイコン)等により構成される。また、第1センサ制御装置51は、ECU8との間で、通信線を介してデータを送受信できるように構成されている。
【0026】
空燃比センサ5は、センサ素子等(空燃比センサ5)を加熱するヒータ6を備えている。ヒータ6は、アルミナを主体とする材料によって構成されており、その内部には、白金を主体とする材料によって構成された発熱抵抗体を備えている。発熱抵抗体の両端は、第1センサ制御装置51を介してECU8(温度制御部7)に電気的に接続されている。ヒータ6は、温度制御部7からの指令に基づいて第1センサ制御装置51から供給される電力により発熱し、空燃比センサ5(センサ素子)の温度が、後述する所定の目標温度Tとなるように制御される。空燃比センサ5(センサ素子)は、ヒータ6による加熱によりセンサ素子が活性化することで、後述する特定の微小範囲内の空燃比λをリニアに検出できる状態となる。
【0027】
温度制御部7は、空燃比センサ5の温度が、650℃以上の温度範囲内における所定の目標温度Tとなるように、空燃比センサの温度を制御する。目標温度Tは、ECU8のROMに予め記憶されている。目標温度Tは、650℃以上の範囲(温度範囲)に設定される。空燃比センサ5の温度が、このような目標温度Tとなるように制御されると、空燃比センサ5の出力電圧の分解能が向上する。なお、空燃比センサ5の温度が850℃を超えると、出力電圧の分解能は向上するものの、空燃比センサ5の耐久性に問題が生じる場合がある。そのため、目標温度Tの上限値は、850℃以下であることが好ましい。
【0028】
ここで、図2図4を参照しつつ、空燃比センサ5の出力特性について説明する。図2は、空燃比センサ5の出力特性を模式的に表したグラフである。空燃比センサ5の出力は、図2に示されるように、理論空燃比(λ=1)を境にリッチ側とリーン側とで出力(電圧)が急峻に変化する。なお、図2には、600℃(目標温度Tよりも低い温度)に設定された空燃比センサ5の出力特性が示されている。図3は、図2中に示される領域S1内を拡大したグラフ(λ=0.990~0.998)である。図3には、空燃比λが0.990から0.998までの空燃比センサ5の出力が示されている。図3には、空燃比λが0.990の場合の空燃比センサ5の出力と、空燃比λが0.998場合の空燃比センサ5の出力との差(ΔV1)が示されている。
【0029】
図4は、目標温度Tに設定された空燃比センサ5の出力特性を模式的に表したグラフ(λ=0.990~0.998)である。図4には、図3に対応した空燃比λの範囲における空燃比センサ5の出力特性が示されている。図4に示されるように、空燃比センサ5の温度が、上述した目標温度Tとなると、空燃比λが0.990の場合の空燃比センサ5の出力と、空燃比λが0.998場合の空燃比センサ5の出力との差(ΔV2)が、600℃の場合の差(ΔV1)よりも大きくなる。つまり、空燃比センサ5は、温度が目標温度Tに設定されると、所定の空燃比λの範囲(後述する微リッチ範囲)において、出力電圧の分解能が向上し、リニアに空燃比λを検出することができる。
【0030】
目標空燃比λaは、三元触媒4による排気ガス(HC、CO、NOx)の浄化効率を高める等の目的で、理論空燃比(λ=1)よりも僅かにリッチ側の微小範囲(以下、微リッチ範囲)に設定される。具体的には、0.980≦λ<1.000、かつ空燃比λの変化量(空燃比λの検出域の幅)Δλが0.008の範囲であって、空燃比センサ5の出力差ΔVが150mV以下となる前記範囲内の所定の空燃比が、目標空燃比λaとされる。目標空燃比λaに関する情報は、予めECU8のROMに記憶されている。
【0031】
なお、前記範囲における前記出力差ΔVは、50mV以上であることが好ましい。前記範囲における前記出力差ΔVが50mV以上であると、微リッチ範囲における空燃比センサ5の出力分解能が確保され易い。
【0032】
本実施形態の場合、排気管10のうち、三元触媒4の上流側には、上流側ガスセンサ20が設けられている。上流側ガスセンサ20は、A/Fセンサ(限界電流式酸素センサ)であり、内燃機関2から排出された排気ガス中の酸素濃度をリッチ側からリーン側に亘って広域にかつリニアな空燃比信号を出力する。上流側ガスセンサ20としては、LAFセンサが利用されてもよい。上流側ガスセンサ20は、センサ素子や、そのセンサ素子を活性化温度に保持するためのヒータ等を備えている。上流側ガスセンサ20は、所定の印加電圧下で空燃比λに対応してリニアに変化する限界電流を出力する。上流側ガスセンサ20のλ検出域は約0.8~1.2となっている。なお、上流側ガスセンサ20は、第2センサ制御装置21により制御される。第2センサ制御装置21は、ASIC、マイコン等により構成される。また、第2センサ制御装置21は、ECU8との間で、通信線を介してデータを送受信できるように構成されている。
【0033】
ここで、ECU8で実行される空燃比制御処理(空燃比制御工程)、及び温度制御処理(温度制御工程)について説明する。空燃比制御処理及び温度制御処理は、内燃機関2(詳細には、空燃比制御システム1)が起動されると共に処理が開始され、内燃機関2(空燃比制御システム1)が停止するまで処理が継続される。なお、空燃比制御処理は、温度制御処理によって空燃比センサ5の温度が、所定の目標温度Tとなった後、実行される。
【0034】
温度制御処理は、空燃比センサ5の温度が、650℃以上の温度範囲内における所定の目標温度Tとなるように、空燃比センサ5を加熱するヒータ6の温度を調節する処理である。この処理は、温度制御部7によって実行される。温度制御部7は、空燃比センサ5の温度を予め設定された目標温度Tに維持するために必要なヒータ6の発熱量を算出する。そして、温度制御部7は、算出したヒータ6の発熱量に基づいて、ヒータ6に供給する電力のデューティ比を算出し、その算出したデューティ比に応じたPWM(Plus Width Modulation)制御信号に基づいてヒータ6を発熱させる。
【0035】
空燃比制御処理は、0.980≦λ<1.000、かつ前記空燃比λの変化量Δλが0.008の範囲であって、空燃比センサ5の出力差ΔVが150mV以下となる前記範囲内の所定の空燃比を、目標空燃比λaとし、空燃比センサ5の出力に基づいて、内燃機関2に供給される燃料混合気の空燃比λを、目標空燃比λaとなるように、燃料混合気の混合比を制御する処理である。この処理は、空燃比制御部3によって実行される。
【0036】
空燃比制御処理では、具体的には、空燃比センサ5のセンサ出力に基づいて排気ガス中の酸素濃度が検出され、その酸素濃度と制御基準値(目標空燃比での酸素濃度に相当する値)とが比較され、その比較結果に基づいてフィードバック係数が演算される。そして、そのフィードバック係数に応じたインジェクタ11の燃料噴射量やスロットル弁12の開度が演算される。つまり、空燃比制御処理では、空燃比センサ5のセンサ出力に基づいてインジェクタ11の燃料噴射量とスロットル弁12の開度とをそれぞれ調節されて、燃料混合気の混合比が制御されることにより、空燃比センサ5のセンサ出力に基づいた空燃比λのフィードバック制御が行われる。
【0037】
三元触媒4の下流側に設置される空燃比センサ5には、排気ガス中の空燃比λを、ストイキ(理論空燃比)近傍へ精密制御することが求められる。バイナリセンサからなる空燃比センサ5は、ストイキ(理論空燃比λ=1)近傍で急峻に出力が変化すると共に、上述した微リッチ範囲における出力分解能が大きいため、三元触媒4の下流側に設置することが好ましいと言える。また、三元触媒4の下流側に、LAFセンサ等ではなく、バイナリセンサからなる空燃比センサ5を設置することで、空燃比制御システム1のコストが抑えられる。
【0038】
なお、本実施形態では、ECU8により、上流側ガスセンサ20のセンサ出力に基づいて、空燃比λのフィードバック制御も行われる。上流側ガスセンサ20には、三元触媒4の下流側(後側)の排気ガス中の空燃比λを、ストイキ(理論空燃比)近傍に精密制御するために、三元触媒4の上流側(前側)の排気ガス中の空燃比λを、素早く理論空燃比にするべく、理論空燃比からどの程度、ずれているかを把握することが求められる。上流側ガスセンサ20のセンサ出力に基づいて、ECU8(上流側空燃比制御部)により、インジェクタ11からの燃料噴射量等が調節される。
【0039】
具体的には、上流側ガスセンサ20のセンサ出力に基づいて排気ガス中の酸素濃度が検出され、その酸素濃度と制御基準値(目標空燃比での酸素濃度に相当する値)とが比較され、その比較結果に基づいてフィードバック係数が演算される。そして、そのフィードバック係数に応じたインジェクタ11の燃料噴射量やとスロットル弁12の開度が演算され、それらに基づいて燃料混合気の混合比が制御される。
【0040】
以上のように、本実施形態の空燃比制御システム1は、理論空燃比を境にリッチ側とリーン側とで出力が急峻に変化する空燃比センサ5を使用して、リッチ側に設定された微小範囲における所定の目標空燃比λaとなるように空燃比λを制御することができる。
【0041】
ここで、空燃比センサ5の温度(素子温:センサ素子の温度)と、センサ出力(起電力)との関係(実測値)について説明する。図5は、様々な素子温の空燃比センサ5について、空燃比λとセンサ出力(mV)との関係を示したグラフである。図5には、素子温が620℃、660℃、700℃、750℃、800℃、850℃の場合が示されている。図6は、空燃比センサ5の素子温(℃)と、空燃比λが0.990から0.998までのセンサ出力における近似直線の傾きとの関係を示すグラフである。
【0042】
図5に示されるように、例えば、空燃比λが0.990から0.998の間において、空燃比センサ5の温度(素子温)が高くなると、センサ出力(mV)は低くなるものの、図6に示されるように、素子温と、その空燃比λの範囲(0.990~0.998)におけるセンサ出力の近似直線の傾きとの回帰式は、空燃比センサ5の温度(素子温)が高くなる程、大きくなる。空燃比センサ5の温度(素子温)が上昇すると、水(HO)の解離が促進され、上述した微リッチ範囲における近似直線の傾きが大きくなる。これは、空燃比センサ5の素子温が上昇することで、HO⇔H+1/2・Oの平衡反応が、左辺から右辺への反応に偏り、酸素(O)が増えるために起きた現象である。同じ空燃比λであっても、空燃比センサ5の素子温が高温であると、素子近傍の酸素分圧が上昇し、センサ出力が小さくなる。つまり、空燃比センサ5の素子温を高温(具体的には、650℃以上)にすることで、低温時(650℃未満)における理論空燃比(λ=1)近傍の急峻線が、なだらかに傾いた形となり、上記のように微リッチ範囲における近似直線の傾きが大きくなる。
【0043】
なお、目標空燃比λaが設定される上述した範囲(0.980≦λ<1.000、かつ空燃比λの変化量Δλが0.008の範囲であって、空燃比センサ5の出力差ΔVが150mV以下となる範囲)は、微リッチ範囲を特定したものであり、図5に示されるグラフに基づいて定められたものである。目標空燃比λaが設定される上記範囲は、グラフの傾きが急峻な範囲を除きつつ、グラフの傾きがなだらかな範囲を特定したものである。
【0044】
次いで、図7及び図8を参照しつつ、参考例として、一般的なLAFセンサの出力特性について説明する。図7は、LAFセンサの出力特性を模式的に表したグラフであり、図8は、図7中に示される領域S2内を拡大したグラフである。図8には、図3と同様、空燃比λ=0.990~0.998の範囲に対応したセンサ出力(出力特性)が示されている。LAFセンサは、周知のように、排気ガス中の酸素濃度(空燃比λ)を、リッチ側からリーン側に亘って広域にかつリニアに検出することができる。しかしながら、空燃比λの検出範囲を、上述の微リッチ範囲に限った場合には、LAFセンサの出力分解能は不足した状態となる。つまり、空燃比λ=0.990の場合のセンサ出力と、空燃比λ=0.998の場合のセンサ出力は殆ど変わらず、それらの差(ΔI)は非常に小さい。このように、空燃比λの検出域を、特定の微リッチ範囲に限った場合には、LAFセンサ等よりも、上述したバイナリセンサ(空燃比センサ5)の方が、リニアに検出できる。
【0045】
<実施形態2>
次いで、図9を参照しつつ、本発明の実施形態2に係る空燃比制御システム1Aについて説明する。本実施形態の空燃比制御システム1Aでは、温度制御部7Aが、空燃比センサ5を制御する第1センサ制御装置51Aのマイコンにより構成される。なお、空燃比制御部3は、実施形態1と同様、ECU8AのCPUにより構成される。空燃比制御システム1Aのその他の構成は、実施形態1と同様である。そのため、その他の構成については、実施形態1と同様の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0046】
本実施形態において、温度制御処理(温度制御工程)は、温度制御部7Aによって実行される。温度制御処理は、実施形態1と同様、空燃比センサ5の温度が、650℃以上の温度範囲内における所定の目標温度Tとなるように、空燃比センサ5を加熱するヒータ6の温度を調節する処理である。温度制御部7Aは、空燃比センサ5の温度を予め設定された目標温度Tに維持するために必要なヒータ6の発熱量を算出する。そして、温度制御部7Aは、算出したヒータ6の発熱量に基づいて、ヒータ6に供給する電力のデューティ比を算出し、その算出したデューティ比に応じたPWM(Plus Width Modulation)制御信号に基づいてヒータ6を発熱させる。
【0047】
なお、本実施形態の空燃比制御処理(空燃比制御工程)は、実施形態1と同じであり、空燃比制御部3によって実行される。
【0048】
このように、温度制御部7Aは、ECU8AのCPUではなく、第1センサ制御装置51Aのマイコンによって構成されてもよい。
【0049】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
(1)上記実施形態1,2において、バイナリセンサからなる空燃比センサ5は、排気管10のうち、三元触媒4の下流側に設置されていたが、本発明の目的を損なわない限り、他の実施形態において、三元触媒4の下流側以外の箇所(例えば、三元触媒4中や、三元触媒4の上流側)に設置されてもよい。また、三元触媒4以外にも、NOx吸蔵還元触媒等の他の排気ガス浄化装置の近傍に設置してもよい。
【0051】
(2)上記実施形態1,2では、空燃比センサ5は酸素センサとして用いられていたが、本発明の目的を損なわない限り、他の実施形態においては、酸素以外のガスを検出するためのガスセンサを、空燃比センサとして使用してもよい。
【0052】
(3)他の実施形態においては、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部を、ハードウェアで置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1,1A…空燃比制御システム、2…内燃機関、3…空燃比制御部、4…三元触媒(排気ガス浄化装置)、5…空燃比センサ、6…ヒータ、7,7A…温度制御部、8,8A…ECU、9…吸気管、10…排気管、11…インジェクタ、12…スロットル弁、20…上流側センサ、21…第2センサ制御装置、51,51A…第1センサ制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9